(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記分散質(B)の重合体における、ニトリル系モノマーに由来する構造単位の含有率が、5〜100重量%である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池負極用バインダー。
前記分散質(B)の重合体が、共役ジエン化合物由来の構造単位、不飽和カルボン酸エステル由来の構造単位、芳香族ビニル化合物由来の構造単位からなる群の少なくとも1種を含んでいる、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池負極用バインダー。
請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池負極用バインダー及び活物質を含むリチウムイオン二次電池負極用スラリーを、集電体上に塗布・乾燥してなるリチウムイオン二次電池負極。
請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池負極用バインダー及び活物質を含むリチウムイオン二次電池負極用スラリーを、集電体上に塗布・乾燥する工程を含むリチウムイオン二次電池負極の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。
【0023】
<負極用バインダー>
本発明のリチウムイオン二次電池負極用バインダーは、分散剤(A)と分散質(B)とを含有する粒子が水分散媒に分散しているエマルジョンを含み、前記分散剤(A)は下記(1)式で表されるポリビニルアルコール系樹脂(以下、「側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂」という)であり、前記分散質(B)はニトリル系モノマーに由来する構造単位を有する重合体である。
【0025】
前記エマルジョンは、前記側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂を分散剤として、水分散媒中で、ニトリル系モノマー(及び所望によりニトリル系モノマー以外の他のモノマー)を乳化重合することにより得ることができる。以下、詳述する。
【0026】
〔(A)分散剤:側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂〕
分散剤(A)の主成分を構成する側鎖1,2−ジオールPVA系樹脂は、下記一般式(1)で示される側鎖1,2−ジオール単位を有するポリビニルアルコールである。
【0028】
上記一般式(1)において、R
1〜R
6はそれぞれ独立して水素原子又は有機基を表す。R
1〜R
6は、すべて水素原子であることが望ましいが、樹脂特性を大幅に損なわない程度の量であれば有機基であってもよい。該有機基としては特に限定しないが、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、必要に応じてハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい。
【0029】
上記一般式(1)中、Xは単結合又は結合鎖であり、結晶性の向上や非晶部におけるフリーボリューム(分子間空隙)低減の点から単結合であることが好ましい。上記結合鎖としては、特に限定しないが、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素(これらの炭化水素は、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていてもよい)の他、−O−、−(CH
2O)m−、−(OCH
2)m−、−(CH
2O)mCH
2−、−CO−、−COCO−、−CO(CH
2)mCO−、−CO(C
6H
4)CO−、−S−、−CS−、−SO−、−SO
2−、−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−、−HPO
4−、−Si(OR)
2−、−OSi(OR)
2−、−OSi(OR)
2O−、−Ti(OR)
2−、−OTi(OR)
2−、−OTi(OR)
2O−、−Al(OR)−、−OAl(OR)−、−OAl(OR)O−等が挙げられる。Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基が好ましく、またmは自然数である。なかでも、製造時の粘度安定性や耐熱性等の点で、炭素数6以下のアルキレン基、特にメチレン基、あるいは−CH
2OCH
2−が好ましい。
【0030】
上記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位における最も好ましい構造は、R
1〜R
6がすべて水素原子であり、Xが単結合である。すなわち、下記構造式(1a)で示される構造単位が最も好ましい。
【0032】
このような側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂は、公知の製造方法により製造できる。例えば、特開2002−284818号公報、特開2004−285143号公報、特開2006−95825号公報に記載されている方法により製造することができる。すなわち、(i)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(2)で示される化合物との共重合体をケン化する方法、(ii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(3)で示されるビニルエチレンカーボネートとの共重合体をケン化及び脱炭酸する方法、(iii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(4)で示される2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソランとの共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法などにより、製造することができる。
【0034】
(2)(3)(4)式中、R
1〜R
6は、いずれも(1)式の場合と同様である。R
7及びR
8は、それぞれ独立して水素またはR
9−CO−(式中、R
9は、炭素数1〜4のアルキル基である)であり、R
10及びR
11は、それぞれ独立して水素原子又は有機基である。
上記方法のうち、共重合反応性及び工業的な取扱いにおいて優れるという点で(i)の方法が好ましく、特にR
1〜R
6が水素、Xが単結合、R
7、R
8がR
9−CO−であり、R
9がアルキル基である3,4−ジアシロキシ−1−ブテンが好ましく、その中でも特にR
9がメチル基である3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが好ましく用いられる。
【0035】
なお、上記3,4−ジアセトキシ−1−ブテンは、例えば、WO00/24702号公報に記載の1,3−ブタジエンを出発物質とした合成ルートで製造された製品や、USP5623086、USP6072079に記載の技術によるエポキシブテン誘導体を中間体として製造された製品として入手することができる。また、1,4−ブタンジオール製造過程で副生成物として得られる3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを精製して利用することもできる。
また、1,4−ブタンジオール製造工程の中間生成物である1,4−ジアセトキシ−1−ブテンを塩化パラジウムなどの金属触媒を用いた公知の異性化反応することによって3,4−ジアセトキシ−1−ブテンに変換して用いることもできる。また、再公表WO00−24702号公報に記載の有機ジエステルの製造方法に準じて製造することも可能である。
【0036】
なお、(ii)や(iii)の方法によって得られた側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂は、ケン化度が低い場合や、脱炭酸あるいは脱アセタール化が不充分な場合には側鎖にカーボネート環あるいはアセタール環が残存する場合がある。そのようなPVA系樹脂を分散剤として用いた場合、得られるエマルジョンには粗大な粒子の割合が増加する傾向がある。このような理由からも、(i)の方法によって得られたPVA系樹脂が本用途においては最も好適である。
【0037】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、経済的観点から、酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0038】
ビニルエステル系モノマーと上記一般式(2),(3),又は(4)の重合は、公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合などにより行うことができる。得られた共重合体のケン化についても、側鎖1,2−ジオール構造単位を含有しないPVA系樹脂について、従来より行われている公知のケン化方法を採用することができる。すなわち共重合体をアルコール又は水/アルコール溶媒に溶解させた状態で、アルカリ触媒又は酸触媒を用いて行うことができる。
【0039】
分散剤として好適に用いられる側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂は、以下のような構成を有するものである。
ケン化度(JIS K6726に準拠して測定)は、通常、85〜100モル%であり、特に90〜100モル%であることが好ましい。かかるケン化度が低すぎると、乳化重合時の重合安定性が極端に低下して目的とするエマルジョンが得られにくい傾向がある。
【0040】
平均重合度(JIS K6726に準拠して測定)は、通常50〜2500であり、好ましくは100〜1700、より好ましくは100〜1000、特に好ましくは200〜500である。かかる平均重合度が低すぎると、ニトリル系モノマーの保護コロイド機能が低下する傾向があり、逆に高すぎると、重合反応溶液の粘度が高くなりすぎ、重合中に攪拌できず、重合困難となる傾向がある。
【0041】
側鎖1,2−ジオール構造単位の含有量は、通常0.5〜15モル%であり、好ましくは1〜10モル%、より好ましくは1〜8モル%である。かかる含有量が少なすぎると、本発明の効果が十分に得られない傾向があり、多すぎると、分散剤(B)を合成するための乳化重合安定性が低下する傾向にある。
【0042】
なお、PVA系樹脂中の1,2−ジオール構造単位の含有率は、ケン化度100%のPVA系樹脂の
1H−NMRスペクトル(溶媒:DMSO−d6、内部標準:テトラメチルシラン)から求めることができる。具体的には1,2−ジオール構造単位中の水酸基プロトン、メチンプロトン、およびメチレンプロトン、主鎖のメチレンプロトン、主鎖に連結する水酸基のプロトンなどに由来するピーク面積から算出すればよい。
【0043】
〔(B)分散質:ニトリル系モノマーに由来する構造単位を有する重合体〕
分散質(B)である重合体は、ニトリル系モノマーに由来する構造単位(以下、「ニトリルユニット」と称することがある)を有する重合体(以下、単に「ニトリル系重合体」と称する場合がある)である。以下、当該ニトリル系重合体の合成に用いられるモノマーについて説明する。
【0044】
(1)ニトリル系モノマー
ニトリル系モノマーとしては、α,β−不飽和ニトリル化合物が用いられる。具体的には、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリル等のアクリロニトリル系モノマー;シアン化ビニリデン等のシアノ基2置換ビニルモノマー;メチルシアノアクリレート、エチルシアノアクリレート、ブチルシアノアクリレート等の不飽和基含有シアノアクリレートやテトラシアノキノジメタン、2,2−ジアリールマロノニトリル等が挙げられる。これらの中でも、アクリロニトリル系モノマーが好ましく、より好ましくは(メタ)アクリロニトリルであり、特に好ましくはアクリロニトリルである。ニトリル系モノマーは、一種単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
本発明のリチウムイオン二次電池用バインダーにおいて、エマルジョンの分散質(B)は、ニトリル系モノマーに由来する構造単位を有するため、電解液によって適度に膨潤することができる。すなわち、重合体鎖からなる網目構造に溶媒が侵入し、網目間隔が広がるため、溶媒和したリチウムイオンがこの網目構造をすり抜けて移動し易くなる。その結果、リチウムイオンの拡散性が向上すると考えられる。これにより、バインダーによる内部抵抗を低減させることができるので、電極の良好な充放電特性が実現される。
【0046】
分散質(B)たるニトリル系重合体における、ニトリル系モノマーに由来する構造単位(ニトリルユニット)の含有量は、分散質(B)の通常5〜100重量%、好ましくは20〜100重量%、より好ましくは50超〜80重量%である。ニトリルユニットの含有割合が前記範囲にあると、使用する電解液との親和性に優れ、かつ膨潤率が大きくなりすぎず、電池特性の向上に寄与できる。特に、ニトリルユニットの含有割合が、ニトリル系重合体の50重量%超の場合に、顕著な効果が得られる。
【0047】
ニトリルユニットの含有量は、本発明で用いるエマルジョンの製造に際して仕込まれるモノマーの仕込み重量と比例する。
ニトリル系モノマーの仕込量は、目的とする分散質(B)の構成に対応し、通常、分散質(B)の5〜100重量%、好ましくは20〜100重量%、より好ましくは50超〜80重量%である。ニトリルユニットの含有割合が前記範囲にあると、使用する電解液との親和性に優れ、かつ膨潤率が大きくなりすぎず、電池特性の向上に寄与する傾向がある。
【0048】
(2)ニトリル系モノマー以外のモノマー
分散質(B)たるニトリル系重合体には、上記ニトリル系モノマー以外のモノマー(以下、単に「その他のモノマー」という場合がある)に由来する構造単位が含まれていてもよい。その他のモノマーの含有量は、通常、分散質(B)となるニトリル系重合体の0〜95重量%、好ましくは0〜80重量%、特に好ましくは20重量%以上50重量%未満である。尚、その他のモノマーに由来する構造単位の含有量は、本発明が有するエマルジョンの製造に際して仕込む、その他のモノマーの仕込み重量と比例する。
前記その他のモノマーの含有量は、目的とする分散質(B)の構成に対応し、通常、分散質(B)の0〜95重量%、好ましくは0〜80重量%、特に好ましくは20重量%以上50重量%未満である。
【0049】
ニトリル系モノマー以外のモノマーとしては、ビニルエステル系モノマー、不飽和カルボン酸系モノマー、不飽和カルボン酸のアルキルエステル系モノマー、共役ジエン系モノマー、芳香族ビニルモノマーが挙げられる。好ましくはビニルエステル系モノマー、不飽和カルボン酸系モノマー、不飽和カルボン酸のアルキルエステル系モノマーであり、特に好ましくは不飽和カルボン酸のアルキルエステル系モノマーであり、殊に好ましくは(メタ)アクリル酸エステル系モノマーである。以下これらについて詳述する。
【0050】
前記共役ジエン系モノマーとしては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、1,3−ヘプタジエン、2,3−ジメチルブタジエン、2−フェニル−1,3−ブタジエン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等の炭化水素共役ジエン系モノマー;2−クロロ−1,3−ブタジエン等のハロゲン含有共役ジエン系モノマー;置換直鎖共役ペンタジエン類;置換および側鎖共役ヘキサジエン類等が挙げられる。これらの中でも、炭素数4〜6の共役ジエン系モノマーが好ましく、1,3−ブタジエンが特に好ましい。これらの共役ジエン系化合物は、一種単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
このような共役ジエン系化合物に由来する構造単位は、ニトリル系重合体の結着力の増大に寄与できる。すなわち、共役ジエン化合物に由来するゴム弾性がニトリル系重合体に付与されるため、電極の体積収縮や拡大等の変化に追従することが可能となる。これにより、結着性を向上させて、さらには長期に充放電特性を維持する耐久性を付与することが可能である。
【0051】
前記ビニルエステル系モノマーとしては、上記した側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂に用いるものと同様である。
【0052】
前記不飽和カルボン酸系モノマーとしては、アクリル酸、メタアクリル酸、クロトン酸、ウンデシレン酸等のモノカルボン酸モノマー、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のジカルボン酸およびその無水物モノマー等が挙げられる。好ましくは(メタ)アクリル酸である。
【0053】
前記不飽和カルボン酸のアルキルエステル系モノマーとしては、代表的にはアクリル酸アルキルエステル系モノマーである。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチルアクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、i−ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリルエステル系モノマー;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、5−ヒドロキシペンチルメタクリレート、6−ヒドロキシヘキシルメタクリレート等のヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは、単独でも二種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート等の、エステル部分のアルキル基の炭素数が1〜10のアクリル酸アルキルエステル系モノマーが好ましく、より好ましくは1〜5のアクリル酸アルキルエステル系モノマーであり、特に好ましくはメチル(メタ)アクリレートである。
【0054】
前記芳香族ビニル系モノマーの具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、モノフルオロスチレン、ジフルオロスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、メトキシスチレン等のスチレン誘導体モノマー、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンなどの芳香族置換ビニル化合物が挙げられる。好ましくはスチレン誘導体モノマーであり、特に好ましくはスチレンである。
【0055】
その他にも、(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等のエチレン性不飽和カルボン酸のアルキルアミド;モノアルキルエステル;モノアミド類;アミノエチルアクリルアミド、ジメチルアミノメチルメタクリルアミド、メチルアミノプロピルメタクリルアミド等のエチレン性不飽和カルボン酸のアミノアルキルアミド、架橋性モノマー等を、その他のモノマーとして用いることができる。
【0056】
以上のようなその他のモノマーは、一種単独でまたは二種以上を組み合わせても用いることができ、2種以上の組み合わせの場合には、同種であっても異種であってもよい。
【0057】
分散質(B)であるニトリル系重合体の最も好ましい構造は、ニトリル系モノマーに由来する構造単位を主成分(通常、50超〜80重量%)とし、メチル(メタ)アクリレートに由来する構造単位を副成分(通常、20重量%以上50重量%未満)として含有している構造である。
【0058】
[乳化重合:エマルジョンの合成]
本発明の負極用バインダーに用いられるエマルジョンは、以上のような分散剤(A)と分散質(B)とを含む粒子が、水分散媒体中に分散しているもので、分散剤(A)の存在下で、ニトリル系モノマー(所望によりその他のモノマーを配合)を、乳化重合して分散質(B)を合成した結果、得られる。
【0059】
前記乳化重合を実施する方法としては、i)水、分散剤(A)としての側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂及び重合触媒の存在下に、分散質(B)の原料であるニトリル系モノマー(及び所望によりその他のモノマー)を一時又は連続的に配合して、加熱、撹拌することにより乳化重合する方法;ii)ニトリル系モノマー(及び所望によりその他のモノマー)を側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂の水溶液に混合分散させた分散液を調製し、この調製した分散液を、水、側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂及び重合触媒が配合された系内に、一時又は連続的に配合して、加熱、撹拌して、乳化重合する方法が挙げられる。
【0060】
前記乳化重合に用いられる反応溶液中の分散媒は、通常、水である。所望により、水と混合可能な有機溶媒(例えば炭素数1〜3の低級アルコール等)を水と併用することも可能である。しかしながら、乳化重合に供するモノマーの分散性の点から、好ましくは水のみである。
【0061】
ニトリル系重合体の合成時、すなわち乳化重合時に分散剤として用いられる側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂の配合量は、使用する側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂の種類や合成しようとするエマルジョンの濃度等によって多少異なるが、乳化重合反応系の全体に対して通常0.1〜30重量%であり、さらには1〜25重量%、特には1〜20重量%であることが好ましい。側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂の配合量が少なすぎると、ニトリル系モノマー(及び所望によりその他のモノマー)の乳化状態が不安定となって、重合反応性が低下したり、重合により得られるエマルジョン中での粒子の乳化状態安定性が低下する傾向にある。一方、側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂の含有量が多すぎると、反応液の粘度が増大しすぎて重合反応が遅くなったり、得られるエマルジョンの粘度が高くなりすぎて、負極用バインダーとして活物質と混合する際の均一性が低下する傾向にある。
【0062】
重合触媒としては、通常、乳化重合の分野で用いられる重合触媒を用いることができる。例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、臭素酸カリウム、酸性亜硫酸ナトリウム、過酸化水素−酒石酸、過酸化水素−鉄塩、過酸化水素−アスコルビン酸−鉄塩、過酸化水素−ロンガリット、過酸化水素−ロンガリット−鉄塩等の水溶性のレドックス系の重合触媒などが挙げられ、これらは単独で、又は2種以上混合して用いることができる。具体的には化薬アクゾ社製『カヤブチルB』や同社製『カヤブチルA−50C』等の有機過酸化物とレドックス系からなる触媒を用いることもできる。
【0063】
重合触媒の使用量は、通常、重合に使用するモノマー100重量部に対して、0.01〜10重量部であり、好ましくは0.05〜5重量部、より好ましくは0.1〜3重量部である。かかる重合開始剤の使用量が少なすぎると重合速度が遅くなる傾向があり、逆に多すぎると重合安定性が低下する傾向がある。
なお、重合開始剤の配合方法としては、特に制限はなく、初期に一括して反応液中に配合してもよいし、重合の経過に伴って連続的に添加してもよい。
【0064】
乳化重合は、1段階で行ってもよいし、2段階に分けて行ってもよい。2段階で行う場合、1段目と2段目でモノマー仕込み量(仕込み比率)を変えることにより、1段目で形成した内層と2段目で形成した外層のガラス転移点(Tg)を変えることも可能となる。具体的には、以下のような2段階の重合が挙げられる。
【0065】
(1)1段目の重合工程
分散媒、分散剤を含有する反応容器に、重合しようとするモノマーの一部を仕込み、1段目の乳化重合を行う。1段目に投入するモノマーの量は、特に限定しないが、重合に使用するモノマーの通常1〜50重量%程度であり、好ましくは5〜30重量%である。1段目の乳化重合工程の条件は、用いるモノマーの種類、組成、重合開始剤の使用量等により適宜決定すればよい。
乳化重合反応の温度は、通常30〜90℃であり、特に40〜80℃が好ましく、重合時間は1〜4時間とすることが好ましい。1段目の乳化重合工程においては、重合転化率が50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。
【0066】
(2)2段目の重合工程
2段目の乳化重合は、1段目の重合が終了した反応容器に、残りのモノマーを投入することにより行う。投入は、滴下しながら行うことが好ましい。また、2段目の重合に際して、重合触媒を投入してもよい。2段目の乳化重合は、重合温度が40〜80℃、重合時間が1〜6時間の条件で行う。
また、滴下するモノマー組成比を連続的に変えながら滴下するパワーフィード重合法を用いることも可能である。
必要に応じて、かかる工程の後に通常1〜6時間の追い込み重合をおこなうことも可能である。かかる重合中に重合触媒を投入してもよい。
【0067】
以上のような乳化重合において、必要に応じて、分子量調節剤を含んでもよい。分子量調節剤の具体例としては、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ステアリルメルカプタン等のアルキルメルカプタン;ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイド等のキサントゲン化合物;ターピノレン、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム系化合物;2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノール等のフェノール系化合物;アリルアルコール等のアリル化合物;ジクロロメタン、ジブロモメタン、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素化合物;α−ベンジルオキシスチレン、α−ベンジルオキシアクリロニトリル、α−ベンジルオキシアクリルアミド等のビニルエーテル;トリフェニルエタン、ペンタフェニルエタン、アクロレイン、メタアクロレイン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2−エチルヘキシルチオグリコレート、α−メチルスチレンダイマー等が挙げられる。なお、乳化重合工程では、これらの分子量調節剤を一種単独でまたは二種以上組み合わせて使用することができる。
【0068】
また、上記重合工程において、側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂による分散安定効果を阻害しない範囲で、分散剤(B)とは別に、非イオン性界面活性剤やアニオン性界面活性剤等の界面活性剤を系内に併存させてもよい。かかる界面活性剤の配合量は、通常乳化重合反応系の全体に対して通常10重量%以下であり、好ましくは5重量%以下である。
【0069】
非イオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレン−アルキルエーテル型、ポリオキシエチレン−アルキルフェノール型、ポリオキシエチレン−多価アルコールエステル型、多価アルコールと脂肪酸とのエステル、オキシエチレン・オキシプロピレンブロックポリマー等が挙げられる。
【0070】
アニオン性界面活性剤としては、例えば高級アルコール硫酸塩、高級脂肪酸アルカリ塩、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ナフタリンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、高級アルコールリン酸エステル塩等が挙げられる。
更に、フタル酸エステル、リン酸エステル等の可塑剤、炭酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等のpH調整剤等も併用され得る。
【0071】
[エマルジョン]
以上のようにして乳化重合を行うことにより、合成されたニトリル系重合体(分散質(B)に該当)と分散剤(A)としての側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂とを含む粒子が、水分散媒中に分散したエマルジョンが得られる。
【0072】
前記粒子の平均粒径は、通常100〜700nm、好ましくは200〜500nmである。なお、前記粒子の平均粒子径は、ゼータ電位測定装置により測定された値を採用する
【0073】
得られるエマルジョンの固形分含有量(上記粒子量に該当)は通常10〜60重量%であり、より好ましくは20〜58重量%であり、さらに好ましくは30〜55重量%であり、特に好ましくは35〜53重量%である。なお、エマルジョンの固形分は、ケットにより測定された値を採用する。
【0074】
得られるエマルジョンの粘度は通常100〜20000mPa・sであり、より好ましくは300〜10000mPa・sであり、特に好ましくは450〜8000mPa・sである。なお、エマルジョンの粘度は、B型粘度計により測定された値を採用する。
【0075】
以上のようなエマルジョンは、そのまま負極用バインダーの製造に供してもよいし、バインダーに含まれるエマルジョンの固形分量、得られたエマルジョンの粘度等を調節するために、側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂以外のPVA系樹脂やその他の水溶性高分子などを適宜追加してもよい。
【0076】
側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂以外のPVA系樹脂としては、例えば、未変性PVA系樹脂、カルボキシル基含有PVA系樹脂、PVA系樹脂のホルマール化物、アセタール化物、ブチラール化物、ウレタン化物、スルホン酸、カルボン酸等とのエステル化物等のPVA系樹脂、ビニルエステルとそれと共重合可能なモノマーとの共重合体ケン化物等が挙げられる。
【0077】
PVA系樹脂以外の水溶性高分子としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アミノメチルヒドロキシプロピルセルロース、アミノエチルヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体類;デンプン、トラガント、ペクチン、グルー、アルギン酸又はその塩;ゼラチン;ポリビニルピロリドン;ポリアクリル酸又はその塩ポリメタクリル酸又はその塩;ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド糖のアクリルアミド類;酢酸ビニルとマレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等不飽和酸との共重合体;スチレンと上記不飽和酸との共重合体;ビニルエーテルと上記不飽和酸との共重合体;及び前記不飽和酸と各共重合体の塩類又はエステル類が挙げられる。
【0078】
[リチウムイオン二次電池負極用バインダー]
本発明のリチウムイオン二次電池負極用バインダーは上記エマルジョンを含む。
本発明のリチウムイオン二次電池負極用バインダーに含まれるエマルジョン量は、当該エマルジョンの固形分量として、リチウムイオン二次電池負極用バインダーの通常10〜60重量%であり、好ましくは15〜50重量%である。
【0079】
本発明の負極用バインダーは、分散質(B)の種類、組成にもよるが、電解液膨潤率は通常10〜900%であり、20〜850%であることが好ましく、25〜850%であることがより好ましい。
電解液膨潤率が前記範囲にあると、本発明の負極用バインダーに含まれる粒子は電解液に対して適度に膨潤し、効果的に電極抵抗を低下させて、より良好な充放電特性を実現できる傾向がある。さらに、大きな体積変化が発生しないため結着性にも優れる傾向がある。
【0080】
かかる電解液膨潤率は、例えば以下のように測定した値をいう。
負極用バインダー500μmを、アプリケータを用いてPETフィルム上にキャストした後、105℃の乾燥機で3時間加熱乾燥してフィルムを得る。得られるフィルムを、所定サイズ切り出して、その重量を測定する(W
0(g))。このフィルムを10gのプロピレンカーボネート(PC)及びエチレンカーボネート/ジメチルカーボネート(EC/DMC)の1/1混合液(体積比)に浸漬させて60℃で3時間加熱する。室温まで冷却した後、フィルムを取り出し、フィルム表面に付着した電解液をふき取った後に、試験後の浸漬後重量(W
1(g))から、下式に従って、電解液膨潤率を算出する。
電解液膨潤率(%)=((W
1−W
0)/W
0)×100
【0081】
本発明の負極用バインダーにおいては、バインダーに含まれる上記エマルジョン中の分散剤(A)としての側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂(第1の側鎖1、2ジオール構造単位含有PVA系樹脂)とは別に、第2の側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂が配合されることが好ましい。側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂は、低膨潤性であることから、別途、第2の側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂がバインダーに含まれることで、粘度安定性を付与することが可能であり、作業効率を向上することができる。
【0082】
また、第2の側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVAは、プロピレンカーボネート電解液によるバインダーの膨潤を適度に抑制できると考えられる。このことは、側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂を本発明の負極用バインダーに配合することで、電解液に膨潤しやすいニトリルユニットを含有する粒子が側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂相中に100nmから500nm程度のサイズで微分散できるため、酸素原子が非常に多い側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂層中をプロピレンカーボネートが溶媒和したLiイオンが通過する際に、界面抵抗をあまり増大させることなく、高効率でプロピレンカーボネートの脱溶媒和がおこるためと推測される。その結果、プロピレンカーボネートが黒鉛層間に挿入することを防止することができると考えられる。よって、プロピレンカーボネートを電解液の一部として含有させることができるので、作動温度範囲を広くできるものと考えられる。
また、側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂のみを負極活物質のバインダーとして使用してもポリカーボネート電解液の系で充放電可能である。しかしながら、側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂は、非常に硬い皮膜を形成するため、側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂のみでは、電極形成の際のロール to ロール成形では負極活物質中にひび割れ等が発生するという傾向があった。この点、本発明の負極用バインダーを併用することでポリカーボネート電解液中での充放電特性を損なうことなく、バインダー被膜の柔軟性を大幅に改善することができ、その結果、電極形成の際のロール to ロールの成形性を大幅に改善することができる。
【0083】
第2の側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂のケン化度(JIS K6726に準拠して測定)は、通常、85〜100モル%であり、特に90〜100モル%であることが好ましい。
平均重合度(JIS K6726に準拠して測定)は、通常50〜2500であり、好ましくは100〜1700、より好ましくは500〜1500、さらに好ましくは800〜1300である。かかる平均重合度が低すぎると、連続相を形成しにくくなる傾向がある。
1,2−ジオール構造単位の含有量は、通常0.5〜15モル%であり、好ましくは1〜10モル%、より好ましくは1〜8モル%である。かかる含有量が少なすぎると、本発明の効果が十分に得られない傾向がある。
【0084】
負極用バインダーに対する前記第2の側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂の配合量は、バインダーに含まれるエマルジョンの固形分量:第2の側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂(重量比)=3:7〜7:3、好ましくは、4:6〜6:4である。
【0085】
〔電極用スラリーの調製及び負極の製造〕
上記本発明にかかるバインダー及び活物質を混合して、リチウムイオン二次電池負極用スラリーを調製することができる。
【0086】
負極活物質としては、炭素材料が好ましい。炭素材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛等の黒鉛系炭素材料(黒鉛)、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバー、コークス、ソフトカーボン、ハードカーボン等が挙げられる。より好ましくは、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛などの黒鉛である。スラリー中の活物質の含有量は、10〜95重量%、好ましくは20〜80重量%、より好ましくは35〜65重量%である。
【0087】
活物質の平均粒子径は特に制限されないが、好ましくは1〜100μmであり、より好ましくは1〜50μmであり、さらに好ましくは1〜25μmである。なお、活物質の平均粒子径は、レーザ回折式粒度分布測定(レーザ回折散乱法)により測定された値を採用するものとする。
【0088】
負極用スラリーにおける活物質とバインダーとの含有比率は、活物質100重量部に対して、前述の負極用バインダーが、固形分換算で通常0.1〜10重量部であり、好ましくは0.1〜5重量部、特に好ましくは0.1〜4である。負極用バインダーの含有量が高くなりすぎると、内部抵抗が増大することになる。一方、少なすぎると、所望の結着力が得られず、負極が不安定となり、充放電サイクル特性が低下する傾向がある。なお、本発明のバインダーは、エマルジョンに分散している粒子を構成するニトリル系モノマーに由来する構造単位を有する重合体に起因する結着力が強いので、0.1〜5重量%、特には0.1〜4重量%程度でも必要な結着力を確保することができる。
【0089】
負極用スラリーには、上記活物質、負極用バインダーの他、その他の物質が含まれてもよい。例えば、導電助剤、支持塩(リチウム塩)、イオン伝導性ポリマー等が含まれうる。また、イオン伝導性ポリマーが含まれる場合には、前記ポリマーを重合させるための重合開始剤が含まれてもよい。これらの成分の配合比は、公知の一般的な範囲である、配合比についても、リチウムイオン二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。
【0090】
導電助剤とは、導電性を向上させるために配合される配合物をいう。導電助剤としては、黒鉛などのカーボン粉末や、気相成長炭素繊維(VGCF)などの種々の炭素繊維などが挙げられる。本発明の電極においては、高分子の中でも比較的導電性の低い結着剤を用いる場合、導電助剤を配合することが好ましい。特に結着剤としてポリビニルアルコールを用いる場合、導電助剤としてVGCFを用いると、活物質が有効に活用され、結着剤を多量に用いることに起因する充放電容量の低下が抑制されうる。この際、VGCFの配合量は、好ましくは活物質層の合計質量に対して1〜10重量%である。
【0091】
さらに、負極作製時の作業性等を考慮して、粘度調整、バインダー固形分の調整などの目的により、溶媒を追加して、負極用スラリーを調製してもよい。かかる溶媒としては、例えば、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミドなどのアミド系溶媒、メタノール、エタノール、高級アルコール等のアルコール系溶媒を用いることができる。
【0092】
負極用バインダー、活物質、及び必要に応じて用いられる配合剤、溶媒の混合は、攪拌機、脱泡機、ビーズミル、高圧ホモジナイザー等を利用することができる。また、電極用スラリーの調製は、減圧下で行うことが好ましい。これにより、得られる活物質層内に気泡が生じることを防止することができる。
【0093】
以上のようにして調製される負極用スラリーを、集電体上に塗布、乾燥することにより、負極を製造することができる。必要に応じて、塗布後、プレスして密度を上げることが好ましい。
【0094】
負極に用いられる集電体としては、リチウムイオン二次電池の負極の集電体として用いられているものを使用できる。具体的には、負極(炭素電極)が機能する電位範囲において電気化学的に不活性な金属であることが求められることから、銅、ニッケルといった金属箔、エッチング金属箔、エキスパンドメタルなどが用いられる。
【0095】
このような集電体上に、電極用スラリーを塗布、乾燥することで、負極層を形成することができる。電極用スラリーを集電体に塗布する方法としては、ドクターブレード法、リバースロール法、コンマバー法、グラビヤ法、エアーナイフ法等が挙げられる。また、電極用スラリーの塗布膜の乾燥処理の条件としては、処理温度が通常20〜250℃であり、50〜150℃であることがより好ましい。また、処理時間は通常1〜120分間であり、5〜60分間であることがより好ましい。
【0096】
活物質層の厚さ(塗布層の片面の厚さ)は、通常20〜500μmであり、より好ましくは20〜300μmであり、さらに好ましくは20〜150μmである。
【0097】
[リチウムイオン二次電池]
上記のようにして作製される負極を備えたリチウムイオン二次電池について、説明する。
正極としては、特に限定せず、公知の一般的な正極を組み合わせることができる。
【0098】
正極活物質としては、例えば、オリビン型リン酸鉄リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、三元系ニッケルコバルトマンガン酸リチウム、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物等を用いることができる。
【0099】
正極の集電体としては、アルミニウム、銅、ニッケル、タンタル、ステンレス、チタン等の金属材料が挙げられ、目的とする蓄電デバイスの種類に応じて適宜選択して用いることができる。
【0100】
電解液としては、リチウム塩を溶解する非プロトン性極性溶媒が用いられる。特に限定しないが、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の環状炭酸エステル系高誘電率・高沸点溶媒に、低粘性率溶媒である炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル等の低級鎖状炭酸エステルを含有させて用いられる。具体的には、エチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、イソプロピルメチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、イソプロピルエチルカーボネート、ブチルメチルカーボネート、ブチルエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、スルホラン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン、1,3−ジオキソラン、酢酸メチル、酢酸エチル、ギ酸メチル、ギ酸エチルなどが挙げられ、これらは混合して用いることが好ましい。
【0101】
電解質のリチウム塩としては、LiClO
4 、LiPF
6 、LiBF
4 、LiAsF
6、LiCl、LiBr等の無機塩や、LiCF
3SO
3 、LiN(SO
2CF
3))
2、LiN(SO
2C
2F
5)
2 、LiC(SO
2CF
3)
3、LiN(SO
3CF
3))
2等の有機塩など、非水電解液の電解質として常用されているものを用いればよい。これらのなかでもLiPF
6 、LiBF
4 又はLiClO
4 を用いるのが好ましい。
【0102】
セパレータとしては、特に限定しないが、ポリオレフィンの不織布や多孔性フィルムなどを用いることができる。
【0103】
二次電池の構造としては、特に限定されず、積層型(扁平型)電池、巻回型(円筒型)電池など、従来公知のいずれの形態・構造にも適用し得る。また、リチウムイオン二次電池内の電気的な接続形態(電極構造)については、(内部並列接続タイプ)電池および双極型(内部直列接続タイプ)電池のいずれにも適用し得る。
【0104】
以上のようにして得られるリチウムイオン二次電池は、本発明の負極用バインダーを用いたことに基づき、集電体に対して高い接着強度を有し、また活物質に対しても、高い接着強度を維持することができる。
さらに、初回放電容量が高く、しかも安定的な出力特性を有する。
【実施例】
【0105】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中「部」「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0106】
〔測定評価方法〕
はじめに、以下の実施例で採用した測定評価方法について説明する。
【0107】
(1)電解液膨潤率
電極用バインダー500μmを、アプリケータを用いてPETフィルム上にキャストした後、105℃の乾燥機で3時間加熱乾燥してフィルムを得た。得られたフィルムを、所定サイズ切り出して、その質量を測定した(W
0(g))。このフィルムを10gの電解液としてのプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート(EC/DMC)の1/1混合液(体積比)それぞれに浸漬させて60℃で3時間加熱した。室温まで冷却した後、フィルムを取り出し、フィルム表面に付着した電解液をふき取った後に、試験後の浸漬後質量(W
1(g))から、下式に従って、各電解液に対する膨潤率を算出した。
電解液膨潤率(%)=((W
1−W
0)/W
0)×100
【0108】
(2)電池特性
作製したセルを25℃で50時間放置した後、充放電試験に供した。
電流密度20mA/g、100mA/gのそれぞれの場合について、電位範囲0−2.0Vで、定電流充放電試験を行い、初回の放電容量(mAh/g)、クーロン効率(%)を測定した。
【0109】
(2−1)初回放電容量(mAh/g)
初回放電時の定電流値(制御電流値(mA))と設定電位に達するまでの時間(h)の積を、電極活物質(黒鉛)重量(g)で除した値を初回放電容量(mAh/g)とした。
なお、初回放電容量の絶対値は高い方がよく、290〜350はすべて同程度で良好とする。
【0110】
(2−2)初回クーロン効率(%)
初回放電容量(mAh/g)を初回充電容量(mAh/g)で除した百分率(%)を初回クーロン効率とした。
【0111】
(2−3)レート特性
電流密度20mA/gのときの初回放電容量と100mA/gのときの初回放電容量の差を算出した。差の絶対値が小さいほど、レート特性は安定していることを示す。
【0112】
(3)結着性評価(剥離強度の測定)
作製した負極を、幅12mmの短冊型に切り取って試料を作成した。作成した負極表面に直接両面テープを貼り付け、10mm/分の剥離速度で集電体を引っ張り、負極と集電体間の剥離強度を測定した。剥離強度は幅方向の単位長さあたりの荷重として換算した。また剥離開始時の強度と剥離進行中の最大強度を併せて評価した。
【0113】
実施例1:
(1)負極用バインダーの調製
還流冷却器、攪拌機、滴下漏斗、温度計を備え付けたセパラブルフラスコに、分散媒としての水245.6部、分散剤として側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂(ケン化度:99.06%、平均重合度:300、側鎖1,2−ジオール構造単位含有率:6.0%)11.2部、酢酸ナトリウム0.3部を流し込み、撹拌しながら、フラスコ内の温度を75℃に昇温して30分間かき混ぜた。
この温浴中に、1段目の乳化重合用モノマーとして、ブチルアクリレート(BA)4.8部及びアクリロニトリル(AN)11.2部、重合開始剤として亜硫酸水素ナトリウム水溶液(5重量%)3.2部及び過硫酸アンモニウム水溶液(5重量%)2.1部を加えて、1段目の乳化重合を開始した。反応温度を75℃〜80℃に保持しながら、1時間重合を行った。
【0114】
次に、2段目の乳化重合を行った。1段目の乳化重合を行った反応系の温度を75℃〜80℃の範囲に保ちながら、2段目の乳化重合用モノマーとして、ブチルアクリレート(BA)43.2部及びアクリロニトリル(AN)100.8部の混合モノマー溶液を、3時間半かけて滴下した。かかる滴下中に、過硫酸アンモニウム水溶液(5重量%)4.2部を7分割して30分毎に配合した。その後、温度を75℃に保ちながら、90分間、重合を続けた。この間、過硫酸アンモニウム水溶液(5重量%)0.7部を2分割して45分毎に配合した。
【0115】
2段目の乳化重合の後、反応温度を50℃まで低下させて、1時間追い込み重合を行った。かかる追い込み重合中は、30分毎に、t−ブチルヒドロパーオキシ水溶液(13重量%)0.8部、L−アスコルビン酸水溶液(10重量%)1.0部を配合した。その後、室温まで冷却して、固形分40重量%のエマルジョンを得た。分散質であるニトリル系重合体中の、ニトリル系モノマーに由来する構造単位(ニトリルユニット)の含有量は70重量%である。
得られたエマルジョンは、そのまま負極用バインダーとして使用した。負極用バインダー(エマルジョン)の電解液膨潤率は、表1に示すとおりである。
【0116】
上記負極用バインダーを用いて、以下のようにして負極用スラリー液を作製し、リチウムイオン二次電池負極、次いでリチウムイオン二次電池を作製した。作製した電池について、上記評価方法に、電池特性及び剥離強度を測定評価した。結果を表2に示す。
【0117】
〔リチウムイオン二次電池負極の作製〕
活物質としての塊状人造黒鉛MAGD(日立化成工業株式会社製)と上記で調製した負極用バインダーとを、負極用バインダー含有量5重量%(活物質:バインダー=95:5(重量比、固形分換算))で混合した後、蒸留水を配合して、ペースト状とした。蒸留水の含有量は、活物質および負極用バインダーを合わせた総重量(固形分換算)0.4gあたり600μLとした。
【0118】
得られたペースト状スラリーを、集電体としての銅箔上に、塗工厚み0.1mmのドクターブレードを用いて均一に塗布した。塗布後、空気中で80℃、24時間、仮乾燥した後、直径10mmの円板状に打ち抜き、次いで真空下で80℃、24時間以上乾燥させて、負極とした。
負極用バインダー含有量を3重量%(活物質:バインダー=97:3(重量比、固形分換算))に変更し、同様にして負極を作製した。
【0119】
〔リチウムイオン二次電池(ハーフセル)の作製〕
対極にはリチウム箔、セパレータには宇部興産株式会社製のUP3025(厚み25μm、空孔率40%)を使用し、電解質としてLiPF
6(1mol・dm
-1)を混合したエチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合液(EC/DMC=3/7(v/v%))を、電解液に用いて、二極式2032型コインセルを作製した。なお、電極は、直径10mmの円板状、セパレータは直径18mm、電解液は300μL注入した。
【0120】
実施例2:
還流冷却器、攪拌機、滴下漏斗、温度計を備え付けたセパラブルフラスコに、水700部、実施例1で用いた側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂49部、無水酢酸1.5部を流し込み、撹拌しながら、フラスコ内の温度を75℃に昇温して30分間かき混ぜた。
この温浴中に、1段目の乳化重合用モノマーとして、メチルメタクリレート(MMA)11.2部、ブチルアクリレート(BA)44.8部、及びアクリロニトリル(AN)14.0部、重合開始剤として亜硫酸水素ナトリウム水溶液(5重量%)14.0部及び過硫酸アンモニウム水溶液(5重量%)9.2部を加えて、1段目の乳化重合を行った。1段目の乳化重合は、温度を75℃〜80℃に保持しながら、1時間、行った。
【0121】
次に、2段目の乳化重合を行った。1段目の乳化重合を行った反応系の温度を75〜80℃に保持しながら、2段目の乳化重合用モノマーとして、メチルメタクリレート(MMA)100.8部、ブチルアクリレート(BA)403.2部、及びアクリロニトリル(AN)126.0部の混合モノマー溶液を、3時間半かけて滴下した。かかる滴下中に、過硫酸アンモニウム水溶液(5重量%)18.5部を7分割して30分毎に配合した。その後、90分間、温度を75℃に保ち、重合反応を続けた。この間、過硫酸アンモニウム水溶液(5重量%)3.1部を2分割して45分毎に配合した。
【0122】
2段目の乳化重合の後、反応温度を50℃まで低下させて1時間追い込み重合を行った。かかる追い込み重合中は、30分毎に、t−ブチルヒドロパーオキシ水溶液(13重量%)3.5部、L−アスコルビン酸水溶液(10重量%)4.2部を配合した。その後、室温まで冷却して、固形分50重量%のエマルジョンを得た。分散質となるニトリル系重合体中のニトリル系モノマーに由来する構造単位(ニトリルユニット)の含有率は、20重量%である。
【0123】
以上のようにして調製したエマルジョンの電解膨潤率は表1に示すとおりである。このエマルジョンを、そのまま負極用バインダーとして使用し、実施例1と同様にして、負極用スラリー液、さらに当該スラリー液を用いて、リチウムイオン二次電池負極を作成した。作成した負極及び電池について、実施例1と同様にして電池特性を評価した。結果を表2に示す。
【0124】
比較例1:
還流冷却器、攪拌機、滴下漏斗、温度計を備え付けたセパラブルフラスコに、水658.8部、実施例1で用いた側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂50.4部、無水酢酸1.5部を流し込み、撹拌しながら、フラスコ内の温度を75℃に昇温して30分間かき混ぜた。
この温浴中に、1段目の乳化重合用モノマーとして、ブチルアクリレート(BA)32.4部及びスチレン(St)39.6部、重合開始剤として亜硫酸水素ナトリウム水溶液(5重量%)14.4部及び過硫酸アンモニウム水溶液(5重量%)9.5部を加えて、1段目の乳化重合を開始した。1段目の乳化重合は、温度を75℃〜80℃に保持しながら、1時間、行った。
【0125】
次に、2段目の乳化重合を行った。1段目の乳化重合を行った反応系の温度を75〜80℃に保持しながら、2段目の乳化重合用モノマーとして、ブチルアクリレート(BA)291.6部、及びスチレン(St)356.4部の混合モノマー溶液を、3時間半かけて滴下した。かかる滴下中に、過硫酸アンモニウム水溶液(5重量%)19.0部を7分割して30分毎に配合した。その後、90分間、温度を75℃に保ち、重合反応を続けた。この間、過硫酸アンモニウム水溶液(5重量%)3.2部を2分割して45分毎に配合した。
【0126】
2段目の乳化重合の後、反応温度を50℃まで低下させて1時間追い込み重合を行った。かかる追い込み重合中、30分毎に、t−ブチルヒドロパーオキシ水溶液(13重量%)3.6部、L−アスコルビン酸水溶液(10重量%)4.3部を配合した。その後、室温まで冷却して、固形分52重量%のエマルジョンが得られた。このエマルジョンの電解液膨潤率は表1に示すとおりである。
なお、分散質である重合体の組成は、BA/St=45/55(質量比)であり、ニトリルユニットの含有率は0%である。
【0127】
以上のようにして得られたエマルジョンを、そのまま負極用バインダーとして使用し、実施例1と同様にして、負極用スラリー液、さらに当該スラリー液を用いて、リチウムイオン二次電池負極を作成した。作成した負極及び電池について、実施例1と同様にして電池特性を評価した。結果を表2に示す。
【0128】
比較例2:
1段目の乳化重合のモノマーとして、メチルメタクリレート(MMA)9.3部、ブチルアクリレート(BA)37.3部、及びスチレン(St)23.3部を使用し、2段目の乳化重合用モノマーとして、メチルメタクリレート(MMA)84.0部、ブチルアクリレート(BA)336.0部、及びスチレン(St)210.0部を使用した以外は、実施例2と同様にして、負極用バインダーを調製した。なお、分散質である重合体の組成は、MMA/BA/St=20/80/50(質量比)であり、ニトリルユニットの含有率は0%である。
【0129】
以上のようにして得られたエマルジョンの電解液膨潤率は、表1に示す通りである。
このエマルジョンをそのまま負極用バインダーとして使用し、実施例1と同様にして、負極用スラリー液、さらに当該スラリー液を用いて、リチウムイオン二次電池負極を作成した。作成した負極及び電池について、実施例1と同様にして電池特性を評価した。結果を表2に示す。
【0130】
比較例3
還流冷却器、攪拌機、滴下漏斗、温度計を備え付けたセパラブルフラスコに、水291.6部、実施例1で用いた側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂8.4部、無水酢酸0.3部を流し込み、撹拌しながら、フラスコ内の温度を75℃に昇温して30分間かき混ぜた。
この温浴中に、1段目の乳化重合用モノマーとして、メチルメタクリレート2.7部、ブチルアクリレート(BA)3.3部、及びブレンマーAME−400(日油株式会社)6.0部、亜硫酸水素ナトリウム水溶液(5重量%)1.6部、過硫酸アンモニウム水溶液(5重量%)9.2部を加えて、1段目の乳化重合を開始した。1段目の乳化重合は、反応温度を75℃〜80℃に保持しながら、1時間行った。
【0131】
次に、2段目の乳化重合を行った。1段目の乳化重合を行った反応系の温度を75〜80℃に保持しながら、2段目の乳化重合用モノマーとして、メチルメタクリレート(MMA)24.3部、ブチルアクリレート(BA)29.7部、及びブレンマーAME−400(日油株式会社)54.0部の混合モノマー溶液を、3時間半かけて滴下した。かかる滴下中に、過硫酸アンモニウム水溶液(5重量%)3.2部を7分割して30分毎に配合した。その後、90分間、温度を75℃に保ち、重合反応を続けた。この間、過硫酸アンモニウム水溶液(5重量%)3.2部を2分割して45分毎に配合した。
【0132】
2段目の乳化重合の後、反応温度を50℃まで低下させて1時間追い込み重合を行った。かかる追い込み重合中、30分毎に、t−ブチルヒドロパーオキシ水溶液(13重量%)0.6部、L−アスコルビン酸水溶液(10重量%)0.7部を配合した。その後、室温まで冷却して、固形分30重量%のエマルジョンを負極用バインダーとして用いた。
なお、分散質となる重合体の組成は、MMA/BA/AME=45/55/100(質量比)であり、ニトリルユニットの含有率は0%である。
【0133】
以上のようにして得られたエマルジョンの電解液膨潤率は、表1に示すとおりである。
調製したエマルジョンをそのままバインダーとして使用し、バインダー含有率5重量%(活物質:バインダー=95:5)について、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池負極を作成した。作成した負極及び電池について、実施例1と同様にして電池特性を評価した。結果を表2に示す。
【0134】
[参考例]
分散剤としてエレミノールJS−20(三洋化成工業株式会社)2.8部、水97.2部を仕込んだ反応缶に、300rpmで攪拌しながら、ブチルアクリレート(BA)36.0部及びアクリロニトリル(AN)84.0部を30分かけて滴下混合分散し、その後、30分間攪拌し続けることで、ニトリル系モノマーを分散させた分散液(ニトリル系モノマー分散液)を調製した。
【0135】
還流冷却器、攪拌翼、滴下漏斗、温度計を備え付けたセパラブルフラスコに、上記で調製したニトリル系モノマーの分散液の10分の1量である22.0部、水194.4部、酢酸ナトリウム0.25部、エレミノールJS−20を5.6部仕込み、攪拌速度200rpmで攪拌しながらフラスコ内の温度を75℃に上げた。その後、亜硫酸水素ナトリウム水溶液(5重量%)2.4部、過硫酸アンモニウム水溶液(5重量%)1.58部を配合し、反応温度を75℃〜80℃に保持することにより、1段階目の乳化重合を1時間行った。
【0136】
次に、2段目の乳化重合を行った。1段階目の乳化重合を行った反応系の温度を75℃〜80℃の範囲に保ちながら、上記で調製したニトリル系モノマー分散液の10分の9量である198.0部を3.5時間かけて滴下した。かかる滴下中、過硫酸アンモニウム水溶液(5重量%)3.17部を7分割して30分毎に配合した。その後、90分間、温度を75℃に保ち、重合反応を続けた。この間、過硫酸アンモニウム水溶液(5重量%)0.53部を2分割して45分毎に配合した。
【0137】
2段目の乳化重合の後、反応温度を50℃まで低下させて1時間追い込み重合を行った。反応中は30分毎にt−ブチルヒドロパーオキシド水溶液(13重量%)0.60部、L−アスコルビン酸水溶液(10重量%)0.72部を配合した。その後室温まで冷却して固形分30重量%のエマルジョンを得た。かかるエマルジョンを、電解液膨潤率の測定に供したところ、膨潤しすぎて、測定に供することができなかった。
【0138】
【表1】
【0139】
【表2】
【0140】
実施例と参考例との比較からわかるように、ニトリル系モノマーを乳化重合して得られる重合体を分散質として含むエマルジョンについては、乳化重合時に側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂が分散質として含まれていないと(参考例)、電解液に対する膨潤を抑制できなかった。一方、分散質として、側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂の存在下で、ニトリル系モノマーを乳化重合して得られる重合体の粒子を含むエマルジョンでは、電解液として、エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート(EC/DMC)を用いた場合だけでなく、プロピレンカーボネート(PC)を用いた場合にも、適度な膨潤を示すことができた。
【0141】
そして、表2において、ニトリルユニットを有する重合体を含む粒子が分散しているエマルジョンを用いた負極用バインダー(実施例1)と、ニトリルユニットを含有しない重合体の粒子が分散しているエマルジョンを用いた負極用バインダー(比較例1,2,3)とを比べた場合、実施例1は、バインダー含有率が3重量%、5重量%のいずれにおいても初回放電量差が小さく、出力特性が安定していることがわかった。
【0142】
また、エマルジョンの分散質としてニトリルユニットを有する重合体を含むエマルジョンを用いた負極用バインダー(実施例1)において、バインダー含有率が同じ場合、実施例1の方が、初回放電容量、初回クーロン効率が共に高く、かつレート特性の絶対値が小さかった。また、剥離開始強度、剥離進行強度においても、実施例1は良好な値を示しており、剥離開始強度は比較例1,2の10〜30倍であり、進行中の最大強度も比較例1,2と同等又はそれ以上であった。
【0143】
さらにバインダー使用量を3重量%と少なくした場合であっても、実施例1の剥離開始強度は、比較例1,2の剥離強度と比べて100倍程度の剥離強度を保持していた。比較例3においてはエマルジョンを負極用バインダーとして、活物質に対して3重量%用いると、集電体及び活物質に対する結着力が弱く、もはや電極を作製することが出来なかった。
【0144】
ニトリルユニットを有する重合体を含む粒子が分散したマルジョンを用いた負極バインダー(実施例2)を用いた場合においても、バインダー含有率5重量%の場合に良好なレート特性を示し、バインダー含有率3重量%の場合に良好な剥離強度を示した。
【0145】
実施例3:
分散剤として側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂(ケン化度:90.4%、平均重合度:300、側鎖1,2−ジオール構造単位含有量:3.0モル%)7.0部、水82.8部を仕込んだ反応缶に、300rpmで攪拌しながら、ブチルアクリレート(BA)45.0部及びアクリロニトリル(AN)105.0部を30分かけて滴下し、その後、30分間攪拌し続けることで、ニトリル系モノマーを分散させた分散液(ニトリル系モノマー分散液)を調製した。
【0146】
還流冷却器、攪拌翼、滴下漏斗、温度計を備え付けたセパラブルフラスコに、上記で調製したニトリル系モノマー分散液の10分の1量(24.0部)、水165.5部、酢酸ナトリウム0.32部、及び側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂14.0部を仕込み、攪拌速度200rpmで攪拌しながらフラスコ内の温度を75℃に上げることにより、1段目の乳化重合を開始した。亜硫酸水素ナトリウム水溶液(5重量%)3.0部、過硫酸アンモニウム水溶液(5重量%)1.98部を配合し、反応温度を75℃〜80℃に保持しながら1時間、1段目の乳化重合を行った。
【0147】
次に、2段目の乳化重合を行った。1段目の乳化重合を行った反応系の温度を75℃〜80℃の範囲に保ちながら、上記ニトリル系モノマー分散液の残り、すなわち10分の9量にあたる215.8部を3.5時間かけて滴下した。かかる滴下中、過硫酸アンモニウム水溶液(5重量%)3.96部を7分割して30分毎に配合した。その後、90分間、温度を75℃に保ち、乳化重合を続けた。この間、過硫酸アンモニウム水溶液(5重量%)0.66部を2分割して45分毎に配合した。2段階目の乳化重合後、反応系内の温度を室温まで冷却して固形分40重量%のエマルジョンを得た。
【0148】
活物質として天然黒鉛SNO−3(SECカーボン株式会社製)、上記で調製したエマルジョン、及び(第2の)側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂(ケン化度:99%、平均重合度:1200、1,2−ジオール含有率:3.0%)を、活物質:エマルジョン:PVA系樹脂=90:5:5(重量比、固形分換算)となるように配合し、負極バインダーを製造した。この負極バインダーにおける、エマルジョンと第2の側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂との含有重量比は、5:5である。
【0149】
以上のようにして得られた負極用バインダーを用いて、電解液としてプロピレンカーボネートを用いて、実施例1と同様にして、負極用スラリー液、さらに当該スラリー液を用いて、リチウムイオン二次電池負極を作成した。作成した負極及び電池について、実施例1と同様にして電池特性を評価した。初回放電容量は280mAh/gであり、初回クーロン効率は84%であり、良好な電池特性を示した。
【0150】
上記結果から、分散剤として(第1の)側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂、分散質としてニトリルユニットを含む重合体を有する粒子を水分散媒に分散させてなるエマルジョンと、第2の側鎖1,2−ジオール構造単位含有PVA系樹脂とを併用して作製されるリチウムイオン二次電池についても、良好な電池特性を有することがわかる。