(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
水素ガス及び酸素ガスへの水の電気分解は、一般に、典型的には白金製の2つの近接した電極に電流を供給することにより達成される。各電極は、中間水溶液に接触している。一方の電極(アノード)では、水は、式(1)で与えられる半反応に従って典型的に酸化される。他方の電極(カソード)では、陽子(H
+)は、式(2)に示す半反応に従って典型的に還元される。2つの電極における反応全体は式(3)で与えられる。
【0003】
2H
2O→O
2+4H
++4e
- (アノード) (1)
4e
-+4H
+→2H
2 (カソード) (2)
2H
2O→O
2+2H
2 (反応全体) (3)
水を電気分解により分解する数多くのデバイスが水電気分解装置として公知であり、市販されている。市販の水電気分解装置における共通の課題は、電気エネルギーを生成すべき水素のエネルギーに変換する能力が一般に効率が悪いことである。すなわち、それらは、水から水素への転移において低いエネルギー効率を示す。当然のように、水素は、将来的に、ガソリン及び軽油のような化石燃料に取って代わり得る燃料である。さらに、水素は、燃焼させた場合の生成物が水のみであるので、潜在的に無公害の燃料である。
【0004】
1キログラムの水素は、39kWh相当の電気エネルギーを内包する(高位発熱量又はHHV計測による)。しかしながら、市販の電気分解装置は、典型的に、1kgの水素を生成するために、実質的に39kWhを超える電気エネルギーを必要する。例えば、Stuart IMET 1000電気分解装置は、1kgの水素を生成するために平均で53.4kWhの電気エネルギーを必要とし、水の水素への転移のための総エネルギー効率(HHV)の73%となる。すなわち、電気分解装置に供給される電気エネルギーのおよそ四分の一が(主に熱として)浪費され、水素の生成に利用されていない。
【0005】
同様に、Teledyne EC-750電気分解装置は、1kgの水素を得るために62.3kWhの電気エネルギーを必要とする(63%のエネルギー効率、HHV)。Proton Hogen 380電気分解装置は、水素1kg当たり70.1kWhを必要とし(56%のエネルギー効率、HHV)、Norsk Hydro Atmospheric type No. 5040(5150AmpDC)は、生成される水素1kg当たり53.5kWhを必要とする(73%のエネルギー効率、HHV)。Avalence Hydrofiller 175は、1kgの水素を生成するために60.5kWhの電気エネルギーを必要とする(64%のエネルギー効率、HHV)。
【0006】
したがって、総括すると、現在市販されている水電気分解装置は、水素の生成に際して電気エネルギーを比較的無駄にしてしまうものである。この非効率性のために、例えば、先物市場のための潜在的な輸送燃料として水素はかなり不利となっている。
【0007】
例えば、George W. Bushが大統領在任中には、米国では、水素は代替的な輸送燃料として戦略的に重要であると考えられていた。しかしながら、それ以来、Obamaの大統領在任時には、電気バッテリでは、高効率燃料電池(水素により駆動される)が併用される現在市販の水電気分解装置によって達成されるものよりも総合的に良好な効率でグリッド電気エネルギーを自動車用電力に転換することが可能であると認識されている。結果的に、米国では、2009年〜2012年の期間において、戦略上の焦点が水素駆動自動車から電気駆動自動車に修正されている。それにもかかわらず、米国エネルギー省では、重要な目標の1つとして、90%総エネルギー効率(HHV)が達成される水電気分解装置の開発が掲げられている。
【0008】
現在市販されている水電気分解装置に関わる重要な課題は、極めて高い電流密度(典型的には、1000〜8000mA/cm
2)で運用されることにより、電気損失が生じてしまうことである。電気分解装置において必要とされる生成される水素1キログラム当たりの材料の量を可能な限り少なくすることが、水素の製造コストを抑える唯一の方法であるために、この課題は商業的に回避不可能である。例えば、気体の分離に用いられるアノード/カソード及びプロトン交換膜において用いられる貴金属触媒など、市販の電気分解装置において用いられる材料の多くは非常に高価である。したがって、生成される水素に対する総コストの低下を達成する唯一の方法は、電気分解装置の製造コストに対して、単位面積当たりで最大の合理的な量で水素を生成することである。換言すると、生成される水素1キログラム当たりの電気分解装置の資本コストを低減するために、電流密度を高める必要がある。米国エネルギー省では、他の重要な目標として、貴金属触媒の量及び必要とされる他の高価な構成部品を最小化し、これにより、資本コストを低減した水電気分解装置の開発が掲げられている。
【0009】
このような高電流密度では、水分解プロセスにおいて生じるエネルギー損失は大きくなってしまう。これらのエネルギー損失は、いわゆる過電圧損失と同様に、電極及び電解質における抵抗損を含む。過電圧損失は、水分解プロセスを進行させるために理論的に必要な電圧よりも大きな電圧を印加しなければならない場合に生じる。これらの損失が組み合わさり、市販されている水電気分解装置によって示されるエネルギー非効率性を引き起こしてしまう。
【0010】
本出願人によって出願された国際特許出願第PCT/AU2011/001603号パンフレットでは、本出願人は、安価で薄い材料からセルを製造可能とするスペーサが採用された水分解セルを記載した。水分解セルの製造において安価な製造技術を採用する重要な利点は、大面積のセルの製造が商業的に実現可能となり、セルを小電流密度で運用することが可能となることである。このように、現在の市販の水電気分解装置において実現可能であるものよりもかなり高い総エネルギー効率を実現することが可能である。水電気分解装置の製造における従来のアプローチは、高資本支出を伴い、これは、小電流密度で要求される大きな電極面積の製造に伴う追加の資本コストの障害となっている。
【0011】
小電流密度で運用することで、非常に高効率で水素を生成する能力が生かされる。このようなデバイスでは、運用効率と製造コストの削減が電極面積の増大を補償するように、エネルギー損失を最低限に抑えることが重要である。
【0012】
重要なエネルギー損失は、いわゆる「気泡過電圧」であり、これは、水素(カソード)及び酸素(アノード)の気泡の形成中に両電極で生じる。例えば、必要とされるO
2気泡の濃度は、アノードで過電圧を生じさせるだけではなく、多くの触媒の長期安定性に挑戦する非常に反応的な環境を示す。
【0013】
小電流密度は、水分解反応中に生じる抵抗損等を含む損失が最低限となるので、一般に、高エネルギー効率と対応している。しかしながら、このようなデバイスにおいて用いられる材料が高価であるので、現在市販されている水電気分解装置において小電流密度を用いることは、現在においては商業的に実施可能ではない。
【0014】
要約すると、現在においては、高いエネルギー効率HHVを達成し、水の電気分解によって製造される水素の総コストが削減されるように水電気分解装置技術を向上するために、切迫した必要性が存在する。1つの例示的な課題では、重要なエネルギー損失(気泡過電圧)を低減又は排除することで、エネルギー損失を低減させ、水分解の総エネルギー効率を改善することが可能である。
【0015】
液体から気体への他の多くの電気化学転移は、水電気分解について上述したものと同様の課題を有する。すなわち、材料が高価であり、これにより、デバイス又はセルにおいて高電流密度を用いる必要性が生じ、これに伴って総エネルギー効率が低くなってしまう。例えば、塩水(塩化ナトリウム水溶液)からの塩素の電気化学的生成は、エネルギーをかなり無駄にしている。これは、気体から液体への電気化学転移の多くについても同じである。例えば、水素−酸素燃料電池は、上記と同様の理由により、一般に、わずかに40〜70%のエネルギー効率である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
例えば、より高いエネルギー効率の達成を可能にするなどの、先行技術において固有の1つ以上の課題を解決するか少なくとも改善する、電気化学デバイスもしくはセル、電極、その製造方法、あるいは、電気化学反応もしくは電解反応又はプロセスに係る方法が求められている。
【0017】
本明細書におけるいずれかの先行文献(又は、これに由来する情報)又は公知であるいずれかの事項に対する参照は、先行文献(又は、これに由来する情報)又は公知の事項が、本明細書が関連する技術分野における共通一般知識の一部を形成することの承認、許可、又は、なんらかの形式による示唆ではなく、また、承認、許可、又は、なんらかの形式による示唆と解釈されるべきでもない。
【課題を解決するための手段】
【0018】
発明の概要は、一連のコンセプトを簡潔に導入するために提供され、これらは以下の実施例においてさらに記載される。この発明の概要は、クレームされた主題の重要な特徴又は必須の特徴を特定することを意図しておらず、クレームされた主題の範囲の限定するために用いられることも意図されていない。
【0019】
電気化学デバイスもしくはセル、電極又は水分解方法に関連して本発明の実施形態を説明することが簡便であろう。しかしながら、本発明は、他のタイプの液体から気体への電気化学反応又は気体から液体への電気化学反応に適用可能であることを認識すべきである。
【0020】
一形態では、ガス透過性材料を備える水分解装置用の電極を提供する。また、電極中に、又は、関連する電極もしくはアノード/カソードの一部として、例えば電極に隣接して位置して、第2の材料が用いられている。スペーサ層は、ガス透過性材料と第2の材料との間に位置しており、このスペーサ層は、例えば、電極中、アノード−カソード対間、アノード−アノード対間又はカソード−カソード対間にガス捕集層を提供する。また、導電層は、電極の一部として設けられる。第2の材料は、電極、又は、関連もしくは隣接する電極、カソードもしくはアノードの一部であればよく、一形態では、ガス透過性材料であってもよい。
【0021】
ガス透過性材料への参照は、任意の形態又はタイプのガス透過性媒体、物品、層、膜、バリア、マトリックス、エレメントもしくは構造、又は、これらの組み合わせも含む一般的な参照として読むべきである。
【0022】
ガス透過性材料への参照は、この材料の少なくとも一部が十分に多孔性又は浸透性であって、ガス透過性材料の少なくとも一部を介した1種以上のガスの移動、移送、浸透又は運搬が許容されるという意味を含むものとして読むべきである。また、ガス透過性材料は、「通気性」材料とも称することができる。
【0023】
種々の例において、導電層は、ガス透過性材料に隣接して、又は、少なくとも部分的にその内部に設けられ、導電層は、ガス透過性材料と関連付けられており、導電層は、ガス透過性材料上に配置され、ガス透過性材料は、導電層上に配置され、あるいは、ガス捕集層は、電極の内部でガスを運搬可能である。他の例において、ガス透過性材料はガス透過膜である。他の例では、第2の材料は、更なるガス透過膜又は追加のガス透過膜である。
【0024】
好ましくは、ガス捕集層は、電極の縁部もしくはその近傍又は電極の端部に位置した少なくとも1つのガス出口領域に向けて、電極の内部でガスを運搬可能である。
【0025】
種々の他の例示的態様において、ガス透過性材料及び第2の材料は、電極の個別の層であり、第2の材料は隣接するアノード又はカソードの一部であり、第2の材料はガス透過性材料であり、あるいは、第2の材料はガス透過性材料であり、また、第2の導電層は、第2の材料に隣接して、又は、少なくとも部分的にその内部に設けられる。このように、一例では、ガス捕集層を提供するスペーサ層は、ガス透過性層と、電極の更なるガス透過性層である第2の層との間に設けられる。他の例では、第2の材料はガス透過性材料であり、また、第2の導電層は、第2の材料と関連付けられ、隣接して位置し、又は、その上に配置(蒸着)される。
【0026】
さらに他の例示的態様では、電極は可撓層から形成され、電極は少なくとも部分的にらせん状に巻いており、あるいは、導電層は1種以上の触媒を含む。
【0027】
例示的態様では、スペーサ層は、ガス透過性材料の内方側に隣接して位置し、導電層は、ガス透過性材料の外側に隣接して、その上に、又は、部分的にその内部に位置する。
【0028】
任意に、ガス透過性材料は、少なくとも部分的に、又は、全体が、例えばPTFE、ポリエチレン又はポリプロピレンといったポリマー材料から造られる。
【0029】
他の例示的態様では、導電層の少なくとも一部分は、1種以上の触媒とガス透過性材料との間にあり、スペーサ層はガス流路スペーサの形態であり、あるいは、スペーサ層は、ガス透過性材料あるいは第2の材料の内表面におけるエンボス構造を含む。
【0030】
他の形態では、第1のガス透過性材料と、第2のガス透過性材料と、第1のガス透過性材料と第2のガス透過性材料との間に位置し、ガス捕集層を提供するスペーサ層と、第1のガス透過性材料と関連付けられた第1の導電層と、第2のガス透過性材料と関連付けられた第2の導電層とを備える水分解装置用の電極が提供されている。
【0031】
種々の例では、第1の導電層は、第1のガス透過性材料に隣接して、又は、少なくとも部分的にその内部に設けられ、第2の導電層は、第2のガス透過性材料に隣接して、又は、少なくとも部分的にその内部に設けられ、電極は、らせん状に巻かれた可撓層から形成され、電極は平坦な層から形成され、第1の導電層は触媒を含み、あるいは、第2の導電層は他の触媒を含む。
【0032】
他の形態では、電解質、並びに、ガス透過性材料と、第2の材料と、ガス透過性材料と第2の材料との間に位置し、ガス捕集層を提供するスペーサ層と、導電層とを含む少なくとも1つの電極を備える水分解装置が提供されている。
【0033】
他の形態では、第1のガス透過性材料及び第1のガス透過性材料と関連付けられた第1の導電層、第2のガス透過性材料及び第2のガス透過性材料と関連付けられた第2の導電層、並びに、第1のガス透過性材料と第2のガス透過性材料との間に位置し、ガス捕集層を提供するスペーサ層とを備える少なくとも1つのカソードと、第3のガス透過性材料及び第3のガス透過性材料と関連付けられた第3の導電層、第4のガス透過性材料及び第4のガス透過性材料と関連付けられた第4の導電層、並びに、第3のガス透過性材料と第4のガス透過性材料との間に位置し、ガス捕集層を提供する更なるスペーサ層を備える少なくとも1つのアノードとを備え、少なくとも1つのカソード及び少なくとも1つのアノードは、運転中において電解質の内部に少なくとも部分的にある水分解装置が提供される。
【0034】
一例では、少なくとも1つの電極は、2つのガス透過性材料であって、材料の間において各材料の内側に対して位置するスペーサ層を有するガス透過性材料を含むガス透過性電極であり、ここで、各材料は各材料の外側に導電層を備える。他の例では、電解質層を画定する水透過性スペーサが介挿された複数のカソード及びアノードが提供されている。例示的態様において、電解質は液体が流通可能に連通状態にあって電解質入口及び電解質出口に接続されており、また、ガス捕集層はガス出口と気体が流通可能に連通している。
【0035】
種々の他の例では、水素ガスを生成させ、水素ガスをガス捕集層を介して収集するステップ、あるいは、電解質を加圧するステップを含む、水分解装置に低電流密度を適用するステップを含む水の処理方法が提供されている。他の例では、低電流密度は1000mA/cm
2未満であり、低電流密度は100mA/cm
2未満であり、低電流密度は20mA/cm
2未満であり、水素ガスを生成するステップは75%のエネルギー効率HHV以上であり、あるいは、水素ガスを生成するステップは85%のエネルギー効率HHV以上である。
【0036】
一形態では、少なくとも1つのガス透過性材料と、この材料の内方側に対向して、これに隣接して、又は、その一部を形成するよう、この材料と他の層との間に位置されたスペーサ層とを備える水分解装置用ガス透過性電極が提供されており、スペーサ層はガス捕集層を画定するものであり、また、ここで、材料は導電層を含む。任意に、導電層は、1種以上の触媒を含むか、又は、1種以上の触媒と関連付けられており、また、ここで、導電層は材料の外側にある。
【0037】
他の形態では、材料の間において、各材料の内方側に対向して、これに隣接して、又は、その一部を形成するよう位置されたスペーサ層を有する2つのガス透過性材料を備え、スペーサ層は、ガス捕集層を画定するものであり、各材料は導電層を含む、水分解装置用ガス透過性電極アセンブリが提供される。任意に、導電層の一方又は両方が1種以上の触媒を含み、また、導電層は各材料の外側にある。
【0038】
一例示的実施形態では、ガス透過性材料としては、PTFE、ポリエチレンもしくはポリプロピレン、又は、これらの組み合わせが挙げられる。他の例示的実施形態では、導電層の少なくとも一部分が触媒と材料との間に配置されている。好ましくは、ガス透過性材料は、ガス透過性及び電解質不透過性である。他の例示的実施形態では、スペーサ層が、少なくとも1つのガス透過性材料の内方側に、その近傍に又は少なくとも部分的にその内部に位置され、取り付けられ、組み込まれ、又は、設置されるガス流路スペーサ又はエンボス構造の形態であるガス透過性電極が提供されている。
【0039】
他の例示的形態では、ガス透過性電極には、水透過性スペーサを介挿することができ、多層水分解セルが形成される。これらの電極の利点は、2つのガス透過性電極の間にガス捕集層が挟持され、また、多層水分解セルを安価に製造する方法が提供され得ることである。
【0040】
他の例示的実施形態では、少なくとも1つのカソード及び少なくとも1つのアノードを備え、少なくとも1つのカソード及び少なくとも1つのアノードの少なくとも一方は、材料の間又は中間において、各材料の内方側に対向し、隣接し、又は、少なくとも部分的にその内部に位置されるスペーサ層を有する2つのガス透過性材料を備えるガス透過性電極アセンブリであり、スペーサ層はガス捕集層を画定し、また、各材料は導電層を含んでいるか、又は、導電層と関連付けられている水分解装置が提供される。任意に、導電層は1種以上の触媒を含み、また、導電層は各材料の外側にある。
【0041】
他の例示的実施形態では、電解質層を画定する水透過性スペーサが介挿された複数のカソード及びアノードを備え、カソード及びアノードは、材料の間又は中間において、各材料の内方側に対向し、又は、少なくとも部分的にその内部に位置されるスペーサ層を有する2つのガス透過性材料を備えるガス透過性電極アセンブリの形態であり、スペーサ層はガス捕集層を画定し、また、各材料は導電層を含む、水分解装置が提供される。任意に、導電層は1種以上の触媒を含み、また、導電層は各材料の外側にある。
【0042】
更なる例示的形態では、水分解装置は、設置面積及びガスを取り扱う基礎構造が低減され得るモジュールデバイスに構成されればよい。一例示的実施形態では、らせん状多層水分解セルを備える水分解装置が提供されている。更なる例において、水分解セルは、電解質層を画定する水透過性スペーサが介挿された複数のカソード及びアノードを備え、カソード及びアノードは、ガス透過性材料の間又は中間において、各材料の内方側に対向し、又は、少なくとも部分的にその内部に位置されるスペーサ層を有する2つのガス透過性材料を備えるガス透過性電極アセンブリの形態であり、スペーサ層はガス捕集層を画定し、また、各材料は少なくとも1つの触媒を含む導電層を含み、導電層は各材料の外側にあり、電解質は液体が流通可能に連通状態にあって電解質入口及び電解質出口に接続されており、アノード間のガス捕集層は酸素出口に液体が流通可能に連通しており、カソード間のガス捕集層は、水素出口に液体が流通可能に連通している。らせん状水分解装置は、設置面積及びガスを取り扱う基礎構造を低減する実際的な例示的方法である。らせん状デバイスにより、水分解装置に沿った電解質層を通る電解質の浸透が許容される。ガスは側方で抽出可能である(例えば収集チャネルの一方向において酸素、及び、他の収集チャネルの他の方向において水素)。
【0043】
例示的ならせん状水分解装置により、安価で薄い材料からのセルの製造が可能となる。水分解セルの製造において安価な製造技術を採用する重要な利点は、大面積のセルの製造が商業的に実現可能となり、セルを小電流密度で運用することが可能となることである。これらの例示的な水分解セルは可撓性であり、らせん状水分解装置に構成可能である。
【0044】
更なる例示的形態によれば、らせん状水分解装置を形成するために、多層構成の平坦シート材料をらせん配列に巻いてもよい。そして、らせん配列は、モジュールを通る水の移動を許容しつつ、らせん状構成要素をモジュール中の一定箇所に保持するケースの中に格納されればよい。収集チューブは、水素及び酸素のそれぞれのガスが水分解装置から接続されるように位置すればよい。簡単に、収集チューブは、それぞれのガスのための収集チューブに開口する所望される収集チャネルで水分解装置に取り付けられればよい。例えば、水素ガス流路のすべてが結合箇所に開口して水素ガスのための収集チューブと連通していればよい。この箇所では、酸素ガス流路は閉じているかシールされていることが可能である。水分解セルにおける他の箇所で、酸素ガス流路が開口して酸素ガスのための収集チューブと連通していればよい。この箇所において、水素ガス流路を閉じたり、シールしたりすることができる。
【0045】
他の例示的実施形態では、複数の中空繊維カソード及び複数の中空繊維アノードを備え、複数の中空繊維カソードは、触媒を含んでいてもよい導電層を有する中空繊維状ガス透過性材料を備えており、また、複数の中空繊維アノードは、触媒を含んでいてもよい導電層を有する中空繊維状ガス透過性材料を備える、水分解装置が提供される。
【0046】
例示的実施形態によって解決される利点の1つは、公知の水分解セルにおいて用いられる電極間のプロトン交換膜の必要性が排除されることである。ガス透過性又は通気性(好ましくは「無気泡」又は「実質的に無気泡」である)電極が採用される場合には、プロトン交換膜は、一般的に必要とされない。さらに、プロトン交換膜は、水性媒体中で膨潤してしまうものであり、その結果、資本支出要求及び運転コストが低い水分解セルを製造するために望ましい充填効率及びモジュール設計を達成することが困難である。
【0047】
本発明者らは、水分解セルによりアノードとカソードとの間の空間を効率的に利用することが可能であることを見いだした。一例において、水分解セルでは、アノード及びカソードの離間関係を維持しながらも、アノードとカソードとの間の体積の少なくとも70%を電解質で埋めることが可能である。それに加えて、水分解セルでは、電解質チャンバ中の非電解質コンポーネント(例えば、スペーサ層)を電解質チャンバの全抵抗の20%未満とすることが可能であればよい。また、水分解セルでは、プロトン交換膜が用いられる場合には生じてしまうこととなるインピーダンスを伴うことなく、電解質チャンバ全体にカチオン及びアニオンの両方を拡散させることが可能であればよい。
【0048】
一例示的実施形態では、電解質チャンバ中のスペーサ層又はコンポーネントは、ガス透過性であればよい。水分解セル中で使用するのに加え、種々の例示的実施形態は、燃料電池又は水処理デバイスなどの気体から液体もしくは液体から気体への他の転移の実施においても有用であればよい。種々の例示的形態は、気体から液体もしくは液体から気体への転移を高いエネルギー効率で実施することが可能である電気化学セルに対する差し迫った必要性に取り組むものである。具体的には、種々の例示的形態は、高いエネルギー効率及び低コストで水から水素を製造することができる電気分解装置に対する要求に取り組むものである。
【0049】
本発明者らは、以下の例示的態様、特徴又は利点の1つ以上を実現又は実施しており、したがって、種々の例示的実施形態を提供する。
(1)最適に構成及び実施する場合、ガス透過性又は通気性電極構造により、水電気分解装置における気泡過電圧に起因する全体的なエネルギー損失が低減される。気泡過電圧を低減又は排除する効果は、水電気分解プロセスの総エネルギー効率を高めることである。ガス透過性又は通気性電極構造は多様なガス透過性材料から形成されればよい。一形態では、ガス透過性材料は多孔性であればよく、これにより、その多孔性構造を通る材料中のガスの移動が許容される。他の形態では、ガス透過性材料は、非多孔性構造を介したガスの拡散を許容するものであってもよい。
(2)地球上に豊富に存在する元素を含有する低価格触媒は、ガス透過性又は通気性電極構造中のアノード及びカソードにおける水分解反応を触媒するために用いることができる。このような触媒は、高電流密度でのエネルギー効率の高い運転には適用可能ではない場合が多いが、これらは、市販されている水電気分解装置において現在用いられるものよりも小電流密度では非常に高いエネルギー効率を達成することが可能である。いくつかの触媒は導電性であって、いくつかの実施形態では、触媒は導電層の形成するために用いてもよい。触媒としての使用に好適である導電性材料の一例はニッケルである。
(3)市販されている低価格の材料及び材料構造は、高いエネルギー効率で水を分離するガス透過性又は通気性電極構造の構成に経済的に適用可能である。
(4)反応器構造は、非常に大きい内表面積を有するが、外部設置面積が比較的小さく、総コストが低いモジュール式の多層水電気分解セルの構成に用いられることが可能である。これを実現することにより効果は、大きい内表面積と小さい外部設置面積とを有する安価でモジュール式の水電気分解セルを造り上げることが可能であることである。
(5)低価格触媒及び材料、並びに、内表面積が大きい低価格反応器構成が利用可能であることにより、これまで商業的に現実的であるものよりも小電流密度で運転することにより、低価格及び高いエネルギー効率で水素を発生させる完全に新しいタイプの電気分解装置を構成することが可能となる。
【0050】
種々の例示的形態では、高いエネルギー効率は以下の1つ以上によって達成される:(a)電気損失を最低限とする低電流密度、
(b)小電流密度で高い効率を伴って作用する、例えば地球上に豊富に存在する元素などの低価格触媒、及び、
(c)各電極における気泡過電圧を低減又は排除するガス透過性又は通気性電極又は材料構造の使用。
【0051】
種々の例示的形態では、低価格は、電気分解装置における以下の特徴の1つ以上によって達成される:
(i)ガス透過性又は通気性アノードあるいはカソードの基材としての低価格材料、
(ii)アノード及びカソードにおける触媒としての例えば地球上に豊富に存在する元素などの低価格触媒(高価格の貴金属の代替)、並びに、
(iii)比較的大きい内表面積と比較的小さい外部設置面積とを有する低価格の反応器構造。
好ましくは、これらの要因を組み合わせることで、単位表面積当たりの電流密度が比較的小さい場合においても、比較的高い総合的なガスの生成量が可能となる。
【0052】
更なる例示的形態では、アノード及びカソードは、外表面が多孔性であるとともに、疎水性(用いられる液体が親水性−例えば水である場合)又は親水性(用いられる液体が疎水性−例えば石油エーテルである場合)である中空平坦シートもしくはチューブを備えていればよく、これにより、液体ではなくガス、又は、他の電解質流体を関連するガス流路に通過させることが可能となる。
【0053】
非限定的な例として、添付図面を参照して、例示的な実施形態を説明する。種々の例示的実施形態は、添付図面と関連して記載する少なくとも一つの好ましいが非限定的な実施形態の例としてのみ与えられる、以下の記述から明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0055】
(実施例1)
単なる一例として与えられる以下のモード、特徴又は態様は、好適実施形態の主題のより正確な理解を提供するために記載されている。例示的実施形態の特徴を示すために組み込まれる図面では、図面全体を通して同様の部品を特定するために同様の参照符号を用いる。
【0056】
例示のガス透過性又は通気性電極は、いずれかの簡便な手段により形成されればよい。例えば、ガス透過性電極は、導電層をガス透過性材料上に配置し、次いで、触媒を導電層上に配置することにより形成可能である。一例では、ガス透過性非導電性材料から開始し、その材料上に導電層を形成し、その後、触媒を配置(蒸着:deposit)することが可能である。その代わりに、ガス透過性導電性材料から開始し、触媒を配置することが可能である。
【0057】
別の例では、ガス透過性又は通気性電極は、触媒が組み込まれているかもしくは組み込まれていない導電層をガス透過性又は通気性材料と近接して一体化させて保持又は位置させることにより形成され得る。この例において、触媒を含む導電層は個別に形成され、この導電層がガス透過性材料に配置され、設置され、又は、取り付けられる。本発明者らは、単に導電層をガス透過性材料に対して押しつけることにより、電解質において、気泡の形成を伴うことなく、又は、気泡もしくは少なくとも視認可能な気泡の形成を実質的に伴うことなく、ガス反応生成物を顕著な割合で材料を通過して移動させることが可能であることを見いだした。触媒を含む導電層は、ガス透過性材料化学的又は物理的に結合していればよい。
【0058】
アノード及びカソード層は、アノード及びカソードに対する液体の進入を許容する一方で、同時に、アノード及びカソード間における短絡の形成を防止する好適な液体−透過性の絶縁性スペーサによって分離され得る。このようなスペーサの一例は、市販されている逆浸透法膜モジュールにおいて用いられる「供給チャネル」スペーサである。このスペーサは、液体の移動は許可するが、強い印加圧力下においてもアノード及びカソードの圧壊を防止するよう好適に丈夫である。
【0059】
一実施例では、水分解装置用の電極が提供されている。この電極は、電極の一部、あるいは、この電極に隣接するアノード又はカソードの一部であるガス透過性材料及び第2の材料を備える。スペーサ層は、ガス透過性材料と第2の材料との間に位置され、このスペーサ層はガス捕集層を提供する(すなわち、電極中、又は、電極と隣接するアノード又はカソードとの間)。また、導電層も電極の一部として設けられており、ガス透過性材料と関連付けられている。第2の材料は、電極又は隣接する電極(例えばアノード−アノード、カソード−カソード又はアノード−カソード対)の一部であり得、好ましい実施例では、ガス透過性又は通気性材料でもある。導電層は、ガス透過性材料に隣接して、又は、少なくとも部分的にその内部に、好ましくはガス透過性材料の外側に設けられることが可能である。好ましくは、導電層は、ガス透過性材料と関連付けられているか、隣接して位置されているか、又は、その上に配置される。ガス捕集層は、好ましくは電極の出口領域又は域に向けて電極の内部でガスを運搬可能である。他の例において、ガス透過性材料は、ガス透過膜であり、また、第2の材料は、更なる又は追加のガス透過膜である。
【0060】
好ましくは、ガス捕集層は、電極の縁部もしくはその近傍又は電極の端部に位置された少なくとも1つのガス出口領域に向けて、電極の内部でガスを運搬可能である。他の例において、ガス透過性材料及び第2の材料は電極の個別の層である。第2の材料は、ガス透過性材料又は膜であることが好ましい。第2の材料はガス透過性材料であることが可能であり、第2の導電層は、第2の材料に隣接して、又は、少なくとも部分的にその内部に設けられることが可能である。それ故、一例において、ガス捕集層を提供するスペーサ層は、ガス透過性層と、電極の更なるガス透過性層である第2の層(すなわち、第2の材料)との間に設けられるか、位置される。他の例において、第2の材料はガス透過性材料であり、また、第2の導電層は、第2の材料と関連付けられ、隣接して位置され、又は、その上に配置される。
【0061】
スペーサ層は、集気チャネル、並びに、電解質チャネルを維持するよう設けられる。好適なスペーサ層が、各チャネルについて選択可能である。それぞれの電極におけるガス捕集層は、材料、又は、ガス拡散スペーサ等などの個別のスペーサデバイスの内表面におけるエンボス構造形態であり得るスペーサ層によって維持される。アノードとカソードとの間の電解質層は、「流路」スペーサ形式のスペーサ層を用いることにより維持され得る。電解質を電解質層に浸透させ、対応するアノード及びカソードとの接触を許容する他の好適なスペーサが用いられ得る。
【0062】
アノード及びカソードを構成する中空シート又は繊維中の内部空隙、間隙又は空間には、スペーサもしくはスペーサ層を通したガスの通過を許容するが、強い適用圧力下においても中空構造の壁の圧壊を防止する、好ましくは丈夫なスペーサもしくはスペーサ層といったスペーサもしくはスペーサ層が充填されているか、又は、少なくとも部分的に充填されていてもよい。このようなスペーサの一例は、市販されている逆浸透法膜モジュールにおいて用いられる「浸透性」スペーサである。
【0063】
ガス透過性又は通気性アノード及びカソードは、導電性金属層をガス透過性又は通気性材料の外表面又は表面に配置させ、次いで、必要に応じて、好適な(電子)触媒を導電層の上に配置させることにより構築され得る。あるいは、導電性金属層は、それら自体が(電子)触媒として機能してもよい。触媒は、液体から気体、又は、気体から液体への転移を促進及び加速させるよう選択され得る。
【0064】
ガス透過性又は通気性電極は、ガス透過性材料を通過するガスフラックスが電極でガスが形成され得る反応生成物の生成量に調節されるよう、簡便に構築され得る。代替的な実施例において、ガス透過性又は通気性アノード及びカソードは:(1)ガス透過性又は通気性材料と(2)必要に応じて、好適な触媒で被覆された自立型の平面状多孔性金属又は導電性構造とを、密接に相互に近接して嵌合するよう一緒に組み立てることにより構築される。自立型の平面状多孔性導電性構造は、微細な金属性メッシュ、グリッド、フェルト又は同様の平面状の多孔性伝導体であればよい。このタイプの導電性構造は広く多様な業者により市販されている。
【0065】
ガス透過性又は通気性材料は、セルにおけるアノード及びカソードのすべてにおいて、良好に画定された気液界面を反応中に維持するものである。これは、これらの気孔(pore)が濡れるよう、アノード及びカソードのガス透過性又は通気性材料に掛かる差圧(液体側対ガス側)を確実に毛管圧力未満とすることにより達成され得る。このように、適用される圧力によって、液体がガス流路に導かれることはなく、ガスも液体チャンバに導かれることはない。
【0066】
大気圧を超える圧力が液体又はガスに加えられる液体から気体又は気体から液体への転移において、反応器は、適用される圧力が毛管圧力を超えて液体がガス流路に導かれるか、又は、ガスが液体チャネルに導かれてしまうことがないよう設計され得る。換言すると、材料の気孔は、適用圧力下での運転中にアノード及びカソードで明確な気液界面が確実に維持されるよう選択される。
【0067】
実施例5において非限定的な事例で記載されているとおり、反応器中のガス又は液体に圧力が適用された場合において、ガス透過性又は通気性電極ではっきりとした気液界面を維持するために必要とされる最大孔径を算出するためにWashburnの式が用いられる。接触角が115°であるとともに、材料に対して1barの圧力差が適用される、水電気分解装置において電解質として水を伴うPTFE材料に係る非限定的な事例では、気孔は、好ましくは0.5ミクロン未満、より好ましくは0.25ミクロン未満、さらにより好ましくは約0.1ミクロン以下の半径又は他の特徴的な寸法を有するべきである。接触角が100°である場合、気孔は、好ましくは0.1ミクロン未満、より好ましくは0.05ミクロン未満、さらにより好ましくは約0.025ミクロン以下の半径又は他の特徴的な寸法を有するべきである。
【0068】
一実施例におけるガス透過性又は通気性アノード及びカソードの構成に用いられる材料は、水、又は、デバイスにおいて利用される液体中で1%未満膨潤する。アノード及びカソードに関連するガスは、アノードガスがすべての箇所においてカソードガスから分離されるよう反応器内にガス流路を構築することによって相互に分離された状態が維持される。他の例において、電気化学セルを構成するアノード及びカソードの多層構造は、すべてのアノード及びカソード、並びに、ガス及び液体チャネルをその内部に保持する嵌め合わされる丈夫なケースに収容される。換言すると、アノード及びカソードの多層構造、並びに、関連するガス及び液体チャネルはモジュール形態で構成され、これは、他のモジュールと容易にリンク可能であり、より大型の反応器構造全体が形成される。さらに、故障した場合においても、このような構造において、これらは容易に取り外されて、他の同等に構築されたモジュールと交換され得る。
【0069】
他の例において、単一のモジュール中のアノード及びカソードの多層構造は、比較的大きな内表面積を有するが、外部面積又は設置面積は比較的小さい。例えば、単一のモジュールは、2平方メートルを超える内部構造を有するが、外部寸法は1平方メートルであればよい。他の例において、単一のモジュールは、10平方メートルを超える内部面積、1平方メートル未満の外部面積を有することが可能である。単一のモジュールは、20平方メートルを超える内部面積を有するが、外部面積は1平方メートル未満であればよい。他の例において、単一のモジュール中のアノードの多層構造は、単一の入口/出口管に接続されたアノードと関連付けられたガス流路を有し得る。
【0070】
他の例において、単一のモジュール中のカソードの多層構造は、アノード入口/出口管とは別の単一の入口/出口管に接続されたカソードと関連付けられたガス流路を有し得る。更なる実施例において、単一のモジュール中のアノード及びカソードの多層構造は、多層材料構成として構成され得る。らせん状多層構造は、1つ又は2つ以上のカソード/アノード電極アセンブリ対を構成してもよく、1つ以上の板状のアセンブリを構成していてもよい。
【0071】
上記のモジュールユニットは、他の同等のモジュールユニットに容易に取り付けられるよう構成され、これにより、必要とされる程度にまで反応器全体をシームレスに拡大し得る。上記の複合化モジュールユニットは、それら自体が、モジュールユニットを通過するすべての液体を内部に含有し、相互に接続されたモジュール中に存在するガス用の第2の格納チャンバとされる第2の丈夫な筐体中に収容されていてもよい。第2の丈夫な外部筐体中の個別のモジュールユニットは、取り外し及び他の同等のモジュールとの交換が容易、かつ、簡単であり得、これにより、欠陥を有するか、又は、運転レベルの低いモジュールを簡単に交換することが可能である。
【0072】
例示的な水分解セルは、液体からのガスの生成、又は、ガスからの液体の生成において高いエネルギー効率を達成するために、比較的小電流密度で運転され得る。水分解セルは、一定の状況下において最も高い合理的なエネルギー効率が得られる電流密度で運転され得る。例えば、水を水素及び酸素ガス(水電気分解装置)に転移する反応器の場合において、反応器は、水素について高位発熱量(HHV)で75%を超えるエネルギー効率が得られる電流密度で運転され得る。1kgの水素は合計で39kWhのエネルギーを有するため、52kWhの電気エネルギーの適用により電気分解装置が1kgの水素を発生させる場合に75%のエネルギー効率が達成され得る。
【0073】
水電気分解装置は、水素について高位発熱量(HHV)で85%を超えるエネルギー効率が得られる電流密度で運転されればよく、45.9kWhの電気エネルギーの適用により電気分解装置が1kgの水素を発生させる場合に85%のエネルギー効率が達成され得る。水分解セルは、水素について高位発熱量(HHV)で90%を超えるエネルギー効率が得られる電流密度で運転されればよく、43.3kWhの電気エネルギーの適用により電気分解装置が1kgの水素を発生させる場合に90%のエネルギー効率が達成され得る。ガス透過性材料を通して生成されたガスを取り出すことで、デバイスで、電極における反応からガスを分離することが可能となる。少なくとも1つの電極で生成されるガスの90%超をガス透過性材料を通してセルから取り出すことが可能である。生成されるガスの95%超及び99%超をガス透過性材料を通して取り出すことが可能であることが望ましい。水分解セルは、75%を超えるエネルギー効率HHVで水素ガスが生成されるよう運転され得る。水分解セルは、90%を超えるエネルギー効率HHVで水素ガスを生成し得ることが望ましい。
【0074】
本発明者らは、水分解セルは、ガス透過性材料に掛かる圧力差を管理することにより効率的に運転され得ることを見いだした。圧力差を管理することで材料の濡れが防止され得、材料に対してガス反応生成物が導かれる。圧力差の選択は、典型的には水分解材料の性質に応じることとなり、以下に記載のWashburnの式を参照して判定され得る。電解質の加圧も、ガス捕集層において加圧されたガス生成物を得る上で有用であればよい。
【0075】
他の例では、水分解セルに低電流密度を適用するステップ、電解質を加圧するステップ、水を分解するステップ、並びに、水素ガス及び酸素ガスを生成するステップ;並びに、それぞれの加圧されたガスを対応するガス捕集層で集めるステップを含む水素を発生させるプロセスが提供されている。水分解セルは、望ましくは100℃未満、75℃未満及び50℃未満の温度で運転され得る。
【0076】
反応器中の個別の電気化学セルは、電圧(Volt)が最大となり、必要とされる電流(Amp)が最小となるよう直列又は並列に構成され得る。これは、普通、電気伝導体の価格は電流負荷が増大するに伴って高くなり、一方で、単位出力当たりのAC−DC整流器の価格は出力電圧が増大するに伴って低くなるためである。反応器中の直列又は並列の個別のセルの全体的な構成は、利用可能な三相産業用又は家庭用電力との合致が最良となるよう構成され得る。これは、電気分解装置の全体としての電力要求と、利用可能な三相電力とを緊密に合致させることで、一般に、ACからDC変換が低価格で100%に近いエネルギー効率で可能となり、これにより、損失が最低限とされるためである。
【0077】
好ましい実施形態は、典型的には、水を水素及び酸素に直接電気転移する電気化学反応器を含み、水電気分解装置は、排他的ではないが好ましくは、多層構成におけるアノード及びカソードとして中空ガス透過性又は通気性電極構造(例えば、平坦シート又は繊維状)を備え:
i.ここで、アノードには独立した酸素ガス流路が関連付けられており、
ii.ここで、カソードには独立した水素ガス流路が関連付けられており、
iii.これらの各々において、水素又は酸素流路は、ガス透過性又は通気性材料における気孔により対応する電極とリンクされており、
iv.ここで、ガス透過性又は通気性材料によって反応中に明確な気液界面が維持され、
v.ここで、ガス透過性又は通気性材料の孔径及び品質は、液体あるいはガスが運転中に大気圧を超える適用圧力に供される条件下で明確な気液界面が維持されるようなものであり、
vi.ここで、アノードとカソードとの間の空間は、アノード及びカソードに対する電解質水の進入を許容する一方で、アノード及びカソードの相互の接触を防止し、これにより、短絡を防止する丈夫な絶縁スペーサ(「供給チャネルスペーサ」)で埋められており、
vii.ここで、ガス流路は、排他的ではないが好ましくは、それら自体を通るガスの運搬を許容するが、大気圧を超える圧力が水電解質に加えられる状況においてもガス流路の壁の崩落を防止する丈夫なスペーサ(「ガス−チャネルスペーサ」)で埋められており、
viii.ここで、水素ガス流路は単一の水素ガス出口に接続されており、
ix.ここで、酸素ガス流路は単一の酸素ガス出口に接続されており、
x.ここで、アノードとカソードとの間への水の浸透は許容されており、
xi.ここで、アノード、カソード、スペーサ及びガス流路の多層構成全体は、比較的大きい内表面積を有するが外部設置面積が小さい単一のモジュール中に組み込まれており、
xii.ここで、モジュールユニットは、他の同等のモジュールユニットに容易に取り付けられて、これにより、必要とされる程度にまで電気分解装置をシームレスに拡大することが可能であり、
xiii.ここで、複合化モジュールユニットは、これら自体が、モジュールユニットを通過されるすべての水を内部に含有し、モジュールで生成される引火性水素ガスに対する第2の格納シールドとされる第2の丈夫な筐体中に収容されており、
xiv.ここで、第2の筐体中の個別のモジュールユニットは、容易、かつ、簡単に他の同等のモジュールと交換が可能であり、
xv.ここで、電気分解装置は、水からの水素ガスの生成において高いエネルギー効率を達成するために、小さい総電流密度で運転され;好ましくは75%エネルギー効率、より好ましくは85%エネルギー効率、又は、さらにより好ましくは90%を超えるエネルギー効率が得られる電流密度で運転され、
xvi.ここで、電気分解装置アセンブリ全体中の個別のセルは、一般に、電圧(Volt)が最大となり、必要とされる電流(Amp)が最小となるよう直列又は並列に構成され、あるいは
xvii.ここで、電気分解装置アセンブリ全体中の個別のセルは、利用可能な三相産業用又は家庭用電力との合致が最良となるよう直列又は並列に構成される。
実施例1:水電気分解において高いエネルギー効率を達成するガス透過性又は通気性電極の可能性の実証
ガス透過性又は通気性電極を用いることで水電気分解装置において生じる液体から気体への転移のためのエネルギー効率を改善することが可能であるかを評価するために、本発明者らは、ガス透過性又は通気性電極の最適な構成について試験を行った。次いで、ガス透過性又は通気性電極を無気泡実験規模スケール水電気分解装置に組み込むことでテストしたが、ここで、これらの性能は、最適な酸性度/塩基度条件下において、気泡の発生が伴う標準的な産業において最良の触媒で比較した。この比較のために、本発明者らは、1Mの強酸中の固体白金(Pt)を「産業において最良の」触媒として選択した。この選択は、他の代替(すなわち、強塩基性アルカリ電気分解装置におけるニッケル(Ni)触媒)は、一般に、強酸中のPtよりも総エネルギー効率に劣ると考えられているという理由によるものである。
【0078】
すべての比較で、非常にシンプルに配置させた小さい表面積の平滑な金属を用いた。この意図は、これらが効率及び総産出量の点でどのような比較を見せ、ガス透過性又は通気性電極を用いることで利用可能な最良の産業触媒と比して水電気分解の総エネルギー効率を改善することが可能であるかを確かめることにある。
図1〜2中のデータでは、種々の無気泡電気分解装置と、気泡が形成される産業で最高の1Mの強酸中のPt触媒との典型的な性能が比較されている。
実施例1A:平坦シート状ガス透過性又は通気性電極を利用する水電気分解装置
図1に示されている第1のデータセットでは、カソード及びアノードの両方に平坦シート状通気性電極が組み込まれた2つの「無気泡」電気分解装置(1M強塩基Ni−触媒アルカリ電気分解装置(
図1(a))及び1Mの強酸によるPt−触媒酸電気分解装置(
図1(b)))が試験されている。用いた酸は硫酸であった。用いた塩基は水酸化ナトリウムであった。アノード及びカソードの両方で同一の触媒を同時に用いた。
【0079】
図1(a)〜(b)中のデータは、
図3に図示されているセルを用いて収集した。
図3(a)中のセルは、
図3(b)中に概略的に図示されている。セルは、以下の部品を備えるものである:中央水リザーバ100は、左側に無水水素収集チャンバ110を有し、右側に無水酸素収集チャンバ120を有する。水リザーバ100と水素収集チャンバ110との間にガス透過性又は通気性電極130がある。水リザーバ100と酸素収集チャンバ120との間にはガス透過性又は通気性電極140がある。ガス透過性又は通気性電極130,140の表面の上、これらに近接して、又は、部分的にこれらの内部に、好適な触媒150又は2種以上の触媒を含有する導電層がある。バッテリなどの電源160によって導電層150に電流が供給されると、電子が回路配線経路170に示されている外部回路を流れる。この電流によって、水が通気性電極130(カソードと呼ばれる)の表面で水素と通気性電極140(アノードと呼ばれる)の表面で酸素とに分離される。これらの表面では気泡が形成される代わりに、酸素及び水素は、それぞれ酸素収集チャンバ120及び水素収集チャンバ110に向かって疎水性気孔180を通過する。気孔の疎水性表面によってはじかれ、また、水の表面張力によって、水の大部分から水滴が分離して気孔を通過することが防止されるために、液体の水はこれらの気孔を通過できない。それ故、電極130,140は、ガス透過性水不透過性バリアとして作用する。
【0080】
図1(a)中のデータに関して、Ni触媒は、電磁遮蔽に用いられる市販されている薄くNi被覆された可撓性生地であった。生地を、ガス透過性又は通気性疎水性材料に対して押し付けてしっかりと保持させた。これは、
図1(b)中のデータについて行った材料の表面上への金属の直接的な配置とほぼ同様に機能し、ここで、Pt触媒は、標準的な商業的プロセスである真空金属被膜法によって材料上に直接配置した。両方の事例において、
図1(a)〜(b)に示されている代表的なデータを収集する前に、触媒を延長したコンディショニングに供した。これは、データを計測する前に、示されている1Mの強酸/塩基条件において、印加電圧(典型的には2〜3V)で電気分解装置を数時間の間運転状態に維持したことを意味する。コンディショニングによって、システムが明確に定常状態とされ、信頼性の高い計測が保証される。
【0081】
次いで、1.6Vの固定セル電圧(=93%エネルギー効率HHV)での電流密度を2つの無気泡電気分解装置について計測した。図示のように、通気性Ni及びPt系はともに1mA/cm
2以上の電流密度をもたらした。Ptのものではスイッチが入れられてから1分以内に安定した電流が得られた。Niのものでは、安定した電流に達するまでに約5分間を要した。しかしながら、電流はともに1mA/cm
2を超えており、両方とも長時間にわたって変化せずに維持される(簡潔にするために
図1にデータは示されていない)。
【0082】
比較により、及び、
図1(c)を参照することにより、本発明者らは、気泡の形成を伴う1Mの強酸中の「産業において最良の」Pt触媒について既に研究していた。これらの研究では、1時間のコンディショニング後であって、可能な限り最適な条件下(
図1(a)及び(b)における結果に対するものよりも最適)では、固体裸Ptは、平均で0.83mA/cm
2の定常状態電流をもたらすことが分かった。これは、アノードで非常に大きいPtメッシュ電極を用いる場合にPtカソードで達成可能である完全な最大定常状態電流密度である。等しい大きさの2つの電極をアノード及びカソードで用いた場合には(
図1(a)〜(b)のデータにおける場合のとおり)、電流密度はさらに低くなるであろう。
【0083】
この計測により、アルカリNi−触媒及び酸Pt触媒通気性セルをアノード及びカソードの各々で取り入れた両方の無気泡電気分解装置は、気泡が発生していた構成においてアノード及びカソードの両方で産業において最良の触媒であるPtを採用する単純な電気分解装置に確証的に勝るものである。さらに、材料系電気分解装置は、気泡形成に関連する通例の急激な変化を伴うクロノアンペログラムプロファイルを示さず、裸Ptで見られるような定常状態が形成されるまでのゆっくりとした産出量の低下を示さない。
【0084】
実施例1B:中空繊維状ガス透過性又は通気性電極を利用する水電気分解装置
図2中の第2のデータセットでは、最適な条件の酸性度(1Mの強酸)の下で:
(1)アノード及びカソードの両方でPtで被覆されたガス透過性又は通気性中空繊維電極(Ptは、標準的な商業的プロセスである真空金属被膜法を用いて材料上に直接配置した)が組み込まれた無気泡電気分解装置と、
(2)同一の電気分解装置セルであるが、アノード及びカソードの両方で公知の裸Ptワイヤ電極を備えるものと
が比較されている。
【0085】
図4(a)は、カソードの公知の裸Ptワイヤと、アノードのPt被覆疎水性中空繊維状ガス透過性電極とを対比する例示的な電気分解装置の写真を示す。図示のように、公知の裸Ptワイヤは水電気分解の最中に気泡で覆われてしまい、一方で、中空繊維状ガス透過性電極は気泡を伴わず、すなわち、気泡の形成が伴わないか、又は、実質的な気泡の形成、少なくとも視認可能な気泡の形成が伴わない。
【0086】
図4(b)には、上記の点(1)における無気泡電気分解装置を構成する方法又はプロセス、及び、どのように運転されるかが概略的に示されている。疎水性中空繊維状材料200を入手した。次いで、これらをPtの真空金属被膜法(標準的な商業的プロセスである)により被覆して、Pt被覆中空繊維状材料210を得た(
図5は210の表面の走査型電子顕微鏡写真を図示し、コーティングの厚さが20〜50nmであることを示す)。次いで、2つのPt被覆中空繊維状材料をアラルダイト接着剤を用いて底部でシールし、1Mの強酸の水溶液中に浸漬した。中空繊維状材料の開口した上部は液体の水の表面より上に突出させた。これらの表面上(導電性Pt上)の電気接続をバッテリ220などの電源に接続し、これを用いてこれらの2つの間に電流を流し、ここで、電子の移動は導電経路230に示されるとおりである。電圧を印加した結果、水は、カソードの表面で水素ガスと、アノードの表面で酸素ガスとに分離する。しかしながら、ガスは気泡を形成せず、代わりに、中空繊維状ガス透過性材料240の疎水性気孔中を移動する。大気圧テスト条件下では、この例では、微小繊維によって相互に連結されたノードによって特徴付けられる微小構造を備える多孔性形態のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であるGoretex(登録商標)材料系である、疎水性多孔性表面を液体の水は濡らすことはできないために、液体の水はこれらの気孔を通過しない。それ故、水素ガスが、カソード中空繊維状材料の中心の水素ガス流路260で集められる。酸素ガスは、アノード中空繊維の中心の酸素ガス流路で集められる。
【0087】
上記の例示的な電気分解装置を運転することで、
図2(a)に示されているデータが得られる。このデータを得るために、本発明者らは、2mA/cm
2の固定電流密度を電気分解装置に適用し、次いで、時間の経過に伴って電圧(エネルギー効率)がどのように変化するかを試験した。このタイプの市販の電気分解装置がどのように運転され得るかを実証するために、データはこのように示されている。固定電流密度の使用は、1日当たりの特定量の水素の生成が保証されるため最も好適な運転モードであればよい(水素の生成量は、利用される電流に応じる)。
図2(b)中のデータには、アノード及びカソードの両方で公知の裸Ptワイヤを用い、他は同等の条件下で互角の結果が示されている。両方の事例において、電気分解装置を最初に運転した場合にどのようになるかを実証するために、また、正確なデータを得るためになぜコンディショニングが必要であるかを示すために、触媒は予めコンディショニングを行わなかった。
【0088】
公知の裸Ptワイヤについては、コンディショニングの時間にわたってエネルギー効率の明らかな低下が観察され;これは裸Pt電極に非常に典型的であり、定常状態が確率される前に発生する(運転から1〜2時間後)。コンディショニングプロセスの最中には、エネルギー効率は約88%(1時間)に低下する可能性がある。1時間後、エネルギー効率は典型的には約85%であり、これは定常状態電流密度であるか、定常状態電流密度に近い。固体Pt電極に関する研究は本発明者らによって既になされており、定常状態が確率された後に、2mA/cm
2で約83〜85%のエネルギー効率が得られた。対照的に、中空繊維状ガス透過性電極は同様の低下を示すことはない。クロノボルタンメトリプロファイルは実質的に約96%エネルギー効率で一定であり、定常状態に向けて比較的わずかな低下を伴うのみである。さらに、これらは、比較される公知の裸Ptワイヤ「産業において最良の」触媒よりも高いエネルギー効率を長時間(例えば12時間の連続テスト)にわたって維持する。これらは、気泡の発生が伴う構成における産業において最良のPt触媒よりも顕著にエネルギー効率が高いものである。
【0089】
実施例1の結論:アノード及びカソードの両方でガス透過性又は通気性電極を備える電気分解装置は、水電気分解において高いエネルギー効率を達成し得る。
【0090】
それ故、カソード及びアノードの両方でガス透過性又は通気性電極を備える無気泡水電気分解装置(すなわち、実質的な気泡の形成を伴うことなく運転される)は、液体から気体の転移において気泡の発生を伴うシステムよりも高いエネルギー効率を達成し得ると結論づけることが可能である。これは、このようなシステムにおけるエネルギー損失の主な要因を構成する気泡過電圧の低減又は排除によるものである。
【0091】
さらに、最も困難な液体から気体への電気化学転移の1種である水電気分解について当てはまる場合、これは、他の液体から気体への電気化学転移についても当てはまり得る。さらに、このようなシステムにおける気液界面の安定性によって、同様に、このような反応器における同等の気体から液体への電気化学転移のエネルギー効率もまた大きく促進及び向上されるであろう。
実施例2:多層中空平坦シート構成を備える電気化学反応器(「らせん状モジュール」)
図6(a)は、両面平坦シート疎水性材料710の概略図である。この材料は、上方疎水性表面及び下方疎水性表面と、これらの間の「浸透性」スペーサ740として一般的に公知であるスペーサを備える。上面及び下面は、十分な圧力が加えられるか、あるいは、水の表面張力が十分に低下されなければ液体の水を通過させず、ガスを通過させる疎水性気孔を備える。「浸透性」スペーサは、典型的には稠密であるが多孔性である。
図6(b)にこのスペーサの典型的な微小構造が図示されている。このタイプの「流路」スペーサの微小構造は
図7に図示されている。
図7に図示のように、このスペーサは中を通した水の運搬に好適である開口構造を有するが、
図6(b)中のスペーサはより稠密な構造を有するものであり、液体の運搬ではなくガスに対して好適とされている。平坦シート水電気分解装置反応器の構築は、ガススペーサ710が組み込まれた疎水性両面材料から開始することが可能である。この材料の表面上に、導電層が典型的には真空金属被膜法を用いて蒸着される。アルカリ電気分解装置の場合、導電層は典型的にはニッケル(Ni)である。この技術を用いることにより、20〜50nmのNi層を蒸着し得る。次いで、Ni被覆材料を、例えば無電解ニッケルめっきを用いてディップコーティングに供して、その表面上の導電性Ni層を厚くしてもよい。この後、触媒又は2つ以上の触媒を、導電性Ni表面上に蒸着するか、他の手段により取り付け得る。利用可能な一連の触媒が存在しており、技術分野において公知である。
【0092】
水の酸化(すなわち、水分解のアノードで生じる反応)には、Co
3O
4、LiCo
2O
4、NiCo
2O
4、MnO
2、Mn
2O
3などの触媒、及び、他の触媒が利用可能である。触媒は、技術分野において公知である種々の手段によって配置され得る。ニッケル表面上へのこのような触媒の配置の代表的な例は、以下の表題の刊行物に記載されている:物理化学ジャーナル、2009年、113巻の15068〜15072頁、Arthur J. Esswein、Meredith J. McMurdo、Phillip N. Ross、Alexis T. Bell、及びT. Don Tilley共著「Size-Dependent Activity of Co
3O
4 Nanoparticle Anodes for Alkaline Water Electrolysis」。これらの手段により、
図6(a)中のアノード720を調製すればよい。
【0093】
カソードに関して、ナノ微粒子Ni又はナノ微粒子ニッケル及び他の金属合金などのニッケル表面上に配置され得る種々の触媒が存在している。以下の表題の刊行物:「Pre-Investigation of Water Electrolysis」,document PSO−F&U 2006−1−6287(Department of Chemistry,Technical University of Denmark,The Riso National Laboratory of Denmark and DONG Energy,2008による共同発行)に、このような材料をアノードに配置させる手段が記載されている(第50ページから)。
図6(a)中のカソード730はこのように調製され得る。書面には、続けてアノード触媒及びこれらをアノードに配置させる手段が記載されている。
【0094】
図8に、このようにして調製された中空平坦シートカソード730及びアノード720を用いる例示的な水電気分解装置の形成のための1つのアプローチが図示されている。カソード730は、示されているとおり、4つの縁部のうち3つでシール731されており、最後の縁部は半分がシールされており731、半分がシールされていない732。シールは、中空平坦シートの縁部をスナップ加熱及び溶融し、これにより、縁部からのガス及び液体の流出を防止することにより行われ得る。レーザ加熱もカソードの縁部のシールに用いられ得る。アノード720は、示されているとおり、4つの縁部のうち3つでシール721されており、最後の縁部は半分がシールされており721、半分がシールされていない722。シールは、中空平坦シートの縁部をスナップ加熱及び溶融し、これにより、縁部からのガス及び液体の流出を防止することにより行われ得る。レーザ加熱もアノードの縁部のシールに用いられ得る。
図8(a)及び(b)に図示されているシールは、より好適である場合には、導電性Ni層の配置及び触媒の配置に先行して行われ得る。
図8(c)に示すように、次いで、アノード及びカソードを、
図7に図示されているタイプの流路スペーサを介在させてスタックさせる。アノードのシールされていない縁部はすべて、左側後方の縁部に沿って相互に並び、一方で、カソードのシールされていない縁部は、左側前方の縁部に沿って相互に並ぶことに注目すべきである。アノード及びカソードのシールされていない縁部は相互に重ならないことに注目すべきである。
【0095】
図9(a)は、
図8(c)中のアセンブリをどのようにして例示的な水電気分解装置とし得るかを示す図である。
図9(a)に示すように、中空チューブ(典型的には、絶縁性ポリマーから構成される)を
図8(c)のアセンブリに取り付ける。このチューブを、相互に接続されていない前方チャンバ910及び後方チャンバ920に分離する。アノード及びカソードを、シールされていない縁部がチューブの内部チャンバに開口するようにチューブに取り付ける。カソードのシールされていない縁部はチューブ920の後方チャンバのみに開口し、一方で、アノードのシールされていない縁部はチューブ910の前方チャンバのみに開口する。アノード及びカソードは、アノードについては単一の外部電気接続と、及び、カソードについては他の単一の外部電気接続と直列(双極設計)又は並列(単極設計)で電気的に接続され得る(
図9(a)に示すように)。
図9(d)〜(e)は、単極設計(
図9(d))及び双極設計(
図9(e))に利用が可能である非限定的な接続経路を示す図である。他の接続経路も可能である。
【0096】
電気分解装置の運転に際して、水は、流路スペーサ中を図(9(a))に示されている方向(ページの外)に浸透が可能とされている。それ故、運転中には、アノードとカソードとの間に介在する空間に水が存在してこれに充填されている。
【0097】
ここでアノード及びカソードに電圧が印加されると、カソードの表面で水素が生成されて、
図6(a)に図示されているカソード材料の気孔(pore)を通過する。同時に、アノードの表面で酸素が生成されて、
図6(a)に図示されているアノード材料の気孔を通過する。次いで、酸素及び水素は、中空シートアノード及びカソード中のスペーサのための空間を満たす。水素は、中空シートカソードからシールされていない縁部を介して取り付けられたチューブの後方チャンバ920に出ることしかできない。酸素は、中空シートアノードからシールされていない縁部を介して取り付けられたチューブの前方チャンバ910に出ることしかできない。このように、ガスは、チャネルを通して、取り付けられたチューブの前方チャンバ910及び後方チャンバ920において別々に収集される。
【0098】
反応器の全体的な設置面積を可能な限り小さくするために、多層構成の平坦シート材料を、940に示されているとおりらせん配列に巻いてもよい(
図9(b))。次いでらせん配列は、
図9(b)に示すように、モジュールを通る水の移動を許容しながらもなお、らせん状エレメントをモジュール(950)中の一定箇所に保持するポリマーケース950中に格納され得る。好適な電圧がこのようなモジュールに印加されると、水素ガスが生成され、示されているとおり後方チューブでモジュールを出る。酸素ガスは、示されているとおり前方チューブで生成される。
【0099】
代替的な構成が
図9(c)に図示されている。この構成では、収集チューブは前方及び後方収集チャンバに区画されていない。代わりに、このチューブは、その長さ方向に沿って2つの別々のチャンバに区画されている。平坦シートアノード及びカソードは、アノードのシールされていない縁部がこれらのチャンバの一方に開口するとともに、カソードのシールされていない縁部がこれらのチャンバの他方に開口するようこのチューブに取り付けられている。それ故、
図9(c)において940で示されているようにらせん状にされ、ポリマーケース950中に格納されてモジュール化される場合、このモジュールでは、
図9(c)に示すように水の移動が許容される。好適な電圧がこのようなモジュールに印加されると、水素ガスが生成されて、収集チューブ中の区画されたガス流路の一方からモジュールを出、一方で、酸素が生成されて、示されているとおり区画されたチャンバの他方からモジュールを出る。950に図示されているタイプの水電気分解モジュールは、典型的には、大きい内表面積と、比較的小さい総設置面積を示す。らせん状水電気分解モジュールを構成するための一連の他の選択肢が存在する。らせん状電気分解装置を構成するために他の非限定的な選択肢のいくつかを実証するために、
図10及び
図11を参照する。
【0100】
図10には、らせん状電気分解装置モジュールを製造するための他のアプローチが図示されている。カソード730は、示されているとおり、4つの縁部のうち3つでシール731されており、最後の縁部はシール732されていない(
図10(a))。アノード720は、示されているとおり、4つの縁部のうち3つでシール721されており、最後の縁部はシール722されていない(
図10(b))。次いで、アノード及びカソードを、
図10(c)に示すように、
図7に図示されているタイプの流路スペーサを介在させてスタックさせる。アノードのシールされていない縁部はすべて、左側の縁部に沿って相互に並び、一方で、カソードのシールされていない縁部は、右側の縁部に沿って相互に並ぶことに注目すべきである。
【0101】
図11(a)は、
図10(c)中のアセンブリをどのようにして本発明の水電気分解装置とし得るかを示す図である。中空チューブ1110は、
図11(a)に示すように、
図10(c)中のアセンブリの左側に取り付けられる。アノードは、シールされていない縁部がチューブ1110の内部空隙に開口するようチューブ1110に取り付けられる。他のチューブ1120が、アセンブリの右側に取り付けられる。カソードは、シールされていない縁部がチューブ1120の内部空隙に開口するようチューブ1120に取り付けられる。それ故、水がアセンブリに浸透し、好適な電圧が印加されると、生成された水素ガスが右側チューブ1120によって収集され、一方で、生成された酸素ガスが左側チューブ1110によって別々に収集される。
【0102】
この構成がらせん状1130である場合(
図11(b)〜(c))、2つの利用可能なモジュール構成が構成され得る。
図11(b)において1140で示されているモジュール構成は、ポリマーケース1140に格納された2つのほぼ同じ厚さを有するらせん状エレメントを備える。示されているとおり、このケースでは、モジュールを通る水の通過が許容される。2つの内側チューブでは、生成される水素と酸素とが個別に収集されて得られる。
図11(c)において1150で示されているモジュール構成は、左側収集チューブ(酸素の生成)が組み込まれ、ポリマーケース1140に格納された1つのらせん状エレメントを備えており、ここで、他の収集チューブ(水素の生成)は、モジュールの外表面に位置されている。示されているとおり、このケースでは、モジュールを通る水の通過が許容される。内側チューブで生成される酸素が収集及び供給される。外側チューブで生成される水素が収集及び供給される。
【0103】
このような水電気分解モジュールは大きい内表面積と比較的小さい設置面積又は外部面積を有するため、これらは、比較的小さい総電流密度で運転可能である。典型的な電流密度は10mA/cm
2であり、これは、市販されている水電気分解装置のほとんどにおいて現在利用される電流密度よりも2桁小さいものである。このように小電流密度では、90%に近い、又は、90%を超えるエネルギー効率HHVで水素を生成させることが可能である。このようなモジュールにおける電力要求、並びに、個別のセルの直列及び並列電気的構成のための選択肢は、実施例6において詳細に検討されている。
実施例3:多層中空繊維構成を備える電気化学反応器(「中空繊維モジュール」)
図12は、例示的な水電気分解装置用にどのように一組の中空繊維アノード及びカソード電極を構成し得るかを概略的及び原理的に示す図である。一組の導電性触媒中空繊維状材料1200を揃え、中空繊維状材料アレイの周囲で水の運搬を許容するケース1200に収容し得る。中空繊維水電気分解装置反応器の構築は、
図4(b)に図示されているガススペーサ200が組み込まれた疎水性中空繊維状材料から開始することが可能である。この材料の表面上に、導電層が典型的には真空金属被膜法を用いて蒸着される。アルカリ電気分解装置の場合、導電層は典型的にはニッケル(Ni)である。この技術を用いることにより、20〜50nmのNi層を蒸着し得る。次いで、Ni被覆材料を無電解ニッケルめっきを用いてディップコーティングに供して、その表面上の導電性Ni層を厚くしてもよい。この後、触媒を導電性Ni表面に蒸着し得る。利用可能な一連の触媒が存在しており、技術分野において公知である。これらの蒸着方法は実施例3において記載されている。
【0104】
運転中に、このようにして調製した中空繊維アノード又はカソードを他の電極から確実に電気的に隔離するために、典型的には、技術分野において周知である標準的なディップコーティング手法を用いて多孔性Teflon又はスルホン化フッ素化ポリマー層による更なる被覆が行われる。これらなどの手段により、
図13中の中空繊維アノード1320及び中空繊維カソード1310を調製し得る。このように調製されるカソード及びアノードを、次いで、単純な熱シール又はレーザシールプロセスを用いて両方の端部でシールする。必要に応じて、中空繊維状ガス透過性材料は、その表面上への導電層及び触媒層の配置に先行してシールし得る。
【0105】
次いで、カソード及びアノード中空繊維は、
図13において概略的に示されているとおり交互嵌合され、ここで、これらの端部は、反対側で非交互嵌合状態とされている。
図13において、アノード中空繊維1320は非交互嵌合端部が右側にあり、カソード中空繊維1310は非交互嵌合端部が左側にある。次いで、導電性接着剤をアノード中空繊維1320の非交互嵌合端部の周囲にキャストする。接着剤を硬化させ、その後、導電性接着剤をカソード中空繊維1310の非交互嵌合端部の周囲にキャストする。2つの接着剤が硬化した後、これらを細い帯ノコで切断し、シールされた中空繊維の一端部を開口させる。ここで、アノード中空繊維1320は交互嵌合アセンブリの右側に開口しており(
図13に示すように)、一方で、カソード中空繊維1310は交互嵌合アセンブリの左側に開口している(
図13に示すように)。次いで、交互嵌合アセンブリを、交互嵌合された中空繊維間における水の流過を許容し、内部集気チャネルへの流入は許容しないポリマーケース1330に格納する。
【0106】
次いで、アノード及びカソードを、必須ではないが、相互に並列に(単極設計)接続することが好ましく、ここで、外部カソードは左側(カソード)導電性接着剤プラグに接続されており、外部アノードは右側(アノード)導電性接着剤プラグに接続されている。また、双極設計も可能であり、ここでは、個別の繊維、又は、繊維の束は、電気分解装置の左側に開口する中空繊維で水素が生成され、電気分解装置の右側に開口する中空繊維で酸素が生成されるよう、相互に直列に接続される。
【0107】
水の存在下で2つの導電性接着剤プラグの交互嵌合構成の端部に電圧を印加することで、水素ガスがカソード中空繊維の表面で形成される。
図4(b)に示すように、水素は、カソードの表面で気泡を形成することなく中空繊維の疎水性気孔240を内部集気チャネル260に向かって通過する。
図13に示すように、水素は
図13中の反応器の左側にある水素出口に運ばれる。
【0108】
同時に、酸素がアノード中空繊維の表面で生成される。
図4(b)に示すように、水素は、アノードの表面で気泡を形成することなく中空繊維の疎水性気孔240をアノードの内部集気チャネル270に向かって通過する。
図13に示すように、酸素は
図13中の反応器の右側にある酸素出口に運ばれる。
【0109】
それ故、
図13に図示されているモジュールでは、好適な電圧が印加され、水がモジュールに通されると水素及び酸素が生成される。本発明の中空繊維水電気分解モジュールを構成するための一連の他の選択肢が存在する。他の非限定的な選択肢を実証するために、
図14を参照する。
【0110】
図14では、アノード及びカソード中空繊維は交互嵌合されておらず、代わりに、相互に対向する2つの個別の多層構成に組み込まれている。左側では、一組の並列中空繊維カソード1410がモジュール筐体1430中において一緒に位置しており、一方で、右側では、一組の並列中空繊維アノード1420がモジュール筐体1430中において一緒に位置されている。プロトン交換膜又は材料は、任意に、カソード中空繊維とアノード中空繊維との間に存在していてもよい。
【0111】
モジュールを満たす好適な水性電解質の存在下に、2つの導電性接着剤プラグにいずれかのモジュールの端部で電圧を印加すると、水素ガスがカソード中空繊維1410の表面で形成され、材料の気孔及びその内部の中空を介して水素出口に運搬される。同様に、酸素ガスがアノード中空繊維1420の表面で形成され、材料の気孔及びその内部の中を介して酸素出口に運搬される。それ故、
図14に図示されているモジュールでは、好適な電圧が印加され、モジュールが好適な水性電解質で満たされている場合に水素及び酸素が生成される。
【0112】
このような中空繊維系水電気分解モジュールは大きい内表面積と比較的小さい総設置面積とを有するため、これらは、比較的小さい総電流密度で運転されることが可能である。典型的な電流密度は10mA/cm
2となり、これは、市販されている水電気分解装置のほとんどにおいて現在利用される電流密度よりも2桁小さいものである。このように小電流密度では、90%に近い、又は、90%を超えるエネルギー効率HHVで水素を生成させることが可能である。このようなモジュールにおける電力要求、並びに、個別のセルの直列及び並列電気的構成のための選択肢は、実施例6において詳細に検討されている。
実施例4:水電気分解装置モジュールの電気分解装置プラントへの組み込み
図15は、どのようにして水電気分解装置モジュールを電気分解装置プラントを構成するより大型のユニットに組み立て得るかを概略的に示す図である。3つのモジュール1510(
図9(c)において950と記載されている同一タイプのもの)を、しっかりと別々の水素及び酸素集気チャネルを正しく接続する丈夫な「ワンタッチ式」継ぎ手1520を介して相互に取り付ける。次いで、組み合わせたモジュールを、端部の各々において厚い金属製カバープレート1540でシールされる厚い金属製のチューブ1530に押し込む。カバープレート1540は、チューブを通した水の輸送を許容し、このチューブの外側にガス収集チューブを突出させるものである。次いで、示されているとおり、水をシールされたチューブ1550に流通させ、一方で、チューブ中のモジュールに組み合わされたアノード及びカソードに電圧を印加する。生成された得られる水素及び酸素を
図15の右下部に示されているとおり収集する。
【0113】
チューブ1530は生成される水素用の第2の格納容器として作用し、これにより、電気分解装置のための安全機能が達成される。
図15に図示されている構成は、水電気分解装置プラント用のものである。このようなプラントでは、
図16中の写真に示すように、モジュールを備える複数のチューブが組み合わされ得る。水電気分解装置モジュールのチューブ構成が同様の方法で組み合わされてもよい。
実施例5:加圧水素を生成するための電気分解装置の構成
多くの用途では、大気圧より高い圧力で水素を生成することが望ましい。この理由のために、ほとんどの市販の電気分解装置では加圧水素が生成される。例えば、市販のアルカリ電気分解装置は、一般に、1〜20barの圧力で水素を生成する。例示的な電気分解装置において加圧水素を生成するためには、水を加圧すると同時に、適用圧力下でも通気性電極で安定な気液界面を確実に維持する必要がある。換言すると、通気性電極は、典型的には、適用圧力下でも水が気孔を通して関連付けられたガス流路に押し出されることがないよう設計されなければならない。
【0114】
用いられる液体及び圧力差に対する多孔性材料の気孔の濡れに関連する式はWashburnの式である。
【0116】
式中、P
C=毛管圧力、r=気孔径、γ=液体の表面張力及びφ=液体と材料の接触角である。この式を用いることで、特定の差圧で所望される明確な気液界面を達成するための最適な孔径(円形の気孔)を算出し得る。
【0117】
例えば、液体の水と接触するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)材料について、接触角は典型的には100〜115°である。水の表面張力は典型的には25℃で0.07197N/mである。水が1MのKOHなどの電解質を含有する場合、水の表面張力は、典型的には0.07480N/mに高まる。これらのパラメータをWashburnの式に当てはめることで以下のデータが得られる。
【0119】
多くのPTFE材料が円形ではなく長楕円形の気孔を有するが、このデータは、1MのKOH(水性)及びPTFE材料(接触角は115°であった)が利用される液体から気体への転移では、通気性材料に掛かる1barの圧力差では、気孔は、好ましくは0.5ミクロン未満、より好ましくは0.25ミクロン未満、さらにより好ましくは約0.1ミクロン以下の半径を有するべきであることを示している。このようにすることで、適用圧力によって水がガス流路に導かれてしまう可能性は小さくなるであろう。
【0120】
接触角が100°であった場合、1MのKOH(水性)及びPTFE材料が利用される液体から気体への転移では、材料に係る1barの圧力差では、PTFE材料の気孔は、好ましくは0.1ミクロン未満、より好ましくは0.05ミクロン未満、さらにより好ましくは約0.025ミクロン以下の半径又は他の特徴的な寸法を有するべきである。
実施例6:電気分解装置の電力要求。最大AC−DC変換効率のために利用可能な三相電力に対する電気分解装置の調整。
【0121】
既述のとおり、950、1140、1150、1210、1330及び1430で図示されているタイプのモジュール中の個別のアノード−カソードセルは、直列もしくは並列、又は、これらの組み合わせで接続され得る。並列電気的構成のセルを備えるモジュールは単極モジュールと称される。直列電気的構成のセルを備えるモジュールは双極モジュールと称される(例えば、
図9(d)〜(e)を参照のこと)。さらに、モジュール(例えば、
図15中の1510)は、それら自体が直列又は並列で電気的に接続されていてもよい。
【0122】
全体的な電気的構成(セルが直列もしくは並列、又は、これらの組み合わせで接続されているかに関わらず)は、電気分解装置に係る電力要求に顕著に影響を及ぼす。普通、コスト、エネルギー効率及び設計の複雑さの理由のために、全体的な電気分解装置をより大きい総電圧及びより小さい総電流を利用するよう設計することが望ましい。これは、電気伝導体の価格は電流負荷が増大するに伴って高くなり、一方で、単位出力当たりのAC−DC整流器の価格は出力電圧が増大するに伴って低くなるためである。さらにより好ましくは、DC電力が要求されるため、電気分解装置は全体として、家庭用又は産業用AC電力からDCへの変換に係る電気損失が、理想的には10%を大きく下回るまで最低限とされるよう構築されるべきである。理想的には、電気分解装置構成全体の電力要求は、利用可能である三相家庭用又は産業用電源供給と合致されることとなる。これにより、ACからDCへの転換において事実上100%の効率が保証される。
【0123】
上述されている種々の置換を例示するために、950、1140、1150、1210、1330及び1430で図示されているタイプのモジュールの例を参照する。例示を目的として、各モジュールは、各々1m
2の1つの通気性アノード及び1つの通気性カソードを備える20個の個別のセルが含まれるよう構築されていると仮定し、ここで、各セルは、1.6V DC(=93%エネルギー効率HHV)及び10mA/cm
2の電流密度で運転される。これらの条件下では、各セルは、1日当たり(24時間)90グラムの水素を生成し、各モジュールでは1日当たり1.8kgの水素が生成されることとなる。
【0124】
このタイプのモジュールの電力要求に係る置換は以下のとおりとなる。
(1)モジュールが、セルがすべて並列に配置されている単極性のものであった場合、1.6Volt DC及び2000Ampの電流を供給することが可能である電源供給(合計で3.2kW)が要求されることとなる。
(2)モジュールが、セルがすべて直列に配置されている双極性のものであった場合、32Volt DC及び100Ampの電流を供給することが可能である電源供給(合計で3.2kW)が要求されることとなる。
【0125】
普通、双極モジュールは、より小さい電流及び大きい電圧が利用されることとなるため、より安価であり、より効率的であり、及び、電力に対してよりシンプルである。
【0126】
上記のタイプの60個のモジュールを電気的に組み合わせた場合、これらは、同様に、並列又は直列であることが可能である。電力要求に係る置換は以下のとおりである。
(1)並列構成の単極モジュールにおいて、合計電力要求は1.6Volt DC及び120,000Amp(合計で192kW)となる
(2)直列構成の単極モジュールにおいて、合計電力要求は96Volt DC及び2000Amp(合計で192kW)となる
(3)並列構成の双極モジュールにおいて、合計電力要求は32Volt DC及び6,000Amp(合計で192kW)となる
(4)直列構成の双極モジュールにおいて、合計電力要求は1920Volt DC及び100Amp(合計で192kW)となる。
【0127】
これらの条件のすべてにおいて、電気分解装置では、1日当たり108kgの水素が生成されることとなる。
【0128】
例示的な電気分解装置に係る最適な全体的な電気的構成は、その電力要求を利用可能である産業用又は家庭用三相電力に合致させることを目指すことにより判定可能である。これが達成可能である場合、整流器にはダイオード及びキャパシタのみが必要とされ、変圧器は必要とされないために、ACからDCへの変換に係る電力損失は、実質的にゼロに限定することが可能である。
【0129】
例えば、オーストラリアでは、三相主電力では、600Volt DCが、120Ampの最大電流負荷で供給される。電気分解装置中の個別のセルが1.6V DC及び10mA/cm
2の電流密度で最適に運転され、また、各々が1m
2である1つの通気性アノード及び1つの通気性カソードを備える場合、電気分解装置は、600Volt DCを引くためには直列の375個のセルが必要とされることとなる。この場合、個別のセルの各々には、1.6Volt DCの電圧が加えられることとなる。このような電気分解装置に引かれる総電流は100Ampとなり、60kWの総電力とされる。
【0130】
このような電気分解装置を構築するためには、直列の双極版の上記モジュールが19個組み合わされることとなる。これにより合計で380個のセルとなり、その各々には、600/380=1.58Volt DCが加えられることとなる。電気分解装置に引かれる総電流は、101Ampとなり、これは、オーストラリアにおける三相電源供給の最大電流負荷の範囲内に十分収まる。このような電気分解装置では、AC−DC電力の変換において100%に近い効率を伴って、1日24時間当たり34.2kgの水素が生成されることとなる。標準的な三相壁ソケットに差し込むことが可能であった。
【0131】
このような電気分解装置に必要とされる電源供給におけるAC−DC変換ユニットは、
図17に示されているタイプのデルタ配列に配線された6個のダイオード及び飲料缶の大きさのキャパシタよりなる非常に単純な構成のものとなる。このタイプのユニットは現在市販されている(例えば、「SEMIKRON−SKD160/16−BRIDGE RECTIFIER,3PH,160A,1600V」)。このように、電源供給に係るコストもまた最低限となり、実際上、わずかであるか、又は、全体として限定的ではない。
【0132】
利用可能な三相電力が効率的に利用され得る数々の代替的アプローチが存在する。例えば、他のアプローチは、同様にダイオード及びキャパシタのみを利用する非常に単純な回路を用いて三相電力を半波整流に供することであり、これにより、電気エネルギー損失が回避される。半波整流300Volt DCに対して調整された電気分解装置は、理想的には、直列の上記のタイプの187個の個別のセルを備えることとなる。このような電気分解装置は、180個の個別のセルを備える、直列に接続された9個の双極モジュールから構築可能である。各セルには、1.67Volt DCが加えられることとなる。引かれる総電流は96Ampとなる。このような電気分解装置では、1日24時間当たり16.2kgの水素が生成されることとなる。標準的な三相壁ソケットに差し込むことが可能であった。
【0133】
実施例7:多層平坦シート構成を備える電気化学反応器(「プレート−フレーム型モジュール」)
図18(a)は、「プレート−フレーム」型電気分解装置において複数の単層又はシート材料電極をどのように組み合わせ得るかを示す分解組立図である。以下の部品が、例示的な電気分解装置構造に挟持されるか、又は、加えられる。
(1)多孔性プラスチック支持体1620が組み込まれる凹状集気チャンバ1610を各々備える2つの端部プレート1600。
(2)ポリマー積層体1640中に保持されるデバイスの中央側において導電性触媒層がGortex(登録商標)材料、又は、同様の材料で被覆されていることが可能であるガス透過性材料電極1630(アノード)。この積層体はまた微細な導電性メッシュ1650を材料電極の導電性触媒側に固定する。このメッシュにより銅接続子1660までが接続される。
(3)電解質が(1MのKOH溶液)内部に含まれるスペーサ1670。
(4)ポリマー積層体1690中に保持されるデバイスの中央側において導電性触媒層がGortex(登録商標)材料、又は、同様の材料で被覆されている第2のガス透過性材料電極1680(カソード)。この積層体はまた微細な導電性メッシュ1700を材料電極の導電性触媒側に固定する。このメッシュにより銅接続子1710までが接続される。
【0134】
図18(b)に示すように、一緒にねじ留めされるか、そうでなければ、例えば糊、接着剤又は溶融プロセスによって一緒に取り付けられるか、結合される場合、アセンブリ1720は高度に効率的な電気分解装置として作用し得る。水溶液(1MのKOH)を、ポート1730,1740を介して電極間の空間に入れる。水はスペーサ1670中の容積を満たす。次いで、銅接続子1660,1710に電圧を印加すると、水が水素及び酸素に分離される。これらのガスはそれぞれの材料電極を通って移動する。酸素ガスは、ポート1750及び1760からデバイスを出る。水素は、アセンブリ1720の裏側の対応するポートからデバイスを出る。
【0135】
複数のこのようなアセンブリを多層アセンブリに組み合わせてもよい。
図18(c)〜(d)はこれをどのようにして行うかを示す図である。
図18(c)〜(d)では、2つのアセンブリ1720が、集気スペーサユニット1770がこれらの間に組み込まれることにより組み合わされている。スペーサユニットは水素出口1780を備え、これにより隣接するアセンブリ1720の各々から水素が収集される。この構成を容易とするために、アセンブリ1720の両方のカソード1690を、生成された水素が出口1780を出る前に通過し得る多孔性内部構造1790を有するスペーサ1770に取り付ける。アセンブリ1720のアノード1640は、得られる「プレート−フレーム」電気分解装置の外側において、スタックの外側に位置され、酸素が出口1750,1760を介して送出される。
【0136】
図19は、1.6Vの印加セル電圧(94%電気効率、HHV)で、断続的な「オン」及び「オフ」の切り替えを続けながら3日間にわたって運転した場合における、
図18(a)〜(b)に示されているデバイスの運転に係るデータを示す図である。図示のように、デバイスではガスが比較的一定の量で生成され、その過程において約10〜12mA/cm
2の電流が消費されている。運転3日目において(
図19(c))、デバイスを、示されているとおり、1.5V(99%電気効率、HHV)及び1.6V(94%電気効率、HHV)の両方でテストした。
【0137】
図18(c)〜(d)に示すように、この種の複数のアセンブリを1つの多層「プレート−フレーム」型電気分解装置に組み合わせてもよい。
【0138】
本明細書及び以下の特許請求の範囲を通して、別途文脈において要求されている場合を除き、用語「を含む(comprise)」と、「を含む(comprises)」や「を含んでいる(comprising)」などの変形とは、規定の整数もしくはステップ、又は、整数群もしくはステップの群の包含を意味するが、他のいずれかの整数もしくはステップ、又は、整数群もしくはステップ群の排除を意味しないことと理解されたい。
【0139】
また、任意の実施形態も、広義には、本明細書において参照又は明記されている部品、要素及び特徴から、個別に、又は、2つ以上の部品、要素もしくは特徴の組み合わせのいずれか又はすべてで総括して構成されていると言うことができ、また、本発明が属する技術分野において公知の均等物が存在する特定の整数が本明細書において記載されている場合、このような公知の均等物は、個別に規定されているかのように本明細書において援用されているとみなされる。
【0140】
好ましい実施形態を詳細に説明してきたが、本発明の範囲を逸脱することなく、多くの修正、変更、置換又は代替が当業者には明らかであろうことを理解すべきである。