特許第6266985号(P6266985)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6266985
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】能動型制振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20180115BHJP
   F16F 13/26 20060101ALI20180115BHJP
   F16F 1/22 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   F16F15/02 B
   F16F15/02 C
   F16F13/26 A
   F16F1/22
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-3709(P2014-3709)
(22)【出願日】2014年1月10日
(65)【公開番号】特開2015-132316(P2015-132316A)
(43)【公開日】2015年7月23日
【審査請求日】2016年10月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】小山 裕教
(72)【発明者】
【氏名】長澤 正彦
(72)【発明者】
【氏名】橋本 有史
【審査官】 葛原 怜士郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−092237(JP,A)
【文献】 特開2003−240036(JP,A)
【文献】 特開2001−122111(JP,A)
【文献】 特開2008−087738(JP,A)
【文献】 特開2008−061423(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 1/00− 3/12
F16F 11/00−13/30
F16F 15/00−15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制振対象部材に取り付けられて加振力を及ぼすアクチュエータを備えた能動型制振装置において、
固定子に対して変位可能に組み付けられた可動子を備えており、該可動子と該固定子を板ばねによって弾性連結すると共に、それら固定子と可動子の何れか一方にコイル部材を組み付けて、該コイル部材への通電によって生ぜしめられる磁界の作用で該可動子を該固定子に対して駆動するようにした電磁式アクチュエータであって、前記板ばねが前記固定子と前記可動子の各一方に取り付けられる外周取付部分と中央取付部分とを備えていると共に、それら外周取付部分と中央取付部分の径方向間には周方向に傾斜しつつ径方向に延びる渦巻状の連結腕部が周方向で等間隔に複数設けられている一方、該板ばねの周方向の向きを外部から認識可能とする方向認識手段が設けられて、該板ばねにおける該複数の連結腕部の該中央取付部分および該外周取付部分への接続部位が、該方向認識手段によって径方向における主たる荷重の入力方向と最大荷重の入力方向との少なくとも一方を周方向に外れて配置されている電磁式アクチュエータが前記アクチュエータとして採用されて、該電磁式アクチュエータの該固定子が該制振対象部材に取り付けられると共に、該可動子が該板ばねを介して該制振対象部材に弾性的に支持されるようにしたことを特徴とする能動型制振装置
【請求項2】
前記連結腕部の前記中央取付部分への接続部位と、該連結腕部の前記外周取付部分への接続部位とが、周方向で互いに異なる位置に配されている請求項1に記載の能動型制振装置
【請求項3】
前記可動子と前記固定子の何れか一方が車両に取り付けられるようになっており、前記板ばねの径方向における前記主たる荷重の入力方向と前記最大荷重の入力方向が何れも該車両の前後方向とされて、該板ばねにおける前記複数の連結腕部の前記中央取付部分および前記外周取付部分への接続部位が、前記方向認識手段によって該車両の前後方向を周方向に外れて設定されている請求項1又は2に記載の能動型制振装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルへの通電によって可動子が固定子に対して駆動される電磁式アクチュエータを用いた能動型制振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、制振対象部材に能動的な加振力をおよぼしたり、防振装置の防振特性を能動的に制御するために用いられる防振用アクチュエータの一種として、電磁式アクチュエータが知られている。電磁式アクチュエータは、固定子に対して可動子が相対変位可能に組み付けられていると共に、それら固定子と可動子の何れか一方に配されたコイル部材への通電によって、可動子が固定子に対して駆動されるようになっている。
【0003】
ところで、特許第4852030号(特許文献1)にも示されているように、電磁式アクチュエータは、固定子と可動子が板ばねによって相互に連結されており、板ばねの厚さ方向での弾性変形によって、可動子の固定子に対する変位が許容されていると共に、可動子が固定子に対して板ばねの径方向で相互に位置決めされている。
【0004】
また、特許文献1では、板ばねの厚さ方向で可動子の変位が十分に許容されるように、板ばねに複数の肉抜孔が形成されており、板ばねが、固定子に取り付けられる外周取付部分と、可動子に取り付けられる中央取付部分とを、複数の連結腕部で相互に一体連結した構造とされている。この連結腕部は、周方向に傾斜しながら径方向に延びており、一端が外周取付部分に一体で繋がっていると共に、他端が中央取付部分に一体で繋がっている。
【0005】
しかしながら、特許文献1の板ばねでは、径方向の入力に対して、連結腕部において応力が局所的に集中する場合があることから、耐久性の更なる向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4852030号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、径方向の入力による板ばねの損傷を回避して、耐久性を有利に確保することができる、新規な構造の電磁式アクチュエータを用いた能動型制振装置を、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0009】
すなわち、本発明の第一の態様は、制振対象部材に取り付けられて加振力を及ぼすアクチュエータを備えた能動型制振装置において、固定子に対して変位可能に組み付けられた可動子を備えており、該可動子と該固定子を板ばねによって弾性連結すると共に、それら固定子と可動子の何れか一方にコイル部材を組み付けて、該コイル部材への通電によって生ぜしめられる磁界の作用で該可動子を該固定子に対して駆動するようにした電磁式アクチュエータであって、前記板ばねが前記固定子と前記可動子の各一方に取り付けられる外周取付部分と中央取付部分とを備えていると共に、それら外周取付部分と中央取付部分の径方向間には周方向に傾斜しつつ径方向に延びる渦巻状の連結腕部が周方向で等間隔に複数設けられている一方、該板ばねの周方向の向きを外部から認識可能とする方向認識手段が設けられて、該板ばねにおける該複数の連結腕部の該中央取付部分および該外周取付部分への接続部位が、該方向認識手段によって径方向における主たる荷重の入力方向と最大荷重の入力方向との少なくとも一方を周方向に外れて配置されている電磁式アクチュエータが前記アクチュエータとして採用されて、該電磁式アクチュエータの該固定子が該制振対象部材に取り付けられると共に、該可動子が該板ばねを介して該制振対象部材に弾性的に支持されるようにしたことを、特徴とする。
【0010】
このような第一の態様に従う構造とされた能動型制振装置によれば、荷重が入力される径方向が、外周取付部分および中央取付部分への接続部位である各連結腕部の両端を、周方向に外れて設定される。それ故、応力が集中し易い連結腕部の端部に対して、径方向の荷重が直接的に入力されるのを防ぐことにより、複数の連結腕部において応力の分散化が図られて、耐久性の向上が実現される。
【0011】
しかも、板ばねの周方向での向きは、方向認識手段によって外部から認識可能とされていることから、各連結腕部の両端部分を、想定される径方向の荷重入力方向に対して、周方向で外れた位置に、容易に配置することができる。
【0012】
なお、最も頻繁に荷重が入力される径方向(主たる荷重の入力方向)と、最大荷重が入力される径方向とが、互いに異なる場合には、それら荷重入力方向の少なくとも一方に対して、連結腕部の両端部分が周方向に外れて位置していれば良いが、より好適には、それら荷重入力方向の両方に対して、連結腕部の両端部分が周方向に外れるように、板ばねの周方向での向きが設定される。
さらに、このような第一の態様に従う構造とされた能動型制振装置によれば、本発明に係る電磁式アクチュエータを採用することによって、可動子と固定子を連結する板ばねに径方向の荷重が入力される場合にも、耐久性が有利に確保されて、高い信頼性が実現される。
【0013】
本発明の第二の態様は、第一の態様に記載された能動型制振装置において、前記連結腕部の前記中央取付部分への接続部位と、該連結腕部の前記外周取付部分への接続部位とが、周方向で互いに異なる位置に配されているものである。
【0014】
第二の態様によれば、連結腕部の両端部分が周方向で互いにずれた位置に配されることによって、連結腕部の両端部分に作用する応力が、連結腕部の中間部分の弾性変形などによって、より効果的に低減されて、応力の分散化による耐久性の向上が有利に図られる。
【0015】
本発明の第三の態様は、第一又は第二の態様に記載された能動型制振装置において、前記可動子と前記固定子の何れか一方が車両に取り付けられるようになっており、前記板ばねの径方向における前記主たる荷重の入力方向と前記最大荷重の入力方向が何れも該車両の前後方向とされて、該板ばねにおける前記複数の連結腕部の前記中央取付部分および前記外周取付部分への接続部位が、前記方向認識手段によって該車両の前後方向を周方向に外れて設定されているものである。
【0016】
第三の態様によれば、径方向における主たる荷重入力方向と最大荷重の入力方向が、何れも前後方向とされた車両に対して、本発明に係る電磁式アクチュエータを適用する際に、各連結腕部の両端部分が何れも車両の前後方向を外れるように、板ばねの向きと電磁式アクチュエータの車両への装着向きとを設定することにより、耐久性の向上が図られる。特に、方向認識手段によって、板ばねの向きを外部から認識可能であることから、電磁式アクチュエータの車両に対する向きを適切に設定することで、板ばねの耐久性を有利に確保できる。
【0019】
なお、本願の明細書及び図面に開示された発明は、上記の本発明の特徴に拘わらず、以下の能動型流体封入式防振装置に関する第一〜第三の態様に係る発明を含む。
能動型流体封入式防振装置に関する発明の第一の態様は、第一の取付部材と第二の取付部材が本体ゴム弾性体で弾性連結されており、壁部の一部を該本体ゴム弾性体で構成された受圧室が形成されて、該受圧室に非圧縮性流体が封入されている一方、該受圧室の壁部の別の一部が加振部材で構成されていると共に、該加振部材を加振駆動するアクチュエータが設けられている能動型流体封入式防振装置において、固定子に対して変位可能に組み付けられた可動子を備えており、該可動子と該固定子を板ばねによって弾性連結すると共に、それら固定子と可動子の何れか一方にコイル部材を組み付けて、該コイル部材への通電によって生ぜしめられる磁界の作用で該可動子を該固定子に対して駆動するようにした電磁式アクチュエータであって、前記板ばねが前記固定子と前記可動子の各一方に取り付けられる外周取付部分と中央取付部分とを備えていると共に、それら外周取付部分と中央取付部分の径方向間には周方向に傾斜しつつ径方向に延びる渦巻状の連結腕部が周方向で等間隔に複数設けられている一方、該板ばねの周方向の向きを外部から認識可能とする方向認識手段が設けられて、該板ばねにおける該複数の連結腕部の該中央取付部分および該外周取付部分への接続部位が、該方向認識手段によって径方向における主たる荷重の入力方向と最大荷重の入力方向との少なくとも一方を周方向に外れて配置されている電磁式アクチュエータが前記アクチュエータとして採用されて、該電磁式アクチュエータの固定子が第二の取付部材に取り付けられていると共に、可動子が加振部材に取り付けられていることを特徴とする。
能動型流体封入式防振装置に関する発明の第二の態様は、第一の態様に記載された能動型流体封入式防振装置において、前記連結腕部の前記中央取付部分への接続部位と、該連結腕部の前記外周取付部分への接続部位とが、周方向で互いに異なる位置に配されているものである。
能動型流体封入式防振装置に関する発明の第三の態様は、第一又は第二の態様に記載された能動型流体封入式防振装置において、前記可動子と前記固定子の何れか一方が車両に取り付けられるようになっており、前記板ばねの径方向における前記主たる荷重の入力方向と前記最大荷重の入力方向が何れも該車両の前後方向とされて、該板ばねにおける前記複数の連結腕部の前記中央取付部分および前記外周取付部分への接続部位が、前記方向認識手段によって該車両の前後方向を周方向に外れて設定されているものである。
【0020】
上述の如き態様の能動型流体封入式防振装置によれば、加振部材を加振駆動するアクチュエータとして、特定構造の電磁式アクチュエータを採用することにより、第二の取付部材と加振部材の間に径方向の荷重が入力される場合にも、板ばねの耐久性が有利に確保されて、高い信頼性が実現される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、板ばねの周方向での向きを外部から認識可能とする方向認識手段が設けられており、板ばねの連結腕部における中央取付部分および外周取付部分への接続部位が、径方向の主たる荷重入力方向と径方向の最大荷重の入力方向との少なくとも一方を、周方向に外れるように、板ばねの向きが方向認識手段によって設定されている。それ故、応力が集中し易い連結腕部の両端部に、径方向の荷重が直接的に作用せしめられるのを防いで、応力の分散化による耐久性の向上が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態としての能動型制振装置を示す縦断面図であって、図2のI−I断面に相当する図。
図2図1に示された能動型制振装置の平面図。
図3図1に示された能動型制振装置を構成する板ばねの平面図。
図4図3に示された板ばねの応力解析結果を示す図であって、(a)が板ばねの向きを荷重入力方向に対して適切に設定した実施例を、(b)が板ばねの向きを荷重入力方向に対して適切に設定した比較例を、それぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0024】
図1,2には、本発明の一実施形態としての能動型制振装置10が示されている。この能動型制振装置10は、アクチュエータとして電磁式アクチュエータ12を備えており、電磁式アクチュエータ12の加振力を制振対象部材としての車両ボデー14に及ぼすことによって、振動を相殺的に低減するようになっている。なお、以下の説明において、上下方向とは、車両装着状態での車両上下方向であり、電磁式アクチュエータ12の加振方向である図1中の上下方向を、前後方向とは、車両装着状態での車両前後方向となる図2中の上下方向を、それぞれ言う。
【0025】
より詳細には、電磁式アクチュエータ12は、固定子16と可動子18を備えている。固定子16は、車両ボデー14に固定されるベース部材20に、カバー部材22とコイル部材24を取り付けた構造を有している。
【0026】
ベース部材20は、逆向きの略有底円筒形状を有しており、上底壁部の中央部分には、上下に貫通する下挿通孔26が形成されている。更に、ベース部材20の下開口端部には、外周側に広がるフランジ部28が全周に亘って形成されていると共に、より大きく外周側に突出する一対のベース取付片30,30が、径方向左右に形成されている。なお、一対のベース取付片30,30には、それぞれボルト孔32が上下に貫通して形成されている。
【0027】
カバー部材22は、深底の逆向き略有底円筒形状を有しており、上底壁部付近に上底段差部34が形成されていると共に、開口部分に開口段差部36が設けられて、開口側となる下方に向かって段階的に大径となっている。また、カバー部材22は、大径とされた開口端部に、径方向左右に一対のカバー取付片38,38を備えている。一対のカバー取付片38,38は、下方に延び出すと共に下端部分が屈曲して左右外方に延びる板形状とされており、左右外方に延びる下端部分には、上下に貫通するボルト孔40が形成されている。
【0028】
そして、カバー部材22は、一対のカバー取付片38,38が、ベース部材20の外周面に径方向で重ね合わされると共に、一対のベース取付片30,30に上下で重ね合わされて、相互に位置決めされている。なお、一対のベース取付片30,30のボルト孔32,32と、一対のカバー取付片38,38のボルト孔40,40は、相互に位置合わせされている。
【0029】
また、ベース部材20とカバー部材22の間には、コイル部材24が配設されている。コイル部材24は、ボビン42にコイル44が巻き回された構造を有している。ボビン42は、合成樹脂などの非磁性材料で形成された硬質の部材であって、全体として略有底円筒形状を有しており、コイル44が巻回されている。更に、厚肉とされたボビン42の底壁部46は、上下に貫通する上挿通孔48を径方向の中央部分に備えていると共に、全周に亘って径方向外方に突出しており、周上の一部には給電用コネクタ50が一体形成されている。給電用コネクタ50は、ボビン42の底壁部46から後方に向かって突出しており、後方に向かって開口する横転した略有底筒形状を有していると共に、ボビン42の底壁部46に埋設されたコネクタ金具52の一端が、給電用コネクタ50の内周側に突出している。なお、コネクタ金具52の他端は、コイル44に接続されている。
【0030】
そして、コイル部材24は、底壁部46の外周端部が、ベース部材20の上底壁部とカバー部材22の開口段差部36との間で上下に挟持されて、ベース部材20とカバー部材22の間に配設されている。また、コイル部材24の給電用コネクタ50は、ベース部材20とカバー部材22の間から後方に向かって突出している。なお、ボビン42の底壁部46とベース部材20およびカバー部材22との重ね合わせ面間が、環状のシールゴム54,56によってそれぞれ封止されており、埃や水などの異物の侵入が防止されている。
【0031】
このような構造とされた固定子16には、可動子18が組み付けられている。可動子18は、ヨーク金具58に永久磁石60が固定された構造を有している。ヨーク金具58は、鉄などの強磁性材料で形成されており、全体として厚肉の円形ブロック形状を有すると共に、径方向の中間部分には、下面に開口する周溝62が、周方向環状に延びて形成されている。これにより、ヨーク金具58には、周溝62の内周側に略円柱形状の中央柱状部64が形成されていると共に、周溝62の外周側に略円筒形状の外周筒状部66が形成されており、それら中央柱状部64と外周筒状部66が、上端において、略円板形状の中間板状部68によって一体で連結されている。
【0032】
さらに、ヨーク金具58の径方向中央部分には、小径の略円柱形状で上方に突出する連結突部70が一体形成されており、連結突部70には、中心軸上を延びて上面に開口するねじ穴72が形成されている。更にまた、ヨーク金具58の径方向中央部分には、下方に突出するロッド部74が一体形成されており、ロッド部74には、下方に突出するねじ部76が一体形成されている。
【0033】
永久磁石60は、略円筒形状とされており、径方向に着磁されて、内周面と外周面に相互に異なる磁極が形成されている。そして、永久磁石60は、ヨーク金具58の中央柱状部64に外挿固着されており、ヨーク金具58における周溝62を挟んだ両側に互いに異なる磁極が形成されて、周溝62内に磁界が形成されている。
【0034】
そして、可動子18は、ヨーク金具58と永久磁石60がカバー部材22とコイル部材24の間に配設されて、固定子16に収容されている。また、ヨーク金具58の中央柱状部64から下方に延び出すロッド部74は、ボビン42の上挿通孔48と、ベース部材20の下挿通孔26とに挿通されて、ベース部材20の内周に突出している。
【0035】
さらに、コイル部材24のコイル44が、ヨーク金具58の周溝62に差し入れられて、ヨーク金具58の外周筒状部66と永久磁石60との径方向間に配設されており、コイル44が永久磁石60とヨーク金具58によって形成された磁界の中に位置せしめられている。なお、コイル44およびコイル44が巻回されたボビン42の筒状部は、永久磁石60とヨーク金具58の何れからも離隔して配設されている。
【0036】
また、固定子16のカバー部材22と、可動子18のヨーク金具58とが、板ばね78によって弾性連結されている。板ばね78は、図1,3に示すように、ばね鋼などで形成された薄肉略円板形状の部材であって、外周端部には略円環板形状の外周取付部分80を備えると共に、径方向中央部分には略円板形状の中央取付部分82を備えている。なお、中央取付部分82には、厚さ方向に貫通するねじ孔84が形成されている。
【0037】
さらに、外周取付部分80と中央取付部分82の径方向間には、3つの連結腕部86,86,86が形成されている。3つの連結腕部86,86,86は、それぞれ周方向に傾斜しながら径方向に延びており、互いに略同一形状とされて、周上で等間隔に配置されている。より具体的には、連結腕部86は、外周に向かって凹となるように湾曲して略周方向に延びる中間湾曲部分87を有すると共に、中間湾曲部分87の両側部分が外周に向かって凸となるように湾曲して略周方向に延びている。このように、連結腕部86の傾斜角度が長さ方向で異ならされて、連結腕部86が波状とされることで、有効自由長の増大とこれに伴う応力や歪の分散が図られている。
【0038】
そして、3つの連結腕部86,86,86は、一端が外周取付部分80に接続されていると共に、他端が中央取付部分82に接続されており、外周取付部分80と中央取付部分82が、3つの連結腕部86,86,86によって、相互に一体で連結されている。また、外周取付部分80と中央取付部分82の各一方に連結される連結腕部86の両端部は、周方向で相互に異なる位置に配されていると共に、外周取付部分80と中央取付部分82の各一方からの延出方向が互いに異なっている。なお、連結腕部86の両端のずれは、好適には周方向に1/6周以上とされ、より好適には、1/4周以上で且つ4/5周以下とされる。
【0039】
更にまた、3つの連結腕部86,86,86の間には、それぞれスリット88が形成されている。スリット88は、板ばね78を厚さ方向に貫通して、周方向に傾斜しながら径方向に延びている。
【0040】
そして、図1に示すように、板ばね78の外周取付部分80が、カバー部材22の上底段差部34と、カバー部材22に嵌入されたリング部材90との間で、上下に挟持されると共に、板ばね78の中央取付部分82が、ヨーク金具58の連結突部70に重ね合わされて、連結突部70のねじ穴72に螺着されるねじ92によって、ヨーク金具58に固定される。これらによって、板ばね78の外周部分が固定子16に取り付けられると共に、板ばね78の中央部分が可動子18に取り付けられて、それら固定子16と可動子18が板ばね78によって相互に連結されている。その結果、固定子16と可動子18は、板ばね78によって径方向で相対的に位置決めされていると共に、板ばね78の厚さ方向の弾性変形によって、軸方向上下に相対変位可能とされている。
【0041】
かくの如き構造とされた電磁式アクチュエータ12は、給電用コネクタ50が図示しない外部の電源に接続されて、コイル44に給電されることにより、永久磁石60とヨーク金具58によって形成される磁界中を電流が流れて、固定子16と可動子18の間に電磁力に基づいた加振駆動力が及ぼされる。そして、発生した加振駆動力によって、可動子18が、固定子16に対して、上下に駆動変位されるようになっている。
【0042】
また、電磁式アクチュエータ12の可動子18と固定子16は、支持ゴム弾性体94によって弾性連結されている。支持ゴム弾性体94は、略円環板形状を有するゴム弾性体であって、内周端部に内周固定部材96が加硫接着されていると共に、外周端部に外周固定部材98が加硫接着されている。内周固定部材96は、小径で逆向きの略有底円筒形状を有する硬質の部材であって、上底壁部の径方向中央部分にねじ孔100が形成されている。外周固定部材98は、大径の略円筒形状を有する硬質の部材であって、下端には外周に突出する環状当接片102が一体形成されていると共に、環状当接片102から下方に更に延び出すかしめ片104が、周上で部分的に一体形成されている。そして、支持ゴム弾性体94の内周端部が、内周固定部材96の周壁部の表面全体に加硫接着されていると共に、支持ゴム弾性体94の外周端部が、外周固定部材98の内周面に加硫接着されている。なお、本実施形態の支持ゴム弾性体94は、内周固定部材96と外周固定部材98を備えた一体加硫成形品として形成される。
【0043】
そして、ヨーク金具58のねじ部76が、内周固定部材96のねじ孔100に挿通されて、ねじ孔100の下方に配されたナット106に螺着されることにより、支持ゴム弾性体94の内周端部が可動子18に固定される。更に、外周固定部材98がベース部材20の周壁部に嵌着されることによって、支持ゴム弾性体94の外周端部が固定子16に取り付けられる。これらにより、固定子16と可動子18は、上部において板ばね78で相互に弾性連結されていると共に、下部において支持ゴム弾性体94で相互に弾性連結されている。
【0044】
また、支持ゴム弾性体94の下方には、蓋部材108が配設されている。蓋部材108は、薄肉大径の略円板形状とされており、外周端部が周上の複数箇所においてかしめ片104でかしめられることによって、外周固定部材98に固定されている。なお、外周固定部材98の環状当接片102と蓋部材108との間に、環状当接片102の下面に固着された支持ゴム弾性体94の外周端部が介在しており、それら環状当接片102と蓋部材108の重ね合わせ面間が封止されて、異物の侵入が防止されている。
【0045】
このような構造とされた能動型制振装置10は、固定子16が車両ボデー14に直接的に固定されると共に、可動子18が板ばね78および支持ゴム弾性体94を介して車両ボデー14に間接的に弾性支持されることにより、車両に装着されるようになっている。即ち、図1に示すように、固定子16を構成するベース部材20とカバー部材22の各ボルト孔32,40に、取付用ボルト110が挿通されて、取付用ボルト110が車両ボデー14側に螺着されることによって、固定子16が車両ボデー14に固定される。一方、可動子18は、固定子16に対して、板ばね78および支持ゴム弾性体94で弾性連結されていることから、固定子16を介して車両ボデー14に支持される。
【0046】
また、固定子16は、ベース部材20におけるベース取付片30,30およびカバー部材22におけるカバー取付片38,38の突出方向と、コイル部材24における給電用コネクタ50の突出方向とによって、周方向の向きを外部から特定可能とされている。これにより、車両ボデー14に対する固定子16の周方向での向きが、目視などによって外部から容易に確認可能とされており、固定子16が車両ボデー14に対して適切な向きで取付け可能とされている。
【0047】
さらに、板ばね78は、固定子16に対する周方向の向きが、特定の向きに予め設定されていると共に、固定子16に対する周方向の相対回転が防止されている。これにより、カバー部材22で覆われた板ばね78を直接目視しなくても、固定子16の向きによって板ばね78の向きを外部から認識可能とされている。それ故、図2に示すように、固定子16を車両ボデー14に対して適切な向きで取り付けることにより、板ばね78の周方向での向きを車両ボデー14に対して適切に設定することができる。以上より明らかなように、本実施形態では、板ばね78の外周取付部分80が上底段差部34とリング部材90との間に固定されていることと、固定子16における取付片30,38および給電用コネクタ50の突出方向とによって、方向認識手段が構成されている。
【0048】
ここにおいて、図3にも示すように、板ばね78の車両ボデー14に対する周方向での向きは、方向認識手段によって、外周取付部分80と中央取付部分82への接続部位である3つの連結腕部86,86,86の各両端が、車両の前後方向を周方向に外れるように、設定されている。なお、分かり易さのために、図3には、連結腕部86の両端が二点鎖線で仮想的に図示されている。
【0049】
すなわち、本実施形態では、板ばね78の径方向に作用する荷重において、車両の加減速などに起因する前後方向の荷重が、最も入力頻度が高く且つ最も大きくなる。そこで、径方向の主たる荷重入力方向であり、且つ最大荷重の入力方向でもある車両前後方向に対して、連結腕部86の両端が周方向に外れるように、板ばね78の向きが設定される。本実施形態では、板ばね78が固定子16に対して周方向に位置決めされていることから、固定子16が車両ボデー14に取り付けられることによって、板ばね78が周方向で所定の向きとなるように配される。
【0050】
板ばね78では、径方向の荷重入力に対して、連結腕部86の両端と、外周取付部分80および中央取付部分82との接続部位に、応力が集中し易い。そこで、板ばね78の周方向での向きを上記の如く設定することにより、当該接続部位に径方向の大きな荷重が高い頻度で入力されるのを回避して、応力の分散化による耐久性の向上が図られる。
【0051】
なお、より好適には、連結腕部86の両端から全長の1/10の領域が、車両の前後方向を周方向に外れるように、板ばね78の周方向での向きが設定される。これにより、複数の連結腕部86,86,86の相互間における荷重の分散化が図られると共に、連結腕部86の中間部分の変形乃至は変位によって、各連結腕部86における応力や歪の分散化が一層有利に実現される。
【0052】
また、本実施形態の板ばね78では、各一つの連結腕部86の両端が周方向で互いに異なる位置に配されている。それ故、径方向の荷重入力時に、連結腕部86の中間部分の弾性変形によって、連結腕部86の両端部に伝達される応力ひいては歪が、中間部分への分散などにより低減されて、連結腕部86の両端部に作用する応力がより有利に低減されることから、耐久性の更なる向上が実現される。
【0053】
このような応力の分散化が図られることは、応力分布のシミュレーションによっても確認されている。即ち、図4(a)には、各連結腕部86の両端が荷重入力方向を周方向に外れるように、板ばね78の周方向の向きを設定した、実施例の応力分布が示されている一方、図4(b)には、各連結腕部86の両端が荷重入力方向に位置するように、板ばね78の周方向の向きを設定した、比較例の応力分布が示されている。このシミュレーション結果によれば、本発明に係る実施例(図4(a))では、比較例(図4(b))に比して、連結腕部86の最大応力が低減されており、応力の分散化による耐久性の向上が図られることが確認された。
【0054】
また、板ばね78の耐久性が向上することにより、電磁式アクチュエータ12とそれを用いた能動型制振装置10において、優れた信頼性が実現される。
【0055】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、板ばねにおける連結腕部の具体的な数や形状は、前記実施形態によって限定的に解釈されるものではない。
【0056】
また、板ばねを複数枚重ねて採用することもできる。更に、複数の板ばねを上下に離れた位置に配して、可動子と固定子を、それら板ばねによって、上下両側で相互に連結することもできる。なお、複数枚の板ばねを採用する場合には、好適には、それら板ばねは、相互に同一形状とされて、周方向で同じ向きとなるように配される。
【0057】
また、例えば、板ばねに切欠きや孔を形成すると共に固定子に突起を形成して、該突起を板ばねの切欠きや孔に周方向で係止させることにより、板ばねを固定子に対して周方向に位置決めすることもできる。
【0058】
また、板ばねは、外周取付部分が可動子に取り付けられると共に、中央取付部分が固定子に取り付けられることによって、それら可動子と固定子を連結するようにしても良い。
【0059】
また、前記実施形態では、入力頻度の高い主たる荷重入力方向と、最大荷重の入力方向とが、互いに同じ径方向とされていたが、それらが互いに異なる径方向とされる場合には、入力の大きさや頻度、要求される耐久性能などに応じて、それら荷重入力方向の何れか一方が連結腕部の両端を周方向に外れるように、板ばねの周方向での向きを設定することもできる。
【0060】
また、電磁式アクチュエータや能動型制振装置、能動型流体封入式防振装置などが、回転対称形状とされて、外形によって周方向の向きを特定し難い場合には、目印として凹凸やマーキングなどを設けることにより、方向認識手段を構成することもできる。また、板ばね自体を外部から視認可能とすることによって、方向認識手段を構成することも可能である。
【0061】
前記実施形態では、本発明に係る電磁式アクチュエータ12を備えた能動型制振装置10が例示されているが、例えば、特許第4852030号公報に示すような能動型流体封入式防振装置のアクチュエータとして、本発明に係る電磁式アクチュエータを適用することもできる。即ち、能動型流体封入式防振装置は、第一の取付部材と第二の取付部材を本体ゴム弾性体で弾性連結すると共に、壁部の一部が本体ゴム弾性体で弾性連結された受圧室が形成されて、その受圧室に非圧縮性流体が封入された構造を有している。更に、受圧室の壁部の別の一部が加振部材で構成されており、加振部材を加振駆動するアクチュエータとして、本発明に係る電磁式アクチュエータが採用されて、電磁式アクチュエータの固定子が第二の取付部材に取り付けられていると共に、可動子が加振部材に取り付けられている。そして、電磁式アクチュエータによって加振部材を駆動することにより、受圧室に能動的な加振力を及ぼして、入力振動を相殺して低減することができる。
【0062】
また、前記実施形態では、能動型制振装置10が取り付けられる制振対象部材として、車両ボデー14が例示されているが、制振対象部材は特に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0063】
10:能動型制振装置、12:電磁式アクチュエータ、14:車両ボデー(制振対象部材)、16:固定子、18:可動子、24:コイル部材、30:ベース取付片(方向認識手段)、38:カバー取付片(方向認識手段)、50:給電用コネクタ(方向認識手段)、78:板ばね、80:外周取付部分、82:中央取付部分、86:連結腕部
図1
図2
図3
図4