【文献】
AKIRA SUGIYAMA, et al.,"DEVELOPMENTS OF INTEGRATED LASER CRYSTALS BY A DIRECT BONDING METHOD",JAERI-CONF 2003-008,2003年,p.94-97
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、最近の精密レーザ加工分野では、加工能力、加工精度、コストの面から、高出力のシングルモードのレーザビームが得られる固体レーザが求められている。シングルモードは、ビーム形状が円形でパワー密度が中心に集中しているモードであり、集光性に優れ、精密加工に適している。
【0007】
この点に関して、最近
は、NdイオンをドープしたYAG結晶を活性媒質に用いるYAGレーザよりも、NdイオンをドープしたYVO
4結晶を活性媒質に用いるYVO
4レーザの方が、結晶内の吸収効率や励起効率等にすぐれ、シングルモードのレーザビーム、特にQスイッチパルスのレーザビームを得るのに適しているとされている。
【0008】
もっとも、YVO
4レーザにおいては、高ピークパワーが得られる繰り返し周波数(Qスイッチ周波数)の低い領域(〜20kHz)において平均レーザ出力が大きく低下することが課題となっている。これは、繰り返し周波数を低くすると、YVO
4結晶の内部に熱が篭り、いわゆる熱レンズ効果が発生しやすくなるためである。
【0009】
従来のYVO
4レーザにおいて、平均レーザ出力を向上させるために、励起LD光の出力をむやみに高くするのも効果的でない。従来型の端面励起方式においては、励起LD光の出力を十分高くしても、LD励起光が入射する結晶端面付近に非常に強い吸収が起きて局所的に熱レンズが発生しやすくなり、平均レーザ出力が期待通りに高くならない。むしろ、LD励起光の高密度な入射により、YVO
4結晶が損傷を受けやすくなる。シングルモードでQスイッチパルスの第2高調波(SHG)レーザビームを生成する空冷式のYVO
4レーザに限れば、従来装置の発振仕様(性能)は、一般に、繰り返し周波数が40kHz以上、平均レーザ出力が8W以下、パルスエネルギーが200μJ以下である。
【0010】
一方で、固体レーザによって生成した低出力のシード光を、コアに活性イオンをドープした光ファイバを用いるレーザ増幅用のアクティブファイバに通し、アクティブファイバのコアを励起LD光により励起することによって、コアの中でシード光の出力を増幅して高出力のレーザビームを取り出す、いわゆるMOPA方式のファイバレーザが最近普及している。しかし、MOPA方式のファイバレーザは、相当大掛かりである。また、光ファイバ自体の非線形光学現象の一つである誘導ブリルアン散乱(SBS)による異常パルスの発生によってピークパワーの向上が妨げられることや、発生しきい値が光ファイバのコア断面積に比例し、ファイバ長に反比例する誘導ラマン散乱(SRS)によってパルス増幅時のピークパワーが制限されること等の課題もある。総じて、従来のパルス発振型MOPA方式ファイバレーザは、ピークパワーが10kW、パルスエネルギーが100μJ以下にとどまっている。
【0011】
本発明は、かかる従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、
両端面励起方式の固体レーザにおける熱レンズ効果の発生を空冷式でも効果的に抑制し、高出力の低次モード高調波レーザビームを生成することができるレーザ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のレーザ装置は、
空冷式であって、光学的に相対向する第1の終端ミラーと第2の終端ミラーとを有する光共振器と、活性イオンをドープした結晶からなる活性媒質部と、前記活性媒質部と同じ材質で活性イオンをドープしていない結晶からなり、前記活性媒質部の相対向する両端面に結合されている一対の非活性部とを有し、前記光共振器内の光路上に前記活性媒質部および前記非活性部を揃えて配置されるレーザ媒質と、基本波長を有する基本波レーザビームを生成するために、前記光共振器内の光路上で前記レーザ媒質の両側端面に励起レーザビーム
を照射する励起部と、前記基本波レーザビームのビーム径を絞るために、前記光共振器内の光路上に配置されるアパーチャユニットと、前記基本波レーザビームの基本波長に対して高調波の波長を有する高調波レーザビームを生成するために、前記光共振器内の光路上に配置される非線形光学結晶と、
前記基本波レーザビームおよび前記高調波レーザビームを一定繰り返し周波数のQスイッチパルスとして生成するために、前記光共振器内の光路上に配置されるQスイッチと、前記高調波レーザビームを前記基本波レーザビームから分離して出力するために
、前記光共振器内の光路上
で前記レーザ媒質と前記第1の終端ミラーとの間に配置される高調波分離ミラーとを有し、
前記励起部は、前記光共振器の外で励起用の原レーザビームを出射する励起原レーザビーム出射部と、前記励起原レーザビーム出射部からの前記励起用の原レーザビームを第1および第2の励起レーザビームに分割するビームスプリッタと、前記ビームスプリッタより得られる前記第1の励起レーザビームを前記光共振器の外に配置される第1の集光レンズに通し、前記第1の集光レンズを透過した前記第1の励起レーザビームを前記高調波分離ミラーを介して前記レーザ媒質の一方の端面に導いて集光させる第1の半励起光学ユニットと、前記ビームスプリッタより得られる前記第2の励起レーザビームを前記光共振器の外に配置される第2の集光レンズに通し、前記第2の集光レンズを透過した前記第2の励起レーザビームを前記光共振器内の光路上に配置される折り返しミラーで反射させて前記レーザ媒質の他方の端面に導いて集光させる第2の半励起光学ユニットとを有し、前記レーザ媒質は、前記活性媒質部がNdイオンをドープしたYVO4結晶からなり、前記非活性部が活性イオンを一切ドープしていないYVO4結晶からなり、前記活性媒質部の両端面に前記非活性部が拡散接合によって結合され、前記活性媒質部は前記非活性部よりも軸方向で長く、前記活性媒質部および前記非活性部が全体として直方体形状を有し、前記励起原レーザビーム出射部の出力の調整に応じて熱レンズ効果を抑制しつつ20kHz以下の繰り返し周波数で前記高調波レーザビームの平均出力を0Wから少なくとも10Wまで略線形的に上げることが可能であり、前記レーザ媒質の両側端面に
入射する前記励起レーザビーム
のビーム径が
前記アパーチャユニットの前記基本波レーザビームを通す開口よりも大きい構成としている。
【0013】
上記の装置構成においては、
励起原レーザビーム出射部より出射される1つの原レーザビームをビームスプリッタで2分割して得られる第1および第2の励起レーザビームをそれぞれ第1および第2の半励起光学ユニットを介してレーザ媒質の両端面にアパーチャユニットの開口よりも大きなビーム径で照射し、レーザ媒質を両端面励起方式で励起する。ここで、本発明の用いるレーザ媒質は、活性媒質部がNdイオンをドープしたYVO4結晶からなり、非活性部が活性イオンを一切ドープしていないYVO4結晶からなり、活性媒質部の両端面に非活性部が拡散接合によって結合され、活性媒質部は非活性部よりも軸方向で長く、活性媒質部および非活性部が全体として直方体形状を有し、励起原レーザビーム出射部の出力の調整に応じて熱レンズ効果を抑制しつつ20kHz以下の繰り返し周波数で高調波レーザビームの平均出力を0Wから少なくとも10Wまで略線形的に上げることが可能なものである。これにより、アパーチャユニットのビーム絞り機能との結合的または相乗的な作用により、シングルモードに近い低次モードの高調波レーザビームを高出力で得ることができる。
【0014】
本発明の好適な一態様においては、励起原レーザビーム出射部、ビームスプリッタ、第1および第2の半励起光学ユニットを用いる両端面励起方式を採用しつつ、レーザ媒質の光軸の直線を基準線として相直交する第1の面(XZ面)および第2の面(XY面)内に励起光学系(ビームスプリッタ、第1および第2の半励起光学ユニット)および波長変換光学系(非線形光学結晶、共振器ミラー、高調波分離ミラー)をそれぞれ配置する。かかるレイアウト構成により、熱レンズ効果を伴わずに高出力の低次モード高調波レーザビームが得られる小型・小面積の空冷式レーザ装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のレーザ装置によれば、上記のような構成および作用により、
両端面励起方式の固体レーザにおける熱レンズ効果の発生を空冷式でも効果的に抑制し、高出力の低次モード高調波レーザビームを生成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図を参照して本発明の好適な実施形態を説明する。
【0019】
図1に、本発明の一実施形態におけるレーザ装置の光学系の構成を示す。このレーザ装置は、Qスイッチパルスの第2高調波(SHG)レーザビームをシングルモードに近い低次モードで生成する空冷式のYVO
4レーザとして構成されている。このYVO
4第2高調波(SHG)レーザは、さまざまなレーザ加工に適用可能であるが、特に銅系、金系等の金属加工物やシリコン、セラミック等の非金属加工物に対するレーザマーキングあるいはレーザトリミング等のレーザ表面除去加工に用いて好適である。
【0020】
[光共振器のレイアウト及び内部の構成]
このレーザ装置は、レーザ発振器のレイアウトとして、ほぼ平坦な上面を有するベースまたは支持台(図示せず)上に、平面視で図示のような“ワ”字状または“7”字状の折り返し配置型で、一対の終端ミラー10,12、レーザ媒体14、Qスイッチ16、アパーチャユニット18、非線形光学(波長変換)結晶20および中間ミラー22,24を配置している。
【0021】
両終端ミラー10,12は、中間ミラー22,24を介して光学的に対向しており、光共振器13を構成している。一方(図の左側)の終端ミラー10の反射面には、この光共振器13内で生成される基本波(1064nm)に対して高反射性の膜がコーティングされている。他方(図の右側)の終端ミラー12の反射面には、この光共振器13内で生成される基本波および第2高調波(532nm)に対してそれぞれ高反射性の2種類の膜がコーティングされている。
【0022】
レーザ媒体14は、活性イオンとしてNdイオンをドープしたYVO
4結晶(Nd:YVO
4結晶)からなる直方体形状の活性媒質部14aと、この活性媒質部14aの相対向する軸方向の両端面に拡散接合によって結合されている一対の非活性部14bとを有している。ここで、非活性部14bは、活性媒質部14aと同じ材質で活性イオンを一切ドープしていないYVO
4結晶(アンドープYVO
4結晶)からなる。レーザ媒体14は、全体としても、平行な両側端面(
図1では左側端面および右側端面)を有する直方体形状の固体または結晶体として構成されている。一例として、軸方向において、活性媒質部14aの長さは10mm、左右両側の非活性部14bの長さは各々2mm、レーザ媒体14の全長は14mmである。
【0023】
レーザ媒体14は、光共振器13内の基本波光路FH上で両中間ミラー22,24の間に活性媒質部14aと非活性部14bとを揃えて(結晶の光軸を光路に重ねるようにして)配置される。なお、光共振器13内の基本波光路FHは、中間ミラー22,24を介して両終端ミラー10,12の間に設定される。
【0024】
Qスイッチ16は、たとえば音響光学Qスイッチからなり、レーザ発振を行う時は、図示しないQスイッチドライバにより一定の繰り返し周波数でスイッチング駆動される。この実施形態において、繰り返し周波数は、広い範囲で選択可能であり、従来一般の40kHz以上の高周波数領域はもちろん、30kHz以下あるいは20kHz以下の低周波数領域も選択することができる。アパーチャユニット18は、たとえば金属板からなり、光共振器13内で生成される基本波レーザビームのビーム径を絞るための所定の口径(たとえばφ1〜φ1.2mm)を有する開口18aを形成している。
【0025】
Qスイッチ16およびアパーチャユニット18は、光共振器13内の基本波光路FH上でレーザ媒体14と左側の中間ミラー24との間に並んで配置される。中間ミラー24は、基本波に対して高反射性の膜がコーティングされている反射面を有し、光共振器13内の基本波光路FHを鋭角(通常30°〜60°)で折り返すように斜めに傾けて配置されている。レーザ媒体14側から中間ミラー24に入射してそこで折り返される基本波のレーザビームは、アパーチャユニット18の傍に配置されている終端ミラー10に垂直に入射し、そこで全反射して反対側の終端ミラー12へ戻るようになっている。
【0026】
非線形光学結晶20は、たとえば直方体形状のLBO結晶からなり、終端ミラー12と中間ミラー22との間に設定される基本波/第2高調波光路FH/SH上に配置されている。非線形光学結晶20は、光共振器13内で励起ないし増幅される基本波のモードと光学的に結合され、基本波長との非線形相互作用により、第2高調波を生成する。
【0027】
中間ミラー22は、高調波分離ミラーである。この高調波分離ミラー22は、基本波に対して高反射性の膜と第2高調波に対して透過性の膜とを有するダイクロイックミラーからなり、基本波に対しては入射および反射角を鋭角(通常30°〜60°)とする折り返しミラーとして機能し、第2高調波に対しては出力ミラーとして機能する。
【0028】
レーザ媒体14側から高調波分離ミラー22に入射してそこで折り返された基本波のレーザビームは、非線形光学結晶20を通り抜けてから、終端ミラー12に垂直に入射し、そこで全反射して、同じ光路FHを逆方向に伝搬するようになっている。また、非線形光学結晶20から終端ミラー12側に出た第2高調波は、終端ミラー12で全反射して非線形光学結晶20に入射する。非線形光学結晶20から高調波分離ミラー22側に出た第2高調波は、高調波分離ミラー22を透過し、第2高調波レーザビームLB
SHとして出力されるようになっている。
【0029】
[励起部の構成]
このレーザ装置は、上記構成の光共振器13内でレーザ媒質14をポンピングするために、以下に述べるような励起部30を備えている。
【0030】
この励起部30は、励起光源のLD(図示せず)から光共振器13の手前まで励起LD光を伝送するファイバカップリング方式の光ファイバ32と、この光ファイバ32から取り出される励起LD光をレーザ媒体14まで導く光学系つまり出射ユニット34、ビームスプリッタ38、第1および第2の半励起光学ユニット40,42とを備えている。
【0031】
光ファイバ32は、出射ユニット34の光コネクタまたはレセプタクル(図示せず)にファイバ先端部を差し込まれるようにして装着される。光ファイバ32は、口径がたとえばφ0.4mmのコアを有している。出射ユニット34内にはコリメートレンズ36が設けられている。光ファイバ32の終端から一定の拡がり角で出た励起LD光EBは、コリメートレンズ36を通ることによって平行光にコリメートされる。
【0032】
ビームスプリッタ38は、たとえば、2個の直角プリズムにより構成されるキューブ型ビームスプリッタ(
図2の(a))あるいはプレート型ビームスプリッタ(
図2の(b))であり、出射ユニット34からの励起LD光EBを2つ、つまり第1および第2の半励起LD光EB
h1,EB
h2に分割する。第1の半励起LD光EB
h1は、第1の半励起光学ユニット40に向けて、ビームスプリッタ38より透過光として出射される。一方、第2の半励起LD光EB
h2は、第2の半励起光学ユニット42に向けて、ビームスプリッタ38より反射光として出射される。
【0033】
第1の半励起光学ユニット40は、光共振器13内の基本波光路FHと同一線上に(図のX方向に一列に)配置される折り返しミラー44および集光レンズ46を有している。集光レンズ46は、光学的には、高調波分離ミラー22を介してレーザ媒体14の一方(図の右側)の端面と光学的に一定の距離(通常は焦点距離またはこれに近い距離)を隔てて平行に対向している。
【0034】
折り返しミラー44は、ビームスプリッタ38からの第1の半励起LD光EB
h1を入射して、それをレーザ媒体14に向けて直角に反射する。折り返しミラー44で折り返された第1の半励起LD光EB
h1は、集光レンズ46および高調波分離ミラー22を通ってレーザ媒体14の右側端面に入射する。高調波分離ミラー22には、励起LD光EBの波長(たとえば880nm)に対して透過性の膜がコーティングされている。
【0035】
第2の半励起光学ユニット42は、光共振器13内の基本波光路FHと直交して図のY方向に一列に配置される折り返しミラー48、集光レンズ50および折り返しミラー52を有している。ここで、折り返しミラー52は、レーザ媒体14とQスイッチ16との間で光共振器13内の基本波光路FH上に斜めの角度で配置されている。集光レンズ50は、光学的には、折り返しミラー52を介してレーザ媒体14の左側端面と光学的に一定の距離(通常は焦点距離またはこれに近い距離)を隔てて平行に対向している。
【0036】
折り返しミラー48は、ビームスプリッタ38からの第2の半励起LD光EB
h2を入射し、それを後段の折り返しミラー52に向けて直角に反射する。折り返しミラー48で折り返された第2の半励起LD光EB
h2は、集光レンズ50を通って折り返しミラー52に入射し、そこで直角に折り返され、レーザ媒体14の左側端面に入射する。折り返しミラー52は、ダイクロイックミラーからなり、基本波に対して透過性の膜と励起LD光EBの波長に対して高反射性の膜とを有している。
【0037】
[レーザ発振の動作(作用)]
このレーザ装置にレーザ発振動作を行わせるときは、図示しない制御部の制御の下で、上記励起光源のLDが駆動回路によって発光駆動され、Qスイッチ16がQスイッチドライバによりスイッチング駆動される。
【0038】
励起光源のLDより出力された励起LD光は、ファイバカップリング方式により光ファイバ32を介して出射ユニット34まで伝送される。出射ユニット34内で光ファイバ32の終端から出た励起LD光はコリメートレンズ36より平行光にコリメートされ、平行光の励起LD光がビームスプリッタ38により第1および第2の半励起LD光EB
h1,EB
h2に分割される。そして、第1の半励起LD光EB
h1は、第1の半励起光学ユニット40を介してレーザ媒体14の右側端面に集光照射される。一方、第2の半励起LD光EB
h2は、第2の半励起光学ユニット42を介してレーザ媒体14の左側端面に集光照射される。
【0039】
この実施形態では、上記のようにファイバカップリング方式の光ファイバ32で大きなコア径(φ0.4mm)を選択するとともに、後述するような高次モード調整により、
図3に示すように、第1および第2の半励起LD光EB
h1,EB
h2がレーザ媒体14の両側端面にアパーチャユニット18の開口18aの口径(φ1〜φ1.2mm)よりも大きなビーム径D
1,D
2(たとえばφ1.32mm)で集光入射するようになっている。因みに、シングルモード志向の従来装置における片側端面励起方式
の励起LD光入射ビーム径はφ0.6〜0.9mmである。
【0040】
レーザ媒体14において、左右両側の非活性部14bの外側端面に上記のような大きなビーム径D
1,D
2で集光入射した第1および第2の半励起LD光EB
h1,EB
h2は、非活性部14bを通って内奥の活性媒質部14aに導入され、活性媒質部14a内の活性原子を励起する。このポンピングによって、活性媒質部14aは、左右両側から供給される半励起LD光EB
h1,EB
h2のレーザエネルギーを吸収して発熱する。一方、アンドープの非活性部14bは、外から入射した半励起LD光EB
h1,EB
h2を吸収せずにそのまま内奥の活性媒質部14aに通すだけであり、殆ど発熱しない。
【0041】
したがって、
図3に示すように、レーザ媒体14の中では、活性媒質部14aと非活性部14bとの界面付近が吸収開始点になり、活性媒質部14a内で発生する熱の相当量が矢印Hで示すように非活性部14bに拡散する。この場合、活性媒質部(Nd:YVO
4結晶)14aと非活性部(アンドープYVO
4結晶)14bとは同一材質の結晶であって熱膨張率が同じであり、かつ拡散結合によって互いに結合されているので、両者の間には安定かつ良好な物理的かつ熱的な一体性が保持される。
【0042】
Qスイッチングのオフ期間中は、ポンピングが持続的に行われ、これによってレーザ媒体14ないし光共振器13内にエネルギーが蓄積される。この場合、レーザ媒体14内では、上記のように、活性媒質部14aから非活性部14bへ熱が逃げるので、この熱引きの効果により活性媒質部14a内に熱が篭もらず、熱レンズ効果の発生が抑制される。そして、一定のタイミングでQスイッチ16がオンすることにより、光共振器13内にジャイアントパルス発振が起こって、ピークパワーのきわめて高いQスイッチパルスの基本波レーザビームLB
FHが発生する。
【0043】
非線形光学結晶20は、この結晶を通過する基本波レーザビームLB
FHと光学的に結合し、非線形光学効果により基本波レーザビームLB
FHと同様に低次モードの第2高調波レーザビームLB
SHを生成する。非線形光学結晶20で生成された第2高調波レーザビームLB
SHは、高調波分離ミラー22を通って光共振器13の外に取り出される。
【0044】
この実施形態のレーザ装置をレーザ加工装置、たとえばレーザマーキング装置またはレーザトリミング装置に適用する場合は、光共振器13にたとえば伝送用の光ファイバ(図示せず)を介して出射ユニット(図示せず)が光学的に接続される。出射ユニットは、コリメートレンズ、ガルバノスキャナおよび集光レンズ等の光学系を内蔵し、光共振器13より光ファイバを介して受け取った第2高調波レーザビームLB
SHを被加工物(図示せず)に集光照射する。
【0045】
一般に、Qスイッチパルス型の固体レーザにおいては、Qスイッチ周波数つまり繰り返し周波数を低くするほど、スイッチングオフの時間中に光共振器内に蓄積されるエネルギーが大きくなるため、ジャイアントパルス発振時のピークパワーが高くなる。しかし、他方で、一周期内にレーザ媒体に篭もる熱も増すことにより、熱レンズ効果が発生しやすくなる。特に、片側端面励起方式のYVO
4レーザにおいては、LD励起光が入射するレーザ媒体の端面付近に非常に強い吸収が起きて局所的に熱レンズが発生しやすくなる。
【0046】
この実施形態では、上記のようなレーザ媒体14の特殊な構造(Nd:YVO
4結晶14a/アンドープYVO
4結晶14b)と、励起部30による両側端面励起方式と、後述するアパーチャユニット18のビーム絞り機能との結合的または相乗的な作用により、上記のトレードオフを解決している。
【0047】
この実施形態におけるQスイッチパルス型のYVO
4第2高調波(SHG)レーザによれば、繰り返し周波数20kHzの条件の下で、第2高調波レーザビームLB
SHのM
2(エムスクエア値)が1.3以下、平均レーザ出力が10W以上、ピーク出力が45kW以上、パルスエネルギーが500μJ以上の諸特性が得られることが実験で確かめられている。
【0048】
図4は、端面励起方式のQスイッチパルス型YVO
4第2高調波(SHG)レーザにおいて、第2高調波平均レーザ出力の励起LD駆動電流値依存性について、本発明の上述した実施例とレーザ媒体14をNd:YVO
4結晶の単体で構成した場合(比較例)とを比較して示す。なお、励起部30のビームスプリッタ38にはハーフミラーを用いた。
【0049】
図示のように、実施例では、励起LD駆動電流を約1.5Aから6.6Aまで増やしていくと、これに比例して第2高調波(SHG)の平均レーザ出力は0Wから約10.5Wまで線形的に高くなる。これに対して、比較例では、励起LD駆動電流を増やすとそれに平均レーザ出力も線形的に比例して増大するが、励起LD駆動電流が約5.5Aのときに極大値(約8.1W)に達してからは、励起LD駆動電流をそれ以上増やしても平均レーザ出力はむしろ低下する。比較例のこのような特性は、熱レンズ効果に起因するものと考えられる。
【0050】
[実施形態における高次モード調整]
この実施形態のレーザ装置においては、レーザ出力について上記のような諸特性(繰り返し周波数20kHz、M
2<1.3、平均レーザ出力10W以上、ピーク出力45kW以上、パルスエネルギー500μJ以上)を適確かつ効率よく実現するために、アパーチャユニット18を光共振器13に脱着可能に取り付ける。そして、アパーチャユニット18を光共振器13から外した状態で、光共振器13内に高調波および第2高調波を高次モードで発生させ、高次モードについてビームプロファイル(特にM
2)の調整を行う。
【0051】
この高次モード調整では、
図5に示すように、光共振器13および励起部30において各光学系または光学部品の位置および/または傾きを調整する。特に、安定な光共振を得るために、さらにはレーザ媒体14に対する両側端面励起方式において半励起LD光EB
h1,EB
h2の入射ビーム径D
1,D
2を最適化するために、両終端ミラー10,12間の光学的距離や、両終端ミラー10,12とレーザ媒体14または非線形光学結晶20との間の距離、集光レンズ46,50の位置等が調整される。
【0052】
高次モードの調整具合は、光共振器13の外でレーザ測定器54が第2高調波レーザビームLB
SHを取り込み、そのM
2(エムスクエア値)を測定することによりモニタリングする。そして、M
2の測定値が所定の範囲内、好ましくは3<M
2<4の範囲内に入ったところで、高次モード調整を終了する。この後に、励起LD光入射ビーム径D
1,D
2(φ1.3mm)よりも小さなアパーチャ口径(φ1mm〜1.2mm)を有するアパーチャユニット18を光共振器13に挿入する。これが、
図1の装置状態である。
【0053】
[励起部の光学系の配置構成に関する他の実施例]
この実施形態のレーザ装置は、上記のように、光共振器13のレイアウトを平面視で“ワ”字状または“7”字状の折り返し配置型にしており、これによって光共振器13の小型化ないし省スペース化を実現している。一方で、光共振器13の周囲に励起部30の光学系を配置している。
【0054】
励起部30の光学系の配置構成に関して、
図1の実施例は、光共振器13と同一の二次元方向(XY平面上)に、出射ユニット34、ビームスプリッタ38、第1および第2の半励起光学ユニット40,42の全部を展開して配置している。
【0055】
この場合、X方向に延びる光共振器13の基本波光路FHに対して、それと直交するようにY方向からファイバカップリングの光ファイバ32を引き込むため、装置全体がX方向およびY方向のいずれにも広がっており、比較的大きな装置面積となっている。なお、高調波分離ミラー22から見てビームスプリッタ38と第1の半励起光学ユニット40との間に設定される第1の半励起LD光EB
h1の光路の手前に、第2高調波レーザビームLB
SHを適当な方角へ向ける折り返しミラー55が配置されてもよい。
【0056】
図6に示す第2の実施例は、光共振器13の基本波光路FHと同じ方向(X方向)でファイバカップリングの光ファイバ32を引き込む構成を特徴としている。このレイアウトによれば、Y方向において装置サイズを縮小し、そのぶん装置全体の面積を小さくすることができる。なお、ビームスプリッタ38は、図示のようなプレート型のものであってもよい。ただし、プレート型は、詳細には
図2の(b)に示すように透過光EB
h1の光軸がオフセットするので、この点を考慮して周囲の光学系の配置位置を調整する必要がある。この実施形態のレーザ装置に設けられるビームスプリッタ38は、キューブ型またはプレート型のいずれであっても、ハーフミラー(反射光と透過光の強さがほぼ1:1であるミラー)を好適に用いることができる。
【0057】
なお、この第2の実施例において、ビームスプリッタ38より部分透過光として得られる第1の半励起LD光EB
h1は、第1の半励起光学ユニット40(集光レンズ46)および高調波分離ミラー22を通ってレーザ媒体14の右側端面に集光入射する。一方、ビームスプリッタ38より部分反射光として得られる第2の半励起LD光EB
h2は、折り返しミラー45および第2の半励起光学ユニット42(折り返しミラー48、集光レンズ50、折り返しミラー52)を介してレーザ媒体14の左側端面に集光入射する。
【0058】
図7および
図8に、第3の実施例による励起部30の光学系の配置構成を示す。この第3の実施例は、上記第2の実施例と同様に光共振器13の基本波光路FHと同じ方向(X方向)でファイバカップリングの光ファイバ32を引き込むことに加えて、第1の半励起光学ユニット40における第1の半励起LD光EB
h1の光路を、
図8(略側面図)に示すように、その全区間を通じてレーザ媒質14の光軸または光共振器13の基本波光路FHと同一線上に設定し、第2の半励起光学ユニット42における第2の半励起LD光EB
h1の光路を、
図7(略平面図)に示すように、レーザ媒質14の光軸または光共振器13の基本波光路FHと重なる垂直面内に設定することを特徴とする。
【0059】
なお、
図8は、レーザ媒質14の光軸を含む垂直面(XZ面)上に位置している各部を示す。終端ミラー10,12および非線形光学結晶20はこの垂直面(XZ面)の外に位置しているため、
図8では図示されていない。
【0060】
この第3の実施例のレイアウトによれば、Y方向において励起部30の光学系自体のサイズおよび装置全体のサイズに与える影響を可及的に小さくすることが可能であり、平面視で“ワ”字状または“7”字状の折り返し配置型を採る光共振器13の利点を最大限に高めることができる。
【0061】
[他の実施形態又は変形例]
本発明は、上記実施形態におけるようなQスイッチパルス型の空冷式YVO
4第2高調波(SHG)レーザに限定されず、他の種種の固体レーザに適用可能であり、たとえば連続発振型あるいは水冷式のYVO
4レーザや、Qスイッチパルス型または連続発振型のYAGレーザ等にも適用可能である。
【0062】
上記実施形態における励起部30は、レーザ媒体14に対する両側端面励起方式において、第1および第2の半励起光学ユニット40,42に単一または共通のファイバカップリングLDを用いて効率化および低コスト性を図っている。しかし、第1および第2の半励起光学ユニット40,42に別々のファイバカップリングLDまたは他の種類の励起LDを充てることも可能である。