特許第6266955号(P6266955)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6266955
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】トルクロッド
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/08 20060101AFI20180115BHJP
   F16F 1/38 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   F16F15/08 T
   F16F15/08 K
   F16F1/38 Z
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-239585(P2013-239585)
(22)【出願日】2013年11月20日
(65)【公開番号】特開2015-98914(P2015-98914A)
(43)【公開日】2015年5月28日
【審査請求日】2016年8月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】小宮 康宏
(72)【発明者】
【氏名】奥村 圭
(72)【発明者】
【氏名】道山 和佳子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 淳一朗
(72)【発明者】
【氏名】中野 正義
【審査官】 鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−096277(JP,A)
【文献】 特開2005−265122(JP,A)
【文献】 特開平09−170634(JP,A)
【文献】 特開2010−137709(JP,A)
【文献】 特開2006−292074(JP,A)
【文献】 特開2003−200531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/00−15/36
F16F 1/38
B60K 1/00−8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂で形成されたロッド本体の両端部に第一の取付部と第二の取付部が設けられていると共に、それら第一の取付部と第二の取付部の少なくとも一方が、該ロッド本体の端部に一体形成されたアウタ筒部にインナ軸部材が差し入れられて、それらアウタ筒部とインナ軸部材が本体ゴム弾性体によって弾性連結された構造を有しているトルクロッドにおいて、
前記インナ軸部材を前記ロッド本体の長さ方向で挟んだ両側には、該インナ軸部材の軸方向に前記本体ゴム弾性体を貫通するすぐり孔が形成されており、少なくとも一方の該すぐり孔と前記アウタ筒部の間には該アウタ筒部の内周面に沿って広がる湾曲板状の補強部材が配設されていると共に、
該補強部材の周方向長さが、該ロッド本体の長さ方向の入力による該インナ軸部材の該アウタ筒部側への当接によって該すぐり孔が潰れる周方向範囲を越える長さとされており、且つ、
該補強部材の周方向長さが、該すぐり孔の周方向両側において、該インナ軸部材の両側に設けられた該すぐり孔の周方向間に位置する該本体ゴム弾性体の外周面を全体までは覆わない長さとされている
ことを特徴とするトルクロッド。
【請求項2】
前記補強部材が前記インナ軸部材の外周側において該インナ軸部材の半周以上の領域に亘って周方向に広がっている請求項1に記載のトルクロッド。
【請求項3】
前記補強部材が前記すぐり孔の外周を周方向の全体に覆って広がっている請求項1又は2に記載のトルクロッド。
【請求項4】
前記補強部材の外周面の全体が前記アウタ筒部の内周面に重ね合わされている請求項1〜3の何れか一項に記載のトルクロッド。
【請求項5】
前記補強部材の外周面が前記本体ゴム弾性体の外周面に露出されており、該補強部材が前記アウタ筒部の内周面に直接接触して重ね合わされている請求項1〜4の何れか一項に記載のトルクロッド。
【請求項6】
前記ロッド本体の長さ方向において、前記すぐり孔の周方向両端部の位置が、前記インナ軸部材の中心位置よりも内側に位置していると共に、前記補強部材の周方向両端部の位置が、該すぐり孔の周方向両端部の位置よりも内側に位置している請求項1〜5の何れか一項に記載のトルクロッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車においてパワーユニットを車両ボデーに防振連結するトルクロッドに関するものであって、特に合成樹脂製のロッド本体を有するトルクロッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、パワーユニットと車両ボデーを防振連結して、パワーユニットのトルク反力を支持するトルクロッドが知られている。トルクロッドは、ロッド本体の両端部にパワーユニットと車両ボデーの各一方に取り付けられる第一の取付部と第二の取付部を備えていると共に、それら第一の取付部と第二の取付部の少なくとも一方がブッシュ構造とされている。即ち、第一の取付部と第二の取付部の少なくとも一方は、ロッド本体に設けられたアウタ筒部にインナ軸部材を差し入れて、それらアウタ筒部とインナ軸部材を本体ゴム弾性体によって相互に弾性連結した構造を有しており、本体ゴム弾性体の弾性変形によるエネルギー減衰作用に基づいて防振効果が発揮されるようになっている。
【0003】
ところで、特開2013−19502号公報(特許文献1)などにも開示されているように、トルクロッドの軽量化などを目的として、鉄やアルミニウム合金などの金属で形成されていたロッド本体を、合成樹脂製とすることが試みられている。このような合成樹脂製のロッド本体を採用する場合には、より一層の軽量化や構造の簡略化を図るために、インナ軸部材の外周面に本体ゴム弾性体を加硫接着したゴムブッシュの周囲にロッド本体を射出成形して、本体ゴム弾性体の外周面にロッド本体の一部として形成されたアウタ筒部を固着した構造も用いられる。これによれば、ゴムブッシュをロッド本体のアウタ筒部に圧入固定するための筒金具を、本体ゴム弾性体の外周面に設ける必要がなく、部品点数の削減と更なる軽量化が図られる。
【0004】
しかしながら、合成樹脂製のロッド本体は、金属製のロッド本体よりも変形剛性が小さいことから、荷重の入力によって変形し易く、大荷重の入力によってロッド本体のアウタ筒部が損傷するおそれがある。特に、自動車用のトルクロッドでは、優れた防振性能を実現するために、一般的にインナ軸部材に対するロッド本体の長さ方向両側に本体ゴム弾性体を貫通するすぐり孔が形成されており、ロッド本体の長さ方向に大荷重が入力されると、すぐり孔を挟んで配置されたインナ軸部材とアウタ筒部が小さな当接面積で且つ衝撃的に当接することから、応力の集中によるアウタ筒部の損傷が問題になり易かった。
【0005】
なお、特許文献1に記載されたトルクロッドでは、ロッド本体を厚肉とすることで強度を確保しているが、使用する合成樹脂材料の量が多くなってコスト増の原因になり得ると共に、合成樹脂製のロッド本体を採用することによる軽量化のメリットが小さくなるおそれもあって、有効とは言い難かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−19502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、軽量な合成樹脂製のロッド本体を採用しつつ、充分な耐荷重性も実現可能とされた、新規な構造のトルクロッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0009】
すなわち、本発明の第一の態様は、合成樹脂で形成されたロッド本体の両端部に第一の取付部と第二の取付部が設けられていると共に、それら第一の取付部と第二の取付部の少なくとも一方が、該ロッド本体の端部に一体形成されたアウタ筒部にインナ軸部材が差し入れられて、それらアウタ筒部とインナ軸部材が本体ゴム弾性体によって弾性連結された構造を有しているトルクロッドにおいて、前記インナ軸部材を前記ロッド本体の長さ方向で挟んだ両側には、該インナ軸部材の軸方向に前記本体ゴム弾性体を貫通するすぐり孔が形成されており、少なくとも一方の該すぐり孔と前記アウタ筒部の間には該アウタ筒部の内周面に沿って広がる湾曲板状の補強部材が配設されていると共に、該補強部材の周方向長さが、該ロッド本体の長さ方向の入力による該インナ軸部材の該アウタ筒部側への当接によって該すぐり孔が潰れる周方向範囲を越える長さとされており、且つ、該補強部材の周方向長さが、該すぐり孔の周方向両側において、該インナ軸部材の両側に設けられた該すぐり孔の周方向間に位置する該本体ゴム弾性体の外周面を全体までは覆わない長さとされていることを、特徴とする。
【0010】
本発明の第一の態様に従う構造とされたトルクロッドによれば、アウタ筒部の内周面に沿うように湾曲して広がる補強部材が、インナ軸部材の当接による荷重が及ぼされるアウタ筒部の荷重作用領域を周方向の全体に亘って覆うように配設されている。これにより、アウタ筒部においてインナ軸部材の当接による荷重が及ぼされる部位が、補強部材によって補強されることから、合成樹脂製のアウタ筒部であっても損傷が有効に防止される。
【0011】
さらに、インナ軸部材とアウタ筒部がすぐり孔の形成方向で当接すると、当接荷重が狭い範囲に集中的に作用するおそれがあるが、インナ軸部材とアウタ筒部の間に補強部材が配されることにより、当接荷重が周方向のより広い領域に分散して及ぼされて、アウタ筒部の当接荷重による損傷が回避される。
【0012】
特に、ばね特性を調整するためのすぐり孔が本体ゴム弾性体に設けられた構造では、インナ軸部材とアウタ筒部がすぐり孔の形成位置で部分的に且つ衝撃的に当接するおそれがあるが、すぐり孔の形成された部分に補強部材が配設されることで、アウタ筒部の損傷が有利に防止される。しかも、補強部材がインナ軸部材よりもアウタ筒部に近いすぐり孔とアウタ筒部の間に配設されることで、補強部材によるアウタ筒部を補強する効果がより有利に発揮されて、アウタ筒部の損傷が回避される。
【0013】
加えて、アウタ筒部における荷重作用領域を考慮して、湾曲板状の補強部材がアウタ筒部の周上で荷重が作用する部位に部分的に設けられることから、アウタ筒部を全周に亘って補強するよりも軽量且つコンパクトな構造で、入力荷重に対する耐荷重性を充分に確保することができる。
【0014】
さらに、アウタ筒部を含むロッド本体を合成樹脂で形成することによって軽量化が図られると共に、補強部材でアウタ筒部の耐荷重性が高められることから、耐荷重性を確保するためにアウタ筒部自体を厚肉化する必要がなく、軽量化がより有利に実現される。
【0015】
本発明の第二の態様は、第一の態様に記載されたトルクロッドにおいて、前記補強部材が前記インナ軸部材の外周側において該インナ軸部材の半周以上の長さで周方向に広がっているものである。
【0016】
第二の態様によれば、例えば、ロッド本体の長さ方向片側への入力に加えて、ロッド本体の幅方向両側への入力に対しても、補強部材によるアウタ筒部の補強効果が発揮されて、耐久性がより有利に確保される。
【0017】
しかも、当接荷重によるアウタ筒部の変形が補強部材で効果的に制限されて、アウタ筒部の過大な変形による損傷が防止される。
【0018】
本発明の第三の態様は、第一又は第二の態様に記載されたトルクロッドにおいて、前記補強部材が前記すぐり孔の外周を周方向の全体に覆って広がっているものである。
【0019】
第三の態様によれば、補強部材がすぐり孔の外周側を周方向の全体に覆って広がるように配設されることから、インナ軸部材とアウタ筒部が小さな面積で当接して、アウタ筒部に衝撃的な荷重が入力され易いすぐり孔の形成位置において、補強部材によるアウタ筒部の補強効果が有効に発揮されて、アウタ筒部の耐久性が有効に確保される。
【0020】
本発明の第四の態様は、第一〜第三の何れか一つの態様に記載されたトルクロッドにおいて、前記補強部材の外周面の全体が前記アウタ筒部の内周面に重ね合わされているものである。
【0021】
第四の態様によれば、補強部材を配設することによるアウタ筒部への荷重入力の分散化が有効に実現されて、アウタ筒部の耐久性を有利に得ることができる。なお、補強部材の外周面の全体がアウタ筒部の内周面に直接接触した状態で重ね合わされている必要はなく、例えば、補強部材の外周面とアウタ筒部の内周面との間に部分的に或いは全体に亘ってゴム層が設けられる等しても良い。
【0022】
本発明の第五の態様は、第一〜第四の何れか一つの態様に記載されたトルクロッドにおいて、前記補強部材の外周面が前記本体ゴム弾性体の外周面に露出されており、該補強部材が前記アウタ筒部の内周面に直接接触して重ね合わされているものである。
【0023】
第五の態様によれば、補強部材がアウタ筒部に直接接触した状態で重ね合わされて、補強部材によってアウタ筒部の実質的な厚さが大きくされることから、アウタ筒部の耐久性が有利に確保される。また、本体ゴム弾性体よりも硬質な補強部材とアウタ筒部が直接当接せしめられることで、補強部材からアウタ筒部への荷重が当接面の全体で安定して伝達されて、荷重の分散化が効率的に実現される。しかも、アウタ筒部の全体を厚肉とする場合に比して、アウタ筒部における荷重作用領域が部分的に補強されることから、重量の増加が回避されて、軽量化が有効に実現される。
本発明の第六の態様は、第一〜第五の何れか一つの態様に記載されたトルクロッドにおいて、前記ロッド本体の長さ方向において、前記すぐり孔の周方向両端部の位置が、前記インナ軸部材の中心位置よりも内側に位置していると共に、前記補強部材の周方向両端部の位置が、該すぐり孔の周方向両端部の位置よりも内側に位置しているものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、アウタ筒部の内周面に沿った湾曲板状の補強部材がすぐり孔とアウタ筒部の間に配設されており、補強部材がアウタ筒部の荷重作用領域の周方向全体を覆うように広がっている。それ故、インナ軸部材とアウタ筒部の間に荷重が入力されて、インナ軸部材がアウタ筒部に当接する際に、インナ軸部材とアウタ筒部の間に補強部材が介在して、アウタ筒部に対して当接荷重が広い範囲に分散して及ぼされることから、合成樹脂で形成されたアウタ筒部の耐久性が確保される。
【0025】
さらに、アウタ筒部を含むロッド本体が合成樹脂で形成されると共に、補強部材が部分的に設けられていることにより、軽量化も有効に実現される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の第一の実施形態としてのトルクロッドを示す平面図。
図2図1に示すトルクロッドの断面図であって、図3のII−II断面に相当する図。
図3図2のIII−III断面図。
図4図1に示すトルクロッドにロッド軸方向の荷重が入力された状態を示す断面図であって、図5のIV−IV断面に相当する図。
図5図4のV−V断面図。
図6】本発明の第二の実施形態としてのトルクロッドを示す断面図であって、図7のVI−VI断面に相当する図。
図7図6のVII−VII断面図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0028】
図1〜3には、本発明の第一の実施形態としてのトルクロッド10が示されている。トルクロッド10は、ロッド本体12の一方の端部に第一の取付部としての第一のブッシュ14が設けられると共に、ロッド本体12の他方の端部に第二の取付部としての第二のブッシュ16が設けられた構造とされている。
【0029】
より詳細には、ロッド本体12は、硬質の合成樹脂で形成された長手状の部材であって、一方の端部に第一のアウタ筒部18を備えていると共に、他方の端部に第二のアウタ筒部20を備えている。本実施形態では、第一のアウタ筒部18が略円筒形状とされていると共に、第二のアウタ筒部20が異形筒状とされている。具体的には、第二のアウタ筒部20は、全体として角丸の略五角筒状であって、ロッド本体12の長さ方向(図2中、上下方向)内側の壁部がロッド幅方向に広がる略平板形状とされていると共に、ロッド本体12の幅方向(図2中、左右方向)両側の壁部がロッド長さ方向に広がる略平板形状とされており、更に、ロッド本体12の長さ方向外側の壁部がロッド長さ方向外側に向かって次第に狭幅となる屈曲板形状とされている。なお、ロッド本体12は、例えば、ガラス繊維やカーボンファイバーなどで繊維補強された合成樹脂で形成されて、高い変形剛性を確保されることが望ましい。
【0030】
また、ロッド本体12の長さ方向一方の端部には、第一のアウタ筒部18を利用して第一のブッシュ14が設けられている。第一のブッシュ14は、第一のアウタ筒部18に小径の略円筒形状を呈する第一のインナ軸部材22が挿通されていると共に、それら第一のアウタ筒部18と第一のインナ軸部材22が略円筒形状の第一の本体ゴム弾性体24によって相互に弾性連結された構造を有している。更に、第一のアウタ筒部18の軸方向中央部分には、軸方向両端部よりも内周側に突出する第一の抜止突部26が一体形成されており、第一の本体ゴム弾性体24の軸方向両端部が第一の抜止突部26に軸方向で係止されている。
【0031】
また、ロッド本体12の長さ方向他方の端部には、第二のアウタ筒部20を利用して第二のブッシュ16が設けられている。第二のブッシュ16は、第二のアウタ筒部20に小径の略円筒形状を呈する第二のインナ軸部材28が挿通されていると共に、それら第二のアウタ筒部20と第二のインナ軸部材28が厚肉の略筒形状とされた第二の本体ゴム弾性体30によって相互に弾性連結された構造を有している。更に、第二のアウタ筒部20の軸方向中央部分には、軸方向両端部分よりも内周側に突出する第二の抜止突部32が一体形成されており、第二の本体ゴム弾性体30の軸方向両端部が第二の抜止突部32に軸方向で係止されている。
【0032】
なお、本実施形態では、ロッド本体12と第一, 第二のインナ軸部材22,28を第一, 第二の本体ゴム弾性体24,30の成形用金型のキャビティにセットした状態で、第一, 第二の本体ゴム弾性体24,30が加硫成形される。これにより、第一の本体ゴム弾性体24の内周面が第一のインナ軸部材22に加硫接着されると共に、外周面が第一のアウタ筒部18に接着される一方、第二の本体ゴム弾性体30の内周面が第二のインナ軸部材28に加硫接着されると共に、外周面が第二のアウタ筒部20に接着される。
【0033】
さらに、第一, 第二の本体ゴム弾性体24,30の外周面には、軸方向の中央部分に全周に亘って連続する周溝が形成されており、第一, 第二の本体ゴム弾性体24,30の外周面上に第一, 第二のアウタ筒部18,20が形成されることによって、各周溝に嵌合された第一, 第二の抜止突部26,32が形成されている。
【0034】
また、第二の本体ゴム弾性体30には、内スリット34とすぐり孔としての外スリット36が形成されている。内スリット34は、第二のインナ軸部材28に対してロッド長さ方向の一方側である第一のブッシュ14側に形成されており、第二のインナ軸部材28の外周側において半周に満たない長さで周方向に延びていると共に、第二の本体ゴム弾性体30をインナ中心軸方向(図3中、左右方向)に貫通している。一方、外スリット36は、第二のインナ軸部材28に対してロッド長さ方向の他方側に形成されており、第二のインナ軸部材28の外周側において略半周の長さで周方向に延びていると共に、第二の本体ゴム弾性体30をインナ中心軸方向に貫通している。
【0035】
このような内外スリット34,36が形成されることにより、第二の本体ゴム弾性体30には、それら内外スリット34,36の周方向間を延びて、第二のアウタ筒部20と第二のインナ軸部材28を連結する一対のゴム脚38,38が形成されている。本実施形態のゴム脚38,38は、図2に示すように、ロッド幅方向外側に行くに従ってロッド長さ方向内側に傾斜して延びている。なお、第二の本体ゴム弾性体30は、第二のアウタ筒部20の内周面を覆う筒状の外周ゴム層40と、第二のインナ軸部材28の外周面を覆う筒状の内周ゴム層42と、それら外周ゴム層40と内周ゴム層42を連結する一対のゴム脚38,38とを、一体形成した構造とされている。
【0036】
また、第二の本体ゴム弾性体30には、補強部材44が固着されている。補強部材44は、第二のアウタ筒部20よりも変形剛性が大きい部材であって、第二のアウタ筒部20の内周面に沿って広がる薄肉の湾曲板状とされている。補強部材44は、例えば鉄などで形成され得るが、より好適には、軽量化のために、アルミニウム合金や合成樹脂などの比重の小さい材料で形成される。なお、補強部材44が第二のブッシュ16に配設されていることからも明らかなように、本発明に係るアウタ筒部が第二のアウタ筒部20によって構成されていると共に、インナ軸部材が第二のインナ軸部材28によって構成されており、更に本体ゴム弾性体が第二の本体ゴム弾性体30によって構成されている。
【0037】
そして、補強部材44は、第二のインナ軸部材28に対してロッド長さ方向の外側に配設されて、第二の本体ゴム弾性体30の外周ゴム層40に埋設されており、第二のアウタ筒部20と外スリット36の間で周方向に広がっている。また、補強部材44は、その外周面の全体が、外周ゴム層40を介して第二のアウタ筒部20の内周面に間接的に当接した状態で重ね合わされている。本実施形態では、補強部材44と第二のアウタ筒部20の対向面間距離が、補強部材44の全体で略一定とされている。更に、本実施形態の補強部材44は、第二のアウタ筒部20の第二の抜止突部32の内周側に対向配置されている。
【0038】
さらに、補強部材44の周方向両端部は、外スリット36の周方向両端部よりも周方向外側まで延びており、補強部材44が外スリット36の外周を周方向に全体に覆って広がっている。なお、外スリット36が第二のインナ軸部材28の外周側を半周よりも長い領域に亘って取り囲むように周方向に延びており、補強部材44が第二のインナ軸部材28の外周側を半周よりも長い領域に亘って取り囲むように周方向に延びている。換言すれば、ロッド本体12の長さ方向において、外スリット36の周方向端部の位置(図2中の二点鎖線)が、第二のインナ軸部材28の中心位置(図2中の三点鎖線)よりも内側に位置していると共に、補強部材44の周方向端部の位置(図2中の一点鎖線)が、外スリット36の周方向端部の位置(図2中、二点鎖線)よりも内側に位置している。一方、補強部材44は、第二のアウタ筒部20の内周面を周上で部分的に覆うように、一周に満たない周方向長さで延びており、本実施形態では、第二のアウタ筒部20の半周に満たない領域を覆って周方向に延びている。
【0039】
このような構造とされたトルクロッド10は、第一のブッシュ14の第一のインナ軸部材22が図示しない車両ボデーに取り付けられると共に、第二のブッシュ16の第二のインナ軸部材28が図示しないパワーユニットに取り付けられる。これにより、パワーユニットのトルク反力がトルクロッド10を介して車両ボデーに支持されて、パワーユニットのロール変位が制限されるようになっている。
【0040】
かかる車両装着状態において、車両の減速などによるロッド長さ方向の大荷重がトルクロッド10に入力されると、第二のインナ軸部材28が内スリット34を挟んで対向する第二のアウタ筒部20のロッド長さ方向内側部分に当接することで、第二のインナ軸部材28と第二のアウタ筒部20の相対変位量が制限されるようになっている。一方、車両の加速などによるロッド長さ方向の大荷重がトルクロッド10に入力されると、図4,5に示すように、第二のインナ軸部材28が外スリット36を挟んで対向する第二のアウタ筒部20のロッド長さ方向外側部分に当接することで、第二のインナ軸部材28と第二のアウタ筒部20の相対変位量が制限されるようになっている。これらにより、第二のインナ軸部材28と第二のアウタ筒部20のロッド長さ方向への相対変位量を制限するストッパ手段が設けられている。
【0041】
また、図4,5に示すように、第二のインナ軸部材28と第二のアウタ筒部20のロッド長さ方向外側部分は、補強部材44を介して当接するようになっている。ここにおいて、第二のアウタ筒部20には、第二のインナ軸部材28の当接による荷重が直接に及ぼされる荷重作用領域(図4中にWで示す領域)があり、補強部材44が第二のアウタ筒部20の荷重作用領域の全体を覆う周方向長さで広がっている。これにより、第二のアウタ筒部20の荷重作用領域が補強部材44によって補強されて、第二のインナ軸部材28の当接による第二のアウタ筒部20の損傷が防止される。
【0042】
特に、補強部材44が第二のインナ軸部材28に対してロッド長さ方向の外側に配設されていることから、第二のアウタ筒部20において強度が小さくなり易い部位を効果的に補強することができる。
【0043】
さらに、第二のインナ軸部材28と第二のアウタ筒部20の間に外スリット36が形成されていることから、第二のインナ軸部材28と第二のアウタ筒部20が衝撃的に当接し得るが、補強部材44による第二のアウタ筒部20の補強によって、第二のアウタ筒部20の損傷が回避される。従って、第二のブッシュ16においてロッド長さ方向のばね定数を小さく設定して、優れた防振性能を実現しつつ、第二のアウタ筒部20の損傷を防ぐことができる。本実施形態では、補強部材44が外スリット36の外周を周方向の全体に覆って広がっていることから、第二のインナ軸部材28と第二のアウタ筒部20の部分的且つ衝撃的な当接が生じ得る外スリット36の形成部分において、第二のアウタ筒部20が補強部材44によって有効に補強される。
【0044】
しかも、補強部材44が第二のアウタ筒部20の内周面に沿った形状とされていることから、第二のインナ軸部材28が第二のアウタ筒部20に直接当接する場合に比して、当接荷重が第二のアウタ筒部20の広い範囲に分散して及ぼされる。それ故、局所的な大荷重の作用による第二のアウタ筒部20の損傷が回避されて、耐久性の向上が図られる。更に、補強部材44の外周面の全体が、第二のアウタ筒部20の内周面に対して、外周ゴム層40を介した間接的な当接状態で重ね合わされていることから、広範囲での荷重の分散化が有効に実現されて、第二のアウタ筒部20の耐久性の向上がより有利に図られ得る。加えて、補強部材44と第二のアウタ筒部20の対向面間距離が、全体に亘って略一定とされていることから、当接荷重が集中することなく第二のアウタ筒部20に分散作用せしめられて、第二のアウタ筒部20の損傷が有利に防止される。
【0045】
さらに、本実施形態では、ロッド長さ方向の投影において、補強部材44が第二のアウタ筒部20の荷重作用領域よりもロッド幅方向外側にまで広がっている。それ故、第二のインナ軸部材28の当接荷重が、補強部材44を介して第二のアウタ筒部20に及ぼされることで、より広い範囲に分散して作用せしめられて、第二のアウタ筒部20の損傷が有利に回避される。
【0046】
更にまた、補強部材44は、第二のインナ軸部材28の外周側において半周以上の長さで周方向に延びていることから、第二のインナ軸部材28と第二のアウタ筒部20のロッド長さ方向での当接時に、第二のアウタ筒部20の変形が補強部材44によって制限される。これにより、第二のアウタ筒部20の過大な変形による損傷が回避されて、耐久性の向上が図られる。
【0047】
また、トルクロッド10は、ロッド本体12が合成樹脂製であることから、金属製のロッド本体を採用する場合に比して、軽量とされている。しかも、ロッド本体12の第二のアウタ筒部20が、荷重の入力部位を考慮して補強部材44で部分的に補強されることから、全周を厚肉化して補強するよりも一層の軽量化が実現される。
【0048】
さらに、合成樹脂で形成されたロッド本体12において、ウエルドや樹脂注入孔などの脆弱部を第二のアウタ筒部20のロッド長さ方向外側に設けて、かかる脆弱部が補強部材44で補強されるようにすれば、ロッド本体12の部分的な脆弱部が損傷するのを防いで、耐久性の向上を実現することができる。
【0049】
図6,7には、本発明の第二の実施形態としてのトルクロッド50が示されている。トルクロッド50は、ロッド本体12の両端部に、第一の取付部としての第一のブッシュ14と、第二の取付部としての第二のブッシュ52とを設けた構造とされている。なお、第一の実施形態と実質的に同一の部材および部位については、図中に同一の符号を付すことにより、説明を省略する。
【0050】
より詳細には、第二のブッシュ52は、第二の本体ゴム弾性体30の外周ゴム層40に補強部材54が固着されている。補強部材54は、第二のアウタ筒部20の内周面に沿った湾曲板状とされており、外周ゴム層40の外周面に露出した状態で固着されて、第二のアウタ筒部20の内周面に直接接触して重ね合わされている。本実施形態では、補強部材54の外周面が全体に亘って外周ゴム層40から露出しており、補強部材54の外周面の全体が第二のアウタ筒部20の内周面に接触している。
【0051】
このような本実施形態に従う構造とされたトルクロッド50においても、第一の実施形態のトルクロッド10と同様に、補強部材54による補強効果や荷重の分散化によって、第二のアウタ筒部20の損傷が回避されて、耐久性の向上が図られ得る。
【0052】
また、本実施形態では、硬質の補強部材54と硬質の第二のアウタ筒部20が、直接的な当接状態で重ね合わされていることから、当接荷重がより効率的に分散して及ぼされて、第二のアウタ筒部20の耐久性の向上をより有利に実現できる。
【0053】
しかも、外周ゴム層40が補強部材54の内周側にだけ大きな肉厚で設けられることから、第二のインナ軸部材28の補強部材54への当接時に、外周ゴム層40による緩衝作用が効果的に発揮されて、当接時の衝撃に起因する乗り心地の悪化などが低減乃至は回避される。
【0054】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、第一, 第二の取付部は、少なくとも一方に本発明構造が適用されていれば良く、第二の取付部としての第二のブッシュ16に本発明構造が適用された前記実施形態では、第一の取付部の構造は適宜に変更可能である。具体的には、例えば、第一の取付部として車両ボデーへの剛結構造を採用しても良いし、ピロボールブッシュなどの別構造のブッシュを採用することもできる。
【0055】
さらに、第一, 第二の取付部の両方に本発明構造を適用することも可能である。即ち、前記実施形態のトルクロッド10において、第一のブッシュを第二のブッシュ16と対称に配された同一構造としても良い。
【0056】
更にまた、第二の取付部だけが本発明構造とされた前記実施形態のトルクロッド10において、第二のブッシュ16の具体的な構造は、本発明構造に従う限り、適宜に変更可能である。具体的には、内部に非圧縮性流体が封入された流体室を有する液封ブッシュを第二のブッシュとして採用することもでき得る。
【0057】
さらに、前記実施形態では、第二のアウタ筒部20が異形筒状(略角丸五角筒状)とされていたが、第二のアウタ筒部20の形状は特に限定されず、例えば円筒形状であっても良い。
【0058】
また、補強部材は、アウタ筒部における荷重作用領域の全体を覆う長さで周方向に延びていれば良く、前記実施形態に示した補強部材44と外スリット36および第二のインナ軸部材28との周方向長さの関係は、あくまでも例示であって、必須ではない。更に、補強部材として、周方向に半周を大きく超える長さで延びるC字板状のものを採用することもできる。
【0059】
さらに、補強部材44の周方向両端部分は、第二の本体ゴム弾性体30における一対のゴム脚38,38にまで延びていても良い。好適には、ゴム脚38,38の外周を延びる補強部材44の周方向長さは、ゴム脚38,38の周方向長さの半分以下とされ、より好適には、1/4以下の長さとされる。これによれば、補強部材44によるゴム脚38,38の拘束が回避されて、自由長の確保によるゴム脚38,38の耐久性の向上などが図られる。
【0060】
また、前記実施形態では、補強部材44が第二のインナ軸部材28に対してロッド長さ方向の外側に配設された構造が例示されているが、ロッド長さ方向の内側に設けられていても良いし、内外両側にそれぞれ補強部材が設けられていても良い。なお、複数の補強部材を設ける場合には、それら補強部材がアウタ筒部の内周面を全周に亘って覆うことなく、少なくとも周上の一部に隙間ができるように配置される。
【符号の説明】
【0061】
10,50:トルクロッド、12:ロッド本体、14:第一のブッシュ(第一の取付部)、16,52:第二のブッシュ(第二の取付部)、20:第二のアウタ筒部(アウタ筒部)、28:第二のインナ軸部材(インナ軸部材)、30:第二の本体ゴム弾性体(本体ゴム弾性体)、36:外スリット(すぐり孔)、44,54:補強部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7