【実施例】
【0186】
以下の非限定的な実施例は、本発明の種々の態様を例示するために提供されるが、決して本発明の範囲を限定する意図ではない。
【0187】
実施例1;キレート組成物の調製のために有用な1−アミノエチル−3−ヒドロキシ−2−メチル−4(1H)−ピリジノン(AHMP)キレーター中間体の合成。
このキレーター中間体の合成は、ほかのいずれかで記載されている(Fengら、1993)。この実施例に関しては以下の手順を使用した:
【0188】
1リットルのフラスコに以下を添加した:0.35モルの3−ヒドロキシ−2−メチル−4−ピロン、450mlのメタノール、0.4モルの塩化ベンジルおよび水50ml中の水酸化ナトリウム0.37モルの溶液。この混合物を、6時間還流させ、次いで室温で一晩撹拌した。次いで、バキュームを用いてメタノールをエバポレートして、その残渣を200mlの水と混合し、次いで3つの別々の100mlのアリコートの塩化メチレンを用いて抽出した。3つの塩化メチレン抽出物を、プールして、50mlの5%のNaOHを3回交換して、次いで50mlの水を3回交換して洗浄する。次いで、抽出物を、固体MgSO
4で乾燥した。MgSO
4を除くための濾過および溶媒のエバポレーションの後、76.6グラムの粗3−ベンジルオキシ−2−メチル−4−ピロンを回収した。次いで、この金属を、1リットルのフラスコ中で、500mlのエタノール、1.65モルのエチレンジアミンおよび2mlの水と混合して、室温で一晩撹拌した。この溶媒および過剰のエチレンジアミンを、減圧下で除去して、黄色−褐色の油状の液体を得て、これを400mlの水を用いて倍散して、65.5gの黄色の1−(2−アミノエチル)−3−ベンジルオキシ−2−メチル−4−(1H)−ピリジノンを得た。この生成物を500mlの6MのHClに溶解して、その溶液を、室温で一晩撹拌した。淡黄色の生成物の固体を、エバポレーション後に回収して真空中で乾燥した。これを500mlの6MのHCl中に再溶解して、室温で4日間撹拌して、再度乾燥するまでエバポレートした。この固体残渣を、約50mlのアセトンで洗浄して、粗生成物を得た。これは濾過することが困難であったので、150mlの4MのHClおよび70mlのエタノールを添加して、その混合物を、固体が溶解するまで再還流した。次いで、その生成物を、冷蔵庫での貯蔵によって
再結晶化して、アセトンで洗浄し、乾燥して秤量した。最終のAHMP生成物は黄色であった。
【0189】
実施例2;ヒドロキシエチルデンプンまたはデキストランと、AHMPによって提供される3−ヒドロキシ−ピリジン−4−オン活性キレート基とを含んでいる可溶性キレート組成物の合成
可溶性のヒドロキシエチルデンプンまたはデキストランサンプルの10%(重量/容積)の水溶液を、0.1Mのメタ過ヨウ素酸ナトリウムを用いて別々に酸化して、ポリマー上に反応性のアルデヒド基を生成した。低分子量物質(<10,000ダルトンの材料)を透析により除去したあと、活性化された可溶性の多糖類を、AHMP、1−アミノエチル−3−ヒドロキシ−2−メチル−4(1H)−ピリジノン(実施例1で調製)の0.1M溶液と、中性からわずかにアルカリ性のpHで反応させた。次いで、ポリマー上で、キレート剤のアミノ基とアルデヒド基との間で形成されたシッフ塩基を、連結を安定化するために過剰のシアノ水素化ホウ素ナトリウムによって還元して、一方で、デンプンまたはデキストラン上の残りの未反応のアルデヒド基は、過剰の水素化ホウ素ナトリウムで還元した。この可溶性のキレートポリマー組成物の生成物を、水に対するVisking透析バッグ中での透析によって、48時間にわたって透析水を5回交換して精製した。用いた透析チューブの分子量カットオフサイズは、10,000ダルトンであって、この透析バッグ中に保持されている最終の可溶性キレート組成物の生成物は、≧10,000ダルトンという分子量を有した。得られたキレート組成物の鉄結合能力を、キレート組成物の試験部分への過剰の鉄−クエン酸塩溶液の添加によって確認した。試験した部分は赤く変わり、このことは、ポリマー中のキレーターピリジノン基に対する鉄の結合を示している。10,000ダルトン未満のサイズの材料を透析して除くこと以外の工程は、これらのサンプル調製には行わなかったことが理解されるべきである。さらに精錬された、すなわち、低い分子量(例えば、1500ダルトンを超える)生成物またはより小さい生成物のサイズ分布を得るためのさらなる工程を、限外濾過および/またはクロマトグラフィー精製のような、すなわち所定の分子量分布のより精錬された生成物を得ることに関して、従来公知の方法を用いて行ってもよいことに注意すべきである。最終のキレート組成物は、凍結乾燥によって得て、懸濁の水を除去して、この乾燥生成物は、使用の際の水に自由に溶けることが見出された。
【0190】
実施例3;キレート組成物の調製のために有用な3−ヒドロキシ−1−(β−メタクリルアミドエチル)−2−メチル−4(1H)−ピリジノン(MAHMP)キレートモノマーの合成。
このキレートモノマー中間体の合成は、以前にほかのどこかで記載されている(Fengら、1993)。本実施例には以下の手順を使用した。
【0191】
磁気スターラーおよび滴下漏斗を装着した250mlのフラスコに、実施例1で調製した12.1gのAHMPを、50mlの水に溶解した。その後に、0.18モルのトリエチルアミン(ET3N)および100mlのCH
3CN(アセトニトリル)を添加し、その混合物を氷浴上に置いた。次いで、塩化アクリロイル(C
3H
3ClO)、0.06モルを、1.5時間にわたって滴下し、一方で混合物を氷浴中に保持していた。この添加後、撹拌を室温で2時間続けた。次いで混合物を乾燥するまでエバポレートして、溶媒を除去し、その固体残渣を250mlの熱いアセトンで洗浄し、濾過して、その濾液をエバポレートして、約100mlのアセトンを除去し、次いで、これを冷蔵庫の中で一晩貯蔵した。トリエチル−塩化アンモニウムの最初の針状結晶を(もし形成されれば)、濾過によって除去して、濾液を冷蔵庫に戻し、固体を形成させた。固体を濾過して、10mlのクロロホルム(CHCl
3)で洗浄し、次いで、1:1のメタノール:エタノールに溶解して;全部で12mlを、このフラスコに80℃で水浴中で滴下した。最終のMAHMPは
、4℃での再結晶化によって、アルコール混合物から得た。
【0192】
実施例4;可溶性直鎖のポリビニルピロリドン高分子担体中に共重合された活性なピリジノンキレート剤を含んでいる可溶性キレート組成物の合成。
実施例3で調製した、MAHMP,3−ヒドロキシ−1−(β−メタクリルアミドエチル)−2−メチル−4(1H)−ピリジノン(2.5ミリモル,0.59g)を、機械的スターラーを備えた250mlのフラスコ中で50mlの水に50℃で溶解して、第一のモノマー(キレートモノマー)を得た。第二のモノマー,1−ビニル−2−ピロリドン(54ミリモル)を撹拌しながら添加して、その混合物を室温まで冷却した。硫酸アンモニウム(0.057g)を添加し、そのフラスコを窒素を用いて20分間フラッシュした後に、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(0.1ml)を添加して、重合化を、40℃で2時間行った。このコポリマー溶液を、Visking透析バッグ中に入れて、蒸留水に対して48時間、透析し、ここでは新鮮な水で5回交換した。用いられる特定の透析チューブの分子量カットオフサイズは、約10,000ダルトンであり、従って、透析バッグ中に保持される最終の生成物は、≧10,000ダルトンという分子量を有した。最終のキレート組成物の生成物を凍結乾燥によって得て、水に大量に溶けることを確認した。上記の手順によって行われるような3つの別々のサンプル調製を、X線回折を用いてそれらの平均分子量に関して試験した。分子量に関するこれらの試験は、西オーストラリア、パースのCommonwealth Scientific and Industrial Research Organisation (CSIRO)の実験室で個々に行った。可溶性キレート組成物の3つのサンプルは、以下の実測の分子量を有した:1.73×10
5ダルトン;3.32×10
5ダルトンおよび8.2×10
4ダルトン。これらの結果によって、可溶性キレート組成物を調製する合成手順の再現性、および精製される可溶性組成物の分子サイズの相対的な均一性が示される;この3つのトライアルで結果として、80,000〜330,000ダルトンという平均分子量の可溶性組成物が得られた。10,000ダルトン未満のサイズの材料を透析すること以外には、これらのサンプル調製では他に工程は行わなかったことが理解されるべきである。さらに精錬された、すなわち、より低い分子量またはより小さい生成物サイズの分布を、限外濾過および/またはクロマトグラフィー精製のような、すなわち、所定の所望の分子量のさらに精錬された生成物を得ることに関する、従来公知の方法を用いてとることができた。
【0193】
実施例5;架橋された不溶性のポリアクリルアミド高分子担体中に共重合された活性なキレート剤を含んでいる不溶性のキレート組成物の合成。
提供された手順は、ジメチル−アクリルアミドモノマー基が散在されている活性キレート基(3−ヒドロキシ−4(1H)−ピリジノン基官能性の)を含んでおり、2%のビス−アクリルアミド基との鎖架橋を有しているアクリルアミドポリマーを達成することであった。種々の程度のリガンド密度および架橋が、モノマーおよび架橋基の用いられる割合の適切な調節を通じて達成され得ることに注意のこと。実施例3で調製した、MAHMP,3−ヒドロキシ−1−(β−メタクリルアミドエチル)−2−メチル−4(1H)−ピリジノン(3.0ミリモル、0.715g)を、機械的スターラーを備えた250mlのフラスコ中の50mlの水に50℃で溶解した。N,N−ジメチル−アクリルアミド(54ミリモル、5.6ml)およびN,N’−メチレン−ビス−アクリルアミド(3.0ミリモル、0.505g)を撹拌しながら添加して、その混合物を、室温まで冷却した。過硫酸アンモニウム(0.137g)、n−ヘキサン(100ml)、四塩化炭素(25ml)およびモノステアリン酸ソルビタン(100mg)を添加して、その混合物を、N
2を用いて20分間フラッシュした。次いで、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(0.2ml)を添加し、重合化反応を、2時間行った。得られたポリマーを濾過して、水(150ml)、2−プロパノール(50ml)、およびアセトン(50ml)を用いて洗浄した。アセトンで洗浄した生成物を、真空オーブン中で60℃一晩乾燥さ
せた。この不溶性のキレート組成物によって、実施例6由来の可溶性バージョンとの比較試験を行った。
【0194】
実施例6;直鎖の可溶性ポリアクリルアミド高分子担体中に共重合された活性キレート剤を含んでいる可溶性キレート組成物の合成。
提供される手順は、実施例5のジメチル−アクリルアミドモノマー基が散在されており、ただし鎖架橋はない、3−ヒドロキシ−4(1H)−ピリジノン基の官能性の活性キレート基を含んでいる、可溶性アクリルアミドポリマーを得ることであった。実施例3のように調製したMAHMP,3−ヒドロキシ−1−(β−メタクリルアミドエチル)−2−メチル−4(1H)−ピリジノン(2.5ミリモル、0.59g)を、機械的スターラーを備える250mlのフラスコ中で50mlの水に50℃で溶解した。N,N−ジメチル−アクリルアミド(54ミリモル、5.6ml)を、撹拌しながら添加して、その混合物を室温まで冷却した。過硫酸アンモニウム(0.057g)を添加し、そのフラスコを、窒素を用いて20分間フラッシュして、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(0.1ml)を添加し、重合化は、40℃で2時間行った。このポリマー溶液を、Visking透析バッグ中に入れて、蒸留水に対して48時間透析し、ここでは新鮮な水で5回交換した。用いられる透析チューブの分子量カットオフサイズは、約10,000ダルトンであり、従って、透析バッグ中に保持される最終の生成物は、≧10,000ダルトンという分子量を有した。最終の生成物を凍結乾燥によって得て、水に大量に溶けることを確認した。10,000ダルトン未満のサイズの材料を透析すること以外には、これらのサンプル調製では他に工程は行わなかったことが理解されるべきである。さらに精錬された、すなわち、より低い分子量またはより小さい生成物サイズの分布を得るさらなる工程を、限外濾過および/またはクロマトグラフィー精製のような、すなわち、所定の所望の分子量のさらに精錬された生成物を得ることに関する、従来公知の方法を用いて行うことができた。
【0195】
このキレート組成物の可溶性バージョンは、ポリマー架橋の非存在のみが実施例5の組成物とは異なっており、従って、これらの比較試験は、この可溶性バージョン、対、不溶性のバージョンの特徴および利点を確立するために有用であった。
【0196】
実施例7;不溶性のおよび可溶性のキレート組成物の物理的特性の比較。
それぞれ、実施例5および実施例6で調製される、不溶性および可溶性のキレート組成物の物理的特性は、代表的なサンプル中で特徴付けられ、以下のような結果であった:
実施例5由来の不溶性キレート組成物:
(1)外観:黄色い球状ビーズ(金属負荷なし)、赤い球状ビーズ(鉄の負荷)
(2)粒子サイズ:直径129μm(無負荷、乾燥)、直径121μm(鉄負荷、乾燥)のビーズ
(3)水への溶解度:なし、粒子ビーズの不溶性懸濁液
(4)活性なキレート剤の密度:842μモル/キレート組成物1gあたり(鉄結合能力の試験から決定)。
実施例6由来の可溶性キレート組成物:
(1)外観:黄色い線維;麦わら色の溶液(鉄の添加なし);透明な赤い溶液(鉄の添加)
(2)分子量:X線回折によって決定して(4.32±0.2)×10
6ダルトン
(3)水への溶解度:36mg/ml
(4)活性なキレート剤の密度:862μモル/キレート組成物1gあたり(鉄結合能力の試験から決定)。
【0197】
これらの結果、上記の実施例由来の可溶性および不溶性の両方のキレート高分子組成物は、キレート化に関して同様の能力を有し、すなわち、ポリマー担体の単位質量あたりの
組み込まれたキレート活性の密度は、同様であるが、これらの組成物は、異なる物理的特性を有したことが示された。可溶性のバージョンは、約4,000,000ダルトンという分子量を有したが、水中では可溶性のままであった。可溶性のキレート組成物の他のサンプルは、80,000ダルトン程度の低い分子量を有した。
【0198】
実施例8;キレート組成物中のキレート基組み込みの安定性
実施例5で調製された、0.5gの不溶性のキレート組成物を、丸底の三つ首フラスコ中で、50mlのリン酸塩緩衝液(10mM、pH7.0)中に懸濁した。空気に開口したフラスコを、37℃で保持した温度の水浴中でrotavapor上で回転させた。種々の時点で、3.0mlの上清液を、取り出して、その上清の吸光度を282nmで測定した。活性剤の放出(最初に結合した総活性キレート剤の%)を、282nmでのその吸光係数に基づいて算出した。
図2に示される結果によって、担持されたキレーター(carried−chelator)からのキレート基活性の極めてわずかな遊離しか示されず、このことは、担持されたキレーター組成物の高い程度の化学的安定性を示している。この化学的安定性試験は、キレート組成物の不溶性の性質、すなわち、可溶性キレート活性の遊離に関する試験によって容易になった。実施例6由来のキレート組成物の可溶性バージョンは、また同様に高い安定性を有しており、その金属結合リガンドを遊離しないことが予想される(なぜならこれが異なるのは鎖架橋に関してのみであり、すなわち、ポリマー鎖は、キレートモノマーの残りに対する金属結合性状の化学的連結と同様の化学的組成である)ことに注目すべきである。
【0199】
実施例9;可溶性のキレート組成物の鉄キレート動態
1.5mlの0.116%(重量/容積)溶液(10mMのリン酸塩緩衝液の中,pH7.0)からなる、実施例6で調製した、可溶性キレート組成物のサンプルを、2.5mlの0.3mMの鉄(III)クエン酸塩溶液(10mMのリン酸塩緩衝液,pH7.0に溶解)と混合して、フラスコ中で25℃で撹拌した。456nmでの溶液の吸光度を、キレート組成物と鉄溶液との最初の混合後に種々の時点で測定した。鉄−キレート組成物複合体の濃度の経時的な増大を、鉄複合体についての減衰係数の使用によって、456nmでの反応混合物の吸収から決定し、それによって、結合した鉄の濃度を決定した。
図3のグラフに示される結果によって、2〜3分内のほぼ完全なFe取り込みをともなう、クエン酸塩から可溶性キレート組成物への急速な取り込みが示される。
【0200】
実施例10;不溶性のキレート組成物の鉄キレート動態の比較
この実施例は、実施例9と一緒になって、可溶性キレート組成物に対する不溶性キレート組成物についての金属結合の比較を示す。実施例5で調製した、不溶性キレート組成物の118.8mgのサンプルを、3.0mlの水を含む三つ首丸底フラスコ中で、0.5時間膨張させ、次いで97mlの0.3mMの鉄(III)クエン酸塩溶液が含有されるリン酸塩緩衝液(10mM、pH7.0)を添加した。そのフラスコを、25℃の水浴中でrotavapor上で、大気に開口して回転させた。鉄溶液の添加後種々の時点で、1.5mlの上清を、不溶性のキレート組成物の固体を除去せずに取り出して、溶液中に残っている鉄の濃度を測定した。次いで、不溶性キレート組成物上の鉄複合体の経時的な濃度を、差分によって算出した。
図4にグラフにした結果によって、不溶性キレート組成物上への鉄の取り込みが示される。鉄結合の相対的な率を比較することによって(すなわち、実施例9対実施例10)、可溶性キレート組成物が、不溶性のキレート組成物よりもかなり急激に鉄に結合することが理解されよう(すなわち、可溶性組成物に関して10分未満で結合した約80%のFe(実施例9由来のデータのグラフより)、対、
図4に示されるわずか3時間後での不溶性のバージョンによって結合される80%のFe)。この結果によって、本発明の可溶性キレート組成物によって提供される重要な予期されない利点、すなわち、不溶性のキレート組成物で獲得可能な結合率よりもかなり高いFe結合率が図示される。
【0201】
実施例11;ポリマーキレート組成物対非ポリマー遊離キレーターの鉄結合強度。
Fe結合強度の測定は、異なるキレート材料に関して測定および比較され得る。遊離キレーター、1,2−ジメチル−3−ヒドロキシ−ピリジン−4−オン(デフェリプロンとして公知)、デフェリプロンに対して機能的に類似のキレート基を保有している可溶性キレート組成物(実施例6で調製)、および、デフェリプロンに対して機能的に類似のキレート基を保有している不溶性キレート組成物(すなわち、実施例5で調製)の鉄結合に関する全体的なFe結合または会合の定数を、Fe(III)に関して決定し、その結果を、下の表に示す。別の広範に用いられる遊離のキレーターエチレンジアミン四酢酸すなわちEDTA(米国特許第6,165,484号に開示されるキレーターに特有)の会合定数をまた、比較の目的のために決定した。
【0202】
【表2】
【0203】
これらの結果によって、遊離のキレート基、特に米国特許第6,165,484号に開示のキレート基に比較して、本発明のキレート組成物の鉄に対する高い結合強度および改善された結合強度が示される。本発明のキレート組成物は、デフェリプロンを上回って100倍増大した鉄結合を示した。可溶性の遊離のキレーターEDTAに比較した本発明のキレート組成物の優位性はまた、これらの結果からも予測できる。
【0204】
実施例12;可溶性キレート組成物によるデフェロキサミンからの鉄の剥離。
実施例4のとおりに調製した20mlの可溶性キレート組成物、または実施例6のとおりに調製した可溶性組成物(両方ともFeに対して同様のキレート能力を有しており、リン酸緩衝化合物生理食塩水(PBS)、pH7に懸濁した)を、別々の透析バッグ中に入れて、20mlの2.0mMのデフェロキサミン(Novartis Ltd.から得られたDesferal)(1.3mMのFe(III)をPBS中に含有)に対して、24時間、室温で別々に透析した。外側のデフェロキサミン溶液からキレート組成物を含有する透析バッグへの鉄損失を測定した。
【0205】
実施例4由来の可溶性キレーターは、12時間のインキュベーション期間の後に、全体の鉄のうち71%を含んでおり、デフェロキサミンBが結合したのはのこりわずか29%であることが見出された。
【0206】
実施例6由来の可溶性キレーターは、インキュベーション期間の終わりまでにデフェロキサミンからFeのうち67%を取り除いたことが見出された。
【0207】
本実施例によって、ポリビニルピロリドンまたはポリアクリルアミド担体材料のいずれかの上で調製された可溶性のキレート組成物は、同様の鉄結合能力を有し、両方の可溶性組成物が、臨床的に用いられるデフェロキサミン(Desferal)キレーターから鉄
を除去できた、すなわち、Feに対する可溶性キレート組成物の強度は、デフェロキサミン(Desferal)によって提供される結合強度を超えたことが示される。
【0208】
実施例13;Staphylococcus aureusに対する可溶性および不溶性のキレート組成物の抗菌活性。
可溶性および不溶性のキレート組成物(それぞれ、実施例6および実施例5で調製した)を、インビトロで、それらがStaphylococcus aureus株Y67Nの増殖を抑制する能力について試験した。この株は、Professor Warren
Grubb,Curtin University,Perth Australiaの培養コレクションから得たもので、同所から入手可能である。種々の量のキレート組成物(鉄結合能力の量に基づいて添加に関して正規化した)(金属結合リガンド濃度当量)を、試験管中に含まれる無菌のトリプチカーゼダイズブロス培地のサンプルに添加した。活発に増殖する細菌培養物を用いて、サンプルに接種し、次いで、これらを24時間、37℃でインキュベートした。液体サンプル中の生きている細菌細胞を定量する方法である、細菌のコロニー形成単位(CFU)についてのプレートカウントを次に、
図5のグラフに示されるの各々のサンプルについて決定した。その結果によって、増殖培地に対するキレート組成物の添加は、細菌細胞の増殖を、添加されたキレート組成物の量(添加された鉄結合キレーターリガンドの量として表現)に関して用量依存性を示す方式で妨害することが示される。この結果によってまた、可溶性キレート組成物、対、不溶性の組成物についてより高く、より顕著な活性が示され、すなわち、可溶性キレート組成物に加えられたFe結合能力がさらに少量でも、キレート組成物のより大量の類似の不溶性バージョンに関してよりも大きい細菌殺傷または細菌増殖の阻害が生じた。
【0209】
実施例14;Staphylococcus aureusの臨床単離株について、従来のキレーターデフェリプロンと比較した可溶性キレート組成物の抗菌活性。
ヒト感染から得られたStaphylococcus aureusの臨床単離株は、Warren Grubb,Curtin University,Perth Australiaの培養コレクションから得たもので、同所から入手可能である。オーストラリア、パースのRoyal Perth Hospitalの患者から得た臨床単離株は、世界のどこか他の場所で得られたこの細菌の他の臨床単離株と強力な類似性を有することが予想され得ることが注目されるべきである。なぜなら、Staphylococcus aureus中の抗生物質耐性特徴の遺伝的決定基は現在、一般に理解されているからである。従って、実施例14〜17に示されるのと同様の結果が、いずれか他で得られ、かつこれらの実施例に関して試験されたものと同様の抗生物質耐性パターンを有している他の臨床単離株で予想可能である。
【0210】
全部で9つの臨床株を、以下のような実施例6のとおりに調製したデフェリプロンまたは可溶性キレート組成物のいずれかに対するその株の感受性について試験した:株WBG525、WBG8860、WBG248、WBG8701、WBG7913X1876、WBG4530およびWBG541(デフェリプロンに対する感受性について)、ならびに株WBG525、WBG8860、WBG4330およびWBG1320(実施例6のとおりに調製した可溶性キレート組成物に対する感受性について)。従って、このシリーズの試験に関して、全部で7つの株を、デフェリプロンに対するそれらの株の感受性について試験し、そして4つの株を、可溶性キレート組成物に対するそれらの株の感受性について試験した。この株のうち2つ、WBG525およびWBG8860を、デフェリプロンおよび可溶性キレート組成物の両方に対するそれらの株の感受性について試験した。各々の株の4〜6個の個々の細菌コロニー(血液寒天培地上でのそれらの増殖から得られた)を、Mueller−Hintonブロス(MHB)中に回収して、それらが、0.5McFarland標準以上の光学密度に達するまで37℃でインキュベートした。その培養物を、MHBを用いて、0.5McFarland標準に達するまで希釈した。これ
らの標準液の希釈物(10
−1)を、試験接種に用いた。血液寒天培地上で、次いでMHB中での細菌株の増殖は、細菌の接種が、試験の前に鉄に関して制限されていないことを保証し、むしろ、細菌の細胞が十分な内因性の鉄の供給を有することが、保証されたことが理解されるべきである。MHB媒体はまた、試験微生物の鉄要求を上回っており、増殖細胞の外部環境において豊富な利用可能なFeを供給することが公知である。
【0211】
デフェリプロンまたは可溶性キレート組成物のある範囲の希釈を、ある範囲の加えられた鉄キレート能力(Fe結合当量で測定して)が得られるように、試験管中でMHB中に調製した。試験管あたりの最終容積は、500μlであった。細菌接種物(適切なS.aureus株の10
−1希釈の25μl)を各々の試験管に添加した。この試験管を、37℃で往復シェーカー上である角度で一晩インキュベートして、その増殖の結果を、追加のデフェリプロンも可溶性のキレート組成物の添加していない、コントロールサンプルに比較して、試験サンプルの分光光度計を用いて600nmの波長で測定した濁度に基づいて増殖のパーセンテージとしてスコア付けした。その結果を
図6のグラフに示す。デフェリプロンは、増殖のごく軽度の阻害しか示さず、7mMのFe結合当量を超える高濃度で添加された場合でさえ、増殖の約15%阻害しか生じなかった。比較して、可溶性キレート組成物は、添加されたわずか2mMのFe結合当量(増殖の約25%阻害を生じる)で、かなり低い濃度で増殖の有意な阻害を生じた。これらの結果によって、3−ヒドロキシ−ピリジン(4)オンによって提供されるFe結合は、低分子量デフェリプロン(<700ダルトン)上で提供される場合、比較的効果がないが、可溶性キレート組成物上に存在する場合は、臨床的Staphylococcus aureus株の増殖の阻害に関して、かなり効果的であることが示される。本実施例について試験された可溶性キレート組成物は、80,000ダルトン〜300,000ダルトンという分子量を有した。この可溶性キレート組成物は、これらの細菌株の細胞中へ取り込まれるには、分子量が大きすぎるが、デフェリプロンは、細胞によって取り込まれることが予想される。
【0212】
実施例15;可溶性キレート組成物は、関連の不溶性組成物または関連の遊離のキレート分子のいずれよりも有効に抗細胞剤ストレプトマイシンに対するStaphylococcus aureusの臨床単離株の感受性を増大する。
本実施例に関して、ならびにまた実施例16および17に関しての抗生物質感受性試験は、わずかに改変している、抗生物質感受性の最小阻害濃度(MIC)決定のためのNCCLS(now Clinical and Laboratory Standards Institute)方法に従って行った。Staphylococcus aureus(S.aureus)の感受性のまたは抗生物質耐性の株を、血液寒天プレート上で、一晩37℃で増殖させた。各々の株の4〜6個の個々のコロニーを、ミューラーヒルトンブロス(MHB)中に回収して、それらが、0.5McFarland標準以上の光学密度に達するまで37℃でインキュベートした。その培養物を0.5McFarland標準に等しくなるまでMHBで希釈した。これらの標準液の希釈物(10
−1)を接種に用いた。抗生物質耐性のStaphylococcus aureusの種々の株を、下の結果に示されるようにこれらの試験について用いた。血液寒天培地上で、次いでMHB中での細菌株の増殖は、接種が試験の前に鉄に関して制限されておらず、むしろ、細菌の細胞が十分な内因性の鉄の供給を有することを、保証したと理解すべきである。
【0213】
試験抗生物質のある範囲の2倍希釈物を、MHB中で調製した。最終の所望の濃度は、2.5〜1280μg/mlにおよんだ。実施例6もしくは実施例5で調製された、可溶性および不溶性のキレート組成物、または遊離の鉄キレート剤デフェリプロンを、抗生物質含有の試験管に、既知濃度の鉄結合能力(鉄結合当量と呼ぶ)で添加して、異なる組成物または遊離のキレーターの直接比較を可能にした。1チューブあたりの最終容積は、500μlであった。細菌接種物(適切なS.aureus株の10
−1希釈の25μl)を各々の試験管に添加した。この試験管を、37℃で往復シェーカー上である角度で一晩
インキュベートして、その結果を、濁度に基づく増殖または増殖なし(濁度なし)としてスコア付けした。抗生物質の最小阻害濃度(MIC)は、増殖の結果から決定した。
【0214】
可溶性の遊離の臨床的なキレーターデフェリプロン、不溶性のキレート組成物(実施例5のとおりに調製)および可溶性キレート組成物(実施例6のとおりに調製)の存在下におけるストレプトマイシンに対する、Warren Grubb,Curtin University,Perth,Australiaの培養収集物から得られた株WBG525の感受性の比較の試験では、下の表に示される結果が得られた。
【0215】
【表3】
【0216】
これらの結果、コントロールの試験に示されるようなストレプトマイシンに対するこの臨床株の高い程度の耐性が示され、すなわち、640μg/mlのストレプトマイシンという濃度は、MIC濃度に達するには十分でなかった。臨床的に利用されるキレーターデフェリプロンは、7.4mMのFe結合当量で与えられた場合でさえ、ストレプトマイシンに対する細菌の感受性を増大するために有用ではなく、すなわち、増殖は、わずかに低下されるが、MICは到達されなかった。デフェリプロンとして添加された7.4mMの結合能は、7.4mMのFeまたは培地1mlあたり約0.4mgのFeを結合するのに必要なキレート能力の量に相当する。MHBは、約0.3μg/mlまたは約5μMという濃度で鉄を含むことが公知である。より高濃度での試験(表に示さない)によって、デフェリプロンは、15mMのFe結合当量でさえ、640μg/ml濃度のストレプトマイシンで試験した場合、やはり細菌細胞のわずかな増殖を可能にしたことが示された。実施例5で調製した不溶性のキレート組成物は、4.3mMのFe結合当量という濃度ではまた、ストレプトマイシンに対する細菌の感受性の増大には有効ではなかった。不溶性のキレート組成物に関してより高濃度での試験(結果の表には示さない)では、8.6mMのFe結合当量の添加は、MICを320μg/mlまで低下したことが示され、これによって、これは、遊離のキレーターデフェリプロンよりも有効であったことが示される。可溶性キレート組成物の添加は、ストレプトマイシンに対する細菌の感受性において劇的な増大をもたらした。可溶性キレート組成物のわずか2.2mMのFe結合当量の添加では、ストレプトマイシンについてMICをちょうど160μg/mlまで下げた。これらの結果、抗細胞剤に対して細菌の病原性細胞の感受性を増大することに関する、本発明の可溶性キレート組成物によって提供される予期せぬ、かつ劇的な改善が示される。
【0217】
実施例16;可溶性のキレート組成物は、種々の抗細胞抗生物質剤に対する臨床的に単離されたStaphylococcus aureusの感受性を増大する。
一連の試験を、種々の抗生物質抗細胞剤を用いて、実施例15のとおり設定した。臨床的に単離された株は、Warren Grubb,Curtin University,Perth,Australiaの培養コレクションから入手した。実施例6のとおりに調製した、種々の抗生物質についてMIC値に対する可溶性キレートポリマーを添加す
る効果を、添加されるFe結合当量の2つの濃度で、可溶性キレート組成物の添加なしでのMIC値と比較して試験して、下の表に示されるような結果を得た。
【0218】
【表4】
【0219】
これらの結果によって、可溶性キレート組成物が、種々の抗生物質抗細胞剤に対する種々の臨床的に単離された抗生物質耐性のStaphylococcus aureus株の感受性を増大したことが示される。同様に、示される可溶性キレート組成物の添加は、添加濃度が高いほど有効性を増大し、すなわち、効果は用量依存性であった。
【0220】
これらの上記の結果によって、抗生物質を含むキレート組成物を含むことによって、極めて耐性の病原性のStaphylococcus aureusを含んでいる、種々の細菌に関してある範囲の従来用いられる抗生物質の有効量を増大する能力が示される。
【0221】
希釈系列において隣接する試験管よりも100%多いかまたは少ない抗生物質を各々が含んでいる、一連の試験管中での、単なる顕微鏡的増殖の有無に基づいてスコア付されるため、この種類の試験は比較的粗く、かつ鋭敏ではないこともまた理解されるべきである。血液寒天培地上でのこの株の事前増殖はまた、保存的結果を提供し、従って、増殖条件は、試験される細菌細胞が、試験前に鉄に関して完全に満足されていることを保証する。脊椎動物宿主内での臨床状況では、抗生物質に遭遇する時、細菌が鉄制限環境にある可能性が高い(担持されたキレーター組成物の供給の効果を劇的に増大し得る状況)。鉄制限条件または最小鉄満足条件下での増殖、例えば、コントロールされた鉄含量を有する化学的に規定された培地上での増殖、対、鉄が豊富な血液寒天培地上でまたは過剰の鉄を含むMHB中で増殖された細菌で行った同様の一連の試験によって、キレート組成物の抗生物質との相乗効果に対する、細菌株の感受性のさらなる増強が示されると期待される。この態様は、極めて重要である。なぜなら、鉄は、微生物に対して、これらがヒトのような動物宿主で増殖している場合、極めて低濃度でのみ利用可能であることが現在周知であるからである。これに基づけば、抗生物質などの抗細胞剤に対する、臨床的な感染原因の微生物の感受性を増大する正の影響は、インビボではさらに顕著であることが予想され得る。
【0222】
実施例17;抗生物質抗細胞剤に対するStaphylococcus aureusの感受性に関する、可溶性キレート組成物の増強効果の鉄中和。
一連の抗生物質感受性試験を、実施例6で調製したような可溶性キレート組成物を利用する実施例16のように設定した。Warren Grubb,Curtin University,Perth,Australiaの培養コレクションから得られる、種々
の臨床的に単離されたStaphylococcus aureus株、および種々の抗生物質による別々の試験系列を使用したが、各々の系列について、供給されたキレート組成物の2倍のキレート能力を供給するのに十分な鉄の添加を含んでいるコントロール試験も含んだ。下に示す結果によって、可溶性のキレート組成物が、抗生物質耐性のStaphylococcus aureusについてペニシリン、テトラサイクリンおよびシプロフロキサシンに対する細菌の抗生物質耐性を低下すること、ならびにキレート組成物の増強効果が、鉄に関連すること(なぜなら、可溶性キレート組成物と共に鉄を添加することで、キレート組成物の増強効果を無効化されるからである)が示される。
a)ペニシリンでの株WBG8701:
ペニシリンによるこの株についてのMICは、640μg/mlであって、このことは、ペニシリンに対するその極めて高い耐性を示している。実施例6のとおりに調製された可溶性キレート組成物の4.4mMのFe結合当量の添加によって、MICは320μg/mlまで低下された。しかし、鉄負荷のキレート組成物は、MICを低下しなかった。
b)テトラサイクリンでの株WBG8516x541:
この株のテトラサイクリンに関するMICは、160μg/mlであって、このMICは、(a)についてと同様の可溶性キレート組成物の添加を通じて80μg/mlまで低下された。鉄飽和のキレート組成物の添加は、160μg/mlというMICを生じ、このことは、キレート組成物による増強が、可溶性キレート組成物の鉄結合能力に関連したことを示している。
【0223】
この種の試験は、得られた結果が、試験系列中で1つの試験管から次へ2倍異なる抗生物質濃度を各々が含んでいる、一連の試験管中での、単なる顕微鏡的増殖の有無に基づいてスコア付けされているため、比較的感受性が劣ることが実施例15および16に関してと同様ここでも注目されるべきである。同様に、標準のMICプロトコールは、増殖を生じない最低濃度のスコアリングを必要とする。これらの試験では、報告されたMICより下の濃度で、部分的な増殖の低下が観察された。この態様は、重要な意味を有する場合がある。なぜなら、抗生物質およびキレート組成物の両方のより低濃度でも部分的阻害が見られたことは、実際上、臨床的な有意性を有し得るからである。血液寒天培地上のこれらの細菌株の事前増殖でもまた、保守的な結果が得られ、こうした増殖条件は、試験される細菌細胞が、試験前に鉄に関して完全に満足されており、鉄が貯蔵された状態で試験に入ったであろうことが保証された。脊椎動物宿主内での臨床状況では、抗生物質に遭遇する時、細菌が鉄制限環境にある可能性が高い(キレート組成物の増強効果を劇的に増大し得る状況)。鉄制限条件または最小鉄満足条件下で、例えば、血液寒天培地およびMHBの代わりにコントロールされた鉄含量を有する化学的に規定された培地上で、増殖された細菌細胞で行った同様の一連の試験では、キレート組成物によって得られるような細菌株のさらに増強された感受性を示すことが予想される。
【0224】
実施例18;可溶性のキレート組成物によるCandida albicansの増殖の阻害。
Candida albicansは、ヒトで疾患を生じ得る真菌の酵母病原体である。この酵母は、実験室で、低いおよび高い鉄含有の培養培地でのその増殖について、ならびに実施例4のように調製された種々の濃度の可溶性キレート組成物の添加の効果について試験した。好気性増殖に適切であるが、無機の鉄成分の添加なしで作製される化学的に規定の培地を用いて、その残留の鉄含量のみを含む(すなわち、他の培地成分に存在する混入の鉄によって寄与されるような)、詳細に規定された培地を提供した。この培地であるGPPは、他のいずれかに記載されている(Dumitru,R.、J.M.Hornby、およびK.W.Nickerson.2004)。次いで、この培地を、4時間、室温で振盪しながら、実施例5のとおり調製した、不溶性のキレートのサンプルの2g/リットルと接触させ、次いで濾過して、抽出された培地から不溶性のキレート組成物を分けた。この手順によって、部分的にFeが除去(すなわち、低い残留濃度まで)されてい
る基本培地を提供した。この抽出された培地を、その鉄含量に関して測定し、<0.08μMのFeを含むことを見出した。この抽出された培地は、増殖に関して低い鉄条件に相当し、これを、抽出された培地であって、ただし0.5μMのFeまたは5.0μMのFeのいずれかを達成するようにFeを再添加された培地と比較した。試験された酵母株の供給源は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)の株ATCC10231であった。種々の濃度の可溶性のキレーター(試験した濃度の範囲は、0.02〜1mg/mlであった)が有無の両方の状況の3つの培地の種々のサンプル中の増殖の程度を、30℃のサンプルのインキュベーションの間に種々の時点で、600nmの波長で光学密度(OD)について分光光度の読み取りを用いて追跡し、続いて、Candida albicansの活発に増殖している細胞をそれらに接種した。
【0225】
下の表の結果によって、可溶性キレート組成物は、増殖培地の最初のFe含量が低いとき、3週間にわたって酵母の増殖を阻害したことが示される。増殖培地中で高いFeレベルでは、可溶性のキレーターによる阻害が低下された。これらの結果によって、酵母の増殖に利用可能なFeの供給を低減および制限することによる病原性酵母の増殖の阻害が示される。
【0226】
【表5】
【0227】
実施例19;可溶性キレート組成物は、抗細胞剤フルコナゾールに対するCandida albicansの感受性を増大する。
Candida albicans ATCC 10231、酵母細胞(実施例18においてのように、追加のFeを添加しなかった既定の培地で増殖された)を、ヒトでの真菌増殖および病原性を制御するために通常用いられるアゾール分類の抗生物質の原型としての抗細胞剤である、フルコナゾールに対するそれらの感受性について、およびフルコナゾールに加えて実施例4で調製したとおりの可溶性キレート組成物を用いて、同じ培地中で試験した。抗菌抗生物質のアゾールクラスの典型的なメンバーとしてのフルコナゾールであって、これは、ステロール合成を阻害することによって機能する。
【0228】
実施例15で利用されるような標準のNCCLS MIC手順を利用して、80%の増殖阻害をもたらすMIC濃度を、剤との種々の長さの接触(4日、10日、および42日)の後に決定した。下の表に示される結果によって、酵母は、可溶性キレーターの存在下で、可溶性キレーターが、フルコナゾールに対する感受性に対する用量依存性の改善を提供したとき、フルコナゾールに対してかなり感受性であったこと、およびFe−飽和可溶性キレーターのサンプルは、フルコナゾール感受性を変更しなかったので、その可溶性キレーター増強効果が、そのFe結合活性に起因したということ、が示される。ごく少量の可溶性キレート組成物をこれらの試験に添加し、この少量の可溶性キレーターの添加のみでは(すなわち、抗生物質を添加しない場合)、酵母の増殖に顕著な影響はなかったことに注目することが重要である。本実施例によって、本発明で開示された可溶性キレート組
成物のうちの1つによる、従来の抗真菌の抗生物質(フルコナゾール)の抗細胞活性の増強が示される。
【0229】
【表6】
【0230】
これらの結果、少量の可溶性キレート組成物の添加でさえ、抗細胞剤フルコナゾールに対する酵母の感受性を増大すること、およびキレート組成物の影響が、その鉄結合活性に直接関連していること、すなわち、可溶性キレート組成物と共にFeを添加することにより、その増強の影響が無効化されたことが示される。これらの結果、また、細胞の増殖制御と、細胞の活性制御との間の相違もまた示される。この試験について選択された少量の可溶性キレート組成物は、それ自体が増殖の阻害を生じるには不十分であったが、抗細胞剤フルコナゾールの作用に抵抗する酵母活性に影響するには十分であった。
【0231】
実施例20;水性製品からの過剰の鉄の第一の除去、それに続く可溶性キレート組成物による、Feの残りの部分のキレート化を通じた製品の微生物防腐の実証。
腐敗微生物の増殖に対して極めて感受性である水性媒体に対する可溶性キレート組成物の添加と組み合わせた、不溶性キレート組成物による鉄抽出の能力を評価するための腐敗試験を、以下のとおり設定した。0.5μMのFeを含有している実施例18について用いたGPP媒体に、未処置のコントロールを示すために、American Type Culture Collectionの株ATCC 20217として得た腐敗酵母Candida viniを接種した。
図7のグラフでみることができるように、腐敗酵母は、抽出培地なしのコントロール中で急速に増殖した。GPP培地のサンプルはまた、実施例5のとおり調製した不溶性のキレート組成物で抽出された。不溶性のキレート組成物の5gのサンプルを、脱イオン水中で水和し、Buchner濾過装置上で脱イオン水中で2回洗浄し、濾紙(VW Corporation)の上に収集した。GPP完全培地の1リットルのサンプルを、20℃で2時間、200rpm(往復シェーカー)で振盪しながら、フラスコ中で、洗浄された不溶性のキレート組成物とバッチ接触させて、その含まれた鉄の部分的な除去を得た。抽出された培地を、濾紙上での不溶性キレート組成物の除去によって回収して、抽出された培地を、濾過滅菌して(0.22μmのMillipore Corporation)、非抽出媒体について行ったように、Candida
viniの接種によるチャレンジ試験に用いた。原子吸収分光光度計によって測定した抽出媒体中の残留Fe濃度は、<4ppbであった。
【0232】
抽出された培地で得られた結果によって、不溶性のキレート組成物は、GPPからFeを除去するために極めて有効であり、Fe含量を0.5μM(28ppb)から<0.08μM(4ppb)(この試験に利用された測定装置の下方検出限界)まで低下させたことが示される。この結果、Feをこの低レベルまで除去することで、酵母の増殖は、ほぼ
10時間まで遅らせられ、増殖の程度は、コントロールの非抽出媒体で得られたよりも実質的に少ないという点で、培地のある程度の防腐が得られることが示された。しかし、ある程度の増殖が最終的には生じ、そのように、防腐は改善されたが、抽出培地中では完全ではなかったことが理解される。これらの試験に添加された化学的な防腐剤は他にはなく、単に鉄の除去に起因し得るなんらかの防腐が観察されたことに注意のこと。実施例4で調製された可溶性キレート組成物の、不溶性組成物を用いて最初に抽出され培地への0.25mg/mlの濃度での添加は、腐敗性のCandida vini酵母の増殖を完全に防いだ。別の試験では、より低濃度の可溶性のキレート組成物がまた、この高い程度の防腐を提供するのに有効であったこと、および可溶性キレート組成物を飽和するためのFeの添加が、腐敗酵母を増殖させて、それによって達成された防腐を逆転させたことが示された。これらの結果によって、可溶性キレート組成物は、キレート組成物として腐敗酵母Candida viniによってアクセスできない形態でFeに結合できて、残りの少量の鉄が処理された培地中に存在するけれども、酵母は、可溶性キレート組成物がその鉄結合能力に関して飽和されない限り、増殖できなかったことが示される。本実施例は、不溶性キレート組成物を用いて、水性媒体からほとんどの鉄を最初に抽出すること、次いで、可溶性キレート組成物を添加して、媒体中の残りの鉄を腐敗微生物にとってアクセスできないようにすることによって微生物腐敗から防腐を達成する能力を示す。
【0233】
Fe除去で示された、増殖の遅れまたは増殖の減少によって、酵母細胞が鉄欠乏であることが示された。これに基づいて、および種々の他の実施例における他の支持する結果を考慮すると、Feを除去するか、またはFeを微生物細胞にとって利用しにくくすることに関連するこのような防腐処置は、任意の添加された化学的防腐剤に対する、腐敗酵母および他の微生物の感受性を増大する、すなわち、鉄の利用可能性の減少を組み合わせることで、他の化学的防腐剤の作用の有効性を増大することが予想される、ということが理解されるべきである。
【0234】
実施例21;従来用いられる防腐剤と組み合わせた可溶性キレート組成物の添加を通じた製品の防腐の実証。
追加の鉄の添加のない(すなわち、酵母に利用可能なわずかだが十分なFeは、他の添加された培地成分とともに存在することによって寄与された)、実施例18について規定の培地中で増殖される、酵母細胞、Candida albicans ATCC 10231を、試験のチャレンジ試験系列において防腐剤に対するその感受性について試験して、ここでは、最小阻害濃度(MIC)を、ソルビン酸カリウムおよびメチルパラベン(2つの広範に用いられる化学的保存料)について、防腐剤単独での試験において、および実施例4で調製された12.5または25μg/mlのいずれかの可溶性キレート組成物が防腐剤とともに含まれている、他の試験において、決定した。種々の試験についてのMIC値(増殖の80%阻害を達成する)は、30℃でのチャレンジインキュベーションの2日後および10日後に決定し、その結果を下の表に示す。これらの結果によって、本発明の可溶性キレート組成物の1つの存在下で利用した場合、これらの防腐剤について実質的に低下されたMIC(4−10Xまで減少)(すなわち、防腐剤の大きく増大した力価)が、実証される。可溶性キレート組成物のFeキレート活性を満足する(飽和する)ために十分なFe添加による、添加されたFeを用いる追加の試験によって、可溶性キレート組成物の存在下での増強された防腐剤の活性は、可溶性キレート組成物のFeキレート活性に直接起因することが示された。
【0235】
【表7】
【0236】
実施例22;微生物に対する鉄を制限すること、および微生物増殖を妨害することに関連する可溶性キレート組成物の分子量の重要性の実証。
Candida albicans ATCC 10231を、その感受性に関して試験した:医学的キレーターデフェリプロン(
図8のグラフの#1)(Apotex Pharmaceuticalsの製品);本明細書の可溶性キレート組成物の調製のために用いられる前駆体化合物、例としては、3−ヒドロキシ−2−メチル−4−ピロン(
図8のグラフの#2)、実施例1由来のAHMP(
図8のグラフの#3)、および実施例2由来のMAHMP(
図8のグラフの#4)およびまた、実施例4由来の可溶性キレート組成物(
図8のグラフ中の#5)。酵母を、鉄の追加することなしに(すなわち、酵母にとって利用可能なわずかだが十分なFeが、他の添加された培地成分とともに存在して与えられた)、実施例18についてのように規定の培地中で増殖させた。試験のキレート材料を添加された規定の培地中での酵母の増殖を、30℃で84時間のインキュベーションおよび増殖の後に、キレート材料をなんら入れられなかったコントロールのサンプルと比較した。
図8のグラフの結果、キレート化合物の群および対応する可溶性キレート組成物(全てがヒドロキシピリジノン金属配位性状を保有する)は、酵母に対して鉄を制限するそれらの能力に関して異なることが示される。具体的には、化合物#1、#2、#3および#4は、実質的に増殖を制限せず、これらの各々は、1500ダルトン未満の分子サイズ、すなわち、これらの分子が、酵母細胞によって内部移行できるように十分に低い分子サイズのものである。酵母によって内部移行されるこれらのキレーターは、酵母細胞に対する鉄供給を制限できなかった。対照的に、実施例4のような可溶性キレート組成物(これは、これらの同じキレート化学的前駆体から、すなわち、具体的には、前駆体#2、#3および#4から合成される)、低濃度でさえ酵母の増殖を阻害し、この可溶性のキレート組成物は、10,000ダルトンを超える分子サイズのものであった。従って、低分子量キレーター、例えば、デフェリプロンおよび同様の化合物は、増殖を可能にしたが、デフェリプロンと同様の官能基を含んでおり、ただし分子量が1500ダルトンを超える可溶性のキレート組成物は、増殖を制限した(試験された種々の化合物が各々、それらのピリジノン官能基を通じて鉄を結合できたにもかかわらず)。
【0237】
従って、これらの結果によって、微生物細胞によって容易に内部移行できないように、または鉄担持分子のレセプターによって細胞の外部表面でその鉄にアクセスできないように、そして可溶性キレート組成物が、鉄に結合し、かつこの鉄を、細胞(これらの細胞は、細胞による使用のためにその細胞の内側に鉄を必要とする)に鉄が容易に利用されない
酵母細胞の外部環境に保持するように、十分に大きい分子サイズの可溶性キレート組成物を有するという重要性および有用性が示される。
【0238】
実施例22B;コポリマーの可溶性キレート組成物中への活性なFe結合モノマーMAHMPの組み込みの実証。
実施例3で調製したモノマーMAHMP、実施例4で調製した可溶性キレート組成物、および実施例6で調製した可溶性キレート組成物の吸収スペクトルを、
図9のグラフに示される200〜500nmのそれらの吸収スペクトルに関して比較した。サンプルを水に溶解して、水を含んでいる参照細胞とともにスキャンした。その結果、MAHMPは、紫外範囲で吸収し、最大は約275nmであって、300nmを超えれば吸収はわずかであることが示される。MAHMPと同様の吸収が、ピロリドン(すなわち、実施例4のように)またはアクリルアミド(すなわち、実施例6のように)のいずれかでできたコポリマーの場合に、キレート組成物ポリマー内で検出された。
【0239】
可溶性キレート組成物内のキレートピリジノン活性基の鉄結合活性は、400〜650nmの吸収の
図10のグラフに示されるとおり、水に溶解されたサンプルと鉄とを反応することによって示された。MAHMPへの鉄の添加は、赤い発色団を生じ、ここで最大の吸収は、約460nmであって、同様の発色団がまた、MAHMPとビニル−ピロリドン(実施例4由来の可溶性キレート組成物)およびジメチル−アクリルアミド(実施例6の可溶性キレート組成物)のいずれかとのコポリマーとして作製された可溶性キレート組成物中で(すなわち、それらが鉄と反応した後)観察された。
【0240】
実施例23;可溶性キレート組成物の分子量性状の実証。
可溶性キレート組成物のサンプルは、合成が実施例4に記載の量および容積の2倍を用いて行ったこと以外は、実施例4にあるとおり調製した。新しく調製したサンプルの容積の半分を、8,000ダルトン(Da)の分子量カットオフを有する透析チューブ中で、4リットルの新鮮な脱イオン水に対して2回(各々の工程について24時間)透析した。次いで、この透析チューブ内の可溶性キレート組成物を回収して、試験用の乾燥サンプルを凍結乾燥によって得た。新しく調製した可溶性のキレート組成物のもう半分の方は透析せず、ただし、これを、可溶性キレート組成物分子の分子量に関して、各々が異なる分子量排除サイズの連続系列の限外濾過膜を通過させることによって、サイズ分画し、ここでは追加で1リットルの水を、各々の濾過段階に用いて、特定の限外濾過サイズの各々を通過するほとんどの分子を洗浄し、ここでは窒素ガス圧を用いて、濾過を補助した。以下の分子量サイズの範囲の材料に相当する以下の別々の画分を得た:>100kDa;10kDa−100kDaおよび1kDa−10kDa(kDa=1000Da)。これらの別々の画分の各々を、回収して、凍結乾燥し、試験用の乾燥サンプルを得た。
【0241】
各々のサイズ画分の相対的な重量による収量は、下の表に示されるような3つのサイズ画分の合わせた重量の関数として決定した:
【0242】
【表8】
【0243】
これらの収量の結果、本実施例の調製物についての可溶性キレート組成物のほとんどが、1kDaより大きく最大100kDaまでの分子サイズであって、この粒子サンプルのうち100kDaを超えるものはわずかであったことが示された。
【0244】
上記のサイズ画分の各々の吸収スペクトル、ならびに直接透析によって調製されたサンプル(すなわち、>8kDaのサイズの可溶性キレーター)、およびまたMAHMPの参照サンプル(すなわち、実施例3で調製されるキレートモノマー前駆体)を、実施例22に記載されるように、それらと鉄との反応後に比較した。これらの結果を、
図11のグラフに示す(ここでkDa=kD)。
【0245】
図11のグラフの吸収スペクトルによって、これらの種々の分子サイズ画分の一般的に類似の(すなわち、コポリマー内の鉄−結合キレート基のそれらの内容物の相対量に関して)化学組成が示される。キレートモノマー基MAHMP単独、および可溶性キレート組成物内にある場合のこの基は、それに鉄が結合された時は、発色団を示し、この最大吸収は、約460nmであった。
【0246】
これらの種々の画分の相対的な抗菌阻害活性に関する試験の結果は、酵母Candida albicansに対して0.25mg/mlの濃度で各々試験し、かつ実施例22に記載のものと同様に試験して、
図12のグラフに示す。100kDaを超える画分は、この抗菌試験について材料の回収が不十分であることに相当し、従って、これは試験しなかった。これらの結果は、1kDaより大きいサイズであって、最大で100kDaのサイズである場合、可溶性キレート組成物の同様の活性を示す。可溶性キレート組成物の3つの分子サイズ画分全てが、強力な抗菌活性を提供し、これは14日というインキュベーション期間の後でさえ生じるコントロールの増殖の5%未満であった。500Da未満の分子サイズでありおよび可溶性キレート組成物に対する前駆体モノマーであるMAHMPは、実施例21の結果でも示されたように、この酵母の増殖を容易に支持することが見出された。
【0247】
従って、この実施例によって、本発明の可溶性キレート組成物を調製するために用いられるMAHMP前駆体のような低分子量可溶性キレーター、すなわち、約1500Da未満のサイズの低分子量キレーターおよび特に、500Da未満のサイズのこのMAHMPの例は、それらがCandida albicansの増殖を支持するという点で抗菌性ではないことが示される。約1000Daを超える分子サイズを有する本発明の可溶性キレート組成物は、この酵母に阻害性であった。
【0248】
試験された可溶性キレート組成物のサイズの下限は、名目上は1000Daであり、すなわち、利用される限外濾過膜の言及される下限排除を考えれば、このフィルターで得られる実際に濾過された可溶性キレーター画分で優勢なのは、1500Daを実質的に超える分子量サイズのものである可能性が高く、すなわち、1500Daを十分超える平均分子量を有するポリマー分子サイズの正規分布が予期される。MAHMPは、約236Daという分子量を有し、ビニルピロリドンは、約111Daという分子量を有する。これらの2つのモノマーの群からできた可溶性キレート組成物は、1500Daを超える分子量を有し、これは、両モノマーのコポリマーまたは各々の材料の約4モノマー単位からなるMAHMPモノマーのホモポリマーを有する。
【0249】
実施例24;ピロリドンおよび/またはポリピロリドンをその化学構造中に含んでいる可溶性キレート組成物のFeキレート活性と組み合わせたヨウ素の抗菌活性の実証。
追加で鉄を加えることなく(すなわち、酵母にとって利用可能なわずかだが十分なFeが、他の添加された培地成分とともに存在して与えられた)、実施例18の規定の培地で
増殖させた酵母細胞Candida albicans ATCC 10231を、0.5μMまたは5.0μMのいずれかの鉄を添加した新鮮な培地に接種して、実施例4由来の可溶性キレート組成物に対するそれらの感受性について試験した(ここでこのキレート組成物は、以下のとおり、ヨウ素でさらに処理した)。
【0250】
実施例4のとおりに調製された可溶性キレート組成物のサンプルを、水の中に20mg/mlで溶解し、そしてヨウ素溶液(水の中にKI)を添加して、組成物上に10%(w/w)ヨウ素の潜在的な負荷を達成した。ヨウ素の添加後、可溶性キレーター/ヨウ素の溶液を、12時間、脱イオン水に対して透析して(8,000MWカットオフの透析チューブ)、次いで透析された組成物を回収して、その抗菌活性を、ヨウ素で処理していない可溶性キレート組成物のサンプルと比較した。この実施例に関しては、透析を行って、利用可能なヨウ素のかなりの部分が溶液中で遊離のヨウ素ではなく、むしろ可溶性キレート組成物の性状に結合した残留ヨウ素であったことを保証した。サンプルを、それらの抗菌活性について、低Feを添加して増殖した酵母(
図13のグラフA)および高Feを添加して増殖した酵母(
図13のグラフB)と比較した。
【0251】
図13のグラフAおよびBの結果によって、低いFe条件下では、可溶性キレーターおよびヨウ素と結合した可溶性キレーターの両方とも、未処理のコントロール(キレート組成物の添加なし)と比較して抗菌性であったことが示される。高Feを添加した場合(すなわち、可溶性キレート組成物のFeキレート抗菌活性を克服するために十分なFeを添加)、ヨウ素添加なしの可溶性キレート組成物は、過剰のFeの存在に起因して活性が少なく、ただし、ヨウ素を含んでいる可溶性キレート組成物は、やはりその抗菌活性を保持したままである。この比較によって、可溶性キレート組成物に結合された、ヨウ素の別の抗菌活性が示される。従って、ヨウ素を含んでいる可溶性のキレート組成物は、2つの方式の抗菌活性を有した;1つは、酵母増殖を妨げるその鉄封鎖活性に関し、もう1つは、酵母に対するヨウ素抗真菌作用に関する(ヨウ素は、公知の抗菌作用および非金属関連の作用をそれ自体に有する)。
【0252】
実施例25;可溶性キレート組成物の血液適合性。
【0253】
これらの試験は、標準の臨床的な実験手順を用いて行った。実施例4で調製した、可溶性キレート組成物の3つの別々のサンプルを、ヒト血漿サンプルに対して、0.25mg/mlの濃度で添加した。プロトロンビン時間および部分トロンボプラスチン時間を、確立された臨床試験手順を用いて、コントロールの血漿サンプルと比較して、臨床血液実験室で測定した。3つ全ての可溶性のキレート組成物サンプルおよびコントロールの血漿が、1.2分というプロトロンビン時間を生じ(国際標準比(International
Normalized Ratio);INR)、一方で部分トロンボプラスチン時間は、可溶性のキレート組成物によってわずかに延長された(平均51.8 vs.32.9 PTT)。可溶性キレート組成物は、血小板凝集に対して影響がないことが観察された。これらの結果によって、可溶性キレート組成物は、血液適合性について能力を有し、従って、ヒトおよび他の動物宿主に対する全身的投与のための用途を有することが示される。
【0254】
実施例26;AHMPおよびMAHMPの合成および特徴付け。
AHMPおよびMAHMPは、それぞれ、実施例1および3に詳細な手順に従って合成したが、ただし下に詳細に説明するように収率および純度を増大するためにわずかに改変して合成した。全体的な合成スキームは
図14でわかる。
【0255】
A 3−(ベンジルオキシ)−2−メチル−4H−ピラン−4−オンの合成:
4つ首のフラスコに室温で、20Lまで、3−ヒドロキシ−2−メチル−4−ピロン(
1Kg,7.93モル、1当量)、続いてメタノール(10.2L,10.2容積)を充填した。次いで、塩化ベンジル(1.36L、11.9モル、1.5当量)を、付加ロートを用いて滴下して充填した。この次に、水酸化ナトリウムの溶液(333.3g、8.33モル、1.05当量、1.12Lの水に溶解)を添加して、淡黄色の透明溶液を得た。この溶液を、75〜80℃で6時間還流し、次いでRTで一晩撹拌した。反応の進行は、TLCによってモニターした。一般には、反応は、一晩撹拌後に完了した。
【0256】
一旦、反応が完了すれば、その溶媒を、減圧下でエバポレートして、得られた黄色がかったオレンジ色の油状物を4.5Lの水と混合し、塩化メチレン(DCM)(3×2.5L)で抽出した。DCM抽出物を組み合わせて、それぞれ、5%のNaOH溶液(3×1.2L)および水(3×1.2L)を用いて洗浄した。この合わせたNaOH洗浄物を、再度、DCM(1.5L)で抽出した。有機画分を合わせて、硫酸ナトリウムで乾燥して、濃縮し、黄色がかったオレンジ色の油状物を得た。
【0257】
収率:1.8Kg(105%粗)。
B 1−(2−アミノエチル)−3−ベンジルオキシ−2−メチル−4(1H)−ピリジノン)の合成:3−(ベンジルオキシ)−2−メチル−4H−ピラン−4−オン(1.3Kg,6.01モル、1当量、前の工程からの粗材料)を、4つ首のフラスコに20Lまで充填し、次いでエタノール(8.5L,6.5容積)を添加して、透明な溶液を得た。次いで、エチレンジアミン(1.8L,27.95モル、4.65当量)および水(34mL,0.03容積)を次に導入した。この溶液をRTで一晩撹拌した。反応の進行は、TLCによってモニターした。一般には、この反応は、一晩撹拌した後に完了した。
【0258】
反応が完了した後、溶媒および過剰のエチレンジアミンを、65℃で真空下で除去して、黄色がかった褐色の油状物を得た。得られた油状物を、水(7L)と混合して、DCM(3×3L)で抽出した。その有機画分を組み合わせ、濃縮して、黄色がかった褐色油状物を得た。
【0259】
注記:小規模の合成の際は、DCMでの抽出の前の水との最終混合で、固体が生じた。このプロトコールを大規模にした場合、材料は、凝固せず、従って、DCMで抽出して、濃縮した。
【0260】
収率:1.175Kg(76%粗)。
図15に示す、高圧液体クロマトグラフィーの分析結果によって、AHMPは、>95%を超える純度を有することが示された。
【0261】
C 3−ヒドロキシ−1−(β−メタクリルアミドエチル)−2−メチル−4(1H)−ピリジノン(MAHMP)の合成:
2Lのフラスコに、AHMP(100g,0.488モル、1当量)を、続いて水(413mL,4.13容積)を添加して、透明な溶液を得た。その後、トリエチルアミン(204mL,1.46モル、3当量)およびアセトニトリル(826mL,8.26容積)を添加して、得られた溶液を、氷浴に入れて、0℃で撹拌した。次いで、メタクリロイルクロリド(47.46mL,0.488モル、1当量)を、0〜5℃に保持された反応混合物に滴下漏斗を用いて1.5時間にわたって滴下した。次いで、この反応質量を、RT(室温)にして、3時間撹拌した。反応の進行は、薄層クロマトグラフィー(TLC)によってモニターした。
【0262】
反応(3h)の完了後、溶媒を、減圧下で除去して、黄色い固体を得た。次いで、この固体をアセトン(2L)で洗浄して、濾過した。一旦、濾過が完了すれば、追加の固体は、最初に透明な濾液から分離した。従って、材料を再度濾過した。次いで、濾液をエバポ
レートして、約800mLのアセトンを除去して、0〜5℃で18時間冷蔵庫中に保持して、その後に、形成された固体を濾過によって回収して、淡黄色の固体(76g)を得た。次いで、これをアセトン(190mL)を用いて4時間撹拌して、濾過して、MAHMP(50g)を、オフホワイトの固体として得た。
【0263】
注記:上記の全体的プロセスを行った後、NMR分析では時に、いくつかのバッチでは不純物としてトリエチルアミン塩酸塩の存在が示された。これは、クロロホルム中でスラリーにすること(2.5V,3h)続いて濾過によって除去された。
【0264】
収率:50g(43.4%)。
【0265】
図16で示される、高圧液体クロマトグラフィーの分析の結果によって、MAHMPは98%を超える純度を有することが示された。
【0266】
実施例27;可溶性の直鎖のポリビニルピロリドン高分子担体中で共重合された活性なピリジノンキレート剤を含んでいる可溶性キレート組成物の合成最適化。
実施例4に記載された可溶性ポリマーキレート組成物の合成条件を、
図17に示され、下の表に記載されるように、金属キレートモノマーMAHMPの一定量を保持したままで、重合化反応物濃縮物の割合および重合化反応物の量を変化することによって試験した。参照標準としてMAHMPを用いる薄層クロマトグラフィー(TLC)を用いて、各々の試験で得られた生成物画分中の未処理のMAHMPについて試験した。
【0267】
【表9】
【0268】
上記の試験結果によって、利用可能なMAHMPのバルクをさらに完全に利用するために、反応物の量を調節できた(すなわち、これを可溶性のポリマー生成物中に組み込むことによって)ことが示された。TLCでは生成物サンプル中で未反応のMAHMPを検出できなかったことで、未反応のMAHMPの量が低いことが示された。
【0269】
実施例28;可溶性の直鎖のポリビニルピロリドン高分子担体中に共重合された活性なピリジノンキレート剤を含んでいる可溶性のキレート組成物の分子量分布の比較。
脱イオン水中に溶解された約6mgの可溶性のポリマー材料のサンプルを、Sepharose CL−6B(Aldrich Chemical Company)の2.5cm×48cmの充填カラムを通じて脱イオン水を用いる上向き流によって別々にクロマトグラフィーにかけて、約300mlの水を用いるサンプルの溶出の間に、各々約4.5mlの画分を収集した。個々の画分を、280nmの吸収材料の含量に関して、および450nmでの吸収について、0.01mlの0.18MのFeSO
4/0.54Mのクエン酸ナトリウム溶液の添加(画分中の材料中のMAHMP含量に起因する鉄結合活性を検出するために添加)の後に測定した。以下のサンプルを比較した:実施例4のとおりに調製し、約8kDaという名目上のサイズ排除の膜による透析を行った可溶性ポリマー;実施例27試験5のとおりに調製したサンプルの一部の凍結乾燥後に得られた可溶性ポリマー、および実施例27試験5で得られたサンプルの一部のトルエンを用いる共沸水除去によって調製されたサンプル(両方とも約8kDaの名目上のサイズ排除の膜で透析が行われた)。Sepharose CL−6Bカラムは、2MDの71kDaおよび12kDaという平均分子量の3つの異なる直鎖デキストラン標準(Sigma/Aldrich)を用いて別々に較正し、ここでカラム画分におけるこれらの検出は、炭水化物の検出のためのフェノール−硫酸方法を用い、またMAHMPのサンプルは、実施例26のとおりに調製した。
【0270】
可溶性ポリマーサンプルの溶出プロフィールおよび相対分子量(既知のデキストランサンプルおよびMAHMPに比較することによって決定される)を、
図18に示す。サンプル1は、実施例4の手順により、約8kDaという名目上のサイズ排除の膜による透析を行って得られたものであった。サンプル2は、凍結乾燥によって実施例27の試験5で得られたものであって、サンプル3は、実施例27の試験5における共沸乾燥で得られたものであった。
【0271】
これらの結果によれば、得られた可溶性ポリマーは、8kDa〜71kDaの各々の分子サイズ(分子量)の材料のバルクで同様の分子サイズ分布であったことが示される。これらのサンプルのいずれにも2MD(ほぼSepharoseカラムの排除限界であって、このサイズ以上の材料は、分離せず、カラムの空隙容積中に溶出する)以上のサイズの材料はない。実施例4の材料について用いられた水性サイズ分離クロマトグラフィー対X線回折によるサンプルの分子量分析によって、いくらか低い分子量が示された。後者は、より正確である(溶液中で水和されたポリマーについて決定されている)ことが期待される。分子サイズの下限は、正確に決定することが困難であるが、透析を、8kDaという名目上のサイズ排除特徴の膜で行ったならば、得られた可溶性ポリマー材料のバルクは、分子量1500Daよりも大きいと結論できよう。
【0272】
実施例29;可溶性の直鎖のポリビニルピロリドン高分子担体中で共重合された活性なピリジノンキレート剤を含んでいる可溶性キレート組成物についての合成条件最適化。
可溶性ポリマーのサンプルを、実施例4に記載のとおり調製し、未処理の重合化画分を、以下のとおり分離した。Sephadex G25(GE Healthcare Sciences)を含んでいる、リンス/排出された、事前充填のPD10脱塩分画カラムに2.5mlのサンプルを加えて、浸透可能にさせた。次いで、3.5mlの水の添加によってサンプルを溶出させて、空隙容量の画分材料を得て、溶出したサンプル画分をガラスの試験管へ収集した。引き続き、さらに3.5mlの水の添加およびこの溶出された画分の収集によって、空隙容量画分よりも大きい画分を得た。これらの脱塩カラムは、空隙容量画分中で10kDa以上の材料をより低分子量の材料(第二の10kDa以下の画分で溶出する)から分離することが報告されている。従って、第一の画分中の可溶性のポリマー材料は、未反応のMAHMPおよび他の試薬から分けられる。この空隙容量画分の
うち0.1mlの小サンプルを、0.9mlの水で希釈し、次いで0.02mlの0.18MのFeSO
4/0.54Mのクエン酸ナトリウムを添加して、MAHMPによってポリマー材料に寄与される(すなわち、ポリマー中に組み込まれる)Fe結合活性と反応させた。このサンプルのこのような2つのサンプルの450nmでの平均吸光度を決定して、この吸光度の値を、同様に調製された(ただし重合化条件の変更から生じた)サンプルとの比較のための参照のコントロール(100%)に相当するとみなした。変化された合成条件としては、温度(50℃対コントロールの40℃)、ならびに重合化試薬である過硫酸アンモニウムおよびテトラメチルエチレンジアミンの量が挙げられた。これらの試験の結果を、
図19のグラフに示す。これらの結果は、重合化温度を上昇することによって、ならびに特に、過硫酸塩およびテトラメチルエチレンジアミン重合化反応物の濃度を増大することによって、可溶性ポリビニルピロリドンポリマーへのMAHMPの相対的な組み込みを増大することが可能であったことを示した。
【0273】
実施例30;可溶性の直鎖のポリアクリルアミド高分子担体鎖中で共重合された活性なピリジノンキレート剤を含んでいる可溶性キレート組成物のための合成条件最適化。
可溶性ポリマーのサンプルを、実施例6に記載のとおり調製し、未処理の重合化された画分を以下のとおりわけた。2.5mlのサンプルを、Sephadex G25(GE
Healthcare Sciences)を含んでいる、リンス/排出された、事前充填のPD10脱塩分画カラムに加えて、浸透可能にさせた。次いで、3.5mlの水の添加によってサンプルを溶出させて、空隙容量の画分材料を得て、溶出したサンプル画分をガラスの試験管へ収集した。引き続き、さらに3.5mlの水の添加、およびこの溶出された画分の収集によって、より大きい空隙容量画分が得られた。これらの脱塩カラムは、空隙容量画分中で10kDa以上の材料をより低分子量材料(第二の10kDa以下の画分で溶出する)から分離することが報告されている。従って、第一の画分中の可溶性のポリマー材料は、未反応のMAHMPおよび他の試薬から分けられる。この空隙容量画分のうち0.1mlの小サンプルを、0.9mlの水で希釈し、次いで0.02mlの0.18MのFeSO
4/0.54Mのクエン酸ナトリウムを添加して、MAHMPによってポリマー材料に与えられる(すなわち、ポリマー中に組み込まれる)Fe結合活性と反応させた。このサンプルのこのような2つのサンプルの450nmでの平均吸光度を決定して、この吸光度の値を、同様に調製された(ただし重合化条件の変更から生じた)サンプルとの比較のための参照のコントロール(100%)に相当するとみなした。変化された合成条件としては、温度(50℃対コントロールの40℃)、ならびに重合化試薬である過硫酸アンモニウムおよびテトラメチルエチレンジアミンの量(例えば、コントロールで用いられる量の50%、またはコントロールで用いられる量の2×)が挙げられた。この可溶性ポリマーの重合化は、ポリビニルピロリドンで調製された同様の材料(すなわち、実施例29で調製されたものなど)について見出されたよりもかなり急速であった。通気サンプルの試験には、空気でのフラッシュ対他の試験サンプルについて行われたような窒素ガスでの通常のフラッシュを含んでいた。重合化の開始の時点での反応混合物の温度はさらに重要であり、重合化試薬である過硫酸塩およびTEMEDを添加する時の最初の温度が20℃を超えると、混合物のゲル化、または極めて粘性のポリマー材料の形成をもたらす場合が多いことが見出された。このことは、十分に高い分子量の場合には、もはや水溶性ではない極めて高分子量のポリマーへの急速な重合化が起こることを示した。TEMED添加の前の少なくとも20℃への試薬溶液の最初の冷却、重合化の間の混合物の有効な温度制御、およびTEMEDのより緩徐な添加(例えば、全量を添加するまで各々5分間隔で漸増的に総TEMEDのうちわずか10%のみが添加される)によって、この可溶性ポリマーのさらに制御された重合化が得られた。重合化の間に試薬および温度の量を変化する結果は、PD10分離の空隙容量画分における材料のFe結合活性に基づく、ポリマーに組み込まれたMAHMPの量に影響し、これらの試験の結果を
図20のグラフに示す。
【0274】
図21にグラフ化された結果は、透析による分離なし、またはPD10脱塩カラムを用いた、重合化された反応混合物の相対的なサイズ分布を示す。すなわち、重合化後の原料の重合化反応混合物のサンプルを、Sepharose CL−6Bのカラムに加えて、水で溶出して、分析用に種々の溶出画分を得た。これらの結果、より高温で重合化を行った場合、より高分子量の材料へのMAHMPの組み込み量の増大が示される。約100mlで溶出する材料は、Sepharose(カラム空隙容量)のサイズ分離の上限に近いほぼ2MDaという極めて高い分子量のポリマー材料に相当するが、約200mlまたはそれより後で溶出する材料は、かなり低い分子量の材料に相当する。未反応のMAHMPは、最後に、すなわち、最高の溶出容積で溶出するであろう。
【0275】
実施例31;可溶性の直鎖のポリビニルピロリドン高分子担体中で共重合された活性なピリジノンキレート剤、対、可溶性の直鎖のポリアクリルアミド高分子担体鎖中で共重合された活性なピリジノンキレート剤を含んでいる、可溶性キレート組成物の分子サイズ(分子量)の比較。
実施例29および実施例30から得られる未処理の重合化反応混合物のサンプルを、8kDaという名目上の排除限界を有する透析チューブ膜を用いて、水に対して透析し、透析膜に保持される8kDaを超える材料を、分子量サイズ分布またはそれらの可溶性のポリマー材料と比較した。サンプルを、Sepharose CL−6Bのカラムに加え、約300mlの水で溶出した。約4.5mlという収集された画分を、0.01mlの0.18MのFeSO
4/0.54Mクエン酸ナトリウムで処理して、MAHMPピリジノンキレート剤の存在を検出し、それらの吸光度を、450nmで測定した。
図22の結果は、実施例29で調製した(TEMEDのコントロール量の2倍を、40℃での重合化で利用した)可溶性の直鎖のポリビニルピロリドン高分子担体中で共重合された活性なピリジノンキレート剤から構成された可溶性ポリマーのサイズ分布を、実施例30で調製した(重合化を50℃で行った)可溶性の直鎖のポリビニルピロリドン高分子担体鎖中で共重合された活性なピリジノンキレート剤から構成された可溶性ポリマーに対して、比較した。
【0276】
これらの結果を、実施例27〜実施例30の結果と一緒にすれば、すなわち、適切な担体材料の選択によって、および重合化条件の制御によって、得られる可溶性ポリマーキレート組成物の相対的な分子サイズ分布を調製することが可能である(すなわち、ある範囲の所望の分子サイズ/重量を達成するように、例えば、ポリビニルピロリドン高分子担体鎖またはポリアクリルアミド高分子担体鎖で作製するなど)ことが示される。例えば、ヒトでの可溶性ポリマー材料の全身的な使用は、すなわち、腎臓および尿路における除去によって身体から排出されるのを可能にするように、比較的低い分子サイズ、例えば、30kDa未満の使用に利点があるが、ヒトでの局所適用、例えば、眼または他の外部部位へは、身体の全身的様相へ容易に吸収されない高分子量の材料の使用が有益である場合がある。
【0277】
実施例32;サイズ排除クロマトグラフィー分離による可溶性ポリマー組成物の精製。
実施例4で調製した未処理の重合化反応生成物の混合物を処理して、以下のような未反応のMAHMPおよび重合化試薬から構成される低分子量画分から分離して、所望の高分子量画分を回収した。重合化混合物の2.5mlのサンプルを、Sephadex G−25の排液されたカラム(PD10分離カラム,GE Healthcare)に加えて、カラムに浸透させた。高分子量成分に相当する、溶出された材料の第一の画分(PD10 V
0)を、3.5mlの脱イオン水を加えることによって得て、溶出された材料を単一の試験管に収集した。低分子量成分に相当する、第二の溶出された画分(>PD10 V
0)を、さらに3.5mlの水を加えることによって別々に得て、第二の画分を別の試験管に収集した。2つの画分のサンプルを、Sepharose C1−6Bのカラムに適用し、300mlの水で溶出させることによって分析して、それらの含まれる材料の相
対的なサイズ分布を明らかにし、ここで溶出された画分は、280nm(未処理)、および450nm(0.01mlの0.18MのFeSO
4/0.54Mクエン酸ナトリウムの添加後)の両方の吸収について分析した。未処理の重合混合物および8kDaという名目上の排除限界を有する透析チューブを用いる透析後の重合化混合物のサンプルもまた、クロマトグラフィーにかけて、比較のために分析した。この精製のための結果は、
図23に示す。これらの結果によって、所望の高い方の分子量の可溶性ポリマーキレーターを、低い方の分子量の残留反応生成物から、Sephadex G−25を用いるサイズ排除分離クロマトグラフィーによって分離することが可能であり、この分離によって、透析分離によって得られるものと同様の分離および精製が得られることが示される。例えば、Sephadex G−25でのカラム分離による所望のポリマーキレーターの分離精製および回収は、使用のために大量の材料を得るための大規模化に関して有利である。
【0278】
実施例33;可溶性の直鎖のポリビニルピロリドン高分子担体中に共重合された活性なピリジノンキレート剤を含んでいる可溶性キレート組成物の鉄結合能力
実施例4の方法によって、または実施例27試験5の方法によって得られた0.5mgの可溶性ポリマーのサンプル(水の中)を、一連の別々の試験管に入れて、ここに種々の量のFeSO
4(3×モル過剰のクエン酸ナトリウムに含有される)を添加し、全てを水で最終的に同じ容積にした。この試験管を混合して、各々のサンプルの吸光度を450nmで測定した。その結果を
図24にグラフで示しており、ここでは、添加される鉄の量に対する吸光度を、各々のポリマーサンプルについてプロットする。同じキレートポリマーの試験シリーズ中の各々の試験管は、同じ潜在的な総鉄結合能力を有する同じ量の組成物を含んだ。従って、最大吸収値(その後に、追加の鉄なしでは吸光度の増大は生じなかった)によって、キレート組成物の鉄結合能力を飽和するために必要な鉄の添加の量が示された。これらの結果から、可溶性キレーターの両方のサンプルの最大Fe結合能力は、同様であり、両方ともキレートポリマー1mgあたり約2μモルまたは約10%(w/w)であった。両方の可溶性キレート組成物とも、
図18に示されるように約12kDaの平均分子量を有することに基づいて、この組成物の特異的結合能は、可溶性組成物の1μモルあたり約24,000μモルであった。
【0279】
この結果は、鉄結合防御タンパク質ラクトフェリンと比較可能であり、ここでは、80kDa/モルという分子量を有するラクトフェリンの各モルが、1モル当たり2原子のFeのみを結合する。従って、可溶性キレート組成物は、かなり大きいFe容量、すなわち、ラクトフェリンよりも何桁も大きいFe容量を有した。
【0280】
実施例34;可溶性キレート組成物は、抗真菌剤ナイスタチンに対するCandida
albicansの感受性を増大する。
実施例18および実施例19のように追加のFeなしで規定の培地で増殖した酵母細胞Candida albicans ATCC 10231を、ナイスタチン(ヒトで真菌増殖および病原性を制御するために一般に用いられるポリエン系抗生物質の分類の原型の抗真菌剤)、およびナイスタチンに加えて可溶性キレート組成物(実施例4で調製)に対するそれらの感受性について、同じ培地中で試験した。ポリエンの分類の抗真菌剤の典型であるナイスタチンは、その抗真菌活性の機構の一部として膜損傷を生じる。
【0281】
実施例15で利用した標準のNCCLS MIC手順を利用して、80%の増殖阻害をもたらすMIC濃度を、その薬剤との異なる長さの接触(4日、10日および21日)後に決定した。下の表に示す結果によって、この酵母が、可溶性キレーターの存在下にあった場合、ナイスタチンに対してかなり感受性であって、この可溶性キレーターは、ナイスタチンに対する酵母の感受性に対して実質的な改善をもたらしたことが示された。これらの試験では、ごく少量の可溶性キレート組成物が添加され、この少量の可溶性キレーターの添加だけ(すなわち、ナイスタチンを添加しない場合)では、酵母の増殖に顕著な影響
はなかったことに注目することが重要である。本実施例によって、本発明で開示される可溶性キレート組成物の1つによる従来の抗真菌の抗生物質ナイスタチンの抗細胞活性の増強が示される。
【0282】
【表10】
【0283】
これらの結果によって、本発明の少量の可溶性キレート組成物の添加でさえ、抗細胞性の抗生物質剤ナイスタチンに対する酵母の感受性を増大することが示される。
【0284】
実施例35;可溶性キレート組成物は、抗細胞剤フルオロシトシンに対する細胞の感受性を増大する
フルオロシトシンは、真菌細胞および癌細胞を含めて種々の真核生物細胞に対して抗細胞活性を有するピリミジン類似体の薬物である。これは、真核生物細胞内に取り込まれて活性型に変換されるプロドラッグであり、その細胞内で核酸合成を妨害し、そのようなものとして抗癌(代謝拮抗)薬のグループの代表である。本発明の可溶性キレート組成物がその抗細胞活性を増強する能力を、酵母細胞を典型的な代表的な真核生物試験細胞系として用いて、試験した。
【0285】
実施例18および実施例19のようなFeの添加なしの規定の培地で増殖した酵母細胞Candida albicans ATCC 10231を、同じ培地中で、5−フルオロシトシン(ヒトでの真菌および癌細胞増殖を制御するために一般に用いられるピリジン類似体の分類の原型例として)およびフルオロシトシンに加えて可溶性のキレート組成物(実施例4に調製)に対するそれらの感受性に関して試験した。
【0286】
実施例15で利用される標準のNCCLS MIC手順を利用して、80%の増殖阻害をもたらすMIC濃度を、その薬剤との異なる長さの接触(4日、10日および21日)後に決定した。下の表に示す結果によって、この酵母が、可溶性キレーターの存在下にあった場合、フルオロシトシンに対してかなり感受性であったことが示され、この可溶性キレーターは、フルオロシトシンに対する酵母の感受性に対して実質的な改善をもたらした。これらの試験では、ごく少量の可溶性キレート組成物が添加され、この少量の可溶性キレーターの添加だけ(すなわち、フルオロシトシンを添加しない場合)では、酵母の増殖に顕著な影響はなかったことに注目することが重要である。本実施例によって、本発明で開示される可溶性キレート組成物の1つによる従来の抗真菌の抗細胞活性の増強が示される。
【0287】
【表11】
【0288】
実施例36;従来用いられる保存料(防腐剤)であるソルベートと組み合わせた半透過性デバイス内の可溶性キレート組成物の添加による製品の防腐の実証。
追加の鉄の添加なし(すなわち、酵母にとって利用可能なわずかだが十分なFeが、他の添加された培地成分とともに存在して与えられた)で、例えば実施例18の規定の培地で増殖させた酵母細胞Candida albicans ATCC 10231を、同じ培地(ここへソルベートを0.025mg/mlで添加した)を用いて振盪フラスコ培養中でチャレンジ増殖試験において、保存料ソルベートに対するその感受性について試験した。1つのこのような培養物中には、コントロールとして培地だけが存在した。第二に、ソルベートが、培地中に0.025mg/mlで存在し、そして第三の培地では、ソルベートは、0.025mg/mlで、実施例4で調製した0.3mgの可溶性キレート組成物とともに含まれた。このキレーターは、培養培地に直接加えられるのではなく、培養培地内の透析膜内に提供され、その結果透析膜デバイスの外面のみが、培養培地のバルクと接触され、キレーターは膜バッグ内にある。この透析膜は、可溶性キレーターを調製するために用いた同じ種類であり、従って、ここでのその使用によって、添加されたキレーターは、半透過性膜、すなわち透析チューブ内から、培養培地と接触するように、膜デバイス内に保持されることが保証された。従って、キレーターは酵母細胞と直接の物理的な接触ではないが、なんらかの鉄またはソルベートまたは他の低分子量培地構成要素または低分子量酵母細胞生成物は、試験環境において、半透過性デバイスの内外に拡散し得る。第四の試験では、同様の透析バッグ内に0.3mg可溶性キレーターを添加したが、ソルベートは培地には添加しなかった。全ての4つの試験培養物に酵母を接種して、増殖を、120時間の試験期間にわたって600nmでの光学密度測定によって試験培地中で間隔を空けてモニターした。これらの試験の結果を、
図25のグラフに示す。これらの結果によって、ソルベートのみでは酵母増殖の遅延および緩徐化だけだが、ソルベートとともに半透過性デバイス中にキレーターがあれば、増殖を完全に妨げたことが示される。キレーターは、半透過性デバイス内で単独で提供されれば、増殖を実質的に遅らせるが、この試験では、キレーターのみでは最終的には増殖が生じた。
【0289】
実施例37;半透過性デバイス内の可溶性キレート組成物の添加による抗真菌剤フルコナゾールの活性の増強の実証。
追加の鉄の添加なし(すなわち、酵母にとって利用可能なわずかだが十分なFeが、他の添加された培地成分とともに存在して与えられた)で、例えば実施例18の規定の培地で増殖させた酵母細胞Candida albicans ATCC 10231を、同じ培地(ここへフルコナゾールを0.083μg/mlで添加した)を用いて振盪フラスコ培養中でチャレンジ増殖試験において、抗真菌抗生物質剤フルコナゾールに対するその感受性について試験した。1つのこのような培養物中には、コントロールとして培地だけが存在した。第二に、フルコナゾールが、培地中に0.083μg/mlで存在し、そして第三の培地では、フルコナゾールは、0.083μg/mlで、実施例4で調製した0.3mgの可溶性キレート組成物とともに含まれた。このキレーターは、培養培地に直接
加えられるのではなく、培養培地内の透析膜内に提供され、その結果透析膜デバイスの外面のみが、培養培地のバルクと接触され、キレーターは膜バッグ内である。この透析膜は、可溶性キレーターを調製するために用いた同じ種類であり、従って、ここでのその使用によって、添加されたキレーターは、半透過性膜、すなわち透析チューブ内から、培養培地と接触するように、膜デバイス内に保持されることが保証された。従って、キレーターは酵母細胞と直接の物理的な接触ではないが、なんらかの鉄またはソルベートまたは他の低分子量の培地構成要素または低分子量の酵母細胞代謝生成物は、試験環境において、半透過性デバイスの内外に拡散し得る。第四の試験では、同様の透析バッグ内の0.3mg可溶性キレーターを添加したが、フルコナゾールは培地には添加しなかった。全ての4つの試験培養物に酵母を接種して、増殖を、120時間の試験期間にわたって600nmでの光学密度測定によって試験培地中で間隔を空けてモニターした。これらの試験の結果を、
図26のグラフに示す。これらの結果によって、フルコナゾールのみでは酵母増殖の遅延および部分的な制限だけだが、フルコナゾールとともに半透過性デバイス中にキレーターがあれば、増殖を完全に妨げたことが示される。キレーターは、半透過性デバイス内で単独で提供されれば、増殖を実質的に遅らせるが、この試験では、キレーターのみでは最終的には増殖が生じた。
【0290】
実施例38;鉄除去によって微生物増殖を制限する能力の実証、および微生物増殖のための鉄供給の用量依存性の確立。
鉄を、化学的に規定された細胞栄養培養培地であるRPMI−1640培養培地(Sigma Chemical Company)から選択的に除去した。この培地を、実施例5のように調製した不溶性のキレートを含む2g/リットルの液体培地と、室温で4時間振盪しながら接触させ、続いて、濾過して、処理した培地から不溶性のキレート組成物を分けた。この手順によって、Feが部分的に除去された(すなわち、極めて低い残留濃度まで)基本培地を得た、抽出された培地を、基本の培養培地として用いるために濾過滅菌して、ここに既知量のFeを再添加した。鉄を濃縮溶液として添加して、培地中で所望の最終濃度を達成して、鉄溶液は、FeSO
4から作成し、ここでは3M過剰のクエン酸ナトリウムが含有される溶液を用いて、全ての鉄がFe−クエン酸塩複合体として存在するようにして、その安定性および溶解度を確保した。処理した培地をその鉄含量に関して測定し、他の生物学的に重要な金属および元素は、高解像度のプラズマ発光分析によって、未処理の培地についての分析と比較した。下の表のデータによって、この培地からのFe除去に関する比較的高い特異性が示される。Mg、Ca、Pなどのような微生物細胞栄養に必要な主な鉄および金属は、不溶性キレート組成物処理によって除去されなかった。鉄とより密接に化学的に関連するが、細胞栄養としては鉄ほど重要ではないいくつかの微量金属がまた、不溶性のキレート組成物によって部分的に除去され、そしてこれらの金属としては、Mn、CoおよびMoが挙げられた。処理の結果としてNiおよびBaのような特定の元素にみられた濃度上昇は、処理工程の間の汚染元素導入のせいである可能性が高い。このような汚染物の導入は、不溶性組成物および濾過材料などのより広範な予備浄化の洗浄を通じて回避できよう。
【0291】
【表12】
【0292】
実施例13〜実施例19で試験されるものに添加するために選択された、代表的な細菌(グラム陽性およびグラム陰性の両方の種類)および真菌(酵母)を、基本培地中での増殖について試験して、この基本培地には鉄を添加した。試験微生物としては、Pseudomonas aeruginosa株PA01、Escherichia coli ATCC#25922、Staphylococcus aureus ATCC#29213およびSaccharomyces cerevisiaeDL1が含まれた。
図27のグラフに示す結果によって、鉄含量の低下したRPMI培地(残留のFe濃度は約0.01μMのFe)でのこれらの試験微生物の増殖の大きな低下または欠失が示される。3つの細菌種は、ちょうど0.01μMというFe濃度を有する処理された培地中では有意な程度まで増殖できなかったが、増殖の能力は、Fe添加によって用量依存性の方式で培地中で修復された。試験した3つの細菌株のうち、Pseudomonas aeruginosaは、より高いFe必要性を有するようであって、1.4μMの添加によって完全な増殖が修復された(より高用量(グラフには示さない)でも同様の結果が得られた)。Staphylococcus aureusは、最小のFe必要性を有すると思われ、ちょうど0.09μMで完全な増殖が得られた。酵母Saccharomyces
cerevisiaeは、抽出されたRPMI中でわずかに増殖し、完全な増殖能力は、0.09μMのFeの添加によって修復された。
【0293】
実施例39;微生物の増殖に対する本発明の可溶性キレート組成物および従来の低分子キレーターの影響。
実施例4および実施例6で調製された可溶性キレート組成物、ならびに商業的に臨床上用いられている低分子量(<1500Da)キレーターであるデスフェラル(Novartis Pharmaceutical Company)およびデフェリプロン(Apotex Pharmaceutical Company)を、実施例38のように処理したRPMI培地であって、ただしここにFeを、部分的なFe制限条件下で細菌の増殖を許容した既知濃度まで再添加した(すなわち、ヒトまたは他の動物中でのこれらの細菌による感染の間に利用可能な低Fe環境供給を刺激するように)RPMI培地中で、代表的な病原性細菌種に対するそれらのMICについて試験した。MIC試験は、実施例15に記載のものと同様の方式で行い、ただし、試験の系列は、マルチウェルのマイクロタイタープレートで行い、各々のウェルでは別の処理試験を行った。
【0294】
下の表の結果によって、本発明の可溶性キレーターが、3つの細菌病原体の全てに対して、試験した両方のFeレベルで阻害性であったことが示され、ここで試験したFe濃度が高いほどMIC値はわずかに増大し、このことは、この阻害が、試験中のFe量に関連していたことを示している。表中で≦として示されるMIC値については、これらは、試験した最低濃度で完全な阻害を示した。表中で>として示されるMIC値については、これらは、試験した最高濃度で阻害を示さなかった。臨床的に用いられたキレーターは、Pseudomonas aeruginosaの場合は阻害性ではなく、試験した最高濃度で(デスフェラルに関しては300μg/mlおよびデフェリプロンに関しては100μg/ml)阻害は観察されなかった。Staphylococcus aureusは、デスフェラルによって阻害されず、本発明の可溶性組成物についてよりも少ない程度までデフェリプロンによって阻害された。逆に、Escherichia coliは、デフェリプロンによっては阻害されないが、デスフェラルによっては実質的に阻害された。これらの結果によって、細胞の外部環境においてFeをしっかりと封鎖し、標的されている細胞によってそれらのFeについて取り込まれることもなく、表面アクセス可能でもない、本発明のキレート組成物による、感染の間の宿主中に存在するような低Fe環境で獲得可能な増殖の一般的な阻害が示される。この結果は、低分子量(<1500Da)キレーター(標的されている細胞中へ取り込まれ得るか、または処理されている細胞の表面でそれらのFeについてアクセス可能である)で観察される均一な感受性の欠如および感受性の可変性とは、これらの従来のキレーターの低い分子量および/またはこのような低分子量キレーターのFe封鎖に関する低い有効性に起因して、正反対である。
【0295】
【表13】
【0296】
実施例40;栄養的鉄供給が、従来利用される抗生物質に対する病原性微生物の感受性に影響することの実証。
代表的な病原性細菌(グラム陽性およびグラム陰性の両方の種類)を、正常なRPMI培地(その典型的な0.11μMのFe含量を有する)中で、およびRPMI培地(実施例38のように本発明の不溶性キレート組成物のうちの1つで処理されており、次にここにFeを再添加して、ヒトまたは他の動物の感染の間の鉄制限環境において典型的な比較的低い既知のFe添加を行う)の両方において、従来利用される抗生物質剤に対するそれらの感受性について試験した。試験微生物としては、Pseudomonas aeruginosa株PA01、Escherichia coli ATCC#25922、およびStaphylococcus aureus ATCC#29213が含まれた。下の表に示される結果によって、各々の細菌が、未処理のRPMI培地中におけるより高いFe含量に対して、より低いFe含量の培地中で試験した抗生物質の少なくともいくつかについては、感受性の増大(MICの低下)を示したことが示される。表中で≦として示されるMIC値については、これらは、試験した最低濃度で完全な阻害を示した。表中で>として示されるMIC値については、これらは、試験した最高濃度で阻害を示さなかった。試験されたPseudomonas aeruginosaの株は、試験されたほとんどの抗生物質に対して耐性であった。Staphylococcus aureusおよびEscherichia coliは両方とも、試験された抗生物質のうちのいくつかに対して感受性の増大を示した。これらの結果によって、種々の化学的クラスの抗細胞剤が、抗細胞剤によって標的される病原性細菌に対して鉄が利用できないようにすることを通じて種々の病原性細菌に対するそれらの活性に関して改善され得ることがさらに一般的に示される。
【0297】
【表14】
【0298】
実施例41;フラビンの産生に対する本発明の可溶性キレート組成物の影響、Candida albicansによる二次代謝物産生活性に影響する例。
実施例18に関して規定の抽出培地中で、およびこの抽出された培地(補充の鉄の既知の添加物を(FeSO
4/3M過剰のクエン酸ナトリウムの溶液として)添加した)で増殖された、酵母細胞Candida albicans ATCC 10231を、フラビン化合物の産生に関して試験した。
図28に示される吸収スペクトルを有する培養培地中での黄色い色素沈着によって証明されるフラビン産生(培養培地中に分泌された産生さ
れたフラビンからの約375nmおよび450nmでの吸収ピーク)は、増殖の間、低い鉄濃度では見られたが高い鉄濃度では見られなかった。フラビン産生は、
図29に示されるこれらの試験の結果では、各々の量の鉄添加で、オーブン乾燥した細胞バイオマス1gあたりでの450nmの吸収単位として表現された。これらの結果によって、低量の鉄が酵母細胞に供給されたとき、フラビン産生が高く、より高い鉄の量が存在する場合、酵母によるフラビン産生が最低であることが示される。
【0299】
フラビン産生が比較的大量の利用可能な鉄に起因して抑制される条件下で調製された培養物を、次いで、実施例4または実施例6で調製された本発明の可溶性キレーターの添加後にフラビン産生について、すなわち、培養物にキレーターを添加していないコントロールと比べて試験した。他のフラビン抑制の鉄レベルを含んでいるこのような培養物への、これらの可溶性キレーターのいずれかの、例えば、0.25mg/mlの濃度での添加は、450nmで吸収される培養培地中での細胞産物材料の産生の増大によって観察されるように、この酵母によるフラビン産生を増強した。従って、可溶性キレーターは、培養培地中で鉄を封鎖し、これによって、鉄は酵母細胞によってアクセスできなくなり、従って、酵母細胞によるフラビンの産生が誘導された。
【0300】
実施例42;ヒドロキシエチルデンプンまたはデキストランに加えられたミモシンを含んでいる可溶性キレート組成物の合成。
実施例2で調製された可溶性のヒドロキシエチルデンプンまたは可溶性デキストランのサンプルを、ミモシン(β−(N−(3−ヒドロキシ−4−ピリドン))−α−アミノプロピオン酸)の0.075M溶液と、中性からわずかにアルカリのpHで反応させた。次いで、ミモシンのアミノ基とポリマー上のアルデヒド基との間で形成されたシッフ塩基を、連結を安定化するために過剰のシアノ水素化ホウ素ナトリウムによって還元して、一方で、デンプンまたはデキストラン上の残りの未反応のアルデヒド基を、過剰の水素化ホウ素ナトリウムで還元した。この可溶性のキレートポリマー組成物の生成物を、水に対してVisking透析バッグ中での透析によって、48時間にわたって透析水を5回交換して精製した。用いた透析チューブの分子量カットオフサイズは、約10,000ダルトンであり、従って、この透析バッグ中に保持されている最終の可溶性キレート組成物の生成物は、≧10,000ダルトンという分子量を有した。得られた可溶性のキレート組成物の鉄結合能力を、キレート組成物の試験部分への過剰の鉄−クエン酸塩溶液の添加によって確認した。試験した部分は赤く変わり、このことは、担体ポリマーに結合したミモシンによって貢献されるようなキレーターピリジノン基に対する鉄の結合を示している。10,000ダルトン未満のサイズの材料を透析して除くこと以外の工程は、これらのサンプル調製には行わなかったことが理解されるべきである。さらに精錬された、すなわち、下方分子量(例えば、1500ダルトンを超える)生成物またはより小さい生成物のサイズ分布を得るためのさらなる工程を、限外濾過および/またはクロマトグラフィー精製のような、すなわち所定の分子量分布の、より精錬された生成物を得ることに関して、従来公知の方法を用いて行ってもよいことに注意すべきである。最終のキレート組成物は、凍結乾燥によって得て、懸濁の水を除去して、この乾燥生成物は、使用の際の水に自由に溶けることが見出された。
【0301】
本開示全体を通じて言及される引用文献の全内容は、米国特許第4,530,963号;同第5,256,676号;同第5,302,598号;同第5,573,800号;同第5,837,677号;同第5,663,201号;同第5,656,591号;同第6,165,484号;同第6,267,979号;同第6,767,741号;同第6,793,914号;同第6,825,204号;同第6,893,630号;同第6,932,960号;同第7,410,985号;および同第7,446,089号を含めて引用文献によって本明細書に援用される。
【0302】
本発明は、複数の例示的な実施例に関して記載された。しかし、多数の改変および変更が、特許請求の範囲に規定されるような本発明の範囲から逸脱することなくなされ得ることが当業者に理解される。
【0303】
引用文献
以下の引用文献も参照によって本明細書に援用される:
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