特許第6266713号(P6266713)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6266713
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】目組織および人工水晶体の変更システム
(51)【国際特許分類】
   A61F 9/008 20060101AFI20180115BHJP
【FI】
   A61F9/008 120A
【請求項の数】15
【外国語出願】
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-143124(P2016-143124)
(22)【出願日】2016年7月21日
(62)【分割の表示】特願2015-62514(P2015-62514)の分割
【原出願日】2011年1月7日
(65)【公開番号】特開2016-195823(P2016-195823A)
(43)【公開日】2016年11月24日
【審査請求日】2016年8月8日
(31)【優先権主張番号】61/293,357
(32)【優先日】2010年1月8日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】312005658
【氏名又は名称】オプティメディカ・コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】シューレ,ジョージ
(72)【発明者】
【氏名】アンダーセン,ダン
【審査官】 石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 特公平03−044533(JP,B2)
【文献】 国際公開第2009/033107(WO,A2)
【文献】 特表2007−527731(JP,A)
【文献】 特表2004−525738(JP,A)
【文献】 特許第4234388(JP,B2)
【文献】 特開2004−121814(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0143772(US,A1)
【文献】 特表2010−538699(JP,A)
【文献】 特開平07−184951(JP,A)
【文献】 特開平11−192253(JP,A)
【文献】 特表2010−538703(JP,A)
【文献】 特許第5656627(JP,B2)
【文献】 特表2010−538704(JP,A)
【文献】 特許第5373820(JP,B2)
【文献】 Holger Lubatschowski et al.,Medical applications for ultrafast laser pulses,RIKEN Review,日本,2003年 1月,第50号,p. 113-118
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/008
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼科手術用のシステムであって、
眼内の対象の位置と形状を測定するために、かつ前記眼内の対象のうちの少なくとも1つを物理的に変更するために、前記眼内の対象にレーザ光を供給するように構成された光学系およびレーザ光源を有するレーザシステムであって、前記レーザ光が、所定のパルスエネルギーと、1ピコ秒と100ナノ秒の間のパルス幅と、約320ナノメートルと約430ナノメートルの間の波長とを有する複数のレーザパルスを含み、前記光学系が、前記レーザ光源に動作可能に結合され、前記レーザ光を焦点に集束し、当該焦点を前記眼内の対象内で走査するように構成されたレーザシステムと、
測定した眼内の対象の位置と形状に基づいて、前記眼内の対象のうちの少なくとも1つを物理的に変更する治療パターンを生成すべく、前記レーザシステムを作動させるように構成された制御電子回路とを備え、
共焦点反射率測定法が、プラズマの形成に付随するキャビテーション事象の発生の監視に使用され、
キャビテーション事象が検出されると、キャビテーションを回避するためにその後のレーザパルスのパルスエネルギーを減少させることを特徴とする眼科手術用のシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のシステムにおいて、前記焦点におけるレーザ光の放射照度が、前記眼内の対象のうちの少なくとも1つを光分解によって物理的に変更するのに十分な大きさを有するが、プラズマおよびそれに付随するキャビテーション事象を形成する閾値を超えないように、前記パルスエネルギー、前記パルス幅、および前記焦点が構成されていることを特徴とするシステム。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシステムにおいて、前記波長が320ナノメートルと400ナノメートルの間であることを特徴とするシステム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のシステムにおいて、前記波長が約355ナノメートルであることを特徴とするシステム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のシステムにおいて、前記パルス幅が約400ピコ秒であることを特徴とするシステム。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のシステムにおいて、前記パルスエネルギーが、0.01マイクロジュールと約500マイクロジュールの間であることを特徴とするシステム。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のシステムにおいて、前記パルスエネルギーが、約0.5マイクロジュールと約10マイクロジュールの間であることを特徴とするシステム。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載のシステムにおいて、前記複数のレーザパルスが、約500ヘルツと約500キロヘルツの間の繰り返し率を有することを特徴とするシステム。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載のシステムにおいて、前記焦点が、約0.5ミクロンと約10ミクロンの間の大きさを有することを特徴とするシステム。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載のシステムにおいて、前記眼内の対象の少なくとも1つが、角膜、縁部、強膜、水晶体嚢、水晶体および合成人工水晶体インプラントからなる群から選択されることを特徴とするシステム。
【請求項11】
請求項1に記載のシステムにおいて、前記治療パターンが、角膜減張切開術、輪部減張切開術、乱視矯正角膜切開術、嚢切開法、角膜弁、および角膜移植形状からなる群から選択される形態において、前記眼内の対象のうちの少なくとも1つに1またはそれ以上の切り込みを形成するように構成されていることを特徴とするシステム。
【請求項12】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載のシステムにおいて、変更される前記眼内の対象の屈折率が変更されることを特徴とするシステム。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか1項に記載のシステムにおいて、前記レーザ光の放射照度が、1平方センチメートルあたり約120ギガワットであることを特徴とするシステム。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか1項に記載のシステムにおいて、線吸収を促進するために前記眼内の対象に取り入れられる外因性発色団をさらに備えることを特徴とするシステム。
【請求項15】
請求項1乃至14のいずれか1項に記載のシステムにおいて、焦点に達する前のレーザ光の気泡、クラックおよび/または組織の断片上での散乱の悪影響を回避するために、前記レーザ光を前記眼内の対象組織の最大必要深さで集束を生じさせた後に、より浅い組織空間上に集束させることを特徴とするシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目組織および人工水晶体を変更するシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
白内障摘出術は、世界で最も一般に行われる外科手術の一つである。白内障とは、目の水晶体またはその膜(水晶体嚢)の混濁化である。その程度は、僅かな不透明から光の進行を妨げる完全な不透明まで様々である。加齢による白内障の発生の初期の段階においては、水晶体の度数が増加して、近視が引き起こされるとともに、水晶体の緩やかな黄変および不透明化により、青色の波長が水晶体内で吸収および散乱されるため、青色の知覚が低下する場合がある。白内障は、一般にゆっくりと進行し、治療をしなければ、失明を引き起こして、目が見えなくなる可能性がある。
【0003】
治療は、不透明な水晶体を取り除き、それを人工水晶体(IOL)に置き換えることにより行われる。現在、1年間に米国で推定300万件、世界で1500万件行われている。この市場は、移植用の人工水晶体、外科的手技を容易にする粘弾性ポリマー、水晶体超音波乳化吸引チップ、チューブおよび様々なナイフおよび鉗子を含む使い捨て器具など、様々なセグメントからなる。
【0004】
現代の白内障手術は、一般に、水晶体超音波乳化吸引術と呼ばれる手法を使用して行われる。この手法においては、関連する注入および吸引ポートを有する超音波チップを使用して、水晶体の相対的に硬い核を削り、前嚢切開または最近では連続環状嚢切開(CCC)と呼ばれる、前水晶体嚢に形成される開口を介して、その除去を容易にする。最後に、折り畳み可能な合成の人工水晶体を、小さな切開を介して目の残りの水晶体嚢内に挿入する。
【0005】
その手術において最も技術的に困難で重要なステップの一つは、嚢切開を形成するステップである。このステップは、缶切り式嚢切開術と呼ばれる初期の手法から発展したもので、この手法では、前水晶体嚢を円形状に穿孔するために先のとがった針が使用され、その後に、一般に直径5−8mmの範囲の水晶体嚢の円形の断片が除去される。これにより、水晶体超音波乳化吸引術により核を削る次のステップが容易となる。初期の缶切り式手法は様々な合併症を伴うことから、その分野の第一人者により、乳化ステップに先立って前水晶体嚢を除去する手法として、より優れた手法を開発するための様々な試みがなされている。
【0006】
連続環状嚢切開術のコンセプトは、滑らかな連続円形開口を与えることであり、その開口を介して、核の水晶体超音波乳化吸引を安全かつ容易に行うことができるだけでなく、人工水晶体の簡単な挿入を行うこともできる。それは、挿入のために開いた中央のアクセスと、患者による網膜への像の伝達のための恒久的な開口の両方を与えるとともに、残った嚢の内部におけるIOLの支持も与えて、脱臼の可能性を制限する。
【0007】
外科医が、赤色反射の不足が原因で嚢を十分に可視化できないことや、十分安全にそれを掴むことができないこと、あるいは放射状の裂け目や伸びを生じることなく正しい位置に適当な大きさの滑らかな円形開口を開けることができないことに関連する課題が生じることがある。また、初期開口後の前房の深度の維持に関する技術的な困難や、瞳孔の大きさが小さいこと、あるいは水晶体混濁に起因する赤色反射の不足に関する技術的な困難も存在する。可視化に関する問題の幾つかは、メチレンブルーまたはインドシアニングリーンの染料の使用によって最小限に抑えられている。小帯が脆弱な患者(一般に、高齢の患者)や小さな子供は、非常に柔らかく弾力性のある嚢を有し、それら嚢は制御可能にかつ確実に切り裂いて開けることが非常に難しいため、更なる合併症を生じることがある。
【0008】
多くの白内障患者は、乱視の視覚的誤差を有している。角膜曲率がすべての方向に同じではない場合に、乱視を生じることがある。最近では、乱視を矯正するためにIOLが使用されるが、正確な回転および中心の配置が必要とされる。また、5Dを超える乱視の矯正には、多くの患者がそれよりも深刻な異常を有しているが、IOLは使用されない。5Dを超えるより高い矯正には、より球状となるように角膜を再形成することが必要とされる。コルネアプラスティ、乱視矯正角膜切開術、角膜減張切開術(CRI)および輪部減張切開術(LRI)を含む数多くのアプローチが存在する。コルネアプラスティを除くすべての処置は、角膜切開を、明確に定められた方法および深さで配置して、角膜がより球状となるように形状を変えることを可能にすることによって行われる。最近では、これらの繊細な切り口は、手動により限られた精度で配置される。
【0009】
しかしながら、眼の治療には切り口だけが必要とされるわけではない。組織の機械的特性の弱化および/または治療される組織の光学的特性の変更をもたらす、目組織のより緩やかな変更に対する要請もある。この場合、その作用は、機械的破砕が生じることなく、目組織の構造的変更を可能にするために十分に緩やかなものとすべきである。Ding等の文献(IOVS、2008年(49)、12、5532−5539ページ)には、サブラプチャ(sub-rupture)フェムト秒レーザパルスによる角膜組織の変更が示されるとともに、角膜組織内に回折パターンを加えることにより、約1%の屈折率の変化を生じることが実証されている。しかしながら、Dingの手法の実用的利用は、治療される組織に対して1立方マイクロメートルあたり100,000,000のレーザパルスを加える必要性により制限されている。
【0010】
Vogel等の文献(US2010/0163540A1)には、プラズマ発光を形成せずに低密度プラズマを発生させる一時的な平滑レーザ光で透明材料を機械加工および切断する方法が記載されている。その教示においては、曝される材料の線吸収を特に避けるべきであると記載されている。それは、その線吸収がシーディング電子(seeding electrons)のランダム生成をもたらし、さらにそれがプラズマ閾値における確率変動を生じるからである。また、その文献には、低密度プラズマ形成がキャビテーション気泡の形成に常に関係していることが記載されている。
【0011】
これは、2つの基礎となる方式が記載されている本発明とは非常に対照的である。対象組織において一定の線吸収を有するレーザ波長を使用することにより、極めて低い閾値効果を生じさせることができることが発見されている。また、一時的な平滑パルス形状は、本発明において必要とはされない。また、キャビテーション気泡の形成は、本発明の一実施形態では望ましくなく、それは、その作用が線吸収で促進される光分解によって引き起こされるからである。また、Vogelのデータは、IRフェムト秒レーザおよび355サブナノ秒レーザと比較した場合に、プラズマ形成を達成するのに少なくとも1桁の違いが存在することを示している。本発明の実施形態では、組織内因性の発色団の線吸収の使用のため(または外因性の発色団の追加によって)、355nmのサブナノ秒レーザのためのエネルギー閾値は、同じ開口数の光学素子を使用するフェムト秒レーザパルスと比較した場合に、僅かに低くなる。
【0012】
Braun等の文献(DE19855623C1)には、ガラスの伝送水平域の外側の波長を有するレーザで、ガラスの内部を正確に機械加工する方法が記載されている。その後、このレーザは、表面を含むことなく、ガラス内部に材料欠陥を特に生成するために使用される。この方法は、表面自体に損傷を与えることなく、表面のより近くに材料欠陥を配置することを可能にする。表面の作用は記述されていない。また、それは、キャビテーション気泡が形成されることはないガラス上でのみ使用されるため、キャビテーション事象を生じることもない。
【0013】
Koenig等の文献(WO2007/057174)には、UVスペクトル範囲内でフェムト秒レーザパルスを使用する目の外科的介入システムが請求の範囲に記載されている。その教示においては、その発明のために0.8のより高い開口数を使用することによって、ナノジュールのレジメンに閾値が大幅に低下することが記載されている。しかしながら、これは、それらの開口数を眼科用途に一般に使用される6乃至10mmの広い走査範囲と組み合わせることは光学的に困難であるため、このシステムの実用的な製品への転換を困難なものとする。また、フェムト秒UVレーザパルスの生成も技術的に困難である。
【0014】
眼科患者の治療の水準を高くするような方法、手法および装置が必要とされている。
【発明の概要】
【0015】
一実施形態では、眼科手術用のシステムが対象とされ、このシステムは、レーザ光を供給するように構成されたレーザ光源であって、前記レーザ光が、約320ナノメートルと約430ナノメートルとの間の波長と、約1ピコ秒と約100ナノ秒との間のパルス幅を有する複数のレーザパルスを含むレーザ光源と、前記レーザ光源に動作可能に結合される光学系とを備え、この光学系が、患者の目内の1またはそれ以上の眼内の対象に一定のパターンでレーザ光を集束して導くように構成されて、その結果、1またはそれ以上の対象と前記レーザパルスとの間の相互作用が、プラズマまたはそれに付随するキャビテーション事象(cavitation event)を形成せずに、線吸収で促進される光分解(linear absorption enhanced photodecomposition)によって特徴付けられている。前記波長は、約355nmとすることができる。前記パルス幅は、約400ピコ秒と約700ピコ秒の間とすることができる。前記パルスは、約0.01マイクロジュールと約500マイクロジュールとの間のパルスエネルギーを有することができる。前記パルスは、約0.5マイクロジュールと約10マイクロジュールとの間のパルスエネルギーを有することができる。前記複数のレーザパルスは、約500ヘルツと約500キロヘルツとの間の繰り返し率を有することができる。前記光学系は、レーザ光を集束させて、前記1またはそれ以上の眼内の対象内で約0.5ミクロンと約10ミクロンとの間のビーム径を生じさせるように構成することができる。前記1またはそれ以上の眼内の対象の中の少なくとも一つは、角膜、縁部、強膜、水晶体嚢、水晶体および合成人工水晶体インプラントからなる群から選択することができる。前記パターンは、角膜減張切開術、輪部減張切開術、乱視矯正角膜切開術および嚢切開法からなる群から選択される形態において、眼内の対象に切り込み(切開)のような1またはそれ以上の物理的変更および屈折率の変更をもたらすように構成することができる。前記光学系およびレーザ光源は、変更される組織構造対象の屈折率が変更されるように、1またはそれ以上の眼内の対象の少なくとも一つを構造的に変更するように構成することができる。
【0016】
別の実施形態では、眼科手術用のシステムが対象とされ、このシステムは、レーザ光を供給するように構成されたレーザ光源であって、前記レーザ光が、約320ナノメートルと約430ナノメートルとの間の波長と、約1ピコ秒と約100ナノ秒との間のパルス幅を有する複数のレーザパルスを含むレーザ光源と、前記レーザ光源に動作可能に結合される光学系とを備え、この光学系が、患者の目内の1またはそれ以上の組織構造対象に一定のパターンでレーザ光を集束して導くように構成されて、その結果、1またはそれ以上の対象と前記レーザパルスとの間の相互作用が、線吸収により促進されるプラズマの局所的な形成によって特徴付けられている。前記波長は、約355nmとすることができる。前記パルス幅は、約400ピコ秒と約700ピコ秒の間とすることができる。前記パルスは、約0.01マイクロジュールと約500マイクロジュールとの間のパルスエネルギーを有することができる。前記パルスは、約0.5マイクロジュールと約10マイクロジュールとの間のパルスエネルギーを有することができる。前記複数のレーザパルスは、約500ヘルツと約500キロヘルツとの間の繰り返し率を有することができる。前記光学系は、レーザ光を集束させて、前記1またはそれ以上の組織構造対象内で約0.5ミクロンと約10ミクロンとの間のビーム径を生じさせるように構成することができる。前記1またはそれ以上の組織構造対象の中の少なくとも一つは、角膜、縁部、強膜、水晶体嚢、水晶体および合成人工水晶体インプラントからなる群から選択することができる。前記パターンは、角膜減張切開術、輪部減張切開術、乱視矯正角膜切開術および嚢切開法からなる群から選択される形態において、組織構造対象である眼内の対象に1またはそれ以上の切り口を形成するように構成することができる。
【0017】
別の実施形態では、眼科手術用のシステムが対象とされ、このシステムは、レーザ光を供給するように構成されたレーザ光源であって、前記レーザ光が、約320ナノメートルと約430ナノメートルとの間の波長と、約1ピコ秒と約100ナノ秒との間のパルス幅を有する複数のレーザパルスを含むレーザ光源と、前記レーザ光源に動作可能に結合される光学系とを備え、この光学系が、患者の目内の1またはそれ以上の眼内の対象に一定のパターンでレーザ光を集束して導くように構成されて、その結果、1またはそれ以上の対象と前記レーザパルスとの間の相互作用が、プラズマまたはそれに付随するキャビテーション事象を形成せずに、線吸収で促進される光分解により特徴付けられている。前記パターンは、前記光学系およびレーザ光源の動作が1またはそれ以上の対象の物理的変化を引き起こすように構成することができる。その物理的変化は、1またはそれ以上の対象の屈折率の変化または1またはそれ以上の切開として現れるものであってもよい。1またはそれ以上の対象の少なくとも一つは、角膜または人工水晶体とすることができる。前記物理的変化は、対象の屈折分布を変更するように構成することができる。
【0018】
別の実施形態では、眼科手術用のシステムが対象とされ、このシステムは、レーザ光を供給するように構成されたレーザ光源であって、前記レーザ光が、約320ナノメートルと約430ナノメートルとの間の波長と、約1ピコ秒と約100ナノ秒との間のパルス幅を有する複数のレーザパルスを含むレーザ光源と、前記レーザ光源に動作可能に結合される光学系であって、患者の目内の1またはそれ以上の組織構造対象に一定のパターンでレーザ光を集束して導くように構成されて、その結果、1またはそれ以上の対象と前記レーザパルスとの間の相互作用が、プラズマまたはそれに付随するキャビテーション事象を形成せずに、線吸収で促進される光分解により特徴付けられる光学系と、前記光源により与えられるサンプルから後方反射光を共焦点配置において捕捉する統合画像化サブシステムとを備える。前記レーザパルスは、前記画像化サブシステムにより集められる蛍光発光を引き起こすことができる。このシステムは、画像化のためにインターリーブ低エネルギーパルスを、治療のために高エネルギーパルスをそれぞれ与えるように構成することができる。前記画像化サブシステムは、光干渉断層画像診断システム、プルキニエ画像化システムおよび/またはシャインプルーフ画像化システムを含むことができる。このシステムは、眼構造の位置および形状を判定し、パターン配置および/またはレーザパラメータを決定し、規定された対象内にパターンの位置を合わせるように構成されたコントローラをさらに備えることができる。
【0019】
別の実施形態では、眼科手術用のシステムが対象とされ、このシステムは、レーザ光を供給するように構成されたレーザ光源であって、前記レーザ光が、約320ナノメートルと約430ナノメートルとの間の波長と、約1ピコ秒と約100ナノ秒との間のパルス幅を有する複数のレーザパルスを含むレーザ光源と、前記レーザ光源に動作可能に結合される光学系であって、患者の目内の1またはそれ以上の組織構造対象に一定のパターンでレーザ光を集束して導くように構成されて、その結果、1またはそれ以上の対象と前記レーザパルスとの間の相互作用が、プラズマまたはそれに付随するキャビテーション事象を形成せずに、線吸収で促進される光分解により特徴付けられる光学系と、線吸収を生成/促進するために対象構造に取り入れられる外因性発色団(exogenous chromophore)とを備える。前記外因性発色団は、トリパンブルーとすることができる。
【0020】
別の実施形態では、眼科手術用のシステムが対象とされ、このシステムは、レーザ光を供給するように構成されたレーザ光源であって、前記レーザ光が、約320ナノメートルと約430ナノメートルとの間の波長と、約1ピコ秒と約100ナノ秒との間のパルス幅を有する複数のレーザパルスを含むレーザ光源と、前記レーザ光源に動作可能に結合される光学系であって、患者の目内の1またはそれ以上の眼内の対象に一定のパターンでレーザ光を集束して導くように構成されて、その結果、1またはそれ以上の対象と前記レーザパルスとの間の相互作用が、プラズマまたはそれに付随するキャビテーション事象を形成せずに、線吸収で促進される光分解により特徴付けられる光学系と、約800nmと約1100nmの間の波長を利用して水晶体を断片化するように構成された第2レーザ光源とを備える。前記第2レーザ光源は、パルス赤外線レーザとすることができる。前記第2レーザ光源は、約1ピコ秒と約100ナノ秒との間のパルス幅を有することができる。前記第2レーザ光源は、QスイッチNd:YAGレーザとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る高レベル流れ図を示している。
図2A図2Aは、システムの実施形態を示す図である。
図2B図2Bは、システムの実施形態を示す図である。
図3図3は、代替的な実施形態に係る方法の流れ図を示している。
図4図4は、目の前房の軸方向断面の深さ距離測定(OCT、共焦点反射法、共焦点自己蛍光法、超音波診断法)のために水晶体を横断して加えられる線パターンの図である。
図5図5は、回転非対称の嚢切開の平面図である。
図6図6は、相補的な回転非対称のIOLの平面図である。
図7図7は、図5の水晶体嚢に図6のIOLが配置された状態を示す平面図である。
図8図8は、図6の回転非対称のIOLの側面図である。
図9図9は、図6の回転非対称のIOLの側面図である。
図10図10は、本発明の一実施形態によりもたらされる水晶体嚢のフラグメンテーションパターンを示している。
図11図11は、目の前房の軸方向断面の深さ距離測定(OCT、共焦点反射法、共焦点自己蛍光法、超音波診断法)のために角膜504および水晶体を横断して加えられる線パターン501を示している。それは、虹彩502および水晶体402(図示省略)を検査する。
図12図12は、OCTによる深さ測距に使用することができる、角膜および水晶体を横断する測定された走査パターンを示している。
図13図13は、320nm乃至430nmのパルスレーザを使用する共焦点自己蛍光法による深さ測距に使用することができる、水晶体を横断する測定された走査パターンを示している。
図14図14は、本発明の一実施形態に係るシステムの別の図である。
図15図15は、本発明の一実施形態によりもたらされた角膜の切り込みの組織学的断面を示し、ここでは、キャビテーション気泡は形成されなかったが、組織は変更された。
図16図16は、本発明の一実施形態によりもたらされた開いた角膜の切り込みの組織学的断面を示し、ここでは、図15に示すようにキャビテーション気泡は形成されなかった。切り込みは、変更された組織構造に沿って容易に切り開かれた。
図17図17は、本発明の一実施形態によりもたらされた角膜の切り込みの組織学的断面を示し、ここでは、キャビテーション気泡が形成された。
図18図18は、本発明によって角膜組織504に局所的に引き起こされた屈折率変化822を示している。この場合には、図15に示すように、キャビテーション気泡が形成されることはないであろう。この作用は、角膜組織の屈折率分布の変化を引き起こすこととなる。
図19図19は、本発明により処理された人間の摘出水晶体嚢の高解像度SEM画像を示している。図20と比較して、このサンプルは、遥かに滑らかなエッジ品質を有し、キャビテーション気泡の如何なる影響も示していない。
図20図20は、フェムト秒レーザで処理された人間の摘出水晶体嚢の高解像度SEM画像を示している。キャビテーションの機械的作用が嚢組織の断裂を引き起こすため、5マイクロメートルの間隔を有する各単一レーザショットの影響が見られる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、眼組織に切開を形成するか、あるいはその機械的または光学的特性を変える方法およびシステムに関するものである。
【0023】
例示のための図面に示すように、眼組織に切開を形成するか、あるいはその機械的または光学的特性を変える方法およびシステムが記載されている。様々な実施形態では、その方法およびシステムは、現行水準のケアよりも多くの利点を提供する。特に、水晶体嚢の迅速で正確な開口処理は、320nm乃至430nmのレーザを使用することにより可能とされ、それにより人工水晶体の配置および安定化が容易となる。
【0024】
本明細書に記載の手法により可能とされるその他の治療には、乱視の治療が含まれる。人工水晶体(IOL)は一般に、乱視の矯正に使用されるが、正確な配置、方向付けおよび安定性が必要とされる。IOLを使用した完全で長期間継続する矯正は困難である。それは、角膜形状をより球状に近付けるために、あるいは少なくとも半径方向の非対称が小さくなるようにするために、更なる外科的介入を伴うことが多い。これは、角膜または輪部減張切開を形成することにより、達成することができる。その他の手術には、LASIK手術のための角膜弁の生成、ドナーとレシピエントの角膜の角膜移植形状のマッチングの生成が含まれる。本発明は、それらの繊細な切開を行うために用いることができる。
【0025】
図1は、一実施形態に係る方法のフローチャートである。第1ステップ101は、少なくとも第1光パルスを有する320nm乃至430nmのレーザシステムから光線を発生させることを伴う。次のステップ102は、光線が眼組織の予め設定された深さで焦点が合うように、光線を光学素子に透過させることを伴う。この方法を実行することにより、水晶体嚢の迅速で正確な開口処理が可能となり、それにより人工水晶体の配置および安定化が容易となる。
【0026】
本発明は、図2Aに示すシステムのような、光学ビームを患者の目20に投影または走査するシステム200によって実施することができる。このシステム200は、制御電子回路210、光源220、減衰器230、ビーム拡大器240、集束レンズ250,260および反射手段270を含む。制御電子回路210は、コンピュータ、マイクロコントローラ等であってもよい。走査は、1またはそれ以上の可動光学素子(例えば、レンズ250,260、反射手段270)を使用して達成することができ、可動光学素子は、入出力デバイス(図示省略)を介して、制御電子回路210により制御されるものとすることができる。走査の別の手段を、光路内の電気光学偏光器(一軸または二軸)によって実現することもできる。
【0027】
動作中、光源220が光学ビーム225を生成する。そして、この光学ビーム225をそらせて当該ビーム225を患者の目20に導くために、反射手段270が傾けられる。集束レンズ250,260は、光学ビーム225を患者の目20に集束させるために使用される。光学ビーム225の位置調整および特性および/またはそれが目20に形成する走査パターンは、ジョイスティックのような入力デバイスまたはその他の適当なユーザ入力デバイスの使用によりさらに制御することができる。
【0028】
本発明は、代替的には、図14に示すシステムのように、患者の目20の距離測定を追加的に行うシステム700によって実行することができる。このシステム700は、制御電子回路210、光源220、減衰器230、ビーム拡大器701、光学可変ビーム減衰器230、別個の集束レンズの組合せ704およびビーム反射・走査手段270を含む。光源220の光線225は、集束レンズ260によってその対象位置20に焦点が合わせられる。これは、偏向ユニット270に接続される電子回路210によって制御されることとなる。また、対象構造20の自己蛍光発光725は、二色性ビームスプリッタ703の好ましい手段によりレーザ光225と共有される同様の光路によって分離走査(de-scanned)され、レンズ720によって集束される。開口ピンホール721は、対象構造20のレーザ光(225)焦点の共役(conjugate)として、形成されたビーム725の焦点に配置される。ビーム開口721を介して伝達された自己蛍光発光の強度は、検出されて、制御ユニット210により読み取り可能な電気信号に変換される。また、治療領域の画像は、画像取込装置710上のレンズ711によって撮像される。画像取込装置は、CCDまたはCMOSカメラとすることができる。また、この信号は、制御ユニット210に伝送される。
【0029】
システム700の別の変形例では、サンプル20からのビーム225の後方反射光を共焦点検出するために、検出結合ユニット703,720,721,722が使用される。
【0030】
様々な実施形態の基本機構は、320nm乃至430nmのレーザ光源を使用する。紫外線の光学スペクトルは、3つの主要なスペクトル領域、すなわち、UVA(400nm−315nm)、UVB(315nm−280nm)、UVC(280nm−100nm)に技術的に分割される。UVBおよびUVCの光は、それらの高い単一光子エネルギーに起因する、それらの直接的にDNAを組み換える能力によって、一般に発癌作用と関連している。水は、200nmまで透過的であるが、タンパク質の吸収は、240nm近辺で著しく増加する。このUVCスペクトル領域におけるタンパク質の強い吸収は、角膜組織における主要な吸収でもあるが、最近では、レーザ光線による近視手術(LASIK)において、角膜組織を正確に除去するために臨床的に使用されている。
【0031】
UVCレーザは、光解離、高エネルギーの光子の吸収により、有機分子内の化学結合を壊して、生物組織を除去するために使用される。そのような一般的な化学結合の一覧を、波長の観点から記載した解離エネルギーとともに以下の表に示す。波長が短くなるほど、化学結合が強くなる。
【表1】
【0032】
Blum等による米国特許第4,784,135号に記載されているように、生物学的物質の光解離に高エネルギーの光子が必要とされるのが、この表から明らかである。この作用は、数多くの光医療システム、特に、角膜変更のために193nmのエキシマレーザが通常使用される眼科学において基礎となっている。本発明の実施形態は、生物学的組織を変更および/または除去するために、従来は提示も検討もされていない、異なる物理的現象および異なるスペクトル領域(UVAから緑色)をすべて利用する。
【0033】
一実施形態では、光源220は、第三次高調波、355nmで作動するNd:YAGレーザ光源のような、320nm乃至430nmのレーザ光源である。355nmでの角膜の透過率は約85%であり、320nmで大きく低下し始め(50%の透過率)、約2%の透過率を有する300nmに至る一方で、水晶体の吸収が〜99%となる。また、高齢者については、角膜の光散乱は最小であるが、水晶体の光散乱が著しく増加している(白内障)。
【0034】
光散乱の影響は、波長に敏感である。散乱中心が使用される波長よりも小さい場合、散乱係数がλ−4となる。波長のサイズ内のサイズ範囲を有するより大きな散乱体は、散乱関数を説明するのにMie近似(Mie approximation)が非常に適している。350と700nmの間のサイズを有する粒子については、散乱係数がλ−1となる。古い水晶体は、それ自体、420nmよりも短いすべての波長を吸収するとともに、強い散乱体となっている。これは、古い水晶体の前部、特に、水晶体嚢のレーザ切断に、より短い波長を使用できる一方で、そこに最終的に配置される光を効率良く減衰することにより網膜を保護するように作用することを示唆している。
【0035】
数ミリジュールのエネルギーを有するIRスペクトル範囲(1064nm)のQスイッチ赤外線レーザは、後部白内障混濁を治療するために通常用いられている。それらは、水晶体後嚢の直ぐ後ろに確実なプラズマ形成を提供することにより、それを行う。これらのパルスは、キロバール範囲にピーク圧力を有する数ミリメートルの大きさのキャビテーション気泡を形成する。ミリメートル範囲の大きさを有するキャビテーション気泡の機械的効果は、液体環境で高精度で切断するのを阻害する要因となる。気泡の大きさと、それに応じた機械的副作用(切開に低いエッジ品質を与えて、機械的強度を低下させる)を低減するために、レーザパルスエネルギーを大幅に減少させる必要がある。しかしながら、そのような相互作用は、水晶体調節の適用に適している。
【0036】
数ミリジュールのエネルギーおよび数ナノ秒のパルス幅を有するQスイッチ緑色レーザは、目の開放隅角緑内障を治療するために通常使用されている。選択的レーザ線維柱帯形成術(SLT)と呼ばれるこの治療法は、小柱網に自然に存在するメラニン発色団の特定の標的化を利用する。レーザ自体は、対象とする組織領域のほとんどをカバーするために比較的大きい200マイクロメートルのスポットサイズを使用する。また、レーザは、メラニン吸収体の周囲にキャビテーション気泡も生成するが、この作用は、QスイッチIRレーザパルスによる後部白内障治療に使用されるプラズマ形成ではなく、直線加熱によるものである。
【0037】
本発明の一実施形態では、UV波長の使用により、プラズマ形成と、付随するキャビテーション気泡の形成のための閾値が大幅に低下するとともに、幾つかの理由により、キャビテーション事象を形成せずに、線吸収で促進される光分解に必要な閾値エネルギーが減少する。第一に、焦点の直径は、波長に対して直線的に変化し、それは、焦点面内のピーク放射露光を調節する。第二に、より多くのレーザエネルギーが最初に対象構造に吸収されるため、材料自体の線吸収によって、プラズマ形成の閾値をさらに低くすること、あるいは低密度光分解が可能になる。第三に、ナノ秒およびサブナノ秒方式のUVレーザパルスの使用により、線吸収促進光分解および発色団誘導電離が可能になる。
【0038】
また、プラズマ形成が、非常に弱い吸収の条件下においてもキャビテーションを生じることなく材料を変化または変更する低密度光分解の閾値を低下させる場合に、発色団誘導電離は、電離の閾値を著しく低下させる。高フルエンス密度により、最小の線吸収でさえも、効果の閾値を大きく低下させる。高純度水から38ミリモルの生理学的NADH濃度の水に変化させるだけで、プラズマ形成およびキャビテーション気泡の生成の閾値を一桁分低下させることができることが示されている(Colombelli等、Rev.Sci.Instrum.2004年、第75巻、472−478ページ)。また、レーザ光の光学的侵入深さが水晶体の線吸収により制限されるため、線吸収は、局所的な水晶体構造(例えば、水晶体嚢)の特別な治療も可能にする。これは、特に古い水晶体にも言えることであり、UV青色スペクトル領域におけるその吸収は、若い水晶体と比べて大きく増加する。
【0039】
また、本発明の別の実施形態においては、外因性発色団を適用することにより、対象構造上の線吸収効果を増進させることもできる。そのような有効な発色団の一つがトリパンブルーであり、これは、眼底赤色反射が欠如する場合に、水晶体嚢を染色するために、外科手術で一般に使用される。また、トリパンブルーは、370nmよりも短い波長で線吸収が増加する。線吸収は、水晶体嚢の表面に効果を生じさせるのに必要なエネルギーを低減する。
【0040】
また、この方法は、
i)角膜内に切り込み(切開)を形成してその形状を変え、屈折力を変化させること、
ii)角膜組織の屈折率を変更して、その有効屈折力の変化を生じさせること、
iii)フレネルレンズまたはその他の類似物をIOL材料に刻み込むことにより、移植された合成IOLの屈折率を変更して、その有効屈折力の変化を生じさせること、
iv)i、iiおよびiiiの任意の組合せ、
によって、人間の目の全屈折力の変更のためにも使用することができる。
【0041】
本発明のシステムは、パルス状の320nm乃至430nmのレーザを利用して、組織(水晶体、水晶体嚢、角膜等のような)および合成人工水晶体インプラントを含む目の対象の高精度の物理的変更を行うステップを含む外科的手法を可能にする。これは、キャビテーション気泡の形成を含むか、あるいは含まない2の異なる方式で行うことができる。また、サブキャビテーション方式も、目の対象の屈折率を変更するために使用することができる。本発明で使用される波長は網膜青色光毒性に関連する波長より短いか、またはその範囲にあるが、古い水晶体内の320nm乃至400nmのレーザ光の吸収はさらに網膜損傷の危険性を最小限に抑える。この光は、水晶体ボリュームに吸収されることとなる。また、角膜内皮またはその他の角膜の構造を損傷する危険性も最小限に抑えられる。閾値パルスエネルギーは、Φが閾値放射露光、dが焦点直径とした場合に、Eth=Φ*d/4となる。ここで、焦点直径dは、λが波長、Fが最後の集束素子の焦点距離、Dが最後のレンズのビーム径とした場合に、d=λF/Dとなる。安定した再現性のある操作のために、パルスエネルギーは、少なくとも2倍、閾値を超えるべきであるが、エネルギーレベルは、角膜内皮への損傷を回避するために、調節することができる。
【0042】
様々な実施形態では、320nm乃至430nmのレーザが、0.01μJと500μJの間のパルスエネルギー、好ましくは0.1μJと10μJの間のパルスエネルギー、500Hz乃至500kHzの繰り返し率、1psと100nsの間のパルス幅、好ましくは400psを与える。10umより小さいレーザスポットサイズ、典型的には3umから0.5umのレーザスポットサイズが使用される。図10には、実際の人間の水晶体に対する、そのようなシステムの結果の一例が示されている。355nmの波長で動作するレーザから0.5kHzのパルス繰り返し率で伝達される4μJ、400psのパルスのビームは、1平方センチメートル当たり約120ギガワットの放射照度を使用して、NA=0.15で集束された。これは、図10に示す人間の水晶体に嚢切開パターンをもたらした。この場合、切り込みを生じさせるために、キャビテーション気泡は形成されなかった。これは、顕微鏡下で視覚的に確認されるとともに、キャビテーション気泡により発せられる音響波を検出するハイドロフォンの使用によっても確認された。レーザ白内障手術においては、唯一の水晶体自体の高精度の切り込みは、嚢切開である。水晶体核の軟化または断片化のために、パターンは、高い空間的閉じ込めを必要としない。このため、この適用のためには、長いパルスが存在しても、高フルエンスおよび/または放射閾値を許容できる。
【0043】
図3は、代替的な実施形態に係る方法のフローチャートを示している。第1ステップ301は、320nm乃至430nmのレーザシステムから光線を発生させることを伴う。次のステップ302は、制御された方法で目組織内で集束された光線を平行移動させて切開を形成することを伴う。一実施形態では、嚢切開の実施により、目組織の前部水晶体嚢に切開が形成される。代替的には、乱視矯正または外科的アクセスの形成のために、角膜に切開が形成される。例えば、外科的アクセスを提供するために、透明角膜白内障器具(clear corneal cataract instrumentation)および穿刺切開が使用されることがある。
【0044】
制御電子回路210および光源220は、目20の対象構造の表面を対象として、ビーム225が非対象組織に誤って損傷を与えることなく適切な位置に集束されるように、設定することができる。例えば、光干渉断層撮影法(OCT)、プルキニエ画像化法、シャインプルーフ画像化法、自己蛍光画像化法、共焦点自己蛍光法、共焦点反射画像化法または超音波診断法のような本明細書に記載の画像診断技術および手法は、位置を判定するとともに水晶体および水晶体嚢の厚さを測定して、2Dおよび3Dパターン形成を含むレーザ集束法に対してより高い精度を与えることができる。また、レーザ集束は、照準光の直接観測、OCT、プルキニエ画像化法、シャインプルーフ画像化法、構造化光照射法、超音波診断法、またはその他の既知の眼科または医療画像化診断および/またはそれらの組合せを含む1またはそれ以上の方法を使用して、達成することができる。なお、画像化深度の要求は、眼内の対象の最前部を含むが、必ずしも目全体または前房すらも含まなくてもよい。
【0045】
共焦点反射率測定法は、キャビテーション気泡がレーザパルスの後に形成されたのかどうかを検出して、その後のレーザパルスのエネルギーを調節するか、あるいは組織の屈折率のレーザ誘起変化を監視することができるため、この共焦点反射率測定法を、治療中に伝達されるレーザエネルギーの調節に追加的に使用することができる。
【0046】
このため、レーザエネルギーの3次元アプリケーションは、様々な方法で、レーザ誘起効果によりもたらされるパターンに沿って嚢を横断して適用することができる。例えば、レーザは、有効領域の軸方向長さと同じ幅で、様々な深さにおいて、幾つかの円形またはその他のパターンの走査を連続的にもたらすために使用することができる。このため、組織の焦点(ウエスト)の深さは、各連続走査で逓増または逓減される。レーザパルスは、例えば、集束要素の軸方向走査を使用して、あるいは選択的には同時にまたは連続的に水平パターンを走査しながら集束要素の屈折力を調節して、組織の異なる深さにおいて同じ水平パターンに連続的に適用される。
【0047】
焦点に達する前のレーザ光の気泡、クラックおよび/または組織の断片上での散乱の悪影響は、先ず、組織の最大必要深さ上にパターン/集束を生じさせて、その後に、通過の後期で、より浅い組織空間上に集束させることにより、回避することができる。この“ボトムアップ”処理手法は、対象組織層上の組織における望ましくないビーム減衰を低減するだけでなく、対象組織層の下部の組織の保護を助けるものとなる。焦点の先に伝達されるレーザ放射を、以前の走査により生成された気泡、クラックおよび/または組織の断片上で散乱させることにより、これら欠陥が下部の網膜の保護を助けるものとなる。同様に、水晶体をセグメント化する場合、レーザを、水晶体の最も後部分に集束させて、その後、手術が進むに連れて前部に移動させることもできる。
【0048】
本発明は、治療光源4(例えば、短パルス355nmレーザ)を含む図2Bに示すシステム2のような、患者の目68内に光学ビームを投影またはスキャンするシステムによって実行することができる。このシステムを使用して、ビームを三次元:X、Y、Zで患者の目においてスキャンすることができる。非対象組織への意図しない損傷に対する安全性限界は、繰り返し率およびパルスエネルギーに対する上限を抑制する一方で、閾値エネルギー、手術を完了するのに要する時間および安定性は、繰り返し率およびパルスエネルギーに対する下限を抑制する。
【0049】
レーザ4は、光学ビーム6を生成するために、入出力デバイス302を介して制御電子回路300によって制御される。制御電子回路300は、コンピュータ、マイクロコントローラなどであってもよい。この実施例では、システム全体がコントローラ300によって制御され、データが入力/出力デバイスIO302によって移動される。グラフィカルユーザインターフェースGUI304は、システム動作パラメータを設定し、GUI304へのユーザ入力(UI)306を処理し、眼構造の画像のような集めた情報を表示するために使用される。
【0050】
生成された治療光学ビーム(TREATMENT light beam)6は、半波長板8および直線偏光子10を通過して、患者の目68に向けて進む。所望量の光が半波長板8および直線偏光子10を通過するように、ビームの偏向状態を調節することができる。半波長板および直線偏光子はともに、治療ビーム6のための可変減衰器としての機能を果たす。また、直線偏光子10の向きは、ビーム結合器34に入射する入射偏向状態を決定し、それによりビーム結合器のスループットを最適化する。
【0051】
治療ビームは、シャッタ12、開口14およびピックオフデバイス16を通って進む。システムに制御されるシャッタ12は、手順上および安全上の理由のためにレーザのオン/オフ制御を確保する。開口は、レーザ光の有効外径を設定し、ピックオフは、有効ビームの出力を監視する。ピックオフデバイス16は、部分反射鏡20および検出器18を含む。パルスエネルギー、平均出力または組合せは、検出器18を使用して測定することができる。その情報は、減衰のために半波長板8にフィードバックするために、あるいは、シャッタ12が開放または閉鎖しているかどうかを確認するために、使用することができる。また、シャッタ12は、冗長状態検出を提供するために、位置センサを備えるようにしてもよい。
【0052】
ビームはビーム調整ステージ22を通過し、このビーム調整ステージでは、ビーム径、発散量、真円度および非点収差のようなビームパラメータを変更することができる。この例示的な実施例では、ビーム調整ステージ22が、意図したビーム径およびコリメーションを達成するために、球状光学素子24および26からなる2素子のビーム拡大テレスコープを含む。ここでは示していないが、所望のビームパラメータを達成するために、アナモルフィックまたはその他の光学系を使用することができる。それらビームパラメータの決定に使用される因子には、レーザの出力ビームパラメータ、システムの全体の倍率および治療位置での望ましい開口数(NA)が含まれる。また、所望位置(例えば、後述する二軸走査デバイス50間の中心位置)に開口14を映すために、光学系22を使用することができる。このように、開口14を通過させる光量は、走査システムを通過させるために確保される。ピックオフデバイス16は、有効な光の信頼できる測定器である。
【0053】
ビーム6は、調整ステージ22を出た後に、全反射鏡28,30および32で反射する。これらの鏡は、アライメント目的のために調節可能である。その後、ビーム6はビーム結合器34に入射する。ビーム結合器34は、治療ビーム6を反射する(とともに、後述するOCT114および照準202ビームをともに伝達する)。効率的なビーム結合器の動作のために、入射角は、好ましくは45未満に維持され、ビームの偏向は、可能であれば固定される。治療ビーム6については、直線偏光子10の向きが一定の偏向を与える。
【0054】
ビーム結合器34に続いて、ビーム6は、z調節またはZ走査デバイス40に進み続ける。この例示的な実施例では、z調節が、2のレンズ群42および44(各レンズ群は1またはそれ以上のレンズを含む)を有するガリレイ望遠鏡を含む。レンズ群42は、望遠鏡のコリメーション位置についてz軸に沿って移動する。このように、患者の目68内のスポットの焦点位置は、図示のように、z軸に沿って移動する。一般に、レンズ42の動きと焦点の動きとの間に一定の直線的関係が存在する。この場合、z調節望遠鏡は、約2倍のビーム拡大比を有するとともに、レンズ42の動きと焦点の動きとの間に1:1の関係を有する。代替的には、レンズ群44は、z調節を作動させて走査するために、z軸に沿って移動させることができる。z調節は、目68内の治療のためのz走査デバイスである。それは、システムによって自動的にかつ動的に制御することができるとともに、後述するX−Y走査デバイスとは独立に、あるいは相互作用するように選択することができる。鏡36および38は、光軸をz調節デバイス40の軸に位置合わせするために使用することができる。
【0055】
ビーム6は、z調節デバイス40を通過した後、鏡46および48によってx−y走査デバイスに導かれる。鏡46および48は、アライメント目的のために調節可能である。X−Y走査は、制御電子回路300の制御下で、2つの鏡52および54を好ましくは使用する走査デバイス50により達成され、それらは、モータ、検流計またはその他の周知の光学移動デバイスを使用して直交方向に回転する。鏡52および54は、後述する対物レンズ58とコンタクトレンズ66の組合せのテレセントリック位置の近傍に配置される。これら鏡52/54を傾けると、ビーム6が屈折し、それにより患者の目68に位置する治療焦点の平面内において横変位が生じる。対物レンズ58は、図示のように、レンズ60,62および64によって表すことができる複合多素子レンズ素子とすることができる。レンズ58の複雑性は、走査範囲サイズ、焦点スポットサイズ、対物レンズ58の近位側および遠位側の双方における有効作動距離、収差制御の量によって決定されることとなる。焦点距離60mmの対物レンズ58は、例えば、7mmの範囲で作動し、直径20mmの入力ビームサイズを有する。代替的には、スキャナ50によるX−Y走査は、1またはそれ以上の可動光学素子(例えば、レンズ、格子)を使用して達成することができ、それらも、入出力デバイス302を介して、制御電子回路300によって制御することができる。
【0056】
照準および治療走査パターンは、コントローラ300の制御下でスキャナ50により自動的に生成することができる。そのようなパターンは、単一の光点、複数の光点、光の連続パターン、複数の光の連続パターンおよび/またはそれらの任意の組合せから構成することができる。また、照準パターン(後述する照準ビーム202を使用)は、治療パターン(光学ビーム6を使用)と同一である必要はないが、患者の安全のために所望の対象領域内のみに治療光が確実に伝達されるように、その境界を少なくとも規定することが望ましい。これは、例えば、照準パターンが意図する治療パターンの輪郭を与えるようにすることによって、行われるものであってもよい。このように、治療パターンの空間的広がりが、個々のスポット自体の正確な位置ではないにしても、ユーザに知られるようになり、よって、速さ、効率および精度について走査を最適化することができる。また、照準パターンは、ユーザへの視認性をさらに向上させるために、点滅として認識されるようにすることができる。
【0057】
選択的なコンタクトレンズ66は、適当な任意の眼科用レンズとすることができるが、目の位置の安定化を補助しながらも、患者の目68に光学ビーム6の焦点をさらに合わせるのを補助するために使用することができる。光学ビーム6の位置調整および特性および/またはビーム6が目68に形成する走査パターンは、ジョイスティックのような入力デバイスまたはその他の適当なユーザ入力デバイス(例えば、GUI304)の使用によりさらに制御することができ、それにより患者および/または光学系の位置決めを行うことができる。
【0058】
治療レーザ4およびコントローラ300は、目68の対象構造の表面を対象にして、ビーム6が適当な位置に集束されて非対象組織に意図せずに損傷を与えることがないように、設定することができる。例えば、光干渉断層撮影法(OCT)、プルキニエ画像化法、シャインプルーフ画像化法、構造化光照射法、共焦点後方反射画像化法(confocal backreflectance imaging)、蛍光画像化法、超音波検査法のような本明細書に記載の画像診断技術および手法は、位置を判定するとともに水晶体および水晶体嚢の厚さを測定して、2Dおよび3Dパターン形成を含むレーザ集束法またはその他の既知の眼科または医療画像診断法および/またはそれらの組合せに対してより高い精度を与えるために使用することができる。図2Aの実施形態には、OCTデバイス100が記載されている。目のOCT走査は、前部および後部の水晶体嚢の軸方向の位置、白内障の核の境界、および前房の深さに関する情報を与えることとなる。その後、この情報は制御電子回路300にロードされるとともに、レーザを利用したその後の外科手術をプログラムおよび制御するために使用される。また、この情報は、例えば、特に、水晶体嚢、角膜および合成人工水晶体インプラントの変更に使用される焦点面の軸方向の上限および下限のような、手術に関連する広範囲の様々なパラメータを決定するためにも使用することができる。
【0059】
図2AのOCTデバイス100は、ファイバカプラ104により参照アーム106およびサンプルアーム110に分割される広帯域または掃引光源102を含む。参照アーム106は、モジュール108を含み、このモジュールは、適当な分散と経路長の補償とともに参照反射を含む。OCTデバイス100のサンプルアーム110は、後の治療レーザシステムに対するインターフェースとしての機能を果たす出力コネクタ112を有する。その後、参照アーム106およびサンプルアーム110の双方からの帰還信号は、カプラ104によって検出デバイス128に導かれ、この検出デバイスは、時間領域、周波数領域または単一点検出法のうちの何れか一つを用いる。図2Aでは、920nmの波長および100nmの帯域幅のOCTとともに周波数領域法が使用されている。
【0060】
OCTビーム114は、コネクタ112を出てから、レンズ116を使用してコリメートされる。コリメートされた平行ビーム114のサイズは、レンズ116の焦点距離によって決定される。ビーム114のサイズは、目の焦点で望まれるNAおよび目68に至るビーム列の倍率によって決定付けられる。一般に、OCTビーム114は、焦点面において治療ビーム6と同じ高さのNAを必要とはしないため、OCTビーム114は、ビーム結合器34の位置において治療ビーム6よりも直径が小さくなる。コリメーティングレンズ116に続いて、目におけるOCTビーム114のNAをさらに変更する開口118が設けられている。開口118の直径は、対象組織に入射するOCT光および帰還信号の強度を最適化するために選択される。偏向制御素子120は、能動的または動的なものであってもよいが、例えば、角膜複屈折の個々の違いによって引き起こされる偏向状態の変化を補うために使用される。その後、鏡122および124は、ビーム結合器126および34に向けてOCTビーム114を導くために使用される。鏡122および124は、アライメント目的のためと、特に、ビーム結合器34の後でOCTビーム114を治療ビーム6と重ね合わせるために、調整することができる。同様に、ビーム結合器126は、OCTビーム114を後述する照準ビーム202と結合するために使用される。
【0061】
OCTビーム114は、ビーム結合器34の後で治療ビーム6と結合されると、システムの残りの部分を通って、治療ビーム6と同じ経路を辿る。このように、OCTビーム114は、治療ビーム6の位置を示している。OCTビーム114は、z走査デバイス40およびx−y走査デバイス50、その後に、対物レンズ58、コンタクトレンズ66を通過して、目68に至る。目内の構造の反射および散乱は、帰還ビームを与え、この帰還ビームは、光学系を通って引き返して、コネクタ112に入り、カプラ104を通り、OCT検出器128に至る。これらの帰還反射は、治療ビーム6の焦点位置のX、Y、Zにおける位置について、システムにより解釈されるOCT信号を与える。
【0062】
OCTデバイス100は、その参照アームとサンプルアームの間の光路長の差を測定する原理に基づいて動作する。したがって、光路長は42の移動の関数として変化することはないため、z調節40を介してOCTを通過させても、OCTシステム100のz範囲を広げることはない。OCTシステム100は、検出配置と関連する固有のz範囲を有し、周波数領域検出の場合には、分光計および参照アーム106の位置に特に関連する。図2Aで使用されるOCTシステム100の場合には、z範囲が水環境で約1−2mmである。この範囲を少なくとも4mmに延ばすには、OCTシステム100内の参照アームの経路長の調節を伴う。z調節40のz走査を介してサンプルアームにOCTビーム114を通過させることにより、OCT信号強度の最適化が可能になる。これは、OCTシステム100の参照アーム106内の経路を比例して増加させることにより拡張された光路長を調整しながら、OCTビーム114を対象構造に集束させることにより達成される。
【0063】
浸漬指数(immersion index)、屈折、および色収差および単色収差のような影響に起因する治療集束デバイスに関するOCT測定における基本的な違いのため、治療ビーム焦点位置に関するOCT信号の分析には注意を払う必要がある。OCT信号情報を治療焦点位置に適合させるとともに、絶対次元量(absolute dimensional quantity)に関連付けるために、X、Y、Zの関数として較正または位置合わせ処理を行うべきである。
【0064】
また、照準ビームの観測は、ユーザが治療レーザを焦点に導くのを補助するために使用することができる。また、赤外線OCTおよび治療ビームの代わりに肉眼で見える照準ビームは、当該照準ビームが赤外線ビームパラメータを正確に示している場合に、アライメントに役立てることができる。照準サブシステム200は、図2Aに示す構成で用いられる。照準ビーム202は、633nmの波長で作動するヘリウムネオンレーザのような照準ビーム光源201によって生成される。代替的には、630−650nmの範囲のレーザダイオードを使用することができる。633nmのヘリウムネオンビームを使用する利点は、その長いコヒーレンス長であり、これにより、例えば、ビーム列の光学的品質を測定するために、不等光路レーザ干渉計(LUPI)として、照準経路を使用することが可能になる。
【0065】
なお、治療ビームをナノジュールレベルに減衰して上述したOCTシステムの代わりに使用することができることに留意されたい。このような構成は、画像化および治療のための焦点位置間の最も直接的な相関を与える。それらは同じビームである。この減衰されたプローブビームは、後方反射測定構成において直接的に使用することができ、あるいは蛍光発光検出配置において間接的に使用することもできる。組織構造内で後方散乱および蛍光発光の双方の増加が見られるため、両アプローチはともに利点を有する。また、それらは、眼球内の対象の妥当なマップを識別しながらも、患者の露出を制限すべく、まばらなパターンを伝えるために使用することもできる。
【0066】
さらに、角膜および水晶体嚢の切開と比較して、水晶体調整のための要求精度および介在物寸法は非常に緩和されるため、本発明は、後部混濁の治療にQスイッチNd:YAGレーザからのミリジュールのパルスを使用することの検討において述べたように、上述した水晶体治療システムへの短パルスIRレーザ光源の追加を考慮している。そのようなパルスエネルギーは、より大きな介在物をもたらし、それは、嚢および角膜切開に適しておらず、白内障水晶体のロバスト分離を与える可能性がある。NIR波長は、短波長とは対照的に、水晶体によって強く吸収または散乱されることはない。この第2治療光源は、そのビームを、別のビームスプリッタによって、第1治療ビームのそれと結合させることができる。これは、波長の大きな違いにより、非常に簡単なデザインとすることができる。しかしながら、図2Bに関して上述したように、その同じスペクトル差は、画像および/または測距モダリティに対する異なる位置合わせを必要とする。
【0067】
図4は、目20の前房の軸方向断面のOCT測定のために水晶体を横断して適用される線パターンの一例である。目20の前房のOCT画像化は、切断用のパターンをもたらすために使用される同じレーザおよび/または同じスキャナを使用して、水晶体を横断する単純な線形走査に沿って行うことができる。この走査は、前部および後部の水晶体嚢の軸方向の位置、白内障核の境界、および前房の深さに関する情報を提供することとなる。その後、この情報はレーザ走査システムにロードされるとともに、その後のレーザを用いた外科的手術をプログラムおよび制御するために使用される。この情報は、例えば、水晶体嚢を切断するための焦点面の軸方向の上限および下限、水晶体皮質および核のセグメンテーション、水晶体嚢の厚さのような、手術に関連する幅広い様々なパラメータを決定するために使用することができる。
【0068】
図5乃至図9は、本発明の一実施形態の異なる態様を示し、これは、上述したシステム200を使用して実行することができる。図5に示すように、嚢切開400(これは、システム200を使用して形成することができる)は、乱視矯正人工水晶体(IOL)のために調節される。そのような乱視矯正IOLは、目20の嚢402内の正確な位置に配置するだけでなく、正確な回転/計時角度(clocking angle)に向ける必要もある。すなわち、それらは、球状のIOLとは異なり、固有の回転非対称性を有している。この例で示される切開400は楕円形であるが、その他の形状も有用である。切開400は、連続的に形成するようにしてもよく、あるいは患者の目20の水晶体嚢器官の構造的完全性を主に維持するために区分されるものであってもよい。
【0069】
そのような不完全な切開400は、ミシン目の入った切開であると考えることができるとともに、嚢切開を誤って広げる可能性を最小化するために、徐々に取り除くように形成することができる。どちらにしても、切開400は閉鎖性の切開であり、それは、この開示においては、同じ位置で開始および終了し、ある量の組織を内部に取り囲むことを意味している。閉鎖性切開の最も単純な例は、円形の切開であり、その場合においては、丸い組織片が切開により取り囲まれる。そのため、閉鎖性の治療パターン(すなわち、閉鎖性切開を形成するためのシステム200によってもたらされるパターン)は、結果として、同じ位置で開始および終了してそれにより囲まれる空間を規定するものとなる。
【0070】
閉鎖性切開400の重要な特徴の一つは、その内部に配置されることとなるIOLを方向付ける位置決め機能部(registration feature)を含むことである。例示された楕円形の切開400においては、その楕円形状が位置決め機能部であり、手動CCCの望ましい円形の結果とは異なり、その固有の回転非対称性によって、IOLの正確な配置が可能となっている。切開400の楕円長軸404および短軸406が示されている。長軸404と短軸406は等しくはない。切開400は、この例では、虹彩の平面内に配置されて、その長軸404が水平に沿って位置するものとなっているが、患者の目20に対して任意の回転角度で形成することができる。切開400は、IOL上の1またはそれ以上の相補的な位置決め機能部と結合するように意図される。システム200は、切開される嚢402の面を正確に規定するために使用することができる。これは、対象とする嚢402自体の近傍にレーザパルスを名目的に分離する機能を果たし、それにより必要とされるエネルギーおよび処置時間を最小化するとともに、患者の安全性および全体的効率を比例して増加させることができる。
【0071】
図6に示すように、IOL408は、光を集束するために使用される光学部410と、IOL408を配置するために使用される触覚部(haptic)416とを含む。光学部410は、(その光学軸まわりに)回転非対称の水晶体であり、これは、楕円に形成された外周側壁またはエッジ412、楕円に形成された切開400と結合する相補的位置決め機能部を含む。この例では、楕円に形成されたエッジ412が長軸418および短軸420を含む。長軸418と短軸420は等しくはない。さらに、IOL408は、面414を含み、これは、触覚要素416を保持するとともに、患者の目20の嚢402内において適当な向きおよび位置で嚢402が人工水晶体408の光学部410を固定するための静止位置を提供する。面414は楕円として示されているが、そうである必要はない。
【0072】
接触部416は、安定性を与え、嚢402の前部に向けて保持力を与えることにより、切開400内に人工水晶体408のエッジ412を固定する機能を果たすことができる。触覚部416は任意の向きで配置することができる。人工水晶体408の光学部410の円柱矯正(cylindrical correction)の方向付けは、その長軸418または短軸420の何れかと一致するように、行うことができる。このように、人工水晶体のIOL408および光学部410は、標準的な方法で製造することができ、切開400の回転位置および光学部410の球状および円柱状の光強度は、患者の目20の個々の光学的処方に適合するように変化するものとすることができる。
【0073】
図7は、嚢402内に取り付けられた人工水晶体408の適切で迅速な配置処理を示しており、対になる位置決め機能エッジ412および切開400が係合して、面414の上に載った状態となっている。長軸404と長軸418は等しい長さではない。短軸406と短軸420も同じ長さではない。これは、嚢402が嚢切開の少し後に接触することに適応させるために行われる。それら軸の長さの差異は、嚢402が収縮することを可能にしながらも、切開400を介して人工水晶体408を嚢402内に良好に配置することを可能にすることを意図している。これらの差異は、妥当な収縮を可能にするために制限すべきであるが、人工水晶体408の大きな回転を可能にするほど大きくすべきではない。それら長さの差異の典型的な値は、例えば、100μmから500μmの範囲である。
【0074】
図8は、図6および図7と同じ人工水晶体408の側面図を示している。この概略図では、エッジ412が、人工水晶体408の面424と同じ光学部410の側に示されている。人工水晶体408の面422は、エッジ412と切開400間の嵌め合いの完全性を維持する機能を果たす。エッジ412は、図6および図7と別の図面において、表面422の突起として見られる。光学部410の光軸411が示されている。触覚部416は、この図面において視線に沿って横たわっている。
【0075】
図9は、図8の水晶体構成の側面図であるが、90度回転されて、表示面426が両方向に湾曲していない(すなわち、円柱レンズに形成されている)ことを示している。この光学部410の円柱または円環状光学系は、患者の乱視に対して円柱矯正を提供する。触覚部416は、この図面において視線に対して垂直に横たわっている。
【0076】
図15に示すように、本システムは、図16に示すようにキャビテーション気泡を生じることなく、例えば、角膜組織の構造を変えるために使用することもできる。これらの角膜組織の変更は、図18に示すように、角膜504自体の屈折率分布を成形するために使用することができる。多数の小さな局所的な変更822を角膜内に引き起こすことができ、それは、角膜組織の機械的強度だけでなく、屈折率自体を変えることにより、屈折分布も変更することとなる。このため、屈折率の変更だけでなく、角膜トポグラフィの変更にも使用することができる。これは、集束ユニット260を介して焦点シフトユニット704およびビーム偏向ユニット270を利用して、レーザ効果の横の間隔をしっかり制御することにより達成される。
【0077】
例示の目的で図面に示すように、目に物理的な変更(構造的変化)または切開を行う方法およびシステムを説明してきた。様々な実施形態では、その方法およびシステムが、現行水準のケアよりも多くの利点を与えることができる。具体的には、水晶体嚢における迅速で正確な開口処理は、320nm乃至430nmのレーザを使用することにより実現され、それにより人工水晶体の配置および安定化が容易となる。しかしながら、角膜組織の屈折力の変更も、屈折率を局所的に変更して角膜トポグラフィを再形成することにより実現される。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20