【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例により、さらに詳しく説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0021】
[実施例1及び比較例1乃至3:着磁後の取出し温度変化に対する表面磁束密度の評価]
以下の手順により、実施例及び比較例のボンド磁石を製造した。
[実施例1]
希土類量11.1at%、最大エネルギー積127kJ/m
3、固有保磁力554kA/mのPr−Co−Fe−B磁性粉末に対して、エポキシ樹脂を2.5質量%混合し、外径2.6mm×内径1mm×高さ3mmの円筒状のボンド磁石(成形体密度5.9mg/m
3)を作製した(キュリー点:約345℃)。
[比較例1]
使用する磁性粉末を希土類量11.0at%、最大エネルギー積119kJ/m
3、固有保磁力573kA/mのNd−Co−Fe−B系磁性粉末とし、他の構成は実施例1と同一とした円筒状のボンド磁石を作製した(キュリー点:約325℃)。
[比較例2]
使用する磁性粉末を希土類量12.5at%、最大エネルギー積119kJ/m
3、固有保磁力780kA/mのNd−Co−Fe−B系磁性粉末とし、他の構成は実施例1と同一とした円筒状のボンド磁石を作製した(キュリー点:約330℃)。
[比較例3]
使用する磁性粉末を希土類量13.0at%、最大エネルギー積111kJ/m
3、固有保磁力1010kA/mのNd−Fe−B系磁性粉末とし、他の構成は実施例1と同一とした円筒状のボンド磁石を作製した(キュリー点:約305℃)。
【表1】
【0022】
実施例1及び比較例1乃至比較例3のボンド磁石に対して、UHM着磁方法により着磁を行った。
すなわち、被着磁物である上記各ボンド磁石を、各ボンド磁石のキュリー点+30℃の温度(実施例1:375℃、比較例1:355℃、比較例2:360℃、比較例3:335℃)に加熱し、10極のラジアル着磁を行った(着磁用SmCo焼結永久磁石のキュリー点:約850℃)。
着磁後の取出し温度を種々変化(取出し温度:50℃、80℃、120℃、150℃、180℃、210℃、240℃及び270℃)させて着磁治具よりボンド永久磁石を取出し、着磁後のボンド永久磁石の表面磁束密度を測定した。
表面磁束密度は、特許文献1に記載の着磁品質の評価に倣い、ガウスメーターを用いて10極の表面磁束密度の平均値を算出し、着磁特性とした。取出し温度(℃)に対する表面磁束密度(mT)の結果を
図1に示す。
【0023】
図1に示すように、実施例1及び比較例1は、比較例2及び比較例3に対して、取出し温度が高くなるほど、着磁後のボンド永久磁石の表面磁束密度が大きく低下したとする結果となった。また、実施例1は比較例1に対して表面磁束密度の低下が顕著であった。
一方、比較例2では表面磁束密度の変化は緩やかであった。また比較例3では、取り出し温度が50℃から250℃の範囲では、着磁後のボンド永久磁石の表面磁束密度においてそれほど大きな変化はみられなかった。しかし、250℃を超えた範囲で表面磁束密度が急激に低下した。これは比較例3のボンド永久磁石のキュリー点Tcが305℃であるため、キュリー点に近い250℃を超えた範囲で熱減磁が急激に進んだものとみられる。
【0024】
図2に、取出し温度50℃の際の表面磁束密度を基準として、取り出し温度を変化させた際の表面磁束密度の変化率(%)を示す。
図2に示すように、取出し温度270℃において、取出し温度50℃の表面磁束密度か
らの減少率が実施例1では50%を超え、また比較例1ではおよそ30%であるとする結果となった。
一方比較例2では、取出し温度270℃での表面磁束密度減少率がおよそ10%であった。また比較例3は、取出し温度250℃までの表面磁束密度減少率はおよそ6%と少なかったが、取出し温度が250℃を超えたところで表面磁束密度減少率が急激に大きくなるとする結果となった。
【0025】
[実施例2及び比較例4:着磁法の違いによる熱減磁の評価]
次に、UHM着磁とパルス着磁との熱減磁について評価を行った。
以下の実施例2及び比較例4には、実施例1で示した円筒状のボンド磁石と同一の条件で作製したボンド磁石をそれぞれ用いた。
実施例2では、取出し温度を50℃として実施例1と同様にUHM着磁を実施し、一方比較例4では、電流密度を22kA/mm
2としてパルス着磁を実施した。尚、本条件の場合は着磁部に発生する最大磁界は2000kA/mである。着磁後に各ボンド永久磁石の表面磁束密度(mT)をガウスメーターを用いて前記と同様に測定した。
着磁後の実施例2のボンド永久磁石と比較例4のボンド永久磁石を、80℃、120℃、150℃、180℃、210℃、240℃又は270℃の環境下に30分間暴露した後、ガウスメーターを用いて前記と同様に表面磁束密度を測定した。着磁直後(暴露前)の表面磁束密度を基準として、暴露温度(℃)に対する表面磁束密度(mT)の変化率(%)を
図3に示す。
【0026】
図3に示すように、実施例2と比較例4のいずれにおいても表面磁束密度減少率はほぼ同様のカーブを示したが、比較例4では80℃環境下に暴露しただけで初期の減磁が10%発生していた。また実施例2と比較例4の減磁率の差は、80℃環境下の暴露から、270℃環境下の暴露までほぼ同じ値であった。
この結果は、パルス着磁(比較例4)では高温環境下における初期減磁が大きく、一方UHM着磁(実施例2)では熱影響による初期減磁が比較的少ないことを示すものであった。
【0027】
また、
図2に示す実施例1の表面磁束減少率のカーブと、
図3に示す実施例2の表面磁束減少率のカーブは、殆ど同じであるとする結果となった。
この結果は、UHM着磁においては、取出し温度を調整することにより、その温度までの熱枯らしを行ったのと同等の効果が得られることを示すものであった。
【0028】
[実施例3:高温取り出しにおける熱減磁の評価]
次に、UHM着磁高温取り出しにおける熱減磁について評価を行った。
実施例3には、実施例1で示した円筒状のボンド磁石と同一の条件で作成したボンド磁石を用いた。
実施例3では、取り出し温度を180℃として実施例1と同様にUHM着磁を実施した。着磁後にボンド永久磁石の表面磁束密度(mT)をガウスメーターを用いて前記と同様に測定した。
着磁後の実施例3のボンド永久磁石を、80℃、120℃、150℃、210℃、240℃又は270℃の環境下に30分間暴露した後、ガウスメーターを用いて前記と同様に表面磁束密度を測定した。暴露温度(℃)に対する表面磁束密度(mT)の結果を
図4に示す。
【0029】
図4に示すように、実施例3は、UHM着磁取出し温度(180℃)以下の温度範囲である暴露温度50℃から180℃までは表面磁束密度(mT)が低下することなく安定していた。一方、UHM着磁取出し温度(180℃)を超える暴露温度では表面磁束密度(mT)が低下し、暴露温度が高くなるほど表面磁束密度の低下量は多くなった。
この結果は、先行技術1のNd−Fe−B系ボンド磁石と同様に、Pr−Fe−B系ボンド磁石をUHM着磁する際の取出し温度をデバイスの使用温度よりも高温にすることで初期減磁を防止することが可能であることを示すものであった。
【0030】
前述したように、永久磁石型モータが使用される電子機器の使用温度上限値あるいは保証温度は、通常80℃乃至100℃であることから、UHM着磁の被着磁物をPr−Fe−B系磁石とすることで、着磁特性、すなわち表面磁束密度の最大値の95%の値から最大値の50%の値までの範囲で値を変化させた永久磁石を本発明により提供することが可能となる。