(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6266991
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】振動発電装置
(51)【国際特許分類】
H02N 2/18 20060101AFI20180115BHJP
【FI】
H02N2/18
【請求項の数】9
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-19248(P2014-19248)
(22)【出願日】2014年2月4日
(65)【公開番号】特開2015-146708(P2015-146708A)
(43)【公開日】2015年8月13日
【審査請求日】2016年12月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100087505
【弁理士】
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100078330
【弁理士】
【氏名又は名称】笹島 富二雄
(72)【発明者】
【氏名】菊田 真仁
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦
【審査官】
島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−023367(JP,A)
【文献】
特開平11−287725(JP,A)
【文献】
特開2015−021413(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 2/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルが巻回された磁歪素子と、当該磁歪素子を通る磁気回路を形成するヨークとを含み、前記ヨークの曲げ振動が前記磁歪素子に伝達されて発電する振動発電装置であって、
前記磁歪素子は、前記ヨークに形成された一対の壁部の間に相対移動可能に保持されることによって、前記ヨークの曲げ振動による圧縮力のみを受けるように構成された、振動発電装置。
【請求項2】
前記磁歪素子が超磁歪素子である、請求項1に記載の振動発電装置。
【請求項3】
前記一対の壁部は、前記ヨークの曲げ振動によって互いに接近及び離反するように形成されており、
前記磁歪素子を、互いに接近した前記一対の壁部によって圧縮される一方、互いに離反した前記一対の壁部によっては引っ張られないように、前記一対の壁部の間に保持する保持部を有し、
前記磁歪素子が、互いに接近した前記一対の壁部によって圧縮されて発電する、請求項1又は2に記載の振動発電装置。
【請求項4】
前記ヨークは、振動源によって加振される振動部に一端が固定又は支持されると共に前記振動部から離れる方向に延伸しており、
前記一対の壁部は、前記ヨークの延伸方向の中間位置に当該延伸方向において対向するように形成されている、請求項3に記載の振動発電装置。
【請求項5】
前記一対の壁部は、前記ヨークに形成された凹部の対向する二つの内側面である、請求項3又は4に記載の振動発電装置。
【請求項6】
前記保持部は、前記ヨークとは別体で構成されて、前記一対の壁部のそれぞれに取り付けられている、請求項3〜5のいずれか一つに記載の振動発電装置。
【請求項7】
前記保持部は、非磁性材料で形成されて前記磁歪素子の端部及びその近傍を移動可能に内包し、その外周面に前記コイルの端部が巻き付けられている、請求項6に記載の振動発電装置。
【請求項8】
前記保持部は、前記ヨークと一体に形成されている、請求項3〜5のいずれか一つに記載の振動発電装置。
【請求項9】
前記磁歪素子の軸方向に圧縮与圧を付与する与圧付与部をさらに備えた、請求項1〜8のいずれか一つに記載の振動発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁歪素子を用いた振動発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の振動発電装置として、特許文献1には、磁性材料で構成されたヨークと、磁歪材料で構成された磁歪棒(磁歪素子)と、この磁歪棒に巻回されたコイルとを有し、前記ヨークの曲げ振動によって前記磁歪棒が伸縮して発電する発電装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4905820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の発電装置では、前記ヨークの曲げ振動によって前記磁歪棒には圧縮力と引張力とが交互に作用する。このため、例えば、優れた磁歪特性を有する(発電効率が高い)ものの、引張変形に弱い超磁歪材料(例えば、ターフェノールD)を用いて前記磁歪棒を構成することができないという課題があった。
【0005】
そこで、本発明は、引張変形に弱い超磁歪素子を用いることを可能とし、これにより、発電効率を高めることのできる振動発電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面による振動発電装置は、コイルが巻回された磁歪素子と、当該磁歪素子を通る磁気回路を形成するヨークとを含み、前記ヨークの曲げ振動が前記磁歪素子に伝達されて発電するものであって、前記磁歪素子は、
前記ヨークに形成された一対の壁部の間に相対移動可能に保持されることによって、前記ヨークの曲げ振動によ
る圧縮力
のみを受け
るよう
に構成されている。
【発明の効果】
【0007】
前記振動発電装置によれば、前記ヨークの曲げ振動によって、前記磁歪素子には引張力が作用せず、圧縮力のみが作用する。このため、例えば、前記磁歪素子を、優れた磁歪特性を有するものの引張変形には弱い超磁歪材料を用いて形成することが可能となり、従来に比べて、発電効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態による振動発電装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態による振動発電装置1の概略構成を示している。
図1に示すように、振動発電装置1は、磁性を有するヨーク2と、一対の保持部材3a,3bと、永久磁石4a,4bと、磁歪素子5と、磁歪素子5に巻回されたコイル6と、を含む。そして、振動発電装置1は、ヨーク2の曲げ振動が磁歪素子5に伝達されることによって発電する。
【0010】
ヨーク2は、永久磁石4a,4bと協働して磁歪素子5を通る磁気回路を形成するものであり、その一端が振動源(図示省略)によって加振される振動部50に固定されると共に振動部50から離れる方向に延伸するように形成されている。本実施形態において、ヨーク2の他端は自由端となっており、ヨーク2はいわゆる片持ち梁を構成している。
【0011】
ヨーク2には、その延伸方向における中間位置(ここでは、ヨーク2の延伸方向における中央部よりも振動部50側に寄った位置)に凹部7が形成されている。本実施形態において、凹部7は、ヨーク2の下側面に形成されており、ヨーク2の延伸方向において所定の間隔Sをあけて対向する一対の壁部8a,8bを有している。すなわち、一対の壁部8a,8bは、凹部7の対向する二つの内側面である。
【0012】
ヨーク2は、振動部50の振動によって共振するように形成されており、振動部50が振動することによって、
図1において矢印Aに示すように、ヨーク2には上下方向の曲げ振動が発生する。なお、ヨーク2の断面形状は、特に制限されないが、本実施形態におけるヨーク2は、矩形断面を有している。
【0013】
ここで、ヨーク2の一端が固定される振動部50は、何らかの振動源によって加振される部分、すなわち、振動が入力される部分であればよく、特に制限されないが、例えば列車の走行するレールの側面とすることができる。また、本実施形態では、ヨーク2の下側面に凹部7が形成されているが、凹部7はヨーク2の上側面に形成されてもよい。すなわち、凹部7は、振動部50の振動によるヨーク2の曲げ振動の方向に応じて、ヨーク2の適切な位置に形成することができる。
【0014】
一対の保持部材3a,3bは、それぞれ一対の壁部8a、8bに取り付けられて、一対の壁部8a、8bの間に永久磁石4a,4b及び磁歪素子5を保持する。具体的には、一対の保持部材3a,3bは、磁歪素子5の両端に永久磁石4a,4bを配置した状態で、これらを一対の壁部8a,8bの間に保持する。各保持部材3a,3bは、樹脂などの非磁性材料で形成されており、
図2の要部拡大図に示すように、円筒部31と、円筒部31の一端に形成されたフランジ部32とを有している。そして、各保持部材3a,3bは、その円筒部31に永久磁石4a又は4bと、磁歪素子5の端部及びその近傍とを収容(内包)した状態で、そのフランジ部32が、例えば接着剤によって一対の壁部8a,8bに取り付け固定されている。一対の保持部材3a,3bによって保持された磁歪素子5は、その一方の端面が保持部材3a内で永久磁石4aに当接しており、その他方の端面が保持部材3b内で永久磁石4bに当接している。
【0015】
ここで、各保持部材3a,3bは、永久磁石4a,4bと、磁歪素子5の端部及びその近傍を円筒部31内に緩く(すなわち、遊びを有して)収容(内包)しており、永久磁石3a及び磁歪素子5は、保持部材3aに対して相対移動が可能であり、永久磁石3b及び磁歪素子5は、保持部材3bに対して相対移動が可能になっている。
【0016】
磁歪素子5は、磁歪材料で棒状(又は板状)に形成されている。磁歪素子5は、両端に永久磁石4a,4bが配置された状態で、一対の壁部8a,8bの間隔Sとほぼ同じ長さ又はそれよりも僅かに小さい長さを有するように形成されている。なお、磁歪素子5の断面形状は、特に制限されないが、本実施形態における磁歪素子5は、円形断面を有している。
【0017】
コイル6は、例えば銅線で形成され、磁歪素子5の周囲に所定の間隔をあけて巻回されている。本実施形態において、コイル6の両端部は、それぞれ保持部材3a,3bの円筒部31の外周面に巻きつけられて固定されており、これにより、コイル6は、磁歪素子5に接触しない状態で保持されるようになっている。すなわち、一対の保持部材3a,3bは、磁歪素子5の周囲に所定の間隔をあけた状態でコイル6を保持するコイル保持機能をも有している。
【0018】
次に、以上のような構成を有する振動発電装置1の作用を説明する。
振動部50が振動するとヨーク2には上下方向の曲げ振動(
図1の矢印A参照)が発生し、これによって、一対の壁部8a,8bの間隔Sが変動する。すなわち、一対の壁部8a,8bは、ヨーク2の曲り方向に応じて互いに接近又は離反する。そして、ヨーク2が曲げ振動している間、一対の壁部8a,8bは接近と離反とを繰り返すことになる。
【0019】
ここで、磁歪素子5は、保持部材3a,3bによって一対の壁部8a,8bの間に保持されているものの、磁歪素子5の両端及びその近傍は、保持部材3a、3bの円筒部31内で相対移動が可能なように円筒部31内に緩く収容(内包)されている。このため、一対の壁部8a,8bが互いに接近することによって磁歪素子5には圧縮力が作用することになるが、一対の壁部8a,8bが互いに離反しても、一対の壁部8a,8bに取り付けられた一対の保持部材3a,3bが互いに離れる方向に移動するだけで、磁歪素子5には引張力が作用しない。つまり、磁歪素子5は、ヨーク2の曲げ振動によって圧縮力を受けるが、引張力を受けない。したがって、磁歪素子5には、振動部50の振動により発生するヨーク2の曲げ振動によって、圧縮変形のみが繰り返して生じることとなる。そして、この圧縮変形によって、磁歪素子5には逆磁歪効果が生じて磁歪素子5と平行な方向の磁束密度が変化し、これにより、コイル6に電流が発生する(すなわち、発電する)。
【0020】
このように、本実施形態による振動発電装置1において、磁歪素子5は、ヨーク2の曲げ振動によって圧縮力を受ける一方、引張力を受けないように保持されている。具体的には、磁歪素子5は、一対の保持部材3a,3bによって、一対の壁部8a,8bの間に、ヨーク2の曲げ振動によって接近した一対の壁部8a,8bによって圧縮される一方、離反した一対の壁部8a,8bによっては引っ張られないように保持されている。そして、振動発電装置1は、磁歪素子5がヨーク2の曲げ振動によって互いに接近した一対の壁部8a,8bによって圧縮されて発電する。
【0021】
このため、引張変形には弱いが、優れた磁歪特性を有する(高い磁歪定数の)ターフェノールD(Telfenol−D)などの超磁歪材料で磁歪素子5を形成すること、すなわち、磁歪素子5として超磁歪素子を採用することが可能となり、従来に比べて、発電効率の高い振動発電装置1を実現できる。但し、前記超磁歪材料で形成した磁歪素子5に限るものではなく、ガルフェノール(Galfenol)などの通常の磁歪材料で磁歪素子5を形成してもよいことはもちろんである。この場合、発電効率を高めることはできないものの、圧縮力と引張力とが繰り返して作用しないので、磁歪素子5の寿命等の面で有利である。
【0022】
また、保持部材3a,3bは、非磁性材料で形成されており、その円筒部31の外周面に、コイル6の各端部が巻きつけ固定されている。これにより、磁歪素子5とコイル6との接触が防止されるので、磁歪素子5とコイル6とを樹脂などによって固定しなくて、振動発電装置1の発電特性等の変動を抑制できる。
【0023】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて更なる変形や変更が可能である。以下にいくつか例示する。
【0024】
例えば、上述の実施形態では、一対の壁部8a,8bの両方に保持部材3a,3bが取り付けられている。しかし、これに限るものではなく、例えば、保持部材における円筒部の長さを十分に確保することで、一対の壁部8a,8bの一方のみに保持部材を取り付けるようにすることもできる。この場合、保持部材に収容されない永久磁石は、例えば、磁歪素子5の端部又はヨーク2に形成された凹部7の壁部に接着剤などによって固定する。
【0025】
また、ヨークを複数の部材によって構成してもよい。例えば、
図3に示すように、所定の間隔をあけて設けられた二つのヨークブロック(第1ヨークブロック211,第2ヨークブロック212)と、この二つのヨークブロックを連結する連結部材213とでヨーク21を構成する。連結部材213は、磁性及び弾性を有する材料で板状又は棒状に形成することができる。この場合には、例えば、第1ヨークブロック211の第2ヨークブロック212側の側面(内側面)とは反対側の側面(外側面)が振動部50に固定され、第1ヨークブロック211の内側面及び第2ヨークブロック212の第1ヨークブロック211側の側面(内側面)が一対の壁部8a,8bとなる。
【0026】
このようなヨーク21を用いれば、特に連結部材213の作用によって、振動部50の振動に伴うヨーク21の曲げ振動を大きくすることができ、振動発電装置の発電効率をさらに向上できる。なお、
図3においては、第1ヨークブロック211の上面と第2ヨークブロック212の上面とを板状の連結部材213によって連結しているが、これに限るものではなく、例えば、棒状の連結部材213によって二つのヨークブロック211,212の対向する側面(内側面)同士を連結するようにしてもよい。
【0027】
また、磁歪素子5に圧縮与圧を付与可能な構成としてもよい。例えば、
図4に示すように、上述の実施形態におけるヨーク2に対し、磁歪素子5の延長上となる位置にヨーク2の自由端から凹部7まで延びる(貫通する)ねじ孔(めねじ)10を形成する。そして、このねじ孔10に、外周面にねじ部(おねじ)が形成された与圧付与部材11をねじ結合(螺合)して与圧付与部材11を進退させることにより、永久磁石4bを介して磁歪素子5に圧縮与圧を調整可能に付与できるように構成する。このように、磁歪素子5に圧縮与圧を付与することにより、振動発電装置の発電効率をさらに向上させることができる。
【0028】
また、上述の実施形態では、磁歪素子5の両端に永久磁石4a,4bが配置されているが、これに限るものではない。ヨーク2と永久磁石4a,4bによって磁歪素子5を通る磁気回路が形成されればよく、永久磁石4a,4bの配置は適宜設定することができる。この場合、一対の保持部材3a,3bは、例えば、磁歪素子5の両端を一対の壁部8a,8bに当接させた状態で磁歪素子5を保持するように構成する。
【0029】
また、上述の実施形態では、ヨーク2とは別体で構成された一対の保持部材3a,3bによって永久磁石4a,4b及び磁歪素子5が保持されている。しかし、これに限るものではなく、一対の保持部材3a,3bと同様の機能を有する部分をヨーク2に一体形成してもよい。この場合には、例えば、一方の保持部材3aと同様の機能を有する部分を一方の壁部8aに突出形成し、他方の保持部材3bと同様の機能を有する部分を他方の壁部8bに突出形成する。
【0030】
また、上述の実施形態では、ヨーク2の一端を振動部50に固定し、他端を自由端としているが、振動部50が振動することによってヨーク2に上下方向の曲げ振動が発生すればよく、上述の構成に限るものではない。例えば、ヨーク2の一端を振動部50に固定することに代えて、ヨーク2の一端が振動部に支持(単純支持)されるように構成してもよい。さらに、ヨーク2の他端を、振動部で支持したり、非振動部で支持したり、振動部又は非振動部に固定したりすることもできる。
なお、以上の各変形例は、必要に応じて、組み合わせて適用することが可能である。
【符号の説明】
【0031】
1…振動発電装置、2…ヨーク、3a,3b…保持部材、4a,4b…永久磁石、5…磁歪素子、6…コイル、7…凹部、8a,8b…壁部、11…与圧付与部材、50…振動部