特許第6267834号(P6267834)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6267834
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】拡散性雑音聴取
(51)【国際特許分類】
   H04R 25/00 20060101AFI20180115BHJP
【FI】
   H04R25/00 H
【請求項の数】14
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-533412(P2017-533412)
(86)(22)【出願日】2015年12月17日
(65)【公表番号】特表2017-539181(P2017-539181A)
(43)【公表日】2017年12月28日
(86)【国際出願番号】EP2015080218
(87)【国際公開番号】WO2016102300
(87)【国際公開日】20160630
【審査請求日】2017年8月18日
(31)【優先権主張番号】PA201470814
(32)【優先日】2014年12月22日
(33)【優先権主張国】DK
(31)【優先権主張番号】14199590.2
(32)【優先日】2014年12月22日
(33)【優先権主張国】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503021401
【氏名又は名称】ジーエヌ ヒアリング エー/エス
【氏名又は名称原語表記】GN Hearing A/S
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カール−フレドリック ヨハン グラン
【審査官】 岩田 淳
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2004/0136541(US,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第02611218(EP,A1)
【文献】 特開2014−239429(JP,A)
【文献】 特開2013−236396(JP,A)
【文献】 特開2004−279390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10L 13/00−13/10
19/00−99/00
H04R 1/10
3/00
25/00−25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音源(110)によって発せられた音声を第1のオーディオ信号(14)に変換するように構成された第1のマイクロホン・システム(12)と、
前記第1のオーディオ信号(14)を第1のフィルタリングされたオーディオ信号(22)にフィルタリングするように構成された第1のフィルタ(20)と、
前記第1のフィルタリングされたオーディオ信号(22)に少なくとも部分的に基づいてユーザ(100)の聴力損失を補償する聴力損失補償出力信号(42)を提供するように構成された聴力損失プロセッサ(40)と、を備える補聴器(10)であって、
前記第1のフィルタ(20)が、前記ユーザ(100)が前記補聴器(10)を装着したとき、前記音源(110)から前記第1のオーディオ信号(14)を提供する前記第1のマイクロホン・システム(12)まで伝播する音声の第1の音声伝播経路(120)の第1の伝達関数H(ω)の複素共役を、第1の複素スカラで乗算した値と実質的に等しい第1の整合伝達関数H(ω)を有する、第1の整合フィルタ(20)であり、前記第1の複素スカラは、前記第1の整合フィルタ(20)が因果的フィルタとなるように選択されることを特徴とする補聴器(10)。
【請求項2】
音声を第2のオーディオ信号(26)に変換するように構成された第2のマイクロホン・システム(24)と、
前記第2のオーディオ信号(26)を第2のフィルタリングされたオーディオ信号(34)にフィルタリングするように構成された第2の整合フィルタ(32)であって、前記ユーザ(100)が前記補聴器(10)を装着したとき、前記音源(110)から前記第2のオーディオ信号(26)を提供する前記第2のマイクロホン・システム(24)まで伝播する音声の第2の音声伝播経路(130)の第2の伝達関数の複素共役を、第2の複素スカラで乗算した値と実質的に等しい第2の整合伝達関数H(ω)を有し、前記第2の複素スカラは、前記第2の整合フィルタ(32)が因果的フィルタとなるように選択される、第2の整合フィルタ(32)と、
前記第1のフィルタリングされたオーディオ信号(22)と前記第2のフィルタリングされたオーディオ信号(34)とを加算して、和オーディオ信号(38)を得るように構成された第1の加算器(36)と、をさらに備えて、
前記聴力損失プロセッサ(40)が、前記和オーディオ信号(38)を処理して前記聴力損失補償出力信号(42)を提供するように構成された、請求項1に記載の補聴器(10)。
【請求項3】
前記音源(110)が、前記ユーザ(100)の視線方向に存在する、請求項1または2に記載の補聴器(10)。
【請求項4】
前記第1の整合フィルタ(20)が、前記ユーザ(100)が前記補聴器(10)を装着したとき、前記音源(110)から前記第1のマイクロホン・システム(12)まで伝播する前記音声の前記第1の音声伝播経路(120)のインパルス応答h(t)を時間反転し、時間シフトしたインパルス応答と実質的に等しいインパルス応答h(T−t)を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の補聴器(10)。
【請求項5】
前記第1および第2の整合伝達関数が、前記第1のフィルタリングされたオーディオ信号(22)の位相と前記第2のフィルタリングされたオーディオ信号(34)の位相を実質的に等しくし、前記第1の加算器(36)が前記第1および第2のフィルタリングされたオーディオ信号(22、34)を同相で加算することができることを特徴とする請求項2または請求項2に従属する請求項3または4に記載の補聴器(10)。
【請求項6】
前記第1および第2の整合伝達関数が、前記第1のフィルタリングされたオーディオ信号(22)の振幅スペクトルおよび前記第2のフィルタリングされたオーディオ信号(34)の振幅スペクトルを、それぞれ、前記音源(110)によって発せられた前記音声の振幅スペクトルに実質的に等しくする、請求項2または請求項2に従属する請求項3から5のいずれか一項に記載の補聴器(10)。
【請求項7】
前記補聴器(10)が、前記第1のオーディオ信号(14)がそれぞれ複数の周波数チャネルにおいて個別に処理される複数の信号成分に分割されるマルチチャネル補聴器(10)である、請求項1から6のいずれか一項に記載の補聴器(10)。
【請求項8】
前記第1の整合フィルタ(20)が、選択された周波数帯域においてフィルタリングを実行するように構成された、請求項7に記載の補聴器(10)。
【請求項9】
前記複数の周波数チャネルが、ワーピングされた周波数チャネルを含む、請求項7または8に記載の補聴器(10)。
【請求項10】
第1の補聴器(10A)および第2の補聴器(10B)を備える両耳用補聴器システム(10)であって、前記第1の補聴器(10A)が、請求項1から9のいずれか一項に記載の補聴器である、両耳用補聴器システム(10)。
【請求項11】
前記第1および第2の補聴器(10A、10B)の各々が、請求項1から9のいずれか一項に記載の補聴器である、請求項10に記載の両耳用補聴器システム(10)。
【請求項12】
第1の補聴器(10A)および第2の補聴器(10B)を備える両耳用補聴器システム(10)であって、前記第1および第2の補聴器(10A、10B)の各々が、請求項2または請求項2に従属する請求項3から9のいずれか一項に記載の補聴器であって、
前記第1の補聴器(10A)が、前記第1の補聴器(10A)の前記第1の加算器の出力部に接続された第1の入力部と、前記第2の補聴器(10B)の前記第1の加算器の出力部に接続された第2の入力部と、前記第1の補聴器(10A)の前記和オーディオ信号と前記第2の補聴器(10B)の前記和オーディオ信号との両耳和オーディオ信号(38A)を提供するための出力部とを備えた第2の加算器を有し、
前記聴力損失プロセッサ(40A)が、前記両耳和オーディオ信号(38A)を処理して前記聴力損失補償出力信号(42A、42B)を提供するように構成された、両耳用補聴器システム(10)。
【請求項13】
拡散性雑音を有する環境内において補聴器(10)で受信された音声信号の信号対雑音比を増加させる方法であって、
前記補聴器(10)のマイクロホン・システム(12)を使用して音響音声をオーディオ信号(14)に変換するステップを備え、
前記マイクロホン・システム(12)がユーザ(100)によって装着されたとき、音源(110)から前記マイクロホン・システム(12)まで伝播する前記音響音声の音声伝播経路(120)の伝達関数H(ω)の複素共役を、第1の複素スカラで乗算した値と実質的に等しい整合伝達関数H(ω)を有する前記補聴器(10)の第1の整合フィルタ(20)により、前記オーディオ信号(14)をフィルタリングするステップをさらに備え、前記第1の複素スカラは、前記第1の整合フィルタが因果的フィルタとなるように選択されることを特徴とする方法。
【請求項14】
前記信号対雑音比の改善のために、複数の前記フィルタリングされたオーディオ信号(22,34)を加算して和オーディオ信号(38)を得るステップをさらに備え、前記フィルタリングされたオーディオ信号のうちの1つ(22)が、前記オーディオ信号をフィルタリングする前記ステップからもたらされる、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
拡散性雑音を減らし、空間認識が保存される新しい補聴器が提供される。
【背景技術】
【0002】
補聴器ユーザは、補聴器を装着しているとき、補聴器を装着しないときよりも音源を定位する能力が劣ることが報告されている。これは、軽度から中度の聴覚障害の人々にとって深刻な問題である。
【0003】
さらに、補聴器は、典型的には、ユーザが音源を頭の中に定位させるように音声を再生する。音声は、外在化されている(externalized)のではなく、内在化されている(internalized)と言われる。「雑音中の発話を聞き取る問題」に言及するとき、補聴器ユーザにとっての共通の不満は、信号対雑音比(SNR)が必要な発話明瞭度を提供するのに十分であるにもかかわらず、話されている事を追っていくことが非常に難しいということである。この事実の重要な要因は、補聴器が内在化された音場を再生することである。これは、補聴器ユーザの認知に関する負荷を追加し、聴取の疲労をもたらし、最終的には、ユーザが補聴器を取り外すことになる可能性がある。
【0004】
最近、音源の定位が改善された新しい補聴器が開示されている。すなわち、新しい補聴器は、補聴器の装着者の頭の向きに対する音環境におけるそれぞれの音源の方向に関する情報を保存する。EP2750410A1、EP2750411A1、およびEP2750412A1を参照されたい。
【0005】
改善された音源定位は、補聴器ユーザがカクテル・パーティ効果を利用することを可能にする。すなわち、ユーザは、たとえば、パーティにおける騒々しい部屋内の単一の会話に集中するために、すべての他の音声を抑制しながら、選択された音源に聴覚注意を集中させることができる。
【0006】
しかしながら、信号対雑音比(SNR)がよくない複雑な聴取状況では、一部の聴覚障害者は、空間的手がかりを使用して異なる音源間を区別すること、ならびに選択された音源に集中して他のすべて音源を抑制するということができない。こうした状況および/またはこのような一部の集団のために他の解決策が開発されなければならない。
【0007】
この問題を軽減する1つの周知の方法は、指向性などのSNR向上技術を用いることである。指向性システムは、目標方向以外のすべての方向からの信号エネルギーを抑制するように動作する。このようなシステムは、干渉音が指向性を有することを必要とするが、レストランなどの複雑な聴取状況では、補聴器ユーザは、拡散性雑音からの干渉を経験する。拡散性雑音は、空間的に白色あるいはおおよそ空間的に白色であり、すなわち、雑音場において記録された信号は、異なる場所におけるどのような他の信号記録とも無相関である。補聴器システムのマイクロホンの数は、典型的には、拡散性雑音を効果的に抑制するには不十分である。したがって、指向性システムは、このような聴取状況に対して限定された効果しか持たない。
【0008】
指向性を適用するときの別の不満は、聴取者が環境認識を失うことである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、空間認識を維持したまま拡散性雑音を低減する技術が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
マイクロホン・システムを使用して音声をオーディオ信号に変換するステップと、
マイクロホン・システムがユーザによって装着されたとき、音源からマイクロホン・システムまでの音響音声の音声伝播経路の伝達関数と整合または実質的に整合する整合伝達関数を有する整合フィルタを用いてオーディオ信号をフィルタリングするステップと
を備える、拡散性雑音を有する環境内で受信された音声信号の信号対雑音比を増加させる新しい方法が提供される。
【0011】
伝達関数は、好ましくは、マイクロホン・システムの伝達関数を含む。
【0012】
本開示を通して、整合伝達関数が、他の伝達関数の、複素スカラが乗算された、複素共役と等しいか、または実質的に等しいとき、整合フィルタは、別の伝達関数と整合または実質的に整合する整合伝達関数を有すると言われる。この場合、複素スカラの値は、整合フィルタが因果的(causal)フィルタであるように選択されてもよい。
【0013】
整合フィルタは、マイクロホン・システムがユーザによって装着されたとき、音源からマイクロホン・システムまでの音声伝播経路のインパルス応答が時間シフトされ、時間逆転されたインパルス応答に、場合によっては整合フィルタが因果的フィルタとなるように時間シフトされたインパルス応答に等しいか、または実質的に等しいインパルス応答を有してもよい。
【0014】
整合フィルタは、伝達関数によって生じる振幅スペクトルの変化を補償するために、フィルタリングされたオーディオ信号の振幅スペクトルの等化を実行することができる。
【0015】
新しい方法は、信号対雑音比のさらなる改善のために、複数のフィルタリングされたオーディオ信号を加算して和オーディオ信号を取得するステップをさらに備えることができる。
【0016】
さらに、音源によって発せられた音声を第1のオーディオ信号に変換するように構成された第1のマイクロホン・システムと、
第1のオーディオ信号を第1のフィルタリングされたオーディオ信号にフィルタリングするように構成された第1の整合フィルタであって、第1の整合フィルタが、ユーザが補聴器を装着したとき、音源から第1のオーディオ信号を提供する第1のマイクロホン・システムまで伝播する音声の第1の音声伝播経路の第1の伝達関数と整合または実質的に整合する第1の整合伝達関数を有する、第1の整合フィルタと、
第1のフィルタリングされたオーディオ信号に少なくとも部分的に基づいてユーザの聴力損失を補償する聴力損失補償出力信号を提供するように構成された聴力損失プロセッサと
を備える新しい補聴器が提供される。
【0017】
補聴器は、
音声を第2のオーディオ信号に変換するように構成された第2のマイクロホン・システムと、
第2のオーディオ信号を第2のフィルタリングされたオーディオ信号にフィルタリングするように構成された第2の整合フィルタであって、第2の整合フィルタが、ユーザが補聴器を装着したとき、音源から第2のオーディオ信号を提供する第2のマイクロホン・システムまで伝播する音声の第2の音声伝播経路の第2の伝達関数と整合または実質的に整合する第2の整合伝達関数を有する、第2の整合フィルタと、
和オーディオ信号を得るために、第1のフィルタリングされたオーディオ信号と第2のフィルタリングされたオーディオ信号とを加算するように構成された第1の加算器と
をさらに備えてもよく、聴力損失プロセッサは、聴力損失補償出力信号を提供するために和オーディオ信号を処理するように構成されてもよい。
【0018】
第1の整合フィルタは、マイクロホンの出力部において提供されるオーディオ信号をフィルタリングされたオーディオ信号にフィルタリングするために、第1のマイクロホン・システムのマイクロホンの出力部に接続されてもよい。
【0019】
第1の整合フィルタは、複数のマイクロホンの合成出力部において提供されるオーディオ信号をフィルタリングされたオーディオ信号にフィルタリングするために、第1のマイクロホン・システムの複数のマイクロホンの合成出力部に接続されてもよい。
【0020】
第1の整合フィルタは、第1のマイクロホン・システムがユーザによって装着されたとき、第1の整合フィルタが音源から第1のマイクロホン・システムまでの第1の音声伝播経路の因果的フィルタであることを保証するために場合によっては時間シフトされた、時間逆転され、場合によっては時間シフトされたインパルス応答に等しいか、または実質的に等しいインパルス応答を有してもよい。
【0021】
第1の整合フィルタは、第1の伝達関数によって生じる振幅スペクトルの変化を補償するために、第1のフィルタリングされたオーディオ信号の振幅スペクトルの等化を実行することができる。
【0022】
第2の整合フィルタは、マイクロホンの出力部において提供されるオーディオ信号をフィルタリングされたオーディオ信号にフィルタリングするために、第2のマイクロホン・システムのマイクロホンの出力部に接続されてもよい。
【0023】
第2の整合フィルタは、複数のマイクロホンの合成出力部において提供されるオーディオ信号をフィルタリングされたオーディオ信号にフィルタリングするために、第2のマイクロホン・システムの複数のマイクロホンの合成出力部に接続されてもよい。
【0024】
第2の整合フィルタは、第2のマイクロホン・システムがユーザによって装着されたとき、第2の整合フィルタが音源から第2のマイクロホン・システムまでの第2の音声伝播経路の因果的フィルタであることを保証するために場合によっては時間シフトされた、時間逆転され、場合によっては時間シフトされたインパルス応答に等しいか、または実質的に等しいインパルス応答を有することができる。
【0025】
第2の整合フィルタは、第2の伝達関数によって生じる振幅スペクトルの変化を補償するために、第2のフィルタリングされたオーディオ信号の振幅スペクトルの等化を実行することができる。
【0026】
第1および第2の整合伝達関数は、第1の加算器が第1および第2のフィルタリングされたオーディオ信号を同相で加算することができるように、第1のフィルタリングされたオーディオ信号の位相と第2のフィルタリングされたオーディオ信号の位相とを実質的に等しくすることができる。
【0027】
以下では、補聴器がユーザによって装着されたときの音源からオーディオ信号を提供するマイクロホン・システムまでの第2の伝播経路の伝達関数を、マイクロホン関連伝達関数と呼ぶ。
【0028】
マイクロホン関連伝達関数は、好ましくは、マイクロホン・システムの伝達関数を含む。
【0029】
好ましくは、補聴器はまた、聴力損失補償出力信号を、人間の聴覚システムによって受信され得る音響出力信号または埋込み型トランスデューサ信号などの聴覚出力信号へ変換するための出力トランスデューサを備える。
【0030】
新しい補聴器は、BTE、RIE、ITE、ITC、CICなどの補聴器、またはこれらの組合せなどの任意のタイプの補聴器であってもよい。
【0031】
新しい補聴器は、性能を最適化するために補聴器間のデータ交換を利用する新しい両耳用補聴器システムの一部を形成してもよい。
【0032】
整合フィルタは、たとえば、多くの同時会話がある集会などの、拡散性音響雑音が著しく多い環境内で音源から発せられる信号のSNRを改善するように動作する。
【0033】
頭部関連伝達関数(HRTF)と同様に、マイクロホン関連伝達関数は、頭部の周囲での回折、肩からの反射、耳介および外耳道による反射などのために、補聴器のユーザに対する音源の方向と距離、およびユーザの解剖学的構造に依存する。
【0034】
したがって、最適な性能のために、選択された方向および距離の1つまたは複数のマイクロホン関連伝達関数が、個々のユーザについて決定され、1つまたは複数のそれぞれの整合フィルタによって整合または実質的に整合される。
【0035】
聴取者が音源の遠方場に存在する場合、HRTFのようなマイクロホン関連伝達関数は、距離とともに変化しない。典型的には、音源までの距離が1.5mよりも長いとき、聴取者は、音源の遠方場に存在する。
【0036】
したがって、決定されたマイクロホン関連伝達関数のうちの少なくともいくつかは、選択された方向の遠方場マイクロホン関連伝達関数であってもよい。
【0037】
ユーザに対して個別に決定されたマイクロホン関連伝達関数の代わりに、近似マイクロホン関連伝達関数が使用されてもよい。近似マイクロホン関連伝達関数は、KEMAR(登録商標)頭部などの人工頭部を使用して決定されてもよい。このようにして、補聴器ユーザが拡散性雑音を有する環境内で改善されたSNRを得るのに十分な精度となりうる、個々のマイクロホン関連伝達関数に近似するマイクロホン関連伝達関数が提供される。
【0038】
近似マイクロホン関連伝達関数は、人間の集団に対して以前に決定されたマイクロホン関連伝達関数の平均として決定されてもよい。この集団は、それぞれの対応する個々のマイクロホン関連伝達関数により近接して整合する近似マイクロホン関連伝達関数を得るために、個々のマイクロホン関連伝達関数が決定されるべき人の特定の特徴に適合するように選択されてもよい。たとえば、集団は、年齢、人種、性別、家族、耳のサイズなどに、単独で、または任意の組合せに従って選択されてもよい。適切なマイクロホン関連伝達関数は、いくつかの方向にわたる平均を含むこともできる。
【0039】
近似マイクロホン関連伝達関数は、たとえば、対象患者がより若い時のフィッティング・セッションで、以前に決定されたマイクロホン関連伝達関数であってもよい。
【0040】
補聴器内の整合フィルタによって整合または実質的に整合されたマイクロホン関連伝達関数の選択された方向は、好ましくは、ユーザの視線の前方方向を含むが、任意の方向または多数の方向を含んでもよい。
【0041】
補聴器が複数の整合フィルタを備える場合、補聴器は、整合フィルタの出力部において提供されるフィルタリングされたオーディオ信号を加算して、聴力損失補償出力信号に処理するための聴力損失プロセッサに入力される和オーディオ信号に取得するように構成された加算器も備える。
【0042】
音源が発した音がそれぞれの伝播経路に沿ってそれぞれのマイクロホンまで伝わる方向に音源が配置され、伝播経路の伝達関数がそれぞれの整合フィルタに整合または実質的に整合されていれば、整合フィルタは記録された信号からの音源からマイクロホンへの音波の伝播に由来する位相成分を等化する。その結果、これに続き、加算器はフィルタリングされた信号を同相で加算し、出力信号和のSNRをさらに改善する。これは、拡散性雑音が時間と空間の両方で無相関であり、フィルタリングによりSNRが改善され、マイクロホン間で平均化されるという事実による。
【0043】
和オーディオ信号のSNRをさらに改善するために、それぞれの整合フィルタに接続されるマイクロホンをさらに回路に追加し、フィルタリングされたオーディオ信号がさらに加算器に入力されるようにしてもよい。
【0044】
加算器は、加算器に入力される信号の加重和を形成してもよい。
【0045】
第1のマイクロホン・システムは、音声を第1のオーディオ信号に変換するように構成された第1のマイクロホンを備えてもよく、第2のマイクロホン・システムは、音声を第2のオーディオ信号に変換するように構成された第2のマイクロホンを備えてもよい。
【0046】
新しい補聴器は、左耳補聴器と右耳補聴器とを備え、左耳補聴器および右耳補聴器のうちの1つが新しい補聴器である新しい両耳用補聴器システムの一部を形成してもよい。
【0047】
新しい両耳用補聴器システムでは、左耳補聴器および右耳補聴器のうちの1つは、左耳補聴器および右耳補聴器のうちの他の1つのマイクロホンから発するオーディオ信号をフィルタリングするたように構成された少なくとも1つの整合フィルタを有していてもよい。
【0048】
新しい両耳用補聴器システムは、第1の補聴器と第2の補聴器とを備えることができ、第1および第2の補聴器の各々は、
音源によって発せられた音声を第1のオーディオ信号に変換するように構成された第1のマイクロホン・システムと、
第1のオーディオ信号を第1のフィルタリングされたオーディオ信号にフィルタリングするように構成された第1の整合フィルタであって、第1の整合フィルタが、ユーザが補聴器を装着したとき、音源から第1のオーディオ信号を提供する第1のマイクロホン・システムまで伝播する音声の第1の音声伝播経路の第1の伝達関数と整合または実質的に整合する第1の整合伝達関数を有する、第1の整合フィルタと、
第1のフィルタリングされたオーディオ信号に少なくとも部分的に基づいてユーザの聴力損失を補償する聴力損失補償出力信号を提供するように構成された聴力損失プロセッサと
を備えてもよい。
【0049】
第1および第2の補聴器の各々は、
音声を第2のオーディオ信号に変換するように構成された第2のマイクロホン・システムと、
第2のオーディオ信号を第2のフィルタリングされたオーディオ信号にフィルタリングするように構成された第2の整合フィルタであって、第2の整合フィルタが、ユーザが補聴器を装着したとき、音源から第2のオーディオ信号を提供する第2のマイクロホン・システムまで伝播する音声の第2の音声伝播経路の第2の伝達関数と整合または実質的に整合する第2の整合伝達を有する、第2の整合フィルタと、
和オーディオ信号を得るために、第1のフィルタリングされたオーディオ信号と第2のフィルタリングされたオーディオ信号とを加算するように構成された第1の加算器と
をさらに備えることができ、聴力損失プロセッサは、聴力損失補償出力信号を提供するために和オーディオ信号を処理するように構成されてもよい。
【0050】
さらに、第1および第2の補聴器のうちの1つの聴力損失プロセッサは、第1および第2の補聴器のうちの他の1つの第1の加算器の出力部に接続された入力部を有してもよく、プロセッサは、左耳補聴器および右耳補聴器の第1の加算器の出力を加算するように構成されてもよい。
【0051】
第1の補聴器は、第1の補聴器の第1の加算器の出力部に接続された第1の入力部と、第2の補聴器の第1の加算器の出力部に接続された第2の入力部と、第1の補聴器の和オーディオ信号と第2の補聴器の和オーディオ信号との両耳和を提供するための出力部とを備える第2の加算器を有しいてもよく、聴力損失プロセッサは、聴力損失補償出力信号を提供するために両耳和オーディオ信号を処理するように構成されてもよい。
【0052】
信号は、補聴器の技術分野において周知のように、左耳補聴器と右耳補聴器との間で有線または無線で通信してもよい。
【0053】
以下では、整合フィルタの1つの伝達関数が導かれる。
【0054】
補聴器、たとえば、n個のマイクロホンを有する両耳用補聴器システムにおいて、第n番目のマイクロホンが、ユーザが聞くことを望む音声信号、たとえば、発話などの雑音の多いバージョンの音声信号を受信すると仮定する。第n番目のマイクロホンは、
(ω)=H(ω)X(ω)+V(ω)
に従ってスペクトルS(ω)を有するオーディオ信号s(t)を出力する。ここで、ωは、角周波数である。
【0055】
X(ω)は発話信号スペクトルであり、H(ω)は、音源から第nのマイクロホンまでの音声伝播を記述する第nのマイクロホン関連伝達関数であり、V(ω)は、対応するマスカ信号スペクトルである。さらに、
【数1】

を仮定する。
【0056】
ここで、Eは、期待演算子であり、は、複素共役を表す。さらに、マスカがガウス分布を有することも仮定する。受信信号スペクトルをベクトル形式で書き表すと、
【数2】

となる。
【0057】
所与のX(ω)を測定する条件付き確率s(ω)は、
【数3】

に比例する。ここで、Rvv−1は、マスカの自己共分散行列の逆数である。この式の自然対数をとり、定数項を除去すると、
【数4】

となる。
【0058】
微分し、ゼロに設定すると、
【数5】

となる。
【0059】
マスカが空間的に白色であるという事実を使用すると、これは、
【数6】

に簡略化される。
【0060】
ここで、引数Tを有する指数関数は、対応する時間領域の態様が因果的であることのみを目的として含まれる。時間領域では、
【数7】
【0061】
ここで、
【数8】

は、畳み込み演算子である。すなわち、
【数9】

は、関数fおよびfの畳み込みを意味する。h(t)は、H(ω)の逆フーリエ変換であり、s(t)は、第nの測定されたマイクロホン信号である。
【数10】

は、フィルタリング演算を補償するための周波数にわたる振幅等化を記述するフィルタである。ここで、F−1(・)は、(・)の逆フーリエ変換である。
【0062】
新しい補聴器は、処理されるべきオーディオ信号が、それぞれ複数の周波数チャネルにおいて個別に処理される複数の信号成分に分割されるマルチチャネル補聴器であってもよい。
【0063】
整合フィルタのうちの1つ、いくつか、またはすべては、複数の周波数チャネルに分割されてもよく、または、補聴器の全周波数範囲で依然として動作してもよく、または、補聴器回路の他の部分が分割される以外の周波数チャネル、典型的にはより少ない周波数チャネルに分割されてもよい。
【0064】
新しい補聴器では、整合フィルタのうちの1つ、いくつか、またはすべては、それぞれの選択された周波数帯域において動作してもよい。
【0065】
選択された周波数帯域の各々は、周波数チャネルのうちの1つもしくは複数、または周波数チャネルのすべてを含んでもよい。選択された周波数帯域は、断片化されてもよく、すなわち、選択された周波数帯域は、連続する周波数チャネルを含む必要はない。
【0066】
複数の周波数チャネルは、ワーピングされた周波数チャネルを含むことができ、たとえば、すべての周波数チャネルは、ワーピングされた周波数チャネルであってもよい。
【0067】
選択された周波数帯域の外側で、オーディオ信号は、従来の方法における聴力損失補償のために処理されてもよい。
【0068】
このように、拡散性雑音が存在しない周波数チャネルにおいて整合フィルタリングが回避されてもよい。
【0069】
本明細書で使用される場合、「実質的に」および「およそ」という用語は、電気工学の分野において経験される変動および不正確さを説明し、絶対的なものからの逸脱がそのように変更された用語または表現の範囲内に含まれることを意味するように意図される。たとえば、それらは、±5%以下、±2%以下、±1%以下、±0.5%以下、±0.2%以下、±0.1%以下などの、±10%以下である偏差を指してもよい。
【0070】
新しい補聴器におけるフィルタリングを含む信号処理は、専用ハードウェアによって実行されてもよく、もしくは信号プロセッサにおいて実行されてもよく、または専用ハードウェアと1つもしくは複数の信号プロセッサの組合せにおいて実行されてもよい。
【0071】
本明細書で使用される場合、「プロセッサ」、「信号プロセッサ」、「コントローラ」、「システム」などの用語は、ハードウェア、ハードウェアとソフトウェアの組合せ、ソフトウェア、または実行中のソフトウェアのいずれかのCPU関連エンティティを指すように意図される。プロセッサという用語は、CPU関連エンティティであってもなくてもよい何らかのハードウェアを含む任意の集積回路を指すこともある。たとえば、いくつかの実施形態では、プロセッサは、フィルタを含んでもよい。
【0072】
たとえば、「プロセッサ」、「信号プロセッサ」、「コントローラ」、「システム」などは、限定はしないが、プロセッサ上で実行されているプロセス、プロセッサ、オブジェクト、実行可能ファイル、実行のスレッド、および/またはプログラムであってもよい。
【0073】
例示として、「プロセッサ」、「信号プロセッサ」、「コントローラ」、「システム」などという用語は、プロセッサ上で実行されるアプリケーションとハードウェア・プロセッサの両方を示す。1つまたは複数の「プロセッサ」、「信号プロセッサ」、「コントローラ」、「システム」など、またはそれらの任意の組合せは、プロセスおよび/または実行のスレッド内に存在してもよく、1つまたは複数の「プロセッサ」、「信号プロセッサ」、「コントローラ」、「システム」など、またはそれらの任意の組合せは、他のハードウェア回路と組み合わせて、1つのハードウェア・プロセッサ上に局在化されてもよく、および/または、他のハードウェア回路と組み合わせて、2つ以上のハードウェア・プロセッサ間に分散されてもよい。
【0074】
また、プロセッサ(または類似の用語)は、信号処理を実行することができる任意の構成要素または構成要素の任意の組合せであってもよい。たとえば、信号プロセッサは、ASICプロセッサ、FPGAプロセッサ、汎用プロセッサ、マイクロプロセッサ、回路構成要素、または集積回路であってもよい。
【0075】
本発明の一実施形態による補聴器は、音源によって発せられた音声を第1のオーディオ信号に変換するように構成された第1のマイクロホン・システムと、第1のオーディオ信号を第1のフィルタリングされたオーディオ信号にフィルタリングするように構成された第1の整合フィルタであって、第1の整合フィルタが、ユーザが補聴器を装着したとき、音源から第1のマイクロホン・システムまで至る第1の音声伝播経路の第1の伝達関数と整合または実質的に整合する第1の整合伝達関数を有する、第1の整合フィルタと、第1のフィルタリングされたオーディオ信号に少なくとも部分的に基づいてユーザの聴力損失を補償する聴力損失補償出力信号を提供するように構成された聴力損失プロセッサと、を備える。
【0076】
補聴器は、第2のオーディオ信号を提供するように構成された第2のマイクロホン・システムと、第2のオーディオ信号を第2のフィルタリングされたオーディオ信号にフィルタリングするように構成された第2の整合フィルタであって、第2の整合フィルタが、ユーザが補聴器を装着したとき、音源から第2のマイクロホン・システムまで至る第2の音声伝播経路の第2の伝達関数と整合または実質的に整合する第2の整合伝達関数を有する、第2の整合フィルタと、和オーディオ信号を得るために、第1のフィルタリングされたオーディオ信号と第2のフィルタリングされたオーディオ信号とを加算するように構成された第1の加算器とをさらに備え、聴力損失プロセッサは、聴力損失補償出力信号を提供するために和オーディオ信号を処理するように構成されてもよい。
【0077】
第1および第2の整合伝達関数は、第1のフィルタリングされたオーディオ信号の位相と第2のフィルタリングされたオーディオ信号の位相とを実質的に等しくし、第1の加算器が第1および第2のフィルタリングされたオーディオ信号を同相で加算することができるようにしてもよい。
【0078】
第1および第2の整合伝達関数は、第1および第2のフィルタリングされたオーディオ信号の振幅スペクトルを、音源によって発せられた音声の振幅スペクトルと実質的に等しくしてもよい。
【0079】
音源は、ユーザの視線方向に存在してもよい。
【0080】
第1の整合フィルタは、第1の音声伝播経路のインパルス応答を時間反転し、時間シフトしたインパルス応答と実質的に等しいインパルス応答を有してもよい。
【0081】
補聴器は、第1のオーディオ信号が、それぞれ複数の周波数チャネルにおいて個別に処理される複数の信号成分に分割されるマルチチャネル補聴器であってもよい。
【0082】
前記第1の整合フィルタは、選択された周波数帯域においてフィルタリングを実行するように構成されてもよい。
【0083】
前記複数の周波数チャネルは、ワーピングされた周波数チャネルを含んでもよい。
【0084】
本発明の実施形態による両耳用補聴器システムは、第1の補聴器と第2の補聴器とを備え、第1の補聴器は、本明細書で説明する補聴器のいずれかである。
【0085】
本発明の実施形態による両耳用補聴器システムは、第1の補聴器と第2の補聴器とを備え、第1および第2の補聴器の各々は、本明細書で説明する補聴器のいずれかである。
【0086】
第2の補聴器は、第1の加算器を有し、第1の補聴器は、第2の加算器を有し、第2の加算器は、第1の補聴器の加算器の出力部に接続された第1の入力部と、第2の補聴器の第1の加算器の出力部に接続された第2の入力部とを有し、第1の補聴器の第2の加算器は、第1の補聴器の和オーディオ信号と第2の補聴器の和オーディオ信号とに基づく両耳和オーディオ信号を提供するための出力部を備え、聴力損失プロセッサは、聴力損失補償出力信号を提供するために両耳和オーディオ信号を処理するように構成されていてもよい。
【0087】
本発明の実施形態による、拡散性雑音を有する環境内で受信された音声信号の信号対雑音比を増加させる方法は、マイクロホン・システムを使用して音響音声をオーディオ信号に変換するステップと、マイクロホン・システムがユーザによって装着されたとき、音源からマイクロホン・システムまで至る音声伝播経路の伝達関数と実質的に整合する整合伝達関数を有する整合フィルタを用いてオーディオ信号をフィルタリングするステップとを含む。
【0088】
前記方法は、信号対雑音比の改善のために、複数のフィルタリングされたオーディオ信号を加算して和オーディオ信号を得るステップをさらに含んでもよく、フィルタリングされたオーディオ信号のうちの1つは、オーディオ信号をフィルタリングするステップからもたらされてもよい。
【0089】
他の特徴および利点は、以下の詳細な説明において説明される。
【図面の簡単な説明】
【0090】
以下、新しい方法および補聴器は、様々な例が示された図面を参照してより詳細に説明される。
図1】聴取状況において2つのマイクロホンを有する補聴器を装着するユーザを概略的に示す図である。
図2】2つのマイクロホンと2つの整合フィルタとを有する新しい補聴器を概略的に示す図である。
図3】左右の補聴器の各々に複数のマイクロホンが収容された新しい両耳用補聴器システムを装着するユーザを概略的に示す図である。
図4】新しい両耳用補聴器システムの1つの例示的な回路を概略的に示す図である。
図5】新しい両耳用補聴器システムの別の例示的な回路を概略的に示す図である。
図6】従来の無指向性マイクロホン・システムおよび新しい最適化された無指向性マイクロホン・システムの指向特性のプロットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0091】
図面は、類似の要素が共通の参照番号によって参照される実施形態の設計および有用性を示す。したがって、同様の要素は、各図の説明に関して詳細に説明されない場合がある。上記および他の利点および目的がどのようにして得られるのかをよりよく理解するために、添付の図面に示された実施形態のより具体的な説明が与えられる。図面が特徴の説明を容易にすることのみを目的としていることに留意すべきである。それらは、特許請求の範囲に記載された発明の網羅的な説明として、または特許請求の範囲に記載された発明の範囲に対する限定として意図されていない。加えて、図示された特徴は、示されたすべての態様または利点を必ずしも有する必要はない。特定の特徴に関連して説明された態様または利点は、その特徴に必ずしも限定されず、そのように図示されていないか、または明示的に説明されていなくても、任意の他の特徴において実施されてもよい。
【0092】
添付の特許請求の範囲による新しい補聴器は、添付の図面に示されていない異なる形態で実施されてもよく、本明細書に記載された例に限定されるものとして解釈されるべきではない。
【0093】
図1は、ユーザの右耳にBTE補聴器(補聴器のマイクロホンのみが示されている)を装着しているユーザ100を概略的に示す。BTE補聴器10は、マイクロホンの中心を通る線がユーザの視線方向と平行に延在するようにBTE補聴器ハウジング内に収容された2つのマイクロホン12、24を有する。図1では、ユーザ100は、話し手110の話を聞くことを望むが、ユーザである聴取者100および話者110は、様々な会話に携わる何人かの他の人々(図示せず)によって取り囲まれている。結果として、ユーザ100は、拡散性雑音場にさらされ、結果として、聴覚障害のあるユーザは、他の話者からの発話および他の音声を抑制しながら、選択された音源、すなわち、会話相手110に聴覚注意を集中させることができない。
【0094】
図2は、図1のユーザ100によって装着されたBTE補聴器10のブロック図を示す。
図示のBTE補聴器10は、音響音声を前方オーディオ信号14に変換する前方マイクロホン12を有する。前方オーディオ信号14は、第1の前処理フィルタ16において、前処理されて、前方オーディオ信号18となる。前処理は、いかなる形式の処理も排除することなく、適応および/もしくは静的フィードバック抑制、ならびに/または適応および/もしくは固定ビームフォーミング、ならびに/または前フィルタリングを備えてもよい。第1の整合フィルタ20は、第1の前処理フィルタ16の出力部に接続され、前処理された前方オーディオ信号18をフィルタリングして前方のフィルタリングされたオーディオ信号22となるように動作する。音源110(図1参照)は、ユーザ100が補聴器10を装着したとき、ユーザ100の視線方向にあり、マイクロホン12に向けて音声を発する。
前方マイクロホン12は、ユーザの視線方向の遠方場マイクロホン関連伝達関数H(ω)を有し、第1の整合フィルタ20は、第1の整合フィルタ20のインパルス応答h(T−t)が因果的であることを保証するように、複素スカラe−jωTを乗算した遠方場マイクロホン関連伝達関数H(ω)の複素共役に等しい整合伝達関数を有する。
同様に、図示のBTE補聴器10は、音響音声を後方オーディオ信号26に変換する後方マイクロホン24も有する。後方オーディオ信号26は、第2の前処理フィルタ28において前処理され、前処理された後方オーディオ信号30となる。前処理は、いかなる形式の処理も排除することなく、適応および/もしくは静的フィードバック抑制、ならびに/または適応および/もしくは固定ビームフォーミング、ならびに/または前フィルタリングを含むことができる。第2の整合フィルタ32は、第2の前処理フィルタ28の出力部に接続され、前処理された後方オーディオ信号30を後方のフィルタリングされたオーディオ信号34にフィルタリングするように動作する。後方マイクロホン24は、ユーザ100の視線方向の遠方場マイクロホン関連伝達関数H(ω)を有し、第2の整合フィルタ32は、第2の整合フィルタ32のインパルス応答h(T−t)が因果的であることを保証するために、複素スカラe−jωTを乗算した遠方場マイクロホン関連伝達関数H(ω)の複素共役に等しいかまたは実質的に等しい整合伝達関数を有する。
補聴器10の他の実施形態は、2つよりも多い数のマイクロホンを有してもよい。
【0095】
整合フィルタ20、32は、たとえば、多くの人が同時に会話する集会において、かなりの拡散性音響雑音を有する環境内の音源110に由来するオーディオ信号14、26のSNRを改善するように動作する。
【0096】
前方および後方オーディオ信号22、34は、加算器36に入力され、ここで前方および後方オーディオ信号22、34が加算されて和オーディオ信号38が得られる。
【0097】
整合フィルタ20、32は、それぞれの入力信号18、30から位相を除去し、加算器36はフィルタリングされた信号22、34を同相で加算して、和オーディオ信号38のSNRがさらに改善される。
【0098】
加算器36は、加算器36に入力される信号22、34の加重和を形成することができる。
【0099】
和オーディオ信号38は、和オーディオ信号38を聴力損失補償出力信号42に処理するように構成された聴力損失プロセッサ40に入力され、聴力損失補償出力信号42は、場合によっては補聴器10のメモリ(図示せず)に記憶されたいくつかの選択可能な聴力プログラムに従って、補聴器の技術分野において周知の方法によってユーザの聴力損失について補償される。
【0100】
最後に、聴力損失補償出力信号42は、聴力損失補償出力信号42を、補聴器10を装着しているユーザ100の鼓膜に向かって放射される音響出力信号に変換するためのレシーバ44の形態の出力トランスデューサ44に入力される。
【0101】
最適な性能のために、ユーザ100の視線方向における音源110からそれぞれのマイクロホン12、24までのそれぞれの音響伝播経路120、130のマイクロホン関連伝達関数H(ω)、H(ω)は、個々のユーザ100について決定され、それぞれの整合フィルタ20、32によって整合される。
【0102】
しかしながら、近似マイクロホン関連伝達関数H’(ω)、H’(ω)が代わりに使用されてもよい。H’(ω)、H’(ω)は、KEMAR頭部などの人工頭部を使用して決定されてもよく、それによって、補聴器ユーザ100が拡散性雑音を有する環境において和オーディオ信号38の改善されたSNRを得るために十分な精度の近似マイクロホン関連伝達関数H’(ω)、H’(ω)が提供される。
【0103】
近似マイクロホン関連伝達関数H’(ω)、H’(ω)は、人間の集団に対して以前に決定されたマイクロホン関連伝達関数の平均として決定されてもよい。人間の集団は、それぞれの対応する個々のマイクロホン関連伝達関数により近接して整合する近似マイクロホン関連伝達関数を得るために、個々のマイクロホン関連伝達関数が決定されるべき人の特定の特徴に適合するように選択されてもよい。たとえば、人間の集団は、年齢、人種、性別、家族、耳のサイズなどに、単独で、または任意の組合せに従って選択されてもよい。平均化は、いくつかの方向にわたって実行されてもよい。
【0104】
近似マイクロホン関連伝達関数は、たとえば、対象のユーザがより若い時の以前のフィッティング・セッション中に、ユーザについて以前に決定されたマイクロホン関連伝達関数であってもよい。
和オーディオ信号38は、以下の式に従って提供される。
【数11】
【0105】
ここで、
【数12】

は、畳み込み演算子である。すなわち、
【数13】

は、関数fおよびfの畳み込みを意味する。nは、マイクロホン・インデックスである。すなわち、前方マイクロホン12についてはn=1であり、後方マイクロホン24についてはn=2である。h(t)は、H(ω)の逆フーリエ変換である。s(t)は、第n番目の前フィルタリングされたマイクロホン信号18、30である。
【数14】

は、フィルタリング演算を補償するための周波数間の振幅等化を記述するフィルタである。
あるいは、加算は、加算器36において実行され、g(t)についての乗算は、プロセッサ40によって実行されてもよい。
【0106】
図2に示す補聴器10は、マルチチャネル補聴器であってもよい。マルチチャネル補聴器では、処理されるべきオーディオ音声信号14、26は、複数の周波数チャネルに分割される。この場合、オーディオ信号は、場合によっては、整合フィルタ20、32とは別に、周波数チャネルの各々において個別に処理される。整合フィルタ20、32は、依然として補聴器10の全周波数帯域において動作してもよく、または、他の周波数チャネル、典型的には残りの図示の回路よりも少ない周波数チャネルに分割されてもよい。
【0107】
マルチチャネル補聴器10に関して、図2は、オーディオ信号14、26の単一の周波数チャネルにおける回路および信号処理を示していてもよい。
【0108】
図示の回路および信号処理は、複数の周波数チャネルにおいて、たとえば、すべての周波数チャネルにおいて二重化されてもよい。
【0109】
たとえば、図2に示す信号処理は、選択された周波数帯域において実行されてもよい。
【0110】
選択された周波数帯域は、周波数チャネルのうちの1つもしくは複数、または周波数チャネルのすべてを含んでもよい。選択された周波数帯域は、断片化されてもよく、すなわち、選択された周波数帯域は、連続する周波数チャネルを含まなくてもよい。
【0111】
複数の周波数チャネルは、ワーピングされた周波数チャネルを含むことができ、たとえば、すべての周波数チャネルは、ワーピングされた周波数チャネルであってもよい。
【0112】
オーディオ信号は、選択された周波数帯域以外で、整合フィルタリング20、32なしで聴力損失補償のために処理されてもよい。
【0113】
このようにして、拡散性雑音が存在しない周波数チャネルにおいては、整合フィルタリングが回避されてもよい。
【0114】
図3は、マイクロホン12B、24Bを収容する左耳BTE補聴器と、マイクロホン12A、24Aを収容する右耳BTE補聴器とを有する両耳用補聴器システムを装着しているユーザ100を概略的に示す。
【0115】
信号は、信号伝達の技術分野において周知の方法で、左耳補聴器と右耳補聴器との間で有線または無線で通信されてもよい。
【0116】
受信された音響信号のフィルタリングに関して、両耳用補聴器システムの左耳BTE補聴器と右耳BTE補聴器の各々は、各補聴器のフィルタリングされたオーディオ信号が図4に示すように他方の補聴器に送信され、他方の補聴器のフィルタリングされたオーディオ信号に加算されるということを除いて、図2に示すブロック図による補聴器10と同じように動作する。
【0117】
図4は、右耳補聴器10Aと左耳補聴器10Bとを備える両耳用補聴器10のブロック図を示す。右耳補聴器10Aおよび左耳補聴器10Bの各々は、右耳補聴器10Aおよび左耳補聴器10Bのそれぞれの和オーディオ信号38A、38Bが、それぞれ、他方の補聴器10B、10Aに送信され、それぞれのプロセッサ40B、40Bにおいて、他方の補聴器10B、10Aの和オーディオ信号38B、38Aに加算されるということを除いて、図2に示す補聴器10と同じように動作する。必要な有線インターフェース回路または無線インターフェース回路は、図示されていない。
【0118】
さらに、垂直方向の点線によって示されるように、和オーディオ信号38A、38BのSNRのさらなる改善のために、加算器36A、36Bに入力されるフィルタリングされた出力オーディオ信号を生成する、それぞれの整合フィルタに接続された前フィルタを有する1つまたは複数のマイクロホンが、補聴器10A、10Bの回路に加えられてもよい。
【0119】
右耳補聴器10Aおよび左耳補聴器10Bにおけるマイクロホンの数は、好ましくは同じであるが、そうでなくてもよい。
【0120】
たとえば、両耳用補聴器システム10は、4つのマイクロホン、すなわち、それぞれ右耳補聴器10Aにおいて前方マイクロホン12A、後方マイクロホン24A、および左耳補聴器10Bにおいて、前方マイクロホン12Bおよび後方マイクロホン24Bを備えることができる。
【0121】
図4に示す補聴器10A、10Bの各々は、マルチチャネル補聴器であってもよい。マルチチャネル補聴器では、処理されるべきオーディオ音声信号14A、26A、14B、26Bは、複数の周波数チャネルに分割される。この場合、オーディオ信号は、場合によっては、整合フィルタ20A、32A、20B、32Bとは別に、それぞれの周波数チャネルにおいて個別に処理される。整合フィルタ20A、32A、20B、32Bは、依然としてそれぞれの補聴器10A、10Bの全周波数帯域において動作してもよく、または、他の周波数チャネル、典型的には残りの図示された回路よりも少ない周波数チャネルに分割されてもよい。
【0122】
マルチチャネル補聴器10A、10Bに関して、図4は、オーディオ信号14A、26A、14B、26Bの単一の周波数チャネルにおける回路および信号処理を示していてもよい。
【0123】
図示の回路および信号処理は、複数の周波数チャネルにおいて、たとえば、すべての周波数チャネルにおいて二重化されてもよい。
【0124】
たとえば、図4に示す信号処理は、選択された周波数帯域において実行されてもよい。
【0125】
選択された周波数帯域は、周波数チャネルのうちの1つもしくは複数、または周波数チャネルのすべてを含むことができる。選択された周波数帯域は、断片化されてもよく、すなわち、選択された周波数帯域は、連続する周波数チャネルを含まなくてもよい。
【0126】
複数の周波数チャネルは、ワーピングされた周波数チャネルを含んでもよく、たとえば、すべての周波数チャネルは、ワーピングされた周波数チャネルであってもよい。
【0127】
オーディオ信号は、選択された周波数帯域の外側で、整合フィルタリング20A、32A、20B、32Bなしで聴力損失補償のために処理されてもよい。
【0128】
このようにして、拡散性雑音が存在しない周波数チャネルにおいて整合フィルタリングが回避されてもよい。
【0129】
図4に示すように、右耳補聴器10Aと左耳補聴器10Bの回路は、同一であってもよい。しかしながら、他の実施形態では、回路構成要素は、補聴器の技術分野において周知の設計選択に従って、2つの補聴器ハウジング間でどのように分配されてもよい。
【0130】
たとえば、図5に示すように、一方の補聴器10Aは、必要な整合フィルタ20A、32A、20B、32Bのすべてと、プロセッサ40Aとを備え、他方の補聴器10Bは、整合フィルタおよびプロセッサを備えなくてもよい。代わりに、前処理されたマイクロホン出力信号18B、30Bは、それぞれの整合フィルタ20B、32Bを備える補聴器に送信され、プロセッサ40Aは、ユーザの両耳のための聴力損失補償出力信号42A、42Bを出力するように構成される。他方の耳のための聴力損失補償出力信号42Bは、次いで、整合フィルタを備えない補聴器10Bに送信され、補聴器10Bの出力トランスデューサ44Bに入力される。
補聴器10A、10B間の信号伝送のために必要な有線インターフェース回路または無線インターフェース回路は、図示されていない。
【0131】
図6は、図2に示す補聴器10の和オーディオ信号38の指向性プロット50を、前方マイクロホン・オーディオ信号14の指向性60の形態の、従来技術の無指向性処理の指向性プロット60と比較して示す。指向性は、非常に類似しており、したがって、整合フィルタがあっても環境認識の喪失が回避されることは、注目に値する。
【0132】
相互に無相関の白色雑音系列がマイクロホン12、20に加えられると、結果として生じるSNR値は、前方マイクロホン・オーディオ信号(従来の無指向性応答)について−1.28dBと算出される。和オーディオ信号38に関する対応するSNR値は、5.92dBに等しい。したがって、この例では、環境認識を犠牲にすることなく、SNRを約7dB改善することができる。
【0133】
開示された方法は、マイクロホン雑音を抑制するために使用されてもよい。
【0134】
本明細書で使用される場合、「実質的に整合する」という用語、または「実質的に等しい」などの他の類似の用語はいずれも、互いの差が10%を超えない2つの項目を指す。たとえば、別のインパルス応答に「実質的に等しい」インパルス応答に関する記述は、互いの差が10%を超えないという少なくとも1つの特徴を有する2つのインパルス応答を指す。同様に、音声伝播経路の伝達関数と「実質的に整合する」整合フィルタの整合伝達関数に関する記述は、互いの差が10%を超えないという少なくとも1つの特性を有する整合伝達関数および音声伝播経路の伝達関数を指す。
【0135】
特定の特徴が示され、説明されているが、それらは、特許請求の範囲に記載された発明を限定することが意図するものではないことが理解され、様々な変更および修正が、特許請求の範囲に記載された発明の要旨および範囲から逸脱することなく行われてもよいことが当業者には明らかになるであろう。したがって、明細書および図面は、限定的ではなく例示的な意味で考慮されるべきである。特許請求の範囲に記載された発明は、すべての代替物、修正物、および均等物を包含することを意図するものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6