(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6266811
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】血管新生病の免疫療法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/00 20060101AFI20180115BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20180115BHJP
A61K 38/08 20060101ALI20180115BHJP
A61K 38/10 20060101ALI20180115BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20180115BHJP
C07K 7/04 20060101ALN20180115BHJP
C07K 14/705 20060101ALN20180115BHJP
【FI】
A61K39/00 H
A61P27/02
A61K38/08
A61K38/10
A61K38/16
!C07K7/04ZNA
!C07K14/705
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-563738(P2016-563738)
(86)(22)【出願日】2015年12月10日
(86)【国際出願番号】JP2015084709
(87)【国際公開番号】WO2016093326
(87)【国際公開日】20160616
【審査請求日】2017年7月10日
(31)【優先権主張番号】特願2014-251208(P2014-251208)
(32)【優先日】2014年12月11日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505443953
【氏名又は名称】株式会社癌免疫研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(72)【発明者】
【氏名】杉山 治夫
【審査官】
小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2005/045027(WO,A1)
【文献】
国際公開第2010/123065(WO,A1)
【文献】
国際公開第2014/098012(WO,A1)
【文献】
特表2002−525099(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/072610(WO,A1)
【文献】
国際公開第2007/097358(WO,A1)
【文献】
国際公開第2008/081701(WO,A1)
【文献】
特開2014−169282(JP,A)
【文献】
特開2014−169276(JP,A)
【文献】
Oncogene,2008年,Vol.27,No.26,p3662−3672
【文献】
American Journal of Pathology,2004年,Vol.164,No.5,p1827−1835
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
WT1ペプチドまたは変異型WT1ペプチドを含む、眼内血管新生病(腫瘍を除く)の治療及び予防のいずれか又は両方のための医薬組成物、ここに変異型WT1ペプチドは、天然型のWT1ペプチドのアミノ酸配列において1個ないし2個のアミノ酸が置換、欠失または付加されているアミノ酸配列を含むものであり、天然型のWT1ペプチドと同様の眼内血管新生病(腫瘍を除く)の治療効果を有するものである。
【請求項2】
WT1ペプチドまたは変異型WT1ペプチドにより誘導または活性化された抗原提示細胞またはキラーT細胞またはヘルパーT細胞を含む、眼内血管新生病(腫瘍を除く)の治療及び予防のいずれか又は両方のための医薬組成物。
【請求項3】
WT1ペプチドまたは変異型WT1ペプチドがHLA分子との結合能を有するものである、請求項1または2のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項4】
WT1ペプチドまたは変異型WT1ペプチドがキラーT細胞またはヘルパーT細胞を活性化するものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
WT1ペプチドの長さが7〜30アミノ酸である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
WT1ペプチドが以下のアミノ酸配列:
(a)配列番号:1〜配列番号:39で示されるいずれかのアミノ酸配列、または
(b)上記(a)のアミノ酸配列において1個ないし2個のアミノ酸が置換、欠失または付加されているアミノ酸配列
を含むものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の医薬組成物、ここに(b)のアミノ酸配列を含むWT1ペプチドは、(a)のアミノ酸配列を含むWT1ペプチドと同様の眼内血管新生病(腫瘍を除く)の治療効果を有するものである。
【請求項7】
WT1ペプチドが以下のアミノ酸配列:
(a)Arg Met Phe Pro Asn Ala Pro Tyr Leu (配列番号:1)、
(b)Cys Tyr Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu (配列番号:19)
(c)Ala Pro Val Leu Asp Phe Ala Pro Pro Gly Ala Ser Ala Tyr Gly Ser Leu Gly (配列番号:27)
(d)Lys Arg Tyr Phe Lys Leu Ser His Leu Gln Met His Ser Arg Lys His (配列番号:32)、または
(e)(a)〜(d)のいずれかのアミノ酸配列において1個ないし2個のアミノ酸が置換、欠失または付加されているアミノ酸配列
を含むものである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の医薬組成物、ここに(e)のアミノ酸配列を含むWT1ペプチドは、(a)〜(d)のいずれかのアミノ酸配列を含むWT1ペプチドと同様の眼内血管新生病(腫瘍を除く)の治療効果を有するものである。
【請求項8】
眼内血管新生病(腫瘍を除く)が、滲出型加齢黄斑変性、近視性黄斑変性、網膜色素線条症、中心性漿液性脈絡網膜症、種々の網膜色素上皮症、コロイデレミア、脈絡膜骨腫、糖尿病網膜症、未熟児網膜症、血管新生緑内障および角膜血管新生からなる群より選択される疾患である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
皮内投与、皮下投与、経皮投与または経粘膜投与により投与される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
血管新生病の治療および予防のいずれかまたは両方に用いられる医薬と併用される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管新生病の免疫療法に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な癌、多発性骨髄腫、関節リウマチ、乾癬、滲出型加齢黄斑変性などの眼内血管新生病、アテローム硬化型プラーク、血管奇形、血管膠着、卵巣肥大症候群、多嚢胞卵巣、肉芽腫、血管腫、肥大性痕、ケロイド、強皮症、いぼなどの血管新生病に対して、プロタミン、ステロイドとヘパリンの併用、ステロイドとヘキスロニル・ヘキソサミノグリカン・サルフェートの併用、ミトキサントロン、エンドスタチン、フィブロネクチンのヘパリン結合断片、プロスタグランジン・シンセターゼ阻害剤、γ−インターフェロン、金化合物、リンホトキシン、D−ペニシラミン、ステロイドとβ−サイクロデキストリン・テトライカサルフェートの併用、プロテアーゼ阻害剤、メソトレキセート、インターフェロンα2a、抗VEGF薬等を用いた治療が行われている。
【0003】
血管新生病のなかでも典型的なものとして、滲出型加齢黄斑変性などの眼内血管新生病が挙げられる。眼内血管新生病の治療法としては、抗VEGF薬を眼内に注射して用いる方法が一般的である。しかし、抗VEGF薬を用いる治療法では、高額の費用がかかるうえに一定間隔での反復注射が必要であり、眼に注射針を刺されることに対する患者の心理的恐怖感は非常に大きく、さらには、注射によって、対処が非常に困難な眼内感染症や注射の刺激等による眼内炎や網膜剥離等を引き起こすなど、重篤な合併症を発するリスクも大きい。また、抗VGEF薬による治療により一定期間は視力の改善が見られることが多いが、治療を継続していても長期的には視力は再び悪化してしまうとの報告もある。すなわち、現行の治療で用いられる抗VEGF薬は高コストであるにもかかわらず、危険性もあり、その効果に鑑みると必ずしも十分な治療満足度が得られているわけではない。他の治療法としては、光線力学的療法、レーザー光凝固術、新生血管抜去術などの外科的方法があるが、これらの方法も費用や治療満足度の点で問題があり、侵襲性が高く、入院が必要な場合もある。結局のところ、これまで眼内血管新生病の治療法として満足なものはなく、現行の治療は、克服すべき課題が多く残されているといえる。
【0004】
最近、癌抗原蛋白であるWT1蛋白が癌組織血管にも発現しているという報告がなされた(非特許文献1)。
【0005】
これまで癌抗原ペプチドを癌ワクチンとして用いる例についての報告は多いが、癌抗原ペプチドをワクチンとして用いて血管新生病を治療および予防することについては報告がなかった。
【0006】
かかる状況下において、血管新生病の新たな根治療法の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】N. Wagner et al. Oncogene (2008) 27, 3662-3672
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
血管新生病の治療及び予防のための新たな製剤を提供することが本発明の課題であった。また、比較的低コストで、患者自身による自己投与可能な低侵襲製剤を提供することも本発明の課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決せんと鋭意研究を重ね、癌抗原ペプチドをワクチンとして用いることにより血管新生病を治療または予防できることを見いだした。さらに本発明者らは、WT1ペプチドを全身投与することにより血管新生病を治療できることも見いだした。これらの知見に基づいて、本発明者らは本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち本発明は、以下のものを提供する。
(1)癌抗原ペプチドを含む、血管新生病の治療及び予防のいずれか又は両方のための医薬組成物。
(2)癌抗原ペプチドにより誘導または活性化された抗原提示細胞またはキラーT細胞またはヘルパーT細胞を含む、血管新生病の治療及び予防のいずれか又は両方のための医薬組成物。
(3)癌抗原ペプチドがWT1ペプチドまたは変異型WT1ペプチドである、(1)または(2)に記載の医薬組成物。
(4)WT1ペプチドまたは変異型WT1ペプチドがHLA分子との結合能を有するものである、(3)に記載の医薬組成物。
(5)WT1ペプチドまたは変異型WT1ペプチドがキラーT細胞またはヘルパーT細胞を活性化するものである、(3)または(4)に記載の医薬組成物。
(6)WT1ペプチドの長さが7〜30アミノ酸である、(3)〜(5)のいずれかに記載の医薬組成物。
(7)WT1ペプチドが以下のアミノ酸配列:
(a)配列番号:1〜配列番号:39で示されるいずれかのアミノ酸配列、または
(b)上記(a)のアミノ酸配列において1個ないし数個のアミノ酸が置換、欠失または付加されているアミノ酸配列
を含むものである、(3)〜(6)のいずれかに記載の医薬組成物。
(8)WT1ペプチドが以下のアミノ酸配列:
(a)Arg Met Phe Pro Asn Ala Pro Tyr Leu (配列番号:1)、
(b)Cys Tyr Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu (配列番号:19)
(c)Ala Pro Val Leu Asp Phe Ala Pro Pro Gly Ala Ser Ala Tyr Gly Ser Leu Gly (配列番号:27)
(d)Lys Arg Tyr Phe Lys Leu Ser His Leu Gln Met His Ser Arg Lys His (配列番号:32)、または
(e)(a)〜(d)のいずれかのアミノ酸配列において1個ないし数個のアミノ酸が置換、欠失または付加されているアミノ酸配列
を含むものである、(3)〜(7)のいずれかに記載の医薬組成物。
(9)血管新生病が眼内血管新生病である、(1)〜(8)のいずれかに記載の医薬組成物。
(10)眼内血管新生病が、滲出型加齢黄斑変性、近視性黄斑変性、網膜色素線条症、中心性漿液性脈絡網膜症、種々の網膜色素上皮症、脈絡膜萎縮症、コロイデレミア、脈絡膜骨腫、糖尿病網膜症、未熟児網膜症、血管新生緑内障および角膜血管新生からなる群より選択される疾患である、(9)に記載の医薬組成物。
(11)皮内投与、経皮投与または経粘膜投与により投与される、(1)〜(10)のいずれかに記載の医薬組成物。
(12)血管新生病の治療および予防のいずれかまたは両方に用いられる医薬と併用される、(1)〜(11)のいずれかに記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、癌抗原ペプチドを含む、血管新生病の治療及び予防のいずれか又は両方のための医薬組成物が提供される。さらに本発明によれば、癌抗原ペプチドにより誘導または活性化された抗原提示細胞またはキラーT細胞またはヘルパーT細胞を含む、血管新生病の治療及び予防のいずれか又は両方のための医薬組成物が提供される。本発明の医薬組成物は、局所投与のみならず皮内投与、皮下投与、経皮投与や経粘膜投与などの全身投与が可能であるため低侵襲性である。さらに本発明の医薬組成物は、患者自身による自己投与も可能である。また、本発明の医薬組成物の治療効果は高く、患者の治療満足度も高い。さらに、本発明の医薬組成物を用いて眼内血管新生病を治療または予防する場合には、対側眼の治療または予防についても効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、動物実験における観察、測定、検査項目等のまとめを示すスキームである。
【
図2】
図2は、WT1ペプチドワクチンの眼底血管新生抑制効果を示す典型フルオレセイン蛍光眼底像である。左の2つの写真はPBS皮内投与の結果であり(コントロール)、右の2つの写真はWT1ペプチド(WT1
126:Arg Met Phe Pro Asn Ala Pro Tyr Leu (配列番号:1))を皮内投与した場合の結果である。
【
図3】
図3は、WT1ペプチド(WT1
126:Arg Met Phe Pro Asn Ala Pro Tyr Leu (配列番号:1))を1μg/body、10μg/body、100μg/body皮内投与して、脈絡膜新生血管領域の変化を経時的に調べた結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、WT1ペプチド(WT1
35:Ala Pro Val Leu Asp Phe Ala Pro Pro Gly Ala Ser Ala Tyr Gly Ser Leu Gly (配列番号:27))を1μg/body、10μg/body、100μg/body皮内投与して、脈絡膜新生血管領域の変化を経時的に調べた結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、WT1ペプチド(WT1
235m:Cys Tyr Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu (配列番号:19)およびWT1
332:Lys Arg Tyr Phe Lys Leu Ser His Leu Gln Met His Ser Arg Lys His (配列番号:32))を200μg/body皮内投与して、脈絡膜新生血管領域の変化を経時的に調べた結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、WT1ペプチド(WT1
126、WT1
235mおよびWT1
332)とアフリベルセプトを併用した場合の脈絡膜新生血管領域の変化を経時的に調べた結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、1つの態様において、癌抗原ペプチドを含む、血管新生病の治療及び予防のいずれか又は両方のための医薬組成物に関する。癌抗原ペプチドは癌抗原蛋白の一部分である。WT1をはじめとする様々な癌抗原蛋白が知られている。本発明の医薬組成物に使用する癌抗原ペプチドは1種類であってもよく、あるいは複数種類であってもよい。癌抗原WT1ペプチドが対象において血管新生病の治療効果を発揮するかどうかは、癌抗原ペプチドが対象のHLA型に対応するかどうかによる。現在、多くの癌抗原ペプチドに関して、どのHLA型に適合するのか知られているので、本発明に用いる癌抗原ペプチドを、対象のHLA型に応じて選択することができる。したがって、本発明の医薬組成物に複数種類の癌抗原ペプチドを使用して、幅広い対象に対応するようにしてもよい。血管新生病も様々なものが知られている。血管新生病の例としては、様々な癌、多発性骨髄腫、関節リウマチ、乾癬、滲出型加齢黄斑変性などの眼内血管新生病、アテローム硬化型プラーク、血管奇形、血管膠着、卵巣肥大症候群、多嚢胞卵巣、肉芽腫、血管腫、肥大性痕、ケロイド、強皮症、いぼなどが挙げられるが、これらに限らない。
【0014】
癌抗原ペプチドを対象に投与する、あるいは対象から得た血液などのサンプルに添加することにより、当該癌抗原ペプチドを提示する抗原提示細胞を得ることができる。癌抗原を提示する抗原提示細胞がリンパ球を刺激して、キラーT細胞やヘルパーT細胞が誘導または活性化される。癌抗原ペプチドの作用は、それにより誘導または活性化された抗原提示細胞またはキラーT細胞またはヘルパーT細胞によるものである。したがって、本発明は、もう1つの態様において、癌抗原ペプチドにより誘導または活性化された抗原提示細胞またはキラーT細胞またはヘルパーT細胞を含む、血管新生病の治療及び予防のいずれか又は両方のための医薬組成物に関する。上記医薬組成物に用いる抗原提示細胞またはキラーT細胞またはヘルパーT細胞は、いずれの癌抗原ペプチドを用いて誘導または活性化されたものであってもよく、例えばWT1ペプチドを用いて誘導または活性化されたものであってもよい。
【0015】
血管新生病のなかでも典型的なものとして眼内血管新生病が挙げられる。また、癌抗原ペプチドのなかでも広く用いられているものとしてWT1ペプチドが挙げられる。したがって、本発明は、さらなる態様において、WT1ペプチドまたは変異型WT1ペプチドを含む、眼内血管新生病の治療のための医薬組成物に関するものである。
【0016】
本明細書において、WT1ペプチドは、WT1遺伝子(Wilms' tumor gene 1)によりコードされている癌抗原蛋白WT1の部分ペプチドをいう。癌抗原蛋白WT1のアミノ酸配列を配列番号:40に示す。したがって、WT1ペプチドは、癌抗原蛋白WT1に含まれる連続したアミノ酸配列からなるペプチドである。WT1ペプチドは当業者によく知られており、特に癌の免疫療法に関する報告が多数ある。WT1ペプチドは、公知の方法、例えば遺伝子工学的方法や化学合成法によって製造することができる。なお、特に断らない限り、本明細書においてWT1ペプチドという場合は、ヒトの癌抗原蛋白WT1に由来するペプチドをいうものとする。
【0017】
本発明に用いるWT1ペプチドは、WT1ペプチドのアミノ酸配列において1個ないし数個のアミノ酸が置換、欠失または付加されているアミノ酸配列からなる、変異型WT1ペプチドであってもよい。変異型WT1ペプチドは、人工的にアミノ酸配列を変更したWT1ペプチド(改変型WT1ペプチドともいう)であってもよく、自然変異によって得られるWT1ペプチドであってもよく、あるいは由来する動物種によるアミノ酸配列の相違を含むWT1ペプチドであってもよい。本発明において、変異型WT1ペプチドは、天然型のWT1ペプチドと同様の眼内血管新生病の治療効果を有するものである。アミノ酸配列の置換、欠失または付加方法としては遺伝子工学的方法や化学的方法が当業者に公知であり、当業者は所望のアミノ酸配列を容易に得ることができる。ここで、1個ないし数個とは、例えば1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個または10個であり、好ましくは1個、2個、3個、4個または5個であり、より好ましくは1個、2個または3個である。さらに好ましくは1個または2個である。
【0018】
また、WT1ペプチド中のアミノ酸残基が修飾されたペプチドも変異型WT1ペプチドに含まれる。ペプチド中のアミノ酸残基の修飾の種類および修飾方法は当業者に公知である。修飾の具体例として、WT1ペプチドのN末端および/またはC末端にアミノ酸、ペプチド、またはそれらのアナログ等の種々の物質を結合させてもよい。上記の種々の物質は、本発明のWT1ペプチドの溶解性を調節するもの、耐プロテアーゼ作用等その安定性を向上させるもの、所定の組織・器官に特異的に本発明のWT1ペプチドをデリバリーするもの、抗原提示細胞の取り込み効率を増強させるものであってもよい。あるいは上記の種々の物質が生体内で除去されてWT1ペプチドを生じるようにしてもよい。
【0019】
本明細書において、特に断らないかぎり、WT1ペプチドという場合には、変異型WT1ペプチドを包含するものとする。
【0020】
本発明に用いられるWT1ペプチドの長さは特に限定されないが、約7個〜約30個のアミノ酸からなるものが好ましい。好ましいWT1ペプチドは、HLA分子に結合して提示される抗原ペプチドの配列の規則性(モチーフ)を有し、HLA分子との結合能を有するものである。HLA分子との結合能は、当該技術分野において既知の方法により調べることができる。かかる方法として、例えば、Rankpep、BIMAS、SYFPEITHIなどのコンピューターベースの方法、HLA分子に対する結合能を有する既知のWT1ペプチドとの競合的結合試験などがある。また、好ましいWT1ペプチドは、キラーT細胞またはヘルパーT細胞を活性化するものである。
【0021】
キラーT細胞を活性化するWT1ペプチド(本明細書においてキラーWT1ペプチドと称する)は、多くのものが公知である。一般に、好ましいキラーWT1ペプチドは7〜12個のアミノ酸からなるアミノ酸配列を有する。より好ましいキラーWT1ペプチドは9個のアミノ酸からなるアミノ酸配列を有する。本発明に使用可能なキラーWT1ペプチドの例としては、下記アミノ酸配列:Arg Met Phe Pro Asn Ala Pro Tyr Leu (配列番号:1)、Arg Tyr Pro Ser Cys Gln Lys Lys Phe (配列番号:2)、Arg Tyr Phe Pro Asn Ala Pro Tyr Leu (配列番号:3)、Ala Tyr Leu Pro Ala Val Pro Ser Leu (配列番号:4)、Asn Tyr Met Asn Leu Gly Ala Thr Leu (配列番号:5)、Asp Gln Leu Lys Arg His Gln Arg Arg (配列番号:6)、Val Thr Phe Asp Gly Thr Pro Ser Tyr (配列番号:7)、Gln Gly Ser Leu Gly Glu Gln Gln Tyr (配列番号:8)、Cys Met Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu (配列番号:9)、Leu Ser His Leu Gln Met His Ser Arg (配列番号:10)、Phe Ser Arg Ser Asp Gln Leu Lys Arg (配列番号:11)、Ser Asp Gln Leu Lys Arg His Gln Arg (配列番号:12)、Thr Ser Glu Lys Pro Phe Ser Cys Arg (配列番号:13)、Pro Ile Leu Cys Gly Ala Gln Tyr Arg (配列番号:14)、Ser Ala Ser Glu Thr Ser Glu Lys Arg (配列番号:15)、Ser His Leu Gln Met His Ser Arg Lys (配列番号:16)、Thr Gly Val Lys Pro Phe Gln Cys Lys (配列番号:17)、Ser Leu Gly Glu Gln Gln Tyr Ser Val (配列番号:18)、Cys Tyr Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu (配列番号:19)、Phe Leu Gly Glu Gln Gln Tyr Ser Val (配列番号:20)、Ser Met Gly Glu Gln Gln Tyr Ser Val (配列番号:21)、Ser Leu Met Glu Gln Gln Tyr Ser Val (配列番号:22)、Phe Met Phe Pro Asn Ala Pro Tyr Leu (配列番号:23)、Arg Leu Phe Pro Asn Ala Pro Tyr Leu (配列番号:24)、Arg Met Met Pro Asn Ala Pro Tyr Leu (配列番号:25)、またはArg Met Phe Pro Asn Ala Pro Tyr Val (配列番号:26)を含む、あるいはからなるペプチド、およびこれらの変異型WT1ペプチドなどが挙げられるが、これらに限定されない。その他のキラーWT1ペプチドの例としては、国際出願公開公報WO2000/018795(出典明示によりその全内容を本明細書に取り入れる)に記載されたものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
ヘルパーT細胞を活性化するWT1ペプチド(本発明においてヘルパーWT1ペプチドと称する)は、多くのものが公知である。一般に、好ましいヘルパーWT1ペプチドは10〜25個のアミノ酸からなるアミノ酸配列を有する。より好ましいヘルパーWT1ペプチドは13〜20個のアミノ酸からなるアミノ酸配列を有する。本発明に使用可能なヘルパーWT1ペプチドの例としては、下記アミノ酸配列:Ala Pro Val Leu Asp Phe Ala Pro Pro Gly Ala Ser Ala Tyr Gly Ser Leu Gly (配列番号:27)、Glu Gln Cys Leu Ser Ala Phe Thr Val His Phe Ser Gly Gln Phe Thr Gly (配列番号:28)、Pro Asn His Ser Phe Lys His Glu Asp Pro Met Gly Gln Gln Gly (配列番号:29)、Asn Leu Tyr Gln Met Thr Ser Gln Leu Glu Cys Met Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu (配列番号:30)、Phe Arg Gly Ile Gln Asp Val Arg Arg Val Pro Gly Val Ala Pro Thr Leu Val Arg (配列番号:31)、またはLys Arg Tyr Phe Lys Leu Ser His Leu Gln Met His Ser Arg Lys His (配列番号:32)を含む、あるいはからなるペプチド、およびこれらの変異型WT1ペプチドが例示されるが、これらに限定されない。
【0023】
本発明の医薬組成物に使用するWT1ペプチドは1種類であってもよく、複数種類であってもよい。また、本発明の医薬組成物に使用するWT1ペプチドはキラーWT1ペプチドであってもよく、あるいはヘルパーWT1ペプチドであってもよく、これらを混合して用いてもよい。
【0024】
本発明においてWT1ペプチドの二量体を用いてもよい。WT1ペプチドの二量体は、システイン残基を有する2つのWT1ペプチド間にジスルフィド結合を形成させることによって得てもよい。
【0025】
本発明の医薬組成物に使用するWT1ペプチドは1種類であってもよく、あるいは複数種類であってもよい。WT1ペプチドが対象において眼内血管新生病の治療効果を発揮するかどうかは、WT1ペプチドが対象のHLA型に対応するかどうかによる。現在、多くのWT1ペプチドに関して、どのHLA型に適合するのか知られているので、本発明に用いるWT1ペプチドを、対象のHLA型に応じて選択することができる。また、本発明の医薬組成物に複数種類のWT1ペプチドを使用して、幅広い対象に対応するようにしてもよい。
【0026】
例えば、対象がHLA−A
*0201陽性である場合は、本発明の医薬組成物に用いられる好ましいWT1ペプチドとしては、下記アミノ酸配列:Asp Leu Asn Ala Leu Leu Pro Ala Val (配列番号:33)、Arg Met Phe Pro Asn Ala Pro Tyr Leu (配列番号:1)、またはSer Leu Gly Glu Gln Gln Tyr Ser Val (配列番号:18)を含む、あるいはからなるペプチド、および上記アミノ酸配列において1個ないし数個のアミノ酸が置換、欠失または付加されているアミノ酸配列を含む、あるいはからなるペプチドなどが例示されるが、これらに限定されない。
【0027】
例えば、対象がHLA−A
*2601陽性である場合には、下記アミノ酸配列:Val Thr Phe Asp Gly Thr Pro Ser Tyr (配列番号:7)、Gln Gly Ser Leu Gly Glu Gln Gln Tyr (配列番号:8)、またはAsp Gln Leu Lys Arg His Gln Arg Arg (配列番号:34)を含む、あるいはからなるペプチド、および上記アミノ酸配列において1個ないし数個のアミノ酸が置換、欠失または付加されているアミノ酸配列を含む、あるいはからなるペプチドなどが例示されるが、これらに限定されない。
【0028】
例えば、対象がHLA−A
*3303陽性である場合には、下記アミノ酸配列:Leu Ser His Leu Gln Met His Ser Arg (配列番号:10)、Phe Ser Arg Ser Asp Gln Leu Lys Arg (配列番号:11)、Ser Asp Gln Leu Lys Arg His Gln Arg (配列番号:12)、またはThr Ser Glu Lys Pro Phe Ser Cys Arg (配列番号:13)を含む、あるいはからなるペプチド、および上記アミノ酸配列において1個ないし数個のアミノ酸が置換、欠失または付加されているアミノ酸配列を含む、あるいはからなるペプチドなどが例示されるが、これらに限定されない。
【0029】
例えば、対象がHLA−A
*1101陽性である場合には、下記アミノ酸配列:Ala Ala Gly Ser Ser Ser Ser Val Lys (配列番号:35)、Pro Ile Leu Cys Gly Ala Gln Tyr Arg (配列番号:14)、Arg Ser Ala Ser Glu Thr Ser Glu Lys (配列番号:36)、Ser Ala Ser Glu Thr Ser Glu Lys Arg (配列番号:15)、Ser His Leu Gln Met His Ser Arg Lys (配列番号:16)、Thr Gly Val Lys Pro Phe Gln Cys Lys (配列番号:17)、Lys Thr Cys Gln Arg Lys Phe Ser Arg (配列番号:37)、Ser Cys Arg Trp Pro Ser Cys Gln Lys (配列番号:38)、またはAsn Met His Gln Arg Asn Met Thr Lys (配列番号:39)を含む、あるいはからなるペプチド、および上記アミノ酸配列において1個ないし数個のアミノ酸が置換、欠失または付加されているアミノ酸配列を含む、あるいはからなるペプチドなどが例示されるが、これらに限定されない。
【0030】
例えば、対象がHLA−A
*2402陽性である場合には、下記アミノ酸配列:Cys Met Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu (配列番号:9)、またはCys Tyr Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu (配列番号:19)を含む、あるいはからなるペプチド、配列番号:9のアミノ酸配列を含む、あるいはからなるペプチドの二量体、配列番号:9のアミノ酸配列を含む、あるいはからなるペプチドのシスチン体、および上記アミノ酸配列において1個ないし数個のアミノ酸が置換、欠失または付加されているアミノ酸配列を含む、あるいはからなるペプチドなどが例示されるが、これらに限定されない。
【0031】
例えば、対象がHLA−DRB1、HLA−DRB3、HLA−DRB4、HLA−DRB5、HLA−DPB1、またはHLA−DQB1陽性である場合には、下記アミノ酸配列:Ala Pro Val Leu Asp Phe Ala Pro Pro Gly Ala Ser Ala Tyr Gly Ser Leu Gly (配列番号:27)、Glu Gln Cys Leu Ser Ala Phe Thr Val His Phe Ser Gly Gln Phe Thr Gly (配列番号:28)、Pro Asn His Ser Phe Lys His Glu Asp Pro Met Gly Gln Gln Gly (配列番号:29)、Asn Leu Tyr Gln Met Thr Ser Gln Leu Glu Cys Met Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu (配列番号:30)、Phe Arg Gly Ile Gln Asp Val Arg Arg Val Pro Gly Val Ala Pro Thr Leu Val Arg (配列番号:31)、またはLys Arg Tyr Phe Lys Leu Ser His Leu Gln Met His Ser Arg Lys His (配列番号:32)を含む、あるいはからなるペプチド、および上記アミノ酸配列において1個ないし数個のアミノ酸が置換、欠失または付加されているアミノ酸配列を含む、あるいはからなるペプチドなどが例示されるが、これらに限定されない。
【0032】
本発明の医薬組成物中の有効成分として、WT1ペプチドをコードするポリヌクレオチドを用いてもよい。ポリヌクレオチドの塩基配列は、WT1ペプチドのアミノ酸配列に基づき決定できる。ポリヌクレオチドは、例えば、化学合成法などの公知のDNAまたはRNA合成方法、PCR法などにより製造することができる。
【0033】
本発明の医薬組成物を、血管新生病の治療および予防のいずれかまたは両方に用いられる医薬と併用してもよい。血管新生病の治療および予防のいずれかまたは両方に用いられる医薬としては、ベバシズマブ、セツキシマブ、パニツムマブなどが挙げられるが、これらに限定されない。眼内血管新生病の治療および予防のいずれかまたは両方に用いられる医薬としては、アフリベルセプト、ペガプタニブナトリウム、ラニビズマブなどの血管内皮細胞増殖因子阻害剤などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
本発明の医薬組成物により治療されうる眼内血管新生病としては、眼内血管新生病が、滲出型加齢黄斑変性、近視性黄斑変性、網膜色素線条症、中心性漿液性脈絡網膜症、種々の網膜色素上皮症、脈絡膜萎縮症、コロイデレミア、脈絡膜骨腫、糖尿病網膜症、未熟児網膜症、血管新生緑内障および角膜血管新生などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0035】
本発明の医薬組成物の投与経路は特に限定されないが、好ましい投与経路の例として皮内投与、皮下投与、経皮投与、点眼、点鼻、舌下などの経粘膜投与が挙げられる。
【0036】
本発明の医薬組成物の剤形は特に限定されず、例えば注射用液剤、点眼用液剤、点鼻用液剤、ローション剤、クリーム剤、パッチ剤、舌下錠、トローチなどの剤形であってもよい。これらの剤形は当業者によく知られた方法により製造することができ、投与することができる。
【0037】
本発明の医薬組成物を用いる場合のWT1ペプチドの投与量は、WT1ペプチドの種類、投与経路、剤形、疾患の種類、疾患の程度、対象の健康状態などを考慮して、適宜変更することができる。一般的には、WT1ペプチドの投与量は成人1日当たり0.1μg/kg〜1mg/kgである。WT1ペプチドの種類、投与経路、剤形についても同様に適宜変更することができる。本発明の医薬組成物は、医薬上許容される担体や賦形剤のほかに、例えば水酸化アルミニウムのごとき適当なアジュバントを含んでいてもよい。あるいは本発明の医薬組成物は、リポソーム中に封入されたWT1ペプチドを含むものであってもよい。
【0038】
もう1つの態様において、本発明は、眼内血管新生病の治療及び予防のいずれか又は両方のためのWT1ペプチドの使用に関する。さらなる態様において、本発明は、眼内血管新生病の治療及び予防のいずれか又は両方のための医薬の製造のためのWT1ペプチドの使用に関する。さらにもう1つの態様において、本発明は、眼内血管新生病の治療及び予防のいずれか又は両方を必要とする対象にWT1ペプチドを投与することを特徴とする、眼内血管新生病の治療及び予防のいずれか又は両方のための方法も関する。これらの態様においても、上記の説明があてはまる。
【0039】
さらなる態様において、本発明は、眼内血管新生病の治療及び予防のいずれか又は両方のためのWT1ペプチドによって誘導または活性化された抗原提示細胞またはキラーT細胞またはヘルパーT細胞を含む医薬組成物に関する。さらに本発明は、眼内血管新生病の治療及び予防のいずれか又は両方のためのWT1ペプチドによって誘導または活性化された抗原提示細胞またはキラーT細胞またはヘルパーT細胞の使用に関する。また本発明は、眼内血管新生病の治療及び予防のいずれか又は両方のための医薬の製造のためのWT1ペプチドによって誘導または活性化された抗原提示細胞またはキラーT細胞またはヘルパーT細胞の使用に関する。さらにもう1つの態様において、本発明は、眼内血管新生病の治療及び予防のいずれか又は両方を必要とする対象にWT1ペプチドによって誘導または活性化された抗原提示細胞またはキラーT細胞またはヘルパーT細胞を投与することを特徴とする、眼内血管新生病の治療及び予防のいずれか又は両方のための方法にも関する。これらの態様においても、上記の説明があてはまる。
【0040】
抗原提示細胞またはキラーT細胞またはヘルパーT細胞の誘導または活性化方法は当業者に公知である。インビボでは、WT1ペプチドを対象に投与することにより、これらの細胞を誘導または活性化することができる。インビトロにおいては、例えば、対象由来のリンパ球を含む試料と、WT1ペプチドとHLA分子との複合体とを反応させることにより、キラーT細胞を得てもよい。また例えば、対象由来の末梢血単核球をWT1ペプチドの存在下で培養し、該末梢血単核球からWT1特異的CTLを誘導してもよい。また例えば、対象由来の未熟抗原提示細胞をWT1ペプチドの存在下で培養することにより、HLA分子を介してWT1ペプチドを提示する抗原提示細胞を誘導してもよい。未熟抗原提示細胞は、成熟して抗原提示細胞となり得る細胞をいい、未熟樹状細胞などが例示される。また例えば、WT1ペプチドを抗原提示細胞に添加して、ヘルパーT細胞を活性化してもよい。本発明の医薬組成物に使用する抗原提示細胞またはキラーT細胞またはヘルパーT細胞は、いずれのWT1ペプチドを用いて誘導または活性化されたものであってもよい。このようにして誘導または活性化された抗原提示細胞またはキラーT細胞またはヘルパーT細胞を対象に、好ましくはこれらの細胞を得た対象に投与して、眼内血管新生病の治療及び予防を行うことができる。
【0041】
以上の説明において、主に眼内血管新生病の治療および/または予防に関するものであるが、以上の説明は、他の血管新生病についても当てはまる。
【0042】
以下に実施例を示して本発明をより詳細かつ具体的に説明するが、実施例は本発明を限定するものと解してはならない。
【実施例1】
【0043】
実施例1:マウスレーザー惹起脈絡膜血管新生モデルを用いたWT1ペプチドワクチンの治療効果の実証
1.実験方法
1−1.被験物質
被験物質として2種のWT1ペプチド:WT1
126(Arg Met Phe Pro Asn Ala Pro Tyr Leu (配列番号:1))およびWT1
35(Ala Pro Val Leu Asp Phe Ala Pro Pro Gly Ala Ser Ala Tyr Gly Ser Leu Gly (配列番号:27))を用いた。
【0044】
1−2.使用動物
雄のC57BL/6Jマウス(日本クレアから供給)を用いた。試験開始時においてマウスは8週齢(体重約20〜25g)であった。飼育飼料(オリエンタル酵母社製)および水道水をマウスに自由摂取させた。各投与群につき6匹のマウスを用いた。
【0045】
1−3.投与量および投与方法
WT1ペプチドとし、WT1
126あるいはWT1
35を22.7 mg/mLとなるよう滅菌済みPBSに溶解した。これを滅菌済みPBSにて0.227および2.27 mg/mLに希釈した。これらWT1溶液とMontanide ISA51 VGを体積比1:1.27となるよう混合し、0.1μl/μL、1μl/μL、10μl/μLのエマルションを調製した。それぞれ10μL/bodyとして皮内投与した。投与用量は1μg/body、10μg/body、100μg/bodyであった。投与時期は、光凝固から15、22、29および36日後とした。
【0046】
具体的には、被験物質(WT1ペプチド)投与群(1〜4群)のマウスには、以下の手順により投与を行った。
(1)14日後の蛍光漏出面積から群分けを行った。
(2)光凝固15、22、29、36日後に、体重測定および一般症状観察を行った。
(3)バリカンにて腹部の毛刈りを行い、30G針を用いて皮内投与した。
【0047】
試験群(各6匹)の構成を表1にまとめた。
【表1】
【0048】
1−4.光凝固および眼底撮影
以下の手順にて行った。
(1)体重測定および一般症状観察を行った。
(2)ミドリンP(参天製薬社製)により散瞳させたのち、ケタラール注射液およびセラクタール注射液の混合液(7:1)を1mL/kg筋肉内投与することにより全身麻酔を行った。
(3)光凝固は、マルチカラーレーザー光凝固装置(赤色)(NIDEK社製)を使用し、スポットサイズ50μm、出力60mW、凝固時間0.1秒の凝固条件で行った。
(4)組織観察用カバーグラスをコンタクトレンズとして、眼底後極部に散在性に太い網膜血管を避けて、4個の光凝固を行った。
(5)光凝固後速やかに、Micron III(Phenix Research社製)にて眼底撮影を行った。
(6)ヒアレイン点眼液を両眼に点眼した。
【0049】
1−5.蛍光眼底造影
以下の手順にて行った。
(1)光凝固後14、21、28、35、42日後に、体重測定および一般症状観察を行った。
(2)ミドリンPにより散瞳させたのち、ケタラール注射液(第一三共社製)およびセラクタール注射液(バイエル社製)の混合液(7:1)を1mL/kg筋肉内投与することにより全身麻酔を行った。
(3)フルオレサイト0.1mL/kg(Alcon社製)を尾静脈から注入して、
Micron IIIにて蛍光眼底造影を行った。
(4)画像解析ソフトを用いて、蛍光漏出面積を求めた。
【0050】
1−6.観察、測定、検査項目等のまとめ
これらを
図1にまとめた。
【0051】
1−7.データ解析
データ解析には、Microsoft EXCELを用いた結果を平均値±標準偏差で表した。統計解析には、EXSUS version 8.0.0(SAS ver.9.3 株式会社CACエクシケア)を用い、多群比較(1群 vs 2、3、4群)はDunnett typeを選択し多重比較検定を行った。有意水準はいずれも5%未満とした。
【0052】
2.実験結果
光凝固から2週間後および6週間後に蛍光眼底造影を行って血管新生を調べた結果を
図2に示す。光凝固から6週間後のWT1ペプチド(WT1
126)を投与したマウスの眼底の血管新生は、PBS投与群のマウスを投与したマウスと比較して、著しく抑制されていた。
【0053】
光凝固から2、3、4および6週間後に蛍光眼底造影を行って、脈絡膜新生血管領域の経時変化を調べた。WT1
126を投与したマウスのデータを
図3に、WT1
35を投与したマウスのデータを
図4に示す。いずれのWT1ペプチドを用いたマウスにおいても、WT1ペプチド投与による脈絡膜新生血管領域の減少が見られた。
WT1
126投与群では、1μg/body、10μg/body、100μg/bodyのいずれの投与量であってもPBS投与群と比較して脈絡膜新生血管領域が減少した。特に、WT1
126を100μg/body投与した群では有意な減少効果が見られ、光凝固から6週間後において脈絡膜新生血管領域は、光凝固から2週間後の約50%にまで減少した。一方、PBS投与群では、光凝固から6週間後において脈絡膜新生血管領域は、光凝固から2週間後の約230%に増加した。
WT1
35投与群においても、1μg/body、10μg/body、100μg/bodyのいずれの投与量であっても脈絡膜新生血管領域の減少傾向が見られた。光凝固から6週間後において脈絡膜新生血管領域は、光凝固から2週間後の約50%にまで減少した。
【実施例2】
【0054】
被験物質として2種のWT1ペプチド:WT1
235m(Cys Tyr Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu (配列番号:19))およびWT1
332(Lys Arg Tyr Phe Lys Leu Ser His Leu Gln Met His Ser Arg Lys His (配列番号:32))を用い、以下のように投与群を設定して、実施例1と同様の方法・手順にて実験を行った。なお、WT1
235mは、WT1
235(配列番号:9)の2位のメチオニンをチロシンに置換したペプチドである。
【表2】
【0055】
光凝固から2、3、4、5および6週間後に蛍光眼底造影を行って、脈絡膜新生血管領域の経時変化を調べた。結果を
図5に示す。WT1
235m、WT1
332いずれのWT1ペプチドを投与したマウスにおいても、PBS投与群と比較して、WT1ペプチド投与による脈絡膜新生血管領域の減少が見られた。WT1
332投与群においては、光凝固から6週間後において脈絡膜新生血管領域は、光凝固から2週間後の約70%にまで減少した。WT1
235m投与群においては、光凝固から6週間後において脈絡膜新生血管領域は、光凝固から2週間後と変わらず、増加が抑制されていた。
【実施例3】
【0056】
WT1ペプチド(WT1
126、WT1
235mおよびWT1
332)とアフリベルセプトを併用した場合の脈絡膜新生血管領域の変化を経時的に調べた。投与群を以下のように設定した(併用群は3、4および5)。アフリベルセプトの投与は、レーザー投与日にマウスの右目に硝子体内投与した。
【表3】
【0057】
結果を
図6に示す。WT1ペプチドをアフリベルセプトと併用した場合にも、脈絡膜新生血管領域の減少または増加抑制が確認され、併用効果が確認された。
【0058】
以上の実験結果から、癌抗原ペプチドであるWT1ペプチドが血管新生病の治療に有効であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、癌抗原ペプチドを含む血管新生病の治療及び予防のいずれか又は両方のための医薬組成物を提供するものであるから、特に医薬品の分野において利用可能である。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]