(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6266565
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】サスペンション制御装置
(51)【国際特許分類】
B60G 17/0165 20060101AFI20180115BHJP
【FI】
B60G17/0165
【請求項の数】16
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-133541(P2015-133541)
(22)【出願日】2015年7月2日
(62)【分割の表示】特願2014-527698(P2014-527698)の分割
【原出願日】2012年9月4日
(65)【公開番号】特開2016-612(P2016-612A)
(43)【公開日】2016年1月7日
【審査請求日】2015年7月9日
(31)【優先権主張番号】1115398.8
(32)【優先日】2011年9月6日
(33)【優先権主張国】GB
(31)【優先権主張番号】1115400.2
(32)【優先日】2011年9月6日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】512308720
【氏名又は名称】ジャガー ランド ローバー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Jaguar Land Rover Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・ポッパム
(72)【発明者】
【氏名】アナ・ガシュチャック
【審査官】
菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】
実開平07−013515(JP,U)
【文献】
特開平11−139133(JP,A)
【文献】
米国特許第06219600(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 17/0165
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前方に向けられたカメラを有する車載式TOF(time of flight)カメラ装置を備えており、
前記カメラ装置は、乗物前方の景色を照明してその画像を繰り返し撮影するように構成されており、
前記景色中にある走行面の地形的特徴を特定するとともに前記乗物の速度を特定する、乗物用サスペンション制御システムであって、
前記システムは、前記地形的特徴の上を前記乗物が走行する前に、前記乗物のサスペンションを調整して、高速設定、又は、前記高速設定とは異なる複数のオフロード設定の一つのいずれかを取るための、自動調整サスペンションパラメータを有し、
前記自動調整サスペンションパラメータは、前記複数のオフロード設定から一つのオフロード設定を選択することを含み、
前記地形的特徴と、前記乗物が前記地形的特徴に到達するときの前記乗物の予想速度とを考慮して、前記一つのオフロード設定が選択される、乗物用サスペンション制御システム。
【請求項2】
複数の前記地形的特徴を連続的に評価して、前記走行面の平均表面粗さを求め、前記平均表面粗さに応じて前記乗物のサスペンションパラメータを調整するように構成されている、請求項1の乗物用サスペンション制御システム。
【請求項3】
前記自動調整サスペンションパラメータの調整に応じて、乗物の最大速度を制限するように構成されている、請求項1のいずれかの乗物用サスペンション制御システム。
【請求項4】
繰り返し撮影された前記画像の中に関心点を特定し、前記関心点に関する前記乗物の移動速度を求めるように構成されている、請求項1又は3のいずれかの乗物用サスペンション制御システム。
【請求項5】
複数の前記地形的特徴のうちの地表面からの最大の突出物又は窪みに応じて、前記乗物の車高を変えるように構成されている、請求項1、3、4のいずれかの乗物用サスペンション制御システム。
【請求項6】
複数の前記地形的特徴のうちの地表面からの最大の突出物又は窪みに応じて、前記サスペンションの硬さを変えるように構成されている、請求項1、3〜5のいずれかの乗物用サスペンション制御システム。
【請求項7】
前記平均表面粗さから離れた大きな突出物又は窪みを特定し、前記大きな突出物又は窪みが前記乗物の走行経路にあるか否か判断し、前記乗物が前記大きな突出物又は窪みに到達する前に前もって前記サスペンションパラメータを一時的に調整するように構成されている、請求項2の乗物用サスペンション制御システム。
【請求項8】
前記サスペンションパラメータの調整を前記乗物のドライバに警告するための警報を含む、請求項1〜7のいずれかの乗物用サスペンション制御システム。
【請求項9】
前記乗物の最大速度は前記乗物のドライバによって設定可能である、請求項8の乗物用サスペンション制御システム。
【請求項10】
前記カメラがTOFカメラである、請求項1〜9のいずれかの乗物用サスペンション制御システム。
【請求項11】
(a)前記乗物の現在の速度、
(b)前記現在の速度の前に取得された前記乗物の速度の少なくとも1つ、
(c)前記乗物のエンジンとブレーキの状態、及び、
(d)前記乗物の姿勢、
の少なくともいずれかに基づいて前記乗物の予想速度が計算される、請求項1〜10のいずれかの乗物用サスペンション制御システム。
【請求項12】
乗物にその前方に向けてカメラを設け、
前記乗物の前方の景色を繰り返し撮影し、
繰り返し撮影した景色の画像における地形的特徴を特定し、
前記地形的特徴から地表面からの突出部又は窪みを求め、
地表面から突出した又は地表面から窪んだ前記地形的特徴の大きさを求め、
前記乗物の速度を求め、
前記地形的特徴の上を前記乗物が走行する前に、前記乗物のサスペンションを調整して、高速設定、又は、前記高速設定とは異なる複数のオフロード設定の一つのいずれかを取るための、自動調整サスペンションパラメータを用意し、
前記自動調整サスペンションパラメータは、前記複数のオフロード設定から一つのオフロード設定を選択することを含み、
前記地形的特徴と、前記乗物が前記地形的特徴に到達するときの前記乗物の予想速度とを考慮して、前記一つのオフロード設定が選択される、
乗物のサスペンションパラメータを調整する方法。
【請求項13】
前記乗物の速度を求める工程は、繰り返し撮影された前記画像の中に関心点を特定し、前記関心点に関する前記乗物の移動速度を求めるように構成されている、請求項12の乗物のサスペンションパラメータを調整する方法。
【請求項14】
最大表面粗さと最小表面粗さの間に、平均表面粗さの複数の幅が定義され、前記幅に応じて前記サスペンションパラメータが調整される、請求項12又は13の乗物のサスペンションパラメータを調整する方法。
【請求項15】
前記突出物又は窪みはこれが予め決められた大きさを超えている場合に大きな突出物又は窪みとし、前記乗物が前記大きな突出物又は窪みに出会うか否かを判断する工程と、該判断の結果に応じて前記サスペンションパラメータを調整する工程を含む、請求項12〜14のいずれかの乗物のサスペンションパラメータを調整する方法。
【請求項16】
複数の前記地形的特徴を連続的に評価して、前記走行面の平均表面粗さを求め、前記平均表面粗さに応じて前記乗物のサスペンションパラメータを調整するように構成されており、前記平均表面粗さから離れた大きな突出物又は窪みを特定し、前記大きな突出物又は窪みが前記乗物の走行経路にあるか否か判断し、前記乗物が前記大きな突出物又は窪みに到達する前に前もって前記サスペンションパラメータを一時的に調整するように構成されている、請求項3〜6のいずれかの乗物用サスペンション制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物のサスペンションを制御する予測システム、特に、限定的ではないが、オフロード機能を有する乗物のためのそのようなシステムに関する。本発明の複数の形態は、システム、乗物、及び方法に関する。
【0002】
調節可能な乗物用サスペンションシステムが知られている。一つの典型的なシステムは車高調整機構を提供しており、それによれば、例えば、オフハイウェイの走行にあたって、車高をより高くすることができる。例えば、高速ハイウェイを走行するための低設定を含む、複数の車高を設定できる。各エンジンスタート時はデフォルトに設定されるが、一般に車高調整式サスペンションが乗物のドライバによって手動で選択される。
【0003】
緩衝性及び/又は衝撃吸収性を変えてハードな乗り心地又はソフトな乗り心地を得るために、別の種類の車高調整式サスペンションが採用される。また、乗り心地は、一般に、ドライバによって手動で選択される。
【0004】
乗物のドライバは、乗物に車高調整式サスペンションシステムが設けられているか否かを知らないこともある。また、たとえそのことを知っていても、ドライバは、乗物が走行する地形に複数のサスペンション設定のどれが適しているか知らないかもしれない。比較的複雑な車高調整サスペンションシステムもある。したがって、所定の地形に対して最善の設定を得るにあたってドライバを支援することが望ましい。
【0005】
一つの解決策は、アクティブ(アダプティブ)サスペンションを設けることである。これによれば、使用状況に応じて乗物自身がサスペンションパラメータを調整できる。そのようなシステムは比較的単純であって、例えば車体に対して車輪が繰り返し大きく変化すると、車高が大きくなる。そのようなシステムは、地形変化に乗物を対応させることができないし、そのために、何も知らないドライバがはっきりと見えない地形に突然出くわした場合、乗物を損傷する危険、及び/又は、同乗者に怪我をさせる危険がある。
【0006】
乗物のサスペンションが前方地形に最も適した構成を自動的に採用するサスペンション制御用予測システムが望まれる。
【0007】
本発明の一形態によれば、乗物サスペンション制御システムが提供される。該乗物サスペンション制御システムは、前方に向けたカメラを含む車載用TOF(time of flight)カメラシステムを備えており、前記システムは前記乗物前方の景色を照明してその画像を繰り返し撮影し、前記景色における地形的特徴を識別し、前記乗物の速度を確認し、前記地形的特徴の性質と前記乗物が前記特徴に到達するときの予想速度にしたがって、前記乗物のサスペンションパラメータを自動的に調整するように構成されている。
【0008】
したがって、例えば、岩地形が識別された場面では、乗物はその岩地形に到達する前に適当な硬さの高サスペンションを採用できる。乗物が岩地形に到達する際の乗物の速度も考慮され、それに応じてサスペンションが採用される。例えば、乗物が高速で走行しながら岩地形に到達しそうな場合、衝突の危険を減らすためにサスペンションを上げるとともに、ドライバ及び乗員が揺さぶられるのを少なくするために減衰性を低下させる。低速時、サスペンションは同程度だけ上昇させる。しかし、減衰性は高い状態に維持して制御性を高くする。このように、乗物の平静が維持され、ドライバはスムーズな走行体験が得られる。標準設定とは異なる自動設定は、乗物ドライバに対する適当な警告(例えば、警報チャイム、又は表示メッセージ)を伴う。標準設定又は更に極端な設定への回復は、同様に通知される。
【0009】
ある特徴に到達したときの乗物の予想速度は、上記方法の一部として確認される速度である。代わりに、予想速度は、上記方法の一部として特定される速度に基づいて計算される。予想速度は、乗物の現在の速度、少なくとも1つのそれ以前の乗物速度、乗物のエンジンとブレーキの状態、及び、乗物の姿勢の一つ又は2つ以上に基づいて、公知の技術を用いて計算される。
【0010】
予め決められた基準に基づいて、繰り返し画像から景色を解析するために、公知の差別化技術が使用される。例えば、地表面からの突出物の大きさは、予め決められた複数のサイズレンジ(大きさの幅)(各サイズレンジはサスペンション高さの設定に関連している。)に従って、フィルタ処理される。簡単な実施例では、突出物が大きくなればなるほど、選択されるサスペンション高さが大きくなる。
【0011】
突出物の頻発回数と間隔に関する情報に応じて、乗物前方地形の粗さが予測され、その予測に応じた適合サスペンションが採用される。
【0012】
乗物速度センサを設けることにより、例えば、センサで取得された乗物の速度における、地形粗さに適した最もスムーズな乗り心地が得られる設定を選択できる。
【0013】
サスペンション設定は、任意の適当な方法(例えば、参照テーブル、又は、プロセッサを含む電子制御ユニットにおける同等のもの)で行われる。
【0014】
本発明の実施例によれば、サスペンションの最適予測設定は自動的に行うことができる。そのため、乗物のドライバが複雑な作業を行うことが無くなり、経験の浅いドライバであっても乗物の性能を最大限に利用できる。
【0015】
本発明の実施例は、オンロード(路上走行)及びオフロード走行のいずれにも適している。したがって、なだらかな高速道路の場合、システムは、表面(路面)に不連続点が発生することは少ないと判断し、比較的低いサスペンション高であっても比較的高い減衰率を達成できる。路面に不連続点(例えば、窪み、盛り上がり)がある場合、その不連続点の大きさや形状に応じて、乗物が不連続点を横断する際に、サスペンションは瞬間的により高い車高で且つより柔らかいサスペンション設定を採用する。
【0016】
オフロードでは、システムは、想定した地表面からの小さな偏差(突出物又は窪み)と大きな偏差(突出物又は窪み)とを区別し、岩の多い道と玉石の場所を区別する。5mmのオーダで識別できる。そのため、不連続点の大きさが極めて小さくても、はっきりと認識して予測できる。
【0017】
以上の説明は、地表面に出ている突出物に関するものである。乗物前方の景色を撮影すると、地形的な窪みの深さも判断できる。その場合、乗物が窪みに到達する前に、適当なサスペンションパラメータを予測できる。前方に向けたカメラの取り付け位置が高いほど、窪みははっきりと撮影できる。したがって、カメラは、乗物のボンネットの高さ又はその付近の高さに設け、ある程度下方に向けることが好ましい。
【0018】
突出物又は窪みと乗物のサスペンション高に対する基準を提供するために、適当な技術によって地表面を補間(内挿)することができる。例えば、RANSAC技術は、多数の異常値を含むデータ点の配列に対して、1つのライン又は平面をフィッティングさせる方法を具体化するものである。
【0019】
窪みの深さが判断できない又は補間できない場合、予測システムは自動的に適当なサスペンション設定(例えば、最大車高)を命令する。
【0020】
オフロード走行速度は通常低く(15kph未満)、そのような速度では、サスペンションシステムは不連続点に到達する前に時間の余裕がある。オフロードの場合、カメラで照明される領域は高速走行のときよりも乗物前部により近い(例えば、1〜10メートルの範囲)。
【0021】
TOF(time of flight)カメラシステムからの繰り返し画像は、乗物前方の勾配に関する情報を提供する。システムは、例えば傾斜計又は類似の装置からの乗物の現在の姿勢に関する情報とともに、傾斜が変化している間も適当なサスペンション設定を保証するために適したサスペンション調整情報を提供する。例えば、低速時に勾配が大きく変化した場合(例えば、丘の上り下り時)、システムは、前もって新たな勾配用に乗物を準備する。これにより、例えば、サスペンション高が変更され、乗物には適当な接近角度及び立ち去り角度が与えられる。
【0022】
本発明の他の形態によれば、乗物のサスペンションパラメータを調整する方法が提供され、その方法は、
乗物前方の景色を照明し、その画像を繰り返し撮影する工程と、
前記繰り返し撮影された画像における地形的特徴を特定する工程と、
地表面からの前記地形的特徴の大きさを求める工程と、
前記乗物の速度を求める工程と、
前記地形的特徴の大きさと前記乗物が特徴に到達するときの予想速度に基づいて、前記特徴に到達する前に前記乗物のサスペンションパラメータを自動的に調整する工程を含む。
【0023】
本発明の複数の実施例は、変化する地形に乗物を適合させる他の技術と組み合わせることができ、例えば車輪スリップ、サスペンション伝播振動等の機械的測定値によって地形タイプを推定するシステムと、カメラを使って前方地形タイプを認識するシステムを含む。
【0024】
本出願の範囲内で、上述の説明、特許請求の範囲、及び/又は以下の説明及び図面に記載された種々の形態、実施例、特徴、代替案は、独立に実施してもよいし、又は任意に組み合わせて実施してもよい。例えば、1つの実施例に関して説明する特徴は、特徴が相互に両立し得ない場合を除いて、すべての実施例に適用可能である。
【0025】
上記システムはまた、繰り返し画像の中で関心点を特定し、当該関心点に関する前記乗物の移動速度を求めるように構成してもよい。
【0026】
上記システムはさらに、繰り返し画像に中で関心点を特定する工程と、前記関心点に関して、前記景色に対する乗物の前方移動速度と前記景色を横断する前記乗物の移動速度を求める工程を含む。
【0027】
本発明は、車載型TOF(time of flight)カメラ装置を備えた乗物用システムを提供するもので、上記システムは、乗物前方の景色を照明してその画像を繰り返し撮影し、その画像データを用いて、上記画像に対する前記乗物の移動速度を求めるように構成されている。
【0028】
前記システムは、前記繰り返し画像の中に関心点を特定し、前記関心点に対する前記乗物の移動速度を求める。代わりに、その他のデータ解析技術を使用してもよい。そこでは、例えば、すべての画像データを使用し、ICP(iterated closest point algorithm)アルゴリズムを使って相対位置と方向の変化を評価する。
【0029】
TOF(time of flight)カメラシステムが知られている。一般的に言えば、このカメラは、赤外線光で景色を照らす。カメラ内の撮像チップが、景色に到達した後該チップの各画素まで戻る赤外線の飛行時間を求める。これにより、チップ上の画像は、ライン操作によって構成される画像と違って、カメラから景色内の地形的特徴までの距離を瞬時に表す。
【0030】
典型的に、このカメラは、例えば、40フレーム/秒の速度で、景色画像を繰り返し再読込み(リフレッシュ)する。このように高速で景色が読み込まれることで、乗物の姿勢変化や距離の変化によって観察位置が変化しても、関心点を容易に追跡できる。
【0031】
一つの実施例では、乗物の速度計算機は、乗物に向かって直線状に移動するように見える関心点を選択するように構成されたプロセッサを有する。その関心点の特徴は、撮像チップの複数の画素によって形成される。プロセッサは、乗物速度の計算における信頼性を向上するために、一つ以上の関心点を選択する。
【0032】
関心点と乗物の相対移動は、最も短い線上にあるものである必要がない。三角測量により、任意の方向における相対移動を求めることができる。複数の関心点に関する相対速度を比較することによって、乗物の計算速度の信頼性を高めることができる。
【0033】
乗物速度計算機は、一つの線特徴又は複数の線特徴を定義するために複数の関心点を選択し、その一つの線特徴又は各線特徴に対する乗物の移動速度を求める。
【0034】
乗物速度計算機は、地形的配置、又は複数のそのような配置を定義し、各配置に対する乗物の移動速度を求めるために、複数の関心点を選択してもよい。上述のように、全体画像データは、相対位置及び速度を評価するために使用できる。
【0035】
乗物の相対運動は、景色に向かって前進するものでなくてもよい。例えば、乗物は、景色に向かって前進することなく、傾斜面上を横方向にスリップする。本発明は、そのような横移動も解析し、景色を横切る相対速度を求める。両者を考慮して、景色に向かって前進する相対速度と景色に対する横方向の相対速度によって、乗物の速度が得られる。すべての方向の相対移動を計算することで、3つの互いに直交する方向の移動、及び、ピッチング、ローリング、ヨーイングを求めることができる。これらの複数の相対運動によって、乗物の速度が得られる。三次元の速度と、乗物のピッチング、ローリング、ヨーイングを計算することによって、本発明に係るシステムは乗物の状態を推定できる。
【0036】
プロセッサは、カメラのリフレッシュレートで、乗物の速度を計算する。しかし、プロセッサの能力を節約するために、また、リフレッシュ速度で乗物の速度を計算することは実用的ではないために、より低速を選択してもよい。約1秒ごとに繰り返して速度を計算することで十分である。
【0037】
一つの実施例では、乗物速度の計算機は、近距離場又は遠距離場にある一つ又はそれ以上の関心点を特定する。近距離場又は遠距離場は、適当な方法で定義される。例えば、近距離場は、カメラから10メートル内の景色を含み、遠距離場は10メートルを超える景色を含む。
【0038】
本発明は、低速走行制御を提供する手段として特に適当なもので、これにより、勾配に関係なく、乗物は安定した速度のオフロード走行を維持できる。
【0039】
TOF(time of flight)カメラシステムからの繰り返し画像は、乗物の前方にある勾配に関する情報を提供する。乗物の現在の姿勢に関する情報(例えば、傾斜計等の装置から情報)と組み合わせることで、システムは、姿勢を変えながらも予め決められた走行速度を維持するために適当な速度調整情報を提供できる。したがって、例えば、低速で著しく勾配が変化する場合(例えば、丘を登り降りする場合)、システムは、予め新たな勾配用に乗物のエンジンを準備できる。これにより、エンジンの出力の変化を要求してからその要求に対して出力がなされるまでの間に内在する遅延を解消することができる。したがって、乗物は、走行制御モード中、一定の速度を維持できる。
【0040】
この技術によれば、近距離場のポイントがカメラの視界から外れる(通常は、乗物の下を通りすぎる)ごとに、近距離場の関心点から遠距離場の関心点へと移り変わる。
【0041】
撮影された景色内の複数の点を参照することによって乗物の速度が連続的に示されるのであれば、その他の適当な技術を利用してもよい。
【0042】
関心点の特定は、通常のパターン認識技術によって行うことができ、それ自体は本発明の一部を構成するものでない。そのような技術では、乗物が関心点に接近するにつれて連続画像中の関心点の大きさが相対的に大きくなる。
【0043】
乗物のピッチングとローリングは、関心点を選択し又識別するための3次元情報を提供するうえで役立つ。そのような乗物の動きは、オフロード走行において一般的なものである。また、そのような動きの大きさは、乗物速度に反比例する。したがって、乗物速度が遅いほど、本発明のシステムはより有効的である。
【0044】
乗物の真の移動速度はまた、オンロード及びオフロードの両方について、車輪粘着摩擦情報を判断するためのデータとなる。
【0045】
上述のように、車輪のスリップが大きなファクタとなる場合、計数技術は乗物の速度を求めるうえで信頼性のあるものとは言い難い。しかし、車輪の回転数の計数は、例えばアンチロックブレーキシステムで採用される技術を用いて、確実に行われる。
【0046】
本発明はまた、乗物の車輪スリップ計算機を提供するもので、これは上述の形態のシステムと、乗物の瞬間的な速度に等しい乗物車輪の理論的な回転速度を求めるための車輪回転計算機と、前記車輪の瞬間的な回転速度を示す車輪速度インジケータと、前記理論回転速度と前記瞬間的な回転速度を連続的に比較して車輪のスリップを判断するコンパレータを有する。
【0047】
前記車輪スリップ計算機は、前記乗物のすべての車輪のスリップを判断することができる。
【0048】
そのような装置は、車輪における粘着摩擦の時間レベルに関する情報を提供し、他の乗物システムを更に有効なものとするものである。例えば、地上高をかせぐため又はエンジン出力トルクを増加するために、サスペンションとエンジンが調節される。別の変速比を、乗物の粘着摩擦を改善するために適当なその他の手段と組み合わせてもよい。
【0049】
本発明のこの形態によれば、スリップを同定するために複数の車輪の瞬間的な回転速度を比較する従来の車輪スリップ測定技術に勝るものである。その技術は、比較すべきすべての車輪が同時にスリップする場合、絶対的な情報を提供するものでない。
【0050】
本発明は、乗物前方の景色を照明する工程と、カメラを使って前方の景色の画像を繰り返し撮影する工程と、前記画像に関して前記乗物の移動速度を求める工程を含む、乗物の速度計算方法を提供するものである。
【0051】
前記移動速度は、例えばICP(iterated closest point algorithm)アルゴリズムを使って、又は、繰り返し画像中で1つ又は複数の関心点を特定することによって、全体の画像データから求められる。
【0052】
また、この形態は、車輪のスリップを計算する方法を提供するもので、本発明の第2の形態に従って乗物速度を求める工程と、前記乗物速度の判断にしたがって乗物車輪の理論回転速度を求める工程と、前記乗物車輪の実際の回転速度を計測する工程と、前記車輪の瞬間的なスリップを判断する工程を含む。
【0053】
この方法は、乗物のすべての車輪について連続的に行われ、実質的に連続した車輪スリップ指標が得られる。
【0054】
本発明の範囲内で、上述の説明、特許請求の範囲、及び/又は以下の説明及び図面に記載された種々の形態、実施例、特徴、代替案は、独立に実施してもよいし、又は任意に組み合わせて実施してもよい。例えば、1つの実施例に関して説明する特徴は、特徴が相互に両立し得ない場合を除いて、すべての実施例に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【
図1】
図1は、起伏の多い地形を通る道に関連して、調整可能な高さのサスペンションを有する乗物を示す。
【
図2】
図2は、起伏の多い地形を通る道に関連して、調整可能な高さのサスペンションを有する乗物を示す。
【
図3】
図3は、起伏の多い地形を通る道に関連して、調整可能な高さのサスペンションを有する乗物を示す。
【
図4】
図4は、本発明を採用したオフロード用乗物の概略を示す図である。
【
図5】
図5は、移動する乗物に対する連続的な概略画像を示す。
【
図6】
図6は、移動する乗物に対する連続的な概略画像を示す。
【
図7】
図7は、移動する乗物に対する連続的な概略画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0056】
添付図面を参照して本発明の実施例を説明する。
図1を参照すると、オフロード用の性能、特に、車高(最低地上高)調整機能を有し、起伏のないハイウェイ11を走行している乗物10が示されている。車高は「h1」である。前方に向けられたTOF(time of flight)カメラ12が、赤外光13で、前方景色を照らしている。景色は繰り返し映し出され、乗物システムは乗物前方にある起伏のある地形14に応じて警戒態勢が取られる。
【0057】
図2は、上記警戒態勢が取られることによって、サスペンション高が「h1」から「h2」にどのようにして予測的に上げられ、そして、乗物が起伏地形に到達するまでに警戒体制が適切に取られることを示す。
【0058】
TOF(time of flight)カメラは、乗物の前方にある関心点に対する該乗物の位置を正確に予測し、連続的に撮影される画像を比較することによって、乗物が走行した距離を判断する。乗物が関心点に到達するまでに該乗物のサスペンションが予め決められた構成になっているようにする目的で、走行距離を計算するために、例えば、1つ又は複数の関心点15が選択される。図示するように、乗物が岩の多い地形に達すると、高さh2になる。
【0059】
その後、別の関心点16,17が決められて監視され、地形と走行距離が連続的に求められる。
【0060】
符号18で示す地点で滑らかな高速道路が検出されると、後輪が岩の多い地形を脱した時点で、サスペンションが高速道路用に再設定される。実施例では、高速道路までに走行する距離が乗物のホイールベースに加えられる。したがって、この実施例では、乗物の4つのすべての車輪が高速道路上に乗るまで、サスペンション高が小さくなることはない。この好適な実施例は、サスペンション高を小さくすることが示されたすべての状況に適用可能である。これにより、乗物の車輪下にある地形に対して、いつでも過剰に低いサスペンションが設定されることはない。
【0061】
本発明は、典型的には、関心点を好適なサスペンション設定に関連付ける参照テーブル又は同等の関連データベースシステムを備えた、乗物の電子制御システムで実施される。そのような設定は、起伏地形に到達する前に乗物が好ましい設定を採用するように、十分な時間をもって電子制御システムの出力によって指令される。その指令は、速度に関連する。したがって、高速で移動している乗物は、サスペンション設定を高速で調整する。例えば、サスペンションを上げる際の乗物の最大速度を漸進的に制限するように、電子制御システムはまた、選択されたサスペンション設定に従って乗物の最大速度を制限するようにしてもよい。
【0062】
乗物のドライバは、本発明を、地形に応じて所望のサスペンション設定を決めるように、又は、地形に応じて最大乗物速度を決めるように、構成することができる。そのように構成可能な設定は、乗物の製造者によって予め決められた限度内のものである。
【0063】
電子制御システムは、サスペンション設定を変更する際は、乗物ドライバに、例えば、チャイム、ダッシュボードのディスプレイによって警告するように構成することができる。
【0064】
粗さが増す地形に対して適当な複数のサスペンション設定を設けることができる。例えば、滑らかなハイウェイから極めて粗いオフロードまでの種々の地形に応じて適当な範囲の設定を設けることができる。
【0065】
突出物又は窪み(偏差:deviation)の大きさを判断するための地表面は、従来の技術によって求めることができる。比較的滑らかな地面では、突出物又は窪みはほぼ無いので、その滑らかな地面が地表面基準となる。でこぼこの地面では、求めるべき地表面からの平均的な突出物又は窪みを求めるために、サスペンションの運動距離が測定される。これらの技術は組み合わせて用いることができる。
【0066】
突出物又は窪みが連続的し且つその大きさが同じである場合、平均表面粗さを求めるために本発明が利用される。あらゆるサスペンション設定において、乗物は著しく大きな突出物又は窪みを識別し、そのような突出物又は窪みが乗物に向かってくる場合に、それに対応すべくサスペンションを準備することができる。その著しく大きな突出物又は窪みとは、荒道にある大きな深い穴であったり、岩による段差であったりする。
【0067】
本発明は、一時的に大きな突出物又は窪みが乗物を通過したときを求めるために、乗物の速度と距離を測定する技術とともに使用される。このように、サスペンションは、自動的に以前の設定に再設定すべく指令される。
【0068】
図4は、川床のようなでこぼこの岩肌表面111を走行することができるオフロード性能を備えた乗物110を示す。そのような条件では、良好に理解されるとおり、車輪の粘着摩擦が低いため、乗物の1つ又は複数の車輪が岩肌面に対してスリップする。乗物のドライバは、操縦に集中しながら漸進走行を維持するために低速(例えば、5kph)の走行制御機能を選択することがある。車輪の回転数を計数することによって乗物の速度を測定する現在のシステムは、繰り返し車輪がスリップする場合に正確性に欠ける。また、GPS又は慣性装置を使った方法は、上述の欠点がある。
【0069】
本発明において、前方に向いたTOF(time of flight)カメラ12が、乗物前方の地形を照明し、撮像チップ上にその画像を生成する。照明は、赤外光113の円錐形状によって示されている。例えば、従来の照明装置に、又はボンネットの先端部など、前方に向いた任意の位置にカメラを配置することができる。
【0070】
予め決められたリフレッシュレートで撮像チップは撮像を繰り返す。これにより、乗物に対する関心点114の移動速度が求められる。関心点は、連続画像中に繰り返し表れる任意の地形的特徴である。しかし、連続画像を特定し比較する技術は本発明を構成するものでない。
【0071】
地形的特徴を表す画像中で、関心点は複数の画素を含む。関心点は、線状の特徴であってもよいし、識別可能な空間上の関係を有する一群の地形的特徴であってもよい。
【0072】
複数の関心点は、同時に識別される。また、そのような関心点を使用するために公知の技術を使って、測定した速度の信頼性を高めるようにしてもよい。
【0073】
TOF(time of flight)カメラは、5mm又はそれ以上の解像度を有する。したがって、関心点は、例えば、岩にある特徴(例えば、クラック、窪み)であってもよい。
【0074】
さらに、複数の関心点を連続的に使って、乗物が地表を前進する際に、その速度の表示を維持するようにしてもよい。前の関心点115と次の関心点116が
図4に示してある。これらの連続する関心点は、速度計算が連続的に行われるように、同時に割り出される(マッピングされる)。乗物の速度は、例えば、画像のリフレッシュレートで再計算される、又はそれよりもゆっくりした速度で再計算される。
【0075】
各画像はその画像中にある複数の関心点までの距離を示し、かつ、カメラのリフレッシュ速度は知られているので、乗物に対する各関心点の相対速度が計算される。複数の関心点が特定される実施例では、これらの点の平均をもって乗物の速度が表れる。ただし、他の実施例では、別の値(例えば、中央値)が使用される。1つの画像中で特定される複数の関心点の数が予め決められた値(例えば、10)以上である場合、計算された相対速度の分布が計算され、統計的異常値は無視される。これにより、より正確な結果が得られる。
【0076】
特に、画像に対する乗物の横移動が解析され、景色を横切る相対速度が得られる。この横移動は、乗物に対して水平方向であってもよいし、垂直方向であってもよい。互いに垂直な3次元方向に関する運動と、ピッチング、ローリング、ヨーイングの動作を求めるために、あらゆる方向における相対運動が計算される。これらの相対運動の任意の組み合わせが速度を提供するものとなる。乗物の3次元の速度とピッチング、ローリング、ヨーイングを計算することによって、乗物の状態が推定される。
【0077】
選択された関心点は、所定の距離範囲に配分される。これにより、古い関心点が乗物下を通過する度に新しい関心点が提供されるように、少なくとも近距離場と遠距離場が特定される。
【0078】
本発明は、車輪のスピン又はスリップに拘わらず、信頼できる乗物速度の指標を提供し、低速時及び超低速時(例えば、5kphよりも低い速度)における走行制御が容易に行われるようにする。
【0079】
図5〜
図7は、大きな不連続点が数秒毎のフレームにどのように表れるかを概略示す。図面を簡単にするために、近くと遠くの基準点の間の連続した領域の中に3つの不連続点が示されている。近くと遠くの基準点は、乗物の使用状況に応じて設定又は調整され、例えば5メートルの距離を有する。2つ以上の距離幅を定義してもよい。また、表示を簡略化するために、一般には平坦面を描き、それに対して上方に突出する又は窪みからなる不連続点が不連続点として利用される。地表面は平坦でなくてもよい。
【0080】
図5〜
図7の図示するフレームは、数秒の間隔を隔てたものである。リフレッシュレートは、10フレーム/秒である。これにより、画像を処理するために、また、画像を区別するために、多くの情報が得られる。
【0081】
図5は、時刻t=0における、中間距離場、近距離場、遠距離場にある不連続点114〜116を示す。
図6は、t=5秒における表示を示し、不連続点が乗物に接近しており、そのために大きく表れている。不連続点は一定の位置にあると考えられるため、乗物の速度が計算できる。
【0082】
図7は、t=10秒の状況を表している。最も大きな不連続点が乗物の下に隠れて無くなり、代わりに新たな不連続点117が遠距離場に表れる。
【0083】
撮像チップ上に生成される繰り返し画像は、乗物前方地形の地形図(いわゆる、鳥瞰図)を生成するために利用される。そして、そのような画像が繰り返されることで、その地形図上を乗物が通過したことが追跡され、基準位置又は基準方向に対する相対速度が求められる。1つ又は複数の関心点がカメラの視野内に留まっている限り、乗物の姿勢変化も求めることができ、それも本発明に中に含まれる。乗物の姿勢変化に起因して相対位置を変化させる地形的特徴の特定及び区別のために、従来の技術が利用できる。