(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6266954
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】液面プラズマ放電を利用した水処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/48 20060101AFI20180115BHJP
B01F 3/04 20060101ALI20180115BHJP
B01F 5/04 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
C02F1/48 B
B01F3/04 F
B01F5/04
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-237607(P2013-237607)
(22)【出願日】2013年11月18日
(65)【公開番号】特開2015-97975(P2015-97975A)
(43)【公開日】2015年5月28日
【審査請求日】2016年11月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】312003171
【氏名又は名称】株式会社セイデン
(74)【代理人】
【識別番号】100081673
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100141483
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 生吾
(74)【代理人】
【識別番号】100166659
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 和也
(72)【発明者】
【氏名】原 秋路
【審査官】
片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−011126(JP,A)
【文献】
特開2006−187743(JP,A)
【文献】
特開2013−086072(JP,A)
【文献】
特開2009−255027(JP,A)
【文献】
特開2006−021086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/46、48、50
B01J 19/08
B01F 3/04、5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に処理水(2)を収容し、処理水中と処理水の液面(2a)上の気相空間(6)とに該液面(2a)を挟んで設置した陰電極(7)と、陽電極(8)との間にプラズマ放電をさせることにより、上記処理水(2)を浄化処理する反応槽(1)を備えた水処理装置において、上記気相空間(6)を外部に対して密閉された空間とし、反応槽(1)に処理水(2)を供給する導入部(3)側に処理水(2)にオゾン又は酸素の少なくとも何れかを含んだガスを供給して反応槽(1)内に上記ガスを含む気相空間(6)を形成させる気液混合器(14)を設け、上記気相空間(6)内に気相空間側の電極(8)を囲うスカート部(12)を設け、スカート部(12)の内面に対し沿面放電をさせる機構とした液面プラズマ放電を利用した水処理装置。
【請求項2】
反応槽(1)が処理水(2)を導入する導入部(3)と処理水(2)を排出する排出部(4)以外は密閉された容器である請求項1に記載に液面プラズマ放電を利用した水処理装置。
【請求項3】
反応槽(1)が処理水(2)の導入部側と排出部側を結ぶ横方向の軸心を有する筒状体からなり、該筒状体の上部の気相空間(6)に一方の電極を1個又は複数個設けた請求項1又は2の何れかに記載の液面プラズマ放電を利用した水処理装置。
【請求項4】
陽電極(8)と液面(2a)との間に所定高さの空間を形成し、両電極(7),(8)間の放電がストリーマ放電である請求項1乃至3の何れかに記載の液面プラズマ放電を利用した水処理装置。
【請求項5】
処理水(2)の導入部(3)となる供給管内にバブリングを行いながらガス供給を行う気液混合器(14)を設け、該気液混合器(14)が供給管内の処理水(2)にベンチュリー効果を生じさせるベンチュリー部にガス供給部を開口してなる請求項1乃至4の何れかに記載の液面プラズマ放電を利用した水処理装置。
【請求項6】
処理水(2)を排水する排出部(4)の下流側に濾過材を収容してなる濾過装置を接続した請求項1乃至5の何れかに記載の液面プラズマ放電を利用した水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、各種産業排水や湖沼の水処理や飲用水、工業用水の確保に際し、水質を浄化するために使用する液面プラズマ放電を利用した水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に上記のような産業排水や湖沼、河川の水質浄化のための水処理には濾過や化学処理が広く使用されている。
これに対し、水中又は液面に対して空間を介してプラズマ放電を行うことにより、O
3,OHラジカルを発生させ、これらによって水質を浄化する技術が公知である(特許文献1,同2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−021086号公報(
図5)
【特許文献2】特開2000−288547号公報(
図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1,2の処理技術は、処理水内にオゾンやOHラジカル(hidoroxy:radical)を発生させて処理水を反応させ、殺菌,有機物や化学物質の分解等を行うので、化学薬品等を添加するものに比して処理が簡単で、余分な有害廃棄物を発生させないという利点がある。
【0005】
しかし、特許文献1のものは処理槽内の処理水中に陰陽両電極が浸されているためO
3の発生効率が低く且つ水質の汚染度が高い場合は高出力の電源が必要である。一方特許文献2の技術は、気相空間を介して液面に対して放電するため、求められる電源出力への影響が少ないが、気相空間が外部に対して開放されているために、発生したオゾンやOHラジカルが外気の影響を受け又は外部に放散される欠点がある。
【0006】
また反応槽がいずれも縦軸方向に設置されるために流動する液面に対して、より広い空間を確保して処理水に対する効率的な放電効果を得るという課題に対しては機能が不十分である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明の装置は、第1に、内部に処理水2を収容し、処理水中と処理水の液面2a上の気相空間6とに該液面2aを挟んで設置した陰電極7と、陽電極8との間にプラズマ放電をさせることにより、上記処理水2を浄化処理する反応槽1を備えた水処理装置において、上記気相空間6を外部に対して密閉された空間とし、反応槽1に処理水2を供給する導入部3側に処理水2にオゾン又は酸素の少なくとも何れかを含んだガスを供給して反応槽1内に上記ガスを含む気相空間6を形成させる気液混合器14を設け
、上記気相空間6内に気相空間側の電極8を囲うスカート部12を設け、スカート部12の内面に対し沿面放電をさせる機構としたことを特徴としている。
【0008】
第2に、反応
槽1が処理水2を導入する導入部3と処理水2を排出する排出部4以外は密閉された容器であることを特徴としている。
【0009】
第3に、反応槽1が処理水2の導入部側と排出部側を結ぶ横方向の軸心を有する筒状体からなり、該筒状体の上部の気相空間6に一方の電極を1個又は複数個設けたことを特徴としている。
【0010】
第4に、陽電極8と液面2aとの間に所定高さの空間を形成し、両電極7,8間の放電がストリーマ放電であることを特徴としている。
【0011】
第5に、処理水2の導入部3となる供給管内にバブリングを行いながらガス供給を行う気液混合器14を設け、該気液混合器14が供給管内の処理水2にベンチュリー効果を生じさせるベンチュリー部にガス供給部を開口してなることを特徴としている。
【0012】
第
6に、処理水2を排水する排出部4の下流側に濾過材を収容してなる濾過装置を接続したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明は上記のように構成される結果以下のような効果を奏する。
1.処理対象水(処理水)に酸素又はオゾンを含んだ気体を供給して気相空間を形成し、液面と電極間でプラズマ放電をさせるので、ガスとして供給されるオゾン又は高湿度空間内でのプラズマ放電によって生じるオゾンにより殺菌,脱色,脱臭等の浄化処理を行う他、連続的に発生するOHラジカルにより処理水内の有機物や化学物質の分解による無害化や菌類、藻類等も死滅させることができる。
【0014】
2.反応槽及び気相空間が外部に対して密閉されているので、気相空間は常に高湿度で又はさらに高濃度の酸素を含む雰囲気が形成され、流動する処理水の反応処理に必要なO
3を効率良く大量に生成することができる。
また反応槽は軸線を横方向に設置した筒状体からなるので、横長に気相空間の形成ができるため、ここに複数の電極を設置し、又は横長の気相空間に沿って電極を放電することにより、反応槽内を下流に向って流動する処理水に対してより効率の高いプラズマ放電ができる利点がある。
【0015】
3.O
3及びOHラジカルによる反応処理なので、余剰廃棄物が少なく経費の節減になるほか、処理のための薬剤を使用する必要性が少ないため二次汚染の防止ができる。また処理装置は強力な反応が期待でき、構造も簡単で小型化が可能なのでコスト負担も少なくて済むほか、既存の各種水処理装置に低コストで付加できる利点がある。
【0016】
4.気相空間内の放電電極をスカート部で囲むことにより、スカート部の内面で沿面放電を行わせるので、O
3の発生量を増大させ、処理水の反応力を高めることができる。
【0017】
5.反応槽の下流側に濾過装置を接続することによって、反応槽での反応生成物を捕集できるので、処理水の浄化を高め、処理済の浄化水供給による処理対象となる環境浄化への再利用効果も期待できる。
【0018】
6.処理水内に酸素又はオゾンをバブリングし、さらに放電電極と気相空間を介した液面との間でプラズマ放電させることにより、放電用の電源出力を節減できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】本発明の装置を従来の水処理装置に付設した実施例を示す説明図である。
【
図3】本発明装置を湖沼又は貯水池等に直接設置した場合の説明図である。
【
図4】(A)〜(D)は処理前のクリーニング排水の原水と処理後30分,60分経過した処理水及び60分経過後の処理水をゼオライトを用いた濾過装置で濾過したものをそれぞれ示す。
【
図5】(A)〜(D)は、処理前の他のクリーニング排水の原水と処理後30分,60分経過した処理水及び60分経過後の処理水をゼオライトを用いた濾過装置で濾過したものをそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に示す本発明の装置は、横長の絶縁体である円筒形の透明アクリル管(60mm×300mm)からなる反応槽1を水平方向に設置し、その上流端に処理水2の導入部(供給管)3が、下流端には排出部(管)4が軸心に沿って取付けられ、全体が密閉構造になっている。
【0021】
導入部3からは未処理水が供給され(この例では8 l/min)、排出部4からは処理済水が排出され、処理水2は、反応槽1内の上部に気相空間6が例えば20mm前後の高さで形成されるように水位が調整される。
【0022】
反応槽1内の処理水中の底部側には、ステンレス(SUS)鋼板等からなる電極(陰電極)7が水平方向に設置され、気相空間6内の断面中央には1個又は複数個(この例では2個)外部上方より垂直下向き方向に電極(陽電極)8が設置されている。陽電極8はプラグ9を介して取付けられ、パルス電源(出力20Hz、DC150V、入力電圧AC100V)10に、並列接続された2基の高電圧発生コイル11を介して陽電極側に接続され、例えばそれぞれ20kvで入力される。高電圧発生コイル11の陰電極側はそれぞれ前記陰電極7側に接続されている。
【0023】
陽電極8はこの例では0.8mm程度のステンレス鋼又はアルミからなる棒状電極が使用され、液面2aとの間隔は20mm前後に設定されている。そして該陽電極8の外周には透明なアクリル管(絶縁体)よりなるスカート部12が同心的に且つ下向きに開放して設置され、陽電極からの放電は液面2aに対して行われるほか、スカート部12の内面に対し沿面放電として行われる。
【0024】
導入部3内にはガス供給管13が交差して開口するように接続され、その開口部はベンチュリー管を用いた気液混合器14が設けられ、ガス供給管13はオゾナイザ等のオゾン発生器,酸素富化装置,酸素発生装置等のガス発生装置16に接続されて、気液混合器14にオゾン,酸素を供給する。ガス供給管の外部端はフィルター等を介して外気に開放され、外部から空気を吸引して供給するものであってもよい。
【0025】
上記のような機構により、反応槽1には流入処理水とともにオゾン又は酸素を含むガスがバブリングを伴って混合され、流入した処理水中及び気相空間6内では陽電極8から陰電極7に向って液面放電又は水中放電が行われる。
【0026】
その結果、水中にオゾン供給がない場合でもO
3,H
2O
2(過酸化水素),OHが発生し、バブリングやオゾン自体による浄化(殺菌,脱臭,脱色等)のほかに、この発明で主として期待している水中のO
3によって生じるOHラジカルによる強力な酸化作用,殺菌作用,藻等の植物を死滅させる作用等による処理水の浄化が行われ、気液混合器14よりO
3が供給される場合は、上記のOHの発生がさらに促進されることになる。
【0027】
上記のような反応処理後も処理水中には、反応による生成物が残存するため、この生成物がイオン交換によって除去すべきものである場合は、ゼオライト等のイオン交換作用を持つ濾過材を用いた濾過装置でイオン交換及び濾過作用による浄化を行う。また単に固液分離のみで足りる生成物の場合は、活性炭や木炭による濾過装置で浄化できる。
【0028】
また、本装置による反応処理を妨げる固体等を含む処理水に対しては、本装置の上流側にこれらを捕集する濾過装置を設置すれば足りる。
尚、上記の例では、水平方向の反応槽1の軸心に対して直交方向に陽電極8を設けたが、横方向の気相空間6に対し、軸心方向に沿って陽電極8を水平に配置することも可能であり、この場合は反応槽1内の処理水の流れに沿って略全長にわたって放電電極を配置できる利点があり、この場合沿面放電を促すスカート部(いずれも図示しない)は、水平方向の電極の前後両側に下端を開放端として断面を上下方向に配置することが望ましい。
【0029】
また上記実施例の説明中に記した寸法や出力値等の数値は、発明者が実験装置として製作したものの例であり、実際の実施に当たっては、求められる処理能力や処理対象物等によって変更されるものであって、これらの数値に限定されるものではない。
【0030】
図4,
図5は上記の装置を用いて業務用洗濯の使用済洗濯水を処理した場合の浄化程度を示す写真である。
図4は色素を含む洗濯水の浄化結果、
図5は色素を含まない洗濯水の浄化結果であり、いずれも(A)が処理前の水,(B)が30分循環処理した水,(C)が60分循環処理した水,(D)が60分処理後の水をゼオライト濾材を用いた濾過装置で濾過処理したものを示す。
上記によればいずれも(A)から(C)に至る過程で明らかに透明度が高まり、本装置が優れた浄化能力を発揮していることを示している。
【0031】
図2は従来の水の浄化処理装置に本発明の処理装置を付設した場合の例を示している。
この例では湖沼31の水質浄化を行うもので、主として水の汚濁やアオコ等の藻類を除去することを目的としている。湖沼の水32はポンプP
1により循環処理槽33に収容され、ここからポンプP
2によって3方弁34を介して砂等の粗い固体を捕集する濾過機36,曝気槽37,吸着濾過機である木炭槽38,ゼオライト槽39に順次送られて処理される。
【0032】
また循環処理槽33に入りきらない水は隣接した一時貯水槽41に貯水され、この水は必要に応じストレーナー42,ゼオライト使用の濾過機43等で粗処理されて、ポンプP
3により湖沼31に散水ノズル44により散水放出され又は濾過機逆洗用等として他に送水される。一時貯水槽41の水は通常はこの他上記濾過機36に送られて順次処理される。
【0033】
木炭槽38,ゼオライト槽39の底部にはエアブロー46によりバブリングが行われるほか、曝気槽37,木炭槽38,ゼオライト槽39内の水は、浄化の度合によりドレン管47を介して放出又は他の用途に利用することができる。
【0034】
曝気槽37の気泡は消泡タンク48により水に戻され、エアはブロアー49によって外気に放出され、水分はドレン管51によって排出される。またゼオライト槽39の水位は、水位調整部52により一定に調整され、調整の余剰水は循環処理槽33に戻される。
【0035】
上記ゼオライト槽39によって処理された処理水はポンプP
4により本発明装置20の導入部3に送られるが、ポンプP
4の下流側には処理水中に残存する固体を予め捕集するカートリッジ式フィルターを備えた濾過機52が設けられており、プラズマ放電処理に適した前処理が行われる。本発明装置20による処理水の浄化(反応)処理は既に述べた工程を経て処理される。
【0036】
本発明者等は上記実施例の装置を用いて本年6月〜7月の1ヶ月間、愛知県西尾市内の自動車ディーラーの工場排液の再利用用貯水池での水の浄化実験を行った。
その結果従来の水処理装置の処理水に対して、目視によるも明らかに透明度の高い、高い浄化効果が得られたことを確認した。
【0037】
図3は湖における別の水質浄化の実施例を示し、この例では湖61の水62に対し、本発明の装置を直接設置したもので、湖水面(W・L)台船63(浮島でも可)に本発明の装置20を設置し、ポンプP
4により湖水を汲み上げて直接反応槽1内に導入して処理するものである。
またこの例では反応槽1の下流側にゼオライト(活性炭でも良い)を濾材とした濾過機64を付設して固体の捕集を行っている。
【0038】
上記装置で処理した浄化水は、図示するように散水ノズル44で湖水に散水しながら(酸素供給をしながら)戻すことにより、湖水の一層の浄化が実現でき、この場合は特にアオコ等の藻類の除去に有効である。
また上記散水処理と併行し又はこれに代ってドレン管66により浄化水を湖水内又は湖底に注水することにより、湖水の浄化を実現することができ、この方法では溶存酸素の豊富な浄化水を湖底に供給することにより湖底の浄化が行われる効果がある。
【符号の説明】
【0039】
1 反応槽
2 処理水
2a 液面
3 導入部
4 排出部
6 気相空間
7 陰電極
8 陽電極
14 気液混合器
64 濾過機(装置)
P
4 ポンプ