(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6266449
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】既設梁体の耐震補強構造
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20180115BHJP
【FI】
E04G23/02 F
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-131145(P2014-131145)
(22)【出願日】2014年6月26日
(65)【公開番号】特開2016-8465(P2016-8465A)
(43)【公開日】2016年1月18日
【審査請求日】2017年1月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】597010846
【氏名又は名称】山本 泰稔
(74)【代理人】
【識別番号】100073287
【弁理士】
【氏名又は名称】西山 聞一
(73)【特許権者】
【識別番号】000245852
【氏名又は名称】矢作建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(72)【発明者】
【氏名】山本 泰稔
(72)【発明者】
【氏名】加藤 三晴
【審査官】
西村 隆
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−329699(JP,A)
【文献】
特開2014−047488(JP,A)
【文献】
特開2008−138410(JP,A)
【文献】
特開2002−213085(JP,A)
【文献】
特開平11−270146(JP,A)
【文献】
特開2006−312859(JP,A)
【文献】
特開平10−131516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強すべき既設梁体の外面部における既設バルコニーより下方部位に構築された梁補強 主体部と、前記外面部における前記既設バルコニーより上方部位に構築された梁補強体補助部と、前記既設バルコニーを貫通して上下端部が前記梁補強体主体部及び前記梁補強体補助部に埋設された複数本の縦アンカーとを有し、前記梁補強体主体部と、前記梁補強体補助部と、前記既設バルコニーにおける前記梁補強体主体部及び前記梁補強体補助部で挟まれた部位とで梁補強体を構成させたことを特徴とする既設梁体の耐震補強構造。
【請求項2】
前記梁補強体補助部は、前記既設梁体の長さ方向に長い鋼材を有し、該鋼材に前記縦アンカーの上端部を固定したことを特徴とする請求項1記載の既設梁体の耐震補強構造。
【請求項3】
前記鋼材は、モルタル・コンクリート部に埋設されていることを特徴とする請求項2記載の既設梁体の耐震補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設バルコニーをそのままに、建物外からの作業で施工可能な既設梁体の耐震補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の既設RC造建築物の耐震補強工法は、左右の柱体の対向する内面部と上の梁体の下面部及び下の梁体の上面部に夫々補強体を連設して枠体とすることで補強する鉄骨枠付ブレース工法が採用されていた。しかしながら、左右の柱体の間には通常窓ガラスや出入口用等のサッシュが取り付けてあるため、それらを一旦除去し施工後に再取付することが必要となり、居住者に迷惑がかかる建物内部からの改修作業となるのである。
【0003】
そこで、サッシュの除去及び再取付を不要として建物内部からの改修作業をなくし、建物外からの作業で施工できる既設建物の耐震補強工法として、本願出願人は、外壁側の柱体と梁体の夫々外向面部に間隔をおいて鋼板を固着して柱体の鋼板と梁体の鋼板とを縦横に連結配置し、さらに柱体の鋼板間又は梁体の鋼板間或いは柱体と梁体の夫々鋼板間に補強体を連結し、鋼板を囲むコンクリート型枠を備えてコンクリート打設することにより、柱体と梁体の外向面部に鋼板入りコンクリートの補強柱部及び補強梁部が一体に連設されると共に、補強体で柱部と梁部がさらに補強されることを特徴とする既設建物の耐震補強工法を発明した(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この工法によれば、既設の柱体と梁体の外面側に、鋼板を有する補強柱部及び補強梁部が一体として枠体に連設されるため柱体と梁体が補強され、補強体の介在によってさらに強固且つ堅固な耐震補強構造となり、既設の柱体と梁体の外面側に補強柱部、補強梁部を連設するため、柱間のサッシュ等はそのままでよいことから建物内部からの改修作業が不要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3051071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来技術にあっては、非常に優れた効果的な工法であるが、補強梁部を既設梁体と同じ高さにして断面積を確保することが必要になることから、バルコニーaがある場合(
図4(a)参照)、先ずこれを撤去し(
図4(b)参照)、既設梁bの外面部に補強梁部cを構築し(
図4(c)参照)、該補強梁部cの外面部に新たなバルコニーa’を再構築する(
図4(d)参照)ことになる。
【0007】
その結果、工事期間中安全性を確保するためにサッシ窓は開けることができず居住者に迷惑がかり、而も補強工事とは別の作業が必要になり工事期間が長くなるため、施工コスト高を招来するなど、解決せねばならない課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記従来技術に基づく、既設バルコニーの撤去作業が必要な課題に鑑み、補強すべき既設梁体の外面部における既設バルコニーより下方部位に構築された梁補強体主体部と、前記既設梁体の外面部における既設バルコニーより上方部位に構築された梁補強体補助部と、既設バルコニーを貫通して上下端部が梁補強体主体部及び梁補強体補助部に埋設された複数本のアンカーとを有し、梁補強体主体部と、梁補強体補助部と、既設バルコニーにおける梁補強体主体部及び梁補強体補助部で挟まれた部位とで梁補強体を構成させることによって、既設バルコニーを撤去せずに、必要高さの梁補強体を構築可能にして、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0009】
要するに本発明は、補強すべき既設梁体の外面部における既設バルコニーより下方部位に構築された梁補強体主体部と、前記外面部における前記既設バルコニーより上方部位に構築された梁補強体補助部と、前記既設バルコニーを貫通して上下端部が前記梁補強体主体部及び前記梁補強体補助部に埋設された複数本のアンカーとを有し、前記梁補強体主体部と、前記梁補強体補助部と、既設バルコニーにおける前記梁補強体主体部及び前記梁補強体補助部で挟まれた部位とで梁補強体を構成させているので、前記既設バルコニーをそのままに、前記アンカー用の削孔を形成するだけで、前記既設梁体と同じ高さの前記梁補強体で補強することが出来るため、工事期間中であっても居住者はサッシ窓を開けることが出来、而も従来の既設バルコニーの撤去及び新たなバルコニーの設置作業より簡単な削孔作業及び前記梁補強体補助部の構築作業が主となる梁補強体主体部の構築作業に追加されるだけであるため、工期短縮化及びコスト低減化を図ることが出来る。
【0010】
前記梁補強体補助部は、前記既設梁体の長さ方向に長い鋼材を有し、該鋼材に前記縦アンカーの上端部を固定しているので、高強度の前記鋼材に前記縦アンカーが固着されるため、前記梁補強体補助部の前記既設バルコニー及び梁補強体主体部との一体性を向上させることが出来る。
【0011】
前記鋼材は、モルタル・コンクリート部に埋設されているので、モルタル・コンクリートの現場打設で厚さに拘らず構築可能で、且つ鋼材により強度向上を図ることが出来、又前記鋼材に前記アンカーの上端部を固定したので、前記梁補強体補助部と既設バルコニー及び梁補強体主体部との一体性を更に向上させることが出来、更に前記モルタル・コンクリート部における前記鋼材の上方にワイヤーメッシュを埋設すれば、前記梁補強体補助部の強度を更に向上させることが出来、且つ割裂発生を確実に防止することが出来る等その実用的効果甚だ大である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る既設梁体の耐震補強構造で補強されたRC造建築物の断面図である。
【
図2】
図1のX−X切断線で切断された本発明に係る既設梁体の耐震補強構造で補強されたRC造建築物の断面図である。
【
図3】
図1のY−Y切断線で切断された本発明に係る既設梁体の耐震補強構造で補強されたRC造建築物の断面図である。
【
図4】従来の既設梁体の耐震補強工法の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づき説明する。
本発明に係る既設梁体の耐震補強構造は、基本的に、補強すべき既設梁体Bの外面部Sbにおける既設バルコニーAより下方部位に構築された梁補強体主体部1と、既設梁体Bの外面部Sbにおける既設バルコニーAより上方部位に構築された梁補強体補助部2と、既設バルコニーAを貫通して上下端部が梁補強体主体部1及び梁補強体補助部2に埋設状態の複数本の縦アンカー3、3a…とを有し、梁補強体主体部1を既設梁体B及び既設バルコニーAに、梁補強体補助部2を既設バルコニーAに夫々一体化することで、梁補強体主体部1と、梁補強体補助部2と、既設バルコニーAにおける梁補強体主体部1及び梁補強体補助部2で挟まれた部位4とで、既設梁体Bと同じ高さの梁補強体5を構成している。
【0014】
図1は、本発明に係る既設梁体の耐震補強構造で補強されたRC造建築物の断面図であり、断面矩形状の梁補強体主体部1及び梁補強体補助部2と、複数本の縦アンカー3、3a…とを有している。
【0015】
梁補強体主体部1は、断面矩形状のコンクリート製で、下面を既設梁体Bの下面に揃えて既設梁体B及び既設バルコニーAに一体化され、既設梁体Bとは、先端部が既設梁体Bに打ち込まれた複数本の横アンカー6、6a…で、既設バルコニーAとは前記縦アンカー3、3a…で夫々一体化されている。
又、横アンカー6、6a…の基端部を、梁補強体主体部1に埋設状態で、且つ既設梁体Bの外面部Sbに間隔をおいて対向配置された、既設梁体Bの長さ方向に長く且つ既設梁体Bの高さ方向に幅広な横長矩形板状の鋼材7の孔に挿通し、該鋼材7に割裂防止筋が配筋され、縦アンカー3、3a…の下端部が埋設一体化されている。
【0016】
梁補強体補助部2は、鋼材8、モルタル・コンクリート部9及びワイヤーメッシュ10の複合材で、上面を既設梁体Bの上面に揃えて既設バルコニーAに一体化され、具体的には、既設バルコニーAとは前記縦アンカー3、3a…で一体化されている。
又、縦アンカー3、3a…におけるモルタル・コンクリート部9に埋設状態の上端部を、該モルタル・コンクリート部9に埋設状態で、且つ既設バルコニーAの上面に間隔をおいて対向配置された、既設梁体Bの長さ方向に長い矩形状の鋼板である鋼材8に固着し、モルタル・コンクリート部9における鋼材8の上部に、強度向上及び割裂防止のためのワイヤーメッシュ10が埋設され、該ワイヤーメッシュ10は複数本の鉄筋を縦横に交差させ溶接固定して形成されている。
【0017】
縦アンカー3、3a…は、異形鉄筋で、ジグザグ状に配列され、既設バルコニーAの基端側に上下方向に貫設された削孔11、11a …を貫通し、該削孔11、11a …と縦アンカー3、3a…の間にコンクリートが注入されて、既設バルコニーAに対し縦アンカー3、3a…が一体化されている。
【0018】
そして、削孔11、11a …の形成工程と、該削孔11、11a …への縦アンカー3、3a…の設置工程と、梁補強体主体部1の構築工程と、梁補強体補助部2の構築工程を経て、梁補強体5を構築し既設梁体Bを補強する。
【0019】
具体的には、下記(1)〜(9)工程により既設梁体Bを補強する。
(1)既設バルコニーAに削孔11、11a …を形成する。
(2)外壁Wにおける既設梁体Bの外面部Sbに複数本の横アンカー6、6a…を打込み固定する。
(3)鋼材7を、該鋼材7の孔に横アンカー6、6a…を挿通して外面部Sbに対し間隔をおいて設置する。
(4)鋼材7に割裂防止筋を配筋する。
(5)削孔11、11a …に上方より縦アンカー3、3a…を挿入して、下端部を既設バルコニーAの下面より所定長さ突出させる。
(6)鋼材7を囲むコンクリート型枠(図示せず)を備えコンクリートを打設し養生硬化させ外面部Sbに密着させて、梁補強体主体部1を既設梁体Bの外面部Sbに一体構築する。
(7)既設バルコニーAの上面に対し間隔をおいて設置した鋼材8を縦アンカー3、3a…に溶接固定する。
(8)鋼材8の上にワイヤーメッシュ10を配置する。
(9)鋼材8を囲むコンクリート型枠(図示せず)を備えモルタル・コンクリートを打設し養生硬化させ既設バルコニーAの上面に密着させて、梁補強体補助部2を既設バルコニーAの上面に一体構築する。
【0020】
その結果、既設梁体Bに一体化された既設バルコニーA及び梁補強体主体部1に梁補強体補助部2が縦アンカー3、3a…により一体化されていることから、梁補強体主体部1及び梁補強体補助部2と、既設バルコニーAにおける梁補強体主体部1及び梁補強体補助部2で挟まれた部位4で、既設梁体Bと同じ高さの梁補強体5が構築される。
【0021】
尚、図面上、梁補強体補助部2は、鋼材8、モルタル・コンクリート部9及びワイヤーメッシュ10の複合材であるが、基本的には鋼材8単体でも良く、鋼材8とモルタル・コンクリート部9との複合材であっても良く、鋼材8単体の場合、既設バルコニーAの上面に載置する様にしている。
【0022】
又、上記実施例における梁補強体補助部2の鋼材8は鋼板であるが、鉄骨として使用される型鋼であっても良い。
【0023】
又、梁補強体補助部2におけるモルタル・コンクリート部9は、基本的にはセメント+細骨材+水からなるモルタル製であるが、厚くせねばならない場合に、セメント+細骨材+粗骨材+水のコンクリート製を選択することもあるため、「モルタル」と「コンクリート」の両者を併記している。
【0024】
又、図面上、縦アンカー3、3a…はジグザグ状に配列されているが、直線状に1 列又は複数列配列しても良い。
【0025】
又、図面上、梁補強体5は、既設柱体Pの柱補強体12を含む補強構造の一部であるが、図示しないが、単に既設梁体Bだけの補強であっても良い。
【符号の説明】
【0026】
1 梁補強体主体部
2 梁補強体補助部
3、3a… 縦アンカー
4 挟まれた部位
5 梁補強体
8 鋼材
9 モルタル・コンクリート部
A 既設バルコニー
B 既設梁体
Sb 外面部