特許第6267468号(P6267468)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 倉敷紡績株式会社の特許一覧

特許6267468ポリオレフィン系積層シート及びその製造方法
<>
  • 特許6267468-ポリオレフィン系積層シート及びその製造方法 図000003
  • 特許6267468-ポリオレフィン系積層シート及びその製造方法 図000004
  • 特許6267468-ポリオレフィン系積層シート及びその製造方法 図000005
  • 特許6267468-ポリオレフィン系積層シート及びその製造方法 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6267468
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】ポリオレフィン系積層シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/12 20060101AFI20180115BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   B32B27/12
   B32B27/32 E
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-196846(P2013-196846)
(22)【出願日】2013年9月24日
(65)【公開番号】特開2015-63018(P2015-63018A)
(43)【公開日】2015年4月9日
【審査請求日】2016年4月21日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】神田 卓志
(72)【発明者】
【氏名】粕谷 明
(72)【発明者】
【氏名】大平 康正
【審査官】 岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−001035(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3091468(JP,U)
【文献】 特開2013−072009(JP,A)
【文献】 特開2002−326305(JP,A)
【文献】 特開2009−233904(JP,A)
【文献】 特表2006−500252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内層の両外側表面に接着層を介して織物層が貼り合わされた積層シートであって、
前記織物層は、芯成分がポリプロピレン、鞘成分が前記芯成分より低融点のポリオレフィン成分からなる芯鞘複合繊維を含む糸で構成され、
前記織物層のいずれか一方の表層に接着層を介して透明なポリプロピレン系樹脂層をさらに備え、
前記接着層は低密度ポリエチレン熱融着フィルムであり、
前記内層は厚さ0.1〜2mmの非発泡ポリプロピレン系シートであり、
前記積層シートは熱可塑性であり、全体の厚さは0.5〜5mmであり、真空成形、プレス成形又は熱変形を利用した曲げ加工成形が可能であることを特徴とするポリオレフィン系積層シート。
【請求項2】
前記内層はプロピレン-エチレンランダムコポリマーである請求項1に記載のポリオレフィン系積層シート。
【請求項3】
前記芯鞘複合繊維の芯成分がホモポリマーのポリプロピレンであり、鞘成分がプロピレン-エチレンランダムコポリマー又はポリプロピレンとポリエチレンのブレンド物である請求項1又は2に記載のポリオレフィン系積層シート。
【請求項4】
請求項1〜のいずれかに記載のポリオレフィン系積層シートの製造方法であって、
内層と、その両表面に接着用の低密度ポリエチレン熱融着フィルムと、その両表面に繊維織物層と、前記織物層のいずれか一方の表層に低密度ポリエチレン熱融着フィルムを介して透明なポリプロピレン系樹脂層を配置して加熱加圧し、次いで冷却することを特徴とするポリオレフィン系積層シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内層(コア層)の両表面に織物層を一体化したポリオレフィン系積層シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、炭素繊維やアラミド繊維などの強化繊維織物を複数枚積層したり、発泡体シートなどと一体化した積層体は知られている。特許文献1には、発泡体からなる内層(コア層)シートの表面に炭素繊維織物層を一体化した積層シートは提案されている。また、炭素繊維織物とアラミド繊維織物をポリカーボネートフィルムを接着層として一体化した積層体も提案されている(特許文献2)。さらに、中空状芯体の両表面に一方向繊維体を積層することも提案されている(特許文献3)。これらの積層体は軽量で折り曲げ強度も高い利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−096482号公報
【特許文献2】特開平5−117411号公報
【特許文献3】特開2009−000933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の積層体は炭素繊維、アラミド繊維又は中空状芯体などの高価な材料を使用しており、コストが高いという問題があった。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、層間剥離がなく、軽量であり、曲げに対する物理的強度も高く、コストも安価なポリオレフィン系積層シート及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のポリオレフィン系積層シートは、内層の両外側表面に接着層を介して織物層が貼り合わされた積層シートであって、前記織物層は、芯成分がポリプロピレン、鞘成分が前記芯成分より低融点のポリオレフィン成分からなる芯鞘複合繊維を含む糸で構成され、前記織物層のいずれか一方の表層に接着層を介して透明なポリプロピレン系樹脂層をさらに備え、前記接着層は低密度ポリエチレン熱融着フィルムであり、前記内層は厚さ0.1〜2mmの非発泡ポリプロピレン系シートであり、前記積層シートは熱可塑性であり、全体の厚さは0.5〜5mmであり、真空成形、プレス成形又は熱変形を利用した曲げ加工成形が可能であることを特徴とする。
【0007】
本発明のポリオレフィン系積層シートの製造方法は、前記のポリオレフィン系積層シートの製造方法であって、内層と、その両表面に接着用の低密度ポリエチレン熱融着フィルムと、その両表面に繊維織物層と、前記織物層のいずれか一方の表層に低密度ポリエチレン熱融着フィルムを介して透明なポリプロピレン系樹脂層を配置して加熱加圧し、次いで冷却することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、積層シートを構成する内層、接着層及び織物層がいずれもオレフィン系樹脂であるため、コストを安価にすると同時に、層間剥離がなく、軽量であり、曲げに対する物理的強度も高い積層シートを提供できる。また、この積層シートは熱可塑性であり、真空成形、プレス成形、熱変形を利用した曲げ加工成形等に好適で、安価な成形体とすることもできる。さらに、織物層は熱融着ポリオレフィン系フィルムを介して内層に接着しているため、後に加熱して成形しても織物を構成する繊維の収縮はなく、織物の美しい織柄がそのまま積層シートの表面に現れる成形体とすることができる。本発明の製造方法は、効率よく合理的に本発明の積層シートを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は本発明の一実施態様の積層シートの模式的断面図である。
図2図2は本発明の別の実施態様の積層シートの模式的断面図である。
図3図3は本発明の一実施態様における積層シートの製造装置を示す模式的断面図である。
図4図4は本発明の一実施態様の積層シートを真空成形した成形体の模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の積層シートは、内層(コア層)の両表面に接着層を介して織物層が貼り合わされた積層シートである。内層(コア層)はポリプロピレンシート又はポリプロピレンを含むシートである。この内層(コア層)シートはフィルムであっても良い。ポリプロピレンシート又はポリプロピレンを含むシートは、実用的に物理的特性を満足する分野があり、コストも安い利点がある。織物層は芯成分がポリプロピレン、鞘成分が芯成分より低融点のポリオレフィン系成分からなる芯鞘複合繊維を含む糸で構成される。鞘成分に低融点ポリオレフィン系成分することにより、加熱接着しやすくなる。さらに、接着層として熱融着ポリオレフィン系フィルムを使用することにより、内層(コア層)と織物層との加熱加圧接着が可能となり、積層一体化しやすい。
【0011】
内層(コア層)は非発泡ポリプロピレン系シートを使用するのが好ましい。非発泡ポリプロピレン系シートはプレス成形によっても内層(コア層)が潰れることはなく、真空成形、熱変形を利用した曲げ加工成形等も容易にできる。
【0012】
内層(コア層)はプロピレン-エチレンランダムコポリマー(RPP)であるのが好ましい。RPPはプロピレンユニットが50モル%を超え、エチレンユニットが50モル%未満のランダムコポリマーで、融点は135〜150℃であり、一般的に市販されている。RPPは熱融着性に優れる利点がある。内層(コア層)の好ましい厚さは0.1〜2mmであり、より好ましくは0.2〜1.5mmである。
【0013】
芯鞘複合繊維の芯成分がホモポリマーのポリプロピレンであり、鞘成分がプロピレン-エチレンランダムコポリマー(RPP)又はポリプロピレンとポリエチレンのブレンド物であるのが好ましい。これによりさらに加熱接着しやすくなる。
【0014】
熱融着ポリオレフィン系フィルムは低密度ポリエチレン(LLDPE)であるのが好ましい。LLDPEは熱加工性、接着性、透明性に優れる。
【0015】
織物は平織、綾織(斜文織)、朱子織、その他の変化織など、どのような組織の織物であっても良い。織物を構成する糸は、単繊維繊度が1〜10deci tex、トータル繊度が1000〜3000deci texのマルチフィラメントが好ましい。織物の単位面積当たりの重量(目付)は50〜500g/m2の範囲が好ましい。

【0016】
本発明の積層シートは、織物層のいずれか一方の表層に接着層を介してポリプロピレン系樹脂層をさらに備えても良い。このようにするとポリプロピレン系樹脂層で覆われた板状体のシートとすることができ、成形体としての応用範囲も広くなる。
【0017】
さらに本発明の積層シートは、内層(コア層)と織物層の間に多軸繊維シートを加えることもできる。多軸繊維シートは倉敷紡績株式会社製、商品名“クラマス”を挙げることができる。一例として多軸繊維の方向は0°/+60°/−60°、1平方メートル当たりの重量(目付け)は350g/m2であり、トータル繊度1850deci texのPPフィラメントを多数本使用し、ステッチ糸としてポリエチレンテレフタレート糸を使用した多軸繊維シートがある。
【0018】
本発明の積層シートの製造方法は、内層と、その両表面に接着用フィルムと、その両表面に織物層を配置して加熱加圧し、次いで冷却する。一例として、内層と、その両表面に接着用フィルムと、その両表面に織物層を配置して連続的に熱プレスし、引き続き連続的に冷却し、積層シートを連続的に製造する。熱プレス工程の雰囲気温度は120〜150℃が好ましく、さらに好ましくは130〜145℃である。加圧力は1MPa程度が好ましい。加熱時間は0.5〜5分間が好ましく、さらに好ましくは1〜4分間である。冷却工程の時間は0.5〜5分間が好ましく、さらに好ましくは1〜4分間である。冷却温度は30程度℃以下になるまでが好ましい。成形後の積層シート全体の厚みは0.5〜5mmが好ましい。連続的方法は大量生産に好ましい。
【0019】
本発明の製造方法は前記連続法に限らず、1回ごとの加熱加圧プレスと冷却法によっても製造できる。サンプルを作製したり、小規模に製造する際にはこの方法で十分である。この方法の製造条件も前記連続法と同様である。
【0020】
次に図面を用いて説明する。以下の図面において、同一符号は同一部を示す。図1は本発明の一実施態様の積層シートの模式的断面図である。この積層シート6は、内層1の両表面に接着層2a,2を介して織物層3a,3bが貼り合わされ一体化されている。
【0021】
図2は本発明の別の実施態様の積層シートの模式的断面図である。この積層シート7は、内層1の両表面に接着層2a,2を介して織物層3a,3bと、さらに接着層4a,4bを介してポリプロピレン系樹脂層(表皮層)5a,5bが積層一体化されている。表皮層は透明とし、内部の織物の織模様の外観とすることもできる。また、表皮層には様々な模様を印刷したり着色することもできる。
【0022】
図3は本発明の一実施態様における積層シートの製造装置10を示す模式的断面図である。この積層シートの製造装置10は、原料シートの供給ロール14,15a,15b,16a,16bと、加熱加圧領域20と、冷却領域21から構成され、全体は連続的に動く。まず内層(コア)は供給ロール14a,14bから、接着用フィルムは供給ロール15a,15bから、織物は供給ロール16a,16bからそれぞれ加圧ロール17a,17bに供給される。加圧ロール17a,17b及び22a,22bには金属製板18,19がエンドレス状に組み込まれており、まず加熱加圧領域20で加圧加熱される。次に、冷却領域21では冷却用エアーが矢印aから供給され矢印bから排出されることにより冷却される。効率の良い冷却をする場合は、冷却用エアーに加えて冷却領域21に水冷パイプを配置して冷却する。加圧ロール22a,22bから取り出された積層シート23は所定の長さにカットされる。
【0023】
図4は本発明の一実施態様の積層シートを真空成形した成形体の模式的斜視図である。横の最大長さ260mm,奥行きの最大長さ170mm,高さ500mmの成形体の例である。この積層シートは深絞り成形できる利点がある。さらに、この積層シートは全体が熱可塑性樹脂であり、真空成形、プレス成形、熱変形を利用した曲げ加工成形等において、成形サイクルが短く、加工コストも安価である。
【実施例】
【0024】
以下実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。なお本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0025】
<曲げ弾性率と曲げ応力の測定方法>
JISK7171に準拠した3点曲げ試験で測定した。試験片サイズは幅20mm、長さ50mm、試験速度は1mm/minとした。押さえジグの形状はR5、支点の形状はR2、支点間隔24mmとした。
【0026】
(実施例1、参考例
<内層(コア層)>
内層(コア層)として市販のランダムタイプポリプロピレン(RPP)シート、融点145℃、厚み500μm、単位面積当たりの重量450g/m2を使用した。
<織物>
織物層として芯成分が融点160℃のポリプロピレン、鞘成分がポリプロピレンとポリエチレンのブレンド品(融点110℃)からなる芯鞘複合繊維を使用した。この複合繊維の複合割合は、芯成分65wt%、鞘成分35wt%、トータル繊度は1850 deci texであった。織物は綾織組織とし、単位面積当たりの重量(目付)は190g/m2であった。
<接着フィルム>
市販の低密度ポリエチレン(LLDPE)、融点110℃、厚み30μm、単位面積当たりの重量27g/m2を使用した。
<積層シートの作成>
内層(コア層)の両面に接着フィルムと織物をこの順番に積層し、温度145℃、圧力1Mpa、2分間プレス成形し、その後室温(27℃)まで冷却した。これにより接着フィルムを溶着させて全体を一体化し、積層シートを得た。この積層シートの模式的断面図は図1に示すとおりである。
【0027】
得られた積層シートの曲げ弾性率と曲げ応力を表1にまとめて示す。
【0028】
(実施例2、参考例
織物層の芯成分として融点が165℃のポリプロピレンを使用し、鞘成分として融点が150℃のポリプロピレンを使用し、積層シートの条件を温度152℃、圧力1Mpa、1分間プレス成形した以外は実施例1と同様に実施した。得られた積層シートの物性は表1にまとめて示す。
【0029】
(実施例3)
実施例1における織物層の外側に実施例1に記載した接着フィルムを載せ、その上に表皮層としてホモポリマータイプポリプロピレン(HPP,融点160℃):25wt%とランダムタイプポリプロピレン(RPP,融点145℃):75wt%をブレンドした厚み200μm、単位面積当たりの重量180g/m2を積層し、プレス成形時間を1分間とした以外は実施例1と同様に実施した。この積層シートの模式的断面図は図2に示すとおりである。得られた積層シートの物性は表1にまとめて示す。
【0030】
(比較例1)
比較例1として実施例1の内層(コア層)の物性を表1にまとめて示す。なお、各例の曲げ弾性率及び曲げ応力のデータはMD(長さ方向)のデータである。
【0031】
【表1】
【0032】
表1から明らかなとおり、本発明の実施例品は曲げ弾性率と曲げ応力が高く、層間剥離はなく、軽量であり、曲げに対する物理的強度も高い積層シートであった。また、この積層シートは熱可塑性であり、真空成形、プレス成形、熱変形を利用した曲げ加工成形等に好適で、安価な成形体であった。さらに、織物層は熱融着ポリオレフィン系フィルムを介して内層に接着しているため、後に加熱して成形しても織物を構成する繊維の収縮はなく、織物の美しい織柄がそのまま積層シートの表面に現れる成形体とすることができた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の積層シートを用いた成形品は、自動車部品、自動車内装品、家電製品、医療用保護具、スーツケース、容器、棚、パレット、パネル、バッグ、自動倉庫用スリーブボックス、ドア、ロール回収用長尺ボックス、畳の芯材、展示ブース様壁材、Tボード(トラック用当て板)、簡易テーブルセット等の民生用積層品に適用できる。
【符号の説明】
【0034】
1 内層(コア層)
2a,2b 接着層
3a,3b 織物層
4a,4b 接着層
5a,5b 表皮層
6,7,23 積層シート
10 積層シート製造装置
14a,14b,15a,15b,16a,16b 供給ロール
17a,17b,22a,22b 加圧ロール
18,19 金属製板
20 加熱加圧領域
21 冷却領域
図1
図2
図3
図4