特許第6266895号(P6266895)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6266895
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】建造物の表面構造及びその構築方法
(51)【国際特許分類】
   E01C 11/24 20060101AFI20180115BHJP
   E04F 13/08 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   E01C11/24
   E04F13/08 A
   E04F13/08 E
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-94562(P2013-94562)
(22)【出願日】2013年4月26日
(65)【公開番号】特開2014-214557(P2014-214557A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2016年4月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】公立大学法人首都大学東京
(73)【特許権者】
【識別番号】300082335
【氏名又は名称】太平洋プレコン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(72)【発明者】
【氏名】上野 敦
(72)【発明者】
【氏名】小玉 修
【審査官】 大熊 靖夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−127325(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/018682(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 1/00−17/00
E04F 13/00−13/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
敷設後に日光が照射される面である表面部分に、複数の凹部が形成されている建造物の表面構造であって、
上記複数の凹部は、各々、該凹部の上端の縁辺にて該凹部と交わる表面部分に対する角度が30〜60度でありかつ球冠の形状に形成されている傾斜面を有するものであることを特徴とする建造物の表面構造。
【請求項2】
上記凹部は、深さが0.5〜10mmとなるように形成されている請求項に記載の建造物の表面構造。
【請求項3】
上記複数の凹部は、隣接する凹部同士の縁辺間距離が0〜10mmとなるように形成されている請求項1又は2に記載の建造物の表面構造。
【請求項4】
上記建造物の表面構造が、密実またはポーラスのブロックと、該ブロックの表面部分に形成された、太陽熱高反射塗料のみからなる塗布層とからなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の建造物の表面構造。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の建造物の表面構造を用いた、建造物の表面構造の構築方法であって、
(a)上記表面部分を形成する材質について、平面率と再帰反射率の関係を求める工程と、
(b)敷設後に日光が照射される領域である、上記建造物の表面領域を、2つ以上に分割し、分割後の各表面領域について、所望の再帰反射率を定める工程と、
(c)工程(a)で得られた上記平面率と再帰反射率の関係、及び、工程(b)で定めた上記分割後の各表面領域の再帰反射率に基づいて、工程(b)の上記分割後の各表面領域部分の平面率を定める工程と、
(d)工程(c)で定めた上記分割後の各表面領域の平面率に基づいて、各表面領域毎に、所望の再帰反射率を有する表面構造を形成し、これらの表面構造を組み合わせてなる建造物の表面構造を構築する工程、
を含むことを特徴とする建造物の表面構造の構築方法。
【請求項6】
工程(a)において、平面率の値を2つ以上定めて、これら各平面率における再帰反射率を測定した後、平面率(x)と再帰反射率(y)の関係が、y=ax+b(式中、aは負の定数であり、bは正の定数である。)の式を満たすものとして、平面率と再帰反射率の関係を定める請求項5に記載の建造物の表面構造の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の外壁、建物の屋上、道路の路面、駐車場等の、各種建造物の表面構造、及び、該表面構造の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、都市部などにおいて、ヒートアイランド現象が深刻化している。ヒートアイランド現象とは、夏季に、コンクリート建築物、アスファルト道路等の各種建造物が日中、太陽光のエネルギーを蓄熱し、その蓄熱したエネルギーを夜間に放出することなどによって生じるものであり、熱帯夜の日数の増大等を引き起こしている。
このようなヒートアイランド現象を緩和するために、日光が照射される面である建造物の表面部分を、凹凸を有する形状に形成し、この凹凸によって、該建造物の表面における日光の反射光が、ヒートアイランド現象を生じさせる下方(地面に向かう方向)ではなく、上方(地面から遠ざかる方向)に進むようにした技術が開発されている。
【0003】
例えば、1.0以上の再帰反射率(ここで、再帰反射率とは、150度の角度で900nmの波長の光を入射させた場合において、30度±10度の範囲内の反射光強度を「R」、150度±10度の範囲内の反射光強度を「S」としたときに、「S/R」で表される値をいう。)を発現するように凹凸加工を施されている表面を有することを特徴とする太陽熱高反射構造体が、知られている(特許文献1)。
また、土木建築資材の外形をなす基材と、該基材の外面のうち、少なくとも太陽光が照射する部分に形成され、赤外光域を含めた太陽光反射性能を有する金属アルミニウムからなる太陽光反射層とを備えている太陽光反射土木建築資材において、垂直な壁に取り付けるものについては、赤外光域を含めた太陽光を宇宙へ反射するための勾配を付与した形状とされている太陽光反射土木建築資材が、知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2013/018682号公報
【特許文献2】特開2007−192016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
建造物の表面部分が延びる方向は、建造物(具体的には、ビル等の建築物、または道路の路面構造等の土木構築物)の種類や部位によって、異なる。
例えば、一般家屋、ビル等の建築物の場合、外壁の壁面は、鉛直方向に延び、屋上の上面は、水平方向に延び、切妻造の屋根の上面は、20度程度の勾配を有する斜め方向に延びている。また、各種の土木構築物の場合、道路、公園の広場、駐車場等の路面は、水平方向に延び、高架道路の遮音壁(側壁)、橋桁等の壁面は、鉛直方向に延びている。さらに、特殊な形状を有する建築物または土木構築物の場合、表面部分を曲面で形成させることもある。
【0006】
一方、日光が照射される建造物の部位(例えば、ビルの上層階の外壁)や時間帯は、その建造物の形状や、立地条件(具体的には、周囲の他の建造物の有無等)や、季節(例えば、太陽が高い位置にある夏季に、周囲の他の建造物との位置関係から、日光の照射時間が長くなるなど)等によって定まる。
このため、上述の特許文献1〜2に記載されているような日光の反射方向を調整するための特定の形状を有する構造体もしくは資材を、日光の反射方向の調整の対象となる表面部分に一律に適用することは、ヒートアイランド現象の緩和の観点から、最適とは言えないと考えられる。
本発明の目的は、ヒートアイランド現象の緩和の効果を制御することのできる建造物の表面構造及びその構築方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、建造物における日光の反射の方向を調整して、ヒートアイランド現象を緩和しようとする場合、その建造物の表面部分を複数の領域に分割し、これら複数の領域を構成する各領域毎に、所望の再帰反射率でかつ日光を所望の方向に反射させるために、表面部分の形状を好適なものに定めることが、ヒートアイランド現象の緩和の効果を制御する観点から、最良の方法の一つであること、及び、このように所望の再帰反射率でかつ日光を所望の方向に反射させるためには、特定の形態を有する表面構造を採用することが良いことを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明は、以下の[1]〜[6]を提供するものである。
[1] 敷設後に日光が照射される面である表面部分に、複数の凹部が形成されている建造物の表面構造であって、上記複数の凹部は、各々、該凹部の上端の縁辺にて該凹部と交わる表面部分(面、または、頂部である複数の線を結ぶ仮想の面)に対する角度が30〜60度である傾斜面を有するものであることを特徴とする建造物の表面構造。
[2] 上記傾斜面が、球冠(換言すると、球の中心点から隔てた位置で球を平面で切断した場合における、球の中心を含まない小さな体積のほうの部分)の形状に形成されている、上記[1]に記載の建造物の表面構造。
[3] 上記凹部は、深さが0.5〜10mmとなるように形成されている、上記[1]又は[2]に記載の建造物の表面構造。
[4] 上記複数の凹部は、隣接する凹部同士の縁辺間距離が0〜10mmとなるように形成されている、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の建造物の表面構造。
[5] 上記[1]〜[4]のいずれかに記載の建造物の表面構造を用いた、建造物の表面構造の構築方法であって、(a)上記表面部分を形成する材質(例えば、密実のモルタル、ポーラス(多孔質)のモルタル、セメントペースト、アスファルト、レジンコンクリート等の各種の材質)について、平面率と再帰反射率の関係を求める工程と、(b)敷設後に日光が照射される領域である、上記建造物の表面領域(全部または一部)を、2つ以上(例えば、ビルの外壁面における、上層階の部分と、下層階の部分)に分割し、分割後の各表面領域について、所望の再帰反射率(例えば、上層階の部分では、下層階の部分に比べて、再帰反射率を大きく定めることなど)を定める工程と、(c)工程(a)で得られた上記平面率と再帰反射率の関係、及び、工程(b)で定めた上記分割後の各表面領域の再帰反射率に基づいて、工程(b)の上記分割後の各表面領域部分の平面率を定める工程と、(d)工程(c)で定めた上記分割後の各表面領域の平面率に基づいて、各表面領域毎に、所望の再帰反射率を有する表面構造を形成し、これらの表面構造を組み合わせてなる建造物の表面構造を構築する工程、を含むことを特徴とする建造物の表面構造の構築方法。
[6] 工程(a)において、平面率の値を2つ以上定めて、これら各平面率における再帰反射率を測定した後、平面率(x)と再帰反射率(y)の関係が、y=ax+b(式中、aは負の定数であり、bは正の定数である。)の式を満たすものとして、平面率と再帰反射率の関係を定める、上記[5]に記載の建造物の表面構造の構築方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の建造物の表面構造によれば、該表面構造の表面(日光が照射される面)が特定の形態で形成されているので、該表面における日光の再帰反射率及び反射の方向を正確に予測することができ、ヒートアイランド現象の緩和の効果を容易に制御することができる。
また、本発明の建造物の表面構造の構築方法によれば、建造物の表面領域を2つ以上に分割し、分割後の各表面領域について、所望の再帰反射率が得られるように表面構造の形状を定めているので、特定の再帰反射率が得られる表面構造を1種のみ用いる場合に比べて、日光の再帰反射率及び反射の方向を精密に制御することができ、その結果、ヒートアイランド現象の緩和の効果を精密に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の建造物の表面構造を形成するためのブロックの一例を示す平面図である。
図2図1に示すブロックをA−A線で切断した状態を示す断面図である。
図3図2に示す断面図中のブロックの凹部及びその周辺の構造部分を拡大して示す図である。
図4】本発明の建造物の表面構造を形成するためのブロックの他の例を示す平面図である。
図5図4に示すブロックをB−B線で切断した状態を示す断面図である。
図6】光の入射角が150度である場合の、密実(dense)のモルタル及びポーラス(porous)のモルタルの各々の遮熱塗料被覆硬化体の表面部分における平面率(横軸)と再帰反射率(縦軸)の関係を示すグラフである。
図7】光の入射角が120度である場合の、密実(dense)のモルタル及びポーラス(porous)のモルタルの各々の遮熱塗料被覆硬化体の表面部分における平面率(横軸)と再帰反射率(縦軸)の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態例を説明する。
本発明の建造物の表面構造は、モルタル、コンクリート等の材料からなるブロックを用いて形成してもよいし、モルタル、コンクリート等の材料を現場打ちなどで施工して形成してもよい。
本発明の建造物の表面構造をブロックを用いて形成する場合、ブロックの好ましい一例として、図1図3に示すものが挙げられる。
図1図3中、ブロック1は、敷設後に日光が照射される面である表面部分2に、複数の凹部3を形成させてなるものである。凹部3以外の表面部分2は、平面4に形成されている。
【0012】
凹部3は、図3に示すように、その上端の断面円弧形状の縁辺にて、平面4に対してα(図3に示す例では、45°)の角度の傾斜面を有するように、球冠状に形成されている。
ここで、平面4に対する角度は、45度以外の値に定めてもよいが、日光の再帰反射率及び反射の方向を正確に予測して、ヒートアイランド現象の緩和の効果を容易に制御する観点(以下、「制御の容易性の観点」と略すことがある。)から、好ましくは、30〜60度、より好ましくは30〜55度、さらに好ましくは35〜50度、特に好ましくは40〜50度である。該角度が30度未満では、光の再帰反射率が小さくなり、ヒートアイランド現象の緩和の効果が低減する。該角度が60度を超えると、日光が凹部3の中で2回以上反射するなどして、日光の再帰反射率及び反射の方向を正確に予測することが困難となる場合がある。
また、凹部3の形状である「球冠状」とは、球を平面で切断して得られる片方の部分(特に、体積が小さいほうの部分)の形状をいう。
凹部3を球冠状に形成することによって、日光の入射方向が異なっても、常に同一の再帰反射率を得ることができる。
【0013】
凹部3の深さは、図1図3に示す例では、1.24mmに定められている。
ここで、凹部3の深さは、1.24mm以外の寸法に定めてもよいが、制御の容易性の観点から、好ましくは0.5〜10mm、より好ましくは0.8〜8mm、さらに好ましくは1〜5mm、特に好ましくは1〜3mmである。該深さが0.5mm未満では、光の再帰反射率が小さくなり、ヒートアイランド現象の緩和の効果が低減することがある。該深さが10mmを超えると、凹凸の程度が大きくなるため、外観が悪化し、また、汚れ等が付着し易くなる。
凹部3の上端の縁を形成する円形の直径は、図1に示す例では、6mmに定められている。
ここで、凹部3の前記直径は、6mm以外の寸法に定めてもよいが、制御の容易性の観点から、好ましくは2〜12mm、より好ましくは3〜10mm、さらに好ましくは4〜9mm、特に好ましくは4〜8mmである。該直径が2mm未満では、光の再帰反射率が小さくなり、ヒートアイランド現象の緩和の効果が小さくなる傾向がある。該直径が12mmを超えると、凹凸の程度が大きくなるため、外観が悪化し、また、汚れ等が付着し易くなる。
【0014】
凹部3は、隣接する凹部同士の縁辺間距離が、図1中の縦方向で2mm、図1中の横方向(縦方向に対して45度の角度の横方向)で2.5mmである。
ここで、隣接する凹部同士の縁辺間距離は、図1に示す寸法以外の寸法に定めてもよいが、ヒートアイランド現象の緩和の効果を大きくする観点から、好ましくは0〜10mm、より好ましくは0〜8mm、さらに好ましくは0〜6mm、特に好ましくは0〜4mmである。該距離が10mmを超えると、ヒートアイランド現象の緩和の効果が小さくなる。
複数の凹部3は、図1に示す例では、凹部3の上端の縁を形成する円形(以下、「凹部3の円形」ともいう。)の中心点の位置が、縦方向には直線状に配置され、横方向には、縦方向に対して45度の角度の位置にずらして配置されており、全体として、隣接する凹部同士の縁辺間距離をゼロにすれば、平面4の面積を最小化しうるように形成されている。
図1中、縦方向に直線状に配置された複数の凹部3と、それに隣接する縦方向に直線状に配置された複数の凹部3の距離は、凹部3の円形の中心点間の寸法として、8mmである。また、縦方向に直線状に配置された複数の凹部3における、隣接する凹部同士の距離も、凹部3の円形の中心点間の寸法として、8mmである。これらの寸法は、互いに同じでも異なってもよく、また、8mm以外の寸法(例えば、8mm未満であって、凹部3同士が接するまでの任意の寸法、または、8mmを超える任意の寸法)であってもよい。
複数の凹部3は、例えば、図1に示すものと異なり、縦方向と横方向のいずれについても、凹部3の円形の中心点の位置が、直線状で、全体として凹部3の配列が格子状になるように形成することもできる。
なお、ブロック1の厚さは、特に限定されないが、例えば、5〜50mmである。
【0015】
ブロック1の表面部分2の投影面積中の平面4の割合は、64%である。
この割合は、64%以外の値に定めてもよいが、ヒートアイランド現象の緩和の効果を大きくする観点から、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下、さらに好ましくは70%以下である。
【0016】
ブロックの他の例として、図3に示すものが挙げられる。
図3中、ブロック11は、敷設後に日光が照射される面である表面部分12に、複数の凹部13を形成させてなるものである。
凹部13は、図3及び図4に示すように、帯状(図3参照)でかつ断面がV字状(図4参照)に形成されている。凹部13の下端(底部)は、直線状(図3参照)に延びている。隣接する凹部13間に平面はなく、直線状の頂部14が、隣接する凹部13同士の境界となっている。
複数の頂部14同士を結ぶ仮想の平面に対する凹部13の傾斜面の角度は、45度である。該角度は、45度以外の値に定めてもよいが、制御の容易性等の観点から、好ましくは30〜60度である。
図3に示す例では、表面部分12の平面率は0%である。ただし、直線状の頂部14に代えて、頂部である平面を形成させて、平面率を例えば0%を超え、30%以下に定めることもできる。
【0017】
次に、本発明の構造物の表面構造の構築方法について説明する。
本発明の構造物の表面構造の構築方法は、(a)上記表面部分を形成する材質について、平面率と再帰反射率の関係を求める工程と、(b)敷設後に日光が照射される領域である、上記建造物の表面領域を、2つ以上に分割し、分割後の各表面領域について、所望の再帰反射率を定める工程と、(c)工程(a)で得られた上記平面率と再帰反射率の関係、及び、工程(b)で定めた上記分割後の各表面領域の再帰反射率に基づいて、工程(b)の上記分割後の各表面領域部分の平面率を定める工程と、(d)工程(c)で定めた上記分割後の各表面領域の平面率に基づいて、各表面領域毎に、所望の再帰反射率を有する表面構造を形成し、これらの表面構造を組み合わせてなる建造物の表面構造を構築する工程、を含む。
[工程(a)]
工程(a)は、本発明の構造物の表面構造の表面部分を形成する材質について、平面率と再帰反射率の関係を求める工程である。工程(a)が必要な理由は、平面率と再帰反射率の関係が、材質の種類によって異なるからである。
平面率と再帰反射率の関係を求める方法としては、まず、平面率の値を2つ以上定めて、これら各平面率における再帰反射率を測定し、次いで、平面率(x)と再帰反射率(y)の関係が、y=ax+b(式中、aは負の定数であり、bは正の定数である。)の式を満たすものとして、この式における定数a、bを定める方法が挙げられる。
後述の実施例によると、平面率(x)と再帰反射率(y)の間に、前者を横軸に、後者を縦軸に取ったグラフにおいて、直線状の関係が成立することが見出されている。
【0018】
[工程(b)]
工程(b)は、敷設後に日光が照射される領域である、建造物の表面領域を、2つ以上に分割し、分割後の各表面領域について、所望の再帰反射率を定める工程である。本発明においては、このように、建造物の表面領域を2つ以上に分割した後の各表面領域について、所望の再帰反射率を定め、これら所望の再帰反射率を有する2種以上の表面構造を、後工程である工程(d)で組み合わせることによって、ヒートアイランド現象の緩和の効果を精密に制御することができる。
[工程(c)]
工程(c)は、工程(a)で得られた上記平面率と再帰反射率の関係、及び、工程(b)で定めた上記分割後の各表面領域の再帰反射率に基づいて、工程(b)の上記分割後の各表面領域部分の平面率を定める工程である。
ここで、工程(a)で得られた平面率と再帰反射率の関係としては、上述のとおり、直線状の関係を用いることができる。この場合、工程(c)を容易にかつ迅速に行うことができる。
【0019】
[工程(d)]
工程(d)は、工程(c)で定めた上記分割後の各表面領域の平面率に基づいて、各表面領域毎に、所望の再帰反射率を有する表面構造を形成し、これらの表面構造を組み合わせてなる建造物の表面構造を構築する工程である。
2つ以上に分割してなる表面構造は、同一の形状を有する凹部を用い、平面率のみを変えて形成してもよいし、異なる形状を有する凹部を用いて形成してもよい。
【0020】
本発明の建造物の表面構造を、モルタル等の材料を現場打ちで施工して形成する場合についても、図1図5に示すようなブロックを用いて形成する場合と同様の表面構造を採用することができる。
本発明の建造物の表面構造は、太陽熱高反射塗料からなる塗布層を有していてもよいし、有しなくてもよい。太陽熱高反射塗料からなる塗布層を形成させた場合、ヒートアイランド現象の緩和の効果を高めることができる。ただし、本発明においては、太陽熱高反射塗料からなる塗布層を形成させなくても、本発明で規定する形態を有する限りにおいて、日光の再帰反射率及び反射の方向を正確にかつ精密に予測することができる。
【実施例】
【0021】
本発明を実施例に基いて説明する。
[1.ブロックの作製]
以下の材料を用いて、図1図3に示すブロック(密実、ポーラス)、図4図5に示すブロック(密実、ポーラス)、及び、表面部分に凹部を形成させない以外は図1図3に示すブロックと同様に形成した、表面部分がすべて平面であるブロック(密実、ポーラス)を作製した。以下、図1図3に示すブロックを「球冠状凹部ブロック」、図4図5に示すブロックを「帯状凹部ブロック」、表面部分がすべて平面であるブロックを「平面ブロック」ともいう。
(a)セメント:普通ポルトランドセメント
(b)細骨材A:砕砂(最大粒度:2.5mm)
(c)細骨材B:3号硅砂(最大粒度:1.2mm)
(d)水
密実のブロックを作製するための各材料の配合量は、普通ポルトランドセメント100質量部、細骨材A(砕砂)365質量部、及び水30質量部であった。
ポーラスのブロックを作製するための各材料の配合量は、普通ポルトランドセメント100質量部、細骨材B(3号硅砂)424質量部、及び水27質量部であった。
これらの材料を用いて、密実のブロック、及び、ポーラスのブロックを作製した後、ブロックの表面部分に太陽熱高反射塗料を塗布し、塗布層を形成させた。なお、太陽熱高反射塗料としては、「ATTSU−9」(商品名;日本ペイント社製)を用いた。塗布層の厚さは50μmであった。
【0022】
[2.光の入射角が150°または120°である場合の各ブロックの再帰反射率の測定]
光の入射角が150°である場合の各ブロックの再帰反射率を、入射角および受光角を変化させることができる分光光度計を用いて、測定した。
また、光の入射角を150°から120°に変えた以外は前記の方法と同様にして、光の入射角が120°である場合の各ブロックの再帰反射率を測定した。
再帰反射率の測定結果は次のとおりであった。
(1)光の入射角が150°である場合
(イ)実密のブロック(図6中の「denseシリーズ」)
再帰反射率は、球冠状凹部ブロック(平面率64%;図1図3)で48%、帯状凹部ブロック(平面率0%;図4図5)で75%(帯状の凹部の延びる方向と垂直に交わる方向に光を入射させた場合)及び56%(帯状の凹部の延びる方向と同じ方向に光を入射させた場合)、平面ブロック(平面率100%)で38%であった。
(ロ)ポーラスのブロック(図6中の「porousシリーズ」)
再帰反射率は、球冠状凹部ブロック(平面率64%;図1図3)で60%、帯状凹部ブロック(平面率0%;図4図5)で72%(帯状の凹部の延びる方向と垂直に交わる方向に光を入射させた場合)及び64%(帯状の凹部の延びる方向と同じ方向に光を入射させた場合)、平面ブロック(平面率100%)で56%であった。
【0023】
(2)光の入射角が120°である場合
(イ)実密のブロック(図7中の「denseシリーズ」)
再帰反射率は、球冠状凹部ブロック(平面率64%;図1図3)で53%、帯状凹部ブロック(平面率0%;図4図5)で65%(帯状の凹部の延びる方向と垂直に交わる方向に光を入射させた場合)及び56%(帯状の凹部の延びる方向と同じ方向に光を入射させた場合)、平面ブロック(平面率100%)で51%であった。
(ロ)ポーラスのブロック(図7中の「porousシリーズ」)
再帰反射率は、球冠状凹部ブロック(平面率64%;図1図3)で58%、帯状凹部ブロック(平面率0%;図4図5)で63%(帯状の凹部の延びる方向と垂直に交わる方向に光を入射させた場合)及び60%(帯状の凹部の延びる方向と同じ方向に光を入射させた場合)、平面ブロック(平面率100%)で56%であった。
【0024】
以上の結果を図6図7に示す。
図6図7から、平面率(x)と再帰反射率(y)の関係が、y=ax+b(式中、aは負の定数であり、bは正の定数である。)の式を満たすことがわかる。
密実のブロックの場合、入射角が150度であれば、前記の式において、aが−0.3程度であり、bが66程度であり、入射角が120度であれば、前記の式において、aが−0.1程度であり、bが60程度である。
ポーラスのブロックの場合、入射角が150度であれば、前記の式において、aが−0.1程度であり、bが69程度であり、入射角が120度であれば、前記の式において、aが−0.05程度であり、bが62程度である。
【符号の説明】
【0025】
1 ブロック
2 表面部分
3 凹部
4 平面
11 ブロック
12 表面部分
13 凹部
14 頂点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7