特許第6267736号(P6267736)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6267736ターボ過給式大型2行程自己着火内燃エンジンの燃焼室に低引火点燃料を噴射するための燃料弁
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6267736
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】ターボ過給式大型2行程自己着火内燃エンジンの燃焼室に低引火点燃料を噴射するための燃料弁
(51)【国際特許分類】
   F02M 61/16 20060101AFI20180115BHJP
   F02M 61/18 20060101ALI20180115BHJP
   F02M 43/04 20060101ALI20180115BHJP
   F02M 51/06 20060101ALI20180115BHJP
   F02M 37/00 20060101ALI20180115BHJP
   F02B 25/04 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   F02M61/16 S
   F02M61/18 360Z
   F02M43/04
   F02M51/06 Q
   F02M51/06 K
   F02M37/00 341C
   F02M37/00 341D
   F02B25/04
【請求項の数】17
【外国語出願】
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-50324(P2016-50324)
(22)【出願日】2016年3月15日
(65)【公開番号】特開2016-176473(P2016-176473A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2016年11月25日
(31)【優先権主張番号】PA 2015 00166
(32)【優先日】2015年3月20日
(33)【優先権主張国】DK
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】597061332
【氏名又は名称】エムエーエヌ・ディーゼル・アンド・ターボ・フィリアル・アフ・エムエーエヌ・ディーゼル・アンド・ターボ・エスイー・ティスクランド
(74)【代理人】
【識別番号】100127188
【弁理士】
【氏名又は名称】川守田 光紀
(72)【発明者】
【氏名】ヘーイン ピーダ
【審査官】 堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】 実開平01−162072(JP,U)
【文献】 国際公開第2013/086427(WO,A1)
【文献】 特開平06−002633(JP,A)
【文献】 特表2005−534839(JP,A)
【文献】 実開昭63−073568(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 39/00−71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低速動作するターボ過給式大型2行程自己着火内燃エンジンの燃焼室に低引火点液体燃料を噴射するための燃料弁(50)であって、前記燃料弁(50)は、
後端および前端を有する細長い燃料弁筐体(52)と、
閉じられた先端部および複数のノズル孔(56)を有するノズル(54)であって、前記細長い燃料弁筐体(52)の前記前端に配設される、前記ノズル(54)と、
低引火点加圧液体燃料の供給源(60)に接続される、前記細長い燃料弁筐体(52)の燃料入口ポート(53)と、
加圧作動流体の供給源(97)に接続される、前記細長い燃料弁筐体(52)の作動液ポート(78)と、
前記細長い燃料弁筐体(52)内の長手方向のニードル内腔(64)に摺動可能に受容される軸方向に変位可能な弁ニードル(61)であって、閉位置および開位置を有する、前記弁ニードル(61)と
を備え
前記弁ニードル(61)は、前記閉位置では弁座(69)に着座し、前記開位置では前記弁座(69)から持ち上げられた状態にあり、前記閉位置に向かって付勢され、前記弁座は前記細長い燃料弁筐体(52)内に配され、
前記燃料弁(50)はさらに、
前記細長い燃料弁筐体(52)内に設けられる燃料室(58)であって、前記弁ニードル(61)を囲繞し前記弁座(69)に開口し、前記弁座(69)が前記燃料室(58)と前記ノズル(54)との間に配置される、前記燃料室(58)と、
前記細長い燃料弁筐体(52)の第1の内腔(81)に受容されるポンプピストン(80)であって、前記ポンプピストン(80)の片側に前記第1の内腔(81)のポンプ室(82)がある、前記ポンプピストン(80)と、
前記細長い燃料弁筐体(52)の第2の内腔(84)に受容される作動ピストン(83)であって、前記作動ピストン(83)の片側に前記第2の内腔(84)の作動室(85)がある、前記作動ピストン(83)と
を備え、
前記ポンプピストン(80)は前記作動ピストン(83)と一緒に移動するように前記作動ピストン(83)に連結され、
前記作動室(85)は前記作動液ポート(78)に流体接続され、
前記ポンプ室(82)は、前記燃料室(58)に接続された出口と、前記ポンプ室(82)から前記燃料入口ポート(53)への流れを防止する、前記細長い燃料弁筐体(52)内の逆止弁(74)を経由して前記燃料入口ポート(53)に接続された入口とを有し、
前記燃料弁(50)はさらに、前記燃料弁(50)をパージするための、前記ポンプ室(82)から前記燃料入口ポート(53)に向かう流れを選択的に可能にする手段をさらに備え、該手段は、前記逆止弁(74)の逆止め機能を選択的に機能停止する手段を備える、
燃料弁(50)。
【請求項2】
前記逆止弁(74)は開位置と閉位置との間を移動できる弁部材(77)を備え、前記弁部材(77)は前記閉位置に付勢され、前記弁部材(77)は、前記燃料入口ポート(53)の圧力が前記ポンプ室(82)の圧力より高いときは前記開位置に押しやられるように構成され、前記弁部材(77)は、前記ポンプ室(82)の前記圧力が前記燃料入口ポート(53)の前記圧力より高いときは前記閉位置に押しやられるように構成される、請求項に記載の燃料弁。
【請求項3】
前記弁部材(77)は、前記ポンプ室(82)に所与の圧力があるときにも制御信号によってその開位置に移動するように構成される、請求項に記載の燃料弁。
【請求項4】
前記移動可能な弁部材(77)は、前記逆止弁(74)に関連する制御室(73)を向く圧力面を備え、前記制御室(73)は、制御液の供給源(97、98)に接続された前記細長い燃料弁筐体(52)の制御ポート(36)に流体接続される、請求項に記載の燃料弁。
【請求項5】
前記逆止弁(74)は弁内腔(76)を備える弁筐体(75)を備え、前記移動可能な弁部材(77)は前記弁内腔(76)に受容され、前記弁内腔の一端が、前記弁部材(77)の弁体(89)のための弁座(79)を形成し、前記弁体(89)は、前記移動可能な弁部材の前記閉位置では前記弁座(79)に着座し、前記弁部材(77)の開位置では前記弁座(79)から持ち上げられた状態にある、請求項またはに記載の燃料弁。
【請求項6】
前記制御室(73)は前記弁内腔(76)に配設され、前記移動可能な弁部材(77)は、前記制御室の片側にプランジャ部分を備える、請求項に記載の燃料弁。
【請求項7】
前記弁筐体(75)は円柱部分を備え、前記弁筐体(75)は前記細長い燃料弁筐体(52)の合致する長手方向の内腔に受容される、請求項またはに記載の燃料弁。
【請求項8】
前記燃料弁(50)をパージするための、前記ポンプ室(82)から前記燃料入口ポート(53)への流れを選択的に可能にするための、前記ポンプ室(82)と前記燃料入口ポート(53)との間で流体接続される専用の制御弁を備える、請求項に記載の燃料弁(50)。
【請求項9】
前記制御弁は制御信号に応答して開閉される、請求項に記載の燃料弁(50)。
【請求項10】
前記弁ニードル(61)は、前記燃料室(82)の圧力が所定の閾値を超えるときに前記付勢に対抗して前記閉位置から前記開位置に移動するように構成される、請求項1から9のいずれかに記載の燃料弁(50)。
【請求項11】
前記燃料噴射弁(50)を、特に前記燃料弁(50)のうちの前記前端に最も近い部分を冷却するための、冷却液入口ポートおよび冷却液出口ポートならびに冷却液流路(44)をさらに備える、請求項1から10のいずれかに記載の燃料弁(50)。
【請求項12】
前記細長い燃料弁筐体(52)は後方部分(35)につながる前方部分(33)を備え、前記軸方向に変位可能な弁ニードル(61)は前記前方部分(33)に配設され、前記第1の内腔(81)、前記第2の内腔(84)および前記合致する長手方向の内腔は前記後方部分(35)に形成される、請求項1から11のいずれかに記載の燃料弁(50)。
【請求項13】
前記長手方向のニードル内腔(64)の前記弁ニードル(61)をシールするための、前記細長い燃料弁筐体(52)のシーリング液入口ポート(70)から前記長手方向のニードル内腔(64)に延在する導管(47)をさらに構成する、請求項1から12のいずれかに記載の燃料弁(50)。
【請求項14】
加圧シーリング液の供給源(57)に接続されるシーリング液入口ポート(70)と、前記第1の内腔の前記ポンプピストン(80)をシールするための、前記シーリング液入口ポート(70)から前記第1の内腔(81)に延在する導管(30)とをさらに備える、請求項1から13のいずれかに記載の燃料弁(50)。
【請求項15】
請求項1から14のいずれかに記載の燃料弁(50)を備える、低速動作するターボ過給式大型2行程自己着火内燃エンジン(1)。
【請求項16】
加圧燃料の供給源であって、制御された圧力Pfを有する供給源と、
加圧シーリング液の供給源であって、制御された圧力Psを有する供給源と、
加圧冷却液の供給源であって、制御された圧力Pcを有する供給源と、
をさらに備え、前記Pcは前記Pfより高い、請求項15に記載のエンジン。
【請求項17】
前記燃料入口ポート(53)に通じる前記導管(62)は2重壁の配管を備え、前記低引火点燃料が内側の管腔内を輸送され、外側の管腔が通気され揮発性炭化水素の検出のためのセンサ(63)に接続される、請求項15または16に記載のエンジン。
【発明の詳細な説明】
【分野】
【0001】
本発明は、ターボ過給式大型低速ユニフロー2行程内燃エンジンの燃焼室に低引火点燃料を噴射するための燃料弁に関する。
【背景技術】
【0002】
クロスヘッド型のターボ過給式大型低速2行程自己着火エンジンは、通常、大型船の推進系にまたは発電所の主原動機として用いられる。非常に多くの場合に、こうしたエンジンは重油燃料によって動作する。
【0003】
最近では、ガス、メタノール、石炭スラリ、石油コークスおよび類似物など、代替の種類の燃料に対応できるターボ過給式大型2行程自己着火エンジンに対する需要が出てきている。需要の高まっている燃料群の一つが引火点の低い燃料である。
【0004】
メタノール、LPG、DMEまたはバイオ燃料など、多くの低引火点燃料は比較的クリーンな燃料である。クリーンな燃料をターボ過給式大型低速ユニフロー2行程内燃エンジンのための燃料として用いる場合は、例えば燃料として重油燃料を用いる場合と比べて、排気ガス中の硫黄成分、NOおよびCOの濃度が有意に低くなる。
【0005】
しかし、ターボ過給式大型低速ユニフロー2行程内燃エンジンで低引火点燃料を用いることに関連して課題がある。それらの課題の1つは引火点が低いことであり、低引火点燃料が例えば潤滑油系統など、エンジンの他の系統の1つに漏出し別の流体と混ざる場合に、重大な問題を引き起こす。低引火点燃料は本質的に発火しやすく、その蒸気は簡単に爆発性混合物を発生させる虞がある。したがって、低引火点燃料がエンジンの別の系統に入る場合、安全のためにエンジン動作を停止し、このような系統を清掃しその中の液体を全て取り替えること、つまり費用が掛かりエンジンのオペレータにとって厄介な業務が必要になる。
【0006】
既知の燃料弁の構造には常に、弁ニードルおよび弁座の設計のせいで、弁ニードルのシャフトおよびシャフトがガイドされる内腔から漏出がある。したがって、シーリングのためだけでなく潤滑のためにも、シャフトと内腔との間のクリアランスに加圧シーリング液「シーリング油」の供給が実行される。漏出を最小限に維持するために、クリアランスはできるだけ小さくなるように維持されるが、このような小さいクリアランスで公差が非常に狭くなるとシャフトと内腔との間に潤滑が必要になる。
【0007】
シーリング油と燃料とが混合されて系統にエラーが引き起こされる場合にその2つの流体を分離することは難しい。潤滑油系統で燃料が検出されると、エンジンを停止することになり、多くの場合、根本的な原因を解析することが難しい。
【0008】
別の安全に関する課題は、エンジンが低引火点燃料で動作していないとき、例えば、エンジンが動作していないかまたはエンジンが別の種類の燃料で動作する二元燃料エンジンのときに、低引火点燃料が燃料弁および燃料弁に通じる配管に残っていることが許されないという、船級協会による要件である。したがって、燃料弁および燃料弁に通じる配管(tubing)または配管(piping)をパージするために対策を講じなければならない。
【0009】
このような低引火点燃料の別の難題は潤滑特性が比較的不良なことである。潤滑特性が不良であると、潤滑液を用いることなく可動部品間で非常に小さいクリアランスを用いることが妨げられる。
【0010】
ターボ過給式大型低速ユニフロー2行程内燃エンジンは、通常、大型外航貨物船の推進に用いられ、したがって、信頼性が最も重要である。それにも関わらず、このようなエンジンの低引火点燃料による動作は比較的最近になって開発されたものであり、低引火点燃料による動作の信頼性は従来の燃料のレベルには未だ到達していない。したがって、ほとんどの大型低速2行程自己着火内燃エンジンは、燃料油のみで全出力の走行で動作できるように、低引火点燃料で動作する燃料系統および燃料油を用いて動作する燃料系統を備える二元燃料エンジンである。
【0011】
このようなエンジンは、燃焼室の直径が大きいので、通常、シリンダ1つにつき3つの燃料噴射弁を備え、その燃料噴射弁は中央排気弁の周りに約120°の角度だけ互いに離間して配置される。したがって、二元燃料系統の場合は、シリンダ1つにつき3つの低引火点燃料弁およびシリンダ1つにつき3つの燃料油弁があり、したがって、シリンダの上部カバーが混み合う場所になる。
【開示】
【0012】
このような背景の下、本願の目的は、上記で示した課題を克服するかまたは少なくとも軽減するターボ過給式大型2行程自己着火内燃エンジンのための燃料弁を提供することである。
【0013】
この目的は、低速動作するターボ過給式大型2行程自己着火内燃エンジンの燃焼室に低引火点液体燃料を噴射するための燃料弁を提供することによって、一態様により達成される。その燃料弁は、
後端および前端を有する細長い燃料弁筐体と、
閉じられた先端部および複数のノズル孔を有するノズルであって、燃料弁筐体の前端に配設される、ノズルと、
低引火点加圧液体燃料の供給源に接続される、燃料弁筐体の燃料入口ポートと、
加圧作動流体の供給源に接続される、燃料弁筐体の作動液ポートと、
弁筐体の長手方向のニードル内腔に摺動可能に受容される軸方向に変位可能な弁ニードルであって、閉位置および開位置を有する、弁ニードルと
を備える。
弁ニードルは、閉位置では弁座に着座し、開位置では弁座から持ち上げられた状態にあり、閉位置に向かって付勢される。
燃料弁はさらに、
弁ニードルを囲繞し弁座に開口する燃料室であって、前記弁座(69)が前記燃料室(58)と前記ノズル(54)との間に配置される、燃料室と、
弁筐体の第1の内腔に受容されるポンプピストンであって、ポンプピストンの片側に第1の内腔のポンプ室がある、ポンプピストンと、
加圧シーリング液の供給源に接続されるシーリング液入口ポートと、第1の内腔のポンプピストンをシールするためのシーリング液入口ポートから第1の内腔に延在する導管と、
弁筐体の第2の内腔に受容される作動ピストンであって、作動ピストンの片側に第2の内腔の作動室がある、作動ピストンと
を備える。
ポンプピストンは、作動ピストンと一緒に移動するように作動ピストンに連結され、
作動室は作動液ポートに接続され、
ポンプ室は、燃料室に接続された出口と、ポンプ室から燃料入口ポートへの流れを防止する、細長い燃料弁筐体の逆止弁を経由して燃料入口ポートに接続された入口とを有する。
【0014】
一体型の燃料ポンプおよび一体型の吸込弁を有する燃料弁を提供することによって、低引火点燃料に対応でき上記で示した課題のいくつかを克服するかまたは少なくとも軽減できる燃料弁が得られる。さらに、燃料弁は、接続する外部構成要素が少なくなるので、よりコンパクトになり組み付けが容易になる。一体型の設計はコンパクトな燃料弁を提供する。
【0015】
第1の態様の第1の実現可能な実装形態では、燃料弁はさらに、燃料弁をパージするための、ポンプ室から燃料入口ポートへの流れを選択的に可能にする手段を備える。ここで、燃料弁のパージは単純な動作になる。
【0016】
第1の態様の第2の実現可能な実装形態では、ポンプ室から燃料入口ポートへの流れを選択的に可能にする手段は、逆止弁の逆止め機能を選択的に機能停止する手段を備える。ここで、別のパージ弁の追加を避けることができ、構造が複雑でなくなる。
【0017】
第1の態様の第3の実現可能な実装形態では、逆止弁は開位置と閉位置との間を移動できる弁部材を備え、弁部材は、閉位置に弾性的にまたは流体により付勢され、弁部材は、入口ポートの圧力がポンプ室の圧力より高いときは開位置に押しやられるように構成され、ポンプ室の圧力が燃料入口ポートの圧力より高いときは閉位置に押しやられるように構成される。
【0018】
第1の態様の第4の実現可能な実装形態では、弁部材は、ポンプ室に所与の圧力があるときにも制御信号によってその開位置に移動するように構成される 。
【0019】
第1の態様の第5の実現可能な実装形態では、移動可能な弁部材は、逆止弁に関連する制御室を向く圧力面を備え、制御室は、制御液の供給源に接続された細長い燃料弁筐体の制御ポートに流体接続される。
【0020】
第1の態様の第6の実現可能な実装形態では、逆止弁は弁内腔を備える弁筐体を備え、弁部材は弁内腔に受容され、弁内腔の一端が弁部材の弁体のための弁座を形成し、弁体は、移動可能な弁部材の閉位置では弁座に着座し、弁部材の開位置では弁座から持ち上げられた状態にある。
【0021】
第1の態様の第7の実現可能な実装形態では、制御室は弁内腔に配設され、移動可能な弁部材は、制御室の片側にプランジャ部分を備える。
【0022】
第1の態様の第8の実現可能な実装形態では、弁筐体は円柱部分を備え、弁筐体は細長い弁筐体の合致する長手方向の内腔に受容される。
【0023】
第1の態様の第9の実現可能な実装形態では、燃料弁は、燃料弁をパージするための、ポンプ室から燃料入口ポートへの流れを選択的に可能にするための、ポンプ室と燃料入口ポートとの間で流体接続される専用の制御弁を備える。
【0024】
第1の態様の第10の実現可能な実装形態では、制御弁は制御信号に応答して開閉される。
【0025】
第1の態様の第11の実現可能な実装形態では、弁ニードルは、燃料室の圧力が所定の閾値を超えるときに付勢に対抗して閉位置から開位置に移動するように構成される。
【0026】
第1の態様の第12の実現可能な実装形態では、燃料弁はさらに、燃料噴射弁を、特に燃料弁のうちの前端に最も近い部分を冷却するための、冷却液入口ポートおよび冷却液出口ポートならびに冷却液流路を備える。
【0027】
第1の態様の第13の実現可能な実装形態では、細長い弁筐体は後方部分につながる前方部分を備え、軸方向に変位可能な弁ニードルは前方部分に配設され、第1の内腔、第2の内腔および合致する内腔は後方部分に形成される。
【0028】
上記の目的も、第1の態様およびその実装形態のいずれか一つによる燃料弁を備える、低速動作するターボ過給式大型2行程自己着火内燃エンジンを提供することによって、第2の態様により達成される。
【0029】
第2の態様の第1の実現可能な実装形態では、エンジンは、制御された圧力Pfを有する加圧燃料の供給源、制御された圧力Psを有する加圧シーリング液の供給源および制御された圧力Pcを有する加圧冷却液の供給源を備え、PcはPfより高い。
【0030】
第2の態様の第2の実現可能な実装形態では、燃料入口ポートに通じる導管は2重壁の配管を備え、低引火点燃料が内側の管腔を輸送され、外側の管腔が通気され炭化水素の検出のためのセンサに接続される。
【0031】
本開示による燃料弁およびエンジンの他の目的、特徴、利点および特性が詳細な説明から明らかになる。
【0032】
本明細書の以下の詳細な部分では、図面に示す例示的な実施形態を参照しながら本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】例示的な実施形態による大型2行程ディーゼルエンジンの正面図である。
図2図1の大型2行程エンジンの側面図である。
図3図1による大型2行程エンジンの概略図である。
図4】1つの燃料弁に関する、図1のエンジンの低引火点液体燃料系統の例示的な実施形態の概略図である。
図5】シリンダの上側部分の、図1のエンジンの低引火点液体燃料系統の例示的な実施形態の概略断面図である。
図6図1図3の例示的な実施形態によるエンジンを用いるための低引火点燃料弁の立面図である。
図7図6に示す低引火点燃料噴射弁の断面図である。
図7A図7の拡大詳細図を示す。
図7B図7の別の拡大詳細図を示す。
図8図6に示す低引火点燃料噴射弁の異なる断面図である。
図9図6に示す低引火点燃料噴射弁の別の異なる断面図である。
図9A図9の拡大詳細図を示す。
図10図6に示す低引火点燃料噴射弁の別の異なる断面図である。
図11図6に示す低引火点燃料噴射弁の別の異なる断面図である。
【詳細説明】
【0034】
以下の詳細説明では、例示的な実施形態のターボ過給式大型低速2行程内燃(ディーゼル)エンジンを参照しながら自己着火内燃エンジンを説明する。図1図2および図3に、クランクシャフト42およびクロスヘッド43を有するターボ過給式大型低速2行程ディーゼルエンジンを示す。図3に、吸気系統および排気系統を有するターボ過給式大型低速2行程ディーゼルエンジンの概略図を示す。例示的な本実施形態では、エンジンは1列に並んだ4つのシリンダ1を有する。ターボ過給式大型低速2行程ディーゼルエンジンは、通常、エンジンフレーム13によって担持される、1列に並んだ4から14のシリンダを有する。エンジンは、例えば、外航船の主エンジンとしてまたは発電所の発電機を動作させるための定置エンジンとして用いることができる。エンジンの全出力は、例えば、1,000から110,000kWの範囲とすることができる。
【0035】
エンジンは、例示的な本実施形態では、2行程ユニフロー型のディーゼル(自己着火)エンジンであり、掃気ポート19がシリンダ1の下側領域にあり、中央排気弁4がシリンダ1の上部にある。掃気は掃気レシーバ2から個々のシリンダ1の掃気ポート19に至る。シリンダ1のピストン41が掃気を圧縮し、燃料が(以下にさらに詳細に説明する)シリンダカバーの(以下にさらに詳細に説明する)燃料噴射弁から噴射され、続いて燃焼が起こり、排気ガスが発生する。排気弁4が開くと、排気ガスがシリンダ1に関連する排気ダクトを通って排気ガスレシーバ3に流れ、さらに第1の排気導管18を通ってターボ過給機5のタービン6に至る。排気ガスはタービン6から第2の排気導管を通って流れエコノマイザ28を経由して出口29に至り、大気中に流出する。タービン6は、空気入口10を経由して新鮮な吸気が供給されるようにシャフトによって圧縮機9を駆動する。圧縮機9は掃気レシーバ2に通じる掃気導管11に加圧掃気を供給する。
【0036】
導管11の掃気は掃気を冷却するためのインタークーラ12を通る。例示的な実施形態では、掃気は約200℃で圧縮機を出て、インタークーラによって36℃と80℃との間の温度に冷却される。
【0037】
冷却された掃気は電気モータ17によって駆動される補助ブロワ16を経由して通過する。補助ブロワ16は、ターボ過給機5の圧縮機9が掃気レシーバ2に十分な圧力を供給しないときに、すなわち、エンジンが低負荷または部分負荷の状況のときに掃気の流れを加圧する。エンジン負荷がより高いと、ターボ過給機の圧縮機9は十分な圧縮掃気を供給し、そのときは、補助ブロワ16はバイパスされ逆止弁15を経由して供給する。
【0038】
図4は低引火点燃料弁50の概略図であり、燃料弁50は、低引火点液体燃料の供給源60、冷却液(油)の供給源59、シーリング液の供給源57、制御弁96を経由する作動液(油)の供給源97、パージ制御弁98および作動液制御弁96に接続される。導管62が、低引火点加圧液体燃料の供給源60から低引火点液体燃料弁50の筐体の入口ポートに通じている。導管62は、例えば、同心のチューブによってまたはシリンダカバー48などの中実のブロック材料の内側のチューブによって形成された2重壁の導管である。低引火点液体燃料は内側の管腔/チューブ内を輸送され、外側の管腔は通気され、揮発性炭化水素成分を検出するためのセンサ63(検知器)を備える。センサ63は電子制御ユニットに接続され、その電子制御ユニットは揮発性炭化水素成分がセンサ63によって検出されたときに警報を発する。燃料弁50から低引火点燃料をパージできるように燃料弁50を低引火点液体燃料の供給源60から接続解除できるようにするためのウィンドウ弁61が導管62に設けられる。ウィンドウ弁61は、好ましくは、電子的に動作し、電子制御ユニットによって制御される。電子制御弁96は噴射事象を制御し、制御弁98は逆止弁が閉じるのを防止することによってパージを制御する。
【0039】
図5に、例示的な実施形態による複数のシリンダ1のうちの1つの上部を示す。シリンダ1の上部カバー48は、燃料弁50のノズルからシリンダ1のピストン41の上方の燃焼室に低引火点液体燃料を噴射するための燃料弁50をいくつか(通常2つまたは3つ)備える。例示的な本実施形態では、エンジンはシリンダ1つにつき3つの低引火点液体燃料弁50を有するが、燃焼室のサイズによっては単一のまたは2つの低引火点燃料弁50で十分な場合があることも理解されたい。排気弁4は上部カバーの中央に配置され、低引火点液体燃料弁50の方がシリンダ壁の近くにある。
【0040】
一実施形態(図示せず)では、上部カバー48に、燃料油によりエンジンを動作させるための燃料油弁を2つまたは3つ設けることができる。燃料油弁は、周知の方法で高圧燃料油の供給源に接続される。
【0041】
燃料弁50のうちのノズルに最も近く燃焼室に最も近い前方部分は、冷却油などの冷却液を用いて冷却され、そのためにシステム油(潤滑油)を用いることができる。ここでは、燃料弁50の本体は、冷却液入口ポートと、冷却液出口ポートと、燃料弁50の本体の前方部分を通る、入口ポートと出口ポートとの間の流路(図示せず)とを備える。冷却液入口ポートは、導管を経由してシステム油などの加圧冷却液の供給源59に接続され、冷却液出口ポートは、導管を経由して冷却液のリザーバに接続される。
【0042】
燃料弁50の本体は、燃料弁の開閉を制御する作動液ポートも備える。制御ポートは導管を経由して加圧作動液の供給源97に接続される。電子制御される制御弁96、好ましくは比例弁が、導管のうちの、加圧作動液の供給源97と、燃料弁50の開閉を制御する、すなわち、噴射事象を制御する作動液ポートとの間の部分に配置される。
【0043】
エンジンは、エンジンの動作を制御する電子制御ユニットを備える。信号線が電子制御ユニットを電子制御弁96および98ならびにウィンドウ弁61に接続する。
【0044】
電子制御ユニットは、低引火点液体燃料弁50による噴射事象を正確に時間調整し、燃料弁50を用いた低引火点液体燃料の量(1回の噴射事象ごとに噴射される体積)を制御するように構成される。電子制御ユニットは、一実施形態では、燃料弁が噴射曲線に適合できるので、噴射曲線の形状を制御(レートシェーピング)するように構成される。
【0045】
電子制御ユニットは、燃料噴射事象を開始する前に供給導管62が確実に低引火点加圧液体燃料で満たされるように、ウィンドウ弁61を開閉する。
【0046】
ウィンドウ弁61は、燃料弁50から低引火点燃料をパージする必要があるときに電子制御ユニットによって閉じられる。
【0047】
図6は、細長い弁筐体52と、細長い弁筐体52の前端に取り付けられたノズル54と、シーリング液入口ポート70と、パージを制御する制御ポート36とを有する燃料弁50の斜視図である。ノズル54は、ノズル54全体に径方向および軸方向に分布するノズル孔56を複数備える。
【0048】
図7図8図9図10および図11に、自己着火内燃エンジンの燃焼室に低引火点燃料を噴射するための燃料弁50の断面図を示す。燃料弁50は細長い弁筐体52を有し、その弁筐体52は最も後方の端部を有し、前端にノズル54を有する。ノズル54は弁筐体52の前端に取り付けられた別個の部材である。弁筐体52の最も後方の端部は、制御ポート36、作動液ポート78およびガス漏れ検出ポート(図示せず)を含む複数のポートを備える。最も後方の端部はヘッドを形成するように拡大されており、そのヘッドは、燃料弁50がシリンダカバー48に取り付けられるとシリンダカバー48から突出する。本実施形態では、燃料弁50は、中央排気弁4の周りに、すなわち、シリンダライナの壁の比較的近くに配置される。細長い弁筐体52および燃料噴射弁50の他の構成要素ならびにノズルは、本実施形態では例えば工具鋼およびステンレス鋼などの鋼から作製される。
【0049】
中空のノズル54は、ノズル54の中空内部につながるノズル孔56を備え、ノズル孔56はノズル54全体にわたって径方向に分布している。ノズルは軸方向では先端部の近くにあり、ノズル孔56の径方向の分布は、本実施形態では、比較的狭い範囲である約50°にわたる。ノズル孔56の径方向の向きは、ノズル孔56がシリンダライナの壁から離れる方に向くようになっている。さらに、ノズル孔56は、掃気ポートの構成によって生じる燃焼室の掃気のスワールの方向とほぼ同じ方向になるように向けられる(このスワールは、ジャーニーフロータイプのターボ過給式大型2行程内燃エンジンのよく知られた特徴である)。
【0050】
ノズル54の先端部は本実施形態では閉じられている。ノズル54は弁筐体52の前端に連結され、ノズル54の中空内部は筐体52の内腔に向かって開口する。ノズルにつながる軸方向の内腔と燃料室58との間の移行部に弁座69が配設される。
【0051】
軸方向に変位可能な弁ニードル61が、細長い弁筐体52の長手方向の内腔に狭いクリアランスを有した状態で摺動可能に受容され、軸方向に変位可能な弁ニードル61と長手方向の内腔との間の潤滑は重大である。ここでは、加圧シーリング液は、導管(チャネル)47を経由して弁ニードルの長手方向の内腔の間のクリアランスに供給される。チャネルは弁ニードル61と軸方向の内腔との間のクリアランスをシーリング液入口ポート70に接続し、シーリング液入口ポート70は、加圧され圧力Psである加圧シーリング液の供給源57に接続することができる。シーリング液は、低引火点燃料が弁ニードル61と軸方向の内腔との間のクリアランスに漏出するのを防止する。さらに、好ましくは油であるシーリング液が弁ニードル61と軸方向の内腔との間を潤滑する。一実施形態では、シーリング液の供給源57の圧力は、噴射事象中はポンプ室82の最大圧力と少なくともほぼ同程度に高い。
【0052】
弁ニードル61は閉位置および開位置を有する。弁ニードル61は弁座69に合うように成形された円錐部分を備える。閉位置では、弁ニードルの円錐部分は弁座69に着座する。円錐部分は、開位置では弁座69から持ち上げられた状態にあり、弁ニードル61は予め張力をかけられた螺旋状のばね38によって閉位置に向かって弾性的に付勢される。予め張力をかけられた螺旋状のばね38は弁ニードル61に作用し、円錐部分が弁座69に着座する閉位置に向かって弁ニードル61を付勢する。
【0053】
螺旋状のばね38は細長い燃料弁筐体52のばね室88に受容される螺旋状の線ばねである。冷却油がばね室88を通って流れる。螺旋状のばね38の一端はばね室88の端部に係合し、螺旋状のばね38の他端は弁ニードル61の拡幅部分またはフランジに係合し、そうすることで、弁ニードルを弁座69に向かって弾性的に押しやる。
【0054】
細長い弁筐体52は、例えば低引火点液体燃料の供給導管62を経由して低引火点加圧液体燃料の供給源60に接続される燃料入口ポート53を備える。燃料入口ポート53は導管51および逆止弁74を経由して弁筐体52のポンプ室82に接続される。逆止弁74(吸込弁)は弁筐体52の内側に設けられる。逆止弁74により、液体の低引火点燃料が導管51を通って確実にポンプ室82に流れるが反対方向には流れないようにすることができる。
【0055】
ポンプピストン80が、細長い燃料弁筐体52の第1の内腔81に摺動可能にかつシールするように受容され、ポンプピストン80の片側に第1の内腔81のポンプ室82がある。作動ピストン83が、弁筐体52の第2の内腔84に摺動可能にかつシールするように受容され、作動ピストン83の片側に第2の内腔84の作動室85がある。ポンプピストン80は、作動ピストン83と一緒に移動するために作動ピストン83に連結され、すなわち、ポンプピストン80および作動ピストン83はそれぞれの内腔81、84内を一緒に摺動することができる。本実施形態では、ポンプピストン80および作動ピストン83は一体の部材によって形成されるが、ポンプピストン80および作動ピストン83を互いに連結された別々の部材にできることが留意される。
【0056】
一実施形態では、図7Bに示すように、ポンプピストン80は、ポンプピストン80の下側部分の直径D1と比べてわずかに大きい直径D2の上側部分を有する。それに対応して、ポンプピストン80が受容される内腔81の上側部分は大きい直径D2を有し、内腔81の下側部分は直径D1を有する。したがって、リング室99が作り出され、ポンプピストン80の上側部分は、ポンプピストン80が下向き(図7および図7Bの上下)に移動されるときにリング室99の体積を減少させるシーリング液増圧ピストンを成す。リング室99は、逆止弁91を経由してシーリング液(油)の供給源に接続される。リング室99は、ポンプピストン80が上向きに移動すると逆止弁91を経由してシーリング液で満たされるが、逆止弁91はシーリング液が戻るのを妨げ、したがって、シーリング液はポンプピストン80と内腔81との間のクリアランスに押し込まれる。したがって、シーリング液はリング室99からポンプピストン80と内腔81との間のクリアランスに押しやられ、そうなると、低引火点燃料がポンプピストン80と内腔81との間のクリアランスに入ることが防止される。ポンプピストン80の下側部分に対するクリアランスがポンプピストン80の上側部分に対するクリアランスよりわずかに大きくなるように選択することによって、シーリング液のほとんどが確実にクリアランスを通ってポンプ室82に向かって流れるようにすることができる。過剰なシーリング液はポンプ室で燃料と混合され燃焼される。
【0057】
作動室85は作動液ポート78に流体接続される。電子制御弁96は、作動液ポート78との間の、したがって作動室85との間の加圧作動液の流れを制御する。
【0058】
噴射事象が開始するときに、電子制御ユニットは、作動液を作動室85に流すことを可能にするように電子制御弁96に命令する。作動室85の加圧作動液は作動ピストン83に作用し、そうすることで、ポンプピストン80をポンプ室82に押しやる力が生み出される。そうなると、ポンプ室82の低引火点液体燃料の圧力が上昇する。本実施形態では、作動ピストン83の直径はポンプピストン80の直径より大きく、したがって、ポンプ室82の圧力は、それに応じて作動室85の圧力より高く、作動ピストン83とポンプピストン80との組み合わせは増圧器として働く。
【0059】
1つまたは複数のチャネル(導管)57が、ポンプ室82を燃料室58に、したがって燃料室の底部に位置する弁座69に流体接続する。弁座69は、弁ニードル61を囲繞する燃料室58の方を向く。弁ニードル61は、持ち上げられるべく、ノズル54から離れる方に移動し、下げられるべく、ノズル54に向かって移動するように構成される。その開位置では、弁ニードル61は弁座69から持ち上げられた状態にあり、そうなると、低引火点液体燃料がポンプ室82から燃料室58に流れ弁座69を通り軸方向の内腔を経由してノズル54の中空内部に至ることが可能になる。低引火点の液体はノズル孔56を経由してノズルを出る。
【0060】
弁ニードル61は、ポンプ室82の低引火点液体燃料の圧力が螺旋状のばね38の力を超えるときに持ち上げられる。したがって、弁ニードル61は、ポンプ室82の燃料の圧力が所定の閾値を超えるときにばね38の付勢に対抗して開くように構成される。燃料の圧力は、ポンプピストン80がポンプ室82の低引火点液体燃料に作用することによって生じる。
【0061】
円錐部分が弁座69に向かって移動する状態で、弁ニードル61はノズル54に向かって移動するべく付勢されるように構成される。これは、ポンプピストン80がもはやポンプ室82の燃料に作用せず、弁ニードル61に対する螺旋状のばね38の閉じる力が弁ニードル61に対する低引火点液体燃料の開く力よりも大きくなるときに、低引火点液体燃料の圧力が低下するときに起こる。
【0062】
電子制御ユニットは、噴射事象を終了するときに、作動室85をタンクに接続するように電子制御弁96に命令する。ポンプ室82は、低引火点液体燃料の加圧供給源60に接続され、逆止弁74を経由して流入する低引火点液体燃料の供給圧力は、ポンプ室82が低引火点液体燃料で完全に満たされた図7に示す位置に到達するまで作動ピストン83を作動室85に押しやり、そうすることで、燃料弁50は次の噴射事象に対して準備ができた状態になる。図8に、ポンプ室82の大部分に低引火点の液体がほとんど無い状態にある噴射事象の終了間際のポンプピストン80および作動ピストン83の配置を示す。
【0063】
低引火点燃料の噴射事象が、アクティベーション時間の長さおよびポンプピストン80の行程の長さに応じて電子制御ユニットECUによって制御される(レートシェーピング)。1回の噴射事象で噴射される低引火点液体燃料の量は、ポンプピストン80の行程の長さによって決まる。したがって、電子制御ユニットからの信号により、作動液の圧力は作動室85内で上昇する。
【0064】
噴射事象の最後には、電子制御弁96は作動室85から圧力を取り除き、ポンプ室82の低引火点加圧液体燃料の力により、作動ピストン83が第2の内腔84の端部にぶつかりポンプ室82が低引火点液体燃料で完全に満たされるまで第2の内腔84に押し戻され、燃料弁50は次の噴射事象に対して準備ができた状態になる。
【0065】
一実施形態(図示せず)では、燃料弁50は、異なる2つの直径を有するプランジャの形態の増圧器を備える。燃料噴射事象中にシーリング圧力を上昇させるように、プランジャの大径部分は制御弁96に接続されたポートを有するチャンバを向き、プランジャの直径がより大きい部分は導管(チャネル)51および47に接続されたポートを有するチャンバを向き、したがって、高いシーリング圧力を提供することが最も必要となるちょうどその時間にシーリング液の圧力が確実に高くなる。
【0066】
燃料弁50は、加圧シーリング液の供給源に接続されるシーリング液(油)入口ポート70を備え、第1の内腔81のポンプピストン80をシールするための、シーリング液入口ポート70からその第1の内腔81まで延在する導管51を備える。一実施形態では、シーリング液の供給源57の圧力は、噴射事象中はポンプ室82の最大圧力と少なくともほぼ同程度に高い。
【0067】
一実施形態では、燃料弁50は、燃料弁50をパージするための、ポンプ室82から燃料入口ポート53に向かう流れを選択的に可能にする手段を備える。ポンプ室82から燃料入口ポート53に向かう流れを選択的に可能にするこの手段は、逆止弁74(吸込弁)の逆止め機能を選択的に機能停止する手段を備える。
【0068】
図7Aに示すように、逆止弁74は、開位置と閉位置との間を移動できる弁部材77を備える。弁部材77は予め張力をかけられた螺旋状のばね39によって閉位置に付勢される。弁部材77は、燃料入口ポート53の圧力がポンプ室82の圧力より高いときは開位置に押しやられるように構成され、ポンプ室82の圧力が燃料入口ポート53の圧力より高いときは螺旋状のばね39の力によって閉位置に押しやられるように構成される。弁部材77はその長手方向端部の一方に弁頭89を備え、螺旋状のばね39はその反対側の長手方向端部で弁部材77に係合する。弁部材77は、摺動可能にかつシールするように逆止弁筐体75の内腔76に受容される。弁内腔の一端が弁部材77の弁体89のための弁座79を形成し、弁体89は、移動可能な弁部材の閉位置では弁座79に着座し、弁部材77の開位置では弁座79から持ち上げられた状態にある。
【0069】
弁部材77は、ポンプ室82の圧力にかかわらず、制御信号によって、その開位置に移動するように構成される。ここでは、移動可能な弁部材77は、逆止弁74の制御室73を向く圧力面を備える。
【0070】
制御室73は弁内腔76に配設され、移動可能な弁部材77は制御室73の片側にプランジャ部分を備える。逆止弁筐体75は、円柱部分を備え、細長い弁筐体52の合致する長手方向の内腔に受容される。
【0071】
制御室73は、制御液の供給源に接続されるチャネル(図示せず)を経由して細長い燃料弁筐体52の制御ポート36に流体接続される。制御ポート36は、作動液の供給源97から、好ましくはオン/オフタイプの電子制御される制御弁98を含む導管を経由して制御液を受容する。制御弁98は電子制御ユニットに接続され、電子制御ユニットは、燃料弁50をパージする時間になったときに開位置に移動するように制御弁98に命令する。制御ポート36は、チャネルまたは導管34を経由して逆止弁74の制御室73に接続される。電子制御ユニットが、開位置に移動するように制御弁98に命令すると、加圧制御/作動液(油)が制御室73に到達し、螺旋状の線ばね39の力に対抗して弁部材77を開位置に押しやり、液体がポンプ室82から低引火点燃料ポート53に向かって、すなわち逆止弁74の通常はブロックされた方向に対抗して流れるときにも弁部材77を開位置に留める。これにより、燃料弁50から低引火点燃料をパージすることが可能になる。
【0072】
弁ニードル61は、燃料室82の圧力が所定の閾値を超えるときに付勢に対抗して閉位置から開位置に移動するように構成される。所定の閾値は、ポンプ室82に生じることができる最大圧力より低い適切な噴射圧力に設定される。
【0073】
細長い弁筐体52は、一実施形態では、燃料噴射弁50、特に燃料弁50のうちの前端に最も近い部分、例えばノズルに最も近い部分、および燃焼室からの熱を冷却するための、冷却液入口ポート45および冷却液出口ポート32ならびに冷却液流路44を備える。冷却液は、一実施形態では、エンジンからのシステム潤滑油である。一実施形態では、冷却液流路は、螺旋状のばね38が受容されるばね室88を含む。本実施形態では、冷却液流路は、弁部材77と弁内腔76との間のクリアランスにシーリング液を供給するための、弁内腔76に必要な導管37につながっている。そのために、低引火点燃料の供給源60の圧力Pfは冷却液の供給源59の圧力PCよりわずかに低い。
【0074】
一実施形態では、細長い弁筐体52は後方部分35につながる前方部分33を備える。軸方向に変位可能な弁ニードル61は前方部分33に配設され、第1の内腔81、第2の内腔84および合致する長手方向の内腔は後方部分35に形成される。
【0075】
燃料弁50は、一実施形態では、長手方向のニードル内腔64の弁ニードル61をシールするための、シーリング液入口ポート70から長手方向のニードル内腔64に延在する導管47を備える。
【0076】
一実施形態では、燃料弁50は、燃料弁50をパージするための、ポンプ室82から燃料入口ポート53への流れを選択的に可能にするための、ポンプ室82と燃料入口ポート53とを流体接続する専用の制御弁を備える。この制御弁は、好ましくは、制御信号に応答して開閉する。本実施形態では逆止弁74の逆止め機能を選択的に機能停止する手段を設ける必要はない。
【0077】
一実施形態では、燃料弁50は、作動室が作動液ポートに接続された状態でシーリング液増圧器(図示せず)を備える。好ましくは、燃料弁50は増圧室を備え、その増圧室は、逆止弁(図示せず)を経由してシーリング液入口ポート70に接続され、第1の内腔81とポンプピストン80との間のクリアランスに接続される。シーリング液増圧器は、ポンプピストン80のポンプ行程の間にシーリング液の圧力を上昇させ、燃料噴射事象の間は常にポンプ室82の圧力を超えるようにシーリング液の上昇圧力を維持するように構成される。好ましくは、シーリング液増圧器は、シーリング液の圧力をポンプ室82の燃料の最大圧力を超える圧力に上昇させるように構成される。
【0078】
一実施形態では、シーリング液の供給源は、制御された圧力Pslを有し、液体燃料の供給源は制御された圧力Pfを有し、PslはPfより高い。本実施形態では、制御された圧力Pslは、ポンプ行程中はポンプ室82の最大圧力より低くすることができる。その場合、Psl、クリアランスのサイズ、およびポンプ行程中のポンプ室82の最大圧力は、低引火点液体燃料がクリアランスに入りポンプピストン80の全長ではないが長さの一部分に沿ってシーリング液に取って代わるように相互依存的に選択され、別のポンプ行程が起こる前に、シーリング液はクリアランスの実質的に全ての低引火点燃料に取って代わり、したがって、低引火点燃料がシーリング油系統自体に入ることはない。
【0079】
電子制御ユニットは特許請求の範囲に列挙したいくつかの手段の機能を満たすことができる。
【0080】
特許請求の範囲で用いられる参照符号は範囲を限定するものと解釈してはならない。
【0081】
例示ために本発明を詳細に説明してきたが、このような詳細は単なる例示のためのものであり、本発明の範囲から逸脱することなく当業者によって変形できることが理解される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図7A
図7B
図8
図9
図9A
図10
図11