(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6266412
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】PM型ステッピングモータのステータヨーク及びこれを用いたステータユニット
(51)【国際特許分類】
H02K 37/14 20060101AFI20180115BHJP
H02K 1/12 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
H02K37/14 535C
H02K1/12 A
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-75850(P2014-75850)
(22)【出願日】2014年4月1日
(65)【公開番号】特開2015-198524(P2015-198524A)
(43)【公開日】2015年11月9日
【審査請求日】2017年1月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】398075426
【氏名又は名称】沖マイクロ技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095717
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 博文
(72)【発明者】
【氏名】佐賀 賢
(72)【発明者】
【氏名】本柳 雅幸
【審査官】
池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−184682(JP,A)
【文献】
特開平10−094236(JP,A)
【文献】
特開平06−189484(JP,A)
【文献】
特開2008−236931(JP,A)
【文献】
特開2002−101633(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0036433(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 37/14
H02K 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を有し、永久磁石の円周面を周方向へ交互異極に着磁させてなるロータマグネットと、
該ロータマグネットを包囲する複数個の突片状の磁極歯を有すると共に前記回転軸と垂直な環状面をもった環状体のステータヨークと、該ステータヨークの2個を対面させて互いの磁極歯どうしが交互に非接触で噛み合わさった状態で形成した空間内に前記回転軸の回転方向に巻回させて密巻した励磁コイルと、から構成したステータユニットを備えたPM型ステッピングモータであって、前記ステータユニットを構成する前記ステータヨークにおいて、
該ステータヨークの対面する側の環状面の複数個所に、板厚を薄くした薄肉部を形成したことを特徴としたPM型ステッピングモータのステータヨーク。
【請求項2】
薄肉部が、
主として隣接する磁極歯の間の位置への形成であることを特徴とした請求項1記載のPM型ステッピングモータのステータヨーク。
【請求項3】
薄肉部が、
ステータヨークの外周縁の近傍に不連続の周回形成であることを特徴とした請求項1、又は2記載のPM型ステッピングモータのステータヨーク。
【請求項4】
ステータヨークが、
前記薄肉部と共に適宜の形状で切欠き削除した開口部を有することを特徴とした請求項1、2、又は3記載のPM型ステッピングモータのステータヨーク。
【請求項5】
前記開口部の形成が、
薄肉部の領域内、又は当該領域を含んだ連続形成であることを特徴とした請求項4記載のPM型ステッピングモータのステータヨーク。
【請求項6】
前記請求項1乃至5のいずれか記載のステータヨークを用いたものであって、
該ステータヨークの2個をその磁極歯どうしを交互に非接触で噛み合わせた状態で対面させて環状空間を区画形成すると共に前記ロータマグネットの外周面と対面させる前記磁極歯の面を露出した状態で前記薄肉部と前記開口部とステータヨークの表裏面を樹脂層で被うことにより前記2個のステータヨークを固着一体化させて形成したボビン体と、
該ボビン体の表面を樹脂層で被覆してなる前記環状空間内に記ロータマグネットの回転方向に沿って巻回密巻してなる励磁コイルを配設して成ることを特徴としたPM型ステッピングモータのステータユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、PM型ステッピングモータの技術分野に属し、特に、モータのステータユニットを構成するステータヨーク、及びこれを用いたステータユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、PM型ステッピングモータは、特許文献1に示すように、円筒又は円柱状の永久磁石(PM)の円周面を周方向へ交互異極に着磁させ、ケース内に回転軸をもって回動自在に保持してなる円柱状又は円筒状のロータマグネットと、該ロータマグネットの外周面とエアーギャップをもって同軸上に環装させてケースに固定したステータを基本構成としている。該ステータは、前記ロータマグネットの外周面と対面して包囲する複数個の爪状の磁極歯を有しかつ前記回転軸と垂直面の環状体からなるステータヨークと、2個のステータヨークの磁極歯どうしを交互に非接触で噛み合わせた状態で対面させてなる環状の空間(以下、「巻回空間」)内に、前記回転方向に線材を巻回させて成る励磁コイルを配設することによって構成している。
【0003】
この種のステッピングモータを構成するステータは、ステータヨークとコイルとの密着性による省スペース化の向上、及び先にコイルボビン(コイル巻回枠)へコイルを密巻して保形してから上記巻回空間内に装着する作業行程を省略する意味から、上記対面配置した2個のステータヨークを所定間隔で保持して樹脂による結合によって一体成形して、これをそのままコイルボビンとして用いる構成が、例えば、特許文献1及び特許文献2、等において開示されている。
【0004】
なお、上記ステータヨークの一体成形の方法としては、例えば、特許文献3に開示されているように金型の所定の位置にステータヨークを保持して、金型で区画された空間内に熱可塑性の樹脂を流入して行うインサート成形による。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−27726号公報
【特許文献2】特開2009−005486号公報
【特許文献3】特開平6−153485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、及び2で開示しているステータヨークの樹脂を介したコイル巻回用のボビン体の成形は、ステータヨークの表裏面と磁極歯の前記ロータマグネットとの対面する面を残して樹脂の固着結合で行うものであった。したがって、絶縁性と保形力を確保するためには、所定の厚さを確保しておく必要があり、出力トルクに影響するコイルの巻回数は、巻回空間の容量よって規定されることとなる。
【0007】
ところで製品には、モータの小型化と高トルク化と共に、低価格化への要請が不断にある。そのため、部品材料を廉価にするため従来の銅線から安価なアルミ線に切り換えることが検討されるが、アルミ線は銅線より導電率が低いため、銅線の場合と同じ出力トルクを確保するためには、より線径の大きい線材を使用する必要があり、巻回空間の容積を大きくする必要があった。
【0008】
そこで、モータの外形寸法を換えることなく現在より巻回空間の容積を大きくする場合は、巻回空間の軸垂直方向(半径方向)の拡張はモータの外径に影響するため、巻回空間の軸方向(回転軸方向)の間隔(以下、「巻回幅」)を如何に拡張するかが課題となっていた。
【0009】
前記の特許文献の開示技術では、金属材からなるステータヨークが平坦な面板で構成されているため、金属と樹脂の付着性と薄板材である金属の保形性を保つためにステータヨークの板厚を可変させることはできず、その着眼への示唆も見られない。
【0010】
本願発明は、かかる課題に着目してなされたものであり、巻回空間の軸方向の間隔を換えることなくコイルの巻回幅を広げることにより、同じ線径材の場合は巻回数の増加による高トルクが確保できる、と共に安価な太い線径材を使用しても同一のトルク特性を確保することをできる新規な技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため本願発明にかかるPM型ステッピングモータのステータヨークは、以下のように構成している
【0012】
回転軸を有し、永久磁石の円周面を周方向へ交互異極に着磁させてなるロータマグネットと、該ロータマグネットを包囲する複数個の磁極歯を有しかつ前記回転軸と垂直面のリング状板からなるステータヨークと、該ステータヨークを磁極歯どうしが交互に非接触で噛み合わせた状態で対面させて形成した空間に巻回させた励磁コイルと、から構成したステータユニットを備えたPM型ステッピングモータであって、該ステータユニットを構成する前記ステータヨークにおいて、該ステータヨークの
対面する側の環状面の複数個所に、板厚を薄くした薄肉部を形成したことを特徴としている。
【0013】
この薄肉部とは、ステータヨークの板面をプレス加工により窪みを形成して付近の板厚より薄く形成した部分を意味する。この薄肉部の形成は、一律ではなく、薄肉部と厚肉部を規則的に又は散点状に形成しても良い。
【0014】
また、この薄肉部の形成位置は、主として隣接する磁極歯間のステータヨークの複数個所に形成する。また薄肉部は磁極歯の外周側半径方向の位置(回転軸から見て磁極歯の背面側。「背面側」と略称。)には形成しないことが好ましい。
【0015】
さらに、薄肉部はステータヨークの外周縁の近傍に不連続に周回状に形成してもよい。別言すると、その連なりが、連続した実線ではなく、点線状、破線状、又は一点鎖線状、等に配設してもよい。
【0016】
また、ステータヨークには前記薄肉部と共に適宜の形状で切欠き削除した開口部を形成しても良く、さらには開口部の形成位置を薄肉部の形成領域内、又は当該領域を含んだ連続位置としても良い。
【0017】
次に、上記のように構成したステータヨークを用いて構成したステータユニットは、次のように構成している。
該ステータヨークの2個をその磁極歯どうしを交互に非接触で噛み合わせた状態で対面させて環状空間を区画形成すると共に前記ロータマグネットの外周面と対面させる前記磁極歯の面を露出した状態で前記薄肉部と前記開口部とステータヨークの表裏面を樹脂層で被うことにより前記ステータヨークとを固着一体化させて形成したボビン体と、該
ボビン体の表面を樹脂層で被覆してなる前記環状空間内に記ロータマグネットの回転方向に沿って巻回密巻してなる励磁コイルを配設して構成している。
【発明の効果】
【0018】
本願発明の構成によれば、ステータヨークに薄肉部を形成することにより、成形時に流入した樹脂材がステータヨークの表裏の両面に速やかに行き渡らせる樹脂流動性の向上を図ることができる。また、樹脂が硬化した場合にはステータヨーク表面との付着性又は結着性を良くすることができる。その結果、ステータヨークへの絶縁被覆のための樹脂層をより薄くすることができるため、ボビン体の大きさを換えることなくコイルの巻回空間の軸方向の間隔距離を拡張することができ、従来の線径の線材を使用した場合は、ボビン体への巻回数を増やすことによりモータの高トルク化が図れる。また、太い線材を使用した場合は、導電率が低く安価の線材であっても従来と同様の巻回数を確保することができることにより、モータのトルク特性を損なうことなく、安価なモータを製造することができる。
【0019】
さらに、薄肉部及び開口部を主として隣接する磁極歯間の位置に形成しているためトルク特性を低減させることがなく、渦電流損を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施例のPM型ステッピングモータの縦断面図である
【
図2】本実施例にかかるステータヨークの正面図である。
【
図3】本実施例にかかるステータヨークの他仕様の正面図である。
【
図4】
図1に示すPM型ステッピングモータの要部(矢示A部分)を拡大して示した拡大縦断面図である
【
図5】本実施例にかかるスタータヨークの要部を分解して示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本願発明の実施形態の例を図面に基づいて説明する。
【0022】
まず、図示符号1は、本願発明にかかるステータヨーク及びステータユニットを構成要素の一つとするPM型ステッピングモータ(以下、「モータ」と略称する。)である。
【0023】
該モータ1は、ケース10内に軸受11a,11bによって回動自在に軸支された回転軸12を有し、該回転軸12に保持されて円周面を周方向にN極とS極とが交互に着磁された永久磁石(PM)で構成されたロータマグネット2と、該ロータマグネット2の外周囲にエアーギャップをもって環装した2個を連結して2相構成としたステータユニット3から構成されている。
【0024】
本願発明の主眼は、かかるモータ1、特に、ステータユニット3の主要構成要素であるステータヨーク4にある。この発明を実現する実施形態の一例を、以下に詳述する。
【0025】
該ステータヨーク4は、
図2に示すにように、磁性材で形成され、前記回転軸12と垂直な環状面41をもった環状体を成している。その中央部には、前記ロータマグネット2に僅かなエアーギャップをもって挿通する直径をもった中央口40を形成している。この中央口40の内周縁には、前記ステータヨーク4の環状面41から垂直方向に折り曲げて成形した複数個(本実施例では12個)の磁極歯42を形成して、周方向(又は軸回転方向)に沿って等間隔に配置している。この磁極歯42の形状は、爪状又は略二等辺三角状を成し、前記ロータマグネット2と対面するように設置している。この磁極歯42の設置数は前記ロータマグネット2の交互異極の配列パターンを考慮して決定される。
【0026】
また、このステータヨーク4の外周縁部の近傍には、板面を窪ませた薄肉部43を形成している。この薄肉部43は、外周輪郭に沿って形成しているが、磁極歯42の外周側(中心から見て磁極歯の背面側)の領域部分を避けるようにして形成している。すなわち外周縁の近傍を不連続に周回するように配設している。
【0027】
また、中央口40の周縁付近の各磁極歯42間においても薄肉部43を形成している。
【0028】
この薄肉部43は、前記環状面41のプレス成形時に所定部分を窪ませて(又は潰して)周辺部より板厚を薄く形成したものである。なお、この薄肉部43の窪みは、環状面の片面側に形成して
いる。本実施例では、この薄肉部43の窪みを、2つのステータヨーク4が対面する環状面41に形成している。
【0029】
さらに、ステータヨーク4の環状面41には、適宜の形状で切欠き削除した開口部44を形成している。この開口部44の形成位置は、モータ特性への影響を考慮して各磁極歯42,42,42,・・・の間に形成し、可能な限り大きな面積としている。一方、モータ特性に影響のおそれがある各磁極歯42,42,42,・・・の背面側には、小面積で軸方向へ延びた幅狭の切り込み状の開口部45を設けている。これらの開口部44,45は、薄肉部43の領域と連なった状態で形成している。
【0030】
その他の実施例としては、
図3に示す仕様例(A)(B)としても良い。
【0031】
仕様例の(A)は、開口部44Aを薄肉部43Aの領域内に形成したものであり、その開口部44Aの位置は各磁極歯42A間に周回状に形成している。
【0032】
また仕様例(B)は、薄肉部43Bの総面積を可能な限り小さくした例であり、上記実施例とは異なり、環状面41Bの外周縁近傍の薄肉部43を設けずに、中央口40Bの縁部のみに形成したものである。その一方で磁極歯42B間の開口部44Bの形状を外周縁付近まで延ばして、開口面積を拡張させている。
【0033】
次に、上記した実施例のステータヨーク4を用いて構成したステータユニット3について説明する。
【0034】
まず、ステータヨーク4の2個をその各磁極歯42,42,・・・どうしを交互に非接触で噛み合わせた状態となるようにして金型(図示省略。例えば、特許文献3の開示技術)の所定位置に保持して、熱可塑性の樹脂材を導入させて一体化させて保形する。この時、注入した樹脂流動体は薄肉部43に満遍なく充填されると共に開口部44を通ってステータヨーク4の表裏に速やかに流動し、放熱して硬化した樹脂材は、環状面41に強固に付着して薄い樹脂層ながらも金属板であるステータヨーク4と強固に結着して一体化に寄与する。
【0035】
この2個のステータヨーク4の一体化により、噛み合い状に組み合わせた磁極歯42の背面側と環状面41の対面によって区画された環状の空間を巻回空間50とするボビン体5が形成される。次に、このボビン体5に、コイル用線材を直接巻回させて励磁コイル6を形成することによりステータユニット3が形成される。
≪実施例の効果≫
【0036】
このようにして形成されたボビン体5は、
図4に本実施品(A)と従来品(B)とを並べて示したように、薄肉部43に樹脂が流入してその部分の樹脂層の厚さ(「層厚」)Taは、従来の層厚Tbと同等であるため十分な絶縁性を確保することができる。一方、薄肉部43以外の部分の層厚Tcは、従来の層厚Tbより薄肉部43のつぶし量(窪み深さ)分Tdだけ薄く(Tc=Tb−Td)することができる。この結果、本実施例の巻回幅Saが従来品の巻回幅Sbより広げること(Sa>Sb)ができた。
【0037】
この結果、薄肉部43は対向させて形成しているため、巻回空間50の軸方向の距離(巻回幅)は、2×Tdだけ拡張されて同一径の線材では巻回数が増え、同じ巻回数とした場合はより線径の大きい線材を使用することができることとなる。
【0038】
これに基づいての実施した結果、以下のような効果が実現できた。
なお、本実施例では、φ49×29.5mmのモータにおいて、樹脂層形成前のステータヨークの対面幅が11.1mmであるところ、樹脂層形成後の従来品の巻回幅Sbは10.1mmであったが、本願発明にかかる本実施例品の巻回幅Saは10.5mmとなって、巻回幅の拡張が図れた。
【0040】
従来の使用していた線径0.40mmの線材Aを200巻回していた空間に、本実施例で構成した巻回空間では線径0.49mmの線材Bを同数巻回させることができた。この結果、線材Aより導電率が低く安価で軽量な線材Bを使用することができ、同等のモータサイズと特性(トルク)を維持しながらも、重量比で約38%、部材費の比較で41%の低減が図れた。
【0042】
従来の巻回空間では線径0.40mmの線材Aが280巻回であったところ、本実施例で構成した巻回空間では295巻回することができ、モータサイズを換えることなくモータ特性を約4%向上させることができた。
【0043】
以上、本発明の実施形態例について説明したが、本発明は上記した実施形態例に何ら限定されるものではなく、本発明思想の趣旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施できることはもちろんである。
【符号の説明】
【0044】
1 PM型ステッピングモータ
2 ロータマグネット
3 ステータユニット
4 ステータヨーク
40 中央口
41 環状面
42 磁極歯
43 薄肉部
44 開口部(磁極歯間)
45 開口部(磁極歯背面)
5 ボビン体
50 巻回空間
6 励磁コイル