【実施例】
【0081】
以下に実施例を示しながら本発明に係る慢性骨髄性白血病用の治療用組成物について説明する。
【0082】
(実施例1)<イマチニブ耐性獲得因子の検討>
K562細胞(白血病細胞株、JCRB細胞バンクでの細胞番号:JCRB0019)とイマチニブ耐性細胞(Imatinib−resistant K562)を96wellプレートに播種し、24時間前培養した。その後、イマチニブを最終濃度が0、0.05、0.1、0.5、1、5、10、20μMになるように添加した。72時間培養した後の細胞数の変化をトリパンブルー色素排除染色試験法により算定し、この測定値をcontrol(0μM イマチニブ)に対する細胞生存率として評価した。
【0083】
イマチニブ添加による細胞生存率の結果を
図1に示す。横軸はイマチニブ(Imatinib)の添加量(μM)を示し、縦軸は細胞生存率(Cell viability:%)を示す。また白棒はK562細胞を表し、黒棒はイマチニブ耐性細胞を表す。
【0084】
イマチニブの添加量が多くなるに従い、K562細胞の生存率は低下した。また、イマチニブが10μM以上添加された場合は、K562細胞の細胞生存率はゼロであった。しかし、イマチニブ耐性細胞では、イマチニブの添加量が増加しても、細胞生存率はほぼ100%であった。なお、以後のグラフを含め、グラフ中「P」は有意確率を示す。
【0085】
以上のことから、K562細胞においてイマチニブによって細胞死を誘導する濃度において、イマチニブ耐性細胞に細胞死が誘導されないことを認めた。この結果から、作製したイマチニブ耐性細胞はイマチニブ耐性を示すことが明らかとなった。
【0086】
(実施例2)<イマチニブ耐性細胞におけるニロチニブ耐性の確認>
K562細胞とイマチニブ耐性細胞(Imatinib−resistant K562)を96wellプレートに播種し、24時間前培養した。その後、ニロチニブを最終濃度が0、0.01、0.05、0.1、0.2、0.5、1、2 μMになるように添加した。72時間培養した後の細胞数の変化をトリパンブルー色素排除染色試験法により算定し、この測定値をcontrol(0μM ニロチニブ)に対する細胞生存率として評価した。
【0087】
ニロチニブ添加による細胞生存率の結果を
図2に示す。横軸はニロチニブ(Nilotinib)の添加量(μM)を示し、縦軸は細胞生存率(Cell viability:%)を示す。また白棒はK562細胞を表し、黒棒はイマチニブ耐性細胞を表す。
【0088】
ニロチニブの添加量が多くなるに従い、K562細胞の生存率は低下した。また、ニロチニブが0.2μM以上添加された場合は、K562細胞の細胞生存率はゼロであった。しかし、イマチニブ耐性細胞では、ニロチニブの添加量が増加しても、細胞生存率はほぼ100%であった。なお、イマチニブ耐性細胞は、ニロチニブの添加量が2μMまで増加した時に細胞生存率が約60%まで低下した。
【0089】
以上のことから、K562細胞においてニロチニブによって細胞死を誘導する濃度においても、イマチニブ耐性細胞に細胞死が誘導されないことを認めた。この結果から、作製したイマチニブ耐性細胞はニロチニブ耐性をも示すことが明らかとなった。
【0090】
(実施例3)<イマチニブ耐性細胞におけるダサチニブ耐性の確認>
K562細胞とイマチニブ耐性細胞(Imatinib−resistant K562)を96wellプレートに播種し、24時間前培養した。その後、ダサチニブを最終濃度が0、0.01、0.05、0.1、0.2、0.5、1、2μMになるように添加した。72時間培養した後の細胞数の変化をトリパンブルー色素排除染色試験法により算定し、この測定値をcontrol(0μM ダサチニブ)に対する細胞生存率として評価した。
【0091】
ダサチニブ添加による細胞生存率の結果を
図3に示す。横軸はダサチニブ(Dasatinib)の添加量(μM)を示し、縦軸は細胞生存率(Cell viability:%)を示す。また白棒はK562細胞を表し、黒棒はイマチニブ耐性細胞を表す。
【0092】
ダサチニブの添加量が多くなるに従い、K562細胞の生存率は低下した。また、ダサチニブが0.2μM以上添加された場合は、K562細胞の細胞生存率はゼロであった。しかし、イマチニブ耐性細胞では、ダサチニブの添加量が増加しても、細胞生存率はほぼ100%であった。なお、イマチニブ耐性細胞は、ダサチニブの添加量が2μMまで増加した時に細胞生存率が約80%まで低下した。
【0093】
以上のことから、K562細胞においてダサチニブによって細胞死を誘導する濃度において、イマチニブ耐性細胞に細胞死が誘導されないことを認めた。この結果から、作製したイマチニブ耐性細胞はダサチニブ耐性をも示すことが明らかとなった。
【0094】
(実施例4)<イマチニブ耐性細胞におけるポナチニブ耐性の確認>
K562細胞とイマチニブ耐性細胞(Imatinib−resistant K562)を96wellプレートに播種し、24時間前培養した。その後、ポナチニブを最終濃度が0、5、10、20、100、250、500、1000nMになるように添加した。72時間培養した後の細胞数の変化をトリパンブルー色素排除染色試験法により算定し、この測定値をcontrol(0μM ポナチニブ)に対する細胞生存率として評価した。
【0095】
ポナチニブ添加による細胞生存率の結果を
図4に示す。横軸はポナチニブ(Ponatinib)の添加量(μM)を示し、縦軸は細胞生存率(Cell viability:%)を示す。また白棒はK562細胞を表し、黒棒はイマチニブ耐性細胞を表す。
【0096】
ポナチニブの添加量が多くなるに従い、K562細胞の生存率は低下した。また、ポナチニブが500nM以上添加された場合は、K562細胞の細胞生存率はゼロであった。しかし、イマチニブ耐性細胞では、ポナチニブの添加量が増加しても、細胞生存率はほぼ100%であった。
【0097】
以上のことから、K562細胞においてポナチニブによって細胞死を誘導する濃度において、イマチニブ耐性細胞に細胞死が誘導されないことを認めた。この結果から、作製したイマチニブ耐性細胞はポナチニブ耐性をも示すことが明らかとなった。
【0098】
(実施例5)<イマチニブ耐性細胞におけるバフェチニブ耐性の確認>
K562細胞とイマチニブ耐性細胞(Imatinib−resistant K562)を96wellプレートに播種し、24時間前培養した。その後、バフェチニブを最終濃度が0、5、10、50、100、500、1000、2500nMになるように添加した。72時間培養した後の細胞数の変化をトリパンブルー色素排除染色試験法により算定し、この測定値をcontrol(0μM バフェチニブ)に対する細胞生存率として評価した。
【0099】
バフェチニブ添加による細胞生存率の結果を
図5に示す。横軸はバフェチニブ(Bafetinib)の添加量(μM)を示し、縦軸は細胞生存率(Cell viability:%)を示す。また白棒はK562細胞を表し、黒棒はイマチニブ耐性細胞を表す。
【0100】
バフェチニブの添加量が多くなるに従い、K562細胞の生存率は低下した。また、バフェチニブが2500nM以上添加された場合は、K562細胞の細胞生存率はゼロであった。しかし、イマチニブ耐性細胞では、バフェチニブの添加量が増加しても、細胞生存率はほぼ100%であった。なお、バフェチニブの添加量が2500nMになると、イマチニブ耐性細胞の細胞生存率は、約80%まで低下した。
【0101】
以上のことから、K562細胞においてバフェチニブによって細胞死を誘導する濃度において、イマチニブ耐性細胞に細胞死が誘導されないことを認めた。この結果から、作製したイマチニブ耐性細胞はバフェチニブ耐性をも示すことが明らかとなった。
【0102】
(実施例6)<イマチニブ耐性獲得因子の検討>
作製したイマチニブ耐性細胞を用いて、耐性に関与する因子をイムノブロッティング解析にて検討した。
【0103】
K562細胞、イマチニブ耐性細胞(Imatinib−resistantK562)を150cm
2フラスコに播種した後、72時間培養したものから細胞溶解液にてタンパク質を抽出し、サンプルとした。また、タンパク定量はBCA Protein Assay (Thermo Fisher Scientific; Waltham, MA, USA)を用いて行った。
【0104】
各サンプルをSDS−PAGE後、PVDF膜に転写し、抗phospho−Met (Tyr1234/1235)抗体、抗phospho−Met (Tyr1349)抗体、抗Met抗体 (Cell Signaling Technology; Beverly, MA, USA)、及び抗β−actin抗体 (Sigma)を用いてMetのリン酸化を検討した。
【0105】
イムノブロッティングの結果を
図6に示す。
図6では、各抗体毎に、K562細胞とイマチニブ耐性細胞のイムノブロッティング結果の写真を示す。発光は写真上黒い影として映っている。抗phospho−Met(Tyr1234/1235)抗体において、K562細胞の影よりも、イマチニブ耐性細胞の影の方が濃い影であった。
【0106】
また抗phospho−Met(Tyr1349)抗体においては、K562細胞は、薄く確認できる程度であったが、イマチニブ耐性細胞は、明らかにK562細胞の場合より濃い影であった。つまり、チロシンキナーゼドメイン内にあるTyr1234/1235もC末端にあるTyr1349でもイマチニブ耐性細胞のイムノブロッティングの結果はK562細胞の場合より、濃い影であった。
【0107】
抗met抗体では、K562細胞、イマチニブ耐性細胞共に明確に黒い影であった。ただし、イマチニブ耐性細胞の方が黒い影が小さかった。抗β−actin抗体は、K562細胞およびイマチニブ耐性細胞共に明確な黒い影が観察された。
【0108】
以上のことより、K562細胞におけるリン酸化Metの発現と比較し、イマチニブ耐性細胞ではリン酸化Metが著しく増加していることが明らかになった。これは、イマチニブ耐性細胞では、metによるシグナル伝達が活性化していることを示唆するものである。なお、β−actinはK562細胞もイマチニブ耐性細胞も同程度有していると観察されたので、このイムノブロッティングの結果は正しいと判断できる。
【0109】
(実施例7)<Met阻害剤によるイマチニブ耐性克服効果の検討>
イマチニブ耐性細胞(Imatinib−resistant K562)を96wellプレートに播種し、24時間前培養した。その後、イマチニブを最終濃度が5μMになるように添加した。また、それとは別にイマチニブと併用してPHA−665752(Met阻害剤)を最終濃度が1、2、2.5、3μMになるように添加した。
【0110】
Controlとして薬剤を溶解した溶媒を添加したものを同様に培養した。72時間培養した後の細胞数の変化をトリパンブルー色素排除染色試験法により算定し、この測定値をcontrolに対する細胞生存率として評価した。
【0111】
Met阻害剤併用による結果を
図7に示す。横軸はイマチニブおよびPHA−665752の量の違いを表し、縦軸は細胞生存率(Cell viability:%)を示す。また白棒はcontrol(K562細胞)を表し、黒棒はイマチニブ耐性細胞を表す。イマチニブ、PHA−665752が単独で添加された場合は、PHA−665752を3μM添加したときも、細胞生存率は約70%あった。
【0112】
一方、イマチニブ5μMとPHA−665752を組み合わせて使用すると、PHA−665752の添加量にしたがって、細胞生存率は減少し、PHA−665752 3μMの添加で細胞生存率は0%になった。
【0113】
このことより、イマチニブ耐性細胞においてMet阻害剤の濃度依存的にイマチニブ耐性が克服されることが認められた。これらの結果から、Metがイマチニブ耐性に関与することが明らかとなった。
【0114】
(実施例8)<Met下流シグナル伝達因子におけるイマチニブ耐性因子の検討>
イマチニブ耐性株において活性化が確認されたMetの下流シグナルのERK1/2、Akt、STAT3の活性動態について、イムノブロッティングで検討を行った。
【0115】
K562細胞、イマチニブ耐性細胞(Imatinib−resistant K562)を150cm
2フラスコに播種した後、72時間培養したものから細胞溶解液にてをタンパク質を抽出し、サンプルとした。また、タンパク定量はBCA Protein Assay (Thermo Fisher Scientific; Waltham, MA, USA)を用いて行った。
【0116】
各サンプルをSDS−PAGE後、PVDF膜に転写し、抗phospho−ERK1/2抗体、抗ERK1/2抗体、抗phospho−Akt抗体、抗Akt抗体、抗phospho− STAT3抗体、及び抗STAT3抗体(Cell Signaling Technology; Beverly, MA, USA)を用いてERK1/2、Akt、STAT3のリン酸化を検討した。
【0117】
イムノブロッティングの結果を
図8に示す。
図8では、K562細胞とイマチニブ耐性細胞のイムノブロッティングの結果をそれぞれの抗体毎に並べて示した。
図8によれば、抗ERK1/2抗体、抗Akt抗体、および抗STAT3抗体では、K562細胞とイマチニブ耐性細胞は、同程度の黒い影が映っている。一方、抗リン酸化ERK1/2抗体、抗リン酸化Akt抗体、および抗リン酸化STAT3抗体ではK562細胞よりもイマチニブ耐性細胞の黒い影の方が明らかに濃い。
【0118】
さらに詳説すると、抗ERK1/2抗体においては、上下に2つの影があるのが確認できる。上側の影がERK1で、下側の影はERK2に相当する。K562細胞もイマチニブ耐性細胞もERK1/2の両方を有していることを示している。
【0119】
一方、抗リン酸化ERK1/2抗体の場合は、K562細胞では、リン酸化ERK2の影は薄く、リン酸化ERK1は殆ど影がない。これに比較し、イマチニブ耐性細胞ではリン酸化ERK1は薄いながら影を確認でき、リン酸化ERK2は明らかに濃い影がある。
【0120】
以上のことから、K562細胞におけるリン酸化ERK1/2、リン酸化Akt、リン酸化STAT3の発現と比較し、イマチニブ耐性細胞ではリン酸化ERK1/2、リン酸化Akt、リン酸化STAT3が著しく増加していることが明らかになった。
【0121】
このことは、イマチニブ耐性細胞では、イマチニブが主として阻害するBcr−Abl活性によるシグナル経路だけでなく、ERK−MARK経路、PI3K−Akt経路といったシグナル経路も活性化していることを示唆する。
【0122】
(実施例9)<MEK阻害剤、PI3K阻害剤、JAK2阻害剤によるイマチニブ耐性克服効果の検討>
イマチニブ耐性細胞(Imatinib−resistant K562)を96wellプレートに播種し、24時間前培養した。その後、イマチニブを最終濃度が5μMになるように添加した。また、それとは別にイマチニブと併用してU0126(MEK阻害剤)を最終濃度が0.1、1、10μM、LY294002(PI3K阻害剤)を最終濃度が0.1、1、10μM、AG490(JAK2阻害剤)を最終濃度が1、5、10μMになるように添加した。
【0123】
Controlとして薬剤を溶解した溶媒を添加したものを同様に培養した。72時間培養した後の細胞数の変化をトリパンブルー色素排除染色試験法により算定し、この測定値をcontrolに対する細胞生存率として評価した。
【0124】
各種阻害剤併用による結果を
図9〜
図11に示す。
図9〜
図11のグラフにおいて、横軸はイマチニブおよびU0126(
図9)、イマチニブとLY294002(
図10)、イマチニブとAG490(
図11)の量の違いを表し、縦軸はいずれのグラフにおいても細胞生存率(Cell viability:%)を示す。また白棒はcontrol(K562細胞)を表し、黒棒はイマチニブ耐性細胞を表す。
【0125】
図9を参照して、イマチニブとU0126(MEK阻害剤)が単独で添加された場合は、U0126を10μM添加したときも、細胞生存率は約70%あった。一方、イマチニブ5μMとU0126を組み合わせて使用すると、U0126の添加量にしたがって、細胞生存率は明らかに減少した。なお、イマチニブ5μMとU0126を10μM併用したときは、細胞生存率は約35%まで低下した。
【0126】
図10を参照して、イマチニブとLY294002(PI3K阻害剤)の組み合わせの場合は、それぞれを単独で用いた時も、これらを併用したときも、細胞生存率に大きな変化はなかった。なお、イマチニブ5μMとLY294002を10μM併用したときも細胞生存率は約75%程度あった。
【0127】
図11を参照して、イマチニブとAG490(JAK2阻害剤)の組み合わせの場合は、それぞれを単独で用いた時も、これらを併用したときも、細胞生存率に大きな変化はなかった。なお、イマチニブ5μMとLY294002を10μM併用したときも細胞生存率は約90%程度あった。
【0128】
以上のことから、イマチニブ耐性細胞において5μMのイマチニブと、10μMのU0126(MEK阻害剤)併用時にイマチニブ耐性が克服されることが認められた。これらの結果から、MEK/ERK経路がイマチニブ耐性に関与することが明らかとなった。
【0129】
(実施例10)<Met阻害剤によるERK抑制効果の検討>
イマチニブ耐性細胞においてリン酸化Metの増加が耐性獲得に関与していることが示唆された(実施例6、
図6参照)ため、Met阻害剤添加時におけるMetおよび下流シグナルの発現変化についてイムノブロッティングにて検討した。
【0130】
K562細胞、イマチニブ耐性細胞(Imatinib−resistant K562)を150cm
2フラスコに播種し、37℃、5% CO
2の条件下で48時間培養したものおよびイマチニブ耐性細胞を150cm
2フラスコに播種し、24時間前培養後、イマチニブ耐性細胞にPHA−665752を最終濃度が1、2、2.5μMになるように添加し37℃、5% CO
2の条件下で24時間培養した。この培養液から細胞溶解液にてタンパク質を抽出し、サンプルとした。
【0131】
また、タンパク定量はBCA Protein Assayを用いて行った。各サンプルをSDS−PAGE後、PVDF膜に転写し、抗phospho−Met (Tyr1234/1235)抗体、抗phospho−Met (Tyr1349)抗体、抗Met抗体、抗phospho−ERK1/2抗体、及び抗ERK1/2抗体を用いてMet、ERK1/2のリン酸化を検討した。なお、各細胞サンプルに対して抗β−actin抗体を作用させ、イムノブロッティングの妥当性を確認した。
【0132】
イムノブロッティングの結果を
図10に示す。写真横方向には、K562細胞の場合と、イマチニブ耐性細胞の場合を並べて示し、イマチニブ耐性細胞では、PHA−665752の添加量(μM)を数字で示した。写真縦方向には、各抗体毎の結果(写真)を示した。
【0133】
抗リン酸化Met(Tyr1234/1235)抗体の写真では、イマチニブ耐性細胞におけるPHA−665752が0μMの時に最も黒い影が濃かった。イマチニブ耐性細胞では、PHA−665752の増加にしたがって、黒い影は薄くなった。K562細胞の黒い影は、イマチニブ耐性細胞にPHA−665752を2μM添加した場合と同じ程度の濃さであった。
【0134】
抗リン酸化Met(Tyr1349)抗体の写真でもほぼ同様の結果であった。ただし、抗リン酸化Met(Tyr1349)抗体は、抗リン酸化Met(Tyr1234/1235)抗体と比べて全体的に影の濃さは薄かった。
【0135】
抗Met抗体では、イマチニブ耐性細胞はPHA−665752の添加量に係らず、ほぼ同じ濃さの影であった。K562細胞の写真は、イマチニブ耐性細胞の影より一回り大きな影であった。
【0136】
抗リン酸化ERK1/2抗体では、K562細胞の写真では、ERK2にわずかな影が映っただけであった。濃さも薄かった。イマチニブ耐性細胞では、K562よりも明確に黒い大きな影がERK1、ERK2のいずれにもあった。また、PHA−665752の添加にしたがい、黒い影は薄くなった。
【0137】
抗ERK1/2抗体では、K562細胞の影がイマチニブ耐性細胞の影より一回り小さな影であったが、濃さは充分黒かった。イマチニブ耐性細胞では、PHA−665752の添加量に係らず、大きく濃い陰影が観察された。
【0138】
β−actinでは、K562細胞もイマチニブ耐性細胞もほぼ変化がなく、いずれも黒い大きな影が観察された。
【0139】
K562細胞ではリン酸化ERK1のバンドが観察されなかった。一方、イマニチブ耐性細胞ではリン酸化ERK1のバンドが確認され、リン酸化ERK2のバンドもK562細胞と比較し強くなっていた。つまり、K562細胞では、MEK/ERK経路は活性ではないのに対し、イマチニブ耐性細胞は、MEK/ERK経路が活性になっていたことを示した。
【0140】
このイマチニブ耐性細胞に、Met阻害剤(PHA−665752)を添加していくと、リン酸化ERK1のバンドが無くなり、リン酸化ERK2のバンドも薄くなり、K562細胞の状態に近づいていた。
【0141】
以上のことから、Met阻害剤PHA−665752により、リン酸化Metが阻害されていることを確認した。実施例9で、MEK/ERK経路がイマチニブ耐性に関与することが明らかであった。したがって、MEK/ERK経路の阻害よりイマチニブ耐性が克服されることが明らかとなった。