(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6267815
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】レースコースで競技者の速度を計測する方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
G01P 3/36 20060101AFI20180115BHJP
A63B 71/06 20060101ALI20180115BHJP
G01P 3/62 20060101ALI20180115BHJP
G01P 7/00 20060101ALI20180115BHJP
G01S 13/58 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
G01P3/36 E
A63B71/06 M
G01P3/62
G01P7/00
G01S13/58 210
【請求項の数】15
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-12771(P2017-12771)
(22)【出願日】2017年1月27日
(65)【公開番号】特開2017-134076(P2017-134076A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2017年1月27日
(31)【優先権主張番号】16153402.9
(32)【優先日】2016年1月29日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511103672
【氏名又は名称】スイスタイミング・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】ファビアン・マセ
(72)【発明者】
【氏名】レト・ガリ
【審査官】
森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−122895(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0116147(US,A1)
【文献】
特許第5544472(JP,B2)
【文献】
特許第5804334(JP,B2)
【文献】
特許第5565770(JP,B2)
【文献】
特許第5899541(JP,B2)
【文献】
特許第6114549(JP,B2)
【文献】
特許第6157849(JP,B2)
【文献】
特許第6093631(JP,B2)
【文献】
特許第6094955(JP,B2)
【文献】
特許第6154017(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P
G01S
A63B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スキー又はスノーボードコース等のレースコースで、スキーヤ又はスノーボーダ等の競技者の少なくとも1速度を、前記競技者が着用するトランスポンダモジュール(10)を有する計測システム(1)によって計測する方法であって、該方法は、
−前記レースのスタート時に、少なくとも1個の計測センサ(17、27、37)を有する計測ユニット(7)を含む前記トランスポンダモジュール(10)を起動するステップ、
−前記コースに沿って前記レース中に、前記計測ユニット(7)によって前記競技者の前記速度を計測するステップ、及び
−前記競技者の速度をリアルタイムで又は連続的に少なくとも1つの画面に表示するために、前記競技者の速度計測値を、前記計測システム(1)の少なくとも1つの基地局(22、23、24)に、リアルタイムで送信するステップを含み、
前記レース中の競技者の現在速度の計測値を、前記計測ユニット(7)のドップラレーダセンサ(17)によって取得し、速度計測データ信号を、前記トランスポンダモジュール(10)の送信ユニット(5)を介して、前記計測システム(1)の少なくとも1つの基地局(22、23、24)にリアルタイムで送信するために、前記トランスポンダモジュール(10)の処理ユニット(4)に送信し、
前記レーダセンサ(17)からドップラ偏移周波数成分の欠如を検出した後に、前記競技者の現在速度を、前記レース中に、前記トランスポンダモジュール(10)の前記計測ユニット(7)のモーションセンサ(27)からの計測データに基づいて推定することを特徴とする計測方法。
【請求項2】
前記モーションセンサ(27)は、慣性計測ユニットであり、該ユニットは、3軸加速度計、3軸ジャイロスコープ及び3軸磁気センサを含む計測方法であって、前記現在速度を、前記モーションセンサ(27)によって推定することを特徴とする、請求項1に記載の計測方法。
【請求項3】
前記慣性計測ユニットの計測は、前記レース中にジャンプをした際の離地時間及び着地時間又は斜面との接触時間も決定することを特徴とする、請求項2に記載の計測方法。
【請求項4】
スキー又はスノーボードコース等のレースコースで、スキーヤ又はスノーボーダ等の競技者の少なくとも1速度を、前記競技者が着用するトランスポンダモジュール(10)を有する計測システム(1)によって計測する方法であって、該方法は、
−前記レースのスタート時に、少なくとも1個の計測センサ(17、27、37)を有する計測ユニット(7)を含む前記トランスポンダモジュール(10)を起動するステップ、
−前記コースに沿って前記レース中に、前記計測ユニット(7)によって前記競技者の前記速度を計測するステップ、及び
−前記競技者の速度をリアルタイムで又は連続的に少なくとも1つの画面に表示するために、前記競技者の速度計測値を、前記計測システム(1)の少なくとも1つの基地局(22、23、24)に、リアルタイムで送信するステップを含み、
前記レース中の競技者の現在速度の計測値を、前記計測ユニット(7)のドップラレーダセンサ(17)によって取得し、速度計測データ信号を、前記トランスポンダモジュール(10)の送信ユニット(5)を介して、前記計測システム(1)の少なくとも1つの基地局(22、23、24)にリアルタイムで送信するために、前記トランスポンダモジュール(10)の処理ユニット(4)に送信し、
前記レーダセンサ(17)が地面を見失う間、前記レーダセンサ(17)によって行う計測と相まって、前記トランスポンダモジュール(10)の前記計測ユニット(7)の圧力センサ(37)によって、速度を推定することを特徴とする計測方法。
【請求項5】
高度計(37)である前記圧力センサを、前記レースのスタート直前、又は前記レースがスタートする瞬間に較正することを特徴とする、請求項4に記載の計測方法。
【請求項6】
前記トランスポンダモジュール(10)の時間基準を同期させた状態で前記高度計(37)によって行う前記計測を用いて、前記競技者のレース中に、中間時間を決定することを特徴とする、請求項5に記載の計測方法。
【請求項7】
前記較正した高度計(37)からの気圧計測値に基づいて、前記レースコース上の正確な位置に、速度計測値を合致させることを特徴とする、請求項5に記載の計測方法。
【請求項8】
前記トランスポンダモジュール(10)は、処理ユニット(4)内に、プロセッサ、及び前記トランスポンダモジュール(10)の動作を刻時し、前記レースのスタート時に同期させる時間基準として機能する発振器を含む計測方法であって、前記トランスポンダモジュール(10)における前記計測に関する同期時間指標を、前記レースコース上の位置を精確に決定する前記較正した高度計(37)からの前記計測値と共に使用することを特徴とする、請求項5に記載の計測方法。
【請求項9】
前記計測データ信号を前記計測システム(1)のデコーダ装置(20)の少なくとも1つの基地局(22、23、24)に送信後、前記デコーダ装置(20)に接続した計時装置(26)と協働して、前記レースの終了後に数人の競技者の速度曲線について、比較することを特徴とする、請求項8に記載の計測方法。
【請求項10】
前記トランスポンダモジュール(10)を、前記レースがスタートすると直ぐに、前記計測システム(1)のデコーダ装置(20)の送信機(2)からのウェイクアップ及び同期信号によって、起動及び同期させることを特徴とする、請求項1−9の何れか一項に記載の計測方法。
【請求項11】
前記レーダーセンサ(17)による前記速度計測における瞬断を、前記送信ユニット(5)による前記計測データ信号の送信中に生じさせることを特徴とする、請求項1−10の何れか一項に記載の計測方法。
【請求項12】
請求項1−3、及び、請求項1−3に従属する請求項10、11、の何れか1項に記載の前記計測方法を実行するために、レース中に競技者の少なくとも1つの速度を計測するシステム(1)であり、該計測システムは、競技者が着用する少なくとも1個の着用者に合わせた(personalised)トランスポンダモジュール(10)を含み、該トランスポンダモジュール(10)は、速度を計測する計測ユニット(7)、デコーダ装置(20)、及び各競技者の前記レースを計時するために前記デコーダ装置(20)に接続する計時装置(26)を含み、前記デコーダ装置(20)は、レースのスタート時に起動信号を前記トランスポンダモジュール(10)に送信する送信機(21)、及び前記レース中に前記トランスポンダモジュール(10)から連続した速度計測データ信号を受信する少なくとも1つの基地局(22、23、24)を含む計測システムであって、レースコースの任意の地点で連続した速度計測値を提供するために、前記トランスポンダモジュール(10)を、前記レースがスタートすると直ぐに、起動するよう構成し、
前記トランスポンダモジュール(10)の前記計測ユニット(7)は、前記速度計測用の少なくとも1個のドップラレーダセンサ(17)を含み、
前記トランスポンダモジュール(10)の前記計測ユニット(7)は、モーションセンサを更に含み、該モーションセンサは、前記レース中にジャンプがあった際に、前記レーダセンサが調整速度を提供しない場合、前記競技者の速度を推定するための慣性計測ユニット(27)とすることを特徴とする計測システム(1)。
【請求項13】
請求項4−9、及び、請求項4−9に従属する請求項10、11、の何れか1項に記載の前記計測方法を実行するために、レース中に競技者の少なくとも1つの速度を計測するシステム(1)であり、該計測システムは、競技者が着用する少なくとも1個の着用者に合わせた(personalised)トランスポンダモジュール(10)を含み、該トランスポンダモジュール(10)は、速度を計測する計測ユニット(7)、デコーダ装置(20)、及び各競技者の前記レースを計時するために前記デコーダ装置(20)に接続する計時装置(26)を含み、前記デコーダ装置(20)は、レースのスタート時に起動信号を前記トランスポンダモジュール(10)に送信する送信機(21)、及び前記レース中に前記トランスポンダモジュール(10)から連続した速度計測データ信号を受信する少なくとも1つの基地局(22、23、24)を含む計測システムであって、レースコースの任意の地点で連続した速度計測値を提供するために、前記トランスポンダモジュール(10)を、前記レースがスタートすると直ぐに、起動するよう構成し、
前記トランスポンダモジュール(10)の前記計測ユニット(7)は、前記速度計測用の少なくとも1個のドップラレーダセンサ(17)を含み、
前記トランスポンダモジュール(10)の前記計測ユニット(7)は、前記レーダセンサ(17)によって行う前記計測と相まって、速度を決定するために、前記レースがスタートする瞬間に較正するものとする高度計(37)である圧力センサを更に含むことを特徴とする計測システム(1)。
【請求項14】
前記較正する高度計(37)を、前記トランスポンダモジュール(10)が同期時間基準を備えた状態で、前記レース中に中間時間を決定するように構成することを特徴とする、請求項13に記載の計測システム(1)。
【請求項15】
前記トランスポンダモジュール(10)は、前記デコーダ装置(20)の前記送信機(21)からウェイクアップ及び同期信号を受信する受信機ユニット(3)、該受信機ユニット(3)及び前記計測ユニット(7)に接続する処理ユニット(4)、該処理ユニット(4)から速度計測データ信号を送信するユニット(5)を含むことを特徴とする、請求項12−14の何れか1項に記載の計測システム(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばスキー又はスノーボードコースといったレースコースで、例えばスキーヤ又はスノーボーダといった競技者の少なくとも速度を計測し、表示するための方法に関する。
【0002】
また、本発明は、上記方法を実行するために、競技者の少なくとも速度を連続的に計測するシステムにも関する。
【背景技術】
【0003】
スキー滑降レース等の競技では、スキーヤ等競技者の速度を、最近では、例えば、互いに数メートル離間して設置した2個の光電池を使用して、計測できる。また、そうした速度計測を、ウェブサイトhttp://www.stalkerradar.com/sportsradar/(非特許文献1)で示すようなスピードガンを使用するドップラレーダシステムによって行うこともできる。数個のスピードガンを、滑降コース付近で、該コースの様々な要所に設置できる。
【0004】
固定してもよい、スキーレースで速度を計測する装置は、連続的に速度を供給できないが、レースコースの特定箇所でのみ速度を供給できる。また、全くどの携帯可能な装置も、画面に又はテレビにライブで速度を表示するために、リアルタイムで基地局に結果を送信できる手段を含んではいない。
【0005】
また、従来の携帯可能なレーダ又は超音波装置には、滑降スキーレース中、リンクさせた固定速度計測手段との接続が途絶えることがあるという欠点がある。つまり、広角のドップラレーダでも、レースにおけるジャンプ中に地面を見失うことがある。そのため、リアルタイムの速度計測が中断してしまう。
【0006】
米国特許出願第2002/0116147A1号(特許文献1)は、コントローラに接続したセンサユニットを備えた携帯可能な装置について記載している。該センサを、ドップラ効果センサ等の速度センサ、電力センサ、及び圧力センサ又は高度計等の降下距離センサとしてもよい。RF通信ユニットを、計測データを基地局に通信するために設けてもよい。センサからの計測値を、携帯可能な装置に保存でき、送信前に該装置で処理できる。
【0007】
しかしながら、かかる携帯可能な装置では、レーススタート時の起動及び同期動作、及び圧力センサを較正する動作について、記載していない。複数のセンサによって行う計測を組合せて、速度、飛行時間及び飛行距離を正確に決定すること、或いは表示画面に表示するために基地局に速度計測値を連続的に送信することは不可能であり、これらは欠点である。
【0008】
欧州特許出願第1406066A2号(特許文献2)では、勾配及び圧力差を計測することによって、レースにおいて距離を決定する装置について記載している。圧力差を、圧力センサによって計測する一方で、勾配を、静的及び動的加速度を考慮した加速度センサによって計測する。
【0009】
また、同装置では、レースのスタート時にセンサを起動及び同期、又は較正することについて記載していない。滑降スキーレース中に、連続的に正確に速度を決定して、基地局に送信して、画面に表示するための、複数のセンサによって行う計測の明確な組合せについて、記載しておらず、これらは、欠点である。
【0010】
米国特許出願第2002/0059044A1号(特許文献3)では、主にスキー速度を計測する携帯可能な装置について記載している。これを達成するために、速度センサ及びジャンプ又は飛行時間を決定するセンサを使用する。マイクロプロセッサは、ジャンプセンサからの情報を、飛行時間を決定するように変換できる。表示装置を、この時間をスキーヤに示すために設けてもよいが、リアルタイムで情報を送ることはできない。
【0011】
かかる装置では、レースのスタート時にセンサを起動及び同期、又は較正することについて記載していない。更に、連続的に正確にスキーヤの速度を決定して、基地局に送信して、画面に表示するために、複数のセンサからの計測値を組合せることについて、記載しておらず、これらは、欠点である。
【0012】
スキーヤの速度を計測するための、他の携帯可能な装置が知られている。特に、米国特許第4,546,650号(特許文献4)を、コースに接触する少なくとも1つのホイール、及び該ホイールの回転速度を決定する手段を含む速度計測装置について記載しているものとして、挙げることができる。しかしながら、この種の装置は、精確で連続した速度計測を行えない。
【0013】
欧州特許第1084422B1号(特許文献5)では、少なくとも1個の超音波又はマイクロ波ドップラセンサの使用について記載しており、該センサを、スキー、スキー靴又はスキーヤのベルトに配置する。ドップラセンサは、開口角が広く、開口角を変化させて、1%の精度で計測可能であるが、スキーヤがスタートしたときから、及びコースでのジャンプ中に精確で連続的な速度計測ができない。
【0014】
また、注目すべきは、GPS受信機を使用することで、連続的に速度計測を行うことを想定できる点である。複数の信号経路による干渉、山や他の物体が空をブロックすることによる干渉、及び精密度の幾何学的希釈による干渉に応じて異なるが、それでも95%の精度を達成できる。傾斜が45の山の斜面では、水平速度は、三次元速度より30%遅くなる。レース中のスキーヤについて正確に稼働するために、GPS受信機を、スキーヤのヘルメットに設置しなければならないが、これは、滑降レース中容認できない安全面でのリスクとなる。更に、センサをスキーに取着しないため、頭部とスキー間の移動により精度が不足する。GPS技術により通常3方向で速度計測可能になるが、GPS装置のユーザは、水平方向で二次元速度を受信するだけである。この結果、スキーヤの実際の速度と比べて、スキーヤに大きな差を齎す可能性があり、これは、欠点である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許出願第2002/0116147A1号
【特許文献2】欧州特許出願第1406066A2号
【特許文献3】米国特許出願第2002/0059044A1号
【特許文献4】米国特許第4,546,650号
【特許文献5】欧州特許第1084422B1号
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】http://www.stalkerradar.com/sportsradar/
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
従って、本発明の目的は、例えばスキーヤ又はスノーボーダといった競技者の少なくとも速度を、例えばスキー又はスノーボードコースといったレースコースで、計測するための方法であって、レース中に精確な連続した速度計測を行い、計測値を少なくとも1つの基地局に送信できる方法を提案して、上記先行技術の欠点を解消することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
このために、本発明は、レース中に競技者の少なくとも速度を計測するシステムに関し、該システムは、独立請求項1で規定した特徴を含む。
【0019】
競技者の少なくとも速度を計測する方法に関する特定のステップについて、従属請求項2乃至13で規定する。
【0020】
本計測方法の一効果は、特にスキーヤの速度を、離れた場所の、テレビ等の表示画面で、レース全体を通して、レースコースの特定箇所でだけでなく、見られるという点にある。そのため、トランスポンダモジュールは、レース中にリアルタイムで、又は連続して速度を計測するドップラレーダ速度センサ等、少なくとも1個の速度センサを有する計測ユニットを含む。この速度計測を、レースのスタートからゴールまで行うことができる。これを達成するために、トランスポンダモジュールを、スタート時に、精確な時間基準の送信機からの、又は計時用デコーダ装置からの同期送信によって、或いは現場(in situ)にあるセンサによって、起動及び同期させる。
【0021】
競技者の速度を計測する本方法の一効果は、3軸加速度計、3軸ジャイロスコープ及び3軸磁気センサを有する9軸慣性モーションセンサ等、トランスポンダモジュールの少なくとも1個のモーションセンサによって行う計測についても考慮している点にある。モーションセンサによる計測により、競技者の速度を、特にレースコースでのジャンプ中に決定可能になる。ドップラレーダセンサからの計測値とモーションセンサからの計測値を、トランスポンダモジュールで合わせて、速度計測値を精確に決定して、リアルタイムで、又は連続して通信できる。また、レースのスタート時に較正するトランスポンダモジュールの圧力センサからの計測値も使用して、高さデータを提供できると共に、特にレース中のジャンプにおける垂直速度を決定できる。
【0022】
有利には、トランスポンダモジュールの計測ユニットのセンサを用いて、スキー又はスノーボードの下降中に、競技者が行うジャンプ長も計測できる。更に、圧力センサからの気圧を使用して、速度計測値をレースコースの正確な位置と合致可能にしてもよい。また、レース後に、スキーヤ又はスノーボーダ等数人の競技者の速度曲線を比較することもできる。
【0023】
有利には、レースのスタート時にトランスポンダモジュールの圧力センサを同期させた後に、中間時間の計測を、ドップラレーダ速度センサ、モーションセンサ及び圧力センサを含むトランスポンダモジュールを用いて行うことができる。こうした中間時間の計測を、レースのスタート時に較正した高度計からの計測によって、主に決定できる。
【0024】
このために、本発明は、レース中に競技者の少なくとも速度を計測するシステムにも関し、該計測システムを実行するために、該システムは、独立請求項14で規定した特徴を含む。
【0025】
計測システムに関する特定の実施形態について、従属請求項15乃至19で規定する。
【0026】
本発明によるレース中に競技者の少なくとも速度を計測する方法及びシステムに関する目的、効果及び特徴は、図面で示した少なくとも1つの非限定的な実施形態に関する以下の説明で、より明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明による計測方法を実行するために、レース中に競技者の少なくともリアルタイムの又は連続した速度を計測するシステムを図式的に表している。
【
図2】本発明による、レース中に少なくとも1つの速度を計測するために競技者が保持するトランスポンダモジュールの構成要素を、図式的に表している。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下の記載では、本計測方法を実行するための、スキー又はスノーボードレース中にスキーヤ又はスノーボーダ等競技者の少なくとも速度を計測するシステムに関する全要素について、該要素は当該技術分野で当業者に周知であり、簡単にだけ記載する。
【0029】
図1は、スキー又はスノーボードレース等のレースにおいて競技者の速度を計測する計測システム1を形成する主な要素を図式的に示している。計測システム1を、レースのスタートからゴールまで競技者の速度をリアルタイム計測する、即ちライブで、又は連続的に計測する一方で、上記速度を観客に、画面で又はテレビ放送でライブ表示できるように配設する。速度計測方法の様々なステップについては、以下で、計測システム1の様々な構成要素に関して記載した後に詳述する。
【0030】
計測システム1は、1個又は複数のトランスポンダモジュール10を含み、該トランスポンダモジュールを其々、競技者が着用するものとするが、特に、レース中に上記速度を計測するためにトランスポンダモジュール10を着用する上記競技者に合わせる。識別コードを、トランスポンダモジュール10内部で、トランスポンダモジュール10を着用する各競技者に帰属させる。競技者の各トランスポンダモジュール10を、例えば、競技者の靴の片方に配置する。また、計測システムは、計時装置26に接続するデコーダ装置20を含み、計時装置26は、レースにおける計測データを表示するための少なくとも1つの画面(表示せず)を含んでもよい。
【0031】
このデコーダ装置20は、まず、少なくとも1つのウェイクアップ又は起動信号を、アンテナ11を介して、競技者が着用する少なくとも1個のトランスポンダモジュール10に送信する送信機21を含む。また、送信機21は、トランスポンダモジュールの時間基準と同期するために、ウェイクアップ及び同期信号をトランスポンダモジュール10に送信できる。起動及び同期信号の送信を、例えば、レースのゴール領域からの長距離としてもよい、又はスタート領域での短距離としてもよい。トランスポンダモジュール10は、レースのスタート時に、第1アンテナ2を介してウェイクアップ及び同期信号を受信する。
【0032】
また、注目すべきは、トランスポンダモジュール10の起動を、現場(in situ)センサを用いて、即ち、レースのスタート地点にある、又はスキーに直接配置したセンサを用いて、達成してもよい点である。
【0033】
また、デコーダ装置20は、レースにおいて、トランスポンダモジュール10の第2アンテナ6によって送信する計測信号、特に競技者の速度計測信号を其々受信できる1つ又は複数の基地局22、23、24も含む。各基地局22、23、24は、別々に又は一斉に、受信アンテナ11a、11b、11cを介して、リアルタイム又は連続した速度計測信号をトランスポンダモジュール10から受信できる。デコーダ装置20は、計時装置26に送信するためのコマンド又は計測データを処理するために、送信機21に及び様々な基地局22、23、24に接続した処理ユニット25を更に含む。
【0034】
注目すべきは、デコーダ装置20の各基地局22、23、24を、レースコースの特定の場所に設置できる点である。例えば、スキー又はスノーボードレースでは、基地局22、23、24を、レースのスタートとゴールの間で互いに200〜400m離隔できる。ケーブルによって又は無線送信によってもデータ又はコマンドを処理ユニット25に送信するように、様々な基地局22、23、24を、ケーブルによって、又は無線通信によっても接続してもよい。
【0035】
図2では、トランスポンダモジュール10を、主な構成要素を該モジュール内に含めて表している。トランスポンダモジュール10は、第1アンテナ2を介して、デコーダ装置の送信機から少なくとも1つの信号を受信する受信機ユニット3を含む。送信機によって提供する信号は、一般的に、好適には能動型のトランスポンダモジュールからのウェイクアップ又は起動信号である。このウェイクアップ信号を、レースがスタートする瞬間に、主に受信する。また、トランスポンダモジュール10は、レースがスタートすると直ぐに、トランスポンダの時間基準と同期するウェイクアップ/起動及び同期信号を受信してもよい。
【0036】
また、トランスポンダモジュール10は、特に、レース中に競技者の速度を計測するための少なくとも1個の計測センサを有する計測ユニット7も含む。好適には、計測ユニット7は、少なくとも1個のドップラレーダセンサ17を含む。また、計測ユニット7は、慣性計測ユニット27を含んでもよく、慣性計測ユニット27は、3軸加速度計、3軸ジャイロスコープ及び3軸磁力計から成るモーションセンサである。また、計測ユニット7は、高度計37等の圧力センサを含んでもよく、該圧力センサを、競技者がレースをスタートした瞬間にデコーダ装置の送信機から受信するウェイクアップ及び同期信号によって較正できる。一般に、高度計の較正を、上記レースのスタート直前、又は上記レースがスタートした瞬間に、レースのスタート位置で、行う必要がある。
【0037】
また、トランスポンダモジュール10は、処理ユニット4も含み、処理ユニット4は、受信機ユニット3から起動及び同期信号を受信し、一旦起動すると、少なくとも1個のセンサを有する計測ユニット7による計測値を受信する。この処理ユニット4は、プロセッサ又はマイクロプロセッサ、及び処理動作を刻時し、起動及び同期信号によって較正すると時間基準として機能する発振器を含んでもよい。処理ユニット4を、第2アンテナ6によって競技者の少なくとも速度に関するデータ計測信号を送信する送信ユニット5に接続する。また、メモリ(表示せず)を、長期間に亘る様々な速度計測値及び較正又は時間データを連続して保存するために、及び競技者に固有の識別コードを保存するために、トランスポンダモジュール10内に設けてもよい。
【0038】
注目すべきは、トランスポンダモジュール10の第1アンテナ2及び第2アンテナ6を、制御、ウェイクアップ及び同期信号を受信し、計測データ信号を送信する単一のアンテナとしてもよい点である。データ信号の送信に関しては、信号のキャリア周波数を、300MHz〜3,000MHz、特に、例えば、433MHz、868MHz又は915MHzとしてもよい。データ変調を、振幅変調、周波数又は位相変調によって達成する。データ信号をデコーダ装置に送信するために、幾つかのキャリア周波数から選択してもよい。従って、様々な送信チャネルを選んでもよい。
【0039】
図1及び
図2を参照して、スキーヤ又はスノーボーダである競技者の少なくとも速度を、リアルタイムで、即ちスキー又はスノーボードレース中にライブで又は連続して計測する方法について、次に、記述する。この方法は、レースがスタートすると直ぐに、トランスポンダモジュール10を起動する第1ステップを含み、トランスポンダモジュール10は、少なくとも1個の計測センサを有する計測ユニット7を含む。次に、この方法は、コースに沿って、上記レース中に計測ユニットを用いて競技者の速度を連続的に計測する第2ステップを含む。この方法の第3ステップでは、速度計測値を、計測システム1の少なくとも1つの基地局22、23、24に、リアルタイムで又は連続して、送信する。最後に、競技者の速度計測値を、少なくとも1つの画面に表示する、又は観客に対してテレビで再放送する。従って、競技者の速度を、レースコースの任意の地点で、ライブで計測でき、画面で見ることができる。
【0040】
各基地局22、23、24又は少なくとも1つの基地局は、レース中に競技者が着用するトランスポンダモジュール10からリアルタイムの又は連続的な速度計測データ信号を受信できる。デコーダ装置の処理ユニット25に送信できる。また、送信を、デコーダ装置の処理ユニット25から、各競技者のレースの計時を制御する第2アンテナ6に行ってもよい。計時装置26から、少なくとも1つの観客用画面にリアルタイムで又は連続的に速度の表示が行われる。
【0041】
トランスポンダモジュール10は、計測ユニット7を含んでもよく、計測ユニット7は、ドップラレーダセンサ17に加えて、慣性計測ユニット27であるモーションセンサを含む。また、高度計37を、ドップラレーダセンサ17及びモーションセンサ27と共に、3計測センサを有するユニットを形成するように、設けてもよい。まずドップラレーダセンサによる速度計測を行い、計測値を少なくとも1つの基地局22、23、24に送信する処理ユニット4に送信する。ドップラレーダセンサ17による計測を、トランスポンダモジュール10の送信ユニット5によって計測データ信号を送信中に、短期間、例えば、約2ms間、一時的に中断できる。これにより、速度計測とデータ信号送信中の干渉を避けられる。
【0042】
レースのスタート時にトランスポンダモジュール10を起動すると、トランスポンダモジュールの同期も起こるようにして、統一した時間基準を用いてレース時間を決定可能にしてもよい。トランスポンダモジュールの起動を、スタート領域付近に設置した専用設備を使用する近距離磁気通信又は長距離電波通信を用いて達成する。
【0043】
レーススタート後のトランスポンダモジュール10の動作中、トランスポンダモジュールは、例えば、コースにある隆起部でのジャンプ中といった、ドップラレーダセンサ17が地面を見失う瞬間を、検出する。そうして、ドップラ偏移周波数成分の欠如を検出すると、現在の速度を、モーションセンサ27からの計測データ、例えば加速度に基づいて推定する。ドップラレーダセンサから及びモーションセンサからの計測値を、トランスポンダモジュールでまとめて、速度計測値を精確に決定して、リアルタイムで又は連続的に通信できる。この速度推定値の精度を更に高めるために、垂直速度を、レースのスタート時に較正する、高度計37とする圧力センサの計測で、考慮に入れる。
【0044】
注目すべきは、ジャンプはまた、モーションセンサ27の加速度計に関する特定の特徴によっても検出できる点である。これらの特定の特徴は、例えば、振動の欠如又は重力成分の欠如である。また、メートル単位でのジャンプ距離も計算して、少なくとも1つの基地局22、23、24に送信できる。これを達成するために、モーションセンサ27からの推定方位及び/又はレーダ及び/又はモーションセンサ27からの速度推定値、及び/又はジャンプ中の圧力センサ37からの垂直速度を使用する。また、離地時間及び着地時間又は斜面との接触時間も考慮する。
【0045】
レースコースに関する精確な高度プロファイルを用いて、連続した速度計測値を、高度計として使用する圧力センサ37からの計測値に基づいて、レースコース上の正確な位置で、調整、適合又は合致できる。トランスポンダモジュール10において、圧力センサ37の較正後に、計測に関する同期時間指標を用いることで、更に正確な位置調整が可能になる。この位置調整は、中間時間を一般的に光電池によって計測する地点では、一層正確になる。また、かかる位置合せにより、異なるスキーヤの速度曲線をレース後に比較可能になる。更に、同期時間基準を有する気圧センサ計測値を使用することで、競技者のレース中に、山の斜面に垂直な任意の仮想線で、中間時間が決定可能になる。
【0046】
以上の記載から、レースで競技者の少なくとも速度を計測するシステム及び方法の幾つかの変形例を、当業者は、クレームで規定する本発明の範囲から逸脱することなく、考案できる。トランスポンダモジュールは、温度センサ等他の数個のセンサを含んでもよい。また、注目すべきは、計測システムを、例えば、自転車レース又は別のスポーツ等他のレースで競技者の速度を計測するのに、或いはスキージャンプで速度を計測するのにも使用し得たであろう点である。
【符号の説明】
【0047】
1 計測システム
2 第1アンテナ
3 受信機ユニット
4、25 処理ユニット
5 送信ユニット
6 第2アンテナ
7 計測ユニット
10 トランスポンダモジュール
11 アンテナ
17 ドップラレーダセンサ
20 デコーダ装置
21 送信機
22、23、24 基地局
26 計時装置
27 慣性計測ユニット
37 高度計