特許第6267446号(P6267446)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6267446
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】希土類鉄系ボンド永久磁石
(51)【国際特許分類】
   H01F 13/00 20060101AFI20180115BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20180115BHJP
   H01F 7/02 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   H01F13/00 300
   H01F1/057 180
   H01F7/02 A
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-134260(P2013-134260)
(22)【出願日】2013年6月26日
(65)【公開番号】特開2015-12038(P2015-12038A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2015年10月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068618
【弁理士】
【氏名又は名称】萼 経夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104145
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 嘉夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104385
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100163360
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 知篤
(72)【発明者】
【氏名】幸村 治洋
(72)【発明者】
【氏名】大矢 紫保
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 淳詔
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 俊己
【審査官】 馬場 慎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−203173(JP,A)
【文献】 特開2006−294936(JP,A)
【文献】 特開平6−112025(JP,A)
【文献】 特開2002−15909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 13/00
H01F 1/057
H01F 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類鉄系ボンド永久磁石の表面磁束密度を最大値の95%の値から最大値の50%の値までの範囲で調整する方法であって、
被着磁物である等方性の希土類鉄系ボンド磁石の近傍に着磁用永久磁石を配置する工程、前記被着磁物のキュリー点以上の温度且つ前記着磁用永久磁石のキュリー点未満の温度から、前記被着磁物のキュリー点未満の温度まで、前記被着磁物の温度を降下させるとともに、その間、前記着磁用永久磁石により被着磁物に着磁磁界を印加する工程、及び
被着磁物への着磁磁界の印加を停止する工程を含み、
前記印加停止工程において、着磁磁界の印加を停止する際の被着磁物の温度を変化させることにより前記表面磁束密度の値を調整することを特徴とし、
前記希土類鉄系ボンド磁石の希土類元素がPrであり、
前記被着磁物である希土類鉄系ボンド磁石は、Pr−TM−B(TMはFe又はFeの一部をCo及びNiを含む1種以上の遷移金属元素で置換したもの)系等方性磁石であって、希土類元素の総量が11.8at%未満であり、且つ、固有保磁力(iHc)が557kA/m以下である、
調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類元素としてPrを含有してなる多極着磁された希土類鉄系ボンド永久磁石に関し、より詳しくは、初期減磁を防止するとともに、磁気特性(表面磁束密度)を幅広い数値範囲で調整できる、多極着磁された希土類鉄系ボンド永久磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、近年の電子機器の著しい小型化に対応して、それに使用するPM型(永久磁石型)ステッピングモータ等においても小型化・小径化が進んでいる。
こうした永久磁石は、初期減磁による不可逆減磁を避けることができないため、高温環境で使用される用途においては、固有保磁力が十分に大きい磁石材料を選択したり、或いはパーミアンス係数を大きくするために磁石の磁化方向の厚みを大きくするなどの方法が行われている。また従来より、こうした初期減磁などを抑制するために、使用予想最高温度より高めの温度であらかじめ熱処理し、安定化させる“熱枯らし”処理がなされている。
しかしながら前述の小型化が進むステッピングモータなどの場合、高温環境で使用するにあたって前述したような磁石の磁化方向の厚みを大きくする方法は、モータの小型化を阻害してしまうため、小型化用途において本方法を適用することは適切とはいえない。
【0003】
固有保磁力の高い磁石材料を用いた磁石において、初期減磁を防止する一つの方法として、これまで本発明者等は、被着磁物である磁石の温度を、そのキュリー点以上の温度からキュリー点未満の温度まで降温させつつ、その間、被着磁物に着磁磁界を印加し続ける永久磁石の着磁方法(Ultra High Magnetizing process:UHM着磁と称する)を提案している(特許文献1)。この方法によれば、極小径・多極着磁構造の固有保磁力(iHc)が557kA/mを超えるNd−Fe−B系ボンド磁石であっても、着磁特性(表面磁束密度)が高く、且つ着磁品質の良好なリング状永久磁石が得られる。
更に本発明者らは、上記着磁方法を実施する際、被着磁物を着磁磁界から取り出す温度が変わると、被着磁物の表面磁束密度が変化すること、またその取出し温度を被着磁物が組み込まれる電磁デバイスの使用温度上限値あるいは保証温度よりも高い温度に設定すると、着磁と初期減磁が同時に行われ、その後に熱履歴を受けても特性変化が生じないことを見出している(特許文献2)。また特許文献2には、被着磁物としてNd−Fe−B等方性磁石(キュリー点:約350℃)を用いた際に、着磁部温度を任意の温度に調整することによって、10%程度の数値範囲内で表面磁束密度の微調整が可能であることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−203173号公報(特許第4697736号)
【特許文献2】特開2006−294936号公報(特許第4671278号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、PM型ステッピングモータ等の永久磁石型モータは、モータの出力特性に適したステータの界磁力の数値とロータ磁石の表面磁束密度の数値とを適正に組み合わせる必要がある。
従来より一般的な多極着磁技術であるパルス着磁は、着磁時の電流値を調節することにより、永久磁石の表面磁束密度の数値を幅広く調節することが可能である。しかし前記U
HM着磁では、表面磁束密度の数値の調整幅は10%程度と狭い範囲にとどまっている。そのため、UHM着磁では要求される永久磁石の磁気特性毎に、磁気特性の異なる界磁力の着磁用永久磁石を組み込んだ着磁ヨークを用意する必要があった。
また、Pr−TM−B系等方性磁石(TMはFe又はFeの一部をCo及びNiを含む1種以上の遷移金属元素で置換したもの)は固有保磁力(iHc)が554kA/m程度であり、たとえばNd−Fe−B系等方性磁石(マグネクエンチ社製のMQP−B−20029−070)の固有保磁力780kA/mよりも小さい。そのためPr−TM−B系等方性磁石において初期減磁は特に大きな問題となり、従来パルス着磁されたPr−TM−B系等方性磁石では着磁後に初期減磁のための熱枯らしを行う必要があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであって、その解決しようとする課題は、永久磁石の表面磁束密度を広い範囲で調整することが可能であり、しかも初期減磁の少ない希土類鉄系ボンド永久磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、希土類元素としてPrを含有する希土類鉄系ボンド磁石に対してUHM着磁を施すことにより、初期減磁を抑制し、実使用温度(80〜100℃)において、着磁特性(表面磁束密度)を幅広く調整した希土類鉄系ボンド永久磁石となることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本発明は、被着磁物である希土類鉄系ボンド磁石の近傍に着磁用永久磁石を配置し、前記被着磁物のキュリー点以上の温度且つ前記着磁用永久磁石のキュリー点未満の温度から、前記被着磁物のキュリー点未満の温度まで、前記被着磁物の温度を降下させるとともに、その間、前記着磁用永久磁石により被着磁物に着磁磁界を印加することにより着磁がなされた希土類鉄系ボンド永久磁石であって、前記希土類鉄系ボンド磁石の希土類元素がPrであることを特徴とする、希土類鉄系ボンド永久磁石に関する。
【0009】
前記被着磁物である希土類鉄系ボンド磁石は、Pr−TM−B(TMはFe又はFeの一部をCo及びNiを含む1種以上の遷移金属元素で置換したもの)系等方性ボンド磁石であることが好ましく、また、前記被着磁物である希土類鉄系ボンド磁石は、固有保磁力(iHc)が557kA/m以下であることが好ましい。
【0010】
また本発明の希土類鉄系ボンド永久磁石は、着磁特性の最大値の95%の値から最大値の50%の値までの範囲で磁化することが可能であり、特に表面磁束密度を上記幅広い数値範囲で磁化することを特徴とする。
中でも本発明は、希土類鉄系ボンド永久磁石の表面磁束密度を最大値の95%の値から最大値の50%の値までの範囲で調整する方法を対象とするものであり、その方法は、
被着磁物である等方性の希土類鉄系ボンド磁石の近傍に着磁用永久磁石を配置する工程、前記被着磁物のキュリー点以上の温度且つ前記着磁用永久磁石のキュリー点未満の温度か
ら、前記被着磁物のキュリー点未満の温度まで、前記被着磁物の温度を降下させるとともに、その間、前記着磁用永久磁石により被着磁物に着磁磁界を印加する工程、及び
被着磁物への着磁磁界の印加を停止する工程を含み、
前記印加停止工程において、着磁磁界の印加を停止する際の被着磁物の温度を変化させることにより前記表面磁束密度の値を調整することを特徴とし、
前記希土類鉄系ボンド磁石の希土類元素がPrであり、
前記被着磁物である希土類鉄系ボンド磁石は、Pr−TM−B(TMはFe又はFeの一部をCo及びNiを含む1種以上の遷移金属元素で置換したもの)系等方性磁石であって、希土類元素の総量が11.8at%未満であり、且つ、固有保磁力(iHc)が557kA/m以下である、調整方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、初期減磁が少なく、また着磁特性(表面磁束密度)をその最大値の95%の値から最大値の50%の値までの幅広い範囲で磁化された、希土類鉄系ボンド永久磁石を提供できる。
従って本発明の多極着磁された希土類鉄系ボンド永久磁石は、動作保証温度が通常80℃〜100℃である電子機器の小型モータにおいて好適に使用出来る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施例1及び比較例1乃至比較例3の着磁後のボンド永久磁石における取出し温度(℃)に対する表面磁束密度(mT)の結果を示す図である。
図2図2は、実施例1及び比較例1乃至比較例3の着磁後のボンド永久磁石における、取出し温度50℃の際の表面磁束密度を基準とした場合の取出し温度(℃)に対する表面磁束密度の変化率(%)を示す図である。
図3図3は、実施例2及び比較例4の着磁後のボンド永久磁石における、着磁直後の表面磁束密度を基準値とした場合の暴露温度(℃)に対する表面磁束密度の変化率(%)を示す図である。
図4図4は、実施例3の着磁後のボンド永久磁石における、暴露温度(℃)に対する表面磁束密度(mT)の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<被着磁物>
本発明で使用する被着磁物、すなわち希土類鉄系ボンド磁石は、希土類元素がPrであるPr−TM−B系等方性磁石(TMはFe又はFeの一部をCo及びNiを含む1種以上の遷移金属元素で置換したもの)である。
上記希土類鉄系ボンド磁石は、希土類元素の総量が11.8at%未満であることが好ましい。Pr−TM−B系等方性磁石は希土類元素の総量が11.8at%未満では硬質磁性相と軟質磁性相とが形成される。即ち粒相界は鉄リッチ相となり、ナノコンポジット磁石の構造となる。希土類元素の総量が11.8at%以上では硬質磁性相と非磁性相とが形成され、粒相界は希土類リッチ相となるため、ナノコンポジット磁石の構造を得られない。
また、上記希土類鉄系ボンド磁石の固有保磁力(iHc)は557kA/m以下であることが好ましい。
被着磁物として上記要件を備える希土類鉄系ボンド磁石を採用することにより、後述するUHM着磁法を施すと、初期減磁が抑制され、また、最大値の95%の値から最大値の50%の値までの範囲(すなわち最大値からおよそ5〜50%の減少幅)で着磁特性(表面磁束密度)を変更可能である、多極着磁されたボンド永久磁石を得ることができる。
【0014】
<UHM着磁法>
本発明において採用する着磁方法は、特許文献1及び特許文献2に記載される方法(これらの参照により手順の詳細について本書に組み込まれる)を採用できる。
具体的には、被着磁物である希土類鉄系ボンド磁石の近傍に着磁用永久磁石(着磁用磁界印加手段)を配置し、前記被着磁物の温度を、該被着磁物のキュリー点以上の温度で且つ着磁用永久磁石のキュリー点未満の温度から、該被着磁物のキュリー点未満の温度まで降下させるとともに、その間、前記着磁用永久磁石により被着磁物に着磁磁界を印加することにより実施される。
【0015】
被着磁物である希土類鉄系ボンド磁石は、その形状が環状(円環状や多角形環状など)もしくは弧状(円弧状や多角形弧状など)をなし、その外側もしくは内側、あるいは内外両側から着磁用磁界を永久磁石により印加することで着磁される。
具体的には例えば、非磁性ブロックに、被着磁物である希土類鉄系ボンド磁石を挿入・抜出可能な被着磁物収容穴を設けると共に、該被着磁物収容穴の外側面から放射状に延びる多数本の溝及び/又は内側面から中心に向かって延びる多数本の溝を設け、各溝に被着磁物よりもキュリー点が高い棒状などブロック状の着磁用永久磁石を埋設した構造の着磁治具を用いる。そして被着磁物をそのキュリー点以上に加熱した状態で、前記被着磁物収容穴に挿入し、前記着磁治具内で冷却する。
【0016】
ここで多数の着磁用永久磁石を埋設した上記着磁治具は、軸方向に複数段、且つ周方向に磁極位置をずらせた状態で組み合わせ、それら複数の着磁治具により段違い着磁磁界を印加してもよい。また、被着磁物である環状もしくは弧状の希土類鉄系ボンド磁石の内外両側から永久磁石に着磁磁界を印加可能な構成とし、内側からの着磁用磁界及び/又は外側からの着磁用磁界の円周方向における位置及び/又は磁界強度の調整により、着磁波形(角度に対する表面磁束密度の変化の波形)の最適化を実現する。
【0017】
前記着磁用永久磁石は、高温下で被着磁物に対して着磁できる磁界を発生できるように
、着磁用永久磁石のキュリー点が被着磁物である希土類鉄系ボンド磁石のキュリー点よりも高いものとなるものを選択する。
また被着磁物の着磁のために必要な磁界を最小限にするために、被着磁物の加熱温度を被着磁物である希土類鉄系ボンド磁石のキュリー点よりも高く設定する。尚且つ、着磁用永久磁石が被着磁物に着磁できる磁界を残存させ着磁能力をもたせるために、前記の加熱温度を着磁用永久磁石のキュリー点より低く設定する。
こうした着磁用永久磁石の選択並びに被着磁物の加熱温度の設定により、被着磁物に対する最大限の着磁が可能となる。被着磁物への着磁がなされた後、被着磁物をそのキュリー点を下回る温度まで冷却すると磁力が発生し、着磁された永久磁石を得ることができる。
【0018】
本発明の多極着磁された希土類鉄系ボンド永久磁石は、着磁後に被着磁物を着磁治具より取出す際の温度を変化させることにより、着磁特性を調整可能である。具体的には、取出し温度を高めるに従って(但し、取出し温度の最高値は被着磁物である希土類鉄系ボンド磁石のキュリー点よりも低い温度である)、表面磁束密度をその最大値の95%の値から最大値の50%の値までの範囲で(すなわち最大からおよそ5〜50%の範囲で減少させた数値範囲で)調整可能である。
なお本発明の多極着磁された希土類鉄系ボンド永久磁石では、上記取出し温度を例えば100℃以上などの高い温度に設定することにより、「熱枯らし」と同様の作用が加わったものとみなせる希土類鉄系ボンド永久磁石を得ることができる。すなわち、上記取出し温度を希土類鉄系ボンド永久磁石を組み込むモータなどの電磁デバイスの通常の使用温度上限値あるいは保証温度(例えば80〜100℃)よりも高い温度、例えば100℃より高く設定すると、上記保証温度以下では、つまり組み上げた電磁デバイスとしては初期減磁の発生が抑えられる。そのため希土類鉄系ボンド永久磁石は安定した着磁磁力を発現でき、それを組み込んだ電磁デバイスは、安定した動作が保証されることとなる。
【0019】
このように、本発明の多極着磁された希土類鉄系ボンド永久磁石は、要求される磁気特性毎に別々の着磁ヨークを用意する必要がなく、また従来のパルス着磁法で必要とされた熱枯らしを改めて実施することなく、初期減磁が抑制され、種々の着磁特性を有する(すなわち表面磁束密度が幅広い数値範囲で変更されてなる)ボンド永久磁石となる。
従って本発明の多極着磁された希土類鉄系ボンド永久磁石は、種々の出力特性が要求される各種PM型ステッピングモータ等の永久磁石型モータ用の永久磁石として、有用である。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例により、さらに詳しく説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0021】
[実施例1及び比較例1乃至3:着磁後の取出し温度変化に対する表面磁束密度の評価]
以下の手順により、実施例及び比較例のボンド磁石を製造した。
[実施例1]
希土類量11.1at%、最大エネルギー積127kJ/m、固有保磁力554kA/mのPr−Co−Fe−B磁性粉末に対して、エポキシ樹脂を2.5質量%混合し、外径2.6mm×内径1mm×高さ3mmの円筒状のボンド磁石(成形体密度5.9mg/m)を作製した(キュリー点:約345℃)。
[比較例1]
使用する磁性粉末を希土類量11.0at%、最大エネルギー積119kJ/m、固有保磁力573kA/mのNd−Co−Fe−B系磁性粉末とし、他の構成は実施例1と同一とした円筒状のボンド磁石を作製した(キュリー点:約325℃)。
[比較例2]
使用する磁性粉末を希土類量12.5at%、最大エネルギー積119kJ/m、固有保磁力780kA/mのNd−Co−Fe−B系磁性粉末とし、他の構成は実施例1と同一とした円筒状のボンド磁石を作製した(キュリー点:約330℃)。
[比較例3]
使用する磁性粉末を希土類量13.0at%、最大エネルギー積111kJ/m、固有保磁力1010kA/mのNd−Fe−B系磁性粉末とし、他の構成は実施例1と同一とした円筒状のボンド磁石を作製した(キュリー点:約305℃)。
【表1】
【0022】
実施例1及び比較例1乃至比較例3のボンド磁石に対して、UHM着磁方法により着磁を行った。
すなわち、被着磁物である上記各ボンド磁石を、各ボンド磁石のキュリー点+30℃の温度(実施例1:375℃、比較例1:355℃、比較例2:360℃、比較例3:335℃)に加熱し、10極のラジアル着磁を行った(着磁用SmCo焼結永久磁石のキュリー点:約850℃)。
着磁後の取出し温度を種々変化(取出し温度:50℃、80℃、120℃、150℃、180℃、210℃、240℃及び270℃)させて着磁治具よりボンド永久磁石を取出し、着磁後のボンド永久磁石の表面磁束密度を測定した。
表面磁束密度は、特許文献1に記載の着磁品質の評価に倣い、ガウスメーターを用いて10極の表面磁束密度の平均値を算出し、着磁特性とした。取出し温度(℃)に対する表面磁束密度(mT)の結果を図1に示す。
【0023】
図1に示すように、実施例1及び比較例1は、比較例2及び比較例3に対して、取出し温度が高くなるほど、着磁後のボンド永久磁石の表面磁束密度が大きく低下したとする結果となった。また、実施例1は比較例1に対して表面磁束密度の低下が顕著であった。
一方、比較例2では表面磁束密度の変化は緩やかであった。また比較例3では、取り出し温度が50℃から250℃の範囲では、着磁後のボンド永久磁石の表面磁束密度においてそれほど大きな変化はみられなかった。しかし、250℃を超えた範囲で表面磁束密度が急激に低下した。これは比較例3のボンド永久磁石のキュリー点Tcが305℃であるため、キュリー点に近い250℃を超えた範囲で熱減磁が急激に進んだものとみられる。
【0024】
図2に、取出し温度50℃の際の表面磁束密度を基準として、取り出し温度を変化させた際の表面磁束密度の変化率(%)を示す。
図2に示すように、取出し温度270℃において、取出し温度50℃の表面磁束密度か
らの減少率が実施例1では50%を超え、また比較例1ではおよそ30%であるとする結果となった。
一方比較例2では、取出し温度270℃での表面磁束密度減少率がおよそ10%であった。また比較例3は、取出し温度250℃までの表面磁束密度減少率はおよそ6%と少なかったが、取出し温度が250℃を超えたところで表面磁束密度減少率が急激に大きくなるとする結果となった。
【0025】
[実施例2及び比較例4:着磁法の違いによる熱減磁の評価]
次に、UHM着磁とパルス着磁との熱減磁について評価を行った。
以下の実施例2及び比較例4には、実施例1で示した円筒状のボンド磁石と同一の条件で作製したボンド磁石をそれぞれ用いた。
実施例2では、取出し温度を50℃として実施例1と同様にUHM着磁を実施し、一方比較例4では、電流密度を22kA/mmとしてパルス着磁を実施した。尚、本条件の場合は着磁部に発生する最大磁界は2000kA/mである。着磁後に各ボンド永久磁石の表面磁束密度(mT)をガウスメーターを用いて前記と同様に測定した。
着磁後の実施例2のボンド永久磁石と比較例4のボンド永久磁石を、80℃、120℃、150℃、180℃、210℃、240℃又は270℃の環境下に30分間暴露した後、ガウスメーターを用いて前記と同様に表面磁束密度を測定した。着磁直後(暴露前)の表面磁束密度を基準として、暴露温度(℃)に対する表面磁束密度(mT)の変化率(%)を図3に示す。
【0026】
図3に示すように、実施例2と比較例4のいずれにおいても表面磁束密度減少率はほぼ同様のカーブを示したが、比較例4では80℃環境下に暴露しただけで初期の減磁が10%発生していた。また実施例2と比較例4の減磁率の差は、80℃環境下の暴露から、270℃環境下の暴露までほぼ同じ値であった。
この結果は、パルス着磁(比較例4)では高温環境下における初期減磁が大きく、一方UHM着磁(実施例2)では熱影響による初期減磁が比較的少ないことを示すものであった。
【0027】
また、図2に示す実施例1の表面磁束減少率のカーブと、図3に示す実施例2の表面磁束減少率のカーブは、殆ど同じであるとする結果となった。
この結果は、UHM着磁においては、取出し温度を調整することにより、その温度までの熱枯らしを行ったのと同等の効果が得られることを示すものであった。
【0028】
[実施例3:高温取り出しにおける熱減磁の評価]
次に、UHM着磁高温取り出しにおける熱減磁について評価を行った。
実施例3には、実施例1で示した円筒状のボンド磁石と同一の条件で作成したボンド磁石を用いた。
実施例3では、取り出し温度を180℃として実施例1と同様にUHM着磁を実施した。着磁後にボンド永久磁石の表面磁束密度(mT)をガウスメーターを用いて前記と同様に測定した。
着磁後の実施例3のボンド永久磁石を、80℃、120℃、150℃、210℃、240℃又は270℃の環境下に30分間暴露した後、ガウスメーターを用いて前記と同様に表面磁束密度を測定した。暴露温度(℃)に対する表面磁束密度(mT)の結果を図4に示す。
【0029】
図4に示すように、実施例3は、UHM着磁取出し温度(180℃)以下の温度範囲である暴露温度50℃から180℃までは表面磁束密度(mT)が低下することなく安定していた。一方、UHM着磁取出し温度(180℃)を超える暴露温度では表面磁束密度(mT)が低下し、暴露温度が高くなるほど表面磁束密度の低下量は多くなった。
この結果は、先行技術1のNd−Fe−B系ボンド磁石と同様に、Pr−Fe−B系ボンド磁石をUHM着磁する際の取出し温度をデバイスの使用温度よりも高温にすることで初期減磁を防止することが可能であることを示すものであった。
【0030】
前述したように、永久磁石型モータが使用される電子機器の使用温度上限値あるいは保証温度は、通常80℃乃至100℃であることから、UHM着磁の被着磁物をPr−Fe−B系磁石とすることで、着磁特性、すなわち表面磁束密度の最大値の95%の値から最大値の50%の値までの範囲で値を変化させた永久磁石を本発明により提供することが可能となる。
図1
図2
図3
図4