特許第6267170号(P6267170)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6267170
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】内燃機関用ピストン
(51)【国際特許分類】
   F02F 3/26 20060101AFI20180115BHJP
   F16J 1/00 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   F02F3/26 C
   F16J1/00
【請求項の数】11
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-190276(P2015-190276)
(22)【出願日】2015年9月28日
(62)【分割の表示】特願2012-545424(P2012-545424)の分割
【原出願日】2010年11月26日
(65)【公開番号】特開2016-6329(P2016-6329A)
(43)【公開日】2016年1月14日
【審査請求日】2015年10月28日
(31)【優先権主張番号】12/644,831
(32)【優先日】2009年12月22日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501169419
【氏名又は名称】パーキンズ エンジンズ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Perkins Engines Company Limited
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジェームス スチュアート オックスボロー
(72)【発明者】
【氏名】トム マッケイ
(72)【発明者】
【氏名】モハメド パーシ
【審査官】 堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−245418(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 3/00− 3/28
F02B 1/00−23/10
F16J 1/00− 1/24;7/00−10/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮点火エンジン用のピストンであって、
外径および内径を有するクラウン部分であって、前記内径対前記外径比が0.65よりも大きいクラウン部分と、
前記クラウン部分と直接つなげられたリエントラント部分であって、約63°〜68°のリエントラント角を有するリエントラント部分と、
前記リエントラント部分とつなげられ、最大ボウル深さを画定するトロイダル部分と、
前記トロイダル部分とつなげられた床部分であって、約65°〜70°の床角を有する床部分と、
前記ピストンの中心軸のまわりに配置され、前記床部分とつなげられ、凹部深さを有する凹部部分であって、前記最大ボウル深さが前記凹部深さよりも大きい凹部部分と、
を含み、
燃料噴射装置から送出された燃料は、前記床部分に接触させることなく前記トロイダル部分に向けて送出される燃料ジェット部分と、前記床部分に接触される燃料プルーム部分を有し、前記床部分に前記燃料ジェット部分が接触することなく、前記トロイダル部分に向けて、前記燃料ジェット部分を噴射するための前記燃料噴射装置であって、燃料プルーム部分は気化し、床部分と接触し、床部分と接触した燃料プルーム部分は、燃焼プロセスを遅らせ、温度上昇速度を遅くし、したがって、NOxの形成を抑制する、ことを特徴とするピストン。
【請求項2】
前記内径対前記外径比は0.75未満である、請求項1に記載のピストン。
【請求項3】
前記凹部部分は、式Vr≧KVbによって定義される凹部容積Vrを有し、Kは約0.002の定数であり、Vbはピストンボウルの容積である、請求項1に記載のピストン。
【請求項4】
前記床部分と前記トロイダル部分との間をつなぐ床移行部分をさらに含み、前記床移行部分は半径が約3mmである、請求項3に記載のピストン。
【請求項5】
前記クラウン部分と前記リエントラント部分との間をつなぐクラウン移行部分をさらに含み、前記クラウン移行部分は半径が約1.5mmである、請求項4に記載のピストン。
【請求項6】
前記凹部部分は部分球面である、請求項1に記載のピストン。
【請求項7】
前記凹部部分は凹部直径を有し、前記凹部直径対前記内径比は約0.09である、請求項1に記載のピストン。
【請求項8】
前記床部分は、燃料プルーム部分が前記床部分と接触する燃料噴射装置を備えたエンジンで動作するように構成される、請求項1に記載のピストン。
【請求項9】
外径が約105mmである、請求項1に記載のピストン。
【請求項10】
前記最大ボウル深さは約16.8mmである、請求項9に記載のピストン。
【請求項11】
前記凹部深さは約9.4mmである、請求項9に記載のピストン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧縮点火内燃機関に関する。より具体的には、本開示は、性能を向上させたピストンに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の設計では、低排出物と低燃料消費との相反する要求を繊細にバランスさせる必要がある。関係官庁は通常、NOx、煙、すす、および未燃焼炭化水素を含む様々な排出物の生成を制限している。NOx排出物は、様々な技術によって低減することができる。これらの技術の多くは、燃焼温度を低くすること、ひいては、燃料消費を増やすことを必要とする。
【0003】
作業用機械などの産業環境にあるエンジン利用者は、エンジンが、幅広い回転数および負荷にわたって動作し、それでもなお、排気規制を満たし、妥当な燃料消費を達成することを要求する。特に、作業用機械で使用する高速(最大で2500rpm)、中ボア(100mm〜175mmのシリンダボア)の圧縮点火エンジンは、高回転数、高負荷状態とアイドリング状態との間のサイクルを繰り返すことがある。これらの過渡状態を通して排気規制を満たすには、適応性のある燃焼システムが必要である。さらに、自動車エンジンに見られる軽負荷運転と比較すると、作業用機械のエンジンは、燃料噴射装置の汚損の原因となる恐れのある条件で寿命の大部分にわたり動作する。
【0004】
これらの難題に対処するために、設計者は様々なツールを使って仕事をし、上記の要求を満たす燃焼サイクルを実現しなければならない。これらのツールには、燃料噴射装置、空気流制御、および燃焼室の構造が含まれる。小ボア(100mm未満のボア径)エンジンでは、空気システムの幾何形状を利用して、燃焼室内に旋回運動を発生させる態様で、空気を燃焼室に導入することができる。ボアが小さいエンジンほど、高い回転数(2500rpmを超える)で動作することができ、燃料および空気の速い混合を必要とする。空気システムは、燃料および空気の混合を促進する旋回運動を発生させる。旋回流のある燃焼室は、1991年3月19日に登録された、Schweinzerらによる(特許文献1)、および1999年4月28に公開された(特許文献2)に示されるように、全ピストン径と比較して狭いスロート領域を有する傾向がある。狭いスロート領域により、ピストンの上部とシリンダヘッドとの間のスキッシュ領域が広くなる。これらの燃焼室に噴射される燃料は、床部分に接触することなしにトロイダル部分に流入することを意図される。Schweinzerはまた、ピストンが、燃料噴射装置先端に当たることなく、シリンダ内の上死点位置に接近するのを可能にする凹部を示している。しかし、Schweinzerは、凹部の空気と噴射装置の性能との相互作用について説明していない。
【0005】
大ボア(直径が180mm以上)、中回転数(900〜1500rpm)の圧縮着火エンジンは、静止または半静止単一燃焼室構造を使用する傾向がある。これらの構造は、燃焼室の中心軸のまわりにガスの旋回運動をほとんど発生させないか、または全く発生させない態様で、空気を燃焼室に導入する。これらのタイプの燃焼室でのより高い燃料噴射圧力により、燃料および空気の混合を促進する運動が生じる。また、より微細な滴径により、空気にさらされる表面積が増える。これらの燃焼室構造ではまた、空気をトロイダル部分に供給するのに利用可能なスキッシュ領域が狭い。2008年10月21日に登録された、Poolaらによる(特許文献3)は、大ボア、中回転数のディーゼルに対して鋭角リエントラントを使用して、静止または半静止燃焼室内の空気流を改善することを開示している。Poolaはまた、燃料噴射装置の先端の近くに凹部を配置することを教示している。Poolaの凹部は一般に、サービスのためにエンジンからピストンを取り外す際の補助と考えられる。この場合も、Poolaは、凹部内の空気と燃料噴射装置先端との相互作用について説明していない。
【0006】
これらの参考文献のいずれも、燃料噴射装置の先端まわりの空気流を改善することの重要性について説明していない。適切な空気流がない場合、エンジンの燃焼特性は、その寿命の間に、または特定の条件時に変化することがある。例えば、噴射装置先端まわりの温度が高いことで、時間とともに燃料噴射装置先端の汚損が進むことがある。これらの変化は、低い燃料消費という顧客の要求と、低排出物に関する法的規制との両方を満たすエンジンの能力を低めることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,000,144号明細書
【特許文献2】欧州特許第0 911 500号明細書
【特許文献3】米国特許第7,438,039号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願に開示した本ピストンは、中ボア、高回転数の圧縮点火エンジンの燃焼を改善するために、上記の1つまたは複数の態様に対処する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の態様では、外径および内径を備えたクラウン部分を有するエンジン用のピストンが開示され、内径対外径比は0.65よりも大きい。ピストンは、リエントラント部分、トロイダル部分、およびピストンの中心軸のまわりの凹部部分につながる床部分を含む、内曲構造のボウルである。床部分は、約65°〜約70°の床角を有する。凹部部分は、最大ボウル深さ未満の凹部深さを有する。
【0012】
これらの、およびさらなる特徴が、好ましい実施形態の以下の説明からさらに明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】圧縮点火エンジンの部分断面図を示している。
図2図1のピストンの断面図を示している。
図3図2のピストンの平面図を示している。
図4図2の「A」部の拡大断面詳細図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
特定の実施形態または特徴について以下に詳細に言及し、特定の実施形態または特徴の例は、添付の図面に示されている。全体として、同じまたは対応する部品を指すのに、各図を通じて同じまたは対応する参照番号が使用される。当然ながら、用語「上側の」、「下側の」、「上部」、「底部」、「上方に」、「下方に」、および向きに関連する他の用語は、対象が図に示された場合に、対象についての説明を容易にするためだけに使用され、この説明の範囲をこれらの各用語に関連する向きに限定するとみなすべきではない。付与されたすべての寸法は、機械加工、または鋳造などの製造プロセスに関連する従来からの許容公差を含むと理解すべきである。
【0015】
図1に最もよく示すように、エンジン10は、シリンダ30を画定するブロック20で構成されている。ピストン40は、スライド可能な態様でシリンダ内に配置されている。シリンダ30はまた、ブロック20内に配置されたシリンダライナ(図示せず)によって形成することもでき、シリンダライナは、シリンダ30を画定する。シリンダヘッド50は、ブロック20に連結している。シリンダヘッド50は、シリンダ対向部分60を有する。シリンダ対向部分60、ピストン40、およびシリンダ30は燃焼室70を画定する。燃料噴射装置80は、シリンダヘッド50内に配置され、燃料を燃焼室70に送るように構成された複数のノズル(図示せず)を備えた先端部分90を有する。シリンダヘッド50はまた、少なくとも1つの吸気口100および少なくとも1つの排気口110を画定する。吸気弁120は、吸気口100を少なくとも部分的に遮断するために、シリンダヘッド50内を移動する。同様に、排気弁130は、排気口130を少なくとも部分的に遮断するために、シリンダヘッド50内に配置されている。燃料噴射装置80の先端部分90は、噴射角IAを有し、噴射角IAは、ピストン中心軸140とノズル中心軸150との間の角度として定義される。
【0016】
図2に示すピストンは、ランド160、スカート170、クラウン180、およびボウル190を有する。ランド160は、第1の端部部分200および第2の端部部分210を有する。第2の端部部分はリング溝220を含む。クラウン部分180は、ランド部分160の第2の端部部分210に近接している。スカート170は、ランド160の第1の端部部分200に隣接している。ボウル190は、クラウン移行部分250、リエントラント部分260、トロイダル部分270、床部分280、および凹部部分290によって画定されるボウル容積Vbを有する。本実施形態では、ボウル容積Vbは約57ccである。クラウン180からリエントラント部分260に移行するクラウン移行部分250は、半径が1.5mmであるのが好ましい。ただし、クラウン移行部分250に、より小さい半径、またはエッジを使用することもできる。リエントラント部分260は、クラウン移行部分250をトロイダル部分270とつなぐ部分錐面であり、クラウン180に対して63°〜68°のリエントラント角RAを有する。凹部部分290は、半径約9mmで形成された部分球面であり、クラウン180からの凹部深さ295は約9.4mmである。本実施形態の凹部部分290は、約0.1ccの容積Vrを有する。凹部の容積は、式Vr≧KVbによって表すこともでき、Kは約0.002の定数である。
【0017】
クラウン180は、図3に最もよく示すように、リング形状であり、クラウン移行部分とクラウン180との交点から測定した内径230を有する。クラウンの外径240は、ランド160から測定される。凹部部分290は、凹部部分への接線がピストン中心軸に対して垂直である位置で測定した凹部直径297を有する。本実施形態では、外径は約105mmである。内径230対外径240の比は、0.65〜0.75である。凹部直径297対内径240の比は約0.09である。
【0018】
図4の床部分の大詳細図は、ピストン中心軸140を基準として定義される、65°〜70°の床角FAを示している。凹部移行部分300は、床部分280を凹部部分290とつないでいる。床移行部分310は、床部分280をトロイダル部分270とつないでいる。凹部移行部分300および床移行部分310はともに、3mm以下の半径で形成することができる。トロイダル部分270は半径320で形成され、床移行部分310をリエントラント部分260とつないでいる。この実施形態では、半径320は約9mmであり、最大ボウル深さ330は約16.8mmである。
【産業上の利用可能性】
【0019】
動作時、ピストン40が下方に移動して、空気などの酸化剤が吸気口100から吸気弁120を通り過ぎて引き込まれる(吸気行程)。吸気口100は、燃料を燃焼室70に導入する燃料噴射装置80が作動する前のある時点で閉じる。ピストン40は、シリンダヘッド50の方に移動し、吸気口100および排気口110はともに、それぞれ吸気弁120および排気弁130によって遮断されるので、ピントン40は、凹部部分290を含む燃焼室70内で酸化剤を圧縮する(圧縮行程)。ピストン40はやがて遅くなり始め、シリンダヘッド50から遠ざかるように方向を変える(働き行程)。燃料噴射装置80は、ピストン40が、圧縮行程から働き行程への(上死点位置としても周知の)移行部に近づくと、少なくともある程度の燃料を供給する。
【0020】
本実施形態では、燃料噴射装置80は、燃料ジェット部分340を、床部分280に接触させることなく、トロイダル部分に向けて送出する。一方、燃料プルーム部分350は気化し、床部分280と接触する。床部分280と接触した燃料プルーム部分350は、燃焼プロセスを遅らせ、温度上昇速度を遅くし、したがって、NOxの形成を抑制する。プルーム部分350は、床部分280に沿ってトロイダル部分270に移動し、床移行部分310は、トロイダル部分270からのさらなる空気が、未燃焼燃料(図示せず)とさらに混合するのを可能にする。このさらなる混合は、未燃焼燃料の燃焼を促進し、すすの形成を抑制する。同様に、リエントラント部分260のリエントラント角RAは、空気と未燃焼燃料とのさらなる混合およびすすの酸化を促進する。
【0021】
圧縮行程時に凹部部分290内に保持された空気は、燃料噴射装置80から出た燃料との混合用のさらなる空気となる。特に、燃料噴射の開始時に、凹部部分290により、先端部分90の近くの空気の運動および量がともに増えて、燃料噴射装置80の表面温度が下がる。本実施形態は、燃焼温度を約100K(180R)だけ下げ、燃料消費を改善する一方で、それでもなお排気規制を満たすために、燃料噴射のタイミングを早めることを可能にする。燃料先端部分90の近くの燃焼温度を下げることで、先端部分90の汚損が限定され、噴射装置80の動作寿命を改善することができる。
【0022】
本開示の好ましい実施形態が本明細書で説明されたが、添付の特許請求の範囲から逸脱することなく、改良および修正を組み込むことができる。
図1
図2
図3
図4