特許第6266986号(P6266986)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6266986
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】すべり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/10 20060101AFI20180115BHJP
   F16C 3/12 20060101ALI20180115BHJP
   F16C 9/02 20060101ALI20180115BHJP
   F16C 33/08 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   F16C33/10 Z
   F16C3/12
   F16C9/02
   F16C33/08
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-5349(P2014-5349)
(22)【出願日】2014年1月15日
(65)【公開番号】特開2015-132367(P2015-132367A)
(43)【公開日】2015年7月23日
【審査請求日】2015年9月3日
【審判番号】不服2017-321(P2017-321/J1)
【審判請求日】2017年1月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207791
【氏名又は名称】大豊工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080621
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 寿一郎
(72)【発明者】
【氏名】芦原 克宏
(72)【発明者】
【氏名】梶木 悠一朗
(72)【発明者】
【氏名】高田 裕紀
(72)【発明者】
【氏名】本田 暁拡
(72)【発明者】
【氏名】村上 元一
【合議体】
【審判長】 中村 達之
【審判官】 中川 隆司
【審判官】 小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】 独国特許出願公開第102012210530(DE,A1)
【文献】 実開平1−154323(JP,U)
【文献】 特公昭50−20645(JP,B1)
【文献】 特開平8−121459(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C3/00-9/06,F16C17/00-17/26,F16C33/00-33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒を軸方向と平行に二分割した半割部材を上下に配置し、
前記上下の半割部材の内周面をバインダー樹脂と、固体潤滑剤及び硬質物の少なくとも一つと、から構成される樹脂オーバレイ層で被覆したすべり軸受であって、
前記上側の半割部材の軸方向中央部であって、回転方向全周にわたって溝を設け、
前記下側の半割部材の軸方向端部であって、回転方向下流側端部のみに、回転方向下流側合わせ面から所定の軸受角度まで円周方向に細溝を設け、
前記細溝を、軸方向に並列して二本設け、
前記下側の半割部材の細溝と前記上側の半割部材の溝とは、各半割部材の合わせ面で、軸方向において離隔して配置される
ことを特徴とするすべり軸受。
【請求項2】
前記下側の半割部材の内周面は、前記細溝の内周面以外の部分が前記樹脂オーバレイ層で被覆される
ことを特徴とする請求項1に記載のすべり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、すべり軸受の技術に関し、円筒を軸方向と平行に二分割した半割部材を上下に配置したすべり軸受の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンのクランクシャフトを軸支するための軸受であって、円筒形状を二分割した二つの部材を合わせる半割れ構造のすべり軸受が公知となっている(例えば、特許文献1参照)。また、従来、軸受の内周面をバインダー樹脂と、固体潤滑剤及び硬質物の少なくとも一方と、から構成される樹脂オーバレイ層で被覆した軸受が公知となっている。軸受の内周面をバインダー樹脂と、固体潤滑剤及び硬質物の少なくとも一方と、から構成される樹脂オーバレイ層で被覆したことにより、軸受とクランクシャフトとの接触によるフリクションを低減し、耐摩耗性を向上させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2003−532036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来技術の如く、軸受の内周面をバインダー樹脂と、固体潤滑剤及び硬質物の少なくとも一方と、から構成される樹脂オーバレイ層で被覆した場合、なじみ性が低下するため運転開始時のなじみ時間が長くかかってしまっていた。また、樹脂オーバレイ層で被覆したことによるフリクション低減の効果や耐摩耗性向上の効果は混合、境界潤滑領域においてのみ発揮され、流体潤滑領域においては効果が無かった。
【0005】
そこで、本発明は係る課題に鑑み、軸受の内周面をバインダー樹脂と、固体潤滑剤及び硬質物の少なくとも一方と、から構成される樹脂オーバレイ層で被覆したすべり軸受であって、運転開始時のなじみ時間を短縮し、フリクション低減の効果や耐摩耗性向上の効果を得ることができるすべり軸受を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
即ち、請求項1においては、円筒を軸方向と平行に二分割した半割部材を上下に配置し、
前記上下の半割部材の内周面をバインダー樹脂と、固体潤滑剤及び硬質物の少なくとも一つと、から構成される樹脂オーバレイ層で被覆したすべり軸受であって、
前記上側の半割部材の軸方向中央部であって、回転方向全周にわたって溝を設け、
前記下側の半割部材の軸方向端部であって、回転方向下流側端部のみに、回転方向下流側合わせ面から所定の軸受角度まで円周方向に細溝を設け、
前記細溝を、軸方向に並列して二本設け、
前記下側の半割部材の細溝と前記上側の半割部材の溝とは、各半割部材の合わせ面で、軸方向において離隔して配置されるものである。
また、請求項2においては、前記下側の半割部材の内周面は、前記細溝の内周面以外の部分が前記樹脂オーバレイ層で被覆されるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0009】
すなわち、細溝を設けたことによりなじみ工程が必要な摺動面積が減少し、運転開始時のなじみ時間が短縮され早期に流体潤滑運転へ移行することができる。また、流体潤滑運転時においても摺動面積の減少によりフリクション低減の効果を得ることができ、耐摩耗性向上の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係るすべり軸受を示す正面図。
図2】(a)一実施形態に係るすべり軸受を構成する半割部材を示す平面図。(b )同じくA−A線断面図。(c)同じくB−B線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、発明の実施の形態を説明する。なお、図1は本発明の一実施形態に係るすべり軸受1の正面図であり、図1における画面の上下方向を軸受1の上下方向、画面の手前方向及び奥方向を軸受1の軸方向(前後方向)、画面の左右方向を軸受1の左右方向とする。
【0012】
まず、すべり軸受1を構成する半割部材2について図1及び図2を用いて説明する。
すべり軸受1は円筒状の部材であり、図1に示すように、エンジンのクランクシャフト11のすべり軸受構造に適用される。すべり軸受1は、二つの半割部材2・2で構成されている。二つの半割部材2・2は、それぞれが円筒を軸方向と平行に二分割した形状であり、前後方向と直交する平面による断面形状が半円状となるように形成されている。本実施形態においては、半割部材2・2は上下に配置されており、左右に合わせ面が配置されている。クランクシャフト11をすべり軸受1で軸支する場合、所定の隙間が形成され、この隙間に対し図示せぬ油路から潤滑油が供給される。
【0013】
図2(a)においては、上側および下側の半割部材2を示している。なお、本実施形態においては、クランクシャフト11の回転方向を図1及び図2(a)・(b)の矢印に示すように正面視時計回り方向とする。また、軸受角度は、図2(b)における右端の位置を0度とし、図2(b)において、反時計回り方向を正とする。すなわち、図2(b)において、左端の位置の軸受角度が180度となり、下端の位置の軸受角度が270度となるように定義する。
【0014】
図2(a)から(c)に示す如く、すべり軸受1は、上下の半割部材2・2の内周面をバインダー樹脂と、固体潤滑剤及び硬質物の少なくとも一方と、から構成される樹脂オーバレイ層2aで被覆している(図2(a)から(c)において網掛けされた部分)。樹脂オーバレイ層2aはすべり軸受1の内周面における損傷を防止したり、摩擦・摩耗を低減したりするために用いられる。
【0015】
バインダー樹脂は、固体潤滑剤及び硬質物と半割部材2・2とを強固に接着させるための接着層であり、例えば、本実施形態においては、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂の少なくともいずれか一つ以上で構成される。
【0016】
固体潤滑剤は、摩擦面に付与することによって摩擦や摩耗を低下させる物質であり、例えば、本実施形態においては、MoS2、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、グラファイト、WS2、六方晶系の窒化ホウ素(h−BN)、SB23、の少なくともいずれか一つ以上で構成される。
【0017】
硬質物は、摩擦面に付与することによって摩擦や摩耗を低下させる物質であり、例えば、本実施形態においては、SiC、AlO3、TiN、AlN、CrO2、Si34、ZrO2、Fe3Pの少なくともいずれか一つ以上で構成される。
【0018】
樹脂オーバレイ層2aは、バインダー樹脂と固体潤滑剤とから構成されても良いし、バインダー樹脂と硬質物とから構成されても良いし、バインダー樹脂と固体潤滑剤及び硬質物の合成物から構成されても良い。
【0019】
上側の半割部材2の内周には円周方向に溝が設けられており、中心に円形の孔が設けられている。また、上側の半割部材2の左右に合わせ面が配置されている。図2(a)に示す如く、上側の半割部材2の内周面はこの溝以外の部分が樹脂オーバレイ層2aでコーティングされている。
【0020】
下側の半割部材2の内周面においては、軸方向端部に回転方向下流側合わせ面(軸受角度が180度)から軸受角度が正となる方向(反時計回り方向)に向けて円周方向に細溝3が設けられている。下側の半割部材2の内周面はこの細溝3を除いて、樹脂オーバレイ層2aでコーティングされている。
【0021】
細溝3は下側の半割部材2に設けられる。本実施形態においては、細溝3は軸方向に並列して二本設けられている。詳細には、細溝3は、クランクシャフト11の回転方向下流側合わせ面(軸受角度ωが180度)から軸受角度ωが正となる方向(反時計回り方向)に向けて円周方向に設けられる。すなわち、下側の半割部材2においては、図2(b)の右側の合わせ面が回転方向上流側合わせ面、図2(b)の左側の合わせ面が回転方向下流側合わせ面となる。
細溝3は、図2(c)に示すように、軸受厚さDよりも浅い深さdとなるように形成されている。また、細溝3の幅はwとなるように形成されている。
【0022】
細溝3を設けたことにより、なじみ工程に必要な摺動面積が減少し、運転開始時のなじみ時間が短縮され早期に流体潤滑運転へ移行することができる。また、細溝3を設けたことにより、摺動面積が減少するため、摩擦平均有効圧(FMEP)を低減させることが可能となった。ここで、FMEPとは、フリクションの傾向を見るための値であり、FMEPが低減するとフリクションが低減する。
【0023】
また、細溝3を設けたことにより、すべり軸受1の軸方向端部における圧力勾配を変化させることができる。すなわち、細溝3において軸受端部から中央部へ向かって下降する圧力勾配の増加に伴って、油の吸い戻し量が増加し、総和の流出油量が抑制される。
【0024】
また、樹脂オーバレイ層2aで被覆したことにより、細溝3を設けることで発生する負荷容量の減少や、油膜厚さの低下を防止することができる。すなわち、樹脂オーバレイ層2aで被覆したことにより、コーティングしていない場合と比較してフリクションが低減し、耐摩耗性が向上するため、負荷容量を増加させて、油膜厚さを維持することができるので細溝3を設けることで発生する負荷容量の減少や、油膜厚さの低下を防止することができる。
【0025】
以上のように、円筒を軸方向と平行に二分割した半割部材2・2を上下に配置し、前記上下の半割部材2の内周面をバインダー樹脂と、固体潤滑剤及び硬質物の少なくとも一方と、から構成される樹脂オーバレイ層2aで被覆しているすべり軸受1であって、前記下側の半割部材2の軸方向端部に回転方向下流側合わせ面から所定の軸受角度まで円周方向に細溝3を設けたものである。
このように構成することにより、細溝3を設けたことによりなじみ工程が必要な摺動面積が減少し、運転開始時のなじみ時間が短縮され早期に流体潤滑運転へ移行することができる。また、流体潤滑運転時においても摺動面積の減少によりフリクション低減の効果を得ることができ、耐摩耗性向上の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0026】
1 すべり軸受
2 半割部材
2a 樹脂オーバレイ層
3 細溝
11 クランクシャフト
図1
図2