(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6267571
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】作業機械及びこれに搭載される蓄電装置の冷却構造
(51)【国際特許分類】
H01M 10/613 20140101AFI20180115BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20180115BHJP
H01M 10/6554 20140101ALI20180115BHJP
H01M 10/653 20140101ALI20180115BHJP
H01M 10/647 20140101ALI20180115BHJP
H01M 2/10 20060101ALI20180115BHJP
B60K 6/28 20071001ALI20180115BHJP
B60K 6/485 20071001ALI20180115BHJP
【FI】
H01M10/613ZHV
H01M10/625
H01M10/6554
H01M10/653
H01M10/647
H01M2/10 S
B60K6/28
B60K6/485
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-89374(P2014-89374)
(22)【出願日】2014年4月23日
(65)【公開番号】特開2015-207541(P2015-207541A)
(43)【公開日】2015年11月19日
【審査請求日】2017年2月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】特許業務法人 武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久野 奈柄
(72)【発明者】
【氏名】竹内 健
【審査官】
古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/165493(WO,A1)
【文献】
特開2012−248339(JP,A)
【文献】
特開2013−084444(JP,A)
【文献】
特開2012−033419(JP,A)
【文献】
特開2001−307784(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20− 6/547
B60W 10/00
B60W 10/02
B60W 10/06
B60W 10/08
B60W 10/10
B60W 10/18
B60W 10/26
B60W 10/28
B60W 10/30−20/50
H01M 2/10
H01M 10/42−10/667
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンの動力補助及び前記エンジンからのエネルギ回収を行うモータ・ジェネレータと、前記モータ・ジェネレータとの間で電力の授受を行う蓄電装置と、前記蓄電装置の冷却を行う冷却装置とを備え、
前記蓄電装置は、並列した複数のセルを有し、前記冷却装置は、前記セルの底面と対向に配置した冷却プレートと、前記セルと前記冷却プレートの間に介在した熱伝導シートと、前記熱伝導シートに塗布した熱伝導ペーストを有し、
前記複数のセルのうち、少なくとも1つのセルの直下においては、前記熱伝導シートが凹んでおらず、当該セルの底面と前記熱伝導シートとの間に前記熱伝導ペーストが介在することを特徴とする作業機械。
【請求項2】
請求項1に記載の作業機械において、
前記蓄電装置は、前記複数のセルと、隣接する2つの前記セル間に配置した絶縁性のセルホルダと、これら複数のセル及びセルホルダを一体に組み立てる組立部材とからなり、前記蓄電装置と前記冷却装置は、前記セルの底面と前記冷却プレートの熱交換面との間隔を調整可能な連結部材を用いて一体に連結することを特徴とする作業機械。
【請求項3】
並列した複数のセルを有する蓄電装置と、前記セルの底面と対向に配置した冷却プレート、前記セルと前記冷却プレートの間に介在した熱伝導シート、及び、前記熱伝導シートに塗布した熱伝導ペーストを有する冷却装置とを備え、
前記複数のセルのうち、少なくとも1つのセルの直下においては、前記熱伝導シートが凹んでおらず、当該セルの底面と前記熱伝導シートとの間に前記熱伝導ペーストが介在することを特徴とする蓄電装置の冷却構造。
【請求項4】
請求項3に記載の蓄電装置の冷却構造において、
前記冷却プレートの熱交換面に、前記蓄電装置を収納可能な間隔を隔てて、2条の突条を平行に形成すると共に、当該突条の内面に沿って前記熱伝導シートの端部を折り曲げ、これにより前記熱伝導シートの表面に形成される凹陥部内に前記熱伝導ペースト及び前記蓄電装置の底面を収納して、前記蓄電装置を構成する各セルの底面と前記冷却プレートとを熱的に接続することを特徴とする蓄電装置の冷却構造。
【請求項5】
請求項3に記載の蓄電装置の冷却構造において、
前記冷却プレートの熱交換面に設置された前記熱伝導シートの外周部分を折り上げて、その端部を前記蓄電装置の外周側に配置すると共に、当該折り上げられた前記熱伝導シートの端部を保持する保持部材を備えたことを特徴とする蓄電装置の冷却構造。
【請求項6】
請求項3に記載の蓄電装置の冷却構造において、
前記冷却プレートの熱交換面に設置された前記熱伝導シートの外周部分に、前記熱伝導ペーストの流出を防止するための枠体を設置したことを特徴とする蓄電装置の冷却構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動式又はハイブリッド式の作業機械と、これに搭載される蓄電装置の冷却構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動式作業機械やハイブリッド式作業機械の蓄電装置としては、体積エネルギ密度の高いリチウムイオン二次電池やキャパシタが用いられる。この種の蓄電装置は、セルを単体で用いるのではなく、複数個のセルを組み合わせてモジュール化し、所定の電圧や容量に調整した上で使用される。また、この種の蓄電装置は、所定電流で充放電するため、及び、過充電や過放電を防止するため、制御回路や保護回路を組み込んだコントロール部と接続して使用される。
【0003】
ところで、リチウムイオン二次電池やキャパシタは、時間の経過や充放電の繰り返しによって電圧及び容量などの特性が低下し、やがて寿命を迎える。モジュール化された蓄電装置の寿命は、最も短命なセルの寿命に倣うので、蓄電装置の長寿命化を図るためには、個々のセルの寿命を均一化する必要がある。セルの特性劣化は、温度上昇が一因となるので、蓄電装置の長寿命化を図るためには、蓄電装置を冷却し、充放電時のジュール発熱による温度上昇を許容値以下に抑制する必要がある。また、セル単体についても温度分布が大きいと電極が局部的に劣化してセルの短命化の原因となる。このため、蓄電装置の冷却に際しては、単に蓄電装置を構成する複数のセルの平均温度を許容値以下にするだけでは足りず、セル単体についても各部の温度を許容値以下にする必要がある。
【0004】
従来、この種の蓄電装置の冷却構造としては、蓄電装置を構成する電池セルの底面側にシリコン樹脂シート等の熱伝導性を有する絶縁層(以下、この絶縁層を「熱伝導シート」という。)を介して冷却プレートを配置し、これら電池セルと熱伝導シートと冷却プレートを熱結合状態に固定したものが提案されている。また、電池セルと冷却プレートとの間の熱伝導をより効率良くするため、熱伝導シートと電池セルとの間、及び、熱伝導シートと冷却プレートとの間に、シリコンオイル等の熱伝導ペーストを塗布するものも提案されている。さらに、電池セル間の温度差を少なくするため、蓄電装置の中央部に配置される電池セルを効率よく冷却し、両端部に配置される電池セルの冷却を少なくするように断熱層を形成する技術も提案されている(特許文献1の段落0032及び
図5、特許文献1の段落0034及び
図7、
図8参照。)。
【0005】
一方、特許文献2には、蓄電装置の底面は完全な同一平面とすることが困難で段差状となっていることに鑑み、全ての電池セルの底面を均一な状態で冷却プレートに接触させるため、熱伝導シートの電池積層体との接触面に、電池積層体により押圧されて弾性変形する複数の変形体を設ける技術が開示されている。また、この特許文献2にも、熱伝導シートに加えて熱伝導ペースト等を利用できるとの記載がある。さらに、この特許文献2には、複数の電池セルを組み合わせて組電池を構成すると共に、下ケースと上ケースと端面プレートとからなる外装ケース内に、複数の組電池を収納する技術が開示されている(特許文献2の要約書及び段落0017、0034、
図1、
図5、
図6参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−277863号公報
【特許文献2】国際公開第2012/147801号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の
図5には、面一に揃えられた電池セルの底面を熱伝導シートの表面に塗布された熱伝導ペーストに接して配置した図が記載され、かつ、特許文献1の段落0032には、「熱伝導シートの表裏面に熱伝導ペーストを塗布することにより、効率よく熱伝導できる構造にできる」旨、記載されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1には、電池セルの底面を面一に整列して蓄電装置を組み立てる技術、及び、蓄電装置の底面を熱伝導ペーストに接して配置する技術が何も開示されていないので、
図5に示されるような理想的な状態で電池セルと熱伝導シートと熱伝導ペーストと冷却プレートとを配置することは、実際上著しく困難であるか不可能である。即ち、上述したように、作業機械等に用いられる蓄電装置は、複数の電池セルを外装ケース等の組立部材を用いて一体に組み立てられるが、組立作業を慎重に行ったとしても、各電池セルの底面を面一に配列することは実際上不可能であり、各セルの底面が必然的に段差状になったり、所定の基準面に対して傾斜することが避けられない。このため、従来においては、蓄電装置の底面を熱伝導シートに押圧して熱伝導シートに圧縮力を付与し、全ての電池セルを熱伝導シートに押し付けるという組立方法がとられるのが一般的である。
【0009】
熱伝導シートを介して電池セルの熱を冷却プレートに効率よく放熱するためには、電池セルと熱伝導シートとの間に空気層が介在しないように、電池セルを熱伝導シートに強く押圧して、熱伝導シートの圧縮率を高める必要がある。従来知られている熱伝導シートにおいて、所定の低い熱抵抗を実現するためには、熱伝導シートの圧縮率が20%になるように蓄電装置を押圧する必要がある。このため、底面が段差状や傾斜面になった蓄電装置を押圧すると、熱伝導シートに圧縮率が高い部分と低い部分が生じ、電池セルに対する反力が過剰となる。熱伝導シートから蓄電装置に高い反力が加わると、蓄電装置内部の部品を破損する可能性が高まるので、熱伝導シートに付与可能な押圧力には自ずと限界がある。また、過大な段差や傾斜を生じた部分では、電池セルの底面が熱伝導シートに押圧されない部分を生じたり、底面が全く熱伝導シートに接触しない電池セルが発生したりすると、電池セルの冷却状況にばらつきが生じ、蓄電装置内での電池セルの温度のばらつきが大きくなる。
【0010】
電池セルと冷却プレートとの間の放熱効率を維持しつつ、蓄電装置に加わる反力を低減する方法としては、厚い熱伝導シートを使用して、熱伝導シートの圧縮率を低下させる方法も考えられるが、熱伝導シートの熱抵抗が大きくなり、放熱性が損なわれるので好ましくない。
【0011】
一方、特許文献2に記載の技術によれば、熱伝導シートに電池積層体により押圧されて弾性変形する複数の変形体を設けるので、電池積層体に含まれる電池セルの底面の状態に段差や傾斜がある場合でも、全ての電池セルを熱伝導シートに接触させやすくできる。
【0012】
しかしながら、特許文献2に記載の熱伝導シートは、構造が複雑で、製造に複雑な加工が必要となるので、製造コストが高価となり、作業機械には適用し難い。
【0013】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、安価にして、蓄電装置に過大な反力を及ぼさず、しかも複数のセル間及びセル単体内の温度分布を均一化可能な蓄電装置の冷却構造を提供すること、及び、このような蓄電装置の冷却構造を備えた作業機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記課題を解決するため、作業機械については、エンジンと、前記エンジンの動力補助及び前記エンジンからのエネルギ回収を行うモータ・ジェネレータと、前記モータ・ジェネレータとの間で電力の授受を行う蓄電装置と、前記蓄電装置の冷却を行う冷却装置とを備え、前記蓄電装置は、並列した複数のセルを有し、前記冷却装置は、前記セルの底面と対向に配置した冷却プレートと、前記セルと前記冷却プレートの間に介在した熱伝導シートと、前記熱伝導シートに塗布した熱伝導ペーストを有し、前記複数のセルのうち、少なくとも1つのセルの直下においては、前記熱伝導シートが凹んでおらず、当該セルの底面と前記熱伝導シートとの間に前記熱伝導ペーストが介在することを特徴とする。
【0015】
かかる構成によると、蓄電装置を構成する複数のセルの少なくとも1つについて、熱伝導シートを変形させないように配置するので、各セルの底面に段差や傾斜がある場合にも、熱伝導シートの圧縮率を小さくでき、熱伝導シートから蓄電装置に加わる反力を低下できる。また、当該セルの底面と熱伝導シートとの間には熱伝導ペーストを介在するので、セルの熱を効率的に冷却プレート側に放熱できる。熱伝導ペースト単独では、電池セルの底面と冷却プレートの間の電気絶縁性に懸念が生じるが、熱伝導シートが介在するため、電気絶縁性も長期間にわたって確保できる。以上の点からも蓄電装置の長寿命化を図ることができる。よって、作業機械に搭載した蓄電装置の寿命を延ばすことができて、作業機械の稼働率を高めることができる。
【0016】
また本発明は、前記構成の作業機械において、前記蓄電装置は、前記複数のセルと、隣接する2つの前記セル間に配置した絶縁性のセルホルダと、これら複数のセル及びセルホルダを一体に組み立てる組立部材とからなり、前記蓄電装置と前記冷却装置は、前記セルの底面と前記冷却プレートの熱交換面との間隔を調整可能な連結部材を用いて一体に連結することを特徴とする。
【0017】
かかる構成によると、蓄電装置と冷却装置を一体に連結する連結部材をもってセルの底面と冷却プレートの熱交換面との間隔を調整するので、セルの底面と冷却プレートの熱交換面との間隔を調整するための特別な部材を別途備える必要がなく、蓄電装置の冷却構造を簡易に構成することができる。
【0018】
一方、蓄電装置の冷却構造に関しては、並列した複数のセルを有する蓄電装置と、前記セルの底面と対向に配置した冷却プレート、前記セルと前記冷却プレートの間に介在した熱伝導シート、及び、前記熱伝導シートに塗布した熱伝導ペーストを有する冷却装置とを備え、前記複数のセルのうち、少なくとも1つのセルの直下においては、前記熱伝導シートが凹んでおらず、当該セルの底面と前記熱伝導シートとの間に前記熱伝導ペーストが介在することを特徴とする。
【0019】
かかる構成によると、蓄電装置を構成する複数のセルの少なくとも1つについて、熱伝導シートを変形させないように配置するので、各セルの底面に段差や傾斜がある場合にも、熱伝導シートの圧縮率を相対的に小さくすることができ、熱伝導シートから蓄電装置に加わる反力を低減できる。また、当該セルの底面と熱伝導シートとの間には熱伝導ペーストを介在するので、セルの熱を効率的に冷却プレート側に放熱でき、この点からも蓄電装置の長寿命化を図ることができる。
【0020】
また本発明は、前記構成の蓄電装置の冷却構造において、前記冷却プレートの熱交換面に、前記蓄電装置を収納可能な間隔を隔てて、2条の突条を平行に形成すると共に、当該突条の内面に沿って前記熱伝導シートの端部を折り曲げ、これにより前記熱伝導シートの表面に形成される凹陥部内に前記熱伝導ペースト及び前記蓄電装置の底面を収納して、前記蓄電装置を構成する各セルの底面と前記冷却プレートとを熱的に接続することを特徴とする。
【0021】
かかる構成によると、熱伝導シートの表面に形成される凹陥部内に熱伝導ペーストを収納できるので、セルの底面と冷却プレートの表面との間に形成される空隙内からの熱伝導ペーストの流出を防止でき、セルの放熱性能を安定に保つことができる。
【0022】
また本発明は、前記構成の蓄電装置の冷却構造において、前記冷却プレートの熱交換面に設置された前記熱伝導シートの外周部分を折り上げて、その端部を前記蓄電装置の外周側に配置すると共に、当該折り上げられた前記熱伝導シートの端部を保持する保持部材を備えたことを特徴とする。
【0023】
かかる構成によると、熱伝導シートの外周部分を折り上げて、その端部を蓄電装置の外周側に配置するので、セルの底面と冷却プレートの表面との間に形成される空隙内からの熱伝導ペーストの流出を防止でき、セルの放熱性能を安定に保つことができる。
【0024】
また本発明は、前記冷却プレートの熱交換面に設置された前記熱伝導シートの外周部分に、前記熱伝導ペーストの流出を防止するための枠体を設置したことを特徴とする。
【0025】
かかる構成によると、熱伝導シートの外周部分に前記熱伝導ペーストの流出を防止するための枠体を設置したので、セルの底面と冷却プレートの表面との間に形成される空隙内からの熱伝導ペーストの流出を防止でき、セルの放熱性能を安定に保つことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、蓄電装置を構成する複数のセルの底面に段差や傾斜がある場合にも、セルの熱を効率的に冷却プレート側に放熱できると共に、熱伝導シートからの反発力を低減できる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】実施の形態に係るハイブリッド式油圧ショベルの側面図である。
【
図2】実施の形態に係るハイブリッド式油圧ショベルに搭載されるパワーユニットの構成図である。
【
図3】実施の形態に係る蓄電装置の分解斜視図である。
【
図4】実施の形態に係る蓄電装置に備えられるセルとセルホルダとの組立方法を示す図である。
【
図5】実施の形態に係る蓄電装置の冷却構造を示す図である。
【
図6】実施の形態に係る蓄電装置と冷却装置に組立方法を示す図である。
【
図7】実施の形態に係る蓄電装置の冷却構造における、セルの底面と熱伝導シートと熱伝導ペーストとの位置関係を示す図である。
【
図10】実施の形態に係る蓄電装置の冷却構造における、冷却プレートに対するセルの取付状態の他の例を示す図である。
【
図11】実施の形態に係る冷却プレートの冷却サイクルを示す図である。
【
図12】実施の形態に係る熱伝導ペーストの塗布方法の第1例を示す図である。
【
図13】実施の形態に係る熱伝導ペーストの塗布方法の第2例を示す図である。
【
図14】実施の形態に係る熱伝導ペースト流出防止構造の他の例を示す図である。
【
図15】実施の形態に係る熱伝導ペースト流出防止構造のさらに他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る作業機械及びこれに搭載される蓄電装置冷却構造の実施の形態を、ハイブリッド式油圧ショベル及びこれに搭載される蓄電装置冷却構造を例にとって説明する。なお、本発明は、以下に記載する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。
【0029】
まずは、実施の形態に係るハイブリッド式油圧ショベルの構成を、
図1及び
図2を用いて説明する。
図1は実施の形態に係るハイブリッド式油圧ショベルの側面図であり、
図2はハイブリッド式油圧ショベルに搭載されるパワーユニットの構成図である。
図1に示すように、実施の形態に係るハイブリッド式油圧ショベルは、クローラ11及びその駆動輪12を備えた走行体10と、走行体10上に旋回可能に設けた旋回体20と、旋回体20に搭載したパワーユニット30と、一端を旋回体20に回動自在に連結したフロント装置40を備えている。駆動輪12及び旋回体20は、図示しない油圧モータを用いて駆動される。なお、
図1の例では走行体10にクローラ11が備えられているが、クローラ11に代えてホイールを走行体10に備えることもできる。
【0030】
旋回体20は、旋回フレーム21と、旋回フレーム21の前部に設けた運転室22と、旋回フレーム21の後部に設けた原動機室23を有している。運転室22内には、パワーユニット30の操作装置24と、操作装置24の操作量及び操作方向に応じたパワーユニット30の制御信号を出力するコントローラ25を備える。一方、原動機室23内には、パワーユニット30を備える。
【0031】
パワーユニット30は、
図2に示すように、エンジン31と、エンジン31の動力補助及びエンジン31からのエネルギ回収を行うモータ・ジェネレータ32と、エンジン31で又はエンジン31及びモータ・ジェネレータ32の双方で駆動される油圧ポンプ33を有する。モータ・ジェネレータ32には、インバータ34を介して蓄電装置100を接続する。蓄電装置100には、冷却装置200を付設する。油圧ポンプ33には、油圧ポンプ33が吐出する圧油を所要の油圧アクチュエータ(駆動輪12及び旋回体20を駆動する油圧モータ及びフロント装置40を駆動する油圧シリンダの総称)に分配するバルブ装置35を接続する。蓄電装置100及び冷却装置200の構成については、後に図を用いて説明する。
【0032】
フロント装置40は、一端を旋回体20の前部に回動自在に連結したブーム41と、ブーム41を駆動するブーム用油圧シリンダ42と、ブーム41の先端部に回動自在に連結したアーム43と、アーム43を駆動するアーム用油圧シリンダ44と、アーム43の先端に回動可能に連結したバケット45と、バケット45を駆動するバケット用油圧シリンダ46等から構成される。なお、バケット45に代えて、ブレーカ、クラッシャ、カッタ、グラップル又はリフティングマグネット等の他のアタッチメントを取り付けることもできる。上述の各油圧シリンダ42、44、46及び油圧モータは、操作装置24の操作量に応じた速度で、操作装置24の操作方向に応じた方向に駆動される。
【0033】
モータ・ジェネレータ32は、蓄電装置100からの電気エネルギの供給を受けて駆動し、エンジン31の出力不足をアシストすると共に、エンジン31より回収される回生エネルギを電気エネルギに変換して蓄電装置100に蓄電する。モータ・ジェネレータ32と蓄電装置100との間の電力の授受は、インバータ34を介して行われる。インバータ34は、コントローラ25が出力する制御信号に基づいて、モータ・ジェネレータ32に供給する電力の電圧値及び周波数を制御する。
【0034】
実施の形態に係るハイブリッド式油圧ショベルは、運転室22に搭乗したオペレータが操作装置24を操作することにより運転する。即ち、オペレータが操作装置24を操作すると、操作装置24の操作量及び操作方向に応じた信号がコントローラ25に入力する。コントローラ25は、入力信号に基づいて生成した制御信号を出力し、バルブ装置35を切り換える。これにより、油圧ポンプ33から吐出した圧油が、操作装置24により指示された流量、方向及び圧力で、所要の油圧シリンダ42、44、46及び図示しない油圧モータに選択的に供給され、所要の作業が実行される。
【0035】
次に、蓄電装置100及び冷却装置200について説明する。
【0036】
実施の形態に係る蓄電装置100は、
図3に示すように、セルホルダ120を介して厚さ方向に並列した複数のセル110と、外端のセルホルダ120の外面に突き当てた2枚のエンドプレート130と、これら2枚のエンドプレートをネジ141で連結し、上述した複数のセル110及びセルホルダ120を一体に組み立てるフレーム140からなる。セル110は、リチウムイオン二次電池等の電池セルのほか、キャパシタセルを用いることもできる。エンドプレート130には、フレーム140を締結するためのねじ穴140aと、後述するブラケット150を締結するためのねじ穴150aとを設ける。
【0037】
セルホルダ120は、絶縁材料からなり、セル110の側面111と対向する部分は、
図4(a)、(b)に示すように、所定間隔の空隙を隔てて平行に配列された複数のリブ121をもって形成する。よって、
図4(b)に示すように、セル110の側面111にセルホルダ120を装着した後においても、セルホルダ120に形成されたリブ121間の空隙からセル110の側面111の一部が外気に露出する。また、フレーム140は、開口部142を有する枠形に形成してある。このように構成することにより、開口部142を通してセルホルダ120のリブ121間に冷却風を取り込めるので、セル110の蓄熱を効率的に放熱することができる。
【0038】
複数のセル110を電気的に直列接続する場合には、正極端子112aの隣に負極端子113bが来るように、隣接するセル110の向きを交互に反転させる。また、図示しないバスバーで、セル110の積層方向に配列された2列の各正極端子112a及び負極端子113bをそれぞれ接続し、正負の2端子を取り出す。なお、端子の上部には制御用の基板やカバーなどを配置するが、これについては公知の技術であり、かつ本発明の要旨でもないので、図示を省略する。
【0039】
蓄電装置100の底面、即ち、蓄電装置100を構成する各セル110の電極形成面と反対側の面には、
図5に示すように、ブラケット(連結部材)150を用いて冷却装置200を固定する。ブラケット150は、側面形状がL字形の金属板からなり、
図3に示すように、各面の所定の位置にネジ穴151a、151bを形成してある。このうち、ネジ穴150aの開設位置は、ブラケット150を介して蓄電装置100と冷却装置200をネジ131で連結したとき、ブラケットの底面152がセル110の底面111より下方に位置し、かつセル110の底面111と後に説明する熱伝導シート400との位置関係が、後に説明する所定の位置関係となるように調節する。
【0040】
冷却装置200は、
図5乃至
図9に示すように、冷却プレート201と、冷却プレート201の放熱面上に配置した熱伝導シート400と、熱伝導シート400の表面に塗布した熱伝導ペースト300とからなる。本発明において、熱伝導シート400は、主としてセル110と冷却プレート201との間の絶縁性を確保する機能を発揮し、熱伝導ペースト300は、主としてセル110と冷却プレート201との間の熱伝導性を確保する機能を発揮する。
【0041】
冷却プレート201は、内部に冷却媒体流路(図示省略)を有しており、
図5及び
図6に示すように、その端部には、冷却媒体の流入口230及び流出口240を備えている。冷却プレート201は、
図11に示すように、流入口230及び流出口240に接続した配管202と、当該配管の他端側に接続した冷却媒体用ラジエータ203と、配管202内の冷却媒体を循環する循環ポンプ204とからなる冷却サイクルにより冷却する。冷却プレート201の熱交換面210、即ち、蓄電装置100を搭載する側の面には、
図6及び
図9に示すように、2条の突条220を平行に突設する。突条220の内面は、上方に至るほど間隔が広くなる傾斜面とし、突条220の設定間隔は、蓄電装置100を挿入可能な大きさとする。
【0042】
冷却プレート201の放熱面から突条220の傾斜面に亘る部分には、
図6(b)、
図7乃至
図9に示すように、絶縁性の熱伝導シート400を密着して配置する。また、熱伝導シート400の表面には、
図7乃至
図9に示すように、絶縁性の熱伝導ペースト300を塗布する。熱伝導シート400には各種のものがあるが、セル110の底面111との密着性を高めるため、例えばシリコン樹脂などの弾性材料からなるものが好ましい。また、熱伝導ペースト300としては、シリコンオイルやグリスなどを用いることができる。
【0043】
熱伝導ペースト300の塗布方法としては、
図12に示すように、熱伝導シート400の表面に熱伝導ペースト300を塗布する方法と、
図13に示すように、蓄電装置を構成する各セル110の底面111に熱伝導ペースト300を塗布する方法とがある。
図12の例では、冷却プレート200の放熱面上に熱伝導シート400を設置した後、当該熱伝導シート400の上に、図示しないシリンジなどで吐出量を調整しながら、熱伝導ペースト300を波型に塗布している。塗布した熱伝導ペースト300上にモジュール化されたセル110を搭載すると、熱伝導ペースト300が押し広げられると共に、気泡が押し出され、蓄電装置100と冷却装置200とが熱的に結合する。なお、余剰の熱伝導ペースト300は、セル110間に形成される溝115などに移動する。溝115には空気がたまっても熱的に問題がない。
【0044】
また、
図13の例では、セル110の底面111を上にして、図示しないシリンジなどで吐出量を調整しながら、各底面111に熱伝導ペースト300を塗布する。次いで、セル110の底面111に熱伝導ペースト300を塗布した蓄電装置100を、冷却プレート200の放熱面上に設置した熱伝導シート400に押圧すると、熱伝導ペースト300が押し広げられると共に、気泡が押し出され、蓄電装置100と冷却装置200とが熱的に結合する。この場合にも、余剰の熱伝導ペースト300は、セル110間に形成される溝115などに移動する。溝115には空気がたまっても熱的に問題がない。
【0045】
蓄電装置100を構成する各セル110の底面111は、蓄電装置100の組立時に慎重に作業したとしても、
図7に示すように、面一には配列できず、段差状になるのが普通である。また、
図10に示すように、各セル110の底面111が基準面、例えば冷却プレート200の放熱面と平行にできず、傾斜面となることも普通である。従って、蓄電装置100を構成する各セル110の底面111が面一に配列されず、段差状又は傾斜面となった場合にも、各セル110の底面111を均一に冷却する必要がある。また、機器の破損を防止するため、熱伝導シート400からの反力を極力小さくする必要がある。
【0046】
本実施の形態においては、蓄電装置100を構成する複数のセル110のうち、少なくとも1つのセルについては、その直下における熱伝導シート400に凹みが生じないように配置し、当該セルの底面111と熱伝導シート400との間に熱伝導ペースト300が介在するようにして、これらの課題を解決している。冷却プレート201の熱交換面210に対するセル110の実装高さの調整は、ブラケット150に形成するネジ穴150aの開設位置を調整することで行う。
【0047】
以下、
図8を用いて、本実施の形態をより詳細に説明する。
図8においては、隣接して配置した3つのセルを符号110a、110b、110cで表し、各セルの底面を符号114a、114b、114cで表している。また、図中の符号ts0は、熱伝導シート400の初期厚さ又は凹みを生じていない部分の厚さを示す。
図8の例においては、セル110cの実装高さはcrs_cであり、ts0よりも大きいため、この部分では熱伝導シート400は圧縮されず、したがって熱伝導シート400に凹みが発生せず、熱伝導ペースト300がtg_cの厚さで存在する。セル110aについても、これとほぼ同様である。熱伝導ペースト300は、非常に柔らかく、段差に追従して自由に変形できるので、セル110a、110cにほとんど反力を及ぼさない。一方、セル110bは、実装高さがts0よりもやや小さいため、熱伝導シート400がやや圧縮されて凹みを生じ、該部の厚さがts_bとなる。ここでは、熱伝導シート400からの反力がセル110bに作用するが、セル110a、110cの実装高さを熱伝導シート400に凹みを生じない位置としたため、熱伝導シート400の圧縮量が少なく、反力もそれに応じた小さなものとなる。
【0048】
このように、本実施の形態によると、蓄電装置100を構成する全てのセル110の底面111と冷却プレート201の放熱面との間に、熱伝導シート400及び熱伝導ペースト300を介在すると共に、熱伝導シート400の圧縮量を小さな値に制限したので、蓄電装置100を構成する各セル110の底面に段差や傾斜がある場合にも、各セル110と冷却プレート201との間の電気絶縁性を確保しつつ、各セル110の底面111を高効率かつ均等に冷却できる。また、熱伝導シート400の圧縮率を低減できるので、熱伝導シート400からの反力による機器の破損を防止できる。よって、蓄電装置100の寿命を延長できて、作業機械の作業効率を高めることができる。
【0049】
また、本実施の形態に係る冷却装置200は、冷却プレート201の放熱面に2条の突条220を平行に突設し、これら2条の突条220の内面と冷却プレート201の放熱面とをもって構成される凹嵌部内に蓄電装置100を配置するので、蓄電装置100によって熱伝導ペースト300が押し広げられた場合にも、熱伝導ペースト300が凹嵌部外に流出しにくい。よって、突条220を有しない場合よりも多量の熱伝導ペースト300を塗布することが可能となり、セル110の底面111に段差や傾斜がある場合にも、セル110の底面111と熱伝導シート400との間に確実に熱伝導ペースト300を充填できて、セル110を均一に冷却することができる。
【0050】
図14に、本発明に係る蓄電装置の冷却構造の第2例を示す。本実施の形態に係る蓄電装置の冷却構造は、冷却プレート201に突条220を形成せず、冷却プレート201の熱交換面210上に設置された熱伝導シート400の外周部分を折り上げて、その端部を蓄電装置100の外周側に配置すると共に、当該折り上げられた熱伝導シート400の端部を保持部材160にて保持することを特徴とする。本構成においても、熱伝導ペースト300の外部への流出を防止できるので、冷却プレート201に突条220を形成した場合と同様の効果を発揮できる。
【0051】
図15に、本発明に係る蓄電装置の冷却構造の第3例を示す。本実施の形態に係る蓄電装置の冷却構造は、冷却プレート201の熱交換面210に設置された熱伝導シート400の外周部分に、熱伝導ペースト300の流出を防止するための枠体170を設置することを特徴とする。本構成においても、熱伝導ペースト300の外部への流出を防止できるので、冷却プレート201に突条220を形成した場合、及び、熱伝導シート400の端部を折り上げる場合と同様の効果を発揮できる。
【0052】
なお、上述の実施の形態においては、作業機械としてハイブリッド式油圧ショベルを例にとって説明したが、本発明の要旨はこれに限定されるものではなく、電気式油圧ショベルにも適用することができる。また、油圧ショベルだけでなく、ホイールローダ、ブルドーザ、クレーン、ダンプトラック等の他のハイブリッド式及び電気式の作業機械に適用することもできる。
【0053】
また、上述の実施の形態においては、ブラケット150におけるネジ穴150aの開設位置を調整することで、冷却プレート201の熱交換面210に対するセル110の実装高さを調整したが、ブラケット150と冷却プレート201の熱交換面210との間にスペーサを介在させて、冷却プレート201の熱交換面210に対するセル110の実装高さを調整する構成とすることもできる。また、ネジ穴150aを長穴とすることで、冷却プレート201の熱交換面210に対するセル110の実装高さを適宜変更可能な構成とすることもできる。
【0054】
さらに、上述の実施の形態においては、熱伝導シート400の表面側にのみ熱伝導ペースト300を塗布したが、気泡の抜けをよくして熱伝導効率を高めるため、熱伝導シート400の裏面側にも熱伝導ペースト300を塗布することができる。
【符号の説明】
【0055】
31 エンジン
32 モータ・ジェネレータ(モータ・ジェネレータ)
33 油圧ポンプ
100 蓄電装置
110、110a、110b、110c セル
111、111a、111b、111c セルの底面
120 セルホルダ
160 保持部材
170 枠体
200 冷却装置
201 冷却プレート
210 放熱面
300 熱伝導ペースト
400 熱伝導シート