(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
フラックス残渣は、ロジンフラックスを用いて組み立てられたマイクロエレクトロニクスコンポーネントに常に存在する。最新の電子回路基板は、回路およびコンポーネント密度を増大する方向に進んでいるため、はんだ付け後の完全な基板クリーニングは重要な処理工程になっている。はんだ付け後、フラックス残渣は、有機溶剤により除去されることが多い。フラックス除去溶剤は、クリーニングしている基板を損傷することなく、フラックスおよびフラックス残渣を除去できるよう、不燃性で、低毒性および高溶解能力を有していなければならない。使用中の適切な操作のために、マイクロエレクトロニックコンポーネントは、製造完了後に表面を汚染する可能性のあるフラックス残渣、油脂および微粒子をクリーニングしなければならない。
【0003】
蒸気脱脂および蒸気フラックス除去機器を含むクリーニング装置において、組成物は、シャフトシール、ホース接続、はんだ付けジョイントおよび破損ラインにおける漏れにより操作中失われる可能性がある。さらに、使用組成物は、機器の保守手順中に大気へ放出される可能性がある。組成物が純成分でない場合には、組成物は、機器から大気へ漏れる、または放出されると変化して、機器に残った組成物が許容できない性能を示す可能性がある。従って、単一不飽和フッ素化エーテルを含む組成物をクリーニング組成物として用いるのが望ましい。
【0004】
モントリオール議定書の結果、以前のクロロフルオロカーボン(CFC)およびハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)の略全てが排除されて以来、代替のオゾンを破壊しない溶剤が入手可能になっている。沸点、可燃性および溶剤能力特性は、溶剤混合物を調製することにより調製できることが多いが、これらの混合物は、使用中、望ましくない程度まで分画されるため、不十分であることが多い。かかる溶剤混合物はまた、溶剤蒸留中にも分画されるため、元の組成物の溶剤混合物をリカバーすることを実質的に不可能とさせている。
【0005】
多くの業界では、金属、セラミックス、ガラスおよびプラスチックの表面処理に水性組成物を用いている。コーティングのクリーニング、めっきの堆積は、水性媒体において実施されることが多く、通常、その後に、残留水を除去する工程が続く。温風乾燥、遠心分離乾燥および溶剤系水置換は、かかる残留水を除去するのに用いられる方法である。
【0006】
ハイドロフルオロカーボン(HFC)は、乾燥または脱水用途に以前用いられていたCFC溶剤について替わるものとして提案されてきたが、多くのHFCは水への溶解度が限定されている。従って、水を基板から除去する補助をする界面活性剤の使用が、多くの乾燥または脱水方法に必要である。疎水性界面活性剤が脱水または乾燥溶剤に添加されて、水を基板から置換してきた。
【0007】
脱水または乾燥組成物中の脱水または乾燥溶剤(不飽和フッ素化エーテル溶剤)の主な機能は、乾燥中の基板表面の水の量を減じることである。界面活性剤の主な機能は、基板表面から残っている水を置換することである。不飽和フッ素化エーテル溶剤および界面活性剤を組み合わせると、非常に有効な置換乾燥組成物が得られる。
【0008】
共沸溶剤混合物は、フラックス除去、脱脂用途、およびその他クリーニング剤が必要とする特性を有していてもよい。共沸混合物は、最大か最小沸点を示し、沸騰しても分画しない。沸騰条件下での組成物の元々の普遍性により、確実に、混合物の個々の成分の比が使用中に変化せず、溶解性も一定のままとなるであろう。
【0009】
本開示は、半導体チップおよび回路基板クリーニング、フラックス除去および脱脂プロセスに有用な共沸および共沸様組成物を提供する。本発明の組成物は不燃性であり、分画しないため、使用中、可燃性組成物を生成しないであろう。さらに、使用済み共沸溶剤混合物は、組成変化することなく、再蒸留して再使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態の組成物は、共沸組成物を形成するためのMPHEと有効量のトランス−1,2−ジクロロエチレンを含む。「有効量」とは、MPHEと結合すると、共沸または近共沸混合物の形成となる量と定義される。MPHEは、強塩基存在下でのパーフルオロ−3−ヘプテン等のパーフルオロヘプテンとメタノールの反応生成物である不飽和フルオロエーテルの異性体混合物を含む。一実施形態において、混合物は、以下の化合物の1つ以上の混合物を含む。CF
3CF
2CF=CFCF(OR)CF
2CF
3、CF
3CF
2C(OR)=CFCF
2CF
2CF
3、CF
3CF=CFCF(OR)CF
2CF
2CF
3およびCF
3CF
2CF=C(OR)CF
2CF
2CF
3(式中、R=CH
3)。
【0020】
組成物は、約0.1モルパーセント〜約9.7モルパーセントのMPHEとトランス−1,2−ジクロロエチレンを含む共沸様組成物を含むように形成してもよい。本発明の他の実施形態において、共沸様組成物は、約2.11psiaA〜約207.8psiaの蒸気圧および約0℃〜約160℃の温度で、約0.1モルパーセント〜約9.7モルパーセントのMPHEとトランス−1,2−ジクロロエチレンを含む。本発明のさらに他の実施形態において、共沸様組成物は、約9.7モルパーセントのMPHEとトランス−1,2−ジクロロエチレンを含む。トランス−1,2−ジクロロエチレンは、約90.3モルパーセント〜約99.9モルパーセント含んでいてもよい。蒸気圧は、約2.11psia〜約207.8psiaである。温度は、約0℃〜約160℃である。
【0021】
本発明の一実施形態において、共沸様組成物は、約0.1モルパーセント〜約9.7モルパーセントのMPHEとトランス−1,2−ジクロロエチレンから実質的になる。本発明の他の実施形態において、共沸様組成物は、約2.11psia〜約207.8psiaの蒸気圧および約0℃〜約160℃の温度で、約0.1モルパーセント〜約9.7モルパーセントのMPHEとトランス−1,2−ジクロロエチレンから実質的になる。本発明のさらに他の実施形態において、共沸様組成物は、1atmの蒸気圧および47.6℃〜47.9℃の温度で、約0.1モルパーセント〜約4.7モルパーセントのMPHEとトランス−1,2−ジクロロエチレンを含む。
【0022】
さらに他の実施形態において、共沸組成物は、約46℃の温度で、約1atmの蒸気圧を有する約1.0モルパーセントのメチルパーフルオロヘプテンエーテルとトランス−1,2−ジクロロエチレンを含む。さらに他の実施形態において、共沸組成物は、約46℃の温度で、約1atmの蒸気圧を有する約1.0モルパーセントのメチルパーフルオロヘプテンエーテルとトランス−1,2−ジクロロエチレンから実質的になる。
【0023】
さらに他の実施形態において、共沸様組成物は、約48.3℃〜48.5℃の温度で、約1atmの蒸気圧を有する約0.6モルパーセント〜約8.7モルパーセントのメチルパーフルオロヘプテンエーテルとトランス−1,2−ジクロロエチレンを含む。さらに他の実施形態において、共沸様組成物は、約48.3℃〜48.5℃の温度で、約1atmの蒸気圧を有する約0.6モルパーセント〜約8.7モルパーセントのメチルパーフルオロヘプテンエーテルとトランス−1,2−ジクロロエチレンから実質的になる。
【0024】
一実施形態において、本組成物は、噴射剤をさらに含んでいてよい。エーロゾル噴射剤は、エーロゾルの形態で貯蔵容器から表面まで本発明の組成物を分配するのを補助することができる。エーロゾル噴射剤は、総組成物の約25重量パーセントまで、本発明の組成物に任意で含まれる。代表的なエーロゾル噴射剤は、空気、窒素、二酸化炭素、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234YF)、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ZE)、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225YE)、ジフルオロメタン(CF
2H
2、HFC−32)、トリフルオロメタン(CF-
3H、HFC−23)、ジフルオロエタン(CHF
2CH
3、HFC−152A)、トリフルオロエタン(CH
3CF
3、HFC−143AまたはCHF
2CH
2F、HFC−143)、テトラフルオロエタン(CF
3CH
2F、HFC−134AまたはCF
2HCF
2H、HFC−134)、ペンタフルオロエタン(CF
3CF
2H、HFC−125)および炭化水素、例えば、プロパン、ブタンまたはペンタン、ジメチルエーテルあるいはこれらの組み合わせを含む。
【0025】
他の実施形態において、本発明の組成物は、少なくとも1つの界面活性剤をさらに含んでいてもよい。本開示の界面活性剤は、基板の脱水または乾燥の当該技術分野において公知の全ての界面活性剤が含まれる。代表的な界面活性剤としては、アルキルホスフェートアミン塩(2−エチルヘキシルアミンとイソオクチルホスフェートの1:1塩等)、エトキシル化アルコール、メルカプタンまたはアルキルフェノール、アルキルホスフェートの第4級アンモニウム塩(アンモニウムまたはホスフェート基のいずれかにフルオロアルキル基を有する)およびフッ素化アミンのモノ−またはジ−アルキルホスフェートが挙げられる。追加のフッ素化界面活性剤化合物は、参考文献として援用される米国特許第5,908,822号明細書に記載されている。
【0026】
本発明の脱水組成物に含まれる界面活性剤の量は、その組成物が用いられるであろう特定の乾燥用途に応じて大きく異なり得るが、当業者であればすぐに分かる。一実施形態において、不飽和フッ素化エーテル溶剤に溶解した界面活性剤の量は、界面活性剤/溶剤組成物の総重量を基準として、約1重量パーセント以下である。他の実施形態において、組成物による処理後、乾燥させる基材を、界面活性剤を含有しない、または最小量の界面活性剤を含有する溶剤で後に処理する場合は、多めの量の界面活性剤を用いることができる。一実施形態において、界面活性剤の量は、少なくとも約50百万分率(PPM、重量基準で)である。他の実施形態において、界面活性剤の量は、約100〜約5000PPMである。さらに他の実施形態において、用いる界面活性剤の量は、脱水組成物の総重量を基準として、約200〜約2000PPMである。
【0027】
任意で、その他の添加剤を、脱水に用いる溶剤および界面活性剤を含む本発明の組成物に含めてもよい。かかる添加剤としては、帯電防止特性、ガラスおよびシリカ等の非導電性基材からの正電荷を消失させる能力を有する化合物が挙げられる。本発明の脱水組成物に帯電防止添加剤を用いることは、ガラスレンズおよびミラー等の非導電性部品から水または水溶液を乾燥させるときのスポットや染みを防ぐのに必要となる場合がある。本発明のたいていの不飽和フルオロエーテル溶剤はまた、誘電性流体としても有用性がある。すなわち、それらは、電流の不良導体で、静電荷を容易に消失しない。
【0028】
従来の乾燥およびクリーニング機器の脱水組成物の沸騰および大循環により、特に、水の大半が基板から除去された乾燥プロセスの後の段階において静電荷が形成される可能性がある。かかる静電荷は、基板の非導電性表面で集まり、水が表面から放出されるのを阻害する。残留水は、そこで乾燥し、基板上に望ましくないスポットやしみを生じる。基板に残る静電荷は、クリーニングプロセスからの不純物を持ち込んだり、空気からの埃等の不純物を引き寄せたりする恐れがあり、クリーニング性能を許容できないものとする。
【0029】
一実施形態において、望ましい帯電防止添加剤は、極性化合物であり、本発明の不飽和フッ素化エーテル溶剤に可溶で、不飽和フッ素化エーテル溶剤の導電性が増大する結果、基板からの静電荷を消失させる。他の実施形態において、帯電防止添加剤は、不飽和フッ素化エーテル溶剤と近い標準沸点を有しており、水中溶解度が最少である。さらに他の実施形態において、帯電防止添加剤は、約0.5重量パーセント未満の水中溶解度を有している。一実施形態において、帯電防止剤の溶解度は、不飽和フッ素化エーテル溶剤中少なくとも0.5重量パーセントである。一実施形態において、帯電防止添加剤は、ニトロメタン(CH
3NO
2)である。
【0030】
一実施形態において、帯電防止添加剤を含む脱水組成物は、後述するとおり、基板の脱水または乾燥方法の脱水、乾燥、濯ぎ工程のいずれにも有効である。
【0031】
他の実施形態は、
A)基板を、界面活性剤を含有するMPHEとトランス−1,2−ジクロロエチレンの共沸または共沸様組成物を含む溶剤を含む組成物と接触させることにより、基板を脱水する工程と、
B)脱水した基板を組成物からリカバーする工程と
を含む基板の脱水または乾燥方法に関する。
【0032】
一実施形態において、脱水および乾燥用界面活性剤は、合計溶剤/界面活性剤組成物重量を基準として少なくとも1重量パーセントまで可溶である。別の実施形態において、本開示の脱水または乾燥方法は、タングステン、銅、金、ベリリウム、ステンレス鋼、アルミニウム合金、黄銅等の金属、ガラス、サファイア、ホウケイ酸ガラス、アルミナ、電子回路に用いられるシリコンウェハ等のシリカ、焼成アルミナ等のガラスおよびセラミック表面、ポリオレフィン(「ALATHON」、RYNITE(登録商標)、「TENITE」)、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン(STYRON)、ポリテトラフルオロエチレン(TEFLON(登録商標))、テトラフルオロエチレン−エチレンコポリマー(TEFZEL(登録商標))、ポリフッ化ビニリデン(「KYNAR」)、イオノマー(SURLYN(登録商標))、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンポリマー(KRALAC(登録商標))、フェノール−ホルムアルデヒドコポリマー、セルロース(「ETHOCEL」)、エポキシ樹脂、ポリアセタール(DELRIN(登録商標))、ポリ(P−フェニレンオキシド)(NORYL(登録商標))、ポリエーテルケトン(「ULTRAPEK」)、ポリエーテルエーテルケトン(「VICTREX」)、ポリ(ブチレンテレフタレート)(「VALOX」)、ポリアリーレート(ARYLON(登録商標))、液晶ポリマー、ポリイミド(VESPEL(登録商標))、ポリエーテルイミド(「ULTEM」)、ポリアミドイミド(「TORLON」)、ポリ(P−フェニレンスルフィド)(「RYTHON」)、ポリスルホン(「UDEL」)およびポリアリールスルホン(「RYDEL」)等のプラスチックをはじめとする広範囲な基板から水を置換するのに非常に有効である。他の実施形態において、本発明の脱水または乾燥方法に用いる組成物はエラストマーと相溶性がある。
【0033】
一実施形態において、本開示は、基板を、上述した脱水組成物と接触させる工程と、基板を脱水組成物との接触から外す工程とを含む水の少なくとも一部を、濡れた基板の表面から除去(脱水)する方法に関する。他の実施形態において、基板の表面に元々結合していた水が、溶剤および/または界面活性剤と置換されて、脱水組成物が残る。本明細書で用いる「水の少なくとも一部」という用語は、基板の表面にある水の少なくとも約75重量パーセントが、浸漬サイクル毎に除去されることを意味する。本明細書で用いる「浸漬サイクル」という用語は、基板を本発明の脱水組成物に浸漬する工程を少なくとも含む1サイクルを意味する。
【0034】
任意で、基板に接合して残った最小量の界面活性剤は、基板を界面活性剤フリーのハロカーボン溶剤と接触させることによりさらに除去することができる。物品を溶剤蒸気または還流溶剤中に保持すると、基板に残る界面活性剤の存在をさらに減じるであろう。基板の表面に接合した溶剤の除去は、蒸発によりなされる。大気または大気より低い圧力での溶剤の蒸発を用いることができ、ハロカーボン溶剤の沸点より高い、かつ低い温度を用いることができる。
【0035】
基板を脱水組成物と接触させる方法は、重要でなく、幅広く変えることができる。例えば、基板を組成物に浸漬することができる。または、従来の機器を用いて、基板に組成物をスプレーすることができる。概して、組成物と基板の全露出表面の間の接触が確保されるため、基板は完全に浸漬するのが好ましい。しかしながら、かかる完全な接触を容易に行える他の何らかの方法を用いてもよい。
【0036】
基板と脱水組成物を接触させる時間は、広く変えることができる。通常、接触時間は、約5分までであるが、必要に応じて、これより長い時間を用いてもよい。脱水プロセスの一実施形態において、接触時間は、約1秒〜約5分である。他の実施形態において、脱水プロセスの接触時間は、約15秒〜約4分である。
【0037】
接触温度も、組成物の沸点に応じて、広く変えることができる。概して、接触温度は、組成物の標準沸点に等しい、またはそれ未満である。
【0038】
一実施形態において、本開示の組成物は、共溶媒をさらに含有していてもよい。かかる共溶媒は、従来のプロセス残渣を基板からクリーニングする、例えば、はんだフラックスを除去し、本発明の基板を含む機械部品を脱脂するのに本発明の組成物を用いる場合、望ましい。かかる共溶媒としては、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール)、エーテル(例えば、ジエチルエーテル、メチルターシャリー−ブチルエーテル)、ケトン(例えば、アセトン)、エステル(例えば、酢酸エチル、ドデカン酸メチル、ミリスチン酸イソプロピルおよびコハク、グルタルまたはアジピン酸のジメチルまたはジイソブチルエステルあるいはこれらの混合物)、エーテルアルコール(プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルおよびトリプロピレングリコールモノメチルエーテル)、ハイドロカーボン(例えば、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン)およびハイドロクロロカーボン(例えば、トランス−1,2−ジクロロエチレン)が挙げられる。かかる共溶媒を、基板脱水またはクリーニングのための本発明の組成物と共に用いるときは、組成物全体の重量を基準として、約1重量パーセント〜約50重量パーセントの量で存在させればよい。
【0039】
本開示の他の実施形態は、
A.表面を、MPHEとトランス−1,2−ジクロロエチレンの共沸または共沸様組成物を含む溶剤を含む組成物と接触させる工程と、
B.表面を組成物からリカバーする工程と
を含む表面をクリーニングする方法に関する。
【0040】
一実施形態において、本発明の組成物は、クリーニング組成物、クリーニング剤、堆積溶剤および脱水または乾燥溶剤として有用である。他の実施形態において、本発明は、本開示のクリーニング組成物またはクリーニング剤と表面または基板を接触させる工程と、任意で、実質的に残渣のない表面または基板をクリーニング組成物またはクリーニング剤からリカバーする工程とを含む表面または基板から残渣を除去する方法に関する。
【0041】
さらに他の実施形態において、本開示は、汚染物質を表面から除去することにより、表面をクリーニングする方法に関する。汚染物質を表面から除去する方法は、汚染物質を有する表面を、本発明のクリーニング組成物と接触させて、汚染物質を溶解し、任意で、クリーニング組成物から表面をリカバーすることを含む。すると、表面は実質的に汚染物質フリーである。前述したとおり、本方法により除去できる汚染物質または残渣としては、これらに限られるものではないが、油、グリース、フラックス残渣および微粒子汚染物質が挙げられる。
【0042】
本開示の一実施形態において、接触させる方法は、基板にスプレーする、基板を洗い流す、または、例えば、クリーニング組成物を組み込んだ、またはそれを付けた雑巾または紙で拭くことにより行ってよい。本開示の他の実施形態において、接触させる方法は、クリーニング組成物の浴に物品を浸すまたは浸漬することにより行ってよい。
【0043】
本開示の一実施形態において、リカバーする方法は、クリーニング組成物浴から接触させた表面を除去することにより行う。本発明の他の実施形態において、リカバーする方法は、スプレーした、洗い流した、または拭いたクリーニング組成物をディスクから流すことにより行われる。さらに、前の工程の完了後に残る可能性のある何らかの残渣のクリーニング組成物は、堆積方法と同様のやり方で蒸発させてよい。
【0044】
表面をクリーニングする方法は、後述する堆積方法と同じ種類の表面に適用してもよい。シリカ、ガラス、金属または金属酸化物またはカーボンの半導体表面または磁気媒体ディスクは、本発明の方法により除去される汚染物質を有する可能性がある。上述した方法において、ディスクにクリーニング組成物を接触させ、ディスクをクリーニング組成物からリカバーすることにより、汚染物質をディスクから除去することができる。
【0045】
さらに他の実施形態において、本方法はまた、物品を本開示のクリーニング組成物と接触させることにより、製品、部品、コンポーネント、基板または任意のその他の物品またはそれらの一部から汚染物質を除去する方法も提供する。本明細書で参照する「物品」という用語は、全てのかかる製品、部品、コンポーネント、基板等を指し、それらの任意の表面または一部を指すことをさらに意図している。
【0046】
本明細書で用いる「汚染物質」という用語は、たとえ、物品に意図的に配置されていたとしても、物品に存在する何らかの望ましくない材料または物質を指す。例えば、半導体デバイスの製造においては、フォトレジスト材料を基板に堆積して、エッチング操作のマスクを形成し、その後、フォトレジスト材料を基板から除去するのが一般的である。本明細書で用いる「汚染物質」という用語は、かかるフォトレジスト材料をカバーし、包含するものとする。ハイドロカーボン系の油およびグリースならびにジオクチルフタレートは、カーボンコートディスクにあるであろう汚染物質の例である。
【0047】
一実施形態において、本発明の方法は、蒸気脱脂および溶剤クリーニング方法において、物品を本発明のクリーニング組成物と接触させることを含む。かかる一実施形態において、蒸気脱脂および溶剤クリーニング方法は、物品を、好ましくは、室温で、沸騰クリーニング組成物の蒸気に露出することからなる。対象物に凝縮する蒸気には、比較的清浄な蒸留クリーニング組成物を与えて、グリースまたはその他汚染物質を洗い流すという利点がある。かかるプロセスには、対象物からの本発明のクリーニング組成物の最終蒸発によって、対象物を液体クリーニング組成物で単に洗浄する場合に比べて、比較的僅かな残渣しか残らないという点でさらなる利点を有する。
【0048】
他の実施形態において、除去の難しい汚染物質を物品が含む用途について、本発明の方法には、周囲温度より高い、またはかかる用途に有効な任意のその他の温度まで、クリーニング組成物の温度を上げて、クリーニング組成物のクリーニング作用を大幅に改善することが含まれる。かかる一実施形態において、かかるプロセスはまた、物品、特に、金属パーツおよび組立体のクリーニングを効率的かつ迅速に行わなければならない大量組立ライン操作にも一般的に用いられる。
【0049】
一実施形態において、本開示のクリーニング方法は、清浄にする物品を、高温で、液体クリーニング組成物に浸漬することを含む。他の実施形態において、本開示のクリーニング方法は、清浄にする物品を、クリーニング組成物の略沸点で、液体クリーニング組成物に浸漬することを含む。かかる一実施形態において、この工程は、大量の目的とする汚染物質を物品から除去する。さらに他の実施形態において、この工程は、大部分の目的とする汚染物質を物品から除去する。一実施形態において、この工程に続いて、前の浸漬工程における液体クリーニング組成物の温度より低い温度で、新たに蒸留したクリーニング組成物に物品を浸漬する。かかる一実施形態において、新たに蒸留したクリーニング組成物は、略周囲または室温である。さらに他の実施形態において、本方法はまた、既述の第1の浸漬工程に関連した熱/沸点クリーニング組成物から出た蒸気に物品を露出することにより、クリーニング組成物の比較的熱い蒸気と物品を接触させる工程を含む。かかる一実施形態において、これによって、物品のクリーニング組成物蒸気が凝縮する。ある好ましい実施形態において、最終濯ぎの前に、物品に蒸留クリーニング組成物をスプレーしてもよい。
【0050】
本方法に関して用いるのに、数多くの様々な種類の蒸気脱脂機器が適用可能であるものと考えられる。かかる機器およびその操作の一例は、参考文献として援用される米国特許第3,085,918号明細書に開示されている。そこに開示された機器は、クリーニング組成物を含む沸騰槽、蒸留したクリーニング組成物を含むクリーン槽、水分離器およびその他補助機器を有している。
【0051】
本クリーニング方法はまた、コールドクリーニングも含んでよく、コールドクリーニングにおいては、汚染した物品を、本開示の流体クリーニング組成物に、周囲または室温条件下で浸漬するか、または、クリーニング組成物に浸したぼろ布または同様の物体で、かかる条件下で拭く。
【実施例】
【0052】
本明細書に記載した概念を、以下の実施例でさらに説明していく。それらは、請求項に記載された本発明の範囲を限定するものではない。概要または実施例に上述した動作の全てが必要ではないこと、特定の動作の一部が必要ない場合もあること、そして1つ以上のさらなる動作を、記載したものに加えて行うことができることを記しておく。さらに、動作を示した順番は、必ずしも、それらを行う順番ではない。
【0053】
前述の明細書において、特定の実施形態を参照して、概念を説明してきた。しかしながら、当業者には、以下の請求項に規定された本発明の範囲から逸脱することなく、様々な修正および変更を行えることは明らかである。従って、明細書は、限定的な意味ではなく、例示とみなすべきであり、かかる修正は全て、本発明の範囲に含まれるものとする。
【0054】
利点、その他長所および問題解決策を、特定の実施形態に関して上述してきた。しかしながら、利点、長所、問題解決策、および利点、長所または解決策のいずれかが生じる、またはより顕著となる任意の特徴は、いずれか、または全ての請求項の重要な、必要な、または必須の特徴と解釈されるべきでない。
【0055】
特定の特徴は、明確にするために、個別の実施形態で記載された特定の特徴は、単一の実施形態の組み合わせで提供されてもよいものと考えるべきである。反対に、簡潔にするために、単一の実施形態で記載された様々な特徴も、個別に、または任意のサブコンビネーションで提供されてもよい。さらに、範囲で記した値の参照には、その範囲内のありとあらゆる値が含まれる。
【0056】
実施例1:MPHEとt−DCEの混合物についての露点および泡立ち点圧力
本明細書に開示した組成物の露点および泡立ち点圧力を、測定および計算された熱力学特性から計算した。近共沸範囲は、MPHEの最小および最大濃度(モルパーセント、モル%)により示される。露点と泡立ち点圧力の差は、泡立ち点圧力を基準として3%以下である。結果を表1にまとめてある。
【0057】
【表1】
【0058】
実施例2−MPHEとトランス−1,2−ジクロロエチレン共沸様混合物
沸点測定装置を用いて、MPHEとトランス−1,2−ジクロロエチレン混合物の共沸様範囲を求めた。装置は、熱電対を備えたフラスコ、加熱マントルおよび凝縮器からなっていた。フラスコのサイドネックにゴム隔壁を備えており、一成分をフラスコに添加することができる。最初、フラスコは100%のトランス−1,2−ジクロロエチレンを含有しており、還流するまで液体を徐々に加熱したところ、0.1℃に直近の沸点が記録された。MPHEは、約1または2WT%の増分で、サイドネックを通してフラスコに添加された。MPHEを添加する度に、フラスコの沸点を安定化させて記録した。約50WT%のMPHEと50WT%のトランス−1,2−ジクロロエチレンの組成が存在するまで、MPHEをフラスコのトランス−1,2−ジクロロエチレン混合物に添加した。同様の実験をフラスコ中100%HPHEで開始し、トランス−1,2−ジクロロエチレンを増分しながらフラスコに添加し、再び、50%MPHEと50%トランス−1,2−ジクロロエチレンとした。このようにして、0〜100%のMPHEとトランス−1,2−ジクロロエチレン混合物の沸点を得た。結果を表2に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
各純成分の沸点未満の沸点を有する組成物は、共沸様挙動の証拠と考えられた。MPHEとトランス−1,2−ジクロロエチレン混合物については、この共沸様範囲は、約0.6モル%のMPHE〜約8.7モル%のMPHEということが分かった。
【0063】
実施例3−MPHEと1,2−トランス−ジクロロエチレン共沸物
2.4モル%のMPHEと97.6モル%の1,2−トランス−ジクロロエチレン(T−DCE)を含有する混合物を調製した。10:1還流対除去比を用いて、1気圧で、5−プレートオールダーショウ蒸留カラムにおいて、混合物を蒸留した。ヘッドおよびフラスコ温度を、1℃まで直接読んだ。蒸留物試料を、ガスクロマトグラフィーによる組成判断のための蒸留中30分の間隔で取り出した。結果を表3に示す。
【0064】
【表5】
【0065】
蒸留中、特に、10%と60%でのカット間、蒸留温度および組成は、注目すべきことに一定のままであった。これは、共沸物の存在を示している。平均で、1.0±0.1モル%のMPHEと99.0±0.1モル%の1,2−トランス−ジクロロエチレンの組成が観察された。
【0066】
実施例4−クリーニング剤としての使用
フッ素化流体と、1,2−トランス−ジクロロエチレン等のハイドロクロロカーボンの共沸組成物が、クリーニング剤として有用なことが多い。ハイドロクロロカーボンは、油を溶解する能力を有するが、可燃性の可能性があるため、ある状況においては望ましくない。1,2−トランス−ジクロロエチレンは可燃性である。フッ素化流体は不燃性であるが、炭化水素油を溶解しないであろう。2者の混合物が不燃性と判断されれば、それらは特に有用である。
【0067】
約96.5WT%の1,2−トランス−ジクロロエチレンと3.5%のMPHEの共沸組成物を調製し、密閉式引火点試験を行った。混合物は可燃性でないことが分かった。
【0068】
共沸混合物を用いて、後述の実施例に記載したとおり、部品から油を除去した。混合物は、ビーカー内で沸騰するまで加熱された。予め秤量しておいたアルミニウム片(約2インチ×3インチのサイズ)を、綿棒を用いて鉱油で覆った。片を再秤量し、沸騰した溶剤に5分間沈めた。片を溶剤から取り出し、1分間空気乾燥させ、最後に秤量した。DOW CORNING200シリコーン流体(10,000CST)を汚れとして用いて実験を繰り返した。除去された汚れの%を計算して、クリーニング有効性を明らかにした。表4に実験の結果を示す。
【0069】
【表6】
【0070】
上に示すとおり、共沸混合物は、鉱油およびシリコーン流体を除去するのに非常に有効である。
なお、本発明は、特許請求の範囲を含め、以下の発明を包含する。
1.メチルパーフルオロヘプテンエーテルと有効量のトランス−1,2−ジクロロエチレンとを含む共沸または共沸様組成物。
2.約0.1モルパーセント〜約9.7モルパーセントのメチルパーフルオロヘプテンエーテルとトランス−1,2−ジクロロエチレンとを含む1に記載の共沸様組成物。
3.約0℃〜約160℃の温度で、約2.11psia〜約207.8psiaの蒸気圧を有する、約0.1モルパーセント〜約9.7モルパーセントのメチルパーフルオロヘプテンエーテルとトランス−1,2−ジクロロエチレンとを含む1に記載の共沸様組成物。
4.前記組成物が、約0℃〜約160℃の温度で、約2.11psia〜約207.8psiaの蒸気圧を有する、約0.1モルパーセント〜約9.7モルパーセントのメチルパーフルオロヘプテンエーテルとトランス−1,2−ジクロロエチレンとから実質的になる1に記載の共沸様組成物。
5.約47.6℃〜約47.9℃の温度で、約1atmの蒸気圧を有する、約0.1モルパーセント〜約4.7モルパーセントのメチルパーフルオロヘプテンエーテルとトランス−1,2−ジクロロエチレンとを含む1に記載の共沸様組成物。
6.46℃の温度で、約1atmの蒸気圧を有する、約1.0モルパーセントのメチルパーフルオロヘプテンエーテルとトランス−1,2−ジクロロエチレンとを含む1に記載の共沸組成物。
7.46℃の温度で、約1atmの蒸気圧を有する、約1.0モルパーセントのメチルパーフルオロヘプテンエーテルとトランス−1,2−ジクロロエチレンとから実質的になる1に記載の共沸組成物。
8.約48.3℃〜約48.5℃の温度で、約1atmの蒸気圧を有する、約0.6モルパーセント〜約8.7モルパーセントのメチルパーフルオロヘプテンエーテルとトランス−1,2−ジクロロエチレンとを含む1に記載の共沸様組成物。
9.約48.3℃〜約48.5℃の温度で、約1atmの蒸気圧を有する、約0.6モルパーセント〜約8.7モルパーセントのメチルパーフルオロヘプテンエーテルとトランス−1,2−ジクロロエチレンとから実質的になる1に記載の組成物。
10.泡立ち点圧力を基準として3%以下である露点圧力と泡立ち点圧力の差を有する1に記載の組成物。
11.A.表面を、メチルパーフルオロヘプテンエーテルとトランス−1,2−ジクロロエチレンの共沸または共沸様組成物を含む組成物と接触させる工程と、
B.前記表面を前記組成物からリカバーする工程と
を含む物品の表面から残渣を除去する方法。
12.前記組成物が、噴射剤をさらに含む11に記載の方法。
13.前記噴射剤が、空気、窒素、二酸化炭素、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン、ジフルオロメタン、トリフルオロメタン、ジフルオロエタン、トリフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ペンタフルオロエタンおよび炭化水素またはジメチルエーテルあるいはこれらの組み合わせを含む12に記載の方法。
14.前記組成物が、少なくとも1つの界面活性剤をさらに含む11に記載の方法。
15.前記接触が、蒸気脱脂により実施される11に記載の方法。
16.前記蒸気脱脂が、
A.前記組成物を沸騰させること、および
B.前記物品を、前記組成物の蒸気に露出させること
により実施される11に記載の方法。
17.前記接触が、前記物品を前記組成物に浸漬する第1の工程により行われ、前記組成物が、周囲温度または室温より高い温度である11に記載の方法。
18.前記組成物が、前記組成物の略沸点の温度である17に記載の方法。
19.前記物品を前記組成物に浸漬する第2の工程をさらに含み、前記組成物が、前記第1の浸漬工程よりも低い温度である17に記載の方法。
20.前記第2の浸漬工程の前記組成物が、周囲温度または室温である19に記載の方法。
21.前記組成物を沸騰させる工程と、前記物品を前記沸騰組成物の蒸気に露出する工程をさらに含む19に記載の方法。
22.前記組成物が、周囲温度または室温である11に記載の方法。
23.前記接触が、前記組成物で飽和した物体で前記表面を拭くことにより実施される11に記載の方法。