特許第6267090号(P6267090)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6267090運搬車両の走行停止制御装置およびそれを備えた運搬車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6267090
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】運搬車両の走行停止制御装置およびそれを備えた運搬車両
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/172 20060101AFI20180115BHJP
   G05D 3/12 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   B60T8/172 A
   G05D3/12 Z
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-199418(P2014-199418)
(22)【出願日】2014年9月29日
(65)【公開番号】特開2016-68726(P2016-68726A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年1月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】特許業務法人 武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】一野瀬 昌則
(72)【発明者】
【氏名】田中 航
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 真二郎
【審査官】 谷口 耕之助
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−77871(JP,A)
【文献】 特開2011−185206(JP,A)
【文献】 特開2014−123199(JP,A)
【文献】 特開2007−030581(JP,A)
【文献】 特開2007−077871(JP,A)
【文献】 特開2012−116360(JP,A)
【文献】 特開2010−221993(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/172
G05D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運搬車両の目標速度と実速度と基づき、前記運搬車両のトルク指令値を設定するトルク指令値設定部と、
前記運搬車両の状態に関する情報に基づき、前記トルク指令値の上限閾値を設定する閾値設定部と、
前記運搬車両の走行停止を決定する走行停止決定部と、を有し、
前記走行停止決定部は、前記トルク指令値が前記上限閾値を超え、かつ、前記運搬車両の実速度がゼロまたはその近傍であることを条件に、前記運搬車両の走行停止を決定することを特徴とする運搬車両の走行停止制御装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記閾値設定部は、前記運搬車両の状態に関する情報である前記運搬車両の傾きに応じて、前記上限閾値を異なる値に設定することを特徴とする運搬車両の走行停止制御装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記閾値設定部は、前記運搬車両の傾きが前傾姿勢の場合における前記上限閾値を、前記運搬車両の傾きが後傾姿勢の場合における前記上限閾値より大きい値に設定することを特徴とする運搬車両の走行停止制御装置。
【請求項4】
請求項2において、
前記閾値設定部は、前記運搬車両に設けられ、当該運搬車両の傾きを検出する傾斜センサからの入力に基づいて、前記運搬車両の傾きを判定することを特徴とする運搬車両の走行停止制御装置。
【請求項5】
請求項2において、
前記閾値設定部は、前記運搬車両に設けられ、当該運搬車両のサスペンションの圧力を検出する圧力センサからの入力に基づいて、前記運搬車両の傾きを判定することを特徴とする運搬車両の走行停止制御装置。
【請求項6】
請求項1において、
前記走行停止決定部は、前記運搬車両の実速度がゼロまたはその近傍の状態が所定時間継続した場合に前記運搬車両の走行停止を決定することを特徴とする運搬車両の走行停止制御装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかの運搬車両の走行停止制御装置を備えた運搬車両。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運搬車両の走行停止制御装置およびそれを備えた運搬車両に関する。
【背景技術】
【0002】
露天掘り鉱山等では、掘削された鉱石や土砂を搬送するためにダンプトラック等の運搬車両が走行している。運搬車両は、積込場において運搬物を荷台に積載し、積載した運搬物を放土場まで運んで放土(排出)する。放土場には、運搬車両が走行領域外へ移動することを規制するための車止めが配置されている。また、駐機場においても、安全の面から、運搬車両用の車止めが設けられている。運搬車両が車止めに接触した際に、運搬車両を安全に停止させることは重要である。特に、運搬車両が無人で走行する鉱山等においては、その重要度は高い。
【0003】
車止めで車両を停止させる技術として、特許文献1が公知である。この特許文献1には、「停止制御部には、4輪の前後方向に作用する力を検出する力検出センサが接続され、進行方向車輪の前後方向に作用する力の停止させる方向の力上昇の変化量が予め設定した閾値を超え、且つ進行方向車輪の前後方向に作用する力の停止させる方向への大きさが予め設定した値を超える時に進行方向車輪が車止め部材に衝突したと判定する。また、進行方向車輪の前後方向に作用する力の停止させる方向への大きさが予め設定した値を超え、且つ進行方向車輪の前後方向に作用する力と進行方向とは逆側車輪の前後方向に作用する力の方向が逆方向の場合に進行方向車輪が車止め部材を乗り越えようとすると判定する。」という内容が記載されている(要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−96191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、車両と車止めとの接触を力検出センサ等の接触判定に用いられるセンサで検出しているため、力検出センサが故障した場合、障害物との接触を適切に検知できず、車両を停止させられない可能性がある。
【0006】
本発明は、上記した実状に鑑みてなされたもので、接触判定に用いられるセンサがないまたは故障した場合でも運搬車両が車止めに接触した際に運搬車両を停止させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る運搬車両の走行停止制御装置は、運搬車両の目標速度と実速度と基づき、前記運搬車両のトルク指令値を設定するトルク指令値設定部と、前記運搬車両の状態に関する情報に基づき、前記トルク指令値の上限閾値を設定する閾値設定部と、前記運搬車両の走行停止を決定する走行停止決定部と、を有し、前記走行停止決定部は、前記トルク指令値が前記上限閾値を超え、かつ、前記運搬車両の実速度がゼロまたはその近傍であることを条件に、前記運搬車両の走行停止を決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、接触判定に用いられるセンサがないまたは故障した場合でも運搬車両が車止めに接触した際に運搬車両を停止させることができる。なお、上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】鉱山内の概略構成を示す図。
図2図1に示す放土場におけるダンプトラックの走行経路を示す図。
図3】管制サーバ及びダンプトラックのハードウェア構成図であって、(a)は管制サーバ、(b)はダンプトラックを示す。
図4】管制サーバの主な機能を示す機能ブロック図。
図5】管制サーバに記憶される経路データの一例を示す図であって、(a)は経路データを模式的に示し、(b)は経路データのデータ構造例を示す。
図6】ダンプトラックの全体構成を示す側面図。
図7】ダンプトラックの内部構成を示すブロック図。
図8】ダンプトラックが凸形状の車止め(bund)に接触して停止した後に積荷を放土している状態を示す図。
図9】駐機場において、後輪が凹形状の車止めに嵌った状態でダンプトラックが停止している状態を示す図。
図10】(a)ダンプトラックが車止めに近づく際の走行位置と走行速度指令値の関係を示す図、(b)ダンプトラックが車止めに近づく際の走行位置とトルク指令値の関係を示す図。
図11】第1実施形態において、ダンプトラックを車止めで停止させるための処理手順を示すフローチャート図。
図12】第2実施形態において、ダンプトラックを車止めで停止させるための処理手順を示すフローチャート図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面等を用いて、本発明の実施形態について説明する。以下の説明は本発明の内容の具体例を示すものであり、本発明がこれらの説明に限定されるものではなく、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更および修正が可能である。また、本発明を説明するための全図において、同一の機能を有するものは、同一の符号を付け、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0011】
「第1実施形態」
図1及び図2を参照して、本実施形態に係る走行停止制御装置を搭載した運搬車両としての鉱山用ダンプトラック(以下「ダンプ」と略記する)が走行する鉱山内の概略構成について説明する。図1は鉱山内の概略構成を示す図、図2は放土場におけるダンプの走行経路を示す図である。
【0012】
図1に示すように、鉱山内では、積込場61及び放土場62を接続する走行経路60が設けられる。積込場61では土砂や鉱石の積込作業を行うショベル10が掘削作業を行う。そして、ダンプ20−1、20−2は、積込場61においてショベル10から土砂や鉱石等の積荷を積込まれ、走行経路60に沿って放土場62に向かって自律走行する。ダンプ20−1、20−2は、放土場62に到着すると積荷を放土する。以下の説明では、ダンプ20−1、20−2を区別しない場合は、ダンプ20と記載する。
【0013】
放土場62では、図2に示すように、ダンプ20は、走行経路60上を自律走行し、切り返し地点KBPにおいて進行方向を前進から後退に切り替えて、地図情報に基づく目標位置TPまで後退し、最終的には車止め400が設けられた目標停止位置SPまで移動して停止する。その後、ダンプ20は放土作業を行い、空荷の状態で積込場61に向けて走行する。目標位置TPから目標停止位置SPまでのダンプ20の走行は、外界センサ231(図3等参照)からのセンサ情報に基づいて制御されている。
【0014】
ダンプ20−1、20−2は管制センタ30に設置された管制サーバ31に無線通信回線40を介して通信接続される。そして、ダンプ20−1、20−2は管制サーバ31からの管制制御に従って走行する。図1の符号32は、管制サーバ31に接続される無線アンテナであり、符号41−1、41−2、41−3は無線移動局を示す。
【0015】
ダンプ20は、全地球航法衛星システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)の少なくとも3つの航法衛星50−1、50−2、50−3から測位電波を受信して自車両の位置を取得するための位置算出装置(図1では図示を省略する)を備える。GNSSとして広く普及しており米国が運営するGPSの他、ロシアが運営するGLONASS、EUが運営するGALILEOなどを用いてもよい。
【0016】
管制サーバ31は、すべてのダンプ20−1、20−2の走行位置や目標経路、鉱山の操業目標や操業効率などを考慮して、管制サーバ31から見て、各ダンプ20−1、20−2に走行時に適用させたい車速(スカラー量)である管制要求車速を算出(決定)し、それを各ダンプ20−1、20−2に通知することができる。
【0017】
次に図3を参照して、図1の管制サーバ31及びダンプ20の電気的構成について説明する。図3は、管制サーバ及びダンプ20のハードウェア構成図であって、(a)は管制サーバ、(b)はダンプを示す。
【0018】
図3の(a)に示すように、管制サーバ31は、CPU311、RAM(Random Access Memory)312、ROM(Read Only Memory)313、HDD(Hard Disk Drive)314、I/F315、バス318を含む。そして、CPU311、RAM312、ROM313、HDD314、及びI/F315がバス318を介して接続されて構成される。
【0019】
更に、管制サーバ31は、LCD(Liquid Crystal Display)316、操作部317を備え、これらがI/F315に接続される。
【0020】
CPU311は演算部であり、管制サーバ31全体の動作を制御する。
【0021】
RAM312は、情報の高速な読み書きが可能な揮発性の記憶媒体であり、CPU311が情報を処理する際の作業領域として用いられる。
【0022】
ROM313は、読み出し専用の不揮発性記憶媒体であり、本実施形態の特徴をなす自律走行制御プログラムが格納されている。
【0023】
HDD314は、情報の読み書きが可能な不揮発性の記憶媒体であり、OS(Operating System)や各種の制御プログラム、アプリケーション・プログラム等が格納されている。
【0024】
LCD316は、ユーザが鉱山内のダンプの走行状況を確認するための視覚的利用者インターフェースである。
【0025】
操作部317は、キーボードやLCD316に積層されたタッチパネル(図示を省略)等、ユーザが管制サーバ31に情報を入力するための利用者インターフェースである。
【0026】
管制サーバ31のI/F315には、無線通信回線40に接続するためのサーバ側通信装置340が接続される。
【0027】
一方、ダンプ20は、図3の(b)に示すように自律走行のための制御処理を行う走行制御装置200と、走行制御装置200からの制御指示に従ってダンプ20を走行駆動するための走行駆動装置210と、ダンプ20の自車両の予測位置を算出するための位置算出装置220と、ダンプ20の周辺環境を認識するためのレーザセンサ等の外界センサ231と、車体傾斜や積載量などの車体情報(ダンプ20の状態に関する情報)の認識に用いるための車体センサ232(232a,b,c)と、無線通信回線40に接続するためのダンプ側通信装置240と、を備える。
【0028】
走行駆動装置210は、ダンプ20に対して制動をかける制動装置211、ダンプ20の操舵角を変更するための操舵モータ212、及びダンプ20を走行させるための走行モータ213を含む。
【0029】
位置算出装置220は、航法衛星50−1、50−2、50−3からの測位電波を受信して自車両の予測位置を算出するGPS装置や、IMUである。
【0030】
走行制御装置200は、CPU201、RAM202、ROM203、HDD204、I/F205、及びバス208を含む。そして、CPU201、RAM202、ROM203、HDD204、及びI/F205がバス208を介して接続されて構成される。更に、走行駆動装置210、位置算出装置220、外界センサ231、車体センサ232、及びダンプ側通信装置240が、I/F205に接続される。
【0031】
このようなハードウェア構成において、ROM203、313やHDD204、314若しくは図示しない光学ディスク等の記録媒体に格納された自律走行制御プログラムがRAM202、312に読み出され、CPU201、311の制御に従って動作することにより、自律走行制御プログラム(ソフトウェア)とハードウェアとが協働して、管制サーバ31及び走行制御装置200の機能を実現する機能ブロックが構成される。なお、本実施形態では、管制サーバ31及び走行制御装置200の構成をソフトウェアとハードウェアとの組み合わせにより説明したが、特にダンプ20は、ダンプ側で実行される自律走行制御プログラムの機能を実現する論理回路を用いて構成してもよい。
【0032】
次に図4乃至図5を参照して、管制サーバ31の機能構成について説明する。図4は、管制サーバの主な機能を示す機能ブロック図である。図5は、管制サーバに記憶される経路データの一例を示す図であって、(a)は経路データを模式的に示し、(b)は経路データのデータ構造例を示す。
【0033】
図4に示すように、管制サーバ31は、走行許可区間設定部311a、管制要求車速決定部311b、サーバ側通信制御部311c、経路データ記憶部314a、及び運行管理情報データベース(以下データベースを「DB」と略記する)314bを備える。走行許可区間設定部311a、管制要求車速決定部311b、及びサーバ側通信制御部311cは、管制サーバ31で実行される自律走行制御プログラムにより構成される。
【0034】
経路データ記憶部314aは、HDD314など固定的に記憶する記憶装置を用いて構成される。図5の(a)に示すように、経路データは、走行経路60上の各地点(以下「ノード」という)22の位置情報と、各ノードを連結するリンク21とにより定義される。また、鉱山の地形情報や、各ノードの絶対座標(測位電波を基に算出される3次元実座標)を含んでもよい。各ノードには、そのノードを固有に識別する識別情報(以下「ノードID」という)が付与される。
【0035】
各リンクは進行方向(図5の(a)における矢印A方向)を持ち、先端ノードと終端ノードとが定義されている。そして図5の(b)に示すように、経路データは各リンクを固有に識別する識別情報であるリンクID(例えば21A)と、そのリンクの先端ノードIDの座標値(X22A,Y22A)および終端ノードIDの座標値(X22B,Y22B)、そのリンクを走行する際の経路要求車速V21A、道幅W21A、勾配S21A、曲率C21Aのデータとを関連付けている。
【0036】
経路要求車速は、その経路の勾配、曲率、道幅などの道路仕様などから決定される。この経路要求車速は、ダンプ20が実際に走行する際の目標車速の候補となる。
【0037】
運行管理情報DB314bは、走行経路60を走行している各ダンプの位置を示す運行管理情報を格納する。
【0038】
走行許可区間設定部311aは、各ダンプ20から送信される走行許可要求情報に応じて、当該ダンプ20に対して次の走行許可区間を設定する。具体的には、運行管理情報DB314bの運行管理情報を参照して当該ダンプ20の前方を走行している他のダンプの位置を取得する。次に、経路データ記憶部314aの経路データを参照し、走行経路60上におけるダンプ20の前方を走行する他のダンプの現在位置から、少なくとも制動をかけて停止するために必要な距離(停止可能距離)後方の地点に、新たに設定する走行許可区間の前方境界地点を設ける。更に、当該ダンプ20の現在位置よりも停止可能距離分離れた位置に後方境界地点を設定する。そして、前方境界地点及び後方境界地点の間を、走行許可要求を出したダンプ20に対して付与する新たな走行許可区間として設定する。
【0039】
管制要求車速決定部311bは、管制要求車速を決定する。具体的には、管制要求車速決定部311bは、経路データ記憶部314aから経路データを読み出して、運行管理情報D314bに記憶された運行情報を参照し、ダンプ20に対して設定された新たな走行許可区間に含まれるリンクに対応付けられている経路要求車速と、ダンプ20の前方車両との距離、交通混雑の状態とを考慮して、管制要求車速を決定する。通常、最大管制要求車速は、経路データにおいてリンクに対応づけられている車速であり、交通渋滞の場合はそれよりも遅い車速が管制要求車速として決定される。管制要求車速は、走行許可区間設定部311aに出力される。
【0040】
走行許可区間設定部311aは、設定した新たな走行許可区間の前方境界点、後方境界点、及び管制要求車速を示す走行許可応答情報を生成し、サーバ通信制御部311cに出力する。
【0041】
サーバ通信制御部311cは、各ダンプ20の走行許可要求情報の受信、及びその要求に応じて生成された走行許可応答情報を送信する制御を行う。
【0042】
次に、ダンプ20の全体構成及びダンプ20の自律走行に係る機能構成について説明する。図6はダンプ20の全体構成を示す側面図、図7はダンプ20の機能構成を示すブロック図である。
【0043】
図6に示すように、ダンプ20は、車体フレーム840の前方及び後方に取り付けられた前輪810及び後輪820と、車体フレーム840上に支持軸860を介して回動可能に支持された荷台830と、伸縮することで支持軸860を中心に荷台830を回動させるホイストシリンダ850と、ダンプ20が移動する際に車止め400(図8参照),1400(図9参照)を検知する外界センサ231と、ダンプ20の走行を制御する走行制御装置200と、車体の傾きを検知する傾斜センサ232a、サスペンションの圧力を検知する圧力センサ232b、車速を検知する車速センサ232cと、を備える。
【0044】
車体フレーム840には、駆動系や運転席等の主要構成要素が搭載されており、前輪810及び後輪820によって車両が走行面上を自由に走行可能な構成となっている。ホイストシリンダ850を伸長させると、荷台830は支持軸860を中心に回動しながら前端を上昇させて傾斜角度を増していくように動作し、荷台830の上に積載した積荷(運搬物)870を荷台830の後端から排出することが可能となっている(図8参照)。また、支持軸860には、車体フレーム840に対する荷台830の傾斜角度を検出する角度検出手段として、支持軸860の回転角を測定するポテンショメータ(ロータリーポテンショメータ)865が設置されている。符号875は、後輪820の後輪軸である。なお、図3(b)に示す走行駆動装置210、位置算出装置220、ダンプ側通信装置240は、図6において図示していない。
【0045】
走行制御装置200は、図7に示すように、走行する経路とそれに付随する情報を記録した経路データ記憶部204aと、経路データ記憶部204aから適切なデータを抽出する経路データ抽出部201cと、ダンプ20の停止位置を算出する停止位置算出部201dと、走行車速や操舵角、積載重量などの車体状態を認識する車体情報演算部201eと、自車の目標車速、トルク指令値、操舵量、目標経路などを決定し、走行の制御に必要な各種指令情報等を出力する行動指令部500と、現在走行中の走行許可区間の終端地点(前方境界点)に近づくと、次に走行する新たな走行許可区間の設定要求を行う走行許可要求部201hと、管制サーバ31との無線通信制御を行うダンプ側通信制御部201iと、を備える。なお、行動指令部500は、本発明の走行停止制御装置として機能する。
【0046】
経路データ記憶部204aは、ダンプ20が走行すべき経路を、両端にノードと呼ばれる点を備えたリンクの集合体として表現した経路データを記録する。また、リンクを指定すると、そのリンクに紐付けられたデータを抽出することができるよう、リンクIDとそれに付帯する付帯情報とが関連付けて構成されている。
【0047】
経路データ抽出部201cは、位置算出装置220にて算出された位置情報に基づき、その位置近傍の経路データを抽出する。経路データ抽出部201cは、抽出した経路データを行動指令部500に出力する。
【0048】
停止位置算出部201dは、レーザセンサなどの外界センサ231からの出力を基に、特にダンプ20の進行方向前方に位置する障害物(例えば前方車両、車止め400,1400など)の有無や形状を識別すると共に、その障害物が車止め400,1400の場合には、車止め400,1400の近辺に停車するための目標停止位置を算出する。そして、その算出結果を行動指令部500に出力する。即ち、本実施形態では、外界センサ231により車止め400,1400の形状を識別し、その識別情報に基づいて、ダンプ20を車止め400,1400まで後退させて停止するよう制御されている。
【0049】
図8及び図9を用いて説明を補足する。図8は、ダンプ20が凸形状の車止め400に接触して停止した後に積荷870を放土している状態を示す図であり、図9は、駐機場において、後輪820が凹形状(V形状)の車止め1400に嵌った状態でダンプ20が停止している状態を示す図である。これらの図のように、本実施形態では、外界センサ231から出力される情報に基づき、停止位置算出部201dが、車止め400,1400の位置にダンプ20を停止するように、目標停止位置を算出する。さらに、本実施形態では、外界センサ231とは別に車体センサ231(231a,b,c)を用いてダンプ20を停止させる制御も行われている(詳細後述)。なお、外界センサ231は、レーザセンサのほかに、ミリ波センサやステレオカメラなどを用いても良い。
【0050】
図7に戻り、走行許可要求部201hは、位置算出装置220から得られる自車両の位置情報と経路データ記憶部204aから読み出した経路データとを照合し、次の走行許可区間の設定を要求する走行許可要求情報を送信する地点(走行許可要求地点)に自車両が到達したかを判定し、到達した場合にはダンプ側通信制御部201iに対して走行許可要求情報を送信する。
【0051】
ダンプ側通信制御部201iは、管制サーバ31に対し、次の走行許可区間を要求するための走行許可要求情報を送信するとともに、管制サーバ31から、走行許可応答情報(管制要求車速情報を含む)を受信する制御を行う。
【0052】
車体情報演算部201eは、各種車体センサ232からの出力に基づいて、操舵角、走行車速、積載重量、車体の傾きなど、ダンプ20の車体状態を示す値を演算する。例えば車体情報演算部201eは、車体の傾きを検知する傾斜センサ232aからの出力を基に車体の傾きを演算し、操舵軸に取り付けられた回転角センサからの出力を基に操舵角を演算する。また車体情報演算部201eは、前輪810や後輪820の回転数を計測する車輪回転数センサ(以下、車速センサ)232cからの出力された回転数及びタイヤ仕様を基に走行車速を演算する。
【0053】
更に車体情報演算部201eは、各車輪に設置されたサスペンションの圧力を計測できる圧力センサ232bからの出力を基に積載重量及び車体の傾きを演算する。そして、車体情報演算部201eは、車体の傾きまたはサスペンション圧力のバランスから、車止めの形状を推定している。より詳細に説明すると、上述したように車止めの形状には大きく2つのパターンがあり、一方は図8に示すように凸形状の車止め400、他方は図9に示すように凹形状の車止め1400である。
【0054】
ダンプ20がバック走行(後退)しながら車止めに接触した場合を考える。ダンプ20が水平あるいはやや前側に傾いた姿勢(前傾姿勢)の場合、ダンプ20は凸部にあたってそれ以上後退できないか、それとも、ダンプ20が凸部を乗り越えようとして前側に傾いている可能性が高い。そのため、この場合における車止めの形状は凸形状である推定できる。一方、ダンプ20が後側に傾いた姿勢(後傾姿勢)の場合、後輪820が溝に嵌った可能性が高いため、この場合の車止めの形状は凹形状であると推定できる。
【0055】
このように車止めの形状を推定するために、本実施形態では、特別なセンサを用いるのではなく、従来から備えられている傾斜センサ232a及び圧力センサ232bの少なくとも一方を用いて車体の傾きを検出し、その傾きによって車止めの形状を推定している。なお、上述したように、外界センサ231により車止めの形状を識別できるが、外界センサ231が故障してもダンプ20を車止めで停止できるようにするために、本実施形態では、傾斜センサ232a及び圧力センサ232bの少なくとも一方から車止めの形状を推定するようにしている。
【0056】
行動指令部500は、本発明の走行停止制御装置に相当するものであって、図7に示すように、ダンプ20の目標速度を決定する目標速度決定部501と、ダンプ20が目標速度で目標経路上を走行するように走行モータのトルク指令値を設定するトルク指令値設定部502と、トルク指令値の上限閾値を設定する閾値設定部503と、ダンプ20の走行を停止するか否かを決定する走行停止決定部504と、タイマを作動して時間を計測する計時部505と、目標経路を逸脱しないように操舵角の目標値を決定する目標操舵角決定部506と、を含む。この行動指令部500は、車体情報演算部201eから出力される車体情報に応じた走行制御を行うと共に、以下に述べるように、ダンプ20が車止めに接触した場合のダンプ20の走行を停止する制御も行っている。
【0057】
図10は、ダンプ20が車止め付近の目標停止位置まで移動する際の、(a)走行位置と走行速度指令値の関係、(b)走行位置とトルク指令値の関係を示す図である。図10(a)に示すように、地図上の目標停止位置X図2のTPに相当する)を速度V1でバック走行(後退)したダンプ20は、車止めに接する目標停止位置X図2のSPに相当する)の手前の位置Xまで曲線を描くようにして速度V2まで徐々に減速する。その後、ダンプ20は、微速で後退を維持しながら、位置Xから目標停止位置Xに到達する。目標停止位置X近辺では車止めに当たった時に速やかに停止できる程度の速度V3の指令値が与えられる。一方、トルクの値は、図10(b)に示すように、走行位置X〜Xまでは速度V1から速度V2まで減速するために負の値を取り、走行位置Xの直前では車止めに接触することで後退が抑えられるものの実速度を目標の速度V3に近づけようとするため急激に正の値となる。
【0058】
通常であれば、外界センサ231により車止めの位置でダンプ20が停止するよう制御されているが、この制御を無効にしている場合、あるいは、外界センサ231の故障等の理由によりこの制御が不能となっている場合、ダンプ20は車止めまで到達してもなお、バック走行を継続することになる。このような状況下において、本実施形態では、外界センサ231を用いない停止制御により、ダンプ20を車止めに停止させることができる。
【0059】
図11は、第1実施形態において、ダンプ20を車止めで停止させるための処理手順を示すフローチャート図である。図11に示すように、まず、位置算出装置220からの自己位置の情報と、経路データ抽出部201cにて抽出された経路データ(地図情報)とから、目標速度決定部501は目標速度を決定する(S1010)。トルク指令値設定部502は、決定された目標速度と、車速センサ232cが検知したダンプ20の実速度との差分に基づいて、実速度が目標速度に近づくようにトルク指令値を設定する(S1020)。そして、トルク指令値設定部502は、設定したトルク値を駆動トルクとして走行駆動装置210に出力する(S1030)。なお、トルク指令値の代わりにアクセル開度を用いても良い。
【0060】
閾値設定部503は、S1020で設定されたトルク指令値に基づき、上限閾値T図10(b)参照)を設定する(S1040)。より詳細には、閾値設定部503は、ダンプ20の状態に関する情報としての実速度(車速センサ232cからの入力)に基づいて、上限閾値Tを設定する。ここで、ダンプ20の状態に関する情報として、車速センサ232cに代えて、あるいは加えて傾斜センサ232aからの入力に基づいて、上限閾値Tを設定しても良い。また、車速センサ232c及び/または傾斜センサ232aからの入力に代えて、あるいは加えて、圧力センサ232bからの入力に基づき、上限閾値Tを設定しても良い。
【0061】
走行停止決定部504は、S1020で設定されたトルク指令値がS1040で設定された上限閾値Tを超えているか否かを判定し、上限閾値を超えている場合(S1050でYes、図10(b)のT1)、車速センサ232が検知したダンプ20の実速度が閾値以下であるか否かを判定する(S1060)。ここで、S1060における閾値は、ダンプ20が停止しているとみなせる程度の速度であればどのような値であっても良く、例えば閾値をゼロとすれば良い。
【0062】
車両速度が閾値以下の場合(S1060でYes)、計時部505がタイマを作動し(S1070)、所定時間(例えば10秒)経過している場合(S1080でYes)、走行停止決定部504は、ダンプ20が車止めに接触していると判断し、ダンプ20のバック走行を停止することを決定し(S1090)、その決定を走行駆動装置210に出力する。即ち、所定のトルク指令値が出力されているにも拘わらず、車両速度が殆どない状態は、ダンプ20が何らかの障害物にあたってそれ以上動かない状態であるとみなせるため、この状態をダンプ20が車止めに接触した状態とみなして、走行の停止を決定する。この決定を受けた走行駆動装置210の制動装置211は、ダンプ20にブレーキをかけて走行を停止する。一方、S1080で所定時間経過していない場合、所定時間が経過するまで、S1080の処理がループする。また、S1050、S1060でNoの場合、処理は終了となる。
【0063】
以上説明したように、第1実施形態によれば、ダンプ20が車止め400,1400に接触してそれ以上バック走行できない場合に、車速センサ232cから入力されるダンプ20の実速度と、トルク指令値とに基づき、ダンプ20を車止め400,1400で停止させることができる。しかも、外界センサ231を用いない停止制御であるため、外界センサ231が故障等しても、ダンプ20を安全に車止め400,1400の位置に停止させることができる。また、車速センサ232cは、従来から標準で装備されている機器であり、その既存のセンサを用いてダンプ20の停止制御を安全に行えるため、コスト面でも優れる。
【0064】
なお、第1実施形態において、ステップS1070〜S1080の処理は省略しても良い。即ち、ステップS1060でYesの場合、直ちに、走行停止決定部504が停止指令を出力する構成としても良い。この構成にすると、ダンプ20が車止めを乗り越えるリスクが低減され、より安全サイドでダンプ20の運行が可能となる。
【0065】
「第2実施形態」
次に、第2実施形態に係るダンプの停止制御について説明する。図12は、第2実施形態において、ダンプ20を車止めで停止させるための処理手順を示すフローチャート図である。図12に示すように、第2実施形態では、ステップS1035が追加され、ステップS1040の代わりにステップS1045が適用された点が第1実施形態と相違する。以下、これら相違点について説明する。
【0066】
ステップS1035では、閾値設定部503が、傾斜センサ232aから出力された車体の傾きに関する情報またはサスペンションの圧力を検出する圧力センサ232bから出力されたサスペンション圧力のデータから、ダンプ20の姿勢を判定する。ダンプ20が前下がりに傾いている前傾姿勢の場合、車止めの形状は凸形状(図8の車止め400)であると判定し、ダンプ20が後下がりに傾いている後傾姿勢の場合、車止めの形状は凹形状(図9の車止め1400)であると判定する。なお、傾斜センサ232aの出力または圧力センサ232bの出力を時間で微分することにより、より高精度で車止めの形状を判定することができる。
【0067】
ステップS1045において、閾値設定部503は、ステップS1035にて判定した車止め形状に応じて、トルクの上限閾値を設定する。車止めの形状が図9に示すような凹形状の場合、図8に示す凸形状の場合に比べて、ダンプ20が車止めを越えてバック走行する可能性は高い。そのため、凹形状の車止め1400の場合のトルクの上限閾値は、凸形状の車止め400の場合の上限閾値より低めに設定しておくのが好ましい。そこで、第2実施形態では、閾値設定部503が、ステップS1035における車止め形状の判別結果に基づいて、トルクの上限閾値を異なる値に設定している。より詳細に言うと、閾値設定部503は、凹形状の車止めの場合に、凸形状の車止めの場合より低いトルク上限閾値に設定している。
【0068】
この第2実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用効果を奏することに加えて、車止めの形状に応じてダンプ20を停止させることができるから、鉱山等の作業現場における安全性がより一層高まる。しかも、標準で装備されている傾斜センサ232a、圧力センサ232bを用いてダンプ20の停止制御を行えるから、コスト面においても優れる。
【0069】
なお、本発明は、ダンプ以外の運搬車両、例えば、ホイールローダ等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0070】
20 ダンプ(運搬車両)
231 外界センサ
232a 傾斜センサ
232b 圧力センサ
232c 車速センサ
400,1400 車止め
500 行動指令部(走行停止制御装置)
502 トルク指令値設定部
503 閾値設定部
504 走行停止決定部
図1
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図12