【文献】
J. Immunol.,2009年,vol.183, no.9,pp.5948-5956, Data Suppl., pp.1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記炎症性疾患および/または免疫不全に関連する症状が、自己免疫疾患、炎症性疾患、ならびに移植した臓器および組織の拒絶を含む免疫介在性疾患から選択される、請求項7に記載の使用。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、公知の培養培地および方法を超える著しい利点をもたらす、多能性幹細胞用の新規な培養培地および方法を提供する。本発明はまた、これに関連する培地補助剤、組成物、および使用も提供する。
【0009】
定義
本明細書の理解を容易にするため、本発明に関連する幾つかの用語および表現の意味について以下に説明する。さらなる定義は必要に応じ明細書全体を通して記載される。
【0010】
本明細書で用いられる用語「同種の」とは、同じ種の異なる個体に由来することを意味する。2以上の個体は互いに同種であるとされ、ここでは1以上の遺伝子座において遺伝子は同一でない。
【0011】
本明細書で用いられる用語「自己の」とは、同じ個体に由来することを意味する。
【0012】
細胞の「集団」との用語は、1を超えるいずれかの数の細胞であるが、好ましくは少なくとも1×10
3細胞、少なくとも1×10
4細胞、少なくとも1×10
5細胞、少なくとも1×10
6細胞、少なくとも1×10
7細胞、少なくとも1×10
8細胞、または少なくとも1×10
9細胞を意味する。本発明の好ましい実施形態によれば、最初の細胞集団における幹細胞の少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、または少なくとも95%(細胞数による%)は、未分化の多能性幹細胞である。
【0013】
用語「免疫疾患」は、被検体の免疫反応が引き起こす、細胞、組織、および/または臓器の傷害により特徴付けられる被検体の状態を指す。本明細書で用いられる用語「自己免疫疾患」とは、被検体自身の細胞、組織、および/または臓器に対する被検体の免疫反応が引き起こす、細胞、組織、および/または臓器の傷害により特徴付けられる被検体の状態を指す。本発明の免疫調節性細胞によって治療可能な自己免疫疾患の実例としては、円形脱毛症、強直性脊椎炎、抗リン脂質症候群、自己免疫性アジソン病、副腎の自己免疫疾患、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性肝炎、自己免疫性卵巣炎および精巣炎、自己免疫性血小板減少症、ベーチェット病、水疱性類天疱瘡、心筋症、セリアックスプルー皮膚炎、慢性疲労免疫不全症候群(CFlDS)、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー、チャーグ・ストラウス症候群、瘢痕性類天疱瘡、クレスト症候群、寒冷凝集素症、円板状ループス、本態性混合型クリオグロブリン血症、線維筋痛−線維筋炎、糸球体腎炎、グレーブス病、ギラン・バレー症候群、橋本甲状腺炎、特発性肺線維症、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、IgA神経障害、若年性関節炎、扁平苔癬、メニエール病、混合性結合組織病、多発性硬化症、1型または免疫介在性糖尿病、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、悪性貧血、結節性多発動脈炎、多発性軟骨炎、多腺性症候群、リウマチ性多発筋痛症、多発性筋炎および皮膚筋炎、原発性無ガンマグロブリン血症、原発性胆汁性肝硬変、乾癬、乾癬性関節炎、レイノー現象、ライター症候群、サルコイドーシス、強皮症、進行性全身性硬化症、シェーグレン症候群、グッドパスチャー症候群、スティッフマン症候群、全身性エリテマトーデス、紅斑性狼瘡、高安動脈炎、側頭動脈炎/巨細胞性動脈炎、潰瘍性大腸炎、ぶどう膜炎、疱疹状皮膚炎および脈管炎のような脈管炎、白斑、ウェゲナー肉芽腫症、抗糸球体基底膜病、抗リン脂質症候群、神経系の自己免疫疾患、家族性地中海熱、ランバート・イートン筋無力症症候群、交感性眼炎、多腺性内分泌障害、乾癬などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0014】
用語「免疫介在性炎症性疾患」は、正常な免疫応答の調節不全、例えばクローン病、1型糖尿病、関節リウマチ、炎症性腸疾患、乾癬、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、全身性エリテマトーデス、橋本病、移植片対宿主病、シェーグレン症候群、悪性貧血、アジソン病、強皮症、グッドパスチャー症候群、潰瘍性大腸炎、自己免疫性溶血性貧血、不妊、重症筋無力症、多発性硬化症、バセドウ病、血小板減少性紫斑病、ギラン・バレー症候群、アレルギー、喘息、アトピー性疾患、動脈硬化、心筋炎、心筋症、糸球体腎炎、低形成性貧血、および臓器移植後の拒絶によりもたらされるか、これらと合併するか、あるいはこれらにより誘発される、慢性または急性の炎症によって特徴付けられる任意の疾患を意味する。
【0015】
本明細書に記載される本発明の目的のために、「免疫不全」には自己免疫疾患および免疫介在性疾患が含まれる。
【0016】
用語「炎症性疾患」は、炎症、例えば慢性炎症により特徴付けられる被検体の状態を指す。炎症性疾患の実例としては、セリアック病、関節リウマチ(RA)、炎症性腸疾患(IBD)、喘息、脳炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、炎症性骨溶解、アレルギー性疾患、敗血症性ショック、肺線維症(例えば特発性肺線維症)、炎症性脈管炎(例えば結節性多発動脈炎、ウェゲナー肉芽腫症、高安動脈炎、側頭動脈炎、およびリンパ腫様肉芽腫症)、外傷後の血管形成(例えば血管形成後の再狭窄)、未分化脊椎関節症、未分化関節症、関節炎、炎症性骨溶解、慢性肝炎、および慢性のウイルスまたは細菌感染からもたらされる慢性炎症が挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
細胞集団に適用される用語「分離された」は、ヒトまたは動物の体から分離され、in vivoまたはin vitroにおいて前記細胞集団に関連する1以上の細胞集団が実質的に存在していない細胞集団を指す。
【0018】
用語「MHC」(主要組織適合抗原複合体)は、細胞表面の抗原提示タンパク質をコードする遺伝子のサブセットを指す。ヒトにおいて、これらの遺伝子はヒト白血球抗原(HLA)遺伝子と称される。本明細書では、略語MHCまたはHLAは互換的に用いられる。用語「被検体」は、動物、好ましくは非霊長類(例えば雌ウシ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ラット、またはマウス)および霊長類(例えばサルまたはヒト)を含む哺乳類を指す。好ましい実施形態によれば、被検体はヒトである。
【0019】
用語「免疫調節性」は、免疫系における1以上の生物活性の阻害または減少を指し、免疫応答および炎症状態のダウンレギュレーション、ならびにサイトカインプロファイル、細胞傷害活性、および抗体産生における変化が含まれるが、これらに限定されない。用語「抗原特異的免疫調節性」は、特異的抗原、または同種抗原および自己抗原の両方を含む抗原に関連する免疫系における1以上の生物活性の阻害または減少を指す。
【0020】
本明細書で用いられる、細胞表面マーカーに関して用いられる「陰性」または「−」は、細胞集団において20%未満、10%未満、好ましくは9%未満、8%未満、7%未満、6%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満の細胞が前記マーカーを発現しているか、またはどの細胞も発現していないことを意味するものとする。細胞表面マーカーの発現は、例えば従来の方法および装置を用いて(例えば市販の抗体および当該技術分野における公知の標準的プロトコルと共に用いられるBeckman Coulter Epics XL FACSシステム)、特異的な細胞表面マーカーに対するフローサイトメトリーによって決定されてよい。
【0021】
本明細書で用いられる用語「幹細胞」は、複数の異なった種の細胞を生じることのできる細胞を意味する。
【0022】
用語「間葉幹細胞」または「MSC」は、元々は間葉に由来する幹細胞を意味するものとする。この用語は骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、または筋細胞のうち少なくとも2つ以上に分化可能な細胞を指す。MSCはどのような種類の組織からも分離され得る。MSCは一般に骨髄、脂肪組織、臍帯、または末梢血から分離される。本発明において用いられるMSCは、幾つかの実施形態では、骨髄(BM−MSC)または脂肪組織(ASC)から分離され得る。本発明の好ましい態様によれば、MSCは脂肪組織から得られる脂肪吸引組織自体から得られる。
【0023】
本明細書で用いられる用語「多能性(multipotent)」(「多能性(pluripotent)」としても知られる)は、異なった系統の複数種の細胞を生じることが可能な細胞を意味する。
【0024】
本明細書で用いられる表現である「有意な発現」、またはそれと同等な用語である「陽性」および「+」が細胞表面マーカーに関して用いられる場合、細胞集団において20%を超える細胞、好ましくは30%を超える細胞、40%を超える細胞、50%を超える細胞、60%を超える細胞、70%を超える細胞、80%を超える細胞、90%を超える細胞、95%を超える細胞、98%を超える細胞、99%を超える細胞、または全ての細胞が前記マーカーを発現していることを意味する。
【0025】
細胞表面マーカーの発現は、例えば従来の方法および装置を用いて(例えば市販の抗体および当該技術分野における公知の標準的プロトコルと共に用いられるBeckman Coulter Epics XL FACSシステム)、特異的な細胞表面マーカーに対するフローサイトメトリーによって決定されてよく、この方法および装置は、フローサイトメトリーにおいて、従来の方法および装置を用いた(例えば市販の抗体および当該技術分野における公知の標準的プロトコルと共に用いられるBeckman Coulter Epics XL FACSシステム)バックグラウンドシグナルを超える、特異的な細胞表面マーカーに対するシグナルを示す。バックグラウンドシグナルは、従来のFACS分析において各表面マーカーを検出するために用いられる特異的抗体と同じアイソタイプの非特異的抗体によって得られるシグナル強度として定義される。陽性であるとみなされるマーカーは、観察される特異的シグナルが、従来の方法および装置を用いた(例えば市販の抗体および当該技術分野における公知の標準的プロトコルと共に用いられるBeckman Coulter Epics XL FACSシステム)バックグラウンドシグナル強度よりも20%強く、好ましくは30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、500%、1000%、5000%、10000%、またはそれを超えて強い。
【0026】
さらに、関連する細胞を同定するために、前記細胞表面マーカー(例えば細胞受容体および膜貫通型タンパク質)に対する、市販されている既知のモノクローナル抗体を用いることができる。
【0027】
本明細書で用いられる用語「治療する」、「治療」、および「治療すること」が患者または被検体に関連して直接用いられる場合、これは、炎症性疾患、自己免疫疾患、または移植した臓器および組織の拒絶を含む免疫介在性疾患を含むがこれらに限定されない疾患に関連する1つ以上の症状の改善を意味するものとし、ここで前記改善は、本発明の免疫調節性細胞、または本発明の免疫調節性細胞を含む医薬組成物を、前記治療を必要としている被検体へ投与することによりもたらされる。
【0028】
本明細書で用いられる用語「修復」および「修復すること」が損傷組織に関連して直接用いられる場合、これは、損傷組織の再生のような直接的機序、および炎症の減少によって組織形成を可能にするような間接的機序の両方による、このような損傷の改善を意味する。
【0029】
本明細書で用いられる用語「誘導因子」がリガンドに関連して用いられる場合、これは、前記リガンドの産生の増大をもたらす1つまたは複数の化学物質を意味する。
【0030】
本明細書で用いられる用語「細胞療法」は、損傷組織または臓器の置換または修復、免疫反応の調節、および炎症症状の減少などこれらに限定されない疾患または障害に関連する1つ以上の症状を予防、治療、または改善するためのヒトまたは動物細胞の移植を意味する。
【0031】
本明細書で用いられる用語「BCMA」は、配列番号3のアミノ酸配列に少なくとも85%同一(好ましくは少なくとも90%、95%、98%、99%、または100%同一)な配列を含むポリペプチドを意味する。
【0032】
本明細書で用いられる用語「TACI」は、配列番号4のアミノ酸配列に少なくとも85%同一(好ましくは少なくとも90%、95%、98%、99%、または100%同一)な配列を含むポリペプチドを意味する。
【0033】
本発明は、BCMAおよびTACIのリガンドおよび/またはその誘導因子の使用により多能性幹細胞の培養が改善されることを開示する。従って、本発明の培地はBCMAおよびTACIのリガンドおよび/またはその誘導因子を含んでよく、さらに本発明は、多能性幹細胞の培養のためのBCMAおよびTACIのリガンドおよび/またはその誘導因子の使用を提供する。
【0034】
「BCMAおよびTACIのリガンド」は、少なくとも1つのBCMAアイソフォームおよび少なくとも1つのTACIアイソフォームに結合する化学物質である。ある物質がリガンドであるか否かを決定するための様々な方法が知られており、それらを本発明と併用してもよい。
【0035】
特に好ましいものはBCMAおよびTACIのアゴニストである。「BCMAおよびTACIのアゴニスト」は、少なくとも1つのBCMAアイソフォームおよび少なくとも1つのTACIアイソフォームに結合し、生理的応答を誘発する化学物質である。
【0036】
特に好ましい本発明によるBCMAおよびTACIのリガンドはBAFFおよびAPRILである。
【0037】
本明細書で用いられる「BAFF」は、BAFFアミノ酸に対して少なくとも85%同一(好ましくは少なくとも90%、95%、98%、99%、または100%同一)な配列を含むポリペプチドである。好ましい実施形態によれば、BAFFは、BAFFにおけるTNF様ドメインの全てまたは大部分(例えば少なくとも85%、90%、95%、またはそれを超える)を含む可溶性ポリペプチドである。
【0038】
天然に存在する完全長ヒトBAFFのアミノ酸および核酸配列は、GenBank(商標)受入番号Q9Y275(配列番号1)により入手できる。完全長のBAFFは、細胞内、膜貫通、および細胞外ドメインを有するII型膜タンパク質である。ヒトBAFFでは、これらのドメインはそれぞれがおおよそ(例えば±2または3残基)、配列番号1のアミノ酸1〜46、47〜67、および68〜285から構成されている。BAFFには天然に存在する可溶型が存在し、ヒトBAFFではアミノ酸R133とA134の間にタンパク質分解性の切断が起こり、これによって水溶性で生物活性のあるBAFFのC末端部が生じる。
【0039】
本発明の方法における使用に適した組成物には、可溶性BAFFが含まれる。このようなBAFFの可溶型は、一般に膜貫通および細胞内ドメインを含まない。天然に存在する可溶性BAFFは細胞外ドメインの一部(すなわち配列番号1のアミノ酸74〜133)を含まないため、本発明の可溶性BAFFでも同様にこれらの領域が除外されていてもよい。
【0040】
特定の実施形態によれば、可溶性BAFFは、BAFFにおけるTNF様ドメインの全てまたは大部分、例えば配列番号1のアミノ酸145〜284(ヒトBAFF)、またはこれと少なくとも85%、90%、または95%同一な配列を含むポリペプチドである。
【0041】
非限定的で例示的な実施形態によれば、可溶性BAFFは、配列番号1のアミノ酸134〜285、またはそのNおよび/またはC末端の切断型を含む。例えば可溶性BAFFのN末端は、配列番号1の残基134〜170の間にあってよく、例えば可溶性BAFFのN末端は、アミノ酸134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、または170まで伸長し、そしてそれを含んでよく、一方独立して、C末端は配列番号1の残基250〜285の間にあってよく、例えば配列番号1のアミノ酸285、284、283、282、281、280、279、278、277、276、275、274、273、272、271、270、269、268、267、266、265、264、263、262、261、260、259、258、257、256、255、254、253、252、251、250まで伸長し、そしてそれを含んでよい。一つの実施形態によれば、可溶性BAFFは配列番号1のアミノ酸136〜285を含む。
【0042】
特に好ましい本発明によるBAFFの誘導因子はインターフェロンガンマである。
【0043】
本明細書で用いられる「APRIL」は、APRILの細胞外ドメインに対して少なくとも85%同一(好ましくは少なくとも90%、95%、98%、99%、または100%同一)な配列を含むポリペプチドである。特定の実施形態によれば、APRILは、APRILの細胞外ドメインの全てまたは大部分(例えば少なくとも85%、90%、95%、またはそれを超える)を含むポリペプチドである。
【0044】
天然に存在する完全長ヒトAPRILのアミノ酸および核酸配列は、GenBank(商標)受入番号075888(配列番号2)により入手できる。完全長のAPRILは、細胞内、膜貫通、および細胞外ドメインを有するII型膜タンパク質である。ヒトBAFFでは、これらのドメインはそれぞれがおおよそ(例えば±2または3残基)、配列番号2のアミノ酸1〜28、29〜49、および50〜250に含まれる。APRILには天然に存在する可溶型が存在し、ヒトAPRILではアミノ酸R104とA105の間に切断が起こり、これによって可溶性で生物活性のあるAPRILのC末端部が生じる。
【0045】
本発明の方法における使用に適した組成物には、可溶性APRILが含まれる。このようなAPRILの可溶型は、一般に膜貫通ドメインを含まない。天然に存在する可溶性APRILは細胞外ドメインの一部(すなわち配列番号2のアミノ酸49〜104)を含まないため、本発明の可溶性APRILでも同様にこれらの領域が除外されていてもよい。
【0046】
非限定的で例示的な実施形態によれば、可溶性APRILは、配列番号1のアミノ酸105〜250、またはそのNおよび/またはC末端の切断型を含む。例えば可溶性APRILのN末端は、配列番号1の残基105〜140の間にあってよく、例えば可溶性APRILのN末端は、アミノ酸105、106、107、108、109、110、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、または140まで伸長し、そしてそれを含んでよく、一方独立して、C末端は配列番号1の残基220〜250の間にあってよく、例えば配列番号1のアミノ酸285、284、225、226、227、228、229、230、231、232、233、234、235、236、237、238、239、240、241、242、243、244、245、246、247、248、249、または250まで伸長し、そしてそれを含んでよい。一つの実施形態によれば、可溶性APRILは配列番号1のアミノ酸107〜250を含む。
【0047】
特に好ましい本発明によるBAFFの誘導因子はCXCL−12である。
【0048】
本発明の方法における使用に適したBAFFまたはAPRILを含む組成物は、さらにそれらの誘導体(本明細書では「代替物」とも称する)を含み、この誘導体においては、野生型の配列に対する変化がBCMA受容体およびTACI受容体に関するその分子の生物活性に実質的に影響しない限り、アミノ酸配列が変異し、部分的に欠失し、および/または1つ以上の挿入を含む。
【0049】
本発明は、公知の培養培地および方法を超える著しい利点をもたらす、多能性幹細胞用の新規な培養培地および方法を提供する。本発明はまた、これに関連する培地補助剤、組成物、および使用も提供する。
【発明を実施するための形態】
【0051】
本発明は、細胞療法に応用可能な、ex−vivoで増殖させた幹細胞集団を提供するために用いることができる。当該技術分野においては、細胞療法に必要な幹細胞を多数提供するために効率的な増殖方法が長年にわたって必要とされている。本発明の様々な実施形態の利点は、これらを用いることで、多能性幹細胞を、未分化の表現型を維持しつつ高い増殖率で培養できることである。
【0052】
本発明の培地は、その他の成分の中でもとりわけ、BCMAおよびTACIのリガンドおよび/またはその誘導因子を含む。
【0053】
従って、本発明は、多能性幹細胞集団を増殖させるための、BCMAおよびTACIのリガンドおよび/またはその誘導因子を含む培地を提供する。
【0054】
本発明はまた、BCMAおよびTACIのリガンドおよび/またはその誘導因子を含む培地補助剤を提供する。
【0055】
本発明はまた、本発明の培地または培地補助剤を含む密閉容器も提供する。
【0056】
本発明はまた、(a)培地を得る工程と、(b)前記培地にBCMAおよびTACIのリガンドおよび/またはその誘導因子を添加する工程とを含む、本明細書に開示される培地の調製方法も提供する。
【0057】
本発明はまた、(a)本発明の培地と、(b)幹細胞とを含む組成物も提供する。
【0058】
本発明はまた、(a)本発明の培地と、(b)固体表面とを含む組成物も提供する。
【0059】
本発明はまた、多能性幹細胞集団を増殖させるための、本発明の培地の使用も提供する。
【0060】
本発明はまた、(a)多能性幹細胞集団を用意する工程と、(b)本発明の培地を用意する工程と、(c)前記幹細胞を前記培地に接触させる工程と、(d)前記細胞を適切な条件下で培養する工程とを含む、多能性幹細胞集団を増殖させるためのex−vivoにおける方法も提供する。
【0061】
本発明の一つの態様によれば、細胞治療薬の製造におけるBCMAおよびTACIのリガンドおよび/またはその誘導因子の使用が提供される。
【0062】
従って、本発明の一つの実施形態によればまた、(a)多能性幹細胞集団を用意する工程と、(b)本発明の培地を用意する工程と、(c)前記幹細胞を前記培地に接触させる工程と、(d)前記細胞を適切な条件下で培養する工程とを含む、細胞治療薬の製造方法も提供される。
【0063】
本発明はまた、細胞治療薬を製造するための、(a)本発明の培地と、(b)幹細胞とを含む組成物の使用も提供する。
【0064】
本発明はまた、細胞治療薬を製造するための、(a)本発明の培地と、(b)固体表面とを含む組成物の使用も提供する。
【0065】
前記薬剤は、損傷組織、または炎症性疾患および/または免疫不全(限定はされないが、自己免疫疾患、炎症性疾患、ならびに移植した臓器および組織の拒絶を含む免疫介在性疾患など)に関連する1つ以上の症状の、治療、修復、予防、および/または改善のために使用される。本発明の細胞治療薬は、予防上または治療上有効な量の幹細胞および医薬担体を含む。間葉由来の幹細胞が特に好ましく、脂肪由来の幹細胞が最も好ましい。
【0066】
これらの細胞種それぞれに対する投与量および投与計画の例は、当該技術分野において公知である。適切な医薬担体は当該技術分野において公知であり、好ましくは米国連邦政府もしくは州政府の規制機関により承認されたもの、または米国薬局方、欧州薬局方、もしくは動物、さらに詳細にはヒトにおける使用のためのその他の一般に認められた薬局方に収載されたものである。用語「担体」は、治療薬と共に投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルを指す。この組成物は、必要に応じて、少量のpH緩衝剤を含有してもよい。適切な医薬担体の例は、E W Martinによる「Remington’s Pharmaceutical Sciences」に記載されている。このような組成物は、被検体への投与に適した形態を提供するために、予防上または治療上有効な量の予防薬または治療薬を、適切な量の担体と共に好ましくは精製された形態で含有する。製剤は投与手法に適したものでなければならない。好ましい実施形態によれば、薬剤は無菌であり、さらに被検体、好ましくは動物被検体、さらに好ましくは哺乳類被検体、最も好ましくはヒト被検体への投与に適した形態である。
【0067】
本発明による薬剤は様々な形態であってよい。これらには例えば凍結乾燥標品、溶液または懸濁液、注射用および点滴用溶液などの半固体および液体の剤形が含まれ、薬剤は注射用が好ましい。
【0068】
前記薬剤は、損傷組織(好ましくは間葉組織)の治療もしくは修復のためのもの、および/または、炎症性疾患および/または免疫不全に関連する1つ以上の症状の治療、調節、予防、および/または改善のためのものであることが好ましい。従って、本発明の方法および細胞は、前記症状のいずれかまたは全てを特徴とする任意の疾患の治療に有用である。このような疾患の代表的かつ非包括的なリストは定義の項に記載している。免疫介在性炎症性疾患を治療するための薬剤が特に好ましい。糖尿病、関節リウマチ(RA)、炎症性腸疾患(IBD、クローン病および/または潰瘍性大腸炎を含む)、および多発性硬化症(MS)を治療するための薬剤がさらに好ましい。
【0069】
本発明はまた、多能性幹細胞培養のための、BCMAおよびTACIのリガンドおよび/またはその誘導因子の使用も提供する。
【0070】
本発明による培地、補助剤、および組成物に特異的な成分は、特定の要求および用途に従って変化してよい。同様に、本発明による方法の詳細な工程は、特定の要求および用途に従って変化してよい。本発明による培地、補助剤、方法、組成物、および使用は、日常的な実験によって最適化されてよい。例えば、培地、補助剤、または組成物によって望ましい水準の多能性幹細胞の増殖が得られなかった場合、培地または補助剤中の各成分の量、播種密度、培養条件、培養期間などの変数を、さらなる実験において変更できる。本明細書に記載する各成分の量は、日常的な最適化によってその他の成分から独立して最適化でき、あるいは1以上の成分を添加もしくは除去できる。培地が多能性幹細胞の増殖を支持する能力は、既知の培地または方法と平行して、あるいはそれらの代わりに当該培地を試験することができる。
【0071】
本発明による培地、補助剤、方法、組成物、および使用については、以下にさらに詳細に記載する。本発明の実施には、特に明記の無い限り、当業者の能力の範囲内にある細胞培養、分子生物学、および微生物学における従来の技術が用いられる。
【0072】
幹細胞に対する培地および方法についての専門の教科書を含め、哺乳類細胞用の培地および方法を指導する多数の教科書が利用できる。
【0073】
培地
本発明による培地は、BCMAおよびTACIのリガンドおよび/またはその誘導因子を含む。一つの態様によれば、本発明の培地はBAFFまたはBAFFの代替物を含む。別の態様によれば、本発明の培地はAPRILまたはAPRILの代替物を含む。さらなる態様によれば、本発明の培地はAPRILおよびBAFFの代替物を含む。
【0074】
本発明による培地は、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、11以上、または12以上の異なるBCMAおよびTACIのリガンドおよび/またはその誘導因子を含んでよい。
【0075】
本発明による培地は、約10pMないし約100mMの、BCMAおよびTACIのリガンドおよび/またはその誘導因子を含んでよい。
【0076】
幾つかの実施形態によれば、本発明の培地は、約100nMないし約1mMのBCMAおよびTACIのリガンドおよび/またはその誘導因子を含んでよい。例えば培地は、約1pg/mlないし1〜10μg/mlのBCMAおよびTACIのリガンドおよび/またはその誘導因子、約10ないし約700ng/mlのBCMAおよびTACIのリガンドおよび/またはその誘導因子、約50ないし約650μg/mlのBCMAおよびTACIのリガンドおよび/またはその誘導因子、約50ないし約400μg/mlのBCMAおよびTACIのリガンドおよび/またはその誘導因子、約50ないし約200μg/mlのBCMAおよびTACIのリガンドおよび/またはその誘導因子、または約100μg/mlのBCMAおよびTACIのリガンドおよび/またはその誘導因子を含んでよい。例えば培地は、約50ないし約150μg/mlを含んでよい。
【0077】
細胞培養培地は一般的に、培養細胞の維持を支持するために必要な多くの成分を含む。従って、本発明の培地は、通常BCMAおよびTACIのリガンドおよび/またはその誘導因子に加え、多くのその他の成分を含む。適切な成分の組み合わせは、当業者により以下の開示を考慮して容易に処方できる。以下にさらに詳細に記載するように、本発明の培地は、一般にアミノ酸、ビタミン、無機塩、炭素エネルギー源、および緩衝液のような標準的な細胞培養成分を含む栄養溶液である。
【0078】
本発明による培地は、既存の細胞培養培地の改変によって作製されてよい。当業者は多能性幹細胞の培養に使用され得る培地の種類を理解する。適切である可能性のある細胞培養培地は市販されており、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、最少必須培地(MEM)、イーグル最少必須培地、ノックアウトDMEM(KO−DMEM)、グラスゴー最少必須培地(G−MEM)、イーグル基礎培地(BME)、DMEM/ハムF12、アドバンストDMEM/ハムF12、イスコフ改変ダルベッコ培地、および最少必須培地(MEM)が挙げられる。
【0079】
多くの細胞培養培地には既にアミノ酸が含まれているが、幾つかは細胞培養の前に補充を必要とする。含まれ得るアミノ酸としては、L−アラニン、L−アルギニン、L−アスパラギン、L−アスパラギン酸、L−システイン、L−シスチン、L−グルタミン酸、L−グルタミン、グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−プロリン、L−セリン、L−スレオニン、L−トリプトファン、L−チロシン、L−バリン、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0080】
一般に、含まれるアミノ酸は培地1Lあたり約0.001から約1g(通常約0.01から約0.15g/L)で含まれるが、L−グルタミンは約0.05から約1g/L(通常約0.1から約0.75g/L)で含まれる。アミノ酸は合成されたものであってもよい。
【0081】
本発明における使用のための培地は1種以上のビタミンを含んでよい。当業者は、幹細胞培養培地に使用するビタミンの適切な種類と量を理解する。含まれ得るビタミンとしては、チアミン(ビタミンB1)、リボフラビン(ビタミンB2)、ナイアシン(ビタミンB3)、D−パントテン酸カルシウム(ビタミンB5)、ピリドキサール/ピリドキサミン/ピリドキシン(ビタミンB6)、葉酸(ビタミンB9)、シアノコバラミン(ビタミンB12)、アスコルビン酸(ビタミンC)、カルシフェロール(ビタミンD2)、DL−アルファ・トコフェロール(ビタミンE)、ビオチン(ビタミンH)、およびメナジオン(ビタミンK)が挙げられる。
【0082】
本発明における使用のための培地は1種以上の無機塩を含んでよい。当業者は、幹細胞培養培地に使用する無機塩の適切な種類と量を理解する。無機塩は、一般的には細胞の浸透圧バランスを維持するのを助け、膜電位を調節するのを助けるために培地中に含まれる。含まれ得る無機塩としては、カルシウム、銅、鉄、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、亜鉛の塩が挙げられる。塩は通常、塩化物、リン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、および炭酸水素塩の形で用いられる。用いられてよい特定の塩としては、CaCl
2、CuSO
4−5H
2O、Fe(NO
3)−9H
2O、FeSO
4−7H
2O、MgCl、MgSO
4、KCl、NaHCO
3、NaCl、Na
2HPO
4、Na
2HPO
4−H
2O、およびZnSO
4−7H
2Oが挙げられる。
【0083】
培地のモル浸透圧濃度は、約200から約400mθsm/kgの範囲、約290から約350mθsm/kgの範囲、または約280から約310mθsm/kgの範囲であってよい。培地のモル浸透圧濃度は、約300mθsm/kg未満(例えば約280mθsm/kg)であってよい。
【0084】
本発明における使用のための培地は、炭素エネルギー源を1種以上の糖の形で含んでよい。当業者は、幹細胞培養培地に使用する糖の適切な種類と量を理解する。含まれ得る糖としては、グルコース、ガラクトース、マルトース、およびフルクトースが挙げられる。糖はグルコースが好ましく、D−グルコース(デキストロース)が特に好ましい。炭素エネルギー源は通常、約1ないし約10g/L含まれる。
【0085】
本発明における使用のための培地は、緩衝液を含んでよい。当業者は適切な緩衝液を容易に選択できる。緩衝液は通常の培養条件下で、培地のpHを約6.5から約7.5の範囲に、最も好ましくはおおよそpH7.0に維持し得る。用いられてよい緩衝液としては、炭酸塩(例えばNaHCO
3)、塩化物(例えばCaCl
2)、硫酸塩(例えばMgSO
4)、およびリン酸塩(例えばNaH
2PO
4)が挙げられる。これらの緩衝液は一般に、約50から約500mg/lで用いられる。N−[2−ヒドロキシエチル]−ピペラジン−N’−[2−エタンスルホン酸](HEPES)および3−[N−モルホリノ]−プロパンスルホン酸(MOPS)のようなその他の緩衝液もまた、通常約1000から10,000mg/lで用いられてよい。
【0086】
本発明の培地は血清を含んでよい。血清には細胞性および非細胞性の因子、ならびに生存能および増殖に必要であり得る成分が含まれる。任意の適切な源から得られた血清が用いられてよく、ウシ胎仔血清(FBS)、ウシ血清(BS)、仔ウシ血清(CS)、ウシ胎仔血清(FCS)、ウシ新生仔血清(NCS)、ヤギ血清(GS)、ウマ血清(HS)、ブタ血清、ヒツジ血清、ウサギ血清、ラット血清(RS)などが挙げられる。前記MSCがヒト由来の場合、ヒト血清、好ましくは自己由来のヒト血清を細胞培養培地に補うことも本発明の範囲内である。補体カスケードの成分を不活化することが必要であると認める場合、血清を55〜65℃で熱により不活化できることが理解される。血清代替物を用いる場合、従来の技術により、培地容量の約2%ないし約25%において用いられてよい。
【0087】
その他の実施形態によれば、本発明の培地は血清代替物を含んでよい。血清アルブミン、血清トランスフェリン、セレン、ならびにインスリン、血小板由来増殖因子(PDGF)、および塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含むがこれらに限定されない組換えタンパク質などこれらに限定されない様々な異なる血清代替物製剤が市販されており、当業者に公知である。血清代替物を用いる場合、従来の技術により、培地容量の約2%ないし約25%において用いられてよい。
【0088】
その他の実施形態によれば、本発明の培地は無血清および/または無血清代替物であってよい。無血清培地は、いかなる種類の動物血清も含まないものである。無血清培地は、幹細胞に起こる可能性のある異種コンタミネーションを避けるために好まれ得る。無血清代替物培地は、市販のいかなる血清代替物製剤も補充していないものである。
【0089】
本発明における使用のための培地は1種以上のホルモンを含んでよく、D−アルドステロン、ジエチルスチルベストロール(DES)、デキサメタゾン、b−エストラジオール、ヒドロコルチゾン、インスリン、プロラクチン、プロゲステロン、ソマトスタチン/ヒト成長ホルモン(HGH)などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0090】
本発明における使用のための培地は1種以上のサイトカインを含んでよい。当業者は、幹細胞培養培地に使用するサイトカインの適切な種類と量を理解する。含まれ得るサイトカインとしては初期作用型および後期作用型サイトカインの両方が挙げられ、幹細胞因子、FLT3リガンド、インターロイキン−6、トロンボポエチン、インターロイキン−3、顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子、およびエリスロポエチンからなる群より選択されてよい。
【0091】
培地はさらに、培地の状態を容易にモニターできるようにpH指示薬としてフェノールレッドを含んでもよい(例えば約5から約50mg/リットルで)。
【0092】
好ましい培地は本明細書の実施例中に記載する。一つの実施形態によれば、本発明の培地には、例えば抗生物質(例えば100ユニット/mlペニシリンおよび100[mu]g/mlストレプトマイシン)を含むか、または抗生物質を含まず、さらに2mMグルタミン、2〜20%ウシ胎仔血清(FBS)、ならびに100μg/mlのBAFFおよび/またはAPRILを含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)が含まれる。
【0093】
本発明の培地は通常、脱イオン化された蒸留水中で処方される。本発明の培地は、コンタミネーションを防止するため、一般的に使用前に例えば紫外線、加熱、照射、または濾過によって滅菌される。培地は保管または輸送のために凍結されてよい(例えば−20℃または−80℃で)。
【0094】
細胞培養においては、細菌、マイコプラズマ、および真菌によるコンタミネーションを軽減するために、抗菌剤もまた一般的に用いられる。培地は、コンタミネーションを防止するために1種以上の抗菌剤または抗生物質を含んでよい。用いられる抗生物質または抗真菌化合物は一般的にはペニシリン/ストレプトマイシンの混合物である。しかし、アンホテリシン(ファンギゾン(登録商標))、アンピシリン、ゲンタマイシン、ブレオマイシン、ハイグロマイシン、カナマイシン、マイトマイシンなどもまた挙げることができ、これらに限定されない。
【0095】
培地は、1mlあたり0.1エンドトキシン活性単位未満の量のエンドトキシン、または1mlあたり0.05エンドトキシン活性単位未満の量のエンドトキシンを有してよい。培地のエンドトキシン量を決定する方法は当該技術分野において公知である。
【0096】
本発明の一つの実施形態によれば、培地は、BAFFもしくはAPRILまたはそれらの代替物などのBCMAまたはTACIのリガンドを恒常的に発現しかつ分泌する細胞の添加によって馴化された培地である。馴化培地は、前記細胞集団を培地中で、該培地を十分に馴化できる期間培養し、次いで該馴化培地を回収することによって作製される。馴化培地を使用する場合、該培地は哺乳類細胞、例えばマウス細胞またはヒト細胞によって馴化されてよい。様々な異なる種の哺乳類細胞が、多能性幹細胞培養に適した馴化培地を作製するために用いられてよい。
【0097】
培地は×1倍製剤であるか、または濃縮製剤、例えば×2倍から×250倍に濃縮された培地製剤であってよい。×1倍製剤では、培地中の各成分は細胞培養に適した濃度となっている。濃縮製剤には、1つ以上の成分が、細胞培養に適した濃度よりも高い濃度で含まれている。濃縮培地は当該技術分野において公知である。培地は既知の方法、例えば塩析または選択的濾過を用いて濃縮できる。濃縮培地は、使用のために水(好ましくは脱イオン化された蒸留水)または任意の適切な溶液、例えば生理食塩水溶液、緩衝水溶液、もしくは培地によって希釈されてよい。
【0098】
本明細書に開示される培地は、適切な条件下で少なくとも2継代の間、多能性で、未分化で、かつ増殖状態にある幹細胞集団を増殖させることが可能である。幹細胞は、本明細書の他の箇所でさらに詳細に記載されるある特性を示す場合、多能性で、未分化で、かつ増殖状態にあると考えられる。当業者は、多能性幹細胞培養に通常用いられる条件から適切な条件を選択できる。培地は、適切な条件下で少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも20、少なくとも30、少なくとも40、少なくとも50、少なくとも60、少なくとも70、少なくとも80、少なくとも90、または少なくとも100継代の間、多能性で、未分化で、かつ増殖状態にある幹細胞集団を増殖させることが可能であることが好ましい。培地は、3継代を超える間、4継代を超える間、5継代を超える間、10継代を超える間、15継代を超える間、20継代を超える間、25継代を超える間、30継代を超える間、40継代を超える間、50継代を超える間、または100継代を超える間、多能性で、未分化で、かつ増殖状態にある多能性幹細胞集団を増殖させることが可能である。従って、本発明の方法の幾つかの実施形態によれば、幹細胞が、適切な条件下で少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも25、少なくとも30、少なくとも40、少なくとも50、少なくとも60、少なくとも70、少なくとも80、少なくとも90、または少なくとも100継代の間、多能性で、未分化で、かつ増殖状態に培養される。
【0099】
本明細書に開示される培地は、適切な条件下で、多能性で、未分化で、かつ複数回の継代の間増殖状態にある、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、または少なくとも10種の異なる多能性幹細胞株(例えば異なるヒトASC株)を増殖させることが可能である。
【0100】
本明細書の他の箇所に記載するように、本発明はまた、本発明の培地を含む密閉容器も提供する。密閉容器は、培地の輸送または保管時にコンタミネーションを防止するために好ましい。この容器は、バイオリアクター、フラスコ、プレート、瓶、広口瓶、バイアル、またはバッグのような任意の適切な容器であってよい。
【0101】
本明細書の他の箇所に記載するように、本発明はまた、(a)培地を得る工程と、(b)前記培地にBCMAおよびTACIのリガンドおよび/またはその誘導因子を添加する工程とを含む培地の調製方法も提供する。培地に含まれる特定の成分に依存して、培地を調製するための様々な異なる方法が想定される。例えば、培地の調製方法は、(a)培地を得る工程と、(b)前記培地にBAFFまたはAPRILを添加する工程とを含んでよい。一つの実施形態によれば、培地の調製方法は、(a)培地を得る工程と、b)前記培地にBAFFおよびAPRILを添加する工程を含んでよい。
【0102】
細胞培養方法および培地の使用
本発明の培地は、多能性幹細胞集団を増殖させるために使用できる。従って、本発明は、多能性幹細胞集団を増殖させるための本明細書に開示される任意の培地の使用を提供する。
【0103】
本発明はまた、(a)多能性幹細胞集団を用意する工程と、(b)本明細書に開示される培地を用意する工程と、(c)前記幹細胞を前記培地に接触させる工程と、(d)前記幹細胞を適切な条件下で培養する工程とを含む、多能性幹細胞集団を増殖させるためのex−vivoにおける方法も提供する。
【0104】
細胞集団を「増殖させる」方法は、多能性を維持し、かつほとんど分化せずに増殖した集団を生み出すため、幹細胞の最初の集団の数を増加させることを含む方法、すなわち幹細胞の増殖および分裂を含むが、幹細胞の分化は含まない方法である。
【0105】
本発明はまた、(a)多能性幹細胞集団を用意する工程と、(b)本発明の培地を提供する工程と、(c)前記幹細胞集団を前記培地に接触させる工程と、(d)前記細胞を適切な条件下で培養する工程とを含む、細胞療法の構築方法も提供する。
【0106】
本明細書の他の箇所に記載するように、本発明の方法は、細胞を固体表面に接触させて培養する工程を含む。例えば本発明は、(a)多能性幹細胞集団を用意する工程と、(b)本明細書に開示される培地を用意する工程と、(c)前記幹細胞を前記培地に接触させる工程と、(d)前記細胞を適切な条件下で、固体表面に接触させて培養することを含む方法を提供する。
【0107】
本発明はまた、本明細書に開示する培地および多能性幹細胞集団を増殖させるための固体表面の使用も提供する。多能性幹細胞は、前記支持体上に接着、付着、または播種することができる。一般的には、細胞は望ましい密度、例えば約100細胞/cm
2から約100,000細胞/cm
2(例えば約500細胞/cm
2から約50,000細胞/cm
2、またはさらに詳細には約1,000細胞/cm
2から約20,000細胞/cm
2)で播かれる。より低い密度で播かれた場合(例えば約300細胞/cm
2)、細胞はクローンとしてさらに容易に分離できる。例えばそのような密度で播かれた細胞は、数日後に均一な集団へと増殖する。特定の実施形態によれば、細胞密度は2,000ないし10,000細胞/cm
2である。
【0108】
本発明の方法は、本明細書に開示するように、幹細胞を培地中で継代する工程を含んでよい。例えば本発明は、(a)多能性幹細胞集団を用意する工程と、(b)本明細書に開示される培地を提供する工程と、(c)前記幹細胞を前記培地に接触させる工程と、(d)前記細胞を適切な条件下で培養する工程と、(e)前記細胞を本明細書に開示するような培地で継代する工程と、(f)前記細胞を適切な条件下でさらに培養する工程とを含む方法を提供する。
【0109】
本明細書に開示される方法の工程は任意の適切な順序で行われるか、または必要に応じて同時に行うことができ、記載された順序で行う必要はないことが理解されるであろう。例えば上記の方法において、多能性幹細胞集団を提供する工程は、培地を用意する工程の前、後、または培地を提供する工程と同時に行われてよい。
【0110】
細胞が所望のコンフルエンスに達した後、細胞は継続的な継代によって増殖させることができる。細胞は、既知の方法を用いた本発明の方法、例えば、細胞をトリプシンおよびEDTAと共に、5秒ないし15分間、37℃でインキュベートすることによって継代してよい。所望により、トリプシン代替物(例えばInvitrogenから市販されているTrypLE)を用いてもよい。コラゲナーゼ、ディスパーゼ、アキュターゼ、またはその他の既知の試薬もまた、細胞の継代に用いてよい。継代は最初の播種密度に依存して、一般的には2〜8日ごと、例えば4〜7日ごとに必要とされる。幾つかの実施形態によれば、本発明の細胞培養方法は、細胞の継代時に未分化の細胞を用手で選択するいかなる工程も含まない。幾つかの実施形態によれば、本発明の細胞培養方法は、幹細胞の自動継代、すなわち研究従事者による操作のいらない継代を含む。幹細胞培養に用いられる環境は無菌、かつ温度およびpHが安定した環境であってよい。
【0111】
本発明の方法および使用は、本明細書に記載される任意の培地または補助剤にも関与し得る。従って、幾つかの実施形態によれば、本発明の方法は血清および/または血清代替物を含まない方法であってよい。幾つかの実施形態によれば、本発明の方法は、フィーダー細胞層との接触なしに細胞を培養するために用いられてよい。
【0112】
前記幹細胞集団は成体由来であることが好ましく、前記細胞は間葉幹細胞集団であることがさらに好ましく、最も好ましくは脂肪由来幹細胞である。
【0113】
幹細胞の培養条件は当業者に公知である。しかしながら、培養は間葉幹細胞が接着するのに適した固体支持体の存在下で行うことが特に好ましい。
【0114】
製造のための前記方法はさらに、(e)細胞を本明細書に開示するような培地中で継代する工程、および(f)前記細胞を適切な条件下でさらに培養する工程を任意に含んでよい。
【0115】
従って、特定の実施形態によれば、細胞は、ペトリ皿または細胞培養フラスコのような通常プラスチック材料で作られた固体表面上で、適切な細胞培養培地[例えば一般的には、5〜15%(例えば10%)の、ウシ胎仔血清またはヒト血清のような適切な血清、およびBAFFもしくはAPRILまたはそれらの代替物のようなBCMAまたはTACIのリガンドを補ったDMEM]の存在下で分化することなく培養され、細胞が固体表面に接着して増殖することを可能にする条件でインキュベートされる。インキュベーション後、非接着細胞および細胞断片を除くために細胞を洗浄する。細胞を同一培地中および同一条件下の培養において、十分なコンフルエンス、一般的には約70%、約80%、または約90%の細胞コンフルエンスに達するまで、必要に応じ細胞培養培地を交換して維持する。所望の細胞コンフルエンスに達した後、細胞は、トリプシンのような剥離剤を用いた継続的な継代、さらに適切な細胞密度(通常2,000〜10,000細胞/cm
2)で新たな細胞培養表面に播種することによって増殖させることができる。従って、細胞は分化することなく、発生上の表現型を保持したままこのような培地中で少なくとも2回継代される。さらに好ましくは、細胞は少なくとも10回(例えば少なくとも15回または少なくとも20回さえ)発生上の表現型を損なうことなく継代できる。一般的に、細胞は望ましい密度、例えば約100細胞/cm
2から約100,000細胞/cm
2(例えば約500細胞/cm
2から約50,000細胞/cm
2、またはさらに詳細には約1,000細胞/cm
2から約20,000細胞/cm
2)で播かれる。より低い密度で播かれた場合(例えば約300細胞/cm
2)、細胞はクローンとしてさらに容易に分離できる。例えばそのような密度で播かれた細胞は、数日後に均一な集団へと増殖する。特定の実施形態によれば、細胞密度は2,000ないし10,000細胞/cm
2である。
【0116】
以下に言及するように、少なくとも2回の継代を含むこのような処理の後に固体表面になお接着している細胞を選択し、ASCの同一性を確認するため、従来の方法によって目的の表現型を分析する。初代の継代後に固体表面になお接着している細胞は異種起源に由来するため、これらの細胞は少なくとももう1回継代しなければならない。上記方法の結果として、目的の表現型を有する同種の細胞集団が得られる。少なくとも2回の継代後の、固体表面への細胞の接着は、ASCを選択するための本発明の好ましい実施形態を構成する。目的の表現型の確認は、従来の方法を用いて行うことができる。
【0117】
前記増殖は、前記集団を二重もしくは三重に、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも15、または少なくとも20回好ましく行われる。さらなる実施形態によれば、前記増殖は、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも15、または少なくとも20継代にわたって行われる。
【0118】
細胞表面マーカーは、通常、陽性/陰性選択、例えば細胞におけるその存在/不在が確認される、細胞表面マーカーに対するモノクローナル抗体に基づいた任意の適切な従来の技術を用いて同定できるが、その他の技術もまた用いることができる。従って、特定の実施形態によれば、選択された細胞にCD11b、CD11c、CD14,CD45、HLA II、CD31、CD34、およびCD133が存在しないことを確認するため、これらのマーカーのうち1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、または好ましくは全てに対するモノクローナル抗体が用いられ、さらにCD9、CD44、CD54、CD90、およびCD105のうち少なくとも1つ、好ましくは全てが存在するかまたは検出可能な発現レベルであることを確認するため、これらのマーカーのうち1つ、2つ、3つ、4つ、または好ましくは全てに対するモノクローナル抗体が用いられる。前記モノクローナル抗体は既知であり、市販されているか、または当業者により従来の方法を用いて得られる。
【0119】
選択された細胞内のIFN−γ誘導性のIDO活性は、任意の適した従来のアッセイによって測定できる。例えば、選択された細胞をIFN−γによって刺激してIDOの発現をアッセイすることができ、次いでIDOタンパク質の発現に対する従来のウェスタンブロット分析を行うことができ、そして選択された細胞のIFN−γ刺激に続いて起こるIDO酵素活性を、例えば上清における高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析およびキヌレニン濃度の測光法による測定値を用いて、トリプトファンからキヌレニンへの転換によって測定できる。ASCは特定の条件下でIDOを発現することから、IFN−γ刺激に続いて起こるIDO活性の検出を可能にする任意の適切な技術がASCを選択するために用いられてよい。産生されるIDOの量は、平方センチメートル当たりの細胞数に依存し、好ましくは5000細胞/cm
2以上のレベルであるがこの濃度に限定されず、さらにIFN−γの濃度に依存し、理想的には3ng/ml以上であるがこの濃度に限定されない。記載される条件下で産生されるIDOの活性は、24時間以上後にμMの範囲で検出可能なキヌレニンの産生をもたらす。
【0120】
選択された細胞が少なくとも2の細胞系統に分化する能力は、当該技術分野において公知な従来の方法によってアッセイできる。
【0121】
所望により、ASCは細胞集団のクローニングに適した方法を用いてクローン増殖させることができる。例えば細胞の増殖集団を物理的に選択し、新たな別の表面(またはマルチウェルプレートのウェル)に播くことができる。あるいは細胞は、各ウェルへの単一の細胞の配置を容易にする統計学的な割合で(例えば約0.1から約1細胞/ウェルまたは約0.25から約0.5細胞/ウェル、例えば0.5細胞/ウェル)マルチウェルプレート上にサブクローン化できる。もちろん細胞は、これらを低密度で播き(例えばペトリ皿またはその他の適切な基材に)、クローニングリングのような道具を用いてその他の細胞から分離することによってクローン化できる。クローン集団の産生は任意の適切な培地において拡大することができる。いずれの場合においても、分離した細胞は、それらの発生上の表現型を評価できる適当な時点まで培養できる。
【0122】
分化を誘導しないASCのex vivoにおける増殖は、例えば適切な血清(例えばウシ胎仔血清またはヒト血清)の特別に選別したロットを用いることによって長時間達成できることが示されている。生存率および収率の測定方法は当該技術分野において公知である(例えばトリパンブルー排除)。
【0123】
本発明の細胞集団の細胞を分離するための任意の工程および手順は、所望により用手で行うことができる。あるいは、このような細胞を分離する過程は、その例が当該技術分野において公知である1つ以上の装置により容易になり、および/または自動化される。
【0124】
本発明はまた、(a)本発明の培地と、(b)細胞治療薬を製造するための幹細胞を含む組成物の使用も提供する。
【0125】
本発明はまた、(a)本発明の培地と、(b)細胞治療薬を製造するための固体表面を含む組成物の使用も提供する。
【0126】
本発明の方法は、任意の適切な細胞培養容器を支持体として用いて行われてよい。様々な異なる材料(例えばプラスチック、ガラス)で構築された、様々な形状および大きさの細胞培養容器(例えばフラスコ、シングルまたはマルチウェルプレート、シングルまたはマルチウェルディッシュ、瓶、広口瓶、バイアル、バッグ、バイオリアクター)が当該技術分野において公知である。当業者は適切な細胞培養容器を容易に選択できる。
【0127】
培地補助剤
本発明はまた、本明細書に開示される培地を作製するために用いることのできる培地補助剤も提供する。「培地補助剤」は、それ自体では多能性幹細胞を支持できないが、その他の細胞培養成分と組み合わせた場合に多能性幹細胞培養を可能にするかまたは改善する成分の混合物である。それ故、この補助剤はその他の細胞培養成分と組み合わせて適切な培地製剤を作製することにより、本発明の機能的な細胞培養培地を作製するために用いることができる。培地補助剤の使用は当該技術分野において公知である。本発明は、BCMAおよびTACIのリガンドおよび/またはその誘導因子を含む培地補助剤を提供する。この補助剤は、本明細書に開示される任意のリガンドも含んでよい。補助剤はまた、本明細書に開示される1つ以上のさらなる細胞培養成分、例えばアミノ酸、ビタミン、無機塩、炭素エネルギー源、および緩衝液からなる群より選択される1つ以上の細胞培養成分も含有してよい。
【0128】
培地補助剤は濃縮液体補助剤(例えば×2倍から×250倍の濃縮液体補助剤)であってよいか、または乾燥補助剤であってよい。液体および乾燥補助剤は、両方とも当該技術分野において公知である。補助剤は凍結乾燥されていてもよい。
【0129】
本発明の補助剤は、コンタミネーションを防止するため、使用前に例えば紫外線、加熱、照射、または濾過によって一般的に滅菌される。培地補助剤は保管または輸送のために凍結されてよい(例えば−20℃または−80℃で)。
【0130】
本明細書の他の箇所に記載するように、本発明はまた、本発明の培地補助剤を含む密閉容器も提供する。密閉容器は、本明細書に開示される培地補助剤の輸送または保管時にコンタミネーションを防止するために好まれ得る。容器は、バイオリアクター、フラスコ、プレート、瓶、広口瓶、バイアル、またはバッグなど任意の適切な容器であってもよい。
【0131】
組成物および細胞培養システム
本明細書に開示される細胞培養培地および細胞培養補助剤は、多能性幹細胞集団を増殖させるために使用できる。従って、本発明は、本発明の細胞培養培地および細胞培養補助剤を使用する間に生じる組成物を提供する。例えば本発明は、(a)本発明の培地と、(b)多能性幹細胞とを含む組成物を提供する。
【0132】
本発明の組成物は無フィーダー細胞組成物であってよい。組成物は、この組成物中の多能性幹細胞が少なくとも初代継代の間フィーダー細胞層なしで培養された場合、慣習的に無フィーダー細胞であるとみなされる。本発明の無フィーダー細胞組成物は、通常約5%未満、約4%未満、約3%未満、約2%未満、または約1%未満のフィーダー細胞を含む(組成物中の総細胞数の%として表される)。
【0133】
固体表面は、接着性幹細胞(例えば限定はされないが間葉幹細胞)の培養のための支持機能を提供するために用いられてよい。従って、本発明はまた、(a)本発明の培地と、(b)固体表面とを含む組成物も提供する。これらの組成物は多能性幹細胞をさらに含んでもよい。
【0134】
様々な物質が接着性幹細胞培養のための表面として使用されており、当業者は適切な材料を容易に選択できる。固体表面はプラスチックを含むこと好ましいが、代わりにガラス、細胞外マトリックスを含んでもよい。表面は平面、管状であるか、または足場、ビーズ、もしくは線維の形態であってよい。
【0135】
本発明はまた、多能性幹細胞集団を増殖させるための、(a)固体表面と、(b)BCMAおよびTACIのリガンドおよび/またはその誘導因子との使用も提供する。例えば本発明は、多能性幹細胞集団を増殖させるための、BAFFおよび/またはAPRILの使用を提供する。本発明の一つの態様によれば、多能性幹細胞集団を増殖させるための、BAFFまたはBAFF代替物の使用が提供される。本発明の別の態様によれば、多能性幹細胞集団を増殖させるための、APRILまたはAPRIL代替物の使用が提供される。本発明のさらなる態様によれば、多能性幹細胞集団を増殖させるための、APRILおよびBAFFまたはその代替物の使用が提供される。
【0136】
本発明はまた、多能性幹細胞集団を増殖させるための、(a)固体表面と、(b)BCMAおよびTACIのリガンドおよび/またはその誘導因子とを含む組成物または細胞培養容器も提供する。本発明の一つの態様によれば、多能性幹細胞集団を増殖させるための、BAFFまたはBAFF代替物を含む組成物または細胞培養容器が提供される。本発明の別の態様によれば、多能性幹細胞集団を増殖させるための、APRILまたはAPRIL代替物を含む組成物または細胞培養容器が提供される。本発明のさらなる態様によれば、多能性幹細胞集団を増殖させるための、APRILおよびBAFFまたはその代替物を含む組成物または細胞培養容器が提供される。
【0137】
本明細書の他の箇所に記載するように、本発明の組成物は血清を含んでよいか、または無血清および/または無血清代替物であってもよい。
【0138】
本発明はまた、(a)固体表面と、(b)B27補助剤およびN2補助剤を補った本発明の培地とを含む組成物または細胞培養容器も提供する。
【0139】
多能性幹細胞
本明細書に開示される培養培地および方法は、多能性幹細胞の多分化能を維持し、かつ該細胞が問題のある分化をしない、多能性幹細胞集団を増殖させるために有用である。
【0140】
「多能性」幹細胞は、適切な条件下で3つの胚葉(内胚葉、中胚葉、および外胚葉)全ての細胞への分化能を有する。
【0141】
多能性幹細胞は分化全能性ではない。すなわち、これらは胎児のような全体としての生命体を形成することはできない。本発明における使用のための多能性幹細胞は公知の方法を用いて得ることができる(以下を参照のこと)。胚、胎児、または成体組織のいずれに由来するかを問わないが、好ましくは成体組織源由来である様々な型の多能性幹細胞が本発明に関連して用いられてよいことが想定される。
【0142】
本明細書に開示される培地は、哺乳類幹細胞、特にヒト成体幹細胞の培養に用いられてよい。本発明に関連して用いられてよいヒト成体幹細胞は、間葉幹細胞が好ましい。マウスまたは霊長類幹細胞もまた用いられてよい。好ましい実施形態によれば、幹細胞はヒト脂肪由来幹細胞(ASC)である。
【0143】
簡潔に述べると、ASCは、上で考察した任意の適切な動物由来の任意の適切な結合組織源から、従来の方法によって得ることができる。ヒト脂肪細胞は一般的には、外科的なまたは吸引による脂肪組織切除のような公知のプロトコルを用いて、生きているドナーから得られる。実際に脂肪吸引法の手順はかなり一般的であり、脂肪吸引法による流出物は、ASCが由来する源として特に好ましい。従って、特定の実施形態によれば、ASCは脂肪吸引法によって得られたヒト脂肪組織の間質画分に由来する。
【0144】
材料の残りからASCを分離する工程を行う前に、組織を洗浄することが好ましい。一般に用いられる一つのプロトコルでは、組織サンプルを生理的に適合する生理食塩水溶液(例えばリン酸緩衝食塩水(PBS))で洗浄し、次いで激しく撹拌した後静置する。この工程により、組織から遊離物質(例えば損傷組織、血液、赤血球など)が除去される。このように、上清中の破砕物が比較的なくなるまで、通常は洗浄工程と静置工程を繰り返す。残りの細胞は、通常様々な大きさの凝集塊の中にあり、該プロトコルでは次に、細胞それ自体の損傷を最少限にしながら全体的構造を分解する工程へと進む。この目的を達成するための一つの方法は、洗浄した細胞塊を、細胞間の結合を弱めるかまたは破壊する酵素(例えばコラゲナーゼ、ディスパーゼ、トリプシンなど)によって処理することである。このような酵素処理の量および持続時間は用いる条件によって異なるが、このような酵素の使用は一般に当該技術分野において公知である。このような酵素処理の代わりに、またはこれと併用して、機械的攪拌、音波エネルギー、熱エネルギーなどのその他の処理を用いることによって細胞凝集塊を分解できる。酵素的な方法によって分解を達成する場合、細胞における有害な影響を最少限にするため、適当な時間後に酵素を中和することが望ましい。
【0145】
分解工程は、一般的には凝集した細胞のスラリーまたは懸濁液、および一般的には遊離した間質細胞(例えば赤血球、平滑筋細胞、内皮細胞、線維芽細胞、および幹細胞)を含む液体画分を生じる。分離過程の次の段階は、ASCから凝集した細胞を分離することである。これは、細胞を強制的に上清で覆われたペレットにする遠心分離によって達成できる。次いで、上清を捨て、ペレットを生理的に適合する液体に懸濁することができる。さらに、懸濁した細胞には一般に赤血球が含まれ、ほとんどのプロトコルではそれらを溶解することが望ましい。赤血球を選択的に溶解する方法は当該技術分野において公知であり、適切ないずれかのプロトコルを用いることができる(例えば塩化アンモニウムを用いた溶解による、高または低浸透圧性の培地中でのインキュベーションなど)。もちろん赤血球は溶解しても、残りの細胞はその後例えば濾過、沈降、または密度分画によって溶解物から分離されなければならない。
【0146】
赤血球が溶解したか否かにかかわらず、より高い純度を達成するため、懸濁した細胞は1回以上連続して、洗浄し、再遠心分離され、再懸濁される。あるいは細胞は、細胞表面マーカー特性に基づいて、または細胞の大きさおよび粒度に基づいて分離できる。
【0147】
細胞は、最後の分離および再懸濁の後に培養することができ、所望により収率を評価するため数および生存率についてアッセイされる。細胞は、適切な細胞培養培地を用い、適切な細胞密度および培養条件で、固体表面上で分化することなく培養されることが好ましい。
【0148】
本明細書に開示される培地は、間葉幹細胞、特に脂肪由来幹細胞を培養するために用いられてよい。
【0149】
本明細書に開示される培地はまた、遺伝的に改変された多能性幹細胞を培養するためにも用いられてよい。遺伝的に改変された細胞としては、形質転換、トランスフェクション、トランスダクションなどによって一過性にまたは安定的に改変されたものが挙げられる。
【0150】
本明細書に開示される培地はまた、幹細胞様の特性を有する細胞を形成するために誘導されたかまたは形質転換された細胞を培養するためにも用いられてよい。これらの多能性幹細胞は、マウスまたはヒト「人工多能性幹(iPS)細胞」のような遺伝的に改変された細胞であってもよい。
【0151】
本発明の培地を多能性幹細胞集団の増殖のために用いる際、最初の細胞集団に本発明の培地を適用してから培養期間の終了までの間に、集団内の分化していない多能性幹細胞の総数は、好ましくは少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、または少なくとも50倍に増加する。細胞は培養期間に1回以上継代されてよく、その後細胞は異なる細胞培養容器内で培養されてよいか、または細胞は廃棄されてよいことが理解されるであろう。細胞が継代後に異なる細胞培養容器内で培養されるか、または細胞が継代の間に廃棄される場合、このことは既知の培養期間内に得られた細胞数の倍数による差異(fold difference)を算出する際に考慮することができる。
【0152】
本発明の好ましい実施形態によれば、増殖した集団(すなわち、本明細書に開示される培養培地または方法を用いて最初の集団を増殖させた後の集団)内の幹細胞の少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、または少なくとも95%(細胞数による%)が未分化で、多能性で、かつ増殖性の細胞である。
【0153】
未分化で、多能性で、かつ増殖性の幹細胞を同定する方法、および集団内のこのような細胞の%を同定する方法は公知であり、当業者は、使用される幹細胞の種類に応じて本発明と共に用いる適切な方法を選択できる。
【0154】
多能性幹細胞は、例えば細胞が3つの胚葉全てに特異的なマーカーを検出可能に発現する細胞へと分化する能力を判定することにより、3つの胚葉全ての細胞への分化能によって同定されてよい。
【0155】
特に明示しない限り、単数形での言及(例えば「細胞(a cell)」およびこれと同等な言及)は、複数形(例えば「細胞(cells)」)を包含する。
【0156】
ここで本発明の様々な態様および実施形態を、さらに詳細に、例えば特定の培養培地および方法への言及により記載する。本発明の範囲から逸脱することなく、細部での改変が行われてよいことが理解されるであろう。本発明は以下の実施例に示される実施形態への適用に限定されるものではないことが理解されなければならない。本発明はその他の実施形態であってもよいか、または様々な方法で実施もしくは実行できる。
【実施例】
【0157】
材料および方法
hASCの分離および細胞培養
ヒトASCは、健常成人ドナー由来のヒト脂肪組織の脂肪吸引物から調製した。簡潔に述べると、健常成人男性および女性ドナーから吸引したヒト脂肪組織をリン酸緩衝食塩水(PBS)で2回洗浄し、0.075%コラゲナーゼ(タイプI、Invitrogen、カールズバッド、カリフォルニア州)によって消化した。消化したサンプルを10%ウシ胎仔血清(FBS)で洗浄し、160mMのNH
4Clで処理して残りの赤血球を除去し、培地(10%FBSを加えたダルベッコ改変イーグル培地;DMEM)に懸濁した。細胞を組織培養フラスコに播き(2〜3×10
4細胞/cm
2)、培地を3〜4日ごとに交換しながら増殖させた(37℃、5%CO
2)。細胞が90%コンフルエンスに達したとき、新しいフラスコに移した(10
3細胞/cm
2)。全ての実験について、健常ドナー(3名の男性および3名の女性、35〜47歳)に由来する、独立して増殖させた培養からプールした細胞を用いた。細胞をプールし、おおよそ同一の集団の倍加(倍加12〜16)にて実験を行った。
【0158】
フィコール−パック プラス(GE Healthcare Biosciences AB、ウプサラ、スウェーデン)を供給者のプロトコルに従って用いて、末梢血単核細胞(PBMC)をバッフィーコートから分離した。簡潔に述べると、血液サンプルを平衡塩類溶液で希釈し、フィコールを加えて密度勾配を形成した。遠心分離後、単核細胞を含む界面を回収した。フローサイトメトリーによって純度を確認した。バッフィーコートはスペイン、マドリッド自治体の国立輸血センター(National Transfusion Centre of the Comunidad Autonoma of Madrid,Spain)から提供された。
【0159】
組換えタンパク質および抗体
APRILおよびBAFFの組換えタンパク質はR&D Systems(ミネアポリス、ミネソタ州)から、CXCL12およびIFN−γはPeprotech(ロンドン、英国)から、LPS(Escherichia coli 055:B5)はSigma Aldrich(セントルイス、ミズーリ州)から、そしてポリI:CはInvivoGen(サンディエゴ、カリフォルニア州)から購入した。フローサイトメトリーについては、BCMA、TACI、HLA−I、HLA−II、CD80、CD86に対する一次モノクローナル抗体およびアイソタイプコントロールをBD Bioscience(サンノゼ、カリフォルニア州)から購入した。ウェスタンブロッティング用の抗体は、抗リン酸化Akt(Ser473)、抗Akt、抗リン酸化ERK1/2(Thr202/Tyr204)、抗ERK1/2、抗JNK(全て、Cell Signaling Technology、ベバリー、マサチューセッツ州から購入)、Invitrogen(カールズバッド、カリフォルニア州)から購入した抗リン酸化JNK(Thr183/Tyr185)であった。二次抗体はホースラディッシュペルオキシダーゼ結合ウシ抗ウサギ、およびヤギ抗マウスIgG(Dako、グロストルップ、デンマーク)であった。
【0160】
RT−PCR
培養したhASCまたは新たに純化したPBMC(陽性コントロール)からTRI試薬(Sigma)を用いて全RNAを分離し、この1〜2μgをHigh Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Applied Biosystems)による逆転写反応に用いた。cDNAの連続希釈(1:0、1:5、1:25)により、5’PRIME マスターミックスキットおよびサーモサイクラー(iCycler;BioRad)を用いて半定量PCRを行った。βアクチンは内部コントロールとした。プライマー配列は以下の通りであった。APRIL 順方向 5’−AAGGGTATCCCTGGCAGAGT−3’(配列番号5)および逆方向 5’−GCAGGACAGAGTGCTGCTT−3’(配列番号6)、BAFF 順方向 5’−ACTGAAAATCTTTGAACCACCAG−3’(配列番号7)および逆方向 5’−TTGCAAGCAGTCTTGAGTGAC−3’(配列番号8)、TACI 順方向 5’−CAACTCGGGAAGGTACCAAGGATT−3’(配列番号9)および逆方向 5’−CGCCACCAGGAAGCAGCAGAGGAC−3’(配列番号10)、BCMA 順方向 5’−TTTTCGTGCTAATGTTTTTGCTAA−3’(配列番号11)および逆方向 5’−TTCATCACCAGTCCTGCTCTTTTC−3’(配列番号12)、BAFF−R 順方向 5’−CTGGTCCTGGTGGGTCTG−3’(配列番号13)および逆方向 5’−ACCTTGTCCAGGGGCTCT−3’(配列番号14)、ベータアクチン 順方向 5’−CCCAGCACAATGAAGATCAA−3’(配列番号15)および逆方向 5’−CGATCCACACGGAGTACTTG−3’(配列番号16)(全てSigmaから購入した)。
【0161】
フローサイトメトリー
hASCを回収し、適切な蛍光色素結合抗体で染色した後、フローサイトメトリー(BD FACS Calibur)によって測定した。データはFlowJoプログラム(TreeStar、アシュランド、オレゴン州)によって解析した。
【0162】
細胞の生存率および増殖
細胞生存率は、CellTiter AQueous One Solution Cell Proliferation Assay(Promega、マディソン、ウィスコンシン州)を製造者のプロトコルに従って用いることにより評価した。hASC(3.5×10
3細胞/ウェル)を、96ウェルプレート内で100ng/mlのAPRILまたはBAFFと共に6日間培養した。吸光度(OD 490nm)をELISAプレートリーダーにより測定した(n=少なくとも3回の実験)。測定値を、無刺激で培養した細胞の吸光度(100%)に対して標準化した。加えて、BrdU取り込み比色アッセイにより細胞増殖を測定した。hASCをp60プレート内で100ng/mlのAPRILまたはBAFFと共に培養し、最後の3日間にBrdU(20μM)を添加した。6日目に、抗BrdU抗体を用いたフローサイトメトリーによってBrdUの取り込みを検出した。MTSおよびBrdUアッセイを独立して3回行い、各条件は三重とした。
【0163】
免疫抑制アッセイ
CFSE標識のため、新たに純化したPBMC(10〜20×106)をよく洗浄してFBSを除去し、200μlの10μM CFSE溶液(Sigma)に再懸濁して、持続的に撹拌しながらインキュベートした(37℃、10分)。細胞を洗浄し、一晩培養して、1アリコートをサイトメーターにおけるCFSEのFL−1電位を設定および制御するために用いた。一晩静置後、CFSE標識PBMCは、Pan T Cell Activation Kit(抗CD3、抗CD2、および抗CD28によりコートされたマイクロビーズ、Miltenyi Biotech)を製造者の指示に従って用いて活性化させるか、または活性化されないままとした。PBMC活性化の2日前に、hASCを24ウェルプレートに播いた(4×10
4細胞/ウェル)。PBMC(10
6細胞/ml)を単独で、またはhASCと共に、BAFFまたはAPRIL(100ng/ml)の存在下または非存在下で培養した。5日目にPBMCを回収し、FL−1チャネルのCFSEの減少によって細胞増殖を判定した。ゲーティングされたリンパ球(前方散乱/側方散乱特性に基づいて)について、Cellquest−Proソフトウェアを用いてデータを解析した。増殖しているリンパ球のパーセンテージは、最後の48時間培養(第3世代)に相当するFL−1チャネルの領域(M1)内でのゲーティングによって算出した。サイトメーターのキャリブレーションを行うため、各アッセイの前にCaliBRITEビーズ(BD Bioscience)を用いた。
【0164】
活性化およびシグナル伝達
hASCを100ng/mlのAPRILまたはBAFFで刺激し(10、30、60、120分、37℃)、氷上に静置し、氷冷したPBSで洗浄し、細胞溶解緩衝液(Roche、インディアナポリス、インディアナ州)で溶解した。抽出物を吸光度によって定量し、SDS−PAGEで分離し、免疫ブロットによって分析した。使用した抗体は、抗リン酸化Akt(Ser473)、抗Akt、抗リン酸化ERK1/2(Thr202/Tyr204)、および抗ERK1/2)(BD Bioscience)であり、二次抗体はホースラディッシュペルオキシダーゼ結合ウシ抗ウサギおよびヤギ抗マウスIgGであった。
【0165】
サイトカインの検出
hASC細胞を100ng/mlのAPRIL、BAFFと共に、または無刺激で培養し、次いで1μg/mlのLPSまたはポリI:Cによって刺激した。Cytometric Bead Array (CBA)免疫アッセイ(BD Bioscience)を製造者のプロトコルに従って用いることにより、培地中の48時間後のIL−6およびIL−8濃度を測定した。データはFACScaliburサイトメーターを用いて取得し、FCAPアレイソフトウェア(BD Bioscience)を用いて分析した。あるいは、hASC細胞を、培地、または10、30、もしくは100ng/mlのIFNγ、または10、30、もしくは100nMのCXCL12と共に培養し、5日後に上清を回収した。培地(BAFFに対してはR&D Systems、APRILに対してはBender MedSystem)中のAPRILおよびBAFF濃度をELISAによって測定した。
【0166】
ウェスタンブロッティング
播いたhASC(1.5×104細胞/cm2)をAPRILまたはBAFF(100ng/ml)で刺激し、プロテアーゼおよびホスファターゼ阻害剤を加えた溶解緩衝液(Roche)によって溶解した。抽出物中のタンパク質を、BCAプロテインアッセイキット(Pierce)を用いて吸光度により定量し、同量のタンパク質ホモジネートをSDS−PAGEで分離した後、PVDF膜(Millipore)へ転写した。5%BSAを含むTBS−T中でブロットを遮断し、抗リン酸化Akt(Ser473)、抗Akt、抗リン酸化ERK1/2(Thr202/Tyr204)、および抗ERK1/2抗体(全てCell Signaling Technologyから購入した)によって探索した。TBS−T中で膜を洗浄し、HRP結合二次抗体(Dako)と共にインキュベートして、反応性をECL(GE Healthcare)により検出した。
【0167】
統計
統計解析(スチューデントt検定)は、GraphPad Prism 4.0(GraphPadソフトウェア)を用いて行った。結果を平均±SDで表す。P値(両側)***p<0.0001、**p<0.001、および*p<0.001を統計学的に有意であるとみなした。
【0168】
結果
hASCにおけるAPRIL、BAFF、およびそれらの受容体の発現
APRIL/BAFF系の発現特性をRT−PCRによって調べるため、培養したhASC由来のmRNAサンプルを調製し、上記のヒトプライマーを用いて分析した。両リガンドに対する、APRILおよびBAFFにより共有される受容体であるBCMAおよびTACIに対する、およびBAFF単独に結合するBAFF−Rに対するmRNA転写産物が検出された(
図1A)。バッフィーコートから精製したPBMCは全てのファミリーメンバーを発現することから、陽性コントロールとして用いた。APRILおよびBAFFは単球によって産生され、TACI、BCMA、およびBAFF−RはB細胞および形質細胞によって産生される。hASCの上清の分析により、APRILタンパク質の濃度は3.97±0.72ng/ml(n=6、6日目)であったが、BAFFは検出されなかったことが示された(
図1B)。
【0169】
BCMAおよびTACIの発現はフローサイトメトリーによって確認されたが(
図1C)、おそらく用いた抗体または染色手順が原因で、BAFF−Rは検出されなかった。この結果により、2つのリガンドおよび3つの受容体を含むAPRIL/BAFF系がhASCに存在すること、およびin vitroで培養されたhASCは培地中にAPRILを分泌するが、BAFFは検出されないままであったことが示される。
【0170】
APRILおよびBAFFは、ERKおよびPI3Kの伝達経路を活性化する
ヒトASCをAPRILまたはBAFFで刺激し、MAPキナーゼ(p38、ERK1/2、JNK)、Akt、およびIκBαのリン酸化動態をウェスタンブロットによって分析した。APRILおよびBAFFの両方によって、AktおよびERK1/2の急速なリン酸化が誘導され、Aktの活性化はERK1/2の活性化よりも強力であった(
図2、JNK、IκBα、またはp38については明らかな効果がみられなかった)。おそらくはBAFF特異的受容体であるBAFF−RとTACIおよび/またはBCMAのシグナル伝達との相乗作用のため、BAFFはAPRILよりもさらに強い持続性の応答を促進することがウェスタンブロットのバンドによって示唆された。これらのデータにより、APRILおよびBAFFリガンドは、hASCにおけるそれらの受容体を介し、キナーゼタンパク質であるAktおよびERK1/2を活性化することによってシグナル伝達を可能にすることが示される。
【0171】
APRILおよびBAFFは、hASCの増殖をERKに依存して増大させる
MTSアッセイにおいて、両サイトカインは共にhASCの基礎増殖を培養の6日後に増大させたが、BAFFの刺激はAPRILよりも強力であった(基礎増殖を100%と考えると、それぞれ140%および114%増大した。
図3A)。APRILと比較したBAFFのより大きな効果は、そのBAFF−Rへの結合による可能性がある。APRILまたはBAFFによって刺激したhASCにおけるBrdU取り込みによって細胞増殖を測定すると、BrdU陽性細胞のパーセンテージによって同様の増大が観察されたが、これは13%(コントロール)から29.4%(BAFF)および27.5%(APRIL)であった(
図3B)。APRIL/BAFFによって増大したhASCの増殖の基礎をなす機序にAktまたはERKが関わっているか否かについて、これらの経路を遮断するPI3K(LY294002)およびERK(U0126)の活性化に対する阻害剤を用いて試験した。PI3Kの阻害剤を培地に添加したときに、hASCの基礎増殖は100%(コントロール)から60.3%に低下したが、ERK阻害剤では低下しなかったことがMTSアッセイにより示されたことから(
図3C)、hASCの基礎増殖にはPI3Kの伝達経路が関与していることが示される。ERKを阻害したときにAPRILおよびBAFFは細胞増殖を促進しなかったが、PI3Kを阻害した際には促進したことから、両TNFリガンドはERKのシグナル伝達を介してこの効果を誘導していることが示唆される(
図3C)。
【0172】
APRILおよびBAFFは、hASCの免疫学的性質を変化させない
APRILおよびBAFFは、RAまたはSLEのような慢性炎症性疾患の患者の血清および組織病変部に過剰発現している。それ故、BAFFおよびAPRILがhASCの免疫学的特性を調節し得るか否かを理解することは、臨床上および治療上の観点から価値がある。APRIL/BAFFはTLR(Toll様受容体)リガンドの共刺激分子として説明され、さらにこれらの分泌がTLRの活性化によって誘導されることから、このことがhASCでも当てはまるかどうかについて調べた。細胞を単独またはAPRILもしくはBAFFと共に培養した後、LPSまたはポリI:Cで活性化した。いずれのリガンドもAPRILまたはBAFFの分泌を誘導せず、APRILもBAFFも、LPSまたはポリI:Cにより誘導されるIL−6またはIL−8の産生に影響を与えなかった(
図4A)。hASCの免疫調節能は、それらの治療への使用の可能性において鍵となる因子である。活性化されたCFSE標識PBMCの増殖を単独で、あるいは培地のみかまたはBAFFもしくはAPRILを補って培養した同種のhASCの存在下で分析することにより、hASCの免疫応答抑制能におけるBAFF/APRILの効果を試験した(
図4B)。予想したように、hASCはPBMCの増殖を効果的に抑制した。APRILまたはBAFFの培地への添加によって、hASCがPBMCの増殖を抑制する能力は変化しなかった。BAFF/APRILの活性化により、リンパ球増殖の抑制に関わる、トリプトファン代謝酵素であるインドールアミン−2,3−ジオキシゲナーゼ(IDO)は誘導されなかった。APRILまたはBAFFの活性化がhASCの免疫原性特性を変化させるか否かについて試験するため、HLA−I、HLA−II、CD80、およびCD86の発現をフローサイトメトリーによって分析すると、BAFFおよびAPRILは、hASCにおけるこれらの活性化分子の発現に影響しないことが見出された。これらの結果により、APRILまたはBAFFの刺激によって、hASCの免疫原性および免疫調節性の性質が顕著には損なわれないことが示される。
【0173】
hASCにおけるAPRILおよびBAFFの分泌は、IFN−γおよびCXCL12によって差次的に誘導される
hASCを介した免疫抑制および細胞の遊走にそれぞれ関係する2つのサイトカイン、IFN−γおよびCXCL12に焦点を合わせ、hASCにおけるAPRILまたはBAFFの分泌を促進し得る分子について調べた。
図4Cに、IFN−γ(10、30、100ng/ml)またはCXCL12(10、30、100nM)による刺激後のAPRILおよびBAFF濃度を測定した用量反応曲線を示す。これらの結果によって、CXCL12はAPRILを選択的に増加させるが、IFN−γはBAFFの分泌を促進することが実証されたことから、それぞれのTNFサイトカインは異なった刺激に応答してhASCから分泌されることが示された。