特許第6267725号(P6267725)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ カンパニー ジェネラレ デ エスタブリシュメンツ ミシュランの特許一覧

<>
  • 特許6267725-大型土木車両のためのタイヤクラウン 図000002
  • 特許6267725-大型土木車両のためのタイヤクラウン 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6267725
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】大型土木車両のためのタイヤクラウン
(51)【国際特許分類】
   B60C 9/18 20060101AFI20180115BHJP
   B60C 9/20 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   B60C9/18 G
   B60C9/18 K
   B60C9/18 N
   B60C9/20 E
【請求項の数】14
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-548469(P2015-548469)
(86)(22)【出願日】2013年12月18日
(65)【公表番号】特表2016-500354(P2016-500354A)
(43)【公表日】2016年1月12日
(86)【国際出願番号】EP2013077027
(87)【国際公開番号】WO2014095957
(87)【国際公開日】20140626
【審査請求日】2016年9月28日
(31)【優先権主張番号】1262424
(32)【優先日】2012年12月20日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】514326694
【氏名又は名称】コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100170634
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 航介
(72)【発明者】
【氏名】セジャロン オリヴィエ
【審査官】 岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−513125(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0288752(US,A1)
【文献】 特開2004−026099(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0241742(US,A1)
【文献】 特開2010−167894(JP,A)
【文献】 特開平11−348509(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 9/18−9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
土木タイプの大型車両用タイヤ(1)であって、
− トレッド部(2)と、該トレッド部(2)の半径方向内側にあるクラウン補強体(3)と、該クラウン補強体(3)の半径方向内側にあるカーカス補強体(4)と、を備え、
− 前記クラウン補強体(3)は、半径方向外側から内側に向かって保護補強体(5)及びワーキング補強体(6)を有し、
− 前記保護補強体(5)は、第1の保護層(51)と、該第1の保護層(51)の半径方向外側に存在して該第1の保護層(51)に隣接する第2の保護層(52)と、を含み、前記第1及び第2の保護層(51、52)は、各層内で互いに平行であって、かつ、1つの層から隣接する層に交差する、円周方向(YY’)との間にそれぞれの角度A1及びA2を形成する弾性金属補強材を含み、
− 前記ワーキング補強体(6)は、第1のワーキング層(61)と、該第1のワーキング層(61)の半径方向外側に存在して該第1のワーキング層(61)に隣接する第2のワーキング層(62)と、を含み、前記第1及び第2のワーキング層(61、62)は、各層内で互いに平行であって、かつ、1つの層から隣接する層に交差する、前記円周方向(YY’)との間にそれぞれの角度B1及びB2を形成する非弾性金属補強材を含み、
前記第1のワーキング層(61)の前記金属補強材によって前記円周方向(YY’)との間に形成される前記角度B1は、50°以上で、厳密には90°未満であり、前記第2のワーキング層(62)の前記金属補強材によって前記円周方向(YY’)との間に形成される前記角度B2は非ゼロであり、12°以下である、
ことを特徴とするタイヤ(1)。
【請求項2】
前記第1のワーキング層(61)の前記金属補強材によって前記円周方向(YY’)との間に形成される前記角度B1は、少なくとも60°に等しい、
ことを特徴とする請求項1に記載のタイヤ(1)。
【請求項3】
前記第2のワーキング層(62)の前記金属補強材によって前記円周方向(YY’)との間に形成される前記角度B2は、10°以下である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のタイヤ(1)。
【請求項4】
前記第1及び第2の保護層(51、52)の前記金属補強材によって前記円周方向(YY’)との間にそれぞれ形成される前記角度A1及びA2は、70°以上であり、厳密には90°未満である、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のタイヤ(1)。
【請求項5】
前記第1及び第2の保護層(51、52)の前記金属補強材によって前記円周方向(YY’)との間にそれぞれ形成される前記角度A1及びA2は、80°以上であり、厳密には90°未満である、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のタイヤ(1)。
【請求項6】
前記第1及び第2の保護層(51、52)の前記金属補強材によって前記円周方向(YY’)との間にそれぞれ形成される前記角度A1及びA2は、絶対値が互いに等しい、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のタイヤ(1)。
【請求項7】
前記第1の保護層(51)は、前記第2のワーキング層(62)の半径方向外側に存在して該第2のワーキング層(62)に隣接する、
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のタイヤ(1)。
【請求項8】
前記第1の保護層(51)の前記金属補強材は、前記第2のワーキング層(62)の前記金属補強材に対して交差する、
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のタイヤ(1)。
【請求項9】
前記クラウン補強体(3)は、前記ワーキング補強体(6)の半径方向内側に追加補強体(7)を有し、該追加補強体(7)は、第1の追加層(71)と、該第1の追加層(71)の半径方向に外側に存在して前記第1の追加層(71)に隣接する第2の追加層(72)と、を含み、前記第1及び第2の追加層(71、72)は、各層内で互いに平行であって1つの層から次の層に交差する、前記円周方向(YY’)との間に15°以下のそれぞれの角度C1及びC2を形成する非弾性金属補強材を含む、
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のタイヤ(1)。
【請求項10】
前記第1及び第2の追加層(71、72)の前記金属補強材によって前記円周方向(YY’)との間にそれぞれ形成される前記角度C1及びC2は、12°以下である、
ことを特徴とする請求項9に記載のタイヤ(1)。
【請求項11】
前記第1及び第2の追加層(71、72)の前記金属補強材によって前記円周方向(YY’)との間にそれぞれ形成される前記角度C1及びC2は、絶対値が互いに等しい、
ことを特徴とする請求項9及び10に記載のタイヤ(1)。
【請求項12】
前記トレッド部(2)及び前記保護補強体(5)は、それぞれの軸方向幅L2及びL5を有し、前記保護補強体(5)の前記軸方向幅L5は、前記トレッド部(2)の前記軸方向幅L2の0.85倍以上であり、前記トレッド部(2)の前記軸方向幅L2以下である、
ことを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載のタイヤ(1)。
【請求項13】
前記トレッド部(2)及び前記ワーキング補強体(6)は、それぞれの軸方向幅L2及びL6を有し、前記ワーキング補強体(6)の前記軸方向幅L6は、前記トレッド部(2)の前記軸方向幅L2の0.7倍以上であり、0.9倍以下である、
ことを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載のタイヤ(1)。
【請求項14】
前記トレッド部(2)及び前記追加補強体(7)は、それぞれの軸方向幅L2及びL7を有し、前記追加補強体(7)の前記軸方向幅L7は、前記トレッド部(2)の前記軸方向幅L2の0.35倍以上であり、0.5倍以下である、
ことを特徴とする請求項9から13のいずれか1項に記載のタイヤ(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型土木車両に適合するように意図されたラジアルタイヤに関し、具体的には、このようなタイヤのクラウンに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、この種の用途に限定されるわけではないが、採石場又は露天採掘場から抽出された材料を輸送するための車両であるダンプに装着するための大型ラジアルタイヤについて具体的に説明する。大型タイヤとは、ヨーロッパタイヤリム技術機構、すなわちEURTO規格の意義範囲内における公称直径が少なくとも25インチのリムに装着されるように意図されたタイヤのことを意味する。
【0003】
ダンプは、様々な大きさの石で部分的に覆われた多少曲がりくねった敷地又は鉱山道又は道路上を走行するように意図されている。ダンプのタイヤは、使用時に、一方では機械的走行荷重を受け、他方では道路上に広がった石によって生じる機械的荷重を受ける。機械的走行荷重の中でも、このようなタイヤにとっては、多少曲がりくねった道程に起因する横方向荷重が特に重要であり、タイヤは十分な横方向推力を生成できることが必要である。さらに、石によって生じる機械的荷重は、タイヤに損傷を与えやすい衝撃をタイヤのクラウンに与え、従ってタイヤのクラウンは、これらの衝撃を吸収できる必要がある。
【0004】
タイヤは、トレッド部を介して地面に接するように意図されたクラウンを備える。このクラウンは、タイヤとその装着先のリムとの間に機械的接続をもたらすように意図された2つのビード部に、2つのサイドウォール部によって接続される。
【0005】
タイヤは、回転軸を中心に回転対称を示す形状寸法を有するので、タイヤの形状寸法は、一般にタイヤの回転軸を含む子午面で表すことができる。所与の子午面では、タイヤの回転軸に垂直な方向、タイヤの回転軸に平行な方向及び子午面に垂直な方向をそれぞれ半径方向、軸方向及び円周方向と呼ぶ。
【0006】
以下では、「〜の半径方向内側」という表現、又は、場合によっては「〜の半径方向外側」という表現は、「タイヤの回転軸に近い」こと、又は、場合によっては「タイヤの回転軸から離れている」ことを意味する。「〜の軸方向内側」という表現、又は、場合によっては「〜の軸方向外側」は、「タイヤの赤道面に近い」こと、又は、場合によっては「タイヤの赤道面から離れている」ことを意味し、赤道面とは、タイヤの回転軸に垂直な、トレッド部の中心を通る平面のことである。
【0007】
ラジアルタイヤは、トレッド部の半径方向内側のクラウン補強体と、クラウン補強体の半径方向内側のカーカス補強体とで構成された補強体を有する。
【0008】
通常、土木タイプの大型車両用ラジアルタイヤのカーカス補強体は、一般にエラストマコーティング材又はコーティング化合物でコーティングされた金属補強材で構成された少なくとも1つのカーカス層を含む。タイヤの分野では、通常は材料の成分をブレンドすることによって得られるエラストマ材料をコンパウンドと呼ぶ。カーカス層は主要部を含み、この主要部は、タイヤの2つのビード部を互いに接続するとともに、各ビード部内で、一般にビードワイヤと呼ばれる円周方向補強要素の周囲にタイヤの内側から外側に向けて巻かれて折り返し部を形成する。これらのカーカス層の金属補強材は互いに実質的に平行であり、円周方向との間に85°〜95°の角度を成す。
【0009】
土木タイプの大型車両用ラジアルタイヤのクラウン補強体は、カーカス補強体の半径方向外側に円周方向に配置された重なり合ったクラウン層を含む。各クラウン層は、一般にエラストマコーティング材又はコーティング化合物でコーティングされた互いに平行な金属補強材で構成される。
【0010】
通常は、クラウン層の中でも、半径方向外向きに最も離れた、保護補強体を構成する保護層と、保護補強体とカーカス補強体の間に半径方向に存在する、ワーキング補強体を構成するワーキング層とが区別される。
【0011】
少なくとも1つの保護層で構成される保護補強体は、基本的に、トレッド部を通じてタイヤの半径方向内向きに拡散しがちな機械的又は物理化学的作用からワーキング層を保護する。
【0012】
ダンプ用タイヤの場合、保護補強体は、2つの半径方向に重なり合った隣接する保護層を含むことが多い。各保護層は、円周方向との間に一般的には15°〜35°の、好ましくは20°〜30°の角度を形成する互いに平行な弾性金属補強材を含む。通常、保護層の金属補強材は、1つの保護層から次の保護層に交差する。
【0013】
少なくとも2つのワーキング層で構成されるワーキング補強体は、タイヤにタガを掛けて(フーピングして)タイヤに剛性及び路上安定性を与える機能を有する。このワーキング補強体は、タイヤの膨張圧により生じてカーカス補強体を介して伝えられる機械的膨張荷重と、タイヤが路上を走行することにより生じてトレッド部によって伝えられる機械的走行荷重の両方を吸収する。ワーキング補強体は、それ自体の固有の設計及び保護補強体によって酸化、衝撃及びパンクに耐える必要性もある。
【0014】
ダンプ用タイヤの場合、通常、ワーキング補強体は、2つの半径方向に重なり合った隣接するワーキング層を含む。各ワーキング層は、円周方向との間に一般に15°〜45°の角度を形成する互いに平行な非弾性金属補強材を含む。通常、ワーキング層の金属補強材は、1つのワーキング層から次のワーキング層に交差する。
【0015】
さらに、2つのワーキング層を含むワーキング補強体を有するダンプ用タイヤの場合には、ワーキング補強体の平衡角と呼ばれる角度が最大で45°に等しく、この角度は、平衡角の正接の2乗が各ワーキング層の補強材のそれぞれの角度の正接の積に等しくなるように定められる。換言すれば、平衡角は、基準ワーキング補強体と機械的に同等なワーキング補強体の2つのワーキング層の各々の金属補強材によって形成される角度である。この平衡角基準は、ワーキング補強体の軸方向又は横方向剛性、すなわち1mmの軸方向移動を得るためにワーキング補強体に加える必要がある軸方向力が若干高いという事実を具体化する。
【0016】
金属補強材の特徴付けについて言えば、金属補強材は、金属補強材に加わる引張力(単位:N)を金属補強材の相対的伸び率(単位:%)の関数として表す、力伸び率曲線と呼ばれる曲線によって機械的に特徴付けられる。構造的伸び率As(単位:%)、破断時総伸び率At(単位:%)、破断時の力Fm(単位Nの最大負荷)及び破断強度Rm(単位:MPa)などの機械的引張特性は、この力伸び率曲線から導出され、これらの特性は、1984年のISO6892規格に従って測定される。
【0017】
定義によれば、金属補強材の破断時総伸び率Atは、構造的伸び率、弾性伸び率及び塑性伸び率の合計(At=As+Ae+Ap)である。構造的伸び率Asは、金属補強材を構成する金属スレッドの、低張力下における相対的位置に由来する。弾性伸び率Aeは、金属補強材を構成する金属スレッドの金属の個別に考慮した弾性そのもの(フックの法則)に由来する。塑性伸び率Apは、これらの金属スレッドの金属の個別に考慮した塑性(弾性限界を上回る不可逆的変形)に由来する。当業者には周知であるこれらの様々な伸び率及びそのそれぞれの有意性については、例えば、米国特許第5843583号、国際公開第2005/014925号及び国際公開第2007/090603号に記載されている。
【0018】
この力/伸び率曲線のあらゆる地点では、その地点において力伸び率曲線に正接する直線の勾配を表す引張係数(単位:GPa)も定められる。特に、力伸び率曲線の弾性線形部分の引張係数には、引張弾性係数又はヤングの係数という名称が付けられている。
【0019】
通常、金属補強材においては、保護層で用いられるような弾性金属補強材と、ワーキング層で用いられるような非弾性金属補強材とが区別される。
【0020】
弾性金属補強材は、構造的伸び率Asが少なくとも1%に等しく、破断時総伸び率Atが少なくとも4%に等しいことを特徴とする。さらに、弾性金属補強材は、最大で150GPaに等しい、通常は40GPa〜150GPaの引張弾性係数を有する。
【0021】
非弾性金属補強材は、張力下における相対的伸び率が、破断力Fmの10%に等しく、最大で0.2%に等しいことを特徴とする。さらに、非弾性金属補強材は、通常、150GPa〜200GPaの引張弾性係数を有する。
【0022】
地面の上に存在する石又は衝撃によって生じる機械的荷重の影響下では、少なくとも2つの保護層を含む保護補強体と、少なくとも2つのワーキング層を含むワーキング補強体とを有する上述したクラウン補強体が、部分的に、或いは完全に破断することがある。実際には、クラウン層の各々が、半径方向最外部のクラウン層から半径方向最内部のクラウン層へと順に屈する。
【0023】
当業者であれば、衝撃を受けたタイヤのクラウン補強体の破断強度を特徴付けるために、推奨圧力まで膨張させたタイヤを走行させ、タイヤのサイズに従って1インチ(すなわち25.4mm)〜2.2インチ(すなわち55.9mm)の直径及び設定した高さの円筒圧子又は障害物を介して推奨負荷を加えることを含む試験を実施することを知っている。破断強度は、圧子の臨界高さ、すなわちクラウン補強体の完全な破断を引き起こす、つまりは全てのクラウン層が破断する圧子の最大高さによって特徴付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】米国特許第5843583号明細書
【特許文献2】国際公開第2005/014925号
【特許文献3】国際公開第2007/090603号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明者らは、地面の上に存在する石によって生じる機械的荷重の影響を受けにくい土木タイプの大型車両用ラジアルタイヤのクラウン補強体を作成するという目的を定めた。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明によれば、この目的は、土木タイプの大型車両用タイヤであって、
− トレッド部と、このトレッド部の半径方向内側にあるクラウン補強体と、このクラウン補強体の半径方向内側にあるカーカス補強体と、を備え、
− クラウン補強体は、半径方向外側から内側に向かって保護補強体及びワーキング補強体を有し、
− 保護補強体は、第1の保護層と、この第1の保護層の半径方向外側に存在して第1の保護層に隣接する第2の保護層と、を含み、第1及び第2の保護層は、各層内で互いに平行であって1つの層から次の層に交差する、円周方向との間にそれぞれの角度A1及びA2を形成する弾性金属補強材を含み、
− ワーキング補強体は、第1のワーキング層と、この第1のワーキング層の半径方向外側に存在して第1のワーキング層に隣接する第2のワーキング層と、を含み、第1及び第2のワーキング層は、各層内で互いに平行であって1つの層から次の層に交差する、円周方向との間にそれぞれの角度B1及びB2を形成する非弾性金属補強材を含み、
− 第1のワーキング層の金属補強材によって円周方向との間に形成される角度B1は、少なくとも50°に等しく(50°以上であり)、厳密には90°未満であり、第2のワーキング層の金属補強材によって円周方向との間に形成される角度B2は非ゼロであり、最大で12°に等しい(12°以下である)、
タイヤによって達成された。
【0027】
先行技術では、各ワーキング層が、円周方向との間に一般に15°〜45°の角度を形成する互いに平行な非弾性金属補強材を含む。従って、本発明によるワーキング補強体は、第1のワーキング層の金属補強材によって円周方向との間に形成される角度B1が少なくとも50°に等しく、すなわち40°という最大値よりも大きく、また第2のワーキング層の金属補強材によって円周方向との間に形成される角度B2が最大で12°に等しく、すなわち15°という最小値よりも小さいという点で異なる。なお、第1のワーキング層の金属補強材の角度B1及び第2のワーキング層の金属補強材の角度B2については、それぞれ90°及び0°という極端な角度値は本発明から除外される。
【0028】
第1及び第2のワーキング層の金属補強材のそれぞれの角度B1とB2の差分、又はより正確に言えばこれらの角度の絶対値の差分は少なくとも37°である。(tan B)2=(tan B1)*(tan B2)を満たす予め定められる平衡角Bは、先行技術と同様に最大で45°に等しく、すなわち、機械的走行荷重下におけるワーキング補強体の全体的な機械的挙動は、基準として考慮する先行技術のタイヤのワーキング補強体のものと同等である。
【0029】
このワーキング補強体の破断強度は、石、すなわち障害物によって生じる機械的荷重に関して大幅に改善される。本発明によるワーキング補強体の完全な破断を引き起こす圧子の臨界高さは、基準として考慮する先行技術のワーキング補強体の完全な破断を引き起こす圧子の臨界高さの少なくとも1.2倍に等しい。換言すれば、ワーキング補強体の破断強度は、少なくとも20%増加する。
【0030】
第1のワーキング層の金属補強材によって円周方向との間に形成される角度B1は少なくとも60°に等しいことが好ましく、これによってワーキング補強体の破断強度はさらに向上する。
【0031】
第2のワーキング層の金属補強材によって円周方向との間に形成される角度B2は最大で10°に等しいことが好ましく、このこともワーキング補強体の破断強度の向上に寄与する。
【0032】
第1及び第2の保護層の金属補強材によって円周方向との間にそれぞれ形成される角度A1及びA2は少なくとも70°に等しく、厳密には90°未満である。この保護層の角度範囲は、保護補強体の破断強度を約10%高めることができる。上述したワーキング層と組み合わせた結果、ワーキング補強体の破断強度の向上は、少なくとも35%に達することができる。
【0033】
第1及び第2の保護層の金属補強材によって円周方向との間にそれぞれ形成される角度A1及びA2は、少なくとも80°に等しく、厳密には90°未満であることが有利である。この結果、上述の技術的効果はさらに増幅される。
【0034】
第1及び第2の保護層の金属補強材によって円周方向との間に形成される角度A1及びA2は、絶対値が互いに等しいことが好ましい。
【0035】
第1の保護層は、第2のワーキング層の半径方向外側に存在してこれに隣接することが有利である。隣接するとは、ある層が次の層と直接接触し、すなわち、例えばエラストマ化合物の層などの介在要素によって次の層から離間していないことを意味する。この2つの層(保護層及びワーキング層)の近接性は、ワーキング補強体と保護補強体の間の機械的結合を保証する。
【0036】
また、第1の保護層の金属補強材は、第2のワーキング層の金属補強材に対して交差することが好ましい。第1の保護層と第2のワーキング層のそれぞれの補強材が交差することにより、やはりクラウン補強体の機械的動作が改善される。
【0037】
公称直径が少なくとも49インチのリムに取り付けられるように意図された最大サイズのタイヤでは、クラウン補強体が、通常、ワーキング補強体の半径方向内側に、第1の追加層と、この第1の追加層の半径方向に外側に存在して第1の追加層に隣接する第2の追加層と、をさらに含み、これらの第1及び第2の追加層は、各層内で互いに平行であって1つの層から次の層に交差する、円周方向との間に最大で15°に等しいそれぞれの角度C1及びC2を形成する非弾性金属補強材を含む。この追加補強体は、フーピング機能を有し、すなわちタイヤの膨張時におけるカーカス補強体の半径方向移動を制限する。
【0038】
第1及び第2の追加層の金属補強材によって円周方向との間にそれぞれ形成される角度C1及びC2は、最大で12°に等しいことが好ましい。これらの角度が小さければ小さいほど、カーカス補強体のフーピング効果が大きくなり、ワーキング層の端部における機械的荷重の度合いがさらに低下するようになる。
【0039】
第1及び第2の追加層の金属補強材によって円周方向との間にそれぞれ形成される角度C1及びC2は、絶対値が互いに等しいことがさらに好ましい。
【0040】
それぞれの軸方向幅L2及びL5を有するトレッド部及び保護補強体では、保護補強体の軸方向幅L5が、トレッド部の軸方向幅L2の少なくとも0.85倍に等しく、最大でトレッド部の軸方向幅L2に等しい。トレッド部の軸方向幅とは、軸方向直線、すなわちタイヤの回転軸に平行な直線上への、トレッド部の両端部の射影間の軸方向距離を意味する。保護補強体の軸方向幅とは、軸方向に最も広い保護層の軸方向幅、すなわちこの保護層の両端部の、軸方向直線上への射影間の軸方向距離を意味する。
【0041】
本発明によるタイヤでは、軸方向に最も広い保護層は、一般に保護補強体の半径方向内向きに最も離れた第1の保護層である。第2の保護層は、それよりも軸方向に狭く、軸方向幅はトレッド部の軸方向幅L2の0.6倍〜0.75倍である。このような設計では、保護層が、第1のワーキング層よりも広いという理由でオーバーハングしていると言われ、これにより、トレッド部に反復的な衝撃が加わる影響下で第1のワーキング層の端部が係脱するリスクを低減することができる。第2の保護層は、トレッド部に対する衝撃によって最も負荷を受けるワーキング補強体の中央部分を保護することに限定されるように狭くなっている。
【0042】
それぞれの軸方向幅L2及びL6を有するトレッド部及びワーキング補強体では、ワーキング補強体の軸方向幅L6が、トレッド部の軸方向幅L2の少なくとも0.7倍に等しく、最大で0.9倍に等しい。保護補強体と同様に、ワーキング補強体の軸方向幅は、軸方向に最も広いワーキング層の軸方向幅、すなわちこのワーキング層の両端部の、軸方向直線上への射影間の軸方向距離である。
【0043】
本発明によるタイヤでは、軸方向に最も広いワーキング層は、一般にワーキング補強体の半径方向内向きに最も離れた第1のワーキング層である。第2のワーキング層は、それよりも軸方向に狭く、軸方向幅はトレッド部の軸方向幅L2の0.65倍〜0.8倍である。このようなワーキング補強体の設計は、補強体の目的とワーキング補強体の耐久性との間の妥協に起因する。
【0044】
それぞれの軸方向幅L2及びL7を有するトレッド部及び追加補強体では、追加補強体の軸方向幅L7が、トレッド部の軸方向幅L2の少なくとも0.35倍に等しく、最大で0.5倍に等しい。追加補強体の軸方向幅とは、軸方向に最も広い追加層の軸方向幅、すなわちこの追加層の両端部の、軸方向直線上への射影間の軸方向距離を意味する。
【0045】
本発明によるタイヤでは、軸方向に最も広い追加層は、一般に追加補強体の半径方向内向きに最も離れた第1の追加層である。第2の追加層は、それよりも軸方向に狭く、軸方向幅はトレッド部の軸方向幅L2の0.3倍〜0.45倍である。このような追加補強体の設計は、カーカス補強体の基本的に中央部分における半径方向変形を制限することができ、或いは換言すれば、追加補強体のフーピング機能をタイヤの中央部分に制限することができる。
【0046】
図1及び図2の説明から本発明の特徴がさらに良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】本発明による、土木タイプの大型車両用タイヤのクラウンの子午面における半断面を縮尺通りでない単純化した形で示す図である。
図2】本発明によるタイヤのクラウン補強体を構成する様々な層の補強材の角度を示すためにクラウン層を切り取った、クラウン補強体を上方から見た平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
図1には、土木タイプの大型車両用タイヤ1のクラウンの子午線半断面を示しており、このタイヤ1は、トレッド部2、トレッド部2の半径方向内側のクラウン補強体3、及びクラウン補強体3の半径方向内側のカーカス補強体4を含む。クラウン補強体3は、半径方向外側から内向きに、保護補強体5、ワーキング補強体6及び追加補強体7を有し、保護補強体5は、第1の保護層51と、この第1の保護層51の半径方向外側に存在して第1の保護層51に隣接する第2の保護層52とを含み、ワーキング補強体6は、第1のワーキング層61と、この第1のワーキング層61の半径方向外側に存在して第1のワーキング層61に隣接する第2のワーキング層62とを含み、追加補強体7は、第1の追加層71と、この第1の追加層71の半径方向外側に存在して第1の追加層71に隣接する第2の追加層72と、を含む。
【0049】
図2は、本発明による土木タイプの大型車両用タイヤ1のクラウン補強体を上方から見た平面図である。クラウン補強体の層は、全てのクラウン層、及びこれらの層の補強材によって円周方向(YY’)との間に形成されるそれぞれの角度を示すために切り取っている。保護補強体は2つの保護層(51、52)で構成され、これらの層の金属補強材は、同じ1つの層内で互いに平行であり、円周方向(YY’)との間に、少なくとも80°に等しく厳密には90°未満である互いに等しいそれぞれの角度A1及びA2を形成する。ワーキング補強体は2つのワーキング層(61、62)で構成され、これらの層の金属補強材は、同じ1つの層内で互いに平行であり、円周方向(YY’)との間に、それぞれが少なくとも60°に等しく最大で10°に等しい角度B1及びB2を形成する。最後に、追加補強体は2つの追加層(71、72)で構成され、これらの層の金属補強材は、同じ1つの層内では互いに平行であり、円周方向(YY’)との間に、互いに等しく最大で12°に等しいそれぞれの角度C1及びC2を形成する。
【0050】
先行技術のタイヤを参照して、53/80R63及び24/85R35のサイズのタイヤについて本発明を検討した。
【0051】
本発明によるタイヤのクラウン補強体は、半径方向外側から内側に向かって、
− 円周方向との間にそれぞれ+85°及び−85°の角度A1及びA2を形成するそれぞれの弾性金属補強材を有する第1及び第2の保護層を含む保護補強体と、
− 円周方向との間に、25°の均等角に対応するそれぞれ+64°及び−6°の角度B1及びB2を形成するそれぞれの非弾性金属補強材を有する第1の及び第2のワーキング層を含むワーキング補強体と、
− 円周方向との間にそれぞれ+8°及び−8°の角度C1及びC2を形成するそれぞれの非弾性金属補強材を有する第1及び第2の追加層を含む追加補強体と、
を有する。
【0052】
先行技術のタイヤのクラウン補強体は、半径方向外側から内側に、
− 円周方向との間にそれぞれ+25°及び−25°の角度A1及びA2を形成するそれぞれの弾性金属補強材を有する第1及び第2の保護層を含む保護補強体と、
− 円周方向との間に、25°の均等角に対応するそれぞれ+33°及び−19°の角度B1及びB2を形成するそれぞれの非弾性金属補強材を有する第1の及び第2のワーキング層を含むワーキング補強体と、
− 円周方向との間にそれぞれ+8°及び−8°の角度C1及びC2を形成するそれぞれの非弾性金属補強材を有する第1及び第2の追加層を含む追加補強体と、
を有する。
【0053】
24/85R35のサイズのタイヤの場合、1.2インチ(すなわち30.5mm)の直径の円筒圧子を用いたクラウンパンク試験では、本発明によるタイヤのクラウンの全体的な破断強度が先行技術のタイヤに比べて29%向上したことが示された。
【0054】
本発明は、本明細書で上述した特徴に限定されるわけではなく、例えば、限定的な意味ではないが、
− 第1及び第2のワーキング層の最適な角度範囲を入れ替えたワーキング補強体、
− 対象の技術課題を解決するために、円周方向との間に、クラウン補強体の別の最適な角度に対応する最大で10°に等しいそれぞれの角度A1及びA2を形成するそれぞれの補強材を有する保護層を含む保護補強体、
などの他の実施形態にも拡張することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 タイヤ
2 トレッド部
3 クラウン補強体
4 カーカス補強体
5 保護補強体
6 ワーキング補強体
7 追加補強体
51 第1の保護層
52 第2の保護層
61 第1のワーキング層
62 第2のワーキング層
71 第1の追加層
72 第2の追加層
図1
図2