(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、作動油の主ポートからの漏れ量を低減するために、主ポート2、3の開口幅W4を小さくすることが考えられるが、このようにすると、主ポート2、3を通る作動油の圧力損失が大きくなり、この液圧モータの機械効率が低下するという問題がある。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、シリンダブロックと弁板との間のシール領域を通って、第1又は第2ポートから高圧作動油が漏れる量を低減できると共に、第1及び第2ポートを通る作動油の圧力損失の増加を抑制することができる液圧回転機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る液圧回転機は、回転自在に設けられ、周方向に間隔をあけて複数のピストン室が形成されているシリンダブロックと、前記各ピストン室に伸長方向及び短縮方向へ移動自在に嵌まり込み、伸長方向及び短縮方向へ往復移動する複数のピストンと、前記シリンダブロックに当接して配置され、前記ピストン室に連通される第1ポート及び第2ポートと、この2つのポートの間に形成されている切換ランドと、が形成されている弁板とを備え、前記弁板には、前記第1及び第2ポートの少なくともいずれか一方に、前記切換ランドに近い側の部分が、半径方向の開口幅が狭くなる狭隘部が形成され、前記弁板の前記切換ランドには、補助ポートが形成され、前記補助ポートは、前記第1及び第2ポートのいずれかの高圧側ポートよりも低い圧力に保持され、前記ピストン室が、高圧側の前記第1又は第2ポートに連通していない状態のときに、当該ピストン室と補助ポートとが連通されることを特徴とするものである。
【0008】
本発明に係る液圧回転機によると、第1及び第2ポートの切換ランドに近い側の部分が、シリンダブロックの回転の半径方向の開口幅が狭くなる狭隘部として形成されているので、この狭隘部によって、シリンダブロックと弁板との間のシール面積を増加させることができる。この増加したシール面積に対応するシール領域によって、ピストン室内の高圧の作動液が第1又は第2ポートから漏れる漏洩量を低減することができる。
【0009】
ここで、第1及び第2ポートの切換ランドに近い側の部分を通る作動液の流量(ピストン室容積の単位回転当たりの変化量)は、第1及び第2ポートの切換ランドから遠い部分を通る作動液の流量(ピストン室容積の単位回転当たりの変化量)よりも小さいので、上記部分に狭隘部を形成しても、その影響が明らかとなる程度まで作動液の流れに基づく圧力損失を増加させないようにすることが可能である。そして、このように切換ランドに近い側の部分を通る作動液の流量が小さいのは、ピストンの伸縮方向の移動速度が切換ランドに近づくに従って遅くなるからである。
【0010】
また、狭隘部は、第1及び第2ポートの切換ランドから遠い部分に形成していないので、この狭隘部以外の遠い部分を通る作動液の流れに基づく圧力損失は、増加しない。
【0011】
更に、ピストン室が高圧側の第1又は第2ポートに連通していない状態で、当該ピストン室が死点及び死点付近を回転移動するときに、当該ピストン室内の高圧の作動液を補助ポートから排出することができる。つまり、シリンダブロックの回転への寄与が小さく、その回転の抵抗力が顕著となる死点及び死点付近の該ピストン室内の作動液の圧力を低くすることができ、液圧回転機の機械効率を向上させることができる。
【0012】
この発明に係る液圧回転機において、前記狭隘部は、死点の位置を基準として周方向において45°以下の角度範囲内に形成されているものとするとよい。
【0013】
このように狭隘部を形成することによって、シリンダブロックと弁板との間のシール領域を通って、第1又は第2ポートから高圧作動液が漏れる量を効果的に低減することができると共に、狭隘部における作動液の流れによる圧力損失の増加を効果的に抑制できる。つまり、ピストンの伸縮方向の移動速度は、そのピストンが死点の位置にあるときの回転角を0°とし、シリンダブロックの回転に伴いそのピストンが移動した回転角をθとすると、縦軸をピストンの伸縮方向の移動速度、横軸をピストンの回転角とする正弦関数状に変化する値として求めることができる。そして、ピストンの回転角θが45°の角度位置におけるピストンの移動速度は、最大移動速度(ピストンがθ=90°の角度位置のときに最大移動速度となる。)の約70%であり、ピストンの移動に基づく作動液の流量も最大流量と比較して約70%になる。よって、狭隘部の半径方向の開口幅は、第1及び第2ポートの狭隘部以外の開口幅の約70%程度にすることが可能であり、適切な広さのシール領域を形成することができる。
【0014】
この発明に係る液圧回転機において、前記ピストン室の前記弁板に臨む開口がシリンダポートとして形成され、前記狭隘部は、死点に向かうに従って前記半径方向の開口幅が狭くなるものとするとよい。
【0015】
このようにすると、シリンダブロックの回転によって、シリンダポート間のブリッジ部が前記狭隘部に位置するときに、シリンダブロックと弁板との間における周方向のシール幅が大きくなるので、シリンダブロックと弁板との間を通って、高圧作動液が漏れる量の低減を図りつつ、狭隘部における作動液の流れに基づく圧力損失の増加を効果的に抑制できる。つまり、ピストン室が弁板の死点(θ=0°)に向かうに従って当該ピストン室における作動液の流量が減少するので、狭隘部の前記半径方向の開口幅を弁板の死点に向かうに従って狭くすることで、上記のような作用を奏することができる。
【0016】
この発明に係る液圧回転機において、前記ピストン室の前記弁板に臨む開口がシリンダポートとして形成され、このシリンダポートは、基部と、この基部から前記半径方向外側又は内側に突出する凸部とを有する形状であり、前記ピストン室が前記シリンダポートを介して前記補助ポートと連通するときに、前記凸部のみが前記補助ポートに連通することが可能なように形成され、前記ピストン室が前記シリンダポートを介して前記補助ポートと連通する前後に、前記基部は前記補助ポートに対して前記半径方向に所定のシール幅のシール部を隔てて形成されているものとするとよい。
【0017】
このようにすると、シリンダポートが弁板の死点及び死点付近を回転移動するときに、シリンダポートの基部が、補助ポートに対して半径方向に所定のシール幅のシール部を隔て位置することができる。これによって、弁板の死点及び死点付近にあるシリンダポートの基部が、高圧側の第1又は第2ポートに連通している状態で、ピストン室内の高圧作動液がこの基部を介して補助ポートに流出しないようにすることができる。これによって、基部と補助ポートとの連通が防止でき、凸部以外から補助ポートに作動液が流出することを防止できるため、容積効率が向上する。
【0018】
この発明に係る液圧回転機において、前記シール幅は、3mm以上であるものとするとよい。
【0019】
このようにすると、弁板の死点及び死点付近にあるシリンダポートの基部が、高圧側の第1又は第2ポートに連通している状態のときに、当該基部は、補助ポートに対して半径方向に3mm以上のシール幅のシール部を隔てて形成されているので、ピストン室内の高圧作動液が、この3mm以上のシール幅のシール部から漏れて補助ポートに流入することを効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る液圧回転機によると、第1及び第2ポートの切換ランドに近い側の部分に狭隘部を形成して、シリンダブロックの後端面と弁板との間のシール領域を通って、第1又は第2ポートから高圧作動液が漏れる量を低減できるようにすると共に、第1及び第2ポートを流れる作動液の圧力損失の増加を抑制できるようにする構成としたので、この液圧回転機の全効率を効果的に向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る液圧回転機の一実施形態を、
図1〜
図7を参照して説明する。この実施形態では、液圧回転機を油圧モータに適用した例を挙げて説明する。ただし、液圧回転機を油圧ポンプにも適用することができる。
【0023】
この油圧モータ(液圧回転機)10は、作動油(作動液)の圧力を回転力に変換して出力する斜板形油圧モータであって、例えば産業機械及び建設機械などに設けられ、これら機械を駆動するために用いられている。この油圧モータ10は、
図2に示すように、弁板11と、シリンダブロック12と、複数のピストン13と、複数のシュー14と、斜板15とを含み、これらは油圧モータ10が備えるケーシング16に収納されている。このケーシング16は、ケーシング本体16a、フロントカバー16b及びバルブケーシング16cを有している。
【0024】
また、油圧モータ10は、さらに回転軸17を含み、この回転軸17は、その一端部17aがフロントカバー16bから部分的に突出した状態で、第1ベアリング19を介してフロントカバー16bに、その軸線と一致する回転軸線L10まわりに回転自在に支持されている。また、回転軸17は、その他端部17bが、第2ベアリング20を介してバルブケーシング16cに、回転軸線L10まわりに回転自在に支持されている。
【0025】
弁板11は、
図1及び
図2に示すように、大略的に円板状であって、回転軸17が挿通した状態で、バルブケーシング16cに固定して設けられている。この弁板11には、2つの給排ポート21、22(第1及び第2ポート)と、2つの補助ポート23、24とが形成されている。各給排ポート21、22は、
図1に示す弁板11において、左右対称に形成され、回転軸線L10まわりの周方向に延びて円弧状に形成されている。各給排ポート21、22は、周方向両端部に、先細り状のノッチ90を有している。このノッチ90は、後述するピストン室27の作動油の圧力変化の勾配を小さくするための圧力変化抑制部であり、ピストン室27との接続及び接続解除の切換えに伴う急激な圧力変化と、その圧力変化に伴って発生する騒音とを低減することができるように形成されている。
【0026】
上下の各補助ポート23、24は、給排ポート21、22の端部どうしの間に形成されている上死点切換ランド及び下死点切換ランドにそれぞれ設けられている。
図2及び
図3では、理解を容易にするために、給排ポート21を実際の位置から周方向にずらして示す。
【0027】
シリンダブロック12は、その中心に回転軸17が挿通され、例えばスプラインによって相互の回転が阻止された状態で、回転軸17に設けられ、このようにして回転軸線L10まわりに回転自在に設けられている。また、シリンダブロック12には、複数の例えば9つのピストン室27が、周方向にほぼ等間隔で形成され、更に、各ピストン室27に個別に連なるシリンダポート28が、周方向にほぼ等間隔で形成されている。各ピストン室27は、各シリンダポート28を介してシリンダブロック12の軸線方向の後端部で開口する。このシリンダブロック12は、その後端面12aが摺動自在に弁板11に当接し、弁板11との間でシール構造を達成している。そして、シリンダブロック12の回転角度位置に応じて、各シリンダポート28が、左右の各給排ポート21、22及び上下の各補助ポート23、24に接続される。
【0028】
各ピストン13は、大略的に円柱状であり、シリンダブロック12の各ピストン室27に、相互間のシールを達成した状態でそれぞれ嵌まり込んで収納され、油圧室31を形成する。また、各ピストン13は、軸線に沿った伸長方向及び短縮方向へ移動自在に設けられ、このピストン13の移動によって、各油圧室31の容積がそれぞれ変化する。また各ピストン13のピストン室27から突出する側の一端部33は、外表面が球面状に形成されている。
【0029】
各シュー14は、その一端部に軸線に垂直な当接面34が形成されたフランジ部35を有すると共に、その他端部で開口する嵌合凹所36が形成されている。各シュー14の嵌合凹所36に臨む内表面は、球面状に形成され、この嵌合凹所36にピストン13の一端部33を嵌合させて、各シュー14は、嵌合凹所36及び一端部33の中心を回動中心として、直交3軸まわりに回動自在に、ピストン13に連結される。
【0030】
斜板15は、
図2に示すシリンダブロック12の左端部側に設けられ、各シュー14の当接面を受けて支持する平坦な支持面37を有する。この斜板15は、回転軸線L10と直交する傾動軸線L11まわりに傾動自在に設けられており、油圧モータ10が備えるサーボ機構38によって、傾動軸線L11まわりに傾動駆動され、支持面37の回転軸線L10に対して成す角度が変更される。
【0031】
図2に示す油圧モータ10は、リテーナガイド40及び押さえ部材41を更に含む。リテーナガイド40は、回転軸17が同軸に挿通され、例えばスプラインによって相互の回転が阻止された状態で、回転軸17に設けられている。このリテーナガイド40は、回転軸線L10上の一点、本実施の形態では各軸線L10、L11の交点を中心とする球状の案内面を有する。押さえ部材41は、リテーナガイド40の案内面で支持される状態で、案内面を含む球の中心、従って各軸線L10、L11の交点を回動中心として、直交3軸まわりに回動自在に設けられている。この押さえ部材41は、各シュー14のフランジ部35を係止して、各シュー14を斜板15の支持面37に向けて押圧する。この状態で、各シュー14は、斜板15の支持面37に沿う方向及びL10、L11の交点を回動中心とする回転方向へ、押さえ部材41に対してわずかな移動が許容されている。
【0032】
また、油圧モータ10は、シリンダブロック12に、図示しないばね部材、例えば圧縮コイルばねが設けられており、このばね力がリテーナガイド40に伝達され、これによってリテーナガイド40が、押さえ部材41を上述のように案内及び支持した状態で、押さえ部材41を斜板15に向けて押圧し、押さえ部材41が各シュー14を斜板15に押付け、各シュー14が斜板15から離間して浮き上がることが防止されている。
【0033】
油圧モータ10は、シリンダブロック12の1回転に対して、各ピストン13が1往復する構成である。各ピストン13の往復動作は、ピストン13が回転軸線L10を中心として回転移動するときに、180°毎の角度位置に上死点及び下死点を有する。具体的には、回転軸線L10を含み、かつ、傾動軸線L11に垂直な仮想平面と、ピストン13の軸線が一致する角度位置に上死点及び下死点が存在する。
【0034】
この死点及び死点付近にあるピストン13が嵌まり込んでいるピストン室27が、シリンダポート28を介して補助ポート23、24に接続される。具体的には、最も短縮した位置である上死点にピストン13がある場合の角度位置を基準にして、周方向両側に角度θ1の角度範囲にピストン室27がある場合、そのピストン室27は、一方の上補助ポート23に接続される。また最も伸長した位置である下死点にピストン13がある場合の角度位置を基準にして、周方向両側に角度θ1の角度範囲にピストン室27がある場合、そのピストン室27は、他方の下補助ポート24に接続される。角度θ1は、例えば約10°に設定されている。
【0035】
これに対して、死点及び死点付近を除く位置にあるピストン13が嵌まり込むピストン室27は、シリンダポート28を介して給排ポート21あるいは22に接続される。具体的には、一方の上死点及び一方の上死点付近、並びに、他方の下死点及び他方の下死点付近を除き、回転軸17の一端部17aからシリンダブロック12を見て、
図1の矢符A1方向である反時計まわりの方向へシリンダブロック12が回転すると、ピストン13が伸長していく角度位置に配置されるピストン室27は、一方の給排ポート21に接続される。また一方の死点及び一方の死点付近、並びに、他方の死点及び他方の死点付近を除き、回転軸17の軸線方向一端部17aからシリンダブロック12を見て、
図1の矢符A2方向である時計まわりの方向へシリンダブロック12が回転すると、ピストン13が伸長していく角度位置に配置されるピストン室27は、他方の給排ポート22に接続される。
【0036】
ピストン13が死点及び死点付近を除きかつピストンが伸長方向へ移動する角度範囲、ならびにピストン13が死点及び死点付近を除きかつピストンが短縮方向へ移動する角度範囲は、共に{180−(2×θ1)}°であるので、この角度範囲は、180°よりも小さい。このように各ピストン室27は、角度位置に応じて、各ポート21〜24のうちのいずれか1つに個別に接続される。
【0037】
油圧モータ10のバルブケーシング16cには、
図2に示すように、弁板11の一方の給排ポート21に連なる一方の給排通路51及び他方の給排ポート22に連なる他方の給排通路(図示せず)が形成されている。これらの給排通路は、油圧モータ10と別途に設けられる例えばポンプなどの油圧源あるいはタンク(いずれも図示せず)に連なっている。
【0038】
本実施の形態では、
図1に示すように、弁板11の各給排ポート21、22及び各補助ポート23、24は、弁板11の軸線である回転軸線L10に関して対称に形成されているので、油圧モータ10は、正逆両方向に回転可能な構成である。油圧源から作動油が吐出され、一方の給排通路51を介して、油圧モータ10の一方の給排ポート21に供給される。また、油圧モータ10の他方の給排ポート22から作動油が排出され、他方の給排通路を介して、前記作動油が油圧モータ10外に排出される。これによって一方の給排ポート21に接続されるピストン室27のピストンが伸長され、これに伴ってシリンダブロック12が回転方向A1へ回転し、回転軸17が同方向A1へ回転する。この回転軸17の回転を例えば一端部17aから出力して、他の機械などを同方向へ駆動することができる。
【0039】
一方の給排ポート21は、油圧源から油圧モータ10を駆動できる高圧、例えば35MPaの作動油が導かれる第1ポートとなり、他方の給排ポート22は、油圧室31から排出された作動油が流出する第2ポートとなり、油圧モータ10の外部に作動油が排出される。また、各補助ポート23、24は、第3ポートに相当し、この各補助ポート23、24に導かれる作動油の圧力は、大気圧よりも高く、かつ、高圧の第1ポートである一方の給排ポート21に導かれる油圧源の吐出圧力よりも低い圧力、例えば0.01MPa以上2MPa以下に保持される。
【0040】
また、油圧源から作動油が吐出され、他方の給排通路を介して、油圧モータ10の他方の給排ポート22に供給される。そして、油圧モータ10の一方の給排ポート21から作動油が排出され、一方の給排通路51を介して、前記作動油が油圧モータ10外に排出される。これによって、他方の給排ポート22に接続されるピストン室27のピストン13が伸長され、これに伴ってシリンダブロック12が回転方向A1と反対の他回転方向A2へ回転し、回転軸17が同方向A2へ回転する。この回転軸17の回転を例えば一端部17aから出力して、他の機械などを当該方向へ駆動することができる。
【0041】
この場合、他方の給排ポート22は、油圧源から油圧モータ10を駆動できる高圧の作動油が導かれる第1ポートとなり、一方の給排ポート21は、油圧室31から排出された作動油が流出する第2ポートとなり、油圧モータ10の外部に作動油が排出される。また、この場合においても、各補助ポート23、24は、第3ポートに相当し、この各補助ポート23、24に導かれる作動油の圧力は、大気圧よりも高く、かつ、高圧側の第1ポートである他方の給排ポート22に導かれる油圧源の吐出圧力よりも低い低圧力、例えば0.01MPa以上2MPa以下に保持されている。
【0042】
このように、油圧モータ10では、ピストン13が死点及び死点付近に位置せず、かつ、伸長方向へ移動する範囲に位置するときに、弁板11の第1ポートにピストン室27が連通され、高圧の作動油が当該ピストン室27に導かれる。また、ピストン13が死点及び死点付近に位置せず、かつ、短縮方向へ移動する範囲に位置するときに、弁板11の第2ポートにピストン室27が連通され、低圧の作動油を排出場所に排出することができる。また、ピストン13が死点及び死点付近に位置する角度範囲にあるピストン室27には、弁板11の補助ポート23、24が連通され、当該ピストン室27内に収容されている高圧の作動油を、補助ポート23、24及びドレンポート137(
図2参照)を介してそれよりも低圧の例えばドレンタンクに排出することができる。
【0043】
これによって、作動油の圧力によってシリンダブロック12を回転駆動し、このシリンダブロック12の回転を回転軸17から取り出すことができる。このようにして、油圧モータ10を用いて、別途に設けられる装置などの駆動を実現することができる。更に、ピストン13が死点及び死点付近に位置する範囲にあるピストン室27には、補助ポートが接続され、作動油の供給及び排出をすることができる。これによって、死点付近におけるピストンの伸長方向及び短縮方向への円滑な移動を達成することができる。
【0044】
図4は、
図1の上補助ポート23付近を拡大して示す図である。シリンダポート28は、弁板11に臨む開口が、基部67と、基部67から半径方向外方及び内方の少なくともいずれか一方に突出する凸部68とを有する形状に形成されている。本実施の形態では、基部67は、略長円筒状であり、その内周縁辺70及び外周縁辺71は、回転軸線L10を中心とする仮想円筒面に一致するように形成されている。凸部68は、基部67の周方向中央部から半径方向内方に突出して形成されている。
【0045】
図6は、ピストン室27の角度位置θと、ピストン13のストローク位置との関係を示す図である。
図7は、ピストン室27の角度位置θと、ピストン室27の作動油の圧力Pとの関係を示す図である。
図6及び
図7において、横軸は、ピストン13が一方の死点にあるときのピストン室27の角度位置θを0°とし、この位置からの回転方向A1の角度をθで示す。
図6において、縦軸は、ピストン13のストローク位置であり、一方の死点を0とし、かつ、他方の死点を1として示す。
図7において、縦軸は、ピストン室27の作動油の圧力Pであり、ピストン13が1往復する間、従ってピストン室27が1回転する間の最低圧力をP1とし、最高圧力をP2として示す。
【0046】
上述のように角度θ1が10°であるとして、ピストン室27、従ってシリンダポート28は、10°を超えかつ170°未満(10<θ<170)の角度範囲にある場合、一方の給排ポート21に接続され、190°を超えかつ350°未満(190<θ<350)の角度範囲にある場合、他方の給排ポート22に接続される。またシリンダポート28は、0°以上10°以下(0≦θ≦10)及び350°以上360°未満(350≦θ<360)の角度範囲にある場合、一方の上補助ポート23に接続され、170°以上190°以下(170≦θ≦190)の角度範囲にある場合、他方の下補助ポート24に接続される。
【0047】
シリンダポート28が一方の上補助ポート23に接続されている角度範囲にある場合、ピストン13のストローク位置は、ピストンの全ストローク移動量を1として、0以上約0.008以下の位置範囲にある。シリンダポート28が他方の下補助ポート24に接続されている角度範囲にある場合、ピストンのストローク位置は、ピストンの全ストローク移動量を1として、約0.992以上1以下の位置範囲にある。ピストン13が死点及び死点付近にある場合には、シリンダブロック12の単位角移動量に対するストローク移動量が小さい。従って、シリンダポート28が補助ポート23、24に接続される角度範囲が、1回転の約11%(≒40°/360°)を占めるのに対して、これに対応するピストン13のストローク位置の範囲は、約1.6%(=約0.008×2)である。
【0048】
また、本実施の形態では、各ノッチ90によって、各ピストン室27の作動油の圧力Pの圧力変化の勾配が小さくなるように構成されている。従って、各ピストン室27の作動油の圧力Pは、シリンダポート28が、弁板11の各ポート21〜24に接続される間、常に一定の圧力となるわけではなく、例えば高圧側の第1又は第2ポートに接続される間、常に最高圧力P2となるわけではなく、高圧側のポートに対する接続状態が接続及び接続解除で切換わる角度位置の付近にある間、従って10°付近及び170°付近では、徐々に変化する。
【0049】
油圧モータ10では、シリンダポート28が10°を超え、かつ、170°未満(10<θ<170)の角度範囲にある場合、ピストン室27は、高圧側のポートとなる一方の給排ポート21に連通して、最低圧力P1と最高圧力P2との平均圧力(P1+P2)/2以上の圧力が導かれる。またシリンダポート28が残余の角度範囲にある場合、従って0°以上10°以下(0≦θ≦10)、170°以上360°未満(170≦θ<360)の角度範囲にある場合、低圧力側のポートとなる他方の給排ポート22又は補助ポート23、24に連通して、最低圧力P1と最高圧力P2との平均圧力(P1+P2)/2未満の圧力が導かれる。
【0050】
次に、本発明に係る液圧回転機である油圧モータ10の特徴について更に詳しく説明する。各給排ポート(第1及び第2ポート)21、22は、
図4及び
図5に示すように、シリンダブロック12が回転するときに、シリンダポート28の基部67が通る経路に臨むように形成されている。ただし、各給排ポート21、22は、シリンダポート28の基部67及び凸部68の両方が通る経路に臨むように形成してもよい。
【0051】
各給排ポート21、22は、
図4に示すように、幅広部130と、狭隘部131と、ノッチ90とを有している。幅広部130は、その内周縁辺75、76がシリンダポート28の移動経路の内周縁辺70と略一致し、各給排ポート21、22の外周縁辺77、78は、シリンダポート28の移動経路の外周縁辺71と略一致する。
【0052】
狭隘部131は、
図4に示すように、各給排ポート21、22の上死点切換ランド132に近い側の端部に形成され、シリンダブロック12の回転の半径方向の開口幅W2が、幅広部130の同方向の開口幅W1よりも狭くなる部分として形成されている。つまり、各狭隘部131は、その内周縁辺131aがシリンダポート28の移動経路の内周縁辺70よりも半径方向の外側に形成され、各狭隘部131の外周縁辺131bは、シリンダポート28の移動経路の外周縁辺71と略一致する。
【0053】
また、狭隘部131は、
図4に示すように、ピストン13が上死点の位置にある上死点切換ランド132における所定の角度位置(θ=0)を基準としてピストン室27の回転方向の55°(好ましくは、45°)以下の角度範囲内に形成されている。更に、各給排ポート21、22のノッチ90は、溝である。
【0054】
各補助ポート23、24は、
図4及び
図5に示すように、シリンダブロック12が回転するときに、シリンダポート28の基部67が通る経路を避け、かつ、凸部68が通る経路に臨むように形成されている。各補助ポート23、24の内周縁辺80、81は、シリンダポート28の凸部68の移動経路の内周縁辺と一致し、各補助ポート23、24の外周縁辺82、83は、シリンダポート28の基部67の移動経路の内周縁辺70よりも間隔W3を隔てて前記半径方向の内側に形成されている。
【0055】
つまり、シリンダポート28の基部67は、各補助ポート23、24に対して前記半径方向に所定のシール幅W3(好ましくは3mm以上)のシール部136を隔てて形成されている。
【0056】
また、各補助ポート23、24は、
図4及び
図5に示すように、弁板11の死点及び死点付近にあるピストン室27が、高圧側の給排ポート21、22に連通していない状態のときに、当該ピストン室27に連通されるように形成されている。
【0057】
次に、上記のように構成された液圧回転機である油圧モータ10の作用を説明する。この油圧モータ10によると、
図4に示すように、給排ポート21、22の上死点切換ランド132に近い側の部分が、シリンダブロック12の回転の半径方向の開口幅W2が狭くなる狭隘部131として形成されているので、シリンダブロック12のシリンダポート28が狭隘部131と重なり合う位置にいない範囲において、シリンダブロック12の後端面12aと弁板11との間のシール面積を増加させることができる。これによって、ピストン室27内の高圧の作動油が、この増加したシール面積に対応するシール領域の分によって、給排ポート21、22から漏れる量を低減することができる。
【0058】
ここで、給排ポート21、22の上死点点切換ランド132に近い側の部分(狭隘部131)を通る作動油の流量は、給排ポート21、22の上死点切換ランド132から遠い部分(幅広部130)を通る流量よりも小さいので、このように狭隘部131を形成しても、作動油の流れに基づく圧力損失を増加させないようにすることが可能である。そして、このように切換ランド132に近い側の部分を通る作動油の流量が小さいのは、ピストン13の移動速度が切換ランド132に近づくに従って遅くなるからである(
図6参照)。
【0059】
同様に、給排ポート21、22の下死点切換ランド133に近い側の部分を通る作動油の流量は、給排ポート21、22の下死点切換ランド133から遠い部分を通る流量よりも小さい。
【0060】
また、狭隘部131は、給排ポート21、22の上死点及び下死点切換ランド132、133から遠い部分に形成しておらず元の幅広部130としているので、この幅広部130を通る作動油の流れに基づく圧力損失は、増加しない。これによって、この油圧モータ10の機械効率を損なうことなく、この油圧モータ10の容積効率を効果的に向上させることができる。
【0061】
そして、
図4に示すように、狭隘部131は、ピストン13が死点の位置にある上死点切換ランド132における所定の角度位置を基準として、ピストン室27の回転方向の55°(=θ2)以下の角度範囲内に形成されていることによって、
図2に示すシリンダブロック12の後端面12aと弁板11との間のシール領域を通って、給排ポート21、22から高圧作動油が漏れる量を効果的に低減することができると共に、狭隘部131における作動油の流れによる圧力損失の増加を効果的に抑制できる。
【0062】
また、狭隘部131を形成する角度範囲を45°(=θ2)以下の角度範囲内とすることが好ましい。つまり、ピストン13の移動速度は、ピストン13が上死点の位置にあるときの弁板11の上死点切換ランド132における所定の角度位置を0°(=θ)とし、ピストン室27の回転角をθとする正弦関数状に変化する値として求めることができる(
図6参照)。そして、ピストン室27の回転角θが45°の角度位置におけるピストン13の移動速度は、最大移動速度(ピストン13がθ=90°の角度位置のときに最大移動速度となる。)の約70%であり、ピストン室27に対する作動油の流入流量又は流出流量も最大流量と比較して約70%になる。よって、狭隘部131の半径方向の開口幅W2は、給排ポート21、22の幅広部130の開口幅W1の約70%程度にすることが可能であり、適切な広さのシール領域を形成することができる。
【0063】
また、
図5に示すように、下補助ポート24は、弁板11の下死点及び下死点付近にあるシリンダポート28(ピストン室27)が、高圧側の例えば給排ポート21に連通していない状態のときに、当該シリンダポート28(ピストン室27)に連通されるように形成されている。同様に、上補助ポート23は、弁板11の上死点及び上死点付近にあるシリンダポート28(ピストン室27)が、高圧側の例えば給排ポート21に連通していない状態のときに、当該シリンダポート28(ピストン室27)に連通されるように形成されている。
【0064】
これによって、ピストン室27のシリンダポート28が、高圧側給排ポート21に連通しておらず、弁板11で封止された状態で、即ち高圧の作動油を収容した状態で、下死点及び下死点付近を回転移動するときに、当該ピストン室27に下補助ポート24が連通して、当該ピストン室27内の高圧の作動油を下補助ポート24から排出することができる。よって、当該ピストン室27内の高圧の作動油がシリンダブロック12の後端面12aと弁板11との間から漏れることを抑制することができ、容積効率を向上させることができる。
【0065】
しかも、これによって、ピストン13からシュー14を介して斜板15に与えられる力、及びシリンダブロック12から弁板11に与えられる力を低減することができ、シュー14と斜板15との間、及び弁板11とシリンダブロック12との間など、相互に摺動する部材間における摩擦力を低減することができる。その結果、機械損失を低減することができると共に、前記相互に摺動する部材同士の耐焼付性が向上、換言すれば焼付を生じ難くすることができる。
【0066】
そして、上記のように、高圧の作動油の漏れ量の低減によって、起動時に、従来よりも低い圧力によって油圧モータ10を駆動させることが可能となる。
【0067】
更に、
図5に示すシリンダポート28が弁板11の死点及び死点付近を回転移動するときに、シリンダポート28の基部67が、補助ポート23、24に対して半径方向に所定のシール幅W3のシール部136を隔て位置することができる。これによって、弁板11の死点及び死点付近にあるシリンダポート28の基部67が、高圧側の給排ポート21に連通している状態で、高圧作動油がこの基部67を介して補助ポート23、24に流出しないようにすることができる。これによって、高圧作動油のエネルギを効率よく利用することができる。
【0068】
そして、
図5に示すシリンダポート28の基部67が、高圧側の給排ポート21に連通しない状態となる所定のタイミングで、当該シリンダポート28の凸部68が、補助ポート23、24に連通するように設定することができる。これによって、当該シリンダポート28に連通するピストン室27内の高圧作動油を補助ポート23、24から排出することができる。
【0069】
そして、当該シール幅W3を3mm以上とすると、弁板11の死点及び死点付近にあるシリンダポート28の基部67が、高圧側の給排ポート21に連通している状態のときに、当該基部67は、補助ポート23、24に対して半径方向に3mm以上のシール幅W3のシール部136を隔てて形成されているので、ピストン室27内の高圧作動油が、この3mm以上のシール幅のシール部136から漏れて補助ポート23、24に流入することを効果的に抑制することができる。
【0070】
また、上記油圧モータ10によると、ピストン13が死点付近に位置する角度範囲にあるピストン室27は、補助ポート23、24を介して作動油の供給及び排出をすることができる。これによって、死点付近におけるピストン13の伸長方向及び短縮方向の円滑な移動を達成することができる。しかも、補助ポート23、24には、大気圧よりも高い圧力の作動油が導かれ、ピストン13が死点付近で伸長方向へ移動する場合に、ピストン13の移動による負圧によって作動油を吸引する必要がないので、キャビテーションを防止することができる。
【0071】
更に、上記油圧モータ10によると、ピストン室27が、高圧側の給排ポート21又は22に連通していない状態で、高圧の作動油を収容し、死点及び死点付近を回転移動するときに、当該ピストン室27に補助ポート23、24が連通することができ、当該ピストン室27内の高圧の作動油を補助ポート23、24から排出することができる。
【0072】
ただし、上記実施形態では、
図4に示すように、狭隘部131を略一定の開口幅W2に形成したが、これに代えて、弁板11の上死点に向かうに従って開口幅W2が狭くなるように形成することができる。
【0073】
つまり、ピストン室27が弁板11の死点(θ=0°)に向かうに従ってピストン室27における作動油の流量が減少するので、狭隘部131における作動油の流れに基づく圧力損失の増加を抑制しつつ、シリンダブロック12の後端面12aと弁板11との間を通って、給排ポート21、22から高圧作動油が漏れる量を効率的に低減することができる。
【0074】
そして、上記実施形態では、
図4及び
図5に示すように、補助ポート23、24は、弁板11に形成した貫通孔としたが、これに代えて、
図8(a)、(b)に示すように、弁板11の中央に形成した回転軸17の装着孔134の内縁部に形成した凹部としてもよい。この凹部に導かれる作動油の圧力は、上記実施形態と同様に、大気圧よりも高く、かつ一方の高圧側の給排ポート21又は22に導かれる油圧源の吐出圧力よりも低い圧力、例えば0.01MPa以上2MPa以下に保持される。これ以外は、上記実施形態の補助ポート23、24と同様であるので、詳細な説明を省略する。
【0075】
また、上記実施形態では、
図1に示すように、狭隘部131を各給排ポート21、22のそれぞれの上端部に形成したが、これに代えて、給排ポート21、22のいずれか一方の下端部に形成してもよい。
【0076】
更に、上記実施形態では、
図1に示すように、給排ポート21、22の上死点切換ランド132に近い側の部分に狭隘部131を形成し、下死点切換ランド133に近い側の部分に狭隘部131を形成していないが、これに代えて、給排ポート21、22の上死点切換ランド132に近い側の部分に狭隘部131を形成し、更に、給排ポート21、22の下死点切換ランド133に近い側の部分にも狭隘部131を形成してもよい。
【0077】
また、上記実施形態では、
図4及び
図5に示すように、上補助ポート23及び下補助ポート24を設けたが、これに代えて、いずれか一方の補助ポートを設けたものとしてもよい。
【0078】
更に、上記実施形態では、
図1に示すように、給排ポート21、22を左右にそれぞれ1つずつ設けたが、これに代えて、
図8(a)に示すように、給排ポートを左右にそれぞれ複数ずつ、例えば3つずつ設けたものとしてもよい。この場合、3つずつ設けた給排ポート21、22のうちの上死点切換ランド132に近い側のポートに狭隘部131を形成するとよい。
【0079】
また、上記実施形態では、本発明の液圧回転機を可変容量形の斜板式のモータに適用した例を挙げたが、これに代えて、可変容量形の斜板式のポンプや、固定容量形のモータ及びポンプに適用することができる。
【0080】
更に、本発明の液圧回転機は、正逆両回転可能のものに適用することができるし、一方向にだけ回転させるものにも適用することができる。
【0081】
そして、上記実施形態では、各補助ポート23、24の圧力は、大気圧よりも大きく、かつ、高圧側給排ポートの圧力よりも小さい圧力となるように構成したが、これに代えて、各補助ポート23、24をドレンタンクに接続して、当該ドレンタンクの圧力となるように構成してもよい。
【0082】
また、上記実施形態では、作動液として油を使用する例を挙げたが、これに代えて、水を使用してもよい。
【0083】
更に、上記実施形態では、ノッチ90を有する構成としたが、ノッチ90を有していない構成であってもよい。