(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、梅酒には多くの成分が含まれるが、梅酒を蒸留して得られる原酒には苦味や渋みなどの不快な味を呈する成分が含まれることが本発明者の研究によって明らかになった。そして、それら成分に特有の飲みにくさから、蒸留梅酒原酒そのものは飲みにくいことが判明した。したがって、これらの不快な味を抑制し、より呈味の改善された蒸留梅酒の開発が望まれる。
【0007】
すなわち、本発明の目的は、蒸留梅酒原酒の有する苦渋味をマスキングする技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、蒸留梅酒中にイソ酪酸、酢酸、ベンズアルデヒドから選ばれる1つ以上の成分を特定量含有させると、苦渋味成分に由来する特有の飲みにくさが解消され、得られる蒸留梅酒が非常に好ましい味わいとなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、これらに限定されるものではないが、以下の態様の発明を包含する。
(1)蒸留梅酒であって、
蒸留梅酒全体量に対して、
(a)0.6〜75ppmのイソ酪酸、
(b)12.6〜85ppmの酢酸、および
(c)12.4〜77ppmのベンズアルデヒド、
から選択される1つ以上の成分を含有する、上記蒸留梅酒。
(2)前記(a)〜(c)から選択される2つ以上の成分を含有する、
(1
)に記載の蒸留梅酒。
(3)蒸留梅酒全体量に対して、
(d)0.8〜15ppmの2−メチル酪酸、
(e)4.9〜50ppmのカプロン酸、
(f)1.1〜4.5ppmの安息香酸エチル、および
(g)1.8〜9ppmのベンジルアルコール、
から選択される1つ以上の成分をさらに含有する、
(1
)または
(2
)に記載の蒸留梅酒。
(4)蒸留梅酒全体量に対して、
(h)1〜50ppmのリンゴ酸ジエチル、
(i)0.1〜2ppm
のコハク酸ジ
エチル、および
(j)0.1〜5ppmのクエン酸トリエチル、
から選択される1つ以上の成分をさらに含有する、
(1
)から
(3
)のいずれか
に記載の蒸留梅酒。
(5)蒸留梅酒であって、
(a)イソ酪酸、(b)酢酸、および(c)ベンズアルデヒドから選択される1つ以上の成分と;
(h)リンゴ酸ジエチル、(i)コハク酸ジ
エチル、および(j)クエン酸トリエチルから選択される1つ以上の成分と;
を含有し、
上記成分の含有比が、
[(a)の重量/(h)の重量]=0.04〜4.8、
[(b)の重量/(h)の重量]=0.79〜5.4、
[(c)の重量/(h)の重量]=0.78〜4.82、
[(a)の重量/(i)の重量]=1.0〜125、
[(b)の重量/(i)の重量]=21〜142、
[(c)の重量/(i)の重量]=20.6〜129、
[(a)の重量/(j)の重量]=0.35〜47、
[(b)の重量/(j)の重量]=7.75〜55、および
[(c)の重量/(j)の重量]=7.75〜48、
である、上記蒸留梅酒。
(6)前記(a)〜(c)から選択される2つ以上の成分を含有する、(5)に記載の蒸留梅酒。
(7)(d)2−メチル酪酸、(e)カプロン酸、(f)安息香酸エチル、および(g)ベンジルアルコールから選択される1つ以上の成分をさらに含有し、
上記成分の含有比が、
[(d)の重量/(h)の重量]=0.05〜0.94、
[(e)の重量/(h)の重量]=0.31〜3.13、
[(f)の重量/(h)の重量]=0.07〜0.28、
[(g)の重量/(h)の重量]=0.12〜0.56、
[(d)の重量/(i)の重量]=1.3〜25、
[(e)の重量/(i)の重量]=8.1〜84、
[(f)の重量/(i)の重量]=1.8〜7.5、
[(g)の重量/(i)の重量]=1.8〜15、
[(d)の重量/(j)の重量]=0.5〜10、
[(e)の重量/(j)の重量]=3.05〜31、
[(f)の重量/(j)の重量]=0.7〜3、
および
[(g)の重量/(j)の重量]=1.15〜6、
である、(5)または(6)に記載の蒸留梅酒。
(8)蒸留梅酒全体量に対して、
(a)0.6〜75ppmのイソ酪酸、
(b)12.6〜85ppmの酢酸、および
(c)12.4〜77ppmのベンズアルデヒド、
から選択される1つ以上の成分を含有する、(5)から(7)のいずれかに記載の蒸留梅酒。
(9)蒸留梅酒の製造方法であって、
蒸留梅酒原酒に、
(a)0.1〜75ppmの増加含有量のイソ酪酸、
(b)0.3〜73ppmの増加含有量の酢酸、および
(c)0.3〜65ppmの増加含有量のベンズアルデヒド、
から選択される1つ以上の成分を前記の増加含有量となるように添加する工程を含有する、上記製造方法。
(10)前記添加工程において、(a)〜(c)から選択される2つ以上の成分を添加する、(9)に記載の製造方法。
(11)前記添加工程において、
蒸留梅酒全体量に対して、
(d)0.3〜15ppmの増加含有量の2−メチル酪酸、
(e)0.3〜46ppmの増加含有量のカプロン酸、
(f)0.1〜3.5ppmの増加含有量の安息香酸エチル、および
(g)0.1〜7.5ppmの増加含有量のベンジルアルコール、
から選択される1つ以上の成分を前記の増加含有量となるようにさらに添加する工程を含む、(9)または(10)に記載の製造方法。
(12)前記添加工程において、
蒸留梅酒全体量に対して、
(h)1〜50ppmのリンゴ酸ジエチル、
(i)0.1〜2ppmコハク酸ジ
エチル、および
(j)0.1〜5ppmのクエン酸トリエチル、
から選択される1つ以上の成分をさらに含有する、(9)から(11)のいずれかに記載の
製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば蒸留梅酒原酒に含まれる苦渋味がマスキングされ、飲みやすい蒸留梅酒を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施形態を例示する。以下に説明する本発明の1態様である蒸留梅酒に関する記載は、特に断りがない限り、本発明の別態様である蒸留梅酒の製造方法において言及される蒸留梅酒にも該当するものである。
<蒸留梅酒>
本発明における「蒸留梅酒」とは、梅酒を蒸留して得られる蒸留梅酒原酒を主原料として含有する飲料をいう。
【0012】
本明細書において「含有量(ppm)」とは、特に断りがない限り、蒸留梅酒全体量に対する含有量を意味する。
【0013】
本明細書において「増加含有量(ppm)」とは、特に断りがない限り、蒸留梅酒に対してある成分が添加された場合に増加した含有量を意味し、蒸留梅酒全体量に対する当該成分の添加後の含有量から添加前の含有量を差し引いた量を意味する。
【0014】
梅酒
本発明の蒸留梅酒原酒の製造に用いる梅酒は、梅をアルコール飲料に浸漬することによって製造される梅酒であれば特に限定されない。そのような梅酒の例として、市販品として一般的に販売され入手可能な梅酒、および特許第4585458号公報に記載されているように、青梅凍結粉砕浸漬酒と熟成梅凍結粉砕浸漬酒を混合することによって得られる梅酒などが挙げられる。梅酒の原料である梅の種類は特に限定されず、青梅であっても完熟梅であってもよい。
【0015】
蒸留梅酒原酒
本発明において「蒸留梅酒原酒」とは、梅酒を蒸留して得られたものをいい、本発明における蒸留梅酒のベース原料として用いる。梅酒の蒸留は公知の方法で行うことができるが、例えば、減圧蒸留、水蒸気減圧蒸留などによって製造することができる。減圧蒸留の方法は当業者に公知の方法を用いることができ、特に限定されないが、20〜200mmHgの圧力、25〜65℃の温度の条件下で行うことができる。着色が少なく、液色が極めて無色透明に近い蒸留梅酒が得られる。
【0016】
蒸留梅酒中の蒸留梅酒原酒の含有量は特に限定されず、蒸留梅酒の全体量に対して、例えば0.01〜100重量%、好ましくは1〜50重量%、さらに好ましくは1〜33重量%である。
【0017】
成分(a)〜(g)
本発明においては、以下の(a)〜(c)から選択される1つ以上の成分を特定量含有させることにより、蒸留梅酒原料由来の不快な苦味や渋みを抑制し、呈味を改善することができる。また、(a)〜(c)から選択される2つ以上の成分を組み合わせて特定量含有させることにより、さらに好ましい味わいを有する蒸留梅酒を得ることができる。これらの成分は、蒸留梅酒原料に含まれる成分であってもよく、蒸留梅酒に添加してもよい。特に、これらの成分単独、または成分の混合物を含有する香料の形態で蒸留梅酒に添加することで、着色が少なく、液色が極めて無色透明に近い蒸留梅酒が得られる。
(a)イソ酪酸(isobutyric acid、2-methylpropanoic acid、ジメチル酢酸などとも記載される):本発明における蒸留梅酒は、蒸留梅酒全体量に対して、イソ酪酸を0.6〜75ppm含有することが好ましく、0.8〜45ppmがより好ましく、1.2〜25ppmがさらに好ましい。また、イソ酪酸を蒸留梅酒原酒に添加する場合の増加含有量は、蒸留梅酒全体量に対して、0.1〜75ppmが好ましく、0.3〜45ppmがより好ましく、0.7〜25ppmがさらに好ましい。
(b)酢酸(acetic acid):本発明における蒸留梅酒は、蒸留梅酒全体量に対して、酢酸を12.6〜85ppm含有することが好ましく、14〜67ppmがより好ましく、16〜47ppmがさらに好ましい。また、酢酸を蒸留梅酒原酒に添加する場合の増加含有量は、蒸留梅酒全体量に対して、0.3〜73ppmが好ましく、2.0〜55ppmがより好ましく、4〜35ppmがさらに好ましい。
(c)ベンズアルデヒド(benzaldehyde):本発明における蒸留梅酒は、蒸留梅酒全体量に対して、ベンズアルデヒドを12.4〜77ppm含有することが好ましく、16〜67ppmがより好ましく、20〜57ppmがさらに好ましい。また、ベンズアルデヒドを蒸留梅酒原酒に添加する場合の増加含有量は、蒸留梅酒全体量に対して、0.3〜65ppmが好ましく、4〜55ppmがより好ましく、8〜45ppmがさらに好ましい。
【0018】
本発明においては、上記(a)〜(c)から選択される1つ以上の成分に加えて、以下の(d)〜(g)から選択される1つ以上の成分をさらに特定量含有させることにより、さらに好ましい味わいを有する蒸留梅酒を得ることができる。
(d)2−メチル酪酸(2-methyl butyric acid、2−エチルプロピオン酸、2−メチルブタン酸などとも記載される):本発明における蒸留梅酒は、蒸留梅酒全体量に対して、2−メチル酪酸を0.8〜15ppm含有することが好ましい。また、2−メチル酪酸を蒸留梅酒原酒に添加する場合の増加含有量は、蒸留梅酒全体量に対して、0.3〜15ppmが好ましい。
(e)カプロン酸(caproic acid、hexanoic acid、ヘキサン酸などとも記載される):本発明における蒸留梅酒は、蒸留梅酒全体量に対して、カプロン酸を4.9〜50ppm含有することが好ましく、6.5〜20ppmがより好ましい。また、カプロン酸を蒸留梅酒原酒に添加する場合の増加含有量は、蒸留梅酒全体量に対して、0.3〜46ppmが好ましく、2〜16ppmがより好ましい。
(f)安息香酸エチル(ethyl benzoate):本発明における蒸留梅酒は、蒸留梅酒全体量に対して、安息香酸エチルを1.1〜4.5ppm含有することが好ましい。また、安息香酸エチルを蒸留梅酒原酒に添加する場合の増加含有量は、蒸留梅酒全体量に対して、安息香酸エチルを0.1〜3.5ppmが好ましい。
(g)ベンジルアルコール(benzyl alcohol):本発明における蒸留梅酒は、蒸留梅酒全体量に対して、ベンジルアルコールが1.8〜9ppm含有することが好ましい。また、ベンジルアルコールを蒸留梅酒原酒に添加する場合の増加含有量は、蒸留梅酒全体量に対して、0.1〜7.5ppmが好ましい。
【0019】
上記成分を添加する場合、精製品あるいは抽出物を用いてもよく、添加成分を単独で含有する香料、あるいは2種以上の上記成分を含有する香料を使用することができる。
【0020】
苦渋味成分(h)〜(j)
(h)リンゴ酸ジエチル(diethyl malate)、(i)コハク酸ジエチル(diethyl succinate)および(j)クエン酸トリエチル(triethyl citrate):蒸留梅酒原酒に含まれるリンゴ酸ジエチル、コハク酸ジエチル、クエン酸トリエチルが、蒸留梅酒特有の飲みにくさ(苦味・雑味)の原因成分であることが、本発明者の研究により明らかとなった。また、蒸留梅酒の飲みにくさはリンゴ酸ジエチル、コハク酸ジエチル、クエン酸トリエチルの含有量に伴い増強されることも判明した。
【0021】
したがって、本発明における蒸留梅酒は、例えば、(h)〜(j)から選択される1つ以上の成分、(h)〜(j)から選択される2つ以上の成分、または(h)〜(j)の3つの成分をさらに含有してもいてもよい。
【0022】
本発明における蒸留梅酒中のリンゴ酸ジエチル、コハク酸ジエチルおよびクエン酸トリエチルの含有量は、原料である梅酒および蒸留条件により変動する。例えば、蒸留梅酒全量に対して、リンゴ酸ジエチルを1〜50ppm、3〜30ppm、4〜25ppmの範囲で含有し、コハク酸ジ
エチルを0.1〜2ppm、0.5〜1ppmの範囲で含有し、クエン酸トリエチルを0.1〜5ppm、0.3〜3.5ppmの範囲で含有する。
【0023】
成分の含有比
本発明における蒸留梅酒に含まれる、上記各成分の重量と、(h)リンゴ酸ジエチルの重量、(i)コハク酸ジエチルおよび(j)クエン酸トリエチルの重量との含有比、ならびに蒸留梅酒原酒に各成分を添加する場合の、上記各成分の増加含有量と成分(h)〜(j)の重量との比は
、以下の通りである。
【0024】
(h)リンゴ酸ジエチルの場合は、[(a)の重量/(h)の重量]=0.04〜4.8、好ましくは0.05〜2.8、さらに好ましくは0.07〜1.6であり、[(b)の重量/(h)の重量]=0.79〜5.4、好ましくは0.87〜4.2、さらに好ましくは1〜3であり、[(c)の重量/(h)の重量]=0.78〜4.82、好ましくは1〜4.2、さらに好ましくは1.25〜3.6であり、[(d)の重量/(h)の重量]=0.05〜0.94であり、[(e)の重量/(h)の重量]=0.31〜3.13、好ましくは0.42〜1.25であり、[(f)の重量/(h)の重量]=0.07〜0.28であり、[(g)の重量/(h)の重量]=0.12〜0.56である。また、[(a)の増加含有量/(h)の重量]=0.01〜4.69、好ましくは0.02〜2.81、さらに好ましくは0.04〜1.56であり、[(b)の増加含有量/(h)の重量]=0.02〜4.69、好ましくは0.11〜3.44、さらに好ましくは0.24〜2.19であり、[(c)の増加含有量/(h)の重量]=0.02〜4.06、好ましくは0.24〜3.44、さらに好ましくは0.47〜2.81であり、[(d)の増加含有量/(h)の重量]=0.02〜0.94であり、[(e)の増加含有量/(h)の重量]=0.02〜2.81、好ましくは0.12〜0.94であり、[(f)の増加含有量/(h)の重量]=0.01〜0.24であり、[(g)の増加含有量/(h)の重量]=0.01〜0.47である。
【0025】
(i)コハク酸ジ
エチルの場合は、[(a)の重量/(i)の重量]=1.0〜125、好ましくは1.35〜75、さらに好ましくは2〜42であり、[(b)の重量/(i)の重量]=21〜142、好ましくは23〜111、さらに好ましくは26〜79であり、[(c)の重量/(i)の重量]=20.6〜129、好ましくは26〜112、さらに好ましくは33〜95であり、[(d)の重量/(i)の重量]=1.3〜25であり、[(e)の重量/(i)の重量]=8.1〜84、好ましくは10.8〜34であり、[(f)の重量/(i)の重量]=1.8〜7.5であり、[(g)の重量/(i)の重量]=1.8〜15である。また、[(a)の増加含有量/(i)の重量]=0.01〜4.69、好ましくは0.02〜2.81、さらに好ましくは0.04〜1.56であり、[(b)の増加含有量/(i)の重量]=0.02〜4.69、好ましくは0.11〜3.44、さらに好ましくは0.24〜2.19であり、[(c)の増加含有量/(i)の重量]=0.02〜4.06、好ましくは0.24〜3.44、さらに好ましくは0.47〜2.81であり、[(d)の増加含有量/(i)の重量]=0.02〜0.94であり、[(e)の増加含有量/(i)の重量]=0.02〜2.81、好ましくは0.12〜0.94であり、[(f)の増加含有量/(i)の重量]=0.01〜0.24であり、[(g)の増加含有量/(i)の重量]=0.01〜0.47である。
【0026】
(j)クエン酸トリエチルの場合は、[(a)の重量/(j)の重量]=0.35〜47、好ましくは0.5〜28、さらに好ましくは0.75〜16であり、[(b)の重量/(j)の重量]=7.75〜55、好ましくは9〜42、さらに好ましくは10〜30であり、[(c)の重量/(j)の重量]=7.75〜48、好ましくは10〜42、さらに好ましくは12〜36であり、[(d)の重量/(j)の重量]=0.5〜10であり、[(e)の重量/(j)の重量]=3.05〜31、好ましくは3.9〜12であり、[(f)の重量/(j)の重量]=0.7〜3であり、[(g)の重量/(j)の重量]=1.15〜6である。また、[(a)の増加含有量/(j)の重量]=0.01〜4.69、好ましくは0.02〜2.81、さらに好ましくは0.04〜1.56であり、[(b)の増加含有量/(j)の重量]=0.02〜4.69、好ましくは0.11〜3.44、さらに好ましくは0.24〜2.19であり、[(c)の増加含有量/(j)の重量]=0.02〜4.06、好ましくは0.24〜3.44、さらに好ましくは0.47〜2.81であり、[(d)の増加含有量/(j)の重量]=0.02〜0.94であり、[(e)の増加含有量/(j)の重量]=0.02〜2.81、好ましくは0.12〜0.94であり、[(f)の増加含有量/(j)の重量]=0.01〜0.24であり、[(g)の増加含有量/(j)の重量]=0.01〜0.47である。
その他
本発明における蒸留梅酒は、上記成分の他、水、公知の飲料に含まれる成分、例えば糖類、甘味料、酸味料、香料、色素等を、本発明の効果を損なわない範囲で含有してもよい。
【0027】
水は、飲用に適した水であればよく、例えば、純水、硬水、軟水、イオン交換水、アルカリイオン水等のほか、これらの水を脱気処理した脱気水等を適宜使用することができる。水の量は特に限定されず蒸留梅酒原酒および製品のアルコール度数に応じて適宜決定することができるが、蒸留梅酒の全体量に対して、例えば0〜99重量%、好ましくは0〜60重量%、さらに好ましくは0〜30重量%である。
【0028】
本発明における蒸留梅酒のアルコール度数は、1〜70%であり、好ましくは10〜45%、さらに好ましくは15〜35
%である。
【0029】
<蒸留梅酒の製造方法>
本発明の別の態様としては、蒸留梅酒の製造方法が挙げられる。本態様の製造方法においては、蒸留梅酒原酒に成分(a)イソ酪酸、(b)酢酸、および(c)ベンズアルデヒドから選択される1つ以上の成分を添加する工程を備えることを特徴とする。本工程により、蒸留梅酒原酒由来の苦渋味をマスキングすることができる。また、成分(a)〜(c)から選択される2つ以上の成分を添加することにより、蒸留梅酒原酒由来の苦渋味をさらにマスキングすることができる。また、(d)2−メチル酪酸、(e)カプロン酸、(f)安息香酸エチル、および(g)ベンジルアルコールから選択される1つ以上の成分をさらに添加してもよい。
【0030】
本態様の製造方法は、例えば、梅酒を得る工程、梅酒を蒸留して蒸留梅酒原酒を得る工程、蒸留梅酒原酒を水で希釈する工程をさらに含んでいてもよく、希釈工程と添加工程の順序は問わない。
【0031】
本態様における成分(a)〜(g)の蒸留梅酒中の含有量および増加含有量、さらには成分(a)〜(g)の重量と苦渋味成分(h)〜(j)の重量との含有比、ならびに成分(a)〜(g)の増加含有量と苦渋味成分(h)〜(j)の重量との比は、上記蒸留梅酒に関して記載した通りである。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
実施例において用いた実験装置を以下に列挙する。
・分析装置
ガスクロマトグラフィー(Agilent社製GC−MSD)
・GCオーブン温度条件
40℃(5分)− 6℃/min − 240℃
・MS条件
四重極設定値:150 イオン源設定値:230
面積値算出条件
トータルイオンモード 質量(LOW):35 質量(HIGH):550
・カラム
DB−WAXETR 60m 内径320μm 膜厚:0.25μm
・試料前処理条件
試料80μlと内部標準物質(デカン酸メチルエステル20ppmアルコール水溶液)
20μlを20mlスクリューキャップバイアル瓶中で混合
・ダイナミックヘッドスペース条件
装置:ゲステル社MPS
吸着剤:TENAX
試料気化温度:80℃
試料気化用ガス供給量:3000ml
試料気化用ガス供給速度 100ml/min
試料気化用ガス種類 窒素
・ピーク保持時間
MSの解析によって成分および濃度の同定を行った。
【0034】
実施例1:苦渋味マスキング効果の検討
<蒸留梅酒原酒の製造>
生青梅1kg対して砂糖0.5kg及び40%(v/v)アルコール溶液(ニュートラルスピリッツ)1.2Lの割合となるように混合し、6ヶ月浸漬することにより、アルコール度数20%(v/v)の梅酒を製造した。アルコール度数20%(v/v)の梅酒を蒸留装置に3L入れ、釜内の気圧75mmHgの条件で減圧蒸留を開始した。蒸留液の体積が2Lに達したところで減圧蒸留を中断し、蒸留梅酒原酒を調製した。
<苦渋味成分の検討>
本発明の蒸留梅酒の苦渋味マスキング効果を検証するため、蒸留梅酒原酒由来の成分と苦渋味の程度との関係を検討した。
【0035】
蒸留梅酒原酒(1L)と水(2L)とを、[蒸留梅酒原酒:水]=1:2の比で混合し、アルコール度数9%の蒸留梅酒A(3L)を調製し、試料1とした。蒸留梅酒A(試料1)の成分および含有量は、上記成分分析方法に従い測定し、表1に示した。蒸留梅酒A(30ml)に対し、リンゴ酸ジエチル、コハク酸ジエチル、クエン酸トリエチルをそれぞれ10ppmまたは20ppmの増加含有量となるように添加して試料2〜7を調製した。試料1〜7について、苦渋味の程度について官能評価を行った。官能評価は、専門パネラーにより行い、以下の基準に従って判定した。
【0036】
4点:飲みにくい(口中に苦渋味が残る)
3点:より飲みにくい
2点:特に飲みにくい
1点:非常に飲みにくい
【0037】
【表1】
【0038】
<評価結果>
試料1〜7について、官能評価の結果を表2に示す。蒸留梅酒原料を希釈して製造された蒸留梅酒A(試料1)はリンゴ酸ジエチルを4.4ppm、コハク酸ジエチルを1.1
ppm、クエン酸トリエチルを0.3ppm含有しており、口中に苦渋味が残り、飲みづらいことが判明した。そして、リンゴ酸ジエチルの濃度を増加させた試料2および3の蒸留梅酒は、さらに飲みにくくなることも判明した。また、コハク酸ジエチル(試料4、5)の添加によっても同様の傾向がみられ、クエン酸トリエチル(試料6、7)を添加した場合は、濃度依存的に、口中に苦渋味が残り、飲みづらくなることが判明した。
【0039】
ここで、リンゴ酸ジエチル、コハク酸ジエチル、クエン酸トリエチルは梅酒やワインなどに含まれる熟成したとして好ましい成分あると知られている一方で、蒸留梅酒においては、リンゴ酸ジエチル、コハク酸ジエチル、クエン酸トリエチルが不快な香味(苦渋味)となってしまうことが明らかとなった。
【0040】
【表2】
【0041】
<成分添加による苦渋味のマスキング効果の検討>
(a)〜(g)の7成分の濃度をそれぞれ調整して、蒸留梅酒の風味の変化を評価した。
【0042】
蒸留梅酒原料(1L)を水(2L)で希釈して、表3−1に記載の濃度の成分を含有するアルコール度数9%の蒸留梅酒B(ベース原料)(3L)を調製した。蒸留梅酒Bに含まれるリンゴ酸ジエチルの濃度は16ppm、コハク酸ジエチルの濃度は0.6ppm、クエン酸トリエチルの濃度は1.6ppmであった。つぎに、59%アルコール水溶液中10,000〜50,000ppm濃度の(a)〜(g)の各成分のサンプルを蒸留梅酒B(30ml)に添加し、各成分の含有量が表3−1、3−2に記載の濃度となるように試料を調製した。なお、各成分の増加含有量は表4に示すとおりである。各試料について、専門パネラーが常温の試料を30ml飲用し、官能評価を実施した。評価は点数方式によって行い、以下の基準に従って評価を行った。
7点:非常に飲みやすい
6点:より飲みやすい
5点:やや飲みやすい
4点:変化なし
3点:やや飲みにくい
2点:より飲みにくい
1点:非常に飲みにくい
<評価結果>
各試料について行った官能評価の結果を表3−1、3−2および表4に示す。表3−1および3−2の結果から、(a)〜(g)の各成分を特定の濃度で含有させた場合に、リンゴ酸ジエチル、コハク酸ジエチル、クエン酸トリエチルの苦渋味を抑えることができることが分かった。特
に成分(a)〜(c)を添加した場合に、マスキング効果は顕著であった。
【0043】
【表3-1】
【0044】
【表3-2】
【0045】
【表4】
【0046】
実施例2:2種以上の成分の組み合わせにより得られる効果の評価
実施例1において行った苦渋味マスキング評価試験において、最高得点(7点)が得られた3成分(イソ酪酸、酢酸、ベンズアルデヒド)について、成分の組み合わせにより得られる効果を評価した。官能評価は実施例1と同じ方法で行ったが、実施例1において単一成分の添加により得られた最高得点(7点)を指標にして、以下の評価基準に基づいて行った。
8:実施例1の7点と比較してさらに好ましい
9:実施例1の7点と比較して非常に好ましい
<評価結果>
表5の結果から、(a)〜(c)の3成分のうち、2成分以上を特定の濃度で添加した場合に、蒸留梅酒原料由来の苦渋味をより効果的に抑えることができた。すなわち、2種以上の成分を組み合わせると、単一成分の添加により得られる効果より優れた効果が得られることが明らかとなった。特に、ベンズアルデヒドを他の2成分と組み合わせることで、非常に優れた効果が得られた。
【0047】
【表5】
【0048】
実施例3:複数成分の組み合わせにより得られる効果の評価
蒸留梅酒(実施例1において製造した蒸留梅酒Bに対応)30mlに、(a)〜(g)の7成分を添加し、蒸留梅酒Cを調製した。蒸留梅酒B、香料、蒸留梅酒Cは、以下の表6に示す量の成分を含有していた。また、官能評価は、実施例1に記載した方法に従って行った。
【0049】
表6に示された結果から、(a)〜(g)の7成分の濃度を実施例1の結果に基づく好ましい範囲に設定することで、不快な苦渋味を呈するリンゴ酸ジエチル、コハク酸ジエチル、クエン酸トリエチルを同程度含有する蒸留梅酒Bと比較して、蒸留梅酒Cでは苦渋味が抑制され、好ましい味わいが増強されることが確認された。
【0050】
【表6】
【0051】
製造例1:蒸留梅酒(糖類・酸味料・香料成分を含む)
下記表7に示す配合量の蒸留梅酒原酒に特定の成分を添加することで蒸留梅酒を製造した。蒸留梅酒は水を添加してアルコール度数を10%に調整した。
【0052】
【表7】
【0053】
表7の結果から、試料Aと比較して試料Bのほうが飲みやすさが向上することが明らかとなった。このため、蒸留梅酒は、糖類や酸味料などの副原料を加えることで、さらに飲みやすさが向上することがわかった。