特許第6267630号(P6267630)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6267630内蔵されたヒートスプレッダを備える成型したプラスチック物体およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6267630
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】内蔵されたヒートスプレッダを備える成型したプラスチック物体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/16 20060101AFI20180115BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   B41J2/16 513
   B41J2/01 111
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-252429(P2014-252429)
(22)【出願日】2014年12月12日
(65)【公開番号】特開2015-120347(P2015-120347A)
(43)【公開日】2015年7月2日
【審査請求日】2017年12月1日
(31)【優先権主張番号】14/139,174
(32)【優先日】2013年12月23日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502096543
【氏名又は名称】パロ・アルト・リサーチ・センター・インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】Palo Alto Research Center Incorporated
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・エス・パスケヴィッツ
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド・エム・ジョンソン
【審査官】 上田 正樹
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2006/0290746(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0037737(US,A1)
【文献】 特開平08−267747(JP,A)
【文献】 特開平05−008389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/16
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成型したポリマー材料を含む、成型したプラスチック物体であって、
内壁を有するプラスチック物体内の少なくとも1つの蒸気チャンバと、
前記蒸気チャンバの前記内壁の少なくとも一部と接触するウィッキング材料と、
前記蒸気チャンバ内の作業液と、を含み、
前記作業液、前記ウィッキング材料、または両者は、前記プラスチック物体の暖かい領域から冷たい領域へと熱を分配するように構成され、前記成形したプラスチック物体は、固体から液体へ相変化するインク用の固体相変化インクジェット印刷ヘッドである、成型したプラスチック物体。
【請求項2】
インクジェット印刷ヘッドを含む、請求項1に記載の成型したプラスチック物体。
【請求項3】
前記ウィッキング材料がポリマーフォームを含む、請求項1に記載の成型したプラスチック物体。
【請求項4】
前記作業液が相変化を受ける、請求項1に記載の成形したプラスチック物体。
【請求項5】
前記作業液が、20℃〜20℃の温度範囲で相変化を受ける、請求項に記載の成型したプラスチック物体。
【請求項6】
前記射出成型したポリマー材料が、熱伝導性フィラーを含む、請求項に記載の成型したプラスチック物体。
【請求項7】
前記作業液が熱伝導性粒子を含む、請求項1に記載の成型したプラスチック物体。
【請求項8】
前記作業液が水を含む、請求項1に記載の成形したプラスチック物体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、内蔵されたヒートスプレッダを備える射出成型したプラスチック物体およびその製造方法および使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車産業または大衆消費電子製品産業のような産業での製造に有用な多くの物体は、物体の熱い領域から熱を奪うか、または物体全体に熱を均一に分配することができる能力が必要である。このことは、プラスチック物体の少なくとも一部が熱源(例えば、ポータブルコンピュータのエンジンブロックまたは電池)の近くにある場合に特に重要である。プラスチックの射出成型は、多くの産業にとって、目的となる製造プロセスであるため、製造費用を安くし、部品ごとの均一性を高める可能性を与える。しかし、ほとんどのプラスチックは、熱伝導性が低いため、伝導性フィラーを使用した場合であっても、特定の用途でのプラスチック物体の使用は制限される場合がある。
【0003】
固体インクジェット印刷ヘッドは、積み重ねられた金属プレートまたはプレートとプラスチック層の積み重ねを用いて製造される。このような印刷ヘッドは、付着して取り付けられた抵抗発熱部とともに印刷ヘッド中で用いられる固体インクの相変化温度付近に維持される。しかし、これらの印刷ヘッドは、特に、ワイドフォーマット(A3紙)形態の因子について、ある程度の熱均一性(熱の勾配)の問題がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
射出成型したプラスチック物体の熱伝導性または均一性の低さを克服する手法の1つによって、伝導性が高い要素をプラスチック物体に直接内蔵し、射出成型プロセスからの熱を均一に拡散し、逃がしやすくすることができる。一態様では、プラスチック物体内に少なくとも1つの蒸気チャンバを備える成型したプラスチック物体が開示される。蒸気チャンバは、内壁を有する。ウィッキング材料を、蒸気チャンバの内壁の少なくとも一部と接触させる。蒸気チャンバ内に配置された作業液は、プラスチック物体の暖かい領域から冷たい領域へと熱を分配するような構成である。ある実施形態では、成型したプラスチック物体は、固体インクジェット印刷ヘッドの一部または全部である。
【0005】
別の態様では、溶融ポリマーを型に注入することを含む、成型したプラスチック物体を製造する方法が開示される。型は、内壁を有する少なくとも1つの蒸気チャンバを含む。型は、さらに、蒸気チャンバの内壁に少なくとも接触したウィッキング材料を含む。開示された方法は、さらに、溶融ポリマーを冷却して固化させることと、プラスチック物体を型から取り出すことと、プラスチック物体の暖かい領域から冷たい領域へと熱を分配するような構成で蒸気チャンバを作業液で満たすこととを含む。
【0006】
別の態様では、プラスチック物体の暖かい領域から冷たい領域へと熱を分配するような構成のプラスチック物体を成型することを含む、熱を逃がす方法が開示される。プラスチック物体は、内壁を有する少なくとも1つの蒸気チャンバを含む。型は、さらに、蒸気チャンバの内壁の少なくとも一部と接触するウィッキング材料と、蒸気チャンバまたはウィッキング材料、または両者の中の作業液とを含む。作業液は、プラスチック物体の暖かい領域から冷たい領域へと熱を分配するような構成である。この方法は、さらに、熱源に近接してプラスチック物体を配置することと、次いで、熱源からプラスチック物体へと熱を逃がすこととを含む。
【0007】
上の概要は、それぞれの開示された実施形態または本開示のそれぞれの実施を記載することを意図していない。以下の図および記載は、具体的な実施形態をさらに具体的に例示する。
【0008】
明細書全体で添付の図面を参照し、同じ参照番号は、同様の要素を示す。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、開示されている内蔵されたヒートスプレッダを備える成型したプラスチックインクジェット印刷ヘッドの断面図である。
図2図2は、本明細書に開示する実施形態の蒸気チャンバヒートスプレッダの基本的な構成の断面図である。
図3図3は、内蔵されたヒートスプレッダを備える成型したプラスチックインクジェット印刷ヘッドを製造するためのワンショット射出成型プロセスを示す断面図である。
図4A図4Aは、内蔵されたヒートスプレッダを備える成型したプラスチックインクジェット印刷ヘッドを製造するための2工程射出成型プロセスを示す模式的な断面図である。
図4B図4Bは、内蔵されたヒートスプレッダを備える成型したプラスチックインクジェット印刷ヘッドを製造するための2工程射出成型プロセスを示す模式的な断面図である。
図5図5は、開示されたプラスチック成型物品を製造するプロセスの一実施形態のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図は、必ずしも縮尺通りではない。図で使用する同様の数字は、同様の要素を指す。しかし、所与の図面で、ある要素を指す数の使用は、同じ数が付けられた別の図面の要素を限定することを意図していないことが理解されるだろう。
【0011】
以下の記載では、その記載の一部を形成する一連の添付図面を参照し、いくつかの具体的な実施形態を示すことによって示される。他の実施形態が想定され、本発明の範囲から逸脱することなくなされ得ることを理解すべきである。したがって、以下の詳細な記載は、限定する意味であるととられるべきではない。
【0012】
特に指示のない限り、明細書および特許請求の範囲で用いられる特徴の大きさ、量および物理的特性をあらわすすべての数字は、すべての場合に「約」という用語によって修正されていることを理解すべきである。したがって、矛盾する内容が示されていない限り、上の記載および添付の特許請求の範囲に記載される数値パラメータは概算値であり、本明細書に開示する教示を利用する当業者によって得られると考えられる望ましい特性に基づいて変わることがある。終点による数値範囲の使用は、その範囲内にあるすべての数字を含み(例えば、1〜5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4および5を含み)、その範囲内にある任意の範囲を含む。
【0013】
プラスチックまたはポリマーの物体または部品が、製造する時に金属と置き換えて用いられる。プラスチック物体またはプラスチック部品は、さらに軽く、安価に製造することができ、金属部品よりもずっと簡単に、非常に複雑な形状に成型または切断することができる。しかし、金属とは非常に異なるプラスチックの特性の1つは、金属が非常に良好な熱伝導体であるという能力を有し、物体の暖かい領域から冷たい領域へと熱を迅速に伝えるということであり、一方、ほとんどのプラスチックは、非常に低い熱伝導係数を有し、熱移動(熱の拡散)がきわめて非効率である。成型技術、例えば、射出成型、キャスト成型、硬化成型およびレーザーアブレーションによって多くの形状を簡単に作成する能力に起因して、プラスチック部品を用いることから利点を得ることができる多くの産業的用途が存在する。これらのいくつかの用途は、部品の温度を下げるか、または部品全体の温度不均一性を減らすように、熱をもっと簡単に逃がすか、または部品全体に拡散することができるプラスチック部品から利点を受けるだろう。例えば、熱源の近傍でプラスチック部品を使用し得るか、または電池または熱感受性の他の自動車用要素のような部品から熱を拡散するか、または熱を逃がすことができる自動車産業での用途が存在する。さらに、大衆消費電子製品産業において、熱感受性要素からの熱の移動または拡散が有益であり得る用途が存在する。
【0014】
プラスチックの熱伝導性を高める1つの様式は、プラスチックに熱伝導性粒子を加えることであろう。プラスチック物体全体に熱を拡散する別の様式は、熱伝導性要素、例えば、伝導性の金属ロッドまたはバーまたは他の熱伝導性金属物体からプラスチック部品を成型することであろう。プラスチック物体の射出成型によって、非常に任意の形状の本体を有する物体を製造することができる。迅速な様式で熱を拡散し、熱均一性を達成することができるプラスチック物体を開発することが有用であろう。一実施形態では、プラスチックインクジェット印刷ヘッドは、熱を拡散するプラスチック物体が非常に有用である例として想定することができる。
【0015】
固体(または相変化)インクジェット印刷という用語は、固体(多くはワックス状)の形態で存在するインクを使用する、画像を作成するプロセスおよび/または画像を作成するデバイスの一種を指す。インクを貯蔵し、供給するデバイスと、放出型のインクを運搬する印刷ヘッドのインク保持部分との間で、固体インクを液体形態または液相に溶融することができる。放出型のインクを運搬する印刷ヘッドは、印刷ヘッドに存在するインクを、加熱した中間転写構造(例えば、中間転写ドラム)の上に溶融/液体の形態または相で分注してもよく、または画像受け入れ媒体(例えば、紙)の基材に直接分注してもよく、これらは、溶融インクを良好に受け入れるために、あらかじめ加熱されていてもよい。
【0016】
固体(または相変化)インクジェットプリンタは、インクをインクジェット印刷ヘッドの複雑な管に供給する前に、インクを貯蔵し、供給するデバイスの出口端で固体インクを溶融して液体にすることができる。次いで、圧電によって駆動する印刷ヘッドを用い(時に、「ジェットスタック」と呼ばれる)、加熱した/液体の形態または相のインクをノズルから吐出することができる。印刷ヘッドを使用し、加熱した/液体の形態または相でインクを、画像受け入れ媒体の基剤にさらに転写するために中間転写装置の加熱した表面に運ぶことができ、または基材に直接運ぶことができ、インクが冷却し、時に、基材に顕著に増加した印刷画像を形成することができる。
【0017】
成型した印刷ヘッドに関連し、インク吐出プロセスが印刷ヘッド全体で均一であるように、インクジェット印刷ヘッド内の大きな温度勾配を低減することが望ましいだろう。射出成型したプラスチック印刷ヘッドの場合、金属構造と比較してかなり費用が低減し、熱均一性(例えば、印刷ヘッドの面全体で1〜3℃より小さな変動)を達成することは、射出成型したプラスチックの熱伝導性が低いため、問題となり得る。内蔵されたヒートスプレッダは、改良された熱均一性およびインク吐出性能を与えることができる。
【0018】
本開示は、成型したプラスチック物体、例えば、内蔵されたヒートスプレッダまたはヒートパイプを備えるインクジェット印刷ヘッドを記載する。内蔵されたヒートスプレッダは、プラスチック物体の暖かい領域から冷たい領域へと熱を分配することができ、物体全体に熱を迅速に、均一に分布することができる。この内蔵されたヒートスプレッダを用いると、射出成型プロセスからの熱は、成型したプラスチック物体内の暖かい領域または感受性の電子要素の周囲の領域から迅速に取り去ることができ、この要素を保護し、位置から出て移動することを防ぐことができる。
【0019】
開示されるプラスチック物体は、内壁を有するプラスチック物体の中に少なくとも1つの蒸気チャンバを有する内蔵されたヒートスプレッダを備えている。ある実施形態では、蒸気チャンバの壁は、円形または卵形の断面を有する管であってもよい。他の実施形態では、蒸気チャンバの壁は、平らな管状の断面を有していてもよい。ウィッキング材料と作業液とを接触させるための表面を与える限り、蒸気チャンバは、連続し、閉じた任意の形状を有する壁を有していてもよい。蒸気チャンバは、蒸発部分および凝縮部分を有する。蒸発部分は、成型したプラスチック物体の暖かい部分と、冷却するように熱的に接触することができる。凝縮部分は、成型したプラスチック物体の冷たい部分と、冷却するように熱的に接触することができる。冷却しつつある成型したプラスチック物体の暖かい部分から、成型したプラスチック物体の冷たい部分へと熱が移動することによって、成型したプラスチック物体において、物体全体に熱が分布し、この剤量で熱勾配がなくなるか、または非常に低減する。ある実施形態では、蒸気チャンバは、成型したプラスチック物体の外側表面のようなヒートシンクと、または、成型したプラスチック物体の外側表面と熱的に接触する外部ヒートシンクと接触する凝縮部分を有していてもよい。
【0020】
蒸気チャンバは、ウィッキング材料を含み、その中で、蒸気チャンバの内壁の少なくとも一部と接触する。ウィッキング材料は、作業液との親和性を有する任意の多孔性材料であってもよい。ある実施形態では、ウィッキング材料は、開示されている蒸気チャンバの内壁に沈殿させることができるか、またはプラスチック材料および処理と適合する他の同様/類似のプロセスによって沈殿させることができる表面積が大きな親水性材料、例えば、小さなメッシュ径の混合粉末であってもよい。他の実施形態では、ウィッキング材料は、開示されている作業液を吸収することができる凝集したミクロファイバーであってもよい。さらに他の実施形態では、ウィッキング材料は、作業液の蒸気が通過することができる複数の分離したチャネルを支える列を含んでいてもよい。ウィッキング材料は、作業液の蒸気と相互作用することができ、作業液に熱を移動するか、または作業液から熱を移動するのに役立ち得る任意の熱散逸性デバイスであってもよい。ある実施形態では、ヒートスプレッダ(例えば、Celsia Technologies、マイアミ、FLからNANOSPREADERの商標名で入手可能なもの)の一部またはすべてが、内蔵されたヒートスプレッダまたはヒートパイプシステムとして有用であろう。
【0021】
ある実施形態では、ウィッキング材料は、多孔性ポリマーフォームであってもよい。多孔性フォームは、十分なウィッキング作用を与え、ヒートパイプの熱力学的な蒸発サイクルを可能にし、所定の冷たい(凝集)部分および所定の暖かい(蒸発)部分が存在する様式で凝縮を完結することができる。多孔性ポリマーフォームが利用される場合、多孔性ポリマーフォームは、成型したプラスチック物体の成型プロセスで簡単に内蔵することができる。多孔性ポリマーフォームも、成型したプラスチック物体の開口部に射出成型される場合、型の任意の挿入物(例えば、抵抗発熱ワイヤまたは電線)が、成型したプラスチック物体の本体の成型の時に所定の位置に固定される必要がある場合がある。さらに、多孔性ポリマーフォームのウィッキング材料と、成型したプラスチック本体の本体に使用されるプラスチック材料との間に付着し、一体化させることもできる。
【0022】
図1は、開示する内蔵されたヒートスプレッダを備える成型したプラスチックジェットスタック(インクジェット印刷ヘッド)の断面図である。インクジェット印刷ヘッド100は、ランナー120から溶融ポリマーを射出し、インクジェット印刷ヘッド100の本体を作成することができる射出成型ゲート110を備える。インクジェット印刷ヘッド100は、空洞135を有し、感受性電子部品、または冷却し、均一な温度を必要とする他の部品を含んでいてもよい。インクジェット印刷ヘッド100のための型は、型の挿入物として、感受性加熱部125、蒸気チャンバ140およびジェットスタックプレート150を備える。この挿入物は、例えば、磁石または熱によって安定な接着剤を用い、所定の位置に保持されていてもよい。蒸気チャンバ140に接続する充填ポート130を第2の射出成型工程で使用し、多孔性ポリマーウィッキング材料を蒸気チャンバ140に注入する。蒸発部分は、抵抗発熱部125に近接する蒸気チャンバ140の部分を備える。凝縮部分は、抵抗発熱部125から離れており、射出成型したインクジェット印刷ヘッド100の縁または外側表面に近接した蒸気チャンバ140の部分を備える。
【0023】
図2は、本明細書に開示する実施形態の一例の蒸気チャンバヒートスプレッダの基本的な構成を示す断面図である。ヒートスプレッダ200は、蒸気チャンバ225の内側に作業液を含む。蒸気チャンバ225は、両端またはすべての側で密封されている。蒸気チャンバ225の内壁の少なくとも一部が、ウィッキング材料230を含む。蒸気チャンバは、熱源220と接触している。熱源220は、冷却しつつある射出成型したプラスチックの内部にある抵抗加熱部または加熱ゾーンであってもよい。熱源220は、蒸気チャンバ225の作業液に熱エネルギー270を与える。これにより、作業液が蒸気になり、点線の矢印によって示されるように、熱が熱源220から蒸気260または暖かい流体として移動する。加熱した蒸気260は、(蒸発領域の)熱源220から、射出成型したプラスチック部品の縁にあってもよい冷たい領域(凝縮領域)240へと移動する。したがって、蒸気チャンバ225内の熱力学的蒸発/凝縮サイクルは、暖かい領域から冷たい領域へと熱を分配する。
【0024】
作業液は、蒸気チャンバ内で相変化し得る任意の液体であってもよく、それによって、成型したプラスチック物体の暖かい領域から冷たい領域へと熱を移動することができる。典型的には、作業液は、目的の操作温度で相変化を受けることができ、この温度は、約−20℃〜約120℃であってもよい。ある実施形態では、有用な範囲は、約30℃〜約110℃であってもよい。有用な液体としては、限定されないが、操作範囲に沸点を有するアルコールおよび他の有機材料が挙げられる。有用な作業液としては、ペンタン、アセトン、メタノール、エタノール、ヘプタンおよびトルエンを挙げることができる。ある実施形態では、水は、100℃付近で液体から蒸気へと転移するため、作業液であってもよい。例えば、銅または他の金属から作られる熱伝導性効率が高い熱伝導性粒子を入れることによって、作業液の熱性能を高めることも可能である。ある実施形態では、熱伝導性粒子は、ナノ粒子であってもよく、いわゆる「ナノ流体」を生成することができる。
【0025】
別の態様では、溶融ポリマーを型に注入することを含む、成型したプラスチック物体を製造する方法が開示される。型は、内壁を有する少なくとも1つの蒸気チャンバと、蒸気チャンバの内壁の少なくとも一部と接触するウィッキング材料とを含む。開示される方法は、さらに、溶融ポリマーを冷却し、これを固化し、次いで、固化したポリマーを型から取り出すことを含む。作業液を蒸気チャンバに入れる。作業液は、プラスチック物体の暖かい領域から冷たい領域へと熱を分配するような構成である。ある実施形態では、成型したプラスチック物体を射出成型するために使用される型は、ウィッキング材料のための空洞を含んでいてもよい。
【0026】
共成型技術、例えば、PARTICLE−FOAM COMPOSITE INJECTION MOUDING(PCIM)、Augburg GmbH、Lossburg、Germanyを用いた射出工程を用い、成型したプラスチック物体を製造することができる。PCIMは、フォーム状態で成型した部品がポリマー成分と永久的に結合する射出工程プロセスである。ある実施形態では、成型したプラスチック物体を図3に示すように製造することができる。マスター型の空洞330を使用し、その中に多孔性粒子を含む蒸気チャンバを作成する。比較的処理温度が低いポリマー粒子(例えば、膨張性ポリエチレン、膨張性ポリプロピレン、膨張性ポリウレタン、または膨張性ポリスチレン)を、ポート335によってマスター型の空洞330に注入し、マスター型の空洞330の内側に多孔性フォームを作成する。同時に、インクジェット印刷ヘッド300の本体を形成する別のポリマーを型に注入し、印刷ヘッドの主要な本体を作成する。このポリマーを、ランナー320から射出成型ゲート310によって注入する。インクジェット印刷ヘッドの本体のためのポリマーは、多孔性フォームを構成する粒子よりも融点が高いポリマーから作られる。インクジェット印刷ヘッドの本体に適切なポリマーとしては、限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエーテルケトン、ポリスルホンのようなポリマー、および任意の簡単に射出成型され、インクジェットプリンタの操作温度で熱的に安定なプラスチックポリマーまたはコポリマーが挙げられる。ある実施形態では、ポリマーは、プラスチックの熱伝導性を高めるために熱伝導性フィラーを含んでいてもよい。熱伝導性フィラーは、金属粒子、例えば、銅、アルミニウム、または熱伝導性が高い他の金属およびアロイを含んでいてもよい。さらに、グラフェンおよびその誘導体およびカーボンナノチューブが、熱伝導性フィラーとして有用であろう。内蔵されたヒートスプレッダおよび熱伝導性を有するプラスチックの組み合わせによって、さらに、開示される印刷ヘッドの温度均一性を高めることができる。
【0027】
開示されている方法の他の実施形態では、開示される方法の一実施形態にしたがって2工程プロセスを行うことができる。図4Aおよび図4Bは、内蔵されたヒートスプレッダを備える成型したプラスチックインクジェット印刷ヘッドを製造するための2工程射出成型プロセスを示す断面図である。図4Aに示される第1の処理工程では、加圧状態で、内蔵されたヒートスプレッダの要素を挿入するための空間を保持するために、型に挿入されたダミー挿入物420を備えるゲート410を介してポリマーを射出成型することによって、インクジェット印刷ヘッド本体400が作られる。溶融ポリマーが冷却した後、ダミー挿入物420を取り出し、蒸気チャンバ挿入物422を、ダミー挿入物420を取り出した後に残った空間に挿入する。図4Bに示される第2の工程において、最終的な内蔵されたヒートスプレッダの蒸気チャンバ挿入物422と内壁425の間の空間430に多孔性フォームを射出成型する。多孔性フォームは、蒸気チャンバの内壁425の少なくとも一部と接触するウィッキング材料を形成する。この2段階プロセスを用い、高温ポリマー、例えば、ポリスルホンを用い、インクジェット印刷ヘッドを作成することができる。一実施形態では、特にポリマーフォームである場合、反応性射出成型を使用し、ウィッキング材料を作成することができる。
【0028】
上に示し、図3に示すワンショットプロセスまたは上に示し、図4Aおよび図4Bに示すツーショットプロセスの後、蒸気チャンバおよび作業液を減圧状態にし、目的の操作温度範囲で相変化を行い、蒸気チャンバに注入することができる。ある実施形態では、作業液は、飽和蒸気であってもよい。蒸気チャンバは、迅速な密封を必要とし、密封は、圧縮状態で、作業液が注入されるポートを充填するように広がることができるゴムまたはエラストマープラグを用いて行うことができる。次いで、プラグを所定位置に接着することによって密封することができる。
【0029】
図5は、開示されるプラスチック成型物品を製造するプロセスの一実施形態のフロー図である。開示されるプロセスは、蒸気チャンバおよびウィッキング材料を含む型に溶融ポリマーを注入することを含む(501)。次いで、溶融ポリマーを冷却して固化させる(502)。固化したポリマーを型から取り出す(503)。次いで、蒸気チャンバを減圧状態にする(504)。作業液を蒸気チャンバに入れ(505)、次いで、圧縮状態で蒸気チャンバを密封する(506)。
【0030】
プラスチック物体の暖かい領域から冷たい領域へと熱を分配するような構成のプラスチック物体を成型することを含む、熱を逃がす方法も開示される。プラスチック物体は、内壁を有するプラスチック物体の中に少なくとも1つの蒸気チャンバと、蒸気チャンバの内壁の少なくとも一部と接触するウィッキング材料と、蒸気チャンバまたはウィッキング材料、または両者の中の作業液とを含む。作業液は、迅速な様式で、プラスチック物体の暖かい領域から冷たい領域へと熱を分配するような構成である。この方法は、さらに、熱源(例えば、自動車エンジンブロック、電子機器の電子熱源、例えば、インクジェット印刷ヘッドの電子熱源)に近接してプラスチック物体を配置することを含む。この方法は、さらに、熱源からプラスチック物体へと熱を逃がすことを含む。次いで、この熱をプラスチック物体全体に均一に分布させることができ、または、プラスチック物体の別の部分にも近接するヒートシンクに移すことができる。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5