(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6267547
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】コンクリート中詰鋼製セグメント製造用治具
(51)【国際特許分類】
E21D 11/14 20060101AFI20180115BHJP
E21D 11/08 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
E21D11/14
E21D11/08
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-44754(P2014-44754)
(22)【出願日】2014年3月7日
(65)【公開番号】特開2015-168986(P2015-168986A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2017年1月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231110
【氏名又は名称】JFE建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】特許業務法人 インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100083839
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 泰男
(72)【発明者】
【氏名】中村 和憲
【審査官】
岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−021489(JP,A)
【文献】
特開2001−198913(JP,A)
【文献】
特開平08−197523(JP,A)
【文献】
米国特許第03861154(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/00−19/06,23/00−23/26
B28B 7/00−7/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製枠と前記鋼製枠内に打設されたコンクリートとから構成され、前記鋼製枠は、一対の主桁と、前記主桁の両端部間に溶接された一対の継手板と、前記主桁の外周面に溶接されたスキンプレートと、前記主桁の外側に着脱可能に取り付けられる側枠と、一方の前記継手板側の前記主桁間に溶接された仕切板とを備え、前記側枠の内面には、前記側枠に沿って余盛枠が取り付けられ、前記余盛枠の下面は、前記主桁の内周面の外側に当接するコンクリート中詰鋼製セグメントを製造する際の、継手板用ボルトの締結作業用空間を形成するための治具において、
前記仕切板に当てがわれるせき板と、前記せき板を進退させて、前記一方の継手板と前記せき板との間隔を調整する間隔調整機構とを備え、前記せき板の上部は、前記余盛枠の高さと同一高さを有すると共に、前記余盛枠間の間隔と同じ長さを有し、前記せき板の下部は、前記主桁間の間隔と同じ長さを有し、前記せき板の上部の両端下面は、前記主桁の内周面の内側に当接することを特徴とするコンクリート中詰鋼製セグメント製造用治具。
【請求項2】
前記間隔調整機構は、前記せき板の前記一方の継手板側の面に固定されたねじ棒と、前記ねじ棒と螺合し、前記一方の継手板の内面に当接するナットとからなり、前記ナットを回すことによって、前記せき板を前記仕切板に密着させることを特徴とする、請求項1に記載のコンクリート中詰鋼製セグメント製造用治具。
【請求項3】
前記間隔調整機構は、前記せき板の前記一方の継手板側の面に固定された外管と、前記外管内にコイルばねを介して挿入された、前記一方の継手板の内面に当接する内管とからなり、前記コイルばねの弾性力によって、前記せき板を前記仕切板に密着させることを特徴とする、請求項1に記載のコンクリート中詰鋼製セグメント製造用治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンクリート中詰鋼製セグメント製造用治具、特に、セグメントを周方向にリング状に連結する際に使用される継手板用ボルトの締結作業用空間を形成するためのコンクリート中詰鋼製セグメント製造用治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トンネル構築法の一つにシールド工法がある。シールド工法とは、立坑内に設置した掘進機を一定長さ掘進させる毎に、その後部で、例えば、円弧状のコンクリート中詰鋼製セグメント(既存の鋼製セグメントの鋼製枠(鋼殻)内にコンクリートを予め工場で中詰めさせたセグメントであるが、設計思想として、鋼材とコンクリートを強度的に相互補完しあった合成効果を有する、いわゆる、「合成セグメント」も含まれる。)を周方向にリング状に組み立ててセグメントリングを構築し、これを順次、延長させて円筒形の覆工を形成してシールドトンネルを構築する工法である。
【0003】
コンクリート中詰鋼製セグメントは、強度が高く、しかも、内周面には、コンクリートの余盛部が形成されているので、シールド工法の際に行う必要がある二次覆工、すなわち、セグメントリングの内周面をコンクリートで被覆して仕上げる工事を省略することができるといった利点を有している。
【0004】
コンクリート中詰鋼製セグメントを、図面を参照しながら説明する。
【0005】
図4は、コンクリート中詰鋼製セグメントを示す概略斜視図、
図5は、従来法によりコンクリート中詰鋼製セグメントを製造する場合の鋼製枠を示す概略斜視図、
図6は、側枠を示す背面図、
図7は、中子位置における主桁への側枠の取り付け構造を示す縦断面図、
図8は、発泡スチロール製ブロックを示す斜視図である。
【0006】
図4に示すように、コンクリート中詰鋼製セグメントは、鋼製枠1と鋼製枠1内に打設されたコンクリート2とから構成されている。
【0007】
鋼製枠1は、補強材3(通常は、「縦リブ」と呼ばれている。:
図5参照)により連結された一対の円弧状の主桁4と、主桁4の両端部間に溶接された一対の継手板5と、主桁4の外周面に溶接されたスキンプレート6とからなっている。
【0008】
主桁4には、セグメントリングを軸方向に連結する主桁用ボルト(図示せず)のボルト孔7が形成され、継手板5には、セグメント同士を周方向にリング状に連結する継手板用ボルト(図示せず)のボルト孔8が形成されている。
【0009】
図4に示すように、コンクリート2において、ボルト孔7に対応する箇所には、前記主桁用ボルトの締結作業用空間となる凹陥部9(通常は、「ボルトボックス」と呼ばれている。)が形成され、ボルト孔8に対応する位置には、前記継手板用ボルトの締結作業用空間となる凹陥部10が形成されている。
【0010】
コンクリート2には、上述した二次覆工用の余盛部11が形成されている(
図4参照)。
【0011】
コンクリート中詰鋼製セグメントを製造するには、先ず、
図5に示すような鋼製枠1を製作し、鋼製枠1内に凹陥部9を形成するための中子12(
図7参照)と、凹陥部10を形成するための中子(図示せず)とを設置し、主桁4の外面に側枠13をボルト孔7を利用してボルト14により取り付け(
図7参照)、側枠13の両端部間に端部枠15を取り付け(
図5においては、側枠13の一方の端部間の端部枠15のみが記載されている。)、鋼製枠1内にコンクリートを打設し、そして、コンクリート硬化後、側枠13および端部枠15を取り外していた。
【0012】
図6に示すように、側枠13の内面には、余盛部11を形成するための余盛枠16が側枠13に沿って取り付けられている。余盛枠16の板厚は、
図7に示すように、主桁4の板厚より薄く形成されているので、余盛枠16の下面は、主桁4の内周面の外側に係合する。主桁4の内周面の外側を、
図5、
図7において、(a)で示す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
コンクリート中詰鋼製セグメントは、上述したように製造されているが、以下のような問題があった。
【0014】
シールドトンネルの曲線部に対応するために、幅が狭いコンクリート中詰鋼製セグメントを製造する必要性があった。即ち、曲線部の曲率により近似させる必要があるからである。
図4中、セグメントの幅をW、セグメントの高さをHで示す。例えば、幅が30cmのコンクリート中詰鋼製セグメントを上記方法により製造する場合には、幅が狭すぎて、継手板用ボルトの締結作業を可能にする凹陥部10を形成するための中子の設置が行えない。
【0015】
このために、従来は、
図5に示すように、鋼製枠1の一方の継手板5a側の主桁4間を仕切板17により仕切り、一方の継手板5aと仕切板17との間の空間に、
図8に示すような、余盛高さを有する発泡スチロール製ブロック18を嵌め込んで、コンクリートを打設していた。
【0016】
しかし、以下のような問題があった。
【0017】
(a)ブロック18の一部は、主桁4の内周面(板厚部)の内側に載せる必要があるので、ブロック18の上部両側には、段部18aが形成されている。主桁4の内周面の内側を、
図5、
図7において、(b)で示す。しかし、ブロック18は、発泡スチロール製であるために、段部18a部分が欠損し易く、この結果、ブロック18の反復使用が困難である。
【0018】
(b)仕切板17の取り付け位置は、コンクリート中詰鋼製セグメント毎に若干、異なる。この結果、コンクリート中詰鋼製セグメントによっては、ブロック18と仕切板17との間に隙間が生じる場合がある。この問題を解決するには、コンクリート中詰鋼製セグメント毎にブロック18を用意する必要があるので、コストがかかる。
【0019】
従って、この発明の目的は、コンクリート中詰鋼製セグメント毎に仕切板の取り付け位置が変わっても、これに容易に対処することができる、セグメントを周方向にリング状に連結する際に使用される継手板用ボルトの締結作業用空間を形成するためのコンクリート中詰鋼製セグメント製造用治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この発明は、上記目的を達成するためになされたものであって、下記を特徴とする。
【0021】
請求項1に記載の発明は、鋼製枠と前記鋼製枠内に打設されたコンクリートとから構成され、前記鋼製枠は、一対の主桁と、前記主桁の両端部間に溶接された一対の継手板と、前記主桁の外周面に溶接されたスキンプレートと、前記主桁の外側に着脱可能に取り付けられる側枠と、一方の前記継手板側の前記主桁間に溶接された仕切板とを備え、前記側枠の内面には、前記側枠に沿って余盛枠が取り付けられ、前記余盛枠の下面は、前記主桁の内周面の外側に当接するコンクリート中詰鋼製セグメントを製造する際の、継手板用ボルトの締結作業用空間を形成するための治具において、前記仕切板に当てがわれるせき板と、前記せき板を進退させて、前記一方の継手板と前記せき板との間隔を調整する間隔調整機構とを備え、前記せき板の上部は、前記余盛枠の高さと同一高さを有すると共に、前記余盛枠間の間隔と同じ長さを有し、前記せき板の下部は、前記主桁間の間隔と同じ長さを有し、前記せき板の上部の両端下面は、前記主桁の内周面の内側に当接することに特徴を有するものである。
【0022】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記間隔調整機構は、前記せき板の前記一方の継手板側の面に固定されたねじ棒と、前記ねじ棒と螺合し、前記一方の継手板の内面に当接するナットとからなり、前記ナットを回すことによって、前記せき板を前記仕切板に密着させることに特徴を有するものである。
【0023】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記間隔調整機構は、前記せき板の前記一方の継手板側の面に固定された外管と、前記外管内にコイルばねを介して挿入された、前記一方の継手板の内面に当接する内管とからなり、前記コイルばねの弾性力によって、前記せき板を前記仕切板に密着させることに特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0024】
この発明によれば、主桁間に溶接された仕切板に当てがわれるせき板を進退可能に構成することによって、セグメント毎に仕切板の取り付け位置が変わっても、これに容易に対処することができるコンクリート中詰鋼製セグメント製造用治具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】この発明の治具が設置された鋼製枠を示す概略斜視図である。
【
図2】この発明の治具が設置された鋼製枠を示す平面図である。
【
図3】この発明の治具が設置された鋼製枠を示す正面図である。
【
図4】コンクリート中詰鋼製セグメントを示す概略斜視図である。
【
図5】従来法によりコンクリート中詰鋼製セグメントを製造する場合の鋼製枠を示す概略斜視図である。
【
図7】中子位置における主桁への側枠の取り付け構造を示す縦断面図である。
【
図8】発泡スチロール製ブロックを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
この発明のコンクリート中詰鋼製セグメント用治具の一実施態様を、図面を参照しながら説明する。
【0027】
図1は、この発明の治具が設置された鋼製枠を示す概略斜視図、
図2は、この発明の治具が設置された鋼製枠を示す平面図、
図3は、この発明の治具が設置された鋼製枠を示す正面図である。
【0028】
図1から
図3に示すように、この発明の治具(説明の便宜上、以下「治具A」と称す。)は、コンクリート中詰鋼製セグメントを製造する際の、継手板用ボルトの締結作業用空間(S)を形成するためのものである。
【0029】
コンクリート中詰鋼製セグメントは、上述した通りであるので、簡単に説明する。
【0030】
コンクリート中詰鋼製セグメントは、鋼製枠1と鋼製枠1内に打設されたコンクリート(
図4参照)とから構成されている。鋼製枠1は、一対の主桁4と、主桁4の両端部間に溶接された一対の継手板5と、主桁4の外周面に溶接されたスキンプレート6と、主桁4の外側に着脱可能に取り付けられる側枠13と、一方の継手板5a側の主桁4間に溶接された仕切板17とを備えている。側枠13の内面には、側枠13に沿って余盛枠16が取り付けられ、余盛枠16の下面は、主桁4の内周面の外側に当接するものから構成されている。
【0031】
この他、
図5におけると同一番号は、同一物を示す。
【0032】
この発明の治具Aは、仕切板17に当てがわれるせき板19と、せき板19を進退させて、一方の継手板5aとせき板19との間隔を調整する間隔調整機構20とからなっている。
【0033】
せき板19の上部は、余盛枠16の高さと同一高さを有すると共に、余盛枠16,16間の間隔と同じ長さを有する。せき板19の下部は、主桁4,4間の間隔と同じ長さを有し、せき板19の上部の両端下面は、主桁4の内周面の内側(b)に当接する。せき板19の上部の両端下面を、
図1において、(c)で示す。
【0034】
間隔調整機構20は、せき板19の一方の継手板5a側の面に固定されたねじ棒21と、ねじ棒21と螺合し、一方の継手板5aの内面に当接するナット22とからなっている。ナット22を回転させることによって、ねじ棒21が進退し、これによって、せき板19も進退する。この結果、セグメント毎に仕切板17の取り付け位置が変わっても、常に、一台の間隔調整機構20によって、継手板用ボルトの締結作業用空間(S)を形成することが可能となる。
【0035】
この発明の治具Aを使用してコンクリート中詰鋼製セグメントを製造するには、
図1に示すように、この発明の治具Aを一方の継手板5aと仕切板17との間に設置し、ナット22を手等で回転させて、せき板19を仕切板17に密着させる。
【0036】
このようにして、この発明の治具Aを設置したら、せき板19と端部枠15との間の鋼製枠1内にコンクリートを打設する。そして、コンクリート硬化後、この発明の治具A、側枠13および端部枠15を取り外す。
【0037】
一方の継手板5aと仕切板17との間に形成された空間(S)内には、シールドトンネル施工時において、セグメントリングを組立てた後(ボルト締め後)、コンクリートを打設する。
【0038】
以上、説明したように、この発明によれば、従来の発泡スチロール製ブロック18のように欠損の恐れがないので、反復使用が可能である。
【0039】
また、この発明によれば、せき板19を自在に移動することができるので、セグメント毎に仕切板17の取り付け位置が変わっても、これに容易に対処することができる。
その結果、コンクリート中詰鋼製セグメントの製造能率が向上し、その品質も安定する。
【0040】
なお、間隔調整機構20は、ねじ棒とナットによる構造以外のものでも良い。例えば、
図9に示すように、せき板19に固定した外管23と、外管23内にコイルばね24を介して挿入された内管25とからなり、コイルばね24の弾性力によって、せき板19を仕切板17に密着させる構造であっても良い。
【0041】
内管25は、必ずしも中空の管体でなくても良く、いわゆる中実の柱体でも機能上使用できる。また、その材質は鋼製でなくても良く、アルミニウム等の金属製、若しくは硬質プラスチック製等でも良い。
【0042】
さらに、コイルばね24の弾性力を増すため、図示をしないが、間隔調整機構20を複数並列にせき板19に設けても良い。
【符号の説明】
【0043】
A:この発明の治具
1:鋼製枠
2:コンクリート
3:補強材(縦リブ)
4:主桁
5:継手板
5a:一方の継手板
6:スキンプレート
7:ボルト孔
8:ボルト孔
9:凹陥部(ボルトボックス)
10:凹陥部
11:余盛部
12:中子
13:側枠
14:ボルト
15:端部枠
16:余盛枠
17:仕切板
18:ブロック
19:せき板
20:間隔調整機構
21:ねじ棒
22:ナット
23:外管
24:コイルばね
25:内管