(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
塩素化および/またはフッ素化プロペンを生成するための1工程プロセスであって、i)XがClまたはFである式CHCl=CHXを有する、ジクロロエチレンまたはクロロフルオロエチレン;とii)aが0〜3である式CH(4−a)Xaを有し、Xが独立してClまたはFである反応物と、600℃未満の温度で雰囲気圧もしくは雰囲気圧以上の圧力において反応させることにより、少なくとも1種の塩素化および/またはフッ素化プロペンを提供する工程を包含する、1工程プロセス。
【背景技術】
【0002】
塩素化および/またはフッ素化プロペンは、プラスチックおよび樹脂の製造におけるモノマーとして有用であることが公知であり、例えば、ヒドロフルオロオレフィン類の製造における化学中間体としての用途も見出されている。多くのそのような化合物は、線虫駆除剤および殺虫剤としても有用であることが知られており、実際に、これはそれらの主な用途となる。
【0003】
これらの化合物の商業的入手可能性は、望ましくないことに、それらの製造において通常利用されるプロセスによって限定されることがある。例えば、塩素化および/またはフッ素化プロパンは、触媒の存在下かつ高温において酸素と反応して塩素化プロペンを生成する。所望の塩素化および/またはフッ素化プロペンは、所望の塩素化プロペンを提供するために、酸素の存在下においてトリクロロプロペンから水素および塩素を除去することによって、またはジクロロプロペンを塩素および/もしくは塩化アリルおよび/もしくはクロロプロペンと反応させることによっても得られる。しかしながら、これらのプロセスのすべてが、複雑な多段階プロセスであり、多くが、触媒の使用を必要とするので、生成物から1つ以上の触媒を除去する必要がある。
【0004】
1つの例示的な塩素化プロペンである1,3−ジクロロプロペンの生成に対して最も一般的に依存されるプロセスは、実際には、塩化アリルを生成するためのプロセスである。そのようなプロセスでは、プロペンの熱的塩素化によって、塩化アリルに対する約70〜85%の選択性および15〜30%の二塩素化副産物が提供される。そして、その副産物の最大約50%が、通常、約50%の1,3−ジクロロプロペンを含むことがあり、残りは、他の塩素化プロペン、1,2−ジクロロプロパン、6炭素オレフィンおよび他の塩素化6炭素化合物からなる。
【0005】
このプロセスは、1,3−ジクロロプロペンの生成の大部分を占めるが、いずれにせよそのプロセスが、1,3−ジクロロプロペンの生成を、塩化アリルに対する生成速度および需要と結びつけているので、次善である。従来のプロセスは、その最終産物がラセミ混合物ではなく望ましく単一の異性体であれば、期待に添わない可能性もある。1,3−ジクロロプロペンのシス異性体は、例えば、トランス異性体の約2倍、線虫駆除剤として活性であることが公知である。しかしながら、シス異性体は、トランス異性体よりもわずかに揮発性なので分留によって分離可能であるはずであるが、この蒸留とトランス異性体のその後の任意の異性化の両方が、二塩素化プロペン画分の沸点と非常に近くで沸騰するごく一部の6炭素オレフィンの存在によって大きく妨害されることが見出されている。
【0006】
塩素化および/またはフッ素化プロペンの製造のために、単純化された1工程プロセスが開発されているが、これらのプロセスは、その処理量が限定的であることに起因して、商業的応用範囲が限定されていることがある。多段階であるか1工程であるかに関わらず、塩素化および/またはフッ素化プロペンを生成するための従来の製造プロセスの多くは、通常、大量の反応副産物(それは後に、生成物から分離し、通常莫大な費用を払って処分しなければならない)を形成することがあり、さらにそれらの商業的可能性が限定される。
【0007】
したがって、塩素化および/またはフッ素化プロペンを生成するための改善されたプロセスを提供することが望ましいであろう。より詳細には、そのようなプロセスは、分離が困難な副産物としてまたは副産物の混合物の一部として生成される生成物の製造から切り離すことができるなら、当該分野の現在の状況にまさる改善を提供するであろう。コストが削減され、かつ/または反応選択性が改善されれば、商業上の利益ももたらされるであろうし、当該分野で高く評価されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書は、よりよく本発明を定義するため、および本発明を実施する際に当業者を指導するために、ある特定の定義および方法を提供する。特定の用語または句に対して定義が提供されることまたは提供されないことは、なにか特に重要であることまたは重要でないことを含意していると意図されていない。むしろ、別段述べられない限り、用語は、関連する分野の当業者による従来の用法に従って理解されるべきである。
【0016】
用語「第1」、「第2」などは、本明細書中で使用されるとき、いかなる順序、量または重要性も表さず、むしろ、1つのエレメントと別のエレメントを区別するために使用される。また、用語「a」および「an」は、量の限定を表さず、むしろ、言及された項目の少なくとも1つの存在を表し、用語「前」、「後ろ」、「下」および/または「上」は、別段述べられない限り、単に説明の都合のために使用され、いかなる1つの位置または空間的方向にも限定されない。
【0017】
範囲が開示される場合、同じ成分または特性に関するすべての範囲の終点は含まれ、独立して結合できる(例えば、「最大25wt.%、またはより詳細には、5wt.%から20wt.%」という範囲は、その終点、および「5wt.%から25wt.%」の範囲のすべての中間値などを含む)。本明細書中で使用されるとき、変換パーセント(%)は、流入流に対する割合としての反応器内の反応物のモルまたは質量の流れの変化を指すと意味され、選択性パーセント(%)は、反応物のモル流量の変化に対する割合としての反応器内の生成物のモル流量の変化を意味する。
【0018】
本明細書全体にわたる「1つの実施形態」または「ある実施形態」に対する言及は、ある実施形態に関連して記載される特定の特色、構造または特徴が、少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体にわたる様々な箇所における句「1つの実施形態において」または「ある実施形態において」の出現は、必ずしも同一の実施形態について言及しているわけではない。さらに、特定の特色、構造または特徴は、1つ以上の実施形態において任意の好適な様式で組み合わされ得る。
【0019】
さらに、「M1」は、塩化メチルに対する省略形として使用されることがあり、「M2」は、塩化メチレンに対する省略形として使用されることがあり、「M3」は、クロロホルムに対する省略形として使用されることがあり、「M4」は、四塩化炭素に対する省略形として使用されることがある。同様に、「DCE」は、1,2−ジクロロエチレンに対する省略形として使用されることがあり、「DCP」は、1,3−ジクロロプロペンに対する省略形として使用されることがあり、「DCHDE」は、ジクロロヘキサジエンに対する省略形として使用されることがあり、「TCPDE」は、トリクロロペンタジエンに対する省略形として使用されることがあり、「TCHTE」は、トリクロロヘプタトリエンに対する省略形として使用されることがある。
【0020】
本明細書全体にわたって、式CHCl=CHX(式中、XはClまたはFである)は、場合に応じて、クロロエチレンまたはクロロフルオロエチレンを指し、式CH
(4−a)X
a(式中、aは0〜3であり、各Xは独立してClまたはFである)は、メタン、クロロメタン、フルオロメタンまたはクロロフルオロメタンを指すために使用され得る。最後に、式CHX=CH−CH
(3−a)X
a(式中、aは0〜3であり、各Xはそれぞれ独立してClまたはFである)は、塩素化および/またはフッ素化プロペンを指す。
【0021】
本発明は、塩素化および/またはフッ素化プロペンを生成するための効率的なプロセスを提供する。本プロセスは、ただ1つの工程、すなわち、ジクロロエチレンまたはクロロフルオロエチレンと、メタン、クロロメタン、フルオロメタンまたはクロロフルオロメタンとの反応だけを含み、ゆえに、従来のプロセスと比べて時間および材料が著しく節約される。さらに、本プロセスは、従来のプロセスよりも低い温度において行われ得るので、従来の高温プロセスによって達成されなかった商業的に許容可能な処理量も提供しつつ、コスト削減がもたらされる。
【0022】
さらに、本プロセスは、低い、例えば、20%未満または実に10%未満の残渣/副産物収率も提供しつつ、この良好な生成物収率を提供する。触媒の使用は、反応物のモル比を最適化し得るので、例えば、変換率および選択性をさらに増大し得る。
【0023】
さらなる実施形態において、1工程プロセスの1つ以上の反応条件は、さらなる利点、すなわち、選択性、変換または反応副産物の生成の改善を提供するために、最適化され得る。ある特定の実施形態において、複数の反応条件が最適化され、選択性、変換および生成される反応副産物の生成のさらなる改善さえも見られ得る。
【0024】
そのような改善のおかげで、本発明の1工程プロセスは、塩素化および/またはフッ素化プロペンに対する選択性を実質的に低下させずに、少なくとも2%または5%または10%または最大15%または場合によっては実に最大20%またはそれ以上のメタン、クロロメタン、フルオロメタンまたはクロロフルオロメタンの変換率を提供し得る。少なくとも5%または少なくとも10%または少なくとも15%または実に最大20%またはそれ以上のジクロロエチレンまたはクロロフルオロエチレンの変換率が見られ得る。5モルパーセント未満、2モルパーセント未満、およびいくつかの実施形態では、実に0.5モルパーセント未満という酸化還元不純物などの不純物の濃度も提供されることがある。本プロセスは、驚いたことに、少なくとも50%、または最大60%、最大70%、クロロエチレンもしくはクロロフルオロエチレンの変換が30%以下であるときは最大80%、またはクロロエチレンもしくはクロロフルオロエチレンの変換が20%以下であるときは最大95%という塩素化および/またはフッ素化プロペンに対する選択性も提供する。
【0025】
本プロセスにおいて使用されるジクロロエチレンまたはクロロフルオロエチレンは、望ましくは、式CHCl=CHX(式中、XはClまたはFである)を有する。好適なジクロロエチレンまたはクロロフルオロエチレンは、少なくとも2つの水素原子を含む。したがって、本プロセスにおいて使用され得る例示的なジクロロエチレンおよびクロロフルオロエチレンとしては、cis/trans−ジクロロエチレンおよびcis/trans−1−ジクロロ−2−フルオロエチレンまたはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0026】
本プロセスにおいて使用されるメタン、クロロメタン、フルオロメタンまたはクロロフルオロメタンは、望ましくは、式CH
(4−a)X
a(式中、aは、0〜3であり、各Xは、独立してClまたはFである)を有する。好適なクロロメタン、フルオロメタンおよびクロロフルオロメタンは、少なくとも1つの水素原子を含む。したがって、好適なメタン、クロロメタン、フルオロメタンおよびクロロメタンとしては、メタン、フッ化メチル、塩化メチル、フッ化メチレン、塩化メチレン、二フッ化メチル、三フッ化メチル、クロロメタン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、フルオロメタン、ジフルオロメタン、トリフルオロメタン、クロロホルム、クロロジフルオロメタン、ジクロロフルオロメタン、クロロフルオロメタンまたはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0027】
有益なことに、本プロセスを用いることにより、塩素化および/またはフッ素化プロペンが1工程で生成され得る。いくつかの実施形態において、本プロセスに従って生成され得る塩素化および/またはフッ素化プロペンは、式CHX=CH−CH
(3−a)X
a(式中、aは0〜3である)を有するプロペンを含む。これらの例としては、例えば、cis/trans−1−クロロプロペン、cis/trans−1−フルオロプロペン、cis/trans−1,3−ジクロロプロペン、cis/trans−1−クロロ,3−フルオロプロペン、cis/trans−3−クロロ,1−フルオロプロペン、cis/trans−1,3−ジフルオロプロペン、cis/trans−1,3,3−トリクロロプロペン、cis/trans−1,3−ジクロロ,3−フルオロプロペン、cis/trans−1−クロロ,3,3−ジフルオロプロペン、cis/trans−3,3−ジクロロ,1−フルオロプロペン、cis/trans−,3−クロロ,1,3−ジフルオロプロペン、cis/trans−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、cis/trans−1,3,3−ジクロロ,3−フルオロプロペン、cis/trans−1,3−ジクロロ,3,3−ジフルオロプロペン、cis/trans−1−クロロ,3,3,3−トリフルオロプロペン、cis/trans−3,3,3−トリクロロ,1−フルオロプロペン、cis/trans−3,3−ジクロロ,1,3−ジフルオロプロペン、cis/trans−3−クロロ,1,3,3−トリフルオロプロペン、cis/trans−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンが挙げられる。
【0028】
例えば、クロロエチレンが、cis/trans−ジクロロエチレンを含むいくつかの実施形態において、上記メタン、クロロメタン、フルオロメタンまたはクロロフルオロメタンは、塩化メチル、塩化メチレン、クロロホルム、メタン、フッ化メチル、二フッ化メチル、三フッ化メチル、クロロフルオロメタン、クロロジフルオロメタンおよび/またはジクロロフルオロメタンを含み得、塩素化および/またはフッ素化プロペンは、それぞれcis/trans−1,3−ジクロロプロペン、cis/trans−1,3,3−トリクロロプロペン、cis/trans−1,3,3,3−テトラクロロプロペン、cis/trans−クロロプロペン、cis/trans−1−クロロ,3−フルオロプロペン、cis/trans−1−クロロ,3,3−ジフルオロプロペン、cis/trans−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、cis/trans−1,3−ジクロロ,3−フルオロプロペン、cis/trans−1,3−ジクロロ,3,3−ジフルオロプロペンおよび/またはcis/trans−1,3,3−トリクロロ,3−フルオロプロペンを含み得る。
【0029】
ジクロロエチレンまたはクロロフルオロエチレンが1−クロロ−2−フルオロエチレンを含む他の実施形態において、上記メタン、クロロメタン、フルオロメタンまたはクロロフルオロメタンは、メタン、クロロメタン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、フルオロメタン、ジフルオロメタン、トリフルオロメタン、クロロフルオロメタン、ジクロロフルオロメタンおよび/またはクロロジフルオロメタンを含み得、塩素化および/またはフッ素化プロペンは、それぞれcis/trans−1−フルオロプロペン、cis/trans−3−クロロ,1−フルオロプロペン、cis/trans−3,3−ジクロロ,1−フルオロプロペン、cis/trans−3,3,3−トリクロロ,1−フルオロプロペン、cis/trans−1,3−ジフルオロプロペン、cis/trans−1,3,3−トリフルオロプロペン、cis/trans−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、cis/trans−3−クロロ,1,3−ジフルオロプロペン、cis/trans−3,3−ジクロロ,1−フルオロプロペンおよび/またはcis/trans−3−クロロ,1,3,3−トリフルオロプロペンを含み得る。
【0030】
最適化され得る1工程プロセスの反応条件には、例えば、製造フットプリントにすでに存在する装置および/もしくは材料の利用を介して調整され得る、または低い資源コストで得られる可能性のある、都合よく調整される任意の反応条件が含まれる。そのような条件の例としては、温度、圧力、流速、反応物のモル比の調整、触媒または開始剤の使用などが挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0031】
1つの実施形態において、有益なことに、反応圧力が最適化され、雰囲気圧またはそれより低圧で行われるものよりも高い塩素化および/またはフッ素化プロペン選択性が提供され得る。より詳細には、少なくとも塩素化および/またはフッ素化プロペン選択性の改善は、0psig超、または20psig超、または35psig超の圧力において予想され、最大200psig、または最大300psig、または最大400psig、または実に最大500psigおよびそれ以上の圧力の増加とともに改善が増大すると予想される。この様式における反応の少なくとも圧力を最適化することは、少なくとも60%、または最大70%、または最大80%、またはいくつかの実施形態では最大95%の塩素化および/またはフッ素化プロペン選択性を提供すると推定される。他の実施形態において、本プロセスは、雰囲気圧において行われ得る。
【0032】
反応温度も最適化され得、その温度を低下させるとき、特に、圧力の最適化と組み合わせて行われるとき、驚くべき結果が予想される。すなわち、従来のプロセスは、通常、少なくとも550℃の温度を求めるが、本プロセスは、反応物変換、生成物選択性に対する改善および反応器の使用に伴う資本コストの低下をさらに提供しつつ、600℃未満、または500℃未満、または450℃未満、または400℃未満で実施され得る。
【0033】
反応物のモル比も最適化され得る。CH
(4−a)X
aとCHCl=CHXとの1:1の比またはそれより低い比が使用され得るが、化学量論過剰のCH
(4−a)X
aを提供することにより、本プロセスが増強され得る。より詳細には、CH
(4−a)X
aが過剰に存在する任意のモル比のCH
(4−a)X
a/CHCl=CHXを使用してもよく、それは、変換または選択性を増加させる形態であるか、不純物の生成を減少させる形態であるかに関係なく、本プロセスに増強をもたらすと予想される。1:1超、または1.5超、また2超、または実に3:1超のモル比は、所望の生成物に対する選択性に少なくとも増加の改善を提供し得る。温度に対する増強と同様に、モル比への任意の調整は、相乗効果を提供し得、反応圧力の増加とともに使用されるとき、少なくとも組み合わせの増強を提供し得る。
【0034】
触媒または開始剤も本プロセスを増強するために使用され得る。驚いたことに、その使用は、特に、他の任意の条件最適化とともに、本プロセスによる酸化還元不純物の生成の増加をもたらさないが、少なくとも約60%、または最大70%、または最大80%、またはいくつかの実施形態では、最大90%まで、またはそれよりも高い塩素化および/もしくはフッ素化プロペンに対する選択性を提供する。
【0035】
本発明のプロセスの塩素化および/またはフッ素化プロペンに対する選択性を少なくともわずかに高めることができる任意の触媒または開始剤が、それ自体で、または他のものと組み合わせて使用され得る。そうすることができる触媒/開始剤としては、メタン、クロロメタン、フルオロメタンまたはクロロフルオロメタンから水素を除去し、対応するラジカルを生成することができるものが挙げられると考えられる。例えば、塩化メチルの場合、触媒/開始剤は、塩化メチルから水素を除去してクロロメチルラジカル、例えば、
*CH
2Clを形成することができる。そのようなフリーラジカル開始剤は、当業者に周知であり、例えば、「Aspects of some initiation and propagation processes」, Bamford, Clement H. Univ. Liverpool, Liverpool, UK., Pure and Applied Chemistry, (1967), 15(3-4), 333-4およびSheppard, C. S.; Mageli, O. L. 「Peroxides and peroxy compounds, organic」, Kirk-Othmer Encycl. Chem. Technol., 3rd Ed. (1982), 17, 27-90に概説されている。
【0036】
そのような触媒は、通常、1つ以上の塩素もしくは過酸化基を含み得、かつ/または反応器相移動性/活性を示し得る。本明細書中で使用されるとき、句「反応器相移動性/活性」は、反応器の設計上の限界以内で、生成物である塩素化および/またはフッ素化プロペンの効率的なターンオーバーを開始および増加し得る十分なエネルギーのフリーラジカルを生成するために相当量の触媒または開始剤が利用可能であることを意味する。
【0037】
一般に、触媒/開始剤は、理論上最大のフリーラジカルがそのプロセスの温度/滞留時間において所与の開始剤から生成されるのに十分なホモリシス解離エネルギーを有するべきである。発端のラジカルのフリーラジカル塩素化が、低濃度または低反応性に起因して妨害される濃度においてフリーラジカル開始剤を使用することが特に有用である。ジペルオキシドは、競合プロセス(例えば、クロロホルムおよび四塩化炭素に対する塩化メチレンのフリーラジカル塩素化)を増加させることができないという利点を提供する。
【0038】
塩素を含む好適な触媒/開始剤の例としては、四塩化炭素、ヘキサクロロアセトン、塩素、クロロホルム、ヘキサクロロエタン、ホスゲン、塩化チオニル、塩化スルフリル、トリクロロメチルベンゼン、過塩素化アルキルアリール官能基を含むもの、または有機および無機次亜塩素酸塩(次亜塩素酸、ならびにt−ブチル次亜塩素酸塩、メチル次亜塩素酸塩、塩素化アミン(クロラミン)および塩素化アミドまたはスルホンアミド(例えば、chloroamine−T(登録商標))などを含む)が挙げられるが、これらに限定されない。これらのうちのいずれかの組み合わせも使用してよい。
【0039】
四塩化炭素(CCl
4)および塩素ガス(Cl
2)は、容易に商業的に入手可能かつ本プロセスに容易に組み込まれる触媒/開始剤のただ2つの例であり、それらの使用は、触媒または開始剤の使用が望まれる実施形態では好ましい場合がある。
【0040】
1つ以上の過酸化基を含む好適な触媒/開始剤の例としては、過酸化水素、次亜塩素酸、脂肪族および芳香族のペルオキシドまたはヒドロペルオキシド(ジ−t−ブチルペルオキシド、過酸化ベンゾイル、クミルペルオキシドなどを含む)が挙げられる。
【0041】
さらに、ビス−アゾ開始剤は、本発明の条件下においてCHCl=CHXにCH
(4−a)X
aを添加する際に有用性を有し得る。
【0042】
所望の触媒または開始剤が何であろうとも、当業者は、その適切な濃度を決定する方法およびその導入方法を熟知している。例えば、多くの触媒/開始剤が、典型的には、別個の供給物として反応器区画に、または反応域の前に蒸発させられ得る他の反応物、例えば、CHCl=CHXを含む溶液中に導入される。また、低沸点を有する開始剤は、N
2などの不活性なガス希釈剤とともに導入され得る。
【0043】
使用される任意の触媒または開始剤の量は、選択される特定の触媒/開始剤ならびに他の反応条件に左右される。一般的に言えば、触媒/開始剤の利用が望まれる本発明のそれらの実施形態において、反応プロセス条件(例えば、要求される温度における還元)または実現される生成物にいくらかの改善を提供するために十分な触媒/開始剤が利用されるべきであるが、経済的な実用性の理由のためだけならば、なおも任意のさらなる利益を提供するものはないであろう。次いで、説明の目的だけのために、四塩化炭素を含む触媒または開始剤が望ましく利用されるそれらの実施形態において、その有用な濃度は、5ppm〜200000ppmまたは10ppm〜100000ppmまたは20ppm〜50000ppm(それらの間のすべての部分的な範囲を含む)に及ぶと予想される
。
【0044】
本プロセスは、Organic Reaction Mechanisms W. A. Benjamin Pub, New York, p223-224において、Breslow,R.によって教示されるように、ラジカル触媒/開始剤の光分解を誘導するのに適した波長で、本プロセスまたは反応器区画をパルスレーザーまたは連続UV/可視光源に曝露することによってさらに増強され得る。300nm〜700nmの波長の光源は、商業的に入手可能なラジカル開始剤を解離させるのに十分である。そのような光源には、例えば、Hanovia UV放電ランプ、太陽灯、または反応器チャンバーを照射するように設定された適切な波長もしくはエネルギーのパルスレーザービームさえも含まれる。あるいは、Journal of Molecular Spectroscopy, 2005, vol. 229, pp. 140-144においてBailleuxらによって教示されるように、反応器に導入されたブロモクロロメタン供給源へのマイクロ波放電からクロロメチルラジカルが生成され得る。
【0045】
上で述べたように、本発明は、塩素化および/またはフッ素化プロペンを生成するための経済的なプロセスを提供し、すなわち、反応条件の1つ以上が最適化されたプロセスを提供する。ある特定の好ましい実施形態において、より低い温度かつ高い圧力とともに開始剤を利用することにより、より少量の不純物を含む生成物流をもたらすプロセスが提供され得る。例えば、開始剤として四塩化炭素を6%もの少ない量で使用することにより、420℃の温度かつ260psigの圧力において15%超のジクロロエチレン変換がもたらされると予想される。
【0046】
600℃より低い温度または500℃未満の温度においてプロセスを実行することにより、プロセスのコスト削減が提供されるだけでなく、より少ない資本コストもその反応器の使用に伴う。そしてさらに、本発明のこれらの実施形態において、少なくとも約5%、または少なくとも約10%、または少なくとも約15%、または実に最大約20%、またはそれを超えさえするCHCl=CHX変換が、少なくとも2%、または5%、または10%、または最大20%、または場合によっては、実に最大40%、またはそれを超えるCH
(4−a)X
a変換、ならびに少なくとも50%、または最大60%、最大70%、またはCHCl=CHX変換が30%以下であるときは最大80%、またはCHCl=CHX変換が20%以下のときは実に最大95%の塩素化および/もしくはフッ素化プロペン選択性とともに見られ得る。
【0047】
驚いたことに、式CH
(4−a)X
a(式中、aは0〜3である)を有するメタン、クロロメタン、フルオロメタンまたはクロロフルオロメタンと、式CHCl=CHX(式中、XはClまたはFである)を有するクロロエチレンまたはクロロフルオロエチレンとの反応から塩素化および/またはフッ素化プロペンを生成するための本明細書中に記載される気相条件は、10%または1.1というcis/transのモル比だけ、対応するtransよりもcis−1,3−ジクロロプロペンに対して好ましい位置選択性を示す。
【0048】
本プロセスは、任意の好適な反応器において行われ得る。望ましくは、使用される反応器は、反応条件が直ちにかつ容易に所望のとおり変更され、また選択された条件において損害または汚染なしに機能し得るものである。これらには、所望の温度が伝熱場の利用によって達成され得るほぼ等温のシェルおよび多管式反応器が含まれると予想される。
【0049】
断熱性の円筒型反応器または管式反応器も使用されてよく、それらは、使用される場合、所望の反応温度への予熱が可能である限り、直径アスペクト比に対して任意の所望の長さを有することができる。断熱性の反応器が使用される場合、より大きなCH
(4−a)X
a/CHCl=CHX比(例えば、1.3以上)、または好適な希釈剤(例えば、不活性な希釈剤またはCH
(4−a)X
a)が、断熱性の温度上昇を制限するために(すなわち、50℃未満の温度上昇、好ましくは、約10℃〜約20℃のみの温度上昇のために)使用され得る。あるいは、それに関連して動作可能に配置された少なくとも1つの中間冷却器を有する一連の断熱性の反応器を使用することにより、各反応器内で所望の温度上昇を維持しつつ、所望の全体の変換を得ることもできる。
【0050】
提供されるプロセスの1つの実施形態を
図1に示す。より詳細には、
図1に示されるように、プロセス100では、蒸発装置102および106、反応器104、クエンチドラム108ならびに分離カラム110、112、114および116を使用する。プロセス100の実施において、メタン、クロロメタン、フルオロメタンまたはクロロフルオロメタン(chlrofluoromethane)を、蒸発装置102において蒸発および/または加熱し、ジクロロエチレンまたはクロロフルオロエチレンおよび任意の所望の触媒/開始剤を、蒸発装置106において蒸発および/または加熱する
。反応物および開始剤を気化させ、それらを所望の温度に予熱した後、反応物を反応器104に供給することにより、DCPに対する所望の変換および選択性が達成される。
【0051】
次いで、反応混合物をクエンチドラム108においてクエンチして、その反応を停止し、生成物を得る。次いで、粗生成物を第1の分離カラム110に供給して、オーバーヘッド流118において無水HClを回収する。次いで、第1の分離カラム110のボトム流を第2の分離カラム112に供給して、オーバーヘッド流126中の未反応のCH
(4−a)X
aを精製する。次いで、オーバーヘッド流126を、調製したてのCH
(4−a)X
aと蒸発装置102において混合した後、反応器104に再利用する。
【0052】
中間ボイラー副産物、すなわち、CH
(4−a)X
aとCHCl=CHXの間の沸点を有する副産物は、第2の分離カラム112からのサイドドロー120によってまたはオーバーヘッド流126からのパージとして、パージされ得る。次いで、第2の分離カラム112のボトム流を第3の分離カラム114に供給し、ここで、未反応のCHCl=CHXを、ライン128を介してオーバーヘッドから取り出して、蒸発装置106において新鮮CHCl=CHX供給物と混合した後、反応器104に再利用する。あるいは、中間ボイラー副産物は、オーバーヘッドライン128からもパージされ得る。
【0053】
第3の分離カラム114の下から出てきた粗DCPを、最後の分離カラム116においてオーバーヘッド流122として、より重い副産物からさらに精製する。あるいは、粗DCPを分離カラム116に供給する前に、その粗生成物中の同定された重い副産物の一部(例えば、塩素化ペンタジエンおよびヘプタトリエン(hepatriene))もさらに塩素化されて、最後のカラムオーバーヘッド122におけるDCPの純度がさらに改善され得る。
【実施例】
【0054】
実施例1
【0055】
材料。塩化メチル(M1)を、Airgasから購入した。ヘキサクロロアセトン(HCA)および四塩化炭素(M4)を、Aldrichから受け取ったまま使用した。1,2−ジクロロエチレン(DCE)を、異性体の混合物として(85%trans、15%cis)Aldrichから購入し(98%純度)、常に窒素下で保管した。1,3−ジクロロプロペン(DCP)を、異性体の混合物として(53%cis、47%trans)Aldrichから購入した(98%純度)。
【0056】
0.75インチO.D.の反応器管を有する反応器を、HClによる腐食に対する抵抗性に加えて高温(>450℃)および高圧(400psig)に対して使用可能であるHastelloy−C材料から作製する。反応域の外壁(10インチ長、49.5cc体積)を、熱電対によって制御されるバンドヒーターによって加熱する。1対4というM1/DCEの混合比の反応ガスを、350℃〜420℃の温度かつ260〜400psigの圧力において使用し、混合し、予熱した後、230℃〜240℃の温度の反応域に入れる。
【0057】
その反応域の下に、室温のノックアウトポット(1ガロン)を設置して、反応器の流出物から凝縮物を回収する。窒素、HClおよび光をパージした後、反応産物サンプルを解析のために回収する。
【0058】
各ランの後、コークス沈着物を除去するために反応器管を清掃する。全コークス生成量を定量化するランの場合は、コークスを回収し、計量する。反応産物サンプル中に懸濁されているコークスの量を評価するために、すべての揮発性物質を低温低圧蒸留により除去した後、真空オーブン内で固体を一晩乾燥させる。
【0059】
反応産物サンプルを空気とともに軽く噴霧することにより、残留している任意のM1またはHClの大部分を除去する。通常暗黒色であるその溶液の一部を濾過することにより(0.1μm PTFE膜)、そのサンプルに懸濁されているコークスの粒子を除去する。次いで、濾過されたサンプルを、自動サンプリングタワーおよび熱伝導率検出器(TCD)を備えたAgilent 6890 GCを用いて解析する。その方法の詳細を下記に示す。
【0060】
カラム:J&W Scientific DB−5(Cat.122−5032)30m×0.25mm(0.25μmフィルム)
【0061】
温度:カラム:10°/分にて40℃〜250℃(2分)
【0062】
注入器:250℃
【0063】
検出器:275℃
【0064】
流速:流速−1.0ml/分(He)−一定流
【0065】
スプリット:100:1
【0066】
検出器:TCD
【0067】
公知の標準物質:M2、M3、M4、DCE、DCPおよびHCAを用いた多点較正によって、以下の成分に対する正確なwt.%解析が可能である。通常DCPより重い他のすべての反応産物は、ほとんどが較正のために利用できないので、DCPと同じレスポンスファクターが割り当てられる。
1H NMR分光法を使用して、トランス異性体がシスより高いJ
H−H(CHCl=CH−)結合定数を有するはずであるという仮定の下に作用するDCPの異性体の同一性を確かめる。CH
2Cl
2中のDCPの解析から、トランス異性体に対して約15HzのJ
H−Hおよびシス異性体に対して約7HzのJ
H−Hが得られた。DCEのシスおよびトランス異性体は、公知の沸点、それぞれ60℃および48℃に基づいてGC法において割り当てられる。
【0068】
粗反応混合物のGC/MS解析から、少量のC5、C6およびC7化合物とともに、主生成物としての1,3−ジクロロプロペンのシスおよびトランス異性体が同定される。各生成物中のDCEおよびM1当量の数値に対する割り当てを、GC保持時間とともに、下記の表1に列挙する。
【0069】
【表1】
【0070】
反応産物サンプル、液体および固体の粗コークスの回収において、下記の計算による変換/選択性の評価が利用可能である。方程式1.1および1.2から、表9に列挙されるDCE当量の割り当てを用いる反応産物サンプルのGC解析に基づいて、それぞれDCE変換パーセントおよびDCPに対する選択性が得られた。
【数1】
(1.1)
【数2】
(1.2)
【0071】
選択されたランから生成されたコークスの定量化(Quantization)から、方程式1.3に従ってコークスへのDCE変換の計算が可能になる;消費されたDCEの1モルあたり24グラムという分子量がコークス材料に対して推定される。方程式1.1および1.3からの結果を合計することにより、総DCE変換が得られる(方程式1.4)。
【数3】
(1.3)
【数4】
(1.4)
【0072】
次いで、コークスに対するDCE変換の選択性を、総DCE変換に対する、コークスに変換されたDCEのパーセンテージから得る(方程式1.5)。総DCE選択性を、総変換に対する、DCEに変換されたDCEの量として計算した(方程式1.6)。
【数5】
(1.5)
【数6】
(1.6)
【0073】
表2に列挙されるデータを調べることにより、液相生成物の解析に基づいて、97%超というDCPに対する高い選択性が明らかになる。上記の表1に強調されるように、高いM1:DCE比を用いたランでさえ、M1の第2の添加から生じる生成物(すなわち1,4−ジクロロ−2−ブテン)の証拠が見られない。むしろ、主要な(principle)反応副産物は、トリクロロペンタジエンおよびトリクロロヘプタトリエンである。
【0074】
反応産物サンプルのGC解析に基づくと、DCPに対する選択性はかなり高いが、コークス形成の算入によって、全体的なDCE選択性は劇的に低下する。例えば、ラン4におけるDCPに対する液相選択性(表2)は、6.9%DCE変換において97.95である。しかしながら、80gのDCEが供給された間に形成されるコークスの定量化から、2mol%のDCEがコークスに変換され(22.9%の選択性)、9.0%DCE変換において75.5%という全体的なDCP選択性がもたらされると示唆される。
【0075】
【表2】
【0076】
【表3】
【0077】
表2に示されるように、反応圧力を、一定の流速および供給組成において260psig(ラン3)から400psig(ラン4)に上げると、DCE変換の約17%増加が観察される。また、いくつかのランの比較(ラン1/ラン3、ラン2/ラン4、ラン8/ラン9、ラン10/ラン11)から、反応温度が高くなるにつれてDCE変換の増加(液相解析)が証明される。
【0078】
M1:DCE供給比を2倍することにより(ラン4/ラン6)、より高いDCE変換においてさえ、コークス選択性が有意に低下する(約23%(ラン4)に対して約9%(ラン6))。DCPラジカルとM1との反応は、選択性の増加に部分的に関与し得るが、1:1という標準的なM1:DCE比とともに、希釈剤(総供給物の37%)として窒素を使用することによっても(ラン7)、未希釈のラン(23%のコークス選択性)と比べて、コークス選択性が有意に低下する(約9%)。
【0079】
表3(ラン12)に示されるように、M1およびDCEからのDCP生成中の典型的な出口濃縮を促進するように設計された窒素中のDCPの4.4mol%供給物を400℃かつ400psigの反応器に通す。その反応産物サンプル(約50%12DCE、約35%TCPDEおよび約15%TCHTE)の解析から、1.1%というDCP変換が示唆されるが、そのラン(87.8gのDCPが供給された)から回収されるコークス(1.3gのコークス)は、コークスに対する86%の選択性とともに、8%という総DCP変換を示唆する。
【0080】
これらの実施例は、1,2−ジクロロエチレン(DCE)および塩化メチル(M1)からの1,3−ジクロロプロペン(DCP)の生成が、塩化アリル生成の副産物としてのDCPの生成に対する実行可能な代替プロセスであることを示す。より詳細には、これらの実施例は、<5モル%のM4開始剤レベルとともに390℃〜420℃の温度および200psig〜400psigの圧力を含む反応条件が商業的に実行可能であることを示す。これらの実施例はさらに、より高い温度、圧力、M1/DCE比および開始剤レベルが、反応器の生成力を高めるのに有益であり、高い選択性(例えば、90%超)が、DCEの高変換によって達成され得ることを示す。