(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記観測装置は、レーダ波を発射して反射波を受信し、前記反射波の受信信号に含まれる周波数情報から、前記前方物体の前記速度Vを観測し、前記受信信号に含まれる位相情報から前記前方物体までの前記距離Rを観測する装置であること
を特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一項記載の推定装置。
前記観測装置は、二周波CW(Continuous Wave)方式によりレーダ波を発射して反射波を受信し、前記反射波の受信信号から前記前方物体までの前記距離R及び前記前方物体の速度Vを観測する装置であること
を特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一項記載の推定装置。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施例について、図面と共に説明する。
図1に示す本実施例の車載システム1は、レーダ装置10と運転支援ECU100とを備える。この車載システム1は、四輪自動車等の車両に搭載される。
【0021】
レーダ装置10は、レーダ波を発射して、この反射波を受信し、この受信信号に基づいて、レーダ波を反射した前方物体である物標までの距離R、物標の速度V、及び、物標の方位θを観測するものである。レーダ装置10は、これらの観測値(R
z,V
z,θ
z)を運転支援ECU100に入力する。具体的に、本実施例のレーダ装置10は、二周波CW方式のレーダ装置として構成される。
【0022】
このレーダ装置10は、送信回路20と、分配器30と、送信アンテナ40と、受信アンテナ50と、受信回路60と、処理ユニット70と、出力ユニット80と、を備える。
送信回路20は、送信アンテナ40に送信信号Ssを供給するための回路である。送信回路20は、ミリ波帯の高周波信号を、送信アンテナ40の上流に位置する分配器30に入力する。具体的に、送信回路20は、短い時間間隔で交互に、第一周波数(f1)の高周波信号と、第一周波数(f1)とは僅かに周波数の異なる第二周波数(f2)の高周波信号と、を生成して分配器30に入力する。
【0023】
分配器30は、この送信回路20から入力される高周波信号を、送信信号Ssとローカル信号Lとに電力分配する。
送信アンテナ40は、分配器30から供給される送信信号Ssに基づいて、送信信号Ssに対応する周波数のレーダ波を自車両前方に発射する。これにより、
図2左領域に示すように、第一周波数(f1)のレーダ波と、第二周波数(f2)のレーダ波とを交互に出力する。
【0024】
一方、受信アンテナ50は、物標から反射されたレーダ波(反射波)を受信するためのアンテナである。この受信アンテナ50は、複数のアンテナ素子51が一列に配置されたリニアアレーアンテナとして構成される。各アンテナ素子51による反射波の受信信号Srは、受信回路60に入力される。
【0025】
受信回路60は、受信アンテナ50を構成する各アンテナ素子51から入力される受信信号Srを処理して、アンテナ素子51毎のビート信号BTを生成し出力する。具体的に、受信回路60は、アンテナ素子51毎に、当該アンテナ素子51から入力される受信信号Srと分配器30から入力されるローカル信号Lとをミキサ61を用いて混合することにより、アンテナ素子51毎のビート信号BTを生成して出力する。
【0026】
但し、ビート信号BTを出力するまでの過程には、受信信号Srを増幅する過程、ビート信号BTから不要な信号成分を除去する過程、及び、ビート信号BTをディジタルデータに変換する過程が含まれる。このように、受信回路60は、生成したアンテナ素子51毎のビート信号BTをディジタルデータに変換して出力する。出力されたアンテナ素子51毎のビート信号BTは、処理ユニット70に入力される。
【0027】
処理ユニット70は、アンテナ素子51毎のビート信号BTを解析することにより、レーダ波を反射した物標毎の観測値(R
z,V
z,θ
z)を算出するものである。観測値R
zは、レーダ装置10(換言すればレーダ装置10の搭載された自車両K1)から物標までの距離Rの観測値であり、観測値V
zは、物標の自車両K1に対する相対速度Vの観測値である。また、観測値θ
zは、物標の自車両K1の前後方向とは直交するアンテナ素子51の配列方向を基準した方位θ(
図2右領域参照)についての観測値である。
図2右領域における実線矢印は、レーダ波が自車両K1の前方車両K2によって反射される環境でのレーダ波の伝播方向を簡易に示すものである。
【0028】
ビート信号BTから物標毎の観測値(R
z,V
z,θ
z)を算出する方法は、公知である。従って、ここでは、処理ユニット70における観測値(R
z,V
z,θ
z)の算出方法を、簡易説明する。
【0029】
観測値(R
z,V
z,θ
z)を算出するために、処理ユニット70は、アンテナ素子51毎に、ビート信号BTに含まれる第一及び第二ビート信号をフーリエ変換する。これにより、第一及び第二ビート信号を周波数領域の信号に変換する。
【0030】
ここで言う第一ビート信号とは、ミキサ61により受信信号Srと第一周波数(f1)のローカル信号Lとが混合されるときに生成されるビート信号BTのことであり、第二ビート信号とは、ミキサ61により受信信号Srと第二周波数(f2)のローカル信号Lとが混合されるときに生成されるビート信号BTのことである。レーダ波の送受信に要する時間は微小であるため、第一ビート信号には、第一周波数(f1)のレーダ波の反射波成分が含まれ、第二のビート信号には、第二周波数(f2)のレーダ波の反射波成分が含まれる。
【0031】
上記変換後、処理ユニット70は、アンテナ素子51毎の周波数領域信号(上記フーリエ変換後の第一及び第二ビート信号)に基づいて、アンテナ素子51毎の第一及び第二ビート信号の一群におけるパワースペクトルの平均を算出し、この平均から、パワーが閾値以上の周波数であるピーク周波数を検出する。このピーク周波数に対応する第一及び第二ビート信号の信号成分は、反射波成分に対応する。尚、第一周波数(f1)と第二周波数(f2)との間の周波数差は僅かであるため、第一及び第二ビート信号の夫々におけるピーク周波数の違いについては無視できる点に留意されたい。
【0032】
その後、処理ユニット70は、ピーク周波数毎に、当該ピーク周波数の情報から物標の相対速度Vについての観測値V
zを算出する。更に、ピーク周波数毎に、当該ピーク周波数に対応する第一ビート信号BTの反射波成分と、当該ピーク周波数に対応する第二ビート信号BTの反射波成分との位相差に基づいて、物標までの距離Rについての観測値R
zを算出する。また、ピーク周波数毎に、当該ピーク周波数に対応する第一及び第二ビート信号BTの反射波成分についてのアンテナ素子間の位相差から、物標までの方位θについての観測値θ
zを算出する。
【0033】
処理ユニット70は、このようにしてビート信号BTの周波数情報から物標毎の相対速度Vについての観測値V
zを算出し、ビート信号BTの位相情報から物標毎の距離R及び方位θについての観測値R
z及び観測値θ
zを算出する。そして、これら物標毎の観測値(R
z,V
z,θ
z)を、出力ユニット80を介して運転支援ECU100に入力する。
【0034】
一方、運転支援ECU100は、制御ユニット110と、入力ユニット120と、を備える。制御ユニット110は、レーダ装置10から入力ユニット120を介して入力される各物標の観測値(R
z,V
z,θ
z)に基づいて、各物標の状態推定を行う。この推定結果に基づいて、運転者による車両の運転を支援するための処理を実行する。
【0035】
具体的に、制御ユニット110は、各種プログラムに従う処理を実行するCPU111と、これら各種プログラムを記憶するROM113と、CPU111による処理実行時に作業領域として使用されるRAM115と、を備える。ROM113としては、例えば、フラッシュメモリ等の電気的にデータ書換可能な不揮発性メモリを採用可能である。状態推定に関する処理や運転支援に関する処理を含む各種処理は、CPU111による上記プログラムに従う処理の実行により実現される。
【0036】
制御ユニット110は、運転支援に関する処理として、例えば、制御対象200としての表示装置を制御することにより、接近物があることを運転者に警告表示する処理を実行する。この他、制御ユニット110は、運転支援に関する処理として、制御対象200としてのブレーキシステムやステアリングシステム等を制御することにより、接近物との衝突回避のための車両制御を実行する。
【0037】
運転支援ECU100は、制御対象200とは専用線を介して、又は、車内ネットワークを介して制御可能に接続される。車内ネットワークを介した車両制御は、例えば、エンジンECUやブレーキECU、ステアリングECU等の車内ネットワーク内の電子制御装置(ECU)との協働により実現される。エンジンECUは、内燃機関を制御する電子制御装置のことであり、ステアリングECUは、ステアリング制御を行う電子制御装置のことであり、ブレーキECUは、制動制御を行う電子制御装置のことである。
【0038】
また、制御ユニット110は、観測値(R
z,V
z,θ
z)に基づく各物標の状態推定に際し、
図3に示すように、物標毎のEKFトラッカQ1を生成する。そして、このEKFトラッカQ1を用いた物標の状態推定を行う。EKFトラッカQ1は、拡張カルマンフィルタ(EKF)によって物標の状態推定を行うトラッカである。
【0039】
周知のように、拡張カルマンフィルタは、非線形状態空間モデルを線形近似して状態量の推定を行うカルマンフィルタである。トラッカは、例えば、オブジェクトやタスクとして生成される。以下では、トラッカを処理の実行主体とした表現を用いて、トラッカにより実現される処理を説明する場合があるが、この表現は、トラッカに対応する処理を制御ユニット110が実行することを意味する。
【0040】
制御ユニット110は、EKFトラッカQ1の生成時、当該EKFトラッカQ1に対して物標の状態量についての初期値を設定する。この設定に際して、
図3に示す機能F1〜F4により、特徴的な処理動作を実現する。
【0041】
即ち、制御ユニット110は、レーダ装置10から得られた各物標の観測値(R
z,V
z,θ
z)をEKFトラッカQ1に割り当てる(割当機能F1)。但し、EKFトラッカQ1により追跡されていない新規物標の観測値(R
z,V
z,θ
z)が生じた場合には、LKFトラッカQ2を生成する。そして、このLKFトラッカQ2に該当する観測値(R
z,V
z)を割り当てて、観測値(R
z,V
z)の補正を行う(補正機能F2)。
【0042】
LKFトラッカQ2は、線形カルマンフィルタ(LKF)により物標の状態推定を行うトラッカである。周知のように線形カルマンフィルタは、線形状態空間モデルに基づく状態量の推定を行うカルマンフィルタである。本実施例のLKFトラッカQ2は、物標の距離R方向への運動がモデル化された簡易な一次元の直線運動モデルに従って、物標までの距離R及び物標との相対速度Vを含む状態量(R,V)を推定するトラッカとして構成される。
【0043】
このLKFトラッカQ2は、方位θについての観測値θ
zを用いずに状態推定を行う。即ち、LKFトラッカQ2は、距離R及び相対速度Vについての観測値(R
z,V
z)を用いて、状態量(R,V)を推定する。
【0044】
制御ユニット110は、LKFトラッカQ2による各時刻の状態量(R,V)の事後推定値を、補正後の観測値(R
c,V
c)として用いて後続の処理を実行する。
即ち、制御ユニット110は、上記後続の処理として、補正後の観測値(R
c,V
c)を標本として用いた特徴的な線形回帰分析を行う(回帰分析機能F3)。これによって、各時刻における物標までの距離Rについての高精度な推定を行う。そして、制御ユニット110は、EKFトラッカQ1を生成しつつ、この距離Rの推定値R
eを用いて、EKFトラッカQ1に設定する状態量の初期値を決定し、生成したEKFトラッカQ1に当該初期値を設定する(EKFトラッカ生成機能F4)。
【0045】
具体的に、制御ユニット110は、
図4にトラッキング処理を、観測値(R
z,V
z,θ
z)のサンプリング周期毎に繰り返し実行する。これによって、上述した機能F1〜F4を実現し、EKFトラッカQ1を用いた物標の状態推定を行う。
【0046】
図4に示すトラッキング処理を開始すると、制御ユニット110は、レーダ装置10から得られる物標毎の観測値(R
z,V
z,θ
z)を取り込む(S110)。その後、物標毎の観測値(R
z,V
z,θ
z)の内、EKFトラッカQ1にて追跡されている物標の観測値(R
z,V
z,θ
z)の夫々を、対応する物標のEKFトラッカQ1に割り当てる(S120)。
【0047】
また、残りの観測値(R
z,V
z,θ
z)の内、LKFトラッカQ2にて追跡されている物標の観測値(R
z,V
z,θ
z)の夫々を、対応する物標のLKFトラッカQ2に割り当てる(S130)。
【0048】
S110で取り込まれた物標毎の観測値(R
z,V
z,θ
z)の中に、EKFトラッカQ1及びLKFトラッカQ2のいずれによっても追跡されていない新規物標の観測値(R
z,V
z,θ
z)が存在する場合、制御ユニット110は、S140において肯定判断し、S150に移行する。
【0049】
S150では、新規物標毎に、新たなLKFトラッカQ2を生成する。生成したLKFトラッカQ2の夫々には、状態量(R,V)の初期値として、対応する新規物標の観測値(R
z,V
z)を設定する。その後、S160に移行する。一方、新規物標の観測値(R
z,V
z)がなく、S140にて否定判断すると、制御ユニット110は、S150をスキップしてS160に移行する。
【0050】
S160に移行すると、制御ユニット110は、生成済の全トラッカに対して、S180以降の処理を実行したか否かを判断する。ここで、実行していないと判断すると(S160でNo)、S170に移行する。S170では、生成済トラッカ群の中からS180以降の処理について未処理のトラッカの一つを処理対象に選択する。
【0051】
但し、ここで言う生成済トラッカ群とは、生成されているEKFトラッカQ1及びLKFトラッカQ2の一群内、今回のトラッキング処理で新たに生成されたトラッカ以外のトラッカ群のことである。今回のトラッキング処理にて新たに生成されたトラッカは、S170において、選択の対象から外される。
【0052】
S170において処理対象のトラッカを選択すると、制御ユニット110は、S180に移行し、当該選択したトラッカが追跡する物標が消滅しているか否かを判断する。物標が消滅したか否かの判断は、このトラッカに対応する物標の観測値(R
z,V
z,θ
z)が所定回数以上連続して欠落しているか否かの判断により実現することができる。
【0053】
物標が消滅していると判断した場合(S180でYes)、制御ユニット110は、このトラッカを消去して、対応する物標の追跡を終了した後に、S160に移行し、処理対象のトラッカを切り替える。
【0054】
一方、物標が消滅していないと判断した場合には(S180でNo)、処理対象のトラッカを更新する処理を実行する(S190)。即ち、処理対象のトラッカに、観測値(R
z,V
z,θ
z)に基づいた現時刻における状態量の事後推定値を算出させる(S190)。これにより、処理対象のトラッカが保持する物標の状態量を更新する。
【0055】
処理対象のトラッカがEKFトラッカQ1である場合には、このトラッカによって、拡張カルマンフィルタに基づく物標の状態量(X,Y,Vx,Vy)の事後推定値が算出(更新)される。状態量Yは、自車両の前後方向をY軸としたときのXY座標系における物標の位置のY座標を表し、状態量Xは、XY座標系における物標の位置であってX座標を表す。X軸方向は、Y軸に直交する方向であって地面に平行な方向(換言すれば、アンテナ素子51の配列方向)である。Vyは、物標の自車両に対する相対速度のY軸方向成分を表し、Vxは、物標の自車両に対する相対速度のX軸方向成分を表す。
【0056】
状態量(X,Y,Vx,Vy)の更新は、観測値(R
z,V
z,θ
z)及び状態量(X,Y,Vx,Vy)の事前推定値に基づいて行われる。状態量の初期値設定後の初回更新時には、初期値に対応した状態量(X,Y,Vx,Vy)の事前推定値が用いられる。
【0057】
追跡対象の物標に対応する観測値をレーダ装置10から取得することができなかったことにより、処理対象のトラッカに新しい観測値(R
z,V
z,θ
z)が割り当てられていない場合には、周知のように、状態量(X,Y,Vx,Vy)の事前推定値が観測値(R
z,V
z,θ
z)に対応するとみなして、状態量(X,Y,Vx,Vy)を更新する。
【0058】
この他、処理対象のトラッカが、LKFトラッカQ2である場合には、このトラッカによって、線形カルマンフィルタに基づく物標の状態量(R,V)の事後推定値が算出(更新)される。状態量(R,V)の更新は、観測値(R
z,V
z)及び状態量(R,V)の事前推定値に基づいて行われる。上述したように、状態量(R,V)の推定に際して、方位θの観測値θ
zは、用いられない。
【0059】
LKFトラッカQ2により算出された状態量(R,V)の事後推定値は、観測値(R
z,V
z)の補正値(R
c,V
c)として後続の処理で用いられる。制御ユニット110は、S190においてLKFトラッカQ2により算出された事後推定値(R
c,V
c)を、観測値(R
z,V
z)と一緒に観測された方位θの観測値θ
zと共に、観測値(R
z,V
z,θ
z)に対応する補正後の観測値(R
c,V
c,θ
z)として記憶する。
【0060】
S190での処理を終了すると、制御ユニット110は、処理対象のトラッカがLKFトラッカQ2であるか否かによって処理を切り替える(S200)。具体的に、制御ユニット110は、処理対象のトラッカがLKFトラッカQ2ではなくEKFトラッカQ1である場合(S200でNo)、S210,S220をスキップして、S160に移行する。
【0061】
一方、処理対象のトラッカがLKFトラッカQ2である場合には(S200でYes)、S210に移行して、処理対象のトラッカのS190による更新回数が規定数(N+1回)以上となったか否かを判断する。この判断のために、トラッキング処理では、LKFトラッカQ2毎の更新回数(S190の実行回数)を記憶する。
【0062】
そして、更新回数が規定数以上となったと判断すると(S210でYes)、制御ユニット110は、S220に移行して、処理対象のLKFトラッカQ2に代わるEKFトラッカQ1を生成する手順を含む
図5に示す分析生成処理を実行する。その後、S160に移行する。一方、更新回数が規定数未満である場合には、S210で否定判断して、S220をスキップし、S160に移行する。
【0063】
即ち、制御ユニット110は、上記生成済トラッカ群に属するトラッカの夫々を、順に処理対象に選択して(S170)、S180以降の処理を実行し、各トラッカQ1,Q2が保持する物標の状態量を更新する。そして、LKFトラッカQ2の更新回数が規定数(N+1)回以上となった場合には、
図5に示す分析生成処理を実行して(S220)、このLKFトラッカQ2をEKFトラッカQ1に切り替える。
【0064】
このようにして、制御ユニット110は、新規物標に関し、補正された観測値(R
c,V
c)を含むN+1回分の観測値(R
c,V
c,θ
z)を蓄積し、これらの観測値(R
c,V
c,θ
z)から、適切な初期値を設定したEKFトラッカQ1を生成する。その後、この物標に関して、EKFトラッカQ1を用いた状態推定を行う。
【0065】
続いて、制御ユニット110が実行する分析生成処理の詳細を、
図5を用いて説明する。分析生成処理を開始すると、制御ユニット110は、補正後の観測値V
cに基づいて、時刻t=0から時刻t=NTまでの各時刻t=nT(但し、n=0,1,…,N)における変位量δについての観測値δ
c[n]を算出する(S310)。
【0066】
【数1】
ここで用いる定数Tは、
図4に示すトラッキング処理の実行周期Tであり、観測値(R
z,V
z,θ
z)のサンプリング周期Tに一致する。ここでは、LKFトラッカQ2の(N+1)回の更新により得られる(N+1)個の観測値V
cの内、最初に得られた観測値V
cの観測時刻tをt=0として定義する。上式で用いられる観測値V
c[i]は、時刻t=iT(i=0,…,n−1)での観測値V
cである。
【0067】
変位量δは、時刻t=0での物標の存在地点を基準地点とした距離R方向の変位量に対応する。距離Rの変化量に対して方位θの変位量は微小であるため、ここでは、方位θが一定であるものとみなして、距離R方向の変位量δを上式に従って算出する。即ち、S310では、処理対象のトラッカQ2が追跡する物標の変位量δに関する各時刻t=nTの観測値δ
c[n]として、時刻t=0から対応する時刻t=nTまでの観測値V
cの時間積分値を算出する。
【0068】
その後、制御ユニット110は、N個の観測値R
c[n](n=0,…,N)と上記算出したN個の観測値δ
c[n](n=0,…,N)とを標本として用いた線形回帰分析を実行する(S330)。但し、観測値R
c[n]は、時刻t=nTでの観測値R
cを表す。
【0069】
具体的には、目的変数として距離Rを用い、説明変数として変位量δを用いた線形回帰分析を実行する。距離Rと変位量δとの関係は、上記基準地点での距離R=R0を用いて、式R=R0+δで表すことができる。従って、線形回帰分析では、この関係式を回帰式として用いて、二乗誤差ε
2が最小となる回帰式の切片の値R0を求める。
【0070】
【数2】
S330では、このようにして線形回帰分析を実行することにより、変位量δ=0(時刻t=0)での距離Rの推定値R
e[0]として、二乗誤差ε
2が最小となる値R0を算出する。
【0071】
その後、制御ユニット110は、この推定値R
e[0]を用いて、各時刻t=nT(n=1,…,N)における距離Rの推定値R
e[n]を、式R
e[n]=R
e[0]+δ
c[n]に従って算出する(S340)。即ち、各時刻t=nTでの距離Rの推定値R
e[n]として、推定値R
e[0]と、各時刻t=nTでの変位量δの観測値δ
c[n]との加算値を算出する。
【0072】
その後、制御ユニット110は、物標までの距離Rの推定値R
e[n]と、対応する方位θの観測値θ
z[n]とから特定される極座標系における各時刻t=nT(n=0,…,N)での物標の位置(R,θ)の推定値(R
e[n],θ
z[n])を、上述したX軸及びY軸で定義される直交座標系としてのXY座標系における位置(X,Y)の推定値(X
e[n],Y
e[n])に変換する(S350)。
【0073】
X
e[n]=R
e[n]・cos(θ
z[n])
Y
e[n]=R
e[n]・sin(θ
z[n])
その後、上記変換により得られた各時刻t=nT(n=0,…,N)の位置推定値(X
e[n],Y
e[n])のX座標X
e[n]を標本として用いた線形回帰分析により、物標のX軸方向の位置変化を表す関数X(t)を算出する(S360)。
【0074】
等速運動モデルによれば、時刻tにおける物標の位置(X,Y)のX座標X(t)は、時刻t=0における物標の位置のX座標X0と、物標の自車両に対する相対速度VのX軸方向成分Vx0とを用いて、式X(t)=X0+Vx0・tで表すことができる。
【0075】
S360では、線形回帰分析により、標本X
e[n](n=0,…,N)に対する二乗誤差が最小となる回帰式X(t)=X0+Vx0・tの切片の値X0及び傾きの値Vx0を算出する。これにより、時刻tと物標の位置のX座標との対応関係を表す上記関数X(t)を算出する。この関数X(t)は、標本X
e[n](n=0,…,N)を、時間t対位置Xのグラフにプロットしたときの近似直線に対応する。
【0076】
更に、制御ユニット110は、上記変換により得られた各時刻t=nT(n=0,…,N)の位置推定値(X
e[n],Y
e[n])のY座標Y
e[n]を標本として用いた線形回帰分析により、物標のY軸方向の位置変化を表す関数Y(t)を算出する(S370)。
【0077】
等速運動モデルによれば、時刻tにおける物標の位置(X,Y)のY座標Y(t)は、時刻t=0における物標の位置のY座標Y0と、物標の自車両に対する相対速度VのY軸方向成分Vy0とを用いて、式Y(t)=Y0+Vy0・tで表すことができる。
【0078】
S370では、線形回帰分析により、標本Y
e[n](n=0,…,N)に対する二乗誤差が最小となる回帰式Y(t)=Y0+Vy0・tの切片の値Y0及び傾きの値Vy0を算出する。これにより、時刻tと物標の位置のY座標との対応関係を表す上記関数Y(t)を算出する。
【0079】
その後、制御ユニット110は、処理対象のLKFトラッカQ2を消去し、その代わりに、このLKFトラッカQ2が追跡する物標を追跡対象とする新たなEKFトラッカQ1を生成する(S380)。そして、生成したEKFトラッカQ1に対し、物標の状態量(X,Y,Vx,Vy)の初期値として、値(X(t=NT),Y(t=NT),Vx0,Vy0)を設定する(S390)。
【0080】
即ち、状態量Xの初期値として、S360で算出した関数X(t)に従う現時刻t=NTでの位置X(t=NT)を設定し、状態量Yの初期値として、S370で算出した関数Y(t)に従う現時刻t=NTでの位置Y(t=NT)を設定する。また、状態量Vxの初期値として、関数X(t)の傾きVx0を設定し、状態量Vyの初期値として、関数Y(t)の傾きVy0を設定する。
【0081】
その後、制御ユニット110は、当該分析生成処理を終了する。本実施例によれば、このような手順でEKFトラッカQ1に初期値を設定する。その後、この物標に関して、EKFトラッカQ1を用いた状態推定を行う。
【0082】
以上、本実施例のトラッキング処理について説明したが、本実施例によれば、新規物標が現れた場合、EKFトラッカQ1に対し初期値を設定する前に、LKFトラッカQ2を用いてレーダ装置10から得られた観測値(R
z,V
z)を補正(平滑化)する。そして、補正後の観測値(R
c,V
c)に基づいて、EKFトラッカQ1に対し初期値を設定する。
【0083】
二周波CW方式のレーダ装置10によれば、物標までの距離Rについての観測値R
zを、上述したように反射波の受信信号に含まれる位相情報から算出する。このため、観測値R
zの精度が悪く、観測値R
zに大きなばらつきが生じるが、LKFトラッカQ2を用いた補正によれば、そのばらつきを抑えることができる。従って、本実施例によれば、レーダ装置10における距離Rの観測精度の低さがEKFトラッカQ1に対する初期値の設定に悪影響を与えるのを抑えることができる。
【0084】
また、二周波CW方式のレーダ装置10によれば、物標の相対速度Vについての観測値V
zを、上述したように受信信号に含まれる周波数情報から算出する。このため、観測値V
zの精度は、観測値R
zに対して高い。本実施例によれば、この精度の違いを利用して、上述したS310,S330,S340の処理により、物標までの距離Rを高精度に推定する。
【0085】
即ち、観測値V
zから得られる変位量δの観測値δ
cに基づき、時刻t=0での距離R=R0を高精度に推定し、この距離R0と、観測値δ
cとに基づき、各時刻t=nT(n=0,…,N)における距離Rの推定値R
e[n]を高精度に算出する。従って、本実施例によれば、EKFトラッカQ1に適切な初期値を設定することができる。
【0086】
従来技術によれば、時刻tを説明変数とし距離Rを目的変数とする線形回帰分析により観測値R
zに対応する距離Rの推定値を算出し、これに基づいてトラッカに対する初期値を設定していた。
【0087】
しかしながら、この技術では、
図6において破線で示すように回帰分析により得られる回帰直線が、真値からの誤差の大きい距離Rの観測値R
zの影響を大きく受ける。よって、回帰直線に基づいて時刻t1でトラッカに設定される状態量の初期値としての物標の位置が、
図6において三角のプロット点で表されるように、真値から大きくずれた値となってしまう。また、回帰直線の傾きから設定される状態量の初期値としての物標の相対速度が、真値から大きくずれた値となってしまう。
【0088】
これに対し、本実施例によれば、精度の高い速度Vの観測値V
cに基づく変位量δ
cを用いて、変位量δを説明変数とし距離Rを目的変数とする回帰分析を実行する。これによって、観測値R
cに対応する距離Rの推定値R
eを算出する。このため、真値からの誤差の大きい観測値の影響を抑えて、精度の高い推定値R
eを求めることができる。
【0089】
従って、
図6白丸で表されるように、EKFトラッカQ1に対しては、状態量の初期値としての物標の位置を、従来技術よりも真値からの誤差の小さい値として、適切に設定することができる。また、精度の高い回帰式が得られる結果、状態量の初期値としての物標の相対速度を、真値からの誤差の小さい値として、適切に設定することができる。
【0090】
本実施例によれば、このように適切な初期値を設定することができる結果、
図7実線で示すように、初期値を設定した時刻t1以降におけるEKFトラッカQ1を用いた物標の状態推定に際して、初期段階から精度の高い状態量(X,Y,Vx,Vy)の推定値を算出することができる。
【0091】
従来技術によってEKFトラッカQ1に初期値を設定した場合には、初期値の真値からの誤差が大きいため、
図7一点鎖線で示すように、精度の良い状態推定が行えるようになるまでに時間がかかる。
図7に示す一点鎖線は、状態量の初期値として、真値よりも大きい値が設定された場合のEKFトラッカQ1による状態量の推定値の軌跡を表すものである。
【0092】
図7に示す例によれば、初期値として真値よりも大きい値が設定された結果、状態量の推定値が真値よりも上方向に乖離した値としてEKFトラッカQ1により算出される。このように、従来技術によれば、EKFトラッカQ1による物標の状態推定の初期段階において、高い精度で状態推定を行うことができない。
【0093】
これに対して、本実施例によれば、精度の高い適切な初期値を設定することができる結果、従来よりも早い段階から、EKFトラッカQ1による物標の状態推定を高精度に行うことができる。
【0094】
更に言えば、本実施例では、物標の位置(R,θ)をXY座標系に変換して、EKFトラッカQ1に初期値を設定する際、方位θの観測値θ
zにも誤差が含まれることを考慮して、更なる回帰分析を行うようにした。
【0095】
即ち、物標の位置の推定値(R
e[n],θ
z[n])を、XY座標系における位置(X,Y)の推定値(X
e[n],Y
e[n])に変換した後(S350)、この推定値(X
e[n],Y
e[n])を、更に線形回帰分析するようにした(S360,S370)。そして、この回帰分析の結果に従う初期値をEKFトラッカQ1に対して設定することで、方位θの観測誤差による初期値の誤差を抑えるようにした。
【0096】
従って、本実施例によれば、一層適切な初期値の設定を行うことができ、EKFトラッカQ1を用いた物標の状態推定システムとして、良好なシステムを構築することができる。
【0097】
[他の実施形態]
以上に、本発明の実施例について説明したが、本発明は、上記実施例に限定されるものではなく、種々の態様を採ることができる。
【0098】
上記実施例によれば、レーダ装置10から得られる観測値(R
z,V
z)を、LKFトラッカQ2により補正(平滑化)して、この補正後の観測値(R
c,V
c)を用いて、物標の距離Rの推定値R
eを算出するようにした。しかしながら、推定値R
eの算出は、LKFトラッカQ2による補正後の観測値(R
c,V
c)ではなく、レーダ装置10から得られた観測値(R
z,V
z)を用いて行われてもよい。
【0099】
即ち、分析生成処理のS310〜S340では、観測値(R
c,V
c)を用いた場合と同様の処理を、観測値(R
c,V
c)の代わりに観測値(R
z,V
z)を用いて実行して、距離Rの推定値R
eを算出してもよい。
【0100】
また、上記実施例によれば、EKFトラッカQ1に対する初期値の設定のために、S310〜S340の手順により、距離Rの推定値R
eを算出したが、この算出技術は、初期値の設定以外の目的で活用されてもよい。
【0101】
即ち、S310〜S340の手順による距離Rの推定値R
eの算出技術は、距離Rの観測精度が速度Vの観測精度よりも悪い場合に、速度Vの観測精度の高さを利用して、距離Rの観測値R
zを高精度に補正する技術である。従って、本発明は、初期値の設定に限らず、単に観測値R
zを補正するための目的で、活用することができる。
【0102】
また、以上には、状態推定フィルタとして、線形カルマンフィルタや非線形カルマンフィルタである拡張カルマンフィルタを用いて、物標の状態推定を行う実施例を説明したが、他の種類の状態推定フィルタを用いることができることは言うまでもない。
【0103】
[対応関係]
本実施例の運転支援ECU100は、推定装置の一例に対応し、レーダ装置10は、観測装置の一例に対応する。そして、運転支援ECU100の制御ユニット110が実行するS310の処理は、変位量算出手段によって実現される処理の一例に対応し、制御ユニット110が実行するS330,S340の処理は、距離推定手段によって実現される処理の一例に対応する。
【0104】
また、制御ユニット110が実行するS130〜S150,S190の処理は、補正手段によって実現される処理の一例に対応し、制御ユニット110が実行するS350〜S370の処理は、位置推定手段によって実現される処理の一例に対応し、S350の処理は、変換手段によって実現される処理の一例に対応する。
【0105】
また、制御ユニット110が実行するS190により実現されるEKFトラッカQ1が保持する状態量の更新処理は、状態推定手段によって実現される処理の一例に対応し、制御ユニット110が実行するS390の処理は、初期値設定手段によって実現される処理の一例に対応する。