【実施例】
【0026】
以下、本発明の様々な実施形態に係る硬質膜被覆部材1の実施例を説明する。以下の実施例は、例示であり、本発明は以下に述べる実施例に限定されるものではない。
【0027】
基材の準備
5000系の板状アルミニウム合金基材(5052材)を複数準備した。当該基材は、20mm×100mmで板厚が1mmのものを準備した。
【0028】
亜鉛置換層の形成
次に、当該基材の表面に以下の方法で亜鉛置換層を形成した。具体的には、まず、メルテックス株式会社製のアルミ二ウムクリーナーNE−6溶液(濃度60g/L)に基材を浸漬して70℃で60秒間脱脂し、この脱脂後の基材を水道水で30秒間洗浄した。次いで、この水洗浄後の基材を、濃度100ml/LのアクタンE−10と濃度10g/Lのアクタン70との混合溶液に浸漬し、70℃で30秒間エッチングした。次に、エッチング後の基材に1回当たり30秒間の水道水での水洗を2回行った。次に、67%硝酸(500ml/L)、98%硫酸(250ml/L)、アクタン70(120g/L)の混合水溶液中に常温で10秒間酸浸漬し、1回当たり30秒間の水道水での水洗を2回行った。次に、この洗浄後の基材を濃度200ml/LのアルモンENを主成分とする亜鉛置換液に25℃で90秒間浸漬させ、基材表面に亜鉛置換層を析出させた。その後、1回当たり30秒間の水道水による水洗を2回行った。次に、亜鉛置換層が形成された基材を、65%の硝酸に常温で15秒間浸漬し、スマットを除去した。次に、スマットを除去した基材に1回当たり30秒間の水道水洗浄を2回行った。次に、洗浄後の基材を濃度200ml/LのアルモンENを主成分とする亜鉛置換液に25℃で60秒間浸漬させ、2回目の亜鉛置換処理を行った後、水道水にて水洗した。
【0029】
無電解ニッケルめっき層の形成
次に、亜鉛置換層が形成された各基材を、55ml/LのメルプレートNI−2280LF M1と、100ml/LのメルプレートNI−2280LF M2、その他補給剤との混合液に90℃で浸漬させ、亜鉛置換層の上にリン濃度が12.8wt%の無電解ニッケルめっきを厚さ20μmで析出させた。このようにして、表面に無電解ニッケルめっき層が形成された基材を複数準備した。
【0030】
試料1(比較例)の作成
無電解ニッケルめっき層が形成された基材の1つを310℃にて30分間加熱処理した。次に、この加熱処理後の基材の表面に、以下の方法により、シリコンを含む非晶質炭素膜を密着用中間層として160nm形成し、この中間層の上に非晶質炭素膜を340nm形成した。具体的には、まず加熱処理後の基材をイソプロピルアルコールに浸漬し、次いで超音波洗浄を5分間行った。その後、高圧DCパルスプラズマCVD装置に各基材をセットし、以下の条件で非晶質炭素膜を成膜した。すなわち、まず高圧DCパルスプラズマCVD装置を7×10−4Paまで真空排気した後、ガス流量30SCCM、ガス圧2Paのアルゴンガスプラズマを用い、印加電圧−5kV、パルス周波数10kHz、パルス幅10μsの条件で、基材を約5分クリーニングした。次に、当該CVD装置からアルゴンガスを排気した後、基材を約10分間放置して自然降温させた。続いて、CVD装置に流量30SCCM、ガス圧2Paのテトラメチルシランを導入し、印加電圧−4.5Kv、パルス周波数10kHz、パルス幅10μsの条件で8分間成膜し、無電解ニッケルめっき層上にシリコンを含む密着用中間層を形成した。次に、CVD装置内のテトラメチルシランガスを排気した後、基材を20分間放置して自然降温させた。続いて、CVD装置に流量30SCCM、ガス圧2PaのアセチレンをCVD装置内へ導入し、印加電圧−5Kv、パルス周波数10kHz、パルス幅10μsの条件で、10分間非晶質炭素膜を成膜した。次に、非晶質炭素膜が成膜された基材をCVD装置内に20分間放置して自然降温させ冷却した。次に、流量30SCCM、ガス圧2PaのアセチレンをCVD装置内へ再度導入し、印加電圧−5Kv、パルス周波数10kHz、パルス幅10μsの条件で、再度非晶質炭素膜を10分間成膜し、試料1を得た。
【0031】
非晶質炭素膜成膜中の基材上の無電解ニッケルめっき層の温度の確認
無電解ニッケルめっき層が形成された基材に260℃を変色温度とするサーモラベルを添付したものを準備した。この基材に、試料1と同様の工程(310℃での加熱は行わない)により、シリコンを含む非晶質炭素膜を密着用中間層として160nm形成し、この中間層の上に非晶質炭素膜を340nm形成した。このようにして非晶質炭素膜を成膜した後にサーモラベルの変色が起こっていないことを確認した。このように、試料1の非晶質炭素膜の成膜工程では、無電解ニッケルめっき層を含む基材の温度が
260℃未満に保たれることを確認した。
【0032】
試料2(比較例)の作成
無電解ニッケルめっき層が形成された基材の1つを280℃にて60分間加熱処理した後に、試料1と同様の方法を用いて、シリコンを含む非晶質炭素膜を密着用中間層として160nm形成し、この中間層の上に非晶質炭素膜を340nm形成して試料2を得た。
【0033】
試料3(実施例)の作成
無電解ニッケルめっき層が形成された基材の1つに、試料1と同様の方法を用いて(310℃での加熱は行わない)、シリコンを含む非晶質炭素膜を密着用中間層として160nm形成し、この中間層の上に非晶質炭素膜を340nm形成し試料3を得た。上述の通り、非晶質炭素膜の成膜工程を通じて基材の温度は常に260℃未満に保たれていた。
【0034】
試料4(実施例)の作成
無電解ニッケルめっき層が形成された基材の1つを230℃にて60分間加熱処理した。次に、この加熱処理後の基材に、試料1と同様の方法を用いて(310℃での加熱は行わない)、シリコンを含む非晶質炭素膜を密着用中間層として160nm形成し、この中間層の上に非晶質炭素膜を340nm形成し試料4を得た。上述の通り、非晶質炭素膜の成膜工程を通じて基材の温度は常に260℃未満に保たれていた。
【0035】
得られた試料1〜試料4のそれぞれについて、摩擦摩耗試験を行った。摩擦摩耗試験は、新東科学株式会社製のトライボギアHHS−2000を用い、常温、無潤滑にて以下の測定条件により、各試料の非晶質炭素膜が形成された面上で、直径2.0mmのSUJ2の圧子を繰り返し往復させながら各試料表面の摩擦係数を測定した。この摩擦係数の測定は、加減重往復測定により実施した。
測定条件1
・測定距離 : 20mm
・測定速度 : 5mm/sec
・最小荷重 : 700g
・最大荷重 : 950g
測定条件2
・測定距離 : 20mm
・測定速度 : 5mm/sec
・最小荷重 : 500g
・最大荷重 : 700g
【0036】
図2は、測定条件1における試料1の磨耗回数に応じた摩擦係数の変化を示すグラフ、
図3は、測定条件2における試料1の磨耗回数に応じた摩擦係数の変化を示すグラフである。
図2及び
図3の横軸は磨耗回数を表し、縦軸は測定された摩擦係数を示す。
図2に示すとおり、測定条件1において、試料1の摩擦係数は、試験開始直後に、0.2μ程度から0.5μ以上に急上昇し、摩耗回数が10のとき(つまり、圧子を10往復させたとき)に非晶質炭素膜が破壊された。試料1の破壊が確認された時点で試験を中止した。
図4は、測定条件1において圧子が10往復した後に撮影された試料1の表面の写真を示す。
図4の写真は、CCDカメラを用い、倍率200倍で撮影された。なお、本明細書における類似の写真は、全て、CCDカメラを用い、倍率200倍で撮影したものである。図示のとおり、圧子が10往復した後の試料1の表面には、左右方向に延びる帯状にボールの軌跡が現れており、この軌跡に沿って金属光沢を持った非晶質炭素膜の下地が露出している。このことから、非晶質炭素膜が破壊されていることが確認できた。また、
図3に示すとおり、測定条件2において、試料1の摩擦係数は、試験開始直後に急上昇し摩耗回数が31のときに非晶質炭素膜が破壊された。試料1の破壊が確認された時点で試験を中止した。
図5は、測定条件2において圧子が31往復した後に撮影された試料1の表面の写真を示す。図示のとおり、圧子が31往復した後の試料1の表面には、左右方向に延びる帯状にボールの軌跡が現れており、この軌跡に沿って金属光沢を持った非晶質炭素膜の下地が露出している。このことから、非晶質炭素膜が破壊されていることが確認できた。
【0037】
図6は、測定条件1における試料2の磨耗回数に応じた摩擦係数の変化を示すグラフであり、
図7は、測定条件2における試料2の磨耗回数に応じた摩擦係数の変化を示すグラフである。
図6に示すとおり、測定条件1において、試料2の摩擦係数は、試験開始直後に0.5μ弱まで急上昇し、摩耗回数が23のときにその表面に形成された非晶質炭素膜が破壊された。この試料2の破壊が確認された時点で試験を中止した。
図8は、測定条件1において圧子が23往復した後に撮影された試料2の表面の写真を示す。図示のとおり、圧子が23往復した後の試料2の表面には、左右方向に延びる帯状にボールの軌跡が現れており、この軌跡に沿って金属光沢を持った非晶質炭素膜の下地が露出している。このことから、非晶質炭素膜が破壊されていることが確認できた。また、
図7に示すとおり、測定条件2において、試料2の摩擦係数は、試験開始直後に0.5μ弱まで急上昇し、摩耗回数が21のときに非晶質炭素膜が破壊された。試料2の破壊が確認された時点で試験を中止した。
図9は、測定条件2において圧子が21往復した後に撮影された試料2の表面の写真を示す。図示のとおり、圧子が21往復した後の試料2の表面には、左右方向に延びる帯状にボールの軌跡が現れており、この軌跡に沿って金属光沢を持った非晶質炭素膜の下地が露出している。このことから、非晶質炭素膜が破壊されていることが確認できた。
【0038】
図10は、測定条件1における試料3の磨耗回数に応じた摩擦係数の変化を示すグラフであり、
図11は、測定条件2における試料3の磨耗回数に応じた摩擦係数の変化を示すグラフである。
図10及び
図11に示すとおり、試料3の摩擦係数は、測定条件1及び測定条件2のいずれにおいても、非晶質炭素膜の存在を示す0.2μ前後で低く安定しており、この実験による摩擦係数の実質的な上昇は見られなかった。
図12は、測定条件1において圧子が100往復した後に撮影された試料3の表面の写真を示し、
図13は、測定条件2において圧子が100往復した後に撮影された試料3の表面の写真を示す。図示のとおり、いずれの測定条件で実験を行った場合においても、圧子が100往復した後の試料3の表面には圧子の軌跡を視認することができない。これらの試験結果から、試料3は良好な耐摩擦磨耗性を示すことが確認できた。
【0039】
図14は、測定条件1における試料4の磨耗回数に応じた摩擦係数の変化を示すグラフであり、
図15は、測定条件2における試料4の磨耗回数に応じた摩擦係数の変化を示すグラフである。
図14及び
図15に示すとおり、試料4の摩擦係数は、測定条件1及び測定条件2のいずれにおいても、非晶質炭素膜の存在を示す0.2μ前後で低く安定しており、この実験による摩擦係数の実質的な上昇は見られなかった。
図16は、測定条件1において圧子が100往復した後に撮影された試料4の表面の写真を示し、
図17は、測定条件2において圧子が100往復した後に撮影された試料4の表面の写真を示す。図示のとおり、いずれの測定条件で実験を行った場合においても、圧子が100往復した後の試料4の表面には圧子の軌跡を視認することができない。これらの試験結果から、試料4は良好な耐摩擦磨耗性を示すことが確認できた。
【0040】
次に、試料1〜3と同様の方法により試料5〜7を作製した。試料5〜7は、試料1〜3よりも薄い3μmの膜厚の無電解ニッケルめっき層を有する。具体的には、試料5は、試料1と同様の方法により、基材、亜鉛置換層、無電解ニッケルめっき層(3μm)、非晶質炭素膜を積層して成り、非晶質炭素膜を形成する前に基材を310℃にて30分間加熱処理した。試料6は、試料2と同様に、基材、亜鉛置換層、無電解ニッケルめっき層(3μm)、非晶質炭素膜を積層して成り、非晶質炭素膜を形成後の基材を280℃にて60分間加熱処理することにより得られた。試料7は、試料3と同様に、基材、亜鉛置換層、無電解ニッケルめっき層(3μm)、非晶質炭素膜を積層して成る。試料3と同様に、試料7の無電解ニッケルめっき層は、非晶質炭素膜の成膜工程を通じて常時260℃未満であった。このように、試料5〜7の無電解ニッケルめっき層の厚さはいずれも3μmであり、試料5〜7はこの点において試料1〜3と異なっている。
【0041】
得られた試料5〜7のそれぞれについて、試料1〜3と同様の方法で摩擦摩耗試験を行った。
図18は、測定条件1における試料5の磨耗回数に応じた摩擦係数の変化を示すグラフ、
図19は、測定条件2における試料5の磨耗回数に応じた摩擦係数の変化を示すグラフである。
図18に示すとおり、測定条件1において、試料5の摩擦係数は、試験開始直後に1.2μ付近まで急上昇し、摩耗回数が5のときに非晶質炭素膜が破壊された。この試料5の破壊が確認された時点で試験を中止した。
図20は、測定条件1において圧子が5往復した後に撮影された試料5の表面の写真を示す。図示のとおり、圧子が5往復した後の試料5の表面には、左右方向に延びる帯状にボールの軌跡が現れており、この軌跡に沿って金属光沢を持った非晶質炭素膜の下地が露出している。このことから、非晶質炭素膜が破壊されていることが確認できた。また、
図19に示すとおり、測定条件2において、試料5の摩擦係数は、試験開始直後に0.8μ付近まで急上昇し、摩耗回数が5ときに非晶質炭素膜が破壊された。この試料5の破壊が確認された時点で試験を中止した。
図21は、測定条件2において圧子が5往復した後に撮影された試料5の表面の写真を示す。図示のとおり、圧子が5往復した後の試料5の表面には、左右方向に延びる帯状にボールの軌跡が現れておりこの軌跡に沿って金属光沢を持った非晶質炭素膜の下地が露出している。このことから、非晶質炭素膜が破壊されていることが確認できた。
【0042】
図22は、測定条件1における試料6の磨耗回数に応じた摩擦係数の変化を示すグラフであり、
図23は、測定条件2における試料6の磨耗回数に応じた摩擦係数の変化を示すグラフである。
図22に示すとおり、測定条件1において、試料6の摩擦係数は、試験開始直後に0.8μまで急上昇し、摩耗回数が6のときにその表面に形成された非晶質炭素膜が破壊された。この試料6の破壊が確認された時点で試験を中止した。
図24は、測定条件1において圧子が6往復した後に撮影された試料6の表面の写真を示す。図示のとおり、圧子が6往復した後の試料6の表面には、左右方向に延びる帯状にボールの軌跡が現れており、この軌跡に沿って金属光沢を持った非晶質炭素膜の下地が露出している。このことから、非晶質炭素膜が破壊されていることが確認できた。また、
図23に示すとおり、測定条件2において、試料6の摩擦係数は、試験開始直後に0.7μまで急上昇し、摩耗回数が5のときに非晶質炭素膜が破壊された。この試料6の破壊が確認された時点で試験を中止した。
図25は、測定条件2において圧子が5往復した後に撮影された試料6の表面の写真を示す。図示のとおり、圧子が5往復した後の試料6の表面には、左右方向に延びる帯状にボールの軌跡が現れており、この軌跡に沿って金属光沢を持った非晶質炭素膜の下地が露出している。このことから、非晶質炭素膜が破壊されていることが確認できた。
【0043】
図26は、測定条件1における試料7の磨耗回数に応じた摩擦係数の変化を示すグラフであり、
図27は、測定条件2における試料7の磨耗回数に応じた摩擦係数の変化を示すグラフである。
図26に示すとおり、測定条件1において、試料7の摩擦係数は、試験開始直後に1以上に急上昇し、摩耗回数が5のときにその表面に形成された非晶質炭素膜が破壊された。この試料7の破壊が確認された時点で試験を中止した。また、
図27に示すとおり、試料7の摩擦係数は、測定条件2において、非晶質炭素膜の存在を示す0.2μ前後で低く安定しており、100回の磨耗回数の試験を行った後でも摩擦係数の実質的な上昇は見られない。
図28は、測定条件1において圧子が5往復した後に撮影された試料7の表面の写真を示す。図示のとおり、測定条件1で実験圧子が5往復した後の試料7の表面には、左右方向に延びる帯状にボールの軌跡が現れており、この軌跡に沿って金属光沢を持った非晶質炭素膜の下地が露出している。このことから、非晶質炭素膜が破壊されていることが確認された。
図29は、測定条件2において圧子が100往復した後に撮影された試料7の表面の写真を示す。図示のとおり、圧子が100往復した後の試料7の表面には圧子の軌跡が見られるが、
図27の摩擦係数の変化にて確認できるように、試料7の測定条件2における摩擦係数は試験開始から終了まで0.2μ付近で安定しており、非晶質炭素膜は試料7の表面に維持されていることが確認できた。このように、試料7は、少なくとも荷重が比較的小さな測定条件2の場合に良好な耐摩擦磨耗性を示すことが分かる。一方、試料5及び試料6は、測定条件によらず非晶質炭素膜が破壊された。したがって、これらの試験結果から、試料7は試料5及び試料6よりも良好な耐摩擦磨耗性を示すことが確認できた。
【0044】
次に、試料1〜3と同様の方法により、試料8〜9を作製した。具体的には、試料8は、試料1と同様の方法により、基材、亜鉛置換層、無電解ニッケルめっき層(10μm)、電解ニッケルめっき層(10μm)、非晶質炭素膜を積層して成り、非晶質炭素膜の成膜前に基材を310℃にて30分間加熱処理した。試料9は、試料3と同様に、基材、亜鉛置換層、無電解ニッケルめっき層(10μm)、電解ニッケルめっき層(10μm)、非晶質炭素膜を積層して成る。試料3と同様に、試料9の無電解ニッケルめっき層は、非晶質炭素膜の成膜工程を通じて常時260℃未満であった。試料8〜9の電解ニッケルめっき層は、当業者に明らかな様々な方法を用いて形成され、例えば、スルファミン酸Ni、塩化Ni、ホウ酸、及び添加材(光沢材)を用い、55℃程度に維持した溶液中で通電することによって形成される。ただし、電解ニッケルめっき層を形成する工程中、無電解ニッケルめっき層の温度が常に260℃未満となるように温度管理が行われる。試料8〜9は、いずれも電解ニッケルめっき層を有しており、この点で試料1〜3と異なる。また、試料8〜9の無電解ニッケルめっき層の厚さはいずれも10μmであり、試料8〜9はこの点においても試料1〜3と異なっている。
【0045】
得られた試料8〜9のそれぞれについて、試料1〜3と同様の方法で摩擦摩耗試験を行った。
図30は、測定条件1における試料8の磨耗回数に応じた摩擦係数の変化を示すグラフ、
図31は、測定条件2における試料8の磨耗回数に応じた摩擦係数の変化を示すグラフである。
図30に示すとおり、測定条件1において、試料8の摩擦係数は、試験開始直後に0.5μまで急上昇し、摩耗回数が3のときに非晶質炭素膜が破壊された。この試料8の破壊が確認された時点で試験を中止した。
図32は、測定条件1において圧子が3往復した後に撮影された試料8の表面の写真を示す。図示のとおり、圧子が3往復した後の試料8の表面には、左右方向に延びる帯状にボールの軌跡が現れており、この軌跡に沿って金属光沢を持った非晶質炭素膜の下地が露出している。このことから、非晶質炭素膜が破壊されていることが確認できた。また、
図31に示すとおり、測定条件2において、試料8の摩擦係数は、試験開始直後に0.5μまで急上昇し、摩耗回数が16のときに非晶質炭素膜が破壊された。この試料8の破壊が確認された時点で試験を中止した。
図33は、測定条件2において圧子が16往復した後に撮影された試料8の表面の写真を示す。図示のとおり、圧子が16往復した後の試料8の表面には、左右方向に延びる帯状にボールの軌跡が現れており、この軌跡に沿って金属光沢を持った非晶質炭素膜の下地が露出している。このことから、非晶質炭素膜が破壊されていることが確認できた。
【0046】
図34は、測定条件1における試料9の磨耗回数に応じた摩擦係数の変化を示すグラフである。図示のとおり、測定条件1において、試料9の摩擦係数は、摩耗回数が約70回のときまでは0.2μと低い値を示し、その後上昇している。このことから、摩耗回数が70前後のときに、非晶質炭素膜が破壊され摩擦係数が増加したことが分かる。加熱を行った試料8が摩耗回数3回で破壊しているのに対して、試料9は摩耗回数70回まで非晶質炭素膜を維持しており、非晶質炭素膜の密着性が格段に向上していることが確認できた。
図35は、測定条件1において圧子が100往復した後に撮影された試料9の表面の写真を示す。図示のとおり、ボールの軌跡が現れており、この軌跡に沿って金属光沢を持った非晶質炭素膜の下地が露出していることが確認できるが、これは摩耗回数70回前後以降の非晶質炭素膜の剥離に起因していると考えられる。
【0047】
本明細書において説明した硬質膜被覆部材及びその作製方法は例示であり、その構成、材料、形成方法に対して、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更を行うことができる。例えば、基材10と亜鉛置換層20との間、及び/又は、亜鉛置換層20と無電解ニッケルめっき層30との間には、スパッタ法や蒸着法によりNi薄膜やCu薄膜を形成してもよい。また、亜鉛置換層20と無電解ニッケルめっき層30との間には、ストライク銅めっき膜を形成してもよい。これらのNi薄膜、Cu薄膜、及びストライク銅めっき膜は、300nm以下の膜厚となるように非常に薄く形成されるため、硬質膜40の密着性には実質的な影響がない。本明細書において具体的に説明した以外にも、基材10と亜鉛置換層20との間、亜鉛置換層20と無電解ニッケルめっき層30との間、無電解ニッケルめっき層30と硬質膜40との間には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で様々な薄膜を設けることができる。また、基材10、亜鉛置換層20、無電解ニッケルめっき層30、及び硬質膜40には目的に応じた表面処理を適宜行うことができる。