【実施例】
【0028】
<実施例1>飼料の糖組成の確認
3種類の市販の液体状ミツバチ用飼料を用意し、飼料A、飼料Bおよび飼料Cとした。また、1−ケストース、スクロース、グルコースおよびフルクトースを70.8°Bxとなるよう滅菌水に溶解して液体状のハナバチ用飼料を作成し、これを飼料Dとした。
【0029】
これらを下記の条件で高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供して、飼料に含まれる単糖およびオリゴ糖の種類とその含有割合とを確認した。各糖の含有割合は、検出された全ピークの面積の総和に対する各ピークの面積の割合として、百分率で算出した。その結果を表1に示す。
《HPLCの条件》
カラム;Shodex SUGAR KS-802 HQ KS-802 HQ (8.0mm ID x 300mm) 2本
溶離液;高純水
流速;1.0mL/分
カラム温度;50℃
注入量;200μL
カラム温度;50℃
検出;示差屈折率検出器Shodex RI
【0030】
【表1】
【0031】
表1に示すように、飼料Aの糖組成は、スクロースが33.6%、グルコースが29.3%、フルクトースが26.2%およびその他のオリゴ糖・単糖が10.9%であった。飼料Bの糖組成は、グルコースが51.3%およびフルクトースが48.7%であった。飼料Cの糖組成は、スクロースが50.3%、グルコースが18.4%、フルクトースが15.2%およびその他のオリゴ糖・単糖が16.1%であった。飼料Dの糖組成は、1−ケストースが18.8%、スクロースが63.1%、グルコースが13.3%、フルクトースが4.1%およびその他のオリゴ糖・単糖が0.7%であった。この結果から、飼料A、飼料Bおよび飼料Cは1−ケストースを含まず、飼料Dのみが1−ケストースを含むことが明らかになった。
【0032】
<実施例2>飼料の保存性の確認
実施例1の飼料A〜Dについて、食品中の衛生指標菌の一つである酵母(Yeast)の増殖性を調べることにより保存性を確認した。具体的には、下記(1)および(2)の試験を行った。
【0033】
(1)飼料A〜D間での比較
[1−1]酵母の単離および酵母液の調製
市販のアメリカ産レーズンを滅菌水に入れて、22℃にて3日間静置することにより培養液を得た。この培養液について、YM寒天培地(組成;グルコース(和光純薬社)10g、ペプトン(BD Biosciences社)5g、酵母エキス(BD Biosciences社)3g、麦芽エキス(BD Biosciences社)3g、蒸留水1L、寒天(和光純薬社)20g、pH無調整)を用いてストリークカルチャー法を数回繰り返し、コロニーの外観が酵母様(小型コロニー、コロニーの縁が明確、クリーム色ないし黄褐色、コロニーが盛り上がっている、コロニーの中心に色の濃い点(芯)が見られない等)であり、かつ顕微鏡観察にて出芽が確認されたものを分離して、以下の試験に用いる酵母とした。
【0034】
酵母は、試験日の前日にYM液体培地(組成;上記YM寒天培地の組成から寒天を除いたもの)に植菌し、25℃にて一晩、600nmでのOD(Optical Density)値が約4.0になるまで振とう培養し、酵母培養液を得た。酵母培養液を滅菌水を用いて20,000倍に希釈し、これを酵母液とした。
【0035】
[1−2]飼料における酵母の培養
実施例1の飼料A〜Dを、滅菌水を用いて5倍に希釈し、孔径0.22μmのフィルターでろ過してろ液を回収し、これを飼料検体とした。また、比較対照として滅菌水を用意した。
直径10cmのシャーレに、1の飼料検体当たり3枚のYM寒天培地を作製した。これに飼料検体または滅菌水を500μLずつ均一に塗布し、乾燥させた。続いて、酵母液を50μLずつ均一に塗布し、乾燥させた。その後、25℃にて2日間培養し、出現したコロニーの数を計測して、飼料検体毎に3枚のシャーレの平均値および標準偏差を算出した。算出結果に基づき、飼料A〜Dにおける菌数(CFU/mL)の平均値および標準偏差を算出してグラフに表した。その結果を
図1に示す。
【0036】
図1に示すように、滅菌水の菌数は約71,333,333CFU/mL、飼料Aの菌数は約72,933,333CFU/mL、飼料Bの菌数は約67,866,667CFU/mL、飼料Cの菌数は約65,200,000CFU/mL、飼料Dの菌数は約63,066,667CFU/mLであった。
【0037】
すなわち、滅菌水および飼料A〜Cと比較して、飼料Dの菌数が最も小さかった。このことから、1−ケストースを含むハナバチ用飼料では、酵母が増殖しにくいことが明らかになった。よって、この結果から、1−ケストースを含むハナバチ用飼料は腐敗の進行が遅く、保存性が高いことが明らかになった。
【0038】
(2)糖度を揃えた飼料A〜D間での比較
保存性に対する糖度の影響を検証するため、糖度(Brix)を揃えた飼料A〜D間で酵母の増殖度を調べた。具体的には、実施例1の飼料A〜Dを、いずれも30°Bxとなるよう滅菌水を用いて希釈した。続いて、これらを滅菌水を用いて2倍に希釈した後、孔径0.22μmのフィルターでろ過してろ液を回収し、飼料検体とした。また、比較対照として滅菌水を用意した。本実施例2(1)[1−1]の酵母培養液を、滅菌水を用いて100,000倍に希釈し、これを酵母液とした。続いて、本実施例2(1)[1−2]に記載の方法によりYM寒天培地上でコロニーを培養し、その数を計測してグラフに表した。その結果を
図2に示す。
【0039】
図2に示すように、滅菌水の菌数は約287,333,333CFU/mL、飼料Aの菌数は約340,666,667CFU/mL、飼料Bの菌数は約342,666,667CFU/mL、飼料Cの菌数は約310,666,667CFU/mL、飼料Dの菌数は約291,333,333CFU/mLであった。
【0040】
すなわち、糖度を揃えたにもかかわらず、飼料A〜Cと比較すると、飼料Dの菌数が最も小さかった。この結果から、飼料Dの「保存性が高い」という効果は糖度によるものではなく、各種糖の含有割合ないし1−ケストースという特有の成分を含むことに起因すると考えられた。以上のことから、1−ケストースを含むハナバチ用飼料は保存性が高いことが明らかになった。
【0041】
<実施例3>ハナバチの嗜好性の確認;1−ケストースのみを含む飼料との比較
実施例2において、飼料に高い保存性をもたらすことが示された成分である「1−ケストース」のみを可溶性固形分として含む飼料について、ハナバチの嗜好性を確認した。具体的には、まず、1−ケストースを60°Bxとなるよう滅菌水に溶解して、これを飼料Eとした。また、比較対照として、実施例1の飼料Dを用意した。これらを55mm×75mmの長方形の容器に5mLずつ入れて養蜂箱(約8000匹/箱)の巣枠の上に設置し、10分経過した後、写真を撮影した。撮影した写真画像に基づいて、各飼料の容器にいるミツバチの数を計測した。その結果を
図3に示す。
【0042】
図3に示すように、10分後のハチ数は、飼料Dで8匹、飼料Eで0匹であった。すなわち、1−ケストースのみを含む飼料はミツバチを誘引しなかったのに対して、1−ケストース、スクロース、グルコースおよびフルクトースを含む飼料はミツバチを誘引した。この結果から、可溶性固形分として、1−ケストースの他に1−ケストース以外のオリゴ糖および/または単糖を含む飼料の方が、ハナバチが好んで摂取する(ハナバチの嗜好性が高い)ことが明らかになった。
【0043】
<実施例4>ハナバチの嗜好性の確認;市販の飼料との比較
(1)ハチ数の計測
市販の液体状ミツバチ用飼料「日蜂協液糖」(一般社団法人日本養蜂協会)を用意し、飼料Fとした。また、実施例1の飼料A〜Dを用意した。これらの飼料を用いて、実施例3と同様の実験を行った。ただし、各飼料につき2皿ずつ飼料を入れた容器を設置した。また、ハチ数の計測は、10分、20分および30分経過後に行った。
同様の試験を3つの養蜂箱(約8000匹/箱)に対して行い、それらの計測結果に基づいて、ハチ数の平均値を算出した。その結果を表2および
図4に示す。また、30分経過後の代表的な写真画像を
図5に示す。
【0044】
【表2】
【0045】
表2、
図4および
図5に示すように、30分後の平均ハチ数は、飼料Aで9.3匹、飼料Bで2.3匹、飼料Cで15.3匹、飼料Dで22匹、飼料Fで6.3匹であった。なお、30分後の最大ハチ数は、飼料Dにおける36匹であった。すなわち、市販のミツバチ用飼料である飼料A〜CおよびFと比較して、本願発明に係るハナバチ用飼料Dが誘引したミツバチの数は顕著に大きかった。この結果から、1−ケストースと1−ケストース以外のオリゴ糖および/または単糖とを含む飼料は、ハナバチの嗜好性が顕著に高いことが明らかになった。
【0046】
(2)飼料残存量の計測
実施例1の飼料A〜Dおよび本実施例4(1)の飼料Fを用意した。500mLの飼料を給餌器に入れたものを、各飼料につき2つずつ用意し、飼料A−1、飼料A−2(以下同様)とした。1の巣箱につき1の給餌器の割合で、巣箱(約6200〜6700匹/1群)内に給餌器を設置し、4〜8時間経過後および24時間経過後に、各飼料の残存量を確認した。飼料の残存量の計測は、下記のとおり作製した検尺棒を用いて行った。その結果を表3に示す。なお、表3において、「残有り」とは、残存量の計測は行わなかったものの、目視により飼料が残存していることを確認したことを示す。
【0047】
(検尺棒の作製)試験に使用するものと同じ型の給餌器に100〜500mLの飼料を入れ、100mL毎の水位を測り、当該水位の目盛りを木の板に書き込んで検尺棒とした。
【0048】
【表3】
【0049】
表3に示すように、試験開始から飼料がミツバチに摂取されて無くなる(0になる)までの時間は、飼料A−1では7時間後、飼料A−2では6時間後、飼料B−1では8時間後、飼料B−2、飼料C−1、飼料C−2、飼料F−1および飼料F−2では8時間後以降であったのに対して、飼料D−1および飼料D−2では、4時間後には100mL程度と顕著に減少し、5時間後には0となった。なお、24時間後は全ての飼料が無くなっていた。
【0050】
すなわち、市販のミツバチ用飼料である飼料A〜CおよびFと比較して、本願発明に係るハナバチ用飼料Dは、飼料が無くなるまでの時間が最も短かった。この結果から、1−ケストースと1−ケストース以外のオリゴ糖および/または単糖とを含む飼料は、ハナバチの嗜好性が顕著に高いことが明らかになった。