(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明は、本発明の一例に関するものであり、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0011】
光学フィルタは、波長450nm〜600nmの光を透過させ、かつ、波長650nm〜1100nmの光をカットする特性を有することが望ましい場合がある。しかし、例えば、特許文献1に記載の光学フィルタは、波長650nm〜800nmにおいて十分な光吸収特性を有しておらず、波長650nm〜800nmの光をカットするために、別の光吸収層又は光反射膜を必要とする。もしくは、波長650nm〜800nmの光をカットするのに適した赤外線吸収ガラス等の基板を併用する必要がある。このように、簡素な構成(例えば、一つの光吸収層)で上記の望ましい特性を有する光学フィルタを実現することは容易なことではない。実際に、本発明者は、簡素な構成で上記の望ましい特性を有する光学フィルタを実現するために試行錯誤を何度も重ねた。その結果、本発明者は、ついに本発明に係る光学フィルタを案出した。
【0012】
図1Aに示す通り、光学フィルタ1aは、光吸収層10を備えている。光学フィルタ1aは、0°の入射角度で波長300nm〜1200nmの光を入射させたときに、下記(i)〜(iii)の条件を満たす。光学フィルタ1aにおいて、光吸収層10によって下記(i)の条件、(ii)の条件、及び下記(iii)の条件が満たされる。
(i)波長450nm〜600nmにおいて78%以上の平均透過率
(ii)波長750nm〜1080nmにおいて1%以下の分光透過率
(iii)波長600nm〜750nmにおいて波長の増加に伴い減少する分光透過率及び波長620nm〜680nmの範囲内に存在する第一IRカットオフ波長
【0013】
本明細書において、「分光透過率」とは、特定の波長の入射光が試料等の物体に入射するときの透過率であり、「平均透過率」とは、所定の波長範囲内の分光透過率の平均値であり、「最大透過率」とは、所定の波長範囲内の分光透過率の最大値である。また、本明細書において、「透過率スペクトル」とは所定の波長範囲内の各波長における分光透過率を波長の順に並べたものである。
【0014】
本明細書において、「IRカットオフ波長」とは、光学フィルタに波長300nm〜1200nmの光を、所定の入射角度で入射させたときに、600nm以上の波長範囲において50%の分光透過率を示す波長を意味する。「第一IRカットオフ波長」は、0°の入射角度で光学フィルタに光を入射させたときのIRカットオフ波長である。また、「UVカットオフ波長」とは、光学フィルタに波長300nm〜1200nmの光を、所定の入射角度で入射させたときに、450nm以下の波長範囲において、50%の分光透過率を示す波長を意味する。「第一UVカットオフ波長」は、0°の入射角度で光学フィルタに光を入射させたときのUVカットオフ波長である。
【0015】
光学フィルタ1aが上記の(i)〜(iii)の条件を満足することにより、光学フィルタ1aにおいて波長450nm〜600nmの光の透過量が多く、かつ、波長650nm〜1100nmの光を効果的にカットできる。このため、光学フィルタ1aの透過率スペクトルは、特許文献1に記載の近赤外線吸収フィルタの透過率スペクトルに比べて、人間の視感度により適合している。しかも、光学フィルタ1aは、光吸収層10によって(i)〜(iii)の条件が満たされる。
【0016】
上記(i)に関し、光学フィルタ1aは、波長450nm〜600nmにおいて、望ましくは80%以上の平均透過率を有し、より望ましくは82%以上の平均透過率を有する。
【0017】
上記(iii)に関し、第一IRカットオフ波長は、望ましくは、波長630nm〜650nmの範囲内に存在する。これにより、光学フィルタ1aの透過率スペクトルが人間の視感度により適合する。
【0018】
光学フィルタ1aは、望ましくは、0°の入射角度で波長300nm〜1200nmの光を入射させたときに、下記(iv)の条件を満たす。これにより、光学フィルタ1aは、紫外線領域の光を効果的にカットでき、光学フィルタ1aの透過率スペクトルが人間の視感度により適合する。
(iv)波長300nm〜350nmにおいて1%以下の分光透過率
【0019】
上記(iv)に関し、望ましくは、光学フィルタ1aにおいて、光吸収層10によって条件(iv)が満たされる。
【0020】
上記(iv)に関し、望ましくは、光学フィルタ1aは、0°の入射角度で波長300nm〜1200nmの光を入射させたときに、波長300nm〜360nmにおいて1%以下の分光透過率を有する。
【0021】
光学フィルタ1aは、望ましくは、0°の入射角度で波長300nm〜1200nmの光を入射させたときに、下記(v)の条件を満たす。これにより、光学フィルタ1aの透過率スペクトルが人間の視感度により適合する。
(v)波長350nm〜450nmにおいて波長の増加に伴い増加する分光透過率を有するとともに、第一UVカットオフ波長が波長380nm〜430nmの範囲内に存在する。
【0022】
上記(v)に関し、望ましくは、光学フィルタ1aにおいて、光吸収層10によって条件(v)が満たされる。
【0023】
上記(v)に関し、第一UVカットオフ波長は、望ましくは、波長390nm〜420nmの範囲内に存在する。これにより、光学フィルタ1aの透過率スペクトルが人間の視感度により適合する。
【0024】
光学フィルタ1aは、望ましくは、0°の入射角度で波長300nm〜1200nmの光を入射させたときに、下記(vi)の条件を満たす。これにより、比較的長い波長(波長1000〜1100nm)を有する赤外線を遮蔽することができる。従来、この波長の光をカットするためには誘電体多層膜からなる光反射膜が用いられることが多い。しかし、光学フィルタ1aによれば、このような誘電体多層膜を用いなくともこの波長の光を効果的にカットできる。誘電体多層膜からなる光反射膜が必要であったとしても、光反射膜に要求される反射性能のレベルを低くできるので、光反射膜における誘電体の積層数を低減でき、光反射膜の形成に要するコストを低減できる。光学フィルタ1aにおいて、望ましくは、光吸収層10によって条件(vi)が満たされる。
(vi)波長1000〜1100nmにおいて3%以下の分光透過率
【0025】
光学フィルタ1aは、望ましくは、0°の入射角度で波長300nm〜1200nmの光を入射させたときに、下記(vii)の条件を満たす。この場合、より長い波長(1100〜1200nm)を有する赤外線をカットできる。これにより、誘電体多層膜を用いなくとも又は誘電体多層膜における誘電体の積層数が少なくても、光学フィルタ1aがこの波長の光を効果的にカットできる。光学フィルタ1aにおいて、望ましくは、光吸収層10によって条件(vii)が満たされる。
(vii)波長1100〜1200nmにおいて15%以下の分光透過率
【0026】
例えば、光学フィルタ1aにおいて、第二IRカットオフ波長と、第一IRカットオフ波長との差の絶対値が10nm以下である(条件(viii))。第二IRカットオフ波長は、光学フィルタ1aに40°の入射角度で波長300nm〜1200nmの光を入射させたときのIRカットオフ波長である。この場合、光学フィルタ1aの第一IRカットオフ波長付近の透過率特性は、光学フィルタ1aに入射する光の入射角度に対して変動しにくい。その結果、光学フィルタ1aが撮像素子の前方に配置された撮像装置によって得られた画像の中心部及び周辺部において異なる色味が発生することを抑制できる。
【0027】
光学フィルタ1aにおいて、第二IRカットオフ波長と、第一IRカットオフ波長との差の絶対値は、望ましくは5nm以下である。
【0028】
例えば、光学フィルタ1aにおいて、第三IRカットオフ波長と、第一IRカットオフ波長との差の絶対値が15nm以下である(条件(ix))。第三IRカットオフ波長は、光学フィルタ1aに50°の入射角度で波長300nm〜1200nmの光を入射させたときのIRカットオフ波長である。この場合、光学フィルタ1aに入射する光の入射角度が大きく変化しても、光学フィルタ1aの第一IRカットオフ波長付近の透過率特性の変化を抑制できる。その結果、広い画角で撮像可能な撮像装置の撮像素子の前方に光学フィルタ1aを配置しても、良質な画像が得られやすい。
【0029】
例えば、光学フィルタ1aにおいて、第四IRカットオフ波長と、第一IRカットオフ波長との差の絶対値が20nm以下である。第四IRカットオフ波長は、光学フィルタ1aに60°の入射角度で波長300nm〜1200nmの光を入射させたときのIRカットオフ波長である。この場合、広い画角で撮像可能な撮像装置の撮像素子の前方に光学フィルタ1aを配置しても、良質な画像が得られやすい。
【0030】
例えば、光学フィルタ1aにおいて、第二UVカットオフ波長と、第一UVカットオフ波長との差の絶対値が10nm以下である(条件(x))。第二UVカットオフ波長は、光学フィルタ1aに40°の入射角度で波長300nm〜1200nmの光を入射させたときのUVカットオフ波長である。この場合、光学フィルタ1aの第一UVカットオフ波長付近の透過率特性は、光学フィルタ1aに入射する光の入射角度に対して変動しにくい。その結果、光学フィルタ1aが撮像素子の前方に配置された撮像装置によって得られた画像の中心部及び周辺部において異なる色味が発生することを抑制できる。
【0031】
光学フィルタ1aにおいて、第二UVカットオフ波長と、第一UVカットオフ波長との差の絶対値は、望ましくは5nm以下である。
【0032】
例えば、光学フィルタ1aにおいて、第三UVカットオフ波長と、第一UVカットオフ波長との差の絶対値が15nm以下である(条件(xi))。第三UVカットオフ波長は、光学フィルタ1aに50°の入射角度で波長300nm〜1200nmの光を入射させたときのUVカットオフ波長である。この場合、光学フィルタ1aに入射する光の入射角度が大きく変化しても、光学フィルタ1aの第一UVカットオフ波長付近の透過率特性の変化を抑制できる。その結果、広い画角で撮像可能な撮像装置の撮像素子の前方に光学フィルタ1aを配置しても、良質な画像が得られやすい。
【0033】
例えば、光学フィルタ1aにおいて、第四UVカットオフ波長と、第一UVカットオフ波長との差の絶対値が20nm以下である。第四UVカットオフ波長は、光学フィルタ1aに60°の入射角度で波長300nm〜1200nmの光を入射させたときのUVカットオフ波長である。この場合、広い画角で撮像可能な撮像装置の撮像素子の前方に光学フィルタ1aを配置しても、良質な画像が得られやすい。
【0034】
光学フィルタ1aは、望ましくは、0°の入射角度で波長300nm〜1200nmの光を入射させたときに、下記(xii)の条件を満たす。光学フィルタ1aにおいて、望ましくは、光吸収層10によって条件(xii)が満たされる。
(xii)波長800〜950nmにおいて0.5%以下の分光透過率、より望ましくは0.1%以下の分光透過率
【0035】
光学フィルタ1aは、望ましくは、0°の入射角度で波長300nm〜1200nmの光を入射させたときに、下記(xiii)の条件をさらに満たす。光学フィルタ1aにおいて、望ましくは、光吸収層10によって条件(xiii)が満たされる。
(xiii)波長800〜1000nmにおいて0.5%以下の分光透過率、より望ましくは0.1%以下の分光透過率
【0036】
撮像装置に使用されているRGBに対応した各カラーフィルタは、各RGBに対応した波長範囲の光を透過させるだけではなく波長800nm以上の光をも透過させることがある。このため、撮像装置に用いられる赤外線カットフィルタの上記の波長範囲における分光透過率がある程度低くないと、上記の波長範囲の光が撮像素子の画素に入射し、その画素から信号が出力されてしまう。このような撮像装置を用いてデジタル画像を取得した場合に、可視光領域の光量が十分に強いときは、低光量の赤外線がカラーフィルタを透過して撮像素子の画素が受光しても得られたデジタル画像に大きな影響は出ない。しかし、可視光領域の光量が小さいとき又は画像の暗部においては、そのような赤外線の影響を受けやすくなり、ときには青系又は赤系などの色味がそれらの画像に混ざることがある。
【0037】
このように、CMOS及びCCDなどの撮像素子とともに用いられているカラーフィルタは、波長800〜950nmまたは800〜1000nmの範囲における光を透過させる場合がある。光学フィルタ1aが上記の(xii)及び(xiii)の条件を満たすことにより、このような画像の不具合を防止できる。
【0038】
光吸収層10は、光学フィルタ1aが上記(i)〜(iii)の条件を満たすように、所定の波長範囲の光を吸収する限り特に制限されないが、例えば、ホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤を含んでいる。
【0039】
光吸収層10がホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤を含む場合、そのホスホン酸は、例えば、アリール基を有する第一ホスホン酸を含む。第一ホスホン酸においてアリール基はリン原子に結合している。これにより、光学フィルタ1aが上記(i)〜(iii)の条件を満たしやすい。
【0040】
第一ホスホン酸が有するアリール基は、例えば、フェニル基、ベンジル基、トルイル基、ニトロフェニル基、ヒドロキシフェニル基、フェニル基における少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子に置換されているハロゲン化フェニル基、又はベンジル基のベンゼン環における少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子に置換されているハロゲン化ベンジル基である。望ましくは、第一ホスホン酸は、その一部において、ハロゲン化フェニル基を有する。この場合、より確実に、光学フィルタ1aが上記(i)〜(iii)の条件を満たしやすい。
【0041】
光吸収層10がホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤を含む場合、そのホスホン酸は、望ましくは、アルキル基を有する第二ホスホン酸をさらに含む。第二ホスホン酸において、アルキル基はリン原子に結合している。
【0042】
第二ホスホン酸が有するアルキル基は、例えば、6個以下の炭素原子を有するアルキル基である。このアルキル基は、直鎖及び分岐鎖のいずれを有していてもよい。
【0043】
光吸収層10がホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤を含む場合、光吸収層10は、望ましくは、光吸収剤を分散させるリン酸エステルと、マトリクス樹脂とをさらに含む。
【0044】
光吸収層10に含有されているリン酸エステルは、光吸収剤を適切に分散できる限り特に制限されないが、例えば、下記式(c1)で表されるリン酸ジエステル及び下記式(c2)で表されるリン酸モノエステルの少なくとも一方を含む。下記式(c1)及び下記式(c2)において、R
21、R
22、及びR
3は、それぞれ、−(CH
2CH
2O)
nR
4で表される1価の官能基であり、nは、1〜25の整数であり、R
4は、炭素数6〜25のアルキル基を示す。R
21、R
22、及びR
3は、互いに同一又は異なる種類の官能基である。
【化1】
【0045】
リン酸エステルは、特に制限されないが、例えば、プライサーフA208N:ポリオキシエチレンアルキル(C12、C13)エーテルリン酸エステル、プライサーフA208F:ポリオキシエチレンアルキル(C8)エーテルリン酸エステル、プライサーフA208B:ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル、プライサーフA219B:ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル、プライサーフAL:ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルリン酸エステル、プライサーフA212C:ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステル、又はプライサーフA215C:ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステルであり得る。これらはいずれも第一工業製薬社製の製品である。また、リン酸エステルは、NIKKOL DDP−2:ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、NIKKOL DDP−4:ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、又はNIKKOL DDP−6:ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルであり得る。これらは、いずれも日光ケミカルズ社製の製品である。
【0046】
光吸収層10に含まれるマトリクス樹脂は、例えば、光吸収剤を分散させることができ、熱硬化又は紫外線硬化が可能な樹脂である。さらに、マトリクス樹脂として、その樹脂によって0.1mmの樹脂層を形成した場合に、その樹脂層の波長350nm〜900nmの光に対する透過率が例えば70%以上であり、望ましくは75%以上であり、より望ましくは80%以上である、樹脂を用いることができる。ホスホン酸の含有量は、例えば、マトリクス樹脂100質量部に対して3〜180質量部である。
【0047】
光吸収層10に含まれるマトリクス樹脂は、上記の特性を満足する限り特に限定されないが、例えば(ポリ)オレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、(変性)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、又はシリコーン樹脂である。マトリクス樹脂は、フェニル基等のアリール基を含んでいてもよく、望ましくはフェニル基等のアリール基を含んでいるシリコーン樹脂である。光吸収層10が硬い(リジッドである)と、その光吸収層10の厚みが増すにつれて、光学フィルタ1aの製造工程中に硬化収縮によりクラックが生じやすい。マトリクス樹脂がアリール基を含むシリコーン樹脂であると光吸収層10が良好な耐クラック性を有しやすい。また、アリール基を含むシリコーン樹脂を用いると、上記のホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤を含有する場合に光吸収剤が凝集しにくい。さらに、光吸収層10のマトリクス樹脂がアリール基を含むシリコーン樹脂である場合に、光吸収層10に含まれるリン酸エステルが式(c1)又は式(c2)で表されるリン酸エステルのようにオキシアルキル基等の柔軟性を有する直鎖有機官能基を有することが望ましい。なぜなら、上記のホスホン酸と、アリール基を含むシリコーン樹脂と、オキシアルキル基等の直鎖有機官能基を有するリン酸エステルとの組合せに基づく相互作用により、光吸収剤が凝集しにくく、かつ、光吸収層に良好な剛性及び良好な柔軟性をもたらすことができるからである。マトリクス樹脂として使用されるシリコーン樹脂の具体例としては、KR−255、KR−300、KR−2621−1、KR−211、KR−311、KR−216、KR−212、及びKR−251を挙げることができる。これらはいずれも信越化学工業社製のシリコーン樹脂である。
【0048】
図1Aに示す通り、光学フィルタ1aは、例えば透明誘電体基板20をさらに備えている。透明誘電体基板20は光吸収層10に覆われている。透明誘電体基板20は、450nm〜600nmにおいて高い平均透過率(例えば、80%以上)を有する誘電体基板である限り、特に制限されない。
【0049】
透明誘電体基板20は、例えば、ガラス製又は樹脂製である。透明誘電体基板20がガラス製である場合、そのガラスは、例えば、D263等のホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラス(青板)、B270等の白板ガラス、無アルカリガラス、又は銅を含有しているリン酸塩ガラス若しくは銅を含有しているフツリン酸塩ガラス等の赤外線吸収性ガラスである。透明誘電体基板20が、銅を含有しているリン酸塩ガラス又は銅を含有しているフツリン酸塩ガラス等の赤外線吸収性ガラスである場合、透明誘電体基板20が有する赤外線吸収性能と光吸収層10が有する赤外線吸収性能との組み合わせによって光学フィルタ1aに所望の赤外線吸収性能をもたらすことができる。このような赤外線吸収性ガラスは、例えば、ショット社製のBG−60、BG−61、BG−62、BG−63、若しくはBG−67であり、日本電気硝子社製の500EXLであり、又はHOYA社製のCM5000、CM500、C5000、若しくはC500Sである。また、赤外線吸収性ガラスは紫外線吸収特性を有していてもよい。
【0050】
透明誘電体基板20は、酸化マグネシウム、サファイア、又は石英などの透明性を有する結晶性の基板であってもよい。例えば、サファイアは高硬度であるので、傷がつきにくい。このため、板状のサファイアは、耐擦傷性の保護材料(プロテクトフィルタ)として、スマートフォン及び携帯電話等の携帯端末に備えられているカメラモジュール又はレンズの前面に配置される場合がある。このような板状のサファイア上に光吸収層10が形成されることにより、カメラモジュール及びレンズの保護とともに、波長650nm〜1100nmの光を効果的にカットできる。波長650nm〜1100nmの赤外線の遮蔽性を備える光学フィルタをCCDやCMOSなどの撮像素子の周辺又はカメラモジュールの内部に配置する必要がなくなる。このため、板状のサファイア上に光吸収層10を形成すれば、カメラモジュールの低背位化に貢献できる。
【0051】
透明誘電体基板20が樹脂製である場合、その樹脂は、例えば、(ポリ)オレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、(変性)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、又はシリコーン樹脂である。
【0052】
光学フィルタ1aは、例えば、光吸収層10を形成するための組成物(光吸収性組成物)を透明誘電体基板20の一方の主面に塗布して塗膜を形成し、その塗膜を乾燥させることによって製造できる。光吸収層10が、ホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤を含む場合を例に、光吸収性組成物の調製方法及び光学フィルタ1aの製造方法を説明する。
【0053】
まず、光吸収性組成物の調製方法の一例を説明する。酢酸銅一水和物などの銅塩をテトラヒドロフラン(THF)などの所定の溶媒に添加して撹拌し、銅塩の溶液を得る。次に、この銅塩の溶液に、式(c1)で表されるリン酸ジエステル又は式(c2)で表されるリン酸モノエステルなどのリン酸エステル化合物を加えて撹拌し、A液を調製する。また、第一ホスホン酸をTHFなどの所定の溶媒に加えて撹拌し、B液を調製する。第一ホスホン酸として複数種類のホスホン酸を用いる場合、ホスホン酸をTHFなどの所定の溶媒に加えたうえで撹拌して、ホスホン酸の種類ごとに調製した複数の予備液を混合してB液を調製してもよい。望ましくは、B液の調製においてアルコキシシランモノマーが加えられる。
【0054】
光吸収性組成物にアルコキシシランモノマーが加えられると、光吸収剤の粒子同士が凝集することを防止できるので、リン酸エステルの含有量を低減しても、光吸収性組成物において光吸収剤が良好に分散する。また、光吸収性組成物を用いて光学フィルタ1aを製造する場合に、アルコキシシランモノマーの加水分解反応及び縮重合反応が十分に起こるように処理することにより、シロキサン結合(−Si−O−Si−)が形成され、光学フィルタ1aが良好な耐湿性を有する。加えて、光学フィルタ1aが良好な耐熱性を有する。なぜなら、シロキサン結合は、−C−C−結合及び−C−O−結合等の結合よりも結合エネルギーが高く化学的に安定しており、耐熱性及び耐湿性に優れているからである。
【0055】
次に、A液を撹拌しながら、A液にB液を加えて所定時間撹拌する。次に、この溶液にトルエンなどの所定の溶媒を加えて撹拌し、C液を得る。次に、C液を加温しながら所定時間脱溶媒処理を行って、D液を得る。これにより、THFなどの溶媒及び酢酸(沸点:約118℃)などの銅塩の解離により発生する成分が除去され、第一ホスホン酸と銅イオンとによって光吸収剤が生成される。C液を加温する温度は、銅塩から解離した除去されるべき成分の沸点に基づいて定められている。なお、脱溶媒処理においては、C液を得るために用いたトルエン(沸点:約110℃)などの溶媒も揮発する。この溶媒は、光吸収性組成物においてある程度残留していることが望ましいので、この観点から溶媒の添加量及び脱溶媒処理の時間が定められているとよい。なお、C液を得るためにトルエンに代えてo‐キシレン(沸点:約144℃)を用いることもできる。この場合、o‐キシレンの沸点はトルエンの沸点よりも高いので、添加量をトルエンの添加量の4分の1程度に低減できる。
【0056】
光吸収性組成物が第二ホスホン酸をさらに含んでいる場合、例えば、以下のようにしてH液がさらに調製される。まず、酢酸銅一水和物などの銅塩をテトラヒドロフラン(THF)などの所定の溶媒に添加して撹拌し、銅塩の溶液を得る。次に、この銅塩の溶液に、式(c1)で表されるリン酸ジエステル又は式(c2)で表されるリン酸モノエステルなどのリン酸エステル化合物を加えて撹拌し、E液を調製する。また、第二ホスホン酸をTHFなどの所定の溶媒に加えて撹拌し、F液を調製する。第二ホスホン酸として複数種類のホスホン酸を用いる場合、第二ホスホン酸をTHFなどの所定の溶媒に加えたうえで撹拌して第二ホスホン酸の種類ごとに調製した複数の予備液を混合してF液を調製してもよい。E液を撹拌しながら、E液にF液を加えて所定時間撹拌する。次に、この溶液にトルエンなどの所定の溶媒を加えて撹拌し、G液を得る。次に、G液を加温しながら所定時間脱溶媒処理を行って、H液を得る。これにより、THFなどの溶媒及び酢酸などの銅塩の解離により発生する成分が除去され、第二ホスホン酸と銅イオンとによって別の光吸収剤が生成される。G液を加温する温度はC液と同様に決定され、G液を得るための溶媒もC液と同様に決定される。
【0057】
D液にシリコーン樹脂等のマトリクス樹脂を加えて撹拌して光吸収性組成物を調製できる。また、光吸収性組成物が第二ホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤を含有している場合、D液にシリコーン樹脂等のマトリクス樹脂を加えて撹拌して得られたI液に、さらにH液を加えて撹拌することにより、光吸収性組成物を調製できる。
【0058】
光吸収性組成物を透明誘電体基板20の一方の主面に塗布して塗膜を形成する。例えば、液状の光吸収性組成物をスピンコーティング又はディスペンサによる塗布により、透明誘電体基板20の一方の主面に塗布して塗膜を形成する。次に、この塗膜に対して所定の加熱処理を行って塗膜を硬化させる。例えば、50℃〜200℃の温度の環境にこの塗膜を曝す。必要に応じて、光吸収性組成物に含有されているアルコキシシランモノマーを十分に加水分解させるために塗膜に加湿処理を施す。例えば、40℃〜100℃の温度及び40%〜100%の相対湿度の環境に硬化後の塗膜を曝す。これにより、シロキサン結合のくり返し構造(Si−O)
nが形成される。このようにして、光学フィルタ1aを製造できる。なお、一般的にはモノマーを含むアルコキシシランの加水分解及び縮重合反応においては、アルコキシシランと水とを液状組成物内に併存させてこれらの反応を行わせる場合がある。しかし、光学フィルタを作製するときに予め光吸収性組成物に水を添加しておくと、光吸収層の形成の過程でリン酸エステル又は光吸収剤が劣化してしまい、光吸収性能が低下したり、光学フィルタの耐久性を損ねたりする可能性がある。このため、所定の加熱処理により塗膜を硬化させた後に加湿処理を行うことが望ましい。
【0059】
透明誘電体基板20がガラス基板である場合、透明誘電体基板20と光吸収層10との付着性を向上させるために、シランカップリング剤を含む樹脂層を透明誘電体基板20と光吸収層10との間に形成してもよい。
【0060】
<変形例>
光学フィルタ1aは、様々な観点から変更可能である。例えば、光学フィルタ1aは、
図1B〜
図1Eに示す光学フィルタ1b〜1eにそれぞれ変更されてもよい。光学フィルタ1b〜1eは、特に説明する場合を除き、光学フィルタ1aと同様に構成されている。光学フィルタ1aの構成要素と同一又は対応する光学フィルタ1b〜1eの構成要素には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。光学フィルタ1aに関する説明は、技術的に矛盾しない限り光学フィルタ1b〜1eにも当てはまる。
【0061】
図1Bに示す通り、本発明の別の一例に係る光学フィルタ1bは、透明誘電体基板20の両方の主面上に光吸収層10が形成されている。これにより、1つの光吸収層10によってではなく、2つの光吸収層10によって、光学フィルタ1bが上記の(i)〜(iii)の光学性能を発揮できる。透明誘電体基板20の両方の主面上における光吸収層10の厚みは同一であってもよいし、異なっていてもよい。すなわち、光学フィルタ1bが所望の光学特性を得るために必要な光吸収層10の厚みが均等に又は不均等に分配されるように、透明誘電体基板20の両方の主面上に光吸収層10が形成されている。これにより、光学フィルタ1bの透明誘電体基板20の一方の主面上に形成された各光吸収層10の厚みは、光学フィルタ1aのそれより小さい。これにより、塗膜の内部圧力が低くクラックの発生を防止できる。また、液状の光吸収性組成物を塗布する時間を短縮でき、光吸収性組成物の塗膜を硬化させるための時間を短縮できる。透明誘電体基板20の両方の主面上に光吸収層10が形成されていることにより、透明誘電体基板20が薄い場合でも、光学フィルタ1bにおいて反りが抑制される。この場合も、透明誘電体基板20と光吸収層10との付着性を向上させるために、シランカップリング剤を含む樹脂層を透明誘電体基板20と光吸収層10との間に形成してもよい。
【0062】
図1Cに示す通り、本発明の別の一例に係る光学フィルタ1cは、反射防止膜30を備えている。反射防止膜30は、光学フィルタ1cと空気との界面をなすように形成された、可視光領域の光の反射を低減するための膜である。反射防止膜30は、例えば、樹脂、酸化物、及びフッ化物等の誘電体によって形成された膜である。反射防止膜30は、屈折率の異なる二種類以上の誘電体を積層して形成された多層膜であってもよい。特に、反射防止膜30は、SiO
2等の低屈折率材料とTiO
2又はTa
2O
5等の高屈折率材料とからなる誘電体多層膜であってもよい。この場合、光学フィルタ1cと空気との界面におけるフレネル反射が低減され、光学フィルタ1cの可視光領域の光量を増大させることができる。この場合も、透明誘電体基板20と光吸収層10との付着性を向上させるために、シランカップリング剤を含む樹脂層を透明誘電体基板20と光吸収層10との間に形成してもよい。場合によっては、反射防止膜30の付着性を向上させるために、シランカップリング剤を含む樹脂層を光吸収層10と反射防止膜30との間に形成してもよい。反射防止膜30は、光学フィルタ1cの両方の主面に配置されていてもよいし、片方の主面にのみ配置されていてもよい。
【0063】
図1Dに示す通り、本発明の別の一例に係る光学フィルタ1dは、光吸収層10のみによって構成されている。光学フィルタ1dは、例えば、ガラス基板、樹脂基板、金属基板(例えば、スチール基板又はステンレス基板)等の所定の基板に光吸収性組成物を塗布して塗膜を形成し、この塗膜を硬化させた後に基板から剥離させることによって製造できる。光学フィルタ1dは、溶融成形法によって製造されてもよい。光学フィルタ1dは、透明誘電体基板20を備えていないので薄い。このため、光学フィルタ1dは、撮像素子及び光学系の低背位化に貢献できる。
【0064】
図1Eに示す通り、本発明の別の一例に係る光学フィルタ1eは、光吸収層10と、その両面に配置された一対の反射防止膜30とを備えている。この場合、光学フィルタ1eは、撮像素子及び光学系の低背位化に貢献でき、かつ、光学フィルタ1dに比べて可視光領域の光量を増大させることができる。
【0065】
光学フィルタ1a〜1eは、それぞれ、その機能性を高めるために、光吸収層10とは別に、赤外線吸収膜又は紫外線吸収膜を備えるように変更されてもよい。赤外線吸収膜は、例えば、シアニン系、フタロシアニン系、スクアリリウム系、ジインモニウム系、及びアゾ系等の有機系の赤外線吸収剤又は金属錯体からなる赤外線吸収剤を含有している。赤外線吸収膜は、例えば、これらの赤外線吸収剤から選ばれる1つ又は複数の赤外線吸収剤を含有している。この有機系の赤外線吸収剤は、吸収可能な光の波長範囲(吸収バンド)が小さく、特定の範囲の波長の光を吸収するのに適している。
【0066】
紫外線吸収膜は、例えば、ベンゾフェノン系、トリアジン系、インドール系、メロシアニン系、及びオキサゾール系等の紫外線吸収剤を含有している。紫外線吸収膜は、例えば、これらの紫外線吸収剤から選ばれる1つ又は複数の紫外線吸収剤を含有している。これらの紫外線吸収剤は、例えば300nm〜340nm付近の紫外線を吸収し、吸収した波長よりも長い波長の光(蛍光)を発し、蛍光剤又は蛍光増白剤として機能するものも含まれうるが、紫外線吸収膜により、樹脂等の光学フィルタに使用されている材料の劣化をもたらす紫外線の入射を低減できる。
【0067】
上記の赤外線吸収剤又は紫外線吸収剤は、樹脂製の透明誘電体基板20に予め含有させてもよい。赤外線吸収膜や紫外線吸収膜は、例えば、赤外線吸収剤又は紫外線吸収剤を含有している樹脂を成膜することによって形成できる。この場合、樹脂は、赤外線吸収剤又は紫外線吸収剤を適切に溶解又は分散させることができ、かつ、透明であることが必要である。このような樹脂として、(ポリ)オレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、(変性)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、及びシリコーン樹脂を例示できる。
【0068】
光学フィルタ1a〜1eは、例えば、撮像装置における撮像素子の分光感度を人間の視感度に近づけるために、撮像装置の内部のCCD又はCMOS等の撮像素子の前面(被写体に近い側)に配置される。
【0069】
また、光学フィルタ1aは、例えば、カメラ付き情報端末を製造するのに使用される。この場合、カメラ付き情報端末は、例えば、レンズ系と、撮像素子と、光学フィルタ1aとを備えている。撮像素子は、レンズ系を通過した光を受光する。光学フィルタ1aは、レンズ系の前方に配置されレンズ系を保護する。この場合、光学フィルタ1aがレンズ系のカバーとしての機能を果たす。
【0070】
カメラ付き情報端末が備えるカメラモジュール100の一例を示す。
図2に示す通り、カメラモジュール100は、光学フィルタ1aに加え、例えば、レンズ系2、ローパスフィルタ3、撮像素子4、回路基板5、光学フィルタ支持筐体7、及び光学系筐体8を備えている。光学フィルタ1aの周縁は、例えば、光学フィルタ支持筐体7の中央に形成された開口に接する環状の凹部に嵌められている。光学フィルタ支持筐体7は、光学系筐体8に固定されている。光学系筐体8の内部には、レンズ系2、ローパスフィルタ3、及び撮像素子4が光軸に沿ってこの順番で配置されている。撮像素子4は、例えば、CCD又はCMOSである。被写体からの光は、光学フィルタ1aによって、紫外線及び赤外線がカットされた後、レンズ系2によって集光され、さらにローパスフィルタ3を通過して撮像素子4に入る。撮像素子4によって生成された電気信号は回路基板5によってカメラモジュール100の外部に送られる。
【0071】
カメラモジュール100において、光学フィルタ1aはレンズ系2を保護するカバー(プロテクトフィルタ)としての機能も果たしている。この場合、望ましくは、光学フィルタ1aにおける透明誘電体基板20としてサファイア基板が使用される。サファイア基板は高い耐擦傷性を有するので、例えばサファイア基板が外側(撮像素子4の側とは反対側)に配置されることが望ましい。これにより、光学フィルタ1aは、外部からの接触等に対して高い耐擦傷性を有するとともに上記(i)〜(iii)の光学性能(望ましくはさらに(iv)〜(xiii)の光学性能)を有する。これにより、撮像素子4の近くに赤外線又は紫外線をカットするための光学フィルタを配置する必要がなくなり、カメラモジュール100を低背位化しやすい。なお、
図2に示すカメラモジュール100は、各部品の配置等を例示するための概略図であり、光学フィルタ1aがプロテクトフィルタとして用いられる態様を説明するものである。光学フィルタ1aがプロテクトフィルタとしての機能を果たす限り、光学フィルタ1aを用いたカメラモジュールは、
図2で表したものに限定されず、必要に応じて、ローパスフィルタ3は省略されてもよいし、他のフィルタを備えていてもよい。さらに、光学フィルタ1aの光吸収層10に接して反射防止膜が形成されていてもよい。
【実施例】
【0072】
実施例により、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。まず、実施例及び比較例に係る光学フィルタの評価方法を説明する。
【0073】
<光学フィルタの透過率スペクトル測定>
波長300nm〜1200nmの光を実施例及び比較例に係る光学フィルタに入射させたときの透過率スペクトルを、紫外線可視分光光度計(日本分光社製、製品名:V−670)を用いて測定した。光学フィルタに対する入射光の入射角度を0°から65°まで5°刻みで変化させてそれぞれの角度における透過率スペクトルを測定した。
【0074】
<光吸収層の厚みの測定>
実施例及び比較例に係る光学フィルタの厚みをデジタルマイクロメータで測定した。実施例及び比較例に係る光学フィルタのうちガラス等の透明誘電体基板を有する光学フィルタについては、デジタルマイクロメータで測定した光学フィルタの厚みからガラス基板の厚みを差し引いて光学フィルタにおける光吸収層の厚みを決定した。
【0075】
<実施例1>
酢酸銅一水和物((CH
3COO)
2Cu・H
2O)1.125gとテトラヒドロフラン(THF)60gとを混合して、3時間撹拌し酢酸銅溶液を得た。次に、得られた酢酸銅溶液に、リン酸エステル化合物であるプライサーフA208N(第一工業製薬社製)を0.412g加えて30分間撹拌し、A液を得た。フェニルホスホン酸(C
6H
5PO(OH)
2)(日産化学工業社製)0.441gにTHF10gを加えて30分間撹拌し、B−1液を得た。4‐ブロモフェニルホスホン酸(C
6H
4BrPO(OH)
2)(東京化成工業社製)0.661gにTHF10gを加えて30分間撹拌し、B−2液を得た。次に、B−1液とB−2液とを混ぜて1分間撹拌し、メチルトリエトキシシラン(MTES:CH
3Si(OC
2H
5)
3)(信越化学工業社製)1.934gとテトラエトキシシラン(TEOS:Si(OC
2H
5)
4)(キシダ化学社製 特級)0.634gを加えてさらに1分間撹拌し、B液を得た。A液を撹拌しながらA液にB液を加え、室温で1分間撹拌した。次に、この溶液にトルエン25gを加えた後、室温で1分間撹拌し、C液を得た。このC液をフラスコに入れてオイルバス(東京理化器械社製、型式:OSB−2100)で加温しながら、ロータリーエバポレータ(東京理化器械社製、型式:N−1110SF)によって、脱溶媒処理を行った。オイルバスの設定温度は、105℃に調整した。その後、フラスコの中から脱溶媒処理後のD液を取り出した。フェニルホスホン酸銅及び4‐ブロモフェニルホスホン酸銅を含むフェニル系ホスホン酸銅(吸収剤)の微粒子の分散液であるD液は透明であり、微粒子が良好に分散していた。
【0076】
酢酸銅一水和物0.225gとTHF36gとを混合して3時間撹拌し酢酸銅溶液を得た。次に、得られた酢酸銅溶液に、リン酸エステル化合物であるプライサーフA208Nを0.129g加えて30分間撹拌し、E液を得た。また、n‐ブチルホスホン酸(C
4H
9PO(OH)
2)(日本化学工業社製)0.144gにTHF10gを加えて30分間撹拌し、F液を得た。E液を撹拌しながらE液にF液を加え、室温で1分間撹拌した。次に、この溶液にトルエン25gを加えた後、室温で1分間撹拌し、G液を得た。このG液をフラスコに入れてオイルバスで加温しながら、ロータリーエバポレータによって、脱溶媒処理を行った。オイルバスの設定温度は、105℃に調整した。その後、フラスコの中から脱溶媒処理後のH液を取り出した。ブチルホスホン酸銅の微粒子の分散液であるH液は透明であり、微粒子が良好に分散していた。
【0077】
D液にシリコーン樹脂(信越化学工業社製、製品名:KR−300)を2.200g添加し30分間撹拌して、I液を得た。H液をI液に加えて30分間撹拌し、実施例1に係る光吸収性組成物(J液)を得た。実施例1に係る光吸収性組成物(J液)について、各成分の質量基準の含有量を表1に示し、各成分の物質量基準の含有量及び各ホスホン酸の物質量基準の含有率を表2に示す。各ホスホン酸の含有率は、小数第2位を四捨五入して求めているため、合計が100mol%にならない場合がある。
【0078】
76mm×76mm×0.21mmの寸法を有するホウケイ酸ガラスでできた透明ガラス基板(SCHOTT社製、製品名:D263)の一方の主面の中心部の30mm×30mmの範囲にディスペンサを用いて実施例1に係る光吸収性組成物を塗布して塗膜を形成した。光学フィルタの波長700〜730nmにおける平均透過率が約1%になるように試行錯誤を行って塗膜の厚みを決定した。光吸収性組成物を透明ガラス基板に塗布するときに塗布液が流れ出さないように、塗布液の塗布範囲に相当する開口を有する枠を透明ガラス基板上に置いて塗布液をせき止めた。塗布液の量を調節することで、目標の厚みの塗膜を得た。次に、未乾燥の塗膜を有する透明ガラス基板をオーブンに入れて、85℃で6時間加熱処理を行い、塗膜を硬化させた。その後、温度85℃及び相対湿度85%に設定された恒温恒湿槽内に、上記の塗膜が形成された透明ガラス基板を20時間置いて加湿処理を行い、透明ガラス基板上に光吸収層が形成された実施例1に係る光学フィルタを得た。加湿処理は、透明ガラス基板上に塗布された光吸収性組成物に含まれるアルコキシシランの加水分解及び縮重合を促進させ、光吸収層において硬質で緻密なマトリクスを形成するために行った。実施例1に係る光学フィルタの光吸収層の厚みは170μmであった。実施例1に係る光学フィルタの、入射角度が0°〜65°における透過率スペクトルを測定した。入射角度が0°、40°、50°、及び60°における透過率スペクトルを
図3に示す。実施例1に係る光学フィルタの、入射角度が0°のときの透過率スペクトルから看取した結果を表7及び表8に示す。表8における「透過率78%以上の波長範囲」は、波長400nm〜600nmにおいて78%以上の分光透過率を示す波長範囲である。表8における赤外線領域特性に関する「透過率1%以下の波長範囲」は、波長700nm〜1200nmにおいて1%以下の分光透過率を示す波長範囲である。表8における赤外線領域特性に関する「透過率0.1%以下の波長範囲」は、波長700nm〜1200nmにおいて0.1%以下の分光透過率を示す波長範囲である。表8における紫外線領域特性に関する「透過率1%以下の波長範囲」は、波長300nm〜400nmにおいて1%以下の分光透過率を示す波長範囲である。表8における紫外線領域特性に関する「透過率0.1%以下の波長範囲」は、波長300nm〜400nmにおいて0.1%以下の分光透過率を示す波長範囲である。このことは、表10、表12、表14、表16、表18、及び表20においても当てはまる。さらに、実施例1に係る光学フィルタの、入射角度が0°、30°〜65°(5°刻み)における透過率スペクトルから看取した結果(入射角度:0°〜65°)を表11及び表12に示す。
【0079】
<実施例2〜15>
各化合物の添加量を表1に示す通りに調節した以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜15に係る光吸収性組成物を調製した。実施例1に係る光吸収性組成物の代わりに、実施例2〜15に係る光吸収性組成物を用いて、光吸収層の厚みを表1に示す通りに調節した以外は、実施例1と同様にして、それぞれ、実施例2〜15に係る光学フィルタを作製した。各ホスホン酸の物質量基準の含有量及び含有率を表2に示す。各ホスホン酸の含有率は、小数第2位を四捨五入して求めているため、合計が100mol%にならない場合がある。実施例2に係る光学フィルタの、入射角度が0°〜65°における透過率スペクトルを測定した。入射角度が0°、40°、50°及び60°における透過率スペクトルを
図4に示す。実施例2に係る光学フィルタの、入射角度が0°のときの透過率スペクトルから看取した結果を表7及び表8に示す。さらに、実施例2に係る光学フィルタの、入射角度が0°、30°〜65°(5°刻み)における透過率スペクトルから看取した結果を表13及び表14に示す。また、実施例3〜15に係る光学フィルタの、入射角度が0°のときの透過率スペクトルから看取した結果を表7及び表8に示す。
【0080】
<実施例16>
76mm×76mm×0.21mmの寸法を有するホウケイ酸ガラスでできた透明ガラス基板(SCHOTT社製、製品名:D263)の一方の主面の中心部の30mm×30mmの範囲にディスペンサを用いて実施例2に係る光吸収性組成物を塗布して所定の厚みの塗膜を形成した。光吸収性組成物を透明ガラス基板に塗布するときに塗布液が流れ出さないように、塗布液の塗布範囲に相当する開口を有する枠を透明ガラス基板上に置いて塗布液をせき止めた。次に、未乾燥の塗膜を有する透明ガラス基板をオーブンに入れて、85℃で6時間加熱処理を行い、塗膜を硬化させた。その後、この塗膜を透明ガラス基板から剥離させた。温度85℃及び相対湿度85%に設定された恒温恒湿槽内に、剥離させた塗膜を20時間置いて加湿処理を行い、光吸収層のみから構成された実施例16に係る光学フィルタを得た。デジタルマイクロメータによる計測は、光吸収層のみの厚みを測定した。その結果、実施例16に係る光学フィルタの厚みは132μmであった。実施例16に係る光学フィルタの、入射角度が0°〜65°における透過率スペクトルを測定した。入射角度が0°、40°、50°、及び60°における透過率スペクトルを
図5に示す。実施例16に係る光学フィルタの、入射角度が0°のときの透過率スペクトルから看取した結果を表7及び表8に示す。さらに、実施例16に係る光学フィルタの、入射角度が0°、30°〜65°(5°刻み)における透過率スペクトルから看取した結果を表15及び表16に示す。
【0081】
<実施例17>
76mm×76mm×0.21mmの寸法を有するホウケイ酸ガラスでできた透明ガラス基板(SCHOTT社製、製品名:D263)の一方の主面の中心部の30mm×30mmの範囲にディスペンサを用いて実施例2に係る光吸収性組成物を塗布し、実施例2における塗膜の厚みより小さい厚みの塗膜を形成した。光吸収性組成物を透明ガラス基板に塗布するときに塗布液が流れ出さないように、塗布液の塗布範囲に相当する開口を有する枠を透明ガラス基板上に置いて塗布液をせき止めた。次に、未乾燥の塗膜を有する透明ガラス基板をオーブンに入れて、85℃で6時間加熱処理を行い、塗膜を硬化させた。次に、透明ガラス基板の他方の主面の中心部の30mm×30mmの範囲にディスペンサを用いて実施例2に係る光吸収性組成物を塗布し、実施例2における塗膜の厚みより小さい厚みの塗膜を形成した。光吸収性組成物を透明ガラス基板に塗布するときに塗布液が流れ出さないように、塗布液の塗布範囲に相当する開口を有する枠を透明ガラス基板上に置いて塗布液をせき止めた。次に、未乾燥の塗膜を有する透明ガラス基板をオーブンに入れて、85℃で6時間加熱処理を行い、塗膜を硬化させた。次に、温度85℃及び相対湿度85%に設定された恒温恒湿槽内に、両主面に上記の塗膜が形成された透明ガラス基板を20時間置いて加湿処理を行い、透明ガラス基板の両面に光吸収層が形成された実施例17に係る光学フィルタを得た。透明ガラス基板の両面に形成された光吸収層の合計の厚みは193μmであった。実施例17に係る光学フィルタの、入射角度が0°〜65°における透過率スペクトルを測定した。入射角度が0°、40°、50°及び60°における透過率スペクトルを
図6に示す。実施例17に係る光学フィルタの、入射角度が0°のときの透過率スペクトルから看取した結果を表7及び表8に示す。実施例17に係る光学フィルタの、入射角度が0°、30°〜65°(5°刻み)における透過率スペクトルから看取した結果を表17及び表18に示す。
【0082】
<実施例18>
リン酸エステル化合物として、プライサーフA208Nの代わりに、プライサーフA208F(第一工業製薬社製)を用い、各化合物の添加量を表1に示す通りに調節した以外は、実施例1と同様にして、実施例18に係る光吸収性組成物を調製した。実施例1に係る光吸収性組成物の代わりに、実施例18に係る光吸収性組成物を用い、光吸収層の厚みを198μmに調節した以外は、実施例1と同様にして、実施例18に係る光学フィルタを作製した。実施例18に係る光学フィルタの、入射角度が0°〜65°における透過率スペクトルを測定し、入射角度が0°のときの透過率スペクトルから看取した結果を表7及び表8に示す。実施例18に係る光学フィルタの、入射角度が0°、30°〜65°(5°刻み)における透過率スペクトルから看取した結果を表19及び表20に示す。
【0083】
<実施例19>
4‐ブロモフェニルホスホン酸の代わりに、4‐フルオロフェニルホスホン酸(C
6H
4FPO(OH)
2)(東京化成工業社製)を用い、各化合物の添加量を表1に示す通り調節した以外は、実施例1と同様にして、実施例19に係る光吸収性組成物を調製した。実施例1に係る光吸収性組成物の代わりに、実施例19に係る光吸収性組成物を用い、光吸収層の厚みを168μmに調節した以外は、実施例1と同様にして、実施例19に係る光学フィルタを作製した。実施例19に係る光学フィルタの透過率スペクトルを測定し、入射角度が0°のときの透過率スペクトルから看取した結果を表7及び表8に示す。
【0084】
<実施例20〜実施例35>
乾燥された塗膜の加湿処理の条件を表3に示す通りに変更し、光吸収層の厚みを表3に示す通りに調節した以外は、実施例2と同様にして、実施例20〜35に係る光学フィルタをそれぞれ作製した。実施例20〜35に係る光学フィルタの透過率スペクトルを測定した。実施例20〜22に係る光学フィルタの、入射角度が0°のときの透過率スペクトルをそれぞれ
図7〜
図9に示す。実施例20〜35に係る光学フィルタの、入射角度が0°のときの透過率スペクトルから看取した結果を表7及び表8に示す。
【0085】
<実施例36>
実施例2で用いた透明ガラス基板の代わりに、0.3mmの厚みを有するサファイア基板を用い、光吸収層の厚みを168μmに調節した以外は、実施例2と同様にして実施例36に係る光学フィルタを作製した。実施例36に係る光学フィルタの透過率スペクトルを測定した。実施例36に係る光学フィルタの、入射角度が0°のときの透過率スペクトルを
図10に示す。入射角度が0°のときの透過率スペクトルから看取した結果を表7及び表8に示す。
【0086】
<比較例1>
各化合物の添加量を表4及び表5に示す通りに調節した以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係るD液(フェニル系ホスホン酸銅の微粒子の分散液)を調製した。比較例1に係るD液にシリコーン樹脂(信越化学工業社製、製品名:KR−300)を2.200g添加し30分間撹拌して、比較例1に係る光吸収性組成物を得た。実施例1に係る光吸収性組成物の代わりに、比較例1に係る光吸収性組成物を用いて、光吸収層の厚みを126μmに調節した以外は、実施例1と同様にして比較例1に係る光学フィルタを作製した。比較例1に係る光学フィルタの透過率スペクトルを測定した。比較例1に係る光学フィルタの、入射角度が0°のときの透過率スペクトルから看取できる結果を表9及び表10に示す。また、比較例1に係る光学フィルタの、入射角度が0°のときの透過率スペクトル測定の結果に基づいて、比較例1に係る光学フィルタの光吸収層の厚みを200μmに変化させた場合の透過率スペクトルを計算し、この透過率スペクトルから看取できる結果を表9及び表10に比較計算例1として示す。
【0087】
<比較例2>
各化合物の添加量を表4及び表5に示す通りに調節した以外は、実施例1と同様にして、比較例2に係るD液(フェニル系ホスホン酸銅の微粒子の分散液)をそれぞれ調製した。比較例2に係るD液にシリコーン樹脂(信越化学工業社製、製品名:KR−300)を4.400g添加し30分間撹拌して、比較例2に係る光吸収性組成物を得た。実施例1に係る光吸収性組成物の代わりに、比較例2に係る光吸収性組成物を用いて、光吸収層の厚みを217μmに調節し、塗膜を硬化させるための加熱処理及び加湿処理の条件を表6に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様にして比較例2に係る光学フィルタを作製した。比較例2に係る光学フィルタの透過率スペクトルを測定した。比較例2に係る光学フィルタの、入射角度が0°のときの透過率スペクトルから看取できる結果を表9及び表10に示す。また、比較例2に係る光学フィルタの、入射角度が0°のときの透過率スペクトル測定の結果に基づいて、比較例2に係る光学フィルタの光吸収層の厚みを347μmに変化させた場合の透過率スペクトルを計算し、この透過率スペクトルから看取できる結果を表9及び表10に比較計算例2として示す。
【0088】
<比較例3>
酢酸銅一水和物1.125gとTHF60gとを混合して、3時間撹拌し酢酸銅溶液を得た。次に、得られた酢酸銅溶液に、プライサーフA208F(第一工業製薬社製)を0.624g加えて30分間撹拌し、A液を得た。フェニルホスホン酸(日産化学工業社製)0.832gにTHF10gを加えて30分間撹拌し、B−1液を得た。B−1液に、MTES(信越化学工業社製)1.274gとTEOS(キシダ化学社製 特級)1.012gを加えてさらに1分間撹拌し、B液を得た。A液を撹拌しながらA液にB液を加え、室温で1分間撹拌した。次に、この溶液にトルエン25gを加えた後、室温で1分間撹拌し、C液を得た。このC液をフラスコに入れてオイルバス(東京理化器械社製、型式:OSB−2100)で加温しながら、ロータリーエバポレータ(東京理化器械社製、型式:N−1110SF)によって、脱溶媒処理を行った。オイルバスの設定温度は、105℃に調整した。その後、フラスコの中から脱溶媒処理後の比較例3に係るD液を取り出した。比較例3に係るD液(フェニルホスホン酸銅の微粒子の分散液)は透明であり、微粒子が良好に分散していた。
【0089】
比較例3に係るD液にシリコーン樹脂(信越化学工業社製、製品名:KR−300)を4.400g添加し30分間撹拌して、比較例3に係る光吸収性組成物を得た。実施例1に係る光吸収性組成物の代わりに、比較例3に係る光吸収性組成物を用いて、光吸収層の厚みを198μmに調節し、塗膜を硬化させるための加熱処理の条件を表6に示す通りに調節した以外は、実施例1と同様にして比較例3に係る光学フィルタを作製した。比較例3に係る光学フィルタの透過率スペクトルを測定した。比較例3に係る光学フィルタの、入射角度が0°のときの透過率スペクトルから看取できる結果を表9及び表10に示す。また、比較例3に係る光学フィルタの入射角度が0°のときの透過率スペクトル測定の結果に基づいて、比較例3に係る光学フィルタの光吸収層の厚みを303μmに変化させた場合の透過率スペクトルを計算し、この透過率スペクトルから看取できる結果を表9及び表10に比較計算例3として示す。
【0090】
<比較例4>
光吸収層の厚みを191μmに調節し、塗膜の加湿処理を行わなかった以外は、実施例2と同様にして比較例4に係る光学フィルタを作製した。比較例4に係る光学フィルタの透過率スペクトルを測定した。比較例4に係る光学フィルタの、入射角度が0°のときの透過率スペクトルから看取できる結果を表9及び表10に示す。また、比較例4に係る光学フィルタの入射角度が0°のときの透過率スペクトルに基づいて、比較例4に係る光学フィルタの光吸収層の厚みを148μmに変化させた場合の透過率スペクトルを計算し、この透過率スペクトルから看取できる結果を表9及び表10に比較計算例4として示す。
【0091】
<比較例5及び6>
光吸収層の厚みを表9に示す通りに調節し、塗膜の加湿処理を表6に示す通り調節した以外は、実施例2と同様にして比較例5及び6に係る光学フィルタを作製した。比較例5及び6に係る光学フィルタの透過率スペクトルを測定した。比較例5に係る光学フィルタの、入射角度が0°のときの透過率スペクトルから看取できる結果を表9及び表10に示す。また、比較例5に係る光学フィルタの入射角度が0°のときの透過率スペクトルに基づいて、比較例5に係る光学フィルタの光吸収層の厚みを155μmに変化させた場合の透過率スペクトルを計算し、この透過率スペクトルから看取できる結果を表9及び表10に比較計算例5として示す。また、比較例6に係る光学フィルタの、入射角度が0°のときの透過率スペクトルから看取できる結果を表9及び表10に示す。また、比較例6に係る光学フィルタの入射角度が0°のときの透過率スペクトルに基づいて、比較例6に係る光学フィルタの光吸収層の厚みを161μmに変化させた場合の透過率スペクトルを計算し、この透過率スペクトルから看取できる結果を表9及び表10に比較計算例6として示す。
【0092】
<比較例7>
比較例1と同様にして、比較例7に係るD液(フェニル系ホスホン酸銅の微粒子の分散液)を調製した。酢酸銅一水和物0.225gとTHF36gとを混合して3時間撹拌し酢酸銅溶液を得た。次に、得られた酢酸銅溶液に、リン酸エステル化合物であるプライサーフA208F(第一工業製薬社製)を0.178g加えて30分間撹拌し、E液を得た。また、n‐ブチルホスホン酸(日本化学工業社製)0.134gにTHF10gを加えて30分間撹拌し、F液を得た。E液を撹拌しながらE液にF液を加え、室温で1分間撹拌した。次に、この溶液にトルエン25gを加えた後、室温で1分間撹拌し、G液を得た。このG液をフラスコに入れてオイルバスで加温しながら、ロータリーエバポレータによって、脱溶媒処理を行った。オイルバスの設定温度は、105℃に調整した。その後、フラスコの中から脱溶媒処理後の比較例7に係るH液を取り出した。比較例7に係るD液にシリコーン樹脂(信越化学工業社製、製品名:KR−300)を2.200g添加し30分間撹拌して、比較例7に係るI液を得た。比較例7に係るH液を比較例7に係るI液に加えて撹拌したが、ホスホン酸銅粒子の凝集が生じ、高い透明性を有する光吸収性組成物を得ることはできなかった。
【0093】
<比較例8>
表4に示す分量でホスホン酸としてn‐ブチルホスホン酸のみを含み、アルコキシシランモノマーを含まない光吸収性組成物の調製を試みたが、ホスホン酸銅粒子の凝集が生じてしまい、高い透明性を有する均質な光吸収性組成物を得ることはできなかった。
【0094】
表7によれば、実施例1〜36に係る光学フィルタは、上記(i)〜(vii)の条件を満たしていた。また、表11、表13、表15、表17、及び表19から、(viii)第二IRカットオフ波長と第一IRカットオフ波長との絶対値の差は、3nm(実施例1)、4nm(実施例2)、4nm(実施例16)、3nm(実施例17)、4nm(実施例18)であり、(ix)第三IRカットオフ波長と第一IRカットオフ波長との絶対値の差は、6nm(実施例1)、7nm(実施例2)、7nm(実施例16)、6nm(実施例17)、7nm(実施例18)であり、(x)第二UVカットオフ波長と第一UVカットオフ波長との絶対値の差は、2nm(実施例1)、3nm(実施例2)、3nm(実施例16)、3nm(実施例17)、3nm(実施例18)であり、(xi)第三UVカットオフ波長と第一UVカットオフ波長との絶対値の差は、3nm(実施例1)、5nm(実施例2)、5nm(実施例16)、5nm(実施例17)、4nm(実施例18)であり、実施例1、2、16、17、及び18に係る光学フィルタは、上記(viii)〜(xi)の条件をさらに満たしていた。また、実施例3〜15及び実施例19〜36に係る光学フィルタの、入射角度が0°〜65°における透過率スペクトル(図示省略)によれば、これらの実施例に係る光学フィルタも上記(viii)〜(xi)の条件をさらに満たしていた。
【0095】
表9によれば、比較例1に係る光学フィルタは、上記(ii)、(vi)、及び(vii)の条件を満たしておらず、赤外線領域において所望の特性を有していなかった。また、比較計算例1によれば、光吸収層の厚みを大きくすることにより、赤外線領域における特性を向上させることができるものの、第一IRカットオフ波長が短くなって(iii)の光学性能を実現できないことが示唆された。このように、比較例1に係る光吸収性組成物を用いても、上記(i)〜(iii)のすべての条件を満たす光学フィルタを作製できないことが示唆された。同様に、表9における比較例2及び比較計算例2並びに比較例3及び比較計算例3の結果によれば、比較例2及び3に係る光吸収性組成物を用いても、上記(i)〜(iii)のすべての条件を満たす光学フィルタを作製できないことが示唆された。
【0096】
表9によれば、比較例4に係る光学フィルタは、上記(i)及び(iii)の条件を満たしていなかった。比較計算例4によれば、光吸収層の厚みを小さくすることにより、波長450〜600nmにおける平均透過率は高まるものの、IRカットオフ波長はほとんど変化せず、波長750〜1080nmにおける最大透過率も増加することが示唆された。このため、比較例4に係る光学フィルタの作製方法では、上記(i)〜(iii)のすべての条件を満たす光学フィルタを作製できないことが示唆された。光吸収性組成物に含まれるアルコキシシランモノマーの加水分解及び縮重合が加湿処理により促進され、光吸収層の硬化が進むことに加えて、加湿処理が光学フィルタの透過率スペクトルにも影響を及ぼすことが示唆された。
【0097】
表9によれば、比較例5に係る光学フィルタは、上記(iii)の条件を満たしていなかった。比較計算例5によれば、光吸収層の厚みを小さくすることにより、IRカットオフ波長が増加するものの、波長750〜1080nmにおける最大透過率も増加することが示唆された。このため、比較例5に係る光学フィルタの作製方法では、上記(i)〜(iii)のすべての条件を満たす光学フィルタを作製できないことが示唆された。特に、比較例5における加湿処理の条件が十分でないことが示唆された。
【0098】
表9に示よれば、比較例6に係る光学フィルタは、上記(i)及び(iii)の条件を満たしていなかった。比較計算例6によれば、光吸収層の厚みを小さくすることにより、IRカットオフ波長が増加するものの、波長750〜1080nmにおける最大透過率も増加することが示唆された。このため、比較例6に係る光学フィルタの作製方法では、上記(i)〜(iii)のすべての光学性能を有する光学フィルタを作製できないことが示唆された。特に、比較例6における加湿処理の条件が十分でないことが示唆された。
【0099】
表2に示す通り、実施例3〜5に係る光吸収性組成物において、実施例3に係る光吸収性組成物のn‐ブチルホスホン酸の含有率が最も高く、実施例5に係る光吸収性組成物のn‐ブチルホスホン酸の含有率が最も低い。このことと、表8によれば、光吸収性組成物におけるアルキル系ホスホン酸の含有率が高くなると、波長700〜1200nmにおいて分光透過率が1%以下である波長範囲及び分光透過率が0.1%以下である波長範囲が長波長側に向けて拡大することが示唆された。実施例6〜8、実施例9及び10、並びに実施例11〜15においても同じことがいえた。
【0100】
表2に示す通り、実施例11〜15に係る光吸収性組成物において、実施例11に係る光吸収性組成物のn‐ブチルホスホン酸の含有率が最も高く、実施例12に係る光吸収性組成物のn‐ブチルホスホン酸の含有率が二番目に高く、実施例13に係る光吸収性組成物のn‐ブチルホスホン酸の含有率が三番目に高く、実施例15に係る光吸収性組成物のn‐ブチルホスホン酸の含有率が最も低い。表7における実施例11〜15の結果によれば、光学フィルタの波長1000〜1100nmにおける最大透過率及び光学フィルタの波長1100〜1200nmにおける最大透過率は、実施例11において最も低く、実施例12において2番目に低く、実施例13において3番目に低く、実施例15において最も高い。これにより、光吸収性組成物において所定の範囲でアルキル系スルホン酸の含有率を高めることにより、赤外線領域の波長の遮蔽性が向上することが示唆された。
【0101】
表2に示す通り、実施例7、10、及び13に係る光吸収性組成物において、実施例7に係る光吸収性組成物の4‐ブロモフェニルホスホン酸の含有率が最も高く、実施例13に係る光吸収性組成物の4‐ブロモフェニルホスホン酸の含有率が最も低い。表7における実施例7、10、及び13の結果によれば、光吸収性組成物の4‐ブロモフェニルホスホン酸の含有率が高いほどUVカットオフ波長が大きくなっている。これにより、光吸収性組成物の4‐ブロモフェニルホスホン酸の含有率を調節することにより、光学フィルタのUVカットオフ波長等の光学性能の最適化が可能であることが示唆された。
【0102】
実施例20〜35並びに比較例4〜6に係る光学フィルタを作製するための光吸収性組成物は、実施例2に係る光吸収性組成物と同様に調製されているものの、表7〜表10に示す通り、これらの実施例及びこれらの比較例に係る光学フィルタは、実施例2に係る光学フィルタとは異なる光学性能を有していた。上記の通り、光吸収性組成物に含まれる、アルコキシシランの加水分解及び縮重合を促進させる目的で加湿処理が行われてはいるが、加湿処理の態様により、これらの実施例及びこれらの比較例に係る光学フィルタにおいて、波長450〜600nmにおける平均透過率及びIRカットオフ波長について差異が生じた。
【0103】
表9における比較計算例4〜6の結果によれば、光吸収層の厚みを変えることでUVカットオフ波長を調節できるものの、比較例4〜6に係る光学フィルタの作製方法によれば、(i)〜(xi)の他の光学性能を満たしながら、IRカットオフ波長を所望の範囲に収めることは困難である。そこで、各実施例及び一部の比較例の加湿処理において被処理物品が晒される環境における水蒸気量(曝露水蒸気量)を下記の通り求めた。結果を表3及び表6に示す。温度t[℃]の時の飽和水蒸気圧e[hPa]を、Tetensの近似式:e=6.11×10
(7.5t/(t+237.3))により求めた。飽和水蒸気圧e[hPa]と相対湿度φ[%]から、水蒸気密度ρv[g/m
3]をρv=217×e×φ/(t+273.15)の式より求めた。水蒸気量×時間[mol/m
3・時間]を曝露水蒸気量として定義した。表3及び表6に示す通り、加湿処理において、温度が60℃以上の場合、相対湿度は70%以上で処理時間1時間以上のときに良好な光学性能が得られることが示唆された。この処理条件は、5.0[mol/m
3・時間]以上の曝露水蒸気量の条件に相当するが、加湿処理での温度が40℃と低く相対湿度が70%である場合、及び、加湿処理での温度が60℃で相対湿度が40%と低い場合でも、処理時間を延ばして同程度の曝露水蒸気量とすることで良好な光学性能が得られることが示唆された。これらの結果から、60℃以上の温度及び70%以上の相対湿度の環境において短時間の加湿処理を行うことが、良好な光学性能を効率良く光学フィルタにもたらす観点から望ましいことが示唆された。
【0104】
【表1】
【0105】
【表2】
【0106】
【表3】
【0107】
【表4】
【0108】
【表5】
【0109】
【表6】
【0110】
【表7】
【0111】
【表8】
【0112】
【表9】
【0113】
【表10】
【0114】
【表11】
【0115】
【表12】
【0116】
【表13】
【0117】
【表14】
【0118】
【表15】
【0119】
【表16】
【0120】
【表17】
【0121】
【表18】
【0122】
【表19】
【0123】
【表20】
【解決手段】光学フィルタ(1a)は、光吸収層(10)を備え、0°の入射角度で波長300nm〜1200nmの光を入射させたときに、下記(i)〜(iii)の条件を満たす。(i)波長450nm〜600nmにおいて78%以上の平均透過率、(ii)波長750nm〜1080nmにおいて1%以下の分光透過率、並びに(iii)波長600nm〜750nmにおいて波長の増加に伴い減少する分光透過率及び波長620nm〜680nmの範囲内に存在する第一IRカットオフ波長。光吸収層(10)によって(i)の条件、(ii)の条件、及び(iii)の条件が満たされる。