特許第6266537号(P6266537)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6266537軟組織軟骨境界面検出方法、軟組織軟骨境界面検出装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6266537
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】軟組織軟骨境界面検出方法、軟組織軟骨境界面検出装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/08 20060101AFI20180115BHJP
【FI】
   A61B8/08ZDM
【請求項の数】15
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-554214(P2014-554214)
(86)(22)【出願日】2013年11月5日
(86)【国際出願番号】JP2013079826
(87)【国際公開番号】WO2014103512
(87)【国際公開日】20140703
【審査請求日】2016年9月24日
(31)【優先権主張番号】特願2012-286738(P2012-286738)
(32)【優先日】2012年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】特許業務法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】喜屋武 弥
【審査官】 永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−079792(JP,A)
【文献】 特開2010−000305(JP,A)
【文献】 特開2011−050555(JP,A)
【文献】 特開2011−188956(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0203430(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 − 8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検知体内の軟組織と軟骨の境界面を検出する軟組織軟骨境界面検出方法であって、
第1の状態で超音波信号を前記被検知体内に送信して第1のエコー信号を得る第1エコー信号送受信工程と、
第2の状態で超音波信号を前記被検知体内に送信して第2のエコー信号を得る第2エコー信号送受信工程と、
前記第1のエコー信号を用いて前記第1の状態の軟骨下骨エコー信号を検出し、前記第2のエコー信号を用いて前記第2の状態の軟骨下骨エコー信号を検出する軟骨下骨検出工程と、
前記第1の状態の軟骨下骨エコー信号と前記第2の状態の軟骨下骨エコー信号とから、前記第1の状態から前記第2の状態への軟骨下骨の移動ベクトルを検出する、移動ベクトル検出工程と、
前記軟骨下骨の移動ベクトルにより、前記第1のエコー信号の各サンプル位置と、前記第2のエコー信号の各サンプル位置との位置合わせを行い、位置合わせ後の同一サンプル位置のエコー信号に基づいて、前記軟組織と前記軟骨の境界面を検出する、境界面検出工程と、
を有することを特徴とする軟組織軟骨境界面検出方法。
【請求項2】
請求項1に記載の軟組織軟骨境界面検出方法であって、
前記境界面検出工程は、
前記位置合わせ後における各サンプル位置での前記第1のエコー信号と前記第2のエコー信号の類似度を検出し、前記類似度から前記境界面を検出する、
軟組織軟骨境界面検出方法。
【請求項3】
請求項2に記載の軟組織軟骨境界面検出方法であって、
前記境界面検出工程は、
前記類似度として、前記サンプル位置を含む比較対象領域の前記第1のエコー信号と前記第2のエコー信号の相関係数を算出し、該相関係数に基づいて前記境界面を検出する、
軟組織軟骨境界面検出方法。
【請求項4】
請求項2に記載の軟組織軟骨境界面検出方法であって、
前記境界面検出工程は、
前記類似度として、前記サンプル位置を含む比較対象領域の前記第1のエコー信号と前記第2のエコー信号からノルムを算出し、当該ノルムに基づいて前記境界面を検出する、
軟組織軟骨境界面検出方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の軟組織軟骨境界面検出方法であって、
前記移動ベクトル検出工程は、
前記第1の状態の軟骨下骨エコー信号に対して注目領域を設定し、
前記第2の状態の軟骨下骨エコー信号に対して下骨用比較対象領域を設定し、
前記注目領域に対して類似度が高い前記下骨用比較対象領域を類似領域として検出し、前記注目領域と前記類似領域との位置関係から前記移動ベクトルを検出する、
軟組織軟骨境界面検出方法。
【請求項6】
請求項5に記載の軟組織軟骨境界面検出方法であって、
前記移動ベクトル検出工程は、
前記第2の状態の軟骨下骨エコー信号に対して、前記注目領域よりも広い下骨用探索領域を設定し、該下骨用探索領域内で前記下骨用比較対象領域を設定する、
軟組織軟骨境界面検出方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の軟組織軟骨境界面検出方法であって、
前記移動ベクトル検出工程は、
前記類似度として、前記第1の状態の軟骨下骨エコー信号と前記第2の状態の軟骨下骨エコー信号の相関係数を算出し、該相関係数に基づいて前記類似領域を検出する、
軟組織軟骨境界面検出方法。
【請求項8】
請求項5または請求項6に記載の軟組織軟骨境界面検出方法であって、
前記移動ベクトル検出工程は、
前記類似度として、前記第1の状態の軟骨下骨エコー信号と前記第2の状態の軟骨下骨エコー信号のノルムを算出し、該ノルムに基づいて前記類似領域を検出する、
軟組織軟骨境界面検出方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の軟組織軟骨境界面検出方法であって、
前記軟骨下骨検出工程は、
前記第1のエコー信号の信号強度を深度方向に沿って表面側から順次取得していき、所定深度に亘り、前記信号強度が軟骨下骨検出用閾値未満であることを検出した後に、前記軟骨下骨検出用閾値以上の信号強度を検出した範囲の信号を、前記第1の状態の軟骨下骨エコー信号として検出し、
前記第1の状態の軟骨下骨エコー信号と前記第2のエコー信号との類似度を検出し、最も類似度の高いエコー信号を前記第2の状態の軟骨下骨エコー信号として検出する、
軟組織軟骨境界面検出方法。
【請求項10】
請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の軟組織軟骨境界面検出方法であって、
前記軟骨下骨検出工程は、
前記第1のエコー信号の信号強度を深度方向に沿って深部側から順次取得していき、前記軟骨下骨検出用閾値以上の信号強度を検出した範囲の信号を、前記第1の状態の軟骨下骨エコー信号として検出し、
前記第1の状態の軟骨下骨エコー信号と前記第2のエコー信号との類似度を検出し、最も類似度の高いエコー信号を前記第2の状態の軟骨下骨エコー信号として検出する、
軟組織軟骨境界面検出方法。
【請求項11】
被検知体内の軟組織と軟骨の境界面を検出する軟組織軟骨境界面検出装置であって、
第1の状態で超音波信号を前記被検知体内に送信して第1のエコー信号を出力し、前記第1の状態とは前記軟組織と前記軟骨との位置関係が異なる第2の状態で前記超音波信号を前記被検知体内に送信して第2のエコー信号を出力する送受信部と、
前記第1のエコー信号を用いて前記第1の状態の軟骨下骨エコー信号を検出し、前記第2のエコー信号を用いて前記第2の状態の軟骨下骨エコー信号を検出し、前記第1の状態の軟骨下骨エコー信号と前記第2の状態の軟骨下骨エコー信号とから前記第1の状態から前記第2の状態への軟骨下骨の移動ベクトルを検出し、前記軟骨下骨の移動ベクトルにより、前記第1のエコー信号の各サンプル位置と、前記第2のエコー信号の各サンプル位置との位置合わせを行い、位置合わせ後の同一サンプル位置のエコー信号に基づいて、前記軟組織と前記軟骨の境界面を検出する、データ解析部と、
を備えることを特徴とする軟組織軟骨境界面検出装置。
【請求項12】
請求項11に記載の軟組織軟骨境界面検出装置であって、
前記送受信部は、前記エコー信号を送受信する面に平行な方向に沿って配列された複数の振動子を備える、
軟組織軟骨境界面検出装置。
【請求項13】
請求項11に記載の軟組織軟骨境界面検出装置であって、
前記送受信部は、前記エコー信号を送受信する面に平行な方向と、該エコー信号を送受信する面に平行な方向と前記超音波信号の送信方向に直交する方向とから規定される領域に二次元的に配列された複数の振動子を備える、
軟組織軟骨境界面検出装置。
【請求項14】
請求項11に記載の軟組織軟骨境界面検出装置であって、
前記送受信部は、単一の振動子と、該振動子を、前記エコー信号を送受信する面に平行な方向に移動させる移動機構とを備える、
軟組織軟骨境界面検出装置。
【請求項15】
請求項12乃至請求項14のいずれかに記載の軟組織軟骨境界面検出装置であって、
前記エコー信号を送受信する面に平行な方向は、前記軟組織と前記軟骨の相対位置を変化させる方向である、
軟組織軟骨境界面検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟骨と軟組織との境界面を、外部からの超音波で検出する軟組織軟骨境界検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軟骨の状態を診断するための情報を生成する装置が、各種考案されている。例えば、特許文献1の超音波診断装置では、超音波を送受波するプローブを、膝の表面に当接させ、当該プローブで得た膝内部からのエコー信号で、軟骨の状態を診断している。すなわち、特許文献1の超音波診断装置は、非侵襲で軟骨の状態を診断している。そして、特許文献1の超音波診断装置では、深度方向のエコー信号のレベル(強度)の差から、軟骨を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の装置および方法では、軟組織(筋肉や皮膚)のエコー信号レベルと軟骨のエコー信号レベルとの差から、軟骨表面を検出している。したがって、軟組織と軟骨とで、エコー信号のレベルに差が無ければ、軟骨表面を正確に検出することができない。
【0005】
そして、概ね従来の超音波信号では、軟組織と軟骨表面との境界面で急激に且つ正確にエコー信号レベルが変化するわけではなく、この境界面においてエコー信号レベルに大きな差が無い。このため、従来の方法では、軟骨表面を正確に検出することができない。
【0006】
本発明の目的は、非侵襲で軟組織と軟骨表面の境界面を正確に検出できる軟組織軟骨境界面検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、軟組織と軟骨の境界面を検出する軟組織軟骨境界面検出方法に関するものであって、次の特徴を有する。軟組織軟骨境界面検出方法は、第1エコー信号送受信工程、第2エコー信号送受信工程、軟骨下骨検出工程、移動ベクトル検出工程、および、境界面検出工程を有する。
【0008】
第1エコー信号送受信工程は、第1の状態で超音波信号を被検知体内に送信して第1のエコー信号を得る。第2エコー信号送受信工程は、第2の状態で超音波信号を被検知体内に送信して第2のエコー信号を得る。
【0009】
軟骨下骨検出工程は、第1のエコー信号から第1の状態の軟骨下骨エコー信号を検出し、第2のエコー信号から第2の状態の軟骨下骨エコー信号を検出する。
【0010】
移動ベクトル検出工程は、第1の状態の軟骨下骨エコー信号と第2の状態の軟骨下骨エコー信号とから、第1の状態から第2の状態への軟骨下骨の移動ベクトルを検出する。
【0011】
境界面検出工程は、移動ベクトルに基づいて第1の状態と第2の状態のエコー信号のサンプル位置を補正して、軟組織と軟骨の境界面を検出する。
【0012】
この方法では、軟骨が軟骨下骨に付着しており、軟組織が軟骨に付着しておらず軟組織が軟骨表面を横滑りできるようになっていることを利用している。
【0013】
超音波信号を送信するプローブを被検知体に接触させて移動させると、軟組織は追随し、軟骨および軟骨下骨は追随しない。したがって、プローブに対する軟骨下骨の位置変化と軟骨の位置変化とは一致し、移動ベクトルに相当するが、これらの位置変化とプローブに対する軟組織の位置変化とは一致しない。また、プローブを被検知体に接触させた状態で、軟組織と軟骨および軟骨がある被検知体側を屈曲させても、同様に、プローブに対する軟骨下骨の位置変化と軟骨の位置変化とは一致し、プローブに対する軟骨下骨の位置変化と軟組織の位置変化とは一致しない。
【0014】
したがって、移動ベクトルによって第1の状態のエコー信号のサンプル位置と第2の状態のエコー信号のサンプル位置を補正して、各サンプル位置のエコー信号を比較すれば、比較結果が軟組織と軟骨(および軟骨下骨)とで異なる。この異なる点を利用することで、軟組織と軟骨とを判別でき、軟組織と軟骨との境界面を検出できる。
【0015】
また、この発明の軟組織軟骨境界面検出方法では、軟骨下骨検出工程は、第1のエコー信号の信号強度を深度方向に沿って順次取得していき、軟骨下骨検出用閾値以上の信号強度を検出した範囲の信号を、第1の状態の軟骨下骨エコー信号として検出する。軟骨下骨検出工程は、第1の状態の軟骨下骨エコー信号と第2のエコー信号との類似度を検出し、最も類似度の高いエコー信号を第2の状態の軟骨下骨エコー信号として検出する。
【0016】
また、この発明の軟組織軟骨境界面検出方法では、軟骨下骨検出工程は、第1のエコー信号の信号強度を深度方向に沿って深部側から順次取得していき、軟骨下骨検出用閾値以上の信号強度を検出した範囲の信号を、第1の状態の軟骨下骨エコー信号として検出する。軟骨下骨検出工程は、第1の状態の軟骨下骨エコー信号と第2のエコー信号との類似度を検出し、最も類似度の高いエコー信号を第2の状態の軟骨下骨エコー信号として検出する。
【0017】
これらの方法では、軟骨下骨の具体的な検出方法を示している。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、膝等の被検知体の外部から超音波信号を送信し、そのエコー信号を被検知体の外部で受信しながら、軟組織と軟骨表面との境界面を正確に検出することができる。これにより、軟骨からのエコーを正確に検出することができ、軟骨の診断に効果的に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る軟組織軟骨境界検出装置10の構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態に係る軟組織軟骨境界検出装置10のプローブ100の被検知体に対する設置態様を示す図である。
図3】本発明の実施形態に係る軟骨表面の検出概念を説明するための図である。
図4】本発明の実施形態に係る軟組織軟骨境界面検出方法のフローチャートである。
図5】第1状態[T1]と第2状態[T2]とでの各エコー信号の波形例を示す図である。
図6】本実施形態に係る移動ベクトルの検出概念を説明するための波形図である。
図7】本実施形態に係る移動ベクトルの定義を示す図である。
図8】本実施形態に係る移動ベクトルの分布状態を示す図である。
図9】エコーデータが軟骨901に属するか軟組織903に属するかを検出する方法(第1の方法)を説明するための波形図である。
図10】エコーデータが軟骨901に属するか軟組織903に属するかを検出する方法(第2の方法)を説明するための波形図である。
図11】振動子を移動させるメカニカルスキャンによる検出構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態に係る軟組織軟骨境界面検出方法および軟組織軟骨境界面検出装置について、図を参照して説明する。図1は本発明の実施形態に係る軟組織軟骨境界検出装置10の構成を示すブロック図である。図2は、本実施形態に係る軟組織軟骨境界検出装置10のプローブ100の被検知体に対する設置態様を示す図であり、図2(A)は第1状態(t=T1)の場合を示し、図2(B)は第2状態(t=T2)の場合を示す。なお、以下の説明では、プローブ100を移動させる例を示したが、被検知体を動かす場合にも、以下の方法や構成を適用できる。例えば、被検知体である膝にプローブ100を当接して固定し、膝を屈伸させるような場合であっても、適用できる。すなわち、第1状態[T1]と第2状態[T2]とにおいて、軟組織と軟骨との位置関係が変化するような方法および構成であれば適用できる。
【0021】
図3は、本実施形態に係る軟組織軟骨境界面の検出概念を説明するための図であり、図3(A)は第1状態[T1](t=T1)を示し、図3(B)は第2状態[T2](t=T2)を示す。図3は、超音波信号が送信される領域およびその近傍領域の表面を平坦な平面に置き換えて見たものである。
【0022】
軟組織軟骨境界面検出装置10は、操作部11、送信制御部12、エコー信号受信部13、データ解析部14、およびプローブ100を備える。送信制御部12、エコー信号受信部13およびプローブ100が、本発明の「送受信部」に相当する。
【0023】
操作部11は、ユーザの操作入力を受け付ける。例えば、操作部11は、複数の操作子(図示せず)を備え、操作子に対するユーザの操作から、軟骨表面を検出する処理の実行開始を送信制御部12へ指示する。
【0024】
送信制御部12は、超音波の周波数からなる搬送波をパルス状に波形成形した超音波信号を生成する。送信制御部12は、第1状態[T1]と第2状態[T2]のそれぞれで、超音波信号を生成する。
【0025】
送信制御部12は、超音波信号をプローブ100へ出力する。プローブ100は、送受波面に平行な方向へ配列された複数の振動子を備える(図3参照)。この振動子の配列方向が走査方向となる。各振動子は、所定の送信ビーム角からなる超音波信号を、被検知体内に向けて送信する。各振動子は、所定の時間間隔で超音波信号を送信し、その反射エコー信号を受信する。
【0026】
プローブ100は、具体的には、図2に示すように、被検知体である膝の軟組織903の表面に、送受波面側の端面が当接するように配置される。ここで、図3に示すように、軟組織903とは、皮膚および筋肉を含む体内部分であり、軟骨901よりも被検知体の表面側に存在する部位である。軟骨901は、軟骨下骨911に付着しており、軟骨下骨911は、骨(海綿骨)902に結合した組織である。
【0027】
図2(A)に示すようにプローブ100を軟組織903の表面に接触させながら、図2(B)に示すようにプローブ100を表面に沿って移動させる。これにより、図2に示すように、軟組織903は、軟骨901の表面を滑りながら、プローブ100に従って移動する。このプローブ100を移動させる前の図2(A)の状態が第1状態(t=T1)であり、プローブ100を移動させた後の図2(B)の状態が第2状態(t=T2)である。この際、プローブ100は振動子の配列方向(走査方向)に沿って移動させる。
【0028】
各振動子は、第1状態[T1]と第2状態[T1]のそれぞれにおいて、超音波信号を被検知体内に向けて送信する。この際、プローブ100の各振動子は、軟組織903の表面に対して直交する方向が送信ビームの中心軸の方向となるように、超音波信号を送信する。
【0029】
プローブ100の各振動子は、超音波信号が被検知体内の軟組織903、軟骨901および軟骨下骨911で反射したエコー信号を受信し、エコー信号受信部13へ出力する。プローブ100は、第1状態[T1]において各振動子で得られたエコー信号からなる第1エコー群SW[T1]と、第2状態[T2]において各振動子で得られたエコー信号から第2エコー信号群SW[T2]を、それぞれエコー信号受信部13へ出力する。
【0030】
エコー信号受信部13は、各エコー信号に対して所定の増幅処理を行い、データ解析部14へ出力する。エコー信号受信部13は、第1エコー群SW[T1]の各エコー信号と、第2エコー群SW[T2]の各エコー信号を、個別に増幅処理して、データ解析部14へ出力する。
【0031】
データ解析部14は、AD変換部141、記憶部142、判定部143を備える。AD変換部141は、エコー信号を所定の時間間隔でサンプリングすることで、離散データ化する。この離散データ化されたエコー信号がエコーデータとなる。これにより、スイープ毎に深度方向に所定間隔でデータサンプリングされたエコーデータを得ることができる。すなわち、走査方向と深度方向による二次元領域に分布されたエコーデータを得ることができる。以下では、このエコーデータ群を、単に、二次元分布のエコーデータと称する。AD変換部141は、各エコーデータを記憶部142へ出力する。
【0032】
記憶部142は、AD変換部141から出力された各エコーデータを記憶する。記憶部142は、第1状態で得られた二次元分布のエコーデータと、第2状態で得られた二次元分布のエコーデータとを記憶する容量を備える。
【0033】
判定部143は、具体的な処理方法は後述するが、図4に示すフローにしたがって、軟組織と軟骨との境界面を検出する。図4は本発明の実施形態に係る軟組織軟骨境界面検出方法のフローチャートである。
【0034】
判定部143は、記憶部142に記憶されている第1状態で得られた二次元分布のエコーデータと、第2状態で得られた二次元分布のエコーデータとを読み出して、取得する(S101,S102)。
【0035】
判定部143は、第1状態の二次元分布のエコーデータから、第1状態での軟骨下骨911のエコーデータ(本発明の「第1状態の軟骨下骨エコー信号」に相当する。)を検出する。判定部143は、第2状態の二次元分布のエコーデータから、第2状態での軟骨下骨911のエコーデータ(本発明の「第2状態の軟骨下骨エコー信号」に相当する。)を検出する(S103)。
【0036】
判定部143は、第1状態の軟骨下骨エコーデータと第2状態の軟骨下骨エコーデータとから軟骨下骨エコーデータの移動ベクトルを検出する(S104)。
【0037】
判定部143は、移動ベクトルに基づいて、第1状態の二次元分布のエコーデータと第2状態の二次元分布のエコーデータとの比較対象のサンプルデータの位置合わせを行う(S105)。
【0038】
判定部143は、位置あわせによって同一の比較対象サンプル位置となる第1状態のエコーデータと第2状態のエコーデータとの相関係数を算出する。具体的には、判定部143は、比較対象サンプル位置を含み深度方向に所定幅の領域からなる比較対象領域を設定する。判定部143は、比較対象領域内における第1状態のエコーデータからなる波形と、比較対象領域内における第2状態のエコーデータからなる波形の相関係数を算出する(S106)。
【0039】
判定部143は、相関係数が高い比較対象サンプル位置の集合する領域と、相関係数が低い比較対象サンプル位置の集合する領域とを検出し、これら2つの領域の境界を検出する(S107)。
【0040】
上述のように、軟骨901は軟骨下骨911と同じ移動態様となり、軟素子903は、軟骨下骨911と異なる移動態様となる。このため、移動ベクトルによる位置合わせ後においては、軟骨下骨911と同じ移動態様からなる軟組織901のエコーデータは相関係数が高くなる。一方、移動ベクトルによる位置合わせ後においては、軟骨下骨911と異なる移動態様からなる軟組織901のエコーデータは相関係数が低くなる。したがって、ステップS107で検出した境界面は、軟組織903と軟骨901との境界面となる。このように、上述の処理を用いることで、軟組織903と軟骨901との境界面を検出することができる。
【0041】
なお、軟骨901の表面(軟組織903と軟骨901との境界面)が検出されると、図示しない軟骨診断用情報生成部は、軟骨901部分エコーデータに基づいて、軟骨変性の診断に利用可能な情報を生成する。具体的には、軟骨診断用情報生成部は、軟骨表面付近のエコーデータと軟骨下骨のエコーデータとの組を、異なる複数の時期に取得する。軟骨診断用情報生成部は、これらのエコーデータの組の組成の時期間における遷移から、軟骨表面の変性に起因する変化量を検出するなどしてもよい。軟骨診断用情報生成部は、この検出結果を、軟骨変性の診断に利用可能な情報として出力する。
【0042】
次に、データ解析部14で実行される軟組織と軟骨との境界面の検出方法を、より具体的に図を参照して説明する。なお、説明を簡単にするために、第1状態[T1]と第2状態[T2]との間でのプローブ100(各振動子)の移動距離Δxは、振動子の配置間隔に一致したものとして説明する。
【0043】
まず、第1状態[T1]として、例えば、被検知体である膝を第1の角度で曲げた状態で、プローブ100を膝の表面に当接させる。言い換えれば、プローブ100を軟組織903の表面に当接させる。これは、図3(A)の状態である。
【0044】
プローブ100に配置された複数の振動子は、それぞれ軟組織903の表面に平行な方向(送受波面に平行な走査方向)に所定間隔で配置されている。複数の振動子は、走査方向に直交する方向へ超音波信号を送信する。図3の例であれば、プローブ100には、五個の振動子が走査方向に沿って等間隔で配置されており、図3(A)に示すように、それぞれの位置に配置された各振動子は、軟組織903の表面に直交する方向へ超音波信号を送信する。この各配置位置から送信された超音波信号は、軟組織903や軟骨901、軟骨下骨911の各深度位置で反射し、各振動子によって受信され、データ解析部14でサンプリングされる。この第1状態[T1]で受信したエコーデータSWT11,SWT12,SWT13,SWT14,SWT15のエコーデータ群が第1エコー群SW[T1]となる。
【0045】
次に、プローブ100を軟組織903に当接させたままの状態で、プローブ100を軟組織903の表面に平行な方向で且つ走査方向に平行な方向へ、距離Δxだけ移動させる。この状態が第2状態[T2]であり、図3(B)の状態である。
【0046】
この時、軟組織903は、プローブ100の移動に追随して移動する。したがって、プローブ100の送受波面と軟組織903の走査方向の各位置との相対的な位置関係は、プローブ100の移動に応じることなく変化しない。
【0047】
一方、軟骨901は、軟骨下骨911を介して骨902に固着しているので、プローブ100の移動があっても移動しない。したがって、プローブ100の送受波面と軟骨901および軟組織911の走査方向の各位置との相対的な位置関係は、プローブ100の移動に応じて変化する。
【0048】
第2状態になった後、図3(B)に示すように、プローブ100の各振動子から、軟組織903の表面に直交する方向(送受波面(走査方向)に直交する方向)へ超音波信号を送信する。この各配置位置から送信された超音波信号は、軟組織903や軟骨901、軟骨下骨911の各深度位置で反射し、各振動子によって受信され、データ解析部14でサンプリングされる。この第2状態[T2]で受信したエコーデータSWT21,SWT22,SWT23,SWT24,SWT25のエコーデータ群が第2エコー群SW[T2]となる。
【0049】
このように、プローブ100の移動前に、複数のエコーデータSWT11,SWT12,SWT13,SWT14,SWT15からなる第1エコー群SW[T1]を取得する。そして、プローブ100の移動後に、複数のエコーデータSWT21,SWT22,SWT23,SWT24,SWT25からなる第2エコー群SW[T2]を取得する。
【0050】
図5は、第1状態[T1]と第2状態[T2]とでの各エコー波形の例を示す図である。なお、図5では本願発明の特徴を分かりやすく図示するために、プローブ100が移動した距離(移動量)Δxと、各振動子の間隔、すなわち走査位置の間隔が等しいものとしている。また、以下では、この条件において軟組織軟骨境界面の検出の説明を行う。
【0051】
(i)軟骨901および軟骨下骨911 プローブ100が移動しても、軟骨901および軟骨下骨911は移動しない。したがって、プローブ100が距離Δxだけ移動すると、プローブ100の各振動子の位置(各走査位置)と軟骨901および軟骨下骨911の各位置との位置関係が、走査方向に沿って移動量Δxだけずれる。
【0052】
この場合、図5の第1状態[T1]の各エコー波形および第2状態[T2]の各エコー波形に示すように、第1エコー群SW[T1]の軟骨901および軟骨下骨911の領域のエコーデータSWT11は、第2エコー群SW[T2]のエコーデータSWT21の軟骨901および軟骨下骨911の領域の波形とは一致せず、第2エコー群SW[T2]のエコーデータSWT22の軟骨901および軟骨下骨911の領域の波形と略一致する。
【0053】
同様に、エコーデータSWT12の軟骨901および軟骨下骨911の領域とエコーデータSWT23の軟骨901および軟骨下骨911の領域とで、波形が略一致する。エコーデータSWT13の軟骨901および軟骨下骨911の領域とエコーデータSWT24の軟骨901および軟骨下骨911の領域とで波形が略一致する。エコーデータSWT14の軟骨901および軟骨下骨911の領域とエコーデータSWT25の軟骨901および軟骨下骨911の領域とで波形が略一致する。
【0054】
したがって、軟骨901および軟骨下骨911内では、各走査位置のエコーデータは、第1状態[T1]と第2状態[T2]とで、移動量Δx分、すなわち走査位置が振動子の配置間隔で一つ分ずれた状態で略一致する。すなわち、軟骨901および軟骨下骨911内では、プローブ100を基準とした各エコーデータのサンプル位置は、第1状態[T1]と第2状態[T2]とで、移動量Δx分だけ変化する。このように、軟骨901と軟骨下骨911は同じ移動態様となる。
【0055】
(ii)軟組織903 上述のように、プローブ100は軟組織903の表面に当接しており、軟組織903は軟骨901の表面に固定されていない。したがって、プローブ100が移動量Δxだけ移動すると、軟組織903も、プローブ100の移動に追随して、移動量Δxだけ移動する。
【0056】
この場合、図5の第1状態[T1]の各エコー波形および第2状態[T2]の各エコー波形に示すように、第1エコー群SW[T1]の軟組織903の領域のエコーデータSWT11は、第2エコー群SW[T2]の軟組織903の領域のエコーデータSWT21の波形と略一致する。
【0057】
同様に、エコーデータSWT12の軟組織903の領域とエコーデータSWT22の軟組織903の領域とで波形が略一致する。エコーデータSWT13の軟組織903の領域とエコーデータSWT23の軟組織903の領域とで波形が略一致する。エコーデータSWT14の軟組織903の領域とエコーデータSWT24の軟組織903の領域とで波形が略一致する。エコーデータSWT15の軟組織903の領域とエコーデータSWT25の軟組織903の領域とで波形が略一致する。
【0058】
したがって、軟組織903内では、各走査位置のエコーデータは、第1状態[T1]と第2状態[T2]とで、プローブ100に対する走査方向に沿った位置が略一致する。すなわち、軟組織903内では、プローブ100を基準とした各エコーデータのサンプル位置は、第1状態[T1]と第2状態[T2]とで変化しない。このため、軟組織903のエコーデータの移動態様は、上述の軟骨901や軟骨下骨911のようなプローブ100の移動に応じてエコーデータのサンプル位置が変化する移動態様とは異なる。
【0059】
このように、軟骨下骨911および軟骨901における特定位置(第1状態[T1]と第2状態[T2]で同じ)で反射したエコーデータのプローブ100を基準としたサンプル位置は、第1状態[T1]と第2状態[T2]とで、移動量Δxだけ走査方向に沿って移動する。
【0060】
一方、軟組織903における特定位置(第1状態[T1]と第2状態[T2]で同じ)で反射したエコーデータのプローブ100を基準としたサンプル位置は、第1状態[T1]と第2状態[T2]とで変化しない。
【0061】
この特性を利用し、本実施形態の軟組織軟骨境界面検出装置では、上述のステップS104に示すように、軟骨下骨911のエコーデータの移動ベクトルを検出する。そして、上述のステップS105に示すように、この移動ベクトルを用いて、第1状態[T1]のエコーデータのサンプル位置と、第2状態[T2]のエコーデータのサンプル位置との位置合わせを行う。言い換えれば、比較対象となる第1状態[T1]のエコーデータのサンプル位置と第2状態[T2]のエコーデータのサンプル位置との組合せを決定する。
【0062】
この際、まず、上述のステップS103に示すように、軟骨下骨911のエコーデータを検出する。図4に示すように、軟骨下骨911のエコーデータは、高いエコーレベル(振幅)となっている。軟骨901は、軟骨表面でエコーレベルが高くなるが、当該軟骨表面と軟骨下骨911との間の領域では、エコーレベルは低い。
【0063】
したがって、まず、第1エコー群SW[T1]のエコーデータSWT11−SWT15のエコーレベルを深度方向に沿って順次取得していく。そして、所定深度(軟骨の厚さによって適宜設定)に亘り、エコーレベルが軟骨下骨検出用閾値未満であることを検出し、その後に、軟骨下骨検出用閾値以上のエコーレベルを検出する。これにより、このサンプル位置以降を軟骨下骨911のエコーデータとして検出することができる。
【0064】
次に、第2状態[T2]の軟骨下骨911のエコーデータの取得と、第1状態[T1]から第2状態[T2]への軟骨下骨911のエコーデータの移動ベクトルを検出する。図6は、本実施形態に係る移動ベクトルの検出概念を説明するための波形図である。なお、波形自体は、図5の波形図と同じである。
【0065】
第1状態[T1]で取得した軟骨下骨911のエコーデータ群に対して、注目領域ZT1CSを設定する。この場合、注目領域ZT1CSは、深度方向(時間方向)の長さで規定されている。具体的には、例えば、図6に示すように、各エコーデータSWT11−SWT15によって決まる走査方向と深度方向とからなる二次元領域に対して、1本のエコーデータの深度方向(時間方向)に沿った所定の範囲を注目領域ZT1CSに設定する。次に、当該注目領域ZT1CS内に含まれるエコーデータを抽出する。これは、言い換えれば、注目領域ZT1CSで切り取られたエコーデータ群の波形に相当する。
【0066】
次に、第2エコー群SW[T2]のエコーデータSWT21−SWT25に対して、探索領域ZR1を設定する。探索領域ZR1は、プローブ100に対して注目領域ZT1CSの位置を基準として、注目領域ZT1CSよりも広い範囲のエコーデータを含むように決定される。
【0067】
具体的には、第2状態[T2]においてプローブ100に対して注目領域ZT1csと同じ位置を、深度方向および走査方向の中心として、深度方向および走査方向の両方に所定範囲拡張した領域によって設定される。例えば、図6に示すように、深度方向において、エコー信号SWT12の深度位置P1csに注目領域ZT1csの中心が設定されている場合、第2状態[T2]のエコー信号SWT22の深度位置P1csに探索領域ZR1の中心を設定する。そして、注目領域の深度方向の長さよりも長い範囲を探索領域ZR1の深度方向の範囲に設定する。なお、深度位置P1csは、探索領域ZR1内であれば、探索領域ZR1の中心でなくてもよい。
【0068】
また、走査方向においてエコーデータSWT12に注目領域ZT1CSが設定されている場合、走査方向の中心がエコーデータSWT22となるように、エコーデータSWT21,SWT22,SWT23を含むように、探索領域ZR1の走査方向の範囲を設定する。
【0069】
次に、第2状態[T2]で取得した軟骨下骨911のエコーデータ群に対して、下骨用比較対象領域ZT2CSを設定する。この際、図6に示すように、下骨用比較対象領域ZT2csは、1本のエコー信号を選択し、深度方向に所定長さの領域とする。下骨用比較対象領域ZT2csの深度方向の長さは、注目領域ZT1csの深度方向の長さと一致するように設定されている。
【0070】
下骨用比較対象領域ZT2CSは、上述のように設定した探索領域ZR1の全域に亘るように設定されている。このように設定された下骨用比較対象領域ZT2CS毎に、エコーデータを取得する。
【0071】
次に、注目領域ZT1CSのエコーデータと、下骨用比較対象領域ZT2CSのエコーデータとを相関処理して相関係数を算出する。
【0072】
注目領域ZT1CSのエコーデータと、下骨用比較対象領域ZT2CSのエコーデータとの相関係数の算出は、下骨用比較対象領域ZT2CSの位置を順次変更させながら、探索領域ZR1の全域に亘って行う。
【0073】
このような一つの注目領域ZT1CSに対する相関係数の算出を、探索領域ZR1の全域に対して実行する。
【0074】
次に、注目領域ZT1CS毎に相関係数が最大となる下骨用比較対象領域ZT2CSを検出する。これが軟骨下骨911領域における最も類似する領域に相当し、第2状態[T2]での軟骨下骨911のエコーデータとなる。このようにエコー信号の類似度から第2状態[T2]での軟骨下骨911のエコーデータを検出する。
【0075】
次に、第1状態[T1]から第2状態[T2]への軟骨下骨911のエコーデータの移動ベクトル(移動方向、移動量)を検出する。
【0076】
ここで、移動ベクトルとは、次のように定義することができる。図7は本実施形態に係る移動ベクトルの定義を示す図である。なお、図7では注目領域と下骨用比較対象領域を用いた場合を示す。移動ベクトルvは、互いに最も類似すると判断された注目領域の代表点と下骨用比較対象領域の代表点の位置から定義される。移動ベクトルvは、注目領域の代表点を始点として、下骨用比較対象領域の代表点を終点とするベクトルであり、移動方向と移動量とによって定義される。
【0077】
具体的に、例えば、図7の例では、注目領域の代表点は、エコー信号SWT11上すなわち走査方向位置P1で、所定の深度位置に存在する。また、下骨用比較対象領域の代表点は、エコー信号SWT22上すなわち走査方向位置P2で、所定の深度位置に存在する。注目領域の代表点の深度位置と下骨用比較対象領域の代表点の深度位置は、同じである。
【0078】
この場合、移動ベクトルvは、走査方向を移動方向とし、走査位置P1,P2の間隔Δxを移動量とするベクトルとなる。
【0079】
このような移動ベクトルの算出は、軟骨下骨911の全てのエコーデータで行ってもよく、代表する1つもしくは複数のエコーデータで行ってもよい。全てのエコーデータもしくは複数のエコーデータで行う場合には、それぞれに算出された移動ベクトルの平均を、軟骨下骨911の移動ベクトルとするとよい。
【0080】
このように移動ベクトルが算出された場合、軟骨901および軟組織903の各エコーデータの移動ベクトルは図8のような分布となる。図8は、本実施形態に係る移動ベクトルの分布状態を示す図である。図8に示すように、軟骨下骨911領域のエコーデータの移動ベクトルvmがΔxであると、軟骨901領域のエコーデータの移動ベクトルvmもΔxとなる。しかしながら、軟組織903のエコーデータの移動ベクトルvmは0となり、軟骨下骨911および軟骨901の移動ベクトルとは異なる。
【0081】
この特性を利用し、次に示す方法で、各エコーデータが軟骨901に属するか、軟組織903に属するかを検出する。図9はエコーデータが軟骨901に属するか軟組織903に属するかを検出する方法(第1の方法)を説明するための波形図である。
【0082】
第1状態[T1]で取得したエコーデータ群に対して、第1比較対象領域ZT1nを設定する(nは深度方向に沿ったサンプル位置数から決定される整数である)。この場合、第1比較対象領域ZT1nは、深度方向(時間方向)の長さで規定されている。具体的な例としては、例えば、図9に示すように、各エコーデータSWT11−SWT15によって決まる走査方向と深度方向とからなる二次元領域に対して、1本のエコーデータの深度方向(時間方向)に沿った所定の範囲を第1比較対象領域ZT11に設定する。次に、当該第1比較対象領域ZT11内に含まれるエコーデータを抽出する。これは、言い換えれば、第1比較対象領域ZT11で切り取られたエコーデータ群の波形に相当する。なお、第1比較対象領域ZT11は、軟骨下骨911の領域を除いて設定すればよく、軟骨901における軟骨下骨911に近いエコーレベルの低い領域も除いて設定してもよい。
【0083】
次に、第2状態[T2]で取得したエコーデータ群に対して、第2比較対象領域ZT2nを設定する(nは深度方向に沿ったサンプル位置数から決定される整数である)。この場合、第2比較対象領域ZT2nは、第1比較対象領域ZT1nを移動ベクトルで移動させた位置に設定されている。
【0084】
より具体的には、第1状態[T1]で第1比較対象領域ZT1nのエコーデータを得た振動子と同じ振動子によって、第2状態[T2]で第1比較対象領域ZT1nと同じ深度領域を検出する。そして、この領域を移動ベクトルで移動させて得られる第2状態[T2]での深度領域を、第2比較対象領域ZT2nに設定する。すなわち、比較対象とする第1状態[T1]のエコーデータのサンプル位置と第2状態[T2]のエコーデータのサンプル位置を、移動ベクトルによって位置合わせする。
【0085】
具体的な例としては、上述のような走査方向にのみ移動する移動ベクトルΔxが得られた場合、図9に示すように、第1状態[T1]のエコーデータSWT12の所定深度位置P11に第1比較対象領域ZT11が設定されると、同じ振動子によって第2状態[T2]で得られるエコーデータSWT22から移動ベクトルΔxだけ移動したエコーデータSWT23の所定深度位置P21に第2比較対象領域ZT21を設定する。
【0086】
同様に、図9に示すように、第1状態[T1]のエコーデータSWT12の所定深度位置P12に第1比較対象領域ZT12が設定されると、同じ振動子によって第2状態[T2]で得られるエコーデータSWT22から移動ベクトルΔxだけ移動したエコーデータSWT23の所定深度位置P22に第2比較対象領域ZT22を設定する。
【0087】
次に、第1比較対象領域ZT1nのエコーデータと第2比較対象領域ZT2nのエコーデータとの相関係数を算出する。
【0088】
ここで、上述のように、軟骨901は、軟骨下骨911と同じ移動ベクトルで移動しており、移動態様は同じとなる。したがって、移動ベクトルによって位置合わせされた第1比較対象領域ZT1nのエコーデータと第2比較対象領域ZT2nのエコーデータとの相関係数は略1になる。すなわち、相関係数は高くなる。
【0089】
一方、軟組織903は、軟骨901および軟骨下骨911と同じように移動しないので、移動態様は異なる。したがって、移動ベクトルによって位置合わせされた第1比較対象領域ZT1nのエコーデータと第2比較対象領域ZT2nのエコーデータとの相関係数は0に近づく。すなわち、相関係数は低くなる。
【0090】
例えば、図9に示すように、軟骨901内に設定された第1比較対象領域ZT12のエコーデータと第2比較対象領域ZT22のエコーデータは同じ波形であり、相関係数は高くなる。一方、軟組織903内に設定された第1比較対象領域ZT11のエコーデータと第2比較対象領域ZT21のエコーデータは異なる波形であり、相関係数は低くなる。
【0091】
このように、相関係数が高い比較対象領域のエコーデータは、軟骨901内のエコーデータであると判断でき、相関係数が低い比較対象領域のエコーデータは、軟組織903内のエコーデータであると判断できる。
【0092】
したがって、このような第1比較対象領域ZT11のエコーデータと第2比較対象領域ZT21の相関係数を、軟骨下骨911の領域以外の各エコーデータに対して算出することで、各エコーデータが軟組織903内であるか軟骨901内であるかを検出することができる。そして、軟組織903内と判断されたエコーデータ群と軟骨901内と判断されたエコーデータ群との境界を検出することで、軟組織903と軟骨901の境界面を検出することができる。
【0093】
以上のように、本実施形態の構成および処理を用いることで、非侵襲で正確に軟組織と軟骨との境界面を検出することができる。なお、非侵襲な方法としては、全てのエコーデータを注目領域に設定し、それぞれの注目領域に相関係数の高い比較対象領域を探索して検出し、注目領域と比較対象領域との移動態様から軟組織と軟骨の境界面を検出することもできる。しかしながら、本実施形態の構成および処理を用いることで、全ての領域に対する探索処理を行う必要が無いので、軟組織と軟骨の境界面を、より高速に検出することができる。
【0094】
なお、上述の説明では、第2状態[T2]で取得したエコーデータのサンプル位置を移動ベクトルで移動させて、比較対象領域を設定する例を示したが、第1状態[T1]で取得したエコーデータのサンプル位置を移動ベクトルに基づいて移動させて、比較対象領域を設定してもよい。
【0095】
図10はエコーデータが軟骨901に属するか軟組織903に属するかを検出する方法(第2の方法)を説明するための波形図である。第2の方法では、第2状態[T2]で取得したエコーデータを基準とする。
【0096】
第2状態[T2]で取得したエコーデータ群に対して、第2比較対象領域ZT2nを設定する(nは深度方向に沿ったサンプル位置数から決定される整数である)。具体的な例としては、例えば、図10に示すように、各エコーデータSWT21−SWT25によって決まる走査方向と深度方向とからなる二次元領域に対して、1本のエコーデータの深度方向(時間方向)に沿った所定の範囲を第2比較対象領域ZT21に設定する。次に、当該第2比較対象領域ZT21内に含まれるエコーデータを抽出する。これは、言い換えれば、第2比較対象領域ZT21で切り取られたエコーデータ群の波形に相当する。
【0097】
次に、第1状態[T1]で取得したエコーデータ群に対して、第1比較対象領域ZT1nを設定する(nは深度方向に沿ったサンプル位置数から決定される整数である)。この場合、第1比較対象領域ZT1nは、第2比較対象領域ZT2nを移動ベクトルに基づいて、移動ベクトルと反対方向で且つ移動ベクトルの大きさに応じた移動させた位置に設定されている。
【0098】
より具体的には、第2状態[T2]で第1比較対象領域ZT2nのエコーデータを得た振動子と同じ振動子によって、第1状態[T1]で第2比較対象領域ZT2nと同じ深度領域を検出する。そして、この領域を移動ベクトルに基づいて移動させて得られる第1状態[T1]での深度領域を、第1比較対象領域ZT1nに設定する。すなわち、比較対象とする第2状態[T2]のエコーデータのサンプル位置に対して、第1状態[T1]のエコーデータのサンプル位置を、移動ベクトルに基づいて位置合わせする。
【0099】
具体的な例としては、上述のような走査方向にのみ移動する移動ベクトルΔxが得られた場合、図10に示すように、第2状態[T2]のエコーデータSWT22の所定深度位置P21に第2比較対象領域ZT21が設定されると、同じ振動子によって第1状態[T1]で得られるエコーデータSWT12から移動ベクトルΔxだけ反対方向に移動したエコーデータSWT11の所定深度位置P11に第1比較対象領域ZT11を設定する。
【0100】
同様に、図10に示すように、第2状態[T2]のエコーデータSWT22の所定深度位置P22に第2比較対象領域ZT22が設定されると、同じ振動子によって第1状態[T1]で得られるエコーデータSWT12から移動ベクトルΔxだけ反対方向に移動したエコーデータSWT11の所定深度位置P12に第1比較対象領域ZT12を設定する。
【0101】
次に、第2比較対象領域ZT2nのエコーデータと第1比較対象領域ZT1nのエコーデータとの相関係数を算出する。
【0102】
このような処理を行っても、非侵襲で正確に軟組織と軟骨との境界面を検出することができる。
【0103】
また、上述の説明では、第1比較対象領域ZT1nのエコーデータと第2比較対象領域T1nのエコーデータとの相関係数から軟組織および軟骨を判別する例を示した。しかしながら、第1状態[T1]の各スイープのエコー信号の波形と、第2状態[T2]の各スイープのエコー信号の波形との類似度を、別の方法で検出し、この類似度から軟組織および軟骨を判別してもよい。
【0104】
具体的な一例としては、ノルムを用いる方法がある。ノルムNormは、次に示す式により定義することができる。
【0105】
【数1】
【0106】
ここで、Ddzt1(i)は、第1比較対象領域ZT1nの深度方向位置iの点のエコーデータ値である。Ddzt2(i)は、第2比較対象領域ZT2nの深度方向位置iの点のエコーデータ値である。kは、第1比較対象領域ZT1nおよび第2比較対象領域ZT2nの分解能に相当し、第1比較対象領域ZT1nおよび第2比較対象領域ZT2nに含まれるエコーデータの総数を示す。mは適宜設定した定数である。
【0107】
このように、ノルムNormは、第1比較対象領域ZT1nと第2比較対象領域ZT2nの同一位置のエコーデータの差分の絶対値をn乗し、このn乗値を領域全体で加算して、1/n乗した値である。したがって、第1比較対象領域ZT1nと第2比較対象領域ZT2nとが類似度が高いほどノルムNormは小さくなり、類似度が低いほどノルムNormは大きくなる。
【0108】
これにより、ノルムが小さい第1比較対象領域ZT1nと第2比較対象領域ZT2nは、相関係数が高い場合に相当し、軟骨901内であると判断できる。そして、ノルムが大きい第1比較対象領域ZT1nと第2比較対象領域ZT2nは、相関係数が低い場合に相当し、軟組織903内であると判断できる。
【0109】
このようなノルムを用いる方法は、軟骨下骨911の移動ベクトルを検出する場合にも利用できる。具体的には、注目領域ZT1CSに対して最もノルムNormの小さい下骨用比較対象領域ZT2CSを検出する。そして、ノルムNormが最小となる組合せの注目領域ZT1CSの代表位置を起点として、下骨用比較対象領域ZT2CSの代表位置を終点とするベクトルを算出することで、移動ベクトルを検出することができる。
【0110】
なお、上述の説明では、軟骨表面検出のための各処理を複数の機能ブロックで実現する例を示した。しかしながら、上述の軟骨表面検出処理をプログラム化して記憶しておき、コンピュータで当該プログラムを読み出して実行するようにしてもよい。
【0111】
また、上述の説明では、被検知体である膝の軟組織903の表面にプローブ100を当接し、当該プローブ100を走査方向に移動させる例を示した。しかしながら、プローブ100を固定し、膝を治具等で屈曲させることで、プローブ100と軟組織903、軟骨901および軟骨下骨911との相対位置関係を変化させてもよい。
【0112】
また、上述の説明のプローブは、振動子を走査方向の一方向のみに沿って配列設置したものである。しかしながら、走査方向と、走査方向および深度方向に直交する方向との二次元領域において所定間隔をおいて振動子を配列するようにしてもよい。
【0113】
また、振動子を1つにして、当該振動子を走査方向に移動させる構成であってもよい。図11は、振動子を移動させるメカニカルスキャンによる検出構成を示す図である。
【0114】
メカニカルスキャン型のプローブ100Aは、振動子を有する送受波器を備える。送受波器は、走査軸に沿って移動可能に設置されている。送受波器は、走査軸に沿って移動する。送受波器の振動子は、走査方向に直交する方向に超音波信号を送信する。この送受波器を、走査方向に移動させながら、複数の走査位置で停止して超音波信号を送信し、そのエコー信号を受信することで、振動子を複数有するプローブ100と同じエコー信号を得ることができる。
【0115】
なお、上述の説明では、プローブ100に対する軟骨901および軟骨下骨911の各サンプル位置が走査方向にのみ移動する場合を示したが、走査方向と深度方向の両方に移動する場合にも、上述のような構成及び処理を適用することができる。
【0116】
また、第1状態[T1]での軟骨下骨の検出方法は、上述のように、深度の浅い側から順にエコーレベルを閾値と比較する方法に限らず、深度の深い側から順にエコーレベルを閾値と比較する方法を用いてもよい。具体的には、軟骨下骨よりも内側の骨内部はエコーの減衰量が大きいため、エコーレベルは略0となる。したがって、閾値を略0よりも大きな所定値に設定する。そして、深度の深い側、すなわち、骨内部側からエコーレベルを閾値と比較し、エコーレベルが当該閾値以上になった位置のエコーデータを軟骨下骨のエコーデータとして取得する。
【0117】
また、上述の説明では、第2状態[T2]での軟骨下骨の検出方法として、第1状態[T1]のエコー信号との類似度を用いる例を示したが、第2状態[T2]の軟骨下骨エコー信号も、第1状態[T1]の軟骨下骨エコー信号の検出と同様に、閾値との比較で行ってもよい。
【符号の説明】
【0118】
10:軟組織軟骨境界面検出装置、11:操作部、12:送信制御部、13:エコー信号受信部、14:データ解析部、100,100A:プローブ、141:AD変換部、142:記憶部、143:判定部、901:軟骨、902:骨、903:軟組織、911:軟骨下骨
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