(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の実施形態のノズルプレートは、インクを吐出するノズルを囲んで形成されると
ともに、前記ノズルにインクを供給するインク圧力室に隣接する振動板と、前記ノズルを
囲んで、一方の面に前記振動板の前記インク圧力室と反対側に形成される第1電極を配置
し、他方の面に形成される第2電極を配置し、前記第1電極と前記第2電極とで層状構造
になる圧電体膜と、前記ノズルを囲んで前記第2電極の前記インク圧力室と反対側の面に
形成されヤング率が前記振動板のヤング率より小さい保護膜と、を具備
し前記保護膜はセラミックスである。
【0008】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態が適用されるインクジェットヘッドの分解斜視図である。
【0009】
図1に示されるインクジェットヘッド1は、ノズルプレート100、インク圧力室構造体200、セパレートプレート300、インク供給路構造体400、で構成されている。
【0010】
ノズルプレート100には、ノズルプレート100の厚さ方向に貫通するインク吐出用の複数のノズル101(インク吐出孔)がある。
【0011】
インク圧力室構造体200には、複数のノズル101に対応する複数のインク圧力室201がある。1つのインク圧力室201は対応するノズル101に繋がっている。
【0012】
セパレートプレート300には、インク圧力室構造体200に形成されるインク圧力室201に繋がるインク絞り301がある。インク絞り301は各インク圧力室201に対応して設けられ、後述するインク供給路402からインク圧力室201へインクを供給する開口となっている。
【0013】
すなわち、複数のノズル101に対応してインク圧力室201とインク絞り301が設けられ、複数のインク圧力室201は、インク絞り301を通してインク供給路402と繋がっている。
【0014】
各インク圧力室201は印刷媒体(例えば、用紙、プラスチックフィルム、など)に画像を印刷するためのインクを保持している。そしてノズルプレート100のインク圧力室201に対応する部分の変形によって、各インク圧力室201内のインクに圧力変化が発生し、各ノズル101からインクを吐出する。この時、セパレートプレート300に設けられたインク絞り301は、インク圧力室201内に発生した圧力を閉じ込めて、インク供給路402へ圧力が逃げることを防ぐ役割を果たす。そのため、インク絞り301の直径は、インク圧力室201の直径に対して1/4以下の大きさである。
【0015】
インク供給路402は、インク供給路構造体400にある。インク供給路構造体400にはインクジェットヘッド1外部からインクを供給するインク供給口401がある。インク供給路402は、全てのインク圧力室201にインクを供給可能であるように、複数のインク圧力室201をすべて囲んでいる。すなわち、インク供給路402はインク絞り301を通して同時にすべてのインク圧力室201へインクを供給可能な大きさになっている。
【0016】
インク圧力室構造体200は、厚さ725μmのシリコンウエハで作成している。各インク圧力室201は、直径240μmの円筒形状である。各ノズル101はインク圧力室201の円筒の中心線に沿って設けられている。
【0017】
セパレートプレート300は、厚さ200μmのステンレスである。インク絞り301の直径は50μmとなっている。インク絞り301の形状は、それぞれのインク圧力室201へのインク絞りの流体抵抗がほぼ同程度になるように作られている。
【0018】
尚、インク絞り301は、インク圧力室201の直径や深さなどの設計によって、不要とすることもできる。そのため、インク絞り301を備えるセパレートプレート300がない構造でもインク吐出は可能である。
【0019】
インク供給路構造体400は厚さ4mmのステンレスである。インク供給路402はステンレス表面から2mm深さとなっている。インク供給口401はインク供給路402のほぼ中央にある。
【0020】
図2は、
図1で説明したインク供給構造体400とは異なる第2のインク供給路構造体405を有するインクジェットヘッド1を示している。第2のインク供給路構造体405は循環インク供給口407と循環インク排出口408を有する第2のインク供給路406を備えている。第2のインク供給路406を通してインクが循環するように、循環インク供給口407と循環インク排出口408はインク供給路406の両端付近に配置されている。第2のインク供給路406以外の構成は、
図1で示すインクジェットヘッド1と同様な構成である。
【0021】
インクが循環することにより、第2のインク供給路406内のインク温度を一定に保つことができる。よって
図1のインクジェットヘッドと比べて、ノズルプレート100の変形によって発生した熱によるインクジェットヘッド内の温度上昇を抑制する効果がある。
【0022】
図1および
図2で示されるインクジェットヘッド1のノズルプレート100は、インク圧力室構造体200の上に、後述する成膜プロセスにて形成された一体構造である。
【0023】
インク圧力室構造体200、セパレートプレート300、インク供給路構造体400(第2のインク供給路構造体405)はノズル101、インク圧力室201が所定の位置関係を保つように、エポキシ接着剤で固定されている。
【0024】
インク圧力室構造体200はシリコンウエハ、セパレートプレート300、インク供給路構造体400はステンレスで作成した。しかし、これら構造体200、300、400の材料は、シリコンウエハ、ステンレスに限定されない。構造体200、300、400はノズルプレート100の膨張係数との差を考慮して、インク圧力室201内で発生するインク吐出圧力に影響しない範囲で他の材料にすることも可能である。例えば、セラミック材料としてアルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、チタン酸バリウム、などの窒化物、酸化物を利用可能である。また、樹脂材料として、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエーテルサルフォンなどのプラスチック材を利用することも可能である。また、金属材料(合金)を用いることも可能であり、代表的な材料としては、アルミ、チタン、などの材料が挙げられる。
【0025】
図3を参照し、ノズルプレート100の構成について説明する。
図3はノズルプレート100をインク吐出側から見た平面図である。
【0026】
ノズルプレート100は、インクを吐出させるノズル101、ノズル101からインクを吐出させるための圧力を発生させるアクチュエータ102がある。また、ノズルプレート100はアクチュエータ102を駆動するための信号を伝送する配線電極103と共有電極107がある。さらに、ノズルプレート100は配線電極103の一部である、インクジェットヘッド1の外部からインクジェットヘッド1を駆動する信号を受ける配線電極端子部104、同様に、共有電極107の一部である、インクジェットヘッド1を駆動する信号を受ける共有電極端子部105を有している。
【0027】
アクチュエータ102、配線電極103、配線電極端子部104、共有電極107、共有電極端子部105は、振動板106上に形成される。
【0028】
ノズル101はノズルプレート100を貫通している。1つのインク圧力室201の円形断面の中心と、対応するノズル101の中心は一致している。1つのインク圧力室201から対応するノズル101内にインクを供給する。ノズル101に対応するアクチュエータ102の動作によって振動板106が変形し、インク圧力室201内に発生した圧力変化によって、ノズル101に供給されたインクを吐出する。全てのノズル101は同じ動作である。
【0029】
1つのインク圧力室201の円形断面の中心と、対応するノズル101の中心がずれた構成のインクジェットヘッド1でも、インク圧力室201内に発生する圧力によって、ノズル101からインクを吐出させることは可能である。1つのインク圧力室201の円形断面の中心と、対応するノズル101の中心が一致しているインクジェットヘッド1は、一致していないインクジェットヘッド1に比べインクの吐出方向を均一化できる。
【0030】
ノズル101は円筒形状となっており、直径20μmである。
【0031】
アクチュエータ102は圧電体膜で構成されている。圧電体膜と圧電体膜を挟む2つの電極(配線電極103と共有電極107)で各アクチュエータ102は動作する。圧電体膜と2つの電極は、圧電体層、配線層、共有電極層と層状に形成されている。圧電体膜を成膜すると、圧電体膜の膜厚方向に分極が発生する。電極を介して分極の方向と同方向の電界を圧電体膜に印加すると、アクチュエータ102は電界方向と直交する方向に伸縮する。この伸縮を利用して振動板106が、ノズルプレート100の厚み方向に変形しインク圧力室201内のインクに圧力変化を発生させる。圧電体膜はインク圧力室201に合わせて円形にパターニングされ、かつノズル101と同心の円形開口を有している。円形の圧電体膜の直径は170μmとする。つまり、圧電体膜はノズル101の吐出側開口と同心円でノズル101の吐出側開口を囲んでいる。
【0032】
中心にノズル101を配置したアクチュエータ102は直径170μmの圧電体膜で構成されているので、より高密度にノズル101を配置するためにアクチュエータ102は千鳥状(互い違い)に配置されている。
図3のX軸方向に複数のノズル101が直線状に配置される。Y軸方向に直線状のノズル列が2列ある。X軸方向で隣接するノズル101の中心間距離は340μmとなっている。Y軸方向ではノズル101の2列の配置間隔が240μmとなっている。このように配置することで、配線電極103はX軸方向で2つのアクチュエータ102間を通って形成される。
【0033】
圧電体膜の材料は、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)を用いた。他の材料として、PTO(PbTiO3:チタン酸鉛)PMNT(Pb(Mg1/3Nb2/3)O3−PbTiO3)、PZNT(Pb(Zn1/3Nb2/3)O3−PbTiO3)、ZnO、AlNなどを用いることも可能である。
【0034】
圧電体膜はRFマグネトロンスパッタリング法により基板温度350℃で成膜した。膜厚は1μmとした。圧電体膜成膜後、圧電体膜に圧電性を付与するために、500℃で3時間熱処理を行った。これにより、良好な圧電性能を得ることができた。圧電体膜の他の製法として、CVD(化学的気相成長法)、ゾルゲル法、AD法(エアロゾルデポジション法)、水熱合成法などを用いることも可能である。圧電体膜の厚さは、圧電特性と絶縁破壊電圧などによって決定される。圧電体膜の厚さは、概ね0.1μmから5μmの範囲である。
【0035】
複数の配線電極103は、アクチュエータ102の圧電体膜に繋がる2つの電極の一方である。複数の配線電極103は圧電体膜に対しては吐出側に成膜されている。各配線電極103は対応するアクチュエータ102の圧電体膜に個別に繋がる。各配線電極103は圧電体膜を独立に動作させるための個別電極として作用する。各配線電極103は、円形の圧電体膜より大径の円形の電極部分(アクチュエータ配線電極)と配線部、配線電極端子部104で構成される。円形の電極部分の中心にはノズル101が形成されるため、ノズル101と同心円状に配線電極膜がない部分ができる。
【0036】
複数の配線電極103は、Pt(白金)薄膜で形成した。薄膜の成膜はスパッタリング法を用い、膜厚0.5μmとした。配線電極103の他の電極材料として、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Al(アルミニウム)、Ti(チタン)、W(タンタル)、Mo(モリブデン)、Au(金)などを利用することも可能である。他の成膜法として、蒸着、鍍金を用いることも可能である。複数の配線電極103の望ましい膜厚は0.01から1μmである。
【0037】
共有電極107は、圧電体膜に繋がる2つの電極の一方であり、圧電体膜に対してはインク圧力室201側に成膜されている。言い換えれば、共有電極107は振動板106のインク圧力室201と反対側に形成される。共有電極107は、各アクチュエータ102に対応する圧電体膜に共有して繋がり、共通電極として作用する。共有電極107は、円形の圧電体膜より小径の円形の電極部分、アクチュエータ102の個別電極配線部の反対側に配置されノズルプレート100のX軸方向両端で集結された配線部、共有電極端子部105で構成される。円形の電極部分の中心にはノズル101が形成されるため、個別電極の配線電極膜と同様に、ノズル101と同心円状に共有電極膜がない部分ができる。
【0038】
共有電極107は、Pt(白金)/Ti(チタン)薄膜で形成した。薄膜の成膜はスパッタリング法を用い、膜厚0.5μmとした。共有電極107の他の電極材料として、Ni、Cu、Al、Ti、W、Mo、Auなどを利用することも可能である。他の成膜法として、蒸着、鍍金を用いることも可能である。共有電極107の望ましい膜厚は0.01から1μmである。
【0039】
配線電極端子部104と共有電極端子部105は、外部駆動回路からアクチュエータ102を駆動するための信号を受信するために設けられている。配線電極103と共有電極107はアクチュエータ102の間を通して配線するため、この実施例では配線幅は80μm程度となる。
【0040】
共有電極端子部105は、X軸方向で見たとき個別配線端子部104の両側にある。各配線電極端子部104の間隔は、ノズル101が千鳥配列されているのでノズル101のX軸方向の間隔170μmと同じになるので、配線電極103の配線幅に比べて配線電極端子部104のX軸方向の幅を広くすることができる。このため外部駆動回路との接続は容易になっている。配線電極103がアクチュエータ102を駆動する個別電極として機能する。外部駆動回路は、共通電極端子部105へ接続する配線と各個別配線電極端子部104へ接続する配線を備え、画像信号に従って個別電極103に選択的に電圧を印加するICになっている。選択された個別電極103と共通電極107間に電圧を印加してアクチュエータ102を動作させ、ノズル101からインクを吐出する。
【0041】
図3のA−A´断面を参照し、このインクジェットヘッドの製造方法について説明する。
【0042】
図4(a)から
図7(m)はインクジェットヘッドの加工プロセス毎に作成した状態を示している。インクジェットヘッドは、インクジェットヘッドを構成する材料の薄膜形成またはスピンコーティングによって形成している。
【0043】
図4(a)はインク圧力室構造体200上に振動板106を成膜した構成を示している。ノズルプレート100を形成するために、鏡面研磨されたシリコンウエハをインク圧力室構造体200に用いている。ノズルプレート100を作成するプロセスにおいて、加熱、薄膜の成膜を繰り返すため、耐熱性のあるシリコンウエハを利用している。シリコンウエハは、SEMI(SemiconductorEquipmentandMaterialsInternational)規格に準じた、厚さ525〜775μmの平滑化されたものである。シリコンウエハの代わりに、耐熱性があるセラミックス、石英あるいは各種金属の基板を使うことも可能である。
【0044】
振動板106は、CVD法成膜したSiO2膜(二酸化ケイ素)を用いた。インク圧力室構造体200上の全面に膜厚6μmの成膜を行った。振動板106の形成は、CVD法の他に、シリコンウエハを酸素雰囲気で加熱処理することによりシリコンウエハの表面にSiO2膜が形成される熱酸化法を用いても良い。
【0045】
振動板106の膜厚は1から50μmの範囲が望ましい。SiO2に代えて、SiN(窒化ケイ素)、Al2O3(酸化アルミニウム)、HfO2(酸化ハフニウム)、DLC(DiamondLikeCarbon)を用いることもできる。振動板106の材料選択は、耐熱性、絶縁性、熱膨張係数、平滑性、インクに対する濡れ性も考慮して行っている。絶縁性が低い振動板106を有するインクジェットヘッド1で導電率が高いインクを吐出する場合、アクチュエータ102を駆動する電圧によってインク中に電流が流れ、導電性インクが電気分解されることがある。インクの電気分解により、アクチュエータにインクの分解した物質が付着しインクジェットヘッド1の特性が劣化する可能性がある。そのため、水性インクのように導電率が高いインクを用いることも考慮して、振動板106の抵抗率はより高い方が望ましい。
【0046】
図4(b)は、振動板106上に成膜した共有電極107の成膜を示している。電極材料はPt/Tiである。TiとPtを順番にスパッタリング法を用いて成膜した。Tiの膜厚は0.45μmとし、Pt膜厚は0.05μmとした。
【0047】
電極膜を成膜した後に、アクチュエータ102と配線部、共有電極端子部105に適した形状に電極膜をパターニングし共有電極107を形成した。パターニングは、電極膜上にエッチングマスクを作り、エッチングマスクで被覆された部分以外の電極材料をエッチングによって除去することで行った。エッチングマスクは、感光性レジストを電極膜上に塗布した後に、プリベークを行い、所望のパターンが形成されたマスクを用いて露光し、現像工程を経てポストベークを行って形成した。
【0048】
共有電極107の圧電体膜108に相当する部分は、圧電体膜の外径より小さく、外径166μmの円形パターンになっている。円形の共有電極107の中心にノズル101が形成されるため、円形共有電極107の中心から同心円で直径34μmの電極膜がない部分を形成した。共有電極107をパターニングすることで、共有電極107の円形部と配線部以外は振動板106が露出している。
【0049】
図4(c)は共有電極107上に形成した圧電体膜108を示している。共有電極107、振動板106上に、圧電体膜108を形成する。圧電体膜108はPZTを用いている。1μm厚の圧電体膜108を基板温度350℃にてスパッタリング法で作成した。PZT薄膜に圧電性を付与するために、500℃3時間の熱処理を行った。PZT薄膜は成膜すると、共有電極107から膜厚方向に沿って、分極が発生する。すなわち、PZT膜は振動板106の面に対して法線方向に分極する。
【0050】
圧電体膜108のパターニングは、圧電体膜上にエッチングマスクを作り、エッチングマスク以外の圧電体材料をエッチングによって除去することで行った。エッチングマスクは、圧電体膜上に感光性レジストを塗布した後に、プリベークを行い、所望のパターンが形成されたマスクを用いて露光し、現像工程を経てポストベークを行って形成した。
【0051】
圧電体膜108のパターンは外径170μmの円形となっている。円形パターンの中心にはノズル101が形成されるため、円形の圧電体膜108の中心から同心円で直径30μmの圧電体膜がない部分を形成した。直径30μmの圧電体膜のない部分は、振動板106が露出している。円形の圧電体膜がない部分の直径が30μmであり、円形の共有電極107がない部分の直径が34μmであるので、圧電体膜107がアクチュエータ102を構成する共有電極107を覆うように形成される。圧電体膜108が共有電極107を覆うことで、共有電極107と圧電体膜108に電圧を印加するためのもう一方の配線電極103との間の絶縁性を確保することができる。すなわちアクチュエータ102を駆動するための個別電極となる配線電極103と共有電極107とを圧電体膜107によって絶縁している。
【0052】
図4(d)は、
図3のDにあたる箇所の圧電体膜108と共有電極107上の絶縁膜109を示している。絶縁膜109は、共有電極107の配線部とアクチュエータ102を構成するアクチュエータ配線電極103の絶縁を保つために、圧電体膜108と共有電極107の表面上に絶縁膜を形成する。絶縁膜109の厚みは0.2μm、材料はSiO2とした。成膜は良好な絶縁性を低温で成膜できるCVD法を用いた。絶縁膜109は、圧電体膜108と共有電極107の表面のみ成膜されていればよいので、パターニングを行った。レジストを塗布した後に、プリベークを行い、所望のパターンのマスクを用いて露光し、現像し、ポストベークを行って、エッチングマスクを定着した。このエッチングマスクを用いてエッチングを行い、所望な形状の絶縁薄膜を得た。パターニング加工のバラツキを考慮して、絶縁膜109は圧電体膜108を一部覆うようにパターニングした。絶縁膜109が圧電体膜108を覆う量は、圧電体膜108の変形量を阻害しない程度とした。
【0053】
図5(e)は、振動板106、圧電体膜108、絶縁膜109上に成膜した配線電極103(個別配線電極)を示している。配線電極103はPtの膜厚0.5μmとなっている。配線電極103はスパッタリング法によって成膜した。電極を振動板106、圧電体膜108、絶縁膜109上に成膜した後に、アクチュエータ102と配線部、配線電極端子部104に適した形状に電極膜をパターニングし個別配線電極103を形成した。パターニングは、電極膜上にエッチングマスクを作り、エッチングマスク以外の電極材料をエッチングによって除去することで行った。エッチングマスクは、感光性レジストを電極膜上に塗布した後に、プリベークを行い、所望のパターンが形成されたマスクを用いて露光し、現像工程を経てポストベークを行って形成した。
【0054】
配線電極103の圧電体膜108に相当する部分は外径174μmの円形パターンになっている。円形の配線電極103の中心にノズル101が形成されるため、円形配線電極103の中心から同心円で直径26μmの電極膜がない部分を形成した。すなわち、アクチュエータ102を構成する円形の配線電極103は、圧電体膜108全体を覆う形状になっている。
【0055】
配線電極膜103の他の成膜材料として、Cu、Al、Ag、Ti、W、Mo、Pt、Auを利用することができる。配線電極膜109の他の成膜方法として、真空蒸着、鍍金などを利用することができる。配線電極膜103の膜厚は0.01〜1μmの範囲が好ましい。
【0056】
図5(f)は、振動板106、配線電極103、共有電極107、絶縁膜109上に成膜した保護膜110と金属膜111を示している。各膜は振動板106上に層状に形成されている。保護膜110は、ポリイミドであり膜厚3μmとなっている。保護膜110は、ポリイミド前駆体を含有した溶液をスピンコーティング法によって成膜した後に、ベークによって熱重合と溶剤除去を行って形成した。スピンコーティング法で成膜することにより、振動板106上に形成されたアクチュエータ102、配線電極103、共有電極107を被覆して、表面が平滑な膜が形成される。
【0057】
保護膜110は、ポリイミドに代えて、樹脂材料として、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエーテルサルフォンなどのプラスチック材を利用することも可能である。また、セラミック材料としてジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、チタン酸バリウム、などの窒化物、酸化物を利用可能である。金属材料(合金)を用いることも可能であり、代表的な材料としては、アルミ、ステンレス、チタン、などの材料が挙げられる。他の成膜方法として、CVD、真空蒸着、鍍金などを利用することができる。保護膜110の膜厚は1〜50μmの範囲が好ましい。
【0058】
保護膜110の材料選択においては、振動板106と保護膜110のヤング率の差が大きい材料が望ましい。板の変形量は、板材料のヤング率と板厚が影響する。同じ力がかかった場合でも、ヤング率が小さい程、板厚が薄い程変形が大きい。実施形態においては、振動板106のSiO2膜のヤング率は80.6GPa、保護膜110のポリイミド膜のヤング率は10.9GPaであり、ヤング率は69.7GPaの差がある。この理由について説明する。
【0059】
本実施の形態のインクジェットヘッド1は、アクチュエータ102が振動板106と保護膜110に挟まれた構造となり、アクチュエータ102に電界をかけてアクチュエータ102が電界方向と直交する方向に伸びた場合、振動板106はインク圧力室201側に対して凹形状に変形する力が負荷される。反対に、保護膜110はインク圧力室201側に対して凸形状に変形する力が負荷される。アクチュエータ102が電界方向と直交する方向に縮んだ場合は、振動板106はインク圧力室201側に対して凸形状、保護膜110はインク圧力室201側に対して凹形状に変形する力が負荷される。即ち、アクチュエータ102が電界方向と直交する方向に伸縮すると、振動板106と保護膜110は正反対の向きに変形する力が負荷される。それ故、振動板106と保護膜110の膜厚とヤング率が同じ場合、アクチュエータ102に電圧印加しても、振動板106と保護膜110は正反対の方向に同じ量変形する力が負荷されるため、ノズルプレート100が変形しないので、インク吐出しない。
【0060】
本実施の形態においては、保護膜110のポリイミド膜の方が、振動板106のSiO2膜よりヤング率が小さいため、同じ力に対して保護膜110の方が変形量は大きくなる。本実施の形態の構造においては、アクチュエータ102が電界方向と直交する方向に伸びた場合、ノズルプレート100はインク圧力室201側に対して凸形状に変形して、圧力室201の容積が縮まる(保護膜110がインク圧力室201側に対して凸形状に変形する量の方が大きいため)。反対に、アクチュエータ102が電界方向と直交する方向に縮んだ場合は、ノズルプレート100はインク圧力室201側に対して凹形状に変形して、圧力室201の容積が広がる(保護膜110がインク圧力室201側に対して凹形状に変形する量の方が大きいため)。
【0061】
振動板106と保護膜110のヤング率の差が大きい程、同じ電圧をアクチュエータに印加した時、振動板の変形量の差が大きくなる。そのため、振動板106と保護膜110のヤング率の差が大きい方が、より低い電圧でインク吐出が可能となる。
【0062】
尚、上述したように、板の変形量は、板材料のヤング率だけでなく、板厚も影響する。そのため、振動板106と保護膜110の変形量に差をつける場合は、材料のヤング率だけでなく、それぞれの膜厚も考慮する必要がある。振動板106と保護膜110の材料のヤング率が同じでも、膜厚に違いがあれば、アクチュエータ102を駆動させる電圧は高くなるが、インク吐出は可能である。
【0063】
その他、保護膜110の材料選択においては、耐熱性、絶縁性、熱膨張係数、平滑性、インクに対する濡れ性も考慮して行っている。絶縁性に関して、高導電率インクをインクジェットヘッド1に供給する場合には、電気分解によるインク劣化を防止するため、保護膜110として高抵抗率の材料を選択することが望ましい。
【0064】
金属膜111はアルミ膜であり、ポリイミド膜上にスパッタリング法で0.4μm成膜する。金属膜111は、後述する保護膜110と振動板106をドライエッチング加工する際のマスクとして使用する。
【0065】
金属膜111は、アルミに代えて、Cu、Ag、Ti、W、Mo、Pt、Auを利用することができる。金属膜111の他の成膜方法として、CVD、真空蒸着、鍍金などを利用することができる。金属膜111の膜厚は0.01〜1μmの範囲が好ましい。
【0066】
図5(g)は、ノズル101と
図3に示す配線電極端子部104、共有電極端子部105に適した形状にパターニングされた金属膜111と保護膜110を示している。このパターニング方法について説明する。
【0067】
まず、金属膜111上を感光性レジストとエッチング法を用いて、ノズル101の直径20μmの円形パターンと、
図3に示す配線電極端子部104と共有電極端子部105の四角パターンにエッチング加工する。
【0068】
次に、パターニングされた金属膜111をマスクとして、保護膜110のドライエッチングを行い、ノズル101の円形パターン形状と
図3の配線電極端子部104と共有電極端子部105の四角パターン形状を形成した。
【0069】
図5(h)は、ノズル101に適した形状にパターニングされた振動板106を示している。振動板106のパターニングは、金属膜111と配線電極端子部104と共有電極端子部105をマスクとして、ドライエッチング加工によりおこなった。配線電極端子部104と共有電極端子部105は金属膜111と同様にエッチングガス耐性があるため、配線電極端子部104と共有電極端子部105の下の振動板106はエッチングされない。振動板106の円形の孔はノズル101と同心に形成している。
【0070】
図6(i)は、保護膜110の上に保護テープ112を貼ったインクジェットヘッド1を示している。インク圧力室構造体200に形成されたインク圧力室201をわかり易くするためにインクジェットヘッド1を上下反転した図になっている。インク圧力室201は直径240μmの円柱形状であり、インク圧力室201の中心位置とノズル101の中心位置がほぼ一致するように、パターニングされている。
【0071】
インク圧力室のパターニング方法について説明する。
図5(h)の金属膜111をエッチングにより除去後、保護テープ112を保護膜110上に貼った。保護テープ112は、シリコンウエハの化学機械研磨(ChemicalMecanicalPolishing:CMP)用の裏面保護テープを用いた。
【0072】
厚み725μmのシリコンウエハであるインク圧力室構造体200上にエッチングマスクを形成する。シリコン基板専用のDeep−RIEと呼ばれる垂直深堀ドライエッチング加工技術を用いて、エッチングマスク以外のシリコンウエハを除去することでインク圧力室201を形成した。そのエッチング技術は例えば住友精密工業株式会社出願のWO2003/030239に開示されている。 エッチングマスクは、感光性レジストをインク圧力室構造体200上に塗布した後に、プリベークを行い、所望のパターンが形成されたマスクを用いて露光し、現像工程を経てポストベークを行って形成した。
【0073】
このシリコン基板専用のDeep−RIEは、エッチングガスにSF6(六フッ化硫黄)を用いるが、SF6ガスは、振動板106のSiO2膜や保護膜110のポリイミド膜に対してはエッチング作用を及ぼさない。そのため、インク圧力室201を形成するシリコンウエハのドライエッチングの進行は、振動板106でストップされる。即ち、振動板106のSiO2膜は、Deep−RIEエッチングのストップ層の役割をする。インク圧力室201をインク圧力室構造体200に形成すると、インク圧力室201とノズル101は連通する。ノズル101は振動板106、保護膜110、内に形成されている。言い換えれば、保護膜110はノズル101を囲んで配線電極103のインク圧力室201と反対側に設けられる。この構成により、配線電極103と共有電極107に電圧を印加してアクチュエータ102を動作させ、ノズル101を通してインクを吐出することが可能になる。
【0074】
上記説明中、エッチング方法として、薬液を用いるウェットエッチング法、プラズマを用いるドライエッチング法を適宜選択した。絶縁膜、電極膜、圧電体膜などの材料によって、エッチング方法やエッチング条件を変えて加工を行った。各感光性レジスト膜によるエッチング加工が終了した後、残った感光性レジスト膜は溶解液によってレジスト除去を行った。
【0075】
図6(j)は、インク圧力室構造体200にセパレートプレート300とインク供給路構造体400を接着したインクジェットヘッド1の断面を示す。セパレートプレート300とインク供給路構造体400をエポキシ樹脂で接着した。セパレートプレート300とインク供給路構造体400を接着後、インク圧力室構造体200にセパレートプレート300をエポキシ樹脂で接着した。
【0076】
図6(k)は、保護膜110の配線電極端子部104と共有電極端子部105上に、電極端子部カバーテープ113を貼り付けた断面を示す。
図6(j)の保護テープ112側から紫外線照射を行うことにより、保護テープ112の接着強度を弱めて剥がした後に、
図3の配線電極端子部104と共有電極端子部105の領域に、電極端子部カバーテープ113を貼る。このカバーテープは樹脂性である。接着強度は脱着が容易な粘着テープ程度の接着強度である。電極端子部カバーテープ113は、配線電極端子部104と共有電極端子部105へのゴミの付着や、撥インク膜114の成膜時に撥インク膜114材料が両端子部104、105に付着するのを防止することを目的として貼りつける。撥インク膜114はインクが保護膜110上に留まるのを防ぎ、保護膜110に付着したインクをノズル101へ戻す役割をする。
【0077】
図7(l)は、ノズル101内壁以外の保護膜110上に撥インク膜114を形成した断面を示す。撥インク膜114の材料は、撥液性を有するシリコーン系撥液材料、フッ素含有系有機材料であり、実施形態においては市販の旭硝子社製のフッ素含有系有機材料であるサイトップを用いた。撥インク膜114の膜厚は1μmである。
【0078】
撥インク膜114は、保護膜110上に液状の撥インク膜材料をスピンコーティングによって成膜する。
図7(k)のインクジェットヘッド1をスピンコータへ固定し、回転させている間、インク供給口401より陽圧空気を注入する。それによりインク供給口401と繋がったノズル101から陽圧空気が排出される。この状態で、液体の撥インク膜材料を塗布すると、ノズル101内壁のインク流路に撥インク膜材料が付着することなく、保護膜110上のみに撥インク膜114が形成される。
【0079】
図7(m)に作成したインクジェットヘッド1の断面を示す。インク供給路構造体400に設けられたインク供給口401からインクがインク供給路402に供給される。インク供給路のインクは各インク圧力室201にインク供給絞り301を介して流れ、各ノズル101に満たされる。インク供給口401から供給されるインクは適切な負圧となるように保たれている。ノズル101内のインクはノズル101から漏れることなく保たれる。
【0080】
本実施形態では、圧力室構造体200の上に振動板106、共有電極107、配線電極103、圧電体膜108、保護膜110までからなるノズルプレート100を作成している。ノズルプレート100を圧力室構造体200の上に作成する代わりに、圧力室構造体200の一面を振動板106として作成することも可能である。圧力室構造体200の一面上に電極や圧電体膜や絶縁膜を形成し、他面側からノズル101に応じる圧力室201の位置に圧力室構造体200を貫通しない孔を形成する。圧力室構造体200の一面側には薄い層が残り、この部分が振動板106として動作する。この構成では、ノズルプレート100を用いずに、インク圧力室構造体200の一部をノズルプレート100として利用することができる。
【0081】
図8は、
図3のB−B´にあたる配線電極端子部104と共有電極端子部105の断面である。配線電極端子部104と共有電極端子部105のみ保護膜110がエッチングされており、撥インク膜114は配線電極端子部104と共有電極端子部105には成膜されていない。
【0082】
図9は、
図3のC−C´にあたる配線電極103と共有電極105の配線部の断面である。
図8と異なり、配線上に保護膜110が形成されており、撥インク膜114も保護膜110上に成膜されている。
【0083】
(第2の実施形態)
図10(a)から
図11(f)を参照して第2の実施形態のインクジェットヘッド1の加工プロセスを説明する。各図は、第2の実施形態のインクジェットヘッド1の各加工プロセスでの断面を示している。
図11(f)以降の加工プロセスは、第1の実施形態1の
図6(i)以降と同様の条件である。
図12は第2の実施形態のインクジェットヘッド1の断面を示している。
【0084】
第2の実施形態のインクジェットヘッドの製造プロセスを説明する。
図10(a)はインク圧力室構造体200上に振動板106、共有電極107、圧電体膜108、アクチェータ電極115の順に積層した第1状態の断面図である。インク圧力室構造体200、振動板106、共有電極107、圧電体膜108は第1の実施形態と同じ材料であり、成膜方法と膜厚も同じである。アクチェータ電極115はPtであり、膜厚は0.5μmとなっている。アクチェータ電極115はスパッタリング法によって成膜した。
【0085】
アクチェータ電極115の他の成膜材料として、Cu、Al、Ag、Ti、W、Mo、Pt、Auを利用することができる。上部電極115の他の成膜方法として、真空蒸着、鍍金などを利用することができる。アクチェータ電極115の膜厚は0.01〜1μmの範囲が好ましい。
【0086】
図10(b)は、円形のアクチュエータ102を構成するようにアクチェータ電極115と圧電体膜108の2層を円形にパターニングした第2状態の断面図である。パターンは外径170μmの円形となっている。円形パターンの中心にノズル101を形成するために、円形パターンの中心と同心円で直径30μmの円形にその2層をエッチングより除去し、円形の孔を円形のアクチュエータパターンに同心円で形成している。直径30μmのアクチェータ電極115と圧電体膜108のない孔部分は、共有電極107の層が露出している。アクチェータ電極115は、
図3に示すアクチュエータ102部の配線電極103の役割を果たす。円形のアクチェータ電極115に繋がる配線電極および個別電極端子部は後述する。
【0087】
30μmと170μmの円形のパターニングは、上部電極膜上にエッチングマスクを作り、エッチングによってエッチングマスク以外の2層を除去することで行った。エッチングマスクは、感光性レジストを電極膜上に塗布した後に、プリベークを行い、所望のパターンが形成されたマスクを用いて露光し、現像工程を経てポストベークを行って形成した。
【0088】
図10(c)は、共有電極107の層をアクチュエータ102にパターニングした第3の状態の断面図である。共有電極107は円形の圧電体膜108の下部に配された円形の共有電極とその円形の共有電極と電気的に接続する配線電極、共有電極端子部105を有している。円形共有電極は外径170μmで円形の圧電体膜108と同心円で同径に形成されている。円形パターンの中心にはノズル101が形成されるため、円形の中心から同心円で直径30μmの共有電極107がない孔を形成した。孔内では振動板106が露出している。
【0089】
円形の共有電極、配線電極、共有電極端子部のパターニングは、電極膜上にエッチングマスクを作り、エッチングによってエッチングマスク以外の共有電極層を除去することで行った。エッチングマスクは、感光性レジストを電極膜上に塗布した後に、プリベークを行い、所望のパターンが形成されたマスクを用いて露光し、現像工程を経てポストベークを行って形成した。
【0090】
図10(d)は、円形のアクチェータ電極115、圧電体膜108を覆うように絶縁膜109を円形パターニングした第4の状態の断面図である。絶縁膜109をアクチェータ電極115の上に成膜し、絶縁膜109を外形174μmの円形パターンに加工した。外形174μmの絶縁膜が外形170μmのアクチェータ電極115が同心円状に設けられているので、絶縁膜109は圧電体膜108とアクチェータ電極115の領域を超えて覆い、絶縁膜109の端部は振動板106に接している。絶縁膜109の円形パターンの中心にノズル101を形成するため、円形の中心から同心円で直径26μmの絶縁膜109がない部分を形成した。直径26μmの円形部は、振動板106が露出している。絶縁膜109の厚みは0.2μm、材料はSiO2とした。成膜は良好な絶縁性を低温で成膜できるCVD法を用いた。絶縁膜109の端部が振動板109に接することで、圧電体膜108の端部がノズル101を通るインクに接触することを防ぎ、圧電体膜108を保護し劣化を防ぐことができる。
【0091】
また、アクチェータ電極115上の一部の絶縁膜109には、後述する配線電極117とのコンタクトを行うため、直径10μmの円形の絶縁膜109がないくぼみ116が形成されている。絶縁膜109は、配線電極117と共有電極107の間にも形成され、アクチェータ電極115と共有電極107の絶縁を保っている。
【0092】
図11(e)は、
図10(d)で示すパターン上に配線電極117を形成した第5の状態を示す断面図である。絶縁膜109、振動板106、共有電極107の上に配線電極117の層を形成し、
図3の配線電極103と配線電極端子部104と同様な形状にパターニングして配線電極117を形成した。配線電極117はくぼみ116内でアクチェータ電極115と電気的に接続している。外部駆動回路からの駆動電圧は、配線電極端子部104と配線電極117を介してアクチェータ電極115へ印加されアクチュエータ102を駆動する。アクチュエータ102の動作によりインク圧力室201の容積を増加させるもしくは減少させ、インクをノズル101から吐出させる。
【0093】
配線電極117の材料はアルミであり、膜厚0.5μmでスパッタリングにて成膜した。引出電極117の他の成膜材料として、Cu、Ag、Ti、W、Mo、Pt、Auを利用することができる。配線電極膜117の他の成膜方法として、真空蒸着、鍍金などを利用することができる。配線電極膜117の膜厚は0.01〜1μmの範囲が好ましい。
【0094】
図11(f)は、
図11(e)で示すパターン上に保護膜110と金属膜111の2層を形成した第6の状態の断面図である。ポリイミドの保護膜110とアルミニウムの金属膜111を振動板106、引出電極117、共有電極107、絶縁膜109上に成膜する。その後、その2層をノズル101と配線電極端子部104、
図3に示すような共有電極端子部105に適した形状にパターニングした。保護膜110と金属膜111の膜厚、成膜方法、パターニング方法は、実施形態1と同じである。ノズル101の内径は20μmである。保護膜110は、アクチュエータ102と共有電極107の配線部、配線電極117を覆っている。絶縁膜109のノズル101に対応する円形パターンの直径より、保護膜110と金属膜111のノズルを構成する円形パターンの直径が小さいため、保護膜110は絶縁膜109のノズル101側の端面を被覆し、振動板106と接している。そのため、保護膜110は絶縁膜109がインクに接することを防いでいる。
【0095】
図12は第2の実施形態のインクジェットヘッド1の断面図である。
図11(f)以降の加工プロセスは、第1の実施形態の
図6(i)から
図7(l)を用いて説明した加工プロセスと同様である。インクジェットヘッド1は
図11(f)までの加工プロセスで形成したノズルプレート、セパレートプレート300、インク圧力室構造体200、インク供給路構造体400を備えている。振動板106へのノズル101の加工、インク圧力室構造体200へのインク圧力室201の加工は第1の実施形態で説明した加工方法と同様に行った。撥インク膜114も保護膜110上に形成されている。インク供給路構造体400に設けられたインク供給口401を通してインクがインク供給路402に供給される。インク供給路のインクは各インク圧力室201にインク供給絞り301を介して流れ、各ノズル101に満たされる。ノズルプレートに形成されたアクチュエータ102に外部回路から駆動波形を与え、圧力室の容積を増減させる。結果としてノズル101からインクを吐出させる。
【0096】
圧電体膜108のPZT薄膜内のチタン、鉛、ジルコニウム、酸素などの原子配列は、下地の共有電極107のPtの原子配列によって規制される。言い換えれば、PZT薄膜の原子配列は下地層の原子配列に依存する。PZTの原子配列が規制されることにより、PZT薄膜は膜厚方向に沿って分極が発生する。
図4(c)に示す実施形態1の場合、振動板106上に共有電極107を円形パターニング後、共有電極107上に共有電極107の直径より少し大きい直径のPZT膜(圧電体膜)108を成膜している。圧電体膜108の円形外周部のPZT薄膜の原子配列は、共有電極107の段差部の原子配列の影響を受ける。そのため、PZT薄膜の膜厚方向の原子配列が、円形外周部とそれ以外の領域では異なる可能性がある。結果として、圧電体膜108の円形外周部は、それ以外の領域より分極率が低くなる可能性がある。
【0097】
第2の実施形態では、積層された共有電極107とPZT膜(圧電体膜)108は同じ直径の円形パターンになっているので、圧電体膜108の膜厚方向の原子配列は、円形内のどの領域でも同じとなる。ただし、円形の共有電極107へ接続する配線電極部を除いて、共有電極107とPZT膜は同じ円形になっている。そのため、円形の圧電体膜108の分極率は、第2の実施形態の方が第1の実施形態より高くなる。第2の実施形態の分極率が高いインクジェットヘッド1は、第1の実施形態1のものより低電圧で動作し、インク吐出可能となる。
【0098】
(第3の実施形態)
図13に第3の実施形態のインクジェットヘッド1を示す。第1、第2の実施形態と第3の実施形態ではアクチュエータ102の形状が異なっている。それ以外の部分は同じ構成となっている。
【0099】
第3の実施形態ではアクチュエータ102が長方形となっている。アクチュエータ102は幅170μm、長さ340μmの長方形となっている。ノズル101の直径は20μmになっている。インク圧力室201の断面形状も圧電体膜108の形状に合わせて、長方形となっている。円形の圧電体膜パターンと比べ、長さ方向で340μmと大きなアクチュエータ102となっているので、インクを吐出させるアクチュエータが長くなる。そのためインク吐出圧力を大きくすることが可能である。
【0100】
(第4の実施形態)
図14に第4の実施形態のインクジェットヘッド1を示す。第1、第2の実施形態と第4の実施形態ではアクチュエータ102の形状が異なっている。それ以外の部分は同じ構成となっている。アクチュエータ102が菱形となっている。アクチュエータ102は幅170μm、長さ340μmの菱形となっている。ノズル101の直径は20μmになっている。インク圧力室201の断面形状もアクチュエータ102の形状に合わせて、菱形となっている。
【0101】
円形の圧電体膜パターンと比べ、圧電体パターンをより高密度に配置することができる。
【0102】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。