(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6266545
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】誘導加熱用の加熱コイル、および、それを用いた誘導加熱調理器
(51)【国際特許分類】
H05B 6/36 20060101AFI20180115BHJP
H05B 6/12 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
H05B6/36 E
H05B6/12 308
H05B6/36 B
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-16306(P2015-16306)
(22)【出願日】2015年1月30日
(65)【公開番号】特開2016-143465(P2016-143465A)
(43)【公開日】2016年8月8日
【審査請求日】2017年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立アプライアンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(72)【発明者】
【氏名】川村 光輝
(72)【発明者】
【氏名】柳瀬 誠治
(72)【発明者】
【氏名】川和 将人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 修平
(72)【発明者】
【氏名】山田 清司
(72)【発明者】
【氏名】内藤 康
【審査官】
土屋 正志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−251169(JP,A)
【文献】
特開平07−100054(JP,A)
【文献】
特開平10−050217(JP,A)
【文献】
特開平11−224767(JP,A)
【文献】
国際公開第95/022239(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/36
H05B 6/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミ線の外層に絶縁被覆を設けた素線を複数本撚り合わせたコイル導線と、
該コイル導線の両端側に電力の供給を受けるための接続端子とを備え、
該接続端子には、
前記コイル導線の前記素線を略二段に平形状に形成して加圧固定する収納部を設け、前記収納部の外側にある前記コイル導線を略平形状に成形し、
前記コイル導線の前記収納部への固定は、前記コイル導線の先端側を前記収納部より出し、前記コイル導線の前記先端側と前記収納部、前記コイル導線のコイル側と前記収納部とを半田付けによって電気的に接続したことを特徴とする誘導加熱用の加熱コイル。
【請求項2】
前記コイル導線を略平形状に加圧した後の狭い寸法が、前記収納部内のコイル導線の狭い寸法とほぼ同一寸法となる請求項1記載の誘導加熱用の加熱コイル。
【請求項3】
請求項1または2に記載の加熱コイルと、
該加熱コイルの上方に設けられ、被加熱物を載置するトッププレートと、
前記加熱コイルに電力を供給するインバータ回路とを具備することを特徴とする誘導加熱調理器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱用の加熱コイル、および、それを用いた誘導加熱調理器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の誘導加熱調理器の誘導加熱用の加熱コイルでは、銅線を芯線として外層にエナメル絶縁を施した極細の素線を複数本撚った撚り線に、電力を供給するための接続部として黄銅やリン青銅を主成分とする銅系金属板を使用した接続端子を接続し、撚り線と接続端子の電気的接続は、撚り線の絶縁被膜を高温で溶解して接続する溶接構成とするのが一般的である。
【0003】
しかしながら、前述した誘導加熱用コイルの線材を銅線からアルミ線に変更した場合、銅の融点(約1000℃)に対してアルミニウムの融点が約660℃と低くなり、アルミ線の融点と絶縁被覆を破壊する温度との差が大きく取れないため、特許文献1では、接続端子に接続するアルミ線の加圧部を上面と下面の二面で抑え、上面と下面からなる収納部が均一の厚さとなることで、加熱時に熱の分布が均一となり、部分的な高温部が発生しないことで、アルミ線と接続端子との接続の信頼性を向上したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−251169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した構造においては、誘導加熱コイルに使用されるアルミのコイル導線は、線径が略0.2〜0.4mmの素線を数十本から数百本程度撚り合わせて形成されているため次の課題が考えられる。
【0006】
コイル導線の加圧部となる収納部は、接続端子を単にU字状に曲げられた構造のため、U字状に曲げられた一端側に対して閉成側の合わせ部には狭小空間が発生し、その狭小空間に素線数本が誘導されてコイル導線の断面が歪められたり、この狭小空間が空間として残ることで、均一な加熱が出来ない課題が考えられる。
【0007】
また、電流を流し外部から熱を加えた場合、接続端子の収納部と接している側から加熱が始まるため、収納部に収まったコイル導線の外側の素線から中心側の素線まで熱伝導するのに時間を要したり、該時間を短くするのに加熱温度を高くする必要が考えられ、その場合はコイル導線の表面側と中心側とで温度差が生じる課題が考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、アルミ線の外層に絶縁被覆を設けた素線を複数本撚り合わせたコイル導線と、該コイル導線の両端側に電力の供給を受けるための接続端子とを備え、該接続端子には、前記コイル導線の前記素線を略二段に平形状に形成して加圧固定する収納部を設け、前記収納部の外側にある前記コイル導線を略平形状に成形し、前記コイル導線の前記収納部への固定は、前記コイル導線の先端側を前記収納部より出し、前記コイル導線の前記先端側と前記収納部、前記コイル導線のコイル側と前記収納部とを半田付けによって電気的に接続したものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アルミ線を使用したコイル導線と接続端子との接続部において、信頼性が高く品質の安定した接続を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施例の誘導加熱用の加熱コイルの上面斜視図
【
図2】一実施例の誘導加熱用の加熱コイルのコイル導線の断面図
【
図3】一実施例の誘導加熱用の加熱コイルの接続端子の展開斜視図
【
図4】一実施例の誘導加熱用の加熱コイルの接続端子の斜視図
【
図5】一実施例の誘導加熱用の加熱コイルの接続端子の断面図
【
図6】一実施例の誘導加熱用の加熱コイルの第一の接続方法
【
図7】一実施例の誘導加熱用の加熱コイルの第二の接続方法
【
図8】一実施例の誘導加熱用の加熱コイルのコイル導線の成形図
【
図9】一実施例の誘導加熱用の加熱コイルの下面斜視図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は一実施例を示す誘導加熱用コイルの斜視図、
図2は誘導加熱用コイルのコイル導線の断面図を示す。
【0012】
1は加熱コイルで、鍋などの被加熱物を誘導加熱するものである。2はコイル導線で、絶縁皮膜13で覆われたアルミニウムを材料としたアルミ線12から成る直径が略0.2〜0.4mmの素線11を数十本から数百本程度撚り合わせた撚り線を渦巻状に配置したものである。14は自己融着被膜で、コイル導線2を渦巻状に巻いた時にコイル導線2を加熱することで隣接するコイル導線2間で接着するものである。4はコイルベースで、加熱コイル2を平面状に保持固定するものである。
【0013】
素線11の表面に設けられているエナメル層からなる絶縁皮膜13は、電気的に絶縁性能を有した数ミクロンの膜で構成し、エナメル層の材質は一般的にはポリウレタンやポリアミドやポリイミド等の組成の材質が使用されている。また、その外層には融解温度が約230℃程度の自己融着皮膜14が設けられている。
【0014】
絶縁皮膜13の融点と絶縁性能破壊温度についてまとめると、自己融着皮膜14の溶融温度が約230℃で一番低く、次に絶縁皮膜13の絶縁性能破壊温度が230℃から400℃である。素線11の溶融温度は約660℃である。軟化温度は、素線11のアルミニウムの260℃が一番低い。
【0015】
次に
図3〜
図5に基づいて接続端子とコイル導線との接続形態について詳細に説明する。
【0016】
3は接続端子で、黄銅やリン青銅をプレス加工により形成さ、加熱コイル1の両端に各1個接続され、図示していないインバータ回路より電力の供給を受ける端子である。詳細は、インバータ回路からの電力を供給するケーブル端子をネジで固定するためのネジ穴3aと、加熱コイル1のコイル導線2を加締めて後述する収納部21を形成する加締め部3bから成り、加締め部3bは一端側32bと他端側32c、そして曲げ部となるU字部32aとなっている。また、曲げ部(U字部32a)に切り込み32dを一か所もしくは二か所設けられている(
図3は対向する二か所に切り込み32dを設けている)。
【0017】
接続端子3は、コイル導線2の先端部より若干内側部を保持する収納部21を備えている。収納部21は、収納部21の厚さ41を保てるように、接続端子3の一端側32bを収納部21の内側に折り返し、コイル導線2の素線11を略二段に整列して囲むように平らに形成(平形状22)するものである。そして、曲げ部(U字部32a)に切り込み32dを設けることで、弱い力で、常に同じ位置で曲げられる利点がある。また、曲げ部(U字部32a)が弱くなることで、曲げ部(U字部32a)で折れ難くなり曲げ部(U字部32a)をR形状に整形し易くなる。さらに、収納部21を長手方向に平行に形成し易くなり、コイル導線2の素線11を略二段に囲んで平らに形成され易い。
【0018】
この接続端子3の厚さは、素線11の太さ(線径)に応じて異ならせるもので、この厚さは、素線11を略二段に積み上げた時に固定できる程度の厚さ41である。具体的に厚さ41は、素線11を二段に積み上げた時、二段目は一段目の素線11間に落ち込み、またコイル導線2を適度な加圧で固定する必要があるので、収納部21の狭い寸法(厚さ41)は素線11の線径の2倍の70〜90%とすることで適度な固定が可能となる。
【0019】
接続端子3の板厚を前記厚さ41と略同じにして、接続端子3の一端側32bを収納部21の内側に折り返し、この折り返した端面を基準にしてコイル導線2の素線11が略2段となるように固定することで、コイル導線2を規定の厚さに包み形成することができる。そのため、コイル導線2の素線11の太さ(線径)と接続端子3の板厚は密接な関係を持っている。
【0020】
また、接続端子3の一端側32bを収納部21の内側に折り返す量は、接続端子3の板厚と略同じとすることで、収納部21の平たん部外側を、ヒュージング溶接(または抵抗溶接)の電極33によって保持して電流31を流した時に、一端側32bの折り返し側に流れる電流31とU字状に曲げられたU字部32aに略均等に電流31を流すことができるので発熱の不均衡も無くなる。
【0021】
さらに、素線11を略二段にしたコイル導線2を収納部21で巻くことで、コイル導線2を構成している十本から数百本の素線の全てが収納部21と接する構成としている。
【0022】
収納部21の内側に折り返した一端側32bに対して、他端側32cは一端側32bの外側に存在する構成としている。
【0023】
次に本実施の形態における接続方法の例を詳細に説明する。
【0024】
初めに
図6を用いて第一の接続方法について説明する。
【0025】
第一の接続方法は、
図6(a)に示すように、収納部21より先端部を露出したコイル導線2を収納部21にて固定する。固定は専用の工具を使用しても良いし、ヒュージング溶接(または抵抗溶接)の電極33で挟むことでも良い。収納部21は内側に折り返し部となる一端側32bが設けられているので、固定時に専用の型を必要とする事無く、無用な圧力を素線11に加える事無く、容易に確実に固定することができる。次に(b)に示すように、収納部21をヒュージング溶接(または抵抗溶接)の電極33で挟み加圧通電を行い溶接する。次に(c)に示すように、コイル導線2の先端側2aと収納部21を挟んだコイル側2bの絶縁被膜13を非接触にて加熱除去したのち、(d)に示すように、コイル導線2の先端側2aと収納部21、収納部21とコイル側2bを半田23付けする構成としている。
【0026】
絶縁皮膜13(自己融着被膜14を含む)の除去方法は、加熱することで剥離する方法や薬品により剥離する方法、機械的(金属ブラシなど)に剥離する方法がある。本実施では特定波長(10.5〜10.7μm)のレーザー光線を使用して絶縁被膜13のみを加熱して絶縁皮膜13を剥離している。そのため、線材となるアルミ線12を過加熱する事がない。なお、絶縁皮膜13を取り除いた素線11の表面には絶縁皮膜13の溶融物もしくは炭化物が残留するため、エアーブローや機械的(金属ブラシ)剥離を部分的に併用するとよい。
【0027】
接続端子3の収納部21においては、前述したように素線11を略二段の平形状22で収納部21に固定することで、コイル導線2を構成している十本から数百本の素線11の全数が収納部21に接することになる。コイル導線2の素線11間の陰に隠れる素線11は存在しないので、コイル導線2を収納部21に固定した後に、レーザー光線を使用して絶縁被膜13を剥離する時も、確実に全数の素線11の絶縁被膜13を剥離することが可能となり、素線11全数と接続端子3の収納部21を確実に半田23付けが可能となり、電気的に素線11全数を接続端子3と接続できる。
【0028】
また、絶縁被膜13の除去はレーザー光線の当たる箇所のみ剥離されるため、二段に整列されたコイル導線2の線(一段目)と線(二段目)の合わさった面(レーザー光線の当たらない箇所)は絶縁被膜13を残し、コイル導線2の先端側2aの素線11全数と収納部21とコイル側2bの素線11全数を半田23付けしている。
【0029】
次に第二の接続方法について
図7を用いて説明する。
【0030】
説明は、第一の接続方法と異なる点のみを説明する。第二の接続方法は、事前に収納部21に収納されるコイル導線2の先端部2cの絶縁皮膜13を除去(除去方法は第一の接続方法で述べた各方法)した後、接続端子3の収納部21にコイル導線2を固定(
図7(a),(b))するものである。固定後はヒュージング溶接または抵抗溶接の電極33にて収納部21を加圧形成し(
図7(c),(d))、コイル導線2の先端側2aと収納部21とコイル側2bを半田23付け(
図7(e))する構成としている。
【0031】
また、図示していないが、接続端子3にコイル導線2を加締めて固定する必要は無く、例えば加締め部3bを曲げる前に、加締め部3bにコイル導線2の素線11を一段に並べて、コイル導線2の先端側2aと収納部21、収納部21とコイル側2bを半田23付けした状態でも良く、またその後に加締め部3bを曲げて使用しても良い。
【0032】
次にコイル導線の成形について
図8を用いて説明する。
【0033】
説明は前記第一及び第二の接続方法、いずれの場合においても適用できる。アルミニウム素材を半田付けする場合の課題として、アルミニウム表面に生成される酸化被膜の除去がある。酸化被膜を除去しながら半田付けを行なう方法として、フラックスにより酸化被膜を洗浄し、半田付けを行なうものがある。しかし、フラックスを使用した場合、フラックスが加熱・蒸発する際、気泡が発生しやすく、半田付け部にボイドなどの欠陥や、フラックスが炭化し、異物として残るなどの課題があるため、近年はフラックスレス化が進んでいる。
【0034】
フラックスを用いず、酸化被膜を除去し、半田付けする方法として超音波振動を用いた方法がある。これは超音波振動によるキャビテーション効果により金属表面の酸化被膜を機械的に破壊するもので、その他、金属と半田の合金化を促進したり、金属表面と半田の間にある気泡を除去する脱泡効果や、半田を浸透促進させる効果も確認されている。
【0035】
しかし、一般に超音波の強さは距離の3乗に反比例することが知られている。(a)のように略0.2〜0.4mmのアルミ導線をより合せたものに超音波を用いた半田付けを行なった場合、超音波発生源に近い外側の円筒頂点部分は超音波振動を受けられるが、隣り合うアルミ線同士の略三角形の凹空間には、超音波振動は届きにくくなり、結果、酸化被膜が破壊できず、アルミ導線の外側の円筒頂点でのみ半田付けされる。より広い面積で半田付けをするため、超音波振動を強くした場合、アルミ導線の表面が超音波振動により浸食され、アルミ導線が無くなってしまう。
【0036】
そのため半田付けする面積を広くし、超音波振動を効果的に受けるため、(b)のようにアルミ導線の表面を成形型34で略平面状に成形することで、略平面状のアルミ導線の表面に均等に超音波振動が伝わり、表面全体で半田付けを行なうことができるようになる。
【0037】
また、略平面部の狭い方の寸法を前記収納部内のアルミ導線の狭い方の寸法とほぼ同一にすることで、アルミ導線と接続端子を均等に半田付けすることができる。
【0038】
図9は一実施例の誘導加熱用コイルの下面斜視図を示すもので、接続端子3はコイルベース4下面の端子台5に係止され、配線部はコイルベース4下面で係止される接続端子3と略同一面上に係止される構成としている。これは、接続端子3の収納部21及びコイル導線2をヒュージング溶接または抵抗溶接の電極33による通電、及び絶縁皮膜13を剥離するときの加熱により絶縁皮膜13の外周に設けられている自己融着皮膜14にも、その熱が伝わり素線11同士を固着する。そのため固着したコイル導線2は硬化した形態となり、配線のための曲げ加工がしにくいため、接続端子3をコイルベース4の下面側にすることで、配線作業が少なくなるとともに、コイル導線2への負荷が減り、固着した素線11同士が分離する際の絶縁皮膜13の剥離防止にもなる。また、接続端子3とコイル導線2を電気的に接続する半田23付け部にも負荷がかからず、安定した電気的な接続を維持することができる。
【0039】
なお、加熱コイル1は、コイルベース4に載置されるとともに接着によりコイルベース4に固定される。コイルベース4には接続端子3を取り付けるための端子台5がコイルベース4下面に設けている。コイルベース4と端子台5はPPS樹脂やPBT樹脂等のモールド加工により一体的に形成されている。
【0040】
上記した本実施例によれば、アルミ線を使用したコイル導線2と接続端子3との接続部において、信頼性が高く品質の安定した接続を提供することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 加熱コイル
2 コイル導線
2a 先端側
2b コイル側
3 接続端子
4 コイルベース
5 端子台
11 素線
12 アルミ線
13 絶縁皮膜
14 自己融着皮膜
21 収納部
22 平形状
23 半田
31 電流
32 発熱
33 電極
34 成形型
41 厚さt