(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
図1に、ホーニング加工装置の基本的な構造を例示する。ホーニング加工装置は、ワークWに形成された穴Hの内周面を研磨するのに用いられ、自動車部品等の製造分野で多用されている。
【0003】
ホーニング加工装置には、一般に、ホーニングツール101、ツール駆動装置102、昇降装置103などが備えられている。ホーニングツール101の先端部分(ヘッド部101a)には、複数の砥石部材104が放射状に配置されており、そのヘッド部101aが、昇降装置103の駆動によって穴Hに出入りする。ヘッド部101aは、ツール駆動装置102の回転駆動部102aの駆動により、一定の方向に高速で回転し、各砥石部材104の外面が穴Hの内周面に接することによって研磨が行われる。各砥石部材104の外面が形成する円形の軌跡は、径方向に拡張又は収縮するようになっている。
【0004】
詳しくは、ヘッド部101aの内部中央に、略円錐状のコーン105が配置されており、各砥石部材104は、中心側に付勢された状態で、そのコーン105の外周面に接している。ツール駆動装置102のスライド駆動部102bの駆動によってコーン105は上下にスライドする。コーン105が下降すると、各砥石部材104が押し出され、各砥石部材104の外面が形成する円形の軌跡は、径方向に拡張する。
【0005】
このようなホーニング加工装置の構造は、例えば、特許文献1に開示されている。
【0006】
ホーニング加工は、通常、粗研磨や仕上研磨など、複数段階の研磨を経て行われる。そのため、1つのホーニングツールで2種類の研磨が行えるように、ヘッド部に粗研磨用と仕上げ研磨用の2種類の砥石を備えたホーニング加工装置がある(特許文献2,3)。
【0007】
そこでは、粗研磨用の複数の砥石と、仕上げ研磨用の複数の砥石とが、円周方向に交互に配置されていて、それぞれの突出量を個別に調整することによって研磨する砥石の切替が可能となっている。具体的には、粗研磨用の複数の砥石を径方向に変位させるコーンの内部に、仕上げ研磨用の複数の砥石を径方向に変位させるコーンが配置されている。これら2つのコーンを、内外二重に配置された2本の拡張ロッドで個別にスライド変位させている(ダブルコーン構造)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2や特許文献3のようなダブルコーン構造は、2つのコーンを組み込みこんで個別に駆動させる必要があるため、構造の複雑化は避けられない。更に、コーンを駆動する駆動装置も個別に必要になり、より構造が複雑になることに加え、部材点数も増加する。
【0010】
そこで、本発明の目的は、構造が簡素になるように工夫しながら1つのコーンで複数種の砥石の切り替えができるようにし、小型化に適したコンパクトなホーニング加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
開示するホーニング加工装置は、研磨する砥石を機械的に切り替えることができるホーニング加工装置である。このホーニング加工装置は、第1及び第2の砥石群を有するホーニングツールと、前記ホーニングツールを駆動するツール駆動装置と、前記ツール駆動装置を駆動制御する制御装置と、を備える。
【0012】
前記ホーニングツールは、円筒状の周壁を有するヘッド部と、前記ヘッド部と一体的に同軸に連なって軸回りに回転可能な中空の主軸部と、前記主軸部の内部に収容され、当該主軸部から独立して軸方向にスライド可能かつ軸回りに回転可能なロッドと、を有している。
【0013】
前記ツール駆動装置は、前記ヘッド部及び前記主軸部を軸回りに回転させる回転部と、前記ロッドを軸方向にスライドさせるスライド部と、を有している。前記制御装置は、研磨する砥石を、前記第1及び第2の砥石群のいずれかに切り替える切替手段を有している。
【0014】
前記ヘッド部は、前記ヘッド部の内部に配置され、前記ロッドと共にスライド及び回転するコーン部と、前記コーン部の周囲に放射状に配置され、前記周壁を貫通する複数の開口から先端を突出させた状態で径方向に変位可能な複数の支持部材と、を有している。前記複数の支持部材は、前記第1の砥石群の各砥石を、それぞれ先端に有する第1の支持部材群と、前記第2の砥石群の各砥石を、それぞれ先端に有する第2の支持部材群と、を含む。前記コーン部に、前記第1又は第2の支持部材群の基端が出入可能な複数の凹部と、前記第1又は第2の支持部材群の基端が接触可能な複数のテーパ部と、が、周方向に一定の配置で設けられている。
【0015】
そして、前記切替手段が、前記ヘッド部と前記コーン部とを相対的にスライド及び回動させることにより、前記第1及び第2の支持部材群のうち、いずれか一方の基端を、前記複数の凹部に入り込む退避位置に誘導して、対応した前記第1及び第2の一方の砥石群を研磨不能にするとともに、他方の基端を、前記複数のテーパ部に接触する使用位置に誘導して、前記第1及び第2の他方の砥石群を研磨可能にする。
【0016】
すなわち、このホーニング加工装置によれば、第1及び第2の砥石群の各砥石を径方向に変位させるコーン部に、研磨可能にするテーパ部と、研磨不能にする凹部とが、周方向に一定の配置で設けられていて、切替手段が、コーン部を相対的にスライド及び回動させることによってテーパ部と凹部とを入れ替える。
【0017】
従って、従来備えられていた駆動装置を利用しながら、1つのコーンで、第1と第2の砥石の切り替えができるので、構造を簡素にできるし、部品点数の増加も回避できる。ホーニングツールの全体がコンパクトになるので、小型機種に好適である。
【0018】
具体的には、前記主軸部と前記ロッドとの間に、切替機構が設けられている。前記切替機構は、周方向に一定の間隔を隔てて軸方向に延びる第1及び第2のガイド穴と、前記第1及び第2のガイド穴に入って移動可能な係合ピンと、を有している。
【0019】
前記第1のガイド穴に入って前記係合ピンが移動することにより、前記コーン部がスライド可能かつ回動不能に規制されて、使用位置に位置する前記第1の支持部材群の径方向への変位が可能になり、前記第2のガイド穴に入って前記係合ピンが移動することにより、前記コーン部がスライド可能かつ回動不能に規制され、使用位置に位置する前記第2の支持部材群の径方向への変位が可能になる。
【0020】
前記第1と第2のガイド穴の間に、これらの間での前記係合ピンの移動を可能にする切替穴が設けられている。前記切替手段が、前記ヘッド部と前記コーン部とを相対的にスライドさせることにより、前記係合ピンを前記切替穴の入口に位置決めし、前記ヘッド部と前記コーン部とを相対的に回動させることにより、前記係合ピンを前記第1ガイド穴と前記第2ガイド穴との間を移動させる。
【0021】
このような切替機構を設けることで、より構造の簡素化を図りながら、安定した切替処理が実現できる。
【0022】
より具体的には、砥石の切替時に回動する前記主軸部に伴って、前記ロッドが回動するのを防止する、連れ回り防止機構を設けるのが好ましい。
【0023】
そうすれば、主軸部の回動に伴ってロッドが連れ回るのを防止することができるので、効率的かつ安定的に、切替処理を実行できる。
【0024】
例えば、前記連れ回り防止機構は、前記ロッドに取り付けられ、端部に凹みが形成された円筒状のストップリングと、前記主軸部及び前記ロッドから独立して変位不能に設けられたストップピンと、を有し、前記係合ピンが前記切替穴の入口に位置決めされたときに、前記凹みに前記ストップピンが嵌まり込むように、前記ストップリングが前記ロッドの所定位置に取り付けられているものとすればよい。
【0025】
そうすれば、簡素な構造で連れ回り防止機構を実現できる。
【0026】
特に、前記ストップリングが、前記所定位置から後退可能であるとともに、前記所定位置に向かってバネ部材で付勢されているようにするのが好ましい。
【0027】
そうすれば、切替処理時に、主軸部が必要以上に回転すると、ストップピンがストップリングから外れるため、ストップピンに過度な力が作用して破損するのを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、既存の駆動装置を活用しながら1つのコーンで複数種の砥石の切り替えができるようになるので、構造が簡素で、小型化に適したコンパクトなホーニング加工装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。
【0031】
(ホーニング加工装置の全体構成)
図2に、本実施形態のホーニング加工装置1を示す。このホーニング加工装置1は、1つのホーニングツール2で、粗研磨と仕上げ研磨の2つの段階を、自動的に切り替えて加工できるように構成されている。更に、小型機種にも容易に適用できるように、構造が工夫され、部材点数の削減や構造の簡素化が図られている。
【0032】
ホーニング加工装置1は、ホーニングツール2、ツール駆動装置3、制御装置4などで構成されており、ツール駆動装置3には、回転部3a、スライド部3bなどが備えられている。
【0033】
ホーニングツール2は、ヘッド部2a、主軸部2b、ロッド2cなどで構成されている。主軸部2bは、中空の軸部材からなり、その中心を回転軸Jに一致させた状態で上下方向に延びている。主軸部2bの内部には、ロッド2cが、その中心を回転軸Jに一致させた状態で収容されている。なお、回転軸Jが延びる方向は必ずしも上下には限らないが、通常は上下方向であるため、説明では上下方向とする。
【0034】
主軸部2bの上端部分は、ツール駆動装置3に、回転軸J回りに回転可能に支持されている。また、ロッド2cの上端部分は、スライド部3bに連結されている。スライド部3bは、ロッド2cを回転可能な状態で支持するとともに、ロッド2cをスライドさせる機能を有している。それにより、ロッド2cは、主軸部2bから独立して回転軸J方向にスライド可能かつ回転軸J回りに回転可能となっている。
【0035】
主軸部2bの上端部分と、ロッド2cの上端部分との間には、研磨する砥石を切り替える切替機構50が設けられている(切替機構50の詳細は後述)。
【0036】
主軸部2bの下端には、ヘッド部2aが設置されている。ヘッド部2aは、円筒状の周壁21を有し、その中心を回転軸Jに一致させた状態で、主軸部2bと一体に構成されている。主軸部2bとヘッド部2aとの間には、両者の分離を可能にする着脱装置などが介在していてもよい。ヘッド部2aには、コーン部25、粗研磨用の複数の砥石31a(第1砥石群)、仕上げ研磨用の複数の砥石32a(第2砥石群)などが備えられている(ヘッド部2aの詳細については後述)。
【0037】
ツール駆動装置3は、ホーニングツール2を駆動する機能を有し、ホーニングツール2と共に、ホーニング加工装置1の本体に設けられた昇降装置1aに昇降可能に支持されている。
【0038】
回転部3aは、モータやチェーン、スプロケットなどで構成されており、主として、研磨処理時に、主軸部2b及びヘッド部2aを回転軸J回りに回転させる。なお、ホーニング加工装置は、一定方向にのみ回転(正転)するのが通常であるが、このホーニング加工装置1では、砥石の切替処理を行うために、逆転も可能となっている。
【0039】
昇降装置1a、回転部3a、及びスライド部3bなど、ホーニング加工装置1に設置されている駆動部材は、制御装置4によって総合的に駆動制御されている。例えば、制御装置4には、一連の研磨処理を実行する加工プログラム、研磨する砥石を切り替える切替処理を実行する切替プログラム4a(切替手段)など、各種制御プログラムが実装されている。
【0040】
(ヘッド部)
図3に、コーン部25を示す。コーン部25は、頂部を下に向けた円錐形状のコーン体25aが上下二段に連なる構造体からなり、ロッド2cの下端に一体に連なって、周壁21で囲まれたヘッド部2aの内部中央に配置されている。それにより、コーン部25は、ロッド2cと共にスライド及び回転する。
【0041】
各コーン体25aには、複数(本実施形態では5個)の凹部26と、複数(本実施形態では5個)のテーパ部27とが設けられている。詳しくは、各凹部26は、回転軸J方向に延びる長溝からなり、周方向に等間隔で放射状に配置されている。テーパ部27は、隣接する凹部26の間の部分によって構成されており、周方向に等間隔で放射状に配置されている。テーパ部27は、回転軸Jに対して傾斜した傾斜面を有している。
【0042】
図4に示すように、コーン部25の周囲には、プレート形状を有する複数(本実施形態では10個)の支持部材30が放射状に配置されている。周壁21には、周方向に等間隔で複数の開口21aが形成されており、各支持部材30の先端部分はこれら開口21aを通じて周壁21の外側に突出している。
【0043】
各支持部材30の先端に、粗研磨用及び仕上げ研磨用の各砥石31a,32aが設置されている。具体的には、5個の粗研磨用の砥石31aと5個の仕上げ研磨用の砥石32aとが周方向に交互に等間隔で配置されている。それにより、本実施形態の支持部材30は、粗研磨用の各砥石31aをそれぞれ先端に有する5個の第1支持部材31(第1の支持部材群)と、仕上げ研磨用の各砥石32aをそれぞれ先端に有する5個の第2支持部材32(第2の支持部材群)とで構成されている。
【0044】
各支持部材30は、ヘッド部2aに、径方向にスライド変位可能に支持されており、バネやゴム等の弾性部材により、径方向内側に引き込まれるように常時付勢されている。各支持部材30の基端には、コーン部25の上下の各テーパ部27の傾斜面と略同一の傾斜角度を有し、これらと対向し得る接触部33が形成されている。
【0045】
各支持部材30の基端は、各凹部26に出入り可能であるとともにテーパ部27に接触可能となっている。
図4では、各第1支持部材31は、各凹部26に入り込み、各第2支持部材32は、各テーパ部27に接触した状態を表している。各支持部材30の基端が凹部26に入り込むと、その先端が引っ込んで研磨不能な状態となる(退避位置)。それに対して、基端がテーパ部27に接触している各支持部材30の先端は、相対的に径方向外側に突出し、研磨可能な状態となる(使用位置)。
【0046】
図4には、使用位置において各第2支持部材32が最も引っ込んだ状態を実線で表している(原点)。使用位置にある各第2支持部材32は、コーン部25が原点から下方にスライド変位することにより、テーパ部27によって径方向外側に徐々に押し出される。それにより、これら各第2支持部材30の外面によって形成される円形の軌跡は、径方向に拡張することとなる。
【0047】
更に、このホーニング加工装置1では、コーン部25が、
図4の(b)に仮想線で示すような切替点まで変位(上昇)できようになっている。コーン部25が切替点に至ると、各支持部材30の基端は、凹部26及びテーパ部27から離れた状態となり、コーン部25は、各支持部材30から独立して回動可能になる。なお、コーン部25の変位にはバネの弾性力が利用されている。
【0048】
そして、コーン部25が切替点から変位(下降)すれば、
図4に実線で示す元の状態に復帰する。その際、切替点において、コーン部25を、所定の角度(切替角度:360°/支持部材30の総数、本実施形態の場合は36°)だけ回転することで、両支持部材群の使用位置と退避位置との変更が可能になり、研磨する砥石を、粗研磨用と仕上げ研磨用の砥石31a,32aのいずれかに切り替えることができる。
【0049】
このホーニング加工装置1では、簡素な構造で、その砥石31a,32aの切替処理が自動的に行えるように工夫されている。すなわち、砥石31a,32aの切替には、コーン部25を切替位置にスライドさせる処理と、コーン部25を所定角度回転させる処理とが求められる。それに対し、これら処理の駆動源として、ホーニング加工装置に当初から備わる回転部3a及びスライド部3bを利用することで、部材点数の増加や構造の複雑化を回避している。
【0050】
更に、構造の簡素化を図りながら安定した研磨及び切替ができるように、切替機構50が設けられている。
【0051】
(切替機構50)
図5及び
図6に、主軸部2b及びロッド2cの上端部分の構造を示す。
図5に示すように、主軸部2bの上端部分は、上下に間を隔てて配置されたベアリング対51,51を介して、ツール駆動装置3に備えられた支持円筒体3cに回転可能に支持されている。ロッド2cの上端部分は、主軸部2bの上端よりも更に上方に延びて、スライド部3bに連結されている。主軸部2bの上端近傍におけるロッド2cの部分には、また、連れ回り防止機構70が設けられている(連れ回り防止機構70の詳細については後述)。
【0052】
切替機構50は、係合ピン52と、係合ピン52と係合する係合穴53とを有している。係合穴53は、第1のガイド穴53a、第2のガイド穴53b、及び切替穴53cで、略H形状に形成されている。切替プログラム4aの制御に従い、切替機構50は、回転部3a及びスライド部3bと協働して砥石31a,32aの切替処理を実行する。本実施形態では、一対の切替機構50,50が設けられていて、これら切替機構50,50は回転軸Jに対して対称状に配置されている(便宜上、一方の切替機構50について説明する)。
【0053】
係合ピン52は、丸棒状の部材からなり、ロッド2cの外周面から径方向外側に延びるように、ロッド2cに固定されている。
【0054】
第1及び第2のガイド穴53a,53bは、それぞれ、主軸部2bに形成された回転軸J方向に延びる長穴からなり、周方向に一定の間隔(切替角度)を隔てて位置している。そして、これら第1のガイド穴53aと第2のガイド穴53bとの間に、これらガイド穴53a,53bに連通して周方向に延びる切替穴53cが形成されている。
【0055】
第1及び第2のガイド穴53a,53bは、粗研磨用及び仕上げ研磨用の各砥石31a,32aの拡張に用いられ、切替穴53cは、研磨する砥石の切替に用いられる。
【0056】
切替穴53cに通じる入口53dは、第1及び第2の各ガイド穴53a,53bの、対向する側面の上側部分に開口している。係合ピン52は、係合穴53の内径より僅かに小径であり、その先端部分は係合穴53に挿入されている。従って、係合ピン52の移動は係合穴53によって規制される。
【0057】
第1のガイド穴53aは、各第1支持部材31を使用位置に位置させるとともに、各第2支持部材32を退避位置に位置させた状態で、各第1支持部材31を径方向に変位させる機能を有している。すなわち、係合ピン52が第1のガイド穴53aに入っている時には、粗研磨処理が行われる。
【0058】
第2のガイド穴53bは、各第2支持部材32を使用位置に位置させるとともに、各第1支持部材31を退避位置に位置させた状態で、各第2支持部材32を径方向に変位させる機能を有している。すなわち、係合ピン52が第2のガイド穴53bに入っている時には、仕上げ研磨処理が行われる。
【0059】
図6は、係合ピン52が、ガイド穴(本実施形態では、第2のガイド穴53b)において原点に位置した状態を表している。切替穴53cの入口53dは、その原点よりも上方に離れた位置に配置されている。すなわち、研磨する砥石を拡張する際、コーン部25がスライドするのに伴って係合ピン52が移動する範囲は、各ガイド穴53a,53bにおける下側の範囲に限られる。
【0060】
そのため、研磨処理時には、コーン部25は、回転軸J方向にスライド可能であるが、回転軸J回りの回動は規制されるため、従来機種と変わることなく研磨処理を行うことができる。この点、第1のガイド穴53aも同様である。
【0061】
(連れ回り防止機構70)
切替処理時には、ロッド2cに対して主軸部2bを相対的に回動させる必要がある。それに対し、ロッド2cは、主軸部2bとは独立して回転可能であるため、連れ回り防止機構70は、切替処理時に、回動される主軸部2bに伴ってロッド2cが回動(連れ回り)するのを防止し、切替処理を効率的にする機能を有している。
【0062】
連れ回り防止機構70は、ストップピン71、ストップリング72などで構成されている。
【0063】
ストップピン71は、
図5に示すように、主軸部2b及びロッド2cから独立した状態で、支持円筒体3cに固定されている。ストップピン71は、一対で構成され、支持円筒体3cの内面から径方向内側に対向して延びており、その先端はロッド2cの近傍に位置している。
【0064】
ストップリング72は、円筒状の部材からなり、ロッド2cの周囲に装着されている。ロッド2cにおけるストップリング72の装着部位には、径方向に貫通し、軸方向に長い断面を有する縦長開口73が形成されている。ストップリング72には、この縦長開口73に挿通された規制ピン74の両端部が固定されている。
【0065】
それにより、ストップリング72は、ロッド2cに対して、回動不能となっているが、
図7の右側に示すように、規制ピン74が縦長開口73の上端に当たった状態(所定位置)と、
図7の左側に示すように、規制ピン74が縦長開口73の下端に当たった状態との間で、回転軸J方向にスライド可能となっている。
【0066】
ロッド2cにおけるストップリング72の下側には、ロッド2cに固定された環状のバネ止め75に支持されたコイルバネ76が取り付けられている。それにより、ストップリング72は、常時、所定位置に向かって弾性力で付勢されており、所定位置からコイルバネ76の弾性力に抗してストップリング72を下方に後退させることができる。
【0067】
図8にも示すように、ストップリング72の上端部には、各ストップピン71に対応して2つの凹み72a,72aが形成されている。これら凹み72a,72aは、ストップピン71の外径よりも大きな内径の湾曲形状に形成されている。
【0068】
(切替処理の動作)
研磨する砥石を切り替える処理は、切替指示に基づき、切替プログラム4aが、回転部3a及びスライド部3bを駆動制御することによって実行される。
【0069】
図8は、
図6にも示したように、係合ピン52が第2のガイド穴53bに入っている仕上げ研磨処理時の状態を示している。ここでは、研磨する砥石を、仕上げ研磨用の各砥石32aから粗研磨用の各砥石31aに切り替える処理について、
図8〜
図11を参照しながら説明する。
【0070】
切替処理の第1ステップとして、スライド部3bが、
図8に矢印で示すように、ロッド2c及び係合ピン52をスライドさせる。コーン部25もそれと同時にスライドし、
図4の(b)で仮想線で示した切替点に変位する。
【0071】
図9は、切替点に至った状態を示している。このとき、係合ピン52は、切替穴53cの入口53dと対向する位置に位置決めされる。それと同時に、ストップリング72の凹み72aに、ストップピン71が嵌まり込む。
【0072】
第2ステップとして、回転部3aが、主軸部2bを、少なくとも切替角度以上に低速で回転させる。このホーニング加工装置1の場合、切替角度以上であれば、例えば1回転、複数回転させてもよい。それにより、切替穴53cを通じて第1のガイド穴53aへ係合ピン52を移動させ、
図10に示す状態(第1のガイド穴53aにおける切替点)まで主軸部2bを回動させる。
【0073】
このとき、ロッド2cに回動不能に取り付けられているストップリング72の凹み72aに、ストップピン71が嵌まり込んでいるため、主軸の回動に伴ってロッド2cが連れ回りするのが阻止される。従って、安定的に切り替えることができる。
【0074】
係合ピン52が、第1のガイド穴53aに入ると、その側面に突き当たるため、それ以上に主軸部2bがロッド2cに対して回動することはなく、コーン部25は、確実に一定の切替角度だけ相対的に回動される。
【0075】
図10の状態になると、主軸部2bはそれ以上にロッド2cに対して逆回転できなくなる。そのため、ストップリング72の凹部26とストップピン71に強い力が作用する。従って、ストップピン71がストップリング72に嵌まり込んだ状態のままで、切替角度を超えて主軸部2bを回動させると、ストップピン71等が破損する。
【0076】
それに対し、このホーニング加工装置1のストップリング72は、弾性力で付勢された状態で後退可能となっており、更に、凹み72aも抜け外れ可能な形態に形成されているため、過度な力がストップピン71に作用すると、ストップリング72が弾性力に抗して後退し、ストップピン71がストップリング72から抜け外れる。
【0077】
従って、このホーニング加工装置1では、切替時に、主軸部2bを切替角度以上に回転させることができるため、簡単な制御で安定した切替が実現できる。
【0078】
第3ステップとして、スライド部3bが、ロッド2c、係合ピン52、及びコーン部25をスライドさせ、第1のガイド穴53aにおいて、切替点から
図11に示す原点に変位させる。それに伴って、ストップピン71が、ストップリング72の凹み72aから抜け出すため、ロッド2cは、元通りに回動自在となる。
【0079】
ヘッド部2aでは、コーン部25が、ヘッド部2aに対して切替角度回転した状態で、各支持部材30の間に入り込むため、各第1支持部材31は各テーパ部27に接触し、各第2支持部材32は各凹部26に入り込む。その結果、研磨する砥石が、仕上げ研磨用の砥石32aから粗研磨用の砥石31aに切り替わる。
【0080】
研磨する砥石を、粗研磨用の各砥石31aから仕上げ研磨用の各砥石32aに切り替える場合には、上述した切替処理の各ステップを逆に行えばよい。なお、その場合、第2のステップでは、回転部3aが主軸部2bを逆回転させることになる。
【0081】
なお、本発明にかかるホーニング加工装置は、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。
【0082】
凹部26やテーパ部27の個数は任意に設定できる。また、実施形態では、周方向に等間隔で配置したが、凹部26やテーパ部27、各支持部材30群の配置は必ずしも等間隔でなくてもよい。コーン部25は、一段のコーン体25aで構成されたものであってもよい。凹み72aは、2つに限らず、1つ又は3つ以上であってもよい。
【0083】
実施形態では、係合ピン52が、第1のガイド穴53aに入っている時に粗研磨処理が行われ、第2のガイド穴53bに入っている時に仕上げ研磨処理が行われる例を示したが、係合ピン52が、第1のガイド穴53aに入っている時に仕上げ研磨処理が行われ、第2のガイド穴53bに入っている時に粗研磨処理が行わるようにしてもよい。