特許第6267069号(P6267069)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6267069
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】燃料ホース
(51)【国際特許分類】
   F16L 11/08 20060101AFI20180115BHJP
   B32B 1/08 20060101ALI20180115BHJP
   B32B 25/08 20060101ALI20180115BHJP
   B32B 25/10 20060101ALI20180115BHJP
   F02M 37/00 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   F16L11/08 A
   B32B1/08 B
   B32B25/08
   B32B25/10
   F02M37/00 321A
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-133877(P2014-133877)
(22)【出願日】2014年6月30日
(65)【公開番号】特開2016-11715(P2016-11715A)
(43)【公開日】2016年1月21日
【審査請求日】2017年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】平井 亮
(72)【発明者】
【氏名】小高 義紀
(72)【発明者】
【氏名】畠中 一樹
(72)【発明者】
【氏名】鐘ヶ江 亮祐
【審査官】 宮崎 賢司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−228057(JP,A)
【文献】 特開2006−272897(JP,A)
【文献】 特開2009−085298(JP,A)
【文献】 特開2004−125121(JP,A)
【文献】 特開2000−002376(JP,A)
【文献】 特開2001−165383(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/001363(WO,A1)
【文献】 特開2012−062464(JP,A)
【文献】 特開平05−044874(JP,A)
【文献】 特開2000−055250(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 11/08
B32B 1/08
B32B 25/08
B32B 25/10
F02M 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのゴム層からなる内層と、上記内層の外周に形成され、熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂層と、上記樹脂層の外周に形成され、補強糸およびゴム層からなる外層とを備えた燃料ホースであって、上記内層の力学的損失(Tanδ)が0.3〜1.2であり、ホース内圧を1MPa昇圧した際のホース外径変化率が10%以下で、ホース容積変化率が15%以上であるとともに、上記補強糸が、ポリアミド補強糸,芳香族ポリアミド繊維,ポリエステル繊維,ポリアミド繊維,およびポリビニルアルコール繊維からなる群から選ばれた少なくとも一つからなり、編角45〜55°の補強糸層を構成することを特徴とする燃料ホース。
【請求項2】
上記内層の厚みが0.5〜3mmである請求項1に記載の燃料ホース。
【請求項3】
上記樹脂層の厚みが0.05〜1mmである請求項1または2に記載の燃料ホース。
【請求項4】
上記内層の少なくとも1つのゴム層は、室温雰囲気下における引張応力(M100)が5.0MPa以下である請求項1〜3のいずれか一項に記載の燃料ホース。
【請求項5】
上記外層のゴム層は、エピクロロヒドリンゴムを主成分とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の燃料ホース。
【請求項6】
上記内層のゴム層は、フッ素ゴムおよびアクリロニトリル−ブタジエンゴムの少なくとも一方を主成分とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の燃料ホース。
【請求項7】
上記樹脂層の主成分である熱可塑性樹脂は、テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオライド共重合体(THV)、エチレンビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)、およびポリアミド12からなる群から選ばれた少なくとも一つである請求項1〜6のいずれか一項に記載の燃料ホース。
【請求項8】
上記樹脂層と外層との間に、ゴム層からなる中間層を備える請求項1〜7のいずれか一項に記載の燃料ホース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料ホースに関するものであり、詳しくは、ガソリン、アルコール混合ガソリン、ディーゼル燃料等の自動車用燃料輸送ホースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の燃料供給系に適用される配管において、燃料ホースは燃料ポンプから圧送される燃料を供給する経路を形成し、フューエルデリバリパイプに接続される。このような配管では、設定された一定圧力となるようにポンプによりホース内の燃料を加圧することで燃料輸送を行っている。複数のフューエルデリバリ装置にて燃料をエンジンに分配供給するシステムでは、配管中にて一方のフューエルデリバリ装置より脈動(いわゆる燃圧変動)が発生し、もう一方のフューエルデリバリ装置における燃料の圧力に過不足が生じ、噴射される燃料の量が所望の量に対して誤差を生じるおそれがある。そのため、配管内の脈動を低減する燃料ホースが必要とされている。そこで、従来より燃料ホースとして使用されている、樹脂製ホース、ゴム製ホース、樹脂とゴムとの積層ホース等(例えば、特許文献1参照)を使用することも考えられるが、以下のような問題がある。
【0003】
すなわち、樹脂製ホースは、燃料低透過性(燃料バリア性)の効果は得られるが、剛性が高いため、脈動を低減することができない。また、ゴム製ホースは、脈動低減の効果は得られるが燃料低透過性(燃料バリア性)が劣るという問題がある。さらに、内層に樹脂層を備えたゴムとの積層ホースにおいても、燃料低透過性(燃料バリア性)と脈動低減性との両立が困難である。
【0004】
そのため、従来は、上記燃料ホースと、パルセーションダンパー(P/D)等の減衰部品を組み合わせて使用したり、もしくは燃料ホースの全長を長くする等の手法により、脈動の低減に対応していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−44874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記パルセーションダンパー(P/D)等の減衰部品は高価であり、また、燃料ホースの全長を長くするとコストが高くなる。そのため、ガソリン直噴エンジン等の燃料噴射システムにおいては、低コストで、燃料低透過性(燃料バリア性)と脈動低減性とを両立することができる、燃料ホースが待望されている。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、低コストで、燃料低透過性(燃料バリア性)と脈動低減性とを両立でき、耐久性にも優れる燃料ホースの提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、低コストで、燃料低透過性(燃料バリア性)と脈動低減性とを両立することができる、燃料ホースを得るため鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、燃料ホースの層構成に着目し、少なくとも1つのゴム層からなる内層と、上記内層の外周に形成され、熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂層と、上記樹脂層の外周に形成され、補強糸およびゴム層からなる外層とを備えた構成とすることを想起した。そして、内層の力学的損失(Tanδ)、ホース外径変化率およびホース容積変化率について実験を重ねた結果、内層の力学的損失(Tanδ)が0.3〜1.2であり、ホース内圧を1MPa昇圧した際のホース外径変化率が10%以下で、ホース容積変化率が15%以上であるとともに、上記補強糸が、ポリアミド補強糸,芳香族ポリアミド繊維,ポリエステル繊維,ポリアミド繊維,およびポリビニルアルコール繊維からなる群から選ばれた少なくとも一つからなり、編角45〜55°の補強糸層を構成する燃料ホースにより所期の目的を達成できることを突き止め、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明の燃料ホースは、少なくとも1つのゴム層からなる内層と、上記内層の外周に形成され、熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂層と、上記樹脂層の外周に形成され、補強糸およびゴム層からなる外層とを備えた燃料ホースであって、上記内層の力学的損失(Tanδ)が0.3〜1.2であり、ホース内圧を1MPa昇圧した際のホース外径変化率が10%以下で、ホース容積変化率が15%以上であるとともに、上記補強糸が、ポリアミド補強糸,芳香族ポリアミド繊維,ポリエステル繊維,ポリアミド繊維,およびポリビニルアルコール繊維からなる群から選ばれた少なくとも一つからなり、編角45〜55°の補強糸層を構成することを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の燃料ホースは、熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂層を備えるため、燃料低透過性(燃料バリア性)に優れる。また、内層の力学的損失(Tanδ)が0.3〜1.2であるため、減衰性に優れている。さらに、ホース外径変化率が10%以下で、ホース容積変化率が15%以上であるため、脈動低減性にも優れている。そして、本願発明の燃料ホースは、補強糸およびゴム層からなる外層を備えており、上記補強糸が、ポリアミド補強糸,芳香族ポリアミド繊維,ポリエステル繊維,ポリアミド繊維,およびポリビニルアルコール繊維からなる群から選ばれた少なくとも一つからなり、編角45〜55°の補強糸層を構成する。本発明の燃料ホースは、パルセーションダンパー(P/D)等の高価な減衰部品が不要であるため、低コストで、燃料低透過性(燃料バリア性)と脈動低減性とを両立することができる。
【0011】
また、上記内層の厚みが0.5〜3mmであると、燃料低透過性(燃料バリア性)が良好になる。
【0012】
さらに、上記樹脂層の厚みが0.05〜1mmであると、燃料低透過性(燃料バリア性)と柔軟性が向上することによる脈動低減性が良好になる。
【0013】
そして、上記内層の少なくとも1つのゴム層は、室温雰囲気下における引張応力(M100)が5.0MPa以下であると、脈動減衰性がさらに良好になる。
【0014】
また、上記外層のゴム層は、エピクロロヒドリンゴムを主成分とすると、パイプやコネクター等への締結設計が容易になる。
【0015】
さらに、上記内層のゴム層は、フッ素ゴムおよびアクリロニトリル−ブタジエンゴムの少なくとも一方を主成分とすると、耐燃料油性が良好になる。
【0016】
また、上記樹脂層の主成分である熱可塑性樹脂は、テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオライド共重合体(THV)、エチレンビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)およびポリアミド12からなる群から選ばれた少なくとも一つであると、燃料低透過性(燃料バリア性)がさらに向上する。
【0017】
そして、上記樹脂層と外層との間に、ゴム層からなる中間層を備えると、樹脂層と外層との接着性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る燃料ホースの一部を示す断面図である。
図2】ホース外径変化率およびホース容積変化率を測定するための試験装置を示す模式図である。
図3】脈動低減性を評価するための試験装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
つぎに、本発明の実施の形態について詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限られるものではない。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係る燃料ホースの一部(中心角90°のおうぎ形)を示す断面図である。本発明の燃料ホース(以下、単に「燃料ホース」と称することもある。)は、例えば、図1に示すように、内層10と、樹脂層20と、中間層30と、外層40とが順次形成された構成である。上記内層10は、ゴム層1(最内層)と、ゴム層2とからなり、上記外層40は、補強糸層41と、ゴム層42(最外層)とからなる。
【0021】
本発明においては、上記内層10の力学的損失(Tanδ)が0.3〜1.2であり、ホース内圧を1MPa昇圧した際のホース外径変化率が10%以下で、ホース容積変化率が15%以上であることが最大の特徴である。なお、これらの物性については、後述する。
【0022】
本発明の燃料ホースの各層の形成材料について、順次説明する。
【0023】
〔内層10〕
本実施形態においては、最内層となるゴム層1の外周面に、ゴム層2が積層された2層構造からなる内層10を示すが、本発明の燃料ホースにおける内層は、少なくとも1つのゴム層を備えていればよく、図1の構成に限定されるものではない。
【0024】
(ゴム層1)
上記ゴム層1は、燃料ホースの最内層を構成する。上記ゴム層1を形成するゴムとしては、例えば、フッ素ゴム(FKM)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)等があげられるが、フッ素ゴム(FKM)が好ましい。
【0025】
なお、上記ゴム層1には、上記ゴムとともに通常の添加剤(加硫剤、架橋剤、加硫促進剤等)を適宜添加することもできる。
【0026】
(ゴム層2)
上記ゴム層2は、ゴム層1と樹脂層20との接着層としての役割を果たし、上記ゴム層2を形成するゴムとしては、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド共重合ゴム(ECO)が好ましく用いられる。
【0027】
なお、上記ゴム層2にも、上記ゴム層1と同様の添加剤(加硫剤、架橋剤、加硫促進剤等)を適宜添加することができる。上記ゴム層2と樹脂層20とを加硫接着させるためには、上記ゴム層2用材料には、硫黄系加硫剤またはアミン系架橋剤を使用することが好ましい。
【0028】
〔樹脂層20〕
上記樹脂層20は、熱可塑性樹脂を主成分とする。なお、本発明において、主成分とは、材料の過半を占める成分であり、材料全体が主成分のみからなる場合も含む。
【0029】
上記熱可塑性樹脂は、燃料低透過性(燃料バリア性)の観点から、テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオライド共重合体(THV)、エチレンビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)、ポリアミド12等が好ましい。これらは、1種を単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらのなかでもPFAが好ましく、PFAの中でも特にテトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)−クロロトリフルオロエチレン共重合体(CPT)が好ましい。
【0030】
〔中間層30〕
本発明の燃料ホースにおいては、中間層30は任意であるが、樹脂層20と外層40との接着性の点から、中間層30を設けることが好ましい。
【0031】
上記中間層30は樹脂層20と外層40との接着層としての役割を果たすことから、ゴム層が好ましい。このゴム層を形成するゴムとしては、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド共重合ゴム(ECO)が好ましく用いられる。
【0032】
なお、上記中間層30となるゴム層にも、上記ゴム層1と同様の添加剤(加硫剤、架橋剤、加硫促進剤等)を適宜添加することができる。
【0033】
〔外層40〕
上記外層40は、上記中間層30の外周面に形成された補強糸層41と、この補強糸層41の外周面に形成されたゴム層42(最外層)とからなる。
【0034】
(補強糸層41)
上記補強糸層41を形成するための補強糸としては、ナイロン(ポリアミド)補強糸、芳香族ポリアミド(アラミド)繊維、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル繊維、ナイロン6,ナイロン66等のナイロン(ポリアミド)繊維、ポリビニルアルコール(ビニロン)繊維からなる糸があげられる。これらは単独であるいは二種以上併せて用いられる。これらのなかでも、耐久性、耐圧性の観点から、芳香族ポリアミド(アラミド)繊維やポリビニルアルコール(ビニロン)繊維からなる補強糸が好適に用いられる。
【0035】
上記補強糸の編み組み方法は、例えば、スパイラル巻き、ブレード編み、ニッティング編み等があげられる。
【0036】
上記補強糸層41を構成する補強糸の編角は、45〜55°である。
【0037】
(ゴム層42)
上記ゴム層42は、燃料ホースの最外層を構成する。上記ゴム層42を形成するゴムとしては、例えば、エピクロルヒドリン重合ゴム(CO)、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド共重合ゴム(ECO)、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル共重合ゴム(GECO)等があげられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
なお、上記ゴム層42にも、上記ゴム層1と同様の添加剤(加硫剤、架橋剤、加硫促進剤等)を適宜添加することができる。
【0039】
ここで、本発明の燃料ホースは、以下の特性(1)〜(3)を備えることが最大の特徴である。
【0040】
(1)内層10の力学的損失(Tanδ)
上記内層10の力学的損失(Tanδ)は、0.3〜1.2であり、好ましくは0.5〜1.2である。内層10の力学的損失(Tanδ)が低すぎると、脈動低減性が悪くなる傾向にある。
【0041】
上記力学的損失(Tanδ)は、例えば、JIS K 6394に準拠して測定することができる。
【0042】
(2)ホース外径変化率
ホース内圧を1MPa昇圧した際のホース外径変化率は10%以下であり、好ましくは7%以下である。ホース外径変化率が高すぎると、耐久性が悪くなる。
【0043】
上記ホース外径変化率は、例えば、JIS K 6330−2 2013 7.2加圧寸法変化試験に準拠して、具体的には、後述の図2に示す試験装置を用いて測定することができる。
【0044】
(3)ホース容積変化率
ホース内圧を1MPa昇圧した際のホース容積変化率は15%以上であり、好ましくは20%以上である。ホース容積変化率が低すぎると、脈動低減性が悪くなる。
【0045】
上記ホース容積変化率は、例えば、後述の図2に示す試験装置を用いて測定することができる。
【0046】
また、本発明において、上記内層10の少なくとも1つのゴム層は、柔らかさの観点から、室温(25℃)雰囲気下における引張応力(M100)が5.0MPa以下であることが好ましく、特に好ましくは4.0MPa以下である。
【0047】
上記引張応力(M100)は、例えば、JIS K 6251に準拠して測定することができる。
【0048】
つぎに、本発明の燃料ホースの製法について具体的に説明する。先ず、内層10のゴム層1用材料およびゴム層2用材料をそれぞれ調製する。同様に、中間層30のゴム層用材料、外層40のゴム層42用材料をそれぞれ調製する。つぎに、上記内層10のゴム層1用材料およびゴム層2用材料を押し出し成形して、ゴム層1の表面にゴム層2を形成する。続いて、上記ゴム層2の表面に、樹脂層20用材料および中間層30用材料をそれぞれ押し出し成形して、樹脂層20の表面に中間層30を形成する。つぎに、上記中間層30の表面に補強糸をスパイラル状に巻き付けて、補強糸層41を形成する。続いて、上記補強糸層41の表面に、上記ゴム層42用材料を押し出し成形して、最外層となるゴム層42を形成する。その後、必要に応じて加硫および二次加硫を行う。このようにして、これら各材料を押出成形機を用いて連続的に押出成形することによりゴム層1(最内層)およびゴム層2からなる内層10と、樹脂層20と、中間層30と、補強糸層41およびゴム層42(最外層)からなる外層40とが順次形成されてなる、燃料ホースを製造することができる。また、これらホースをマンドレルに挿入し、例えば160℃×1時間にてスチーム加硫した。なお、上記製法では、ゴム層1用材料とゴム層2用材料とを同時押し出したが、同時押し出しに限定されず、まずゴム層1用材料を押し出してゴム層1を形成し、次にゴム層2用材料を押し出してゴム層1の表面にゴム層2を形成してもよい。
【0049】
本発明の燃料ホースにおける各層の厚みは、以下の通りである。上記内層10の厚みは、0.5〜3mmが好ましく、特に好ましくは0.5〜1.5mmである。上記樹脂層20の厚みは、0.05〜1mmが好ましく、特に好ましくは0.05〜0.3mmである。上記中間層30の厚みは、通常、0.5〜1.5mmであり、好ましくは0.5〜1.0mmである。上記補強糸層41の厚みは、0.1〜1.0mmが好ましく、特に好ましくは0.1〜0.3mmである。上記ゴム層42の厚みは、0.5〜2.0mmが好ましく、特に好ましくは0.5〜1.0mmである。
【0050】
また、本発明の燃料ホースの内径は、通常、2〜25mmであり、好ましくは5〜15mmであり、外径は、通常、5〜35mmであり、好ましくは10〜25mmである。
【0051】
なお、本発明の燃料ホースは、上記図1に示した構造に限定されるものではなく、内層10は少なくとも1つのゴム層を備えていればよく、2層に限定されるものではない。また、外層40も補強糸層41とゴム層42とを備えていればよく、補強糸層41とゴム層42との間に別のゴム層を形成したり、補強糸層41の内周側にゴム層を形成したり、ゴム層42の外周側に別のゴム層を形成することも可能である。さらに、中間層30は、前述した通り省略することも可能である。
【実施例】
【0052】
つぎに、本発明の実施例(参考例1を含む)について比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0053】
〔実施例1〕
(内層用ゴム組成物の調製)
フッ素ゴム(FKM)(ダイキン工業社製、ダイエルG−555)100重量部と、カーボンブラック(東海カーボン社製、シーストS)15重量部と、MgO(協和化学工業社製、協和マグ♯150)3重量部と、CaO(近江化学社製、CAL−Z)6重量部とを、ニーダーおよびロールで混練りして、内層用ゴム組成物を調製した。
【0054】
(樹脂層用材料)
テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)−クロロトリフルオロエチレン共重合体(CPT)(ダイキン工業社製、ネオフロンCPT LP−1000)のペレットを準備した。
【0055】
(中間層用ゴム組成物の調製)
NBR(日本ゼオン社製、ニポールDN003、AN量:50)100重量部と、硫黄(鶴見化学工業社製、金華印粉砕硫黄)1重量部と、DBUナフトエ酸塩(ダイソー社製、DA−500)1重量部と、酸化マグネシウム(協和化学工業社製、キョーワマグ150)10重量部と、ステアリン酸(日本油脂社製、ビーズステアリン酸さくら)1重量部と、カーボンブラック(キャボットジャパン社製、ショウブラックN330)45重量部と、塩基性シリカ(DSLジャパン社製、カープレックス1120)25重量部と、エーテルエステル系可塑剤(ADEKA社製、アデカサイザーRS107)25重量部と、スルフェンアミド系加硫促進剤〔N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(OBS)〕(大内新興化学工業社製、ノクセラーMSA)1重量部と、加硫剤サルファックスT−10(鶴見化学工業社製)1重量部とを配合し、これらをバンバリーミキサーおよびロールで混練りして、中間層用ゴム組成物を調製した。
【0056】
(外層用ゴム組成物の調製)
エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル共重合ゴム(GECO)(ダイソー社製、エピクロマーCG)100重量部と、カーボンブラック(シーストSO、東海カーボン社製)50重量部と、可塑剤(アデカサイザーRS107、旭電化工業社製)5重量部と、老化防止剤(ノクラックNBC、大内新興化学社製)1重量部と、加工助剤(エマスター510P、理研ビタミン社製)3重量部と、DBUのナフトエ酸塩(DA500、ダイソー社製)1重量部と、受酸剤(DHT−4A、協和化学工業社製)3重量部と、加硫剤(サンセラー22C、三新化学社製)1重量部と、素練り促進剤(ノクタイザーSS、大内新興化学社製)1.2重量部と、加硫剤(サルファックスT−10、軽井沢精錬所社製)0.1重量部とを、オープンロールあるいはニーダー等の密閉式混合機を用いて混練することにより、外層用ゴム組成物を調製した。
【0057】
(燃料ホースの作製)
上記内層用ゴム組成物を押し出し成形して内層を形成した後、その外周面に樹脂層用材料、および中間層用ゴム組成物をそれぞれ押し出し成形した。つぎに、その表面にパラ系芳香族ポリアミドフィラメント糸〔繊度:1000デニール(単糸)〕を、所定の編組角でブレード編みし補強糸層を形成した。続いて、上記補強糸層の表面に、上記外層用ゴム組成物を押し出し成形した。その後、加硫を行った。このようにして、厚み1.0mmの管状の内層(ゴム層)、厚み0.1mmの樹脂層、厚み0.6mmの中間層(ゴム層)、外層(厚み1.0mmの補強糸の編組角50°)が順次形成されてなる、長さ400mmの燃料ホース(内径7.5mm)を作製した。
【0058】
参考
内層用ゴム組成物、樹脂層用材料、中間層用ゴム組成物、補強糸、および外層用ゴム組成物は、実施例1と同じ材料を使用した。そして、補強糸の編組角度を変更した以外は、実施例1と同様にして、燃料ホースを作製した。
【0059】
〔実施例3〕
内層材の力学的損失(Tanδ)を変更するため、以下のようにして調製した内層用ゴム組成物を使用した以外は、実施例1と同様にして、燃料ホースを作製した。
【0060】
(内層用ゴム組成物の調製)
NBR(日本ゼオン社製、ニポールDN003、AN量:50)100重量部と、硫黄(鶴見化学工業社製、金華印粉砕硫黄)1重量部と、DBUナフトエ酸塩(ダイソー社製、DA−500)1重量部と、酸化マグネシウム(協和化学工業社製、キョーワマグ150)10重量部と、ステアリン酸(日本油脂社製、ビーズステアリン酸さくら)1重量部と、カーボンブラック(キャボットジャパン社製、ショウブラックN330)45重量部と、塩基性シリカ(DSLジャパン社製、カープレックス1120)25重量部と、エーテルエステル系可塑剤(ADEKA社製、アデカサイザーRS107)25重量部と、スルフェンアミド系加硫促進剤〔N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(OBS)〕(大内新興化学工業社製、ノクセラーMSA)1重量部と、加硫剤サルファックスT−10(鶴見化学工業社製)1重量部とを配合し、これらをバンバリーミキサーおよびロールで混練りして、内層用ゴム組成物を調製した。
【0061】
〔実施例4〕
内層材の力学的損失(Tanδ)を変更するため、以下のようにして調製した内層用ゴム組成物を使用した以外は、実施例1と同様にして、燃料ホースを作製した。
【0062】
(内層用ゴム組成物の調製)
NBR(日本ゼオン社製、ニポールDN003、AN量:50)100重量部と、硫黄(鶴見化学工業社製、金華印粉砕硫黄)1重量部と、DBUナフトエ酸塩(ダイソー社製、DA−500)1重量部と、酸化マグネシウム(協和化学工業社製、キョーワマグ150)10重量部と、ステアリン酸(日本油脂社製、ビーズステアリン酸さくら)1重量部と、カーボンブラック(キャボットジャパン社製、ショウブラックN330)40重量部と、塩基性シリカ(DSLジャパン社製、カープレックス1120)20重量部と、エーテルエステル系可塑剤(ADEKA社製、アデカサイザーRS107)25重量部と、スルフェンアミド系加硫促進剤〔N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(OBS)〕(大内新興化学工業社製、ノクセラーMSA)1重量部と加硫剤サルファックスT−10(鶴見化学工業社製)1.2重量部とを配合し、これらをバンバリーミキサーおよびロールで混練りして、層用ゴム組成物を調製した。
【0063】
〔実施例5〕
内層材の力学的損失(Tanδ)を変更するため、以下のようにして調製した内層用ゴム組成物を使用した以外は、実施例1に準じて、燃料ホースを作製した。
【0064】
(内層用ゴム組成物の調製)
フッ素ゴム(FKM)(ダイキン工業社製、ダイエルG−555)100重量部と、硫酸バリウム(竹原化学工業社製、W−1)15重量部と、MgO(協和化学工業社製、協和マグ♯150)3重量部と、CaO(近江化学社製、CAL−Z)6重量部とを、ニーダーおよびロールで混練りして、内層用ゴム組成物を調製した。
【0065】
〔実施例6〕
内層用ゴム組成物、樹脂層用材料、中間層用ゴム組成物、補強糸、および外層用ゴム組成物は、実施例1と同じ材料を使用した。そして、補強糸の編組角度を変更した以外は、実施例1と同様にして、燃料ホースを作製した。
【0066】
〔比較例1〕
内層と中間層との間に樹脂層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして、燃料ホースを作製した。
【0067】
〔比較例2〕
導電性ETFE(cond-ETFE)層の表面にETFE層が形成され、さらにその表面にPA層が形成されてなる燃料ホースを作製した。すなわち、導電無水カルボン酸変性ETFE(旭硝子社製、フルオンAH−3000)、ETFE(旭硝子社製、フルオンAH−2000)、およびPA12(エボニック社製、LX9011)を押し出し成形して、3層(導電性ETFE層/ETFE層/PA12層)構造の燃料ホースを作製した。
【0068】
〔比較例3〕
内層用ゴム組成物、樹脂層用材料、中間層用ゴム組成物、補強糸、および外層用ゴム組成物は、実施例1と同じ材料を使用した。そして、補強糸の編組角度を変更した以外は、実施例1と同様にして、燃料ホースを作製した。
【0069】
〔比較例4〕
内層材の力学的損失(Tanδ)を変更するため、以下のようにして調製した内層用ゴム組成物を使用し、かつ、補強糸の編組角度を変更した以外は、実施例1と同様にして、燃料ホースを作製した。
【0070】
(内層用ゴム組成物の調製)
NBR(日本ゼオン社製、ニポールDN003、AN量:50)100重量部と、硫黄(鶴見化学工業社製、金華印粉砕硫黄)1重量部と、DBUナフトエ酸塩(ダイソー社製、DA−500)1重量部と、酸化マグネシウム(協和化学工業社製、キョーワマグ150)10重量部と、ステアリン酸(日本油脂社製、ビーズステアリン酸さくら)1重量部と、カーボンブラック(キャボットジャパン社製、ショウブラックN330)35重量部と、塩基性シリカ(DSLジャパン社製、カープレックス1120)15重量部と、エーテルエステル系可塑剤(ADEKA社製、アデカサイザーRS107)25重量部と、スルフェンアミド系加硫促進剤〔N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(OBS)〕(大内新興化学工業社製、ノクセラーMSA)1重量部と加硫剤サルファックスT−10(鶴見化学工業社製)1.5重量部とを配合し、これらをバンバリーミキサーおよびロールで混練りして、層用ゴム組成物を調製した。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
≪評価≫
実施例および比較例の各燃料ホースを用いて、下記の基準に従い、各特性の評価を行った。その結果を、上記表1および表2に併せて示した。
【0074】
〔内層の力学的損失(Tanδ)および引張応力(M100)〕
JIS K6394に準拠して、室温雰囲気下(25℃)における内層の力学的損失(Tanδ)を測定した。また、引張応力(M100)は、JIS K 6251に準拠して測定した。
【0075】
〔ホース外径変化率およびホース容積変化率の測定〕
図2は、ホース外径変化率およびホース容積変化率を測定するための試験装置を示す。100はサンプルホース、101は恒温槽、102,103はバルブ、104,105はパイプ、106はポンプ、107はメスシリンダーを示す。
【0076】
サンプルホース100は、実施例および比較例の各燃料ホース(長さ400mm)を、長さ200mmに切断して作製した。サンプルホース100の両端に、バルブ102,103を介して、パイプ104,105をそれぞれ挿入した(パイプ挿入長25mm)。サンプルホース100を恒温槽101内にセットし、室温(18℃)で1時間放置した。
【0077】
(ホース外径変化率)
バルブ102およびバルブ103を開け、サンプルホース100内のエア抜きを行った。エア抜き後、バルブ103を閉じ、ポンプ106で任意の圧力まで加圧した(評価圧力:200KPa毎に昇圧、MAX:1MPa、加圧媒体:LLC)。加圧状態で30秒間保持後のホース外径(r1)を測定した。下記の式より、ホース外径変化率を計算した。なお、サンプルホース100を加圧する前のホース外径の初期値をr0とした。
ホース外径変化率(%)={(r1−r0)/r0}×100
【0078】
(ホース容積変化率)
バルブ102を閉じ、バルブ103を開け、サンプルホース100からの吐出量をメスシリンダー107で測定した。下記の式より、ホース容積変化率を計算した。なお、加圧時吐出量をV、サンプルホース100を加圧する前のホース初期容量をV0とした。
ホース容積変化率(%)=(ΔV/V0)×100
【0079】
〔脈動低減性〕
図3は、燃料ホースの脈動低減性を評価するための試験装置を示す。100はサンプルホース、110はクイックコネクタ、111は燃料ポンプ、112はレギュレーター、113はインジェクタ、114はパイプを示す。
【0080】
サンプルホース100は、実施例および比較例の各燃料ホース(長さ400mm)を、長さ200mmに切断して作製した。そして、以下の手順により、ΔPを算出した。評価は、ΔPが100KPaを超えるものを×、95KPa以上100KPa以下のものを△、95KPa未満のものを○とした。
【0081】
(測定条件)
インジェクタ周期:120msec(1000rpm想定)
インジェクタ開弁時間:6(msec)
評価温度:室温(25℃)
測定部位:インジェクタ部の燃圧(P)を測定
試験流体:シェルゾール
【0082】
(1)サンプルホース100を、図3に示すように組み付け、室温(25℃)で1時間放置して、エア抜きを行う。
(2)燃料ポンプ111内の油温(約50℃でサチレート)が一定になるまで、30分程度保持する。
(3)インジェクター113開弁時間を6secに設定する。
(4)測定結果のグラフから、ピーク−ピークを読み取り、以下の式によりΔPを算出する。
ΔP(KPa)=Pmax−Pmin
【0083】
〔燃料低透過性(燃料バリア性)〕
評価試験用ガソリンとして、Fuel C(トルエン/イソオクタン=50/50(容量%))100容量部にエタノール10容量部を混合した混合燃料(FC/E10)を、両端をシール状態で密栓したホースに封入して、40℃で1000時間放置して安定化し、その後、内容物(混合燃料)を排出して新規な混合燃料(FC/E10)を再度封入した後、所定の温度サイクル環境に放置し、24時間毎に燃料透過量を測定した。評価は、50(mg/test)以下のものを○、50(mg/test)を超えるものを×とした。
【0084】
〔耐久性〕
各燃料ホースを用いて、JIS−K−6330−8(1998)によるインパルス耐久試験を行なった。試験温度は80℃、試験圧力は1MPaとし、評価は繰返し加圧回数100万回にて異常のないものを○、破裂又は漏れ等の異常が生じたものを×とした。
【0085】
上記表1および表2の結果から、実施例1,3〜6は、内層の力学的損失(Tanδ)が0.3〜1.2で、ホース外径変化率が10%以下で、ホース容積変化率が15%以上であるため、比較例1〜4に比べて、脈動低減性、燃料低透過性(燃料バリア性)および耐久性に優れていた。
【0086】
これに対して、比較例1は、内層と中間層との間に樹脂層を形成していないため、燃料低透過性(燃料バリア性)が劣っていた。
【0087】
比較例2は、ホース容積変化率が15%未満であるため、脈動低減性が劣っていた。
【0088】
比較例3は、ホース外径変化率が10%を超えるため、耐久性が劣っていた。
【0089】
比較例4は、内層の力学的損失(Tanδ)が0.3未満であるため、脈動低減性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の燃料ホースは、燃料噴射システムに使用することができる。
【符号の説明】
【0091】
1 ゴム層
2 ゴム層
10 内層
20 樹脂層
40 外層
41 補強糸層(補強糸)
42 ゴム層
図1
図2
図3