(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を具現化した形態の一部を例示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
【0018】
図1は、本発明の加工柿の生産方法を一部に用いた柿の収穫から出荷までの工程の一例を概略的に示すフローチャートである。
図1に示すように、柿は収穫された後、加熱処理等の様々な工程を経て出荷される。加工対象となる柿は、甘柿、渋柿等の様々な種類の柿を用いることが可能である。甘柿は、熟せば常に甘みを持つ完全甘柿と、種の有無・多少により成熟時に渋が残ることがある不完全甘柿とに分類できる。また、渋柿は、種が入ると種の周辺だけ渋味が抜ける不完全渋柿と、種の有無・多少に関わらず渋味を有する完全渋柿とに分類できる。完全甘柿としては、御所、富有、次郎、太秋等の銘柄を挙げることができる。不完全甘柿としては、西村早生、筆柿、禅寺丸、栃原柿等の銘柄を挙げることができる。不完全渋柿としては、刀根早生、平核無、甲州百目(江戸柿)、完全渋柿としては西条、愛宕、市田柿、三社、会津身不知等の銘柄を挙げることができる。
【0019】
収穫された柿は、必要に応じて選別、消毒、洗浄等の各種前処理工程の後、後述する加熱装置1(
図2、
図3参照)を用いて、略飽和状態の水蒸気を加熱した過熱蒸気にて加熱処理がなされる。加熱処理される柿は、皮のついた生の柿そのものでも良く、必要に応じて皮を剥き蔕をとって、切断処理を行ったものでも良く、更には脱渋処理を行ったものでも良い。また、切断処理、脱渋処理の後で加熱処理を行っても良く、脱渋処理、切断処理の後で加熱処理を行っても良い。
【0020】
切断処理とは、例えば皮を剥いて蔕をとった渋柿等の柿を、厚さ10mm程度にスライスして薄片とする処理であり、スライス後の薄片の形状も、短冊形、扇型等の様々な形状を挙げることができる。また、厚めにスライスを行い、略立方体形状(サイコロ型)に切断するようにしても良い。スライスによる切断処理を行う装置及び方法は、普及している様々な装置及び方法を転用することが可能である。切断処理の厚さは、柿内部への熱の伝わり易さ、切断のし易さ等の観点から、1〜50mmが好ましく、2〜30mmがより好ましく、5〜15mmが更に好ましい。
【0021】
脱渋処理とは、渋柿の渋味を抑制する処理である。脱渋処理は、例えば、渋柿に対し、炭酸ガス等の特定の気体、又はアルコール等の特定の液体の雰囲気下におくことでタンニンを不溶性化させる処理である。脱渋処理のための装置及び方法は、普及している様々な装置及び方法を適用することが可能である。
【0022】
必要に応じて切断処理、脱渋処理等の各種処理を行った柿は、加熱処理がなされた後、検査、包装、検品、入庫等の各種工程の後、出荷される。なお、加熱処理された柿は、必要に応じて、保存、品質維持、加工等の目的のため冷凍処理がなされる。冷凍処理された柿は、適宜保存され、解凍処理後、細断処理をした上で出荷するようにしても良く、冷凍状態で出荷するようにしても良い。また、加熱処理された柿は、冷凍せずに細断処理を行った上で出荷しても良く、また、細断処理後、冷凍処理を行って冷凍状態で出荷しても良い。
【0023】
細断処理とは、流動性を有するペースト状になるまで細かく切断する処理であり、ペースト状に細断された柿は、例えば真空パックに包装され、必要に応じて冷凍処理がなされた状態で出荷される。流動性を有するペースト状に加工する細断処理を行う装置及び方法は、普及している様々な装置及び方法を転用することが可能である。
【0024】
なお、ここでいう出荷とは、消費者又は中間業者等の他の事業体に対して搬送することのみを指すのでは無く、各種加工食品、加工飲料等の飲食品として加工すべく次工程へ搬送する出庫等の広い概念である。
【0025】
図1に示すフローチャートは、収穫から出荷までの一部を概略的に示したに過ぎず、上述した以外にも工程管理、品質管理、衛生管理等の様々な管理に必要な各種工程が行われる。
【0026】
<加熱装置1>
次に、加熱処理に用いる加熱装置1について説明する。加熱装置1は様々な形態で実現することが可能であるが、ここでは無数に存在するそれらの形態のうちの二の形態について例示して説明する。
【0027】
(実施の形態1)
図2は、本発明の実施の形態1に係る加工柿の生産方法にて用いられる加熱装置1の一例を模式的に示す概略図である。加熱装置1は、加熱対象として甘柿、渋柿等の柿を加熱処理することにより、加工柿を生産する装置である。加熱処理される柿は、皮のついた生の柿そのものでも良く、必要に応じて皮を剥き蔕をとって、切断処理を行ったものでも良く、更には脱渋処理を行ったものでも良い。さらに、通常の食用には不向きにな未成熟柿であっても良い。
【0028】
先ず、加熱装置1の構成について説明する。加熱装置1は、ボイラ10、ヒータ11、加熱室12等の構成を備えている。
【0029】
ボイラ10は、缶内の水を120〜130℃に加熱することが可能な機構であり、本発明において、ボイラ10は、缶内の水を加熱して気化させることにより、缶内の空気を飽和蒸気とする。ボイラ10には、食品加工に適した蒸留水、水道水等の水を缶内に供給する給水管Wと、缶内を加熱する加熱部に重油、灯油、ガス等の燃料を供給する燃料管Fと、缶内で発生した飽和蒸気をヒータ11へ供給する飽和蒸気管L1とが接続されている。
【0030】
ヒータ11は、加熱対象となる柿を120〜800℃に加熱することが可能な機構であり、本発明において、ヒータ11は、飽和蒸気を120〜300℃に加熱する。ヒータ11には、飽和蒸気管L1と、燃料管Fと、飽和蒸気を加熱した過熱蒸気を加熱室12へ供給する過熱蒸気管L2とが接続されている。
【0031】
加熱室12は、柿を過熱蒸気により加熱する機構である。加熱室12は、加工対象となる柿を配置する加熱区域120を有している。加熱区域120には、柿を搬送する搬送路としてコンベア121が配設されている。コンベア121は、加熱区域120の前後に設けられた2機のコンベアモータ122,122及び3個のガイドローラ123,123,123を巻回した無端状の搬送帯である。コンベア121に載置された柿は所定の速度で加熱区域120内を通過する。コンベア121による搬送速度は、コンベアモータ122,122の回転速度を制御することで調整可能であり、搬送速度を調整することにより、柿が加熱区域120内を通過する通過時間、即ち加熱時間を調整することができる。
【0032】
コンベア121には、過熱蒸気を噴射する複数の噴射口(噴出ノズル)124,124,…が搬送路に沿って、それぞれ上下に列設されている。各噴射口124,124,…は、過熱蒸気管L2に接続されており、加熱区域120内を通過するコンベア121に載置された果実に上下方向から過熱蒸気を噴射する。過熱蒸気管L2は、管路をコンベア121の上下に分岐させる分岐管L3,L3を介して各噴射口124,124,…に接続されている。各分岐管L3,L3には、それぞれ蒸気バルブL3a,L3a及び圧力計L3b,L3bが配設されており、過熱蒸気の噴射量を調整することができる。なお、実施の形態1では、搬送路の上下に噴射口124,124,…を列設する形態を示したが、本発明はこれに限るものでは無く、上下に加えて、搬送路の左右にも噴射口124,124,…を列設する等、適宜設計することが可能である。このように柿に向けて複数方向から過熱蒸気を噴射することにより、柿を均質に加熱することが可能となる。
【0033】
加熱区域120内において、柿を載置するコンベア121の下方には、上部が開放された貯水部125が配設されており、貯水部125に水を蓄えることにより、加熱区域120内の湿度の低下を抑制し、高湿雰囲気を維持することができる。なお、貯水部125の下方には、排水管126が配設されており、排水管126に設けられた排水バルブ126aを開くことにより、貯水部125の排水を行うことができる。
【0034】
また、加熱室12の上部には、2本の排気管127,127が配設されており、各排気管127,127にそれぞれ設けられた排気バルブ127a,127aを開き、それぞれ排気ファン127b,127bを作動させることにより、加熱室12内の空気を排出することができる。
【0035】
次に加熱装置1を用いて、柿を加熱し、加工柿を生産する方法について説明する。先ず、ボイラ10の缶内に給水し、缶内を加熱することにより、水を気化させ、飽和蒸気を発生させる。飽和蒸気は、飽和蒸気管L1を経てヒータ11へ送られる。なお、飽和蒸気としているが、厳密な意味で飽和状態、即ち、水蒸気量が飽和水蒸気量に等しい相対湿度100%の状態である必要は無く、相対湿度が100%近傍に相当する量の水蒸気であっても良い。
【0036】
ヒータ11は、飽和蒸気管L1から供給された飽和蒸気を200〜300℃に加熱して過熱蒸気とする。過熱蒸気は、過熱蒸気管L2を経て加熱室12へ送られる。
【0037】
加熱室12では、柿がコンベア121に載置されて加熱区域120内を搬送される。加熱区域120内では、上下方向から柿に向けて過熱蒸気が噴射される。果実は、コンベア121に搬送されて加熱区域120内を通過する間、過熱蒸気により加熱されることになる。即ち、加熱室12において、柿は、過熱蒸気により、120〜300℃で加熱される。また、柿は、加熱区域120を1〜20分で通過するため、過熱蒸気による加熱時間は、1〜20分となる。なお、加熱温度及び加熱時間は、柿の種類、大きさ、形状、重量、柿皮の有無等の各種要因に応じて、目標品質を得るべく適宜調整がなされる。
【0038】
なお、コンベア121に載置された柿が通過する加熱区域120において、入り口付近、中央部及び出口付近で酸素濃度を測定したところ、中央部の酸素濃度が低下している現象が観測されている。これは、過熱蒸気により、加熱区域120内の空気が置換されたためと推測される。
【0039】
このようにして、加熱加工された柿は、長期保存を目的として、冷凍処理を行っても良い。即ち、冷凍処理の前処理として過熱蒸気による加熱を行うようにしても良い。なお、加熱加工された柿は、冷凍保存用に限らず、そのまま食品とすることも可能であり、更に柿酢酒等の飲食物の原料とすることも可能である。
【0040】
(実施の形態2)
図3は、本発明の実施の形態2に係る加工柿の生産方法にて用いられる加熱装置の一例を模式的に示す説明図である。実施の形態2は、実施の形態1に係る加熱装置1が連続方式で柿を加熱したのに対し、バッチ方式で柿を加工する形態である。なお、以降の説明において、実施の形態1と同様の構成については、実施の形態1と同様の符号を付し、実施の形態1を参照するものとし、その詳細な説明を省略する。
【0041】
実施の形態2に係る加熱装置1において、加熱室12は、加工対象となる柿を配置する加熱区域120を内包している。加熱区域120には、柿を載置する載置台128が配設されている。載置台128の上方には、過熱蒸気を噴射する複数の噴射口124,124,…が配設されており、各噴射口124,124,…は、過熱蒸気管L2が接続されている。過熱蒸気管L2には、蒸気バルブL2a及び圧力計L2bが配設されており、過熱蒸気の噴射量を調整することができる。
【0042】
加熱区域120内において、載置台128の下方には、貯水部125が配設されており、貯水部125に水を蓄えることにより、加熱区域120内の湿度の低下を抑制し、高湿雰囲気を維持することができる。なお、貯水部125の下方には、排水管126が配設されており、排水管126に設けられた排水バルブ126aを開くことにより、貯水部125の排水を行うことができる。
【0043】
実施の形態2において、柿を加熱し、加工柿を生産する方法について説明する。実施の形態1と同様にして、ボイラ10及びヒータ11により発生させた過熱蒸気は、過熱蒸気管L2を経て加熱室12へ送られる。
【0044】
加熱室12の加熱区域120内では、
図3中、模式的に白丸として示したように、柿が載置台128に載置されており、上方向から果実に向けて過熱蒸気が噴射され、過熱蒸気により果実が加熱される。過熱蒸気による加熱条件は、120〜300℃で、1〜20分の加熱となる。なお、加熱温度及び加熱時間は、柿の種類、大きさ、形状、重量、柿皮の有無等の各種要因に応じて、目標品質を得るべく適宜調整がなされる。加熱後の処理は、実施の形態1と同様である。
【0045】
図3を用いて示した実施の形態2に係る加熱装置1は、上方向から柿に向けて過熱蒸気を噴射する形態を示している。これは本発明に係る加工柿の生産方法が様々な形態に展開することが可能であることを示すためであり、可能であれば、柿に対して、上下方向からのように複数方向から過熱蒸気を噴射するように構成することが好ましい。複数方向から過熱蒸気を噴射することにより、柿に対して熱を均等に伝えることが容易であるため、より優れた品質の加工柿を生産することができる。
【0046】
実施の形態1に係る連続方式の加熱装置1は、少品種多量生産に適しており、実施の形態2に係るバッチ方式の加熱装置1は、多品種少量生産に適している。
【0047】
次に加熱条件と加工柿の品質との関係について説明する。
【0048】
<加熱処理後の品質>
図4は、様々な加工条件で加工した加工柿の品質を示す図表である。実験は、加熱温度を125〜290℃の範囲、加熱時間を2.2〜3.0分の範囲で加熱条件を設定し、設定した範囲内の様々な加熱条件で加熱処理を行った。実験に用いた柿は、炭酸ガスで脱渋し、剥皮して10mmに切断処理(スライス)した平核無柿であり、それぞれの加熱条件で各5個加熱し、加熱後3時間経過した加工柿の品質を集計して実験結果とした。なお、加熱後の中心温度とは、加熱処理後の加工柿の中心に温度計を挿入し、中心の温度を測定した結果を示している。品質は、「糖度上昇度」、「渋戻り」、「離水度」、「収縮度」、「外観変色」及び「食感」の6項目に測定又は判定を行った。また、加熱処理後の柿に対して細断処理を行いペースト状に加工した加工柿について「外観変色」の判定を行った。
【0049】
糖度上昇度は、加熱処理前後の柿の糖度(ブリックス値)を糖度屈折計を用いて測定し、加熱処理後の柿の糖度を加熱処理前の柿の糖度で除算することにより算出した値であり、加熱処理による糖度の上昇の指標としている。例えば、加熱時間が132秒、加熱温度が275℃の糖度上昇量は、1.30であり、加熱処理により糖度が30%上昇したことを示している。
図4に示す測定結果では、全ての条件で糖度の上昇が見られる。
【0050】
渋戻りは、脱渋処理した柿に対して加熱処理を行うことで渋味が戻る渋戻りの有無を、検査者5人による官能検査により判定した結果を平均して示している。なお「A」と記載したグループAは、加熱処理後10分経過後の加工柿に対する判定結果を示しており、「B」と記載したグループBは、加熱処理直後に冷凍処理を行い、その後、解凍して3時間経過した加工柿に対する判定結果を示している。なお、本発明に係る加熱処理を行わない場合、脱渋処理を行った渋柿であっても、60〜100℃程度で加熱した場合には渋戻りが生じる。一方、
図4に示す実験結果では、グループA及びグループBともに、加熱温度が140℃以下の場合、渋戻りの傾向が確認されたものの、加熱温度が200℃以上になると渋戻りが生じないことか確認された。
【0051】
離水度は、加熱処理前後の柿の重量を測定し、加熱処理前の柿の重量から加熱処理後の柿の重量を減算した減少重量を加熱処理前の柿の重量で除算することにより算出した値であり、加熱処理により失われた水分の指標としている。グループA及びグループBは、渋戻りと同様の区分である。厳密には、加熱処理により水分のみが失われた訳ではないが、減少重量の大部分が水分であることから、ここでは離水度として表現した。離水度は、数値が小さいほど、離水が少なく食品として好ましいと言える。全体として、グループAに比べ、冷凍処理及び解凍を行ったグループBの方が離水度が大きくなっている。これは、柿を冷凍した場合、冷凍時の氷結膨張により内部組織が破壊されるため、ドリップと呼ばれる離水が生じやすくなることが原因と推察される。
【0052】
収縮度は、加熱処理前の柿の外観形状の大きさ(蔕方向から見た場合の幅)に対し、加熱処理後の柿の外観形状の大きさがどの程度であるのかを、検査者5人による目視の官能検査により判定した結果を平均して示している。数値が大きいほど、加熱処理前後での形状変化がなく好ましい状態であると言える。グループA及びグループBは、渋戻りと同様の区分である。収縮度に関しては、グループA及びグループBの間で有意差は確認する事ができなかった。
【0053】
外観変色は、加熱処理後の柿の外観についての変色の程度を、検査者5人による目視の官能検査により判定した結果を平均して示している。グループA及びグループBは、渋戻りと同様の区分である。全ての実験結果において、外観変色は観測されなかった。なお、本発明に係る加熱処理を行わない場合、同条件で切断した加工柿は、30分から1時間程度で外観が褐色に変色する現象が観測される。褐色への変色は、柿に含まれるポリフェノールが酸素と接触し、酸化するためである。一方、加熱処理を行うことにより、3時間経過後も外観変色が観測されることは無く、加熱処理により外観の変色が抑制される結果となった。
【0054】
食感は、加熱処理後の柿を食した際の食感を、検査者5人による官能検査により0〜9の10段階に分級して判定した結果を平均して示している。「9」が最も良く、数値が下がる程、食感が低下し、「0」が最も悪い。グループA及びグループは、渋戻りと同様の区分である。食感に関しては、グループAに比べ、冷凍処理及び解凍を行ったグループBの方が食感が悪化している傾向にある。
【0055】
外観変色(ペースト)は、加熱処理後の柿に対し、細断処理を行いペースト状に加工した加工柿の外観についての変色の程度を、検査者5人による目視の官能検査により判定した結果を平均して示している。グループA及びグループBは、渋戻りと同様の区分である。全ての実験結果において、外観変色は観測されなかった。なお、本発明に係る加熱処理を行わない場合、細断処理を行いペースト状に加工した加工柿は、5分程度で外観が褐色に変色する現象が観測されたが、加熱処理により、3時間経過後も外観変色が観測されることは無かった。即ち、加熱処理により外観の変色が抑制される結果となった。
【0056】
本願記載の加工柿の生産方法において、好ましい結果が得られる加熱条件は、加熱温度が120℃以上、300℃以下の範囲であり、加熱時間が1分以上、20分以下となる。ただし、長時間の加熱は、表皮が破損し易くなるため、1.5分以上、10分以下が好ましく、2分以上、5分以下が更に好ましい。
【0057】
特に、
図4に示した実験結果から、本願記載の加熱処理を行うことにより、加熱温度を125〜290℃とし、加熱時間を132〜180秒とした場合、糖度が上昇しており、糖度という点では優れた食味を得られることが明らかとなった。しかも、外観の変色を抑制し、保存に適した加工柿を生産することができる。また、渋柿から加工柿を生産する場合には、200℃以上で加熱処理を行うことにより、渋戻りが無く、渋味の抑制という点では優れた食味を得られることが明らかとなった。特に、270〜285℃の温度範囲で加熱処理を行った場合、糖度、渋味、離水度、食感等の様々な点で食味が向上するという効果が得られた。これらの結果より、加熱温度については、糖度の増加、渋戻りの抑制、離水量の低減、原料柿の形状維持、食感の観点から200℃以上、290℃以下が好ましく、235℃以上、285℃以下が更に好ましく、260℃以上、280℃以下が特に好ましい。また、加熱処理された加工柿の中心温度も糖度の増加、渋戻りの抑制、離水量の低減、原料柿の形状維持、食感の観点から62℃以上、85℃以下の範囲であり、67℃以上、85℃以下が好ましく、69℃以上、80℃以下が更に好ましく、70℃以上、74℃以下が特に好ましい。
【0058】
なお、実際に加熱処理を行う際には、加工対象となる柿及び加工に用いる加熱装置1に応じて、各種条件を調整することが好ましい。調整が必要となる要因は、柿における種類、大きさ、重量等の柿側の要因、更には加熱装置1における加熱区域120の大きさ及び形状、過熱水蒸気の噴射量及び噴射距離、貯水部125の状況、外部雰囲気等の装置側の要因といった様々な要因である。これらの要因のばらつきにより加熱条件の適正値が変化する。従って、適宜調整を行い、加熱温度、加熱時間等の加熱条件の適正値を求めることが重要である。
【0059】
<加熱処理による成分変化>
図5は、本発明に係る加工柿の生産方法において、加熱処理前後での成分分析の結果を示す図表である。分析の対象は、加工前の未処理の柿(柿生果)と、280℃×132secで加熱処理を行った後の加工柿である。実験に用いた柿は、炭酸ガスで脱渋し、剥皮して10mmに切断処理(スライス)した平核無柿である。なお、値は5個分の実験の平均値である。また、分析する項目は、柿に含まれる天然の高分子多糖類であるペクチンの含有量であり、特に、総ペクチン量(ガラクチロン酸換算)、水可溶性ペクチン、ヘキサメタリン酸ナトリウム可溶性ペクチン、塩酸可溶性ペクチン、及び水酸化ナトリウム可溶性ペクチンについて、3,5−ジメチルフェニル法により分析を行った。
【0060】
実験後の分析結果は、
図5に示す通りであり、加熱処理により、全てのペクチンの含有量が増加していることが判明した。
【0061】
なお、食味等の上記実験結果以外にも本発明に係る加工柿の生産方法にて生産した加工柿には様々な利点があることが判明している。例えば、本発明に係る加工柿の生産方法により生産した柿は加熱処理による殺菌という観点からも有効である。具体的には、280℃×132secの加熱処理により、大腸菌群(BGLB法にて測定)が陰性となり、一般生菌数(混釈平板培養法[標準寒天培地]にて測定)及び真菌数(混釈平板培養法[ポテトデキストロース培地]にて測定)についても明らかな減少が確認された。
【0062】
上記実験は、主として渋柿である平核無柿について行っている。一般に、甘柿は、渋柿より果実が黒みを帯びていることから、果実部分を目視した場合、渋柿の方が色味が良く、消費者に好まれる傾向がある。そこで、渋柿を脱渋処理することになるが、脱渋処理した柿は渋戻りが発生する場合がある。本願記載の加工柿の生産方法は、加熱処理を行うことにより、渋戻りがなく、外観変色を抑制することも可能であり、その品質は、冷凍保存した場合にも有効であることから、渋柿を原材料とする加工柿の生産に特に適している。なお、甘柿を原材料とする加工柿の生産に適用しても、食味の向上等の様々な効果を得ることが可能である。
【0063】
前記実施の形態は、本発明の無数に存在する実施例の一部を開示したに過ぎず、柿の種類、大きさ、その他目的、用途等の様々な要因を考慮して適宜調整することが可能である。例えば、前記実施の形態では、切断処理(スライス)した加工柿、細断してペースト状にした加工柿について説明したが、様々な形状に加工することが可能である。ペースト状に加工した場合、アイスクリームにトッピングするシロップ、カレールーへの風味付け食材等の様々な用途に用いることが可能である。さらに、例えば、略立方体形状に切断処理することも可能であり、略立方体形状に切断処理した加工柿を例えばチョコレートコーティングすることにより、菓子として出荷することも可能である。