(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0010】
図1は、本実施形態に係る補償回路100の第1の構成例を送信部10、伝送路20、および受信回路30と共に示す。送信部10は、送信すべき電気信号を生成して伝送路20を介して受信回路30に送信する。送信部10は、一例として、試験信号を生成して被試験デバイスに送信する試験装置である。
【0011】
伝送路20は、送信部10および受信回路30の間に設けられ、送信部10が生成した電気信号を受信回路30に伝送する。伝送路20は、一端の送信端子に送信部10が接続され、他端の受信端子に受信回路30が接続される。伝送路20は、例えば、ストリップ線路、マイクロストリップ線路、スロット線路、および/またはコプレーナ導波路等を含む。伝送路20は、線路長、線路幅、線路形状、線路とグラウンド電極との距離、線路とグラウンド電極との間の誘電体材料、およびグラウンド電極の形状等に応じて、伝送させる電気信号の周波数特性を有する。
【0012】
伝送路20は、例えば、数百MHz程度から数GHz程度以上の高周波領域において、数dB程度以上の減衰を示す周波数特性を有する。これによって、伝送路20は、送信部10が送信する電気信号の波形に歪みを生じさせ、例えば、立ち上がり波形および立ち下がり波形をなまらせるように劣化させて受信回路30に伝送する。
【0013】
受信回路30は、送信部10が送信した電気信号を、伝送路20を介して受信する。受信回路30は、例えば、アナログ回路、デジタル回路、メモリ、およびシステム・オン・チップ(SOC)等の被試験デバイス被試験デバイスであり、試験装置からの試験信号を受信する。この場合、試験装置は、被試験デバイスを試験するための試験パターンに基づく試験信号を被試験デバイスに入力して、試験信号に応じて被試験デバイスが出力する出力信号に基づいて被試験デバイスの良否を判定してよい。
【0014】
ここで、送信部10が送信する電気信号に数百MHz程度から数GHz程度以上の高周波成分が含まれると、伝送路20は、上述のとおり信号波形を劣化させて受信回路30に伝送する。そこで、補償回路100は、伝送路20に接続され、送信部10から伝送路20を伝送する伝送信号に反射波を重畳して、当該伝送信号の波形歪(損失)を補償する。
【0015】
補償回路100は、特性インピーダンスを変化させた少なくとも1つの変化点を備え、当該変化点において生じる反射波を伝送信号に重畳して当該伝送信号の伝送損失を補う。補償回路100は、伝送路20の受信端子側に接続され、伝送路20の送信端子から受信端子へと伝送される伝送信号に、受信端子を通過してから変化点において反射されて受信端子へと伝送される反射波を重畳する。本実施例において、補償回路100は、特性インピーダンスを変化させた複数の変化点を備える例を説明する。
【0016】
補償回路100は、伝送路20の受信端子側に接続され、伝送路20の送信端子から受信端子へと伝送される伝送信号に、受信端子を通過してから複数の変化点のうち互いに異なる変化点により反射されて受信端子へと伝送される複数の反射波を重畳する。補償回路100は、予め定められた長さの複数の区間の各端部に変化点を備える。
【0017】
補償回路100は、入出力部110と伝送路120とを備える。入出力部110は、伝送路20に接続され、送信部10から伝送される伝送信号を受け取る。また、入出力部110は、受信回路30に接続され、補償した伝送信号を受信回路30に供給する。入出力部110は、伝送路20および受信回路30とインピーダンスマッチングされることが望ましく、一例として、50Ωの特性インピーダンスを有する。
【0018】
伝送路120は、一端が入出力部110に接続され、他端が終端抵抗130に接続されて終端される。終端抵抗130は、伝送路120とインピーダンスマッチングされることが望ましい。終端抵抗130は、一例として、50Ωの特性インピーダンスを有する。伝送路120は、送信部10から伝送路20に伝送される電気信号の一部を一端から他端側へと伝送させつつ、内部の特性インピーダンスの変化点において発生する反射波を一端側へと伝送させる。
【0019】
これによって、伝送路120は、伝送路20から受信回路30に伝送される電気信号に、特性インピーダンスの変化点において発生させた反射波を重畳させ、重畳した電気信号を受信回路30に入力させる。伝送路120は、伝送路20によって劣化した信号を補償する電気信号を反射波として生成し、受信回路30は、補償された電気信号を受信する。伝送路120は、内部の特性インピーダンスの変化点として、複数の短距離伝送路122を有する。
【0020】
複数の短距離伝送路122は、予め定められた特性インピーダンスをそれぞれ有する。複数の短距離伝送路122は、互いに電気的に接続され、伝送路120を形成する。
図1は、伝送路120が予め定められた形状の複数の短距離伝送路122を有し、隣り合う短距離伝送路122の間に特性インピーダンスの変化点X
n(n=0、1、2、...)が形成される例を示す。このように、補償回路100は、伝送路120の複数の区間となる複数の短距離伝送路122を有し、それぞれの一端および他端に変化点X
nを備える。
【0021】
複数の短距離伝送路122は、例えば、ストリップ線路、マイクロストリップ線路、スロット線路、および/またはコプレーナ導波路等を含む。
図1は、複数の短距離伝送路122がストリップ線路で形成される例を説明する。複数の短距離伝送路122は、予め定められた特性インピーダンスをそれぞれ有する。例えば、短距離伝送路122のそれぞれは、特性インピーダンスに応じた線路幅を有する。
【0022】
これに代えて、またはこれに加えて、短距離伝送路122のそれぞれは、特性インピーダンスに応じたグラウンド電極との距離、伝送路とグラウンド電極との間の誘電体材料、および/またはグラウンド電極の形状等を有してよい。本実施例において、伝送路120は、当該伝送路120とグラウンド電極との距離、および当該伝送路120とグラウンド電極との間の誘電体材料の誘電率を、予め定められた略一定の値を有する多層基板で形成される例を説明する。ここで、グラウンド電極は、伝送路120の上面側および下面側において、誘電体を介して当該伝送路120を覆うように形成されてよい。
【0023】
即ち、本実施例の補償回路100は、複数の区間である複数の短距離伝送路122のそれぞれにおいて、対応する特性インピーダンスに応じた線幅を有する。これによって、伝送路120は、隣り合う短距離伝送路122の間に特性インピーダンスの変化点X
nが形成され、当該変化点において、反射波が発生する。ここで、各変化点において発生する反射波は、変化点に入力する伝送信号の振幅強度と特性インピーダンスの変化量とに応じて、それぞれ発生する。
【0024】
また、複数の短距離伝送路122は、予め定められた伝送路長をそれぞれ有する。即ち、複数の変化点X
nによって生じる互いに伝送時間が異なる複数の反射波を、送信部10から伝送路20を介して伝送された伝送信号に重畳して当該伝送信号の波形を整形する。
【0025】
本実施例において、複数の短距離伝送路122は、電気長として25psに相当する長さの伝送路長をそれぞれ有する。即ち、特性インピーダンスの変化点X
nは、伝送路120における一端から他端に向かう方向において、25psの電気長毎に形成される。これによって、例えば、変化点X
0、X
1、X
2、X
3でそれぞれ発生する反射波は、伝送信号が変化点X
0を通過した時点を基準(時刻を0)とすると、0、50、100、150[ps]でそれぞれ変化点X
0に到達し、伝送路20から受信回路30に伝送される電気信号に重畳されることになる。
【0026】
このように、補償回路100は、高周波成分の減衰によって伝送波形が歪んでも、受信回路30に到達する時間が異なる時間帯の高周波成分を反射させて(即ち、時間遅延させて)重畳することにより、歪んだ伝送波形を補償することができる。即ち、補償回路100は、送信部10と受信回路30の間に接続された伝送路20の周波数特性に応じて、伝送波形を補償するように反射特性が定められ、複数の短距離伝送路122の特性インピーダンス(即ち、線路長)が予め設計される。このように、短距離伝送路122の特性インピーダンスは、補償回路100が有すべき反射特性によって定められ、本実施形態に係る情報処理装置200が算出する。
【0027】
図2は、本実施形態に係る情報処理装置200の構成例を示す。情報処理装置200は、補償回路100が有すべき反射特性を算出する。情報処理装置200は、生成部210と、記憶部220と、算出部230とを備える。
【0028】
生成部210は、伝送路20による損失を補う補償波形を生成する。生成部210は、周波数特性取得部212と、補償特性算出部214と、逆フーリエ変換部216とを有する。
【0029】
周波数特性取得部212は、周波数領域における伝送路20の伝達特性を取得する。即ち、周波数特性取得部212は、伝送路20の伝送損失の周波数特性を取得する。周波数特性取得部212は、予め定められた形式で記憶された伝送損失のデータを取得してよい。周波数特性取得部212は、ネットワーク等に接続され、当該ネットワークを介して伝送損失のデータを取得してもよい。周波数特性取得部212は、有線または無線で送信された伝送損失のデータを受信して取得してもよい。
【0030】
周波数特性取得部212は、シミュレータ等の回路特性を算出するソフトウェア等の出力結果から伝送損失のデータを取得してもよい。また、周波数特性取得部212は、ネットワークアナライザ等の回路の伝達特性を測定する装置が、伝送路20の伝達特性を測定した結果を取得してもよい。また、周波数特性取得部212は、ユーザがキーボード等の入力デバイスでデータ入力することにより、伝送損失のデータを取得してもよい。周波数特性取得部212は、取得した伝送損失のデータを記憶部220に記憶してよい。
【0031】
補償特性算出部214は、伝送損失の周波数特性を補う補償周波数特性を算出する。補償特性算出部214は、伝送損失の周波数特性に加算することで、周波数特性が略平坦な特性となるような周波数特性を補償周波数特性として算出する。一例として、補償特性算出部214は、周波数特性の逆特性を補償周波数特性とする。補償特性算出部214は、算出した補償周波数特性を記憶部220に記憶してよい。
【0032】
逆フーリエ変換部216は、補償特性算出部214が算出した補償周波数特性を逆フーリエ変換して補償波形を生成する。逆フーリエ変換部216は、生成した補償波形を記憶部220に記憶してよい。
【0033】
記憶部220は、生成部210に接続され、当該生成部210から受け取ったデータを記憶する。また、記憶部220は、情報処理装置200が生成するデータ、および当該データを生成する過程において算出された中間データ等も記憶してよい。また、記憶部220は、情報処理装置200内の各部の要求に応じて、記憶したデータを要求元に供給してよい。
【0034】
算出部230は、反射波によって補償波形を近似するための反射特性を算出する。算出部230は、一例として、生成部210または記憶部220から補償波形を受け取り、当該補償波形に応じて、伝送路120の複数の変化点において発生すべき反射波の強度を算出する。算出部230は、算出した各変化点における反射波の強度に基づき、複数の短距離伝送路122の特性インピーダンス(即ち、伝送線路幅)を算出する。
【0035】
以上の本実施形態に係る情報処理装置200は、伝送路20の伝達特性に基づき、補償回路100が有すべき反射特性を算出し、複数の短距離伝送路122のそれぞれの伝送線路幅を決定する。伝送線路幅の決定については、
図3を用いて説明する。
【0036】
図3は、本実施形態に係る情報処理装置200の動作フローを示す。また、
図4は、本実施形態に係る伝送路20の減衰特性の一例を示す。
図3に示す動作フローを実行することにより、情報処理装置200が、
図4に示す減衰特性を有する伝送路20に対応する反射特性を算出し、補償回路100が備える伝送路120を設計する例を説明する。
【0037】
まず、周波数特性取得部212は、伝送路20の伝達特性を取得する(S300)。周波数特性取得部212は、
図4に示す減衰特性を伝送路20の伝達特性として取得し、記憶部220に記憶する。ここで、
図4は、横軸が周波数(単位はGHz)で、縦軸が伝送損失(単位はdB:デシベル)である。
【0038】
次に、補償特性算出部214は、記憶部220または周波数特性取得部212から伝達特性を受け取り、当該伝達特性を補う補償周波数特性を算出する(S310)。補償特性算出部214は、例えば、
図4に示す減衰特性の伝送損失をデシベル単位の値からリニア値に変換する。そして、補償特性算出部214は、リニア値の伝送損失に加算することで、予め定められた値となるような周波数特性を補償周波数特性として算出する。
【0039】
補償特性算出部214は、一例として、伝送損失との和が1となる周波数特性を補償周波数特性として算出する。即ち、補償特性算出部214は、
図4に示す減衰特性の逆特性を算出する。このような減衰特性の逆特性を有する反射波が、伝送路20から受信回路30に伝送される電気信号に重畳されると、理想的には、伝送路20によって劣化した波形が劣化する前の波形に補償されることになる。したがって、情報処理装置200は、減衰特性の逆特性を、補償回路100が有すべき反射特性として補償回路を設計する。
【0040】
図5は、補償特性算出部214が算出した、本実施形態に係る伝送路20の減衰特性に対応する逆特性の一例を示す。
図5は、横軸が周波数(単位はGHz)で、縦軸が伝送損失(単位はリニア)である。
図5には、伝送損失をリニア値に変換した伝送路20の減衰特性を点線で示す。また、減衰特性に対応する逆特性を実線で示す。各周波数における伝送路20の伝達特性の伝送損失および逆特性の伝送損失の和が1になることがわかる。
【0041】
次に、逆フーリエ変換部216は、記憶部220または補償特性算出部214から補償周波数特性を受け取り、当該補償周波数特性を逆フーリエ変換して補償波形を生成する(S320)。逆フーリエ変換部216は、補償特性算出部214が算出した補償周波数特性に対応する時間特性(インパルス応答)を生成する。
【0042】
図6は、
図5に示した減衰特性の逆特性に対応する補償波形の一例を示す。
図6は、横軸が時間(相対値)で、縦軸が振幅強度(相対値)である。
図6に示す補償波形は、補償回路100が有すべき反射特性の時間波形に相当する。
【0043】
次に、算出部230は、伝送路120の各変化点で発生する反射波によって補償波形を形成するように、各変化点における反射特性を算出する(S330)。ここで、
図6に示す補償波形の横軸は時間軸なので、伝送路120の各変化点で発生した反射波が受信回路30に到達する時間と考えることができる。即ち、情報処理装置200が補償波形を算出する過程において、時間軸の単位を短距離伝送路122の電気長(本実施例では50ps)に対応させることで、
図6に示す補償波形の各時間の値は、それぞれの変化点でそれぞれ発生する反射波に対応させることができる。
【0044】
例えば、
図6において、情報処理装置200は、時間t
0における値Γ
0を、変化点X
0による反射波に対応させ、時間t
1における値Γ
1を、変化点X
1による反射波に対応させることができる。即ち、情報処理装置200は、時間t
nにおける値Γ
nを、変化点X
nによる反射波に対応させることで、それぞれの変化点X
nに対応する反射特性を補償波形から取得できる(n=0,1,2,...)。したがって、算出部230は、隣り合う短距離伝送路122の特性インピーダンスの差分によって、当該反射特性が生じるように、それぞれの短距離伝送路122の特性インピーダンスを算出できる。
【0045】
ここで、隣り合う2つの伝送路の特性インピーダンスをZ
mおよびZ
m+1、特性インピーダンスの変化点における反射係数をΓ
mとすると、これらの関係式として次式が得られる。
(数1)
Γ
m=(Z
m−Z
m+1)/(Z
m+Z
m+1)
【0046】
(数1)式を変形することで、算出部230は、反射係数Γ
mおよび特性インピーダンスZ
mに基づき、特性インピーダンスZ
m+1を次式のように算出することができる。
(数2)
Z
m+1=Z
m・(Z
m−Γ
m)/(Z
m+Γ
m)
【0047】
一例として、変化点X
0に対応する補償波形の時間t
0の値Γ
0を、
図6から0.37と取得した場合、算出部230は、伝送路120の入出力部110に隣接する1番目の短距離伝送路122の特性インピーダンスZ
1を108.7Ωと算出する。ここで、送信部10、伝送路20、および入出力部110は、一例として、50Ωの特性インピーダンスZ
0でインピーダンスマッチングされているとし、算出部230は、Γ
0およびZ
0からZ
1を算出する。
【0048】
同様に、算出部230は、1番目の短距離伝送路122および2番目の短距離伝送路122の間の変化点X
1に対応する値Γ
1=−0.16を取得した場合、2番目の短距離伝送路122の特性インピーダンスZ
2を、Γ
1およびZ
1から78.7Ωと算出する。このように、算出部230は、
図6の補償波形に基づき、複数の短距離伝送路122の特性インピーダンスを順次算出することができる。算出部230は、一例として、表1に示すようなΓ
nに対応する特性インピーダンスZ
nを算出する。
【表1】
【0049】
次に、算出部230は、算出した複数の短距離伝送路122の特性インピーダンスに基づき、伝送線路幅をそれぞれ算出する(S340)。算出部230は、ストリップ線路、マイクロストリップ線路、スロット線路、およびコプレーナ導波路等の短距離伝送路122として形成する線路の構成に応じて、伝送線路幅をそれぞれ算出する。
【0050】
以上のように、本実施形態の情報処理装置200は、伝送路20の伝達特性に基づき、補償回路100が有する伝送線路の設計パラメータを決定することができる。
図1は、このように情報処理装置200が決定した補償回路100の一例である。
図1は、n=6までの特性インピーダンスを決定した例を示す。
【0051】
以上の本実施形態に係る情報処理装置200は、補償回路100における特性インピーダンスが変化する変化点において反射波を発生し、当該反射波が伝送信号に重畳することで当該伝送信号を補償するように補償回路100の設計パラメータを決定することを説明した。これに加えて、情報処理装置200は、変化点において発生した反射波が、他の変化点において更に反射することを考慮して補償回路100の設計パラメータを決定してよい。
【0052】
また、情報処理装置200は、反射波が変化点を通過する毎に、当該反射波の一部が通過し、残りが反射するように、多重反射を考慮して補償回路100の設計パラメータを決定してもよい。この場合、情報処理装置200は、予め定められた回数の多重反射のみを考慮に入れて設計パラメータを決定してもよい。このように、情報処理装置200が多重反射を考慮に入れることで、補償回路100が有する伝送線路の設計パラメータをより正確に決定することができる。
【0053】
図7は、本実施形態に係る補償回路100によって補償された波形の一例を示す。
図7は、n=8までの特性インピーダンスに対応する短距離伝送路122を有する補償回路100を加えた効果を、回路シミュレーションによって確認した結果である。
図7の横軸は時間であり、縦軸は振幅強度(電圧)である。
【0054】
図7において、点線で示した波形は送信部10が送信した信号波形であり、一点鎖線で示した波形は伝送路20で歪んだ波形である。即ち、一点鎖線で示す波形は、補償回路100を接続していない場合に、伝送路20に接続され、当該伝送路20から受信回路30に伝達される信号波形の回路シミュレーション結果である。
【0055】
また、実線で示す波形は、補償回路100によって補償された信号波形である。即ち、実線で示す波形は、伝送路20の送信端に補償回路100を接続した場合に、受信回路30が受信する信号波形の回路シミュレーション結果である。補償回路100は、伝送路20で歪んだ波形を、送信部10が送信した信号波形の状態にほぼ補償できることがわかる。
【0056】
以上の本実施形態に係る補償回路100において、短距離伝送路122の数を増加させることにより、より長い経過時間で反射する反射波を重畳することができるので、より長い時間間隔の波形を補償することができる。例えば、
図7の実線で示す波形は、0から400ps程度の時間範囲において、50ps毎に反射波が重畳された結果であるから、歪んだ信号波形のうち略400psが経過する時間までの信号波形を補償することができる。即ち、例えば、短距離伝送路122の数を2倍にすれば、歪んだ信号波形のうち略800psが経過する時間までの信号波形を補償することができる。
【0057】
また、本実施形態に係る補償回路100において、短距離伝送路122の長さを25psの電気長とすることを説明したが、これに代えて、当該長さを25psよりも短くしてもよい。これによって、特性インピーダンスの変化点X
nの間隔が減少し、発生する反射波の単位時間当たりの数を増加させることができる。これにより、補償回路100は、受信回路30が受信する信号波形に重畳させる反射波形の単位時間当たりの数を増加させることができるので、より複雑に歪んだ波形を補償することができる。
【0058】
これに代えて、短距離伝送路122の長さを25psよりも長くしてもよい。補償回路100は、伝送路20を経て伝送された波形の歪みの度合い、および伝送路20を伝送させる信号の立ち上がり時間等に応じて、短距離伝送路122の長さを予め定めてよい。また、複数の短距離伝送路122のそれぞれの長さをそれぞれ個別に定めてもよい。この場合、情報処理装置200は、複数の短距離伝送路122のそれぞれの長さに応じた時間t
nに対する反射係数Γ
nを、時間的に等間隔に並ぶ補償波形から時間t
nに最も近い時間に対応させて定めてよい。
【0059】
情報処理装置200は、短距離伝送路122の数に応じて、処理すべきデータ点数を増減させて上述の動作フローを実行することにより、補償回路100が有する伝送線路の設計パラメータを決定することができる。したがって、情報処理装置200は、複雑に歪んだ波形を補償する補償回路100であっても、略同一の方法によって簡便に設計することができる。
【0060】
図8から
図10に、このような情報処理装置200が設計した補償回路100の例を示す。
図8は、本実施形態に係る補償回路100の第2の構成例を示す。
図8の第1の構成例は、
図1に示す補償回路100の構成と略同一であり、短距離伝送路122の数を増加させた例を示す。
図9は、本実施形態に係る補償回路100の第3の構成例を示す。
図9の第2の構成例は、短距離伝送路122の伝送路長をより短くしたものであり、補償制度を高めた構成の一例である。
【0061】
図10は、本実施形態に係る補償回路100の第4の構成例を示す。
図10の第4の構成例は、伝送路20の減衰特性が
図3に示す特性に比べて急峻に変化する場合に対応した補償回路100を示す。このように、情報処理装置200は、伝送路20の減衰特性に応じて、当該伝送路20の伝送損失を補償する補償回路100を略同一の方法によって簡便に設計することができる。
【0062】
図11は、本実施形態に係る補償回路100の変形例を示す。本変形例の補償回路100において、
図1に示された本実施形態に係る補償回路100の動作と略同一のものには同一の符号を付け、説明を省略する。本変形例の補償回路100は、送信部10から送信される信号を、受信回路30に伝送される前に補償して、当該受信回路30に供給する。
【0063】
即ち、補償回路100は、伝送路20の送信端子および受信端子の間に当該伝送路20と直列に配置される。補償回路100は、特性インピーダンスを変化させた2以上の変化点を備え、受信回路30に供給する伝送波形を補償する。補償回路100は、伝送路20の送信端子から受信端子へと伝送される伝送信号に、2以上の変化点によって少なくとも1回は送信端子側へ反射されてから受信端子側へと反射されて受信端子へと伝送される反射波を重畳して、伝送波形を補償する。即ち、補償回路100は、伝送路20の送信端子から受信端子へと伝送される伝送信号に、受信端子を通過してから互いに異なる変化点により反射された複数の反射波を重畳する。
【0064】
補償回路100は、特性インピーダンスを変化させた3以上の変化点を備えてもよい。補償回路100は、伝送路20の送信端子から受信端子へと伝送される伝送信号に、複数の変化点のうちの異なる変化点の組み合わせによって少なくとも1回は送信端子側へ反射されてから受信端子側へと反射されて受信端子へと伝送される複数の反射波を重畳して、伝送波形を補償する。このように、補償回路100は、伝送路20の送信端子から受信端子へと伝送される伝送信号に、3以上の変化点によって互いに異なる時間遅延された複数の反射波を重畳する。
【0065】
このように、本変形例の補償回路100は、受信回路30に到達する前の信号の一部の成分を、一旦送信端側へと反射させてから受信端側に反射させる反射信号を生成し、当該反射信号を重畳させることで、伝送波形を補償する。このように、補償回路100は、高周波成分の減衰によって伝送波形が歪んでも、受信回路30に到達する時間が異なる時間帯の高周波信号を反射させて(即ち、時間遅延させて)重畳することにより、歪んだ伝送波形を補償することができる。
【0066】
本変形例の補償回路100は、
図1に示された補償回路100に比べて、反射回数が1回増加することになるが、反射波を重畳して受信回路30に供給する伝送波形を補償する構成は略同一である。したがって、
図2に示した情報処理装置200は、
図3のフローと略同一のフローを実行することで、
図11に示された本変形例の補償回路100の設計パラメータを決定することができる。
【0067】
以上の本実施形態に係る補償回路100は、特性インピーダンスの変化点を有する伝送路120を有し、当該変化点で反射波を生成して伝送波形を補償することを説明した。これに代えて、またはこれに加えて、補償回路100は、回路素子による特性インピーダンスの変化点を有してもよい。例えば、補償回路100は、変化点において特性インピーダンスを変化させる、抵抗、コンデンサ、および/またはインダクタを有する。
【0068】
また、補償回路100は、変化点における特性インピーダンスの変化量を調整可能とするインピーダンス調整部を更に備えてもよい。補償回路100は、例えば、インピーダンス調整部として、可変抵抗、可変コンデンサ、および/または可変インダクタを有する。インピーダンス調整部は、切換スイッチ等と組み合わせて、回路定数を切り換えて特性インピーダンスを調整してよい。
【0069】
また、補償回路100は、インピーダンス調整部として、グラウンド電極に形成する開口を有してもよい。伝送線路を覆うように形成されるグラウンド電極の一部に開口を形成することで、伝送線路の特性インピーダンスに変化点を形成することができるので、インピーダンス調整部は、当該開口の配置および大きさを調整することで、変化点および変化点の特性インピーダンスを調整することができる。
【0070】
図12は、本実施形態に係る情報処理装置200として機能するコンピュータ1900のハードウェア構成の一例を示す。本実施形態に係るコンピュータ1900は、ホスト・コントローラ2082により相互に接続されるCPU2000、RAM2020、グラフィック・コントローラ2075、および表示装置2080を有するCPU周辺部と、入出力コントローラ2084によりホスト・コントローラ2082に接続される通信インターフェイス2030、ハードディスクドライブ2040、およびDVDドライブ2060を有する入出力部と、入出力コントローラ2084に接続されるROM2010、フレキシブルディスク・ドライブ2050、および入出力チップ2070を有するレガシー入出力部と、を備える。
【0071】
ホスト・コントローラ2082は、RAM2020と、高い転送レートでRAM2020をアクセスするCPU2000およびグラフィック・コントローラ2075とを接続する。CPU2000は、ROM2010およびRAM2020に格納されたプログラムに基づいて動作し、各部の制御を行う。グラフィック・コントローラ2075は、CPU2000等がRAM2020内に設けたフレーム・バッファ上に生成する画像データを取得し、表示装置2080上に表示させる。これに代えて、グラフィック・コントローラ2075は、CPU2000等が生成する画像データを格納するフレーム・バッファを、内部に含んでもよい。
【0072】
入出力コントローラ2084は、ホスト・コントローラ2082と、比較的高速な入出力装置である通信インターフェイス2030、ハードディスクドライブ2040、DVDドライブ2060を接続する。通信インターフェイス2030は、ネットワークを介して他の装置と通信する。ハードディスクドライブ2040は、コンピュータ1900内のCPU2000が使用するプログラムおよびデータを格納する。DVDドライブ2060は、DVD−ROM2095からプログラムまたはデータを読み取り、RAM2020を介してハードディスクドライブ2040に提供する。
【0073】
また、入出力コントローラ2084には、ROM2010と、フレキシブルディスク・ドライブ2050、および入出力チップ2070の比較的低速な入出力装置とが接続される。ROM2010は、コンピュータ1900が起動時に実行するブート・プログラム、および/または、コンピュータ1900のハードウェアに依存するプログラム等を格納する。フレキシブルディスク・ドライブ2050は、フレキシブルディスク2090からプログラムまたはデータを読み取り、RAM2020を介してハードディスクドライブ2040に提供する。入出力チップ2070は、フレキシブルディスク・ドライブ2050を入出力コントローラ2084へと接続すると共に、例えばパラレル・ポート、シリアル・ポート、キーボード・ポート、マウス・ポート等を介して各種の入出力装置を入出力コントローラ2084へと接続する。
【0074】
RAM2020を介してハードディスクドライブ2040に提供されるプログラムは、フレキシブルディスク2090、DVD−ROM2095、またはICカード等の記録媒体に格納されて利用者によって提供される。プログラムは、記録媒体から読み出され、RAM2020を介してコンピュータ1900内のハードディスクドライブ2040にインストールされ、CPU2000において実行される。
【0075】
プログラムは、コンピュータ1900にインストールされ、コンピュータ1900を生成部210、周波数特性取得部212、補償特性算出部214、逆フーリエ変換部216、記憶部220、および算出部230として機能させる。
【0076】
プログラムに記述された情報処理は、コンピュータ1900に読込まれることにより、ソフトウェアと上述した各種のハードウェア資源とが協働した具体的手段である生成部210、周波数特性取得部212、補償特性算出部214、逆フーリエ変換部216、記憶部220、および算出部230として機能する。そして、この具体的手段によって、本実施形態におけるコンピュータ1900の使用目的に応じた情報の演算または加工を実現することにより、使用目的に応じた特有の情報処理装置200が構築される。
【0077】
一例として、コンピュータ1900と外部の装置等との間で通信を行う場合には、CPU2000は、RAM2020上にロードされた通信プログラムを実行し、通信プログラムに記述された処理内容に基づいて、通信インターフェイス2030に対して通信処理を指示する。通信インターフェイス2030は、CPU2000の制御を受けて、RAM2020、ハードディスクドライブ2040、フレキシブルディスク2090、またはDVD−ROM2095等の記憶装置上に設けた送信バッファ領域等に記憶された送信データを読み出してネットワークへと送信し、もしくは、ネットワークから受信した受信データを記憶装置上に設けた受信バッファ領域等へと書き込む。このように、通信インターフェイス2030は、DMA(ダイレクト・メモリ・アクセス)方式により記憶装置との間で送受信データを転送してもよく、これに代えて、CPU2000が転送元の記憶装置または通信インターフェイス2030からデータを読み出し、転送先の通信インターフェイス2030または記憶装置へとデータを書き込むことにより送受信データを転送してもよい。
【0078】
また、CPU2000は、ハードディスクドライブ2040、DVDドライブ2060(DVD−ROM2095)、フレキシブルディスク・ドライブ2050(フレキシブルディスク2090)等の外部記憶装置に格納されたファイルまたはデータベース等の中から、全部または必要な部分をDMA転送等によりRAM2020へと読み込ませ、RAM2020上のデータに対して各種の処理を行う。そして、CPU2000は、処理を終えたデータを、DMA転送等により外部記憶装置へと書き戻す。このような処理において、RAM2020は、外部記憶装置の内容を一時的に保持するものとみなせるから、本実施形態においてはRAM2020および外部記憶装置等をメモリ、記憶部、または記憶装置等と総称する。本実施形態における各種のプログラム、データ、テーブル、データベース等の各種の情報は、このような記憶装置上に格納されて、情報処理の対象となる。なお、CPU2000は、RAM2020の一部をキャッシュメモリに保持し、キャッシュメモリ上で読み書きを行うこともできる。このような形態においても、キャッシュメモリはRAM2020の機能の一部を担うから、本実施形態においては、区別して示す場合を除き、キャッシュメモリもRAM2020、メモリ、および/または記憶装置に含まれるものとする。
【0079】
また、CPU2000は、RAM2020から読み出したデータに対して、プログラムの命令列により指定された、本実施形態中に記載した各種の演算、情報の加工、条件判断、情報の検索・置換等を含む各種の処理を行い、RAM2020へと書き戻す。例えば、CPU2000は、条件判断を行う場合においては、本実施形態において示した各種の変数が、他の変数または定数と比較して、大きい、小さい、以上、以下、等しい等の条件を満たすかどうかを判断し、条件が成立した場合(または不成立であった場合)に、異なる命令列へと分岐し、またはサブルーチンを呼び出す。
【0080】
また、CPU2000は、記憶装置内のファイルまたはデータベース等に格納された情報を検索することができる。例えば、第1属性の属性値に対し第2属性の属性値がそれぞれ対応付けられた複数のエントリが記憶装置に格納されている場合において、CPU2000は、記憶装置に格納されている複数のエントリの中から第1属性の属性値が指定された条件と一致するエントリを検索し、そのエントリに格納されている第2属性の属性値を読み出すことにより、所定の条件を満たす第1属性に対応付けられた第2属性の属性値を得ることができる。
【0081】
以上に示したプログラムまたはモジュールは、外部の記録媒体に格納されてもよい。記録媒体としては、フレキシブルディスク2090、DVD−ROM2095の他に、DVD、Blu−ray(登録商標)、またはCD等の光学記録媒体、MO等の光磁気記録媒体、テープ媒体、ICカード等の半導体メモリ等を用いることができる。また、専用通信ネットワークまたはインターネットに接続されたサーバシステムに設けたハードディスクまたはRAM等の記憶装置を記録媒体として使用し、ネットワークを介してプログラムをコンピュータ1900に提供してもよい。
【0082】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0083】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。