【文献】
WANG, T. et al.,Ultrabroadband THz Time-Domain Spectroscopy of a Free-Flowing Water Film,IEEE TRANSACTIONS ON TERAHERTZ SCIENCE AND TECHNOLOGY,2014年 7月,Vol. 4, No. 4,pp. 425-431
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、紫外線、赤外線、マイクロ波、テラヘルツ波などの電磁波を用いて物質の特性を計測する分光装置が提供されている。分光法は、電磁波により計測される物理量に応じていくつかの方法に分類されるが、その中に吸収分光法や反射分光法がある。吸収分光法では、分光計測の対象となる試料に電磁波を透過させ、試料を通過中に電磁波と試料とが相互作用することによって生じる電磁波の変化から、試料の物理的性質あるいは化学的性質を計測する。また、反射分光法は、光を透過しない材料や光を散乱する材料などの分光測定に利用されるものであり、試料表面からの反射光を解析することによって試料の性質を計測する。
【0003】
物質による光の吸収は、光子のエネルギーと物質のエネルギー構造とが一致する場合に生じる。このため、計測対象とする試料の観測したい現象や構造にあわせて、異なる光源や計測技術を選択する必要がある。一般に、短い波長の電磁波(紫外線、赤外線、可視光線など)は小さい構造や強い相互作用を捉え、長い波長の電磁波(テラヘルツ波など)は大きい構造や弱い相互作用を捉えるのに適している。テラヘルツ時間領域分光法(THz−TDS)は、テラヘルツ波の波形を直接測定することによって得られる電磁波の時間波形をフーリエ変換し、テラヘルツ波の振幅と位相の情報を得る分光法である。
【0004】
分光計測の試料として用いる被計測物質には、ガス状、固体状、液体状などの形態がある。それぞれの形態に応じて、電磁波が適切に透過するように被計測物質の設置方法が工夫されている。例えば、液体状の試料について精度の高い計測を行うには、分光装置に配置する試料は、電磁波が透過する程度に薄く形成する必要がある。特に、液体試料をテラヘルツ波で分光計測する場合には、水分子によるテラヘルツ波の吸収効果が強いため、計測信号のSN比の悪化を防ぐために、液体を板状の均一な薄膜にし、板状の部分にテラヘルツ波を透過させて計測を行う必要がある。
【0005】
一般に、液体試料の計測では、ガラスなどの電磁波を透過する材料で作られた容器(一般的には溶液セルと呼ばれる)に試料を挟みこみ、溶液セルの外部から電磁波を入射し、溶液セルを透過した電磁波を計測している。しかしながら、液体試料を溶液セルに挟み込んで計測すると、液体試料の分光情報に対してセル材料の分光情報がノイズとして重畳し、真の分光情報を計測する妨げとなる。
【0006】
従来、このような問題に鑑みて、溶液セルを用いることなく、ノイズの少ない分光情報を計測可能にすること目的とした装置が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。この特許文献1,2に記載の装置では、液体試料を直接薄膜状にするノズルを用い、ポンプの圧力によってノズルから液体試料を噴出することにより、薄い平坦な板状の液膜を生成するようになされている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態によるテラヘルツ時間領域分光装置の構成例を示す図である。本実施形態のテラヘルツ時間領域分光装置は、テラヘルツ波が伝播する経路中に液体試料を配置し、当該液体試料を透過したテラヘルツ波の特性を時間領域計測するものである。具体的には、液体試料を透過したテラヘルツ波の時間波形を検出し、その検出信号をフーリエ変換することによってテラヘルツスペクトルを得て、そのスペクトルから液体の特性を分析する。
【0015】
図1に示すように、本実施形態のテラヘルツ時間領域分光装置は、フェムト秒レーザ光源10、レーザ光分光部11、テラヘルツ波発生用半導体12(特許請求の範囲のテラヘルツ光源に相当)、テラヘルツ波分光部13、テラヘルツ波集束部14、テラヘルツ波検出用半導体15(特許請求の範囲のテラヘルツ波検出部に相当)、時間領域分光用可変光学遅延部16、遅延量設定用可変光学遅延部17(特許請求の範囲の光学遅延部に相当)およびテラヘルツ信号解析装置20(特許請求の範囲のテラヘルツ信号解析部に相当)を備えて構成されている。
【0016】
レーザ光分光部11は、フェムト秒レーザ光源10から放射されるレーザ光(励起光であるフェムト秒レーザパルス)を、テラヘルツ光源であるテラヘルツ波発生用半導体12を動作させるためのポンプ光と、テラヘルツ波検出部であるテラヘルツ波検出用半導体15に入射しているテラヘルツ波が作り出す微弱電流を増大させるためのサンプリング光との2つに分ける。具体的に、レーザ光分光部11は、半透過ミラー(ハーフミラー)により構成される。
【0017】
テラヘルツ波発生用半導体12は、レーザ光分光部11から出力されたレーザ光を用いて、所定周波数帯のテラヘルツ波を発生する。テラヘルツ波分光部13は、テラヘルツ波発生用半導体12から発生されるテラヘルツ波を2つに分光する。具体的に、テラヘルツ波分光部13は、第1の放物面ミラー13a、第1の三角プリズム13bおよび2つの第1の反射ミラー13c,13dにより構成される。
【0018】
テラヘルツ波発生用半導体12から発生されたテラヘルツ波は、第1の放物面ミラー13aによって反射し、平行な光線束として出力される。この光線束としてのテラヘルツ波は、第1の三角プリズム13bの2つの面でそれぞれ反射し、2つの方向に分光される。そして、一方の方向に分光されたテラヘルツ波は、一方の第1の反射ミラー13cによって反射され、試料液膜101を透過する。他方の方向に分光されたテラヘルツ波は、他方の第1の反射ミラー13dによって反射され、参照液膜102を透過する。なお、試料液膜101および参照液膜102については詳細を後述する。
【0019】
テラヘルツ波集束部14は、試料液膜101を透過したテラヘルツ波と、参照液膜102を透過したテラヘルツ波とを集束させる。具体的に、テラヘルツ波集束部14は、第2の放物面ミラー14a、第2の三角プリズム14bおよび2つの第2の反射ミラー14c,14dにより構成される。
【0020】
試料液膜101を透過した一方のテラヘルツ波は、一方の第2の反射ミラー14cおよび第2の三角プリズム14bを順次反射して、第2の放物面ミラー14aへ入射する。一方、参照液膜102を透過した他方のテラヘルツ波は、他方の第2の反射ミラー14dおよび第2の三角プリズム14bを順次反射して、第2の放物面ミラー14aへ入射する。
【0021】
すなわち、第2の三角プリズム14bは、試料液膜101を透過した一方のテラヘルツ波、および、参照液膜102を透過した他方のテラヘルツ波を2つの面でそれぞれ1つの方向に反射し、試料液膜101を透過したテラヘルツ波および参照液膜102を透過したテラヘルツ波の光線束として第2の放物面ミラー14aの方へ出射する。
【0022】
第2の放物面ミラー14aは、第2の三角プリズム14bから平行に入射する光線束(試料液膜101を透過したテラヘルツ波および参照液膜102を透過したテラヘルツ波の束)を反射して、テラヘルツ波検出用半導体15の焦点に集める。
【0023】
テラヘルツ波検出用半導体15は、テラヘルツ波集束部14により集束されたテラヘルツ波を検出し、その波形を表すテラヘルツ波信号を出力する。テラヘルツ信号解析装置20は、このテラヘルツ波信号をフーリエ変換することにより、周波数スペクトルを得る。この周波数スペクトルを分析することにより、試料液膜101の特性を把握することが可能である。特に、本実施形態では、この周波数スペクトルにおいて、試料液膜101の特性が現れやすくなるように工夫をしている。この工夫点については、以下に詳細を説明する。
【0024】
時間領域用可変光学遅延部16は、レーザ光分光部11により分光された一方のレーザ光であるサンプリング光が伝播する経路中に設けられ、当該サンプリング光の遅延量を可変設定する。この時間領域用可変光学遅延部16は、2つの反射ミラー16a,16bを有しており、この反射ミラー16a,16bが矢印Aの方向に物理的に平行移動可能に構成されている。これにより、サンプリング光の遅延時間を可変にしている。この時間領域用可変光学遅延部16は、サンプリング光がテラヘルツ波検出部15に到達するタイミングをずらしながらテラヘルツ波の時間変化を計測するために用いられる。
【0025】
遅延量設定用可変光学遅延部17は、テラヘルツ波分光部13で分光された2つのテラヘルツ波のうち、参照液膜102を透過するテラヘルツ波が伝播する経路上に設けられ、当該テラヘルツ波の遅延量を可変設定する。この遅延量設定用可変光学遅延部17は、上述した2つの反射ミラー13d,14dを有しており、この反射ミラー13d,14dが矢印Bの方向に物理的に平行移動可能に構成されている。この遅延量設定用可変光学遅延部17は、試料液膜101を透過する一方のテラヘルツ波が伝播する経路の光路長と、参照液膜102を透過する他方のテラヘルツ波が伝播する経路の光路長とに所定の差を設けるために用いられる。
【0026】
図2は、試料液膜101および参照液膜102を生成するための液体循環装置の構成例を示す図である。
図2に示すように、本実施形態の液体循環装置は、チューブポンプ21と、計測対象の液体を用いて試料液膜101を生成する試料液膜生成部22Sと、参照用の液体を用いて参照液膜102を生成する参照液膜生成部22Rとを備えて構成されている。
【0027】
試料液膜生成部22Sは、容器23S、往路配管24S、復路配管25Sおよびノズル26Sを備えて構成されている。容器23Sには、液体タンク23Saが設けられている。同様に、参照液膜生成部22Rは、容器23R、往路配管24R、復路配管25Rおよびノズル26Rを備えて構成されている。容器23Rには、液体タンク23Raが設けられている。このように、試料液膜生成部22Sおよび参照液膜生成部22Rは、全く同じ構成を有しており、構造的および機構的に同じものとなっている。
【0028】
チューブポンプ21は、試料液膜生成部22Sの液体タンク23Saから復路配管25Sを介して計測対象の液体を吸い上げて、吸い上げた液体を往路配管24Sを介してノズル26Sに導出する。そして、ノズル26Sから液体が噴出されることにより、試料液膜101が形成される。試料液膜101は、水滴となって液体タンク23Saに溜まり、チューブポンプ21によって再び吸い上げられる。
【0029】
また、チューブポンプ21は、参照液膜生成部22Rの液体タンク23Raから復路配管25Rを介して参照用の液体を吸い上げて、吸い上げた液体を往路配管24Rを介してノズル26Rに導出する。そして、ノズル26Rから液体が噴出されることにより、参照液膜102が形成される。参照液膜102は、水滴となって液体タンク23Raに溜まり、チューブポンプ21によって再び吸い上げられる。
【0030】
このように、液体タンク23Sa内の液体が試料液膜生成部22S内を循環して、その循環の過程でノズル26Sにより試料液膜101が形成されるようになっている。また、液体タンク23Ra内の液体が試料液膜生成部22R内を循環して、その循環の過程でノズル26Rにより参照液膜102が形成されるようになっている。
【0031】
ここで、試料液膜生成部22Sの液体タンク23Saと参照液膜生成部22Rの液体タンク23Raに対し、異なる性質を持った2つの液体を貯蔵し、当該2つの液体を1つのチューブポンプ21で吸い上げて循環させて、試料液膜101および参照液膜102を形成する。そして、この試料液膜101および参照液膜102を透過させたテラヘルツ波をテラヘルツ波検出用半導体15にて検出し、テラヘルツ波検出用半導体15から出力されるテラヘルツ波信号をテラヘルツ信号解析装置20にて解析する。
【0032】
このとき、参照液膜102側のテラヘルツ波の光路に付加している遅延量設定用可変光学遅延部17を操作して、参照液膜102側のテラヘルツ波の遅延量を変えることにより、試料液膜101側のテラヘルツ波が伝播する経路と、参照液膜102側のテラヘルツ波が伝播する経路との間に所定の光路長差が生じるように調整する。
【0033】
このように構成した本実施形態のテラヘルツ時間領域分光装置によれば、試料液膜101を透過したテラヘルツ波と、参照液膜102を透過したテラヘルツ波とが干渉した状態でテラヘルツ波検出用半導体15により同時に検出されることとなる。そのため、仮に、試料液膜101と参照液膜102とが同じ液体から作られたものであれば、試料液膜101の分光情報が参照液膜102の分光情報によって相殺される。このとき、テラヘルツ波発生用半導体12により発生されるテラヘルツ波、計測時の温度、チューブポンプ21の動作により液膜に生じる脈動など、テラヘルツ波の計測時の環境が試料液膜101と参照液膜102とで同じとなるので、相殺効果を高めることができる。
【0034】
これに対し、試料液膜101が参照液膜102と異なる特性を有するものであれば、その異なる特性以外の分光情報が相殺されて、当該異なる特性、つまり試料液膜101の特徴的な特性に関する分光情報のみが検出されることとなる。このように、試料液膜101と参照液膜102とで共通する特性に関する分光情報は相殺されるので、試料液膜101の特徴的な特性に関する分光情報を敏感に検知することができるようになる。
【0035】
また、本実施形態では、試料液膜101を透過する一方のテラヘルツ波が伝播する経路と、参照液膜102を透過する他方のテラヘルツ波が伝播する経路との間に所定の光路長差を設けている。このようにすると、テラヘルツ信号解析装置20が干渉波形のテラヘルツ波信号をフーリエ変換することによって得られる周波数スペクトルにおいて、光路長差に応じた周波数におけるスペクトル強度が、深い凹みとなって現れるようになる。そして、この深い凹みとなって現れるスペクトル強度の部分に、試料液膜101に特有の分子間相互作用に応じた特徴が明確に現れるようになる。したがって、この凹み部分のスペクトル強度を分析することにより、試料液膜101の特性を容易に把握することが可能となる。
【0036】
例えば、参照液膜生成部22Rの液体タンク23Raに製造直後の飲料製品を貯蔵し、試料液膜生成部22Sの液体タンク23Saに返品された飲料製品を貯蔵してテラヘルツ時間領域分光計測を行うことにより、返品された飲料製品に特有の特性を表した分光情報を検出することが可能となる。例えば、返品された飲料製品に何らかの異種分子が混入していると、その異種分子由来の分光情報を敏感にテラヘルツ波信号として検知することができる。そして、このテラヘルツ波信号をフーリエ変換して周波数スペクトルを求めると、2つの経路の光路長差に応じた周波数においてスペクトル強度が深く凹んだ部分に、返品された飲料製品が製造直後の飲料製品とは異なる特性を有していることを表す特徴(異種分子の相互作用に起因する特徴)が明確に現れるようになる。そのため、試料液膜101が参照液膜102にはない異種分子を含むか否かを容易に把握することが可能となる。
【0037】
図3は、異なる液体を用いて試料液膜101と参照液膜102とを生成し、テラヘルツ波検出用半導体15により検出したテラヘルツ波信号をフーリエ変化した結果得られる周波数スペクトルの一例を示す図である。なお、
図3の縦軸は対数表記である。この
図3に示す周波数スペクトルは、水にエタノールを体積比で40%の割合で混合し、混合から約20分が経過した状態のもの(混合途中のもの)を試料用液体として用い、混合から約70分が経過した(混合が完了したもの)を参照用液体として用いて計測したものである。また、テラヘルツ波が試料液膜101を透過する経路と、参照液膜102を透過する経路との光路長差を250fs(フェムト秒)に設定している。
【0038】
図3に示すように、周波数が2THz付近において、スペクトル強度に深い凹みが生じている。この2THzの周波数は、干渉周波数=1/(2×光路長差)の関係から特定される周波数である。もし、試料用液体と参照用液体とが同じものであれば、2THzの周波数において、スペクトル強度はゼロになる。これに対し、試料用液体と参照用液体とが異なるものであれば、
図3のように、2THzの周波数においてスペクトル強度はゼロにならず、有限の値を持つ。よって、
スペクトル強度が深く凹んでいる周波数において、スペクトル強度がゼロか否かを分析することにより、参照用液体にはない異種分子が試料用液体に混じっているか否かを容易に把握することができる。
【0039】
なお、試料用液体と参照用液体とが同じものであったとしても、フーリエ変換の分解能、計測時における空気のゆらぎ、温度のゆらぎ、計測上の光ノイズ、電気ノイズなどの影響を受けて、スペクトル強度が深く凹んでいる周波数においてスペクトル強度が完全にゼロになるとは限らない。そこで、スペクトル強度が所定の閾値以下か否かを分析することにより、参照用液体にはない異種分子が試料用液体に混じっているか否かを検出するようにしてもよい。
【0040】
以上詳しく説明したように、本実施形態では、テラヘルツ波発生用半導体12から発生されるテラヘルツ波をテラヘルツ波分光部13によって2つに分光し、一方のテラヘルツ波が試料液膜101を透過するとともに、他方のテラヘルツ波が参照液膜102を透過するようにし、試料液膜101および参照液膜102を透過したそれぞれのテラヘルツ波を集束させてテラヘルツ波検出用半導体15により検出するようにしている。
【0041】
このように構成した本実施形態によれば、試料液膜101を透過したテラヘルツ波と、参照液膜102を透過したテラヘルツ波とが干渉した状態で同時に検出されることとなるので、試料液膜101と参照液膜102とが共通に有している特性に関する分光情報を相殺させることができる。そのため、試料液膜101が参照液膜102と異なる特性を有するものであれば、その異なる特性以外の分光情報が相殺されて、当該異なる特性、つまり試料液膜101の特徴的な特性に関する分光情報のみが検出されることとなる。これにより、本実施形態によれば、液体試料の分光情報を感度よく検出することができる。
【0042】
また、本実施形態によれば、試料液膜101を透過するテラヘルツ波が伝播する経路と、参照液膜102を透過するテラヘルツ波が伝播する経路との間に所定の光路長差を設けているので、干渉波形のテラヘルツ波信号をフーリエ変換することによって得られる周波数スペクトルにおいて、光路長差に応じた周波数において深い凹みとなって現れるスペクトル強度の部分に、参照液膜102にはない異種分子が試料液膜101に含まれていることを示す特徴が明確に現れるようになる。したがって、この凹み部分のスペクトル強度を分析することにより、試料液膜101が参照液膜102と異なる特性を有しているものか否かを容易に把握することが可能となる。
【0043】
図4は、本実施形態によるテラヘルツ時間領域分光装置の他の構成例を示す図である。なお、この
図4において、
図1に示した符号と同一の符号を付したものは同一の機能を有するものであるので、ここでは重複する説明を省略する。
図4に示すテラヘルツ時間領域分光装置は、テラヘルツ波分光部およびテラヘルツ波集束部の構成と、試料液膜101および参照液膜102をテラヘルツ波が透過する経路とが
図1の構成例と異なっている。
【0044】
すなわち、
図4に示すテラヘルツ時間領域分光装置では、
図1に示したテラヘルツ波分光部13およびテラヘルツ波集束部14に代えて、半透過ミラー(ハーフミラー)41を備えている。このハーフミラー41は、テラヘルツ波分光部およびテラヘルツ波集束部を兼ね備えたものである。
【0045】
すなわち、テラヘルツ波分光部としてのハーフミラー41は、テラヘルツ波発生用半導体12から発生されたテラヘルツ波を2つの方向に分光する。すなわち、ハーフミラー41は、テラヘルツ波発生用半導体12に対して45度の角度を持って設置されており、テラヘルツ波発生用半導体12から発生されたテラヘルツ波の一部を45度の角度を持って反射するとともに、一部を透過させることにより、試料液膜101の方向と参照液膜102の方向とに分光する。
【0046】
試料液膜101を透過したテラヘルツ波は、減衰フィルタ18を経由して反射ミラー19で反射し、元の経路を辿ってハーフミラー41に向かう。また、参照液膜102を透過したテラヘルツ波は、遅延量設定用可変光学遅延部17が有する反射ミラー13d,14dで反射し、元の経路を辿ってハーフミラー41に向かう。
【0047】
テラヘルツ波集束部としてのハーフミラー41は、試料液膜101を透過した一方のテラヘルツ波を透過するとともに、参照液膜102を透過した他方のテラヘルツ波を45度の角度を持って反射することにより、当該2つのテラヘルツ波をテラヘルツ波検出用半導体15の方向に集光する。
【0048】
図5は、本実施形態によるテラヘルツ時間領域分光装置の更に他の構成例を示す図である。なお、この
図5において、
図4に示した符号と同一の符号を付したものは同一の機能を有するものであるので、ここでは重複する説明を省略する。
【0049】
図5に示すテラヘルツ時間領域分光装置では、
図4に示したハーフミラー41の機能を2つのハーフミラー41’,41”で実現している。すなわち、第1のハーフミラー41’は、テラヘルツ波分光部に相当するものであり、第2のハーフミラー41”は、テラヘルツ波集束部に相当するものである。
【0050】
第1のハーフミラー41’は、テラヘルツ波発生用半導体12から発生されたテラヘルツ波を2つの方向に分光する。すなわち、第1のハーフミラー41’は、テラヘルツ波発生用半導体12に対して45度の角度を持って設置されており、テラヘルツ波発生用半導体12から発生されたテラヘルツ波の一部を45度の角度を持って反射するとともに、一部を透過させることにより、試料液膜101が設置された方の経路と、参照液膜102が設置された方の経路とに分光する。
【0051】
第2のハーフミラー41”は、テラヘルツ波検出用半導体15に対して45度の角度を持って設置されており、試料液膜101を透過した一方のテラヘルツ波を透過するとともに、参照液膜102を透過した他方のテラヘルツ波を45度の角度を持って反射することにより、当該2つのテラヘルツ波をテラヘルツ波検出用半導体15の方向に集光する。
【0052】
また、
図5に示すテラヘルツ時間領域分光装置では、
図4に示した遅延量設定用可変光学遅延部17および反射ミラー19に代えて、遅延量設定用可変光学遅延部17’および反射ミラー19’を備えている。遅延量設定用可変光学遅延部17’および反射ミラー19’は、反射ミラーの使用数が異なるものの、機能としては、遅延量設定用可変光学遅延部17および反射ミラー19と変わらないものである。
【0053】
第1のハーフミラー41’を透過してきたテラヘルツ波は、反射ミラー19’で反射した後、減衰フィルタ18を経由して試料液膜101を透過し、第2のハーフミラー41”に向かう。また、第1のハーフミラー41’で45度の角度をもって反射したテラヘルツ波は、遅延量設定用可変光学遅延部17’が有する反射ミラーで反射した後、参照液膜102を透過し、第2のハーフミラー41”に向かう。
【0054】
上述したように、第2のハーフミラー41”は、試料液膜101を透過した一方のテラヘルツ波と参照液膜102を透過した他方のテラヘルツ波とをテラヘルツ波検出用半導体15の方向に集光する。
【0055】
図4または
図5のようにテラヘルツ時間領域分光装置を構成することにより、
図1に比べて構成を簡素化することができるというメリットを有する。なお、本実施形態では、テラヘルツ時間領域分光装置の構成例として、
図1、
図4および
図5を示したが、これらは一例に過ぎず、本発明はこれらの構成に限定されるものではない。
【0056】
なお、上記実施形態では、テラヘルツ波が参照液膜102を透過する方の光路上に遅延量設定用可変光学遅延部17を設ける例について説明したが、試料液膜101側の光路上に遅延量設定用可変光学遅延部17を設けるようにしてもよい。あるいは、試料液膜101側の光路上および参照液膜102側の光路上の双方に遅延量設定用可変光学遅延部17を設けるようにしてもよい。
【0057】
また、
図1の実施形態において、遅延量設定用可変光学遅延部17によってテラヘルツ波の遅延量を調整する例について説明したが、当該遅延量設定用可変光学遅延部17が有する反射ミラー13d,14dの移動に合わせて、参照液膜102の配置位置を移動させる液膜移動部を更に備えるようにしてもよい。例えば、ノズル26Rを矢印Bの方向に物理的に平行移動可能に構成することにより、液膜移動部を構成することが可能である。なお、試料液膜101側の光路上に遅延量設定用可変光学遅延部17を設ける場合は、ノズル26Sを物理的に平行移動可能に構成する。
【0058】
また、
図1の実施形態において、反射ミラー13c,14cの間に試料液膜101を配置し、反射ミラー13d,14dの間に参照液膜102を配置する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、第1の三角プリズム13bと一方の第1の反射ミラー13cとの間に試料液膜101を配置し、第1の三角プリズム13bと他方の第1の反射ミラー13dとの間に参照液膜102を配置するようにしてもよい。この場合、テラヘルツ波分光部は、第1の放物面ミラー13aおよび第1の三角プリズム13bにより構成される。
【0059】
また、上記実施形態では、サンプリング光が伝播する経路中に時間領域用可変光学遅延部16を配置する例について説明したが、ポンプ光が伝播する経路中に時間領域用可変光学遅延部16を配置するようにしてもよい。
【0060】
また、上記実施形態では、テラヘルツ波が試料液膜101を透過する経路と参照液膜102を透過する経路との光路長差を250fsに設定する例について説明したが、この数値は一例に過ぎず、これに限定されるものではない。また、上記実施形態では、遅延量設定用可変光学遅延部17により、参照液膜102を透過するテラヘルツ波の遅延量を可変設定にする構成について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、テラヘルツ波の遅延量を所定の値に固定的に設定するようにしてもよい。
【0061】
また、上記実施形態では、本発明のテラヘルツ時間領域分光装置を吸収分光法に適用する例について説明したが、反射分光法にも適用することが可能である。
図6は、反射分光法に適用した場合のテラヘルツ時間領域分光装置の構成例を示す図である。なお、この
図6において、
図4に示した符号と同一の符号を付したものは同一の機能を有するものであるので、ここでは重複する説明を省略する。
【0062】
図6に示した構成では、試料液膜101および参照液膜102に代えて、光を透過しない材料や光を散乱する材料から成る試料201および参照材料202を用いる。また、遅延量設定用可変光学遅延部17に代えて、参照材料202の配置位置を移動させることによって光学的な遅延量を設定する遅延量設定用可変光学遅延部17”を備えるようにする。なお、反射分光法に係るテラヘルツ時間領域分光装置の構成も、
図6は一例を示したに過ぎず、これに限定されない。
【0063】
また、上記実施形態では、テラヘルツ時間領域分光装置の使用例として、飲料製品の分光情報を計測するケースについて説明したが、これ以外のケースに使用可能であることはいうまでもない。例えば、遺伝子研究などで行われるPCR(Polymerase Chain Reaction:ポリメラーゼ連鎖反応)において、DNA増殖によって得られた2つの試料を試料液膜101および参照液膜102として用い、それぞれにテラヘルツ波を透過させて検出した干渉波形のテラヘルツ波信号をフーリエ変換して周波数スペクトルを得ることにより、2つの試料の特性の違いの有無を容易に把握することができる。これにより、PCRエラーによって発生する差を瞬時に検出することができ、有益な評価方法として用いることが可能となる。
【0064】
その他、分光計測の試料として用いる被計測物質が液体状のものについては、広く本実施形態のテラヘルツ時間領域分光装置を利用することが可能である。一般的な環境においては、水や水蒸気は、常に存在するものである。同時に、水分子によるテラヘルツ波の吸収効果が強いため、ほんの少しの水や水蒸気でも、テラヘルツ波は吸収されてしまい、本来の計測の邪魔になる。このように、テラヘルツ波の計測に対してノイズの多い環境において、本実施形態のテラヘルツ時間領域分光装置は特に有効である。
【0065】
その他、上記実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【解決手段】テラヘルツ波を2つに分光して試料液膜101と参照液膜102とを透過させた後に集光し、干渉した状態のテラヘルツ波をテラヘルツ波検出用半導体15により検出することにより、試料液膜101の特徴的な特性に関する分光情報のみが検出されるようにするとともに、光学遅延部17により、テラヘルツ波が試料液膜101を透過する経路と、参照液膜102を透過する経路とに所定の光路長差を設けることにより、テラヘルツ信号解析装置20が干渉波形のテラヘルツ波信号をフーリエ変換することによって得られる周波数スペクトルにおいて、光路長差に応じた周波数におけるスペクトル強度に、試料液膜101に異種分子の相互作用に起因する特徴が現れるようにする。