特許第6266571号(P6266571)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6266571
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】樹脂発泡シート、及び、樹脂発泡成形品
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/04 20060101AFI20180115BHJP
   B29C 51/14 20060101ALI20180115BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20180115BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20180115BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20180115BHJP
   B29C 47/06 20060101ALI20180115BHJP
   B65D 1/00 20060101ALI20180115BHJP
   B29K 25/00 20060101ALN20180115BHJP
   B29K 71/00 20060101ALN20180115BHJP
   B29K 105/04 20060101ALN20180115BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20180115BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20180115BHJP
【FI】
   C08J9/04 101
   C08J9/04CET
   C08J9/04CEZ
   B29C51/14
   B32B5/18
   B32B27/30 B
   B32B27/00 103
   B29C47/06
   B65D1/00 111
   B29K25:00
   B29K71:00
   B29K105:04
   B29L7:00
   B29L9:00
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-165936(P2015-165936)
(22)【出願日】2015年8月25日
(65)【公開番号】特開2016-50314(P2016-50314A)
(43)【公開日】2016年4月11日
【審査請求日】2017年3月9日
(31)【優先権主張番号】特願2014-176364(P2014-176364)
(32)【優先日】2014年8月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002440
【氏名又は名称】積水化成品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(74)【代理人】
【識別番号】100171310
【弁理士】
【氏名又は名称】日東 伸二
(72)【発明者】
【氏名】細川 哲
(72)【発明者】
【氏名】岩田 正義
【審査官】 大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−158065(JP,A)
【文献】 特開2007−320264(JP,A)
【文献】 特開2005−161789(JP,A)
【文献】 特開平02−217225(JP,A)
【文献】 特開2012−006357(JP,A)
【文献】 特開2014−168861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00− 9/42
B32B 1/00−43/00
B29C 47/00−47/96
B29C 51/00−51/46
B65D 1/00− 1/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡層を有する樹脂発泡シートであって、
前記発泡層が、ポリスチレン系樹脂及びポリフェニレンエーテル系樹脂を含むポリスチレン系樹脂組成物によって形成され、厚み方向においてポリフェニレンエーテル系樹脂の濃度を5質量%以上異ならせており、該発泡層における前記濃度の最低値が2質量%以上で且つ最高値が50質量%以下であり、
前記発泡層は、前記厚み方向両端部の内の一端部におけるポリフェニレンエーテル系樹脂の濃度をD1(質量%)とし、他端部におけるポリフェニレンエーテル系樹脂の濃度をD2(質量%)とした場合に下記の関係式(1)〜(4)の全てを満たす樹脂発泡シート。
2≦ D1 ≦17 ・・・(1)
10≦ D2 ・・・(2)
D1 < D2 ・・・(3)
6≦(D2−D1)<17 ・・・(4)
【請求項2】
発泡層を有する樹脂発泡シートが熱成形されてなる樹脂発泡成形品であって、
前記発泡層が、ポリスチレン系樹脂及びポリフェニレンエーテル系樹脂を含むポリスチレン系樹脂組成物によって形成され、厚み方向においてポリフェニレンエーテル系樹脂の濃度を5質量%以上異ならせており、該発泡層における前記濃度の最低値が2質量%以上で且つ最高値が50質量%以下であり、
前記発泡層は、前記厚み方向両端部の内の一端部におけるポリフェニレンエーテル系樹脂の濃度をD1(質量%)とし、他端部におけるポリフェニレンエーテル系樹脂の濃度をD2(質量%)とした場合に下記の関係式(1)〜(4)の全てを満たす樹脂発泡成形品。
2≦ D1 ≦17 ・・・(1)
10≦ D2 ・・・(2)
D1 < D2 ・・・(3)
6≦(D2−D1)<17 ・・・(4)
【請求項3】
容器であり、且つ、発泡層の前記一端部の側が内側となるように熱成形されてなる容器である請求項記載の樹脂発泡成形品。
【請求項4】
容器であり、且つ、発泡層の前記他端部の側が内側となるように熱成形されてなる容器である請求項記載の樹脂発泡成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡層を有する樹脂発泡シート、及び、このような樹脂発泡シートが熱成形されてなる樹脂発泡成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリスチレンペーパー(PSP)などと呼ばれる樹脂発泡シートが熱成形による樹脂発泡成形品の原材料(原反シート)として広く用いられている。
この種の樹脂発泡シート製の熱成形品たる樹脂発泡成形品は、軽量でありながら高い強度を有し、且つ、断熱性に優れることから各種の用途において用いられている。
このポリスチレンペーパーは、ポリスチレン樹脂(PS)や汎用ポリスチレン樹脂(GPPS)などと呼ばれるスチレンホモポリマーを主成分としている。
そのため、PSP製の樹脂発泡成形品は、耐油性や耐熱性が強く求められるような場合に、その要望を十分に満足させることができない場合がある。
【0003】
そこで、樹脂発泡成形品に優れた耐油性が求められるような場合には、GPPSなどに比べて耐油性に優れたポリプロピレン系樹脂フィルムがPSPに積層され、該PSPによって形成された発泡層と前記ポリプロピレン系樹脂フィルムによって形成されたフィルム層とを備えた樹脂発泡シートが原反シートとして採用されたりしている。
また、樹脂発泡成形品に耐熱性が求められるような場合には、GPPSよりも高いガラス転移温度を有するポリスチレン系樹脂組成物よって形成された樹脂発泡シート、或いは、当該樹脂発泡シートにポリプロピレン系樹脂フィルムを積層させたものが原反シートとして用いられたりしている。
この耐熱性に優れた発泡シートを形成させるためのポリスチレン系樹脂組成物としては、スチレン−メタクリル酸共重合体樹脂をベースポリマーとしたものや、GPPSとポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)との混合樹脂をベースポリマーとしたものなどが知られている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−94919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
GPPSとPPEとを含有するポリスチレン系樹脂組成物によって形成された発泡層を有する樹脂発泡シートは、PPEが含有されていることから優れた耐熱性を発揮することが期待できるものの熱成形において十分な加熱を行わないと易変形性を発揮させることが難しく成形性を良好なものとすることが難しいという問題を有している。
そのため、このような樹脂発泡シートが熱成形されてなる樹脂発泡成形品は、十分製造容易なものになっていない。
【0006】
本発明は、このような問題を解決することを課題としており、耐熱性に優れ、熱成形などでの成形容易な樹脂発泡シートを提供し、ひいては耐熱性に優れ且つ製造容易な樹脂発泡成形品を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、発泡層の厚み方向においてポリフェニレンエーテル系樹脂の濃度を異ならせることで上記問題を解決し得ることを見出して本発明を完成させるに至ったものである。
【0008】
すなわち、樹脂発泡シートに係る本発明は、発泡層を有する樹脂発泡シートであって、前記発泡層が、ポリスチレン系樹脂及びポリフェニレンエーテル系樹脂を含むポリスチレン系樹脂組成物によって形成され、厚み方向においてポリフェニレンエーテル系樹脂の濃度を5質量%以上異ならせており、該発泡層における前記濃度の最低値が2質量%で且つ最高値が50質量%である。
【0009】
また、樹脂発泡成形品に係る本発明は、上記のような樹脂発泡シートに熱成形が施されて形成されたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、樹脂発泡シートを耐熱性に優れ、熱成形などにおける成形性に優れたものとし得る。
また、本発明によれば、樹脂発泡成形品を耐熱性に優れ且つ製造容易なものとし得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ポリスチレン系樹脂発泡シートの断面構造を示す図。
図2】実施例3の樹脂発泡シートの2次発泡前後の様子を示した図(SEM断面写真)。
図3】比較例1の樹脂発泡シートの2次発泡前後の様子を示した図(SEM断面写真)。
図4】樹脂発泡成形品の一例を示す斜視図。
図5図4のI−I線矢視断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について、2層のフィルム層の間に、ポリスチレン系樹脂組成物からなる発泡層を有する樹脂発泡シートを例にして説明する。
なお、図1は、本実施形態の樹脂発泡シートの断面構造を示した概略断面図であり、以下においては、図1における“上下方向”を樹脂発泡シートや発泡層の“厚み方向”と称することがある。
また、以下においては、樹脂発泡シート、フィルム層、発泡層について「上側」や「厚み方向における一端側」とは、図1における上側を意味し、「下側」や「厚み方向における他端側」とは、図1における下側を意味する。
さらに、以下においては、図1における“横方向”を樹脂発泡シートの“幅方向”又は“平面方向”と称することがある。
そして、図1に示すように本実施形態の樹脂発泡シート1は、発泡層10の上下両方にフィルム層20,30を有しているため、以下においては、上側のフィルム層20を第1フィルム層と称し、且つ、下側のフィルム層30を第2フィルム層と称してこれらを呼び分けることとする。
【0013】
前記発泡層10は、ポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂とを含むポリスチレン系樹脂組成物によって全体が形成されている。
ただし、前記発泡層10は、全体が同じポリスチレン系樹脂組成物で形成されてはおらず厚み方向においてポリフェニレンエーテル系樹脂の濃度を5質量%以上異ならせている。
しかも、発泡層10は、前記濃度の最低値が2質量%で且つ最高値が50質量%である。
樹脂発泡シート1は、発泡層10の厚み方向におけるポリフェニレンエーテル系樹脂の濃度差が5質量%未満であると美麗な外観と優れた耐熱性とを兼ね備えた成形品を得ることが難しくなる。
また樹脂発泡シート1は、濃度差がありすぎると、成形が困難となり、良好な成型品を得にくくなる。
よってポリフェニレンエーテル系樹脂の濃度差は、5質量%以上19質量%未満であることが好ましく、6質量%以上17質量%未満であることがより好ましく、6質量%以上16質量%未満であることが特に好ましい。
より詳しくは、本実施形態における前記発泡層10は、前記第1フィルム層20に接する厚み方向一端部におけるポリフェニレンエーテル系樹脂の濃度が、前記第2フィルム層30に接する厚み方向他端部におけるポリフェニレンエーテル系樹脂の濃度よりも低濃度となっている。
即ち、前記発泡層10は、前記一端部におけるポリフェニレンエーテル系樹脂の濃度をD1(質量%)とし、前記他端部におけるポリフェニレンエーテル系樹脂の濃度をD2(質量%)とした際に「D1<D2」及び「5≦(D2−D1)」の関係を満たすように形成されている。
また、前記発泡層10は、前記一端部と前記他端部との間においてポリフェニレンエーテル系樹脂の濃度がこれらの中間的な濃度となる箇所を有している。
即ち、当該箇所のポリフェニレンエーテル系樹脂の濃度をD3(質量%)とした際に前記発泡層10は、前記濃度が「D1<D3<D2」の関係となるように形成されている。
【0014】
本実施形態における前記発泡層10は、厚み方向一端側から他端側までの間の中間部分を通る仮想線Lよりも上側の領域A(以下、「上側領域A」ともいう)が、その形成に用いられているポリスチレン系樹脂組成物を共通させており、且つ、前記仮想線Lよりも下側の領域B(以下、「下側領域B」ともいう)もその形成に用いられているポリスチレン系樹脂組成物を共通させている。
即ち、本実施形態の前記発泡層10は、2種類のポリスチレン系樹脂組成物によって形成されている。
そして、前記のように本実施形態の前記発泡層10は、上側領域Aを形成する第1のポリスチレン系樹脂組成物(以下、「第1樹脂組成物」ともいう)の方が、下側領域Bを形成する第2のポリスチレン系樹脂組成物(以下、「第2樹脂組成物」ともいう)よりもポリフェニレンエーテル系樹脂の濃度が低濃度となっている。
また、前記上側領域Aと前記下側領域Bとの境界においては、厳密な形で境界が形成されているわけではなく、仮想線Lの近傍領域は、第1樹脂組成物と第2樹脂組成物とが相溶した状態となっている。
本実施形態の樹脂発泡シート1は、発泡層10の上側領域Aと下側領域Bとの間に明確な境界が形成されておらず、これらの間に相溶化した領域を有することで、これらの間に層間剥離が生じてしまうことが抑制されている。
【0015】
なお、前記第1樹脂組成物は、ポリフェニレンエーテル系樹脂の濃度が第2樹脂組成物よりも低濃度であることで本実施形態の樹脂発泡シート1を熱成形における成形性に優れたものとさせ得る。
ただし、前記第1樹脂組成物は、樹脂発泡シート1に対して優れた耐熱性を発揮させる上においてポリフェニレンエーテル系樹脂の濃度が一定以上であることが好ましい。
このようなことから、前記第1樹脂組成物は、ポリフェニレンエーテル系樹脂の濃度が2質量%以上17質量%以下であることが好ましい。
前記第1樹脂組成物は、ポリフェニレンエーテル系樹脂の濃度が6質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが特に好ましい。
また、前記第1樹脂組成物は、ポリフェニレンエーテル系樹脂の濃度が16質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることが特に好ましい。
【0016】
一方で前記第2樹脂組成物は、ポリフェニレンエーテル系樹脂の濃度が第1樹脂組成物よりも高濃度であることで本実施形態の樹脂発泡シート1を耐熱性に優れたものとさせ得る。
ただし、前記第2樹脂組成物は、樹脂発泡シート1に対して優れた熱成形性を発揮させる上においてポリフェニレンエーテル系樹脂の濃度が一定以下であることが好ましい。
このようなことから、前記第2樹脂組成物は、ポリフェニレンエーテル系樹脂の濃度が10質量%以上50質量%以下であることが好ましい。
【0017】
即ち、前記発泡層10は、前記厚み方向両端部の内の一端部におけるポリフェニレンエーテル系樹脂の濃度をD1(質量%)とし、他端部におけるポリフェニレンエーテル系樹脂の濃度をD2(質量%)とした場合に下記の関係式(1)〜(4)の全てを満たすことが好ましい。

2≦ D1 ≦17 ・・・(1)
10≦ D2 ≦50 ・・・(2)
D1<D2 ・・・(3)
5≦(D2−D1) ・・・(4)

さらに、前記発泡層10は、下記の関係式(5)を満たすことが好ましい。

5≦(D2−D1)<19 ・・・(5)
【0018】
なお、発泡層の厚み方向における各部位のポリフェニレンエーテル系樹脂の濃度(PPE濃度)を把握することが必要である場合には、例えば、厚み方向に直交する方向(平面方向)に沿って発泡層をスライスして薄片試料(例えば、0.2mm厚みの試料)を作製し、下記に示すように、この試料に対してポリフェニレンエーテル系樹脂の濃度測定を実施するようにすればよい。
(PPE濃度測定方法)
発泡層の表面から厚み方向に直交する方向(平面方向)に沿って発泡層を0.2mmスライスした薄片試料0.1gをクロロホルム約20mLに溶解させる。
溶解液半分程度を利用し、加熱したガラスプレート上に溶解液を滴下しIR測定に適した厚みのフィルムを作製する。
得られたフィルムの赤外分光分析を下記条件にて実施し、赤外吸収スペクトルを得る。
赤外吸収スペクトルの測定は、サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック株式会社から商品名「iS10」で販売されているフーリエ変換赤外分光分析装置を使用して実施する。
・測定法:透過法
・測定波数領域:4000cm−1〜400cm−1
・測定深度の波数依存性:補正せず
・検出器:重水素化硫酸トリグリシン(DTGS)検出器及びKBrビームスプリッター
・分解能:4cm−1
・積算回数:32回(バックグランド測定時も同様)

得られたチャートから、A960、A906のピーク高さを求め、高分子ハンドブック(社団法人日本分析化学会 1995年初版)記載式によりPPE量を算出する。

PPE濃度(質量%)={R/(R+4.3)}×100

R=A960/A906

A960とは、赤外吸収スペクトル曲線における波数990cm−1±5cm−1での最低吸収位置と、赤外吸収スペクトル曲線における波数930cm−1±5cm−1での最低吸収位置とを結ぶ直線をベースラインとした、波数960cm−1±5cm−1の領域の赤外吸収スペクトル曲線におけるベースラインとの吸光度差(測定された吸光度−ベースラインの吸光度)の最大値を意味する。

A906とは、赤外吸収スペクトル曲線における波数930cm−1±5cm−1での最低吸収位置と、赤外吸収スペクトル曲線における波数880cm−1±15cm−1での最低吸収位置とを結ぶ直線をベースラインとした、波数906cm−1±5cm−1の領域の赤外吸収スペクトル曲線におけるベースラインとの吸光度差(測定された吸光度−ベースラインの吸光度)の最大値を意味する。
【0019】
前記発泡層10は、樹脂発泡シート1が熱成形されることによって形成される樹脂発泡成形品に対して優れた軽量性と強度とを発揮させる上において見掛け密度が0.05g/cm以上0.2g/cm以下であることが好ましい。
また、本実施形態の前記発泡層10は、通常、0.5mm以上5mm以下の厚みとされ、1.0mm以上3.5mm以下の厚みとされることが好ましい。
【0020】
前記発泡層10は、上側領域Aにおける見掛け密度をρa(g/cm)、厚みをTa(mm)、下側領域Bの見掛け密度をρb(g/cm)、厚みをTb(mm)とした際に下記の関係式(5)、(6)を満足させることが好ましい。

1/3≦(ρa/ρb)≦3 ・・・(5)
1/3≦(Ta/Tb)≦3 ・・・(6)
【0021】
前記発泡層10は、上側領域Aを構成する第1樹脂組成物のガラス転移点(中間点ガラス転移温度)をTg1(℃)、第2樹脂組成物のガラス転移点(中間点ガラス転移温度)をTg2(℃)とした際に下記の関係式(7)を満足させることが好ましい。

5≦(Tg2−Tg1)≦30 ・・・(7)
【0022】
前記のように第1樹脂組成物や第2樹脂組成物は、ポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂とを含有している。
また、前記第1樹脂組成物や前記第2樹脂組成物には、発泡層を良好な発泡状態にさせるための発泡剤や気泡調整剤をさらに含有させることができる。
また、前記第1樹脂組成物や前記第2樹脂組成物には、必要に応じて各種の添加剤を含有させることができる。
なお、第1樹脂組成物や第2樹脂組成物は、ポリスチレン系樹脂及びポリフェニレンエーテル系樹脂以外の成分を過度に含有するのは好ましいことではなく、通常、ポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂との合計含有量が90質量%以上とされる。
【0023】
前記ポリスチレン系樹脂は、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、i−プロピルスチレン、t−ブチルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレン、クロロスチレン等のスチレン系単量体の単独重合体、若しくは、これらの共重合体、又は、該スチレン系単量体と共重合可能な、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、ジメチルマレエート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、エチルフマレートなどの(メタ)アクリル酸エステルの他、ジビニルベンゼン、アルキレングリコールジメタクリレートなどの二官能性単量体と、前記スチレン系単量体との共重合体などといったものを採用することができる。
【0024】
また、ポリスチレン系樹脂としては、例えば、一般にハイインパクトポリスチレン樹脂(HIPS)として知られているものを採用することができ、ブタジエンやイソプレンなどのゴム成分ブロックとスチレンブロックとを有するブロック共重合体、前記ゴム成分ブロックをポリスチレンからなる分子鎖にグラフトさせたグラフト共重合体などを採用することができる。
【0025】
なお、前記ポリスチレン系樹脂は、第1樹脂組成物や第2樹脂組成物に1種単独で含有させる必要はなく、第1樹脂組成物や第2樹脂組成物には、必要に応じて2種類以上のポリスチレン系樹脂を含有させるようにしてもよい。
【0026】
前記に示したアクリル酸エステルを多く含むポリスチレン系樹脂は、ポリフェニレンエーテル系樹脂に対して十分な相溶性を示さない場合がある。
従って、前記ポリスチレン系樹脂としては、スチレン単独重合体(汎用ポリスチレン樹脂:GPPS)やハイインパクトポリスチレン樹脂(HIPS)を採用することが好ましく、第1樹脂組成物や第2樹脂組成物は、含有する全てのポリスチレン系樹脂におけるスチレン単位の割合が90質量%以上となるように調製されていることが好ましい。
【0027】
第1樹脂組成物や第2樹脂組成物に含有させるポリフェニレンエーテル系樹脂としては、例えば、ポリ(2,6−ジメチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2,6−ジエチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2,6−ジクロルフェニレン−1,4−エーテル)、又は、これらの変性品などが挙げられる。
なお、本実施形態においては、ポリフェニレンエーテル系樹脂は、1種単独で第1樹脂組成物や第2樹脂組成物に含有させる必要はなく、2種以上のものを第1樹脂組成物や第2樹脂組成物に含有させてもよい。
【0028】
第1樹脂組成物や第2樹脂組成物に含有させる前記発泡剤としては、分解型発泡剤または物理的発泡剤が挙げられる。
分解型発泡剤としては、例えば、炭酸アンモニウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム、亜硝酸アンモニウム、カルシウムアジド、ナトリウムアジド、ホウ水素ナトリウム等の無機系分解性発泡剤、アゾジカルボンアミド、アゾビススルホルムアミド、アゾビスイソブチロニトリル及びジアゾアミノベンゼン等のアゾ化合物、N,N’−ジニトロソペンタンメチレンテロラミン及びN,N’−ジメチル−N,N’−ジニトロソテレフタルアミド等のニトロソ化合物、ベンゼンスルホニルヒドラジド等が挙げられる。
【0029】
前記物理的発泡剤としては、例えば、窒素、二酸化炭素、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、シクロペンタン、ノルマルへキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン、ノルマルヘプタン、イソヘプタン、シクロヘプタン、ベンゼン、トルエン、メチルエーテル、水などが挙げられる。
【0030】
前記気泡調整剤としては、タルク、マイカ、シリカ、珪藻土、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カリウム、硫酸バリウム、ガラスビーズなどの無機化合物、ポリテトラフルオロエチレンなどの有機化合物からなる粉末を採用させ得る。
【0031】
第1樹脂組成物や第2樹脂組成物に含有させるその他の添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、滑剤、難燃剤、帯電防止剤、抗菌剤、消臭剤等が挙げられる。
【0032】
このような発泡層10とともに本実施形態の樹脂発泡シート1を形成させるための第1フィルム層20や第2フィルム層30は、少なくとも前記発泡層10に接する表面が第1樹脂組成物や第2樹脂組成物と相溶性に優れた熱可塑性樹脂によって形成されていることが発泡層とフィルム層との間の層間剥離を防止する上において好ましい。
第1フィルム層20や第2フィルム層30を形成させるための樹脂フィルムとしては、汎用ポリスチレン樹脂(GPPS)フィルム、ハイインパクトポリスチレン樹脂(HIPS)フィルム、又は、これらのフィルムにポリオレフィン系樹脂フィルムがドライラミネートされた積層フィルムなどが挙げられる。
第1フィルム層20や第2フィルム層30をGPPSフィルムやHIPSフィルムで構成させる場合、これらは、無延伸フィルム、弱延伸フィルム、1軸延伸フィルム、及び、2軸延伸フィルムのいずれであってもよい。
また、第1フィルム層20や第2フィルム層30を前記のような積層フィルムとする場合、ドライラミネートするポリオレフィン系樹脂フィルムは、例えば、高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)フィルム、ポリプロピレン系樹脂(PP)フィルム、シクロオレフィンポリマー(COP)フィルム、シクロオレフィンコポリマー(COC)フィルムなどとすることができる。
【0033】
なお、第1フィルム層20及び第2フィルム層30は、通常、それぞれ5μm以上200μm以下の厚みとすることができ、互いに厚みを共通させていても異ならせていても良い。
また、第1フィルム層20及び第2フィルム層30は、その材質を互いに共通させていても異ならせていても良い。
【0034】
このような樹脂発泡シート1は、一般的な樹脂発泡シートと同様の製造方法を採用して作製することができる。
該製造方法を例示すると、例えば、前記樹脂発泡シート1は、第1樹脂組成物と第2樹脂組成物とを共押出法によってシート化して発泡層10のみからなるシートを作製し、このシートに後から樹脂フィルムを積層して第1フィルム層20や前記第2フィルム層を形成させる方法などが挙げられる。
なお、発泡層10のみからなるシートを作製した後、第1フィルム層20や第2フィルム層30を形成させる方法としては、例えば、押出ラミネート法、熱ラミネート法などが挙げられる。
また、前記樹脂発泡シート1は、発泡層10の形成とフィルム層20,30の形成とを上記のように別工程とするのではなく、発泡層10とフィルム層20,30とを共押出法によって一度に形成させるようにしてもよい。
即ち、樹脂発泡シート1は、共押出シート、押出ラミネーションシート、熱ラミネーションシートなどの積層シートであってもよい。
【0035】
前記樹脂発泡シート1は、耐熱性と成形性とに優れることから、耐熱性に優れた樹脂発泡成形品を熱成形によって作製する際の原材料として好適なものである。
また、前記樹脂発泡シート1は、発泡層10を有することから断熱性に優れた樹脂発泡成形品を熱成形によって作製する際の原材料として好適なものである。
さらに、樹脂発泡シート1は、ポリスチレン系樹脂の脆性改善に有効なポリフェニレンエーテル系樹脂が発泡層10に含有されているため10℃以下や0℃以下といった冷蔵・冷凍環境下において利用される樹脂発泡成形品の原材料として好適なものである。
上記のようなことから前記樹脂発泡シート1は、容器などの原材料として好適であり、食品を収容するための食品収容用容器の原材料として特に好適である。
とりわけ前記樹脂発泡シート1は、容器ごと食品を電子レンジで加熱調理するためのレンジアップ用容器の原材料として好適である。
【0036】
前記樹脂発泡シート1を熱成形して得られる容器の内面形状を精度良く形成させる上においては、前記発泡層10の上側領域Aが容器内側となるようにして前記樹脂発泡シートに熱成形を施すことが好ましい。
また、この容器の内側を特に耐熱性に優れたものとする上においては、前記発泡層10の下側領域Bが容器内側となるようにして前記樹脂発泡シートに熱成形を施すことが好ましい。
そして、容器が、上記のようなレンジ加熱される食品を収容させるための用途に利用されるものである場合、容器内側となるフィルム層は、少なくとも食品と接する表面が耐熱性や耐油性に優れていることが好ましい。
そして、このようなフィルム層の形成に好適な樹脂フィルムとしては、例えば、ポリプロピレン系樹脂フィルムと2軸延伸GPPSフィルムとがドライラミネートされたものなどが挙げられる。
【0037】
前記樹脂発泡シート1によって樹脂発泡成形品を作製するための熱成形としては、一般的な方法を採用することができ、真空成形、圧空成形、真空圧空成形、マッチモールド成形、プレス成形などが採用可能である。
ここで樹脂発泡シート1の上側領域Aと下側領域Bとの間に明確な境界が形成されていないということは、このような熱成形に際して前記境界において層間剥離が生じ難い状態になっていることを意味する。
即ち、本実施形態の樹脂発泡シート1は、発泡層を形成するための第1樹脂組成物と第2樹脂組成物との両方にポリフェニレンエーテル系樹脂が含有されているため共押出法によって形成させた共押出シートの場合でも上側領域Aと下側領域Bとの間に明確な境界が形成され難く層間剥離が生じ難いという利点を有する。
【0038】
この点に関して説明すると、例えば、ポリフェニレンエーテル系樹脂を全く含んでおらず、耐熱性の向上が図られていないポリスチレン系樹脂組成物(以下、「非耐熱化樹脂組成物」ともいう)を第1樹脂組成物に代えて利用し、第2樹脂組成物とともに共押出を実施すると、非耐熱化樹脂組成物と第2樹脂組成物との樹脂温度や溶融粘度を互いにマッチングさせて押出発泡を実施することが困難になり、上側領域と下側領域との間で気泡径、連続気泡率、及び、2次発泡性を大きく異ならせる結果となり易い。
そのため上記のような場合、得られる樹脂発泡シートは、発泡層の上側領域と下側領域との間に明確な境界が形成され易く、熱成形に際して条件を十分にコントロールしないと層間剥離が生じるおそれがある。
また、上記のようにして得られた樹脂発泡シートは、厚み方向一端側と他端側とで軟化温度を大きく異ならせるため、成形型で賦形する直前における加熱条件を正確にコントロールしないと、片面が過度に軟化したり、逆に片面が軟化不十分になったりして良好な樹脂発泡成形品が得られなくなるおそれを有する。
そして、厚みの薄い樹脂発泡シートを両面に大きな温度差を設けた状態に維持するのは容易なことではない。
その一方で本実施形態の樹脂発泡シート1は、第1樹脂組成物及び第2樹脂組成物の両方にポリフェニレンエーテル系樹脂を含んでいるため、熱成形における条件管理を厳密なものとする必要性が低く、樹脂発泡成形品を容易に製造させ得る。
【0039】
厚み方向一端側と他端側とで軟化温度が異なる樹脂発泡シートは、例えば、熱成形によって鋭角な折曲げがなされた場合に折り目に沿ってシワやひび割れを生じる場合があるが、本実施形態の樹脂発泡シート1は、このようなおそれが低く、例えば、シートが折り曲げられて容器内に仕切りが設けられた食品容器などの形成に適している。
本実施形態の樹脂発泡シート1によって作製されることが好ましい容器に関し、図4、5を参照しつつ説明する。
【0040】
図4は、本実施形態の樹脂発泡シート1によって作製された容器100と、該容器に被せられる蓋体200とを示したものである。
該容器100は、樹脂発泡シート1が熱成形されてなる熱成形品である。
本実施形態の前記容器100は、真空成形品、圧空成形品、真空圧空成形品、マッチモールド成形品、プレス成形品等とすることができる。
図4に示した容器100は、上部開口を有し、前記蓋体200が外嵌合される外嵌合容器であり、食品収容容器である。
前記容器100は、平面視矩形のトレー状となっている。
前記容器100は、食品を収容するための収容凹部を備え、該収容凹部が食品を載置するための底面部110と該底面部110の外周縁からやや外広がりに立上る周側壁部120とによって形成されている。
また、前記容器100は、周側壁部120の上端部から外向きに延びるフランジ部130を備えている。
該容器100には、該フランジ部130を外側から覆うように外嵌合されて前記蓋体200が装着される。
【0041】
本実施形態に係る容器100の底面部110には収容凹部の収容空間を仕切るためのリブ110aが備えられており、該リブ110aを上向きに突出させている以外は、前記底面部110が略平坦になっている。
該底面部110は、上面側が食品載置面となっており、下面側が容器接地面となっている。
前記リブ110aは、底面部110を形成する樹脂発泡シートの一部が上向きに凸となるように折り曲げられて形成されたものであり、樹脂発泡シートが山折りとなるように熱成形されて形成されたものである。
該リブ110aは、図5に示すように断面形状が逆V字状となっており、突出方向における基端部110a1よりも先端部110a2の方が細幅となっている。
【0042】
前記のように厚み方向一端側と他端側とで軟化温度が異なる樹脂発泡シートを熱成形してこのようなリブを形成させようとした場合、成形条件を高い精度でコントロールしなければリブ先端にシワやひび割れを発生させるおそれがある。
また、従来の樹脂発泡シートでは、リブの高さ、樹脂発泡シートの折り曲げ角度、リブ先端の曲率半径などによっては、成形条件を高い精度でコントロールしてもリブ先端にシワやひび割れが形成されることを十分に抑制することが出来ない場合がある。
一方で、本実施形態の樹脂発泡シート1は、成形条件を過度に狭い範囲に調整することなくリブ先端にシワやひび割れが形成されることを抑制できる。
【0043】
この点に関し、図5を参照しつつ説明する。
なお、図5は、リブの延在する方向に直交する垂直平面によってリブを切断した様子を示した概略断面図である。
前記のような効果をより顕著に発揮させる上において、本実施形態の樹脂発泡シート1は、リブの高さ(h:食品載置面から垂直方向に最も離れた位置における高さ)が10mm以上50mm以下の容器の形成に用いられることが好ましく、15mm以上40mm以下高さのリブを有する容器の形成に用いられることがより好ましい。
また、樹脂発泡シート1によって形成させる容器のリブは、基端部の幅(W:mm)に対する高さ(h:mm)の比率(h/W)が、0.3以上2.0以下であることが好ましく、0.4以上1.8以下であることがより好ましい。
前記リブにおける樹脂発泡シート1の折り曲げ角度(θ)は、25度以上75度以下であることが好ましく、30度以上70度以下であることがより好ましい。
前記リブの先端部の曲率半径(上面側の曲率半径:r)は、1.5mm以上7.0mm以下であることが好ましく、2.0mm以上6.0mm以下であることがより好ましい。
【0044】
このような容器を作製する場合、第2樹脂組成物で形成された側が容器内側となるように樹脂発泡シート1を熱成形することで、得られる熱成形品(容器)に優れた耐熱性を発揮させ得る。
また、このような容器を作製する場合、第1樹脂組成物で形成された側が容器内側となるように樹脂発泡シート1を熱成形することで、前記リブにシワやひび割れが形成されることをより確実に防止し得る。
【0045】
なお、本実施形態の樹脂発泡シート1は、発泡層の厚み方向一端部と他端部とをそれぞれポリフェニレンエーテル系樹脂の濃度が異なる第1樹脂組成物と第2樹脂組成物とによって形成させているため、成形品の形状をシャープなものとすることが求められる側を前記上側領域Aとし、高い耐熱性が特に必要とされる側を下側領域Bとして熱成形可能なものとなっている。
しかし、本発明の樹脂発泡シートは、上記例示のものに限定されるものではなく、例えば、成形品の両面をシャープな形状のものにすることが求められるような場合には、第2樹脂組成物が厚み方向両側から第1樹脂組成物で挟み込まれた発泡層を有するものとすることができる。
即ち、本発明の樹脂発泡シートは、いわゆる「3層同時押出」の形式で共押出が実施され、発泡層の厚み方向一端部と他端部とがそれぞれ第1樹脂組成物によって形成され、厚み方向中央部に第2樹脂組成物で形成させた領域が備えられた態様とすることができる。
【0046】
また、本発明の樹脂発泡シートは、例えば、成形品の両面に優れた耐熱性が求められるような場合には、第1樹脂組成物が厚み方向両側から第2樹脂組成物で挟み込まれた発泡層を有するものとすることができる。
即ち、本発明の樹脂発泡シートは、いわゆる「3層同時押出」の形式で共押出が実施され、発泡層の厚み方向一端部と他端部とがそれぞれ第2樹脂組成物によって形成され、厚み方向中央部に第1樹脂組成物で形成させた領域が備えられた態様とすることができる。
【0047】
さらに、本発明の樹脂発泡シートは、第1樹脂組成物と第2樹脂組成物との2種類のポリスチレン系樹脂組成物のみによって発泡層が形成されている場合に限定されるものではない。
即ち、ポリフェニレンエーテル系樹脂の濃度が異なる3種類以上のポリスチレン系樹脂組成物を用いて発泡層が形成されている樹脂発泡シートも、本発明の樹脂発泡シートとして意図する範囲のものである。
【0048】
また、本発明の樹脂発泡シートは、第1フィルム層20や第2フィルム層30を備えることを必須とするものではなく、さらに別の層を有していてもよい。
【0049】
なお、ここではこれ以上の詳述を行わないが、樹脂発泡シートの形成材料や製造方法といったことに関して従来公知の技術事項は、本発明の効果が著しく損なわれない範囲において本発明でも適宜採用が可能なものである。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下のような実施例に限定されるものでもない。
【0051】
(実施例1)
スクリュー径90mmの単軸押出機とスクリュー径150mmの単軸押出機とが直列に配置され、スクリュー径90mmの単軸押出機が上流側となるように配置されたタンデム押出機を2系統用意し、これらを1つの合流金型を介してサーキュラーダイに接続させた。
即ち、2系統のタンデム押出機の内の第1の系統のタンデム押出機に相対的にポリフェニレンエーテル系樹脂濃度の低い第1樹脂組成物を供給して溶融混練させ、第2の系統のタンデム押出機に相対的にポリフェニレンエーテル系樹脂濃度の高い第2樹脂組成物を供給して溶融混練させ、且つ、これらのタンデム押出機から吐出される溶融混練物を前記サーキュラーダイから共押出できるように準備した。
【0052】
第1樹脂組成物については、まずGPPS(商品名「HP−555」、DIC社製)と、ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)及びポリスチレン樹脂(PS)の混合物(商品名「ノリルEFN4230」サビック社製 PPE/PS=70/30)とを96質量部:4質量部(「HP−555」:「ノリルEFN4230」)の質量割合で含む混合樹脂を用意した。
すなわち、第1樹脂組成物のPPE濃度は2.8質量%とした。
そして、この混合樹脂とは別にタルク(気泡調整剤)練り込みマスターバッチ(商品名「DSM1401M」)を用意した。
前記混合樹脂100質量部に対し前記マスターバッチを0.8質量部の割合でブレンドしてバッチ式混合装置に投入し、該混合装置で十分に混合した後に、第1の系統のタンデム押出機の上流側押出機(スクリュー径90mm)に供給した。
この上流側の押出機では、シリンダー温度の最高設定温度を290℃とし、発泡剤として混合ブタン約4.0質量部(対混合樹脂100質量部)を途中で加え、GPPSやPPEとともに溶融混練して、該溶融混練後の混練物を下流側の押出機に供給させるようにした。
また、下流側の押出機では、上流側の押出機から供給された溶融混練物を120kg/hの割合で合流金型へと供給させるようにした。
【0053】
その一方で、第2樹脂組成物については、まずGPPS(商品名「HP−555」DIC社製)と、ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)及びポリスチレン樹脂(PS)の混合物(商品名「ノリルEFN4230」サビック社製 PPE/PS=70/30)とを70質量部:30質量部(「HP−555」:「ノリルEFN4230」)の質量割合で混合した混合樹脂を用意した。
すなわち、第2樹脂組成物のPPE濃度は21.0質量%とした。
そして、この混合樹脂とは別にタルク(気泡調整剤)練り込みマスターバッチ(商品名「DSM1401M」)を用意した。
この混合樹脂100質量部に対し前記マスターバッチ(DSM1401M)を1.0質量部の割合でブレンドしてバッチ式混合装置に投入し、該混合装置で十分に混合した後に、第2の系統のタンデム押出機の上流側押出機(スクリュー径90mm)に供給した。
この上流側の押出機では、シリンダー温度の最高設定温度を300℃とし、発泡剤として混合ブタン約5.0質量部(対混合樹脂100質量部)を途中で加えて前記混合樹脂とともに溶融混練し、該溶融混練後の混練物を下流側の押出機に供給するようにした。
また、下流側の押出機では、上流側の押出機から供給された溶融混練物を120kg/hの割合で前記合流金型へと供給させるようにした。
【0054】
合流金型に供給された上記2種類の溶融混練物を当該合流金型内で合流、積層した後に
口径125mmのサーキュラーダイを通して、外側が第1樹脂組成物、内側が第2樹脂組成物となるように円筒形に押出発泡(共押出)させた直後に、その内側と外側にエアーを
かけて冷却した。
エアー温度は27℃とし、吹き付け量は、外側(第1樹脂組成物側)では0.068m/mとし、内側(第2樹脂組成物側)では0.087m/mとした。
【0055】
そして、冷却後の円筒状発泡体を切り開いて、発泡層のみからなる樹脂発泡シートを製造した。
この第1の実施例の樹脂発泡シートは、厚みが1.6mmであり、坪量が110g/mであった。
【0056】
(評価・判定)
(成形性)
樹脂発泡シートの一面側と他面側とのそれぞれに対面するようヒーターがセットされた予備加熱装置に実施例1の樹脂発泡シートを供給し、第1樹脂組成物で形成された面(以下、「第1面」ともいう)及びこの面とは反対の第2樹脂組成物で形成された面(以下、「第2面」ともいう)とをそれぞれ加熱して樹脂発泡シートを軟化状態にし、該樹脂発泡シートを成形型に沿わせて変形させ樹脂発泡成形品を作製した。
このとき前記第2面がトレーの内側となるように熱成形を実施し、樹脂発泡成形品として長辺200mm、短辺100mm、深さ30mmの角形トレーを作製した。
実施例1の樹脂発泡シートを用いた場合、第1面側のヒーター温度を第2面側のヒーター温度より、10℃低くしただけでは、第1面側がオーバーヒートしてしまい良質な角形トレーは得られなかった。
しかし、第1面側のヒーター温度を第2面側のヒーター温度よりも15℃低くした場合には、第1面側がオーバーヒートせず、良質な角形トレーが得られた。
一方で、後述する第2実施例の樹脂発泡シートを用いた場合、第1面側のヒーター温度と第2面側のヒーター温度との差が10℃以内でも、第1面側がオーバーヒートせず良質な角形トレーが得られた。
このことから、表1における成形性の欄には、実施例1の樹脂発泡シートの判定結果を「○」で表示し、実施例2の成形性の欄には、判定結果を「◎」で表示するようにした。
また、実施例7では、第1面側のヒーター温度を第2面側のヒーター温度より、15℃低くしただけでは、第1面側がオーバーヒートしてしまい良質な角形トレーは得られなかった。
そして、実施例7では、第1面側のヒーター温度を第2面側のヒーター温度より、20℃低くした場合には、第1面側がオーバーヒートせず、角形トレーが得られるものの、これ以上第1面側のヒーター温度を下げると、第2面側が加熱不足の状態で熱成形されて容器内側に“ナキ”と呼ばれる表面割れが生じるおそれがあった。
そのため、表1においては、実施例7の成形性の判定結果を「△」で表示するようにした。
なお、この角形トレーの作製に際し、第1面側のヒーター温度を第2面側のヒーター温度に比べて大きく低下させなければオーバーヒートしてしまい、第2面側が加熱不足の状態で熱成形されて容器内側に“ナキ”と呼ばれる表面割れが生じるような場合には、成形性が良好でないと判断し、表1には判定結果を「×」で表示するようにした。
【0057】
(成形品外観)
上記で得られた角形トレーの外観を目視で確認した。
第1面側における型の出がシャープであり、微細な凹凸形状に至るまで輪郭がシャープで外観美麗なものについては「◎」と判定した。
型の出が比較的シャープであるものの微細な凹凸形状において輪郭が若干ぼやけているものについては「○」とした。
型の出が悪く、微細な凹凸形状における輪郭もぼやけており、外観が悪いものについては「×」と判定した。
【0058】
(層間剥離評価)
樹脂発泡シートを、前記予備加熱装置にて加熱し、初期に対して2倍程度まで2次発泡させたものを試料とし、顕微鏡により断面観察を行った。
その結果、厚み方向中央部において層間剥離が発生していることが観察されたものは「×」と判定し、層間剥離が発生していないものの第1面と、第2面の界面が明確に確認できるものについては、「○」と判定した。
また、層間剥離は観察されず第1面と第2面の界面がわからないものについては「◎」と判定した。
結果を表1に示す。
【0059】
(耐熱性評価)
100℃に加熱したオーブンに前記の角形トレーを入れて30分間経過した後に取出し、該取出し後の角形トレーの変形を確認した。
変形は、トレー上縁部(リップ部)において、対向する短辺のそれぞれの中心間距離を測定し、元の寸法(200mm)に対する寸法変化によって確認し、以下の基準により判定した。

耐熱性◎:寸法変化が±10mm未満であり変形が十分小さい。
耐熱性○:寸法変化が±10mm以上±13mm未満であり変形が小さい。
耐熱性△:寸法変化が±13mm以上±15mm未満であり変形が許容限度内である。
耐熱性×:寸法変化が±15mm以上であり、許容限度を超えた変形が生じている。

結果を表1に示す。
【0060】
(臭気性)
前記の角形トレー5つをポリエチレン製のチャック袋に入れ、24時間静置した。
男女5人の被験者により前記チャック袋内の臭気を官能評価した。
その結果、臭気の強いと感じた人が0人又は1人であった場合については「◎」、臭気の強いと感じた人が2人又は3人であった場合については「○」と判定し、臭気の強いと感じた人が4人以上であった場合には「×」と判定した。
【0061】
(実施例2)
第1樹脂組成物に含有させるGPPS(商品名「HP−555」)と、ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)及びポリスチレン樹脂(PS)の混合物(商品名「ノリルEFN4230」)との割合を表1に示す通りとし、且つ、該第1樹脂組成物を溶融混練する上流側押出機のシリンダーの最高設定温度を290℃に代えて300℃としたこと以外は、実施例1と同様の条件で樹脂発泡シートを作製し、該樹脂発泡シートに対して実施例1と同様の評価を行った。
結果を表1に示す。
【0062】
(実施例3)
第1樹脂組成物に含有させるGPPS(商品名「HP−555」)と、ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)及びポリスチレン樹脂(PS)の混合物(商品名「ノリルEFN4230」サビック社製 PPE/PS=70/30)との割合を表1に示す通りとし、且つ、該第1樹脂組成物を溶融混練する上流側押出機のシリンダーの最高設定温度を290℃に代えて300℃としたこと以外は、実施例1と同様の条件で樹脂発泡シートを作製し、該樹脂発泡シートに対して実施例1と同様の評価を行った。
結果を表1に示す。
【0063】
(実施例4)
第1樹脂組成物に含有させるGPPS(商品名「HP−555」)とポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)及びポリスチレン樹脂(PS)の混合物(商品名「ノリルEFN4230」)との割合を表1に示す通りとし、且つ、該第1樹脂組成物を溶融混練する上流側押出機のシリンダーの最高設定温度を290℃に代えて300℃としたこと以外は、実施例1と同様の条件で樹脂発泡シートを作製し、該樹脂発泡シートに対して実施例1と同様の評価を行った。
結果を表1に示す。
【0064】
(実施例5)
第1樹脂組成物に含有させるGPPS(商品名「HP−555」)とポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)及びポリスチレン樹脂(PS)の混合物(商品名「ノリルEFN4230」)との割合を表1に示す通りとし、且つ、該第1樹脂組成物を溶融混練する上流側押出機のシリンダーの最高設定温度を290℃に代えて300℃としたこと以外は、実施例1と同様の条件で樹脂発泡シートを作製し、該樹脂発泡シートに対して実施例1と同様の評価を行った。
結果を表1に示す。
【0065】
(実施例6)
第1樹脂組成物に含有させるGPPS(商品名「HP−555」)とポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)及びポリスチレン樹脂(PS)の混合物(商品名「ノリルEFN4230」)との割合を表1に示す通りとし、且つ、該第1樹脂組成物を溶融混練する上流側押出機のシリンダーの最高設定温度を290℃に代えて300℃としたこと以外は、実施例1と同様の条件で樹脂発泡シートを作製し、該樹脂発泡シートに対して実施例1と同様の評価を行った。
結果を表1に示す。
【0066】
(実施例7)
第1樹脂組成物に含有させるGPPS(商品名「HP−555」)とポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)及びポリスチレン樹脂(PS)の混合物(商品名「ノリルEFN4230」)との割合を表1に示す通りとしたこと以外は、実施例1と同様の条件で樹脂発泡シートを作製し、該樹脂発泡シートに対して実施例1と同様の評価を行った。
結果を表1に示す。
【0067】
(比較例1)
第1樹脂組成物としてポリフェニレンエーテル系樹脂を含有しないものを用いて樹脂発泡シートを作製した。
即ち、発泡層ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)及びポリスチレン樹脂(PS)の混合物(商品名「ノリルEFN4230」、サビック社製PPE/PS=70/30)に代えてHIPS(商品名「E641N」、東洋スチレン社製)を用いた。
なお、当該樹脂組成物は、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含有していないものではあるが、便宜上、ここでは「第1樹脂組成物」と称する。
該第1樹脂組成物に含有させるGPPS(商品名「HP−555」)及びHIPS(商品名「E641N」)の割合を表1に示す通りとし、且つ、該第1樹脂組成物を溶融混練する上流側押出機のシリンダーの最高設定温度を290℃に代えて260℃としたこと以外は、実施例1と同様の条件で樹脂発泡シートを作製し、該樹脂発泡シートに対して実施例1と同様の評価を行った。
結果を表1に示す。
【0068】
(比較例2)
第1樹脂組成物に含有させるGPPS(商品名「HP−555」)と、ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)及びポリスチレン樹脂(PS)の混合物(商品名「ノリルEFN4230」)との割合を表1に示す通りとしたこと以外は、実施例1と同様の条件で樹脂発泡シートを作製し、該樹脂発泡シートに対して実施例1と同様の評価を行った。
結果を表1に示す。
【0069】
(比較例3)
第1樹脂組成物に含有させるGPPS(商品名「HP−555」)と、ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)及びポリスチレン樹脂(PS)の混合物(商品名「ノリルEFN4230」)との割合を表1に示す通りとし、且つ、該第1樹脂組成物を溶融混練する上流側押出機のシリンダーの最高設定温度を290℃に代えて300℃としたこと以外は、実施例1と同様の条件で樹脂発泡シートを作製し、該樹脂発泡シートに対して実施例1と同様の評価を行った。
結果を表1に示す。
【0070】
(比較例4)
第1樹脂組成物に含有させるGPPS(商品名「HP−555」)と、ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)及びポリスチレン樹脂(PS)の混合物(商品名「ノリルEFN4230」)との割合を表1に示す通りとし、且つ、該第1樹脂組成物を溶融混練する上流側押出機のシリンダーの最高設定温度を290℃に代えて300℃としたこと以外は、実施例1と同様の条件で樹脂発泡シートを作製し、該樹脂発泡シートに対して実施例1と同様の評価を行った。
結果を表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
また、実施例3、及び、比較例1の樹脂発泡シートについて、層間剥離を評価した結果を図2、3に示す。
この図2、3は、何れも正面視左側の写真が樹脂発泡シートを2次発泡させる前のシート断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影したもので、正面視右側の写真が2次発泡後の断面写真である。
そして実施例3の樹脂発泡シートに係る断面写真(図2)では、2次発泡後も正常な断面構造が示されている一方で、比較例1の樹脂発泡シートに係る断面写真(図3)では、厚み方向中央部において気泡どうしが連結した粗大気泡が形成されており、層間剥離が生じていることが確認できる。
【0073】
これらの結果から、本発明によれば耐熱性に優れ、熱成形などにおける成形性に優れた樹脂発泡シートが提供され、耐熱性に優れ且つ製造容易な樹脂発泡成形品が提供され得ることがわかる。
【符号の説明】
【0074】
1:樹脂発泡シート、10:発泡層、20,30:フィルム層
図1
図2
図3
図4
図5