(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内燃機関のエンジンブロックに形成される流路に連通可能にエンジンブロックに取り付けられ、前記流路から供給される冷却オイルが所定圧を超える場合に内燃機関のピストンに向けて冷却オイルを噴射するオイルジェットであって、
一端側の開口に向かって縮径して他端側にも開口するキャップ形状に金属板を加工して形成され前記流路に連通する前記エンジンブロックの流路開口部に挿入されたときに前記一端側の開口から冷却オイルが流入し得るキャップ部と、
前記キャップ部内において前記一端側に前記所定圧で付勢され前記一端側の開口を閉塞可能に着座する弁体およびこの弁体を前記一端側に付勢する弾性体を有する弁機構と、
前記キャップ部の他端側の開口に接続される開口部を有するとともに前記弁機構を収容し冷却オイルが前記所定圧を超えて前記弁体が離座した場合に前記一端側の開口から流入する冷却オイルをノズルから噴射させ得る本体部と、を備え、
前記キャップ部は、前記他端側の開口周端に前記流路開口部の開口径よりも大径に急峻に拡径するテーパ形状の弾性変形可能なスカート部を有し、前記本体部に接続された場合にこのスカート部が前記本体部の開口部の周縁に環状に当接することを特徴とするオイルジェット。
前記キャップ部は、前記一端側の開口よりも上流側に底部を有し、この底部には、前記ノズルの噴孔径よりも小さい内径に設定された貫通孔が形成されており、この貫通孔を介して流入する前記冷却オイルが前記一端側の開口に流れ込むことを特徴とする請求項1または2に記載のオイルジェット。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のオイルジェットの各実施形態について図を参照して説明する。
[第1実施形態]
まず、本発明のオイルジェットの第1実施形態を
図1〜
図4に基づいて説明する。
図1には、オイルジェット10の構成例を示す斜視図が表されている。この図に示すように、本第1実施形態に係るオイルジェット10は、主に、ボディ20、キャップ30、ノズル40、ボール50等により構成されている。オイルジェット10は、後述するように、取付穴23を通るボルトによってエンジンブロックに固定されて、エンジン(内燃機関)のシリンダやピストンに向けてノズル40の噴出口42から冷却オイルを噴射するものである。これにより、運転中のエンジンを冷却してピストンやシリンダの劣化を抑制したり、燃費を向上したりする。
【0018】
オイルジェット10は、[発明が解決しようとする課題]の欄で述べたオイルジェットOJと比べると、入力ポートIP(
図18参照)に相当する部分がボディ20とは別体のキャップ30で構成されている点が異なる。即ち、本第1実施形態のオイルジェット10は、ボディ20に入力ポートを形成することなく、入力ポートとして機能するキャップ30を別部品として備えている。キャップ30の構成は後で詳述するが、キャップ30は、円筒状の中間部31を中心に、流入口30aに向かって縮径する縮径部32、および、圧入口が開口するスカート部33により構成されている。
【0019】
オイルジェット10の構成を
図2および
図3を参照してさらに詳細に説明する。
図2(A)には、オイルジェット10の平面図、
図2(B)には
図2(A)に示す2B−2B線によるオイルジェット10の断面図、
図2(C)には
図2(B)に示す断面図からボディ20を抜き出した図、
図2(D)には
図2(B)に示す断面図からキャップ30を抜き出した図、がそれぞれ表されている。また、
図3には、オイルジェット10をエンジンブロックEBに取り付けた例を示す説明図が表されている。
【0020】
図2(A)〜
図2(C)に示すように、ボディ20は、その一端側が平面視(
図2(A))において台形状に成す角柱状に形成されている。ボディ20は、本第1実施形態では、アルミダイカスト成形により形成されている。即ち、以下に述べるボディ20の各形状は、アルミ鋳造によって一体に成形されている。なお、以下、オイルジェット10をエンジンブロックに取り付けた場合にエンジンブロック側に向くボディ20の面を上面部25といい、その裏側面を下面部26という。ボディ20の一端側の先端からはノズル40が突出している。このノズル40は、ボディ20に形成されるノズル取付穴21に取り付けられている。ボディ20の一端側には、ノズル取付穴21、ひいてはこの穴21に取り付けられるノズル40の導入口41と連通可能なオイル貯留室下部22がボディ20内に形成されている。
【0021】
図2(C)に示すように、このオイル貯留室下部22は、上面部25に開口するとともに(開口部22a)、下面部26には底部22bを有する。ボディ20の他端側は、上面部25において一端側よりも一段高くなるように一端側よりも肉厚に形成されている。この他端側には取付穴23が設けられている。即ち、ボディ20は、上面部25においては、他端側の取付穴23の周囲でエンジンブロックに圧接され得る圧接面25aと、この圧接面25aよりも一段低い一端側の凹部25bと、これら圧接面25aおよび凹部25bを繋ぐ傾斜部25cと、一端側で開口する開口部22aの周囲に位置する環状凸部25dと、により構成されている。凹部25bから円環状に突出する環状凸部25dの突出高さは、圧接面25aよりも、キャップ30の板厚相当分だけ低く設定されている。一方、下面部26においては、取付穴23を通るボルトのヘッドが当接し得る当接面26aが他端側を含めて一端側までほぼ全面に形成されており、一端側の一部に円形凸部26bが形成されている。この円形凸部26bは、オイル貯留室下部22の底部22bの裏側、つまり下面部26側に位置して、底部22bが当接面26aの近傍に達していることによる肉厚を補う役割を果たしている。
【0022】
ボディ20のオイル貯留室下部22は、後述するキャップ30のオイル貯留室上部35とともにオイル貯留室を形成して弁機構を収容している。弁機構は、ボール50およびコイルばね60から構成されており、ボール50が弁シートとして機能するキャップ30のシート34に着座するようにコイルばね60がボール50を付勢する。本第1実施形態では、コイルばね60は、その一端側でボール50をキャップ30の流入口30a側に所定圧で押圧可能に他端側がオイル貯留室下部22の底部22bに当接している。なお、底部22bには、コイルばね60の外径よりも僅かに大径に設定される円形凹部が形成されており、これによりコイルばね60の他端側の位置決めを可能にしかつ位置ズレを抑制している。また、オイル貯留室下部22の内径は、少なくともボール50およびコイルばね60を収容可能な値に設定されている。本第1実施形態では、オイル貯留室下部22は、キャップ30の中間部31の内径、つまりオイル貯留室上部35の内径とほぼ同径に設定されている。
【0023】
図2(A),
図2(B)および
図2(D)に示すように、キャップ30は、例えば、ばね性を有する金属板で、ボール50と同等の材質のばね鋼板(ばね鋼シート)がプレス装置により絞り加工されて両端が開口するキャップ形状(軸Jを中心線とした回転体形状)に形成される。本第1実施形態では、例えば、前述したように、円筒状の中間部31を中心に、流入口30aに向かって縮径する縮径部32、および、その反対側に圧入口30bを形成して開口するスカート部33により構成されている。このキャップ30は、ボディ20の環状凸部25dに接続されて入力ポートとして機能する。また、キャップ30の縮径部32は、前述したようにその内側がボール50のシート34、つまり弁シートとして機能する。
【0024】
このため、
図3に示すように、キャップ30は、オイルジェット10がオイルジェット10をエンジンブロックEBに取り付けた場合にエンジンブロックEBのギャラリ開口部OPに挿入可能に、その中間部31の外径がギャラリ開口部OPの内径よりも、やや小径に設定されており、またスカート部33がギャラリ開口部OPの内径よりも大径に拡がるようにスカート部33の外径が設定されている。なお、このギャラリ開口部OPはオイルギャラリOGに連通している。
【0025】
また、
図2(B)に示すように、キャップ30は、冷却オイルの流入側(一端側)で開口する流入口30aの開口径がボール50の外径よりも小径に設定されており、円錐台形状に縮径する縮径部32の内側にシート34を形成している。さらに、その反対側(他端側)には、圧入口30bが開口してフランジ状に拡がるとともにボディ20の開口部22aの周囲に位置する環状凸部25dを覆うスカート部33が形成されている。このスカート部33は、中間部31から径方向外側に向かって軸Jにほぼ直交して拡がるとともにその内径が環状凸部25dの外径よりも僅かに小径に設定されている。本第1実施形態では、中間部31の内径は、オイル貯留室下部22の内径とほぼ同径に設定されている。また、キャップ30は、そのオイル貯留室上部35とボディ20のオイル貯留室下部22とによりオイル貯留室を形成して、前述した弁機構を収容している。
【0026】
ノズル40は、オイルジェット10がエンジンブロックに取り付けられた状態でその先端(噴出口42側)がピストンの裏側方向に向くように、曲げ加工が施されている。これに対して、ノズル40の基端(導入口41側)は、ボディ20内に挿入されており、前述したオイル貯留室を形成するオイル貯留室下部22に連通している。本第1実施形態では、ノズル40は、ボディ20と共に鋳ぐるみ(インサート成形)されてボディ20に固定される。そのため、ノズル40の曲げ加工は、例えば、ボディ20の成形後に行われる。
【0027】
ボール50は、例えば、鉄製の球体である。前述したように、ボール50の外径は、キャップ30の流入口30aの開口径よりも大径に設定されている。本第1実施形態では、ボール50は球体に形成されているが、弁機構の弁体として機能してシート34に着座可能な形状であれば、例えば、回転楕体(長球体)、円錐体や円錐台体でもよい。コイルばね60は、圧縮コイルスプリングであり、コイル外径は、ボール50の外径よりもやや小さく設定されている。ばね長(自然長)は、ボディ20に形成されるオイル貯留室下部22の深さよりも大きく設定されている。
【0028】
このように構成されるオイルジェット10の組み付けは、例えば、次の手順により行われる。アルミダイカスト成形によりノズル40がインサート成形されて形成されたボディ20が用意されると、まずそのオイル貯留室下部22内にコイルばね60が収容される。コイルばね60のばね長はオイル貯留室下部22の深さよりも長い。そのため、次にオイル貯留室下部22から突出するコイルばね60の一端側にボール50を載せた後、オイル貯留室下部22の開口部22aを覆うようにキャップ30を被せる。そして、ボール50およびコイルばね60をオイル貯留室下部22内に押し込むようにキャップ30のスカート部33を環状凸部25dに圧入する。これにより、オイルジェット10の組み付けが完了する。このときにキャップ30に加えられる加圧力は、例えば、コイルばね60がボール50をキャップ30方向に付勢する付勢力よりも僅かに超える程度の大きさで足りる。オイルジェット10がエンジンブロックEBに固定されると、オイルジェット取付面Pによってスカート部33が押圧されるためである。
【0029】
このように組み付けられたオイルジェット10は、
図3に示すように、エンジンブロックEBのギャラリ開口部OPにキャップ30を挿入した状態で、取付穴23を通るボルトBLによってエンジンブロックEBにねじ締結される。このとき、ボルトBLのねじ締結力によりボディ20の上面部25がエンジンブロックEBのオイルジェット取付面Pに圧接される。また、前述したように、環状凸部25dの突出高さがキャップ30の板厚相当分程度だけ低く設定されていることから、この環状凸部25dをキャップ30のスカート部33が覆うことによって、スカート部33と上面部25がほぼ面一(ツライチ)になる。そのため、ボルトBLのねじ締結力によって、環状凸部25dを覆うスカート部33もオイルジェット取付面Pに圧接される。
【0030】
また、ボディ20の上面部25において、スカート部33で覆われる環状凸部25dと圧接面25aとの間、つまり取付穴23とスカート部33の間には、これらを区切る凹部25bがボルトBLによるねじ締結力でボルトBLの軸方向に働く力が加わる範囲を含んで形成されている。「ボルトBLによるねじ締結力でボルトBLの軸方向に働く力が加わる範囲」とは、ボルトBLのボルト頭部による加圧力がボルトBLの軸方向に加わる範囲(ボルトBLの軸方向への投影によりボルト頭部と投影面上で重なる範囲)、換言すれば、ボルト頭部による加圧力が直接的に加わる範囲である。そのため、ボルトBLのねじ締結による加圧力は、このような凹部25bが介在する範囲には加わることなく、専ら凹部25bが介在せずエンジンブロックEBに接触する範囲に加わることから、上面部25にこのような凹部25bが形成されていない場合に比べてスカート部33の面圧が増加する。これにより、環状凸部25dを覆うスカート部33は、オイルジェット取付面Pに高い面圧で圧接されるため、スカート部33によるシール性が高められてギャラリ開口部OPからの冷却オイルの漏れを防ぐことが可能になる。
【0031】
エンジンブロックEBに固定されたオイルジェット10には、エンジンブロックEBのオイルギャラリOGを流れる冷却オイルがギャラリ開口部OPを介して流入口30aに供給される。そして、流入口30aを塞ぐボール50に加わる冷却オイルのオイル圧が所定圧を超えると、その圧力がボール50をコイルばね60に抗する方向に動かすため、それまでシート34に着座(閉弁)していたボール50が離座(開弁)する。これにより、冷却オイルが流入口30aからオイル貯留室(オイル貯留室上部35およびオイル貯留室下部22)内に流れ込むため、流入した冷却オイルがオイル貯留室に充満すると、冷却オイルがノズル40側に溢流してノズル40の噴出口42から噴射される。
【0032】
以上説明したように、本第1実施形態に係るオイルジェット10によると、一端側の流入口30aに向かって縮径して他端側の圧入口30bも開口するキャップ形状に金属板を加工して形成されて、エンジンブロックEBのオイルギャラリOGに連通するギャラリ開口部OPに挿入されたときに圧入口30bから冷却オイルが流入し得るキャップ30と、キャップ30内において流入口30a側に所定圧で付勢され流入口30aを閉塞可能に着座するボール50およびこのボール50を流入口30a側に付勢するコイルばね60を有する弁機構と、キャップ30の圧入口30bに接続される開口部22aを有するとともに弁機構を収容し冷却オイルが所定圧を超えてボール50が離座した場合に流入口30aから流入する冷却オイルをノズル40から噴射させ得るボディ20と、を備える。
【0033】
つまり、オイルジェット10では、キャップ30をボディ20と別体に構成するので、
図18に示すオイルジェットOJのような入力ポート部IPを本体部BDに形成する必要がない。また、キャップ30は、金属板を加工したキャップ形状であることから、ボディ20に入力ポートを形成する場合に比べて軽量化が可能である。さらに、弁機構は、コイルばね60によりボール50がキャップ30内において流入口30a側に所定圧で付勢され一端側の流入口30aを閉塞可能に着座、冷却オイルが所定圧を超えるとボール50が離座する。つまり、ボール50が着座するシート34は、キャップ30内に形成されるため、ボディ20の材質にかかわりなく、ボール50に近いまたはボール50相当の材質の金属板を選択することで、シート34の摩耗等による変形を防ぐことが可能になる。したがって、ボディ20をアルミニウム合金で成形しても、入力ポート部のひび割れやシート34の変形等の問題が生じないことから、オイルジェット10の軽量化を可能にすることができる。また、キャップ30は、ボディ20と別体に構成されるため、シート34が摩耗等により変形した場合にはボディ20から取り外して交換することができる。
【0034】
また、オイルジェット10では、キャップ30は、冷却オイルの流入側の反対側(他端側)の圧入口30b(開口周端)にギャラリ開口部OPの内径(開口径)よりも大径に拡がる弾性変形可能なスカート部33を有する。そして、このスカート部33は、ボディ20に接続された場合にボディ20の開口部22aの周縁に環状に当接する。これにより、キャップ30がエンジンブロックEBのギャラリ開口部OPに挿入されてオイルジェット10がエンジンブロックEBに取り付けられた場合には、ギャラリ開口部OPが開口するエンジンブロックEBの開口周縁にキャップ30のスカート部33が圧接される。したがって、オイルジェット10の軽量化を可能にすることに加えて、スカート部33とボディ20との接続において、両者間を液密にシールするシール性を高めることができる。
【0035】
なお、オイルジェット10の改変例として、
図4に示すように構成してもよい。
図4には、本第1実施形態の改変例に係るオイルジェットのキャップ30’の構成例を示す説明図が表されている。この図において、
図1〜
図3を参照して説明したオイルジェット10の構成と実質的に同一の構成部分には同一符号が付されている。
【0036】
前述したオイルジェット10のキャップ30では、スカート部33が中間部31から径方向外側に向かって軸Jにほぼ直交して拡がるように形成されているが(
図2(D)参照)、改変例に係るオイルジェットのキャップ30’では、スカート部33’が圧入口30b側に向かって急峻に拡径するテーパ形状に形成されている。そのため、ボディ20の開口部22aにキャップ30’を被せた場合に環状凸部25dの頂面とスカート部33’との間に隙間SPが形成される。つまり、開口部22aの開口面に対してスカート部33’が所定角θ(例えば、0度<θ≦10度)の傾きを有する。これにより、スカート部33’は、
図4に示す矢印方向に働く力に対して反発するばね性を有する。
【0037】
このため、
図3に示すように、オイルジェットがエンジンブロックEBに取り付けられる際に、エンジンブロックEBのオイルジェット取付面Pによってスカート部33’が矢印方向に押圧されることで、スカート部33’が開口部22aの開口面、つまり環状凸部25dに向けて圧接される。なお、
図4において表されている隙間SPは、ボルトBLによるねじ締結の完了により環状凸部25dの頂面とスカート部33とが圧接されるため、存在しなくなる。これにより、スカート部33’にこのようなばね性がない場合に比べて、キャップ30’のスカート部33’とボディ20の環状凸部25dとの密着性を高めることが可能になり、両者間を液密にシールするシール性を向上させることができる。
【0038】
[第2実施形態]
次に、本発明のオイルジェットの第2実施形態を
図5〜
図7に基づいて説明する。本第2実施形態に係るオイルジェット100は、キャップ130が冷却オイルの流入側(一端側)にコンタミトラップ131を備えている点が、前述の第1実施形態に係るオイルジェット10と異なる。そのため、本第2実施形態のオイルジェット100において、第1実施形態のオイルジェット10と実質的に同一の構成部分については同一の符号を付して説明を省略する。
【0039】
なお、
図5には、本第2実施形態に係るオイルジェット100の構成例を示す斜視図が表されている。
図6(A)にはオイルジェット100の平面図、
図6(B)には
図6(A)に示す6B−6B線によるオイルジェット100の断面図、が表されている。
図7には、オイルジェット100をエンジンブロックEBに取り付けた例を示す説明図が表されている。
【0040】
図5および
図6に示すように、オイルジェット100が備えるキャップ130は、冷却オイルの流入側にコンタミトラップ131を有する。このコンタミトラップ131は、冷却オイル中に含まれることのある異物がキャップ130内に侵入することを阻止するための濾過フィルタである。「コンタミトラップ」とは、コンタミネーショントラップ(contamination trap)の略称であり、ここでは異物を除去するためのフィルタ(filter)と同義語である。
【0041】
本第2実施形態では、コンタミトラップ131は、第1実施形態のキャップ30の流入口30aに相当するキャップ130の流入口130a(
図6(B)参照)よりも上流側に有底の円筒形状に形成される。即ち、本第2実施形態のキャップ130は、第1実施形態のキャップ30の流入口30a(流入口130a)を、有底の円筒体を成すコンタミトラップ131の開口部で塞ぐような形状に金属板がプレス装置により絞り加工されて形成される。コンタミトラップ131には、底部131aに通孔132が形成されている。なお、金属板は、例えば、ボール50と同等の材質のばね鋼板である。
【0042】
通孔132は、底部131aを貫通する貫通孔であり、本第2実施形態では
図6(A)に示すように、底部131aの中央に1個とその周囲に周方向に45度間隔で4個形成されている。通孔132の内径は、ノズル40の噴出口42の内径よりも小径に設定されている。これにより、通孔132の内径よりも大きな異物が、キャップ130内やボディ20のオイル貯留室下部22に流入することを阻止することが可能になる。したがって、オイルジェット100の軽量化を可能にすることに加えて、ノズル40の目詰まりを防止したり、弁機構(ボール50およびコイルばね60)の開閉動作の不良を防止したりすることができる。なお、通孔132の数や内径は、オイル流路に設けられるオイルフィルタやエンジンオイル等の個々の特性に応じて、実験や計算機シミュレーション等により任意に定められる。
【0043】
本第2実施形態では、
図6(B)に示すように、コンタミトラップ131の底部131aと流入口130aとの間には所定高さおよび所定容積の空間が形成されている。これは、底部131aから突出するボール50の一部が底部131aに接触しないようにするためと、ボール50をオイル圧で押圧するのに必要な冷却オイルの量をボール50の近傍において十分に確保するため、である。
【0044】
このように構成されるオイルジェット100は、
図7に示すように、エンジンブロックEBに取り付けられて固定される。これにより、オイルギャラリOGを流れる冷却オイルがコンタミトラップ131を経由して流入口130aに流入すると、前述したように、ノズル40の噴射口42から冷却オイルが噴射される。なお、
図7に示す3本の矢印は通孔132を通過する冷却オイルの流れを示す。
【0045】
本第2実施形態に係るオイルジェット100によると、キャップ130は、一端側の流入口130aよりも上流側に底部131aを有し、この底部131aには、ノズル40の噴出口42の内径(噴口径)よりも小さい内径に設定された通孔132が形成されており、この通孔132を介して流入する冷却オイルが一端側の流入口130aに流れ込む。これにより、オイルギャラリOGから供給される冷却オイルの中に異物が混入していても、異物の大きさが通孔132の内径を超えるものであれば、この通孔132を通過することができない。つまり、キャップ130がフィルタとしても機能するため、オイルジェット100の軽量化を可能にすることに加えて、ノズル40の目詰まりを防止したり、弁機構(ボール50およびコイルばね60)の開閉動作の不良を防止したりすることができる。
【0046】
[第3実施形態]
次に、本発明のオイルジェットの第3実施形態を
図8および
図9に基づいて説明する。本第3実施形態に係るオイルジェット200は、ノズル40を複数本備えている点が、ノズル40を1本だけ備える前述の第1実施形態に係るオイルジェット10と異なる。そのため、本第3実施形態のオイルジェット200において、第1実施形態のオイルジェット10と実質的に同一の構成部分については同一の符号を付して説明を省略する。
【0047】
なお、
図8には、本第3実施形態に係るオイルジェット200の構成例を示す斜視図が表されている。
図9(A)にはオイルジェット200の平面図、
図9(B)には
図9(A)に示す9B−9B線によるオイルジェット200の断面図、が表されている。なお、
図9(A)に示す9B−9B線は、キャップ30の中心部分において「へ字形状」に折れ曲がっていることに注意されたい。また、オイルジェット200をエンジンブロックEBに取り付けた例を示す説明図は、第1実施形態のオイルジェット10をエンジンブロックEBに取り付けた例を示す説明図(
図3)とほぼ同様に表されるため省略している。
【0048】
図8および
図9に示すように、本第3実施形態に係るオイルジェット200では、第1実施形態のオイルジェット10が備えるノズル40を、例えば、2本備えている。即ち、第1実施形態のオイルジェット10では、ボディ20の一端側の先端からボディ20の長手方向に沿って突出(
図2(A)参照)していたノズル40が、
図9(A)に示すように、本第3実施形態のオイルジェット200では、ボディ220の長手方向に沿ってボディ220の一端側から2本のノズル40が「V字状」に突出している。そのため、ボディ220の一端側には、ノズル取付穴21を有するノズル取付部220a,220bが2箇所に形成されている。
【0049】
このように構成されるオイルジェット200は、エンジンブロック(EB)に取り付けられて固定される。これにより、オイルギャラリ(OG)を流れる冷却オイルがギャラリ開口部OPを介して流入口30aに流入すると、2本のノズル40のそれぞれの噴射口42から冷却オイルが噴射される。なお、括弧内の符号は、
図3に示す符号に対応する。
【0050】
本第3実施形態に係るオイルジェット200によると、ボディ220には、ノズル40が2本設けられている。これにより、ノズル40が1本の場合に比べて、ピストンの複数箇所に向けて冷却オイルを噴射することが可能になる。したがって、オイルジェット200の軽量化を可能にすることに加えて、ピストンの冷却効果を高めることができる。
【0051】
なお、本第3実施形態では、ノズル40を2本設けるように構成したが、ノズル40の本数や冷却オイルの噴射方向は、冷却を要する箇所に対応して適宜設定される。また、第2実施形態で説明したキャップ130をキャップ30に代えて備えるようにオイルジェット200を構成してもよい。これにより、ピストンの冷却効果が高められることに加えて、ノズル40の目詰まりや、弁機構(ボール50およびコイルばね60)の開閉動作の不良を防止することもできる。
【0052】
[第4実施形態]
次に、本発明のオイルジェットの第4実施形態を
図10〜
図13に基づいて説明する。本第4実施形態に係るオイルジェット300は、ボディ320に形成された環状凹部325bにキャップ330のスカート部333を圧入する点が、キャップ30のスカート部33を環状凸部25dに圧入する前述の第1実施形態に係るオイルジェット10と異なる。そのため、本第4実施形態のオイルジェット300において、第1実施形態のオイルジェット10と実質的に同一の構成部分については同一の符号を付して説明を省略する。
【0053】
なお、
図10には、本第4実施形態に係るオイルジェット300の構成例を示す斜視図が表されている。
図11(A)にはオイルジェット300の平面図、
図11(B)には
図11(A)に示す11B−11B線によるオイルジェット300の断面図、
図11(C)は
図11(B)に示す断面図からボディ320を抜き出した図、
図11(D)は
図11(B)に示す断面図からキャップ330を抜き出した図、が表されている。
図12には、オイルジェット300をエンジンブロックEBに取り付けた例を示す説明図が表されている。
【0054】
図10、
図11(A)〜
図11(C)に示すように、オイルジェット300のボディ320は、その上面部325においては、他端側の取付穴23の周囲でエンジンブロックに圧接され得る圧接面325aと、この圧接面325aよりも一段低く開口部22aの周囲に位置する環状凹部325bと、により構成されている。この環状凹部325bの内径および深さは、キャップ330のスカート部333をこの環状凹部325b内に圧入した場合に、スカート部333(中間部31から径方向外側に向かって軸Jにほぼ直交して拡がる面)と圧接面325aがほぼ面一(ツライチ)になるように設定されている。
【0055】
図10、
図11(A)、
図11(B)および
図11(D)に示すように、オイルジェット300のキャップ330は、スカート部333を除いて、第1実施形態のオイルジェット10のキャップ30と同様に構成されている。即ち、キャップ330は、冷却オイルの流入側(一端側)で開口する流入口330aの開口径がボール50の外径よりも小径に設定されており、円錐台形状に縮径する縮径部32の内側にシート34を形成している。さらに、その反対側(他端側)には、圧入口330bが開口してフランジ状に拡がるとともにボディ320の開口部22aの周囲に位置する環状凹部325bに収容されるスカート部333が形成されている。このスカート部333は、中間部31から径方向外側に向かって軸Jにほぼ直交して拡がるとともにその内径が環状凹部325bの内径よりも僅かに大径に設定されている。
【0056】
このように構成されるオイルジェット300の組み付けは、例えば、次の手順により行われる。アルミダイカスト成形によりノズル40がインサート成形されて形成されたボディ320が用意されると、まずそのオイル貯留室下部22内にコイルばね60が収容される。コイルばね60のばね長はオイル貯留室下部22の深さよりも長い。そのため、次にオイル貯留室下部22から突出するコイルばね60の一端側にボール50を載せた後、オイル貯留室下部22の開口部22aを覆うようにキャップ330を被せる。そして、ボール50およびコイルばね60をオイル貯留室下部22内に押し込むようにキャップ330のスカート部333を環状凹部325bに圧入する。これにより、オイルジェット300の組み付けが完了する。このときにキャップ330に加えられる加圧力は、例えば、コイルばね60がボール50をキャップ30方向に付勢する付勢力よりも僅かに超える程度の大きさで足りる。オイルジェット300がエンジンブロックEBに固定されると、オイルジェット取付面Pによってスカート部333が押圧されるためである。
【0057】
このように構成されるオイルジェット300は、
図12に示すように、エンジンブロックEBのギャラリ開口部OPにキャップ330を挿入した状態で、取付穴23を通るボルトBLによってエンジンブロックEBにねじ締結される。このとき、ボルトBLのねじ締結力によりボディ320の上面部325がエンジンブロックEBのオイルジェット取付面Pに圧接され、また、上面部325の環状凹部325bに圧入されたスカート部333と圧接面325aはほぼ面一(ツライチ)であるため、ボルトBLのねじ締結力によって、環状凹部325bに圧入されたスカート部333もオイルジェット取付面Pに圧接される。これにより、スカート部333によりギャラリ開口部OPの周囲がシールされるため、ギャラリ開口部OPからの冷却オイルの漏れを防ぐことが可能になる。
【0058】
エンジンブロックEBに固定されたオイルジェット300には、エンジンブロックEBのオイルギャラリOGを流れる冷却オイルがギャラリ開口部OPを介して流入口330aに供給される。そして、このオイル圧が所定圧を超えると、シート34に着座(閉弁)していたボール50が離座(開弁)するため、前述したように、オイル貯留室からノズル40側に溢流した冷却オイルがノズル40の噴射口42から噴射される。
【0059】
本第4実施形態に係るオイルジェット300によると、キャップ330の他端側に形成されるスカート部333が、ボディ320の環状凹部325bに圧入されて、その圧入されたスカート部333と圧接面325aとがほぼ面一(ツライチ)になる。そのため、ボディ320の上面部325をほぼ平坦にすることが可能になる。したがって、エンジンブロックEBのオイルジェット取付面Pに対して、オイルジェット300を極力密着させる場合において有効な構成を提供することができる。
【0060】
なお、オイルジェット300の改変例として、
図13に示すように構成してもよい。
図13には、本第4実施形態の改変例に係るオイルジェットのキャップ330’の構成例を示す説明図が表されている。この図において、
図10〜
図12を参照して説明したオイルジェット300の構成と実質的に同一の構成部分には同一符号が付されている。
【0061】
前述したオイルジェット300のキャップ330では、スカート部333が中間部31から径方向外側に向かって軸Jにほぼ直交して拡がるように形成されているが(
図11(D)参照)、改変例に係るオイルジェットのキャップ330’では、スカート部333’が圧入口330b側に向かって急峻に拡径するテーパ形状に形成されている。そのため、ボディ320の環状凹部325bにキャップ330’を圧入した後、オイルジェットをエンジンブロックEBに取り付ける際にオイルジェット取付面Pとスカート部333’との間に隙間SPが形成される。つまり、エンジンブロックEBのオイルジェット取付面Pに対してスカート部333’が所定角θ(例えば、0度<θ≦10度)の傾きを有する。これにより、スカート部333’は、
図13に示す矢印方向に働く力に対して反発するばね性を有する。
【0062】
このため、
図12に示すように、オイルジェットがエンジンブロックEBに取り付けられる際に、エンジンブロックEBのオイルジェット取付面Pによってスカート部333’が矢印方向に押圧されることで、スカート部333’がオイルジェット取付面Pに向けて圧接される。なお、
図13において表されている隙間SPや、ボディ320の圧接面325aとエンジンブロックEBのオイルジェット取付面Pとの間に存在する隙間は、ボルトBLによるねじ締結の完了によって、スカート部333’とオイルジェット取付面Pが圧接され、また圧接面325aとオイルジェット取付面Pが圧接されるため、存在しなくなる。これにより、スカート部333’にこのようなばね性がない場合に比べて、キャップ330’のスカート部333’とエンジンブロックEBのオイルジェット取付面Pとの密着性を高めることが可能になり、両者間を液密にシールするシール性を向上させることができる。
【0063】
なお、ボディ320の上面部325において、スカート部333,333’が圧入される環状凹部325bと圧接面325aとの間に、これらを区切る凹部をボルトBLによるねじ締結力でボルトBLの軸方向に働く力が加わる範囲を含んで形成してもよい。「ボルトBLによるねじ締結力でボルトBLの軸方向に働く力が加わる範囲」とは、ボルトBLのボルト頭部による加圧力がボルトBLの軸方向に加わる範囲(ボルトBLの軸方向への投影によりボルト頭部と投影面上で重なる範囲)、換言すれば、ボルト頭部による加圧力が直接的に加わる範囲である。これにより、ボルトBLのねじ締結による加圧力が、このような凹部が介在する範囲には加わることなく、専ら凹部が介在せずエンジンブロックEBに接触する範囲に加わるため、上面部325にこのような凹部が形成されていない場合に比べて、スカート部333,333’の周囲に位置する圧接面325aの面圧を増加させることができる。したがって、スカート部333,333’の周囲の圧接面325aがオイルジェット取付面Pに高い面圧で圧接されるため、スカート部333,333’の周囲のシール性が高められてギャラリ開口部OPからの冷却オイルの漏れを防ぐことが可能になる。
【0064】
また、第2実施形態で説明したオイルジェット100のキャップ130に形成されるコンタミトラップ131を、キャップ330,330’の流入口330aよりも上流側に形成するようにキャップ330,330’を構成してもよい。これにより、ノズル40の目詰まりや、弁機構(ボール50およびコイルばね60)の開閉動作の不良を防止することもできる。また、第3実施形態のオイルジェット200のように、ノズル40を複数本設けるようにボディ320を構成してもよい。これにより、ピストンの冷却効果も高めることができる。
【0065】
なお、上述した各実施形態では、キャップ30,30’,130,330,330’の形状を円筒形状をベースとしたキャップ形状に形成したが、筒形状を成すキャップ形状であれば、例えば、多角筒形状をベースとしたキャップ形状に形成してもよい。この場合、弁体は、多角筒内に形成される多角環形状の弁シートに着座(閉弁)可能な形状に形成される。
【0066】
また、上述したオイルジェット10,100,200,300の外観形状を、意匠として捉えた場合、それらの形態を
図14〜
図17に示すように表すことができる。
図14には、第1実施形態に係るオイルジェット10の外観形状が六面図および斜視図により表されている。また、
図15には、第2実施形態に係るオイルジェット100の外観形状が六面図および斜視図により表されている。さらに、
図16には、第3実施形態に係るオイルジェット200の外観形状が六面図および斜視図により表されている。さらにまた、
図17には、第4実施形態に係るオイルジェット300の外観形状が六面図および斜視図により表されている。なお、これらの図において、背面図は、正面図と左右の位置関係が逆に表れるほかは同様であるため省略している。