特許第6266964号(P6266964)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6266964-熱可塑性樹脂組成物及びその成形品 図000011
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6266964
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物及びその成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20180115BHJP
   C08L 51/06 20060101ALI20180115BHJP
   C08K 5/16 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   C08L69/00
   C08L51/06
   C08K5/16
【請求項の数】5
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-248386(P2013-248386)
(22)【出願日】2013年11月29日
(65)【公開番号】特開2015-105335(P2015-105335A)
(43)【公開日】2015年6月8日
【審査請求日】2016年9月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】396021575
【氏名又は名称】テクノポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091502
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 正威
(72)【発明者】
【氏名】安部 史晃
(72)【発明者】
【氏名】野村 博幸
(72)【発明者】
【氏名】崎山 博史
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−012854(JP,A)
【文献】 特開平07−196907(JP,A)
【文献】 特開平08−269312(JP,A)
【文献】 特開平11−286599(JP,A)
【文献】 特開2005−082724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 69/00
C08K 5/16− 5/357
C08L 51/04−51/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート系樹脂(A)、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)、及び、金属不活性化剤(C)を含有してなる熱可塑性樹脂組成物であって、前記組成物中のゴム成分は非ジエン系ゴム(b1)を含んでなり、前記成分(C)の含有量は、前記成分(A)及び前記成分(B)の合計100質量部に対して、0.01〜10質量部であり、前記非ジエン系ゴム(b1)は、エチレン・α―オレフィン系ゴムを含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記組成物中のゴム成分は、さらに、ジエン系ゴム(b2)を含んでなり、前記成分(b1)の前記成分(b2)に対する質量比(b1:b2)が90〜15:10〜85であり、前記成分(b1)と前記成分(b2)との合計量が、前記成分(A)及び前記成分(B)の合計100質量%に対して、3〜20質量%である請求項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記成分(A)20〜90質量%及び前記成分(B)80〜10質量%(但し、前記成分(A)及び前記成分(B)の合計は100質量%)を含有してなる請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1乃至の何れか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。
【請求項5】
少なくとも2個の互いに接触する部品を有する物品であって、前記部品の少なくとも1つが請求項に記載の成形品からなることを特徴とする物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート系樹脂とゴム強化芳香族ビニル系樹脂とのアロイからなる熱可塑性樹脂組成物であって、高温多湿下で長時間使用された場合でも性能の低下を起こさない、耐湿熱老化性に優れたものに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート系樹脂は、耐熱性や耐衝撃性に優れているため、自動車部品、電気・電子部品、精密機械部品などの広い分野で使用されているが、成形性や低温での耐衝撃性に劣るなどの欠点がある。一方、ABS樹脂に代表されるゴム強化芳香族ビニル系樹脂は、機械的強度、成形性に優れた材料であるが、耐熱性や高度の耐衝撃性を要求される自動車部品やOA部品などの材料に用いるには、耐熱性や耐衝撃性が不十分であり、用途が限定されている。
【0003】
これらのお互いの欠点を補う方法として、ポリカーボネート系樹脂とABS樹脂とをブレンドしてポリマーアロイとすることが知られている。この方法により、ポリカーボネート系樹脂の短所であった成形性や低温での耐衝撃性が改良されるとともに、ABS樹脂の短所であった耐熱性や不十分であった耐衝撃性が改良され、その結果、成形性、耐衝撃性、機械的強度及び耐熱性に優れたポリマーアロイが得られ、電気製品、OA機器、自動車、住宅、家具等の部材として幅広く利用されている。
【0004】
しかしながら、ポリカーボネート系樹脂は加水分解を起こしやすいため、例えば、自動車内のように、長期間にわたって高温・高湿環境下で使用すると、外観、耐衝撃性などの性能が低下する可能性があった。さらに、ポリカーボネート系樹脂は、ABS樹脂をブレンドして用いた場合、ABS樹脂中の残留物によって加水分解が促進され、性能の低下がさらに促進される可能性があった。この問題を解決するために、特許文献1は、ポリカーボネート系樹脂、ABS樹脂及び難燃剤としてリン酸エステルを含有するポリマーアロイにおいて、ABS樹脂としてアルカリ金属の含有量が低いものを使用し、リン酸エステルとして酸価が低いものを使用することにより、高温・高湿環境下で使用しても引張り強度や引張り伸び率の低下を抑制する技術を開示している。また、特許文献2は、ポリカーボネート系樹脂とABS樹脂とのポリマーアロイにリン系安定剤を配合することで、成形加工前の材料や成形加工品を湿熱環境下に保管した場合でも、製造時の耐衝撃性、成形加工性、外観の湿熱老化性を維持する技術を開示している。しかし、これらの技術による改良効果は十分でなく、該技術によって得られた成形品の使用範囲も制限されている。
【0005】
一方、ポリカーボネート系樹脂とその他の樹脂とのポリマーアロイの難燃性を高めるために金属不活性化剤を添加することは従来知られているが(特許文献3)、耐湿熱老化性を改良するために金属不活性化剤を添加することは従来知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−130954号公報
【特許文献2】特開2006−169461号公報
【特許文献3】特開平09−059502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
かかる実情に鑑み、本発明は、ポリカーボネート系樹脂とゴム強化芳香族ビニル系樹脂とのアロイからなる熱可塑性樹脂組成物であって、高温多湿下で長時間使用された場合でも、衝撃強度、成形品外観等の性能の低下を起こさない、耐湿熱老化性に優れたものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ポリカーボネート系樹脂とゴム強化芳香族ビニル系樹脂とのアロイからなる熱可塑性樹脂組成物において、該樹脂組成物中のゴム成分として非ジエン系ゴムを含ませるとともに、該樹脂組成物に金属不活性化剤を含有させることにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
かくして、本発明は、一局面によれば、ポリカーボネート系樹脂(A)、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)、及び、金属不活性化剤(C)を含有してなる熱可塑性樹脂組成物であって、前記組成物中のゴム成分は非ジエン系ゴム(b1)を含んでなり、前記成分(C)の含有量は、前記成分(A)及び前記成分(B)の合計100質量部に対して、0.01〜10質量部であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物を提供する。
また、本発明は、他の局面によれば、熱可塑性樹脂組成物からなる成形品を提供する。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、高温多湿下で長時間使用されても、軋み音の発生が低減されるので、嵌合等により互いに接触する部分を有する物品の成形材料として有用である。
したがって、本発明は、さらに他の局面によれば、少なくとも2個の互いに接触する部品を有する物品であって、前記部品の少なくとも1つが上記本発明の成形品からなることを特徴とする物品を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ポリカーボネート系樹脂とゴム強化芳香族ビニル系樹脂とのアロイからなる熱可塑性樹脂組成物において、該樹脂組成物中に含まれるゴム成分として非ジエン系ゴムを含ませるとともに、該樹脂組成物に金属不活性化剤を含有させることとしたので、ポリカーボネート系樹脂の加水分解が抑制され、該樹脂組成物から成形された成形品を高温多湿下で長時間使用した場合でも軋み音の発生が抑制され、衝撃強度、成形品外観、耐熱性等の性能の低下も抑制され、耐湿熱老化性が改善されるものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(A)は互いに嵌合する部品1及び部品2からなる本発明の物品の一例を示す上面図であり、(B)は(A)の右側面図であり、(C)は(A)のA−A´断面図であり、図中に示す寸法の単位はmmである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳しく説明する。本発明において、「(共)重合」とは、単独重合及び/又は共重合を意味し、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。
【0013】
1.ポリカーボネート系樹脂(A)
本発明において、ポリカーボネート樹脂(A)は、主鎖にカーボネート結合を有するものであれば特に限定されず、芳香族ポリカーボネート、脂肪族ポリカーボネート、脂肪族−芳香族ポリカーボネートなどが挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、耐衝撃性、耐熱性等の観点から、芳香族ポリカーボネートが好ましい。尚、これらのポリカーボネート樹脂は、末端がR−CO−基、R’−O−CO−基(R及びR’は、いずれも有機基を示す。)に変性されたものであってもよい。
【0014】
上記芳香族ポリカーボネートとしては、芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを溶融によりエステル交換(エステル交換反応)して得られたもの、ホスゲンを用いた界面重縮合法により得られたもの、ピリジンとホスゲンとの反応生成物を用いたピリジン法により得られたもの等を用いることができる。
【0015】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、分子内にヒドロキシル基を2つ有する化合物であればよい。
【0016】
上記芳香族ジヒドロキシ化合物のうち、2つのベンゼン環の間に炭化水素基を有する化合物が好ましい。尚、この化合物において、炭化水素基は、ハロゲン置換された炭化水素基であってもよい。また、ベンゼン環は、そのベンゼン環に含まれる水素原子がハロゲン原子に置換されたものであってもよい。従って、上記化合物としては、ビスフェノールA、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3、5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)ブタン等が挙げられる。これらのうち、特に、ビスフェノールAが好ましい。
【0017】
芳香族ポリカーボネートをエステル交換反応により得るために用いる炭酸ジエステルとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等が挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
上記ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、好ましくは15,000〜40,000、より好ましくは17,000〜30,000、特に好ましくは18,000〜28,000である。この粘度平均分子量が高いほど、耐衝撃性が高くなる一方、流動性が十分でなく、成形加工性に劣る傾向にある。尚、全体としての粘度平均分子量が上記範囲に入るものであれば、異なる粘度平均分子量を有するポリカーボネート樹脂の2種以上を混合して用いてもよい。
【0019】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中におけるポリカーボネート樹脂(A)の配合割合は、必要とする機械的強度、剛性、成形加工性、耐熱性に応じて決められるが、ポリカーボネート樹脂(A)とゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)の合計を100質量%とした場合、通常20〜90質量%であり、好ましくは30〜85質量%、より好ましくは40〜80質量%、更に好ましくは50〜75質量%である。この範囲であれば、衝撃強度、成形加工性、外観、耐熱性等の性能が十分に改善され、軋み音の発生も低減された樹脂組成物が得られる。
【0020】
2.ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)
本発明において、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)としては、ゴムの分散粒子を含有することによって耐衝撃性等の機械的強度が向上した芳香族ビニル系樹脂が挙げられる。ゴム強化芳香族ビニル系樹脂の具体例としては、ゴム強化芳香族ビニル系グラフト樹脂(B1)及び芳香族ビニル系共重合樹脂(B2)を含有するものが挙げられる。本発明の熱可塑性樹脂組成物中のゴム成分(b)として非ジエン系ゴム(b1)を含有させる代表的方法として、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)のゴム成分(b)として非ジエン系ゴム(b1)を含有するものを使用する方法が挙げられる。
【0021】
非ジエン系ゴム(b1)としては、例えば、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・1−ブテン・非共役ジエン共重合体、エチレン・1−オクテン共重合体、エチレン・1−オクテン・非共役ジエン共重合体等のエチレン・α−オレフィン系ゴム;アクリル系ゴム;シリコーン系ゴム;シリコーン・アクリル系複合(IPN)ゴム、共役ジエン系化合物よりなる単位を含む(共)重合体を水素添加してなる(共)重合体等が挙げられる。これらは、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。該非ジエン系ゴム(b1)は、架橋重合体であってよいし、未架橋重合体であってもよい。これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの非ジエン系ゴム(b1)うち、耐湿熱老化性の改善効果の点から、エチレン・α―オレフィン系ゴムが好ましい。なお、上記水素添加してなる(共)重合体の水素添加率は95%以上である。
【0022】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、耐湿熱老化性の観点から、上記ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)に含まれるゴム成分(b)の全部が上記非ジエン系ゴム(b1)から構成されることが好ましいが、耐湿熱老化性を損なわない範囲で、一部がジエン系ゴム(b2)から構成されてもよい。
【0023】
ジエン系ゴム(b2)としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン等の単独重合体;スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体等のブタジエン系共重合体;スチレン・イソプレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・イソプレン共重合体等のイソプレン系共重合体、共役ジエン系化合物よりなる単位を含む(共)重合体を水素添加してなる(共)重合体等が挙げられる。これらは、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。該ジエン系ゴム(b2)は、架橋重合体であってよいし、未架橋重合体であってもよい。これらは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、上記水素添加してなる(共)重合体の水素添加率は95%未満である。
【0024】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、耐衝撃性を改良するために、ゴム成分として非ジエン系ゴム(b1)とジエン系ゴム(b2)とを併用する場合、非ジエン系ゴム(b1)のジエン系ゴム(b2)に対する質量比(b1:b2)が90〜15:10〜85であることが好ましい。
【0025】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、ゴムの含有量は、成分(A)及び成分(B)の合計100質量%に対して、好ましくは3〜20質量%、より好ましくは4〜15質量%、さらに好ましくは5〜12質量%である。ゴムの含有量が前記範囲にあると、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性等の機械的強度がさらに優れて好ましい。
【0026】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、ゴム成分は、通常、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂を構成するゴム強化芳香族ビニル系グラフト樹脂(B1)中に含有される。ゴム強化芳香族ビニル系グラフト樹脂(B1)としては、例えば、ゴム(b)に、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位、及び、必要に応じて、芳香族ビニル化合物と共重合可能な化合物に由来する構造単位、例えば、シアン化ビニル化合物及び(メタ)アクリル酸エステル化合物から選ばれた少なくとも1種の化合物に由来する構造単位とを含む(共)重合体がグラフトしたグラフト共重合体が挙げられる。
【0027】
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)を構成する芳香族ビニル系共重合樹脂(B2)としては、例えば、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位、及び、必要に応じて、芳香族ビニル化合物と共重合可能な化合物に由来する構造単位、例えば、シアン化ビニル化合物及び(メタ)アクリル酸エステル化合物から選ばれた少なくとも1種の化合物に由来する構造単位とを含む(共)重合体が挙げられる。成分(B1)とは対照的に、成分(B2)は、ゴム(b)にグラフトしていない(共)重合体、すなわち、非グラフト共重合体である。
【0028】
成分(B1)及び成分(B2)の構造単位を構成する上記芳香族ビニル化合物の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、β−メチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、スチレン及びα−メチルスチレンが好ましく、スチレンが特に好ましい。
【0029】
芳香族ビニル化合物と共重合可能な化合物は、成分(B1)及び成分(B2)の構造単位とすることができる。かかる共重合可能な化合物としては、シアン化ビニル化合物及び(メタ)アクリル酸エステル化合物から選ばれた少なくとも1種が使用され、必要に応じて、これらの化合物と共重合可能な他のビニル系単量体も使用することができる。かかる他のビニル系単量体としては、マレイミド系化合物、不飽和酸無水物、カルボキシル基含有不飽和化合物、ヒドロキシル基含有不飽和化合物、オキサゾリン基含有不飽和化合物等が挙げられ、これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
上記シアン化ビニル化合物の具体例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリル、α−イソプロピルアクリロニトリル等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、アクリロニトリルが好ましい。芳香族ビニル化合物と共重合可能な化合物としてシアン化ビニル化合物を用いると、得られる樹脂層の耐薬品性が更に優れて好ましい。
【0031】
上記(メタ)アクリル酸エステル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、メタクリル酸メチルが好ましい。
【0032】
上記マレイミド系化合物の具体例としては、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
上記不飽和酸無水物の具体例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
上記カルボキシル基含有不飽和化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、桂皮酸等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
上記ヒドロキシル基含有不飽和化合物の具体例としては、3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、トランス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
成分(B1)または成分(B2)中の上記芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の含有量の下限値は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位と、芳香族ビニル化合物と共重合可能な化合物に由来する構造単位の合計を100質量%とした場合に、好ましくは40質量%、より好ましくは50質量%、更に好ましくは60質量%である。尚、上限値は、通常、100質量%である。
【0037】
成分(B1)または成分(B2)が構造単位として、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物に由来する構造単位を含む場合、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の含有量は、両者の合計を100質量%とした場合に、通常40〜90質量%であり、好ましくは55〜85質量%であり、シアン化ビニル化合物に由来する構造単位の含有量は、両者の合計を100質量%とした場合に、10〜60質量%であり、好ましくは15〜45質量%である。
【0038】
成分(B)は、例えば、非ジエン系ゴム(b1)を含有するゴム質重合体(b)の存在下に、芳香族ビニル化合物を含有するビニル系単量体(a)をグラフト重合して製造することができる。この製造方法における重合方法は、グラフト共重合体である成分(B1)が得られる限り特に限定されず、公知の方法を適用することができる。重合方法としては、乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合、又は、これらを組み合わせた重合方法とすることができる。これらの重合方法では、公知の重合開始剤、連鎖移動剤(分子量調節剤)、乳化剤等を適宜使用することができる。
【0039】
上記製造方法では、通常、ビニル系単量体(a)同士の(共)重合体がゴム質重合体(b)にグラフト重合したグラフト共重合体である上記成分(B1)と、ゴム質重合体(b)にグラフト重合していないビニル系単量体(b)同士の(共)重合体である上記成分(B2)との混合生成物が得られる。場合により、上記混合生成物は、該(共)重合体がグラフト重合していないゴム質重合体(b)を含むこともある。ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)を含有する本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記成分(B1)と上記成分(B2)の両者を必須成分として含有するものであるから、上記のようにして製造された上記成分(B1)と上記成分(B2)との混合生成物を、本発明の熱可塑性樹脂組成物としてそのまま使用することができる。
【0040】
上記成分(B1)と上記成分(B2)との混合生成物から、アセトンを用いた溶媒分離によって、上記成分(B1)を上記成分(B2)から分離することができる。具体的には、上記成分(B1)と上記成分(B2)との混合生成物をアセトンに投入して振とうした後、遠心分離することにより、上記成分(B1)はアセトン不溶分として得られ、上記成分(B2)はアセトン可溶分として得られる。したがって、本発明の熱可塑性樹脂組成物における成分(B1)の原料として、上記成分(B1)と上記成分(B2)との混合生成物から上記アセトン分離によって分離されたアセトン不溶分を用いることもできる。同様に、本発明の熱可塑性樹脂組成物における成分(B2)の原料として、上記成分(B1)と上記成分(B2)との混合生成物から上記アセトン分離によって分離されたアセトン可溶分を用いることもできる。本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記分離した成分(B1)及び成分(B2)を混合して製造した混合物であってもよい。
【0041】
本発明のゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)における成分(B2)は、ゴム質重合体(b)の不存在下に、芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体(a)を重合することにより、製造することもできる。したがって、本発明の熱可塑性樹脂組成物における成分(B2)の原料として、上記方法で製造した成分(B2)を用いることもできる。
【0042】
成分(B)のグラフト率は、通常10〜150%、好ましくは15〜120%、より好ましくは20〜100%、特に好ましくは30〜80%である。成分(B)のグラフト率が前記範囲にあると、樹脂組成物の耐衝撃性、成形性がさらに良好となる。
【0043】
グラフト率は、下記数式(1)により求めることができる。
グラフト率(質量%)=((S−T)/T)×100 …(1)
上記式中、Sは成分(B)または上記グラフト重合による製造方法で得られた成分(B1)と成分(B2)との混合物1グラムをアセトン20mlに投入し、25℃の温度条件下で、振とう機により2時間振とうした後、5℃の温度条件下で、遠心分離機(回転数;23,000rpm)で60分間遠心分離し、不溶分と可溶分とを分離して得られる不溶分の質量(g)であり、Tは成分(B)1グラムに含まれるゴム成分の質量(g)である。このゴム成分の質量は、重合処方及び重合転化率から算出する方法、赤外線吸収スペクトル(IR)、熱分解ガスクロマトグラフィー、CHN元素分析等により求める方法等により得ることができる。
【0044】
グラフト率は、例えば成分(B1)を製造する際のグラフト重合で用いる連鎖移動剤の種類及び使用量、重合開始剤の種類及び使用量、重合時の単量体成分の添加方法及び添加時間、重合温度等を適宜選択することにより調整することができる。
【0045】
上記ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)における成分(B2)の極限粘度(メチルエチルケトン中、30℃)は、通常0.1〜1.5dl/g、好ましくは0.15〜1.2dl/g、より好ましくは0.15〜1.0dl/gである。極限粘度が前記範囲にあると、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、成形加工性がより良好となる。
【0046】
極限粘度[η]の測定は下記方法で行った。まず、成分(B2)または成分(B1)と成分(B2)の混合物のアセトン可溶分をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度の異なるものを5点作った。ウベローデ粘度管を用い、30℃で各濃度の還元粘度を測定した結果から、極限粘度[η]を求めた。単位は、dl/gである。
【0047】
極限粘度[η]は、例えば成分(B1)をグラフト重合、または、成分(B2)を重合する際に用いる連鎖移動剤の種類及び使用量、重合開始剤の種類及び使用量、重合時の単量体成分の添加方法及び添加時間、重合温度、重合時間等を適宜選択することにより調整することができる。また、極限粘度[η]が異なる2種以上の成分(B2)を、適宜選択して混合することにより調整することができる。
【0048】
上記ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)における成分(B1)の含有量は、上記ゴム強化芳香族ビニル系樹脂を100質量%とした場合、通常、1〜60質量%であり、5〜50質量%であることが好ましく、10〜40質量%であることがより好ましい。また、上記ゴム強化芳香族ビニル系樹脂における成分(B2)の含有量は、上記ゴム強化芳香族ビニル系樹脂を100質量%とした場合、通常、40〜99質量%であり、50〜95質量%であることが好ましく、60〜90質量%であることがより好ましい。成分(B1)及び成分(B2)の含有量が上記範囲にあると、本発明の熱可塑性樹脂の耐湿熱老化性が一層改善されたものとなる。
【0049】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中におけるゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)の配合割合は、必要とする機械的強度、剛性、成形加工性、耐熱性に応じて決められるが、ポリカーボネート樹脂(A)とゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)の合計を100質量%とした場合、通常10〜80質量%であり、好ましくは15〜70質量%、より好ましくは20〜60質量%、更に好ましくは25〜50質量%である。この範囲であれば、衝撃強度、成形加工性、外観、耐熱性等の性能が十分に改善され、軋み音の発生も低減された樹脂組成物が得られる。
【0050】
3.金属不活性化剤(C)
本発明における金属不活性化剤としては、熱可塑性樹脂組成物中に含まれる金属または金属塩、例えばナトリウム、カリウム等のアルカリ金属またはその塩を不活性化又は失活させるものであれば、特に限定されない。金属不活性化剤の具体例としては、シュウ酸誘導体、サリチル酸誘導体、ヒドラジド誘導体、ベンゾトリアゾール類、トリルトリアゾール類、ベンズイミダゾール類、ベンゾチアゾール類、チオカルバゾン類、グアニジン類等が挙げられる。
【0051】
シュウ酸誘導体からなる金属不活性化剤の例としては、下記の式(1)及び(2)のものが挙げられる。
【0052】
【化1】
【0053】
式(1)で示される化合物としてはイーストマンコダック社のEastman Inhibitor,OABHが挙げられる。
【0054】
【化2】
【0055】
式(2)で示される化合物としてはユニロイヤルケミカルズ社のNaugard XL−1が挙げられる。
【0056】
サリチル酸誘導体からなる金属不活性化剤の例としては、下記の式(3)及び(4)のものが挙げられる。
【0057】
【化3】
【0058】
式(3)中、R1はH又はアルキル残基。
【0059】
式(3)で示される化合物としては、株式会社ADEKAのアデカスタブCDA−1が挙げられる。
【0060】
【化4】
【0061】
式(4)中、R2は炭素数1〜20の炭化水素基。
【0062】
式(4)で示される化合物としては、株式会社ADEKAのアデカスタブCDA−6が挙げられる。
【0063】
ヒドラジド誘導体からなる金属不活性化剤の例としては、下記の式(5)のものが挙げられる。
【0064】
【化5】
【0065】
式(5)中、R3及びR4はそれぞれ独立にH又はアルキル残基、R5は炭素数1〜20の炭化水素基。
【0066】
式(5)で示される化合物としては、チバガイギー(株)のイルガノックスMD1024及び株式会社ADEKAのアデカスタブCDA−10が挙げられる。
【0067】
ベンゾトリアゾール類からなる金属不活性化剤の例としては、下記の式(6)のものが挙げられる。
【0068】
【化6】
【0069】
式(6)中、RはH又はアルキル残基。
【0070】
式(6)で示される化合物としては、ベンゾトリアゾールが挙げられる。
【0071】
トリルトリアゾール類からなる金属不活性化剤の例としては、下記の式(7)のものが挙げられる。
【0072】
【化7】
【0073】
式(7)中、RはH又はアルキル残基、Rは炭素数1〜20の炭化水素基。
【0074】
式(7)を有する化合物としては、トリルトリアゾールが挙げられる。
【0075】
グアニジン類としては、例えばグアニジン塩として塩酸グアニジン、硝酸グアニジン、炭酸グアニジン、リン酸グアニジン、スルファミン酸グアニジン等が挙げられる。
【0076】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中における金属不活性化剤(C)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)とゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)の合計を100質量%とした場合、0.01〜10質量%であり、好ましくは0.01〜8質量%、より好ましくは0.05〜5質量%である。金属不活性化剤(C)の含有量が0.01質量%未満の場合、耐湿熱老化性が十分に改善されず、10質量%を超えると、成形品外観が損なわれる。
【0077】
4.熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない限り、上記成分(A)〜(C)に加えて、各種添加剤を含有しても良い。添加剤の具体例としては、紫外線吸収剤、耐候剤、充填剤、酸化防止剤、老化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、防曇剤、滑剤、抗菌剤、粘着付与剤、可塑剤、着色剤等が挙げられる。
【0078】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、各成分を所定の配合比で、タンブラーミキサーやヘンシェルミキサーなどで混合した後、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、フィーダールーダー等の混合機を用いて、適当な条件下で溶融混練して製造することができる。好ましい混練機は、二軸押出機である。さらに、それぞれの成分を混練するに際しては、それぞれの成分を一括して混練しても、多段、分割配合して混練してもよい。バンバリーミキサー、ニーダー等で混練した後、押出機によりペレット化することもできる。また、充填材のうち繊維状のものは、混練中での切断を防止するためにサイドフィーダーにより押出機の途中から供給する方が好ましい。溶融混練温度は、通常200〜300℃、好ましくは220〜280℃である。
【0079】
5.成形品
本発明の熱可塑性樹脂組成物から成形品を製造する方法には何等制限はなく、射出成形、射出圧縮成形、ガスアシスト成形、プレス成形、カレンダー成形、ブロー成形、Tダイ押出成形、異形押出成形、フィルム成形等の公知の方法が挙げられる。
【0080】
本発明の成形品は、例えば、電気若しくは電子機器、光学機器、照明機器、事務用機器、または家電用部品、自動車用部品、住宅用部品等として好適である。
【0081】
本発明の熱可塑性樹脂組成物で成形された成形品は、少なくとも2個の互いに接触する部品を含む物品の少なくとの1つの部品として好適に使用することができる。特に、本発明の熱可塑性樹脂組成物のゴム成分が非ジエン系ゴム(b1)としてエチレン・α―オレフィン系ゴムを含有する場合、上記物品の少なくとの1つの部品をこの熱可塑性樹脂組成物の成形品とすることで、当該物品に軋み音が発生するのを抑制することができる。
【0082】
ゴム成分が非ジエン系ゴム(b1)としてエチレン・α―オレフィン系ゴムを含有する本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記物品の部品のうち少なくとも2個の部品が互いに嵌合することにより、互いに当接及び非当接を繰り返す部位を有する嵌め込み物品の成形材料として好適である。上記嵌め込み物品は、当接及び非当接を繰り返す部位を有すればよく、例えば、図1に示すような互いに嵌合する1対の部品1,2からなる物品が挙げられる。図1において、部品1は底面が全て開口した直方体からなる升状の成形品であり、部品2は部品1と同様の形状を備えるとともに上面の中央部に矩形の開口が形成された成形品である。そして、図示のように、部品2は部品1の中に嵌め込むことができ、部品2の外周面と部品1の内周面は互いに接触し、両者は外力を受けると僅かに変形して当接及び非当接を繰り返す。図示の例では、部品1と部品2の左右側面には、対向する位置に穴が開けられており、この2つの穴を通じてボルトとナットで締結して両部品を固定するように構成されている。ボルトナットの代わりに、ビス、リベット等を用いて、部品1及び部品2を固定してもよい。また、ボルトナットの代わりに、接着、溶着等により部品1及び部品2を固着してもよく、または、部品1の上記左右側面の穴に、部品2の左右側面から外方に向けて形成された突起がスナップフィットして両者が固定されるようにしてもよい。
【0083】
上記嵌め込み物品が、当接及び非当接を繰り返すと、部品1と部品2との間でスティック・スリップ現象が発生し、軋み音を発生することがあるが、部品1及び部品2の少なくとも何れか一方を上記本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品にすると、軋み音の発生を著しく低減させることができる。他方の物品も、上記本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品であってもよいが、上記本発明の熱可塑性樹脂組成物以外の材料からなる部品である場合、当該材料には、特に制限はなく、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム、有機質材料、無機質材料、金属材料等が挙げられる。
【0084】
本発明の熱可塑性樹脂組成物以外の材料からなる部品を構成する上記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、AS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、耐衝撃性ポリスチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル(EVA)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリプチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリ乳酸樹脂、PC/ABS樹脂、PC/AES樹脂、PA/ABS樹脂、PA/AES樹脂等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上の組み合わせで使用できる。
【0085】
本発明の熱可塑性樹脂組成物以外の材料からなる部品を構成する上記熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0086】
本発明の熱可塑性樹脂組成物以外の材料からなる部品を構成する上記ゴムとしては、クロロプレンゴム、ポリブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、SEBS、SBS、SIS等の各種合成ゴム、天然ゴム等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0087】
本発明の熱可塑性樹脂組成物以外の材料からなる部品を構成する上記有機質材料としては、例えば、インシュレーションボード、MDF(中質繊維板)、ハードポード、パーティクルボード、ランバーコア、LVL(単板積層材)、OSB(配向性ボード)、PSL(パララム)、WB(ウェハーボード)、硬質繊維板、軟質繊維板、ランバーコア合板、ボードコア合板、特殊コアー合板、ベニアコアーベニヤ板、タップ樹脂を含浸させた紙の積層シート・板、(古)紙等を砕いた細かい小片・線状体に接着剤を混合して加熱圧縮したボード、各種の木材等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0088】
本発明の熱可塑性樹脂組成物以外の材料からなる部品を構成する上記無機質材料としては、例えば、ケイ酸カルシウムボード、フレキシブルボード、ホモセメントボード、石膏ボード、シージング石膏ボード、強化石膏ボード、石膏ラスボード、化粧石膏ボード、複合石膏ボード、各種セラミック、ガラス等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0089】
更に、本発明の熱可塑性樹脂組成物以外の材料からなる部品を構成する上記金属材料としては、鉄、アルミニウム、銅、各種の合金等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0090】
これらの中で、熱可性樹脂、熱硬化性樹脂、及びゴムが好ましく、ABS樹脂、AES樹脂、PC樹脂、ABS樹脂、PC/AES樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂が特に好ましい。
【0091】
本発明の上記物品は、その部品の少なくとも一つがゴム成分としてエチレン・α―オレフィン系ゴムを含有する本発明の熱可塑性樹脂組成物から成形されたものである場合、振動、摺動等により、部品同士が当接及び非当接を繰り返しても軋み音の発生が抑制されるので、自動車用部品、事務用機器部品、住宅用部品、家電用部品等に好適に使用できる。
【0092】
自動車用部品を上記本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形品とした場合、例えば車両走行時の振動により、該部品が他の部品と当接及び非当接を繰り返した場合でも、軋み音の発生を大幅に低減させることが可能である。また、本発明の熱可塑性樹脂組成物がジエン系ゴムを含有すると、低温での破壊特性に優れるため自動車内装用部品に特に好適である。このような自動車用部品としては、ドアトリム、ドアライニング、ピラーガーニッシュ、コンソール、ドアポケット、ベンチレータ、ダクト、エアコンの板状羽根、バルブシャッター、ルーバー、メーターバイザー、インパネアッパーガーニッシュ、インパネロアガーニッシュ、A/Tインジケーター、オンオフスイッチ類(スライド部、スライドプレート)、グリルフロントデフロスター、グリルサイドデフロスター、リッドクラスター、カバーインストロアー、マスク類(マスクスイツチ、マスクラジオなど)、グロープボックス、ポケット類(ポケットデッキ、ポケットカードなど)、ステアリングホイールホーンパッド、スイッチ部品、カーナビゲーション用外装部品等が挙げられる。その中でも、ベンチレータ、エアコンの板状羽根、バルブシャッター、ルーバー、スイッチ部品、カーナビゲーション用外装部品等として特に好適に用いることができる。
【0093】
事務用機器部品を上記本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形品とした場合、例えば機器作動時の振動、デスク引き出しの開閉により、該部品が他の部品と当接及び非当接を繰り返した場合でも、軋み音の発生を大幅に低減させることが可能である。このような事務用機器部品としては、外装部品、内装部品、スイッチまわりの部品、可動部の部品、デスクロック部品、デスク引き出し等が挙げられる。
【0094】
住宅用部品を上記本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形品とした場合、例えば扉、引き戸の開閉により、該部品と他の部品が当接及び非当接を繰り返した場合でも、軋み音の発生を大幅に低減させることが可能である。このような住宅用部品としては、シェルフ扉、チェアダンパー、テーブル折りたたみ脚可動部品、扉開閉ダンパー、引き戸レール、カーテンレール等が挙げられる。
【0095】
家電用部品を上記本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形品とした場合、例えば機器作動時の振動により、該部品と他の部品が当接及び非当接を繰り返した場合でも、軋み音の発生を大幅に低減させることが可能である。このような家電用部品としては、ケース、ハウジング等の外装部品、内装部品、スイッチまわりの部品、可動部の部品等が挙げられる。
【実施例】
【0096】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。実施例中、部および%は特に断らない限り質量基準である。
【0097】
1.評価方法
1−1.融点(Tm)
JIS K7121−1987に従い、DSC(示差走査熱量計)を用い、1分間に20℃の一定昇温速度で吸熱変化を測定し、得られた吸熱パターンのピーク温度から求めた。
【0098】
1−2.耐衝撃性
ISO179に準じて、室温におけるシャルピー衝撃強さ(Edgewise Impact、ノッチ付き)を測定した。測定条件は、次の通りである。
試験片タイプ:Type 1
ノッチタイプ:Type A
荷重:2J
【0099】
また、上記と同様の試験片を80℃、95%RHに制御した恒温恒湿槽内で300時間放置(湿熱処理)した後、上記と同様にしてシャルピー衝撃強さ(Edgewise lmpact、ノッチ付き)を測定し、上記で得られた湿熱処理前の強度に対する湿熱処理後の強度の保持率を下記計算式で算出し、下記基準で評価した。
(強度保持率)=(湿熱処理後の衝撃強度)/(湿熱処理前の衝撃強度)×100
評価は、次の評価基準に基づいて行った。
<評価基準>
○:強度保持率が80%以上
×:強度保持率が80%未満
【0100】
1−3.軋み音評価1(異音リスク指数)
表1及び2に記載の熱可塑性樹脂組成物を、東芝機械製の射出成形機「IS−170FA」(商品名)を用いて、シリンダー温度260℃、射出圧力50MPa、金型温度60℃の条件で射出成形することにより得た、縦150mm、横100mm、厚さ4mmの成形品から、縦50mm、横25mm、厚さ4mmの小試験片をディスクソーで切り出した。次に、番手#100のサンドペーパーで試験片の端部を面取りした後、細かなバリをカッターナイフで除去し、軋み音評価用の小試験片を得た。
表1及び2に記載の熱可塑性樹脂組成物のかわりに、テクノポリマー株式会社製のPC/ABSアロイ「エクセロイ CK20」(商品名)を用いた以外、上記と同様の方法で、縦60mm、横100mm、厚さ4mmの軋み音評価用の大試験片を得た。
上記評価試験片を80℃、95%RHに制御した恒温恒湿槽内で300時間放置(湿熱処理)した後、25℃で24時間冷却して湿熱処理した評価用試験片を得た。得られた評価用試験片である大試験片をジグラー(ZIEGLER)社製スティックスリップ試験機SSP−02の可動側ステージに、小試験片を固定側ステージにセットし、温度23℃、湿度50%RH、荷重40N、速度10mm/秒の条件で、振幅20mmで3回擦り合わせた時の異音リスク指数を測定した。
【0101】
また、湿熱処理を行わない以外、上記と同様の方法での異音リスク指数も測定した。異音リスク指数が大きい程、軋み音が発生しやすくなる。なお、この試験法は、湿熱処理して評価を行うため、軋み音低減効果の持続性も評価することができる。なお、表1及び2の結果の評価基準は下記のとおりである。尚、ドイツ自動車工業会の基準(VDA203−260)によれば、異音リスク指数が3以下であれば、軋み音が発生するリスクは低くなり、合格レベルであるとされている。
<評価基準>
○:試験した条件で最も高い異音リスク指数が1〜3。
△:試験した条件で最も高い異音リスク指数が4〜5。
×:試験した条件で最も高い異音リスク指数が6〜10。
【0102】
1−4.軋み音評価2(実用評価1)
株式会社日本製鋼所製の射出成形機「J―100E」(形式名)を用い、表1及び2に記載の熱可塑性樹脂からなる、ISOダンベル試験片5枚を射出成形し、その後、試験片を80℃、95%RHに制御した恒温恒湿槽内で300時間放置(湿熱処理)した後、25℃で24時間冷却した。
次に、上記表1及び2に記載の熱可塑性樹脂組成物からなるISOダンベル試験片5枚と、接触する部品として、テクノポリマー株式会社製のPC/ABSアロイ「エクセロイ CK20」(商品名)からなり、同様に80℃、95%RHに制御した恒温恒湿槽内で300時間放置(湿熱処理)した後、25℃で24時間冷却したISOダンベル試験片5枚を交互に重ね合わせ、この両端を手でひねって、軋み音の発生の状況を評価した。評価は5回行ない、下記評価基準に基づき判定を行った。
<軋み音の評価>
○:5回の評価全てにおいて、軋み音の発生はわずかであった。
△:5回の評価において、軋み音の発生が顕著な場合が含まれていた。
×:5回の評価全てにおいて、軋み音の発生が顕著であった。
【0103】
1−5.軋み音評価3(実用評価2)
接触する部品として、三菱レイヨン株式会社製のメタクリル樹脂「アクリペット VH−004」(商品名)を用いた以外は、上記軋み音評価2と同様の方法で、軋み音の発生の状況を評価した。評価は5回行ない、下記評価基準に基づき判定を行った。
<軋み音の評価>
○:5回の評価全てにおいて、軋み音の発生はわずかであった。
△:5回の評価において、軋み音の発生が顕著な場合が含まれていた。
×:5回の評価全てにおいて、軋み音の発生が顕著であった。
【0104】
1−6.軋み音評価4(実用評価3)
株式会社日本製鋼所製の射出成形機「J−100E」(形式名)を用い、表1及び2に記載の熱可塑性樹脂からなる、ISOダンベル試験片10枚を射出成形し、その後、試験片を80℃、95%RHに制御した恒温恒湿槽内で300時間放置(湿熱処理)した後、25℃で24時間冷却した。得られたISOダンベル試験片10枚を重ね合わせ、この両端を手でひねって、軋み音の発生の状況を評価した。評価は5回行ない、下記評価基準に基づき判定を行った。
<軋み音の評価>
○:5回の評価全てにおいて、軋み音の発生はわずかであった。
△:5回の評価において、軋み音の発生が顕著な場合が含まれていた。
×:5回の評価全てにおいて、軋み音の発生が顕著であった。
【0105】
1−7.成形品外観
表1及び2に記載の熱可塑性樹脂組成物を日精樹脂工業株式会社製の電動射出成形機「エルジェクト NEX30」(型式名)のシリンダー(温度設定:260℃)に30分滞留させた後、80mm×55mm×1.6mmの平板型の試験片を連続的に10個射出成形して、試験片の外観(滞留熱安定性)を目視で観察し、下記の評価基準で評価した。
【0106】
<評価基準>
○:射出成形した10個の成形品のうち、シルバーストリークの発生したものがなかった。
×:射出成形した10個の成形品のうち、シルバーストリークの発生したものがあった。
【0107】
1−8.熱変形温度(HDT)
ISO75に準拠して測定した(フラットワイズB法、荷重0.45MPa)。
【0108】
1−9.低温での破壊形態
日精樹脂工業株式会社製の電動射出成形機「エルジェクト NEX30」(型式名)を用い、表1及び2に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる、80mm×55mm×2.4mmの平板型の試験片を射出成形した。試験片は、55mmの一方の辺の中央に4mm×1mmのサイドゲートを備え、成形時の樹脂温度は260℃、金型温度は60℃であった。次に、株式会社島津製作所の島津ハイドロショット・高速パンクチャー衝撃試験機「HITS−P10」(型式名)を用い、以下に示す条件で上記試験片を打ち抜いて、評価プレートの打ち抜き部分周辺の割れを観察し、打ち抜き部分の端部からの割れ長さが5mm以内の場合を延性破壊、5mm超過の場合を脆性破壊として評価した。衝突時に部品が脆性破壊をおこすと、部品の割れて尖った部分や、周囲に飛散した尖った破片等により、乗員の安全性が十分に確保できない恐れがあることから、部品は延性破壊することが好ましい。特に、自動車内装用途では、延性破壊することが求められる。
測定温度 : −30℃
打ち抜き速度 : 6.7mm/s
打ち抜き試験用ジグのストライカ先端 : φ12.7mm
試験片受け台のダイス径 : 43mm
【0109】
2.使用原料
2−1.エチレン−プロピレンゴム強化芳香族ビニル系樹脂(AES−1)
2−1−1.アニオン性高分子分散剤の製造
アクリル酸21.6質量部(0.3モル)、エチルアクリレート30質量部(0.3モル)、ブチルメタクリレート56.8質量部(0.4モル)、及びイソプロピルアルコール150質量部を攪拌機、還流冷却管、温度計及び滴下ロートを装着した4つ口フラスコ内に仕込み、窒素ガス置換後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.6質量部を添加し、80℃にて3時間重合した。次に、重合体中のカルボキシル基を28質量%アンモニア水溶液18.2質量部(0.3モル)で中和した後、イソプロピルアルコールを留去しながら水を添加して置換し、固形分30質量%の粘稠なアニオン性のアクリル系共重合体を得た。
【0110】
2−1−2.エチレン−プロピレンゴムラテックスの製造
エチレン−プロピレン共重合体(エチレン/プロピレン=78/22(%)、ムーニー粘度(ML1+4、100℃)は20、融点(Tm)は40℃、ガラス転移温度(Tg)は−50℃)100質量部を95℃に加温した2軸スクリュー型ニーダー(Irie Shoukai Co,Ltd.社製:PBV−03型)に仕込み12rpmで2分間撹拌しながら半溶融状態とした。そして、水11質量部と上記2−1−1で得られたアニオン性高分子分散剤6質量部(固形分)を加えて粘度12000mPa・sに調整したものを投入し、95℃、50rpmで30分間混練した。その後、95℃の温水を添加して固形分45質量%の乳白色の水性分散液を得た。
【0111】
2−1−3.AES−1の重合
リボン型攪拌機翼、助剤連続添加装置、温度計などを装備した容積20リットルのステンレス製オートクレーブを窒素置換した後、窒素気流中で、上記2−1−2で得られた水性分散液40部(固形分)、水170部、水酸化ナトリウム0.01部、ピロリン酸ナトリウム0.2部、硫酸第一鉄7水和物0.01部、ブドウ糖0.2からなる水溶液を仕込んだ。重合温度80℃で一定温度として、ビニル系単量体として、アクリロニトリル15部、スチレン45部、更にtert−ドデシルメルカプタン0.05部からなる溶液とクメンハイドロパーオキシド0.1部を3時間かけて連続的に添加しながら重合を行い、その後、重合温度を維持したまま1時間重合を継続し、重合体AES−1のラテックスを得た。得られたラテックスの重合転化率は、98%であった。このラテックスに、2,2´−メチレン−ビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)0.2部を添加して重合を終了させた。この反応生成物のラテックスを硫酸水溶液で凝固、水洗した後、乾燥して重合体を得た。この重合体のグラフト率は60%、アセトン可溶分の極限粘度[η]は0.42dl/gであった。
【0112】
2−2.エチレン−プロピレンゴム強化芳香族ビニル系樹脂(AES−2)
2−2−1.カチオン性高分子分散剤の製造
N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート62.9質量部(0.4モル)、ブチルメタクリレート71質量部(0.5モル)、ラウリルメタクリレート25.4質量部(0.1モル)、及びイソプロピルアルコール200質量部を攪拌機、還流冷却管、温度計及び滴下ロートを装着した4つ口フラスコ内に仕込み、窒素ガス置換後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.9質量部を添加し、80℃にて3時間重合した。次に、重合体中のジメチルアミノエチル基を酢酸24質量部(0.4モル)で中和した後、イソプロピルアルコールを留去しながら水を添加して置換し、固形分35質量%の粘稠なカチオン性のアクリル系共重合体を得た。
【0113】
2−2−2.エチレン−プロピレンゴムラテックスの製造
エチレン−プロピレン共重合体(エチレン/プロピレン=78/22(%)、ムーニー粘度(ML1+4、100℃)は20、融点(Tm)は40℃、ガラス転移温度(Tg)は−50℃)100質量部を95℃に加温した2軸スクリュー型ニーダー(Irie Shoukai Co,Ltd.社製:PBV−03型)に仕込み12rpmで2分間撹拌しながら半溶融状態とした。そして、水18質量部と上記2−2−1で得られたカチオン性高分子分散剤6質量部(固形分)を加えて粘度6000mPa・sに調整したものを投入し、95℃、50rpmで30分間混練した。その後、95℃の温水を添加して固形分45質量%の乳白色の水性分散液を得た。
【0114】
2−2−3.AES−2の重合
リボン型攪拌機翼、助剤連続添加装置、温度計などを装備した容積20リットルのステンレス製オートクレーブを窒素置換した後、窒素気流中で、上記2−2−2で得られた水性分散液40部(固形分)、水170部、水酸化ナトリウム0.01部、ピロリン酸ナトリウム0.2部、硫酸第一鉄7水和物0.01部、ブドウ糖0.2からなる水溶液を仕込んだ。重合温度80℃で一定温度として、ビニル系単量体として、アクリロニトリル15部、スチレン45部、更にtert−ドデシルメルカプタン0.05部からなる溶液とクメンハイドロパーオキシド0.1部を3時間かけて連続的に添加しながら重合を行い、その後、重合温度を維持したまま1時間重合を継続し、重合体AES−2のラテックスを得た。得られたラテックスの重合転化率は、98%であった。このラテックスに、2,2´−メチレン−ビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)0.2部を添加して重合を終了させた。この反応生成物のラテックスを硫酸水溶液で凝固、水洗した後、乾燥して重合体を得た。この重合体のグラフト率は60%、アセトン可溶分の極限粘度[η]は0.42dl/gであった。
【0115】
2−3.エチレン−プロピレンゴム強化芳香族ビニル系樹脂(AES−3)
2−3−1.エチレン−プロピレンゴムラテックスの製造
エチレン−プロピレン共重合体(エチレン/プロピレン=78/22(%)、ムーニー粘度(ML1+4、100℃)は20、融点(Tm)は40℃、ガラス転移温度(Tg)は−50℃)100部をn−ヘキサン566部に溶解した後、三井化学(株)製酸変性ポリエチレン(商品名:ハイワックス2203A、粘度平均分子量:2700 酸価:30)10部を添加し、さらにオレイン酸4.5部を加えて完全に溶解し、重合体溶液を調製した。これとは別に水700部に水酸化カリウム0.9部を溶解した水溶液にエチレングリコール0.6部を加え60℃に保ち、これに先に調製した上記重合体溶液を少しずつ加えて乳化した後、ホモミキサーで撹拌した。次いで、溶剤と水の一部を留去して粒子径300〜600nmのラテックスを得た。このラテックスにエチレン−プロピレン共重合体100部に対して、ジビニルベンゼン1.5部、ジ−tert−ブチルパーオキシトリメチルシクロヘキサン1.0部を添加して、120℃で1時間反応させて、エチレン−プロピレンンゴムラテックスを得た。
【0116】
2−3−2.AES−3の重合
リボン型攪拌機翼、助剤連続添加装置、温度計などを装備した容積20リットルのステンレス製オートクレーブを窒素置換した後、窒素気流中で、上記2−3−2で得られたエチレン−プロピレンンゴムラテックス40部(固形分)、水170部、水酸化ナトリウム0.01部、ピロリン酸ナトリウム0.2部、硫酸第一鉄7水和物0.01部、ブドウ糖0.2からなる水溶液を仕込んだ。重合温度80℃で一定温度として、ビニル系単量体として、アクリロニトリル15部、スチレン45部、更にtert−ドデシルメルカプタン0.05部からなる溶液とクメンハイドロパーオキシド0.1部を3時間かけて連続的に添加しながら重合を行い、その後、重合温度を維持したまま1時間重合を継続し、重合体AES−3のラテックスを得た。得られたラテックスの重合転化率は、98%であった。このラテックスに、2,2´−メチレン−ビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)0.2部を添加して重合を終了させた。この反応生成物のラテックスを硫酸水溶液で凝固、水洗した後、乾燥して重合体を得た。この重合体のグラフト率は62%、アセトン可溶分の極限粘度[η]は0.40dl/gであった。
【0117】
2−4.エチレン−プロピレンゴム強化芳香族ビニル系樹脂(AES−4)
リボン型攪拌機翼、助剤連続添加装置、温度計などを装備した容積20リットルのステンレス製オートクレーブに、エチレン・プロピレン共重合体(エチレン/プロピレン=78/22(%)、ムーニー粘度(ML1+4 ,100℃)20、融点(Tm)は40℃、ガラス転移温度(Tg)は−50℃)22部、スチレン55部、アクリロニトリル23部、t−ドデシルメルカプタン0.5部、トルエン110部を仕込み、内温を75℃に昇温して、オートクレーブ内容物を1時間攪拌して均一溶液とした。その後、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.45部を添加し、内温を更に昇温して、100℃に達した後は、この温度を保持しながら、攪拌回転数100rpmとして重合反応を行った。重合反応開始後4時間目から、内温を120℃に昇温し、この温度を保持しながら更に2時間反応を行って重合反応を終了した。重合転化率は98%であった。その後、内温を100℃まで冷却し、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)−プロピオネート0.2部、ジメチルシリコーンオイル;KF−96−100cSt(商品名:信越シリコーン株式会社製)0.02部を添加した後、反応混合物をオートクレーブより抜き出し、水蒸気蒸留により未反応物と溶媒を留去し、さらに40mmφベント付き押出機(シリンダー温度220℃、真空度760mmHg)を用いて揮発分を実質的に脱気させ、ペレット化した。得られたエチレン−プロピレンゴム強化芳香族ビニル系樹脂において、エチレン−プロピレンゴムの含有量は22%(重合転化率から計算)、グラフト率は70%、アセトン可溶分の極限粘度[η]は0.47dl/gであった。
【0118】
2−5.アクリルゴム強化芳香族ビニル系樹脂(ASA)
反応器に、アクリル酸n−ブチル99部と、アリルメタアクリレート1部とを乳化重合して得られたアクリル系ゴム質重合体(体積平均粒子径100nm及びゲル含率90%)を含む固形分濃度40%のラテックス50部(固形分換算)を入れ、更に、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1部及びイオン交換水150部を入れて希釈した。その後、反応器内を窒素ガスで置換し、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.02部、硫酸第一鉄0.005部及びホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム0.3部を加え、撹枠しながら60℃まで昇温した。
【0119】
一方、容器に、スチレン37.5部及びアクリロニトリル12.5部の混合物50部に、ターピノーレン1.0部及びクメンハイドロパーオキサイド0.2部を溶解し、その後、容器内を窒素ガスで置換し、単量体組成物を得た。
次いで、上記単量体組成物を、5時間かけて、一定流量で上記反応器に添加しながら70℃で重合を行い、ラテックスを得た。このラテックスに、硫酸マグネシウムを添加し、樹脂成分を凝固させた。その後、水洗、更に乾燥することによりアクリルゴム強化芳香族ビニル系樹脂を得た。グラフト率は93%、極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)は0.30dl/gであった。
【0120】
2−6.ブタジエンゴム強化芳香族ビニル系樹脂(ABS)
撹拌機を備えたガラス製反応容器に、イオン交換水75部、ロジン酸カリウム0.5部、t−ドデシルメルカプタン0.1部、ポリブタジエンラテックス(平均粒子径:270nm、ゲル含率90%)32部(固形分換算)、スチレン−ブタジエン共重合ラテックス(スチレン含率25%、平均粒子径550nm)8部、スチレン15部及びアクリロニトリル5部を入れ、窒素気流中で攪拌しながら昇温した。内温が45℃に達した時点でピロリン酸ナトリウム0.2部、硫酸第一鉄7水和物0.01部及びブドウ糖0.2部をイオン交換水20部に溶解した溶液を加えた。その後、クメンハイドロパーオキサイド0.07部を加えて重合を開始し、1時間重合させた。次いで、イオン交換水50部、ロジン酸カリウム0.7部、スチレン30部、アクリロニトリル10部、t−ドデシルメルカプタン0.05部及びクメンハイドロパーオキサイド0.01部を3時間かけて連続的に添加した。1時間重合させた後2,2´−メチレン−ビス(4−エチレン−6−t−ブチルフェノール)0.2部を添加し重合を完結させた。このラテックスに硫酸マグネシウムを添加し、樹脂成分を凝固させた。その後、水洗、更に乾燥することによりブタジエンゴム強化芳香族ビニル系樹脂を得た。グラフト率は72%、アセトン可溶分の極限粘度[η]は0.47dl/gであった。
【0121】
2−7.スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS)
内容積30リットルのリボン翼を備えたステンレス製オートクレーブを2基連結し、窒素置換した後、1基目の反応容器にスチレン70部、アクリルニトリル30部、トルエン20部を連続的に添加した。分子量調節剤としてtert−ドデシルメルカプタン0.12部およびトルエン5部の溶液、および重合開始剤として、1,1´―アゾビス( シクロへキサン−1−カーボニトリル)0.1部、およびトルエン5部の溶液を連続的に供給した。1基目の重合温度は110℃にコントロールし、平均滞留時間2.0時間、重合転化率57%であった。得られた重合体溶液は、1基目の反応容器の外部に設けられたポンプによりスチレン、アクリロニトリル、トルエン、分子量調節剤及び重合開始剤の供給量と同量を連続的に取り出し2基目の反応容器に供給した。2基目の反応容器の重合温度は、130℃で行い、重合転化率は75%であった。2基目の反応容器で得られた共重合体溶液は、2軸3段ベント付き押出機を用いて、直接未反応単量体と溶剤を脱揮し、極限粘度〔η〕0.48dl/gの重合体を得た。
【0122】
3.成形体の製造及び評価
実施例1〜26、比較例1〜4
表1又は表2記載の成分を各表に記載の配合割合でヘンシェルミキサーにより混合した後、ベント付き二軸押出機(日本製鋼所社製、TEX44、バレル設定温度260℃)を用いて溶融混練し、ペレット化した。得られたぺレットを十分に乾燥したのち、このペレットを用いて前記方法で試験片を成形し、そして得られた試験片を用いて、前記方法で評価した。評価結果を表1及び表2に示した。
【0123】
【表1】
【0124】
【表2】
【0125】
なお、表1及び表2中、下記用語は下記を意味する。
PC: Bayer社製のポリカーボネート樹脂「Makrolon 2800」(商品名)
アデカスタブCDA−1:株式会社ADEKA製「アデカスタブCDA−1」(商品名)
アデカスタブCDA−6:株式会社ADEKA製「アデカスタブCDA−6」(商品名)
アデカスタブCAD−10:株式会社ADEKA製「アデカスタブCDA−10」(商品名)
イルガノックスMD1024:BASF社製「イルガノックスMD1024」(商品名)
アデカスタブZS−90:株式会社ADEKA製「アデカスタブZS−90」(商品名)
スタビノールBTZ−M:住友化学工業社製「スタビノールBTZ−M」(商品名)
【0126】
表1及び表2から、以下のこと判る。
本願の成分(A)〜(C)を含有する実施例1〜26では、湿熱処理前後で耐衝撃性及び成形品外観の劣化が見られなかった。また、エチレン・α―オレフィン系ゴムをゴム成分として含有する熱可塑性樹脂を用いた実施例1〜19及び21〜26では、さらに、湿熱処理前後の何れでも軋み音の発生も抑制されていた。
【0127】
なお、実施例1の熱可塑性樹脂を用いて図1の部品1を成形し、比較例3の熱可塑性樹脂を用いて図1の部品2を成形し、両者を図1に示されるように嵌め込んでボルトナットで締結して組み立てた後、図1の矢印の方向に繰り返し荷重をかけたところ、軋み音は発生しなかった。この組立体を80℃、95%RHに制御した恒温恒湿槽内で300時間放置(湿熱処理)した後、図1の矢印の方向に繰り返し荷重をかけたところ、同様に軋み音は発生しなかった。
【0128】
また、成分(B)を含有しない熱可塑性樹脂組成物を用いた比較例1は、湿熱処理後に耐衝撃性及び成形品外観の劣化が見られた。成分(A)を含有しない熱可塑性樹脂組成物を用いた比較例2は、耐衝撃性及び耐熱性が劣った。ゴム成分としてジエン系ゴムを含有するが非ジエン系ゴムを含有しない熱可塑性樹脂組成物を用いた比較例3は、湿熱処理後に耐衝撃性が著しく劣化し、湿熱処理前後で軋み音の発生も顕著であった。成分(C)を含有しない熱可塑性樹脂組成物を用いた比較例4は、湿熱処理後に、耐衝撃性及び成形品外観が劣化し、軋み音の発生も顕著であった。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、耐湿熱老化性に優れており、特に耐衝撃性及び成形品外観の耐湿熱老化性に優れているので、過酷な環境下で使用される物品の成形材料として有用である。
図1