特許第6266485号(P6266485)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6266485
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/861 20060101AFI20180115BHJP
   H01L 29/868 20060101ALI20180115BHJP
   H01L 21/329 20060101ALI20180115BHJP
   H01L 29/866 20060101ALI20180115BHJP
   H01L 21/822 20060101ALI20180115BHJP
   H01L 27/04 20060101ALI20180115BHJP
   H01L 27/06 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   H01L29/91 K
   H01L29/90 S
   H01L27/04 H
   H01L27/06 311B
   H01L27/06 311C
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-196403(P2014-196403)
(22)【出願日】2014年9月26日
(65)【公開番号】特開2016-72259(P2016-72259A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2016年8月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】崔 秀明
【審査官】 恩田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−004350(JP,A)
【文献】 特開2014−067986(JP,A)
【文献】 特開2008−182121(JP,A)
【文献】 特開平08−148574(JP,A)
【文献】 特開2008−205148(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0259518(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0244090(US,A1)
【文献】 特開2014−096590(JP,A)
【文献】 特開2012−174740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/861
H01L 21/329
H01L 21/822
H01L 27/04
H01L 27/06
H01L 29/866
H01L 29/868
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
形の第1半導体領域と、
前記第1半導体領域の上に設けられた形の第2半導体領域と、
前記第1半導体領域と前記第2半導体領域との間に設けられ、底部が前記第1半導体領域に接し、前記底部と反対側の上部の一部が前記第2半導体領域に接し、前記第2半導体領域の不純物濃度よりも高い不純物濃度を有する形の第3半導体領域と、
前記第2半導体領域の前記第1半導体領域とは反対側の表面に選択的に設けられ、前記第3半導体領域とによって前記第2半導体領域の一部を挟む形の第4半導体領域と、
前記第2半導体領域の上および前記第4半導体領域の上に設けられ、前記第4半導体領域の上面の一部を露出する第1開口が設けられ、前記上面の面積に対する前記一部の面積の割合が10%以上90%以下である絶縁層と、
前記絶縁層の上に設けられ、前記第1開口を経由して前記第4半導体領域に接続された配線層と、
を備えた半導体装置。
【請求項2】
前記第1半導体領域と前記第3半導体領域とが接合する接合部における前記第1半導体領域の不純物濃度または前記第3半導体領域の不純物濃度は、1×1017(atoms/cm)以上である請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記第1半導体領域と前記第2半導体領域との間に設けられ、底部が前記第1半導体領域に接し、前記底部と反対側の上部の一部が前記第2半導体領域に接した形の第5半導体領域と、
前記第1半導体領域とは反対側の前記第2半導体領域の表面に選択的に設けられ、前記第5半導体領域とによって前記第2半導体領域の一部を挟む形の第6半導体領域と、
をさらに備え、
前記第5半導体領域の不純物濃度は、前記第1半導体領域の不純物濃度よりも低く、
前記絶縁層には、前記第6半導体領域の上面の一部を露出する第2開口が設けられ、
前記配線層は、前記第2開口を経由して前記第6半導体領域に接続されている請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記第5半導体領域の上に設けられ、前記第5半導体領域の上の前記第2半導体領域に接するN形の第8半導体領域をさらに備え、
前記第8半導体領域は、前記第5半導体領域に接続されている請求項3に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記第3半導体領域の上に設けられ、前記第3半導体領域の上の前記第2半導体領域に接するP形の第7半導体領域をさらに備え、
前記第7半導体領域は、前記第3半導体領域に接続されている請求項1〜4のいずれか1つに記載の半導体装置。
【請求項6】
前記第1半導体領域は、ヒ素(As)またはアンチモン(Sb)を含む請求項1〜5のいずれか1つに記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ESD保護回路を備えた半導体装置では、ESD保護回路を構成する素子としてPNダイオードが用いられている。また、ESD保護では、PNダイオードの降伏を利用する場合がある。
【0003】
ここで、ESD保護回路を構成するPNダイオードは、一般的に半導体装置内で素子分離されている。PNダイオードを半導体装置内で素子分離する方法としては、不純物拡散層によってPNダイオードを素子分離する方法がある。しかし、不純物拡散層の形成には、長時間に渡って熱処理が行われる。このため、不純物元素が半導体層内で熱拡散して、PN接合部における不純物濃度の分布が緩やかになる場合がある。
【0004】
PN接合部における不純物濃度の分布が緩やかになると、PNダイオードの降伏電圧が下がり難くなる。このため、ESD保護回路の下流に設けられる保護回路のクランプ電圧を下げることが難しくなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5162186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、降伏電圧を下げESD保護を可能にする半導体装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の半導体装置は、形の第1半導体領域と、前記第1半導体領域の上に設けられた形の第2半導体領域と、前記第1半導体領域と前記第2半導体領域との間に設けられ、底部が前記第1半導体領域に接し、前記底部と反対側の上部の一部が前記第2半導体領域に接し、前記第2半導体領域の不純物濃度よりも高い不純物濃度を有する形の第3半導体領域と、前記第2半導体領域の前記第1半導体領域とは反対側の表面に選択的に設けられ、前記第3半導体領域とによって前記第2半導体領域の一部を挟む形の第4半導体領域と、前記第2半導体領域の上および前記第4半導体領域の上に設けられ、前記第4半導体領域の上面の一部を露出する第1開口が設けられ、前記上面の面積に対する前記一部の面積の割合が10%以上90%以下である絶縁層と、前記絶縁層の上に設けられ、前記第1開口を経由して前記第4半導体領域に接続された配線層と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1(a)は、実施形態に係る半導体装置の要部を表す模式的平面図であり、図1(b)のA−A’線に沿った位置での切断面を表す図であり、図1(b)は、実施形態に係る半導体装置の要部を表す模式的断面図であり、図1(a)のB−B’線に沿った位置での切断面を表す図である。
図2図2は、実施形態に係る半導体装置に組み込まれた回路の等価回路図である。
図3図3は、実施形態に係る半導体装置の用途の一例を表すブロック図である。
図4図4(a)は、実施形態に係る半導体装置のツェナーダイオードD3のP側の不純物濃度プロファイルを変化させた場合のPN接合部付近の不純物濃度の変化の様子を表すグラフであり、図4(b)は、実施形態に係る半導体装置のツェナーダイオードD3のP側の不純物濃度プロファイルを変化させた場合のツェナーダイオード降伏の電流電圧曲線を表すグラフである。
図5図5は、実施形態に係る半導体装置のツェナーダイオードD3のP側の不純物濃度プロファイルの傾きを変化させた場合のPN接合部付近の不純物濃度の様子を表すグラフである。
図6図6(a)は、参考例に係る半導体装置の深さ方向における不純物濃度プロファイルであり、図6(b)のX−Y線に沿った位置での不純物濃度を表すグラフであり、図6(b)は、参考例に係る半導体装置を表す模式的断面図である。
図7図7(a)は、実施形態に係る半導体装置の深さ方向における不純物濃度プロファイルであり、図7(b)のX−Y線に沿った位置での不純物濃度を表すグラフであり、図7(b)は、実施形態に係る半導体装置を表す模式的断面図である。
図8図8(a)は、半導体装置に存在する寄生のNPNトランジスタが動作する場合と動作しない場合の電流電圧曲線を表すグラフであり、図8(b)は、半導体装置に存在する寄生のNPNトランジスタが動作する要因の一例を説明する模式的断面図である。
図9図9(a)は、実施形態に係る半導体装置のPNダイオードD2およびツェナーダイオードD3を表す模式的平面図であり、図9(b)のA−A’線に沿った位置での切断面を表す図であり、図9(b)は、実施形態に係る半導体装置のPNダイオードD2およびツェナーダイオードD3を表す模式的断面図であり、図9(a)のB−B’線に沿った位置での切断面を表す図であり、図9(c)は、実施形態に係る半導体装置のPNダイオードD2およびツェナーダイオードD3の電流電圧曲線を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。以下の説明では、同一の部材には同一の符号を付し、一度説明した部材については適宜その説明を省略する。
【0010】
図1(a)は、実施形態に係る半導体装置の要部を表す模式的平面図であり、図1(b)のA−A’線に沿った位置での切断面を表す図であり、図1(b)は、実施形態に係る半導体装置の要部を表す模式的断面図であり、図1(a)のB−B’線に沿った位置での切断面を表す図である。
【0011】
実施形態に係る半導体装置1には、複数のESD保護ダイオード(以下、例えば、PNダイオードD1、D2、ツェナーダイオードD3)が設けられている。PNダイオードD1、D2、およびツェナーダイオードD3を組み合わせることによって、半導体装置1には、クローバ回路が設けられている。
【0012】
半導体装置1は、第1半導体領域(以下、例えば、半導体領域20)と、第2半導体領域(以下、例えば、半導体領域30)と、第3半導体領域(以下、例えば、半導体領域33)と、第4半導体領域(以下、例えば、半導体領域32)と、第5半導体領域(以下、例えば、半導体領域35)と、第6半導体領域(以下、例えば、半導体領域34)と、第7半導体領域(以下、例えば、半導体領域36)と、第8半導体領域(以下、例えば、半導体領域37)と、配線層10と、絶縁層70と、保護膜71と、を備える。
【0013】
半導体領域20は、半導体装置1の半導体基板である。半導体領域20の導電形は、N++形である。半導体領域20は、ヒ素(As)またはアンチモン(Sb)を含む。さらに、半導体領域20は、リン(P)を含んでもよい。
【0014】
半導体領域30は、半導体領域20の上に設けられている。半導体領域30の導電形は、P形である。半導体領域30は、半導体領域20に接している。半導体領域30は、例えば、半導体領域20の上に形成されたエピタキシャル成長層である。
【0015】
半導体領域33は、半導体領域20と半導体領域30との間に選択的に設けられている。例えば、半導体領域33の底部33bは、半導体領域20に接し、底部33bと反対側の上部33uの一部は、半導体領域30に接している。半導体領域33の導電形は、P形である。半導体領域33は、半導体領域20と半導体領域30とに接している。半導体領域33の不純物濃度は、半導体領域30の不純物濃度よりも高い。半導体領域33と半導体領域20とにより、ツェナーダイオードD3が構成されている。
【0016】
半導体領域32は、半導体領域20とは反対側の半導体領域30の表面に選択的に設けられている。半導体領域32の導電形は、N形である。半導体領域33の上の半導体領域30の一部は、半導体領域32と半導体領域33とによって挟まれている。半導体領域32は、半導体領域30に接している。半導体領域32と半導体領域30とにより、PNダイオードD2が構成されている。
【0017】
半導体領域35は、半導体領域20と半導体領域30との間に選択的に設けられている。例えば、半導体領域35の底部35bは、半導体領域20に接し、底部35bと反対側の上部35uの一部は、半導体領域30に接している。半導体領域35の導電形は、N形である。半導体領域35は、半導体領域33が設けられていない半導体領域20と、半導体領域30との間に選択的に設けられている。半導体領域35は、半導体領域20と半導体領域30とに接している。半導体領域35の不純物濃度は、半導体領域20の不純物濃度よりも低い。半導体領域35と半導体領域30とにより、PNダイオードD1が構成されている。
【0018】
半導体領域34は、半導体領域10とは反対側の半導体領域30の表面に選択的に設けられている。半導体領域34の導電形は、P形である。半導体領域34は、半導体領域32が設けられていない半導体領域30の表面に選択的に設けられている。半導体領域35の上の半導体領域30の一部は、半導体領域34と半導体領域35とによって挟まれている。
【0019】
半導体領域36は、半導体領域33の上に設けられている。半導体領域36は、半導体領域33の上の半導体領域30に接している。半導体領域36は、半導体領域33の上の半導体領域30を囲んでいる(図1(a))。半導体領域36の導電形は、P形である。半導体領域36は、半導体領域33に接続されている。半導体領域36は、半導体領域30からPNダイオードD2およびツェナーダイオードD3を分離させた素子分離領域である。
【0020】
半導体領域37は、半導体領域35の上に設けられている。半導体領域37は、半導体領域35の上の半導体領域30に接している。半導体領域37は、半導体領域35の上の半導体領域30を囲んでいる(図1(a))。半導体領域37の導電形は、N形である。半導体領域37は、半導体領域35に接続されている。半導体領域37は、半導体領域30からPNダイオードD1を分離させた素子分離領域である。
【0021】
半導体領域33、半導体領域32、半導体領域35、半導体領域34、半導体領域36、および半導体領域37は、半導体領域20中または半導体領域30中に不純物元素が注入されて、加熱によって形成された不純物拡散領域である。
【0022】
絶縁層70は、半導体領域30、半導体領域32、半導体領域34、半導体領域36、および半導体領域37のそれぞれの上に設けられている。絶縁層70には、半導体領域32の上面32uの一部を開口する第1開口(以下、例えば、開口70h1)と、半導体領域34の上面34uの一部を露出させる第2開口(以下、例えば、開口70h2)と、が設けられている。
【0023】
配線層10は、絶縁層70の上に設けられている。配線層10は、開口70h1を経由して半導体領域32に接続されている。また、配線層10は、開口70h2を経由して半導体領域34に接続されている。
【0024】
配線層10は、半導体領域32および半導体領域34にオーミック接触をしている。保護膜71は、絶縁層70、配線層10のそれぞれの上に設けられている。
【0025】
各半導体領域の主成分は、例えば、ケイ素(Si)である。また、各半導体領域の主成分は、シリコン炭化物(SiC)、窒化ガリウム(GaN)等でもよい。また、実施形態では、特に断らない限り、N++形、N形の順でN形(第1導電形)の不純物濃度が低くなることを表す。また、P形、P形の順でP形(第2導電形)の不純物濃度が低くなることを表す。
【0026】
N形不純物元素としては、例えば、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、リン(P)等が適用される。P形不純物元素としては、例えば、ホウ素(B)等が適用される。
【0027】
配線層10の材料は、例えば、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、金(Au)等の群から選ばれる少なくとも1つを含む金属である。また、絶縁層70の材料は、例えば、シリコン酸化物、シリコン窒化物等を含む。
【0028】
図2は、実施形態に係る半導体装置に組み込まれた回路の等価回路図である。
【0029】
半導体装置1では、一例として、クローバ回路が構成されている。例えば、PNダイオードD2およびツェナーダイオードD3とからなる組のダイオードと、PNダイオードD1と、は並列に接続されている。半導体領域20の電位は、グランド電位であるとする。
【0030】
例えば、配線層10に負の過渡電圧が印加された場合、PNダイオードD2は順方向に、ツェナーダイオードD3は逆方向に、PNダイオードD1は逆方向に、それぞれバイアスされる。
【0031】
ツェナーダイオードD3のブレークダウン電圧は任意に設定可能である。従って、ツェナーダイオードD3のブレークダウン電圧をPNダイオードD1のブレークダウン電圧よりも低く設定することにより、PNダイオードD1には逆方向に電流が流れず、ツェナーダイオードD3には逆方向に電流が流れる。これにより、過渡電流(サージ電流)は、半導体領域20からツェナーダイオードD3、PNダイオードD2を通じて配線層10へと流れる(矢印A)。
【0032】
一方、配線層10に正の過渡電圧が印加された場合、PNダイオードD2は逆方向に、ツェナーダイオードD3は順方向に、PNダイオードD1は順方向にそれぞれバイアスされる。PNダイオードD2のブレークダウン電圧よりもPNダイオードD1の順方向電圧の方が低く設定されている場合には、過渡電流は配線層10からPNダイオードD1を通じて半導体領域20に流れる(矢印B)。
【0033】
図3は、実施形態に係る半導体装置の用途の一例を表すブロック図である。
【0034】
半導体装置1は、例えば、電子製品500の中に組み込まれている。電子製品500は、ESD保護ダイオード(半導体装置1)の他に、保護回路501を備えている。保護回路501は、接触器503に接続されている。保護回路501と接触器503との間に半導体装置1が設けられている。電子製品500内の電子回路502は、半導体装置1と保護回路501とによって外的な過渡電流から保護されている。接触器503は、例えば、電子製品500に取り付けられる電子部品である。
【0035】
例えば、過渡電流Iが接触器503から電子製品500の中に侵入してくる場合を想定する。このような場合、予め、保護回路501よりも、半導体装置1によって過渡電流Iが優先的に吸収されることが望ましい。これにより、半導体装置1の後方に設けられた保護回路501に過渡電流Iが流れ難くなり、保護回路501の破損が防止できる。
【0036】
過渡電流Iが優先的に半導体装置1に吸収されるには、半導体装置1に過渡電流Iが侵入してくる際の半導体装置1の動的な抵抗(ダイナミック抵抗(Rdyn))が低いことが望ましい。例えば、半導体装置1のダイナミック抵抗が高いと、過渡電流Iが半導体装置1に吸収されず、過渡電流Iが保護回路501に流れ、保護回路501自体が破損する可能性がある。
【0037】
さらに、保護回路501に印加される電圧を低下させて、保護回路501を電気的に保護するには、ツェナーダイオードD3の降伏電圧VBRの絶対値を低下させることが望ましい。これにより、保護回路501に印加される電圧(クランプ電圧)がより低くなる。
【0038】
但し、ツェナーダイオードD3の降伏電圧VBRの絶対値を下げた場合には、ツェナーダイオードD3に逆バイアスが印加される際のリーク電流を十分に抑える必要がある。これにより、半導体装置1内でのスナップバック現象が引き起こされる。ここで、スナップバック現象とは、通常、電流電圧曲線では電圧上昇に応じて電流上昇が起きるが、電圧が上昇し、ある電圧を過ぎると、電圧低下しても電流が上昇する現象を言う。半導体装置1においては、このスナップバック現象が引き起こされ、ダイナミック抵抗の低抵抗化が実現する。
【0039】
図4(a)は、実施形態に係る半導体装置のツェナーダイオードD3のP側の不純物濃度プロファイルを変化させた場合のPN接合部付近の不純物濃度の変化の様子を表すグラフであり、図4(b)は、実施形態に係る半導体装置のツェナーダイオードD3のP側の不純物濃度プロファイルを変化させた場合のツェナーダイオード降伏の電流電圧曲線を表すグラフである。
【0040】
図4(a)の横軸は、距離(μm)であり、縦軸は、不純物濃度(atoms/cm)である。図4(a)には、ヒ素(As)と、ホウ素(B)と、の不純物濃度プロファイルが示されている。また、実施形態では、ヒ素(As)の不純物濃度プロファイルとホウ素(B)の不純物濃度プロファイルとが交差する点での不純物濃度を「交点濃度」と定義する。ホウ素(B)に関しては、交点濃度を変えた3種の場合が例示されている。
【0041】
ここで、グラフのX軸、すなわち深さ方向軸におけるホウ素(B)の不純物濃度プロファイルの曲線B−2とヒ素(As)の不純物濃度プロファイルの曲線Asとの交点の位置を基準(0.0μm)とした場合、ホウ素(B)の不純物濃度プロファイルの曲線B−1とヒ素(As)の不純物濃度プロファイルの曲線Asとの交点の位置は、X軸において、基準から、−0.6μmずれている。また、ホウ素(B)の不純物濃度プロファイルの曲線B−3とヒ素(As)の不純物濃度プロファイルの曲線Asとの交点の位置は、基準から、X軸において、+2.8μmずれている。これらのずれ値は、各線に括弧書きで示されている。また、これらのずれ値がマイナス側にシフトするほど、交点濃度が高くなることを意味している。
【0042】
ここで、ホウ素(B)の不純物濃度プロファイルが曲線B−3の場合の降伏電圧(VBR)の絶対値は、約9.1V(電流1mA)であり、曲線B−1の場合の降伏電圧(VBR)の絶対値は、約7.2V(電流1mA)であった。すなわち、交点濃度が高くなるほど、降伏電圧(VBR)の絶対値が小さくなることが分かった。この要因の一例として、交点濃度が高くなるほど、逆バイアス印加時のPN接合部付近における空乏層の延びが抑制されることが考えられる。
【0043】
具体的には、半導体領域20と半導体領域33とが接合する接合部における半導体領域20の不純物濃度または半導体領域33の不純物濃度が1×1017(atoms/cm)以上のときに、降伏電圧(VBR)の絶対値は、約7.2〜7.6V(電流1mA)になることが分かった。
【0044】
また、図4(b)には、ヒ素(As)の不純物濃度プロファイルを変えずに、ホウ素(B)の不純物濃度プロファイルを変えた場合のツェナーダイオード降伏の電流電圧曲線が表されている。ここで、括弧内の数字が低くなるほど、交点濃度は高くなっている。
この結果から、交点濃度が高くなるほど、ツェナーダイオードD3のリーク電流が大きくなることが分かった。これは、交点濃度が高くなるほど、禁止帯の幅がより狭くなることが起因していると、考えられる。なお、ツェナーダイオードD3のリーク電流とは、ツェナーダイオードD3に逆バアイスを印加したときに、ツェナーダイオードD3が降伏する前に流れる電流を意味する。
【0045】
例えば、ホウ素(B)の不純物濃度プロファイルの曲線B−3とヒ素(As)の不純物濃度プロファイルの曲線Asとの交点の位置がX軸において、基準から、+2.8μmずれた場合の電流値は、約9.4×10−11(A)(電圧:3.3V)であった。
【0046】
これに対し、ホウ素(B)の不純物濃度プロファイルの曲線B−1とヒ素(As)の不純物濃度プロファイルの曲線Asとの交点の位置がX軸において、基準から、−0.6μmずれた場合の電流値は、約9×10−10(A)(電圧:3.3V)になり、電流値が増加した。
【0047】
図5は、実施形態に係る半導体装置のツェナーダイオードD3のP側の不純物濃度プロファイルの傾きを変化させた場合のPN接合部付近の不純物濃度の様子を表すグラフである。
【0048】
図5の横軸は、距離(μm)であり、縦軸は、不純物濃度(atoms/cm)である。
【0049】
図5には、ホウ素(B)の不純物濃度プロファイルの曲線B−1’、B−2’、B−3’のそれぞれとヒ素(As)の不純物濃度プロファイルの曲線Asとの交点濃度が約5×1018(atoms/cm3)で一致している。但し、曲線B−1’、曲線B−2’、曲線B−3’の順に不純物濃度プロファイルの曲線の傾きが急峻になっている。
【0050】
ここで、降伏電圧VBRは、曲線の傾きが急峻になるほど下がる傾向にある。例えば、ホウ素(B)の不純物濃度プロファイルが曲線B−1’を描く場合の降伏電圧(VBR)の絶対値は、約7.7V(電流1mA)であり、曲線B−2’を描く場合の降伏電圧(VBR)の絶対値は、約7.6V(電流1mA)であり、曲線B−3’を描く場合の降伏電圧(VBR)の絶対値は、約5.3V(電流1mA)であった。これは、ホウ素(B)の不純物濃度プロファイルが急峻になるほど、逆バイアス印加時のPN接合部付近における空乏層の延びがさらに抑制されると考えられる。
【0051】
さらに、ツェナーダイオードD3のリーク電流は、交点濃度を調整した場合に比べて、相対的に下がることが分かった。例えば、ホウ素(B)の不純物濃度プロファイルが曲線B−3’の場合、電流値は、約4.5×10−10(A)(電圧:3.3V)であり、ホウ素(B)の不純物濃度プロファイルが曲線B−2’の場合、電流値は、約4.6×10−10(A)(電圧:3.3V)であり、ホウ素(B)の不純物濃度プロファイルが曲線B−1’の場合、電流値は、約3.6×10−10(A)(電圧:3.3V)であった。
【0052】
図6(a)は、参考例に係る半導体装置の深さ方向における不純物濃度プロファイルであり、図6(b)のX−Y線に沿った位置での不純物濃度を表すグラフであり、図6(b)は、参考例に係る半導体装置を表す模式的断面図である。不純物濃度プロファイルは、例えば、SIMSで実測される。
【0053】
参考例に係る半導体装置100においては、各半導体領域の導電形が半導体装置1の導電形と逆になっている。つまり、半導体装置1のN形半導体領域が半導体装置100ではP形半導体領域となり、半導体装置1のP形半導体領域が半導体装置100ではN形半導体領域となっている。
【0054】
半導体装置100には、半導体基板としてP++形の半導体領域200が用いられている。半導体領域200の上には、エピタキシャル成長によってN形の半導体領域300が形成されている。半導体領域200と半導体領域300との間には、N形の半導体領域330が設けられている。半導体領域200は、ホウ素(B)を含み、半導体領域300は、リン(P)を含んでいる。
【0055】
ここで、シリコン結晶におけるホウ素(B)の拡散係数は、ヒ素(As)の拡散係数に比べて高い。従って、半導体装置100の製造過程中に半導体領域200から半導体領域300にホウ素(B)が拡散していく。これにより、半導体装置100では、ツェナーダイオードD3におけるホウ素(B)の不純物濃度プロファイルが緩やかになり、ツェナーダイオードD3のリーク電流が十分に抑えられない可能性がある。
【0056】
図7(a)は、実施形態に係る半導体装置の深さ方向における不純物濃度プロファイルであり、図7(b)のX−Y線に沿った位置での不純物濃度を表すグラフであり、図7(b)は、実施形態に係る半導体装置を表す模式的断面図である。不純物濃度プロファイルは、例えば、SIMSで実測される。
【0057】
これに対して、実施形態に係る半導体装置1では、半導体基板としてN++形の半導体領域20が用いられている。半導体領域20は、ヒ素(As)を含んでいる。
【0058】
従って、半導体装置1の製造過程中には、半導体領域20から半導体領域30にヒ素(As)は拡散し難く、ツェナーダイオードD3におけるホウ素(B)の不純物濃度プロファイルが半導体装置100に比べて急峻になる。これにより、半導体装置1では、降伏電圧が低減するとともに、半導体装置100に比べて、ツェナーダイオードD3のリーク電流を抑制することができる。
【0059】
さらに、実施形態に係る半導体装置1では、半導体装置1に存在する寄生のNPNトランジスタが動作し、半導体装置1内でのキャリアが増加し、クランプ電圧がさらに低減する。
【0060】
図8(a)は、半導体装置に存在する寄生のNPNトランジスタが動作する場合と動作しない場合の電流電圧曲線を表すグラフであり、図8(b)は、半導体装置に存在する寄生のNPNトランジスタが動作する要因の一例を説明する模式的断面図である。
【0061】
ここで、図8(a)に示された電流電圧曲線は、直列に繋がれたPNダイオードD2とツェナーダイオードD3との電流電圧曲線である。図8(a)の横軸は、逆バイアス電圧である。また、図8(a)には、半導体装置1のほか、参考例に係る半導体装置100の電流電圧曲線が示されている。
【0062】
半導体装置1には、PNダイオードD2およびツェナーダイオードD3とともに、N形半導体領域32(エミッタ)/P形半導体領域30およびP形半導体領域33(ベース)/N++形半導体領域20(コレクタ)によって、NPNトランジスタが構成されている。
【0063】
形半導体領域32と、P形半導体領域30およびP形半導体領域33との間に電圧が印加され、N形半導体領域32からP形半導体領域30およびP形半導体領域33に電子(e)が注入されると、ツェナーダイオードD3が降伏する前に、ベース電流が流れてNPNトランジスタがオンする場合がある。つまり、半導体装置1では、図8(a)に表すように、電圧(VR)が増加すると、ツェナーダイオードD3が降伏する前に、電圧(VR)が一旦下がり電流が増大するスナップバックが起きる。これにより、半導体装置1では、実質的な降伏電圧が低下する。
【0064】
これに対し、参考例に係る半導体装置100には、寄生のNPNトランジスタが内蔵されていない。従って、NPNトランジスタのスナップバックが起こらず、半導体装置100の降伏電圧(VBR)は、半導体装置1の降伏電圧に比べて高くなってしまう。
【0065】
図9(a)は、実施形態に係る半導体装置のPNダイオードD2およびツェナーダイオードD3を表す模式的平面図であり、図9(b)のA−A’線に沿った位置での切断面を表す図であり、図9(b)は、実施形態に係る半導体装置のPNダイオードD2およびツェナーダイオードD3を表す模式的断面図であり、図9(a)のB−B’線に沿った位置での切断面を表す図であり、図9(c)は、実施形態に係る半導体装置のPNダイオードD2およびツェナーダイオードD3の電流電圧曲線を表すグラフである。
【0066】
図9(c)に示された電流電圧曲線は、直列に繋がれたPNダイオードD2とツェナーダイオードD3との電流電圧曲線である。図9(c)の横軸は、逆バイアス側の電圧である。図9(c)には、半導体領域32の上面34uの面積Saに対する開口面積Spの割合を変えた場合のスナップバックの変化の様子が表されている。
【0067】
図9(c)に表すように、半導体領域32の開口面積Spが小さくなるほど、スナップバックが起き易い傾向にある。従って、半導体領域32の上面32uの面積をSaとし、開口70h1によって開口された上面32uの一部の面積をSpとした場合、Saに対するSpの割合は、10%以上90%以下に調整されている。
【0068】
Saに対するSpの割合が10%より小さい場合は、N形半導体領域32の開口が過小になり、N形半導体領域32と配線層10とのコンタクト抵抗が増加してしまう。
【0069】
また、Saに対するSpの割合が90%より大きい場合は、N形半導体領域32において、配線層10側とP形半導体領域30側とで電圧降下が起き難くなる。つまり、N形半導体領域32内で電位勾配(電界)が発生し難くなる。
【0070】
これにより、N形半導体領域32からP形半導体領域30およびP形半導体領域33に注入される電子が不足して、P形半導体領域30およびP形半導体領域33内のベース電流が増大し難くなる。つまり、NPNトランジスタがオンになり難くなる。
【0071】
このような場合、ツェナーダイオードD3が降伏した後に、ブレークダウン電流がベース電流となってスナップバックが起こる場合がある。しかし、この場合は、クランプ電圧がツェナーダイオードD3の単独の降伏電圧で決まり、クランプ電圧が低下しない場合がある。
【0072】
このように、実施形態では、半導体装置1の寄生のNPNトランジスタを利用して、スナップバックを発生させ、ツェナーダイオードD3の降伏電圧を低下させているとともに、ツェナーダイオードD3のリーク電流を抑えている。これにより、半導体装置1に接続された保護回路のクランプ電圧を低減させることができ、ESD保護が確実になる。
【0073】
上記の実施形態では、「部位Aは部位Bの上に設けられている」と表現された場合の「の上に」とは、部位Aが部位Bに接触して、部位Aが部位Bの上に設けられている場合の他に、部位Aが部位Bに接触せず、部位Aが部位Bの上方に設けられている場合との意味で用いられる場合がある。また、「部位Aは部位Bの上に設けられている」は、部位Aと部位Bとを反転させて部位Aが部位Bの下に位置した場合や、部位Aと部位Bとが横に並んだ場合にも適用される場合がある。これは、実施形態に係る半導体装置を回転しても、回転前後において半導体装置の構造は変わらないからである。
【0074】
以上、具体例を参照しつつ実施形態について説明した。しかし、実施形態はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、実施形態の特徴を備えている限り、実施形態の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
【0075】
また、前述した各実施形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて複合させることができ、これらを組み合わせたものも実施形態の特徴を含む限り実施形態の範囲に包含される。その他、実施形態の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例および修正例に想到し得るものであり、それら変更例および修正例についても実施形態の範囲に属するものと了解される。
【0076】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0077】
1、100 半導体装置、 10 配線層、 20 第1半導体領域、 30 第2半導体領域、 32 第4半導体領域、 32u 上面、 33 第3半導体領域、 34 第6半導体領域、 34u 上面、 35 第5半導体領域、 36 第7半導体領域、 37 第8半導体領域、 70 絶縁層、 70h1 第1開口、 70h2 第2開口、 71 保護膜、 200 半導体領域、 300 半導体領域、 330 半導体領域、 500 電子製品、 501 保護回路、 502 電子回路、 503 接触器、 D1、D2、D3 ESD保護ダイオード
図1
図2
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