(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
熱可塑性樹脂基材と、該熱可塑性樹脂基材上に製膜されたポリビニルアルコール系樹脂層とを含み、ポリビニルアルコール系樹脂層を二色性物質により染色し、着色積層体を生成する染色工程と、該着色積層体をホウ酸水溶液中において延伸するホウ酸水中延伸工程とを少なくとも含む後工程によって、該後工程による処理がされたポリビニルアルコール系樹脂層からなる偏光膜を形成するために使用される延伸積層体の製造方法であって、
熱可塑性樹脂基材上に、尿素を含むポリビニルアルコール系樹脂塗工液を塗布して、前記熱可塑性樹脂基材と、該熱可塑性樹脂基材上に製膜された、ポリビニルアルコール系樹脂と尿素を含むポリビニルアルコール系樹脂層とを含む積層体を生成する工程と、
前記積層体に対する空中延伸によって、延伸積層体を生成する工程と、
を含み、
前記積層体に含まれる前記ポリビニルアルコール系樹脂に含まれる前記ポリビニルアルコール系樹脂に対する前記尿素のモル比が、1.0以上10以下である延伸積層体の製造方法。
請求項1〜3のいずれか1項に記載の延伸積層体の製造方法によって製造された延伸積層体をロール状に巻き取ることにより延伸積層体のロールを形成する工程を含む延伸積層体のロールの製造方法。
熱可塑性樹脂基材と、該熱可塑性樹脂基材上に製膜された、ポリビニルアルコール系樹脂と尿素を含むポリビニルアルコール系樹脂層とを含む積層体に対する空中延伸によって、熱可塑性樹脂基材と延伸されたポリビニルアルコール系樹脂層とを含む延伸積層体を生成する工程と、
ポリビニルアルコール系樹脂層を二色性物質により染色し、着色積層体を生成する染色工程と、該着色積層体をホウ酸水溶液中において延伸するホウ酸水中延伸工程とを少なくとも含む後工程と、
を含み、
前記積層体に含まれる前記ポリビニルアルコール系樹脂に含まれる前記ポリビニルアルコール系樹脂に対する前記尿素のモル比が、1.0以上15以下であり、
前記後工程によって処理がされたポリビニルアルコール系樹脂層からなる偏光膜と熱可塑性樹脂基材を含む光学フィルム積層体を生成する光学フィルム積層体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、薄型偏光膜に要求される光学特性の水準がますます厳しくなっているところ、本発明者らは、熱可塑性樹脂基材上のポリビニルアルコール系樹脂層に尿素を含有させてからその積層体を空中延伸することによって得られた延伸積層体に対して、染色を行うと、良好な光学特性を有する偏光膜を製造できることを発見した。
【0007】
この点、特開2008−102246号公報には、二色性物質の染色効率を向上させるために、尿素又はチオ尿素を単層体のポリビニルアルコール系樹脂に含有又は接触させ、その後染色及び水中での延伸を行うことにより偏光膜を製造する技術が開示されている。また、特開2010−276815号公報には、高湿環境下での光学特性の低下を防止するために、尿素又はチオ尿素を含有するポリビニルアルコール樹脂層を延伸し、染色することにより偏光膜を製造する技術が開示されている。しかしながら、これらの技術は、熱可塑性樹脂基材と該熱可塑性樹脂基材上に製膜されたポリビニルアルコール系樹脂層とを含む積層体を延伸することによって得られた延伸積層体に対して、染色を行う偏光膜の製造方法に特有の課題を解決するために、尿素又はチオ尿素をポリビニルアルコール系樹脂層に添加するものではない。
【0008】
本発明は、熱可塑性樹脂基材と該熱可塑性樹脂基材上に製膜されたポリビニルアルコール系樹脂層とを含む積層体を延伸することによって得られた延伸積層体に対して、染色を行う偏光膜の製造方法において、良好な光学特性を有する偏光膜を製造するための中間材料及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの実施形態は、熱可塑性樹脂基材と、該熱可塑性樹脂基材上に製膜されたポリビニルアルコール系樹脂層とを含み、前記熱可塑性樹脂基材上に製膜されたポリビニルアルコール系樹脂層が前記熱可塑性樹脂基材と共に延伸された後に行われる後工程であって、ポリビニルアルコール系樹脂層を二色性物質により染色する染色工程を少なくとも含む後工程によって、該後工程による処理がされたポリビニルアルコール系樹脂層からなる偏光膜を形成するために使用される積層体であって、前記ポリビニルアルコール系樹脂層は、ポリビニルアルコール系樹脂と尿素を含む積層体を提供するものである。
【0010】
前記後工程は、ポリビニルアルコール系樹脂層を延伸する最終延伸工程を更に含むことができる。
【0011】
本発明の1つの実施形態は、熱可塑性樹脂基材と、該熱可塑性樹脂基材上に製膜されたポリビニルアルコール系樹脂層とを含み、ポリビニルアルコール系樹脂層を二色性物質により染色する染色工程を少なくとも含む後工程によって、該後工程による処理がされたポリビニルアルコール系樹脂層からなる偏光膜を形成するために使用される延伸積層体であって、前記ポリビニルアルコール系樹脂層は、ポリビニルアルコール系樹脂と尿素を含み、前記熱可塑性樹脂基材上に製膜されたポリビニルアルコール系樹脂層は、熱可塑性樹脂基材と共に延伸されたものである、延伸積層体を提供するものである。
【0012】
前記後工程は、ポリビニルアルコール系樹脂層を延伸する最終延伸工程を更に含むことができる。
【0013】
前記熱可塑性樹脂基材上に製膜されたポリビニルアルコール系樹脂層は、熱可塑性樹脂基材と共に空中延伸されたものとすることができる。
【0014】
前記空中延伸の延伸倍率は、1.5倍以上3.5倍以下とすることができる。
【0015】
前記空中延伸の延伸温度は、100℃以上150℃以下とすることができる。
【0016】
前記後工程は、ポリビニルアルコール系樹脂層を二色性物質により染色し、着色積層体を生成する染色工程と、着色積層体を、ホウ酸水溶液中において延伸するホウ酸水中延伸工程と、を少なくとも含むことができる。
【0017】
本発明の1つの実施形態は、前記延伸積層体をロール状に巻き取ることにより形成された延伸積層体のロールを提供するものである。
【0018】
本発明の1つの実施形態は、熱可塑性樹脂基材と、該熱可塑性樹脂基材上に製膜されたポリビニルアルコール系樹脂層とを含み、ポリビニルアルコール系樹脂層を二色性物質により染色する染色工程を少なくとも含む後工程によって、該後工程による処理がされたポリビニルアルコール系樹脂層からなる偏光膜を形成するために使用される延伸積層体の製造方法であって、熱可塑性樹脂基材上に、尿素を含むポリビニルアルコール系樹脂塗工液を塗布して、前記熱可塑性樹脂基材と、該熱可塑性樹脂基材上に製膜された、ポリビニルアルコール系樹脂と尿素を含むポリビニルアルコール系樹脂層とを含む積層体を生成する工程と、前記積層体に対する延伸によって、延伸積層体を生成する工程と、を含む延伸積層体の製造方法を提供するものである。
【0019】
前記後工程は、ポリビニルアルコール系樹脂層を延伸する最終延伸工程を更に含むことができる。
【0020】
前記積層体に対する延伸は、空中延伸とすることができる。
【0021】
前記空中延伸の延伸倍率は、1.5倍以上3.5倍以下とすることができる。
【0022】
前記空中延伸の延伸温度は、100℃以上150℃以下とすることができる。
【0023】
本発明の1つの実施形態は、前記延伸積層体の製造方法によって製造された延伸積層体をロール状に巻き取ることにより延伸積層体のロールを形成する工程を含む延伸積層体のロールの製造方法を提供するものである。
【0024】
本発明の1つの実施形態は、熱可塑性樹脂基材と、該熱可塑性樹脂基材上に製膜された、ポリビニルアルコール系樹脂と尿素を含むポリビニルアルコール系樹脂層とを含む積層体に対する延伸によって、熱可塑性樹脂基材と延伸されたポリビニルアルコール系樹脂層とを含む延伸積層体を生成する工程と、ポリビニルアルコール系樹脂層を二色性物質により染色する染色工程を少なくとも含む後工程と、を含み、前記後工程によって処理がされたポリビニルアルコール系樹脂層からなる偏光膜と熱可塑性樹脂基材を含む光学フィルム積層体を生成する光学フィルム積層体の製造方法を提供するものである。
【0025】
前記後工程は、ポリビニルアルコール系樹脂層を延伸する最終延伸工程を更に含むことができる。
【0026】
前記積層体に対する延伸は、空中延伸とすることができる。
【0027】
前記空中補助延伸の延伸倍率は、1.5倍以上3.5倍以下とすることができる。
【0028】
前記空中補助延伸の延伸温度は、100℃以上150℃以下とすることができる。
【0029】
前記後工程は、ポリビニルアルコール系樹脂層を二色性物質により染色し、着色積層体を生成する染色工程と、着色積層体を、ホウ酸水溶液中において延伸するホウ酸水中延伸工程と、を少なくとも含むことができる。
【0030】
本発明の1つの実施形態は、前記光学フィルム積層体の製造方法により製造された偏光膜を提供するものである。
【0031】
前記ポリビニルアルコール系樹脂に対する前記尿素のモル比は、1.0以上10以下とすることができる。
【0032】
前記偏光膜の厚みは、10μm以下とすることができる。
【0033】
前記偏光膜の厚みは、7μm以下とすることができる。
【0034】
前記偏光膜の厚みは、5μm以下とすることができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、熱可塑性樹脂基材上のポリビニルアルコール系樹脂層に尿素を含有させてからその積層体を延伸することによって得られた延伸積層体に対して、染色及び最終的な偏光膜を得るための最終延伸を行うことにより、良好な光学特性を有する偏光膜を製造することができる。
【0036】
以下、本発明による積層体、延伸積層体、延伸積層体の製造方法、それらを用いた、偏光膜を含む光学フィルム積層体の製造方法、及び偏光膜の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0038】
[積層体]
本発明の積層体は、熱可塑性樹脂基材と、該熱可塑性樹脂基材上に製膜されたポリビニルアルコール系樹脂層とを含み、前記熱可塑性樹脂基材上に製膜されたポリビニルアルコール系樹脂層が前記熱可塑性樹脂基材と共に延伸された後に行われる後工程であって、ポリビニルアルコール系樹脂層を二色性物質により染色する染色工程を少なくとも含む後工程によって、該後工程による処理がされたポリビニルアルコール系樹脂層からなる偏光膜を形成するために使用される。
【0039】
[延伸積層体]
本発明の延伸積層体は、熱可塑性樹脂基材と、該熱可塑性樹脂基材上に製膜されたポリビニルアルコール系樹脂層とを含み、ポリビニルアルコール系樹脂層を二色性物質により染色する染色工程を少なくとも含む後工程によって、該後工程による処理がされたポリビニルアルコール系樹脂層からなる偏光膜を形成するために使用される。熱可塑性樹脂基材上に製膜されたポリビニルアルコール系樹脂層は、熱可塑性樹脂基材と共に延伸されたものであり、該延伸は、空中延伸(乾式延伸)とすることができる。
【0040】
[延伸積層体のロール]
本発明の延伸積層体のロール(原反)は、巻取装置によって、延伸積層体を巻き取ることにより形成されたものである。
[光学フィルム積層体の製造方法]
本発明の光学フィルム積層体の製造方法は、熱可塑性樹脂基材と、該熱可塑性樹脂基材上に製膜された、ポリビニルアルコール系樹脂と尿素を含むポリビニルアルコール系樹脂層とを含む積層体に対する延伸によって、熱可塑性樹脂基材と延伸されたポリビニルアルコール系樹脂層とを含む延伸積層体を生成する工程と、ポリビニルアルコール系樹脂層を二色性物質により染色する染色工程を少なくとも含む後工程と、を含み、前記後工程によって処理がされたポリビニルアルコール系樹脂層からなる偏光膜と熱可塑性樹脂基材を含む光学フィルム積層体を生成する。
【0041】
本発明の光学フィルム積層体の製造方法は、種々の延伸法に適用することができるが、空中補助延伸工程及びホウ酸水中延伸工程を含む2段延伸法に適用すると特に有利であり、その場合、空中延伸工程として空中補助延伸工程が、最終延伸工程としてホウ酸水中延伸工程が行われることになる。
【0042】
[空中延伸]
本発明の空中延伸は、気体中で行われるいわゆる乾式延伸である。その気体は、通常、空気であるが、窒素ガス等の不活性ガスであってもよい。延伸の方法としては、特に限定されず、ロール延伸、又はテンター延伸等の、フィルム延伸に通常用いられている延伸加工法を採用することができる。また、当該延伸は、縦方向又は横方向の一方向の延伸(一軸延伸)でもよく、二軸延伸でも、斜め延伸でもよい。空中延伸の延伸倍率は、1.5倍以上3.5倍以下とすることが好ましく、1.8倍以上3.0倍以下とすることがさらに好ましい。また、空中延伸の延伸温度は、100℃以上150℃以下とすることが好ましい。
【0043】
本発明の空中延伸工程は、2段延伸法の第1段目の延伸工程である空中補助延伸工程とすることができる。
【0044】
[後工程]
本発明における後工程は、ポリビニルアルコール系樹脂層を二色性物質により染色する染色工程を少なくとも含む。この後工程によって処理がされたポリビニルアルコール系樹脂層からなる偏光膜と熱可塑性樹脂基材を含む光学フィルム積層体が生成される。
【0045】
後工程は、ポリビニルアルコール系樹脂層を延伸する最終延伸工程を更に含むことができる。
【0046】
後工程は、ポリビニルアルコール系樹脂層を二色性物質により染色し、着色積層体を生成する染色工程と、着色積層体を、ホウ酸水溶液中において延伸するホウ酸水中延伸工程と、を少なくとも含むことができる。
【0047】
[染色工程]
本発明における染色工程は、ポリビニルアルコール系樹脂層を二色性物質により染色し、着色積層体を生成する工程である。
【0048】
染色工程は、延伸積層体を生成する工程の後に行われる。染色工程は、延伸積層体を生成する工程に続けて行われてもよく、延伸積層体を生成する工程と染色工程との間に、所望による別の工程を実施してもよい。
【0049】
本発明に用いる二色性物質としては、例えば、ヨウ素、及び有機染料(例、ポリメチン色素、シアニン色素、メロシアニン色素、ロダシアニン色素、3核メロシアニン色素、アロポーラー色素、ヘミシアニン色素、スチリル色素、アゾ系色素)が挙げられるが、なかでも、優れた光学特性の観点からは、ヨウ素が好ましい。
【0050】
延伸積層体の二色性物質による染色は、例えば、延伸積層体を、二色性物質を含有する染色液と接触させることによって、実施できる。
【0051】
延伸積層体を前記染色液に接触させる方法は、特に制限されず、例えば、染色液を入れた染色浴に延伸積層体を浸漬させる方法、染色液を延伸積層体に噴霧する方法が挙げられる。また、これらの方法を併用してもよい。
【0052】
なかでも、染色液を入れた染色浴に延伸積層体を浸漬させる方法が好ましい。
【0053】
以下に、二色性物質としてヨウ素を含有する染色液が入った染色浴に延伸積層体を浸漬させる方法について、詳細に説明するが、以下に説明する方法に替えて上述のような公知の過剰染色脱色法を用いることもできる。
【0054】
染色液の溶媒としては、水系溶媒が好ましい。水系溶媒としては、例えば、水、又は水と少量の水溶性有機溶媒との混合溶媒が挙げられる。なかでも、水が好ましい。
【0055】
染色液中のヨウ素濃度は、染色が可能である限り特に制限されないが、通常、溶媒(例、水)100質量部当たり0.5質量部〜10質量部である。ここで、ヨウ素濃度とは、全溶液量に対するヨウ素の配合割合のことをいい、例えば、ヨウ化カリウムなどのヨウ化物として加えられたヨウ素の量は含まない。本明細書の以下においても、ヨウ素濃度という用語は同様の意味で用いる。
【0056】
また、ヨウ素の溶解性を高めるために、染色液は、好ましくは、ヨウ化物を含有する。ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、及びヨウ化チタンが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
なかでも、ヨウ化カリウムが好ましい。
【0058】
染色液におけるヨウ化物の含有量は、好ましくは、溶媒(例、水)100質量部に対して、3質量部〜50質量部である。
【0059】
染色液として特に好ましくは、ヨウ素とヨウ化カリウムとを含有する水溶液である。特に好ましい当該染色液において、ヨウ素の含有量は、好ましくは、水100重量部に対して0.5重量部〜10重量部であり、ヨウ化カリウム含有量は、好ましくは、水100重量部に対して3重量部〜50重量部である。
【0060】
浸漬時の染色液の温度、及び浸漬時間は、それぞれ、染色液の濃度、及びポリビニルアルコール系樹脂層の厚さ等に応じて、染色が適切に行われるように、適宜設定すればよいが、染色液の温度は、通常、10℃〜60℃であり、浸漬時間は、通常、10秒〜20分である。
【0061】
[ホウ酸水中延伸工程]
本発明のホウ酸水中延伸工程は、染色された延伸積層体(着色積層体)をホウ酸水溶液に浸漬させながら少なくとも長手方向に延伸する工程である。ホウ酸水中延伸工程は、2段延伸法の第2段目の延伸工程とすることができる。このホウ酸水中延伸工程によって、着色積層体に含まれるポリビニルアルコール系樹脂層は、吸着されたポリヨウ素イオンが配向されたビニルアルコール系樹脂層へと変化する。このポリヨウ素イオンが配向されたポリビニルアルコール系樹脂層が光学フィルム積層体の偏光膜を構成する。
【0062】
ホウ酸水溶液のホウ酸濃度は、好ましくは、水100質量部当たり2質量部〜8質量部である。当該延伸の方法としては、特に限定されず、ロール延伸、又はテンター延伸等の、フィルム延伸に通常用いられている延伸加工法を採用することができる。また、当該延伸は、一方向(例、長手方向、幅方向)の延伸(一軸延伸)でもよく、二軸延伸でも、斜め延伸でもよい。ホウ酸水中延伸の延伸倍率は、空中延伸とホウ酸水中延伸との総延伸倍率が4倍以上7倍以下となるようにすることができる。また、ホウ酸水中延伸の延伸温度は、50℃以上80℃以下とすることができる。
【0063】
[所望による工程]
所望により実施される工程として、例えば、第1の不溶化工程、架橋工程、第2の不溶化工程、洗浄工程、水滴除去工程、乾燥工程があり、以下順に説明する。
【0064】
(第1の不溶化工程)
第1の不溶化工程は、染色工程前に、延伸積層体をホウ酸水溶液に浸漬する工程であり、少なくとも後工程の染色工程において延伸積層体に含まれる延伸されたポリビニルアルコール系樹脂層が溶解することを防止するものである。このホウ酸水溶液の濃度、液温、浸漬時間は、好ましくは、水100質量部当たり1質量部〜5質量部、10℃以上50℃以下、1秒以上300秒以下である。
【0065】
(架橋工程)
架橋工程は、好ましくは、染色工程の後に実施され、(1)後工程のホウ酸水中延伸において着色積層体に含まれる延伸されたポリビニルアルコール系樹脂層を溶解させないようにすること、(2)延伸されたポリビニルアルコール系樹脂層に着色されたヨウ素を溶出させないようにすること、(3)延伸されたポリビニルアルコール系樹脂層の分子同士を架橋することによって結節点を生成することを主な目的として延伸されたビニルアルコール系樹脂層に含まれるポリビニルアルコール分子同士を架橋させる工程であり、必要に応じて、実施することができる。
【0066】
架橋は、例えば、延伸されたポリビニルアルコール系樹脂層を、架橋剤を含有する架橋液と接触させることによって、実施できる。
【0067】
延伸されたポリビニルアルコール系樹脂層を架橋液に接触させる方法は、特に制限されず、例えば、架橋液を入れた架橋浴に延伸されたポリビニルアルコール系樹脂層を浸漬させる方法、及び架橋液を延伸されたポリビニルアルコール系樹脂層に噴霧もしくは塗布する方法が挙げられる。また、これらの方法を併用してもよい。
【0068】
なかでも、架橋液を入れた架橋浴に延伸されたポリビニルアルコール系樹脂層を浸漬させる方法が好ましい。
【0069】
架橋剤としては、例えば、ホウ素化合物が挙げられる。当該ホウ素化合物としては、例えば、ホウ酸、ホウ砂、グリオキザール、及びグルタルアルデヒドが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
架橋液の溶媒としては、水系溶媒が好ましい。水系溶媒としては、例えば、水、又は水と少量の水溶性有機溶媒との混合溶媒が挙げられる。なかでも、水が好ましい。
【0071】
前記架橋液中の架橋剤濃度は、架橋が可能である限り特に制限されないが、通常、溶媒(例、水)100質量部当たり0.1質量部〜10質量部である。
【0072】
また、偏光子の面内の均一な特性を得る観点から、架橋液は、ヨウ化物を含有することが好ましい。ヨウ化物としては、上述の染色工程で例示したものと同様のものが挙げられる。架橋液におけるヨウ化物の量は、通常、溶媒(例、水)100質量部に対して、ヨウ化物0.5質量部〜15質量部である。
【0073】
浸漬時の前記架橋液の温度、及び浸漬時間は、特に限定されないが、前記架橋液の温度は、通常、20℃〜70℃であり、浸漬時間は、通常、1秒〜300秒である。
【0074】
(第2の不溶化工程)
第2の不溶化工程は、架橋工程後ホウ酸水中延伸工程前に、着色積層体をホウ酸水溶液に浸漬する工程であり、少なくとも後工程のホウ酸水中延伸工程において着色積層体に含まれる延伸されたポリビニルアルコール系樹脂層が溶解することを防止するものである。このホウ酸水溶液の濃度、液温、浸漬時間は、好ましくは、水100質量部当たり1質量部〜6質量部、10℃以上60℃以下、1秒以上300秒以下である。
【0075】
(洗浄工程)
洗浄工程は、ホウ酸水中延伸工程におけるホウ酸水溶液から取り出された光学フィルム積層体に含まれる偏光膜の表面に付着した不要残存物を洗い流す工程であり、必要に応じて、実施することができる。
【0076】
(水滴除去工程)
水滴除去工程は、延伸されたポリビニルアルコール系樹脂層の表面に付着した余分な水滴を除去する工程であり、必要に応じて、実施することができる。
【0077】
水滴除去工程は、好ましくは、例えば、染色工程、架橋工程、及び洗浄工程から選択される1以上の工程の後に、実施される。
【0078】
水滴の除去は、例えば、ピンチロール、又はエアーナイフを用いて実施することができる。
【0079】
(乾燥工程)
乾燥工程は、光学フィルム積層体を乾燥して、光学フィルム積層体に含まれる偏光膜の水分率を調整する工程であり、必要に応じて、実施することができる。
【0080】
乾燥工程は、好ましくは、前記の一連の工程の最後に実施される。
【0081】
乾燥は、例えば、風乾、又は加熱乾燥等の公知の方法によって、実施できる。
【0082】
乾燥時間、及び加熱乾燥における乾燥温度等の乾燥条件は、所望する水分率に応じて決定すればよいが、例えば、加熱乾燥における加熱温度の上限は、通常、約80℃である。なお、偏光膜の劣化を防ぐ観点からは、加熱温度は比較的低温が好ましい。また、加熱乾燥における乾燥時間は、通常、約1分〜約10分である。
【0083】
なお、風乾においては、乾燥を促進するために、光学フィルム積層体を乾燥空気に曝してもよい。
【0084】
[熱可塑性樹脂基材]
本発明に用いる熱可塑性樹脂基材は、任意の適切な熱可塑性樹脂が採用され得る。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等のエステル系樹脂、ノルボルネン系樹脂等のシクロオレフィン系樹脂、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、これらの共重体樹脂等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ノルボルネン系樹脂、非晶質の(結晶化していない)ポリエチレンテレフタレート系樹脂である。
【0085】
非晶質の(結晶化していない)ポリエチレンテレフタレート系樹脂の中でも、非晶性の(結晶化しにくい)ポリエチレンテレフタレート系樹脂が特に好ましく用いられる。非晶性のポリエチレンテレフタレート系樹脂の具体例としては、ジカルボン酸としてイソフタル酸をさらに含む共重合体や、グリコールとしてシクロヘキサンジメタノールをさらに含む共重合体が挙げられる。
【0086】
熱可塑性樹脂基材としては、延伸工程において、PVA系樹脂層と一体で延伸することが可能であればよく、単層体であっても、単一のポリマー性材料、もしくは少なくとも2種類以上のポリマー性材料が、積層されてなる多層積層体であってもよい。前記ポリマー性材料は、ホモポリマーであっても、コポリマーであってもよく、さらにはブレンドポリマーであってもよい。また前記ポリマー性材料中には、無機材料及び/または有機材料からなる成分が添加されていてもよい。該基材には、反射特性や光散乱性、色相調整などの光学特性、帯電防止、アンチブロッキングなどの機能が備わっているものを使用してもよい。さらに該基材とPVA系樹脂の接着性をより強固にするために、該基材上に易接着層を塗布する、あるいはポリマー性材料中に接着性を補助する材料を添加してもよい。
【0087】
上述のようなホウ酸水中延伸方式を採用する場合、熱可塑性樹脂基材は水を吸収し、水が可塑剤的な働きをして可塑化し得る。その結果、延伸応力を大幅に低下させることができ、高倍率に延伸することが可能となり、空中延伸時よりも延伸性に優れ得る。その結果、優れた光学特性を有する偏光膜を作製することができる。熱可塑性樹脂基材の吸水率は、好ましくは0.2%以上であり、さらに好ましくは0.3%以上である。また、熱可塑性樹脂基材の吸水率は、好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下である。このような熱可塑性樹脂基材を用いることにより、製造時に寸法安定性が著しく低下して、得られる偏光膜の外観が悪化するなどの不具合を防止することができる。また、ホウ酸水中延伸時に基材が破断したり、熱可塑性樹脂基材からポリビニルアルコール系樹脂層が剥離したりするのを防止することができる。なお、熱可塑性樹脂基材の吸水率は、例えば、形成材料に変性基を導入することにより調整することができる。ここで、吸水率は、JIS K 7209に準じて求められる値である。
【0088】
熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは170℃以下である。このような熱可塑性樹脂基材を用いることにより、ポリビニルアルコール系樹脂層の結晶化を抑制しながら、積層体の延伸性を十分に確保することができる。さらに、水による熱可塑性樹脂基材の可塑化と、ホウ酸水中延伸を良好に行うことを考慮すると、120℃以下であることがより好ましい。また、樹脂基材のガラス転移温度は、好ましくは60℃以上である。このような熱可塑性樹脂基材を用いることにより、ポリビニルアルコール系樹脂を含む塗布液を塗布・乾燥する際に、熱可塑性樹脂基材が変形(例えば、凹凸やタルミ、シワ等の発生)するなどの不具合を防止して、良好に積層体を作製することができる。また、ポリビニルアルコール系樹脂層の延伸を、好適な温度(例えば、60℃程度)にて良好に行うことができる。ポリビニルアルコール系樹脂を含む塗布液を塗布・乾燥する際に、熱可塑性樹脂基材が変形しなければ、60℃より低いガラス転移温度であってもよい。なお、熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度は、例えば、形成材料に変性基を導入する、又は結晶化材料を用いて加熱することにより調整することができる。ここで、ガラス転移温度(Tg)は、JIS K 7121に準じて求められる値である。
【0089】
熱可塑性樹脂基材の延伸前の厚みは、好ましくは20μm〜300μm、より好ましくは50μm〜200μmである。20μm未満であると、ポリビニルアルコール熱可塑性熱可塑性系樹脂層の形成が困難になるおそれがある。また、300μmを超えると、例えば、ホウ酸水中延伸において、熱可塑性樹脂基材が水を吸収するのに長時間を要するとともに、延伸に過大な負荷を要するおそれがある。
【0090】
[ポリビニルアルコール系樹脂層]
本発明の積層体に含まれるポリビニルアルコール系樹脂層又は延伸積層体に含まれる延伸されたポリビニルアルコール系樹脂層は、ポリビニルアルコール系樹脂と尿素を含む。
【0091】
ポリビニルアルコール系樹脂は、任意の適切な樹脂が採用され得る。例えば、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体が挙げられる。ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをケン化することにより得られる。エチレン−ビニルアルコール共重合体は、エチレン−酢酸ビニル共重合体をケン化することにより得られる。ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、通常85モル%〜100モル%であり、好ましくは95.0モル%〜99.95モル%、さらに好ましくは99.0モル%〜99.93モル%である。ケン化度は、JIS K 6726−1994に準じて求めることができる。このようなケン化度のポリビニルアルコール系樹脂を用いることによって、耐久性に優れた偏光膜が得られ得る。ケン化度が高すぎる場合には、ゲル化してしまうおそれがある。
【0092】
また、ポリビニルアルコール系樹脂は、側鎖に変性基を含む、変性ポリビニルアルコールを一部に含有していても良い。変性ポリビニルアルコールの変性基としては、たとえば、アセトアセチル基、カルボニル着、カルボキシル基、アルキル基などが挙げられる。変性ポリビニルアルコールの変性度は、特に限定されないが、0.1〜10モル%が好ましい。また、変性ポリビニルアルコールの添加量は、0.1モル%〜30モル%が好ましい。変性ポリビニルアルコールの変性基によっては、変性度や、添加量が多くなりすぎると、耐水性が低下するなどの問題が発生する可能性もあるため、変性度、添加量は適宜設定されることができる。
【0093】
ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度は、目的に応じて適切に選択され得る。平均重合度は、通常1000〜10000であり、好ましくは1200〜5000、さらに好ましくは1500〜4500である。なお、平均重合度は、JIS K 6726−1994に準じて求めることができる。
【0094】
積層体に含まれるポリビニルアルコール系樹脂層に添加する尿素の量は、ポリビニルアルコール系樹脂層におけるポリビニルアルコール系樹脂に対する尿素のモル比が1.0以上10以下となる量が好ましく、2.0以上8.0以下となる量がさらに好ましい。また、延伸積層体は、積層体が乾式延伸されただけのものであるので、延伸積層体に含まれる延伸されたポリビニルアルコール系樹脂層におけるポリビニルアルコール系樹脂に対する尿素のモル比は、積層体に含まれるポリビニルアルコール系樹脂層におけるポリビニルアルコール系樹脂に対する尿素のモル比と変わらない。よって、延伸積層体に含まれる延伸されたポリビニルアルコール系樹脂層におけるポリビニルアルコール系樹脂に対する尿素のモル比も、同様に、1.0以上10以下が好ましく、2.0以上8.0以下がさらに好ましい。
【0095】
ポリビニルアルコール系樹脂に対する尿素のモル比が1.0以上となる量の尿素をポリビニルアルコール系樹脂層に添加したものは、添加しないものよりも偏光膜の光学特性が向上し、また、添加される尿素の量が多くなるほど、より光学特性が向上するが、添加する尿素の量が大きくなり、ポリビニルアルコール系樹脂に含まれるポリビニルアルコール系樹脂に対する尿素のモル比が10を超えると、ハロゲン化物がブリードアウトし、フィルムが白濁する。
【0096】
[偏光膜]
上述のように、本発明の偏光膜は、本発明の製造方法によって得られる光学フィルム積層体に含まれる二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂層から構成される。すなわち、偏光膜は、二色性物質を染色工程により含浸及び吸着させたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを延伸して、含浸された二色性物質を配向させることにより作成される。
【0097】
染色工程において、二色性物質としてヨウ素を用い、ポリビニルアルコール系樹脂層をヨウ素水溶液に浸漬する場合、ヨウ素分子(I
2)は、ヨウ素分子のみでは、水に溶解しない。そのため、ヨウ化カリウム(KI)とともにヨウ素を水に溶かして、ヨウ素・ヨウ化カリウム水溶液を作成する。ヨウ素・ヨウ化カリウム水溶液には、カリウムイオン(K
+)及びヨウ素イオン(I
-)に加え、ヨウ素イオンとヨウ素分子が結合したポリヨウ素イオン(I
3-やI
5-)が存在する。染色工程では、ヨウ素イオン及びポリヨウ素イオンが、ポリビニルアルコール系樹脂層内に浸透し、ポリビニルアルコール系樹脂の分子に吸着される。そして、その後の延伸工程において、ポリビニルアルコール系樹脂層が延伸され、分子が配向するときに、ポリヨウ素イオンも延伸方向に配向する。配向したポリヨウ素イオンは、入射光の偏光方向の、ポリヨウ素イオンの配向方向に対する角度により、入射光の透過率が異なるため、染色、延伸されたポリビニルアルコール系樹脂層は、偏光子として機能する。
【0098】
このように、偏光膜は、少なくともポリビニルアルコール系樹脂とポリヨウ素イオンを含む。ポリヨウ素イオンは、ポリビニルアルコール系樹脂分子との相互作用により、偏光子中でポリビニルアルコール(PVA)−ヨウ素錯体(PVA・I
3-やPVA・I
5-)を形成した状態で存在する。この錯体状態を形成することにより、可視光の波長範囲に於いて吸収二色性を示す。ヨウ素イオン(I
-)は、230nm付近に吸光ピークをもつ。また、ポリビニルアルコールと錯体状態にある三ヨウ化物イオン(PVA・I
3-)は、470nm付近に吸光ピークをもつ。ポリビニルアルコールと錯体状態にある五ヨウ化物イオン(PVA・I
5-)の吸光ピークは、600nm付近に存在する。PVA−ヨウ素錯体の態様に応じて、吸収する光の波長が変わるため、ポリヨウ素イオンの吸光ピークは、幅広いものとなる。PVA−ヨウ素錯体は、可視光を吸光する。一方で、ヨウ素イオンは、230nm付近にピークが存在することから、可視光を吸収しない。従って、ポリビニルアルコールと錯体状態となったポリヨウ素イオンが、偏光膜の性能に影響する。
【0099】
本発明の偏光膜の厚さは、好ましくは10μm以下であり、より好ましくは7μm以下であり、さらに好ましくは5μm以下である。
【0100】
[実施例]
本発明の積層体、延伸積層体、延伸積層体の製造方法、光学フィルム積層体の製造方法、及び偏光膜について、以下の実施例を用いて更に説明する。なお、本発明の積層体、延伸積層体、延伸積層体の製造方法、光学フィルム積層体の製造方法、偏光膜は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0101】
〔実施例1〕
熱可塑性樹脂基材として、長尺状で、吸水率0.60%、ガラス転移温度(Tg)80℃の非晶質のイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(以下、「非晶質PET」という)フィルム(厚み:100μm)を用いた。
【0102】
その非晶質PET基材の片面に、コロナ処理を施し、このコロナ処理面に、ポリビニルアルコール水溶液を塗工した。ポリビニルアルコール水溶液は、重合度4200、ケン化度99.2モル%のポリビニルアルコールにアセトアセチル変性ポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製 商品名「ゴーセファイマーZ200」(登録商標)(平均重合度1200、ケン化度98.5mol%、アセトアセチル度5モル%))を9:1で混合したポリビニルアルコール樹脂を用い、そのポリビニルアルコール樹脂(平均分子量44)に対する尿素(分子量60)のモル比が、3.7モルとなるように尿素を添加し、作製した。ポリビニルアルコール水溶液中のポリビニルアルコール濃度は、4w%とした。得られたポリビニルアルコール水溶液を非晶質PET基材上に塗工し、60℃で乾燥して、厚み12μmのポリビニルアルコール系樹脂層が製膜された積層体を作製した。
【0103】
得られた積層体を、空中補助延伸及びホウ酸水中延伸の2段延伸工程を含む以下の工程を経て、5μm厚の偏光膜を製造した。
【0104】
まず、得られた積層体を、120℃のオーブン内で周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に1.8倍に自由端一軸延伸し、非晶質PET基材と延伸されたポリビニルアルコール系樹脂層を含む延伸積層体を得た(空中補助延伸工程)。この空中補助延伸処理によって、ポリビニルアルコール系樹脂層は、ポリビニルアルコール分子が配向されたビニルアルコール系樹脂層へと変化した。
【0105】
次いで、得られた延伸積層体を、液温30℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(第1の不溶化工程)。
【0106】
次いで、第1の不溶化処理がされた延伸積層体を、偏光板の透過率が任意の値となるようにヨウ素濃度を調整した、液温30℃の染色浴(水100重量部に対して、ヨウ素とヨウ化カリウムの重量比が1:7で配合したヨウ素水溶液)に60秒間浸漬させ、延伸されたポリビニルアルコール系樹脂層にポリヨウ素イオンを吸着させた着色積層体を生成した(染色工程)。
【0107】
次いで、得られた着色積層体を、液温30℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を3重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋工程)。
【0108】
次いで、架橋処理がされた着色積層体を、液温70℃のホウ酸水溶液(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合し、ヨウ化カリウムを5重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に、空中補助延伸とホウ酸水中延伸との総延伸倍率が6.0倍となるように一軸延伸を行い、光学フィルム積層体を得た(ホウ酸水中延伸工程)。このホウ酸水中延伸処理によって、着色積層体に含まれるビニルアルコール系樹脂層は、吸着されたポリヨウ素イオンが配向された5μm厚のビニルアルコール系樹脂層へと変化した。このポリヨウ素イオンが配向されたビニルアルコール系樹脂層が光学フィルム積層体の偏光膜を構成する。
【0109】
次いで、得られた光学フィルム積層体を、液温30℃の洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを4重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた(洗浄工程)。
【0110】
次いで、洗浄処理された光学フィルム積層体を60℃の温風により乾燥させた(乾燥工程)。得られた光学フィルム積層体に含まれる偏光膜の厚みは、5μmであった。
【0111】
続いて、得られた光学フィルム積層体のポリビニルアルコール系樹脂層表面に、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液(日本合成化学工業(株)製、商品名「ゴーセファイマーZ200」、樹脂濃度:3重量%)を塗布し、トリアセチルセルロースフィルム(コニカミノルタ社製、商品名「KC4UY」、厚み40μm)を貼り合せ、60℃に維持したオーブンで5分間加熱した後、非晶質PET基材を剥離し、偏光膜をトリアセチルセルロースフィルムに転写し、光学積層体(偏光板)を作製した。
【0112】
なお、本実施例においては、染色工程におけるヨウ素水溶液のヨウ素濃度を変えることによって、最終的に生成される偏光膜の単体透過率が40〜44%になるようにヨウ素吸着量を調整し、単体透過率と偏光度を異にする種々の偏光膜を含む光学フィルム積層体を生成した。
【0113】
得られた偏光膜(光学積層体)及び延伸積層体について、以下のように各種評価を行った。得られた偏光膜の特性を
図1に、また
図1のグラフから推定される偏光度Pが99.99%である偏光膜の特性及び得られた延伸積層体の特性を表1に示す。
【0114】
〔実施例2〕
非晶質PET基材に塗工するポリビニルアルコール水溶液におけるポリビニルアルコール樹脂に対する尿素のモル比が7.3である点を除き、実施例1と同様の条件で偏光膜(光学積層体)を製造し、以下のように各種評価を行った。
【0115】
得られた偏光膜の特性を
図1に、また
図1のグラフから推定される偏光度Pが99.99%である偏光膜の特性及び得られた延伸積層体の特性を表1に示す。
【0116】
〔実施例3〕
非晶質PET基材に塗工するポリビニルアルコール水溶液におけるポリビニルアルコール樹脂に対する尿素のモル比が9.5である点を除き、実施例1と同様の条件で延伸積層体を製造し、以下のようにフィルム白濁(ブリードアウト)評価を行った。
【0117】
得られた延伸積層体の特性を表1に示す。
【0118】
〔実施例4〕
非晶質PET基材に塗工するポリビニルアルコール水溶液におけるポリビニルアルコール樹脂に対する尿素のモル比が11.0である点を除き、実施例1と同様の条件で延伸積層体を製造し、以下のようにフィルム白濁(ブリードアウト)評価を行った。
【0119】
得られた延伸積層体の特性を表1に示す。
【0120】
〔実施例5〕
非晶質PET基材に塗工するポリビニルアルコール水溶液におけるポリビニルアルコール樹脂に対する尿素のモル比が12.5である点を除き、実施例1と同様の条件で延伸積層体を製造し、以下のようにフィルム白濁(ブリードアウト)評価を行った。
【0121】
得られた延伸積層体の特性を表1に示す。
【0122】
〔実施例6〕
非晶質PET基材に塗工するポリビニルアルコール水溶液におけるポリビニルアルコール樹脂に対する尿素のモル比が14.7である点を除き、実施例1と同様の条件で延伸積層体を製造し、以下のようにフィルム白濁(ブリードアウト)評価を行った。
【0123】
得られた延伸積層体の特性を表1に示す。
【0124】
〔実施例7〕
非晶質PET基材に塗工するポリビニルアルコール水溶液におけるポリビニルアルコール樹脂に対する尿素のモル比が18.3である点を除き、実施例1と同様の条件で延伸積層体を製造し、以下のようにフィルム白濁(ブリードアウト)評価を行った。
【0125】
得られた延伸積層体の特性を表1に示す。
【0126】
〔比較例〕
非晶質PET基材に塗工するポリビニルアルコール水溶液に尿素を添加しない点を除き、実施例1と同様の条件で偏光膜(光学積層体)を製造し、以下のように各種評価を行った。
【0127】
得られた偏光膜の特性を
図1に、また
図1のグラフから推定される偏光度Pが99.99%である偏光膜の特性及び得られた延伸積層体の特性を表1に示す。
【0129】
[評価]
(厚みの測定方法)
非晶質PET基材及びポリビニルアルコール樹脂層の厚みは、デジタルマイクロメーター(アンリツ社製KC−351C)を用いて測定した。
【0130】
(透過率及び偏光度の測定方法)
実施例及び比較例で得られた光学積層体に対して、紫外可視分光光度計(日本分光社製V7100)を用いることによって、偏光膜の単体透過率T、平行透過率Tp、直交透過率Tcを測定した。これらのT、Tp、Tcは、JIS Z 8701の2度視野(C光源)により測定して視感度補正を行なったY値である。
また、偏光度Pを上記の透過率を用い、次式により求めた。
偏光度P(%)={(Tp−Tc)/(Tp+Tc)}
1/2×100
なお基材に、反射特性や光散乱性、色相調整など、透過特性に影響する機能が付与されている場合には、ヨウ素等の二色性物質を含むポリビニルアルコール系樹脂層のみを測定する。
【0131】
(光学特性の評価)
図1及び表1を参照すると、非晶質PET基材に塗工するポリビニルアルコール水溶液に尿素を、ポリビニルアルコール系樹脂に含まれるポリビニルアルコール系樹脂に対する尿素のモル比が1.0以上の量で添加した場合に得られた偏光膜は、尿素を添加しなかった場合に得られた偏光膜よりも光学特性(単体透過率Tと偏光度Pとの関係)が向上し、また、添加される尿素の量が多くなるほど、偏光膜の光学特性はより向上することが分かった。
【0132】
(フィルムの白濁(尿素のブリードアウト)の評価)
上述のとおり、非晶質PET基材に塗工するポリビニルアルコール水溶液に添加する尿素の量が大きくなると、尿素がブリードアウトし、フィルムが白濁する。そこで、空中補助延伸工程後における延伸積層体の白濁を目視により評価した。結果を表1に示す。表1を参照すると、ポリビニルアルコール系樹脂に含まれるポリビニルアルコール系樹脂に対する尿素のモル比が11.0のときに延伸積層体の白濁が視認されたりされなかったりし、ポリビニルアルコール系樹脂に含まれるポリビニルアルコール系樹脂に対する尿素のモル比が、10を超えると、尿素がブリードアウトし、延伸積層体が白濁することが分かった。
【0133】
以上、本発明を特定の実施形態について図面を参照して説明したが、本発明は、図示し説明した構成以外にも、幾多の変更が可能である。したがって、本発明は、図示し説明した構成に限定されるものではなく、その範囲は、添付の特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ定められるべきである。