特許第6266836号(P6266836)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6266836クレーンの操作を支援するための判定装置、判定システム、プログラムおよび記録媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6266836
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】クレーンの操作を支援するための判定装置、判定システム、プログラムおよび記録媒体
(51)【国際特許分類】
   B66C 13/00 20060101AFI20180115BHJP
   B66C 15/00 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   B66C13/00 D
   B66C15/00 E
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-502908(P2017-502908)
(86)(22)【出願日】2016年2月15日
(86)【国際出願番号】JP2016054304
【審査請求日】2017年1月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】592250540
【氏名又は名称】株式会社大島造船所
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】特許業務法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡瀬 基継
(72)【発明者】
【氏名】柴田 文彦
(72)【発明者】
【氏名】貞松 喬太
(72)【発明者】
【氏名】河内 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】田畑 恵良
【審査官】 井上 信
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−241548(JP,A)
【文献】 特開2005−353032(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/00 − 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーンに設置され前記クレーンの吊り荷の上方から下方に向かい撮像を行う撮像装置により撮像された画像において、予め定められた外観上の特徴を有する対象物と前記吊り荷とを認識する画像認識手段と、
前記撮像装置により複数の異なる時刻に撮像された画像の各々に関する、当該画像の撮像の時刻と、前記画像認識手段により認識された前記対象物および前記吊り荷の当該画像内における位置とに基づき、現時点から前記予め定められた時間が経過するまでの期間内の複数の時刻の各々における前記対象物および前記吊り荷の位置を推定し、当該推定した位置に基づき、前記対象物と前記吊り荷が現時点から予め定められた時間が経過するまでの期間に予め定められた距離より近付くか否かを判定する判定手段と
を備える判定装置。
【請求項2】
前記判定手段は、前記撮像装置により複数の異なる時刻に撮像された画像の各々に関する、当該画像の撮像の時刻と、前記画像認識手段により認識された前記吊り荷の当該画像内における位置とに基づき、前記吊り荷の過去の移動経路の近似曲線を特定し、当該特定した近似曲線に基づき、現時点から前記予め定められた時間が経過するまでの期間における前記吊り荷の移動経路を推定する
請求項1に記載の判定装置。
【請求項3】
前記クレーンは船舶に配置され、
前記判定手段は、前記画像認識手段により認識された前記吊り荷の画像内における移動の軌跡に含まれる振動成分を特定し、当該特定した振動成分を用いて前記判定を行う
請求項1または2に記載の判定装置。
【請求項4】
前記判定手段は、前記画像認識手段により認識された前記吊り荷の画像内における移動速度に応じて、前記予め定められた距離を変更する
請求項1乃至のいずれか1項に記載の判定装置。
【請求項5】
前記判定手段は、前記撮像装置により複数の異なる時刻に撮像された画像の各々に関する、当該画像の撮像の時刻と、前記画像認識手段により認識された前記吊り荷の特徴点の位置とに基づき、前記吊り荷を吊っているロープを軸とする前記吊り荷の回転の状態を特定し、当該特定した回転の状態を用いて前記判定を行う
請求項1乃至のいずれか1項に記載の判定装置。
【請求項6】
船舶に配置されたクレーンに設置され、前記クレーンの吊り荷の上方から下方に向かい撮像を行う撮像装置により撮像された画像において、予め定められた外観上の特徴を有する対象物と前記吊り荷と前記船舶の構造物の複数の部分とを認識する画像認識手段と、
前記撮像装置により複数の異なる時刻に撮像された画像のうちの一の画像において前記画像認識手段により認識された前記複数の部分の各々の位置と前記撮像装置により複数の異なる時刻に撮像された画像のうちの前記一の画像とは異なる他の画像において前記画像認識手段により認識された前記複数の部分の各々の位置とに基づき、前記一の画像において前記画像認識手段により認識された前記対象物の位置と前記他の画像において前記画像認識手段により認識された前記対象物の位置との関係、および、前記一の画像において前記画像認識手段により認識された前記吊り荷の位置と前記他の画像において前記画像認識手段により認識された前記吊り荷の位置との関係を特定し、前記撮像装置により複数の異なる時刻に撮像された画像の各々に関する、当該画像の撮像の時刻と、前記画像認識手段により認識された前記対象物および前記吊り荷の当該画像内における位置とに基づき、前記対象物と前記吊り荷が現時点から予め定められた時間が経過するまでの期間に予め定められた距離より近付くか否かを判定する判定手段と
を備える判定装置。
【請求項7】
前記撮像装置により撮像された画像に対し前記判定の結果を表す図形を付加した画像の表示を表示装置に指示する表示指示手段
を備える請求項1乃至のいずれか1項に記載の判定装置。
【請求項8】
クレーンに設置され前記クレーンの吊り荷の上方から下方に向かい撮像を行う撮像装置と、
前記撮像装置と通信接続され、前記撮像装置により撮像された画像を表す画像データを前記撮像装置から受信する請求項1乃至7のいずれか1項に記載の判定装置と
を備える判定システム。
【請求項9】
コンピュータに、
クレーンに設置され前記クレーンの吊り荷の上方から下方に向かい撮像を行う撮像装置により撮像された画像において、予め定められた外観上の特徴を有する対象物と前記吊り荷とを認識する処理と、
前記撮像装置により複数の異なる時刻に撮像された画像の各々に関する、当該画像の撮像の時刻と、前記認識する処理において認識した対象物および前記吊り荷の当該画像内における位置とに基づき、現時点から前記予め定められた時間が経過するまでの期間内の複数の時刻の各々における前記対象物および前記吊り荷の位置を推定する処理と、
前記推定した位置に基づき、前記対象物と前記吊り荷が現時点から予め定められた時間が経過するまでの期間に予め定められた距離より近付くか否かを判定する処理と
を実行させるためのプログラム。
【請求項10】
コンピュータに、
クレーンに設置され前記クレーンの吊り荷の上方から下方に向かい撮像を行う撮像装置により撮像された画像において、予め定められた外観上の特徴を有する対象物と前記吊り荷とを認識する処理と、
前記撮像装置により複数の異なる時刻に撮像された画像の各々に関する、当該画像の撮像の時刻と、前記認識する処理において認識した対象物および前記吊り荷の当該画像内における位置とに基づき、現時点から前記予め定められた時間が経過するまでの期間内の複数の時刻の各々における前記対象物および前記吊り荷の位置を推定する処理と、
前記推定した位置に基づき、前記対象物と前記吊り荷が現時点から予め定められた時間が経過するまでの期間に予め定められた距離より近付くか否かを判定する処理と
を実行させるためのプログラムを前記コンピュータに読み取り可能に持続的に記憶する記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンの操作を支援するための判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ジブの旋回および起伏が可能なクレーンの操作を行う際、操作者は、吊り荷が落下した場合に備え、吊り荷が作業者や重機等の対象物の真上付近を通過しないように細心の注意を払わなければならない。
【0003】
上述したクレーンの操作者の負担を軽減するための技術が提案されている。例えば、特許文献1には、カメラにより吊り荷の上方から下方に向けて撮像したクレーン周辺領域の画像から作業者のヘルメットを認識し、認識したヘルメットの画像をクレーン周辺領域の画像に表示するように構成された安全確認装置が提案されている。
【0004】
特許文献1に記載の安全確認装置は、ジブ(ブーム)の長さ、仰角、方位に基づき算出した吊り荷位置を中心とした危険領域を設定し、危険領域内において認識された作業者のヘルメットを他のヘルメットと異なる色で表示する等により、クレーンの操作者に対し危険領域内に作業者がいることを通知する。特許文献1に記載の安全確認装置は、ワイヤ張力から特定される吊り荷重量と、ワイヤ繰り出し長さ等から特定される吊り荷高さにより危険領域の広さを変更する。また、特許文献1に記載の安全確認装置は、センサにより計測された風向および風速により危険領域の位置の補正を行う。さらに、特許文献1に記載の安全確認装置は、ジブの旋回等に応じて危険領域をジブの移動方向に拡張する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−241548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の安全確認装置によれば、クレーンの操作者は危険領域内にいる作業者を容易に知ることができ、細心の注意を払うことなく危険回避のための操作を行うことができる。しかしながら、特許文献1に記載の安全確認装置においては、ジブの長さ、仰角、方位、ワイヤ張力、ワイヤ繰り出し長さ、風向、風速、ジブの旋回等の制御情報といった多くの種類の情報が利用される。従って、特許文献1に記載の安全確認装置を実現するためには、多くのセンサを導入する必要がある。
【0007】
本発明は、多くのセンサを用いることなく、クレーンの操作者の負担を軽減するための手段を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明は、クレーンに設置され前記クレーンの吊り荷の上方から下方に向かい撮像を行う撮像装置により撮像された画像において、予め定められた外観上の特徴を有する対象物と前記吊り荷とを認識する画像認識手段と、前記撮像装置により複数の異なる時刻に撮像された画像の各々に関する、当該画像の撮像の時刻と、前記画像認識手段により認識された前記対象物および前記吊り荷の当該画像内における位置とに基づき、現時点から前記予め定められた時間が経過するまでの期間内の複数の時刻の各々における前記対象物および前記吊り荷の位置を推定し、当該推定した位置に基づき、前記対象物と前記吊り荷が現時点から予め定められた時間が経過するまでの期間に予め定められた距離より近付くか否かを判定する判定手段とを備える判定装置を第1の態様として提案する。
【0010】
また、本発明は、上記の第1の態様において、前記判定手段は、前記撮像装置により複数の異なる時刻に撮像された画像の各々に関する、当該画像の撮像の時刻と、前記画像認識手段により認識された前記吊り荷の当該画像内における位置とに基づき、前記吊り荷の過去の移動経路の近似曲線を特定し、当該特定した近似曲線に基づき、現時点から前記予め定められた時間が経過するまでの期間における前記吊り荷の移動経路を推定する、という構成を第の態様として提案する。
【0011】
また、本発明は、上記の第1またはのいずれかの態様において、前記クレーンは船舶に配置され、前記判定手段は、前記画像認識手段により認識された前記吊り荷の画像内における移動の軌跡に含まれる振動成分を特定し、当該特定した振動成分を用いて前記判定を行う、という構成を第の態様として提案する。
【0012】
また、本発明は、上記の第1乃至第のいずれかの態様において、前記判定手段は、前記画像認識手段により認識された前記吊り荷の画像内における移動速度に応じて、前記予め定められた距離を変更する、という構成を第の態様として提案する。
【0013】
また、本発明は、上記の第1乃至第のいずれかの態様において、前記判定手段は、前記撮像装置により複数の異なる時刻に撮像された画像の各々に関する、当該画像の撮像の時刻と、前記画像認識手段により認識された前記吊り荷の特徴点の位置とに基づき、前記吊り荷を吊っているロープを軸とする前記吊り荷の回転の状態を特定し、当該特定した回転の状態を用いて前記判定を行う、という構成を第の態様として提案する。
【0014】
また、本発明は、船舶に配置されたクレーンに設置され、前記クレーンの吊り荷の上方から下方に向かい撮像を行う撮像装置により撮像された画像において、予め定められた外観上の特徴を有する対象物と前記吊り荷と前記船舶の構造物の複数の部分とを認識する画像認識手段と、前記撮像装置により複数の異なる時刻に撮像された画像のうちの一の画像において前記画像認識手段により認識された前記複数の部分の各々の位置と前記撮像装置により複数の異なる時刻に撮像された画像のうちの前記一の画像とは異なる他の画像において前記画像認識手段により認識された前記複数の部分の各々の位置とに基づき、前記一の画像において前記画像認識手段により認識された前記対象物の位置と前記他の画像において前記画像認識手段により認識された前記対象物の位置との関係、および、前記一の画像において前記画像認識手段により認識された前記吊り荷の位置と前記他の画像において前記画像認識手段により認識された前記吊り荷の位置との関係を特定し、前記撮像装置により複数の異なる時刻に撮像された画像の各々に関する、当該画像の撮像の時刻と、前記画像認識手段により認識された前記対象物および前記吊り荷の当該画像内における位置とに基づき、前記対象物と前記吊り荷が現時点から予め定められた時間が経過するまでの期間に予め定められた距離より近付くか否かを判定する判定手段とを備える判定装置を第7の態様として提案する。
【0015】
また、本発明は、上記の第1乃至第のいずれかの態様において、前記撮像装置により撮像された画像に対し前記判定の結果を表す図形を付加した画像の表示を表示装置に指示する表示指示手段、という構成を第の態様として提案する。
【0016】
また、本発明は、クレーンに設置され前記クレーンの吊り荷の上方から下方に向かい撮像を行う撮像装置と、前記撮像装置と通信接続され、前記撮像装置により撮像された画像を表す画像データを前記撮像装置から受信する上述した第1乃至第のいずれかの態様にかかる判定装置とを備える判定システムを第の態様として提案する。
【0017】
また、本発明は、コンピュータに、クレーンに設置され前記クレーンの吊り荷の上方から下方に向かい撮像を行う撮像装置により撮像された画像において、予め定められた外観上の特徴を有する対象物と前記吊り荷とを認識する処理と、前記撮像装置により複数の異なる時刻に撮像された画像の各々に関する、当該画像の撮像の時刻と、前記認識する処理において認識した対象物および前記吊り荷の当該画像内における位置とに基づき、現時点から前記予め定められた時間が経過するまでの期間内の複数の時刻の各々における前記対象物および前記吊り荷の位置を推定する処理と、前記推定した位置に基づき、前記対象物と前記吊り荷が現時点から予め定められた時間が経過するまでの期間に予め定められた距離より近付くか否かを判定する処理とを実行させるためのプログラムを第の態様として提案する。
【0018】
また、本発明は、コンピュータに、クレーンに設置され前記クレーンの吊り荷の上方から下方に向かい撮像を行う撮像装置により撮像された画像において、予め定められた外観上の特徴を有する対象物と前記吊り荷とを認識する処理と、前記撮像装置により複数の異なる時刻に撮像された画像の各々に関する、当該画像の撮像の時刻と、前記認識する処理において認識した対象物および前記吊り荷の当該画像内における位置とに基づき、現時点から前記予め定められた時間が経過するまでの期間内の複数の時刻の各々における前記対象物および前記吊り荷の位置を推定する処理と、前記推定した位置に基づき、前記対象物と前記吊り荷が現時点から予め定められた時間が経過するまでの期間に予め定められた距離より近付くか否かを判定する処理とを実行させるためのプログラムを前記コンピュータに読み取り可能に持続的に記憶する記録媒体を第10の態様として提案する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の第1の態様にかかる判定装置、または、第の態様にかかる判定システムによれば、吊り荷の上方から下方に向けて撮像された画像を用いて、現在の操作を続けた場合、吊り荷と対象物が接触または近接するか否かが判定される。また、複数の時刻の各々における吊り荷と対象物の位置に基づき吊り荷と対象物が接触または近接するか否かの判定が行われるため、例えば対象物と吊り荷が時間差で同じ位置を通過すると推定されるような場合であっても、適正な判定が行われる。その結果、クレーンの操作者はジブの移動における安全を容易に確保することができる。
【0021】
本発明の第の態様にかかる判定装置によれば、ジブの旋回等により吊り荷が直線的な移動をしない場合であっても、吊り荷と対象物が接触または近接するか否かが適正に判定される。
【0022】
本発明の第の態様にかかる判定装置によれば、吊り荷と対象物が接触または近接するか否かの判定において、クレーンが設置された船舶の揺れが考慮される。その結果、クレーンの操作者は必ずしも船舶の揺れの状態に細心の注意を払うことなく、ジブの移動における安全を確保することができる。
【0023】
本発明の第の態様にかかる判定装置によれば、吊り荷と対象物が接触または近接するか否かの判定において、吊り荷の移動速度が考慮される。その結果、クレーンの操作者は安全を確保しつつ、高速にジブの移動の操作を行うことができる。
【0024】
本発明の第の態様にかかる判定装置によれば、吊り荷と対象物が接触または近接するか否かの判定において、吊り荷の回転の状態が考慮される。その結果、クレーンの操作者は必ずしも吊り荷の回転の状態に細心の注意を払うことなく、ジブの移動における安全を確保することができる。
【0025】
本発明の第の態様にかかる判定装置によれば、画像における吊り荷や対象物の位置の変化に含まれる撮像位置や撮像方向の変化に伴う要素が除去されるため、例えばジブが高速で移動し撮像位置が大きく変化するような場合であっても、吊り荷と対象物が接触または近接するか否かが適正に判定される。
【0026】
本発明の第の態様にかかる判定装置によれば、クレーンの操作者は表示装置に表示される画像を見ることにより、吊り荷と対象物が接触または近接する危険性の有無を知ることができる。
【0027】
本発明の第の態様にかかるプログラムまたは第の態様にかかる記録媒体によれば、本発明の第1の態様にかかる判定装置がコンピュータにより実現される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】一実施形態にかかる判定システムと当該判定システムの搭載された船舶を模式的に示した図。
図2】一実施形態にかかる判定装置のハードウェアとして用いられるコンピュータの基本構成を示した図。
図3】一実施形態にかかる判定装置の機能構成を示した図。
図4】一実施形態にかかる記憶手段に記憶される画像テーブルのデータ構造を例示した図。
図5】一実施形態にかかる記憶手段に記憶される吊り荷位置テーブルおよび対象物位置テーブルのデータ構造を例示した図。
図6】一実施形態にかかる記憶手段に記憶される構造物位置テーブルのデータ構造を例示した図。
図7A】一実施形態にかかる判定手段が行う処理のフローを示した図。
図7B】一実施形態にかかる判定手段が行う処理のフローを示した図。
図8】一実施形態にかかる表示指示手段の指示に従い表示装置が表示する画像を例示した図。
図9】一変形例における判定手段の処理を説明するための図。
図10】一変形例における判定手段の処理を説明するための図。
図11】一変形例における判定手段の処理を説明するための図。
図12】一変形例において用いられる吊り荷位置テーブルのデータ構造を例示した図。
図13】一変形例における判定手段の処理を説明するための図。
図14】一変形例における判定手段の処理を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[実施形態]
以下に、本発明の一実施形態にかかる判定システム1を説明する。図1は、判定システム1と判定システム1の搭載された船舶9を模式的に示した図である。船舶9はバラ積み船であり、複数の貨物倉91と、複数の貨物倉91に応じて配置されたクレーン92を備える。なお、図1においては貨物倉91およびクレーン92が各々2つであるが、これらの数は船舶9によって異なる。貨物倉91は壁面および底面を構成する本体911と、本体911の上方の開口部であるハッチの周りに設けられたハッチコーミング912と、ハッチコーミング912の上に配置されたハッチカバー913を備える。
【0030】
図1に例示の貨物倉91は、船首側と船尾側に配置された2枚のハッチカバー913を備え、ハッチカバー913の各々はハッチコーミング912の上をスライドして、折り畳まれてハッチを覆わない開状態と、展開されてハッチを覆う閉状態の2つの状態をとることができる。図1の右側に例示の貨物倉91のハッチカバー913は開状態であり、左側に例示の貨物倉91のハッチカバー913は閉状態である。
【0031】
クレーン92はクレーンポスト921と、クレーンポスト921から外側に延伸するジブ922と、ジブ922の先端部付近から下方へと垂れ下がるロープ923と、ロープ923の先端に取り付けられたグラブ924を備える。なお、本実施形態において、クレーン92の吊り荷はグラブ924とグラブ924に掴まれた貨物である。
【0032】
クレーンポスト921の上部には操作者がクレーン92を操作する空間である操作室925が設けられている。操作者は操作室925から貨物倉91内の貨物、作業者、重機等の位置や形状、グラブ924の位置を目視で確認しながら、操作室925内に配置された操作レバー等を操作して、ジブ922の旋回、起伏および伸縮、ロープ923の繰り出しおよび巻き上げ、グラブ924の開閉等の各種操作を行う。
【0033】
判定システム1は、複数のクレーン92の各々に応じて配置されている。判定システム1は、ジブ922の先端付近に配置され、下方に向かい撮像を行う撮像装置11と、操作室925に配置され、操作者に対し貨物倉91内の作業者や重機等の対象物とグラブ924とが接触または近接する危険性の有無を通知する機能を備えた判定装置12を備える。
【0034】
撮像装置11は、例えば重力により、常に撮像方向(光軸)が鉛直下方向となるように撮像装置11を吊り下げる取付器具を介してジブ922に取り付けられている。撮像装置11は、例えば所定時間の経過毎に撮像した画像を表す画像データを順次、判定装置12に送信する。画像データの送受信のため、撮像装置11と判定装置12は通信接続されている。撮像装置11と判定装置12の通信接続は、例えば光ファイバー等の通信ケーブルを介して行われもよいし、無線により行われてもよい。
【0035】
本実施形態において、判定装置12は一般的なコンピュータがプログラムに従う処理を行うことにより実現される。ただし、判定装置12が専用の装置として構成されてもよい。
【0036】
図2は、判定装置12のハードウェアとして用いられるコンピュータ10の基本構成を示した図である。コンピュータ10は、各種データを記憶するメモリ101、メモリ101に記憶されているプログラムに従う各種データ処理を行うプロセッサ102、撮像装置11との間でデータ通信を行うIF(Interface)である通信IF103、ユーザに対し画像を表示する液晶ディスプレイ等の表示装置104、ユーザの操作を受け付けるタッチパネル等の操作装置105を備える。
【0037】
なお、コンピュータ10に内蔵される表示装置104に代えて、コンピュータ10に接続される外付けの表示装置が用いられてもよい。また、コンピュータ10に内蔵される操作装置105に代えて、コンピュータ10に接続される外付けの操作装置が用いられてもよい。
【0038】
図3は、判定装置12の機能構成を示した図である。コンピュータ10が判定装置12用のプログラムに従った処理を行うことにより、図3に示される機能構成を備える判定装置12が実現される。以下に判定装置12が備える機能構成を説明する。
【0039】
判定装置12は、各種データを記憶する記憶手段121と、撮像装置11から画像データを受信する画像データ受信手段122と、画像データ受信手段122が撮像装置11から受信した画像データが表す画像において、既知の画像認識処理によりグラブ924、貨物倉91内の作業者や重機等の対象物、船舶9を構成する構造物の特徴部分を各々認識する画像認識手段123と、画像認識手段123により認識されたグラブ924および対象物の現在の移動状態が維持された場合、近い将来、平面上においてそれらが接触または近接するか否かを判定する判定手段124と、判定手段124による判定の結果等を表す画像の表示を表示装置104に対し指示する表示指示手段125を備える。
【0040】
記憶手段121には、予め、グラブ924の外観上の特徴を示す吊り荷特徴データ、作業者や重機等の対象物の各々に関し当該対象物の外観上の特徴を示す対象物特徴データ、船舶9を構成する複数の部分の各々に関し当該部分の外観上の特徴を示す構造物特徴データが記憶されている。これらのデータは、画像認識手段123が撮像装置11により撮像された画像においてグラブ924等の認識を行うために用いられるデータである。
【0041】
また、記憶手段121には、画像データ受信手段122により撮像装置11から受信される画像データが蓄積される。図4は、記憶手段121が画像データを蓄積するために用いるテーブルである画像テーブルのデータ構造を例示した図である。画像データ受信手段122が撮像装置11から受信する画像データには、画像データが表す画像の撮像された時刻を示す時刻データが伴っている。画像テーブルは、時刻データを格納する「時刻」フィールドと、画像データを格納する「画像」フィールドを有する。
【0042】
また、記憶手段121には、画像認識手段123により認識された吊り荷等の、画像における位置等を示すデータが蓄積される。図5は、記憶手段121がグラブ924(吊り荷)の位置等を示すデータを蓄積するために用いるテーブルである吊り荷位置テーブル、および、記憶手段121が作業者、重機等の対象物の位置等を示すデータを蓄積するために用いるテーブルである対象物位置テーブルのデータ構造を例示した図である。対象物位置テーブルは、画像認識手段123により認識された対象物の各々に応じて生成される。
【0043】
吊り荷位置テーブルおよび対象物位置テーブルは、認識に用いられた画像の撮像時刻を示す時刻データを格納する「時刻」フィールドと、認識された吊り荷または対象物の位置を示す位置データを格納する「位置」フィールドと、認識された吊り荷または対象物のサイズを示すサイズデータを格納する「サイズ」フィールドを有する。「サイズ」フィールドに格納されるサイズデータは、例えば、吊り荷等の認識に用いられた画像における、認識された吊り荷等に外接する円の直径を示す。また、「位置」フィールドに格納される位置データは、例えば、吊り荷等の認識に用いられた画像における、認識された吊り荷等に外接する円の中心位置の座標を示す。
【0044】
また、記憶手段121には、画像認識手段123により認識された船舶9を構成する構造物の特徴部分の、画像における位置等を示すデータが蓄積される。図6は、記憶手段121が当該特徴部分の位置等を示すデータを蓄積するために用いるテーブルである構造物位置テーブルのデータ構造を例示した図である。構造物位置テーブルは、予め選定された複数の特徴部分の各々に応じて生成される。以下、例として、貨物倉91のハッチコーミング912の4つの角部分のうち船首側かつ右舷側の角部分と、船尾側かつ左舷側の角部分が特徴部分として選定されているものとする。
【0045】
構造物位置テーブルは、認識に用いられた画像の撮像時刻を示す時刻データを格納する「時刻」フィールドと、認識された特徴部分の位置を示す位置データを格納する「位置」フィールドを有する。「位置」フィールドに格納される位置データは、例えば、特徴部分の認識に用いられた画像における、認識された特徴部分の座標を示す。
【0046】
図3に戻り、判定装置12の機能構成の説明を続ける。画像データ受信手段122は、既述のとおり、撮像装置11から順次送信されてくる画像データを受信する。画像データ受信手段122により受信された画像データは画像テーブル(図4)に格納される。
【0047】
画像認識手段123は、既述のとおり、既知の画像認識処理により画像データ受信手段122が撮像装置11から受信した画像データが表す画像において、吊り荷特徴データを用いてグラブ924を、対象物特徴データを用いて貨物倉91内の作業者や重機等の対象物を、また、構造物特徴データを用いて特徴部分(ハッチコーミング912の2つの角部)を、各々認識する。画像認識手段123により認識されたグラブ924等の位置等を示すデータは、吊り荷位置テーブル(図5)、対象物位置テーブル(図5)、もしくは構造物位置テーブル(図6)に格納される。
【0048】
判定手段124は、既述のとおり、画像認識手段123により認識されたグラブ924および対象物の現在の移動状態が維持された場合、近い将来、平面上においてそれらが接触または近接するか否かを判定する。なお、「平面上において接触」とは、三次元空間において接触していなくても、グラブ924が対象物の真上を通過するような場合を含むことを意味する。
【0049】
図7Aおよび図7B(以下、「図7」と総称する)は、予め定められた時間の経過毎に判定手段124が行う処理のフローを示した図である。判定手段124は、まず、吊り荷位置テーブル(図5)から時刻データが示す時刻が2番目に新しいレコード(以下、時刻(k−1)のレコードとする)を読み出し、時刻(k−1)のレコードの位置データが示すグラブ924の座標(時刻(k−1)に撮像された画像の座標系における吊り荷の座標)を、最新の画像(時刻(k)に撮像された画像とする)の座標系における座標に変換する処理を行う(ステップS101)。
【0050】
ステップS101の処理における座標の変換は、時刻(k−1)に撮像された画像における複数の特徴部分(ハッチコーミング912の2つの角部分)の座標を、時刻(k)に撮像された画像におけるそれらの特徴部分の座標に各々対応させる写像により行われる。具体的には、判定手段124は複数の特徴部分の各々に応じた構造物位置テーブル(図6)から時刻(k)および時刻(k−1)のレコードを読み出し、読み出したそれらのレコードの位置データが示す座標を用いた既知の行列計算により、吊り荷位置テーブルから読み出した時刻(k−1)のレコードの位置データが示す座標を変換する。
【0051】
続いて、判定手段124は吊り荷位置テーブル(図5)から時刻(t)のレコードを読み出し、ステップS101における変換により得られた座標(時刻(k−1)のグラブ924の座標)を始点とし、読み出した時刻(t)のレコードの位置データが示す座標(時刻(k)のグラブ924の座標)を終点とするベクトルを特定する(ステップS102)。このベクトルは、現時点におけるグラブ924の移動方向および移動速度を示す。判定手段124は、ステップS102において特定したベクトルを示すベクトルデータを一時的に記憶手段121に記憶させる。
【0052】
続いて、判定手段124は画像認識手段123により認識されている対象物を順次選択するために用いるカウンタiに初期値「1」を代入する(ステップS103)。以下、画像認識手段123により認識されている対象物の個数をnとする。
【0053】
続いて、判定手段124は画像認識手段123により認識されている対象物のうち第i番目の対象物に関し、ステップS101およびS102と同様の処理を行う(ステップS104およびS105)。これにより、第i番目の対象物の移動方向および移動速度を示すベクトルが特定される。判定手段124は、ステップS105において特定したベクトルを示すベクトルデータを一時的に記憶手段121に記憶させる。
【0054】
続いて、判定手段124はi=nであるか否かの判定を行う(ステップS106)。この判定は、画像認識手段123により認識されている全ての対象物に関し移動方向および移動速度を示すベクトルの特定が完了したか否かの判定である。ベクトルが特定されていない対象物がまだある場合(ステップS106;「No」)、判定手段124はカウンタiを1だけ増加し(ステップS107)、処理をステップS104に戻す。
【0055】
全ての対象物に関するベクトルの特定が完了すると(ステップS106;「Yes」)、判定手段124は続いて、ステップS102において特定したベクトルが示すグラブ924の移動速度に応じた距離の閾値Dを設定する(ステップS108)。閾値Dは、グラブ924と対象物が平面上でその距離以上に離れていればそれらが接触する危険性がない、とみなせる距離を意味する。グラブ924の移動速度が速い程、グラブ924またはグラブ924が掴んでいる貨物が落下した場合、落下直前のグラブ924の位置から遠くまで落下物が到達する可能性がある。従って、判定手段124はグラブ924の移動速度が大きい程、大きい閾値Dを設定する。例えば、判定手段124はグラブ924の移動速度を変数とする予め定められた関数(グラブ924の移動速度の単調増加関数)として閾値Dを算出する。
【0056】
続いて、判定手段124は、現時点からの経過時間を示す変数tに初期値「0」を代入し、また、グラブ924と対象物の接触または近接の警報の要否を示すフラグf(1)〜f(n)に初期値「0」を代入する(ステップS109)。なお、フラグf(i)は、第i番目の対象物に応じたフラグである。
【0057】
続いて、判定手段124は変数tに予め定められた時間Δtを加算し(ステップS110)、変数tが予め定められた時間の閾値Tより大きいか否かを判定する(ステップS111)。閾値Tは、グラブ924と対象物の現時点の移動状態(本実施形態においては、移動方向と移動速度)が維持された場合、仮に現時点からその時間が経過した後に平面上でそれらが接触するとしても、その時間の経過以前にクレーン92の操作者によりグラブ924の移動状態を変更する適切な操作が行われれば接触が確実に回避可能である時間を意味する。
【0058】
変数tが閾値T以下である場合(ステップS111;「No」)、判定手段124はステップS102において特定したベクトルが示す移動方向および移動速度が維持されると仮定して、現時点より時間tが経過した時点のグラブ924の位置(時刻(k)に撮像された画像の座標系における座標)を推定する(ステップS112)。
【0059】
続いて、判定手段124はカウンタiに初期値「1」を代入する(ステップS113)。続いて、判定手段124は第i番目の対象物に関し、ステップS112と同様の処理、すなわち、ステップS105において特定したベクトルが示す移動方向および移動速度が維持されると仮定して、現時点より時間tが経過した時点の対象物の位置(時刻(k)に撮像された画像の座標系における座標)を推定する(ステップS114)。
【0060】
続いて、判定装置12はステップS112において推定したグラブ924の位置と、ステップS114において推定した第1番目の対象物の位置と間の距離dがステップS108において設定した閾値D未満であるか否かを判定する(ステップS115)。現時点より時間tが経過した時点におけるグラブ924の位置と第1番目の対象物の位置と間の距離dが閾値D未満である場合(ステップS115;「Yes」)、判定手段124はフラグf(i)に警告を要することを示す「1」を代入する(ステップS116)。一方、現時点より時間tが経過した時点におけるグラブ924の位置と第1番目の対象物の位置と間の距離dが閾値D以上である場合(ステップS115;「No」)、判定手段124はフラグf(i)に変更を加えない。
【0061】
続いて、判定手段124はi=nであるか否かの判定を行う(ステップS117)。i<nの場合(ステップS117;「No」)、判定手段124はカウンタiを1だけ増加し(ステップS118)、処理をステップS114に戻す。その後、別の対象物に関しステップS114以降の処理が繰り返され、グラブ924との接触または近接の可能性が判定される。一方、i=nの場合(ステップS117;「Yes」)、判定手段124は処理をステップS110に戻す。その後、さらに時間tが経過した時点におけるグラブ924とn個の対象物の各々との接触または近接の可能性が判定される。
【0062】
ステップS111の判定において、変数tが閾値Tを超えた場合(ステップS111;「Yes」)、判定手段124はその時点におけるフラグf(1)〜f(n)を一時的に記憶手段121に記憶させ、一連の処理を終了する。
【0063】
上述した一連の処理により、グラブ924およびn個の対象物の各々の移動方向および移動速度を示すベクトルが特定されるとともに、n個の対象物の各々に関し、現時点から閾値Tの時間が経過するまでの間にグラブ924と当該対象物とが接触または近接する可能性の有無を示すフラグf(1)〜f(n)が得られる。以上が判定手段124により行われる処理の説明である。
【0064】
図3に戻り、判定装置12の機能構成の説明を続ける。表示指示手段125は、既述のとおり、判定手段124による判定の結果等を表す画像の表示を表示装置104に対し指示する。図8は、表示指示手段125の指示に従い表示装置104が表示する画像を例示した図である。図8の画像は、撮像装置11により撮像された最新の画像からハッチコーミング912で囲まれた領域を切り出したものの上に、グラブ924および対象物の各々に外接する円と、それらの移動方向および移動速度を示す矢印とを付加した画像である。
【0065】
表示指示手段125は、予め定められた時間の経過毎に、以下の処理を行い表示装置104に表示を指示する画像を生成する。まず、表示指示手段125は以下のデータを読み出す。
(a)画像テーブル(図4)の最新のレコードに格納されている画像データ
(b)吊り荷位置テーブル(図5)の最新のレコードに格納されている位置データとサイズデータ
(c)対象物位置テーブル(図5)の各々の最新のレコードに格納されている位置データとサイズデータ
(d)記憶手段121に一時的に記憶されている、グラブ924に応じたベクトルデータ(e)記憶手段121に一時的に記憶されている、対象物の各々に応じたベクトルデータ(f)記憶手段121に一時的に記憶されている、フラグf(1)〜f(n)
(g)構造物位置テーブル(図6)の各々の最新のレコードに格納されている位置データ
【0066】
続いて、表示指示手段125は、上記(a)で読み出した画像データが表す画像の上に、上記(b)で読み出した位置データが示す位置が中心であり、上記(b)で読み出したサイズデータが示す直径の円を付加する。また、表示指示手段125は、上記(d)で読み出したベクトルデータが示すベクトルに応じた方向および長さの矢印を、当該付加した円から外側に延びるように付加する。その際、上記(f)で読み出したフラグf(1)〜f(n)の全てが「0」を示す場合、表示指示手段125は例えば青色の円および矢印を付加し、いずれかのフラグが「1」を示す場合、表示指示手段125は例えば赤色の円および矢印を付加する。
【0067】
続いて、表示指示手段125は、複数の対象物の各々に関し、上記(c)で読み出した位置データが示す位置が中心であり、上記(c)で読み出したサイズデータが示す直径の円を付加し、上記(e)で読み出したベクトルデータが示すベクトルに応じた方向および長さの矢印を、当該付加した円から外側に延びるように付加する。その際、上記(f)で読み出したフラグf(1)〜f(n)のうち円および矢印を付加する対象物に応じたフラグが「0」を示す場合、表示指示手段125は例えば青色の円および矢印を付加し、対象物に応じたフラグが「1」を示す場合、表示指示手段125は例えば赤色の円および矢印を付加する。
【0068】
続いて、表示指示手段125は上記のように円および矢印を付加した画像のうち、上記(g)で読み出した位置データが示す2つの位置(ハッチコーミング912の船首側かつ右舷側の角部分および船尾側かつ左舷側の角部分の位置)を結ぶ線分を対角線とする矩形領域を切り出す。
【0069】
続いて、表示指示手段125は、切り出した矩形領域の画像を予め定められたサイズとなるように拡大または縮小する。その際、表示指示手段125は画像に付加した円や矢印の線の太さが拡大または縮小の比率にかかわらず同一となるように調整する。表示指示手段125は、このように生成した画像を表示装置104に出力し、当該画像の表示を指示する。その結果、図8に例示されるような画像が表示装置104により表示される。
【0070】
操作者は、クレーン92を操作する際、表示装置104により表示される画像(図8)を見ることにより、グラブ924の移動方向および移動速度と、貨物倉91の作業者や重機等の対象物の各々の移動方向および移動速度とを直観的に知ることができるとともに、グラブ924が対象物の各々と接触または近接する可能性があるか否かを直観的に知ることができる。例えば、操作者は表示装置104に赤い円や矢印が表示されていない間は自由にクレーン92の操作を行うことができるため、作業効率が上がる。そして、表示装置104に赤い円や矢印が表示された場合には、ジブ922の移動速度を落としたり、移動方向を変更したりすることで、グラブ924と対象物との接触や近接を回避することができる。このように、上述した実施形態にかかる判定システム1によれば、クレーン92の操作者の負担が軽減されるとともに、作業効率の向上と安全の確保が実現する。
【0071】
[変形例]
上述した実施形態は本発明の技術的思想の範囲内において様々に変形可能である。以下にそれらの変形の例を示す。なお、これらの変形例は適宜組み合わせられてもよい。
【0072】
(1)上述した実施形態において、判定手段124は、吊り荷および対象物の現時点における移動方向と移動速度が現時点から時間の閾値Tが経過する期間(以下、便宜的に「将来の期間」という)、維持されると仮定して、吊り荷および対象物の将来の位置を推定する。判定手段124が吊り荷および対象物の将来における位置を推定する方法はこれに限られない。
【0073】
例えば、判定手段124が、吊り荷および対象物の過去の位置の経時変化に基づき、移動方向と移動速度に加え、移動における加速度を特定して、特定した加速度が将来の期間においても維持されると仮定して、吊り荷および対象物の将来の位置を推定してもよい。
【0074】
また、判定手段124が、吊り荷の過去の位置の経時変化により示される移動経路の近似曲線を既知の手法により吊り荷の移動状態を表す情報として特定し、特定した近似曲線に基づき、吊り荷の将来の期間における移動経路を推定してもよい。図9はこの変形例において判定手段124が行う処理を説明するための図である。図9に示される実線の曲線ABは現時点に至るまでの過去の期間においてグラブ924が移動した経路を示している。なお、点Bがグラブ924の現時点における位置である。
【0075】
判定手段124は、曲線ABの近似曲線を特定する。図9に示される破線の曲線ACは、判定手段124により特定された近似曲線の例を示している。なお、グラブ924の移動経路は、ジブ922の旋回に伴うクレーンポスト921の軸を中心とする円に沿った移動の成分、ジブ922の起伏や伸縮に伴うクレーンポスト921の軸を中心とする円の半径方向に沿った移動の成分等の組み合わせにより定まる。従って、クレーンの吊り荷の移動経路の近似曲線としては、多項式曲線等の非線形曲線が用いられることが望ましい。
【0076】
判定手段124は将来の期間、特定した近似曲線に沿って吊り荷が移動した場合の吊り荷の将来における位置を推定し、そのように推定した位置を用いて吊り荷と対象物との接触または近接の判断を行う。
【0077】
また、判定手段124が、吊り荷の画像内における移動の軌跡に含まれる振動成分を吊り荷の移動状態を表す情報として特定し、特定した振動成分を用いて吊り荷と対象物との接触または近接の判断を行ってもよい。
【0078】
図9に示される実線の曲線ABは、過去に撮像された複数の画像の各々の座標系におけるグラブ924の座標を、最新の画像の座標系における座標に変換したものを補間して得られた曲線である。図10は、過去に撮像された複数の画像の各々の座標系における画像の中心点の座標を最新の画像の座標系における座標に変換したものを始点とし、過去に撮像された複数の画像の各々の座標系におけるグラブ924の座標を最新の画像の座標系における座標に変換したものを終点とするベクトルの経時変化を示した図である。図10に示されるベクトルの方向は概ね1時30分と7時30分の方向であり、それらのベクトルの長さは周期的に増減している。
【0079】
この変形例において、判定手段124は図10に例示したような経時変化するベクトルを特定し、特定したベクトルの方向と、ベクトルの長さの増減の周期および振幅とをグラブ924の振動成分を表す情報として特定する。判定手段124は吊り荷が将来の期間、そのように特定した方向、周期および振幅の振動を継続すると仮定して、吊り荷の将来における位置を推定し、そのように推定した位置を用いて、吊り荷と対象物との接触または近接の判断を行う。
【0080】
図11に示される破線の曲線ACは、図9に示した破線の近似曲線ACに対し、上記のように特定される振動成分を付加して得られる曲線である。判定手段124は、吊り荷が図11に示される破線の曲線ACに沿って吊り荷が移動した場合の吊り荷の将来における位置を推定し、そのように推定した位置を用いて吊り荷と対象物との接触または近接の判断を行う。
【0081】
なお、図10に例示のベクトルは概ね方向が一致しているが、吊り荷の振動面が回転する場合、ベクトルの方向が時間の経過に伴い概ね一定の角速度で変化する。従って、判定手段124が吊り荷の移動の軌跡に含まれる振動成分を表す情報として、現時点における振動の方向、周期および振幅に加えて、振動の方向の変化率(角速度)を特定し、吊り荷と対象物との接触または近接の判断に用いてもよい。
【0082】
また、判定手段124が、画像認識手段123により認識された吊り荷の特徴点の位置に基づき、ロープ923を軸とする吊り荷の回転の状態を示す情報を吊り荷の移動状態を表す情報として特定し、特定した吊り荷の回転の状態を示す情報を用いて吊り荷と対象物との接触または近接の判断を行ってもよい。
【0083】
図12は、この変形例において用いられる吊り荷位置テーブルのデータ構造を例示した図である。この変形例においては、画像認識手段123により認識された吊り荷の位置として、中心位置に加え、ロープ923と吊り荷の連結点の位置(連結点位置)と、吊り荷の四隅の位置(第1角位置〜第4角位置)が特定される。
【0084】
図13は、吊り荷位置テーブル(図12)に格納される連結点位置の座標と第1角位置の座標とを最新の画像の座標系における座標に変換し、変換後の連結点位置の座標を始点とし、変換後の第1角位置の座標を終点とするベクトルの経時変化を示した図である。図13に示されるベクトルの方向は概ね11時の方向と1時の方向との間で周期的に変化している。
【0085】
この変形例において、判定手段124は図13に例示したような経時変化するベクトルを特定し、特定したベクトルの方向の変化の方向および変化の速度(角速度)を、ロープ923を軸とする吊り荷の回転の状態を示す情報として特定する。なお、図13に例示のようにベクトルの方向が一定の角度範囲内で周期的に変化する場合、判定手段124はその角度範囲と周期を回転の状態を示す情報として特定する。また、ベクトルの方向が概ね一定の角速度で同一方向に変化する場合、判定手段124はその回転の方向と速度(角速度)を回転の状態を示す情報として特定する。
【0086】
図14は、吊り荷がグラブ924ではなく長尺の部材である場合を例として、吊り荷がロープ923を軸とする回転を伴いながら移動する様子を示した図である。図14において、実線で示される矩形は画像認識手段123により認識された吊り荷の過去の位置(姿勢)を示し、破線で示される曲線は吊り荷の中心の移動経路の近似曲線を示している。また、図14において破線で示される矩形は、将来の期間において吊り荷の中心が近似曲線に沿って移動し、かつ、上述したように特定される回転の状態が将来の期間において維持されると仮定した場合の、吊り荷の将来の位置(姿勢)を示す。
【0087】
判定手段124は、図14において破線の矩形で示される吊り荷の位置(姿勢)を推定し、推定した吊り荷の位置(姿勢)に基づき、吊り荷と対象物との接触または近接の判断を行う。
【0088】
(2)上述した実施形態においては、吊り荷の高さは考慮されない。吊り荷が移動中に落下した場合、吊り荷の高さが高い程、吊り荷は落下中に遠くまで移動する。従って、判定手段124が吊り荷の高さを特定し、特定した吊り荷の高さを用いて吊り荷と対象物との接触または近接の判断を行ってもよい。
【0089】
吊り荷が高い程、画像において船舶9の構造物のサイズに対する吊り荷のサイズが大きくなる。従って、例えば、判定手段124が、画像認識手段123により画像において認識される船舶9の構造物の2つの特徴部分(例えば、ハッチコーミング912の2つの角部分)の間の距離に対する吊り荷のサイズの比率を算出し、当該比率が大きい程、距離の閾値Dを大きく設定する構成が採用されてもよい。
【0090】
(3)判定装置12が、判定手段124による判定の結果に応じた音の発音を発音装置に指示する発音指示手段を備えてもよい。
【0091】
(4)判定装置12が、判定手段124による判定の結果に応じた制御の実行をクレーン92の制御装置に指示する制御指示手段を備えてもよい。例えば、判定手段124が、上述した実施形態において用いられる距離の閾値Dに加え、閾値Dよりも小さい値の距離の閾値Eを設定し、閾値Eの距離よりも吊り荷と対象物が近接すると推定された場合、制御指示手段がジブ922の移動の速度を低下させる制御をクレーン92の制御装置に指示する構成が採用されてもよい。
【0092】
(5)上述した実施形態において吊り荷はグラブであるものとしたが、吊り荷の形態や種類は限定されない。
【0093】
(6)本発明にかかる判定システムの用途は船舶に搭載されているクレーンに限られず、例えば地上で用いられるクレーンにおいて本発明にかかる判定システムが採用されてもよい。
【符号の説明】
【0094】
1…判定システム、9…船舶、10…コンピュータ、11…撮像装置、12…判定装置、91…貨物倉、92…クレーン、101…メモリ、102…プロセッサ、103…通信IF、104…表示装置、105…操作装置、121…記憶手段、122…画像データ受信手段、123…画像認識手段、124…判定手段、125…表示指示手段、911…本体、912…ハッチコーミング、913…ハッチカバー、921…クレーンポスト、922…ジブ、923…ロープ、924…グラブ、925…操作室
【要約】
多くのセンサを用いることなく、クレーンの操作者の負担を軽減するための手段を実現することを目的とする。この目的を達成するために、本発明は一実施形態として判定システム(1)を提案する。判定システム(1)は、クレーン(92)のジブ(922)の先端付近に配置され継続的に下方に撮像を行う撮像装置(11)と、撮像装置(11)により撮像された画像を認識し、画像におけるグラブ(924)および貨物倉(91)内の作業者や重機等の対象物の移動状態を特定し、特定した移動状態に基づき近い将来、グラブ(924)と対象物とが平面上で接触または近接する可能性の有無を判定する判定装置(12)を備える。判定装置(12)は、グラブ(924)と対象物の接触または近接の可能性があると判定した場合、クレーン(92)の操作者に対する通知を行う。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14